【必勝不敗】能代工業 十九冠目【V58】

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48バスケ大好き名無しさん
(;"ゞ)「どうすりゃいいのよ、これ……」

切符を持ったまま、太陽の照りつけるホームに佇む。
いっその事、今しがた見送った電車が戻ってくるまで待って、運転手さんに聞こうか。
そんな考えがよぎったけれど、その前に俺が干物になってアリにたかられそうだ。

(;"ゞ)「……奇跡的に誰かいないかな」

とりあえず日陰を求めて駅舎へと逃げ込む。
すると、普通なら改札がある場所に大きな箱があった。
マジックで「切符はこちら」とでかでかと書いてある。

(;"ゞ)「ふいー……焦らせんなよ」

安堵のため息が漏れて、胸が軽くなる。
切符を箱へ入れて駅舎を出ると、正面に白い軽トラが止まっていた。
そして、車内には見知った顔がふたり。

(`・ω・´)「久しぶりだな、デルタ」

从 ゚∀从「あらぁ……大きくなったわねぇ」

俺のじいちゃんと、ばあちゃんだ。




( "ゞ)「じいちゃん、ばあちゃん。久しぶり」

最後に会ったのは小学校高学年にもなってない頃だから、7年も前だ。
近付いてみると、ふたりともだいぶ白髪が増えた気がする。

(`・ω・´)「なんでえ、このワカメみてえな髪は」

(;"ゞ)「あだだだっ、じいちゃん痛いってば!」

じいちゃんがいきなり前髪を引っ張ってくる。
肉体派のじいちゃんからすれば、女みたいな髪型に見えるんだろう。
だからと言って、ムキムキの腕で引っ張られるのは勘弁願いたい。

从 ゚∀从「お父さん、これがきっと若い人の流行りなのよ。ねえ?」

(`・ω・´)「最近の奴はみんな女みてえな頭なのか?」

(;"ゞ)「ん、ああ……まあ……ね」

ばあちゃんの仲介が入って、ようやく手が離される。
最近の流行りなんて分からないけど、とりあえずそういう事にしておいた。




从 ゚∀从「デルタが来てくれて、ばあちゃん嬉しいよ」

( "ゞ)「……ごめん、ずっと来なくて」

从 ‐∀从「いいんだよ、デルタが元気でいてくれるだけで」
49バスケ大好き名無しさん:2012/12/25(火) 12:18:23.22 ID:???
ばあちゃんが俺の手を取って、両手で包み込む。
覚えているよりずっと小さくなっていて、しわも増えていた。
腰も随分と曲がってしまったように見える。

( "ゞ)「……俺、これからはなるべく来ようかなって思う」

大きくなるにつれて、中で遊ぶのがどんどん好きになっていった。
そのうち、何もない田舎のラウンジがつまらなく思えてきて、いつしか行かなくなった。
俺と相反するように小さくなってしまったふたりを見て、その事を後悔する。

从 ‐∀从「そうかい……ありがとうねえ、ありがとうねえ」

(`・ω・´)「言ったからには、ワシが死ぬまでこき使ってやるからな!」

(;"ゞ)「縁起でもない事言わないでくれよ……」

今からでも恩返しが出来るなら、するに越した事はないだろう。




从 ゚∀从「疲れたでしょう? 手伝う前に家で休んでいきなさい」

(`・ω・´)「荷物も置いていかないといけないしな」

( "ゞ)「ありがとう、そうさせてもらう」

とりあえず家に向かう事になって、車に乗ろうとする。
ドアを開けたところで、軽トラの座席がふたつしかない事に気付いた。
どう考えても三人座れるほどのスペースはない。

(;"ゞ)「じいちゃーん、これ三人も乗れないんじゃ……」

(`・ω・´)「何言ってんだ。デルタはこっちだ、ほれ」

じいちゃんが指す先へ視線を移す。
軽トラの荷台以外は、田園風景だけしかなかった。
そういえば、昔はよく乗せてもらってた気がする。

(;"ゞ)「……」

(`・ω・´)「大丈夫だ、一回も捕まった事なんてねえ」

刑法なんて知らずにはしゃいでた頃が懐かしく思える。
独りで車の後を走るわけにもいかず、バッグを先に乗せてから荷台によじ登る。
車内を覗くとじいちゃんと目が合って、それを合図に車は走り出した。




(;"ゞ)「あだっだだだだっだだ」

舗装されていない道は激しく揺れて、その度に尻が跳ねあげられて痛い。
肌に感じる風は涼しいけど、直射日光が見事に相殺してくれやがっている。

(;"ゞ)(俺の尻が割れる……いや、砕ける前に着きますように……)

