【bayfm78】ビートルズから始まる。3【小林克也】
・夫のジョンから勧められたギリシャ旅行から帰ってきたシンシアは、何か得体の知れない
異変を察知していた 物音一つしない家に入ると、やはり人の気配がない ジョンと息子
のジュリアンの名前を呼んでみても反応がない 恐る恐る中に入るとキッチンの先のサン
ルームにいたのは、緑と白のバスローブを着たボサボサ頭の夫、ジョン・レノンだった
ジョンはティーカップを片手にソファーに座っていた そして、その向かい側に、こちら
を背にして座っていたのは、黒いシルクの着物を羽織った、黒髪豊かな小柄な女性であった
シンシアは語っている 「いきなり、レンガの塀に突き当たったような感じでした 私
にはもう、居場所がなかったんです」 居場所がないというのは、真実だった 知らない
内にシンシアは、捨てられていたのである 長い長い沈黙を破って、ジョンが口を開いた
「やあ」 たった一言だけ言うと、落ち着き払って、煙草の煙を吐いた シンシアはすっ
かり頭が混乱してしまい、ロボットのように口をぽかんと開けると、帰りの飛行機の中で
用意していた言葉をそのまま口にした 「素敵なことを考えていたのよ 私たち、ギリシャ
で朝食を食べて、お昼はローマだったの これでロンドンに帰って、みんな揃って夕食を
食べられたら、この休日も最高ねって、三人で話していたの」 彼女は一気にまくしたてた
「いや、夕食は遠慮しとくよ」 ジョンの返事はあまりに短く、冷淡であった この時、
ヨーコが後を振り向き、自信にあふれて勝ち誇ったような視線をシンシアに投げ掛けた
シンシアは回想する 「それには唖然としました でも、不思議なことに、腹は立たなかっ
たんです ただ、完全に行く手を阻まれた感じ だから、争う気にも、何をしていたのかを
問いただす気にもならず、ただ一刻も早くここを離れたいってことだけを考えていました」
こうしてシンシアは二階にある自分の部屋の荷物をまとめ、15分後には家を後にしたのである
〜 The Beatles / She's Leaving Home
〜 The Beatles / Hey Bulldog
・ジョンの妻シンシアがギリシャ旅行から帰ると、そこにはジョンの側に横たわるオノ・ヨーコがいた
シンシアは、家を出るしかなかった 帰宅してから、たった15分後に、彼女は再びケンウッドの自宅
を離れることになったのである シンシアは語っている 「あの時のジョンの沈黙は、(この素敵な
時間を邪魔しないでくれ、さっさと消え失せろ、お前のおかげで台無しだ)とでも言ってるように思え
ました」 シンシアは、ジョンの無言の命令に従う他はなかった 一言の抗議もせずに、夫と我が家
を他の女に預け、上辺だけの付き合いに過ぎない友人二人と共に、彼女はケンウッドを後にした
この友人の一人、男性の方のアレックス、通称マジック・アレックスは、ビートルズの会社アップル
の研究員だった ジョンもこのアレックスとは特別に親しい間柄、言うなれば親友の一人だった
そしてアレックスは、一緒に旅行に行ったジェリーとロンドンに小さなアパートを共有していたため
この日の夜は、シンシアをそこに泊めてあげようということになった この夜の出来事について
ビートルズのマネージャー、ブライアン・エプスタインが最も信頼していたスタッフであり、また
ビートルズの伝記の著者でもあるピーター・ブラウンは証言している 「シンシアは、このアパート
の食卓でロウソクをともし、アレックスとワインを飲みながら遅くまでしゃべってました リバプール
時代、ロックンロールに夢中で他のどんな男の子より輝いていたジョンのこと、巡業先のハンブルグ
に陣中見舞いに行った時、ブリジッド・バルドーみたいな可愛いスカートを買ってくれた時の思い出
などなど 以前はアレックスのことなんて、インチキ呼ばわりして、まったく信用していなかったのに
この時は、胸の内を聞いてもらえる相手が無性に欲しかったんでしょう 明け方までにワインを何本も
空にしたようでした それからベッドに潜り込むと、ジョンの親友に体を預けたのです シンシアを
いう女性は、およそそういうタイプではなかったんですが、ジョンとヨーコのことが本当にショックで
きっと、やけになっていたんでしょうね」
〜 The Beatles / Girl
〜 The Beatles / A Taste of Honey
(小林)「ガール」は何度かかかりましたが、コーラスが「ティトティトティトティト...」って
「tit」っていうのは、「おっぱい」という意味で、「おっぱいおっぱいおっぱい...」
というコーラスをジョンのセンスで入っている曲であります
というわけで、ジョンとかポールとかは大変な自体になっているわけですよ
で、マジック・アレックスとカミさんが一夜を共にしてしまうわけですが、
マジック・アレックスというのは、ギリシャ系の人間で、ジョンがすごく気に入っていて
自称エンジニアで発明家で便利屋なんです だから何でもやってくれるという
何を任したかというと、アップルの地下のEMIに負けないようなスゴいスタジオを作ろう
ということで、マジック・アレックスに任せるわけですよ ところが、全然言葉ばっかりで
一億円以上かけても、結局何も出来なかったという落ちがついてるんですよね
悪いヤツなんです、マジック・アレックスというヤツは