【必勝不敗】能代工業 十九冠目【V58】

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157バスケ大好き名無しさん
(# ゝ)「霊感なんてないのに見えたし、触れたし、話せた!!」

(# ゝ)「向日葵畑も行ったし、ラムネだって飲んだし、花火だってしたし、祭りだって行った!!」

(# ゝ)「いい加減にしてくれよ! 死んでるなんて、あり得ないだろ!!」

こんなに怒っているのに誰も出てこないのは何故か。
時間が経つにつれて、あるひとつの考えで頭が塗りつぶされていく。

(;`・ω・´)「デルタ……」














(#;ゝ;)「ミセリが死んでるなんて、そんなの嘘に決まってんだろおおおおおおおおおお!!!」

全部本当の事だから、誰も出てきてくれないんじゃないか、と。
















(  ゝ)「はあ……はあ、ぐっ」

声を張り上げて捲くし立てたせいで、息が切れてしまう。
いつの間にかこぼれてきていた涙を拭いながら、何度も深呼吸を繰り返した。

(  ゝ)「……どこ?」

(;`・ω・´)「?」

まだ整っていない呼吸の合間を縫うように、声を絞り出してじいちゃんに問いかけた。

(  ゝ)「ミセリの、家」

酸欠になってしまったのか、頭の中心から全体へ痛みが広がってくる。
それでも、今すぐに自分の目ですべてを確かめないといけないと思った。
158バスケ大好き名無しさん:2012/12/31(月) 16:20:03.73 ID:???
(;`・ω・´)「市街地にあるでかい家だ。今じゃ廃墟になっちまってるけどな」

(  ゝ)「……ありがと」

小さくお礼を言って、立ちはだかっていたじいちゃんの横をすり抜ける。
今度は肩を掴まれる事も、呼び止められる事もなかった。
引き戸を開けると、雨と土の匂いがぬるい風に乗って鼻をくすぐった。


家の外に出て、まだ少し滲んでいる視界で空を見上げた。
雲の切れ間から見える青空は、すでに遠くへ行ってしまっている。
代わりに、濃い灰色の雲が隙間なく敷き詰められていた。

(  ゝ)「……嘘だ」

体調も天気も最悪だった。
それでも、傘も持たずに地面を蹴って一本道へと駆けだした。

〜〜〜〜〜〜


天を仰いでいた顔に雨粒が当たって弾けた。
時間が経つにつれて雨は激しくなり、やがて本降りになって俺の体を濡らす。
近いようで遠い市街地が、微かに薄らいで見えた。

(; ゝ)「はあっ……は、はっ」

呼吸をするたびに心臓に締め上げられるような痛みが走る。
時々、足が地面に引っ掛かって転びそうになる。
それでも、歩くのと大差ないスピードでも、走り続けた。

(; ゝ)「ひ、はっ」

家を出てから、雨は降っては止んでを繰り返していた。
最初のうちは鬱陶しく思えた雨も、今は気にしている余裕すらなかった。

(; ゝ)「んっ、ぐ……はあっ」

喉の奥にまとわりついていた、ねっとりとした唾液を吐きだして大きく息を吸った。
幾分か呼吸が楽になった気がして、すぐに気のせいだったと思い知らされる。

(; ゝ)「は、あっ、はっ」

どれだけ辛くても、足は不思議と止まる事はなかった。


どれくらい走った頃だろうか、視界が灰一色に染まった。
ようやく市街地まで辿り着いて、俺はそこで初めて休憩を取った。
立ち止まった瞬間、足から力が抜けて尻餅をついてしまいそうになる。

(;"ゞ)「はーっ、はあ、あーっ……」

近くにあった電柱に寄りかかって呼吸を整える。
急ぎたい気持ちはやまやまだったけど、ここからは闇雲に走るだけじゃいけない。
頭に急ピッチで酸素を送り込みながら、じいちゃんの言っていた事を思い返す。

『市街地にあるでかい家だ。今じゃ廃墟になっちまってるけどな』

(;"ゞ)「はあ……ふう……」
159バスケ大好き名無しさん:2012/12/31(月) 16:20:34.49 ID:???
市街地にあって、今は廃墟になっている大きな家。
ただでさえ土地勘がないのに、これだけのヒントでミセリの祖父母の家を探さないとならない。
誰かに聞ければ手っ取り早いけれど、雨のせいか出歩いている人はひとりもいなかった。

