原油高で潤った産油国のオイルマネーで繁栄する金融センター、ドバイ。この“都市国家”から、
先進国への投資を急増させて、世界の経済関係者の注目を浴びているのが、中東の産油国政府系ファンドだ。
そのひとつのトップにオイルマネーの論理を聞き、ドバイの繁栄の秘密を探った。【ドバイ(アラブ首長国
連邦)で藤好陽太郎】
「ドバイをニューヨークに匹敵する国際金融市場にする」。市街地の中心部にそびえる高層ビル「エミレーツ
タワーズ」の一室で、ドバイ投資公社(ICD)のシャイバニ最高経営責任者(CEO)は、さらりと語った。
彼は政府系ファンドのトップとして10兆円の資金を運用する。ドバイはアラブ首長国連邦(UAE)を構成する
一首長国だが、法人税がゼロで100%外資企業の設立を認めた経済特区を複数設置。ここを中心に日系企業
140社を含む6000社を超える企業が、世界から進出した。経済特区だけではない。砂漠の国では珍しい
人工スキー場などのリゾート施設が、世界から企業と観光客を集めるために次々と建設された。超富裕層
向けの高層住宅もつくられ、サッカーのベッカム氏が不動産を購入し話題になった。シャイバニ氏は
「巨大銀行から個人までドバイを選んでくれ光栄だ。我々も結束して巨大資本市場作りを目指す」と語る。
この下地づくりか、同じドバイ政府系のドバイ・インターナショナル・キャピタル(DIC)が今年9月、
ロンドン証券取引所の株式28%を電撃的に取得した。
ドバイ政府系ファンドは、ソニーや英HSBC、ドイツ銀行など世界的ブランド価値を持つ企業に着々と
出資する。日本についても、シャイバニ氏は「重要な市場。投資対象としてもパートナーとしても非常に
関心を持っている」と強調する。こうした動きは、ドバイだけではない。UAEの別の首長国アブダビの
投資庁は11月、サブプライムローン(米国の低所得者向け高金利住宅ローン)問題で揺れる金融大手の
米シティグループへの巨額出資を決めた。ドバイの金融関係者は「現在の米資産には割安感があり、
買収の検討対象だ」と言う。カタールの政府系ファンドも、DICがロンドン証券取引所の株式を取得した際に、
間髪を入れずロンドン証取株20%を購入。ドバイへのライバル意識を隠さなかった。この結果、今では
ロンドン証取の株式の5割近くは、中東勢が握る。
バブル期に、日本の銀行が欧米の金融界に巨額の投資を行ったが、ほとんど大きな成果を上げられなかった。
それに反して、中東の政府系ファンドが容易に先進国の金融界に切り込んでいる。その秘密は「米英の金融
経験者の助言があるため」とされる。白い民族衣装を着たICDのシャイバニ氏の傍らには、ヘッジファンドの
経営陣に加わった経験のある米国人、ジャック最高投資責任者(CIO)が付き添う。ジャック氏は「ドバイは
180カ国の人が集まる、世界の資本市場の十字路だ」と強調する。ただ、ドバイには、金融センターの恩恵を
受ける人と劣悪な環境で働く各国から集まった多くの建設作業員との間の貧富の格差や犯罪の増加など、
社会問題が潜む。急速な繁栄についても、欧州系銀行からは「投機はいずれはバブルとなり、最後は破裂する」
との声も出始めている。
毎日新聞
http://mainichi.jp/life/money/news/20071216k0000m020048000c.html