( ・∀・)「ああ、そう。悪いな。
何せ俺もそう言われて調査していたところなんだ」
(´・ω・`)「なんと! それじゃあ私と同じじゃないか」
( ・∀・)「嫌な巡り合わせだな」
(´・ω・`)「さて、『言われて』ということは調査依頼でもあったのか? 」
( ・∀・)「ああ、冴えない面した大学生から相談を受けたんだよ。ドクオっていう青年だった」
(´・ω・`)「ドk――え? 」
(;´・ω・`)「えぇええぇえええぇぇえええ!!! 」
(;・∀・)「おっさんがバカでかい声出そうとするんじゃねえよ、うるせえな。
んで、そっちはなんで調査したんだ」
(;´・ω・`)「あ、ああそうだな。悪かった。年甲斐も無く。
私は内藤ホライゾンの事件のときの笑顔と、死んだときの安らかな表情が気にかかっていた。
それと、ある青年の助言で殺人の動機にも興味が湧いたんだ。その青年はジョルジュといってな」
( ・∀・)「ジョr――え? 」
(;・∀・)「なあぁにぃいいいいいいい!!? 」
(´・ω・`)「うるさいな、年甲斐を考えろバカ野郎」
それから二人はお互いに知っていることを話し合い、情報を交換した。
モララーは周りから怪しげな視線を受けながらも、それを無視して話に没頭していた。
午後5時、D市の山の麓――
指定された駐車場で、モララーはショボンを探していた。
ようやく見つけたとき、ショボンは不機嫌そうな顔つきだった。
(´・ω・`)「話したことは本当なんだろうな? 」
( ・∀・)「そっちこそ」
モララーは車に乗り込んだ
( ・∀・)「G村か……」
モララーは誰に向けたわけでもなくそう呟いた。
(´・ω・`)「そういえばお前、G村に行ったことはないのか? 」
( ・∀・)「行って何になるんだ。
気付いた時にはもう20過ぎてたんだ。誰も待ってねえよ」
(´・ω・`)「それもそうだが、少しぐらい気になるものじゃないのか」
モララーは言葉を発しなかった。
ショボンも黙っていた。
傾きつつある夕日を浴びて、男二人が乗った車は未だ動く気配を見せなかった。
( ・∀・)「怖かったんだ。ずっとな」
長い沈黙の後、とうとうモララーが口を開いた。
(´・ω・`)「G村が、か? 」
( ・∀・)「そうだ」
モララーは本心から言っていた。
昔から、川の上流に行くことを極端に恐れていた。
自分が見てはいけないなにかがある、ずっとそんな気持ちがしていた。
( ・∀・)「でもな、今は大丈夫だ」
(´・ω・`)「ほう、それはまたどうしてだ? 」
その言葉を聞いて、モララーはあっけらかんとした声を出して笑う。
( ・∀・)「この歳になって、怖いとかそんなこと言ってられねえよ
行こうぜ、G村。そして記憶を取り戻そうじゃないか」
本当は怖かった。
今でも相変わらず、モララーはG村、現在のG地区へ行くことを拒みたかった。
あの村落は訪れたくない。自分はあの村を恐れているし、あの村は自分を拒んでいる。ずっとそんな気がしていた。
でも、もうショボンから話は聞いた。バッドのこと、自分とブーンとの繋がりの可能性。
ショボンが提示したその話を電話越しに耳にしたときは、正直疑いの気持ちしか抱けなかった。
だけど、希望はあった。記憶が戻ればわかるかもしれない。
自分が襲われた理由。もちろん不明の部分は多分にあるのだが。
それから二人は、ドクオとジョルジュの話も交換し合った。
あの二人の青年について、二人ともブーンと重要な関わりを持つ人物であるのだ。
ブーンと共に暮らしながら、失踪されたジョルジュ。
そしてブーンと親しく接していたドクオ。
ブーンの息子のことも考えた。
二人のうちのどちらかが、この名前を冠していたに違いない、モララーとショボンはそう結論付けていた。
山を登っている最中に、モララーの携帯電話が鳴る。
またも予想してない連絡。モララーの不安は募った。
ショボンと目線を交わして、それから電話に出る。
掛けて来たのは、ドクオだった。
('A`)「モララーさん、ですか」
弱々しい声が聞こえてくる。
ドクオの声に違いなかった。
( ・∀・)「おお、ドクオか
どうしたんだ、何かあったのか」
('A`)「実はお話したいことがありまして、G地区に来てほしいのです」
( ・∀・)「へえ、わかった。じゃあ今から行くよ」
('A`)「ありがとうございます。
お願いします」
それだけだった。たったこれだけの会話で、電話は切れてしまった。
あまりにも簡潔で、あまりにもひどい――モララーは思わず大声で笑ってしまった。
(´・ω・`)「どうした、急に笑い出して
本当に感情豊かな中年だなお前は」
ハンドルを捌きながら、ショボンが非難する。
モララーは腹を抱えながら、運転席のシートに手を掛けた。
( ・∀・)「だってさ、何も前触れなしに『G地区に来てくれ』って言うんだぜ?
