第79期C級2組順位戦最終局は、2021年3月12日、例年通り全局一斉に
東西の将棋会館で行われた。今回の対局で、特に注目される一局があった。
現代の看寿、内藤國雄九段と、神武以来の天才、加藤一二三九段の対局。
ともに齢81歳、往年の名棋士同士、このカード久々の実現であった。
しかし同時に、この対局には、長年棋界で戦い抜いてきた両雄にとって、
皮肉にして苛烈なる意味があった。今期、内藤、加藤は両者、降級点2つを
背負っての順位戦であり、ここまでの成績はいずれも3勝6敗。この数字が
意味するのはつまり、この対局に敗れたほうが3つ目の降級点、すなわち
引退に追い込まれる、ということであった。
そんな過酷な対局でありながら、対局室に現れた両者は、いつもと変わらぬ
泰然たる手つきで駒を並べ、その顔には笑みまでも浮かんでいるかのように見えた。
こうして、運命の一局は厳かに開始された。
先手番の加藤が選んだ戦法は横歩取り。後手番の内藤は、自身に
第1回升田幸三賞をもたらした十八番、内藤流空中戦法で真っ向から対抗、
加藤も正々堂々それを受けて立つ。超急戦で一気に終盤かと思われたが、
加藤に受けの妙手▲5六金が飛び出すと、一転戦線は膠着し、持久戦へと
流れ込んだ。
終わりの見えない持久戦のさなか、3九で眠っていた加藤の銀が動き出す。
2八へ深く引いた飛車のその頭から、銀は一歩一歩進んでゆく。この時点での
手数はすでに150手を突破、あまりにも遅すぎる加藤棒銀の始動であった。
一気にさばいて勝負をつけようとする加藤と、絶妙の駒組みでこの棒銀を
止めようとする内藤。すでに両者持ち時間は切れており、この丁々発止の
せめぎあいはすべて、一分将棋の中で行われたのである。
そして第197手、待望の▲2三銀成が実現する。加藤が飛車先突破に
成功した瞬間であった。たちまち内藤の玉は引きずり出され、
陣形は蹂躙され、飛車交換からの▲5五角成で一気に後手玉は危なくなった。
だがそれらはすべて、内藤の用意した罠であった。その次の瞬間、
内藤はノータイムで△1四桂。なんとその一手で、7七の先手玉に必死が
かかったのである。いずれの変化もぴったり、最長で100手近く、
持ち駒まで使い切って詰む。さすがは詰め将棋作家、と検討陣は感嘆した。
209 :
◆HKSeNKoUs. :03/01/08 10:04 ID:liefj2Ih
加藤は後手玉を詰めなければ負け。秒読みに追われる中、
加藤が選択したのは▲9六飛。3六の後手玉に最遠から迫る一手である。
内藤はこの飛車引きに、△7六歩の逆王手で中合い。歩合い以外では
詰んでしまうので、盤上この一手のはずであった。加藤が▲7六同飛と
応じると、そこから果てしない連続王手が始まった。
内藤が一手でも間違えれば最長65手の詰み、加藤が間違えれば不詰で
途中変化の余地はなく、両者、ほとんど10秒以内の応手が続いて7時間、
加藤の▲8六飛打ちに対する内藤の△7六歩、この逆王手中合いを
▲同飛と取ると、7時間前とまったく同一の局面が現れる。どちらも
譲ることはできず、この2000手を超えるループに再び突入となった。
すでに対局開始から24時間を突破、両者の疲労は極限かと思われたが、
一手も間違えることなく、2周目を4時間、3周目を2時間半で終えて、
4度目の△7六歩合いを打とうとしたその瞬間、内藤の手が止まった。
この歩合いに▲7六同飛と応じると、連続王手の千日手が成立して
加藤の負け。しかし△7六歩打ちは逆王手であり、この王手を避ける手は
▲7六同飛しかない。その▲同飛が許されない以上、先手に応手なし、
すなわち先手玉は詰みだから、△7六歩は打ち歩詰めであって許されない。
戻って、ループ突入前の▲9六飛車引きには、一度△8六桂の捨て合いを
入れておくのが正解であった。これを▲8六同飛と取らせておけば、先手の
▲8六飛車打ちが先に千日手を成立させるから、内藤の勝ちであった。
