【必勝不敗】能代工業 十九冠目【V58】

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175バスケ大好き名無しさん
( ゝ;)「……寂しいなら、最初からそう言えよな」

ミセ*゚ー゚)リ「……ありがと、そういうところ大好きだよ」

口では強がってみせても、どうしても視界が滲んでしまう。
泣き出しそうな空の下で、泣き出しそうな俺を見てミセリは微笑む。
嬉しいはずの言葉も、今は涙腺を刺激するだけだ。

ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ、もう行くね」

( ゝ;)「うん……」

ミセ*゚ー゚)リ「ほんとに色々ありがと、楽しかった」

( ゝ;)「うん……」

ミセ* ー )リ「うん、以外に何か言いたい事あるでしょ?」

( ;ゝ;)「う……ん……」


ミセ* ー )リ「あはは……変なの」

本当は言いたいことが山ほどあった。
だけど、一度口を開いてしまえば大声で泣き出してしまいそうで。
もう泣いているのに、これ以上泣かないように堪えるので精一杯だった。

ミセ* ー )リ「……デルタ、応えてくれなくていいから、聞いてて?」

ミセリの指が俺の頬に触れて、涙を拭う動きを見せる。
感触は、ない。

ミセ* ー )リ「毎年『今年は会いたいな』って思いながら待ってた」

俺の胸元へ視線を落として、短い前髪でミセリの目元が隠れた。
何故か通り抜けずにもう片方の手に持たれていた、向日葵が腕に触れる。

ミセ* ー )リ「でもね、それが『また明日会いたいな』になるなんて考えた事もなかったから」

ミセ* ー )リ「すっごく嬉しかったし、楽しかった」

自分のすすり泣く声がうるさくて、息を止める。
初めて会った時に鼓動を高鳴らせた、ミセリの髪の匂いはしない。

ミセ* ー )リ「夢っていうか……未練が叶ったし」

ミセ* ー )リ「でもね……でもね、あたし」

流暢に話していたミセリが言葉に詰まり、顔を上げた。
176バスケ大好き名無しさん:2013/01/03(木) 23:33:46.39 ID:???
ミセ*;ー;)リ「……こんな時になっても『また明日会いたいな』って、思っちゃってる」

















( ;ゝ;)「ミ……セリぃ……」

泣きながらくしゃくしゃの笑顔を浮かべるミセリが目に入った瞬間。
耐えきれずに一気に溢れだした涙をせき止めようと、固く瞼を閉じてしまった。
それでも止まるはずはなく、僅かな隙間から漏れだしてくる。

「……デルタぁ」

鼻をすする音が聞こえて、ミセリは濡れた声で俺の名前を呼んだ。
知らない誰かの手で塞がれたみたいに、瞼は開いてくれない。
泣くまい、というすでに意味を無くした意地が、頑なに存在を証明しようとしていた。

「……ばいばい」

向日葵が一際強く、押し付けられる。

「……大好き」

何かが体を通り抜けていったような気がして。

支えを失った向日葵が、腕を撫でるように落ちていって。

ぱさり、と地面を力なく叩く音がした。



泣き疲れてしまうまで、瞼を開く事は叶わなかった。

〜〜〜〜〜〜

  _
( ゚∀゚)「……で?」

(;"ゞ)「へ? も、もう終わりだけど……」
177バスケ大好き名無しさん:2013/01/03(木) 23:34:17.13 ID:???
ふーん、とつまらなさげに唸って、ジョルジュは残っていたビールを一気に飲み干した。
成人してからしょっちゅう酒に付き合わされてるけど、こいつの飲みっぷりにはいつも感心するばかりだ。
  _
( ゚∀゚)「その子が生まれ変わった、とかねーの?」

(;"ゞ)「そんな事あるわけないだろ……」

あの17歳の夏から、もうすぐ4年が経とうとしている。
残念ながらというか、当たり前というか、その間に生まれ変わったミセリと再会なんてことはなく。
あんなに現実離れした出来事なんてなかったみたいに、ごくごく普通の人生を送ってきた。
  _
( ゚∀゚)「……なーんだ」

