バイク海苔のチラシの裏 23.6枚目

このエントリーをはてなブックマークに追加
563774RR
かれこれ3年ほどの付き合いになる同僚。
付き合いとは言っても、職場で雑談したり本の貸し借りをしたり、
そんな「少しばかり仲のいい同僚」の域を出ないような関係。
そう。
彼女にとっては。

俺は3年間ずっと片思い中。
正確には「だった」が付く。

まだ肌寒い4月の初め、仕事のことで少しばかり塞ぎこんでいた同僚に、
「今週末、気分転換にゴハンでも食べに行かない?」とメールをした。
いやしてしまったというか、魔が刺したというか。
いつもの他愛のないメールにそういう余計な内容を盛り込んでしまったのだ。
急いで止めようと思ったものの、無情にも「送信しました」のメッセージ。嗚呼。

その日のうちには返信が無く、また、翌日職場で顔を合わせてもお互いその話題には触れることは無く、
少し気まずい雰囲気の金曜日の職場を後にした。
自宅に戻り、激しいやっちまった感に苛まれているところにメールの着信が。
画面を覗いてみるとそこには同僚からのメール。

「色々考えてたら返事遅れちゃいました。急だけど明日のお昼なら空いてます。大丈夫かなぁ?」
「どんなゴハンだろ〜?ドキドキ♪」
564774RR:2010/05/20(木) 00:44:29 ID:FzBgvUUY
デート当日は話も弾み、それなりに上手くいったはずなのだが、週明けの職場での同僚は何故かいつもよりよそよそしい態度。
それにもめげずにその後も少し間隔を空けて2回デートに誘うものの全てお断りという仕打ち。
お試しでアウト判定だったのか、あるいは同僚からの誘いだけに断りづらかったのか。
もう出社拒否寸前。目も合わせられない。

しかし3年越しの片思いをそう簡単に諦めるわけにもいかず、「これが最後」と食事に誘うと意外なことにOKの返事。
「そうそう。借りてた本も読み終わったよ。あと私のオススメのもあるからそれも併せて持っていくね。」

たまに行くフレンチの店でランチを食べた後、近くの川沿いの公園のベンチで一休み。
「ハイこれ。ありがとう。」「面白かったよ〜」
互いにその本の感想なんかを話した後、しばしの沈黙。

居たたまれなくなった俺は何を思ったか、実は他人に本を貸すのがあまり好きでないこと、
その理由として内面をさらけ出してしまうような気がすること、だから本を貸すのは本当に心を許した人や大好きな人に限られる、
といったことをベラベラと喋ってしまった。
間接的に告白しちまってるじゃねーか。
565774RR:2010/05/20(木) 00:45:13 ID:FzBgvUUY
「…そか」
俯く同僚。
またもや訪れる沈黙。

止めときゃよかった…
何でこんな…

「・・・『カフーを待ちわびて』」

え?

最初、ポツリとつぶやいた同僚の言葉の意味が分からなかったが、
彼女が1年程前に貸してくれた恋愛小説のタイトルだということがすぐに思い出された。
俺の趣味とも彼女の趣味ともかけ離れているその本を、彼女が何故俺に貸してくれたのかよく分からなかったが、
読むとそれなりに面白く、また、ヒロインの名前が同僚と同じということもあって記憶に残っていたのだ。

「N(俺)とね、お昼休みとかに話してるとね、本当に楽しかったの。」
「でも楽しくお話できる同僚って関係からはそろそろ抜け出したいなって。」
「でもね、抜け出した後、上手くいかなかったらどうしようって。」
「今の関係でもじゅうぶんだから、壊れてしまう可能性があるのならずっとこのままでもいいかな、とも思った。」
「だから、あの本を貸したの。」

曰く、全く趣味じゃないアマアマの恋愛小説、それも自分と同じ名前のヒロインが出てる作品を貸すとなれば、
ひょっとすれば好意に気付いてくれるかもしれないし、気付かないかもしれない。
要はそういうまだるっこしいやり方で運を天に任せたらしいのだ。
そんなの俺が気付くわけないだろ。
566774RR:2010/05/20(木) 00:46:13 ID:FzBgvUUY
「Nは本を貸す行為そのものに思いを託してたんだよね。」
「私はその本に託したの。」
「でもNはあい変わらず、ずーっと今までどおりだったでしょ。」
「やっぱダメだったか〜、ってもう殆ど諦めかけてたの。これでいいよねって。仲のいい同僚で。」
「そしたら「一緒にゴハン食べよう」って。」
「すっごい嬉しかったけど、単に同僚としてOKすればいいのか、それともそういうこと期待していいのかなって。」
「それで返事が遅れたり、どう接していいか分からないから変な態度とったりして・・・。」

そこまでいっきに話し終えると、今まで真横に座る俺とは目を合わせなかった彼女は、俺のほうに向き直った。
いつにも増して優しそうな眼。

「カフー(沖縄言葉で良い知らせ、の意)、ずっと待ってました。」

あまりの急展開に半ば呆けてしまって何もリアクションを起こせない俺。

彼女はバッグから文庫本を取り出した。
見覚えのある沖縄の青い空と海の表紙。
確か1年程前…


「よかったら読む?結構おすすめなんだけど。」


もちろん。