「……」
「……ちっ」
「違うの、好きだけどっ、でも、でもそういう意味じゃなくてっ」
「……」
「ちょっと、からかおうと思って、ほっぺ、にちょっとだけ、ならいい、かな、って」
「……」
「そしたらっ、そしたら急に、こっち、っ、向いたからっ」
「……」
「……だからっ、あの、そのっ」
「……」
「……じ、じゃあねっ!!!」
「……」
砂を蹴る音が遠ざかっていく。
線香花火は互いが触れ合う直前に落ちた。
蝋燭は互いが離れる直前に消えた。
だから、ミセリがどういう表情をしていたのかは分からない。
嫌だったのかもしれない。追いかけるべきなのかもしれない。
だけど、夢の中にいるみたいに俺の体は上手く動いてくれなかった。
夢にしてはやけに鮮明に残る唇の感触に戸惑いながら、俺は煙の臭いが残る砂浜に立ち尽くしていた。
( “ゞ)は夏を待っているようです
第二話 アストロノーツ
終わり
山の向こうの雲がゆっくりと割れて、沈み始めた夕日が顔を覗かせる。
ようやく見えた空はすでに薄紫色に染まっていた。
( "ゞ)「……」
ほとんど思考を停止していた頭が再び動き始める。
もう日が暮れる、という事はこれから夜になるという事で。
そこまで考えたところで、意識は昨日の記憶の中に潜っていく。
『違うの、好きだけどっ、でも、でもそういう意味じゃなくてっ』
『ちょっと、からかおうと思って、ほっぺ、にちょっとだけ、ならいい、かな、って』
『そしたらっ、そしたら急に、こっち、っ、向いたからっ』
焦点が合わなくなるほど眼前に近付いたミセリの顔が思い浮かぶ。
蝋燭に照らされた長い睫毛、海風と混ざった髪の匂い、柔らかい感触。
耳の先が火を付けられたように熱くなってきた。
(((//ゝ/)))「〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
何も手につかないままぼんやりと過ごして。
ふとした瞬間に昨日の事を思い出して、ごろごろと転がり回りたくなって。
起きてからずっと飽きることなく、何度も同じ事を繰り返していた。
第三話 アフターイメージ
(*"ゞ)「はああ、あー」
まだ熱い顔を両手で懸命に扇ぐ。
雨が降って暑さが和らいだとはいえ、それなりの気温である事には変わりない。
傍らに置かれた麦茶の残りを飲み干して、水滴の付いた掌を額にあてがった。
(;"ゞ)「気持ちいいいいいいい……」
やっと火照りが収まってきて、気の抜けた声が漏れた。
体の力を抜いて縁側にべたり、と倒れ込む。
天井の木目を見つめながら、冷静になった頭でこれからの事に考えを巡らせる。
( "ゞ)(……どうしよう)
花火の終わる間際にミセリと交わした約束。
今日の夜に神社で行われるというお祭りに行くか、行くまいか。
普通なら何も迷う事はないのに、昨日の事を考えるとためらいが生まれる。
(;"ゞ)「ああああ、もう!! ちくしょう!!」
行くのならそろそろ家を出ないといけないのに。
煮え切らない自分への怒りをぶつけるように、髪を乱暴に掻き毟る。
乱れた前髪が鼻の頭をくすぐるだけで、後には無駄に疲れた体が残った。
(;"ゞ)「ふーう……はあ」
静かな家の中に小さなため息の音が響く。
じいちゃんもばあちゃんもすでに祭りの会場へ行っていて、家には誰もいない。
独り言を気にせずに考え事が出来る絶好の環境だったのだけど、このザマだ。
(;"ゞ)「とりあえず出よう……」
昼間に祭りの話になって、ふたりに行くと言ってしまった。
ミセリが迎えに来るのかも、来ないのかも分からないけど、祭りには行かないとならない。
