商店通りを通ると、以前見かけた尺八を吹く飴売りがいた。
一瞬足を止めたが、もう用は無いと考え、通り過ぎた。
「こんなときに散歩かい」
ドクオの薬屋の前で声をかけられ、振り返る。
だらしなく胸元をあけた着流しの兄者が、いつものうすら笑いを浮かべていた。
( ・∀・)「いつから?」
( ´_ゝ`)「商店通りを歩いていたときだ。気がついていなかったのか」
( ・∀・)「考え事を……」
頭の隅に追いやっていた疑問が解け出し、新たな形となる感覚を確かに感じた。
同時に、ハインの屍体が何故川の近くから見つかったか、仮説を立てる。
( ・∀・)「つーは俺を、追ってきたんだ」
( ´_ゝ`)「あ?」
( ・∀・)「だからあのとき、近くにいたんだ……」
( ´_ゝ`)「大丈夫か? 寝ていないんじゃないだろうな」
( ・∀・)「いや、それはいいんだ。もう、いいんだ。
夜猿の居場所がわからないから困ってるって言ってたな」
( ´_ゝ`)「ああ。もしかして、見当がついたのか?」
( ・∀・)「とりあえず中に入ろう」
薬屋の中に入ると、頬杖をついて眠そうにしているドクオが見えた。
軽く挨拶を交わしてから、二人は奥の居間へと向かった。
居間にはシャキンが正座し、静かに瞑想をしていた。
二人が部屋に入ってくると、瞑想をやめて、足を崩した。
とっくりが散乱する部屋に、兄者たちが腰を下ろす。
( ´_ゝ`)「で、奴は何処にいる?」
( ・∀・)「宋佐久寺だ」
( ´_ゝ`)「本当か? 誰からの情報だ」
( ・∀・)「誰かに調べてもらった訳じゃない。あそこで俺の……浪人が一人、斬られた。
だが屍体はそのままにはされず、わざわざ近くの川に移動されたようだ」
( ´_ゝ`)「邪魔だから、片づけたってことか」
( ・∀・)「俺はそう思う」
( ´_ゝ`)「奴があの場所にこだわる理由があるってのか?」
( ・∀・)「それは……わからん」
シャキンは二人の会話を黙って聞いていた。
行動を共にすることになったが、助け合うつもりはなく、心の繋がりは無い。
( ・∀・)「ただ、景色がいい場所なんだ」
( ´_ゝ`)「はあ?」
( ・∀・)「高い場所にあるから、町を遠くまで見渡せる。
夕日や朝日なんかも、綺麗に見られるんじゃないのか」
(`・ω・´)「そこだ」
突然、会話に混ざったシャキンに、二人の視線が集まった。
何故、自分が喋ったのか、どうしてそこが夜猿の場所だと思ったのか、シャキン自身わからなかった。
ただ確信めいたものはあった
( ´_ゝ`)「それじゃあ、確かめてみるか。ドクオ!」
大声で名前を呼ばれると、すぐにドクオが駆けつけてきた。
いつから兄者がこの家に住んでいるのか知らないが、
突然呼びつけられるのはもう慣れてしまっているようだ。
('A`)「何です?」
( ´_ゝ`)「この町に幕府の密偵が既に到着しているはずだ。
夜猿が宋佐久寺にいるっていう噂を、さり気なく流せ」
(;'A`)「え?」
( ´_ゝ`)「さり気なくだ。ただの町人共は知らないが、その筋の人間は知っている。
そういう風に情報を流してくれ」
(;'A`)「いや、そんな、難しくありませんか?」
( ´_ゝ`)「俺は難しさを議論しているんじゃない。やれと言っている」
ドクオはいつもの渋い顔をしながら、部屋から出て行った。
臆病な男だが、頭は切れる。
彼ならやってくれそうな気がした。
( ´_ゝ`)「あとは数日待つ。俺の予測なら十人程度死ぬ。問題は有子部超急隊だ。
まだ町には到着していないようだが、いずれ奴らはやってくる」
(`・ω・´)「人頼みとは、情けない話だ」
( ´_ゝ`)「嫌なら降りてもいいぜ」
二人は軽くにらみ合ったが、最初のような緊迫感は無くなっていた。
元々、気の合う二人ではなかった。
このくらいのいざこざは毎日のように起こる。
( ´_ゝ`)「以前、飲み屋のいざこざで有子部の奴らを斬ったことがある」
初めて聞く話だった。
( ´_ゝ`)「強かったよ。二人まで斬れたが、それ以上は面倒だったから逃げたな。
向こうも俺も、酒に酔ってたしな」
( ・∀・)「では、五十人もいれば夜猿は斬られてしまうんじゃないか」
( ´_ゝ`)「無理だ。奴らでは、絶対に無理だ」
兄者はとっくりをひっくり返し、一滴だけ滴った酒を舌の上に落とした。
( ´_ゝ`)「どれだけ強くても、所詮は乳離れできていない、お坊ちゃんの剣だ」
(`・ω・´)「そうだ。奴を斬ることができるのは、闇に墜ちた者だけだ」
それから数日間、ドクオからの報告を待った。
ある日の夜、兄者から有子部超急隊が町に到着したという話を聞いた。
( ´_ゝ`)「幕府の奴らは、やはり夜猿を甘く見ている」
到着したのは、およそ七十人の部隊らしい。
シャキンが以前聞いた話より多かったが、兄者いわく、これでも全部隊の半数以下らしい。
ドクオの報告は、次の日になった。
川で夜猿に斬り殺された屍体が見つかり、数は全部で二十。
中に幕府の隠密らしき者が混ざっていたということだ。
これで有子部側には宋佐久寺に夜猿がいるという情報が送られる。
部隊の偵察隊が様子見に伺い、また屍体で見つかると兄者は予言した。
次の日の朝、さっそく兄者の予言が的中し、五人の屍体が見つかることとなる。
屍体は川ではなく、富家の敷地内に無造作に投げ捨てられていたようだ。
一連の情報操作、情報収集は、全てドクオ一人が行っている。
鮮やかな手際と言えた。
( ´_ゝ`)「ドクオ。よくやった。駄賃だ、取っておけ」
駄賃と言い、使い物にならなそうな割れ銭を手渡されると、
ドクオの目元がうっすらと潤んだ。
有子部超急隊が町に到着してから、四日が経った。
その日、ドクオから報告されたのは、討伐日時が決定したという話だった。
明日、正午、宋佐久寺を有子部超急隊の全隊員が囲み、
一気になだれ込むという計画となっているらしい。
明日、明日である。
モララーにとって、ついにやってきた、という感じよりも、
とうとう来てしまった、という感覚が強かった。
体の底に巣くう夜猿への恐怖を抑え込めぬまま、
前夜がやってきた。
十七輪「恐怖」 終わり