幼いダーニハリスンは、八歳の瞳にけなげな決心を乗せて、今、父であるジョージハリスンに向かい合っていた。
元ビートルズ、その中でももっとも哲学者でもあり、人柄もよいといわれているジョージはダーニの憧れである。いつも忙しそうでなかなか会えないけれど、会うと必ず自分を
抱きしめてくれて、一杯話しを聞いてくれる。自分の母、オリビアとの仲も良く、ダーニは自分の家が誇りだった。
しかし、たった一つだけ気がかりなのは…どうやら父は、外に出ると小さな浮気を繰り返し、オリビアを哀しませていることだった。それさえなければ完璧なのに…。たまに、
キッチンやバスルームで声をひそめて泣く母の姿を見るたび、小さなダーニの胸は痛んだ。
よし、ならば自分が意見しよう! 幼いダーニは決心した。父は大好きだ。母だって。そんな二人が傷つけあうのは見るに耐えない。ダーニは久しぶりに共に取った夕食のすぐ
後に、父の元に駆け込んだ。
「パパ、はなしがあるんだ」
「いいよダーニ、なんだい?」
「…おとこどうしのはなし、なんだ」
「なに?」
ダーニの目は真剣だった。ジョージはまだ赤ちゃんみたいに思っていたダーニの成長に、クリシュナ神への感謝の念を送った(いやだな…ww)。
「いいぞ、じゃあ地下のスタジオで話そう」
「うん」
あら、お風呂は? と尋ねてくるオリビアに「先に入っててくれ」とジョージは言いながら、意気込んで先を歩くダーニを指して、「内緒」のサインを送る。
オリビアは、「あらあら?」と微笑みながら、そんな父子を見送った。
ジョージの家は半地下になっており、その部分はスタジオ兼瞑想の場になっている。ちょっと湿った薄寒い中で、ダーニは改まってジョージと向き合う。
「どうした、ダーニ。男同士の話なんて」
彼の前で、父はどっしりと構えている。言ってはいけないことなのかもしれない。しかし、もはや黙ってみていられないダーニの幼い正義感なのだった。
「…パパ」
「うん?」
「パパは、どうして外の女の人と浮気をするの? 僕達を、ママを、本当は愛してないの?」
その質問は、ジョージの胸を突いた。
そして同時に、「愛」というものに理解をもち始めている自分の息子を、誇らしく思った。
これは、ごまかしで答えてはいけない、とジョージは側に転がっていたギターを取った。父が大事な話を纏める時、必ずギターを引きながら物事を
咀嚼することを分かっていたので、ダーニは、自分の言葉に真剣に答えてくれようとする父を頼もしく思った。
よし、まずはギターで心を統一させて、話を大まかに纏めようとジョージはギターを爪弾きだす。それは例えていうなら、「サラリー○ンNE○」のお茶の間コントで
演奏されるフォークのような旋律だった。
そして、ジョージは「心の中で」歌った ―――――ハズだ。
♪息子よ。父さんは、お母さんを傷つけたくなんかない
息子よ。お父さんは、お前や母さんを本気で愛してる
(変調)
でも、ちょっと若い頃リンゴのおじさんと遊びすぎちゃって
あの超絶快絶、ウルトラテクで開発されちゃって
彼以上の絶頂感をついつい追い求めて しまうんだよ
それは母さんやパティや、エリックがいたって、関係ないんだよー
(元に)
息子よ、お母さんに、満足できないって訳じゃない
言い換えると、母さんでも、父さんを満足させられなかったんだよ。
あの完璧鉄壁セックスマッシーンのリンゴにかかったら… 「終」♪
ここまで歌って、さてどうやって纏めようかとジョージは考えようとした。
ふと、ダーニを見ると、なんだか顔を真っ赤に染めて、ぶるぶる震えている。
「ダーニ?」
ジョージがいぶかしげに声をかけた。
「パパ…」
彼はジョージを、なんだか困ったひとに出会ったような顔で見上げていた。眉をひそめて口を震わせ、彼はやっと告げた。
「全部口に出てるよ!!!!!」
ジョージの目が点になった。
ダーニが、責める目で睨んでいる。
しばし、彼はそんな息子を見守っていたが、ギターを横に置いて、丁寧に「すいません」と頭を下げた。
ダーニは、思いっきり泣き出した。
「ダーニ、ダーニごめんよ、おいでほらだっこ」
「いやださわるなへんたい!!!!」
「おとうさんにむかって、その口はなんだ!」
「お父さんがお父さんのおともだちとヘンタイ仲間だったなんて、僕母さんになんて言えばいいのー!?」
「大丈夫、母さんも知って」(ボグッ)。
「いってえ! いいパンチ持ってるな!」
「もう誰を信じればいいんだよーーーーーーー!!!!!?????」
ダーニには、重過ぎる問題が露見したその夜は
霧の中で月がひっそりと輝いていたのだった……。
なーんてねwww。
はい、もー終わり終わり(泣)!こんなもん読ませてすいませんねえもう。
こんなネタばっかり、頭の中に揃ってるんですよ、もー!!
では、明日は挨拶しにこれるかな?
おやすみなさーいノシ 861Hedge-hog
450 :
売掛金:2009/04/30(木) 02:49:43 ID:???0
こんばんは
>> ミハイルさま
じつはモザイクが必要な一枚だったのです。なのでちょっとまずいと思い外しました。
急ごしらえの慰安の一枚でありましたので、今度何か描けたらまたUPさせて頂きますので
その時は宜しくお願い致します!
>> 861Hedge-hogさま
私のねつ造シリーズもついに12作UPさせて頂きました。しかもまだ続くという恐ろしさです。
でも最近反省してなるっべく手直ししようと思っています。GW中はその作業に追われることでしょう。
これを投下し終わったら売掛は失踪予定ですが、いずれにしましても心安らかにお過ごしくださいませ。
451 :
売掛金:2009/04/30(木) 03:13:52 ID:eJZ8UeNe0
このスレは何でちゅか?こよなくビートルズを愛するファンです。
ビートルズのスレが多いのでどれを選んだらいいか分かりましぇん。
ずっとこのレス読み続けましたが、レスってる人の話は本当の話?
