【bayfm78】ビートルズから始まる。4【小林克也】

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85ポール・キロックトニー
  ・ビートルズに、リード・ボーカルは必要ない。四人みんなが、歌って演奏すれば良いんだ。こう決断したのは、ビートルズに惚れ込んで
   契約した、プロデューサーのジョージ・マーティン。いつも決まったリード・シンガーを特定せずに、曲によって歌い手が入れ替わり
   立ち代わり、真ん中に登場するというスタイルがコメディアンのレコードでずっと実験的な作業をしてきたマーティンにとっては、さほ
   ど困難なことではなかった。むしろマーティンは、それまでなかったことに熱中する、革新的な本物のクリエイターだったのである。こ
   んな歴史的にも類を見ないコンセプト固めがロンドンで行われている一方、そのことはまったく知らされていないリバプールでは、ジョン
   とポールが9月の2週に行われる、初めての本格的なレコーディング・セッションに向けて、ベストな曲作りを始めている途中であった。
   1962年当時の常識では、シンガーが同時にソングライターであることなどあり得ないことで、その逆もまたしかり。ポップスのヒット曲
   を書くのは、専門のソングライターの仕事。そういう人たちは、音楽出版社やレコード・プロデューサーに、自分の書いた曲を聴かせる
   ためのデモテープ以外には、まず自分の書いた曲を演奏することはなかった。ビートルズが最初のシングル「Love Me Do」をレコーディ
   ングしていた当時、ジョージ・マーティンは音楽出版を手がけるディック・ジェームスと仕事をしていて、マーティンはジェームスから
   プロの作曲家が書いた曲を、いくつかビートルズ用にと推薦されていた。それが、常識であった。そういった状況の中で、デビュー・シン
   グルのA面曲として、レノン・マッカートニーの書いたオリジナル曲をレコーディングさせることは、さらなる実験的な試みであり、マー
   ティンもしてみれば、普通では考えられない、寛大な決断である。しかしなぜ、それまでの慣例や常識をくつがえしてまで、マーティンは
   ビートルズをまったく新しいロックのアイドルとしてデビューさせたかったのか。その理由は、ただひとつ。マーティンが語っている。
   「それは、一目惚れだったからです。」
    〜 The Beatles / Love Me Do
    〜 The Beatles / In My Life