久しぶりに、二人は話すこととなった。
しかし、一旦疎遠になっていたため、会話は長くは続かない。
ブーンも野球部での成績が振るわないらしく、どこか辛そうな顔をしていた。
だからモララーはあまり長いこと野球の話をするわけにもいかなかった。
夕暮れが二人を照らしている。
季節は夏で、蝉の声が喧しかった。
( ・∀・)「なあ、ブーン」
ふと、モララーは思いついた。
ブーンにまだ言っていなかったことを。
蝉の声がその気持ちに拍車をかけたようだ。
( ^ω^)「ん? なんだお」
ブーンはそばを流れる川の方を見ていて、モララーからはその表情は見えなかった。
( ・∀・)「俺さあ、ツンと付き合うことになるかもしれねえんだ」
不思議な間があった。少なくとも、モララーはそう感じた。
でもそれを深く考える前に、ブーンはモララーの方を向いた。
大きな笑みを浮かべて。
( ^ω^)「それはおめでとうだお。お幸せにだお」
モララーはブーンの言葉と笑みを真に受けた。
ブーンも祝福してくれている、その考えが頭の中で浮かび、嬉しかった。
ただそれだけしか感じないほどに、モララーはのぼせていたのであった。
夏休みに入った。
ブーンは相変わらず野球部で忙しい。
今までのように、三人で遊ぶということは、もう随分前から無くなっていた。
モララーはツンと会うようになった。
高校生になってからはあまり遊ばなくなったが、感覚としては中学までのそれに近かった。
遊びが延長したようなもの。恋人同士じゃなくてもできるもの。
だいたい、モララーは言いだしたものの、恋人というのをよくわかっていなかった。
遊び以上のことをする勇気もなかったし、必要性も感じなかった。
ただなんとなく、ツンと一緒にいるとほっとした。家にいても気が滅入るだけだったからだ。
だからモララーはツンと会いたかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
( ・∀・)「まー、あれだな。今だから言えるけど
こんなの全然付き合ってるって感覚じゃねえよ。
浮足立っていたんだろうな。家が辛かったってのもあるし、恥ずかしい話だ」
( ・∀・)「そして夏休みが過ぎ、秋が来て、年が変わるかなって頃
俺はそのことに気づいてしまったんだ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
きっかけはツンの一言だった。
ξ゚听)ξ「あのさ……あたしたちって付き合ってるのかな?」
その言葉がモララーには突き刺さった。
今まで何の気なしに信じていたことなのに、急に信じられなくなった。
ツンは実際モララーにとても優しくしてくれた。
性格上、優しさ一辺倒ではなかったのだが
つきはなしては、後から温かく接してくれる、そんな態度がモララーの心の栄養となっていた。
でも、ツンの一言から、疑問が生じた。
どうして俺たちは恋人なのだろう。
別に恋人じゃなくても、俺たちはこの関係を保てたのではないか。
ツンの優しさを感じることは可能なのではないか。
冬休みに入る頃のことである。
モララーはまた川辺で、ツンと会っていた。
( ・∀・)「半年間、ありがとな」
それが別れの、いや、元の関係に戻ろうという意思表示だった。
ξ゚听)ξ「結局そこまでヘタレは治らなかったけどねー」
(;・∀・)「はは、どうだかな。
こののらりくらりとした性格はこの先ずっとついてまわってくるかもしんねえなあ」
ξ゚听)ξ「治す気ゼロか。どうしようもないわね。
とにかく、新年になったらブーンもさすがに暇が出来るでしょ。
そのときちゃんと言いなさいよ。自分の家のこと。ブーンも心配していたんだから」
モララーは笑ったが、ここ最近さっぱりブーンと会っていなかったので、うまく打ち明けられるか不安だった。
実際会っていないから伝えられなかったという面もあった。
モララーのことをブーンが心配していたということが確かなのは、はもう半年以上前のことなのだから。
ところが、その日の夜のことである。
モララーは家に帰ってきて、異変に気付いた。
母親がいた。
半年間家を出たままだった母親が、父親と口論していた。
モララーはそっと、廊下からその様子を見た。
どうやら、母親は離婚を切り出したらしい。
父親もそれには同意だったようだ。
ただ一つ、迷っていたことがあった。
モララーの親権はどちらが持つかということだ。
両者ともに、モララーの親権を争っていた。
そして、モララーにとって残念なことに、二人はモララーの親権を欲していたのではない。
どちらかといえば、モララーを互いに押し付け合っていた。
母親にしてみれば、自分がいるにもかかわらず他の女と交流していた男性の子どもなんて、欲しくはない。
