(;"ゞ)「終わったああああああああああああああっ!!!」
タオルも軍手も放り投げて、玄関で仰向けに倒れ込む。
ほんのり背中に感じた床の冷たさもすぐに消え失せ、シャツが吸った汗の感触だけが残った。
少しだけ休んで着替えたら、急いで海岸に向かう事にしよう。
从 ゚∀从「よう働いてくれたねぇ、お疲れ様。はい、麦茶だよ」
(;"ゞ)「あっ、ばあちゃんありがと……」
天井だけが映っていた視界に、逆さまになったばあちゃんの顔が入り込んできた。
上半身を起こして持ってきてくれた麦茶に口を付ける。
働いた後の一杯だからか、出掛ける前に飲んだ物よりも何倍も美味く感じた。
( "ゞ)「俺さ、この後海岸まで行ってくる。日が暮れるまでには帰ってくるよ」
从 ゚∀从「迷子にならないように気を付けるんだよ?」
(;"ゞ)「大丈夫だよ、もうガキンチョじゃないんだから。携帯だってあるし」
从 ゚∀从「迷ったら電話くれればすぐに迎えに行くからね?」
(;"ゞ)「ははは……はーい」
俺の言った事を聞いていたのかいないのか、ばあちゃんはまだ心配そうな様子だ。
もっとも、むこうからすれば俺はいつまで経ってもガキンチョなんだろう。
( "ゞ)「じゃ、ちょっと着替えてくる」
从 ゚∀从「今はお父さんが入ってるけど、お風呂沸いてるよ。入らないのかい?」
( "ゞ)「ん……いいや。急がないといけないんだ」
正直、ゆっくり湯船に浸かっておっさんみたいな声を出して疲れを取りたい。
だけど、時間が経てば経つほどあの子が帰ってしまう確率は高くなる。
( "ゞ)「ごめんね、ばあちゃん」
从 ゚∀从「いいよいいよ、水辺だから危ないところには行かないんだよ?」
( "ゞ)「ん、分かった」
立ち上がって放り投げたタオルやらを拾い、荷物を置いた部屋へ向かう。
ばあちゃんの親切を無下にしてしまった事に、少し心が痛む。
代わりといってはなんだけど、帰ったら疲れてても何か手伝おう。
(;"ゞ)「おおう……これは洗濯機行きだな」
部屋に戻って汗だくのシャツを脱ぎ捨て、タオルで軽く体を拭く。
新しいシャツを取り出して着替えると、まとわりつくような不快感は消え失せた。
( "ゞ)「服よし、財布よし、携帯よし。元気は……あまりないけど美少女の為なら頑張れる」
考え事をしていたせいで、ここから浜辺までどれくらいかかるかは分からない。
だけど、家の前の道沿いに歩けばそのうち着くだろう。
俺の体力とひと夏の恋のチャンス、どっちが大事かは明白だ。
( "ゞ)「ま、なんとかなるだろ」
脱いだシャツを持ち、部屋を出ようと戸を開ける。
从 ゚∀从「あらぁ、もう行くの?」
すると、ちょうど目の前にばあちゃんが立っていた。
持っているお盆の上には氷入りの冷たそうな麦茶が乗っている。
どうやら俺に持ってきてくれたところのようだった。
( "ゞ)「うん、行ってくる」
そう言ってコップを掴んで麦茶を一気に飲み干し、再びお盆に戻す。
手に残る水滴の冷たさが気持ちいい。
从 ゚∀从「やっぱり子供は元気だねぇ。シャツはいいから行ってきなさい」
( "ゞ)「あ、ありがとう。んじゃ、行ってきまーす」
シャツをばあちゃんに託すと、そそくさと玄関へ向かい靴を履く。
気を付けるんだよ、と背後から聞こえた声に軽く応え、俺はまた日射しの下へと飛び出していった。
〜〜〜〜〜〜
(;"ゞ)「あー……ああ……」
息を吐く度に勝手にうめき声が漏れてくる。
変わり映えしない田園風景と暑さのせいで、完全に参ってしまった。