D市に少しでも行ったことがなきゃわからないのに、地区名なんてよお。
しかも俺のことについては何も質問しないんだ。今どこにいるのか、とかそんなことすらなし。
これじゃ何時頃に到着するのかすらわからねえよ」
大口開けて笑いを溢れさせているモララーの腰の上で、再び携帯電話が鳴る。
( ・∀・)「もしもし? 」
(;'A`)「あ、あのすいません。モララーさん。
いったいどれくらいしたら到着しますか」
モララーの顔から笑いは消えた。
( ・∀・)「……2時間くらいだ」
咄嗟にその制限をだす。
現在時刻は5時30分を周ろうとしていた
('A`)「あ、じゃあそのくらいになったらまた電話します」
そういって、ドクオは通信を切った。
モララーはその携帯電話をじっと見つめていた。
( ・∀・)「誰かいるな」
(´・ω・`)「ドクオ君と一緒にってことかい? 」
( ・∀・)「ああ」
(´・ω・`)「何だか信頼が無いんだな」
( ・∀・)「信頼しているからこそだよ
間違いない。あいつは誰かに言わされている」
断言するモララー。
カーブに注意しながら、ショボンは口を開いた。
(´・ω・`)「じゃあ、考えがまとまっただろ」
( ・∀・)「もちろんだ。
ブーンの息子、そうだろうな」
モララーにはもう、ドクオを疑う気持ちは微塵も残っていなかった。
( ・∀・)「ジョルジュだ。奴がブーンの息子だ」
(´・ω・`)「……一旦考えを整理しようか」
運転しつつ、ショボンが切り出した。
(´・ω・`)「もし彼がブーン、内藤の息子だとする。
ならば、私のところにきたのは最初から計画のうちだったということか?」
( ・∀・)「多分な。お前のことだ、事件の話でもしたことはあるんじゃないか?」
(´・ω・`)「ああ、したよ。警察内部のことまで喋るわけにはいかないから、事件の概要をだけどね。
当然、お前が関わる事件の話もした。これが、あいつの狙いだったんだな」
( ・∀・)「そう、ジョルジュの狙いは俺。
さっき教えたように、俺はしぃの屋敷で命を狙われている。
狙った者は『ブーンの息子』が首謀者だといったから、まずジョルジュが仕組んだものとみていいだろう」
(´・ω・`)「だが、それなら私の方で起きた火災はなんなんだ?
私はあのときジョルジュと一緒に行動していたし、それに火災は私たちがアパートから離れた直後に発生した。
なかなか危険じゃないか。最初からジョルジュが仕組んだものだとしても、気になるな」
(´・ω・`)「それから、昨日お前を殺すつもりだったということは
ジョルジュは元々お前に会わなくてもいいと考えていたということだ。
それなのにどうして今日は呼びだした? 突然何かいいたいことでもできたというのか?」
( ・∀・)「……なんだろうな」
モララーは実際その場で考えた。二つの謎について。
ショボンの方で起きた火災。そして、自分が呼び出される理由。
( ・∀・)「まず火災について、もしかしたらだがな」
モララーは自説を展開する。
( ・∀・)「火災の規模はそこまで大きくなかったと聞いている。死者はいなかったみたいだしな。
とはいえ、偶然起きた事故として処理するのはちょっと怪しい。
まるでお前とジョルジュが去るのを見計らってから発生したような気がするからな」
( ・∀・)「そこで、だ。誰かがお前らを見張っていた。
そしてアパートから出て来たあとに、出火した。これでどうだ。
出火原因なんかはそろそろ検出されているんじゃないか? あとで問い合わせてみてくれよ」
(´・ω・`)「私たちを殺すつもりではなかった、と?」
( ・∀・)「そうなる。アパートの住人とか、そのあたりに狙いの人物がいたんじゃないか?」
(´・ω・`)「そういえば……
あの火災、一階の住人は軽傷、二階の住人は重傷の割合が高かったぞ」
( ・∀・)「じゃあ、二階の誰かが狙われてたんじゃねえか? どうよ」
(´・ω・`)「ツンだ」
モララーはバックミラー越しに、ショボンの閃いた顔を見た。
(´・ω・`)「鬱田ツン。鬱田ドクオの母親は二階に住んでいた。
私も朝考えていたんだけどね、ブーンに関わりのある彼女が狙われていた可能性はあるんじゃないか?」
(;・∀・)「で、でもよお」
モララーは頭を掻く。
(;・∀・)「じゃあなにか、ドクオは自分の母親を殺そうとした奴と協力しているのか?
