(;"ゞ)(やばいかっ!?)
急いで聞き耳を立てて、家の中の様子を窺う。
しばらくの間、やたら大きくなった自分の心臓の音だけが聞こえてくる。
幸い、誰も気付かなかったようだ。
(;"ゞ)(心臓に悪いって……早く出てえ……)
口を開けている事すらいけない気がして、固く唇を結んで再び戸に手をかけた。
蟻が動くような速さで、少しずつ戸が開けられていく。
(;"ゞ)(これだけ開けば出れるよな!? な!?)
ようやく通れる程度に隙間が出来たので、体を横にしてそっと歩を進める。
少し胸が引っかかった時は背筋がぞっとしたが、なんとか外に出る事が出来た。
激しい運動をした訳でもないのに、心臓が痛くなるほど脈打っている。
(;"ゞ)「で、出れた……やっと……はふう……」
口を開いて大きく息を吐くと、解放感で全身が満たされた。
思い切り伸びをしてから携帯で時間を確認する。
何時間も経っていた気がしていたけど、最初に確認した時から20分しか経っていなかった。
きちんと玄関を閉めて懐中電灯をつけると、農機具の置いてある倉庫へ向かう。
昼に見つけた、しまわれる事もなく脇に置かれていたバケツを拝借する事にしていた。
( "ゞ)「よーしよし、穴はないな」
一応底を確認すると、濡れてしまいそうなマッチと灯りの懐中電灯は手に持つ。
ろうそくはポケットに押し込み、バケツを空いている方の手で持って準備は完了だ。
(;"ゞ)「野犬とか熊とか幽霊とか出ない……よな?」
家の敷地から海へ続く道まで出て、思わず尻ごみしてしまう。
懐中電灯があってもせいぜい数m先までしか見えない。
暗闇の中に吸い込まれてしまえば、そのまま出てこられない気すらした。
(;"ゞ)「怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない」
にわかに高鳴り始めた心臓を押さえ付けるように、土の匂いのする空気を胸一杯に吸い込む。
そして、恐怖心を吐きだすがごとく強気な言葉を何度も口にした。
(;"ゞ)「いける! 今ならいける! いくぞ、俺は海にいくぞ!」
意を決して、いつもより短い歩幅で海へと歩き始めた。
〜〜〜〜〜〜
波の寄せては返す音が聞こえてきて少し経った頃、灯りの先に見える道が大きく曲がる。
不意に足下がアスファルトに変わって、浜辺に着いたのだと気付いた。
街灯が道沿いにぽつりぽつりと見えるけど、それでも海の方は真っ暗だ。
( "ゞ)「ミセリー?」
ひとまず街灯の下に行って、ミセリを呼んでみるが返事はない。
時間を確認してみると、待ち合わせ時間を数分過ぎたところだった。
(;"ゞ)「い、いるんだろ! 出て来いって、なあ!」
俺を待っている間に何かあったんじゃないか。
そんな不安が頭をよぎって、声を張り上げて何度も呼びかける。
それでも、帰ってくるのは波の音と風のざわめく音だけだ。
(;"ゞ)「探しにい、行った方がいいかn」
ミセ*゚д゚)リ「わっ!!!」
(;"ゞ)「ぎゃあああああああああああああ!!!!」
ミセ*゚ー゚)リ「やったー! ドッキリだいせいこ……」
::(; ゝ)::「あ、ああ、あああっばっばばあばばばば」
ミセ;゚д゚)リ「やりすぎ……ましたかね?」
背後からミセリの戸惑う声が聞こえてくる。
心配かけさせるな、と思い切り叱ってやりたいけど、体が言う事を聞かない。
腰が抜けたまま、足がぷるぷると震えて立ち上がれない。
::(; ゝ)::「しっしし心配したんっだだかっらな!」
ミセ;゚ー゚)リ「ごめんね……まさかここまで驚くなんて思わなかっt」
(;"ゞ)「ビビりでごめんなさいねえ!!」
客観的に見れば、今の俺は何度も噛みながら女の子に説教する腰砕け野郎。
知り合いには絶対見せられないヘタレっぷりだ。
