僕は思わず、ずっと言えなかった言葉を口にしていた。
そこにみんながいることも忘れて。
彼女は一瞬キョトンとした後、顔を真っ赤にしてパニクっていた。
一通りパニクった後、彼女は急にしおらしくなって、僕の問いかけに頷いてくれた。
嬉しさのあまり、僕は彼女を抱きしめてしまった。
殴られるかと思ったが、その時だけは全く抵抗されなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(-A`)「むにゃ……んあ?」
なにか美味しそうな匂いがして、ドクオは目を覚ました。
寝ぼけ眼をこすり、大きなあくびをしながら起き上がる。
時刻はまだ5時だった。
('A`)(そうだ。昨夜はブーンの家に泊まったんだ)
だんだんと頭が冴えてきて、昨夜の事を思い出す。
遅くまで仕事をしていたブーンを心配して、クーも残ると言ったのだが、
ドクオが半ば無理矢理家に帰して、その後自分も床についたのだ。
( ^ω^)「お、ドクオ。起こしちゃったかお」
('A`)「ブーン、早いな……って今日は6時から仕事か」
( ^ω^)「これ、デレのお弁当だお。渡しておいてくれお」
可愛らしいデザインの弁当箱を指差してブーンはそう言った。
すでに作業服に着替えており、鞄も玄関口に置いてあるので、もう仕事へ行く準備は出来ているようだ。
( ^ω^)「じゃあドクオ、デレの事頼んだお」
('A`)「あ、おい……」
言うが早いか、ブーンは荷物を持ってさっさと部屋を出て行ってしまった。
部屋に一人残されたドクオはポリポリと頭を書きながら部屋のカーテンを捲り、外を見る。
まだ日は昇っておらず、東の空がうっすらと明るくなっている程度だった。
デレはまだ寝ているようで、ドクオも二度寝しようと布団に潜りこんだが、すっかり目が冴えてしまって眠れそうにはなかった。
('A`)「……そういやブーンの奴、朝飯食ったのかなぁ」
昨日昼も夜も食べてないのだから相当腹を空かせているはずだ。
そんな状態で朝食を抜くとは考えられないことではあるが。
('A`)(でも、ブーンは昨日から様子がおかしかったしな……)
昨夜、布団に入ってすぐに眠ってしまったあたり、かなり疲れていたのだろう。
だがそれでも、昨夜のブーンの行動には違和感があった。
夕飯を食べるようクーが言ったのにブーンはそれを聞かなかった。
遠慮した、と言うより頑なに拒んだような感じで……。
('A`)(何やってんだあいつ。もう自分一人の体じゃねぇんだぞ……)
ドクオはふと、ブーンの父親の事を思い出した。
父一人子一人……今のブーンと同じような環境で生きていた人のことを。
何度か顔を合わせたことはあった。
痩せこけていたが、いつも明るい笑顔を浮かべていた。
……そして、疲れのせいか倒れてくる機材に気づかずそのまま下敷きになり、死んでしまった。
ブーンの父の葬儀には、もちろんドクオも参加した。
その時のブーンの顔をドクオは今も覚えている。
( ^ω^)
ブーンは笑っていた。
父の遺影を見つめて。
いつものような明るさや暖かさのない、壊れたピエロのような笑顔。
……今のブーンの笑顔。
ドクオは、ブーンに声をかけることが出来なかった。
クーも同様だ。
なんと声をかければいいかわからないという面もあったが、単純に声をかけることが憚られるような気がした。
ツンもその日は一言も喋ることはなかった。
それでも、彼女はずっとブーンの隣にいた。
みんなが解散しても、その場に留まるブーンにずっと付いてやっていた。
……ツンだけが、傷ついたブーンの心を癒すことが出来たのだろう。
('A`)(ツンは……いつもブーンの心の支えだったんだな)
布団から起きあがると、ドクオはツンの写真の前に立った。
そして写真の中の彼女に語りかける。
('A`)「なぁツン。やっぱり、今のブーンを助けられるのはお前だけなのかな」
当然、返事はない。
何故、彼女は死んでしまったのだろう。
もし彼女が生きていたら……。
('A`)「……ごめんな。情けない友達でよ」
('A`)「っと……。こんな事言ってたらお前に殴られちまうな」
死んでしまった者は、もう帰って来ない。
……生きている者でどうにかするしかないのだ。
('A`)(……でも、俺は何もできちゃいない。……何も出来ない)
('A`)(中学までの俺と同じ……。ブーンがいなきゃ何も出来なかった)
('A`)(俺は……一人じゃ何も出来ないのか)
窓の外に雀が一羽舞い降りてくる。
チチチ、と小さくさえずると、すぐに飛んでいってしまった。
時計の針は中々進まない。
ここまでの時間はあっという間に過ぎて行ったのに。
デレが起きてくるまで、こんな情けない気分でいなきゃならないなんて。
そう考えると、自然ため息がこぼれた。
('A`)(デレはまだ寝てるよな……)
隣の部屋を確認しようと、戸に手をかけた時だった。
ドクオが手に力を込めるより早く、戸が勝手に開いた。
(;'A`)「おわっ!?」
゚。ζ(ぅー`*ζ「んー……?」
開いた戸の先ではデレが寝ぼけ眼を擦りながら立っていた。
二本足で立ってはいるが、ちゃんと起きているかは怪しい。
(;'A`)「デレ……?どうした、まだ起きるには早いぞ?」
゚。ζ(´ー`*ζ「……おしっこ」
(;'A`)「え?あ、ああ何だ。トイレか……って待て待て!そっちはベランダだ!トイレはこっちだろが!」
゚。ζ(´ー`*ζ「むー……?」
(;'A`)「ほらほら、こっちこっち」
゚。ζ(´д`*ζ「ふひゃー……」
寝ぼけるデレをなんとかトイレまで連れて行って、ドクオはまたため息をついた。
……だが、何故か先ほどよりも気分は晴れていた。
(;'A`)「まったく……。こういう所は歳相応だな」