( "ゞ)「うーん……」
当たり前といえば当たり前だけど、座れそうな場所はなかなか見つからない。
いくつか良さそうな場所を見つけても、そこにはすでに先客がいた。
手に持ったかき氷の器から雫が垂れてきて、俺の手を濡らしていく。
ミセ;゚〜゚)リ「ないねー……」
俺の横で難しい顔をしてミセリが愚痴る。
両手が塞がってしまったから、今は俺の服の裾をちょこんとつまんでいる。
ミセ;゚〜゚)リ「どーしよーかなー、むう……」
(;"ゞ)「もう少し暗い所でも探す?」
あまり怖い思いはさせたくないけど、このままじゃ八方塞がりになってしまう。
ミセリの了解さえ得られれば、と思って聞いてみた。
ミセ*゚ー゚)リ「危ない目にあったら助けてくれるなら、いいよ?」
(;"ゞ)「絶っっっっ対助ける! 何が何でもっ!!」
大きく何度も頷いてそう言うと、ミセリは笑みを浮かべて納得してくれた。
ひとまず人ごみの外に出るために、人の流れを無視して歩き始めた。
そろそろ人ごみを抜けられるという頃。
ミセリはちゃんと付いてきているか、そう思って振り返った瞬間だった。
ミセ;゚д゚)リ「ひゃっ!?」
つまづいてしまったのか、人に押されてしまったのか。
普段なら笑ってしまいそうな間抜けな声をあげて、ミセリがこっちへ倒れ込むようによろめく。
(;"ゞ)「危ねえっ!!」
手に持ったかき氷の事も忘れて、反射的にミセリを受けとめようと体を寄せた。
痛くなるほどの冷たさが腕に触れるのを感じつつ、胸に飛び込んでくるミセリを見つめる。
そして、後ろに倒れないように踏ん張ると、スローモーションに流れていた時間は元の速さに戻った。
(;"ゞ)「あ、ああ……よかった……」
ミセ;゚д゚)リ「……」
人が俺達を避けていくのを横目に見ながら、大きく安堵のため息を吐いた。
胸にすっぽりと収まったミセリは、呆気にとられたような表情のまま固まっている。
(;"ゞ)「あ、やべえ……垂れてきた」
ミセ* д )リ「……」
真上に掲げた腕をつたって、溶けたかき氷が肘のあたりまで垂れてきた。
早めに洗わないとべたついて大変な事になりそうだ。
とりあえず、ミセリには一旦離れてもらう事にしよう。
(;"ゞ)「ミセリー、かき氷こぼれてきたから」
ミセ* − )リ「……」
(;"ゞ)「ちょっとどい……て」
いつの間にか、ミセリは俺の胸に顔をうずめたまま動かなくなっていた。
小さな手がシャツを握りしめている感触が伝わってくる。
ただならない様子に、思わず言葉を飲み込む。
ミセ* − )リ「ん……やっぱ」
(;"ゞ)「……?」
ミセ* − )リ「やっぱ……ダメだ、我慢できない。もう限界……」
その言葉の意味を理解し切れないうちに、ミセリはそっと俺から離れる。
頭は下がっていて、表情は分からない。
ミセ* − )リ「……来て」
そう言われて、今までで一番強く、手を握りしめられた。
ミセ* − )リ「話したい、事がある」
盆踊りの軽快な曲と、幸せそうな喧騒だけが聞こえてくる。
俺は返事を探しながら、夕日の様な出店の灯りに照らされたミセリの髪を見つめていた。
そんな時間がどれだけ過ぎたのかは分からない。
( "ゞ)「……分かった」
どれだけ過ぎたのかは分からないけど、これ以外の返事は俺には思い浮かばなかった。
まるで他の言葉なんて知らないかのように。
〜〜〜〜〜〜
ミセ*゚ー゚)リ「手、洗うんでしょ?」
(;"ゞ)「あ、ああ……」
ミセリに手を引かれて連れてこられたのは、神社の本殿だった。
出店もここまでは出されていなくて、ほとんど真っ暗だ。
かき氷を持ってもらい、その間に手洗い場で腕を洗うのも手探りだった。
( "ゞ)「持ってくれてありがとう、もう大丈夫」