このスレ以外も覗き閲覧したいのですが、詳しい方いらっしゃれば
教えてたもう。です。ここのスレもいいですね。なんか真剣にジョンて
ポールの事好きだったのじゃないかと、私も思っていました。
笑うかもしれないけど。私ビートルズヲタですから。
452 :
売掛金:2009/04/30(木) 03:18:55 ID:???0
>>451 うおお、ビックリしましたー
何故私のコテで上がってきたのでしょう。
というか、はじめまして。
もし
>>451様がこのコテを使用するのであれば私のコテを変えましょうか?
453 :
売掛金:2009/04/30(木) 04:16:42 ID:eJZ8UeNe0
>>452 初めまして。よろ祝お願いしまちゅ。
で、コテってなぁに?
>>451-453さん
ここにテンプレをもう一度載せておきます。しっかりと読んでください。
テンプレとは、スレの最低限のお約束のことです。
テンプレ
「初代スレの100くらいで1に「つかこのスレまだあったんかwww」と言われてしまったかわいそうなスレッドが、7スレ目に突入しました。(^^
ここは甲虫バンドのモララーのビデオ棚的にも、また、お好きなCPについて萌えを語り合うもよし、画像やイラスト投稿、馴れ合いもOKです。
リレー小説、その流れに関係なく自作スラッシュ投下、突然好きなカプやシチュを叫ぶもおk!皆で甲虫に萌え上がりましょう!
画像投下はこちら↓
イメぴた
ttp://imepita.jp/pc/ うpろだ
http://www9.uploader.jp/home/betles801/ ※また、このスレに投下された作品・画像(←画像、スラッシュ動画もおk?)を保管するまとめサイト(サイト名「ALL YOU NEED IS LOVE!」)も
作られる予定です。保管する際のことを考え、作品投下時はコテハンを使うことを奨励します(もちろん、名無しのままでもOKです)。
Q=海外のスラッシュ作品の和訳の投下は、OKですか?
A=二次創作とはいえ著作権がありますので、残念ですがご遠慮ください。ただし、Slash紹介・感想文は専用のスレを避難所したらばに立てようと思います。
CPに関するQ&A
Q=ここはJP以外に、GPやJRやJG、PJもしくはBJなどはだめですか?
A=いえ、どのCPでもOKです。
Q=映像やSlashはここには投下してはだめですか?
A=テンプレをご覧下さい
Q=コテは絶対ですか?
A=名無しでもOKです
また、スレは完全に s a g e 進行で御願い致します。
>>451-453さん へ。続きです。
また、コテとは「固定ハンドルネーム」のことで、これはいうならば「個人の
名前」のようなものです。
2chは匿名性を重視していますので、各スレに書き込む場合は
「名前:」のところは何も書き込みません。そうすると、そこの板特有の「名無しさん」
名義の仮の名前が付けられます(ビー板だったら大体「ホワイトアルバムさん」となります。
固定ハンドル〜では、この「名前:」のところに、自分がこのスレで名乗る名前
(私の場合は「861Hedge-hog」)を書き入れることで、ageなくてもレスを書いたのが誰なのかわかる、ということに
なります。ここはビートルズの二次創作が中心のスレですから、作品を書いた人間がわかるよう、コテを使う人が多いのです。
あなたが今やっている、「誰かと同じ固定ハンドルネーム=コテを使って書き込む」行為は、きつい言い方をすれば
「他人の名前を使って借金しようとしている」ような行為です。できれば、自分なりの固定ハンドルネーム
=コテを使うか、「名前:」の部分になにも書き込まない「「ホワイトアルバムさん」」に戻るようお願いします。
また、このスレはsage進行です。「名前:」の隣にある「E-mail (省略可) :」の部分にsage と入れてから書き込んで
下さいますようお願いいたします。
>>454 ご丁寧なご説明感謝しまちゅ。初めて聴いたビートルズの曲小学校3年生。
この曲恋に落ちたらでした。あの時ビートルズに恋に落ちたのはMEでした。
で、コテは恋に落ちたらにしましゅでしゅ。画像アップは操作方法が
解らないのでしないと思います。ウインドウ開けて観るのはできますが。
これから、よろしくお願いしまちゅ。皆様へヲタより。
最後の最後で、説教臭いこと書いちまったなあ。はあ。
でも、他人のコテハンで書き込みするのは、どこのスレでもやっちゃいけない
ことだから、その辺だけは理解してほしいっす。頼みます。
さて、
>>450「本物」の、売掛金さま。
とうとう12作ですかー。早いものですねえ。じっさい、ここのスレのすさまじい伸びっぷりに私も
つい引っ張られたところがありますよ(笑)。投下が完了したら失踪する、なんて寂しいこといわないで、
気長にやっていきましょうwww。なんったって、私、一回入院したら長いんですよ…(涙)。
2ヶ月くらいはかかるから、その間に失踪されたら寂しいなあ。
なんて、勝手なことを申しました。ごめんなさい。年取るとわがままになってなあ(またか)。
>>ミハイル様
ああ、売掛金さまのイラ、とっとくの忘れてた。削除されたんですね。ごめんなさい。
さて、861はこれから入院の準備に入ります。なんか腹の横からまだ血膿が出てきてるんだけど
キニシナイw! 病院にはパソコン持ち込めないのが辛いけど、ビーイラストとストーリーを考えて
日々を過ごしましょう。たまに携帯でこちらも読ませてもらいますー。
ああ、名残惜しい。皆様、マジでお体には気をつけて。では、行ってきます〜ノシ
458 :
ミハイル:2009/04/30(木) 11:43:09 ID:???0
本物の売掛金さん、偽者防止のために酉付けましょう
私もつけます、861さんも酉つけたほうがいいと思います;入院、いってらっしゃい;
酉テスト
ここにテンプレをもう一度載せておきます。しっかりと読んでください。
テンプレとは、スレの最低限のお約束のことです。
テンプレ
「初代スレの100くらいで1に「つかこのスレまだあったんかwww」と言われてしまったかわいそうなスレッドが、7スレ目に突入しました。(^^
ここは甲虫バンドのモララーのビデオ棚的にも、また、お好きなCPについて萌えを語り合うもよし、画像やイラスト投稿、馴れ合いもOKです。
リレー小説、その流れに関係なく自作スラッシュ投下、突然好きなカプやシチュを叫ぶもおk!皆で甲虫に萌え上がりましょう!