内藤はやむなく△7六桂合い、これは逆王手でないので、加藤は飛車を
動かさず反対側から迫り、この長い長い将棋はようやく収束に入った。
そしてさらに6時間、1800手余りを経て、加藤の頭金で内藤の玉は、
ぴったり5五の都に詰め上がった。持ち駒もぴったり使い切った完全作。
1度目の▲7六同飛から数えて、実に8101手の詰将棋であった。
変化はいずれも難解だが、加藤も内藤も見事に最善の応手を貫き、
この偉大なる詰め将棋を、実戦の盤上で完成させたのだ。
210 :
◆HKSeNKoUs. :03/01/08 10:04 ID:liefj2Ih
熱闘37時間、こうして史上最高の詰将棋作家、内藤國雄は棋界を去った。
同日には85歳の最年長棋士である有吉道夫九段も、持将棋2回、千日手1回の末、
桐山清澄九段に惜敗し、好敵手内藤と同時の引退が決まった。
同年の看寿賞は、全会一致で内藤と加藤の二人に与えられ、また同時に、
これを超える詰将棋は今後現れないだろう、という理由から、翌年以降
看寿賞を廃止することも決まった。この詰将棋は、のちの全盤面探索により
唯一無二の最長手数詰将棋であることが証明されている。
そして、この将棋に勝った加藤一二三は、その後、幾度もピンチを迎えながらも
C2に残り続け、武市三郎八段の持っていた記録をはるかに塗り替える、
39期連続C2無降級点を達成し、第117期にはC1へ昇級。以後毎年昇級を
続け、名人以外の六冠を立て続けに奪取、第121期A級順位戦にも全勝して、
最後の名人戦に臨むこととなる。
211 :
名無し名人:03/01/08 10:11 ID:Jm24PfRn
青野がしぶとく生き残る展開をキボンニュ
212 :
名無し名人:03/01/08 10:36 ID:SXT2ehy4
>>208〜210
誰か一人忘れてない?
それは、大内延介先生じゃ!
213 :
名無し名人:03/01/09 09:41 ID:7oGKHQ5P
>>208-210 前回(?)の加藤一二三作品に続く素晴らしい作品だと思います。
ところで質問なのですが、王手の中合い後相手の応手が連続王手の千日手のなってしまう場合
の打ち歩詰めは反則になるのでしょうか。実際にはありえないので規定はないかもしれませんが
気になりました。
あと、内藤が8六桂を入れなかったのがミスということなので
この詰み将棋の手数が最長手数ということはないと思うのですが。
くれぐれも言っておきますが私はHKSeNKoUs.氏のファンです。
次回作にも期待しております。
214 :
名無し名人:03/01/09 10:06 ID:6/KfKZPD
215 :
山崎渉:03/01/10 04:50 ID:Wor7h6hB
(^^)
216 :
山崎渉:03/01/10 17:12 ID:CmdZKh8R
(^^)
名人 森下
佐藤 森内 羽生 井上 青野
中村 寅彦 北浜 先崎 島
218 :
名無し名人:03/01/19 17:53 ID:iJRRmYY7
名人 加藤
中村 田中 森 福崎 高橋 南 桐山 野本 miya
桂馬を捨てると持駒が変わるから同一局面ではなくなる。千日手は成立しない。
手順前の王手は▲9六飛だったのだから、9六の地点は空いているはずで、
千日手を成立させる▲8六飛ではなく、9六から打つと、
もう捨て合いできる桂馬はなく、△7六歩しかない。
しかしこれを同飛(中略)したがってこの△7六歩は打ち歩詰め、
本手順ではそれゆえ歩の代わりに桂合いで収束に入るところ、
その桂馬すら捨て合いに使ってしまっているので、
他の駒を合い駒にするか玉が逃げて早詰め手順へ。
残念ながら以上検討の結果、△8六桂は無駄合い、例え打っても内藤先生は詰みを逃れられない、
それどころかおそらく早詰みになると判明しました。そして、この詰将棋は8103手詰めに延長されました。