一階、応接室――
モララーとドクオはしぃに連れられて、部屋の中に入った。
壁に飾られた賞状や、トロフィーがまず目につく。
応接室に置くということはそれだけ相手に見せびらかしたいという意図なのだろう。
( ´∀`)「よく来てくれましたモナ。
ありがとうだモナ、えっと……」
ふくよかな男が、腹の底から出るような声で語りかけて来た。
(*゚ー゚)「モララーさんとドクオさんですわ、お父様」
( ´∀`)「ああ、そうだったモナ、忘れていたモナ」
(*゚ー゚)「いやですわ、お父様。
まだ名前なんて紹介していませんことよ」
二人の笑い声が、客室中に響き渡った。
少し大袈裟かもしれないが、確かに家族としてのぬくもりが感じられる、そんな笑い方だ。
モララーとドクオは自分たちとかけ離れたその親子の様子をぼんやりと見ていた。
( ´∀`)「とりあえず座るモナ」
父親はしぃを外に出して、それから顔つきを真剣なものに変えた。
( ´∀`)「話はしぃから聞いているモナ。
どうして私が内藤ホライゾンのことを好んでいるかモナね? 」
しぃの父親の名前はモナーと言った。
モララーとドクオがフカフカのソファに座り、細長くて艶のあるテーブルを挟んで反対側にモナーが座っている。
( ´∀`)「まず話を始める前に、しぃの姉であるつーの話をしなければならないモナ」
つーはしぃとは歳の離れた姉であり、昔はよくしぃの面倒を見てくれた。
モナーや他の養育係にとっても、頼りになるいいお姉さんだったそうだ。
しかし1990年、つーは20歳になると同時に東京の家を飛び出した。
富裕なだけで何の刺激も無い毎日に嫌気がさしたらしい。
実際つーはその頃、大勢のガラの悪い友達とつるんでいたという。
( ´∀`)「実のところ私は完全につーを舐めていたモナ。
どうせすぐに帰ってくるのだろう、と高をくくっていたモナ。
ところが……」
つーは全く帰ってこなかった。
さすがにモナーも捜索をしなければならないと思い、警察に連絡した。
しかしいくら待っても進展がない。
だんだんとモナーは焦りを感じて来たという。
( ´∀`)「私はとても怖かったモナ。
そしてとても後悔したモナ。
つーにもしものことがあったらどうしようか、もし悪い奴らに捕まっていたらどうしようか
毎日毎日そんなことばかり考えていたモナ」
その年の12月、事態は大きく動いた。
某県D市のある市警が、モナーに連絡をくれたのだ。
失踪中のつーが、D市にて発見された、と――
モナーは急いでD市に駆け付けた。
D市は某県西部にある地方都市であり、モナーは初めてそこに赴いた。
モナー自身も、また他の関係者も、つーがまさかそんな場所にいるなんて思いもよらなかったらしい。
D市警察署の一室で、モナーはつーと再開した。
つーの傍らには、包帯を体の至る所に巻いた青年が座っていた。
彼らの手はしっかり結ばれていて、その関係はモナーにもわかった。
( ´∀`)「そのとき包帯を巻いていた彼こそ、内藤ホライゾンであったモナ」
モナーは話を聞くことにした。
内藤、もといブーンは痛々しい体で、上手く喋ることができなかったため、つーが全て話してくれた。
つーはD市にて水商売で働いていたそうだ。
生きていく分には収入も十分にあり、生活にも困らなかった。
もう家に戻らなくてもここで暮らしていけばいい。ここには、家には無かった刺激があるから、つーはそう思っていた。
しかし、あるときブーンと出会った。
大学生の友達が紹介してくれた人の中に、その人物はいた。
彼は真面目な人で、普通なら自分と関わらない人だ、とつーは思ったらしい。
友達の友達として、偶然が重なって知ることになった彼。
でも一度目は何事も無く過ぎてしまった。
それから、今度は客引きをしているところでブーンに会った。
ブーンは心底驚いたらしく、つーの手を引いて話をしようとした。
つーはそれを払いのけて仕事に戻った。
しかしブーンはことあるごとにつーに接触して、説得しようとしてきた。
こんな仕事はするべきじゃない、君はもっとやるべきことがあるはずだ、と。
つーは何度もブーンを追い返した。しかしブーンもしつこかった。
そんな日々が続いた。
ある日、つーは自分の店が危険なことに手を出していることに気付いた。
つーは逃げようとしたが、店はなかなか手放してくれない。
困り果てた彼女はブーンに相談してしまった。
すると、どういうわけか、ブーンは店側に直接赴いた。
そして頼み込んだ。つーをもう止めさせてほしい、もう彼女は嫌がっている。
もちろん店がそんなことを聞くわけがない。
ブーンは思いっきり殴られ続けた。
つーはそれまで避けていた警察に連絡した。
たとえこの連絡のせいで自分が家出途中の身であることがわかったとしても構わなかった。
ブーンが助かるならばそんなことは、どうでもよかったのだ。
( ´∀`)「つーはそう語ってくれたモナ。
内藤ホライゾンはつーを更生し、再び我が家に帰してくれたモナ」
( ´∀`)「私は彼に感謝しているモナ。
彼はしばらくすると行方不明になり、次に私が目にしたのは殺人犯としてテレビに映ったときだったモナ。
しかし、当然のことながら私は信じられなかったモナ。
彼が凶悪な、俗に言う『笑顔の殺人鬼』などになるとは、とても思えなかったモナ」
モララーはそこまで言うと、目を閉じる。
昔のことを思い出しているようだ。
きっとブーンのことなのだろう、モララーはそう思った。
そして、どこかで似た話を聞いたばかりだとも思った。
やがてすぐに思い至り、ドクオの顔を見る。
モナーの話はドクオの話に似ていた。
ブーンは良い人だ。とても殺人犯とは思えない。
話は違っても、伝えたい内容は同じであるようにモララーのは思えたのだ。
ドクオはまっすぐ、モナーを見つめている。