父親にしてみれば、モララーを抜きにして新しい生活を営みたい。
両者の言い分はこんな感じで、モララーはどちらにとってもいらない子どもであるようだった。
( ・∀・)「……」
モララーは二人の怒声を聴きながら、自室へと向かった。
話の流れからして、自分はどこか遠縁の家に送られるらしい。
モララーの頭の中には、ツンの別れ際の言葉だけ、残っていた。
ξ;゚听)ξ「嘘……」
修了式の日、モララーは帰り道でツンに打ち明けた。
自分が近々、遠縁の家に行くことを。
きっと年が明ける頃、自分はもうG村にいないことを。
( ・∀・)「両親の方が、な。もうダメみたいだ。
俺は遠くにいた方が、都合がいいみたいなんだ」
冬の寒い風を感じながら、二人は歩いていた。
ξ;゚听)ξ「だってそんな、急に。
ブーンにだってまだ言ってないのに」
( ・∀・)「そのへんはまあ、なんとか言っておいてくれ。
もともとあんまり話さなくなっていたんだし、言いづらいんだよな」
ξ゚听)ξ「……このヘタレ」
( ・∀・)「知ってるさ」
二人はなおも歩き続ける。
いつもの川沿いが見えてくる。
( ・∀・)「川沿い、行くか?」
ξ゚听)ξ「寒いでしょ」
( ・∀・)「だよなあ」
モララーにしてみたら、家の方向は違うのに、この方角に歩いてくるツンは不思議だった。
ξ )ξ「あのさ」
ツンが、そっと発言する。
ξ )ξ「あたし、もっとあんたに優しくすべきだったかな」
(;・∀・)「は?」
そんな言葉が出てくるなんて思いもよらなかったから、驚いた。
ツンの方を向くが、髪でどんな表情をしているのかよくわからない。
ξ )ξ「じゃあさ、もっと早くあんたに話しかけてあげたらいいとか、そう思わない?」
(;・∀・)「いや、いやいや、どうしたんだよ急に」
わけがわからず、モララーはツンの前に立つ。
そして、気付いてしまった。
ツンが泣いていることに。
(;・∀・)「な……なんで……」
ツンはくるりと後ろを振り返る。今まで歩いてきた道のりを。
ξ )ξ「あたしはね、あんたとブーンが元のように仲良くなってくれたらいいなって思ってたのよ」
ξ )ξ「あんたとブーンが疎遠になったのは気付いていた。
そしてその原因は、ブーンが忙しいのもあったけど、あんたが暗くなったのもあった。
だからあたしは半年前のあの日、あんたを元気づけようと帰り道で声をかけた」
ξ )ξ「でも、あんたは『付き合おう』なんて言ってきた。
あたしは……あんたを元気づけるためなら、って考えた。
だから、デートみたいなことをしてみた。
付き合ってるのかな、なんて言っておきながら、そのことに疑問を感じていたのは、あたしだったの」
ξ )ξ「今までどおりの友達同士の付き合いでもあんたが明るくなってくれるって、この前気付いてちょっと嬉しかった。
でも、結局あんたは行っちゃう。だったら、あたしのやったことって無駄だったのかなって。
だったらもっと早く、あんたに気付いて、声かけてあげてれば良かったなって、そう思ったの」
ツンの告白が、モララーの動きを止めた。
ツンの行動の裏にそんな感情が合ったことを、モララーは知らなかった。
もちろんそれを咎める気は無い。疑問が生じたのは自分も同じことだったから。
気まずい沈黙が流れる。
(;・∀・)「でも、さ。いつか会えるかも知れないじゃねえか。
ずっと友達でいれば、そのうち連絡とかとれるんじゃねえの? だったらそのときさ」
ξ# )ξ「あたしは、今あんたとブーンを仲良くさせてあげられなかった自分に腹を立ててるの!」
ツンの怒声がピリピリと乾燥した空気に響く。
それから、ツンは走り出した。
モララーの家とは反対の方向に。
モララーはどうしても、その背中を追いかけることができなかった。
自分にその資格があるとは思えなかった。
夜が訪れて、モララーは自分の家の前を見た。
誰かがいた。
月明かりは弱かったが、街灯によってその姿はだんだんはっきりと見えて来た。
从'ー'从
モララーよりいくらか年上な少女は、見覚えがあった。
写真のあの少女だ。
普通は驚くのだろうが、モララーは何故か冷静に状況を把握していた。
( ・∀・)「あんたは……」
モララーはじりじりと、少女に寄る。
( ・∀・)「なんであんたが俺の家に来てるんだ?」
从'ー'从「一応、私の父親の家らしいからね。
もっとも、今は留守のようだけど」
モララーは今父親が不在なことを知っていた。
そのため、鍵をしっかりともっていた。
( ・∀・)「親父は仕事だよ。
で、あんたの用は何だ」
从'ー'从「……同じようだね」
モララーには、彼女の発言の真意がわからなかった。
从'ー'从「あなたも、私と同じ。