ミセ*゚ー゚)リ「はい……こっちがレモンだっけ」
(;"ゞ)「ああ……多分、そうだと思う」
少し目が慣れてきて、かき氷の白い器を無事に受け取る。
ミセリは自分の持った器を、間近まで顔を近づけて見つめていた。
ミセ*゚ー゚)リ「んっ……よかった、レモンレモン。それじゃあ、付いてきて」
( "ゞ)「あ、うん」
言われるがままに、闇に浮かぶワンピースを追いかける。
事情を知らない人が見たら、幽霊と勘違いしそうだ。
ミセ*゚ー゚)リ「あった、ここだ」
( "ゞ)「……ここって」
立ち止まった場所は神社の本殿の一角だった。
目を凝らして見ると、軒下に人が入れそうな空間が存在している。
ミセ*゚ー゚)リ「さ、入った入った」
(;"ゞ)「ちょっ、押さないで、あだっ!!」
ミセ;゚д゚)リ「あっ、ごめんっ!!」
よく見えないうえ、無理矢理に背中を押されたから、梁に額をぶつけてしまった。
背後からミセリが慌てて謝る声が聞こえてくる。
二度と背中を押さないように釘を刺してから、再び体をかがめて中に入っていく。
(;"ゞ)「つー……まだじんじんする……」
本殿の木の香りと、足下に敷き詰められた砂利の音だけがそこにはあった。
悲痛なぼやきも暗闇に溶けて、すぐに消えてしまう。
ひとまず、いつまでも背中を折り曲げていられないので、適当な場所に腰を下ろした。
ミセ*゚ー゚)リ「よっと」
ミセリが苦もなく中に入ってきて俺の横に座る。
膝を抱える姿は、元々の体の小ささも加わってかなりコンパクトだった。
ミセ* − )リ「……」
(;"ゞ)「……」
膝の間に頭を入れたまま、ミセリは押し黙ってしまった。
生い茂った木々の隙間から、祭りの人ごみや出店が見える。
軒下にも淡いオレンジ色の光が差し込んできて、俺達を頼りなく照らしてくれていた。
(;"ゞ)「かき氷……」
ミセ* − )リ「……?」
耳に入るのが遠くから聞こえてくる祭囃子だけ、という状況に耐えきれず、苦し紛れに口を開いた。
膝で口元を隠したミセリが、視線だけ俺に向ける。
その眼差しは、ミセリを照らす光と伴って、儚さと美しさが入り混じって見えた。
(;"ゞ)「……食べようよ」
ミセ* ー )リ「……うん」
ミセリは顔を上げてそっと微笑んだ。
揺れる前髪が、夕日に似たオレンジ色を反射してきらめく。
そして、傍らに置いたかき氷を持ち上げると、小さく一口をすくい上げて口に運んだ。
ミセ*゚ー゚)リ「……おいし」
( "ゞ)「……そっか」
満足そうな声を聞いて安心すると、俺もかき氷を口に運んだ。
ブルーハワイの何物にも例えようのない甘さが、舌全体に広がっていく。
しばらくの間、祭囃子に混じってしゃりしゃり、という音が軒下に響く。
ミセ*゚ー゚)リ「うん、頭すっきりした」
ふと、ミセリが大きく頷きながらそう呟いた。
しかし、一度だけじゃなく何度も頷いている。
まるで自分に言い聞かせているみたいだった。
ミセ*゚ー゚)リ「デルタ、あのね」
かき氷を一口頬張ると、ミセリがこちらを向いて俺を呼んだ。
ブルーハワイを運んでいた手を、ぴたりと止める。
ミセ*゚ー゚)リ「ほんとはね、全然平気じゃなかったの」
( "ゞ)「……ん?」
はにかみながらそう言われるも、最初は何が平気じゃなかったのか見当がつかなかった。
だけど、次の一言でさすがの俺でも全て察した。
ミセ*゚ー゚)リ「デルタがいようがいまいが、ずっとドキドキしてたんだ」
間違いなく、昨日のあの一件の事だった。
ミセリも俺と同じように、どうしようもなく気になっていたのだった。
言葉の合間にかき氷を口に運びつつ、ミセリは話を続ける。
