電話が鳴る。ドクオからだ。
気がつけばもう約束の時間だった。
モララーの身を案じてショボンが携帯電話を取ろうとするが、モララーはそれを制する。
( ・∀・)「さすがにそこまでバカじゃねえよ」
携帯のボタンを押して、通話を開始する。
('A`)「モララーさんですか? 」
肯定するモララー。
('A`)「もうG地区にいますね?
今すぐ、廃校になったG高校の校庭の、ケヤキの木の下に来てください」
了解し、モララーは携帯電話をポケットにしまう。
( ・∀・)「お呼び出しだ。
G高校の校庭だってよ」
ショボンの方は向かずに、そう伝えた。
( ・∀・)「……いくのは俺一人でいい」
(´・ω・`)「もう行くのかい?
まだわかっていなかっただろ。君が狙われている理由」
モララーは肩を竦めて苦笑いしながら、ショボンの方を振り向く。
( ・∀・)「さあな、でもこんな面倒なことをするくらいだ
何か面白い理由でもあるのかもしれねえな」
ショボンはがっかりしたように溜息をついた。
(´・ω・`)「記憶を取り戻しても、その理由はわからなかったんだね」
( ・∀・)「そういうこと」
軽々と返答するモララー。ショボンはその飄々とした姿をじっと見つめた。
(´・ω・`)「もし犯人がその理由を話してくれたなら、教えてくれよ。
私も気になっているんだ。だから」
( ・∀・)「わかってる。だから死なないし、死なせない」
言葉を中断させられたショボンは「やれやれ」とぼやいて堤防の上に向かった。
自分の車に乗って、待っているということなのだろう。モララーはその後ろ姿を見て思った。
G高校が自分の母校であったことも思い出していた。
そのことも少しは感慨があった。ついさっきまですっかり忘れていたというのに。
( ・∀・)「行くか」
記憶を頼りに、モララーは河原を歩いていく。
そこはG高校までの近道でもあったから。
歩きながらモララーは自分の過去をもう一度思い返してみた。
取り戻す前にあれほど怖がっていたものだ。思っていた通り、気持ちのいいものではない。
それでもここに犯人の鍵はあるはずだ。
せめて予習でもしておくことが礼儀だろうとモララーは思っていた。
G高校に到着したのは、夜の7時45分だった
〜〜第六話へ続く〜〜
G高校――
ケヤキの木は、この高校のシンボルだった。
モララーは今となって思い出せる。この廃校に自分は通っていた。
高校2年生のときまで。
夏の夜、風は少しだけ熱気を帯びている。
とはいえ都会のそれと比べたら、幾分か冷ややかだ。
心地よい冷気が辺りに微かに感じられる。
ケヤキの前に、青年はいた。
モララーは校庭の端からその人影を見つけていた。
月が煌々と照らしているので、確認するのは容易い。
('A`)「……」
青白い顔は元々だったが、月の光のせいでいつもより一層際立っている。
とはいえ、まだ今日で会うのは三回目なんだけどね――モララーはそんなことを思った。
そのたった数日間で、モララーはドクオの人物像をある程度特定していた。
人づきあいが苦手で、ちょっと配慮が足らなくて、どことなく自信が無くて
そして、ブーンのことが気になって仕方がない、そんな人物だ。
ブーンの息子と何らかの関わりがあったのだろう。
だから、ブーンの息子と協力して何かを行っている。
そうまでして、何を成し遂げたいというのか、それをこれから聞くのである。
('A`)「遅かったですね」
( ・∀・)「細けえよ。
30分以内はギリセーフだ」
モララーは徐々に歩んで、ドクオに接近する。
ドクオは引かなかった。
なおも顔は暗いが、足は動かず、じっとモララーを見据えている。
( ・∀・)「話ってのは、なんだ?」
わかりきっていはいたものの、モララーは一応きいた。
このほうがドクオも喋りやすいのだ。
('A`)「ブーンさんのことについて、です」
( ・∀・)「なんか、最初に会った時みたいだな」
その言葉で、ドクオの頬がやや緩むのをモララーは見た。
だがすぐにドクオの顔は無表情に近い暗いものに戻ってしまう。
('A`)「モララーさん、ブーンさんのことを知っていたんですね」
( ・∀・)「ああ、知っていたというか、さっき思い出したんだ。
今はきっと、いろいろと答えられることが増えていると思うぜ」
「へー、じゃあ教えてもらおうか」
突然聞こえて来た声に、モララーは首をかしげ、ドクオはびくっと反応する。
ケヤキの裏から、人影がもう一人分。
_
( ゚∀゚)「ブーンはどうして、自殺しなければならなかったのか」
( ・∀・)「おでましかい、ブーンの息子さん」
_
( ゚∀゚)「よくご存じで」
( ・∀・)「は、殺そうとしてて何言ってんだか」
_
( ゚∀゚)「知らない人に殺されるってこともありうるんじゃないですかねえ?
