山岡士郎、将棋を語る

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505名無し名人
〜〜〜A級復帰を果たした森下九段に捧ぐ〜〜〜


小泉「私の友人の息子の森下九段だ。しばらくの間B1で指すことになった。みんな宜しく頼むよ」

森下「B級1組に所属いたします森下卓であります。一生懸命指しますのでご声援宜しくお願いします」

部員「ま、気楽にやれよ」

富井「しかし局長、どうして森下君がB1で指すんですか?」

小泉「うん、それはだな、森下君に山岡を見習ってもらおうと思ってのことだ」

栗田「山岡さんを?」

山岡「さすが局長、人を見る眼がありますね! 私、山岡士郎は若人の鑑なのであります!」

小泉「実は森下君は生真面目すぎて融通がきかない。コチコチの堅物で、このままでは再びA級に
   復帰しても通用しないのではないかとご両親も心配しているんだ。
   そこで私は考えたんだ。こんなにいい加減でグータラな人間でも世の中を渡って
   いけるんだってことを森下君に見せてやろうとね」

山岡「あが」

小泉「ほら森下君、あれが世界一のグータラ、いい加減人間の山岡だよ」

森下「いい加減でグータラなところを一生懸命勉強させていただきたいと思いますので、
   どうぞ宜しくご指導下さい!」
506名無し名人:05/03/03 22:22:49 ID:LBIfOXNt
富井「変だな、森下君はどうしたんだろう。昨日の棋譜をコピーしてきてくれと頼んだら
   そのまま帰ってこないけど・・・」

手合係「富井さん、おたくの森下君は困りますよ」

富井「え?」

手合係「棋譜をコピーするのに手書きで写すもんだから他の棋士が棋譜をコピーできないんですよ」

富井「森下君、どうして?」

森下「はい、棋譜を手に入れるなら手書きで写すべきだと思います。1手1手に魂の込められた
   プロ棋士の棋譜を安易にコピーで手に入れるようでは勉強にならないのであります」

富井「・・・これは聞きしにまさるクソ真面目・・・」

栗田「あ、そうだ、森下君、お昼を食べに行きましょう」

森下「いえ、まだ11時58分15秒です。お昼休みは正午からとなっているはずであります」

栗田「え?」

田畑「そんな1分や2分いいじゃない」

森下「いえ、そうではありません。お昼休み前に席を立つなら、記録係にその旨を伝えて持ち時間を
   入れてもらわなくてはなりません」

山岡「・・・」
507名無し名人:05/03/03 22:23:04 ID:LBIfOXNt
山岡「あ、いけねえ。持ち時間切れちまったい。帰ろ帰ろ。ふわー、切れ負けなんて棋士じゃない
   てなこと言う奴がいるけど、そんな奴は棋士の敵・・・わ、森下君、驚くじゃないか」

森下「山岡さんのグータラさいい加減さを見習おうと思って後ろで観戦していましたが、
   私にはとても真似できそうにありません。山岡さん、持ち時間は大切に使うべきです。
   対局が終わったら相手の方としっかり感想戦を行いましょう。盤駒の手入れも・・・
   真摯な姿勢で対局に挑んでこそ、素晴らしい将棋を指せるのであります」

山岡「や・か・ま・し・い・!!!」

・・・

山岡「まったく、あの森下ってガキには頭にくるぜ。クソ真面目ってのは本当にはた迷惑だよ」

田畑「グータラもはた迷惑だけど」

栗田「確かに森下君は固すぎるわね。融通がきかないなんてもんじゃないわ」

山岡「おや? あの本屋に入って行ったのって森下じゃないか」

栗田「森下君はどんな棋書を読むのかしら?」

田畑「固くてつまらない棋書よ」

パッ(光速の寄・・・)

森下「あっ!」

山岡「へえ、相手玉を寄せるより駒得を喜ぶような奴だと思ってたけど、やっぱり相手玉を
   寄せたいんだねぇ」
508名無し名人:05/03/03 22:23:25 ID:LBIfOXNt
栗田「寄せを勉強しようだなんて立派じゃないの」

田畑「お手軽に研究会で序盤を研究して作戦勝ちを狙う時代なのに森下君らしくないわねぇ」

栗田「今度の相手は誰なの?」

森下「後輩の北浜七段であります」

山岡「後輩? ばっかだな、おまえは。相手が後輩なら勉強なんて面倒くさいことしないで
   単刀直入に『負けろ』と脅してしまえばいいだろが」

森下「あ、そういうのはいけないと思います。八百長だと思います」

田畑「や、八百長?」

森下「プロ棋士の対局は浮つくことなく魂の入った真剣勝負でなければならないのであります。
   でありますからして、事前に相手の情けを乞うことなどなく、自力で勝利を得なければ
   ならないのであります」