(;"ゞ)「はあ……」

適当なお店に入って尋ねようかとも考えたけど、自分の格好を思うと気が引けた。
結局、今出来るのは市街地をしらみつぶしに歩く事だけだった。


いつもの半分以下になった歩幅で、誰もいない道路を歩いていく。
雨脚は少し弱まったものの、依然として雨が止む気配はない。
一歩踏み出す度に、たっぷり雨水を吸ったスニーカーの中で不快な感触がした。

(;"ゞ)「……ん」

額に貼り付く前髪を、定期的に横へどけつつ周囲を見渡して進む。
遮る物のない視界に映るのは、見た事のない街並みばかりだ。

( "ゞ)「……お?」

しばらく歩き続けて、何個目か分からない曲がり角を曲がった時だった。
目の前の街並みは今までと違って、見覚えがあるような気がした。

(;"ゞ)「うーん……」

立ち止まってとっ散らかった思考を整理していく。
ふと、頭の上に電球が浮かんだような感覚が走った。

(;"ゞ)「……あ! 昨日の!」

ここは昨日、神社に向かう最中に通った道だった。
夜だったとはいえ、道中の気まずさから周囲を眺めていたから見覚えがあったんだろう。

(;"ゞ)「確か、ここをまっすぐ進んで……!」


昨夜の記憶がありありと蘇ってくる。
その中にひとつ、見逃せない出来事があった。
いくつもの水たまりに足を突っ込みながら、道沿いに走り始めた。

(;"ゞ)「この先にっ、あったんだっ!」

雨が止み始めたからか、俺が近付いてきたからか。
輪郭のぼやけた大きな影が遠くに見えてくる。
影は徐々にはっきりとした形を成してきて、俺が息を切らす頃には正体を現していた。

(;"ゞ)「はあ……はっ」

数十m手前で走るのを止めて、俺は空を見上げた。
視界を覆ったのは空ではなく、大きな家だった。
窓ガラスは割れ、壁は葉で覆われて、人の住んでいる気配はない。

(;"ゞ)「これだ……」

市街地にあって、廃墟になっている大きな家。
じいちゃんから教えてもらったミセリの祖父母の家、そのものだった。
160バスケ大好き名無しさん:2012/12/31(月) 16:21:05.09 ID:???
(;"ゞ)「……はあ」

門の前で立ち止まって、敷地の中を見渡してみても、当然だけど誰もいなかった。
ここがミセリの祖父母の家だとしたら、ミセリは一体どこで寝泊まりしているのだろうか。

(  ゝ)「……」

その答えはきっと、じいちゃんの言っていた通りなのかもしれない。

(;"ゞ)(いや、まだだ……まだだ!)

ぶんぶんと首を振って、嫌な考えを髪に付いた水滴ごと振り払う。
頭は多少軽くなったけど、胸に巣食う不穏なざわつきが消える事はなかった。

(;"ゞ)「そうだ、表札……」

表札が残っているなら、名字でミセリの祖父母の家なのか確認出来る。
そう思い立って、郵便受けの辺りを覆い尽くす葉をどけるために手を伸ばした。

(  ゝ)「……っ」

だけど、葉に指先が触れる一歩手前で気付いてしまった。
一瞬の間が生まれて、ゆっくりと腕を下ろしてその場に呆然と立ち尽くす。


(  ゝ)「……ははは、名字、知らないんだった」

とても可笑しく、むなしく思えて、思わず力ない笑い声が漏れた。
これから知ればいい、なんて考えていた自分を殴り飛ばしたい衝動に駆られる。
俺とミセリがどれだけ希薄な関係だったか、突き付けられた気がした。

(  ゝ)「はは、ははは……」

ミセリはじいちゃんの言う通り、死んでいたのかもしれない。
だから、今の自分の事を何も話してくれなかったのかもしれない。
ミセリは俺との関係を、ひと夏で終わらせるつもりだったのかもしれない。

(  ゝ)「……」

確信めいた憶測で頭がいっぱいになって、破裂してしまいそうになる。
いっそ思考回路を捨て去って、何もかも諦めて、ただ無意味に時間を消費していきたいと思った。
俺は門に不格好に寄りかかると、周りの全てをシャットダウンし始めた。



「デルタ」



その時だった。





(  ゝ)「……え」
161バスケ大好き名無しさん:2012/12/31(月) 16:21:43.68 ID:???
ミセ* ー )リ「……ばれちゃったみたいだね」