真剣だ、といってしまえばそれまでだが、どことなくそれだけでは言い表せない感じが出ている。
悲しみが彼の瞳の奥に湛えている、モララーは青年を見ていてそんな気がしたのだ。
ドクオは自分の気持ちを言葉に出そうとはしない。
でも、モナーをじっと見つめる彼は、何かを感じたのだろう。
それが何かは、彼が話す気になるまではわからないままであるものなのだろう。
そんな直感が、モララーの頭を過る。
( ´∀`)「私の気持ちは以上モナ。
あの男に秘密があったのならば、それはそれで仕方のないことモナ。
でも……もし彼の死が避けられるものであったならば、現状に後悔せざるをえないモナ」
モナーの言葉の後、静寂が訪れる。
こうなってはドクオは喋らないだろう、モララーが会話を続ける。
( ・∀・)「お気持ちはわかりました。
我々も、彼の死が受け入れられないでいる点では同じです。
私は関わりがないのですが、このドクオ君は昔内藤ホライゾンにお世話になったことがあるそうで」
言葉を聞き終わらないうちに、モナーは「ほおお」と言いながら、ドクオに注目する。
ドクオはただ頭を下げただけだった。
( ´∀`)「それは興味深いモナ。
思うに君が会った内藤ホライゾンは我々の前から姿を消した後モナ。
それはぜひお話を聞いてみたいモナ」
この人もやはり知りたがるのだ。モララーは職業上、ついそんなことを思ってしまった。
何人もそんな人間を相手にしてきたから、わかっていた。
謎があれば解きたがる、たとえそれが不愉快なものであろうとも。
それが人間なのであり、自分だって大差ないってことも。
(;'A`)「はあ、ですが僕の経験は本当に当たり障りのないもので。
あの人のことを良く知る上では、あまり役には立たないかと」
( ´∀`)「構わんモナ。
今は真面目になって会社にかかりっきりなつーに、聞かせてあげたいんだモナ。
彼女は――」
時計の鐘が鳴ったので、モナーは口を噤んだ。
6時の音である。
( ´∀`)「随分話しこんでしまったモナ。
食事の準備が整っているはずだモナ。
お二人とも、今夜は存分にうちの料理を楽しんでほしいモナ」
( ´∀`)「といっても私もこのうちの料理人の出すものを食べるのは初めてモナ。
こりゃあ楽しみモナ」
午後6時、一階、会食場――
会食場に入る前に警備員のチェックがあった。
モララーとドクオは危険なものを持ち込んでないことを調べられる。
(,,゚Д゚)「会食の際には左胸のポケットにこの紫色のハンカチを挟んでください」
('A`)「あの……僕スーツじゃないからポケットないんですけど」
(,,゚Д゚)「それじゃ別のポケットに入れてください」
('A`)「破けているんですが」
(,,゚Д゚)「…………」
('A`)「…………すいません」
(;・∀・)「と、とりあえず私が預かっておきますね! 」
警備員からハンカチを受け取ると、モララーはドクオを連れてさっさと入場する。
('A`)「すいません」
(;・∀・)「あやまんじゃねーっての」
会場は広かったが、今回使うテーブルは一つだけ。
入口から見て横長のものであり、奥に二つ、手前に二つの席がある。
席と席の間は五メートルほど離れていた。
さらに他人と向かい合うのではなく、席を線で結ぶとジグザグの形が出来上がるように配置されていた。
入口から見て、左奥にドクオ、左手前にモララー、右奥にしぃ、右手前にモナーが座る。
ドクオとしぃからは入口が見えて、モララーとモナーからは壁にあるレリーフが見えた。
藤の花のようである。すると、ハンカチの紫色はきっと藤色なのだろう。
( ´∀`)「みなさん、本日はよくお越しいただいたモナ」
たった二人の客人だが、モナーは丁寧に挨拶を述べる。
お金を使うときは使うが、細かい配慮もする几帳面な性格が窺えた。
(*゚ー゚)「私の家なんだけどな〜」
しぃの呟き声も、モナーには届いていないようだった。
( ´∀`)「それでは会食を始めるモナ」
モナーは振り向いて合図を出す。
警備員によって入口が開かれ、給仕が料理を運んできた。
( ・∀・)「その席じゃ、いろいろと面倒じゃないですか? 」
わざわざ入口の方を向くために立ちあがったモナーに向かって、モララーが質問する。
(*゚ー゚)「本来なら私が仕切るのよ。
席もここなら入口が見やすい。し
でもお父様がどうしても挨拶やりたいっていうから、やらせてあげたの」
( ´∀`)「ついついお客は丁寧に扱いたくなるんだモナ」
まずはスープが運ばれて、その後も少しずつ料理が運ばれてくる。
(*´∀`)「おいしいモナ!
こっちの料理人も良い仕事してるモナ! 」
喜んでいるモナーの姿を見て、モララーはふと客間で最後に見たモナーの様子を思い出す。
そして斜向かいにいるしぃに耳打ちした
( ・∀・)コソコソ「よかったですね、お父さんがここの料理を気に入ってくれて」
しぃは最初きょとんとしていたが、すぐに合点がついたようだ。
そして途端にクスクスと笑いだす。
(*゚ー゚)コソコソ「お父様、偉そうなこと言ってるけど味音痴なのよ
むしろ誉めることの方が好きなの」
( ´∀`)「何か言ったモナか? 」
モナーの首がモララーとしぃの間を行ったり来たりする。
(*゚ー゚)「楽しい会食だって話していたところよ」
( ´∀`)「そりゃあそうモナ。
おいしいんだから楽しいモナ。
どうモナ? ドクオ君もそう思うモナ? 」
(;'A`)「ぶっ、ごふ……はあ」
急に話しかけられて、ドクオは咽かえる。
どうやら料理をありったけ口に頬張ろうとしていたらしい。
(;・∀・)「おい、ドクオ。
もっと落ち着いて食べたらどうだ? 」
(;'A`)「いやあ、久々にまともな食事だったもので」
( ・∀・)「まだ子どもなんだなやっぱり」
(*´∀`)「いいじゃないかモナ!
