(*゚ー゚)「あら、お二人さん……」
声に気付いて、モララーとドクオは振り返る。
久しぶりに見る上品そうな笑顔。
( ・∀・)「しぃさんですか。お久しぶりです。
どうしてここに?」
(*゚ー゚)「内藤さんのお墓に、お花を添えようとね」
そう言って、しぃは手に提げた数輪の花を掲げ、モララーとドクオに示す。
白くて大き目な花弁のある、かわいらしい花だ。
(*゚ー゚)「玉簾という花よ。彼岸花の仲間なの。
内藤さんには、この花の方が似合っていると思ったのよ」
そういうと、しぃはブーンさんの墓前に向かい、花を添えた。
( ・∀・)「もう内藤とつーさんのことは知っているんですね」
(*゚ー゚)「ええ、事件のこともすっかりききました。
つーにも近々面会に行こうと思っています」
そう言って、しぃは墓前で手を合わせる。
(*゚ー゚)「私は思います。
内藤さんは本当につーのことが好きだったんだって。
だからつーを更生させようとした。そのことは事実だって」
そういって、しぃはお墓に一礼した。
(*゚ー゚)「いつか父親もこの墓に来たいと言っていました。
当分仕事に追われているようですけど」
一度落ちた信用を取り戻すのは、長い時間のかかることである。
長岡グループはつーの犯行によって信用を落とし、モナー会長はその埋め合わせに日々活動していた。
('A`)「もうずいぶん経つのに」
(*゚ー゚)「ふふ、人に信じてもらうのって大変なことなのよ」
しぃは恐らくモナー社長のことを考えていったのだろう。
だけど、ドクオの頭にはブーンさんのことがあった。
世間の関心は確実にブーンさんから離れている。
一度想起したとはいえ、やはり過去の人、記憶にいつまでもとどめておくことはできない。
そのことは咎めるべきではない。だけど、モナーはまだ忙しいままだ。
そのギャップがどうにももどかしかった。どうしようもないことなのだけど。
(*゚ー゚)「そういえば、今更になってしまうけど、あなたたちにもご迷惑をおかけしました」
そういって、しぃはドクオとモララーに頭を下げた。
唐突な謝罪に、二人は面食らってしまう。
(;・∀・)「いえいえ、もうずっと前のことですし」
(*゚ー゚)「あら、でもお詫びでもしようかと思ったのに」
( ・∀・)「あ、そういうことなら遠慮なく」
(;'A`)「ちょ」
( ・∀・)「……って感じの眼をドクオがしています」
(;'A`)「ふえぇ!?」
(*゚ー゚)「うふふ、相変わらずね」
品の良い笑い声が、爽やかな風と、金木犀の香りをまとって流れた。
金木犀は霊園の端に並び立っているものだ。
秋のこの頃になると突然咲き、その香りを人々へ運んでいく。
(*゚ー゚)「いい金木犀の香り……」
ドクオがちょうど考えていたその花の名前を、しぃが口にする。
(*゚ー゚)「それじゃあ私はこれで。
お二人は、まだここにいらっしゃるの?」
( ・∀・)「ええ、ちょっと。人を呼んであるので。
ちょっと長々と待っていますけどねえ」
日は少しずつ傾いていく。
二人はお昼過ぎからここにいて、お墓の掃除をしていた。
だけど、時刻は既に3時に迫ろうとしている。
(*゚ー゚)「わかりましたわ。
お礼の際にはまた連絡します」
そういって、しぃは頭を下げ、帰っていった。
3時を回って、ようやく待っていた人たちが来る。
( ・∀・)「奴ら、堂々と遅れやがった……」
('A`)「あ、お花とかいろいろ買っていたみたいですよ。
何か持っているのが見える」
遠くから、こちらへ向かってくる様子を確認する男二人。
lw´‐ _‐ノv 「やあ、変態」
('A`)「やあ、シュール」
( ・∀・)「……馴れねえなあ」
ξ゚听)ξ「お墓の掃除、終わった?」
( ・∀・)「ああ、大丈夫だ。
てかずいぶん遅かったなー」
こうして姿を見るのはひと月ぶりだった。
シュールとツン。
二人とも、モララーとドクオの墓参りに付き合ってくれることになっていた。
('A`)「揃いましたねー」
誰に対してでもなく、ドクオは言う。
ブーンさんのお墓の前に、その親友と、お世話になった二人が来ている。
ブーンさんのいないところで、僕らはブーンさんについてのことで、繋がっている。
そんなことを心の中でドクオは思った。
さきほどショボンは言っていた。
内藤は死ぬつもりでいたと。つーとの面会が引き金になったと。
もう会うことができない身だから、その申し訳なさから死を選んだと。
でも会えなくなってもこうして繋がっているじゃないか。
実際に会わなくても、僕らはブーンさんのことを語り合える。
それが最も良いことなんじゃないか。
ドクオは、今度ははっきりと、ブーンさんに対してそう言っていた。
その感情が、ドクオの眼を滲ませる。
( ・∀・)「どうしたドクオ、急に俯いて」
モララーの言葉に気付いて、ドクオは急いで顔を上げる。
(;'A`)「な、なんでもありません!