画像投下はこちら↓
イメぴた
ttp://imepita.jp/pc/ うpろだ
http://www9.uploader.jp/home/betles801/ ※また、このスレに投下された作品・画像(←画像、スラッシュ動画もおk?)を保管するまとめサイト(サイト名「ALL YOU NEED IS LOVE!」)も
作られる予定です。保管する際のことを考え、作品投下時はコテハンを使うことを奨励します(もちろん、名無しのままでもOKです)。
Q=海外のスラッシュ作品の和訳の投下は、OKですか?
A=二次創作とはいえ著作権がありますので、残念ですがご遠慮ください。ただし、Slash紹介・感想文は専用のスレを避難所したらばに立てようと思います。
CPに関するQ&A
Q=ここはJP以外に、GPやJRやJG、PJもしくはBJなどはだめですか?
A=いえ、どのCPでもOKです。
Q=映像やSlashはここには投下してはだめですか?
A=テンプレをご覧下さい
Q=コテは絶対ですか?
A=名無しでもOKですまた、偽者防止の為に各自酉付け推奨です
また、スレは完全に s a g e 進行で御願い致します。
売掛金様入院しましたか?今は点滴ですか?元気になったら12作の
続き待っています。お大事に。知らずにコテネーム無断使用ごめんなちゃい。
てすとさせてください
463 :
売掛金:2009/04/30(木) 20:39:57 ID:???0
こんばんは
昨夜はちょっと驚きましたが、もう大丈夫です。
トリップの件ですが、一応練習しましたが恋に落ちたらさまに御理解頂けたようですし
あまり事を荒立てたくないのでとりあえずつけない方向で、と考えています・・・
> 861Hedge-hogさま
そうなんですよ、もう12作も投下させて頂いております。
本当に多数のねつ造物を申し訳ございません、という気持ちでいっぱいです。
あとどんだけあるんだよという感じですが、ちょこちょこ手直ししていこうと思っています。
> ミハイルさま
お疲れ様でございます。こちらのスレももうすぐ500ですね。早いですね。
新たな書き手様の降臨に期待をしておりますし、特にイラストを描かれる方との
コンタクトがあれば嬉しいなと思っております。宜しくお願い致します。
薄暗いスタジオに、煙草の煙が充満している。ポールは、ある一定の場所に来るとベースのチューニングを始めた。
「よう、来たのか」ジョンはポールにわざと冷ややかな視線を向ける。そして、煙草を揉み消した。
ジョンはソファに寝そべる。
ポールは何も云わずチューニングを続けている。ジョンは彼をからかうように辛辣な言葉を向ける。
「お前、世間じゃ誰もお前の作品なんか期待してないのによく出せるよな」
「・・・」
その辛辣すぎる言葉に、ポールはちくりと胸が痛む。確かに、事実だ。けれどそれでも少しでも、期待して待っている人たちがいるかもしれない。
だからどんなに酷いバッシングをされてもこうして続けてきた。その延長で今回の映画も少しでも自分達が頑張ってる姿を見せようとポールなりに考えたのだ。
だけど、だけど――。結果とは皮肉にも何時も真実な物だ。自分の功績はイエスタディだけだという。
「知ってるか?評論家や街中の間ではお前の曲の評価、低いんだぜ?」
「知ってる・・・君もそう思ってるの?」ポールは震える声を抑えながら涙を堪えた。
「ヨーコだってお前の評価読んで笑ってたぜ」
「・・・世間では確かにそれが正しいのかもしれないけど、でも、リンダが云ってくれた。“結果が全てじゃないのよ”って」
ジョンはポールのはっきりとした意思表示に驚いたが、辛辣な攻撃を止めなかった。
「じゃあお前は期待されてもいないのにそれでも曲を出すってことか?」
ポールは小さく頷いた。そしてチューニングを終えると、ピアノに向かった。こうしていると、何故だか落ち着く。
自己のアイデンティティとは何か。
アイデンティティとレーゾンレーテルは同じことだ。
己の過去を追及する娯楽が持ち合わせることの恐怖の意味。
いやだ。いやだ。いやだ。
誰かが云った。“羊の血で洗え”と。
生贄が残酷に笑う。・・残虐パーティー。血まみれバライティ。
十字架を取り上げられたキリスト。やもめになったマリア。
神様なんていない。信じるものは救われない。
end
465 :
ミハイル:2009/04/30(木) 21:45:06 ID:???0
自虐ネタです。
>「お前、世間じゃ誰もお前の作品なんか期待してないのによく出せるよな」
ここの時点でかなり自虐してます。というか、半分自己風刺です。(苦笑
レリピーのJPです
466 :
売掛金:2009/04/30(木) 22:39:37 ID:???0
> ミハイルさま
投下お疲れ様です。
>「お前、世間じゃ誰もお前の作品なんか期待してないのによく出せるよな」
ははは、私のねつ造物のことではありませんか(泣)
スタジオって4人以外にも居るだろうよとか、一体季節は何時なんだよとか、そもそもマネージャーの名前を出せよとか
自分でも本当によく投下し続けるなと思うのですが、ひとえに自分は何も考えていないからでしょう。
楽しければいいんですよ、ええ、そう自分に言い聞かせておりますよ(涙)
ということで投下します(するんかい)
今自分のブログを整理していたのですが、「Hold Me Toght」の続きです。
今から投下する「The Night Before」、その次に投下する「Abbey Road」
そして既に投下した「Junk」という流れとなります。もう完全に脳内世界です。
