蒸し焼きにされているような暑さにうなされて目が覚めた。
体を動かそうとする気力も湧かないまま、蚊帳越しに見える天井をぼんやり眺める。
(;"ゞ)「……あぢぃいいいい」
扇風機もぬるい風を送ってくるばかりで、その役割を果たしてはいない。
冷房の効いた自分の部屋が懐かしく感じる。
(;"ゞ)「ああー……顔でも洗ってくるか」
水でも被れば、少しは暑さも紛れるだろう。
なるべく早く涼しくなりたい一心で、洗面所に向かうために体を起こそうとした。
(;"ゞ)そ「あぐおおおおっ!?」
その瞬間、体中に激痛が走る。
思わず制止すると、痛みはあっという間に引いた。
(;"ゞ)「……」
(;"ゞ)「筋肉痛……だと?」
第二話 アストロノーツ
(;"ゞ)「くっ……ぬおおおおおお」
腕の痛みに耐えて引き寄せる、ぷるぷると震える箸の先に乗る焼き魚。
なんとかご飯の上に乗せると、どっと疲れが押し寄せてきた。
今日一日、こんな調子なのかと思うと気が滅入ってくる。
(`・ω・´)「デルタ、おめえ筋肉痛か?」
(;"ゞ)「あー、うん……」
(`・ω・´)「なんでえ、だらしねえな」
一方、すでに還暦を超えたじいちゃんはピンピンしている。
シャツから覗く二の腕は俺の一回りも二回りも大きい。
俺がもやしっ子なだけなんだろうけど。
(`・ω・´)「ま、今日は昼には終わるはずだからな。それまでくたばるなよ」
(;"ゞ)「頑張ってみる……あだだだっ」
返事をしながら卵焼きに手を伸ばすと、再び痛みが走る。
食べておかないと昼まで持ちそうにないし、何よりばあちゃんの料理は美味い。
どんなに痛くても、箸を止めるという選択肢はなかった。
「ここ、VIP湾では今夜1万2000発もの花火が打ち上げられる……」
たまご焼きを頬張りながら、ふとテレビに視線を移す。
キャスターがやたら高いテンションで現地からの中継をしていた。
从 ゚∀从「やっぱり都会はすごいねぇ……」
( "ゞ)「都会でもこれは特に大規模だけどね」
从 ゚∀从「ほほう……」
ばあちゃんがテレビを見つめて、しみじみと呟く。
俺が注釈すると、感心したようにゆっくりと首を縦に振る。
そして、俺の方に向き直って一言。
从 ゚∀从「デルタは行ったことあるのかい? 女の子と……でぇとなんかで」
(;"ゞ)「ぶふっ!?」
(;"ゞ)「ごっほ、いきな、り、えほっ、何言って、んぐん、るの!?」
唐突に切り出された話題に驚いて、飲み込もうとしたご飯が変なところに入ってむせた。
とりあえず、一番そばにあった味噌汁を飲んでなんとかしようとする。
从 ゚∀从「あら、行った事あるのかと思ったんだけどねぇ」
(;"ゞ)「ごめ……っほ、行った事もないし、相手も、けほっ、いない……」
咳き込みながらばあちゃんの質問に答える。
残念だけど、花火大会の日は毎年ひとりぼっちで変わらない生活を送っている。
浴衣でVIPに向かう電車に乗るカップルを見て、軽い嫉妬を覚えるのが恒例行事だ。
(;"ゞ)(なんかもう……自分で言ってて悲しくなってきた……)
咳も落ち着いてきて、もう一度テレビを見る。
相変わらずハイテンションのキャスターが、さっきよりうざったく感じる。
同時に、そんな思考に至る自分に嫌気がさした。
(;"ゞ)「はあああ……」
(`・ω・´)「女にモテねぇくらいでしょげてんじゃねえ。天気見たら畑に行くからな」
(;"ゞ)「はーい……」
「それでは全国の天気です。全国的に今日は晴れ模様の一日と……」
画面が中継からスタジオに戻って、天気予報が始まる。