(;"ゞ)「ていうかさ……お前、マジで信じてるの?」

信じてもらえないだろうと思っていたし、今まで誰にも話した事はなかった。
今日、初めて話したのは酒の力とジョルジュのしつこい詮索にギブアップしたからだ。
それでも、嘘だと思われて流されるのが関の山だと思っていた。

  _
( ゚∀゚)「ん? 嘘だったのか?」

(;"ゞ)「いや、本当だけど……まさか信じるとは思わなくて……」
  _
( ゚∀゚)「ま、最初は確かにうさんくせえとは思ったけどよ」

(;"ゞ)「あだっ!」

何故か肩をぱん、と叩かれる。
酔っているせいか、加減がされていなくて痛い。
  _
( ‐∀‐)「ありえない、って思ってるような事ってのはさ」

そのまま肩に手を回されて、ジョルジュの顔が間近まで迫る。
絵に描いたみたいに面倒くさい酔っぱらいの絡み方だ。

( "ゞ)「うん」
  _
( ‐∀‐)「見た事が無いだけで、きっと普通に起こるんだよ」

ジョルジュはそう言うと、ひとりで勝手に納得したように何度も頷いた。
きっと、俺以外には酔っぱらいのたわごとにしか聞こえないんだろう。
俺だってジョルジュが語り始めるまで、適当に聞き流そうと思っていたくらいだ。


( "ゞ)「……そう、なのかな」

だけど、何故かその言葉にはとても真実味があるように思えた。
俺もほろ酔いだから、ちゃんとした判断が出来ていないと言われればそれまでだけど。
  _
( ゚∀゚)「そうなんだよ、絶対そうだ」

(;"ゞ)「なんでそんなに自信たっぷりなんだよ……」

聞いてて呆れるくらいに自信満々に宣言するジョルジュ。
一体どこからその自身が湧いてくるのか、是非とも知りたかった。
  _
( ‐∀‐)「……根拠は目撃談、ってとこだな」

( "ゞ)「へえ……どんな事があったの?」
178バスケ大好き名無しさん:2013/01/03(木) 23:34:51.66 ID:???
ジョルジュが思わせぶりに俺を見つめた。
酔っぱらいたちの喧騒だけが聞こえる、無言の時間が数瞬流れる。
呼吸するのを思い出したように息を飲んだ時、ジョルジュがゆっくりと口を開いた。
  _
( ゚∀゚)「……それは内緒だ!」

(;"ゞ)「はあ!? 思わせぶりにしといてそれかよ!?」

  _
( ゚∀゚)「ま、それは置いといて飲み直そうぜ。いい感じに酔ってたのに醒めてきちまった」

そう言ってジョルジュは何事もなかったみたいに、通りがかった店員を呼び止める。
俺が見る限り、酔いが醒めてきている様にはまったく見えない。
それよりも、俺にばかり話させて自分はだんまりとはいい度胸だ。

(;"ゞ)「お前あんだけ飲んどいてまだ……ていうか俺の話を聞け!」
  _
( ゚∀゚)「それはまた気分が乗ってきたらな。あ、ビールふたつ。ジョッキで」

(;"ゞ)「うおおおい! もう無理だよ腹パンパンだよ!!」

やっぱり無視された挙句、さらりと俺の分も注文されて急いで止めようとする。
だけど、店員はすでに小走りで去ってしまった後だった。
  _
( ゚∀゚)「ひとりで飲んだって楽しいわけないだろ。続きが聞きたきゃ付き合ってくれよ。な?」

(;"ゞ)「……」

ため息交じりで背中を向けて遠ざかっていく店員を見つめる。
ジョルジュの誘いの声と共に視界の隅で金髪が揺れて、今度は優しめに肩を叩かれた。

(;"ゞ)「……嘘じゃないだろうな?」

一応トイレの位置を確認して、視線を戻す。
健康的に明日を過ごすのは諦めた方がいいだろう、と思った。

〜〜〜〜〜〜


(;"ゞ)「ああ……ふわふわする……」

体と世界の境界線が曖昧になった感覚の中、足をひたすら前へと進める。
靴底がアスファルトを少しだけ噛むたびに、ゆったりと景色が背後へ流れていった。

(;"ゞ)「結局はぐらかしやがって……あんにゃろ」

あれからしばらく飲み続けたが、ジョルジュは何を聞いてもはぐらかしてばかりだった。
たった今、もう一軒付き合ってくれれば教えてやる、と言われて愛想を尽かし、別れてきたところだ。
足取りが若干怪しいと自分でも思うし、どっちにしろこれ以上付き合う気はなかった。