「誰もお前の手淫なんて欲しくないよ」という言葉の煽りを受けつつ、ではよろしくお願い致します。
取り囲んだマスコミがいつもする質問。
「多くのティーンが、あなた達がひとつのマイクで歌う姿に性的なものを感じているとの噂についてどう思いますか?」
そう聞かれる度にジョンはニヤリを笑い、ポールの顔を見る。
マスコミは彼らどちらかの口から衝撃的な発言が出るのを今か今かと待ち構えている。
ジョンはタバコの煙を吐きながら十分な間を置き「ICCL」と答えた。
そしてジョンはガッカリしたマスコミの顔をみて満足気な顔をする。
そして決まってジョンはポールにウインクをしてみせる。すかさず無数のフラッシュがたかれた。
ポールは大袈裟な笑い声をあげる。その映像を見て、何人のティーンが失神した。
「性的なものを感じる、か」
ホテルの一室、ポールは独り言を云った。そして静かに笑った。
確かにフロントに立つ同じような身長のふたりが一本のマイクで歌う姿は実に派手だと思う。
エンジェル・フェイスと云われるポールと、不良を想わせるジョンのツーショットに興味を惹かれない者などいないだろう。
どちらが女役なのか、皆それについて論議するのが好きだった。
いつだったか、あれは何かの賞を貰った時、ジョンはわざわざステージの上でポールに抱きついてみせた。
その時のジョンの子供のような表情が忘れられない。
彼はトラブルが好きなのだ。そして、多くの人間が自分に注目していることを楽しんでいた。
おかしな噂が出れば出るほど、ジョンは興奮した。
そしてそれについて、毎朝のミーティングで身振り手振りしながら演説を打つのだ。
それをジョージが面白くなさそうに聞いている。
ポールは興味のあるような、ないような曖昧な態度をとる。
リンゴは大概新聞を読んでいる。
朝から彼がハイテンションなのは、ジョンが寝てない証拠だ。
ポールはそっとリンゴを見る。リンゴは顔も上げずに新聞を読んでいる。
その様子に気づいたジョンが嫉妬まじりに話しを続ける。
それを彼らは「聖なるミーティング」と呼んでいるのだから傑作じゃないか。
「何を考えてるのさ」
ジョンがポールの髪を引っ張った。
「別に」
その気のない答えに失望したように、ジョンは舌うちした。
ポールはジョンを見た。ジョンの顔は嫉妬と焦り、不安に歪んでいる。
いつもこうだった。ジョンは子供すぎる。そして彼はけして一人ではいれない。
いつも誰かに傍にいてもらわねば壊れてしまうだろう。それはポールの感だったが、恐らくそれは真実だった。
多くのマスコミに囲まれ、生意気に誰かが用意した台本のセリフを述べるのが彼に与えられた仕事だ。
その時彼は皆の思う「ジョン・レノン」になるのだ。
ジョンは「ジョン・レノン」を演じることについて、もう限界にきていたが、
ドラッグの力が「ジョン・レノン」の存在を継続させていた。
いつしかジョンはジョンではなくなり、巨大な「ジョン・レノン」に飲み込まれていしまっていた。
そんな彼が本当の自分と向き合えるのは、他でもない、ポールと一緒に居る時だけだった。
それを十分に承知している彼は、ジョンとの適切な距離をとることを至上の命題にしていた。
離れすぎればジョンは潰れてしまうだろう。
近づきすぎれば、ポールの心の奥底から云ってはならない言葉が顔を出す。
「ジョン、逃げろ。今すぐに!」
何度その言葉を叫ぼうとしたか判らない。今も本当はジョンにそう云ってやりたい。このままじゃお前はダメになると。
お前には向いていないと。ここはお前のいる場所じゃないと。そう、ポールはいつもジョンから目を離せなかった。
ジョンはポールにすり寄り、キスをせがんだ。
ポールは我に返り、グイとジョンの顔を押しのける。
ジョンは酷くショックを受けたような表情をし、それを悟られまいとタバコに手を伸ばした。
タバコを引き抜くジョンの手が震えている。その震えは気持ちの動転だけでないことをポールはよく知っていた。
しかし、それについてジョンと話すことはなかった。どうしょうもないのだ。どうすることもできないのだ。
ポールは感傷的になり、ジョンの背中にそっと指を這わせた。それに反応し、ジョンが振り返った。とても明るい顔。
そしてそれを見るたびにポールの気持ちはどこまでも沈むのだ。
今日は三回目のアメリカでのステージだった。
前日に、何やらこちらのお国では有名だというTVショーに出たが、
そのホストがあまり聞き慣れない発音で何やらわめき散らしている声が聞こえる。
四人はスタジアムへ続く廊下を警備員に誘導されながら進んだ。
皆お揃いのスーツを着ていたが、ジョンだけは上着の前のボタンを外すことが許された。
今日はカメラが入っているから、その方が見栄えが良いからだという。
ポールはというと、いつもよりアイメイクを入れられた。
リンゴはスタッフから頭をなでられ、それについておどけたリアクションをする。
ジョージは緊張してまったく落ち着きがない。
ジョンは…、彼は「ジョン・レノン」の顔を作っていた。
悲鳴が支配するスタジアムに躍り出る。悲鳴が一段と強くなる。
ステージに上がったメンバーは最初の音を出した。
「?」
今日はまた一段と自分の演奏する音が聞こえない。
悲惨なステージは今日に始まったことではないが、今日はまた一段と悲惨じゃないか。
それでも何とか演奏を続けなくてはならない。しかし今日はあまりに酷すぎる。
ジョンの演奏は本当にひどく、ジョージも先ほどからミスを連発している。音は聞こえなかったが、手元を見ればそれが判る。
ポールは反射的に最高の笑顔を作った。逃げ出したかった。
無意識に後退し、ポールはリンゴのいるドラムのところまで下がった。そして最高の笑顔でリンゴの顔を見た。