ただなんというか、ブーンさんにこの光景見せてあげたかったなって思って」
ξ゚听)ξ「ずいぶんと優しいこと言うじゃないの、ドクオ」
ツンがそう言い放つ。
こみ上げる恥ずかしさを必死で隠しながら、ドクオは苦笑いした。
ツンもドクオにほほ笑む。
ξ゚ー゚)ξ「だったら、代わりにあんたが憶えておいてあげなさいよ」
なるほどなぁ、とドクオは思い、頷いた。
ツンはそれから、モララーの方を向く。
ξ゚听)ξ「お花選ぶのに手間取って遅れちゃった。お線香はあるんでしょうね」
( ・∀・)「遅れたこと詫びるわけじゃないのかよ。
お線香ならあるよ、ほら」
モララーが線香を差し出して、ツンはよし、と頷く。
ξ゚听)ξ「あら、誰かもう置いていったのね。
綺麗な花……」
墓前に供えられた玉簾を見て、ツンが言う。
( ・∀・)「ああ、つーの妹さんがな」
ξ゚听)ξ「なるほどねえ」
それから、ツンは自らの花を手提げ袋から取り出した。
白い小さな花弁がいくつも重なり、まるで球体のようにも見える花が三本。
ξ゚听)ξ「百日草。最近じゃあんまり花屋さんで売ってないのよね」
三本のそれを、ツンは愛おしそうに優しく墓に供えた。
ξ゚ー゚)ξ「あたしと、あんたと、ブーンの分」
自慢げに、ツンがモララーに言ってのける。
lw´‐ _‐ノv「あ、私も」
そういって、シュールも花を取り出す。
小さな紫色の、落ち着いた雰囲気を醸し出す花が二本。
lw´‐ _‐ノv「吾亦紅。これは私と、ドクオの分」
それから静かに、シュールはその花を墓前に供える。
墓の前で手を合わせるツンと、その横に立ち、手を合わせるシュール。
三種類、六本の花が墓前を彩る。
さきほどまで寂しかったお墓が、今では賑やかそうに見えた。
しばしの時間ののち、二人は満足そうに顔を上げる。
再びそよ風が流れ、金木犀が想起される。
秋が深まろうとしているのだ。
心地よい空気が漂う中、モララーが切り出した。
( ・∀・)「さて、お墓参りはこれでいいだろ。
いくぞー、ドクオ」
ξ゚听)ξ「あんた、ホントに手伝えるの?」
ツンがドクオに尋ねる。
('A`)「んー、やってみたいから、やるだけのことはやろうかなと」
ドクオは何とか言葉をつなげていく。
ξ゚听)ξ「まあね、ちょっと変わったバイトと思えばいいけどね」
どことなく不安そうな顔をするツンを見るのが、ドクオには妙に新鮮だった。
母親であるツンはいつもドクオには強気な態度を示している。
そういう性格なのだとドクオは理解していたし
だからこそ、こんなにも心配そうな顔をするツンが新鮮だったのだ。
lw´‐ _‐ノv「私はなんだかんだで上手くいきそうだと思う」
シュールはさらりと言ってのける。
lw´‐ _‐ノv「やるときはちゃんとやる人だからね」
( ・∀・)「やらないときはとことんダメだけどなー」
照れそうになったドクオの顔が、モララーの一言で妙に引き攣る。
(;'A`)「も、モララーさん。僕大丈夫ですかね?」
( ・∀・)「最低限のカバーはするよ。
そりゃあ、勝手に変なことになっちゃ困るものな」
その言葉を聞いて、少しだけドクオの気持ちが落ち着く。
('A`)「と、とりあえずやるだけのことはやってみます」
( ・∀・)「うん、それがいいよ」
しかしなあ、と、モララーは顔をほころばせる。
( ・∀・)「まさかお前が探偵の助手になりたいなんて言ってくるなんてな」
その言葉を耳にして、ドクオはやや顔が赤くなる。