山岡「偉そうなこと言いながら、終盤力じゃ北浜七段に劣っているじゃないか」

森下「山岡さんは北浜七段に勝てるんですか?」

山岡「当たり前のコンコンチキよ。おらあ将棋の天才だい!」

森下「本当ですか? じゃあ、この本返してきますので北浜七段対策を教えて下さい」
509名無し名人:05/03/03 22:23:41 ID:LBIfOXNt
森下「初手はどう指したら良いんですか?」

山岡「▲76歩だろうな。矢倉、横歩取りに角換わり、なんでもござれというのが無難だろ」

森下「初手は▲76歩と・・・相手が△34歩と指してきたらどうしましょう?」

山岡「ええと、そうだな・・・森下君が指したいように指せば良いよ」

森下「はい、それでは、私は居飛車党なので3手目は正々堂々と▲26歩と指すであります!
   私は本格的な居飛車党でありますから非常に熱の入った将棋になると思います。
   玉は深く固く囲って手厚い将棋を指せば安心でしょう」

山岡「ふむ、他には?」

森下「序中盤は駒損しないよう気を付けることが大事です。駒得をしたらそれを維持しながら
   じっくりとした手厚い将棋を指すべきだと思います」

山岡「よし、その方針で指せ!」

田畑「この大馬鹿三太郎!」

〜〜〜1週間後〜〜〜

田畑「森下君、北浜七段から研究旅行に誘われて張り切っていたわね」

山岡「そりゃ経験豊富なご夫人方が北浜七段に頼み込んだんだからな」

田畑「人をあばずれみたいに・・・」
510名無し名人:05/03/03 22:28:07 ID:eCx5z5rN
森下(しょぼ〜〜〜〜ん)

栗田「どうしたの、森下君?」

森下「もう一緒に研究したくないって言われてしまったんです・・・」

栗田「一体何があったのよ」

森下「まず矢倉を指しました」

山岡「ふむ、矢倉は将棋の純文学だ、いいじゃないか」

森下「先手でしたから、正々堂々と森下システムにしました」

栗田「森下システム?」

森下「後手の対応を見ながら柔軟に駒組をしようと考えたわけであります」

山岡「今時、森下システムなんて指す奴がいるのかよ!」

森下「何を言っているんですか。森下システムは天敵の雀刺しにも最近対策が発見されて改めて
   その優秀さが見直されている戦法です。そして、2局目はひねり飛車にしました」

山岡「ひねり飛車?」

森下「一歩を手持ちにした後は、飛車を転回して石田流の好形に組む、かつて先手必勝では?と
   言われた戦法です」

田畑「でも、今は後手に優秀な対策が見つかったんじゃないの?」
511名無し名人:05/03/03 22:28:30 ID:eCx5z5rN
森下「一歩を手持ちにして石田流に組めるのなら悪いはずはありません」

栗田「それはそうだけど・・・」

森下「翌朝は4時に起きて棋譜並べをしました」

田畑「朝の4時から棋譜並べをしたの?」

森下「将棋の勉強には棋譜並べが一番です」

山岡「しかし朝の4時と言ったら、まだみんな寝ている頃だろ!」

森下「何を言っているんですか。早起きは三文の徳があるのです。人より早く起きて棋譜を並べてこそ
   棋力が上がるのであります」

田畑「なんてまあ」

森下「私のどこがいけなかったんだろう・・・」

栗田「あのね、森下君。あなたが真面目なことはとても良いことだと思うのよ。でもね、
   それだけじゃ困るんじゃないかしら?」

田畑「森下君のいけない点は、その真面目すぎることなのよ」

山岡「こういう奴は言葉で言ったんじゃダメだ。体で分からせてやるっ!」

栗田「山岡さん、暴力はダメよ」

山岡「心配するな。体と言ったって将棋で分からせてやるんだ」
512名無し名人:05/03/03 22:28:56 ID:eCx5z5rN
森下「体で将棋を・・・?」

山岡「ゴキゲン中飛車と後手一手損角換わりを指してみろ」

田畑「え、そんな戦法を?」

森下「私にはそんな棋理に反した将棋は指せない・・・」

山岡「うるさい! ほら、ゴキゲン中飛車の陣形を見てみろよ。原始中飛車は将棋を覚えた頃に
   誰もが一度は指す戦法だ。狙いが分かりやすくて中央からどんどん攻めていくところが良い。
   しかもゴキゲン中飛車は角道を止めずにさらに攻撃的にしてしまった。実に大胆で柔軟で
   ものにとらわれない発想だろう。しかもこの勝率の高さ。今やゴキゲン中飛車は近藤五段の
   代名詞だよ。

次は後手一手損角換わりを指してみろよ。歴史ある角換わりに後手が一手損してまでして
飛車先を保留しておこうという思想がここにはある。実に大胆というか恐れを知らぬというか
なんと自由な発想の持ち主だったかね、この後手一手損角換わりを最初に指した人は」