(;"ゞ)「ミセリが来るなら途中で会えるだろ、うん……」
自分に言い聞かせるように呟いてから、勢いよく上半身を起こした。
またあれこれ考えだして止まってしまわないうちに、勢いのまま立ち上がって玄関に向かう。
(;"ゞ)「……暗くなって見えなくなる前に行かないとなあ」
吸い込まれそうな暗闇が脳裏によぎって、背筋に冷たいものが走る。
そそくさと靴を履いて戸を開けると、今まさに山の向こうへ夕日が沈もうとしていた。
( "ゞ)「あ」
ミセ*゚ー゚)リ「あ」
夕日が眩しくて細めた目に、白い影が映る。
ちょうど来たのだろう、ミセリが玄関から少し離れた場所にいた。
ミセ*゚ー゚)リ「……」
( "ゞ)「……」
何故かお互いに立ち止まって、数瞬の沈黙が流れる。
近くの木に留まった蝉が一匹、俺達を冷やかすように鳴きわめく。
(;"ゞ)(やばいやばいやばいああやばやばびゃいいっばばばあ)
頭の中がぐちゃぐちゃになって、今すぐダッシュで家に戻ってしまいたい衝動に襲われる。
ミセ*゚ー゚)リ「あ、よかった。デルタもちょうど出るところだったんだ」
(;"ゞ)「ふぇぇ?」
しかし、対するミセリは昨日と何一つ変わらない様子で、俺に話しかけてきた。
ミセ*゚ー゚)リ「入れ違いになったらどうしよう、って思ってたんだけど危なかったねー」
(;"ゞ)「ああ、うん」
適当に相槌を打ちながら、急いで頭の中を整理していく。
ミセリは昨日の事を何とも思っていないんだろうか。
顔は見えなかったとはいえ、かなり取り乱していたような様子だったのに。
ミセ*゚ー゚)リ「ぽけっとしちゃって……何かあったの?」
そう聞かれても、今考えている事をそのまま言えるほどの度胸はない。
それに、気にしていないのならわざわざ触る必要もないだろう。
俺がどんなに気になるとしても、黙っておけば昨日のままの俺達でいられるんだから。
(;"ゞ)「いや、別に……何も」
意識して首を横に振り、いつも通りの自分をアピールする。
首を大げさに振りすぎていないか、声は震えていないか。顔は強張っていないか。
普段の自分がどんな風だったか分からなくなるほど、あれこれと考えてしまう。
ミセ*゚ー゚)リ「そっか、じゃあ行こっか」
そんな心配をよそにミセリは、俺を少しだけじっと見つめるとすぐに歩き出した。
〜〜〜〜〜〜
( "ゞ)「おお……コンクリートばっかだ……」
ミセリの後ろに付いていって、神社に向かう道中。
等間隔に置かれた街灯に照らされた、街並みを眺めて思わず呟く。
さすがにVIPと比べると寂しさは否めないけど、街と呼べる風景がそこにはあった。
ミセ;゚ー゚)リ「どれだけ田舎だと思ってたの……」
どうやら聞こえていたらしく、振り返ったミセリに呆れたような声で問われる。
(;"ゞ)「だ、だって、駅やじいちゃん家の周りって畑しかなかったし」
ミセ;゚д゚)リ「それは駅やデルタのおじいちゃんの家が外れにあるから!」
突然の質問に噛みまくりながら答えると、ミセリはあっさりと返して再び前を向いた。
呆れたような大きなため息が後ろにいる俺にも聞こえてきた。
それを最後に、無言のまま歩くだけの時間が過ぎていく。
(;"ゞ)「そっか……」
小さく呟いた俺の相槌に対する返事はない。
神社に向かっている間、ずっとこんな感じだ。
基本的に無言で、どちらかの独り言をきっかけに会話が始まってはすぐに途切れる。
そして、しばらく沈黙が流れては再び会話が始まる。
正直、気まずいなんてものじゃない。
(;"ゞ)(どうすりゃいいの? この空気どうすりゃいいの?)