ラウンジも一日中快晴のようだけど、太陽にあまり出しゃばって欲しくないのが本音だ。
「今週の天気です。ラウンジは明日の午後から天候が崩れ始め、週末まで雨が続く模様です……」
(;`・ω・´)「おう……まいったなこりゃ」
( "ゞ)「へ?」
じいちゃんが口からため息を漏らして、考え込むように顎鬚をいじる。
少し唸った後によし、と呟いて俺に向き直った。
(`・ω・´)「デルタ、明日の分も今日やっちまいたいんだが」
(;"ゞ)「……ちょっ、え?」
唐突にとんでもない事を言われて、上手く言葉が出てこない。
こんな事になるなら、出しゃばって欲しくないとか考えるんじゃなかった。
うろたえる俺を尻目に、じいちゃんは続けて話す。
(;`・ω・´)「雨が降ると腰の調子がどうも悪くてな……」
(;"ゞ)「じ、じゃあしょうがないか……」
ばつが悪そうに話すじいちゃんを目の当たりにすると、そう答えるしかなかった。
何かあっても困るし、明日に雨の中で俺だけで農作業なんて事も出来ない。
ただ、どうしても引っかかって気になってしまう事がひとつだけある。
(;"ゞ)(いつ終わるんだろう……ミセリだってずっと待ってる訳ないだろうし)
家まで来るとはいえ、何時間も待たされたら帰ってしまうだろう。
よくよく考えれば、いつ頃来るのかも決めていなかった。
(;"ゞ)「じいちゃんじいちゃん、今日っていつ頃終わるかな?」
(`・ω・´)「昼に帰ってきて飯食って休んでからもう一度……終わるのは夕方になっちまうな」
(;"ゞ)「そっか……うーん……」
(;`・ω・´)「昼に帰ってこなきゃ、もっと早く終わるだろうけど……なぁ?」
じいちゃんが何か言いたげに尋ねてくる。
言いたい事は大体分かる、俺の体力が持たないとかだろう。
悔しいけど、ご察しの通りだから何も反論は出来ない。
(;"ゞ)「それだときっと死ぬから……うん、今日やろう」
手伝いません、なんて選択肢は当然ないから、最初の計画通りにするしかない。
実はミセリが俺にベタ惚れでどんなひどい事をされても怒らない、なんて事もないだろう。
ミセリに会って開口一番、頭を下げるしか今の俺に出来る事は無かった。
(`・ω・´)「昨日も今日もわりぃな。んじゃ、さっそく行くとするか」
(;"ゞ)(どうやって謝るかな……)
(`・ω・´)「ん? 行くぞデルタ」
(;"ゞ)「はっ!? あ、うん分かったすぐ行こう、うん」
呼ばれてる事に気付いて、急いで顔を上げて返事をする。
从 ゚∀从「暑いからふたりとも気を付けるんだよ?」
(`・ω・´)「おうよ」
(;"ゞ)「んー……」
ばあちゃんの声もいまいち頭に入らないまま、じいちゃんに着いて行って居間を出る。
そのまま玄関に向かって外に出ると、爛々と光る太陽に出迎えられた。
空を見上げると、放射状に太陽の淵から伸びる日射しが眩しい。
(;"ゞ)「向日葵みたいだな……はあ」
昨日見た向日葵畑と、帰り際のミセリの笑顔を思い出す。
まるで鉛でも括りつけられたように、心臓の重さが増した気がした。
〜〜〜〜〜〜
(`・ω・´)「帰ったぞー」
从;゚∀从「おかえりなさ……あらまあ」
(; ゝ)「み……ず」
筋肉痛でうまく動かない体のせいで、作業は昨日より時間がかかる羽目になった。
しかも、今日はまだ午後に明日の分が残っている。
これじゃ雨の中で作業する方が幾分かマシな気がしてきた。
从 ゚∀从「はい、麦茶」
(; ゝ)「んぐっ……ん」
ばあちゃんが用意してくれていたらしい麦茶を受け取って、一心不乱に口をつけた。
口の中のぬめついた不快な感触が、冷たさに流されてみるみる消えていく。