('A`)「ちょっと興味が湧いて、それでです」
( ・∀・)「あんまりいい仕事じゃないし
お前もそう思うって言ってなかったか?」
('A`)「そりゃあ……いいましたけど」
ドクオにはそれ以上言葉が続けられなかった。
本当に、ただ何となくでしかない。それでいいのかは知らない。
でもやってみたいという気持ちが確かに湧いていた。
だから、モララーに頼んでみたのである。
自分を助手にしてくれと。
モララーは渋々ながらも、バイトの一環としてOKをだした。
この秋から、ドクオはモララーの助手になったのである。
ξ゚听)ξ「ドクオのこと頼むわよ。
変なことに巻き込んだら訴えてやるから」
(;・∀・)「物騒なこと言うなあ」
ξ゚听)ξ「当然」
lw´‐ _‐ノv「それで、これからドクオはモララーさんのとこに行くわけね」
('A`)「ああ、探偵事務所を紹介されるみたい」
そうして、四人は霊園から離れていく。
ξ゚听)ξノシ「それじゃあねー」
lw´‐ _‐ノvノシ「頑張れよー」
駐車場で二人の女性は車に乗っていく。
男はそれを手を振りながら見送るだけ。
('A`)「…………」
( ・∀・)「…………乗せてけよ」
('A`)「あの、車は?」
( ・∀・)「そんなの無い。
ほら、走るぞ!」
あまりにも急のことで、ドクオは反応が鈍った。
モララーは突然道路へと走り出してしまったのだ。
慌ててモララーを追おうとするが、ドクオの体力が無いのも事実。
山育ちのモララーの足腰は、40歳であろうともドクオとは比べ物にならない。
ドクオがへとへとになりながらも、二人の間は離れていった。
街の中でもすいすいと走ってしまうモララーをドクオは感心しながら見ていた。
とはいえ走りながらで、直視できるわけではない。
それでも彼が、人々を軽々と避けながら進んでいくのがよくわかる。
(;'A`)「な……なんでこんなことに……」
よろけて、ドクオは傍の塀にもたれかかる。
荒いでしまった息を整えるためだ。
モララーとの差はもう500m近い。
きっとあのまま駅まで行くというのだろう。
ドクオもお金は持っていたから、モララーと離れていても帰ることはできた。
しかしF市まで今から赴いて、探偵事務所へ向かうのも疲れる話だ。
早くも諦めてしまおうかという気持ちが起こっている自分がいて、ドクオは情けなくなる。
('A`)「……?」
モララーの遠ざかる後ろ姿を見ていたときだ。
一人の人影が、路地裏から出てくるのに気付いた。
いたことには全く気付かなかった。
それでもその人は確実にモララーの方を見ている。
モララーを追っている――そんなフレーズがドクオにはすぐ思い浮かぶ。
ずいぶんと物騒な発想が浮かぶようになってしまったと、ドクオは思った。
と、その人は顔をドクオの方に向ける。
正確には、ドクオのいる方角へと体を向けたのだ。
走っていってしまったモララーとは、反対の方角へ。
少女はドクオに気付いたのかどうかはわからない。
しかしすぐに道に出てきて、今度はドクオの方に歩いてきた。
ノパ听)
明るい赤みがかった髪の奥に、はっきりと少女の顔があった。
まだ10代のようだ。ずいぶんと幼い。
そしてどうも、ドクオは自分にとって苦手なタイプの人のように感じた。
元々女性と接するのは苦手ではあるのだが。
ドクオは身を強張らせた。
が、少女は特にドクオに関心を示さずに、そのまま通り過ぎてしまう。
呆然としながら、ドクオはその後ろ姿をちらっと見た。
