電車がトンネルの中に入って、どれくらい経っただろう。
突然、ずっと黒一色だった視界が真っ白に染まった。
(;"ゞ)「っ!!」
反射的に閉じた瞼はどこか赤っぽく、顔には逃げ出したくなるほどの熱さを覚える。
少しだけ目を開けると、鮮やかな新緑と俺の前髪が見えた。
上から注がれる日射しを手で遮って、細めていた目をぱっちりと開く。
( "ゞ)「おお……」
目に飛び込んできたのは、はるか遠くまで広がっている向日葵の絨毯。
青空に浮かぶ入道雲は、ひとつひとつが宙に浮かぶ城でも入っていそうなほど大きい。
だけど、何よりも俺の目を釘付けにしたのは、
( "ゞ)「俺、沖縄まで来ちゃったのかな……」
向日葵畑の向こうで綺羅綺羅と輝く、空の色を映したような海だった。
( "ゞ)は夏を待っているようです
第一話 ワン・サマーガール
照りつける太陽の暑さに耐えきれなくなって、反対側の席へ避難する。
直射日光が射さない分だけ、暑いけれどまだマシだ。
金網の上に旅行バッグを置いたままだけど、取りに戻る気力が湧く気がしない。
( "ゞ)「駅に着いてからでいっか……」
手もとの時計に目をやると、もうすぐ1時になろうとしていた。
事前に調べた時刻表によれば、そろそろ駅に着く時間だ。
そして、本当なら冷房の効いた自分の部屋でぐうたらしている時間でもある。
(;"ゞ)「冷房とか……あるわけねぇよな……」
海に入るだけで、山を見るだけで涼しくなれたらどれだけよかっただろう。
だけど、それが可能なら冷房が作られるはずがない。
しばらくお預けになるであろう涼しさを思い出すと、勝手にため息が漏れてきた。
(;"ゞ)「かと言って、じいちゃんとばあちゃんほっとけないしなあ……」
都会生活に慣れてすっかりクーラー病の俺が、なんで真夏の田舎に向かっているのか。
これにはもちろん、それ相応の理由がある。
――――――
『はーい、分かった。お盆にでもそっちに行かせるわ。
じゃあ、体に気を付けてね。ばいばい』
( "ゞ)『かあさーん、今日の夕飯なに?』
『あら、デルタ。ちょうどよかったわ』
(;"ゞ)(やべ、これ買い物頼まれるパターンだ)
(;"ゞ)『ん、なに?』
『お盆休みにね、おじいちゃんの所に行って欲しいの』
(;"ゞ)『なんで?』
『おじいちゃん最近腰が悪いらしくって、畑仕事手伝って欲しいんだって』
(;"ゞ)『えぇー……』
『デルタも小学校くらいからずっと行ってないでしょ?』
(;"ゞ)『まあ、そうだけどさ……』
『どうせ家でゴロゴロしてるだけなんだし、行ってきなさい』
(;"ゞ)『ぐっ……分かったよ』
――――――
(;"ゞ)「……はあ」
ただの手伝いならともかく、体を悪くしたとあっては行かない訳にはいかない。
数少ない友達から誘われたプールも断って、きつい農作業をしに行く事になった。
今頃、友達は水着の女の子を眺めてると思うと帰りたくなってくる。
「次は〜ラウンジ〜、ラウンジ。お出口は左側で〜す」
前のアナウンスからどれくらい経っただろう、ようやく目的地の名前が呼ばれる。
窓から前を覗くと、小さく茶色い建物が見えた。
小さい頃に探検と称して侵入していた、家の近くの廃屋を思い出す。
(;"ゞ)「無人駅だったらどうしよう……切符どうすればいいか分からねえ……」
不安と憂鬱で重くなった腰を上げる。
向かいの金網に乗せたバッグを下ろした時、流れる景色が止まった。
背後でドアの開く音がして振り返ると、誰もいないホームが広がっていた。
(;"ゞ)「……無人駅だ」
とりあえず降りたけど、人どころか蝉の死骸すらない。
嫌な予感ほどよく当たるのは本当らしい。