男は懐から巾着袋を取りだし、中から白い塊を手に取った。
よく見ると、それが魚を模した飴細工だとわかった。
肩口から腰を、斜めに分断された子供の屍体の口を開けようとし始める。
だが硬直した顎のせいで、僅かにしか口が開かない。
男は片手で飴細工をすりつぶし、小さく開いた口にさらさらと破片を流し込んだ。
彼の視線は少女ではなく、何処か遠くをさまよっていた。
気味の悪い男だと思った。
庫裡を出ると、まだ回っていない道場がないか町をうろつくことにした。
路銀はいつも心許なく、かといって口入れをもらうのも嫌なので、道場破りはし続けていた。
一つの道場を見つけ中に入ったが、他流試合は断られた。
人喰い夜猿を打つために、自警団を組んでいるところで、道場の剣士たちが出払っているらしい。
(゚A゚* )「えらい、物騒なことになってますさかい、うちもてんやわんやですわ」
強い訛りを使う女は、訪れた道場の下女であった。
詫びということで茶を出してもらっているが、試合ができない以上早く帰りたい。
(゚A゚* )「あんた、知ってます? 幕府の方が愚連隊を遣わしてくるって」
(`・ω・´)「愚連隊?」
(゚A゚* )「夜猿です。夜猿を討つために、美府に精鋭を送り込んで来るらしいんです。
嫌ですわあ。この町で物騒なことしないで欲しいんです」
(`・ω・´)「どれだけ急いでも、あと二週間はかかります。
その間に夜猿が別の町に行ってしまうかもしれない」
(゚A゚* )「そうでっしゃろ」
(`・ω・´)「何か奴が、この町に居残る理由があれば、別なんでしょうが……」
(゚A゚* )「しかもですよ、送られてくるのは有子部超急隊(ありしべちょうきゅうたい)という部隊で、
徳川直参の剣豪たちを集めた部隊らしいです。数も、五十人程度いるとか」
有子部超急隊は、幕政が揺らぐときのみかり出される、超級剣客隊である。
徳川の直命でのみ動き、所属している剣士の情報や、全体の正確な人数は秘密にされている。
おそらく、先日の旗本殺害が効いているのだと目星をつけた。
五年もの間人斬りを許した幕府が、やっと重い腰を上げたのだ。
(`・ω・´)(奴らよりも先に、夜猿を討つべきなのか)
様々な思惑が頭を駆けるが、目的はただ一つ、五年前から変わらずにいるものだ。
人喰い夜猿、ブーンを自分の手で斬り殺す。
ただそれだけを目指して、闇にまで墜ちてきた。
(`・ω・´)「ご馳走になりました。のーちゃん殿も、夜道にはお気を付けて」
(゚A゚* )「あら、そんな、大したことしてませんけども」
下女の女は耳を赤くし、飲み干した湯飲みを持っていそいそと部屋から出て行った。
道場から出ると、ただ町をふらふらと歩いた。
あまり寝ておらず、足下が浮ついた。
日が落ちると、朝になるまで町をさまようことも多かった。
ブーンに出くわすことを期待して、わざと人通りのいない道を歩いたが、
今の今まで気配すら感じたことがない。
浪人の集団とすれ違った。
どうやら、浪人同士で手を組んで夜猿を討伐しようとしている者たちだった。
(`・ω・´)(お前らには一生かかっても無理だ)
だが、一人でいるよりは、出くわす可能性だけは高そうだ。
繋がりがあれば、情報の交換も行える。
シャキンのように地道に聞き回っているよりは、よほど賢いかもしれない。
だが誰かと手を組むとすれば、使えない木偶はまっぴらごめんだ。
むしろ、いるだけ邪魔だろうと思った。
「シャキンさん?」
不意に名前を呼ばれ、歩みを止めた。
振り返ると、見覚えのある小男がいた。
('∀`)「探しましたよお。覚えていらっしゃいますか?」
始めはわからなかったが、記憶の底を辿ると、長岡道場の者だと見当が付いた。
ツンのことで自分を探していたのかと思ったが、敵意は感じられなかった。
(`・ω・´)「ええ。長岡道場の」
('A`)「そうですそうです。良ければ、お茶などしませんか?」
(`・ω・´)「いえ、急いでおりますので」
さっさと旅籠に戻って昼寝でもした方が有意義そうに思えた。
男は慌ててシャキンの前に回り込むと、平身低頭で言った。
(;'A`)「ちょっとお待ちください。実は夜猿のことで、仲間を集めているんです。
もしも夜猿を倒して五百両得たいということでしたら、一枚噛んでやみませんか?」
ちょうどそのことを考えてはいたが、安易に受けていいものだろうか。
(`・ω・´)「あなたと私が組むと?」
('A`)「いえ、あたしの家に浪人がおりまして。その男が仲間を欲しいと言っているんです。
大勢はいらないようで。シャキンさんほどの方でしたら、奴も喜ぶと思うのですが」
(`・ω・´)「夜猿はただの辻斬りじゃない。その男は遣える者なのですか?」
('A`)「あたしは商人もやってるんで、目利きにだけは自信があります。
相当な遣い手だと思いますよ」
(`・ω・´)「へえ。そう」
シャキンが抜刀し、刃先を男ののど元に当てるまで、男は何も見えなかったようだ。
いつの間にか自分に向けられていた刀を見て、小さく悲鳴を上げた。
(`・ω・´)「私よりも強いと思いますか?」