こんな世の中だしね。大切な人は死んで、どうでもいい人は生きていく」
( ・∀・)「ずいぶんふわふわしたことを言うね、君」
_
( ゚∀゚)「そっちこそ飄々として、いけすかないな。
さっさと話してもらおうか」
( ・∀・)「ブーンの過去、か。いいだろう」
モララーはひとつ咳をして、喉を整える。
さっき思い出したばかりの過去を口で説明するというのも、ちょっとばかり不思議な話だ。
その体験は自分のものだけど、長年連れ添ったわけじゃない。
それでも大事な、記憶。モララーはなるべく正確に伝えるつもりだった。
( ・∀・)「もうずっと昔の話さ」
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1970年 G村――
モララーは産まれた。
内藤ホライゾン、鬱田ツンは近所に住んでおり
親同士の付き合いから、三人は仲の良い友達としての付き合いへと発展していった。
内藤の『ブーン』というあだ名は、彼の口癖から来たものだった。
乗り物、特に飛行機が好きだった内藤は、事あるごとに手を広げてその真似をしたのだ。
ツンとモララーは面白がって彼に『ブーン』という愛称を与えた。
ブーンは野球も好きで、モララーとツンも一緒によくテレビや球場で観戦していた。
ブーン自身も草野球チームに参加し、格別うまいわけではなかったが、目いっぱい練習をしていた。
その姿を応援するのも、モララーとツンの日常の一つだった。
小学校、中学校と進学していく最中も、三人は交友関係を続けていた。
徐々に性別の違いを認識してきてはいたものの、昔からの付き合いであるので、さして気にすることもなかった。
三人の関係は性別関係ないものだったのである。
いつでも笑っているブーン。
いつでもどこか飄々としているモララー。
そのどちらに対してもいさめる言葉を掛けることが出来たツン。
この三人の組み合わせは、ぴったりだったのだろう。
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( ・∀・)「でも、高校生になったころからかな。
ちょっとばかし状況が変わっちまった」
( ・∀・)「俺の家がゴタゴタしだしてな。細かく説明するのは辛いとこだが。
俺の親父がずっと昔に借りを作っちまった奴がいてな。
そいつがよく俺の家に押しかけて来るようになったんだ」
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それがニダーだった。
ニダーはモララーの弱みを握っていた。
そのことをネタに、モララーの家の財産を絞り取ろうとしていたのだ。
モララーの父親は率直に言って優しすぎた。
借りをつくったのは事実であり
ニダーのことを完全に嫌がることができなかったのである。
モララーの母親はいらだちを増していった。
何度も何度も、モララーの父親に取り入り、ニダーを突き離すように懇願した。
だけども、モララーの父親はできなかった。
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( ・∀・)「詳しいことは俺も知らねえんだけどな。
まだ俺は子どもだったし、そういうことはあんまりききたくなかった。
どのみち俺はすぐ会えなくなっちまったし、いいんだ」
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モララーはだんだんと家の暗い雰囲気を感じて、学校でもあまり明るくふるまえなくなっていった。
ブーンやツンもそのことに気付いて、モララーの話をきこうとした。
だけど、二人まで暗くなってほしくないと思い、モララーはその話をしなかった。
毎日、なんとか理由をつくってごまかしていたのであった。
1987年――
モララーたちは高校二年生となった。
この頃になると、ブーンは野球部の活動が忙しくて、あまりモララーと接することはなくなった。
当時は携帯電話も無かったし、特別に連絡することもなかったから、なんとなく疎遠になっていった。
それでも、ブーンがモララーのことを心配していたのは、モララーも知っていた。
そしてそれはツンも同じことであった。
ツンも同じように、モララーのことを心配してくれている。
モララーはそれを感じて、言えないにしても、そのことが嬉しかった。
ある日の夜のことである。
いつものように、ニダーがモララーの家に押しかけた。
母親も父親もいる時間であった。
モララーの母親はいつも以上に苛立ち、ニダーを追い出すべく罵詈雑言を並べた。
モララーはその様子を廊下から隠れて見ていた。怒る母親の姿をあまり見たくなかったのである。
<ヽ`∀´>「ホルホル、そんな強気な態度が示せるのも今のうちニダ」