必死で揺れに耐えているうちに、潮の匂いがしてくる。
前方を覗きこむと、電車から見えた海と砂浜が広がっていた。
海岸線の道は舗装されていて、海を横目に走り始めると揺れが収まる。
50バスケ大好き名無しさん:2012/12/25(火) 12:19:10.26 ID:???
( "ゞ)「ふう……」

やっと落ち着く事が出来て、景色を楽しむ余裕が出てきた。
不規則に揺れる水面が綺羅綺羅と輝いて、有無を言わさずに心を奪われる。

( "ゞ)「……ん?」

視界の隅にちらり、と白い何か砂浜に転がっているのが見えた。
目を向けると、それは砂浜の色ではなく、雲の色を映したような純白。
車が近付くにつれて、姿形がはっきりしてくる。




( "ゞ)「人か……」

謎の物体の正体は、白い服を着た座っている人だった。
麦わら帽子を背中にぶら下げて、海を見つめたまま動かない。
顔は見えないけど、服がワンピースという事は女性のようだ。

( "ゞ)(こっち向かないかな……)

もしかしたら可愛い女の子で、ひと夏の恋に落ちるかもしれない。
淡い期待を抱きつつも、こっちを振り向かないまま車は進んでいく。
そして、いよいよ通り過ぎてしまう時になって。



( "ゞ)そ(おっ!!)


想いが通じたのか、車の音に反応しただけなのか。



ミセ*゚ー゚)リ



ショートカットの黒髪をなびかせて、彼女は振り向いた。





(;"ゞ)(うおっ、どストライク!!)

顔つきは幼さが残っていて、俺と同い年か少し年下に見えた。
小動物の様なくりくりとした黒く大きな瞳が可愛らしい。
飾り気はないけど、磨けば光りそうな美少女の原石とでも言えばいいだろうか。

ミセ;゚д゚)リ「!!」

(;"ゞ)(立った!? てか、ばっちり見られてる!?)

おもむろに立ち上がった女の子は、明らかにこっちを、俺を見ていた。
離れていても互いの視線が絡み合っているのがはっきり分かる。
この距離で見つめ合うなんて異常だとは思いつつも、目を逸らせない。
51バスケ大好き名無しさん:2012/12/25(火) 12:19:47.69 ID:???
ミセ;゚ー゚)リ

(;"ゞ)(ああ……美少女が離れていく……)

女の子は車に向かって二、三歩だけ足を踏み出す。
その間にも俺の体はどんどん彼方へ運ばれていって、ついには海からも離れていく。
やがて、白い点になった女の子は曲がり角の向こうに消えていった。




( "ゞ)(何だったんだろう、あの子)

考えれば考えるほど、不思議な点が出てくる。
俺は見ず知らずの女の子に一目惚れされるくらい顔がいい訳でもない。
かといって、こっちに同い年くらいの知り合いがいた記憶もない。

(;"ゞ)(美的感覚がおかしいとか、俺が馬鹿だから忘れてたり……)

理由をこじつけようにも、ご都合主義な発想ばかりが頭の中をぐるぐる廻る。
ゲームやアニメでしか見た事が無いものばかりで、自分で考えていて馬鹿馬鹿しくなってきた。

(;"ゞ)「ああー、もう分かんね」

もやもやした頭の中身の捌け口を求めて空を仰ぐ。
狭まった視界を埋め尽くす入道雲の色は、あの子のワンピースの色だった。

(*"ゞ)(ちょっとしか見えなかったけど……可愛すぎだろあれは)

鮮明に脳裏に焼き付いたあの子の姿が蘇ってくる。

(*"ゞ)「……うへへっ」

つい口角が上がって、吐息と共に気持ち悪い笑い声が漏れた。




(;"ゞ)「んなあっ!?」

突然、意思と関係なく体が後方に投げ出される。
水中に浮かんでいるような感覚を覚えた後、にぶい音がして後頭部を激痛が襲った。

::(; ゝ)::「お、あ、ああ……」

酸欠の金魚みたいにぱくぱくと開く口からは、勝手に声にならない声が出る。
涙で視界が滲んで、見える物すべてから輪郭が消え失せる。
ぶつけた部分にそっと触れると、針で刺したような痛みが走った。

(`・ω・´)「着いたぞデルタ……って何してんだおめぇは」

車のドアが開く音がして、じいちゃんの素っ頓狂な声がした。
物思いにふけっていて気付かなかったけど、どうやら家に着いたらしい。

(;"ゞ)「いきなりブレーキかけないでくれよ……」

(`・ω・´)「ちゃんと座ってねぇお前が悪い!!」

陳情をあっさりとかわしたじいちゃんは、そそくさと家へと歩いていく。
俺も涙を拭うと、鞄と一緒に荷台から飛び降り、小走りでじいちゃんを追いかけた。