使用済みブラウン管テレビのリサイクルが危機に陥っている。液晶やプラズマの台頭で
ブラウン管の需要が急減し、頼みの中国への輸出も難航している。地上デジタル放送への
移行でテレビの「脱ブラウン管」が進む中、このままでは行き場を失いかねない状況に
なっている。【江口一】
「とにかく中国が受け入れるよう、お願いするしかない」。電気硝子(がらす)工業会の勝田
忠男専務は現状を説明する。ブラウン管テレビは01年4月施行の家電リサイクル法により、
総重量の55%以上を再商品化する義務がある。重量の約6割はブラウン管で、その再利用が
必須だ。細かく砕いて「精製カレット」にし、それを原料に再びブラウン管を作る方法がとられてきた。
問題はブラウン管テレビの需要が国内で激減していること。家電製品協会によると、00年は
国内で出荷されたテレビ(約1000万台)すべてがブラウン管だったが、05年には半数以上が
液晶、プラズマになり、10年にはブラウン管の出荷がゼロになる見通し。日本電気硝子、
旭硝子のブラウン管メーカー2社は昨年までに国内製造から撤退し、国内でのリサイクルは
不可能になった。
その後は両社のタイやマレーシアの工場にリサイクルを委託していたが、旭硝子は今年6月、
タイでの生産を中止。「日本電気硝子のマレーシアや韓国の工場で何とか処理している」
(勝田さん)という。だが、地デジに完全移行する11年にはブラウン管の処理量が現在の4倍
以上の年間約27万トンになるとの予測もある。
打開策として家電メーカーが目をつけたのが中国への輸出。中国では11年でも約2000万台の
ブラウン管テレビの生産が見込まれる。しかし、中国側のリサイクル設備が整っていないことや
世界的にブラウン管離れが進み始めたこともあり、同工業会などが昨秋から進めている中国側との
輸出交渉は難航している。
一方、ブラウン管以外へのリサイクルには、ブラウン管が有害な鉛を約25%も含むことが大きな
障害になっている。
産業技術総合研究所の依田智・主任研究員(超臨界流体工学)らは、約280度、100気圧の
超臨界アルコール中でブラウン管のガラスを処理し、鉛を分離して無害化する手法を開発した。
しかし、処理速度が極端に遅く、「費用や投入エネルギーは恐ろしくて試算できない」(依田さん)
ため、実用化できない。
鉛を含んだままのリサイクルも、板、瓶、蛍光灯、食器、レンズ、セメントなどで検討したが、
いずれも「不可」。住宅の断熱材用ガラス繊維や廃バッテリーを再利用する際の原料などの
用途は見つかったが、05年度に必要なリサイクル量の約6分の1だった。
環境省の西村淳・リサイクル推進室長は「ブラウン管の処理が困難になっていることは認識
しているが、再利用しやすい製品を作るのがメーカーの義務でもある。国境を越えた再利用
制度の構築や技術開発の努力をしてほしい」と話している。
毎日新聞 2007年10月9日 12時36分 (最終更新時間 10月9日 13時08分)
http://mainichi.jp/life/ecology/news/20071009k0000e040066000c.html ブラウン管テレビをブラウン管や基板などに手作業で分解する社員たち=三重県伊賀市の
関西リサイクルシステムズ第2工場で、宮崎泰宏撮影
http://mainichi.jp/life/ecology/news/images/20071009k0000e020077000p_size5.jpg