( "ゞ)「おっ」

等間隔に置かれた街灯だけに照らされた住宅街に差し掛かった。
その光が届かない隙間を埋めるように、ぽつりと佇む自販機が目に入る。
喉も乾いているし、水の一本でも買って飲みながら帰る事にした。

(;"ゞ)「んー、小銭小銭」
179バスケ大好き名無しさん:2013/01/03(木) 23:35:22.44 ID:???
近くで直視するには目が眩む、自販機の真っ白な光をあてにして財布の中を引っかき回す。
こんな時に限って1000円札はなく、硬貨は10円玉ばかりだ。
手もとがおぼつかなくて硬貨が上手く取り出せず、だんだんもどかしさが溢れてくる。


(;"ゞ)「あっ……あー」

端の方に窮屈に収まっていた一枚を取ろうとした時だった。
せっかく取りだした硬貨が、指の間から全部すり抜けて落ちてしまった。
はっとした瞬間にはもう遅く、俺を中心にして金属音が四方八方に散らばっていく。

(;"ゞ)「ちっくしょ、なんで水買うだけでこんな苦労を……はあ」

ため息を吐きつつ足下に残っていた数枚を拾うが、明らかにさっきより少ない。
自販機の明かりの届く範囲を見渡してみても、足元は薄暗くてはっきりと確認は出来なかった。

(;"ゞ)「えー、どこだ?」

携帯のライトを付け、腰を曲げて地面を凝視しながら一歩一歩進んでいく。
たかが数十円の為にここまでしているところなんて、知り合いにはとても見せられない。
金額を意識するとますます気分が落ち込んできて、吐息が勝手にため息に変わってしまう。

(;"ゞ)「あとはえーと、一枚か」

幸いにも、探し始めてすぐに何枚か見つける事が出来た。
ただ、最後の一枚がどこを探しても見つからない。
遠くに転がっていってしまった可能性を考えて、真っ暗な場所まで足を運んでみる。


(;"ゞ)「うーん……おお?」

道の端に沿って少し歩いた場所にあった、排水溝の穴のすぐ横。
ライトの光を反射して、茶色にきらめく硬貨が転がっていた。
うっかり弾いて穴に落としてしまわないように、慎重に拾い上げる。

(;"ゞ)「ふう、こりゃラッキーだったな……」

ライトに照らされた右手を開くと、十枚揃った硬貨がちゃり、と音を立てた。
胸を撫で下ろして、念入りに力を込めて握りしめる。

( "ゞ)「……?」

手のひらの向こう側に、何か細長いものがぼんやりと見えた。
ライトを向けてゆっくりと顔を上げて、その正体を確かめようとする。

( "ゞ)「……ああ」

俺の胸元くらいの背丈まで伸びた、まだつぼみのままの向日葵だった。


再び足下に視線を落とす。
多く見積もって、大学ノート一冊分くらいの土が露出していた。

( "ゞ)「……」

一際強い風が住宅街を吹き抜けて、向日葵が左右に揺れた。
肌を撫でられる事で改めて、都市特有のまとわりつくような空気の生暖かさを感じる。
少し前に梅雨は明けた。これからどんどん暑さは増していくだろう。
180バスケ大好き名無しさん:2013/01/03(木) 23:35:52.99 ID:???
( "ゞ)「なんか、一本じゃ物足りないな」

誰に聞かせる訳でもなく、呟く。
本当は聞かせたい相手はいるけど、届く事はない。
気付けば、17歳の夏の事を思い出していた。

( "ゞ)「……」

ふたりで何をしたか、みたいな大まかな事は今でも覚えている。
だけど、どんな事を話したか、とか、どんな表情を浮かべていたか、とかは思い出せなかった。
傷ついたCDのように、記憶は飛び飛びになってしまっていた。