ミセ*゚ー゚)リ「思い出したら、ごろごろ転げ回っちゃうくらいでさ……」
(;"ゞ)「ご、ごめん……」
呆れたように話すミセリに対して、どんどんと罪悪感が込み上げてきた。
向こうのいたずらとはいえ、あんな事になってしまった原因は俺にもある。
軽く頭を下げただけでは足りないように思えて、きちんと土下座くらいしようと姿勢を正す。
ミセ*゚ー゚)リ「ううん……謝らないといけないのは、あたしの方」
(;"ゞ)「な、なんで」
ミセ* − )リ「嘘、ついたの」
かき氷を運ぶミセリの手が止まり、器が地面に置かれた。
膝の上に顎を乗せて、自分のつま先を見つめるように目を伏せる。
ミセ* − )リ「いたずらなんかじゃ、なかった」
まさか、と思う俺とそれを否定する俺が、脳内に交互に現れては消えていく。
ミセ* − )リ「ほんとにちゅーしちゃうのは、予想外だったけどさ」
そう言って細めた眼は笑っているようにも、怯えているようにも見えた。
ミセ* − )リ「……デルタ」
(;"ゞ)「……」
静かに名前を呼ばれて、息を飲む。
ミセリの声以外をかき消しそうなほど、心臓の鼓動がうるさい。
こんなにも次の言葉を待ち望む事は、これから先、二度とないと思った。
ミセ* − )リ「……好き、です。大好きです」
(;"ゞ)「……!」
期待しながらも、どこかであり得ないと思っていた事が、目の前で起きた。
多幸感で満ちた心臓がさらに強く、早く脈を打つ。
ミセ* − )リ「ずっと……初めて会った夏からずっと、好きでした」
ミセリは堰を切ったように喋り続ける。
ミセ* − )リ「子供と子供の口約束だったけど、ずっと待ってました」
聞こえてくるのは、浜辺で出会った時に聞いたのと似た言葉。
ミセ* − )リ「毎年、指折り数えて……夏を待ってました」
あの時との大きな違いは、本当の気持ちを包み隠さず話しているという事。
ミセ* − )リ「……」
(;"ゞ)「……」
(;"ゞ)「……ミセリ」
ミセ* − )リ「……っ!」
名前を呼ばれたミセリは、怖いものでも見たようにびくり、と体を跳ね上げてこっちを見た。
ワンピースの裾を掴んでいる手が、小刻みに震えている。
自分の本心を晒してしまった事が不安なんだろうか。
(;"ゞ)「なんか、すごいびっくりしてて、こういうの初めてだし……上手く言えないと思うけど」
自分でも驚くほどたどたどしい話し方で、きっと今の俺はとてもかっこ悪いだろう。
それでも、今すぐにでも、ミセリの不安を取り除いてやりたいと思った。
(;"ゞ)「あの、今だから言えるけど、最初にミセリを見た時にすげえ可愛いと思って」
ミセ* − )リ「……」
雨に震える子犬のような瞳が、俺を真っ直ぐに射抜く。
(;"ゞ)「仲良くなれたら、って思って浜辺に行ったらミセリで、でも、俺は全然覚えていなくて」
(;"ゞ)「正直、下心たっぷりだったんだけど、なんかそれで一気に冷めて……」
ミセ* − )リ「冷めちゃったの……?」
ミセリの眉間にしわが寄って、瞳がすぐに泣いてしまいそうなくらいに潤む。
慌てて取り繕いながら、自分の会話の下手さを怨んだ。
(;"ゞ)「いや、そんなダメな意味じゃなくて、その、冷静になったっていうか」
ミセ* − )リ「そう……?」
(;"ゞ)「そう、なんていうか、ああ……ひと夏限り、とか思わなくなって」
仲良くなりたい、という感情は最初からずっと変わらなかった。
いつしか、仲良くなった先の事を考えるようになった。
(;"ゞ)「もっと仲良くなって、夏が終わっても連絡とか取るようになって」
仲良くなって、もっと長く付き合っていけたら、と。
もっと深くお互いを知る事が出来たら、と思った。
