中免で乗れる最高のロングツーリングマシンって何20

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767774RR
喉が渇いた。福島の乾ききった大地を走り続けていたから口の中は
カラカラだ。太平洋に面した小さな村のはずれに、瓦屋根のかわいい
食堂があった。波の音がBGMのその店には、健康的に日焼けした工業高校
の若者達がたむろしていて「笹とお茶」を飲みながら眩しそうに海を
見つめている。真っ白い砂浜には誰もいない。ただ透明で乾いた風が吹いている。
 僕は食堂の真ん中にZZR250を停め、ヘルメットを脱いだ。
腰をおろすと鼻の頭のそばかすが目立つ気の強そうな女の子がメニューを
持ってきてくれた。福島弁がほとんど分からない僕が、メニューを開いて
「標準語?」と尋ねると、女の子はちょっと自慢げにアゴをあげて、
「もちろん!!注文は何にする?今日は少し暑いから冷たい飲み物がいいんじゃ
ないかしら・・・」と標準語でしゃべり続けている。

 いつも間にか若者達がZZR250を取り囲み早口の福島弁で語り合っていた。
僕には彼らが話している内容は分からないが気持ちは伝わってくる。
彼らもバイク好きなのだ。

「このバイクは250ccなんだ」と標準語で説明しながら小物入れや
バンジーフックを操作して見せる。胸の前でメニューを抱えて女の子が通訳してくれた。
若者の一人は「信じられない」といった様子で大げさに空を仰いだ。
768774RR:2007/12/15(土) 23:38:25 ID:+U/Ggl13
ひとしきりZZR250が250ccであることを説明し終わった僕は彼女に
「ミルクコーヒーをくだっしょ。」と覚えたばかりの福島弁でオーダーすると、
「しゃべれるではないだぁ〜か。」といいながら厨房に引っ込んでいった。

 ジャケットのポケットからしわくちゃになった地図を取り出す。福島全土を
1枚でカバーする地図の上では僕の移動距離はほんの数十センチだ。福島は広い。
だからこそいくら走っても飽きることがない。

 僕が地図を広げたのを目ざとく見つけた若者達が何かいいながら寄って来た。
女の子に通訳を頼んだ。「この近くにステキな島があるって。私もいったことあるけど
大好きな場所。最後にいったのは確か・・・。」自分の世界に入ってしまった彼女。
逆光の中、ZZR250のシルエットが浮かび上がっている。

 喉の渇きは癒えた。そろそろ出発しよう。彼女や若者たちと再会することもないだろう。
僕は彼らがすすめてくれた島に向かうつもりだ。

そこに何もなくたっていい。
ただZZR250で走れれば、それだけで充分だ。