旅先で出会った、忘れえぬ人たち(7)

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ホテルのフロントを挟んで私を見ていた彼女は、
下唇をきつく噛んでいました。
そのうち彼女の目に涙が溢れて来て、
何が起こったのか解らずにいるフロントマンの手前何か言わなくてはと思うのですが、
私も言葉が出て来ませんでした。
あまりに色々な事があって、
彼女が生きていた事すら私には信じられなかった。
二度と逢えないと思っていたし、
出来ればそんな形でなど逢いたくはありませんでした。

彼女が仕事を終えてから狭いロビーの隅に向かい合って座り、
でも一体何から話せばいいのか解らず、
「子供が二人います」という彼女の話を聞いていた。
必要以上に歩み寄らないよう、お互い敬語ばかりを使いながら、
だけど今が幸せなら良かったねと言った途端、胸が張り裂けそうだった。