【著作権】「補償金の流れが複雑で不透明」私的録音補償金制度見直し大勢、「iPod」等で自民知財小委 [7/21]
「iPod(アイポッド)」に印税をかけろ――。米アップルコンピュータの携
帯音楽機器などに音楽の権利者への補償金を課すよう、日本音楽著作権協会(J
ASRAC)などが文化庁に働きかけているが、関係者の反発で難航している。
補償金制度の根拠である著作権法の「古さ」も目立ち始めている。
「アップルさん、iPodで絶好調じゃないですか。補償金、覚悟して下さ
い」。今年春、文化庁の政策担当者がアップル日本法人の企画担当者にささやい
た。アップル担当者は、文化庁と権利者団体による“包囲網”を感じた。
二重取りの恐れ
現在、MD(ミニディスク)などデジタル方式の記録媒体、録音機器の販売価
格に上乗せされている私的録音録画補償金。対象は文化庁が政令で決めている。
iPodなど最新の携帯音楽機器も加えて欲しいというのが、JASRACや日
本レコード協会など権利者団体の主張だ。
MDが数十曲程度しか記録できないのに対し、iPodは数千曲。消費者はC
Dや音楽配信サービスからパソコン経由で曲を複製、屋外で音楽を楽しむ。
「今や主流はiPod。MDの販売は急速に減っている」(JASRACの泉
川昇樹常務理事)。実際、補償金徴収額は二〇〇〇年度の三十八億円強をピーク
に〇四年度はその六割に減った。“iPod課税”に成功すれば、「十億円以上
の収入になる」(関係者)とそろばんをはじく。
一方、メーカー側は「iPodはコピーをばらまくMDとは違う」と反論する。
アップルによると、iPodを介して他人のパソコンやiPodに曲を複製する
ことは技術的に不可能。同社は八月、日本で音楽配信サービス「iチューンズ・
ミュージックストア」を始めた。著作権料込みで曲を販売しており、「iPod
に補償金をかけると消費者は著作権料を二重払いすることになる」と主張する。
四月、「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会」で本格論議が始まった。
夏ごろにはiPod課金への道筋が整うだろうと文化庁や権利者団体は読んでい
たが、甘かった。予想以上に委員の反発が激しかったのだ。
問題はいくつかある。小泉直樹・慶大教授は「二重徴収となる恐れがある。現
在はコピー制御が技術的に可能で、(複製を防げないから必要という)制度導入
当時の論拠もない」と指摘。「消費者は補償金制度を知らずに払っている。対象
が増えれば不信感も増す」(漫画家の里中満智子氏)との主張もある。
委員会は七月末の意見集約もままならず、年内の決着は絶望的。反対派委員た
ちは、既得権にこだわるように見える権利者団体に手厳しい。
ビジネスの壁に
権利者側も一枚岩ではない。JASRAC評議員で、キャンディーズの「春一
番」などのヒット曲を作曲した穂口雄右氏はこう言い切る。
「権利者団体はCD売り上げ減少の原因がiPodであるかのように言うが、
むしろ音楽業界の救い主だ。iPodや『iチューンズ』で音楽を楽しむ人はC
Dもたくさん買う。年間三十億円程度の補償金が減ると業界がダメになると言う
が、情けない。アップルを見習って、もっと大きなビジネスを作って欲しい」
日本のコンテンツ(情報の内容)産業は伸び悩んでいる。デジタルコンテンツ
協会が発表した〇四年のコンテンツ市場(十三兆三千億円強)は、前の年に比べ
てわずか一・八%増。内閣知的財産戦略推進事務局長の荒井寿光氏は「複雑な権
利関係がビジネスの拡大を妨げている」と話す。
事実、米国で人気の「iチューンズ」が日本に上陸したのは二年遅れ。日本の
レコード会社の同意に時間がかかったためだ。今度は、ラジカセ時代の九三年に
始めた補償金を最新の機器に課そうとする。少なくとも、新しいビジネスを後押
しする動きとは言えない。
権利者は「法律に従って正当な権利を主張しているだけ」と言う。だが、著作
権法が制定されたのは一八九九年(明治三十二年)。当時の保護対象は小説や絵
画などで、特別な才能をもつ芸術家の創作意欲を保つのが目的だった。
今やネットの登場で、素人が文章や音楽を創作、流通させ、万人が楽しめる時
代が到来した。「現行の補償金制度は権利者団体を通じてレコード会社や大先生
だけに著作権料が戻る。団体に属さない若いクリエーターは蚊帳の外だ。彼らに
きちんとお金が戻る、新しい仕組みに作り替えるべきだ」(穂口氏)
補償金制度のみならず、著作権の仕組み全体を見直す機運もある。小委員会の
主査を務める中山信弘・東大教授は「著作権法は(問題の)吹きだまり的様相を
呈している。現行法が社会の要請に応じうるものなのか、問い直す必要がある」
と主張する。