その日はニダーもどこか苛立っていたのだろうか。
怒っている母親をからかいたかったのであろうか。
とにかくニダーは、いつもとは違う行動に出た。
ニダーが見せたのは一枚の写真だった。
从'ー'从
遠くからなんとか見えたその少女は、モララーの運命を変えることになる。
一旦青ざめて、父親と母親は激しい言葉を交わし合うことになる。
その怒声の中で、モララーはなんとか状況を把握した。
どうやら写真の少女はモララーの父親の隠し子であるらしい。
いうなれば、モララーの姉のような存在なのだろう。
どうしてそんな存在がいるのか、詳しい事情はモララーにはわからなかったが
それがニダーの握っている父親の弱みであることは明らかだった。
翌日、モララーの母親は家を出ていった。
唐突だったが、昨晩の様子から、モララーは母親の家出を察した。
母親は、隠し子の存在を知らなかったのだ。父親もどうしてもそれを言うことが出来なかった。
それが昨日になってばれて、母親の怒りの矛先は父親へと向けられたのだ。
父親とモララーの家庭は、どん底だった。
父親は日に日に荒れていき、モララーに暴力をふるうようになった。
身体こそ大人に近づいていたモララーだが、反抗することはできなかった。
その態度の豹変っぷりに、ショックのあまり動けなかったのである。
モララーは暗い顔を学校で必死に隠した。
あからさまに暗い様子なんて、示したくない。
もしそんなことがばれたら、自分は今までどおりの生活が送れないかもしれない。
このG村で、ツンやブーンと一緒に過ごす日々が壊れてしまうかもしれない。
ブーンと疎遠になったことは、よかったのかもしれない。
ブーンにはその辛い様子が伝わらなかったのだから。
だけど、ツンは違った。
ξ゚听)ξ「ねえ」
ある日の下校中に、ツンとばったり出くわした。
うっかり暗い顔をしていたモララーは、慌てて笑顔を取り繕った。
(;・∀・)「な、なんだよツン。
お前の家、こっちじゃないだろ」
ξ゚听)ξ「あんたに会いに来たのよ。
あんた、最近今にも死にそうな顔してたから」
ツンはモララーの様子に前から気付いていた。
そしてずっと心配していた。
モララーの身に何かあったのではないか、だとしたら自分ができることはないのか。
そんな想いから、モララーに話しかけたのだという。
G村の中央を流れる川沿いで、二人は話しあった。
ツンのかけてくれる言葉が、モララーには優しく、温かかった。
暗くふさがれたモララーの心は、徐々に開かれていった。
モララーはそのぬくもりをずっと欲していたと気づいた。
自ら拒絶していたそれは、唐突に奪われた母親のぬくもりと似ていた。
自分の元から突然いなくなってしまったぬくもり。自分を支えてくれるもの。
それが、ツンからもたらされた。
その事実に気付いた時、モララーは欲してしまったのである。
(; ∀ )「ツン……」
ひとしきり自分の話を終えたモララーは、夕暮れのせいか火照りを感じながら、ツンに顔を向けた。
(; ∀ )「俺と……俺と付き合ってくれないか?
俺には誰かが必要なんだ。ツンみたいに、俺のことを支えてくれる誰かが」
ツンはすぐには答えなかった。
モララーは気まずい沈黙を感じていた。
あまりにもいきなりだ、モララー自身もそう感じていた。
やっぱり撤回しようか、なんてことを考えた頃、ツンが口を開いた。
ξ゚听)ξ「あんたやブーンとは友達のつもりだったんだけどなあ」
妙に鈍い衝撃が、モララーの頭に訪れた。
必死で応える言葉を探すモララーだが、その言葉を見つける前に、ツンが口を開く。
ξ゚听)ξ「ま、どうしてもというなら何度かデートしてあげてもいいわよ。
その思いっきりヘタレな性格も見直してあげてもいいかもね」
その日の夜は浮足立っていたのをモララーは今でもよく思い出せる。
思えば思春期真っただ中で、彼女がほしいと心のどこかで思っていたのかもしれない。
モララー自身、ツンのことは確かに友達と思っていた。ちょっと前まではそうだった。
でも言ってしまった。そしてデートの約束までこぎつけた。
心のどこかでそんな欲求があったのだろうか、考えれば考えるほど、そうだったように思えてくる。
自分はツンのことが好きだ。
それは錯覚かもしれないけど、それでもそのときのモララーの頭はツンのことでいっぱいになっていた。
今まで普通に友達でいたのが不思議なくらいである。
その日は、父親から飛ばされる罵声も耳から耳へと抜けていった。
そうして夜は更けていったのである。
その数日後のことである。
( ・∀・)「あ」
( ^ω^)「お」
モララーが普段より遅くまで学校にいたからだろうか。
野球部の部活が早めに終わったのだろうか。
モララーは帰り道でブーンと遭遇した。