R134周辺地域5 【横須賀 三浦 鎌倉 湘南 大磯】
巫女としても未熟、女としても未熟。そんな考えまでもがあやねの中に浮かんできた。
いくら勝気なあやねでも、行人に拒絶されてしまえば流石に凹むと言うものだ。
普段は考えないような自虐的な感情に取り憑かれ、あやねはずぶずぶと鬱に陥ってしまう。
「いや〜…。そうじゃなくて、別に大きい小さいとか関係無く男は簡単に女の子の胸を見るべきじゃないってボクは思ってるんだけどね?」
華奢な脹脛から覗く、濡れてぴったりとあやねの形を浮き上がらせている白い布から目を逸らしながら、行人は頬を掻いた。
「良いのよ…。どうせ私の胸なんて、行人様からしてみればあって無いようなものだし…。見えてたって、きっと行人様は気にも留めてくれないんだわ…」
「いや、気になるから仕舞って欲しいんだけどね…。ボクとしては…」
何ですと?
恥ずかしげに語った行人の言葉に、あやねの顔がツインテイルも一緒にぐりんと上がった。
「鼻血を出しちゃうのは、その、ドキドキして頭に血が昇ちゃった所為で…。それに、さっきの鼻血もあやねの胸が見えちゃったのが原因だし…」
羞恥で耳まで真っ赤になった行人が搾り出す様に言葉を紡ぐ。
だが、そんな行人の言葉にあやねは瞳を伏せた。
「嘘よ、行人様…。私の胸に興味が無くて、見たくも無いからそんな事言うんだわ…」
きっと、行人は優しいからそうやって自分を慰めてくれているのだろう。だが、プライドの高いあやねにとってそんな優しさは傷に塩を塗り込まれる様なものだった。
行人が気を遣ってきてくれていると解っていても、あやねはついそんな言葉で返してしまう。
「あ〜っ、もぅ!!」
そんなあやねの態度に行人は更に顔を赤くし、ガシガシと頭を掻いて声を上げた。
「良い!?あやね!?男にとって女の子の胸が見えるって事は凄くドキドキする事なの!!おっきくても、小さくても!!別にあやねが嫌いだから見たくないとか言うんじゃなくて、ボクが変な気持ちになるから見ないだけなの!!」
「本当?行人様…?」
恥も破れかぶれに、行人はこっくりと頷いた。
「だからあやねはボクに嫌われてるとかそんなんじゃなく、――て?」
言い掛けた行人の言葉は、その途中で凍り付いた様に止まっていた。
いや、止まっているのは言葉ではなく、行人の頭であった。
「く…ぅっ」
初めてもたらされる未知の快楽に、イアルは顔を歪めた。
「こんな事…やめるんだ…」
自分の股間に顔を埋めているエリンを離そうと、両手をエリンの頭にやるが
引き離すどころか、ますます自身の男根を押し付ける形となってしまった。
「ん…ごほっ…んん…」
喉の奥にまで男根を突き入れられ、エリンは息苦しくなり噎せてしまう。
「ん…くぅ…っ」
ピチャピチャっと、先ほどよりも卑猥な水音が辺りに響く。
苦しくとも尚も舌で竿を舐め、手でしごいてイアルを上りつめさせようと
エリンは目に涙を浮かべながら必死だった。
「くっ…もう…限界だ…」
射精の気配を感じたイアルはエリンの顔を自身の男根から引き離した。
その瞬間、勢いよく白濁の精液がエリンの服に飛び散った。
「はぁはぁ…」
どちらの共わからない息つぎの音が部屋に響いていた。
「はぁはぁ…何故こんな事を…」
二人が落ち着いてきたであろう頃、最初に口を開いたのはイアルだった。
「母を失った私は、蜂飼いのおじさんにお世話になりました。
生前母は何かをしてもらうなら、自分も同等の物を払うように
私に教えてくれました。蜂飼いのおじさんにお世話になっていた頃は
家畜の世話や炊事洗濯をしていました」
イアルは黙ってエリンの話を聞いていた。
「ですが、今の私にはイアルさんに払える物が何一つありません、だから…」
そこまで言ってエリンは口を閉じた。男を悦ばせる方法でエリンは
竪琴の細工の仕方を教わろうとしたのだ。それが自分にできる唯一の等価交換なのだと…。
「…君は王獣の為に、好きでもない男にこんな事をしたのか?」
イアルはエリンの服に吐いてしまった己れの欲望を見て呟いた。
「誰でも良かったわけじゃありません。イアルさんだったから…
大切にしていた竪琴を私にくれたイアルさんだったから私は…私自身を貴方に…」
涙を流しながらエリンは声を発する。
「貴方の大切な竪琴の音色を奪うように、私の初めてを奪って下さい」
オーディションが終わった翌日、私は、麦チョコを舞台裏のスペースに呼び出した。
「ど、どうしたの? ちとせちゃん」
麦チョコは、いつもと同じように、自信なげな表情をみせながら、おたおたとした足取りでやってきた。
何故、私は、麦チョコに敗北してしまったのか……
昨日のオーデションの結果が、幾度も脳裏に反芻される。
いくら、成長している麦チョコ望んだ役とはいえ、人前での度胸が要求されるオーディションで、本当に負けるなんて思っていなかった。
「あ、ごめん。麦チョコ」
私は、あいまいな笑みをみせながら言った。
麦チョコは、女の私からみても可愛い。
ショートカットに、ふたつの小さなみつあみを垂らした髪型が凄く似合っている。
極端な内気という性格面も、マイナスとはならずに、彼女の危なっかしい魅力を引き立てている。
特に、顔を真っ赤にしてクヨクヨと悩む姿をみるのは、本人には悪いけれど、私の大好物だ。
いじいじとべそをかく麦チョコを、私は偽善者ぶって励ましたり、逆に突き放したりするのだ。
麦チョコは、私の愛くるしいオモチャだったし、今後もそうだと思っていた。
しかし、麦チョコは変わりはじめた。
自信という言葉を、生まれてくるときに置き忘れてきたような麦チョコが、演劇というモノにのめりこんでいくことで、
少しずつではあるが成長していった。蝶が羽化するように、綺麗な羽根を伸ばし始めたのだ。
しかし、本来なら歓迎すべき麦チョコの成長は、いつのまにか、私にとっての脅威となっていた。
そして、昨日の私は、単なるみじめな敗北者でしかない。
「ちとせちゃん…… あの、その」
腹が立つことに、麦チョコが何を言おうとして、逡巡しているかなんて、言葉に出す前から分かってしまう。
オーデションに落ちた私を励まそうか否かで迷っているのだ。
「ねえ、麦チョコ」
自分でも気味の悪いくらいの、猫なで声が外に出た。