電気が付いてるのに薄暗い店内に入ると、店番のおばあちゃんのしゃがれ声に迎えられた。
駄菓子から少し時代遅れなデザインの日用品まで、色んな物が雑多に置かれている。
入り口そばの冷蔵ショーケースが唸るような音を出している以外、中はしんと静まり返っていた。
( "ゞ)「花火花火……お、みっけ」
店内を見渡すと、一か所だけ色鮮やかな場所を見つけた。
そこだけは真新しい花火が所狭しと並べられていた。
その横には線香花火やねずみ花火が、箱に入れられてバラ売りされている。
( "ゞ)「とりあえずこのセットになってるのと……あとは……」
色々入ってるセットをふたつ手に取って、花火をする光景を想像してみる。
量的には充分だけど、花火が終わればそれで今日はさよならだ。
そう考えると、なんだか急に物足りない量に思えてきた。
( "ゞ)+「ミセリ、お前ともっといっしょにいたい」
(;"ゞ)「とか言える訳ねえしな……」
小声とはいえ何を言っているんだろう、なんて自分でも思う。
だけど、いっしょにいたいのは本当だし、もっとよく知りたいとも思っている。
(;"ゞ)「……ちょっと多めに買うくらい、いいよな?」
この感情が恋の始まりかどうかは、ずっと後にならないと分からないだろう。
それでも、バラ売りの手持ち花火に手を伸ばそうとする気持ちは、まぎれもなく本物だ。
照れくさくてとても本人の前では言えなくても、だ。
( "ゞ)「すいませーん」
「はぁい」
手持ち花火を一握り持って、そのままおばあちゃんのところに向かった。
花火を差し出すと老眼鏡をかけ、そろばんをはじいて会計し始める。
( "ゞ)「あっ、ちょっとすいません」
一言断って冷蔵ショーケースへと向かう。
ガラスの扉を開くと冷たい空気が吹き抜けて、微かに前髪を揺らした。
( "ゞ)「んー……よっと」
中からラムネを二本取りだし、手持ち花火を数えているおばあちゃんの傍らに置く。
( "ゞ)「これもいっしょにお願いします」
「はいよぉ」
返事をするなり、しわくちゃの手がせわしなく動き始める。
その鮮やかな手つきは思わず見惚れてしまうほどだ。
少し経って動きがぴたり、と止まる。
「2000円になりますぅ」
(;"ゞ)「おおう……」
ある程度の覚悟はしていたけど、やっぱりなかなかの出費になった。
来月の新作ゲームは購入を見送るしかないだろう。
「たぁくさん買いましたねぇ、お友達と花火ですかねぇ?」
(;"ゞ)「あ、はい……あそこに座ってる子と」
お店の人に急に親しげに話しかけられる、という慣れない事態に少し戸惑う。
振り返ると、ベンチに座るミセリの頭がちらりと見えた。
おばあちゃんに分かりやすいように、指差して質問に答える。
「あの……子……んん?」
曲がった腰を伸ばして、おばあちゃんはミセリの姿を探す。
それでも、目が見えづらいのかなかなか見つけられないようだ。
「……まぁ、よく分からないけど楽しんでちょうだいねぇ」
( "ゞ)「ありがとうございます、それじゃ」
結局、おばあちゃんはミセリを見つけられないまま会話は終わった。
ビニール袋に詰められた花火とラムネ二本を持って、ミセリの待つベンチへと戻る。
( "ゞ)「ただいまー」
ミセ*゚д゚)リ「おかえ……うわあー、いっぱいあるー!!」
ミセリは最後に見た格好から微動だにしていなかった。
しかし俺の方を向くなり、すぐに目を丸くして寄ってきた。
まるで飼い主の帰りを待っていた子犬みたいで、耳や尻尾はなくても愛くるしさ満点だ。
( "ゞ)「はい、これも」
ミセ;゚д゚)リ「えっ!? そんな、いいよ……」
目を輝かせて花火を見つめる眼前にラムネを差し出す。
だけどミセリは遠慮しているのか、それを受け取ろうとしなかった。
( "ゞ)「なんとなく二本買っちゃったからさ。せっかくだし、いっしょに飲みながら帰ろうよ」
なんとなく、というのは半分嘘で半分本当だ。
こういうシチュエーションへの憧れはずっと持っていた。
だけど、ショーケースの扉を開けるまでは自分の分しか買うつもりはなかった。
ミセ*゚ー゚)リ「うーん……じゃあ、いただきますっ」
何故だか、ラムネを探しているうちにミセリの顔が浮かんできて。
気付けば片手に二本持って扉を閉めていた。
ミセ*^ー^)リ「ありがとう、デルタ」
少し悩んでラムネを受け取ったミセリが軽く頭を下げる。
上げた顔に笑みを浮かべている辺り、喜んでくれているようだ。
とっさの思いつきとはいえ、買った甲斐があった。
(*"ゞ)「いいっていいって。さ、帰ろう」
ミセ*゚ー゚)リ「うん!」
ラムネの蓋を覆うビニールを取りながら、来た道を戻り始める。
栓をしているビー玉を中に押し込むと、炭酸の吹き出す音がした。
少しこぼれた中身が瓶を持つ手を濡らす。
(;"ゞ)「ありゃ、もったいね」
ミセ;゚ー゚)リ「こらー、意地汚いから舐めないの」
瓶を反対の手に持ち替えて、口元に手を持っていこうとするとミセリからお叱りを受けた。
急いで引っ込めた手をつたって、地面にラムネが垂れて吸い込まれていく。
ミセ*゚ー゚)リ「うむ、よろしい。それじゃあたしも……ふんっ!!」