子どもだろうとなんだろうと、たくさん食べればいいモナ」
そう言っているモナーも、味わう前にがっつりと頬張っていた。
有言実行という言葉がモララーの脳裏に浮かぶ。
(*゚ー゚)「子どもといっても、無邪気に食べ物を食べるくらいならいいんだけれどね」
しぃはため息交じりに呟いた。
( ・∀・)「何か困ったことでもあるんですか? 」
悩み事があることは明らかだ。
しぃは頷いて、話しだす。
(*゚ー゚)「ええ、どうもうちの敷地に爆竹を投げ込む子どもがいるみたいなのよ。
裏の杉林の方でね。おかげで夜は眠れなくなることも多くて」
( ´∀`)「そんな奴がいるモナか。
許せんモナ。ぶっ放すモナ」
(*;゚ー゚)「お父様、まだ射撃やってたの?
もう歳なんだからそろそろやめてほしいわ」
( ´∀`)「まだまだ現役モナ〜」
親子が愉快そうに話している脇で、モララーは考え込んでいた。
先程の言葉がまだ気にかかっていたからだ。
( ´∀`)「しぃ、お前もいつまでも独り身でいないで、そろそろ結婚するモナ。
そうしたらもっと楽しいし、おいしいものも食べられるモナ! 」
(*゚ー゚)「まったくもう、30歳を過ぎた頃からそればっかりじゃないの、お父様」
( ´∀`)「私はしぃに幸せになってもらいたいだけだモナ。
どうだい、ドクオ君? うちの娘に興味はないかい? 」
('A`)「え! いえ、その……三次はちょっと」
( ´∀`)「年齢なんて気にすることはないモナ!
そんなもの関係ないモナ。モナが若い頃なんか」
(;'A`)「いやあ、そういうわけじゃ」
(*゚ー゚)「お父様、さっきから言ってることが滅茶苦茶ですわ。
ひょっとしてもうお酒がまわったのかしら? 」
(*´∀`)「何だかいい気持ちモナ〜」
(*;゚ー゚)「弱いんだからちょっとでやめておけばいいのに」
(;'A`)「ていうかブー……内藤ホライゾンの話を聞きたいとか言ってませんでしたっけ」
(*´∀`)「おー、そうだったモナ。
あの男はホントに感謝してもしきれない男だモナ!」
(;'A`)「サケクセー」
(*´∀`)「ドクオくん、ああなるには飲むしかないモナ」
(;'A`)「どうしてそうなるんですか」
(*;゚ー゚)「ドクオくん、多分もう何を言っても無駄よ」
(;'A`)「は、早すぎませんかねぇ」
(*;゚ー゚)「早く、短い。それがお父様の酔い癖よ」
( ・∀・)「すいません、しぃさん
少し聞きたいことがあるのですが 」
低いモナーの笑い声が会食場に響き渡る中、モララーはしぃに呼びかけた。
しぃは「何でしょう」というふうに首を傾ける。
(;'A`)「エ、チョ、ボクダケジャタイショデキナイ」
(*´∀`)「モナーハハハハハ」「キャー」('A`;)
( ・∀・)「先程お話になった爆竹ですが。
鉄柵の外側から、子どもたちが投げ入れてきているのでしょうか? 」
しぃは何故その話が再び振られるのかわからなかった様子だが、すぐに首を縦に振って反応する。
(*゚ー゚)「ええ、私は見たことないのですが。
爆竹の燃えカスを敷地内で拾った警備員がそうおっしゃっていたのです」
( ・∀・)「敷地内……ですか。
それって危なくないんですかね? 火事にでもなったら大変ですし」
(*゚ー゚)「もちろん大変ですわ!
どこかの風紀の悪い人々がやっているのでしょうけど、もし杉が燃えたりしたらと思うと……」
しぃがさーっと青い顔になる。
どうやら本当に火事が起きた場合のことを想像しているらしい。
(*´∀`)「もし危害が加わるようなら、私が人を雇って滅ぼしてやるモナ。
だから安心するモナ」
(;・∀・)「いやあの、まだ誰かが投げ入れているとは――」
モララーの言葉が途切れた。
いや、その場の全ての人が一斉に動作を止めた。
突如として、真っ黒い闇が、彼ら全員を包み込んだからだ。
(*;゚ー゚)「きゃあああああ!!」
(;´∀`)「電気が消えたモナ! どうしたモナ? 」
(;・∀・)「外の天気が崩れていたので、雷でも落ちたのかもしれませんよ」
ざわめく暗闇の会食場の中、モララーは耳を澄ましてみる。
だがそこは家の内部にあるために外に通じる窓も扉も無く、外で雷が鳴っているのかどうかはわからない。
( ´∀`)「電気が消えただけモナ。
安心するモナ、しぃ」
(*゚ー゚)「はい。
でもあんまり急に電気が消えるもので驚きましたわ」
( ・∀・)「こういったことは使用人が直してくれるものなのですか? 」
( ´∀`)「そのはずモナ。
しばらく待ってみるモナ」
('A`)「…………モグモグ、イマガチャンス」
その場にいた全員は落ち着きを取り戻しつつあった。
しかしすぐに、その安寧は破られる。
一発の乾いた音が響き渡ると共に。
たった一発で、身体の奥深くまで震わせる音。
入口の方閃光が迸り、何かが崩れ落ちる音がする。
テーブルか椅子が破壊されたのだろうが、真っ暗なために目に映ることはない。
(*;゚ー゚)「きゃぁあああああああ!! 」
(;´∀`)「なんだモナ!? 」
(;・∀・)「銃声!? 」
(;'A`)「もぐぉ!!? 」
四人それぞれが声を出して、入口の方を向こうとする。
だが、モララーは見えないながらも目を動かす。
そして紫色の光の塊がいくつか動いているのが見えて――
( ・∀・)「伏せろ! 」
モララーが叫ぶと同時に、別の破裂音がする。
ガラスの割れる音。
それに乗じて再びしぃの甲高い叫び声。
(;´∀`)「どこモナ! 誰が狙われてるモナ!?」
見えてはいないが、3人とも伏せはしたようだ。
モララーはある推測から、そのことを確信していた。
確認し終えると、すぐに入口を向く。
やはり何も見えない。
暗闇と静寂の中、目を凝らす。
そして、見つけた。
紫の光だ――
その光は場所をあまり変えず、ふらふらと揺れ動いている。
モララーの予想では、その光の主は困っているはずだ。
何故なら聞こえるはずのない音が聞こえてきたのだから。