家が面倒だと、お互い辛いね」
何故だか、モララーはいらついた。
自分のことを見透かされているような感覚が辛かったのかもしれない。
( ・∀・)「うるさいな。
用が無いなら帰ってくれよ。
俺は別の腹から出て来た姉なんてのに興味は無いんだ」
そう吐き捨てたが、少女は動こうとしない。
モララーはさらに少女に詰め寄った、そのときだった。
少女はモララーに歩み寄り、ひょいと飛んで、モララーの額にキスをした。
(;・∀・)「なぁ!?」
モララーは驚いて飛び退く。
(;・∀・)「なにすんだよ!」
从'ー'从「ふふ、一度だけ、お姉さんみたいなことしてみたかったの。
ごめんね、迷惑かけて。じゃあね〜」
最初から不思議な雰囲気を醸し出していた少女は、結局そのまま走り去ってしまった。
その後ろ姿を見ながら、モララーは考えた。
彼女は、自分が同じと言っていた。
彼女もまた、どこかにぬくもりを求めたのではないか。
そのせめてもの表現が、自分を弟のように扱うという行為に表れたのではないか。
とはいえ、そのような温もりを他人に与える余裕は、モララーには無かった。
だから、頭を振るい、鍵を取り出して自宅に入ろうとした。
がしっと、腕を掴まれた。
モララーはびくっとして、掴まれた腕を見て、掴んだ人物を見る。
( ・∀・)「ブーン……?」
何故ここに、という疑問が最初に浮かんだ。
しかし、ブーンの表情を見て、その疑問は消えて、次の疑問が強烈に浮かび上がった。
ブーンの顔つきから、ひどい違和感がしたからである。
強張ったその顔は、モララーの知っているあの顔にとてもそぐわなかった。
こんな表情を彼がするところを初めて目にしたのである。
モララーの知っているブーンは、いつも笑顔だった。
笑顔を絶やすことはない、温和で、優しい少年。
今目の前にいる少年は、笑ってこそいるものの、どこか今までと違う。
そう、まるで無理やりにでも笑っているかのような、そんな印象をモララーは受けた。
( ω )「モララー。
ここでなにしていたお?」
ブーンの問に、どう答えていいのか、モララーは躊躇した。
いったい何のことだろう。
先程の少女と話していたことを言っているのだろうか。
だとしたら――モララーは説明しようとして、思いとどまる。
少女のことは、モララーもよく知らない。
モララーの父親の隠し子であるということだけ。
そしてそのことを説明すれば、自分が暗くなり、ブーンと疎遠になった理由も離さなければならない。
まだ、打ち明けたくはなかった。
簡単に説明できることではない。ましてブーンには、もっとちゃんと、後で説明してあげたい。
そんな想いがモララーにはあったのだ。
だから、首を横に振った。
( ・∀・)「ごめんな。今は説明できないんだ。
後でちゃんと説明するから、な?」
それから、モララーは自分の家の玄関を振り向いた。
一旦家に入るだけ、ただそれだけだった。
直後、頭に強い衝撃を受けて、モララーの意識は飛んでしまった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
( ・∀・)「ここからはもう、覚えてねえよ。
気付いたら俺は川の上に浮かんで夜空を見上げていた。
あのとき殴ってきたのはブーンだってことだけは、なんとなくわかるんだけどな」
モララーは長い昔話を終えた。
ドクオもジョルジュも黙っている。
いったい二人はどんな言葉を返してくるのか、モララーはそれをじっと待っていた。
_
( ゚∀゚)「俺は、ブーンさんからも昔話を聴いているんだ」
ジョルジュが言う。
_
( ゚∀゚)「あんたの話を補完できるだけ、知っているぞ。モララー。
あんたはどうやら、どうして自分が殴られたのかわかっていないみたいだからな」
モララーは肩をすくめた。
( ・∀・)「ブーンの息子を称すお前さんには悪いが、その通りだ。
ブーンが何を感じていたのか、俺にはわからねえ。疎遠になり過ぎていた。
説明してくれるとありがたいね。俺としても」
ジョルジュは舌打ちをした。
_
( ゚∀゚)「ブーンさんの気持ちをわかってあげようとしなかった、あんたの責任さ」
それから、ジョルジュの話が始まった。
( ゚∀゚)「ブーンさんは小さい頃からお前と、ツンと友達だった。
ブーンさんにとってもその関係は大切で、大事にしたかったんだ。
性別を超えた友達としての関係をな」
_
( ゚∀゚)「お前が何かを抱え込んでいることにはブーンさんも気付いていた。
それでも話せなかったのは、部活が忙しかったからってのが一番にある。
でもな、ある日のことだ」
_
( ゚∀゚)「ブーンさんはある日突然、お前から、お前がツンと付き合っていることを聴かされた。