顔を上げた先には、寂しそうに笑うミセリがいた。




ミセ* ー )リ「着いてきて欲しい……最後に、話したい事があるから」




雨は、いつの間にか止んでいた。







〜〜〜〜〜〜

俺はミセリに促されるままに、彼女の後を付いて歩いていた。
数歩先で黒髪と、鮮やかなオレンジに染まったワンピースが揺れる。
会話は無く、砂利を踏みしめる音と、波の寄せては返す音だけが響いていた。

( "ゞ)「……」

ミセ* ー )リ「……」

俺が来た道を戻り続けて、じいちゃんの家へと伸びている分かれ道もとっくに通りすぎていた。
行き先を知らされはしなかったけど、容易に想像が出来た。
目的地であろう場所を探して、俺の視線はミセリの背中とその向こうの景色を行き来する。

( "ゞ)「……あ」

見間違えようのない目印を見つけて、思わず声が漏れる。
ミセリに初めて会った時に連れて来られた、お気に入りだと言っていた向日葵畑の端っこだ。
夕日に混じる事なく映える黄色が波打っている。

ミセ*゚ー゚)リ「……」

俺の声に反応したミセリが振り返り、またすぐに前を向く。
昨日と何一つ変わらない表情が、今はとても尊いものに思えた。


道の片側が完全に向日葵で覆われてからしばらくした頃。
俺達は曲がり道に入って向日葵畑の中へ消えていく。
はっきりとした輪郭を成した俺の影が、ミセリの背中をスクリーンにして投射される。

ミセ* ー )リ「よっと」

少し登り坂になっていた道の、その頂上でミセリが立ち止まる。
後を追って、あの時と同じようにミセリの右隣で俺も立ち止まった。
162バスケ大好き名無しさん:2012/12/31(月) 16:22:15.06 ID:???
ミセ*゚ー゚)リ「……綺麗でしょ」

( "ゞ)「……うん、綺麗だ」

互いに独り言を言っているようなトーンで一言だけ交わして、再び無言の時間が訪れた。
海風に吹かれて波打つ向日葵の絨毯の美しさは、どこも変わっていない。
なのに、始めて見た時は胸を打った景色が、今は胸を潰してしまいそうなほど締め付けてくる。

( "ゞ)「……」

ミセ*゚ー゚)リ「……」

隣に佇むミセリを見つめる。
やはり、死んでいるなんて悪い嘘な気がした。
それでも、直に触れて俺の知っている体温と柔らかさを確かめる勇気は、出なかった。


ミセ*゚ー゚)リ「……ごめんね」

( "ゞ)「何、が?」

肩越しに俺を見つめ返してきたミセリが、申し訳なさそうに謝る。
何を言いたいのか薄々分かっていても、一縷の希望にすがりたかった。
聞き返す自分の声は詰まってしまうほど震えていた。

ミセ* ー )リ「きっと、おじいちゃんかおばあちゃんから聞いたのかな」

ミセ* ー )リ「ばれちゃうと思ったから、黙っててほしかったんだけど……しょうがないね」

少し抑え気味だけど、風にかき消される事なくミセリの声は俺の耳に届く。
泣ける映画を見て、感傷に浸りながら感想を話すような、そんな声だった。



ミセ* ー )リ「あたしね……本当は死んじゃってるの」

(  ゝ)「……っ」

千切れそうなほど、唇を噛んだ。


ミセ* ー )リ「……最後に会ったのは、もう6年も前だから11歳の時か」

ミセ* ー )リ「12歳の夏に、都合が悪くなってラウンジに行けなくなっちゃってね」

ミセリは俺がきちんと理解出来るように、懇切丁寧に語り始める。

ミセ* ー )リ「ずーっと楽しみにしてたから、わんわん泣きながら駄々こねてさ」

ミセ* ー )リ「あんまり聞きわけが無いもんだから、お父さんもお母さんもついに折れて」

やめてくれ。

ミセ* ー )リ「あたしひとりでラウンジまで行くのを許してくれたんだ」

ミセ* ー )リ「でも、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃって」

その先は、聞きたくない。
163バスケ大好き名無しさん:2012/12/31(月) 16:22:57.60 ID:???
ミセ* ー )リ「駅が見えてもうすぐだ、って駆けだしたら」