自分の思いすごしだろうか。
彼女がモララーを追っているなんていうのは。
しかしどうもそれだけではないように、ドクオには感じられてしかたがなかった。
('A`)「誰なのかな……」
ぽつりとつぶやく。
もう少女は歩いて行ってしまった。
その言葉は誰にも届いていない。
やがて、息が整っていることに気づき、ドクオは伸びをした。
そろそろ駅に向かわないといけない。日が暮れてしまう。
そう思い立ち、ドクオは駅へと進んでいった。
ほどほどに走りながら。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
16時半 F市 モララー探偵事務所――
( ・∀・)「……こねえなあ」
事務所の椅子に座り、背もたれにだらっと寄りかけながら、モララーはドクオの帰りを待っていた。
広い窓から差し込むオレンジ色の陽光。日が傾くのもだいぶ早くなってきた。
残暑はそろそろ終わりをつげ、秋が半ばにさしかかろうとしている、そんな時期であった。
さきほどA市で思いっきりドクオを突き放してしまったのは、多少申し訳ないとモララーも思ってはいた。
走り出したのに特に理由は無い。強いて言うならもうブーンの墓の前でだらだらと感傷に浸りたくなかったということだけだ。
先程、モララーはブーンの墓の前ではっきりと告げた。
これからブーンのことは絶対に忘れない。自分が追い込んでしまったことをちゃんと憶えておく。
その上で、いつまでも友達でいよう、そうはっきり念じたのだ。
想いと言うのがどこまで届くかわからない。届かないかもしれない。
それでも想わないわけにはいかない、そんなことをひと月以上前にも考えていたことを、モララーはふと思い出す。
ブーンの墓の前で、ようやく形にした気分だった。
懺悔の気持ちは、今になって始まったのである。
そして、だからこそ、これ以上ブーンの件に囚われるわけにはいかない。
自分は自戒の念を抱きながら、前に進まなければならない。
そうでないとブーンも浮かばれないだろうから。
突如、事務所の電話が鳴る。
仕事の依頼だろうか。タイミングがいいな、なんてモララーは想いつつ受話器を取った。
( ・∀・)「はい、モララー探偵事務所です」
「モララーですね」
その言葉には聞き覚えがある。
懐かしい気持ちが湧くとともに、若干肩を落とす。
彼が事件の依頼をするなど考えられないからだ。
気を取り直して、モララーは返事をする。
( ・∀・)「久しぶりだなあ、マス」
( <●><●>) 「憶えていてくれて何よりです」
( ・∀・)「そりゃあ、一緒に一時期暮らしていた奴を忘れるかよ」
( <●><●>) 「普通ならそうですが、君はどうも飄々としていますからねえ。
ひょっこりまた記憶を失ってしまったりしてるんじゃないかと思ったんです」
(;・∀・)「不幸すぎるわ」
言いながら、どこか安心しているモララー。
このやりとりはもう、ずいぶんと懐かしいものだった。
( ・∀・)「しかしお前から電話なんてなあ。
いつも俺から電話していたのに」
( <●><●>)「しかも碌に話をしないままで、お金の催促ばっかりだったんです。
君がそのままニートでありつづけるというなら、困ったものなんです」
( ・∀・)「探偵やってるじゃん。いいじゃないかそれでー」
( <●><●>)「…………あの」
( ・∀・)「あ、そういえば、どうして電話なんかかけてきたんだ?
