1 :
名無し名人:
大阪万博から13年。
日本はバブル崩壊後、長期の混乱を経て、経済的回復を迎えようとしていた。
そんな表の世界と別の処、魔物が潜む闇世界で、一つの伝説が始まろうとしていた。
のちに神域の男と呼ばれ群馬の闇世界に君臨する男の、その伝説が。
沼田の町は今日も雨だった。
打ちしきる雨の中、「将棋みどり」と看板のあるビルの2階で、行方は賭け将棋をしていた。
「俺が望んだものは、それは変化だった。
それも全てをひっくり返すような変化だ、生まれ変わるほどの、、、」
きつい肉体労働で隆々とした筋肉のおかげで、一年前に買った行方のTシャツは縮んだようになっしまっていた。
長く続く雨のせいで、そのシャツが胸と腕に張り付いてくる。
それを行方はいまいましく思っていた。
「そもそも、好き好んで肉体労働などするものなどいるものか」
数年前、行方はその貧困生活から抜け出そうと博打に身を投げ出しのだった。
2 :
名無し名人:2013/01/04(金) 20:34:12.19 ID:mN5Q2m6r
盤上に今夜の対局相手、久保が持ち駒を運ぶ。
「6八飛車、、、自陣飛車、、、」
行方はこの手を読んでいなかった。
それを見て行方は「投了」と小さくつぶやいた。
「これであんたの負けは500万や」
行方とは対照的に、贅沢で太った久保が、にやりと歯を見せた。
裸電球が吊るされたビルの暗い一室で、男五人が盤を囲んでいた。
対局者の債権回収業者久保と行方、久保の取り巻きのチンピラ3人が5番勝負のゆくえを見守っている。
カーテンを閉めきった暗室でも雨の音は聞こえてきたが、駒を打つ音は高く響いていた。
「株式の負債、賭博の負け、手を出すとことごとく失敗し、そして今夜借金の棒引きをかけての将棋5番勝負も2敗。
これが尽きたら俺は、多額の借金の支払いをしなければならない。
一ヶ月前に入った生命保険、、、受け取りはこの男、久保の情婦。
追い詰められた、、、もう指せない、、、」
3 :
名無し名人:2013/01/04(金) 20:35:46.16 ID:mN5Q2m6r
行方は裸電灯を見上げて、よれたピースに火をつけ煙を吐き出した。
「落ち着け、、、何とかするんだ、何とか。
泣きたくなるような局面だ。くっ、この勝負、あと一敗を食うと終わりだ。
頼むっ、、、変えてくれ、誰でもいい、このよどんだ空気。
流れを変えてくれ、、、誰でもいい、、、悪魔、、、でも」
そのとき、部屋のドアがきしんだ音を立ててゆっくりと開いた。
隙間から雨の音が入り込んでくる。
久保がそちらに眼をやると、小柄な男が立っていた。
ぬれた縞柄のスニーカーと縞柄のパンツ。
久保たちが注目していることに、行方は遅れて気づいた。
行方が振り向くと、久保はその男に声をかけた。
「誰や?」
そのとき雷光が男を照らした。
一人の少年だった。
4 :
名無し名人:2013/01/04(金) 21:08:17.94 ID:ZpoBLR/F
で?
5 :
名無し名人:2013/01/04(金) 21:15:33.21 ID:Ezpuw1VT
連投できないのか?
6 :
名無し名人:2013/01/04(金) 22:03:26.91 ID:uqFDmT2j
7 :
名無し名人:2013/01/04(金) 22:08:32.64 ID:6LwyYhKr
なんで年下のくぼなめをそこに持ってくんのさ
8 :
名無し名人:2013/01/04(金) 22:25:26.13 ID:pCMLx0ZI
だから酔ってスレ立てするなと、あれほど・・・
9 :
名無し名人:2013/01/05(土) 00:06:18.23 ID:HwuRGOZZ
白シャツは縦縞、パンツと靴は横縞のストライプという珍妙な格好をした少年が鋭い眼差しを向けていた。
久保の取り巻きの一人、菅井と呼ばれる男が、入ってきたのが少年と分かるや否や怒鳴りつけた。
「なんだてめぇは、雨宿りなら別にしな。
ここはガキの来るところじゃねぇ サァ帰った帰った」
菅井は少年を乱暴に追い出すが久保は止めずにじっと見ている。
雨脚が強まってきた。
行方は首を持ち上げ体を向けて、ためらいがちに
「ま、まて。そのガキは俺が呼んだんだ」
と菅井を制止した。
10 :
名無し名人:2013/01/05(土) 00:08:32.53 ID:HwuRGOZZ
じっとしていた久保は体を起こし、行方と菅井の様子をうかがう。
外に押し出されかけていた少年は足を止め、行方のほうへ振り向いた。
すると、菅井は間違いを指摘されて不満そうに「んあ?」と声を出して行方を睨みつけた。
「12時を過ぎても俺から連絡が無ければ、様子を見に来いって言ってあったんだ」
少年の肩をわしづかみにしていた菅井は少年を部屋に入れてドアを閉めた。
行方はずぶ濡れの少年にタオルを与え部屋に隅にあるソファに座らせた。
ピースに火をつけて咥えると、少年の前に立ち、保護者のように振舞った。
「そんな約束は無かった、、、
こんなガキは知りはしない、、、
ただ俺は、、、流れを変えるきっかけを、、、」
11 :
名無し名人:2013/01/05(土) 00:12:57.13 ID:mmU+7btD
ざわ...ざわ...