そのとき、ブーンさんは一瞬頭が真っ白になったらしい。
それでもすぐに正気になって、お前を祝福する言葉をかけた。お前の話通りにな」
_
( ゚∀゚)「だけどそれから、ブーンさんは不思議な感覚にとらわれるようになった」
ジョルジュはそこで一息つく。
頭の中で、文章を確かめているかのような仕草だ。
この話はジョルジュがブーンから聞いたものなのだろう。
その話を正確に伝えようとしているのだろう。
_
( ゚∀゚)「繰り返すことになるが、ブーンさんはお前たちとの交友関係を続けたかった。
そして、お前とツンが付き合うなら、その関係をちゃんと祝福してやろうという気になった。
そうするのが本当の友達だろうとブーンさんは思っていて、実行しようとしていた。
だけどな……どうしてか、ブーンさんの頭の中にツンのことが思い浮かぶようになってしまったんだ」
(;・∀・)「……」
モララーは少しだけ、察してしまった。
ジョルジュの言い出す言葉を。
その様子に気づいているのかはわからなかったが、ジョルジュは話を続ける。
_
( ゚∀゚)「ブーンさんは、今までツンを女性として見る気は全くなかった。
だけど、お前とツンが付き合うことを知ってから、無性にそのことが気になるようになってしまった。
そこには、関係が継続しにくいとか、どことなくおいてかれた気分とか、いろいろ混ざっていたのかもしれない。
ブーンさんはずっとそんな自分を責めていた。責めていて、それでもお前を羨ましく思うのをやめられなかった」
_
( ゚∀゚)「わかるか、モララー。
ブーンさんはお前の行動のせいで、ツンのことを好きになってしまったんだ」
モララーは何も答えなかった。
ただじっと、ジョルジュの言葉を促した。
ジョルジュとしても、まだ話が終わっていなかったのだろう。言葉が続く。
_
( ゚∀゚)「それでもブーンさんは耐えた。
お前がツンと付き合っているのをちゃんと応援する気持ちもあったんだ。
だからちょっとずつ距離を作っていった。元々部活が忙しいのもあったからな、作りやすかったらしい」
_
( ゚∀゚)「だけど……ある日」
( ゚∀゚)「ブーンさんは下校中に見たんだ。
モララーと一緒に帰っていったツンが、泣きながら道を走って戻ってくるのを」
(;・∀・)「あぁ……」
それは、先程の話の中の最後の日のことなのだろう。
モララーはそれに気付いた。
_
( ゚∀゚)「ブーンさんは、お前とツンとの間に何かあったんじゃないかと思った。
それで、ツンを呼びとめた。もうすれちがっていて、結構距離があったけど、止まってくれたらしい。
そして聞いたんだ。『モララーと何かあったのか』って」
_
( ゚∀゚)「ツンは泣きながら、怒っているようだった。
ただ一言、『もう別れたから知らない』とだけ、言ったらしい。
そして、ツンが行ってしまったあと、ブーンさんはお前のことを追いかけた」
_
( ゚∀゚)「そのときのブーンさんの感情は、いろんなものが混じり合っていたらしい。
お前とツンとの関係が壊れたことは知った。そこからいろんなものを感じたんだ」
_
( ゚∀゚)「まず今までどおりの関係が続けられないかもしれないことを嘆いた。
ただお前らが別れるだけならまだしも、ツンの様子を見て内藤は、二人の喧嘩別れを予想した。
もしそうなら、もとの交友関係が戻るのは絶望的だ。ブーンさんは板挟みの状況で、苦しい思いをしなきゃになるかもしれない。
そんなことになるのがたまらなく嫌だった」
_
( ゚∀゚)「それから、ツンを泣かせたお前が許せなかった。
その頃にはブーンはかなりツンのことが気になっていて、ツンのことが好きであることも自覚していた。
だから、理由はどうであれ、お前のことが許せなかった」
_
( ゚∀゚)「いろいろな負の感情が入り混じっていて、ブーンさんはとても気持ちが悪かったらしい。
今まで我慢していたこと、言ってはならない、考えてはならないと自制していた想いが噴き出した。
せっかく、自分はお前らの関係を守ろうとしていたのに、お前らはそうやって平気で壊すのか、って」
_
( ゚∀゚)「それでもまだブーンさんはお前のことを信じていたのかもしれない。
少なくとも、このときはお前と話をしようと考えていた。
いろんなことを話してくれれば、それが間に合っていれば、ブーンさんの行動は防げたかもしれない」
_
( ゚∀゚)「だけど家の前で、お前が女の子と会っているのを目撃してしまった。
額にキスをする瞬間もな、しっかり見てしまった。
そのときに、ブーンさんの中の何かが崩壊してしまった」
(;・∀・)「それは……それは俺が悪いんじゃない」
モララーは思わず口にした。
父親の隠し子が突然そのような行動に出たことは、自分に非があるわけじゃない。