いくらあいつがしゃきっとしてない奴だからって、そこまで薄情とは思えないが」
二人の唸り声が車内に広がる。
この疑問点は、不可解だった。果たしてドクオは何を考えてジョルジュと協力しているのか。
ややあって、ショボンは口を開く。
(´・ω・`)「ジョルジュにとっても予想外だとしたら?」
( ・∀・)「ん、さっきの俺の仮説を前提として
お前らを見張っていた誰かが勝手にやったということか?」
(´・ω・`)「あるいは……見張っていることすらジョルジュが知らなかった」
ショボンの一言が、モララーの考えに刺激を与えた。
( ・∀・)「……ジョルジュの裏にも誰かがいる?
ジョルジュ以外にも動いていた人間がいる?
そう仮定すれば、なるほど」
( ・∀・)「その動いている人物と昨日か今日出会って、ジョルジュが俺と会うことに決めたとも考えられるな」
モララーの放った言葉で、車内は沈黙する。
お互いに自分に考えを整理しているのだろう。
( ・∀・)「なあ、お前。この考えを提示したのには、それなりの理由があるんじゃないか?」
ふとモララーは思いついて、発言する。
ここまで続いてくると、この話を裏づける何かがほしいと考えたのだ。
(´・ω・`)「前々からちょっと気になっていたことがあるんだ。
ジョルジュの資金源はどこからきているのか」
なるほど、とモララーは頷いた。
確かに、自分を襲った警備員も、アパートでの火災も、普通の人間が行える代物じゃない。
資金源がある、裏で大きな力を持った人物が動いている、そう考えると自然なのではないか。
そして同時に、モララーの脳内にはその人物像が思い浮かんでいた。
( ・∀・)「なあ、ショボンさんよ」
(´・ω・`)「なんだいきなり改まって『さん』づけなど。不吉だな」
( ・∀・)「俺をG村に送ってから、動ける?」
(;´・ω・`)「……ほれみろ」
( ・∀・)「頼む! 電話番号だけでも教えるから!」
(;´・ω・`)「いや、明日は普通に出勤なんだけど……動きたくないんだけど」
( ・∀・)「……ま、どうせジョルジュからきくことになるだろうし、落ち着こうか」
ショボンがほっとしているのがよくわかった。
( ・∀・)「ただちょっと、俺の方にも警戒が必要なことを留保していてくれよ」
(´・ω・`)「裏にいる人物が危ないからか?」
( ・∀・)「そだなー。なんかきな臭いからなー。
ジョルジュがどうしても俺を殺すっていうのなら、その裏の人物と協力して
必ず俺をしとめる方法でも編み出してそうだしな。
単純に物量で襲ってくるかもしれない。そうなったら逃げきれるかどうかわからん」
(´・ω・`)「お前それ、私が警察官だからって、言ってきてるんじゃないだろうな。
機動隊とか用意してくれよー、的な」
( ・∀・)「え、無理なの?」
(´・ω・`)「できるか、ボケ」
(;・∀・)「……俺やばくね? おい誰だよ裏になんかいるとか言い出した奴」
(´・ω・`)「私だが、会うと言っちゃったのはお前だしな。
呼び出されたのに素直に従っちゃうんだもんなー、かっこつけて」
(;・∀・)「なあ、ちょっと、俺に策があるんだよ。耳貸してくれよ」
車は徐々に徐々に、G地区へと接近していった。
G地区――
モララーとショボンは河原に立っていた。
車は堤防の上に停めてある。都会なら車上荒らしの危険があるが、この山間の村なら多少注意を怠っても大丈夫だろう。
ショボンの考えが甘すぎるのではないかとモララーは思ったが、本人が大丈夫と言っているので気にしないことにした。
(´・ω・`)「気分はどうだ?」
(;・∀・)「よくねぇ、よ……」