まさかお前ほど頭の切れる奴が、俺に事件の相談なんてしてくるわけわるまい。
今や大企業の重鎮にまで上り詰めている、分手マスさんが」
( <●><●>)「ずいぶん棘のある言い方ですね」
( ・∀・)「いやいや、ずいぶん遠いところまでいっちゃったんだなって、思っただけだよ」
( <●><●>)「……事件のことをきいたんですよ」
( ・∀・)「電話の理由?」
( <●><●>)「ええ」
( ・∀・)「ふーん、お優しいことで」
( <●><●>)「ちょっと前に、ショボン警部に会いました」
(;・∀・)「えっ」
( <●><●>)「1か月ほど前、君が命を狙われた日ですよ」
( ・∀・)「あー、ショボンがうちの実家に寄ったときか」
( <●><●>)「そうなんです。
僕はたまたま休暇を取って、父の手伝いをしていたんです」
( ・∀・)「言ってくれればよかったのに、ショボンの奴め」
( <●><●>)「今更ですが、生きてておめでとうなんです」
(;・∀・)「お、おう。なんだいきなり」
( <●><●>)「命を狙われた人に何も言わないのも失礼かなと思ったんです。
ま、君がなかなか死なない男だということはよくわかっているんですけどね」
(;・∀・)「言ってくれるねえ」
( <●><●>)「話を戻すんです。
とにかくショボン警部と会い、君の話をしました」
( ・∀・)「……何かあったっけな」
( <●><●>)「探偵をやっていることは、父から聞いていました。
ショボン警部と会って、まだやっていることがはっきりとわかりました」
( ・∀・)「なんだよ、知っていたんだろ?」
( <●><●>)「さっきも言ったように、君はお金の催促でしか僕と連絡を取りませんでした。
だから君が今現在どうやって生きているのかまでははっきりとは知らなかったんです」
( ・∀・)「なーるほどねえ」
( <●><●>)「…………で」
( ・∀・)「ん?」
( <●><●>)「君はいつまで探偵をやっているつもりなんです?」
( ・∀・)「…………」
( <●><●>)「…………」
( ・∀・)「まだだ」
( <●><●>)「何が、まだなんです?」
( ・∀・)「まだ俺は知らない。だから、まだする」
( <●><●>)「モララー、あなたという人は……
まだ信じているというんですか」
( ・∀・)「おうよ。
それに今回の事件で、俺は昔の親友のことを知ってしまった。
あんな話を知っちまったからよ、俺は改めて思ったんだ。
これからはいろんなものを、ちゃんと信じてやろうってな」
( <●><●>)「簡単に言いますね」
( ・∀・)「言わなきゃ前に進めねえからな。
とりあえず言って、行動してりゃなんとかなるって」
( <●><●>)「進めるというんですか、君が」
( ・∀・)「おいおい、今日はやけに攻撃的じゃないの」
( <●><●>)「君はもっと現実的になるべきなんです。
僕の眼には、君はいつまでたっても、過去にとらわれて生きているように見えてしかたないんです」
( ・∀・)「なんでそんなことわかるんだよ?」
( <●><●>)「一緒に暮らしていたからですよ」
( ・∀・)「お前こそ簡単に言うな」
( <●><●>)「ふふ、確かにそうですね」
それから、お互い暫く黙っていた。
モララーはそれほど怒ってもいない。むしろこの微妙なやりとりを楽しんでいた。
分手マスの考えていることはよくわかる。自分はもう40歳。そろそろ真面目に定職についてほしいということなのだろう。
( <●><●>)「とりあえず気が済むまで、お金は出しておいてやるんです」
( ・∀・)「あ、おお。ありがとよ」
( <●><●>)「いえいえ、元より説得など上手くいくはずないと思っていました」
( ・∀・)「さすが」
( <●><●>)「どうもなんです。
たまには父に、ビロードに顔でも見せてあげるんです。
心配そうでしたから」
( ・∀・)「あの顔はいつでも何かしら心配していそうだがな」
( <●><●>)「それを言っちゃかわいそうなんです」
( ・∀・)「とにかく、わかったよ。今度挨拶でも行くわ。
仕事も一段落ついたしな」
( <●><●>)「それじゃ、さよならなんです」
( ・∀・)「おう。ありがとさん」
受話器を下す。
窓の外は赤々としている。
ずいぶんと話しこんでしまっていたようだ。