リンゴはいつもの愛嬌たっぷりの表情でスティックを振っていた。
ポールは笑顔を作りながら、必死にリンゴのスティックの動きを見た。
そうだ、そのリズム。ポールは音の聞こえないベースの弦を打った。リンゴの瞳は冷静だった。その瞳が云っている。
「ポーリィ、笑え」
「どうやって? リンジー。音が聞こえない!」
ポールは一瞬顔をしかめた。
「落ち着け、大丈夫だ」
今にも切れてしまいそうなリズムがなんとかつながる。
止まってはならない、リズムキープだ。
ポールはしっかり前を見据え、定位置まで戻った。
今、ポールの体にはリンゴの刻むリズムだけが支配していた。それに合わせてメロディーを奏でる。
勿論音は聞こえない。が、ポールの体にはしっかり聞こえていた。
心臓の音が高鳴る。それに合わせてリズムをとった。
ドラムのリズムとベースの音がしっかりと結びつく。一瞬ポールは倒れそうな感覚に襲われた。
そしてそれは、興奮で一気に血液が脳に運ばれたからだと判った。
今この狂気のスタジアムでリズムを支配しているのは、リンゴとポールのふたりだけだった。
しかし観客の目には、派手にシャウトするジョンと、笑顔の、いつもよりメイクされた顔のポールの姿しか映っていない。
上着の前を開けたジョンの姿はセクシーだったろう。そして今夜のポールは本当に幼い顔立ちだったろう。
観客は興奮した。そしてふたりが一本のマイクで歌わないかと、今か今かと舌舐めずりして待っている。
彼らはとにかく性的に興奮したかった。
ポールの腰にリンゴの鳴らすバスドラの音が入った。
一瞬、腰が浮いた。それに合わせて、スムーズにメロディーを奏でた。
ポールの身体が熱くなった。また、眩暈がした。もう後ろを振り向く必要はない。
リンゴの正確なリズムに乗ったポールのベースは適格なラインを描いた。
「一本のマイクで歌うあなた達の姿は実にセクシャルだ」
ふとインタビュアーのセリフが思い出され笑ってしまった。
何だって? もう一回云ってみろよ。
何がセクシャルだって? 誰がセクシャルだって? お前らは何を見てるんだ?
またリンゴのリズムがポールの腰に入る。ベースラインが下降する。ポールは思わず声を漏らした。
絡みつくようなラインでそれに応える。上昇し下降し、その間にリズムが差し込まれ、ひとつのうねりが生まれた。
ポールはその場で何度か軽くジャンプした。ワっと歓声が上がる。ポールが最高の笑顔をしたからだ。
まるでセックスだった。低音を支配する者同士の無言の公開セックスだ。
しかしその快楽に身をゆだねることが出来るのは、ふたりだけだった。ポールは興奮した。
こんな興奮ははじめてだった。今までこんなことはいくらでもあったはずなのに、どうしたことだろう。
ああきっと、アメリカっていう土地がそうさせるんだ。今この瞬間、四人は世界を制覇したのだ。
ポールは浮ついた目でベースに張り付けたセットリストを確認し、急いでジョンのマイクに走り寄った。
スタジアムの歓声が一段と大きくなった。
待ちに待ったジョンとポールによるマイク・シェアだ。
ジョンがポールの顔を見て、少しギョッとしたような表情をした。そして耳元で云った。
「おまえどうした? そんな顔して。薬でもやったか?」
ポールはリズムに跳ねながらジョンに笑顔を向けた。
今夜のポールは誰の目から見ても性的だった。
流れる汗がなおいっそう彼の魅力を増大させている。
ポールにはドラムのリズムしか聞こえていなかった。そしてそのリズムに合わせて歌った。
耳に聞こえぬベースラインがドライブし、その音が完璧なことがポールには判っていた。
ジョンは横目でポールの表情を盗み見しながら歌った。ポールは今や、完璧にリズムを乗りこなしている。
時々洩れる彼の吐息に、ジョンは生唾を飲んだ。
最後の曲を演奏し終わった四人は深々と頭を下げた。
そしてステージから降り、悲鳴をあげまくる観客に手を振りながら、スタジアム内をゆっくりと歩いた。
廊下に入った瞬間、四人は警備員にせっつかれて全力疾走しだした。
ポールはすっかりハイになっていて、今日一番足が早い。
待機した車に一番乗りしたのはポールだった。そのあとにリンゴが続いた。
車のバックシートでふたりの目が合った。
リンゴはにっこりと笑った。ポールはリンゴに抱きつきたかった。
手を伸ばそうとした瞬間、リンゴを押しのけて、ジョンが車に乗り込んできた。そしてドアを閉めた。
ジョンは車が走り出すよりも早く、ポールに抱きついた。
そしてキスを浴びせた。一瞬たじろいたポールはバックの窓から外を見た。
リンゴが笑顔で親指を立てて見せている。ポールはうれしかった。嬉しくてたまらなかった。
こんな体験ははじめてだった。
勿論ステージはこれがはじめてってわけじゃない。今まで腐るほどやってきた。
リンゴの叩くドラムの正確さに何度も助けられてきた。しかし今日は今までのそれとは違った。
今、自分は大きな成功を手に入れ、そして信じられない体験をしたのだ。
音楽は子供の頃から接してきた。楽器を演奏するのも、歌を歌うのも好きだった。
だがしかし、今日のような音楽を体験したのは初めてだった。
もっと音楽をやりたい、いや、やれる。成功は手中にある、
今ならもっともっと音楽をやれる。たくさんのスタッフと、たくさんの楽器。最高のスタジオと録音機材。
そして信じられないくらい大きなスタジアム…。これから世界が変わると思った。
去年アメリカでの成功はそれほどまでに大きいのだとマネージャーが云っていた言葉が、今、理解できた。
今ならやれる。何だってやれる。俺たちはやってやる!! くそったれ、最高だ!!!!!