(;"ゞ)「休みには電車に乗って会いに行ったりとか、そういう風に……そういう風になりたいって思った」
(;"ゞ)「これっきりなんてごめんだ、ってすっごい思ったんだ」
これを人は恋だと言うんだろうか。
正直、思春期になってからは誰かの話を聞いて、憧れたり妬んだりするだけだった。
(;"ゞ)「俺が今ミセリに対して抱いている気持ちが、同じかは分からないけど」
だから、自分が恋をしているのかは分からない。
ミセリの気持ちと同列になんて、してはいけないのかもしれない。
だけど、
(;"ゞ)「すごい嬉しくって、すごい……心臓がバクバクいってる」
この気持ちが恋で、これからミセリの気持ちとの差を埋めていけるのなら。
それ以上幸せな事は無いと、心の底から思えた。
(;"ゞ)「……」
ミセ* − )リ「……」
嵐が過ぎた後のような静寂が訪れる。
どうも恥ずかしくてミセリの顔を見れなくなって、行き場を無くした視線を地面に向ける。
水滴でびしょびしょになってしまったかき氷の器を、意味もなく見つめた。
ミセ* − )リ「……なんか、かっこ悪かったよ」
いつもの調子を少しだけ取り戻した声で、ミセリがぼそりと呟いた。
それは自分でも分かっているから、あんまり言わないでほしい。
ミセ* ー )リ「でも、かっこ悪くてもいいや。デルタだし」
(;"ゞ)「それどうい……っ!」
振り向いて問いただしてやろうとした瞬間、右肩に重みを感じる。
いつの間にかミセリは俺に寄り添うように座っていて、肩に頭を置かれていた。
(;"ゞ)「……」
ミセリの匂い、としか言いようのない匂いが鼻をくすぐる。
二の腕に触れる髪の柔らかい感触がこそばゆい。
視線は未だにかき氷に向けられている。
正確には、向けるしかないという感じだ。
(;"ゞ)「……ふうー」
大きく深呼吸をして覚悟を決める。
いっせーのせ、と心の中で合図を出して、右肩へ視線を移した。
ミセ*゚−゚)リ「……」
(;"ゞ)「……あ」
ちょうどミセリも俺を見ていて、ばっちりと目が合ってしまった。
まだ少し潤んでいる瞳での、反則にも近い上目遣いは俺を惹きつけて離さない。
ミセ*゚−゚)リ「……」
数瞬の沈黙の後、ミセリの体がさらに俺に密着してきた。
俺の手にミセリの手がそっと重ねられる。
肩にかかる重みが少しだけ軽くなり、ミセリが顎をくい、と上げた。
そして、
ミセ* − )リ「……」
唇がほんの少し突き出され、瞼がゆっくりと閉じられた。
(*"ゞ)「……」
俺は、その唇に吸い込まれるように顔を寄せて――
「ね〜え〜、ここってなんだか暗くてこわ〜い」
(;“ゞ)「!!!!!」
ミセ;゚д゚)リ「!!!!」
キスしようとした瞬間、いきなり人の声が聞こえてきた。
「大丈夫だって。それに、ここなら誰も来ないだろうし……」
「や〜だあ、えっち〜」
どうやら、声から察するに若いカップルらしい。
なんだか聞いているこっちが気まずくなってくるような会話が聞こえてくる。
(;"ゞ)「……」
ミセ;゚д゚)リ「……」
息がかかるほどの近距離で、驚いて固まってしまったまま動けなくなる。
ミセリも大きな目を限界まで見開き、どうしたらいいか分からないような表情を浮かべていた。
さっきまでのいい雰囲気なんて、もう欠片も残っていなかった。
「いいだろ……?」
「んもお〜、しょうがないんだからあ〜」
外のカップルは今すぐにもここで始めてしまいそうな気配だ。
本当にそうなったら、ここから出れなくなってしまう。
ミセ*^ー^)リ「……ぷぷっ」
急にミセリが声を殺して笑い始めた。
大きな声を出さないようにするのが大変なのか、全身をぷるぷると震わせている。
(*"ゞ)「……ははっ」