ミセ* ー )リ「車のクラクションがププーッ、って」

(  ゝ)「……」

なのに、込み上げてくる何かが喉を詰まらせて、話を遮る事が出来なかった。


ミセ* ー )リ「あ、って思ったらいつの間にかあの浜辺に寝っ転がってたんだ」

ミセ* ー )リ「最初は夢かな、って思ってこっちの家に行ったらおじいちゃんもおばあちゃんも泣いてて」

事も無げに話す声とは裏腹に、少し潤んだ瞳は伏せられていて、俺を見ていない。
そのギャップが悲壮感を漂わせて、話に真実味を持たせていた。

ミセ* ー )リ「気付かれる事もなくて、声も届かなくて、触る事も出来なくて」

ミセ* ー )リ「あたし死んじゃったんだな、って思った途端に涙がぼろぼろこぼれてきた」

でもね、と言って再び俺と視線を絡ませる。
ロマンチックな感情を伴わない、ただの苦痛が心臓に走った。

ミセ* ー )リ「あたしはなんでまだここにいるんだろう、って考えてたら」

ミセリの指が俺の頬を指す。
圧迫感は感じても、体温を感じる事は出来なかった。

ミセ*゚ー゚)リ「きっとデルタに会う為なんだろうな、って思ったの」

ミセリはそう言って、子供をあやすような優しい微笑みを浮かべた。


ミセ*゚ー゚)リ「きっとデルタからあたしの事は見えなくても」

ミセ*゚ー゚)リ「それでもいいから、約束を守りたかったのかもしれないね」

(  ゝ)「……」

もうぶつけるには遅い、ぶつける意味を持たない怒りが込み上げてくる。
昔の自分に、今の自分に対する怒りだ。

ミセ*゚ー゚)リ「だからさ、デルタに声かけられた時はびっくりしちゃったよ」

ミセ*゚ー゚)リ「あたしが見えるどころか、知らない間にちゃんと17歳の格好になってたみたいだし」

ミセリはどんな気持ちで俺を、夏を待っていたんだろうか。

ミセ*゚ー゚)リ「理由は結局、お盆だからって事にして難しく考るのはやめたけどさ」

秋には期待外れだった夏を振り返って、来年こそと思い直したんだろうか。

ミセ*゚ー゚)リ「……忘れてたところに付け込んだのは、ちょっとずるいと思うけど」

冬には正反対の景色と対比させて、遠い夏に思いを馳せたんだろうか。

ミセ*゚ー゚)リ「今を逃したら、きっと……ううん、絶対後悔すると思ったから」

春にはすぐそこに迫った夏に、大きな期待を膨らませたんだろうか。
164バスケ大好き名無しさん:2012/12/31(月) 16:23:39.16 ID:???
(# ゝ)「何でだよ……っ!」

夏には一日が何事もなく過ぎていく度に、笑顔を曇らせていったんだろうか。












(# ゝ)「なんでっ……なんでそこまでして、馬鹿正直に約束守ろうとしたんだよ!!」

この怒りを本当にぶつけるべきなのは、自分だと分かってはいた。
ミセリは何も悪くないのに、八つ当たりもいいところだ。

ミセ;゚ー゚)リ「……それは」

(# ゝ)「俺は何もかも忘れて! のうのうと今まで生きてたのに!!」

うろたえながらも答えようとするミセリを遮って、声を張り上げてどなり散らす。

(# ゝ)「俺と約束なんかしなけりゃ死ななかったんだぞ!! 分かってんのかよ!?」

(# ゝ)「なのにどうして、どうして怒りもしないんだよ!?」

いっそ怒ってくれた方が、お前のせいだと言ってくれた方がずっと気が楽だった。
理不尽な怒りをぶつけられた不満を、声を荒げてぶつけ返して欲しかった。
それでもミセリはただ黙って、俺を見つめていた。

(  ゝ)「お前が、し、死んだのは……!」

本当の事なのに、ミセリ本人が死んでいると言っていたのに。
声に出すのを一瞬ためらった。




( ;ゝ;)「全部……全部俺の……せいなのに……」


( ;ゝ;)「ぐうっ、うう……」

とうとう、前を向く事も意味のある言葉を口にする事も、出来なくなってしまった。
喉は吐き出される空気を震わせるだけで、それが情けない泣き声になって宙に放たれていく。
何度も両手で涙を拭っても、手を離した次の瞬間に視界は滲んでしまう。

( ;ゝ;)「ご……めっ……」

ミセリは俺の何倍も辛いと分かっていた。
俺が泣いている場合じゃないと分かっていた。
だけど、びしょ濡れになった謝罪の言葉を紡ぐだけで精いっぱいだった。