(;"ゞ)「あああ……まだバクバクしてる」
ようやく落ち着いてきて、よろよろと立ち上がって砂を掃う。
胸を突き破りそうなくらいに心臓が強く脈打っていた。
ミセ;゚ー゚)リ「とりあえず……苦い記憶は花火と一緒に燃やして、ね?」
(;"ゞ)「……激しく賛成する」
いつまでもここでうだうだ言っていても、埒があかない。
花火の準備をするために、浜辺に降りる事にした。
ミセ*゚д゚)リ「おおー、用意ばっちりじゃないですかー!」
(;"ゞ)「ばっちりじゃないと花火出来ないじゃないですか……」
ミセ*>ー<)リ「そうでした!」
色々と予定外の出来事はあったけど、いざ始めようとすると気分も高揚してくるものだ。
ミセリはそれが手に取るように分かるほど、テンションが上がっている。
( "ゞ)「俺が火つけるからさ、ミセリはバケツに海水汲んできて」
ミセ*゚ー゚)リ「はーい」
暗闇の中で浮いて見える白いワンピースが、懐中電灯の灯りと共に遠ざかっていくのを見送る。
ポケットから携帯を取り出し、点けたライトの灯りを頼りに蝋燭に火をともした。
ゆらゆらと揺れる淡いオレンジの炎は、見た目よりもずっと心強く見える。
「きゃあああああああ!!!」
(;"ゞ)そ「!?」
「濡れたああああああああああ!!」
(;"ゞ)「何度も驚かせないでくれよ……」
ほっと胸を撫で下ろしながら、近くにあった流木を手に取る。
平らな面に蝋を垂らして、そこにしっかりと蝋燭を固定した。
背後から悔しげにうめく声が聞こえてきて、振り返るとミセリがすぐそこまで来ていた。
ミセ;>д<)リ「ううう、波め……靴がぁ……」
(;"ゞ)「なんだ、その……ドンマイ」
ミセ;>д<)リ「絶対楽しんでやる……靴の分まで……」
未だにねちねちと呟くミセリと手分けして、花火の束をばらしていく。
こうやって見ると結構な量で、ばら売りしていた分まで買った自分の判断を疑わざるを得ない。
ミセ*゚ー゚)リ「やっぱりたくさんあるなー、がんがん遊ばないとね!」
ミセリは楽しそうだからプラマイゼロ、という事にしておこう。
ミセ*゚ー゚)リ「ばらしかんりょーう! はい、デルタはこれ!」
( "ゞ)「ちょっと待って……こっちも終わり、っと」
一足早くばらし終わったミセリから、手持ち花火を受け取る。
花火を一か所にまとめてから、少し短くなった蝋燭をふたりで囲んだ。
ミセ*゚ー゚)リ「点火しまーすっ」
( "ゞ)「どうぞー」
花火の先に小さく火が点って、徐々に大きくなっていく。
数瞬後、数え切れないほどの火花を伴って、鮮やかな炎が勢いよく噴き出した。
ミセ*゚ー゚)リ「綺麗だなぁ……」
( "ゞ)「お、俺のもついた」
ミセ*゚ー゚)リ「あ、デルタの色違うねー」
小さい頃のように花火を振り回す事も、走り回る事も、何かを燃やす事もない。
それでも、次々に色を変える炎を眺めているだけで、不思議と胸が躍った。
ミセ*゚ー゚)リ「これだけあるんだし……贅沢にいっちゃいますか!!」
始めてすこし経った頃、ミセリがたくさんの打ち上げ花火を胸に抱えて離れていく。
(;"ゞ)「そういうのってさ、普通は最後の方にばーっと……」
ミセ*゚ー゚)リ「どうせ最後の最後は線香花火って決まってるんだから、いつやっても一緒だって!」
俺の進言にミセリは聞く耳も持たず、打ち上げ花火を並べ始めた。
片手では持てずに傍らに置かれた花火の数は、ひとりでは火を付けるのも苦労しそうな数だ。
( "ゞ)「ったく……その提案、乗るよ」
ミセ*^ー^)リ「そう来なくっちゃー♪」
花火を二、三個拾い上げて、ミセリの置いた花火の横に並べていく。
すべて並べ終えると結構な長さになった。
懐中電灯の灯りでは、反対側にいるミセリの顔がよく見えないほどだ。