( ・∀・)「横が空いてるよ」
言うと共に、モララーは光を殴り飛ばした。
金属質の重いものが地面に落下する音がする。
それは入口の扉の間から突き出されていたようだ。
廊下も真っ暗だから、見えないことには変わりない。
扉の向こう側から舌打ちが聞こえる。
ほぼ同時に、モララーが扉の隙間に手を入れ、相手の服を掴む。
これはかなり運が良かった。相手の動揺が伝わってくる。
モララーは渾身の力で、相手の襟元をしっかり握って頭突きをかます。
力が抜けた相手。扉から手が離れる。
その瞬間、モララーは扉の隙間から部屋の中に相手を引きずりこんだ。
なおも逃げようとする相手を、モララーは力強く地面に押さえつける。
( ・∀・)「お前は思ってるんだろうな。
『どうしてさっき、ガラスの割れる音がしたんだ。
俺はちゃんと紫の光を射抜いたのに』って」
相手の右手を背中に張り付けて、動けなくさせる。
モララーはその体の上に膝立ちで乗って、話し始めた。
( ・∀・)「残念ながらあれは俺がもらったものじゃない。
俺の連れがもらったものを咄嗟にグラスに掛けておいたんだよ」
照明が復興して、光が部屋に満たされる。
モナーとしぃ、それにドクオはモララーに言われた通り伏せていた体を起こす。
そしてモララーが人を押さえつけているのを目にした。
(,,;゚Д゚)「……ぐっ」
モララーの下で、警備員の男が呻く。
もう逃げることはできない。
その動きから力は無くなっていった。
警備員はテーブルクロスを丸めたもので椅子に縛り付けられる。
モララーは素早い手際で、彼に逃げる隙を与えなかった。
(;´∀`)「モララー君。
いったい何が起こったのか説明してほしいモナ」
(*;゚ー゚)「そうだわ。
彼はうちの警備員のギコ君よ! それがどうして銃を持って」
( ・∀・)「へえ、ギコって言うんですか、この男。
銃のことは後で吐かせましょう。今はわかっていることだけ」
説明しようとしたところで、電気を復興させた使用人たちが駆けつけてくる。
縛り付けられているギコを見てざわつく入口付近。
( ・∀・)「しぃさん、使用人を一人使わせてもらっていいですか? 」
しぃが使用人を一人呼ぶと、モララーは合図と動作を教える。
それから使用人は会食場の照明のスイッチに向かった。
( ・∀・)「ま、簡単に言うと。
このギコ君がみなさんに配ってくれたハンカチ」
モララーは一枚を腰のポケットから取り出して、ひらひらさせる。
( ´∀`)「それは私の家系で食事を掛けるときのマナーだモナ。
この家の資産を築いた先代の愛した、藤の色のハンカチを胸ポケットに入れることは」
('A`)「それを、モララーさん。
どうして腰のポケットに入れてあるんです? 」
( ・∀・)「暗くなったときに、この仕組みに気付いて移したんだ。
つまり……」
モララーはパチンと指を鳴らす。
使用人は頷いてスイッチを切った。
電気は再び消える。
しばらくすると、紫色の光が浮かび上がった。
モララーが手に持っているハンカチが光っているのだ。
また指を鳴らし、光が戻ってくる。
( ・∀・)「このハンカチに紫色の蛍光塗料が塗られているんです。
明りを消したら光るようにね」
( ・∀・)「だから先程電気が消えたとき
銃声が聞こえて、そのまま振り返っていたら危なかったわけです。
僕たち四人……いえ、ドクオを除いた三人は急所に目印を付けていることになるんですから」
( ・∀・)「私は、多分モナーさんのものだと思いますが、暗闇の中でハンカチが光っているのを見たのです
だから自分のハンカチはしまって、ドクオからもらったハンカチを、位置を記憶していたグラスに被せた。
そしてモナーさんやしぃさんに対して伏せるように命じたのです。
もし犯人が私を狙っているのならばグラスが割れる。お二人を狙っているならば伏せられて見えなくなる」
( ・∀・)「結果、グラスが割れる音がしたので犯人が私を狙っていることがわかりました。
あのグラスは私の席のやや左側に置かれたものであるし
私の席はモナーさんから5メートル、しぃさんからは約2・5メートル離れています
もしお二人のどちらかを狙ったのであるならば、いささか的外れすぎる」
( ´∀`)「すっかり私が狙われているのかと思ったモナ」
( −∀−)「それは多分気が動転していたからですよ、モナーさん」
( ・∀・)「また、さっきからギコ君が『どうして俺の居場所がわかった』といった顔つきで睨んでくるので
そこら辺についてもざっと解説しましょう」
モララーは闇の中で弾き飛ばしたものを拾ってくる。
黒々として艶を持つ拳銃を見て、モララー以外の三人は青い顔をする。
モララーが合図を出して、三度目の消灯。
ほんのわずかな静けさ。そして、誰ともなく息をのむ。
銃口に紫色の光が浮かび上がる。
ハンカチに塗られていたのと同じ種類の蛍光塗料だ。
電気をつけさせて、モララーが口を開く。
( ・∀・)「いくら腕が良くても、どこから銃弾が出るのかくらいは把握しないとですからね。
この銃に蛍光塗料が塗られていれば、撃ち抜くべき光と合わせることもできます」
( ・∀・)「それから、これは推測なのですが。
最近聞こえる爆竹というのは、ギコ君が敷地内で撒いていたものではないかと思われます。
これだけの芸当をするにはそれなりの練習が必要ですが、私有の警備員が拳銃を表に出していたら大問題。
夜中にこっそりやるしかありません」
( ・∀・)「杉林の方ならきっと明りが少ないため、電気が消えたときの射撃の練習には適していたのでしょう。
ここは他の家からある程度隔離されているし、爆竹に乗じて撃てば多少はごまかせます。
とはいえ連発していたら他の使用人やしぃさんが怪しがるので、何日にもわけて練習したわけです」
( ・∀・)「しぃさん、一応なのですが爆竹のカスを拾ってくる警備員というのはギコさんじゃありませんでしたか?