12 :
名無し名人:2013/01/05(土) 00:12:57.29 ID:HwuRGOZZ
盤のほうへ眼を向けると、久保はゴルフ雑誌を読み、菅井は瀬川と呼ばれるチンピラと談笑している。
「見ろ、、、やつらの白けた面、、、」
行方は自嘲気味に今夜の自分を呪ったが、緊張の解けた久保たちを見ると、わずかな希望を抱かずにはいられなかった。
一杯になった灰皿の縁にタバコをこすりつける。
「明らかに勝負の熱が引いてきている、、、
変わるかもしれない、流れが、、、
何とかここをしのいで次の対局から巻き返すんだ。
ねばれぇ、、、あきらめるなぁ、、、」
第三局が始まった。
13 :
名無し名人:2013/01/05(土) 00:15:19.12 ID:HwuRGOZZ
後手久保の80手目、ついに行方にチャンスが手に入る。
来た。
7手目先の後手番、王手飛車の変化が有力になりつつある。
なめ方はあごに手をやって考えていた。
「4五切って5四飛車待ち
久保が変化を避けても勝利は可能だ」
優勢を信じる久保は歯を見せて盤上を見ている。
「問題は8手目先、先手番の馬金両取り、、、
えーぃ、、、4五切りたいのは山々だがかなり危ない。
くっ、、、ここは無理できない。
王手飛車の変化は消えるが、まずは端歩から、、、安全な勝負手だ。
ここで負けると全てが終わる、、、くっ」
歯を食いしばりながら、1筋の歩に手を伸ばした
14 :
◆kamikazem6 :2013/01/05(土) 00:15:19.91 ID:4rICwVgY
C
15 :
名無し名人:2013/01/05(土) 00:18:06.32 ID:HwuRGOZZ
「死ねば助かるのに」
「えっ」
行方は一筋に伸ばした手を止めて、後ろを振り返ると、
少年は頭を拭き終え、縞々シャツの上からタオルをかけ、盤を見ていた。
時折雷鳴が轟いている。
「お前、、、将棋が分かるのか」
「いや、、、全然、、、ただ、今、気配が死んでいた。
背中に勝とうという強さがない。
ただ助かろうとしている。
博打で負けが込んだ人間が最後に陥る思考回路。
つまりファンタだ」
16 :
名無し名人:2013/01/05(土) 00:20:30.20 ID:HwuRGOZZ
そこまで言われたことが行方には衝撃だった。
見ず知らずの少年に、
しかも言われたことは、行方が心の底で都合が悪いと無視していたことだったからだ。
「あんたはただ怯えている」
「うっ」
なめ方は手を伸ばしかけた1筋の歩に眼をやった
そして自分が怯えていたことに気づいた。
「くそっ、確かにこのガキの言うとおりだ、この手がどうして1筋切りなんだ
ふっ、どうかしていた。
俺が今やっているのは博打だっ。
危ない橋一本渡れない男に勝機があるか。
どうせ死ぬなら強く指して死ねぇっ」
17 :
名無し名人:2013/01/05(土) 00:22:04.79 ID:HwuRGOZZ
行方は4五歩を持ってガツンと音を立てて着手した。
久保は顔を上げてなめ方をにらんだ。
その顔に、先ほどまでの笑みは消えていた。
そのとき、思いつきの1筋の仕掛けは久保の読みに入っていた。
行方が1筋で逃げていれば、久保は逆襲を準備していた。
運命のいたずら。
このまま行方は先手玉に必死をかけにいくと、久保はあきらめ投了した
18 :
名無し名人:2013/01/05(土) 00:23:37.75 ID:HwuRGOZZ
このときより勝負の振り子はゆっくりと行方へと振り始めた。
「一勝だ、、、生き延びた」
3局目が終わると盤が置かれた部屋から久保たちは席を外した。
行方はマッチでピースに火をつけ、ゆっくりと煙を吐き出した。
雨は止んでいるのか、強い風が窓に音を立てている。
「ボウズ、、、年は」
少年は外れたシャツのボタンを閉じている。
下着にもストライプが覗いた。
19 :
名無し名人:2013/01/05(土) 00:24:40.01 ID:HwuRGOZZ
少年は細くした目つきで行方を横目に答えた。
「13」
行方は驚きを隠せず「は」と声を漏らした。
「へぇ、見えねぇなぁ。名前は」
「fじい、藤井シゲル」
少年は言い直した。
部屋は二人きりで、風はしきりに窓を揺らしている。
20 :
名無し名人:2013/01/05(土) 00:25:54.25 ID:HwuRGOZZ
「お前いったい何をやらかしたんだ。こんな嵐の夜にほっつき歩いて、知りもしねぇ部屋に転がり込むなんて、
まともな学生だけじゃないのは確かなようだが。しかもそのシャツについた砂は、、、」
また雷が鳴り始めた。
「こんな深夜にサッカーかい、、、
分かるよ、、、話たくなんかないことだろう」
行方はそこまで言って眼を伏せた。
「多分、お前はここに来る前に死線を越えてきた。
分かるんだ。俺が今死線を彷徨っているから、、、そんな気配がさ、、、」
21 :
◆kamikazem6 :2013/01/05(土) 00:26:32.31 ID:4rICwVgY
C
22 :
名無し名人:2013/01/18(金) 08:38:48.23 ID:DkudW6E/
行方
23 :
名無し名人:2013/01/26(土) 07:23:25.50 ID:PnpWYTJK
不明
24 :
名無し名人:2013/01/26(土) 10:32:29.83 ID:VEc8JpSZ
いまのところ行方スレ
25 :
名無し名人:
配役を決めるだけでも楽しそうだな。
もう。久保でいきなり失敗してるけどw