「ポール!」
ジョンはポールをきつく抱いた。ポールはジョンにそれ以上の力で抱きつく。
ドライバーがバックミラーでふたりの包容を覗きこんだ。
ホテルにつくとふたりは走って部屋に入った。
そして今までしたことがないくらい、深い深いキスをした。
ポールはジョンの服を乱暴に引き裂き、そのままジョンを抱き抱え、ベッドに投げ飛ばした。
彼は未だ、スタジアムで感じたリズムラインにいた。
そしてこの先も音楽をやれるという喜び。最高だった。ポールは興奮した。そう、彼は最高の快楽を感じていた。
「…く、苦しいぜ、ポール」
顔をベッドに押し付けられ窒息寸前のジョンが呻いた。しかしその顔は嬉しそうだ。
ポールはそれ以上に嬉しそうだ。
ふたりの歯車が少しづつ狂い始めていた。
**************************************
ありがとうございました
最近多少手直ししたので、ちぐはぐ感全開ですが
それより何より相変わらず誤字脱字が凄いのがどうにかならないかと思う次第です。
では失礼いたします。
グレイト!ファンタスティック!
> 売掛金さま。
前スレから愛読しています。クールなPのFANです。「Rain」では泣いてしまいました。
一連のお話のR/Pに対して、もしかしてG/Jな展開などおありなのでしょうか?
以前G/Jのお話をされていたので気になってしまいました。
> ミハイルさま。
もしよろしければB/Jをリクエストしたいです。ビーFANになって××年来の夢なのです。
> 861さま、どうかお大事になさって下さいませ。無事の退院、お待ちしております。
スレ拝借たいへん失礼致しました。
475 :
ミハイル:2009/05/01(金) 11:23:26 ID:???0
>>474 おはようございます。ミハイルです。
あっちゃんみたいなどうしようもない女よかったら、、書きます、
のろまであんまり文書くの上手いくないの分かってて書いてるから、、
えっと、具体的にどんなストーリーがいいとかとか知りたいです、なので、、もう一度レスください
476 :
うさみん:2009/05/01(金) 16:26:57 ID:???O
> ミハイルさま。とんでもないです。前スレから密かに楽しみに拝見しております。
お話は史実の深読みのようなベタな話が好きです。ミハイルさまのご無理のない限りで…。
477 :
ミハイル:2009/05/01(金) 17:06:00 ID:???0
>>476 そういってもらえてうれしいです、、えっと、それでは、BJの史実なので、、
スペイン旅行の話でよろしいでしょうか?、
478 :
うさみん:2009/05/01(金) 17:39:23 ID:???O
> ミハイルさま。
スペインはやはり気になるところです。
とても楽しみですが、お体に負担にならぬよう願っております。
479 :
ミハイル:2009/05/01(金) 18:05:42 ID:???0
>>478 では、スペインで書きます、、
つたない文章でも楽しんでいただければうれしいです
480 :
うさみん:2009/05/01(金) 18:26:48 ID:???O
> ミハイルさま。
ありがとうございます。いつでも楽しみにお待ちしております。
ミハイルさまの耽美な世界が大好きです。
481 :
ミハイル:2009/05/01(金) 20:30:57 ID:???0
>>480 ありがとうございます!うれしいお言葉です;
耽美ばっかりでそろそろ「エロ自重」というピットサインが出されるかと心配してました^^;
でも、がんばります!ガソリン・タイヤ交換してコース上に戻りま〜す
びゅ〜ん!
482 :
ミハイル:2009/05/01(金) 22:20:44 ID:???0
あ、うみさんこれからも気軽に書き込んでください^^
ジョージとエリックの関係に友情以上のものを感じる
484 :
売掛金:2009/05/02(土) 17:48:00 ID:???0
Okay!!!!
フォトアルバムに貯め込んでいる個人的厳選ビー写真が873枚まで増えました!!!
持ってる方は何万枚単位で持っていると思うのですが、
とりあえず1000枚到達までもう少しということで頑張ります。
485 :
売掛金:2009/05/03(日) 02:41:06 ID:???0
>初書き読者うさみんさま
はじめまして、感想をありがとうございます。
御質問にありますG/J展開についてお答えいたします。
現在私が投下しているすべてのスラッシュは数年前に書かれたものです。
関連性があるようで無いような短編をつなげることで1シリーズとし、そしてもう既に完結しております。
その中にG/Jという展開はありません。上記過去モノは加筆などする予定はありますが、
G/Jエピソードを書きくわえるかは今のところ判らない、というのが正直なところです。
>恋におちたらさま
>グレイト!ファンタスティック!
ありがとうございます。
では前回の「The Night Before」の次の短編を投下します。
そしてその後「Rain」の続きである「I Want You」を投下します。
長いのでいくつかに分けて投下するかもしれません。
では宜しくお願い致します。
ステージでのふたりには華があった。
もともと長身のふたりである。一本マイクで見事なコーラスをするふたりにファンは熱狂した。
ジョン自身もこのパフォーマンスには自信があった。
ふたりの声がマイクの上で交差する瞬間が特に好きだ。
ジョンとポールはマイクを挟む時は絶対に互いの顔を見ない、そのあまりの顔の近さに噴いてしまうから。
しかしそこに相手がいることを確信できる。そしてその相手は自分にとってかけがえのないものだった。
誰もが彼らのパートナーシップを最高のものと疑わなかった。
しかしジョンは感じていた。
こんな音も聞こえない場所で音楽をやって何の意味があるのか。
ステージが終わればファンに追いかけまわされ、しまいにはホテルに缶詰めだ。
それは窮屈以外の何ものでもなかった。
確かに俺達は売れた。
でもしかし、だからといって、それにどんな意味があったのだろう。
最近のライブパフォーマンスはリンゴのドラムとポールのベースでなんとかもっているようなものだった。
以前は違った。もっと小さな箱で、メンバーの息遣いが聞こえる距離で演奏ができた。
しかし今はどうだ。
何も聞こえない。
ジョンは不安に襲われ、ポールの姿をステージ上に探した。ポールはいつも通り観客にアピールをしている。
それが彼の与えられた仕事だ。勿論それはジョンも望んだことだった。
しかし今はそれが悲しく思う。
ポール。俺のことが見えているのか。俺がいま、どんな気持ちか判っているのか。
何処を見ているんだ。俺はここにいる。
俺達はこれからどうなるんだ。おまえは不安じゃないのか?