モララーの気分は悪くなっていた。
村の中に入ったときから、言いようのない吐き気を感じ、手や額から冷や汗が流れ始めていた。
静かな音を立てて流れる川を眺めながら、何度もハンカチで汗を拭い、意識を保とうとする。
約束よりだいぶ早い時間から、彼らはここで歩いていた。
もし記憶が戻らなかったらしかたないからブーンの息子とやらから聞く、そのつもりだった。
およそ20年前、モララーはこの川を流れて、下流の森で隠遁生活を送っていたビロードに拾われ、一命を取り留めた。
モララーの記憶は病院で意識を回復させたときから始まっており、それ以前のものは深い闇の中に沈んでいる。
だけど、その闇の底からいくつもの泡が出てきていた。
(;・∀・)「なんなんだろうなぁ、この気持ち。
この川、なんか縁起でもない気持ちにさせるんだよなあ」
この川を知っている――モララーはそう確信した。
脳内にイメージが浮かぶ。
それは、実際に体験したことのある景色なのだろう。
昔から、そんな気分はしていた。
こうして至近距離で川沿いで眺めているとそれがよくわかる。
頭の中のイメージが固まっていく。
思い出せる。
自分が流れていたことを思い出せる。
夜だ。都会では決して見ることができないほどの幾つもの星が天上を覆っている。
深い深い夜に自分はこの川を流れていた。
鉄の味を口の中で感じながら。
記憶が闇の底から現れようとしている。
20年間眠っていた忌々しい過去が、失われていた欠片が手に入ろうとしている。
目眩がして、モララーはよろける。
ショボンが慌ててその体を手でつかみ、支えた。
(;´・ω・`)「お、おいモララー」
危惧の言葉が聞こえた気がした。
恐らくショボンが掛けたものだとはわかったが、モララーは反応することができなかった。
意識は現実から離れていった。
気持ちが悪かった。
自分に何年も無かったものが、自分を苛み続けていたものが手に入るというのに。
長い間、心のどこかではその復活を願っていたというのに、今はどうすることもできない恐れを感じていた。
世界が暗転する。
夏と、冬が、頭の中で何度も訪れる。
自分はまだ幼い。
モララーも、ツンも、ブーンも幼い。
何故その名前を知っているのか、だんだんとわかってくる。
懐かしいものだ。たとえ失われていたものであったとしても、昔の記憶はかくも甘美で、感慨深い。
彼らは幼馴染だった。
そしてとうとう、その日の記憶が蘇る。
全てがわかる。
濁流のように、時系列を無視した混沌が脳の中に流れ込み、整理が追いつかない。
様々な感情が交錯し、何が正しくて何が嘘なのかもわからない。何故自分は怖がっているのかも。
( ・∀・)ξ゚听)ξ( ^ω^)从'ー'从 <ヽ`∀´>
人々の顔が頭の中で浮かび、その意味が後からついてくる。
(;・∀・)「わかった」
気息奄奄の状態で、ようやく絞り出したか細い声でモララーは呟いた。
自分が膝立ちになっていることに気付く。気がつかないうちに体が動いたのか、ショボンがそうさせたのか。
(´・ω・`)「大丈夫なのか? ひどい汗だ。
それにかなり疲労しているみたいだが」
ショボンがモララーの顔を覗き込んだ。
(;・∀・)「記憶ってのは、疲れるものみたいだ。
とりあえず、ショボン。俺らの予想と結構近かったぜ」
体を支えるショボンの腕を軽く払いのけて、川を見つめる。
遠い昔、自分はあの川を流れていた。
目を離すことができなかった。
自分の憶えていることが、取り戻した記憶があまりにも衝撃的なものであったから。
(;・∀・)「俺はブーンに殺された」
ようやくモララーは自分の思い出したことをはっきりと認識できた。