息をする暇も惜しく思えて、そのまま一気に麦茶を飲み干した。
(;"ゞ)「ぷっはあああ! 生き返るうううう!」
今なら仕事終わりにビールを飲んで、思わずこう言ってしまう大人の気持ちが分かる。
まるで、生きるためのエネルギーが補給されている気分だ。
从 ゚∀从「お疲れ様。今日はお風呂入るかい?」
(;"ゞ)「えーと……ちょっと待って」
玄関に置かれた履き物をざっと見渡す。俺の靴以外は若い人が履くような物はない。
どうやら、ミセリはまだ来ていないようだった。
(;"ゞ)(あー、でも……入ってる間に来たらどうしよう)
これから女の子と会う、と考えると入っておいた方がいい気がする。
かと言って、ただでさえこっちに来てもらう手間をかけさせている立場だ。
これ以上、俺の都合でミセリを振り回すべきじゃないだろう。
(;"ゞ)「ごめん、今日もお風呂はいいや」
从 ゚∀从「そうかい、でも汗だくだと風邪引くよ? タオルでちゃんと拭いておきな?」
ばあちゃんはそれだけ言うと、麦茶の入っていたコップを持って台所へと歩いていく。
玄関に倒れ込んだまま、その後ろ姿を見えなくなるまで眺めていた。
(;"ゞ)「着替えないと……」
部屋に戻るために立ち上がろうとして、少し足元がふらつく。
なんだか頭も重いし、思っていたよりずっと疲れていたらしい。
とりあえず、縁側で麦茶でも飲んでミセリを待つ事にした。
〜〜〜〜〜〜
(*"ゞ)「ああ〜麦茶うんまい〜」
汗も拭いて着替え終わった後、台所のばあちゃんから麦茶の瓶をひとつ貰ってきた。
縁側で風鈴の音に耳を傾けながら、氷のたっぷり入ったコップに注いで飲む。
まさに夏ならではの過ごし方だ。
(*"ゞ)「麦茶さえあれば、いくらでもここで待っていられるわあ……」
さっき、じいちゃんは日射しが和らいできたら午後の仕事に行くと言っていた。
今は12時を少し過ぎた頃。ミセリを待ってる時間は2時間以上ある。
一旦コップを脇に置いて寝転がり、天井をぼんやりと眺めてみた。
( "ゞ)「……」
今日のお昼はなんだろう、ミセリに土下座したらどんな反応をするだろう。
そんな風にあれこれ考えていて、ふと何か忘れている気がした。
(;"ゞ)「……じいちゃんとばあちゃんにミセリが来る事言ってねえ」
ミセリが家の場所を知っているという事は、ふたりとミセリも面識はあるはずだ。
とはいえ、一応は来る事くらい言っておいた方がいいだろう。
( "ゞ)「えーっと、ばあちゃんは台所として……じいちゃんどこだろ?」
ふたりを探すために起き上がって、家の中に戻ろうとした時だった。
「あー、いたいたー!」
聞こえてきた女の子の声と近付いてくる足音。
二、三歩バックして縁側に戻り、身を乗り出して入り口の方を覗き見る。
ミセ*゚ー゚)リ「こんにちわー!」
俺に手を振りながら、ミセリが小走りでこっちに向かってきていた。
日射しから逃れるためなのか、昨日は首から下げていた麦わら帽子を被っている。
ミセ*゚ー゚)リ「玄関に行こうと思ったらデルタが見えたから、こっち来ちゃった」
縁側までやってきたミセリが、少し息を切らしながらそう俺に語る。
頬から顎へと一筋の汗がつたって落ちるのが見えた。
(;"ゞ)「それは全然いいんだけどさ、じいちゃんとばあちゃんにミセリが来るのを言い忘れてて」
ミセ;゚д゚)リ「え……?」
(;"ゞ)「今言ってくるからさ、悪いけどここで座って待ってて」
俺は踵を返して、再び家の中へと戻ろうとした。
ミセ;゚д゚)リ「ああああ! 待って、ストップ!」
(;"ゞ)「うおったたたたた!?」