そのうち、なんだか俺も可笑しくなってきてしまい、ミセリと一緒にこっそり笑った。
さっきとは違う意味でのいい雰囲気で軒下が包まれる。
ミセ* ー )リ「ふーっ、ふ、ぷぷ、ひーっ!」
(*"ゞ)「指差しちゃダメだって、本人達は真面目に……ぶふっ」
今じゃなくても、焦らずにもっとお互いを知ってからでもいいだろう。
俺達はもう、ひと夏で終わる関係なんかじゃないんだから。
この夏が終わってもまだまだ続いていくんだから。
俺達にはまだ、未来があるんだから。
〜〜〜〜〜〜
( "ゞ)「本当にもういいの?」
ミセ*゚ー゚)リ「うん、お祭り堪能したし。これ以上デルタに奢らせるのも悪いし」
あれから、俺達はばれないように軒下から脱出した。
そして、その直後にミセリはもう帰ると言いだした。
ミセ*゚ー゚)リ「それに……」
( "ゞ)「それに?」
ミセ*^ー^)リ「……なんか恥ずかしいし」
ミセリは頬を掻きながらそう言うと、はにかんで目を伏せた。
妙な照れくささがあるのは俺も同じだから、その気持ちはよく分かる。
本当は一緒にもっと祭りを見て回りたかったけど、ミセリの気持ちを汲む事にした。
ミセ*゚ー゚)リ「あ、鳥居まででいーや。また上がるの大変だろうし」
( "ゞ)「いや、俺だってたまには頑張るって……」
ミセ*゚ー゚)リ「あたしがいいからそれでいいのっ」
無理矢理丸めこまれた頃、ちょうど鳥居に辿り着いた。
いまいち納得がいかないけど、ミセリはすでに帰る気満々だった。
ミセ*゚ー゚)リ「じゃ、デルタはお祭り楽しんできてねっ」
( "ゞ)「ああ……うん。それじゃ」
繋がれていた手が離れて、汗ばんだ手のひらを涼風が通り抜けた。
いつまでも石段を降りていかない辺り、どうやら俺が人ごみに消えるのを見送るつもりらしい。
名残惜しいと思いながらも、仕方なく振り返って歩き始める。
「デルタぁ!!」
( "ゞ)「ん?」
もうすぐ人の波に飲まれる、というところでミセリに名前を呼ばれて振り向く。
ミセ*^ー^)リ「さよならっ!!」
今までで一番の笑顔のミセリが、大きく手を振っていた。
そして、俺が見たのを確認すると、すぐに石段を駆け下りていった。
( "ゞ)「……」
何故かその笑顔は残像のように焼き付いて、いつまでも瞼の裏から消える事はなかった。
( “ゞ)は夏を待っているようです
第三話 アフターイメージ
終わり
(;"ゞ)「んぎっ……閉まっ……た!!」
荷物を全て詰め終わり、帰るための準備が一段落した。
そのまま後ろに倒れ込んで、開けっぱなしになっている障子の方向へ顔を向ける。
小さな水槽に入れられた金魚と目が合った気がした。
( "ゞ)「……」
ラウンジに来てからの思い出が、走馬灯のように浮かんでは消えていく。
ほとんどがミセリで埋め尽くされていて、ひとつですら忘れたくないと思えた。
( "ゞ)「……」
昨日ミセリに言われた事と、言った事を思い返す。
きっと、これからはそんな思い出がたくさん出来るんだろう。
そう考えると、時間が早く過ぎて欲しい、なんて思ってしまった。
( "ゞ)(今日は……会えるのかな)
微かに聞こえてくる雨音に耳を澄ませながら、そっと目を閉じて想いを馳せる。
ラウンジで過ごす最後の日は、朝から雨が降っては止んでを繰り返していた。
( “ゞ)は夏を待っているようです
最終話 ハイカラータイムズ
(;"ゞ)(そういえば、連絡先交換しないと)
はっと気付いて、足で反動をつけて起き上がる。
このままラウンジを離れてしまえば、俺はミセリと連絡が取れない。
思えば俺はメールアドレスも、電話番号も、住所も、ラウンジにいる時の住所も知らなかった。
(;"ゞ)(でも……どこに行けば会えるんだ?)