ギコが捨てたゴミを他の人が拾ったとも考えられますが」
(,,゚Д゚)「他の奴は関わってねえよ」
( ・∀・)「ほう、お前が爆竹を使ってたということは否定しないんだな」
(,,#゚Д゚)「んだと、ゴルァ!!」
ギコは体を必死に揺さぶるが、テーブルクロスは破けそうもない。
モララーが余程きつく結んだようである。
(*;゚ー゚)「た、確かに爆竹のカスは毎回ギコさんが持ってくるものでした。
夜回りをするのはギコさんの役目でしたので……それで」
( ・∀・)「ありがとうございます。
まー、どっちにしても発砲した時点で犯罪は確定。
ここにいる全員がその音を聞いているわけだし、この銃と弾丸を調べればすぐにわかることだ。
ここに来て逃げるのは無理ってもんだぜ、ギコ」
反抗的な目つきでモララーを睨みつけ、ギコは唇を噛んでいた。
しかし言い返すことはできず、悔しそうに口を開く。
(,,゚Д゚)「……俺がやったよ」
頭を垂れて、ギコが犯行を認める。
(*;゚ー゚)「そんな……どうして? 」
(;´∀`)「君は確か元々は東京の私の屋敷で働いていた警備員だモナ。
優秀さと誠実さを買ってここの警備を任せたというのに、どうしてこんなことを」
(,,゚Д゚)「頼まれたんだよ」
ギコはモナーやしぃとは顔を合わさずに言う。
まるで二人に責められることが耐えられないかのように。
( ・∀・)「へえ、そいつは気になるねえ」
モララーは言いながら、ギコに詰め寄る。
( ・∀・)「俺がここに来た理由は、かつて内藤ホライゾンが殺人を行ったニダー邸跡地でしぃさんに会ったからだ。
かなり偶然性の高い出来事であったのにも関わらず、お前の行った犯行は計画的。
まるで事前に俺がここで会食をするということがわかっていたかのように。
なあんか出来すぎじゃあねえか? 」
( ・∀・)「とりあえず俺がしぃさんに会ってからここに来るまでは、しぃさんやモナーの性格を知っておけばある程度予測できる。
問題は俺がどうやってニダー邸跡地に行ったかだが――」
ここでモララーはちらっとドクオを一瞥する。
ドクオは顔を硬直させて竦み上がった。
自分が疑われているということを悟ったからだろう。
モララーにブーンのことを調べるように言ったのは自分なのだから。
( ・∀・)「――今は置いておくとしよう。
さて、ギコ君。君は誰に言われたのかな?
ここに来るであろうこの俺を暗殺するようにけしかけたのは」
ギコはモララーをじっと見つめている。
モララーもまた同様に、ギコから目を反らさなかった。
相手の心が自分の言葉に答えることから逃げようとするのを妨げるように。
モララーの目線はギコをとらえて離さない。
(,,゚Д゚)「言うしかないようだな」
ギコは観念して、その名を口に出す。
(,,゚Д゚)「ブーンの息子だ。
それしか聞いてねえよ」
少しの間、誰も口を開かなかった。
その名を知っている者も、知らなかった者も同様に。
(;´∀`)「……ブーン? 」
(*;゚ー゚)「誰……ですか? 」
( ・∀・)「…………」
モララーはもう一度ドクオを見た。
真っ青な顔をしていた彼は、モララーの視線に気づく。
そして首を縦に振る。
( ・∀・)「内藤ホライゾン。
あいつのもう一つの名前、それがブーンです」
その言葉にモナーやしぃ、そしてギコまでもが息をのむ。
(,,゚Д゚)「へぇ、そいつは驚いた。
俺は気付かないうちに大犯罪の肩入れをしていたのかもしれねえな」
客間――
ブーンの息子――ギコは確かにそういった。
ブーンも年齢的に見て息子が居てもおかしくはない。
その息子が何らかの行動を起こしているとしても、それは確かにありうること。
しかし、何故自分が狙われているのかはわからない。
自分は彼の起こした事件と関わった覚えはない。少なくとも記憶がある限りでは。
某県内で起きた事件ではあったが、ただそれだけ。接点など無い。
それならば、記憶が失われてしまう前に何らかの関わりがあったということなのだろうか。
死んでしまった後も、息子に意志を受け継がせて自分を殺させるほどの恨みを伴う関わりが。
果たして未成年のうちにそのような関係が生じることなどありうるのだろうか。
今はまだわかりようがない。
わかるところで考えていくべきだ――モララーは思考を切り替える。
ブーンの息子とは誰なのか。
そしてそいつはどうやって自分をしぃと会わせたのか。
自分があらかじめブーンについて調査するように仕向けていたら。
そしてもししぃさんがブーンのことを思い出してニダー邸跡地に行くことがわかる立場だったならば。
後者の疑問は解決できる。
ブーンについて興味を抱いている自分が、ブーンの過去を少し知っているしぃと関わることは明白であり
しぃの性格からして自分はこの屋敷に引き入れられるであろうと予測できるからだ。
それができるのは誰か。
そんなの一人しかいない。モララーにはもうわかっていた。
('A`)
ドクオは今、ベッドの上に座っている。
ちゃんと夕方自分が枕に抱きついていた方のベッドだ。
彼が自分をここに誘き寄せたか、あるいはそう命令されたかだ。モララーは推測する。
見縊っているのかもしれないが、モララーはドクオの意志のみで自分がここに連れてこられたとは考えられなかった。
指示があったような気がした。そうするように命令されていたと思った。
完全な主観なのだが。
( ・∀・)「ドクオ。
そろそろ話してくれねえか? 」
返事は無い。
( ・∀・)「もう白を切るのは難しいぞ。
これからもうすぐ警察が来る。
ブーンの息子とやらが見つかるのも時間の問題だろうし。
俺がここへ来る理由となったお前もきっと疑われてしまうぞ」
やはり返事は無い。
ドクオはどうしてもモララーと話そうとはしなかった。
モララーがもう一度ドクオに話しかけようとする、その時だった。
気の抜けた音楽が、客間に鳴り響く。
ドクオはびくっとして、自分の荷物を確認し、携帯を取り出した。
音源はそれのようである。
ドクオは携帯のボタンを押して、通話を開始した。
('A`)「もしもーし……え? あ、はい」
(;'A`)「え、ええ!!? 」
裏返りそうな素っ頓狂な声を出すドクオ。
焦りに満ち足りた響き。
(;'A`)「何で……どうして!? 」
ドクオは首を激しく左右に振り、髪の毛を掻きむしる。
何か信じがたいことでもあったのだろうか。
モララーはドクオの挙動を真剣な面持ちで見つめていた。
(;'A`)「わかった……」
震える手で、ドクオはボタンを押す。
通話が終了する。
(;・∀・)「おい、いったい何があった?