ミセ*゚ー゚)リ「それじゃあ、お互いに反対側から真ん中に向かって付けていくんだよ!」
( "ゞ)「任せときなさいっ」
ミセ*゚ー゚)リ「火が付いたらダッシュだからね!」
( "ゞ)「はいはーい」
火を付けるための手持ち花火を数本持って、うち一本に火を付ける。
ふたりともほぼ同時に火が付き、砂浜を蹴って走り出した。
すぐに炎の向こうに打ち上げ花火が見えてきて、端からひとつ、またひとつと点火されていく。
ミセ;゚д゚)リ「あっ、やばっ!! 消えちゃった!!」
(;"ゞ)「何やってんのおおおおおおおお!?」
残りひとつというところで、ミセリの花火の火が消える。
慌てて手を伸ばして俺が代わりに火を付けた瞬間、俺の花火も役目を終えたかのように火が消えた。
離れるために真っ暗な中を、蝋燭の灯りを道しるべに戻っていく。
ミセ;゚ー゚)リ「ありがとー、助かったー!」
(;"ゞ)「どういたしましてえええ!」
ふたりして息を切らして、元いた場所に戻った時だった。
破裂音と共に光が射して暗闇に風景がぱっ、と浮かび上がる。
数秒も経たないうちに音は鳴りやまなくなって、砂浜は明るいままになった。
( "ゞ)「おお……」
ミセ*゚ー゚)リ「わあ……」
心を奪われた俺達は、ため息を吐く事しか出来ずにその場で立ち尽くす。
俺とミセリしかいない真っ暗な浜辺は宇宙のように思えて。
火の華は夜空に輝く星のように思えて。
普段見上げている夜空に自分が浮いているように思えて。
まるで、自分が宇宙飛行士になったように思えた。
〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜
たくさんあったはずの花火は、いつの間にか線香花火を少し残すだけになった。
浜辺は暗闇に戻って、手元で火花が弾ける音と波の音だけが響いている。
( "ゞ)「……あっ、落ちた」
火玉が風に揺れて、火花を散らしたまま砂に落ちる。
ミセ*゚ー゚)リ「はい、これで最後」
( "ゞ)「あんなに買ったのになあ……」
受け取った線香花火を眺めて、なんだかしんみりとしてしまう。
胸を満たす感情は、夏が終わる感覚に似ていた。
ミセ*゚ー゚)リ「あたしもこれが落ちたら最後……って落ちちゃったよ」
そう言いだした途端に火玉が落ちた。
ミセリは残念そうに呟いて、花火をまとめていた場所に手を伸ばす。
そこに残っているのは、一本の線香花火だけだった。
ミセ*゚ー゚)リ「……なんか寂しくなるね」
ミセリが名残惜しそうに最後の一本を眺めながら呟く。
その顔を照らす炎が灯る蝋燭も、もうすぐ燃え尽きようとしていた。
(;"ゞ)「で、でもさ、ほら、その……」
湿っぽくなった雰囲気をなんとかしようと、とっさに何か話そうとする。
だけど、慣れない事は出来るはずもなくて、すぐに言葉に詰まってしまった。
(;"ゞ)「またやろうとすれば花火は明日にだって出来るし、明後日にだって」
ミセ* ー )リ「分かってないなぁ、デルタは」
(;"ゞ)「へっ?」
ようやくどうでもいい事を喋り始めた瞬間、ミセリが俺の言葉を遮る。
頭が真っ白になっている俺に、寂しげに微笑んでみせながら。
ミセ*゚ー゚)リ「来るかどうかも分からない明日や明後日の事なんて、今はどうでもいいの」
(;"ゞ)「……?」
ミセ*^ー^)リ「そんな事より楽しかったから今日が終わっちゃうのが嫌、っていう事」
(*"ゞ)「あ、え……そ、そうか……」
ミセリは照れくさそうに笑いながらそう答えた。
何を伝えたかったのかをやっと理解して、途端に全身がむず痒くなってきた。
少しの間、お互いに無言のままで時間が過ぎる。
ミセ;゚ー゚)リ「ま、まあ明日も明後日も来ないなんて事ないだろうし」