このなんともいえない雰囲気の原因は、十中八九昨日の一件だろう。
かと言ってデリカシーだとか、女心だとか、これっぽちも分からない俺の事だ。
うっかり逆鱗に触れて今すぐこの場で解散、なんて事態になりかねない。
ミセ*゚ー゚)リ
少し先を歩く悩みの種の張本人は、特に昨日から変わった様子はない。
あくまで、俺の見た限りだけど。
(;"ゞ)(なんかお腹痛くなってきた……)
痛みを紛らわせようと、体を反らして大きく伸びをしてみる。
星が散りばめられた夜空が視界一面に広がり、体を雨の匂いが混じった夜風が撫でていった。
解放感に身を委ねてみると、不思議と気分も痛みもほんの少し楽になった。
( "ゞ)「……ん?」
ふと、空の片隅だけが不自然に黒一色に塗りつぶされている事に気付く。
立ち止まってその一点を注視してみると、大きな家が俺と空の間にそびえ立っていた。
(;"ゞ)(な、なな、何か出そう……ボロいし……)
人が住んでいる気配は感じられず、敷地内の植物は伸び放題だ。
壁は葉で覆われてしまっている部分すらある。
幽霊屋敷のお手本のような様相と時間帯も相まって、見ているだけで背筋に寒気が走る。
ミセ*゚ー゚)リ「何してるn」
(;"ゞ)「ひいいい!!」
いきなり視界に入ってきたミセリに驚いて、思わず情けない声を出して後ずさってしまった。
不気味な廃屋に白い服は、駄目な意味で似合いすぎていて困る。
ミセ;゚д゚)リ「えっ、なに!? なんなの!?」
俺に逃げられたミセリは、訳が分からないという様子でうろたえている。
とりあえず、恥ずかしいけど事情は説明しておこうと思った。
(;"ゞ)「あー、ほら、この家ってなんていうか……出そうじゃん?」
ミセ*゚−゚)リ「……うん」
自分で言うのは恥ずかしいので、オブラートに包んで事情を説明する。
だけど、ミセリはどこか上の空で、聞いているのかいないのか分からないような返事しかしない。
神妙な面持ちで、誰かを探すような眼差しで、廃屋を見つめるだけだ。
ミセ* ー )リ「……うん、出るんだよ」
( "ゞ)「は?」
急に俯いて、怪しい笑みを口元に浮かべたミセリがぽつりと呟く。
一瞬、何を言い出したのか理解できなくて、つい聞き返してしまった。
ミセ* ー )リ「この家には老夫婦が住んでいて、休みには孫が来るのを楽しみにしてたの」
(;"ゞ)「あ、のー、ミセリさん?」
ミセ* ー )リ「だけどね、ある日に孫が遊びに来る途中で事故に遭ってしまったの」
(;"ゞ)「そういうのマジで苦手だからやめt」
制止しようとする自分の声が、かすかに震えているのが分かった。
それでも、ミセリは話をやめようとしない。
ミセ* ー )リ「老夫婦は自分達さえいなければ孫は死ななかった、その自責の念から心中をして……」
ミセ* ー )リ「それ以来この家の前を若者が通るとね、声が聞こえてくるんだって」
(;"ゞ)「……」
ミセ* ー )リ「名前を呼ばれて返事をしてしまうと……・」
そこで突然、ミセリは話をやめた。
そして、一歩、また一歩と俺に向かってゆっくりと歩み寄ってくる。
後ずさろうとした瞬間、伸びてきた腕に肩を掴まれて、
ミセ ゚゚゚д゚゚゚)リ「家に引きずり込まれてあの世に連れていかれてしまうんだってえええええええええ!!!!」
(;"ゞ)「ぎゃあああああああああああああああ!!!」
目を思い切り見開き、おどろどろしい声で叫ぶミセリの顔が現れた。
(;"ゞ)「ああああああああああ!!」
腕をはねのけて必死で後ずさろうとすると、足がもつれて尻もちをついてしまった。
ミセ*゚ー゚)リ「……ていう話を今考えたんだけど、どう?」
ドッキリの感想を聞くような意地の悪い笑みを浮かべて、ミセリが俺の目の前までやってくる。
呼吸が整わなくて答えられずにいると、目線を合わせるように膝を抱えてしゃがみこんだ。
(;"ゞ)「……めっちゃ怖かったから、もうやらないで」
ミセ*^ー^)リ「どうしよっかなー♪」
首をかしげながら、可愛く作った声でおちょくってきた。
胸がキュンとして口元がほころびそうになるのをこらえて、そそくさと立ち上がる。
負けた気がして悔しくて、ちょっとだけここにいるのが怖くて、早くこの状況から抜け出したかった。
(;"ゞ)「かわい子ぶっても駄目だからな……ほら、行くぞ」
絶対に絶対にミセリにときめいたからじゃない、とアピールするように。
つい、ぶっきらぼうな話し方になってしまった。
ミセ*゚ー゚)リ「さ・て・は……ここにいるのが怖いな?」
(((;"ゞ)))「ば、ばばばばっかやろー!! そ、そんなわけあるめい!!」
それもあるけどちょっとだけだ、本当にちょっとだけ。
ミセ*^ー^)リ「そうだね、そんなわけないね」
全部分かってます、とでも言いたげな表情を浮かべて、ミセリもゆっくりと立ち上がる。
長い前髪でも隠しきれないほど、俺の心の内は態度に出てしまっているようだ。
ミセ*゚ー゚)リ「さーてさて、こんなとこで油売ってないで行きますか」
(;"ゞ)「そうですねー!! 誰だろうねこんなところで怪談とか話して油売ってた人はー!!」
ミセ*^ー^)リ「さあ?」