( ・∀・)「てかドクオまだこねえのかよ」
静かな事務所の中で、ぽつりと呟く。
返事はもちろんない。
一人でいるのがこんなにしんみりしたものだったかな、なんてことをちょっと考えてしまう。
過去にとらわれている――思いついたのはこのフレーズだ。
先程の電話の中で、分手マスがモララーに対して言った言葉。
何を指しているのかはよくわかっている。
それはこの事務所が、モララーだけのもので無かった頃の話。
この事務所はそもそも『分手探偵事務所』だった。
モララーとマスが創始したのである。
しかし、マスがこの事務所を離れる際に、名称を変えた。
モララーだけの探偵事務所という意味で、『モララー探偵事務所』に。
モララーは椅子に深々と座る。
妙に疲れた気分だ。
きっとあんな話を分手マスとしたからだ、モララーはそう決めつける。
わかってるさ――
モララーは心の中で応えた。
マスは本当に、よくモララーのことをわかっていたのだ。
自分が過去にとらわれていることはわかってる。
モララー自身そう感じていた。
わかっているけど、やめるわけにいかない。
ブーンのことを知るずっと前の話。
あの雪の降りつもる冬の夜の日。
真っ白い冬化粧が、轟音とともに火炎に包まれたあの日。
モララーは忘れるはずが無かった。
「信じてくれるだろ」
記憶の隅に寝かしつけておいた言葉が、今日はよく蘇る。
「お前がそういう奴だってことを、あたしはよく知ってるんだ。
だからあたしは安心できるのさ」
( ∀ )「信じてるさ、ハイン」
返事はもちろん、無い。
何度も何度も、独りの時に口にした名前。
突然ドアがノックされる。
「モララーさん! ちょっと、開けてください!」
この慌ただしい感じ、モララーはほっとする。
ひどいセンチメンタルな気分に陥りそうな自分を、まるでこの声が救ってくれたみたいだ。
そう思って、我ながらアホみたいなことを思いついたなと、モララーは自嘲した。
「ねえちょっと、聞こえてますか!」
はいはい、と言いながら、モララーはドアノブに手を掛ける。
( ・∀・)「はいよ! どうしたドk――」
名前が途切れてしまう。
目の前の光景があまりにも不可思議だったからだ。
∩___∩
| ノ ヽ
/ ● ● |
| ( _●_) ミ
彡、 |∪| 、`\
/ __ ヽノ /´> )
(___) / (_/
| /
| /\ \
| / ) )
∪ ( \
\_)
( ・∀・)「…………」
(;'A`)「あ、モララーさん! 手伝ってくださいよ。
この事務所に届けものだって、下の大家さんに言われて持って来たんですから」
( ・∀・)「……なにこれ?」
(;'A`)「クマの置物ですね」
全長1mほどの巨大なクマの剥製だった。
ドクオとモララーで、何とかしてそれを事務所に引き入れる。
(;'A`)「ひぃ、ひぃ。
何なんでしょうねえ、これは」
( ・∀・)「いやー、わからんなー。
誰から送られてきたって、大家さん言ってた?」
('A`)「聞いておきましたよ。
『杉浦ロマネスク』って宛名が書いてあったそうです」
( ・∀・)「……誰だっけそれ」
(;'A`)「え、知らない人からのなんですかこれ」
( ・∀・)「んー、どこかで聞いたことあるような、どこだったっけ」
(;'A`)「あ、危なくないんですかねえ」
( ・∀・)「どうだろうなあ。
でも宛名が書いてあったんならすぐ調べられるだろ」
( ・∀・)「よし、とりあえず事務所に飾っておこう。
縁起いいかも! 全く知らんけど」
それからしばらく、モララー探偵事務所には謎のクマの剥製が飾られることとなる。
最初こそ警戒はしていたものの、特に変化はない。
送られてきた名前はわかったが、住所はわからなかった。
というのも、そこに書かれていた住所はとある学校のものだったからだ。
その学校にも問い合わせてみたが、やはりクマの置物に心当たりなど無いらしい。
イタズラなのだろうか。
疑った時期もあったが、何も起きないとあれば、そうそう興味は続かない。
それよりも、モララーの関心は、ドクオをどうにかして探偵の助手へと育てることにあった。
こうして、月日が過ぎていく。
だけどモララー達は気付いていなかった。
すでに次の事件への扉は開かれており
生臭い人間の欲望と怨恨がうねり始めていたことに。
〜〜( ^ω^)は嘘をついていたようです 後日談 おわり 〜〜