ミセリは結局、今日はどうするかについて何も言わなかった。
忘れていたのか、それとも俺とはひと夏限りのつもりなのかは分からない。
出来れば前者であって欲しいけど、本人に聞かなければ所詮は俺の妄想に過ぎない。
( "ゞ)(……俺、何も知らないんだなあ)
連絡先や行き先だけじゃない。
好きなものや嫌いなもの、趣味や特技、11歳からの空白の6年間の事。
そんな会話なんて数えるほどしかしていなかった事に気付いた。
( ゝ)「……」
どっと体の力が抜けて、再び畳の上に仰向けに倒れ込む。
蛍光灯の光すら鬱陶しく思えてきて、腕で目元を覆い隠した。
( ゝ)(……このままじゃ駄目だ、いくらなんでも駄目すぎる)
離れ離れになってしまう前に、ミセリの事を知ろう。
これからじゃなくて、今すぐにでも互いを深く知って、近付いていこう。
そんな思いで頭がいっぱいになる。
( "ゞ)(探しに行こう、時間ならまだたくさんある)
決心して腕をどかすと、蛍光灯の白い光が目を刺した。
少し目を細めつつ、さっきよりも勢いよく跳ね起きる。
苦心して閉めた鞄を開けて、服の山の下に埋もれていた時刻表を取り出した。
( "ゞ)(えーっと……最低で暗くなるまで探すとして……終電か)
田舎だからか、電車は夕飯時には終電が来るようになっていた。
暗くなったら土地勘のない俺には危なくて、あちこち探し回れない事を考えるとちょうどよかった。
( "ゞ)(……とりあえず、浜辺に行ってみるか)
終電の時間を携帯にメモし終わって、すっくと立ち上がる。
電気を消しながら聞き耳を立ててみても、雨音は聞こえてこない。
降ったり止んだりを繰り返している事を考えると、傘は持っていった方がいいだろう。
廊下に出ると、テレビ番組の笑い声が聞こえてきた。
何もやる事がないなら、じいちゃんとばあちゃんは居間にいるはずだ。
(;"ゞ)(……こっそり出かけるのはさすがにまずいよな)
ふと、ミセリが自分の事を知られるのを、頑なに拒んでいた事を思い出した。
玄関に向かっていた足を止めて、廊下の真ん中に突っ立って思案に暮れる。
( "ゞ)(最後に外を見てきたいとか、適当に言っておけばいいか)
考えがまとまったところで、行き先を玄関から居間へと変更して歩き出す。
居間に辿り着いて、少し引っかかる障子を無理矢理開けた。
(;"ゞ)「あれっ?」
ところが、予想に反して居間はもぬけの殻だった。
飲みかけのお茶が置かれた空間に、点けっ放しのテレビの音声がむなしく響いている。
思考が止まってしまい、棒立ちのままで数秒間の時が流れる。
(;"ゞ)「……あれー?」
ようやく頭が動き始めて、これからどうするか、という案が浮かんでは消えていく。
探してみよう、と囁く天使がいる一方で、何か言われる前に出かけてしまえ、という囁く悪魔も現れる。
(;"ゞ)(いや、探さずに黙って出ていくのはまずい)
(;"ゞ)(でも……探して見つからなかったならしょうがない、うん、うん)
中立らしき結論に達して、簡単に見て回る程度に家の中を探す。
しかし、じいちゃんとばあちゃんは見つからなかった。
仕方ない、と勝手に納得して、書き殴った手紙を居間の机の上に置いておいた。
(;"ゞ)「しょうがない、やれる事は全部やった、うん」
第三者目線の自分に責められている感覚が拭えなくて、自分に言い聞かせるように口に出す。
同時に大きく頷きながら靴を履こうとするも、揺れる視界では履き辛い事に気付くのにだいぶかかった。
思っていたよりも、かなり気持ちは焦っているらしかった。
(;"ゞ)「ははは……はあ」
冷静になって靴を履き終わると、乾いた笑いとため息が漏れてきた。
今からこんな調子では、ミセリと会った時にひどい事になるのは目に見えている。
雨上がりの涼風で頭が冷える事を願いながら、外に出ようと戸に手をかけた。
(`・ω・´)「おう、どっか行くのか?」
(;“ゞ)「あ」
俺が力を込めようとした瞬間、勝手に戸が動いてじいちゃんが目の前に現れた。
(;"ゞ)「じじじじいっじじじいちゃんっ!!!」
(`・ω・´)「何を分かり切った事言ってんだおめえは。それよか、出かけんのか?」