満足気に頷いたミセリは瓶を胸に抱えて、力いっぱい掌を押しこんだ。
ミセ;゚д゚)リ「ひゃんっ!?」
俺のラムネより勢いよく炭酸が吹き出して、手だけじゃなくワンピースまで濡らす。
体から遠ざけるも中身は溢れ続けて、収まる頃にはだいぶ減ってしまっていた。
後に残ったのは、唖然とした表情で瓶を見つめるミセリだけ。
ミセ;゚д゚)リ「……もったいな」
( "ゞ)「意地汚いんじゃなかったの?」
ミセ;゚д゚)リ「……」
しばらく固まったままになった後、ミセリは瓶を口元に持っていって舌をちろりと出す。
俺がさっき言われた事をそのまま返すと、無言で引き下がった。
その様子がおかしくてたまらず、笑みが込み上げてくる。
(*"ゞ)「はっははははは!」
ミセ;゚ー゚)リ「むう……」
口を尖らせながら俺を見つめるミセリを横目に、ラムネをぐいっと喉に流し込む。
痛いくらいにはじける炭酸の感触と冷たさが、夏空の下ではとても清々しく思えた。
ミセ;゚ー゚)リ「そこまで笑わなくてもいいじゃん……」
愚痴りながらミセリはラムネに口を付け、飲み込んでから一言。
ミセ;゚ー゚)リ「シュワシュワしない……」
行きは歩き疲れていたけど、帰りは笑い疲れる気がした。
〜〜〜〜〜〜
瞼を開いて携帯で時間を確認すると、もうすぐ10時半になろうとしていた。
昼とは打って変わって静かで、木々が風でざわめく音しか聞こえてこない。
布団から出ると、物音をたてないように少し汗ばんだ寝巻を着替える。
( "ゞ)(起こさないように……と)
荷物の中から、寝る前にこっそり拝借したろうそく数本とマッチを取り出す。
仏壇に置いてあった物だから、夜のうちにばれる事はないだろう。
( "ゞ)(……もうすぐなんだな)
ふと、昼間にミセリと交わした会話を思い返す。
――――――
ミセ;゚д゚)リ『……よく考えたら、花火するって言ったらあたしの事ばれちゃうじゃん!』
(;"ゞ)『いや、ばれたってミセリとじいちゃんが会う訳じゃないんだし……』
ミセ;゚д゚)リ『とにかくダメなの!! どっどどどっどどうしよう!?』
(;"ゞ)『えー?』
ラムネも空になった頃、ミセリが急にこんな事を言いだしてきた。
個人的に問題ないと思ったけど、向こうには大問題らしい。
理由を聞いてもダメだから、の一点張りで教えてくれない。
ミセ;゚д゚)リ『でっ、デルタ、家から抜け出してきて!』
(;"ゞ)『そこまでしないといけないの!?』
理由も話してくれないのに言う事を聞けるほど、俺は心の広い人じゃない。
ミセ;゚ー゚)リ『……お願い、します』
訴えかけるミセリの眼差しは真剣そのもので。
首を縦に振りたくなってしまう衝動と、理性の狭間で思考が揺れ動いた。
(;"ゞ)『……理由は、言えない?』
ミセ; − )リ『……ごめん』
(;"ゞ)『そのうち言ってくれる?』
ミセ; − )リ『言う……絶対に言う……!』
(;"ゞ)『……じゃあ、今回だけ、だからな』
俺は心の広い人じゃない。
だけど、目の前で真剣に頼まれると断れないヘタレでもある。
今回だけ、と自分にも言い聞かせるように、ミセリにそう告げた。
ミセ; д )リ『ありがとう……ありがとう……』
何回やっても足りないと言わんばかりに、頭を下げては消え入りそうな声でお礼を言う。
(;"ゞ)『いいから、いいからそんな……』
ミセ; д )リ『うん……分かった、元に戻るから待ってて』
乱暴に麦わら帽子を被ったまま俯いて、しばし道の真ん中で立ち止まる。
ミセリに関わる事すら拒否されたみたいに感じて、俺はただ彼女の横で立ち尽くしていた。
やがて、帽子を背中へと追いやって、ミセリはゆっくりと顔を上げた。
ミセ*^ー^)リ『もう大丈夫。急いで帰らないとね』
いつも通りの笑顔を向けられ、鼻の奥がつんとする。
その理由は、俺には分からなかった。
――――――
( "ゞ)(何だったんだろう、あんな必死で……)
結局、その後は待ち合わせの時間を決め、ミセリに花火を預けて別れた。
だけど、あの時の事が頭の隅で気になって仕方ないまま一日が終わろうとしている。
( "ゞ)(……言ってくれるって約束したんだ。今気にしたってしょうがないじゃないか)
自己暗示をかけるかのごとく、頭の中で繰り返す。
それに、これから楽しく花火をやるっていうのに、重苦しいムードにでもなったらたまらない。
ひとまず、今は目の前の事だけを考えるようにしようと決めた。
( "ゞ)「よっと……」
足音に気を付けて廊下を歩き、事前に位置を確認しておいた懐中電灯の所へ辿り着く。
打ち付けられた釘に、紐でぶら下げられただけなので難なく手に入った。
後は外に出て、水を入れるためのバケツを持って浜辺へ行くだけだ。
(;"ゞ)「一番の難関だよなあ……」
目の前に現れた玄関を前にして、呟かずにはいられなかった。
原因はただひとつ、引き戸という構造だ。
音がどうしても出てしまうから一気に開ける事は出来ない。
鍵を外して手をかけると、恐る恐る力を込めてみる。
戸が少し震えながらスライドして、静寂の中に思いのほか大きな音が響いた。