スタジオに入ると、ポールが熱心にドラムを叩いていた。
「ポールはリンゴの仕事を奪う気?」
ジョンは冗談を云った。
「まさか」ポール。「僕のドラムは音が固いからいまいちだよ」
そう云いながらポールは熱心にドラムの練習をするのだった。ジョンはアンプに腰掛け、タバコに火をつける。
ポールは最近、ドラムやピアノ、あらゆる楽器に対して積極的だった。
自分の担当はベースなのだから、せいぜいやってもギターくらいにしたら良いものを、
それらをものすごく真面目に研究しては、あれこれと質問をし、また練習に明け暮れている。
ある日ポールに、まるでお前は音楽と結婚してるみたいだ、と冗談を云ったことがあったが、
それは冗談半分、本心半分だった。
それくらいポールが音楽や楽器に示す情熱はすさまじいものがあった。
ジョンは彼のそんな態度についていけなかった。
音楽とセックスするのも楽しいだろうさ。
でも、それよりもっと大切なものがあるのではないのか。
そうポールに云おうとして、何とか留まった。まるで自分が子供のように思えたからだ。
プロのミュージシャンなら、ポールくらいの貪欲さは当たり前だろう。
実際彼はかなり多くのレコードを聴き、多くの人に会い、そして何か新しいことをしようとしていた。
「ポールは幸せ?」ジョンはポールに尋ねた。
「ああ、幸せだよ」ポールがドラムを叩きながら返事をした。
ジョンはタバコを一口吸った。
「どさ回りしてた時と今、どっちが幸せ?」
「今に決まってるじゃないか」ポールは即答した。
「何故?」ジョンは煙を吐きながら床を見た。
「だってこんな立派なスタジオで、たくさんの機材とスタッフに囲まれながらレコーディング出来るんだよ。
幸せだよ。いろいろな楽器がただで弾けるしね。
身の回りに音楽が溢れてるって感じさ。これ以上の幸せはないね」
ポールは夢見心地で云った。
確かにそれは当たっていた。数年前のあの環境とは大きく違う。
音楽をやる者にとってこれ以上の環境はないだろう。ポールはまるで水を得た魚のようだった。
彼はスティックを置くと、今度はピアノの前に座ってジャズ風の曲を弾き始めた。
一体彼は一日に十四時間の中で、どれだけ音楽をやっているのだろう。
そして昨日よりも今日、今日よりも明日、彼は音の世界に深く潜っていく。
ジョンは悔しかった。いったい何がこんなに悔しく、寂しいのだろう。
自分だってミュージシャンであるし、彼にはポール同様、美しい声とライティングセンスがあった。
ポールより劣っていることなど何もないはずだったし、それは客観的に見ても同じだろう。
― しかし寂しかった。
ジョンは、今より、以前のどさ回りをしていた時の方が幸せだったと思う。
ステージから飛んでくるビール瓶を避けながら演奏し、酔っ払いにステージ乱入されるなんていつものこと。
アンプのコードを引き抜かれたのを合図に出演者と観客入り乱れての殴り合いになったこともあるし、
汚い手を使って相手をぶちのめしたことも数えきれないくらいある。
そして夜が明けるまで飲んで、女の尻を追いかけていた。
常に何かに餓えていたし、根拠はないけれど何だって出来る気がしていた。
それはメンバー皆が同じだったはずだ。
売れたいというのは共通の願いだったが、しかし今こうやって夢が叶い、ジョンにとってはもう充分だった。
正直、彼は以前の立ち位置に戻りたかった。
たくさんの楽器が弾けなくたっていい。色々なことを器用にこなすことなんて自分には出来ない。
出来ることはひとつ、ストレートに音を出すこと、そして歌に想いを込めて相手をぶちのめすことだけだった。
そしてそれで良かったのではと思う。
その方がずっと音楽を身近に感じられたし、孤独とは無縁だったのだから。
こんな風に思っているのは自分だけなのかしら。ポールを見ていると、彼は以前よりずっと幸せそうに見える。
それが悲しいし、悔しいのだ。
ポール、俺とおまえは同じ気持ちじゃなかったのか。
お前は不安じゃないのか。俺たちはあんなに近くで演奏していたんだぞ。
今は遠すぎやしないか。
俺には音が何一つ聞こえないんだ。
----------------------------------
では失礼致します
売掛金様
tribute!