_
( ゚∀゚)「……わかってるさ」
そのジョルジュの言葉は、モララーにとって意外だった。
ジョルジュはそのことを自覚している。自覚して、なおもこの話をしているというのか。
(;・∀・)「だったら、なんで」
_
( ゚∀゚)「話を続けさせてもらおうか」
ジョルジュの強い口調。
モララーは口を閉じざるをえなかった。
( ゚∀゚)「ブーンさんは、部活帰りだから持っていた金属バットで、お前を殴った。
お前は倒れこみ、動かなくなった。
まさか死んだのではないか、一気に冷静になったブーンさんはお前のことを心配した。
だけど、声を掛けられ、びくついて、声の方を見た」
_
( ゚∀゚)「出会ってしまったんだ。ニダーに」
(; ∀ )「!!」
モララーの頭の中で、物事が整理される。
完成図が頭に浮かび、この事件のシナリオが急速に、モララーに理解される。
その時になって初めて、モララーはジョルジュたちの狙いに気付いた。
それがとても虚しいものであることも。
_
( ゚∀゚)「後は、お前の話の中で出て来たニダーの所業と同じさ。
ニダーはブーンさんの弱みを握った。そしてブーンさんの家にまで押し掛けた。
奴は、ブーンさんの家から搾取をするようになったんだ」
_
( ゚∀゚)「ブーンさんの家は逃げるように引っ越した。
ブーンさんも転校した。そして新しい場所で暮らすようになった。
最初に行ったのがC市の市街地、その後がB市。そこにいるドクオがいた街さ」
(; ∀ )「ブーンは、逃げたのか。
ずっとずっと、ニダーの搾取から逃げ続けたというのか」
C市に逃げたときに、つーと出会ったのだろう。
きっとつーを助けたのは、自ら身を売って搾取されるつーのことを悲しんだからだ。
モララーはそう感じた。自分は搾取を強制されているのに、わざわざ自分から搾取されにいくつーが見ていられなかった。
(; ∀ )「君がつーさんの息子であることは、知っているよ」
_
( ゚∀゚)「ほう、じゃあ理解しているんだろうな。
俺はC市でブーンさんに救われたつーの息子。そして数年だけだが、ブーンさんと同棲していた。
俺は、ブーンさんから愛情を受けて育った。つーもそれを嬉しがっていた」
_
( ゚∀゚)「だけど、ある日、ニダーがブーンさんを見つけてしまった。
ブーンさんは俺らに言ったよ。『君らに迷惑をかけるわけにはいかない』
俺はよくわかってなかったんだけどな。つーはずっと泣いていた。
そんなつーを尻目に、ブーンさんは行ってしまった。どこへいくか、告げもせずに」
_
( ゚∀゚)「俺達親子は、ブーンさんを探した。ブーンさんの言葉に反しちまうけど、でも探したかったんだ。
そして、県内ニュースとして、B市の少女の自殺を食い止めた少年の話が揚げられていた。
その少年こそが、そこにいるドクオだ」
(;'A`)「!!」
突如名前を出され、ドクオは驚く。
(;・∀・)「ショボンから聞いていたが……
人は思いもよらねえな。全くよ」
( ゚∀゚)「俺達はドクオの家族に接触を試みた。
ま、俺だけがドクオと接触したんだがな。ドクオはブーンさんのことを良く知っていた。
だけど、どうやらブーンさんはもう事件を起こしてしまっていた」
(;'A`)「ああ……」
ドクオが口を開く。
(;'A`)「ブーンさんは、ただ『見つかった』とだけ言っていた。
今思えばあれはニダーに見つかったっていう意味だったんだ」
_
( ゚∀゚)「そう、そして今度は逃げなかった。
2005年のあの日、ブーンさんはニダーに呼び出された。
ショボンから聞いてるぜ? 謎の金属バットがあるってな」
(;・∀・)「はっ、そんなこと、上にばれたらショボンの首も危うくなりそうだな」
_
( ゚∀゚)「おっさんはちょろかったぜ? きっと妻子に逃げられたのが寂しかったんだろうな」
モララーは自嘲気味にほほ笑んだ。もっとも強がりながらの笑みだったが。
_
( ゚∀゚)「ブーンはあの日、あのときの金属バットを見せられて、さらにゆすられたんだろう。
そして隙をついて一家を殺した。ニダーと、その妻を。二度と自分についてこないようにするために」
ジョルジュは話を終えた。モララーの様子をうかがっているようだ。
モララーから何も言うことがないとわかると、ドクオを向く。
_
( ゚∀゚)「ドクオ、構えろ」
やはりびくつきながら、ドクオは腕に持ったそれをモララーに向ける。
まごうことなき拳銃が握られていた。
(;・∀・)「普通の人はそんなもの持ち歩かねえんだぜ?」
モララーは銃を傍目に、ジョルジュに言う。
ジョルジュはただにやにやと笑っているだけだった。
(;・∀・)「そんで、俺をどういうわけで殺すんだ?