( "ゞ)「……なんでだ」

思い出せない部分を自分で補っていき、そのうち大切な出来事も忘れてしまう気がした。
いつしか、記憶はすべて都合のいいように美化された、まったくの別物になってしまう気がした。
その事はとても腹立たしくて、とても悲しくて、なによりも怖かった。


食い込んで痛みを感じるほどに硬貨を握り締め、自販機の場所まで戻る。
取り出し口から出てきた水は、場違いなくらいにきんきんに冷えていた。
一口飲んで空を仰ぐと、また生暖かい風が吹いて、前髪が鼻先をくすぐった。

( "ゞ)「ほんっと、なんでだろうな」

小さい頃のミセリとの記憶を思い出せなかった理由が、今はなんとなく分かる。
きっと、訃報を聞いた俺は逃げ出したかった、忘れてしまいたかったんだ。
そうやって目を背けて、思い出さないようにしているうちに、本当に忘れてしまったんだろう。

(  ゝ)「馬鹿だよな……今も、昔も」

どんなに忘れたくなくても、時が過ぎると共に忘れていってしまうのだから。
真夏の青過ぎる空と海も、満開の向日葵畑も、大好きな人の笑顔も。
すべて溶けるように、街の中に消えていってしまうのに。

(  ゝ)「……」

それでもまだ、心の傷跡は痛みを忘れていない。
もう二度と味わいたくないような、何度も指をねじ込みたくなるような、矛盾した痛みだ。


(  ゝ)「……」

向日葵が咲いていた場所まで歩いていく。
当たり前だけど、さっきと変わらない状態で向日葵はそこにあった。
ペットボトルのキャップを外して、適当に根元にかけてやる。

( "ゞ)「頑張って咲くんだぞー」

途切れ途切れに水の塊が跳ねる音がした。
満開の花を咲かせる助けになればいい、と思った。
その様子を思い描くと、数といい、茎の背丈といい、最後に見たミセリの姿が重なる。

( "ゞ)「……」

少しづつ忘れていく一方で、きっと忘れられないであろう事もある。
どうしようもなく馬鹿な自分や、最後に見たミセリの泣き笑いの表情や、胸の痛み。
忘れたくても忘れられないまま、ミセリを置いて俺だけがずっと生きていくのだろう。
181バスケ大好き名無しさん:2013/01/03(木) 23:36:28.14 ID:???
だけど、いつも悲しい事よりも先に思い出す事がある。



本当ならありえないはずの、二度目のひと夏の出会いの事。


目の前に宇宙が広がった、海での花火の事。


屋台の灯りとミセリの姿が、残像のように消えなかったお祭りの事。


眩しすぎた、最後の別れの事。


振り返れば顔が紅くなるような、極彩色の時間の事。





楽しくて仕方なくて、ミセリといた時はいつも笑っていた事。


( "ゞ)「……」

向日葵に水をかけ終わると、もう一口飲んでキャップを閉めた。
水のおかげか時間が経ったからか、もう酔いもだいぶ醒めてきている。

( "ゞ)「……じゃあな」

なんとなく向日葵に別れの言葉を呟いて、歩き始めた。
前方に見えていた自販機がゆっくり近付いてきて、やがて後方へと流れていく。

( "ゞ)「今夜は冷房でも付けるかな……」

青春の記憶はまだ、思い出には出来そうにない。
みっともなく引きずっている俺を見たら、ミセリはなんて言うだろう。
本気で諭してくれるのか、それとも少し嬉しそうにちゃかしてくるのか。

( "ゞ)「なあ、どうなんだ? ……はは、なんてな」

その答えを知る術はない。
それでも、夏が近付くと心が躍る。

( "ゞ)「……」

約束なんてしていないのに、また会える日を待っているから。
ほんの少しだけ、奇跡を期待しているから。
182バスケ大好き名無しさん:2013/01/03(木) 23:36:58.86 ID:???
俺は今までも、今も、きっとこれからも。

ミセリと出会えた季節を、夏を、待っている。














( “ゞ)は夏を待っているようです

最終話 ハイカラータイムズ

終わり