(;"ゞ)「いい一体っどっどどどこ行っててっ」
心のどこかに抱いていたやましさのせいか、自然な会話をしようとしても上手く口が動いてくれない。
頭が真っ白になって、単なる質問にも満足に答えられないでおろおろするばかりだ。
(;`・ω・´)「ちょっくら倉庫に行ってただけだ。んな事より、おめえは出かけんのか聞いてん」
(;"ゞ)「なーんだ、そ、そうだったんだねー。うん、俺ちょっと出かけてくるよ」
俺には弁解不可能な怪しさだと察して、逃げられるうちに逃げようと決めた。
少々噛みながら返事しつつ、足早にじいちゃんの体の横を通り抜けようとする。
(`・ω・´)「待て」
(;"ゞ)「ひゃいっ!?」
しかし、肩を思い切り掴まれると強引に引き戻された。
よろけた体勢を立て直して顔を上げると、じいちゃんが後ろへは行かせまいと正面に立ちはだかっていた。
その表情はいつになく真剣で、蛇に睨まれた蛙のように委縮してしまう。
(`・ω・´)「なんでそんなに急いで出ていこうとすんだ?」
(;"ゞ)「え、えーと、それは最後にあれこれ見てきたくて……」
取り調べをされているような気分になりながら、恐る恐るでっち上げた理由を話す。
喉も唇も声を出せる最低限しか動かなかったんじゃないか、と思うほど小さな声しか出せなかった。
(`・ω・´)「そんなの俺が車に乗せてってやる。どこがいい?」
(;"ゞ)「いや、なんていうか、自分の足で歩いてこようかなって」
(`・ω・´)「それでもよ、今から急ぐほど時間はかからねえぞ?」
(;"ゞ)「あ、の……」
じいちゃんは俺が何か言うなり、さらに突っ込んで聞こうとしてくる。
間違いない、じいちゃんに完全に怪しまれている。
俺が何を言っても、本当の事を言わない限りは聞く耳を持ってはくれないだろう。
(`・ω・´)「単当直入に聞くぞ? おめえ、何しに行くつもりだったんだ?」
(;"ゞ)「……」
ついに退路を断たれてしまった。
頭の中で、色々な思考が天秤にかけられていく。
強行突破するか、今すぐ理由をでっち上げるか。それとも、ミセリの事を全て話してしまうか。
(`・ω・´)「……言えねえか。言えねえような事をしに行くつもりだったのか?」
(;"ゞ)「いや、そんな」
決して人に言えないような事じゃない。ミセリとはそんなやましい関係じゃない。
だったら、ここで洗いざらい話してしまって潔白を証明してしまえばいいはずだ。
ただ、あれだけ嫌がっていたのに話してしまっていいのか。
(`・ω・´)「デルタ、おめえは俺の大事な孫だ。何か間違った事をしようとしてるなら」
じいちゃんが深刻そうな声で俺を諭す。
何も心配するような事をしてないなら、安心させてやるべきなんじゃないか。
本当の事を話したって、ミセリはきっと分かってくれるんじゃないだろうか。
(`・ω・´)「引っ叩こうが嫌われようが、このまま外に行かせる訳にはいかねえ」
じいちゃんの固い決意が込められた言葉が、片方に傾き始めた天秤の皿に乗せられる。
それが最後のひと押しになって、皿が地面に着いた。
(;"ゞ)「……じいちゃん、あのさ」
ミセリには悪いけど、全てを話そう。
( "ゞ)「俺がこっちに来た日にさ、車で海岸線を走ったでしょ?」
(`・ω・´)「……それがどうしたってんだ」
じいちゃんの返答はぶっきらぼうで、実にそっけない。
孫が非行に走ろうとしてると勘違いしてるんだから、無理もない事だ。
( "ゞ)「その時に浜辺に女の子がいたんだけど、覚えてない?」
(`・ω・´)「いや、俺は誰も見てねえ」
運転していたせいか、じいちゃんはミセリを見ていないらしく首を横に振る。
白い砂浜に溶け込むような、紛らわしい服を着ていたせいだろうか。
( "ゞ)「そっか……まあ、それはともかく。実は手伝いが終わった後、その子に会いに行ったんだ」
(`・ω・´)「……そいつにたぶらかされたってか?」
(;"ゞ)「ち、違うってば! 黙ってたのは悪かったけど、別にやましい事は何も無いって!!」
案の定、じいちゃんはミセリに対してあらぬ誤解を抱いていた。