ブーンをあの殺人に駆り立てた原因はニダー、つまりは、俺の家とニダーの関係だ。
ニダーはもういない。だから残っている俺を、お前が殺すってことなのか?」
_
( ゚∀゚)「その通りだよ。
俺はブーンの息子も同然。そして、ブーンが為せなかったことを俺はする」
(;・∀・)「へ、ばっかじゃねえのか。
ブーンは俺を殺そうと思ったんじゃない。かっとなっちまっただけだ。
そんなものを掘り下げて俺の命を奪うなんて、ブーンの気持ちを考えてないのはお前の方じゃねえのかよ」
_
( ゚∀゚)「……お前を殺すことに意味があるんじゃないさ。
ブーンさんをあそこまで追い込んでしまった状況が、俺には憎いんだ。
ブーンさんはよぉ、つーと出会ったときも、ドクオと出会ったときも、ずっと笑顔だったらしいぜ。
俺も微かに覚えているんだ。ブーンはずっとずっと、にこにこしていて、笑顔そのものだった」
_
( ゚∀゚)「だけど、はるか昔に、その笑顔を取り繕わなければならない事態が生まれ、それが最悪の結末を迎えた。
それからブーンさんは笑顔の裏にいろんな感情を隠して、生きて、そして死んでしまった。
笑顔の裏にたくさんの嘘を隠しながら生きていく、そんな生き方をせざるを得なかったブーンさん。
それが人間の生き方か? あそこまで優しい人間が、どうしてそんな仕打ちを受けなきゃならないんだ」
_
( ゚∀゚)「俺の記憶の中に、ブーンの言葉がある。俺は小さな子どもだったけど、その言葉だけは覚えている」
『嘘なんだお』
『笑顔なんて嘘なんだお。
人間が、他の人間と何の争いもすることなく過ごすための手段にすぎないんだお』
『僕はもうずっと後悔しているんだお。
嘘を続けて、これまで生きてきてしまったことに――』
_
( ゚∀゚)「ブーンさんは、嘘をつく前のブーンさんは、きっと願っていたはずさ。
嘘をつく人生なんて嫌だ。できれば潔白でいたい。
俺は、そんなブーンさんの存在を信じる。そしてその存在をありえなくさせたお前を、殺す」
ジョルジュは断言した。
まっすぐにモララーを見つめる。
その口はにやりと、不気味に持ち上がっている。狂信的な信者のような顔。
(;・∀・)「狂ってるぜ、お前」
モララーはぼそりと言う。
(;・∀・)「お前のやってることはただの独りよがりだ。
お前は自分勝手なブーンの人物像を拵えて、それに従って自分の欲望を正当化しているだけだ。
ただ単に悲しいだけなんだろ、ブーンがいなくなって。どうしてそれで終われない。諦められないんだ」
ジョルジュは目を閉じ、それから、言葉を発する。
_
( ゚∀゚)「ブーンさんのことが、大好きだったから。それだけだ」
正気でない眼が、モララーに向けられた。
_
( ゚∀゚)「ドクオ! もういいぞ」
ジョルジュの呼びかけ。
モララーを始末しろという命令。
学校の森が、風にあおられたのか、急にざわめく。
おどろおどろしい雰囲気をモララーは感じた。
自分の鼓動が速くなっていることも、はっきりと。
(;'A`)「くぅ……」
ドクオはモララーに銃を構えながら、呻く。
明らかに迷っている。
(;・∀・)「なあ、ドクオ」
モララーは呼びかけてみる。
ドクオの顔がさらにひきつった。
_
( ゚∀゚)「おっと、ドクオと交渉でもするつもりか?