随分と取り乱していたようだが」
恐る恐る、モララーは声を掛けた。
ドクオは落ち着きを取り戻し、目を閉じる。
('A`)「モララーさん、はっきり答えましょう。
僕はブーンの息子を知っているかもしれない。
かもしれないというのは、そのように名乗ったときを見たことがないからです。
でも、あなたが思っているように、僕にあなたをここに連れてくるように命じた人間はいます」
ドクオはモララーを向く。
スラスラ話しているのは、さっきから頭の中で文章を考えていたからなのだろう。
('A`)「でもその目的は知らない。
だからあなたが殺されそうになるなんて思いもしなかった。
それだけはわかってもらいたい。僕はただ命令されていただけです」
( ・∀・)「目的がわからないって。
お前、そんな奴をどうして信じることができたんだよ」
モララーは思ったことを率直に言う。
よくわからない人間の言うことを素直に聞き入れるなんて、そんなの馬鹿げているから。
('A`)「目的はわからない、けどそいつは知っている。
僕の数少ない親友の一人です。
だけど……」
ドクオはそこで言葉を切る。
目はまた焦点を失い、拳がつくられる。
腕が震えるほど強く、ドクオは拳を握り締めていた。
('A`)「何が起きたのか聞かなきゃならない」
ドクオは深呼吸をする。
震えがだんだんと小さくなっていく。
それが悲しみだったのか、怒りだったのか、もうわからない。
('A`)「僕はあいつのところにいかなければならないみたいです。
会って、話をしてくる。そして目的を知らなくてはならない」
('A`)「モララーさん、どうかあなたはここに残って調査を続けてください。
もしモララーさんにあいつの目的を教えることができたら、僕はあなたに連絡します」
( ・∀・)「……止めても聞かなそうだな」
もうドクオが行く気であるということは見た目からわかっていた。
先程の電話は、その決心をさせてしまうほど、予想外の出来事であったみたいだ。
( ・∀・)「ドクオ……一つ言っておくぞ」
小さなバッグを抱えて、客間を出ていこうとするドクオに、モララーが声を掛ける。
ドクオは振り向かず、動きを止めた。
でもそれが聞く姿勢であることは、モララーにはわかっていた。
彼はブーンの息子に会おうとしている。
いや、なんとしても会って、その行動の目的を聞き出そうとしている。
どんな目にあっても――モララーはその気持ちを汲み取る。
絶対に、その姿勢には見覚えがあった。
ずっと昔に心についた古傷が、疼いた。
だからモララーはドクオに対して言う。
( ・∀・)「絶対、無茶はするなよ」
ドクオがどのような反応を示したかはわからない。
一度だけ鼻をすする音が聞こえた気もする。
だけどそれが何だったのか判別する前に、彼は部屋を出ていってしまった。
親友という者に、会いに行ったらしい。
そしてモララーと何らかの関わりがある人物に。
モララーは閉じた扉を見つめていた。
先程まで、そこには冴えない青年が立っていた。
もしかしたらその青白い顔は、だれかに命令されていたがためのものであったのかもしれない。
ふと、そんなことが脳裏に浮かんだ。
サイレンの音が聞こえてくる。
警察がやってくる。
そして、自分がすることは分かっていた。
ブーンの息子に関係がありそうな人物が一人だけいる。
彼女に会いに行くことだ。
〜〜第三話へ続く〜〜
8月13日(金)、午後3時、B市――
ショボンは休日だというのに薄地のスーツ姿でB駅にいた。
私服を着たのはもう随分前で、クローゼットの中に入れて放置した結果虫食いだらけになってしまった。
だから仕方なくこの姿なわけである。
_
( ゚∀゚) 「ショボンさん、いつもこんな堅苦しい姿なんですか? 」
声を掛けて来た若者に、ショボンはゆっくり目を向ける。
彼の名前はジョルジュ。
ショボンは彼と一緒に内藤ホライゾンの過去について調査するためにここB市へ来たわけである。
事件当時、内藤ホライゾンは B市のあるアパートで一人暮らしをしていた。
ニダー邸は今となっては無くなっているはずなので、得られることはほとんどないだろう。
そう考えたショボンはB市で生活していた頃の内藤ホライゾンについて調査することにしたのである。
(´・ω・`)「これしか服がないんだ。
いつも仕事が多いから着なれている、問題は無いはずだ」
_
( ゚∀゚) 「あんまりやりたくない職業ですね」
(´・ω・`)「君も働くようになったら似た感覚を持つかもしれない。
さ、トイレを済ませたなら、行こうじゃないか。
かつて内藤ホライゾンが暮らしていたというアパートに」
二人は小さくて簡素な造りのB駅を後にする。
ショボンとジョルジュはB駅からタクシーにのってアパートの場所を言う。
その住所は警察に保管されていた書類からショボンが書き留めて来たものであった。
タクシーはB駅を離れていく。
上り坂を上っていくとすぐに、高い建物が無くなる。
駅の周りだけにやや大きい建物が集中していたのだ。
B市の学校がいくつか見えて、下校する小学校の子供たちのはしゃいでいる声が聞こえる。
元気なものだ、などと年寄りじみたことをショボンは心の中で呟いた。
帰路だというのにまるで疲れていない。自分とは正反対だ。
_
( ゚∀゚) 「子どもって元気が有り余ってるんですねえ」
ちょうどショボンが考えていたことをジョルジュは口に出した。
お前も俺からすれば子どもだがな――ショボンはふとそんなことを思う。
ショボンは口の端をやや上げながら、街並みに目を向ける。
大きな通りに入ると、街も賑やかになり、飾り付けが見られる。