栗田「飛車先を保留してあるから桂頭を攻められても、△85桂と跳ねてすぐに反撃できるのね」

田畑「同型の角換わり腰掛銀もいいけど、後手はどうしても守勢になってしまうわよね」

山岡「よく覚えておけよ。この偉大な発明をした棋士の自由な魂なんだよ、お前に欠けているのは」

森下「ははあ、ゴキゲン中飛車と後手一手損角換わりなんて今まで立派な戦法だと思ったことは
   ないです。棋理に反していて・・・でも、確かに言われてみれば」

田畑「まだ変な戦法を指すの? 何これは、後手二手損振り穴?」
513名無し名人:05/03/03 22:29:13 ID:eCx5z5rN
山岡「振り穴は優秀な戦法だよな。もともと振り飛車の玉は固いのにさらに固めようだなんて。
   しかも振り飛車には角交換なんて格言があるけど、この戦法の場合、振り飛車側から
   手損をしてまで角交換をしてしまう」

栗田「振り飛車側から角交換してしまうなんて意外よね」

田畑「手損にはなるけど、その分陣形が低くて意外と角の打ち込みにも強いのね」

山岡「これも大変な発明だぜ。振り飛車は角交換を拒むものという思い込みを打ち破ったんだから。
   中盤は手詰まりになりやすいが、そうなりゃ気にせず千日手にしてしまえばいい」

田畑「私、初めて後手番で千日手になった時、感動したわ。指し直し局は先手になるんですから」

栗田「そうよね、やっぱり先手の勝率の高さは魅力的だし」

山岡「こんな戦法を開発した棋士はきっと楽しい人なんだろうね。心に余裕があってさ、
   ユーモアも理解してさ」

森下「私にはそんな余裕はない・・・」

山岡「将棋なんてさ、自由に指したい手を指せばいいんだよ。名人に定跡なしって言うじゃないか。
   やはり伸び伸びと指した将棋が一番見応えあるもんだよ」

栗田「しかも、この洗練度と言ったら」

田畑「固定概念にとらわれないから、素晴らしい棋譜を後世に残すことができるのね」

森下「分かりましたよ、私に欠けていたものがなんなのか・・・」
514名無し名人:05/03/03 22:29:31 ID:eCx5z5rN
森下「やっほー」

田畑「あら、森下君、うれしそうね」

森下「北浜七段に勝てたんです。しかも島八段が阿部七段を破って下さったので2年ぶりにA級に
   復帰することになりました」

開始日時:2005/02/10
棋戦:順位戦
戦型:後手一手損角換わり
先手:森下 卓
後手:北浜健介

▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △3二金 ▲7八金 △8四歩 ▲2五歩 △8八角成 ▲同 銀 △2二銀
▲3八銀 △3三銀 ▲1六歩 △7二銀 ▲1五歩 △6四歩 ▲4六歩 △6三銀 ▲4七銀 △4二玉
▲5八金 △5二金 ▲3六歩 △7四歩 ▲3七桂 △5四銀 ▲2九飛 △4四歩 ▲4八玉 △3一玉
▲7七銀 △2二玉 ▲5六歩 △6五歩 ▲6八銀 △8五歩 ▲5七銀 △6四角 ▲9六歩 △9四歩
▲7七桂 △4二金右 ▲6六歩 △同 歩 ▲同 銀 △7三角 ▲6五歩 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛
▲8七歩 △8二飛 ▲5七金 △8四角 ▲5五歩 △6三銀 ▲5八玉 △7五歩 ▲同 歩 △7四歩
▲2四歩 △同 銀 ▲8六歩 △7五歩 ▲8五歩 △9三角 ▲8七金 △7二飛 ▲6七玉 △6四歩
▲同 歩 △同 銀 ▲8四歩 △同 角 ▲6三角 △7六歩 ▲7二角成 △7七歩成 ▲同 玉 △6五歩
▲6一飛 △6六歩 ▲6四飛成 △7五銀 ▲7四龍 △8六歩 ▲8八金 △7三歩 ▲6五龍 △7四桂
▲5八金
まで91手で先手の勝ち
515名無し名人:05/03/03 22:30:08 ID:7LgOtTIj
森下「後手の一手損角換わりに対して、私は右玉の構えにしました。
   開戦後は北浜七段の猛攻にもひるまず玉が前線に出て受け切ったのであります」

栗田「・・・」

山岡「・・・」

田畑「・・・」

森下「A級ではアヒルにヒラメ、3手目角交換の筋違い角。色々試して頑張ります!
   あっ、いけない。昇級をサポートして下さった島八段とこれから鰻を食べに行く
   約束をしているのでした。では!」

・・・

山岡「あの男、勘違いしてるよ。もっと自由な発想で将棋を指すように言っただけなのに・・・」

田畑「マイナー戦法を指すだけで勝てると思い込んじゃったのかしら・・・」

栗田「はぁ・・・」


(完)

森下九段にひかりあれ。