「ねえ、デルタ。知ってる?」
俺の泣き声の合間を縫うように、穏やかなミセリの声が響いた。
いつもなら聞き返すところだけど、今はそれすらままならない。
意思だけでも伝えようと、前を向いてミセリがいるであろう方向を見つめた。
ミセ*゚ー゚)リ
一瞬限りのクリアな視界に映ったミセリは、向日葵を一輪、手に持っていた。
もっと長く見ていたい、忘れないようにはっきりと見ていたいと思った。
熱を持って、ぴりぴりとした痛みが走っても、涙を拭い続ける。
涙のモザイクが付いたり取れたりを繰り返すミセリが、向日葵に視線を落として言う。
ミセ*゚ー゚)リ「向日葵の、花言葉」
( つゝ)「……んん」
まだしゃくりあげてしまって、上手く喋れそうになくて、首を振って答えた。
瞼の痛みが増していくにつれて、徐々にモザイクが薄まっていく。
ミセ*゚ー゚)リ「そっか。じゃあ、教えてあげるね」
ミセリが向日葵から俺へと視線を移す。
その時、一際強い風が吹いて、俺の目から涙を吹き飛ばした。
泣き出しそうな空から、雲を割って射しこむ逆光を背負ったミセリは、
ミセ* ー )リ「『私の目はあなただけを見つめる』」
静かに、嬉しそうに、そう言った。
( "ゞ)「……」
ミセ* ー )リ「約束しなければ、守ろうとしなければ、きっと死ななかったってあたしも思うんだ」
ミセリは愛おしそうに、向日葵の花びらを撫でながら語り続ける。
影になっている表情は、細かな変化までは見えない。
その代わり、ミセリの体が逆光を遮って、俺の目が眩むのを防いでいた。
ミセ* ー )リ「でも、その事を後悔した事は一度も、一瞬もなかったよ」
(;"ゞ)「そん……」
ミセ* ー )リ「本人に言うのってちょっと恥ずかしいけど、初恋だったんだよ?」
そんなはずはない、と言おうとして、逆にミセリに話の腰を折られてしまう。
俺はそれっきり言葉が出なくなってしまい、逆にミセリはまるで何もなかったみたいに話を続けた。
ミセ* ー )リ「初恋は実らないって言うけど、死んじゃったおかげで実ったしね」
ミセリは得意気に肩をすくめて、話を締めた。
たったそれだけの理由で、後悔なんて無くなるものなんだろうか。
俺が自分の価値を知らないのか、ミセリが俺の価値を過大評価してるのか、それを知る術はない。
ミセ* ー )リ「でも……もう、お別れかな」
顔を上げたミセリが唐突に別れを告げた。
その言葉の意味を、すぐに視覚で理解する。
(;"ゞ)「あっ、ああ……」
突然飛び込んできた橙色の光に、思わず目を細める。
ミセリが背負っていたはずの太陽が、彼女の体の向こう側に透けて見えていた。
(;"ゞ)「待って、なんで……まだ、まだ夕方なのに、時間あるのに……」
虚脱感がすさまじい速さで体中に染み渡っていく。
まとまらないまま声に出した問いかけは、あっけなく霧散してしまいそうなほど弱弱しかった。
ミセ*゚ー゚)リ「だって、もうここにいる理由もなくなっちゃったし」
(;"ゞ)「でもっ……! もう少しくらいは……」
胸騒ぎが心臓を撫でまわす感覚が無視できない。
ミセリがふとした瞬間にいなくなってしまいそうで、瞬きする事すらためらってしまう。
ミセ;゚ー゚)リ「うーん、なんていうかな……」
困った顔をして頬を掻くミセリを無視して、手の届く距離まで近づく。
なんとか引き止めたくて、風にたなびくワンピースを掴もうとした。
(;"ゞ)「あっ……」
だけど、手のひらを風が撫でて通りすぎていく感触だけが伝わってくる。
それを証明するように、揺れるワンピースが何度も指先をすり抜けていた。
まだ頭のどこかで理解出来なくて、混乱したままミセリを見つめ返す。
ミセ*゚ー゚)リ「真っ暗な中で独り寂しく消えちゃうのも……ねえ?」
(;"ゞ)「……」
花火の時に見た、吸い込まれてしまいそうな夜の海を思い出す。
俺と別れた後のミセリは、きっとあの浜辺に座って最後の時間を過ごすんだろう。
自分の手のひらもいつしか見えなくなって、文字通り闇に溶けて消えてしまうんだろう。
(; ゝ)「……」
それは想像するだけで息が詰まりそうなほど、恐ろしい事に思えた。
きっと俺の想像は当たっている。
だからこそ今、お気に入りの場所で、俺の目の前で、笑って消える事をミセリは望んでいる。
(; ゝ)「……分かった」
繋ぎとめたいと願って、ミセリの体に埋めていた手を静かに引く。
正真正銘、最後のわがままを聞いてやろうと決めた。