タクシーの運転手と話してみると、この通りを真っすぐ行けばB市の中心街に向かうという。
近々B市北部の河原で花火大会があるらしく、街路脇の飾りはそのためのものだとか。
やがて目的地のアパートに辿り着く。
大通りから曲がって、やや住宅街の中に入った先にある、赤い屋根の二階建てのアパートだ。
特に古びたわけでもなく、一般的にありふれた形のアパートであろう。
少なくとも犯罪者がいたとは思えない。いるアパートなんてのも想像しづらいが。
およそ暗い事件からは縁のないように思えた。
タクシーを降りて、二人はアパートの階段を上っていく。
内藤ホライゾンが住んでいた部屋番号も警察にしっかり保管されていた。
空の彼方で雷鳴が聞こえた。
まだ降ってはいないが、そのうち大雨になるのだろうか。
空のどんよりとした雲はただゆっくりと蠢くのみであった。
目的地の部屋のドアを軽く叩く。
奥の方で物音が聞こえてくる。
中の住人がゆっくりドアに向かって来ているのだろう。
そして、扉が開いた。
lw´‐ _‐ノv
出て来た少女は、ショボンの顔とジョルジュの顔を見る。
年齢差が著しいこの二人を、少女はどのように見たのだろうか。
その視線は再びショボンに戻ってくる。特に何も言うことはなかった。
ショボンは警察手帳を見せる。
少女が手帳に目線を移し、若干見開いた。
(´・ω・`)「県警のショボンといいます。
今日は非番ですし、物騒なことがあったわけでもありません。
ただ少し調査していることがあるのです」
_
( ゚∀゚) 「いいのか? そんなものほいほい見せちゃって」
(´・ω・`)「別に隠すことでもない。事実なのだから。
それに、何もない普通の人間が他人の事情を詮索するというのは変なものだよ」
かといって仕事以外で警察がそれをしてもいいということはないと、ショボンにはわかっていた。
でもこれで少女は精神的に、我々に対してより多くのことを話してくれるかもしれない。
聞こえは悪いが、ただ質問をするだけだ。それほど悪いことでもないだろう。
lw´‐ _‐ノv「何でしょう」
小さい声で少女が言う。
(´・ω・`)「ここで5年前に生活していた内藤ホライゾンについて調査しているのです」
lw´‐ _‐ノv「……この前死んじゃった? 」
ショボンは頷く。
少女の口が閉じる。表情にはあまり出さないが、考えているようだ。
lw´‐ _‐ノv「中に入ってください」
少女は室内にショボンとジョルジュは招き入れる。
二人はそのまま中へ入って行った。
フローリングの床の上で、差し出された座布団に座る。
押入れのどこからか卓袱台を取り出して、二人の男の前に置く。
それから黙々と台所へ行き、コーヒーを持って来て、それから少女は二人の男に向かい合う。
少女は自分の名前をシュールと名乗った。
B市から県南部の大学に通っているという。
このアパートを借りたのは今年の春から。
大学進学にあたって一人暮らしをしたいと親に頼みこんで叶ったらしい。
何故B駅から離れたこのアパートかとショボンがきくと、「好きな人が近くに住んでいるから」と事も無げにシュールが答える。
_
( ゚∀゚) 「随分と普通に答えるんですね」
lw´‐ _‐ノv「恥ずかしがるなんてのは私らしくない」
(´・ω・`)「それで、君は内藤ホライゾンと関係があるのかい?
どうも内藤ホライゾンと接点が合ったようには思えないんだが。
訳があって僕たち二人を中に入れたんだろう? 」
lw´‐ _‐ノv「私はあまり関係がないかもしれない。
でも……関係がある人を知っている」
_
( ゚∀゚) 「だから呼んだわけか。
それで、そいつは一体誰だ? 」
lw´‐ _‐ノv「さっき少し言った
……私の好きな人」
ショボンがその人の名前を尋ねると、シュールは少し考えてから口を開く。
lw´‐ _‐ノv「その人は内藤ホライゾンという名前は出さなかった。
彼はあのテレビに出ていた殺人犯のことを『ブーン』と呼んでいた」
シュールは話をする。
その人と出会ったのは中学一年生のとき。
B市内の三つの小学校を卒業した生徒たちがその中学校で混じり合ったために、初めて出会う人も多かった。
シュールとその人もまた、別々の小学校からその中学校に上り、出会ったのである。
しかしシュールも初めからその人と仲が良かったわけではない。
それどころか、無口なシュールは女子の間でも浮いた存在で、あまり好意的に接してもらうことがなかった。
彼女がクラスの中で、学年の中で孤立すれば孤立するほど、彼女に対するいじめが頻繁に行われた。
シュールは最初のうち我慢していた。
小学校のときの知り合いと話をすることでなんとか孤立を免れていた。
けれど、その子どもたちもだんだんとシュールを避けるようになった。
気がつけば学校のほとんどの女子が彼女を避ける風潮になっていた。
友達はいない。話してくれる人もいない。
シュールは学校に行きたくなくなった。
親に反抗をして、学校に行くことを拒んだ。そういう自我が目覚めていた。
自分を傷つけ、縛り付けるルールを呪っていながら、自らを暗い部屋の中に閉じ込めた。
他人との接触をゼロにしたシュールの心の中では、いつでも学校でのいじめのことが浮かんでいた。
何度も何度も、いくつものいじめの記憶が蘇ってきた。
まだ人が話してくれたときを懐かしんで涙を流し、今の生活を見て再び涙する。
いつしか生きることが嫌になった。
彼女の家はB市の大型マンションの一室だった。
マンションの15階。
そして彼女の部屋には窓があった。顔を出して見下ろせば遥か下に駐車場が見える。
人も車も、玩具のように見えた。
ある日唐突に、飛び降りようと思った。