それでもまだ足が前へと進むのは、浜辺がすぐそこに迫っているからに他ならない。
(;"ゞ)「海よ……母なる海よお……」
あの子がいた浜辺に出るまで、あと曲がり角ひとつだ。
だんだんと潮の香りを胸一杯に吸い込む。
(;"ゞ)「俺をっ、包みこんでくれええええええっ!」
半ばヤケクソ気味に叫んで、駆けながら角を曲がっていく。
その瞬間だけ鉛の様だった体が、風になったみたいに軽くなるのを感じた。
(;"ゞ)「着いたぞ……前人未到だ……難攻不落……いや、そうでもないか」
ようやく浜辺に辿り着いた、という達成感で妙にテンションが上がる。
しかし、一面に広がる涼しげな青と白を目にして、すぐに冷静さを取り戻した。
ここに来た本来の目的であるあの子の姿を探して、辺りを見渡す。
(;"ゞ)「いるかな……? いや、いてくれ……頼む……」
ぱっと見た限りでは、砂浜には人の姿はおろか砂以外は何も存在しない。
とてもいい事だけど、俺にとってはそれじゃ困る。
(;"ゞ)(いませんでしたー☆、だったら俺ショック死しちゃうよ!?)
美少女と知り合える機会を逃して生きていられるほど、俺のハートは強くない。
もっと近くから探そうと、道から海岸に降りてあの子を探し始める。
何とか見つかってくれ、と願いながら波打ち際に沿って歩を進めた。
(;"ゞ)「……おっ?」
歩き始めて少し経った頃。
数時間前の記憶と寸分違わず。
砂浜と同じ真っ白なワンピースを着て。
ミセ*゚ー゚)リ
あの子は海を見つめていた。
(;"ゞ)(まだいた! 神は俺を見捨てていなかった!)
期待と不安が半々だった胸中が、まるで今の空模様のように晴れ渡った。
高揚感で心臓が強く脈打つのがはっきりと分かる。
(;"ゞ)(で、でもどうしよう!? どうやって声かけよう!?)
悲しいかな、こういう事に関しては経験不足だ。
普段はあまり使われない頭を、必死で回転させる。
そして、ひとつの結論に辿り着いた。
(;"ゞ)(無難にいこう、何してるんですかって普通に聞こう! うん、それがいい!)
まずは下手を打たない事を最重要課題とした。
もし最初でコケたら、そこから挽回できる気がしないからだ。
(;"ゞ)「っうん、あーあー」
軽く咳払いして、話しかける際の声のトーンを確認。
裏返ったりしたら第一印象最悪なので、入念に。
(;"ゞ)(いくぞ……いくぞ……)
ミセ*゚ー゚)リ
意を決して、一歩一歩近付いていく。
俺に気付いていないようで、あの子はまだ海を見つめたままだ。
(;"ゞ)「あ、あのー」
あと数歩の距離まで近づいても、まだ気付く気配はない。
少し不安と焦りがこみ上げてきたけど、出来るだけ平静を装って声をかけてみた。
ミセ*゚ー゚)リ
(;"ゞ)(あれれ〜? 反応がないよぉ〜?)
波の音に紛れてしまったのか、わざと無視されているのか。
実は人間じゃなくて置物なんじゃないか、というくらいに微動だにしない。
もう一歩だけ近付いて、さらに声を張って話しかけてみた。
(;"ゞ)「こんな所で何してるんですか!?」
ミセ*゚ー゚)リ「え?」
ようやく俺に気付いて、顔だけをこっちに向ける。
黒く大きな瞳から放たれる視線が、俺を真っ直ぐに射抜く。
何故かそのまま、さっきまでと同じようにぴくりとも動かなくなった。
(;"ゞ)(ん? え? 何、何これ?)
戸惑いの連続で、暑さとは違う汗が顎をつたって砂浜に落ちていく。
もしかして、俺とは違う世界に生きる人だったりするんだろうか。
もちろん危ない意味で、だ。