やめておいたほうがいいぜ。こいつだってそれなりにブーンさんに感謝している。
暗い引きこもりがちな少年だったこいつを変えてくれたのが、ブーンさんだったからな」
(;・∀・)「シュールを助けた、あの事件か」
森のざわめきが一層激しくなった気がする。
山が近いせいか、強い風が吹いてくるようになった。
木々の揺れ、擦れる音が大きくなっていく。
_
( ゚∀゚)「そう、こいつは中学生のときにブーンさんの助けを借りてシュールを救った。
だけどそのうちにブーンさんはいなくなった。悲しみも相当だったはずだ。
俺はちゃんとこの耳できいた。そして、俺のこの考えに協力してくれるとも言ったんだ」
モララーは確かめるようにドクオを見つめる。
ドクオはただおどおどと、その視線を避けるだけ。
(;・∀・)「ドクオ、きこえているんだろ」
再び声をかけるが、返事はない。
ただひたすらに困っている、そんな印象だ。
(;・∀・)「よお、お前はどうしたいんだ?」
_
( ゚∀゚)「何を無駄なことをやっているんだ。
さっきもいったようにドクオは協力者。お前の敵だぜモララー」
ジョルジュが煽るが、モララーは諦めきれなかった。
森の木々のざわめきが嫌に耳に残る。
まるでどこか遠くで誰かが叫んでいるような気がした。
(;・∀・)「ドクオ、いい加減自分に素直になれ。
ジョルジュのいいなりになって、ホントにいいのかお前。
お前にはお前なりの考えがあるんじゃないのか?」
_
( ゚∀゚)「そいつに考えなんてあるもんかよ。
こいつは言われなきゃ動かないタイプの人間だ。俺に対しても、ブーンに対しても。
だから俺がこうしてこいつに――」
(♯ ∀ )「俺はドクオに質問しているんだ!!」
モララーの怒鳴り声が響いた。
ドクオは肩を震わせ、ジョルジュはバツが悪そうに口を紡ぐ。
( ∀ )「なあ……ドクオ」
(;'A`)「ぼ、僕は……」
ドクオは依然として眼を泳がせている。
どうしてもまとまらない答えを抱え込んでいるように。
(;'A`)「僕は、確かにブーンさんにも感謝している」
その言葉を聴いて、ジョルジュは満足そうな笑みを浮かべ、モララーを一瞥した。
モララーはその視線に眼もくれずにドクオを見据える。
(;'A`)「でも……
僕は、モララーさんもとてもいい人だと思う」
('A`)「僕は、いつも喋ることが苦手で、それがコンプレックスというか、人と接することが苦手で。
ブーンさんはそこに気付いて、優しく接してくれた。僕を強くしてくれた。
そこは感謝していて、ブーンさんのことが大好きで、だから殺人のときにすごく悲しかった」
ドクオはそこで一呼吸置く。
森のざわめきは未だに大きくなる一方だ。
('A`)「そして……モララーさんは、ちゃんとブーンさんのことを調査してくれたんだ。
ブーンさんのことはこの国の人はみんな知っている。もう死んじゃったってことも。
そしてそんな人間の調査をしてほしいなんて奴を信じてくれる人はそうそういないと思う。
だけどモララーさんは僕を信じて調査してくれた。ブーンさんのことを。それはすごいありがたいことで」
('A`)「たった一日しか一緒に行動しなかったけど、モララーさんが誠実に調査していることはよくわかった。
少なくともその時点では見ず知らずだったのに、こんなに頑張ってくれる人がいるのかって、思った。
そして、僕のことも心配してくれた」
('A`)「俺は、俺はだから……」
ドクオは一人称が変わっていることに気付いていない様子だった。
('A`)「この人を殺したくない」
それがドクオの正直な感想のようである。
湿っぽい風が抜けていく。
ドクオの青白い顔は、口を閉じて、頑なな態度を示していた。
_
( ゚∀゚)「正気か、ドクオ」
ジョルジュの言葉。
それに乗ずるように、揺れる木々。吹き荒れる強風。
ドクオは答える代わりに、銃を下した。
_
( ゚∀゚)「てめえ……」
ジョルジュはそう言うと、ドクオに接近していく。
モララーは嫌な予感を感じ、とっさに口を出した。
( ・∀・)「そういえば、ジョルジュよぉ」
ジョルジュは歩みを止めて、モララーに向き直る。
( ・∀・)「ひょっとしてお前、アパートのこと、ちゃんとしたことをドクオに伝えていないんじゃないか?」
それは単なる閃きだった。
もしあの事件のことをドクオが知らないならば、こんな態度に出るはずがないのではないか。
母親を傷つけたあの火災、その原因を知っていれば、ジョルジュに従うこともなかったのではないか。
ジョルジュの顔に明らかな動揺が浮かぶ。
_
(;゚∀゚)「な、なんのことを言ってんだ。あれはただの事故だぜ?」
予想は的中したらしい。
モララーはジョルジュを睨みつける。
( ・∀・)「警察を舐めるんじゃないぜ。明日になったら、きっともうすべてがわかっているはずだ。
あの火災は誰かがしくんだものだってことくらいな。
だいたい、お前とショボンがいなくなった直後に起こる、そしてそれでけがを負ったツンが、ブーンと関わりを持っている。
この状況から、その火災がただの偶然だったなんて、不思議じゃねえか」
('A`)「……事故じゃ、ない?」
ドクオの眼に、違った色の生気が出てくる。
あまり快くない色合いだった。
( ・∀・)「なあジョルジュ、よくよく考えてみたらよ。
ブーンが俺を殺そうとした原因は、ツンにあるとも言えるんじゃないか?