490 :
うさみん:2009/05/03(日) 10:43:08 ID:???O
> 売掛金さま。
ご回答ありがとうございました。
一連の作品を頭の中で繋げて再生するのに夢中になっています。
繊細なジョンが好きです。これからの展開も楽しみにしています。
> ミハイルさま。
鬱陶しくならぬ程度にこれからも時々ファンコールさせて下さいませ^^
ピットクルーの一員として、これからも応援しています。
491 :
ミハイル:2009/05/03(日) 19:24:34 ID:???0
>>490 ファンコール、ぜんぜん鬱陶しくないですよ^^
むしろ病んでいる私には励みですし、うれしいです^^
私もコース上でがんばります
「ジョン?」
ポールはジョンの異変に気付いてピアノを弾くのを止めた。
そしてジョンの側に歩み寄り、アンプの上に腰掛け固まっている彼を心配そうに見下ろした。
ジョンは黙って二本目のタバコを吸っていた。
ポールはジョンの前に座った。そして彼の手をとり子供にでもするようあやした。
ジョンは思わずポールに抱きついた。
ふたりは床に倒れこんだ。
そしてポールの唇を強く求めた。
ポールはそっとジョンを引き離した。
「スタジオでこういうことはしたくない」
その言葉がジョンを傷つけた。ベッドではよくて、スタジオではダメなのか。
何故なのだろう。ここが音楽をやる場所だからか。
そんなにお前にとって音楽が大切なのか。
確かに俺達のコーラスはセックスそのものだ。
レノン=マッカで発表する曲すべてはセックスそのものだ。
でもそれだけに不安なんだ。
おまえはどんどん遠くに行ってしまうじゃないか。
お前の目には、今、何が映っている? もうこんな場所から逃げ出そうぜ。
もう充分じゃないか。もっとお前の声が聞こえる場所に行きたいんだ。
「こういうことって何だよ。同じじゃないか。俺達はいつだってセックスしてる」
ジョンはポールを睨んだ。ポールは黙っている。ジョンはまたポールにキスをした。
「同じことさ。俺達はセックスで音楽をしてるんだ」
「音楽でセックス、じゃなくて?」
「違う、セックスで音楽をしてるのさ」
ポールの手がジョンの首筋を撫でた。ジョンは尚深くキスをした。
「ジョンは素敵なことを云うね」ポールはジョンの瞳を見つめた。「本当に凄いよ」
「何だ、馬鹿にしてるのか?」ジョンは云った。
「まさか。僕はいつだって正直さ」
ポールの言葉にジョンはドキドキした。
そう、その声。俺はお前のその声が聞きたいんだ。ポールは熱っぽくジョンの瞳を見た。
「君は凄いよ」ポールはそう云うと、ジョンを強く抱き締めた。
と、スタジオのドアが開く音がしてジョンは驚いてそちらを見た。リンゴだった。
ジョンはあわてて立ち上がった。
「あ、ジョン」
リンゴはニコニコ笑いながらジョンに手を振った。
ジョンは手を振り返しながら、タバコを一本口に咥えた。
そして床に座っているポールに目で合図しようとした。
が、ポールは先ほどまでジョンに対してあれほど熱っぽい視線を投げていたのに、今はじっとピアノを見てる。
そして立ち上がり、ピアノの前に座り、また何かを弾き始めた。
リンゴはマフラーをとるとタバコに火をつけ、ドラムセットの前に座った。
そしてポールのピアノに合わせてドラムを叩き始めた。
ポールはちらりとリンゴの姿を見て、そしてまた無言でピアノ演奏を続けた。
ジョンはまたアンプに腰をかけた。
どうしてもギターを手にとる気にはなれなかった。
「リンジー?」
ジョンが席を外した隙に、ポールはリンゴに話しかけた。
「何?」リンゴは愛想よく笑った。
「僕のドラムどうだった?」
リンゴがドラムを叩くのをやめた。ポールはピアノを弾き続けた。
「まあまあかな」
「そう?」
そしてリンゴは先ほどポールが叩いていたのと同じリズムを叩いてみせた。
「最低!」ポールは吹き出した。
リンゴは笑った。
ふとガラス向こうのミキシングルームを見ると、遅刻してきたジョージがジョンに絞りあげられている姿が見えた。
「僕はこのバンドが大好きだよ。ステージで演奏するのも好きだ。
そしてこのスタジオも気に入ってる。ずっとここで四人で演奏してたいよ。
バンドは僕の宝物なんだ。ずっとこうやって四人でやっていきたい。
それが僕のたったひとつの願いなんだ」
そう云ってポールはとても幸せそうに笑った。
***********************************
ありがとうございました
494 :
売掛金:2009/05/03(日) 22:31:23 ID:???0
こんばんは。
ベタな展開にお付き合い頂きありがとうございました。
>恋に落ちたらさま
>うさみんさま
ありがとうございます。
現在メインのおふたりの体調が思わしくないということで
微力以下ではありますが、なんとか頑張ろうと思っています。
よろしくお願い致します。
次に行きます。
昨夜間違って「Rain」の続きと書いてしまったのですが、
「I Wanna Be Your Man」の続きでした。大変失礼致しました。
では宜しくお願い致します。
ポールは時々幼少の頃の自分を思い出す。
あれは何歳の頃だったろうか、当時イギリスには徴兵制があったので、
自分も類に洩れずその年齢になれば兵隊にとられ、戦場で人を殺すのだと思っていた。
クラスでは誰も口に出しはしなかったが、皆がそれを漠然と意識していた。
学校から帰り、父親に人を殺すことについて尋ねようと思ったが、徴兵制があるというのに、
当時は大人が子供にイギリスが昔戦争をしていたことについて語ることはタブーとされており、
何度かトライしたポールであったが、誰からも明快な答えは得ることは出来なかった。
しかし確実にその日はやってくるのだろう。
名前の代わりに番号で呼ばれ、そのナンバーのひとつとして人を殺し、そして自分も殺されていくのだ。
まだ見ぬ戦場。少年のポールはひとり想像を逞しくした。
クラスメイトは何かに理由をつけて残酷な遊びをした。たとえば小動物を殺すとか。
ポールは彼らがどういった気持でそれをしているのか判らなかったが、彼には明確な行動理由があった。
いつか自分がやらねばならないこと、相手を傷つけ殺すことに今から慣れておく必要があると考えていたのだ。
最初は小さなものから、そしていつか人間を殺ろう。
殺らねばならない運命なのだ。
逃れられない運命ならば、せめてその時少しでも自分を見失いたくない。
弟のマイクはそんな兄に恐怖しているようだった。
怯える彼を横目にポールは云った。
「泣いて許されるなら世話ないよ」