だけど、俺がミセリの事をきちんと説明してやれば、じいちゃんだってすぐに考えを改めてくれるはずだ。
両手を千切れそうなほど振って、真っ向から否定してやる。
(;"ゞ)「小さい頃だけど、じいちゃんだって会った事がある人なんだよ!」
(`・ω・´)「ほう……?」
そう伝えると、じいちゃんが興味深そうに呟いた。
幸い、俺の話を聞いてくれる気になったようだ。
チャンスを逃すまいと、一気に畳みかける。
( "ゞ)「俺が前に来た時に仲良くなった、ミセリって子なんだよ」
(;`・ω・´)「ミセ……リ?」
( "ゞ)「そう! たまたま向こうもこっちに来てたみたいでさ」
じいちゃんはミセリの名前を聞くと、眉をひそめて聞き入り始める。
どうやら、だいぶ昔の事だけど覚えていてくれたみたいだ。
( "ゞ)「一昨日は夜の海岸で花火して、昨日だって祭りに一緒に行ってたし」
(;`・ω・´)「……おい、待て」
話していくうちに、じいちゃんの顔色がみるみる曇っていく。
花火の事が気に触れたのかもしれない。ちゃんとフォローを入れておくべきだろう。
(;"ゞ)「あ、夜に抜け出した事も教えなかった事も悪いと思ってるけど、それはミセリが昔……」
(;`・ω・´)「待てって言ってんだろ!!」
(;"ゞ)「へっ!?」
いきなりじいちゃんに肩を掴まれて、話を大声で遮られてしまった。
間近まで迫ってきた表情は怒っているのか、限界まで目は見開かれている。
(;"ゞ)「い、いや、別に嘘は言ってないし、これから謝ろうと」
(;`・ω・´)「おめえな、自分が何言ってるか分かってんのか!?」
見える物全てが輪郭を失うほど、掴まれた肩をがくがくと揺さぶられる。
世界の一大事が訪れたような剣幕に、言葉を飲み込んでしまう。
(;`・ω・´)「ミセリちゃんがいる訳ねえだろうが……!」
(;"ゞ)「は?」
さっきの言葉をそのまま返してやりたい気持ちで、頭の中がいっぱいになる。
思わず、空気が漏れたみたいな間抜けな返事をしてしまった。
(;`・ω・´)「いいか、ミセリちゃんはな……ミセリちゃんはな!」
突拍子もない事を言い始めたじいちゃんの次の一言は。
(;`・ω・´)「ミセリちゃんは、おめえが12の時に亡くなっただろうが!」
( "ゞ)「……は?」
やっぱり、突拍子のないものだった。
(;"ゞ)「……は、はは、ははははは」
吐息を漏らすだけだった喉がほぐれて、ようやく乾いた笑い声が出た。
可笑しいわけでもないのに、何故だか笑いが止まらない。
(;"ゞ)「ははは、はは、はは、は、どうしたの、急に」
(;`‐ω‐´)「……」
(;"ゞ)「一気にボケちゃって……あ、もしかして、熱中症とか」
たちの悪い冗談を話してくれたじいちゃんは、神妙な面持ちのまま黙っていた。
シリアスな演技が上手すぎて、俺の方がおかしいみたいになってしまっている。
少ししたら、姿の見えないばあちゃんと仕掛け人のミセリが、プラカードを持って出てくるはずだ。
(;`‐ω‐´)「おめえが12の夏にな、こっちに来る途中に車にはねられたそうだ」
(;"ゞ)「や、やけに細かく設定、してあるね……誰が考えたの……?」
俺の言う事を無視して、じいちゃんは無駄に作りこまれた設定を話し始める。
どうせ、恋人が死ぬ話とかが好きそうなミセリが考えたんだろう。
(;`‐ω‐´)「ミセリちゃんのじいさんとばあさんから、そう聞いた」
(;"ゞ)「冗談でも、人を死なせるなんて、さ、ひどいよ」
(;`‐ω‐´)「それからすぐ、糸が切れたみたいにふたりともぽっくり逝っちまったけどな」
(;"ゞ)「ほ、ほら、また死なせた。こんな話で、泣かせようなんて」
一向にネタばらしをしないみんなに苛立ちすら覚え始める。
とっくにタネは割れているんだから、さっさと出てくればいいのに。
(;`‐ω‐´)「俺がおめえん家に知らせて、葬式の日取りやら」
(# ゝ)「そんなわけないだろ!!!」
(;`・ω・´)「でっ……!」
いよいよ限界を迎えて、つい怒鳴ってしまった。
あの男気たっぷりのじいちゃんも、思わずたじろいでしまうくらいの剣幕だ。
ばあちゃんもミセリも、早く出てこないと大変な事になると気付いて欲しい。