その夜も酒を飲んでいた。
冷遇し過ぎたためか、人と会う約束があると言ってドクオが逃げ出してしまったために、
酒樽を居間に置いて飲み続けた。
既に夜は深く、静まりかえった町から夜の気配が流れ込んでくる。
一人で飲んでいてもつまらないので、モララーでも誘おうと、家の中を探した。
モララーはシャキンと一緒に、縁側に座っていた。
( ´_ゝ`)「何してんだ?」
二人は顔を見合わせないまま、無表情に月を見上げていた。
近寄りがたい感じではあったが、二人のちょうど真中に兄者も腰を下ろした。
しばらく無言のまま、三人は月を見上げた。
詩や俳句をたしなむような三人ではなかった。
( ・∀・)「実を言うと、俺は怖い」
始めに口を開いたのはモララーで、心なしか声に気力が無かった。
( ・∀・)「奴に出会ったとき、俺は絶望を感じた。
何年、何百年努力しても、足下にも及ばないような壁を感じた。
元々迷いがあったのだ。何の為に剣を振るうのか、わからなかった。
奴のように何の躊躇もなく人を斬れるのが、俺には理解できん」
(`・ω・´)「闇は闇だ。理解するものではない」
シャキンの話は、いつも曖昧さがあったが、その実的を射ているような気もした。
(`・ω・´)「真剣で立ち会うようになってから、闇というものが何なのか、ますますわからなくなった。
理解できるまで、人を斬ろうと思った。自分よりも強い者と立ち会えば、その片鱗が
浮かび上がるかもしれないと考えた」
今日のシャキンは、普段では考えられないほど饒舌だった。
(`・ω・´)「挑戦は誰からでも受けた。強い者には自分から向かった。
長年の間世話になった師匠でさえ、俺は斬った」
( ・∀・)「師を、斬っただと?」
(`・ω・´)「そうして俺は、墜ちていった。闇など理解せずとも、闇に墜ちればいいのだ。
でなければ、奴と同じ土俵には立てん」
シャキンを見るモララーの顔が微妙なものになった。
彼の並々ならぬ克己心は、闇に墜ちる覚悟の裏返しでもある。
どうしても、モララーには理解ができない部分だ。
( ´_ゝ`)「闇なんざ、夜になれば何処にでも転がってるがね」
とっくりが空になったので、庭の植木辺りに投げ捨てた。
割れる音が小さく聞こえただけで、夜の静寂はすぐに辺りを呑み込んだ。
( ´_ゝ`)「夜猿に弟を殺された」
隣にいたシャキンが、ぴくりと眉を動かした。
( ´_ゝ`)「だからまあ、これは仇討ちになるのかもしれん。
しかし人はいつか死ぬ。あれが弟の寿命だったというだけで、大して気にはしていない」
( ・∀・)「ではどうしてお前は夜猿を追う。命の危険まで犯して」
( ´_ゝ`)「運命さ」
静寂がさらに色濃くなった気がした。
音が、空気が重くなる感覚を覚える。
( ´_ゝ`)「弟は死に、俺は生き残った。双子の弟でな。顔はそっくりだ。よく間違えられる。
おそらくそのとき、俺も死んだ。だが生きている。
もしかすると、辻褄を合わせようとしているのかもしれん」
( ・∀・)「死ぬつもりなのか」
( ´_ゝ`)「冗談はよせ。そこのお侍さんと違って、勝てぬ戦はしない主義でね」
モララーは何となく、兄者が嘘をついている気がした。
だが追求する気は無かった。
運命という陳腐な言葉に、妙な共感も覚えた。
( ´_ゝ`)「あんたは何で夜猿を? まさか数百両ぽっちの金のためじゃないよな」
(`・ω・´)「朝日だ」
何処からか、鈴虫の鳴く声が聞こえる。
(`・ω・´)「俺がもう一度朝日を浴びるには、奴を斬らねばならんのだ」
それ以上シャキンは喋らなかった。
相変わらず兄者は薄笑いを浮かべ、モララーは満ちる直前の月を見上げている。
( ・∀・)「俺はわからないんだ」
モララーは、迷うな、というハインの言葉を再び思い出していた。
今は迷うことこそが自分なのではないかと考え出している。
( ・∀・)「確かに、約束をした。夜猿を討つと誓った。
でもどうして自分が、命を賭して約束を護ろうとしているのか、わからない」
(`・ω・´)「明日、答えが出る」
三人は結局、顔を見合わせないまま、ちりぢりに散っていった。
シャキンだけが、いつまでも夜空を見上げていた。
手の届かない何かを、睨み付けているようでもあった。
十八輪「前夜」 終わり
朝から小降りの雨が続き、道はぬかるんでいた。
宋佐久寺を取り囲む、およそ七十の侍たちの様子が、遠目からでもわかった。
町外れにある宋佐久寺の周りに、町人の姿は無かった。
旅装の者が時々、侍たちに訝しげな目線を送るくらいだ。
正面の階段から三十人、他の者たちは丘を登って宋佐久寺を取り囲むようだ。
( ´_ゝ`)「およそ一刻、程度だろうな」
兄者がぼそっと呟いた。
三人は木の陰に身を隠しながら、丘の上を伺っていた。
( ・∀・)「雨で気配が乱れているが、まだ対峙はしていないようだ」
最終話「最後に立つ者」
(`・ω・´)「正午ちょうどまで待つつもりか」
( ´_ゝ`)「奴さんが、そこまで辛抱強ければそうなるだろうな」
しとしとと降る雨に、三人は体を濡らしていた。
動いてはいないものの、体は芯から熱くなっているので、寒さは感じなかった。
間もなくすると、新緑にも関わらず、木の葉が降ってくるようになった。
雨の冷気を突き破り、肌をぴりぴりと焦がす熱を感じた。
( ´_ゝ`)「始まったな」
丘の上にあるので、境内の様子は見えない。
だが、雨の音に悲鳴と蛮声が混じるのがわかった。
街道は相変わらず緩慢な空気に包まれ、
旅人が急いでいる風でもなく町を目指して歩いて来る。
丘を少し上った所で、壮絶な死闘が行われていると考えると、
妙な気分になった。
三人はただひたすら待ち続けた。
シャキンは目を閉じたまま、木の幹に背を預け、じっと腕組みをしている。
モララーは、飴を舐めていた。
しきりに口の中で飴を転がし、小さくなるとかみ砕き、次の飴を口に入れた。
兄者は視線を宋佐久寺に向けたまま、耳を澄ましていた。
そうして、有子部超急隊が突入し、半刻の時間が経った頃であった。
寸分も体を動かさなかったシャキンが、腕組みを解いた。
同時に兄者が二人を振り返り、モララーは口の中を飴をかみ砕いた。
(`・ω・´)「終わった」
どういう決着なのか、三人にも予測がついていない。
とにかく、境内で始まった戦いが、何らかの形で決着が着いたのだけは察した。
三人は刀を引き抜き、境内への階段を上った。
途中まで上ったとき、三人の足が止まった。
雨の中で空気が震えているのを感じた。
体にべったりと纏わり付く滅びの気配、間違いなく夜猿は生きていた。
さらに上ると、境内から雨と血が混ざったものが流れているのを見つけた。
三人の心臓の鼓動が速まる。
心気をそぎ取り、生命力さえ奪おうとする滅びを、気迫で押し返した。
境内は、地獄と化していた。
おびただしい数の屍体は、全て両断されており、何体転がっているのかわからない。
おそらく、数人か、十数人くらいは逃げただろう。
だが屍体の数だけ見ると、百人以上いたような気さえする。