【bayfm78】ビートルズから始まる。2【小林克也】
・NYから単身、映画の脚本を売り込みにやって来た女性コピーライター、フランシーヌ・シュワルツとポールの関係は
男と女というより、母親と息子のようになっていた
フランシーヌの言葉を借りると、ポールとはその場限りのセックスを愛の代わりにしていたということになる
そして、ある晩 ── 婚約中のお姫様女優ジェーン・アッシャーが、前もっての連絡もしないまま、演劇の公演旅行から帰ってきた
ポールをびっくりさせて喜ばせようと、思ってのことであった
ジェーンが、ポールの家の鉄の門を開けようとしたその時、ずっと家の前に張り込んでいたポールの熱狂的なファンがインターホンに向かって叫んだ
「ポール! 今、ジェーンが入っていったわよー!!」
四六時中見張っていたストーカーのようなファンの女の子たちは、ポールの家にフランシーヌがいることも、すっかりお見通しだったのである
しかし、ポールはこれをまったく信用していなかった
ポールは、インターホンに向かって、こう答えた
「君たちね、いつもいつもその程度のいたずらじゃあ、もう通用しないよ」
ジェーンは合鍵を使ってドアを開け、中に入り階段を上がっていった
いつも、開けっ放しのはずのベッドルームのドアは閉まっていた
(これは何かある)と察知したジェーンは、直感的にドアをノックした
びっくりしたポールが飛び起きてドアを開け、とっさにベッドにいるフランシーヌをジェーンに見せまいと悪あがきをした
しかし、ジェーンはすべてを見てしまったのである
これは、ジョンの最初の妻シンシアが、ギリシャ旅行から帰ってきた時に、ジョンと同じベッドに横たわっているヨーコ・オノを発見した時とまったく同じ状況だった
ジェーンは、家を出て行った
翌日、荷物を引き取りにやってきたのは、かつてポールが下宿人としてお世話になった、ジェーンの母親であった
皮肉なことに、その荷造りは、騒動を引き起こした張本人であるフランシーヌが手伝っている
こうして、5年間続いたポールとジェーンの関係は終わった
ロック史上、イギリス史上に残る、王子様とお姫様の恋物語は、悲しい幕を閉じたのである
〜 The Beatles / Yesterday
〜 The Beatles / Don't Let Me Down