(;"ゞ)「……ですよね」
ミセ;゚ー゚)リ「とりあえず明日の事でも決めますか?」
(;"ゞ)「じゃ、じゃあそうしますか」
耐えきれなくなったのか、ミセリが自分の言った事を茶化してみせる。
それでようやく俺達の間に流れていた沈黙が破られた。
( "ゞ)「明日は確か午前中が雨なんだよね」
ミセ;゚д゚)リ「うっそぉ!?」
( "ゞ)「ほんとほんと。でも午後からは晴れるって」
今朝に見たニュース番組でそんな風に言っていたはずだ。
花火の件といい、今日ほどテレビに感謝した事はない。
ミセ*゚ー゚)リ「んー、だったら大丈夫かな。明日は行くアテがあるんだ」
( "ゞ)「そうなの?」
ミセ*゚ー゚)リ「なんと明日はね……夜からラウンジ神社でお祭りがあるの!」
(;"ゞ)「なんというタイミング……」
ちょうど良すぎて少し驚いたけど、明日の予定としてこれ以上のものはないだろう。
人混みではぐれないように手を繋いだり、互いのかき氷を味見したり。
いつも羨ましげに眺めていたカップル達のように、そんな事が出来るかもしれない。
(*"ゞ)(期待してもいいんじゃね? うっへうええへへえへ)
ミセ*゚ー゚)リ「……なんかだらしない顔になってるけど、どしたの?」
(;"ゞ)「はっ!?」
ミセリに言われて、慌てて頬を引き締める。
彼女の様子を窺うと、まだ不思議そうに俺を見つめていた。
ミセ*゚ー゚)リ「……まいっか。何時頃に行くかとかは、花火が終わってから決めよ?」
(;"ゞ)「あー、う、うん、ソウデスネー!」
胡散臭い外人みたいな口調になってしまいつつも、普段通りの自分をなんとか取り繕う。
花火に気が移ってくれたみたいで、心の内でほっと胸を撫で下ろした。
ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ、どっちが長く点けていられるか勝負ね!」
そう言うとミセリが立ち上がって、俺の左隣にしゃがみ込んだ。
触れ合う肩の柔らかい感触がやけに気になってしまう。
(;"ゞ)「あ、ああ」
ミセ*゚ー゚)リ「いくよー……せーのっ」
今にも消えそうなくらい小さくなった炎に、線香花火の先を挿し込む。
燃えた部分が徐々に集まり、小さな火の玉が作られる。
ぱちり、と火花がひとつ散って、それを皮切りに暗闇にいくつもの光の筋が走り始めた。
ミセ*゚ー゚)リ「……」
( "ゞ)「……」
無言で花火を見つめるミセリをこっそり横目で眺める。
小動物みたいなあどけなさは影を潜めて、普段よりもずっと大人っぽく見えた。
(*"ゞ)(なんか……妙に色っぽいな)
目を離したくない、という気持ちが胸の奥から込み上げて来る。
それを全身に巡らせようとするように、心臓は速く、大きく脈打った。
ミセ*゚ー゚)リ「どうしたの? あたしの顔、何かついてる?」
(;"ゞ)「ぇ、いや……あの、あー」
まじまじと見つめられていた事に気付いたミセリが顔を上げた。
完全に油断していた俺は、何も答えられずに口を開け閉めするしか出来ない。
ミセ*゚ー゚)リ「あ、さては……あたしに惚れたな?」
(;"ゞ)「いやいやいやいや! 違うから、全然そんなんじゃないから!!」
惹かれている辺り、間違ってはいないけどそんな事を言える訳がない。
悟られまいと必死で首を何度も何度も横に振った。
ミセ*゚−゚)リ「なんだ……違うんだ」
残念そうに呟いて、ミセリは再び顔を下げた。
花火には向けられず、俺から逸らすように少し左を向いて。
その様子は声をかけられるような雰囲気じゃなくて、仕方なく花火に視線を落とした。
その時だった。
「あたしは好きなのに」
その言葉の意味を聞こうと振り向いた瞬間には、ミセリの顔が目の前にあった。
「「……っ!?」」