俺とツンが喧嘩別れしたと考えたなら、両方に責任があるともとれる。
実際ツンがはっきり言わないことが、ブーンの行動につながったんだからな」
(;゚∀゚)「し、知らない!
あれは俺がやったことじゃないんだ」
( ・∀・)「ほーぉ、どうやらお前の裏にいる誰かさんの仕業なんだな。
どうやらショボンと一緒に考えたのであってるみたいだな。
俺を殺そうとしたのはお前、そして俺からブーンの過去をきこうとしたのはそいつ。
お前は俺を殺そうとして失敗して、その後そいつから助言を得て俺の過去を探る方向にシフトした」
_
(;゚∀゚)「なんのことだかわからんといって――」
ジョルジュの言葉は途切れる。
構えられた拳銃。
その腕は、ドクオのものだった。
('A`)「お前は、あの火災は事故だと言った。あのとき、電話口で」
_
(;゜∀゜)「ああ、事故かもしれないと言った。
そもそも俺は何も知らないから、あいつが勝手にやったことだから、俺は関係が」
('A`)「その誰かのことを、俺は知らない。
お前はその存在を俺に隠していたんだな。俺のことを有効に利用するために。
もし母さんを殺害しようとしている人物がいるなんて知れたら、俺が協力しなくなるかもしれないから」
ジョルジュは返答に詰まる。
ドクオの言った言葉は、的を射ていたようだ。
ドクオは何も知らされていなかった。ジョルジュに利用されていただけ。
('A`)「俺はようやく決心がついたよ」
ドクオはジョルジュをしっかりと見据える。
銃口も揺るがない。
さきほど、モララーに向かっていたときとは違い、明らかにジョルジュを狙っている。
('A`)「俺だって、ブーンさんのことは大好きだ。
ブーンさんのおかげで、今の俺があるんだから」
('A`)「俺は、ブーンさんが生きていたとして、もしモララーさんに出会っても
こんなことは絶対にしないと思う。
あの人なら、モララーさんと出会っても、すぐに笑顔になって再会を喜ぶさ」
('A`)「あの人はそういう人だった」
森のざわめきはこれまで以上に激しい。
叫び声、うめき声、まるでどこからかそんな声が聞こえてきているかのようだ。
風は相変わらず強い。吹きすさぶ校庭、男が三人、睨みあっている。
('A`)「いつの頃だったか、母さんがこっそり泣いていたことがあるんだ」
ドクオは唐突に語りだした。
('A`)「母さんはどこへいったのか教えてくれなかったけど
俺はなんとなく、母さんはブーンさんのところへ行っていたんだと感じた。
そこで何を言われたかは知らない。でもそれから、母さんは表ではブーンさんを避けるようになった」
('A`)「だけど家の中ではちょっと違った。
もちろん直截的ではなかったけど、俺に対してよくブーンさんのことを質問してきたんだ。
何度も何度も。ブーンさんとホントはちゃんと話したいけど、話せないときであるかのように」
('A`)「きっと母さんはブーンさんに口止めされたのかもしれない。
もうあんまり会わない方がいい、とかそんなことを。
母さんは芯が強いからちゃんとそれを守っていた。一方で心ではちゃんと繋がっていた」
('A`)「俺はそんな母さんの様子を見て、思ったんだ。
こんな友達関係が、いつか自分も作れたらいいなって。
そしてこうも思う。モララーさんもきっとこの友達関係がつくれたのだろう、
だけど、スレ違ってしまったから、できなかった。本当は一番悲しいのはモララーさんなんだって」
('A`)「だから俺は、モララーさんとブーンさんの関係を壊したくない。
そして母さんをも殺そうとしたお前を許すわけにはいかない」
ドクオは口を結び、拳銃を握る。