俺専用のスレ

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27名無し名人
ここなら・・・いいよ・・・ね? 既に削除依頼済みのようだけどw

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第一話 名人誕生

「あ、負けました」
 現名人森内の少々情けない投了の宣言とともに、一斉にシャッターが切られる。
弱冠17歳、史上最年少名人が誕生した瞬間である――
 対局を終えたばかりの新名人、的場秋久に記者らから矢継ぎ早に質問が繰り出される。
「史上最年少の名人となったわけですが、どのようなお気持ちでしょうか?」
「この喜びを、まず誰に伝えたいですか?」
「今シリーズ通して非常に難解な将棋が多かったと思いますが、勝因はどの辺りに?」

 三勝三敗で迎えた名人戦第七局、二日目。史上最年少名人がかかった今シリーズの、最終日。
注目されていることは知っていた。けれど秋久にとっては、目の前の対局がすべてであり、
それ以外のことはあまり気にしていなかった。いや、気にする余裕もなかった。
 名人戦が始まる前の、森内との対局通算成績は一勝五敗。四段に昇段し、プロになってから五連敗、
その後何とか一勝することができただけ。秋久にとっては、まだ分の悪い相手。
ここまで戦えるとは思ってもいなかった。ただただ一局一局を、目いっぱい指してきた、それだけである。

「まだ、実感がありません。まさか名人に勝てるなんて思っていませんでしたし……」
「まず、師匠に。そこに」そう言うと、秋久は頭を深く下げた。
「分かりません。一手一手が難しくて……。あまりいろいろ考える余裕がなかったのが
かえって良かったかのもしれません」
28名無し名人:2005/08/06(土) 15:13:28 ID:iF/OEraK
(ん……、まだ四時か……)
 昨夜の興奮がまだ残っているためか、秋久は途中で目が覚めた。
「名人、かぁ……」
 静かな部屋に、ぽつんと響く。
 昨夜の将棋が思い出される。自分の対局を思い出し思い出しして反芻するのはいつものことだ。
森内名人(今は九段だが)の指し手で疑問に思ったのはたった一箇所だった。
あそこでいい手を見つけられなかったら、負けていたのは自分の方だったろう。
あのとき――そう、あのとき、声を聞いた気がする……。3二歩、たしかにそう……。
 秋久はふと思い立つと、みなりを整え昨日対局していた虎狼の間へと足を向けた。

 外は少し明るくなってきているようだ。外から障子を通し、部屋全体がわずかではあるが
柔らかい光に包まれている。その中央に、静かに、ひっそりと盤、駒台、駒の入った袱紗が二組、置かれている。
一組は昨日使っていたもの。もう一組は、虎斑の入った駒。
 名人戦ともなると、二、三組の駒が用意され、対局前日に両対局者によって使用する駒を決めることが出来る。
ただし、虎斑などの入った芸術品ともいえるそれ自体美しい駒は、実用的でないという理由からか、
敬遠されがちである。その美しさゆえに、今対局でも使用されなかった駒たち。
 秋久は袱紗から駒を取り出し、その美しい駒たちを弔うかのように、一駒一駒丁寧に並べ始めた。
 清冽でありながらその淡い明るさによって暖かみをもたたえていた虎狼の間に、駒音が響いていく。
 もちろん、将棋盤もよいものだからであるが、その見た目の美しさと同様に、奏でられる駒音も美しい。
 秋久は何故か、こうしていると「名人」というものが分かってくるような気がした。
 虎狼の間にはただ、盤と駒の立てる音だけが――
「ね、いい手だったよね、3二歩?」
(!? ……)
 どこからともなく声をかけられて秋久は戸惑う。
29名無し名人:2005/08/06(土) 15:14:23 ID:iF/OEraK
「?? いい手だったよね、3二歩?」
 再び、声がする。少し不安げな、女の子のような声。
「私の声、聞こえませんか?」
「……いや、聞こえるけど」
 辺りを見回してみるが、誰もいない。
「こっちですよー、こっちー」
 先ほどまでとは違い、盤の方から声がした。秋久が目をやると、盤の上にちょこん、と女の子が立っている。
「えへへ」などと照れくさそうに笑っているが、背は小さな人形くらい、着ている服は和服……というか、巫女装束だろうか?
胸には両手で抱えるように、火縄銃とはこんな感じなのだろうかと思わせるような古めかしい鉄砲。
「えっと……」
「わたし? あゆみといいます。歩と書いてあゆみです。よろしくお願いします」
 突然のことに呆気に取られている秋久をよそに、さっさと自己紹介を済ませてぺこりとお辞儀をする。
「え、いや、その……」
「だから言ったでしょ。そんな突然に出て行ったって秋久君が困るだけでしょって」
 また一人、盤上に同じような女の子が湧いて出て来た。先ほど歩と名乗った娘と同じく巫女のような服装。
髪は結い上げ、ポニーテールにしている。
そして頭には二本の、角……? 鬼のようなものではなく、可愛らしくさえあるが、角……?
「私は姫。龍王の娘よ、よろしくね」
 そう言って、軽くウィンクさえしてみせる。
「もうメンドウだから、みんな出てきたら?」
 姫と名乗った娘がそういうと盤上にさらに多くの女の子たちが現れた。
 秋久の背中を冷や汗がつたっていった。