最終的にそこに残ったのは、僕と彼女だけだった。
とりあえず家に戻ったものの、迎えてくれる人はもういない。
いつも笑顔でいた、優しくて強い父は、もういないのだ。
そう実感すると、悲しくて、苦しくて、涙が溢れそうになった。
「今日だけは、泣いてもいいかお?」
彼女が無言で、小さく頷いたのを視界の端で確認してから、僕は泣いた。
声を上げてわんわんと。
彼女は終始無言だったけれど、強く僕を抱きしめてくれた。
痛いくらいに、強く。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ζ(-、-*ζ「すー……すー……」
家に戻り、少し遊んだらデレは眠ってしまった。
ドクオはデレに布団をかけると、ただ何をするでも無く窓から外を眺めていた。
('A`)「あまりいい眺めじゃねぇな……」
街の外れにある小さなアパートだ。
立地条件もそういい物ではない。
窓の近くの棚に手を置こうとして、一枚の写真に気がついた。
そこには今は亡きツンが写っていた。
その横に少し太い腕が半分写り込んでいるが、きっとブーンだろう。
('A`)「この写真のブーンは、きっと笑ってんだろうなぁ」
ドクオもブーンの笑顔は好きだった。
小、中学とロクに友達も作れず、ひねくれていたドクオにしつこく話しかけてきたのがブーンだ。
ドクオが無視を決めこんでも、ブーンはしつこく、笑いながら話しかけてきた。
最初はおちょくられているんだろうと思っていたが、だんだんとそうでは無いことがわかった。
('A`)「……で、気が付いたらブーンにツン、クーと仲良くなってたんだな」
これからの人生はずっと孤独なのだろうと思っていたドクオにとって、ブーンは恩人のようなものだ。
それゆえに、最近のブーンの様子を心配していた。
それに対して、多少なりの憤りも感じていた。
今日のトラブルについては仕方がない。
だが、どうもブーンは普段から働きづめのように思える。
('A`)(デレを迎えに行くために6時には仕事を終えているみたいだが……)
労働の時間だけで見れば、そう気にすることはないだろう。
だが、家事と仕事も両立させ、まともに休みを取らない生活で果たして体は持つのだろうか。
ドクオ自身、ブーンに言ってやりたいことは山ほどあった。
しかし、ドクオには何も言えなかった。
十年以上付き合っている友人だ。
ブーンがどんな気持ちなのかを理解できないわけがない。
だからこそ、何もできず、何も言えない状態が続いていた。
何を言う?
何と言う?
壊れた笑顔を浮かべるブーンに、なんと声をかければいい?
('A`)「なあ、ツン。俺に何ができるかなぁ」
写真に向かって語りかけても、返事はなかった。
写真の中の彼女は、照れ笑いを隠そうとしながら、それでも幸せそうな表情でいた。
('A`)「……この写真のブーンは、きっと笑ってんだろうなぁ」
二度目の呟き。
きっとブーンは、彼女の隣で、昔のような笑顔でいるのだろう。
('A`)(―――デレは……)
そういえばデレは、ブーンの笑顔を見たことがあるのだろうか。
ピエロのような壊れた物ではなく、周りの人を幸せにさせるような、あの笑顔を。
ζ(-、-*ζ「……ゅむ……すー……」
('A`)(……もしかしたら、ブーンから一番離れたとこにいるのかもな)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
中高一貫の学校だったから、高校へは無事に進学できた。
みんなも、同じ高校へ進学した。
クーなんかは頭が良かったからもっといい高校に行けただろうに、わざわざ同じ高校に来たのだ。