もう生きてはいられないと心の中で結論を下し、ゆっくり窓に歩み寄った。
星が綺麗な10月の夜だった。
部屋のドアが激しく叩かれる音がする。
誰だろうかとシュールは思い、誰でも良いとシュールは思った。
どうせ自分はもうすぐ逝くのだから、気にすることはないと決めた。
しかし音は煩く響き渡り、やがて何かが崩れる激しい音が聞こえた。
既に窓に手を掛けていたシュールも、思わず振り返った。
そこにその人がいた。シュールはそのとき彼の顔も知らなかったのだが
ドアを破壊してここに入ってきたのだろう。
ふっとドアの方に目をやると、何人かの大人が見えた。
そして大きな棒を持っている人がいて、その男がドアを破壊したのだと直感した。
その男は今にして思えば内藤ホライゾンだったとシュールは言う。
内藤を見たのはそのときが初めてだったらしい。
その人が自分に近づいてくるのがわかって、シュールは思わず叫んだ、「来ないで」と――
しかしその人はなおも前進してくる。まるで言葉が聞こえなかったかのように。
そこでシュールは片足を窓の外に出した。
冷たい風が足を撫でる。
その人がようやく動きを止めた。
その人の顔は青ざめていたという。
後に元々青白いとわかったが、そのときの彼は明らかに怯えていた。
ここまで来たのはいいが、何をしたらいいのかわからない、そんな表情であったそうだ。
その人がやっとのことで、「どうして死のうとするんだ」と質問してきた。
必死で考えだしたにしてはあまりにも月並みで、無意味な質問だったので、シュールは鼻で笑った。
そして今まで受けて来たいじめの苦しみを語り出した。
思い出の隅から隅まで探し出して、思い出せる限りの苦しみを吐露する。
その全てを吐きだして、シュールは言う。
「これ以上の苦しみを味わうのはもう耐えられない、だから死ぬ」と言い放った。
その人も、扉の奥の大人たちも黙っていた。
少しでも動けばシュールは部屋の中にある足で床を蹴り、落ちてしまうかもしれないから。
暫くして、その人が息を吐く。
集中しているようであり、真っすぐシュールを見て、言った。
「それじゃ、俺が死んでないのはおかしい」と。
その人はまず自分が母子家庭であったことから話を初めて、中学校や小学校どころか幼稚園時代から受けていたいじめについて語り出した。
肉体的な苦痛が伴う残虐的な恥辱の数々がその人の口から伝えられてくる。
不自然なほど無感情に語られるそれらの事柄は、逆にその人の凄惨な人生を物語っていた。
年齢が増すにつれて、いじめもエスカレートする。肉体的にも精神的にも。
その人はそれをただ母親に申し訳ないからという理由でのみ耐えていた。
我慢して、学校に通い、平気な顔をしていじめを受けていた。
シュールはその人を哀れに思った。
そして自分があまりにもわがままであることに気がついた。
周りが要求していることを撥ね退けて、無理やりにでも我を通し、都合が悪くなったら逃げに徹する自分を愚かに思った。
いつの間にかシュールはその人に抱えられて部屋の中央に引っ張られていた。
足はもう外に出ていない。もう窓から落ちる心配もない。
そのとき、もうシュールには落ちる気力も無くなっていた。
こうしてシュールはその人と知り合った。
再び学校に通うようになって、その人が同じ学校であることを知った。
二人は一緒に通うようになり、一緒に話すようになり、一緒に帰るようになった。
シュールにとって初めての友達であった。
その人はよくブーンについて話していた。
シュールが飛び降りようとしたとき、ドアを破壊した男がその人物だと教えてくれた。
その人と同じアパートで暮らしているらしかった。
その人は、自分がブーンさんにたくさんのことを教わったという。
シュールが自殺することを見越して、助けに行かせたのもブーンだったと明かした。
ちなみに壊したドアの弁償をしたのもブーンだったとか。
だけど、すぐに事件が起こった。
シュールが助けられた翌年、ブーンがあの事件を起こした。
何故か内藤ホライゾンという名で、ニダー一家殺人事件が報道されていた。
内藤ホライゾンというのが本名であるらしい。
しかしそれ以上に、その人が親しげに話していた人が事件を起こしたことに対するショックが大きかった。
シュールはその人に会って、その苦しそうな顔を見た。
どうしていいかわからずに困っている、そんな表情であり、前に見た表情とは似ていたが、全然違った。
本人でもわからないことが多すぎるということはよくわかった。
シュールは混乱しているその人の傍にいつもいた。
その人の心が壊れないように、いつも話しかけるようになった。
前の自分のように逃げてしまわないように、ずっと接するようになった。
いつの日かその人と一緒にいるだけで胸が温かくなったけど、それが恋だと気づいたときにはもう、その人は傍にいなかった。
既にその人は大学に通うために別の市に行ってしまっていたから。
その人が進学した後、シュールは彼のアパートに入居した。
ブーンのいた部屋に入居できたのは偶然であった。住みたがる人もあまりいなかったのだろう。
前の入居者が出ていって間もなかったらしく、シュールはすんなりその部屋に住めた。
シュールは独りになってしまうその人の母親の身を案じて、よく遊びに行くらしい。
そして、その母親は自分が昔ブーンと関わりがあったことを教えてくれた。
lw´‐ _‐ノv「だから、もしブーンのことを聞きたければその人の母のところに行くといい。
私が知っていることで、世間と違うのはブーンという名前くらいだから」
シュールはそう言って、話疲れたかのように首を動かす。
これほど長いこと話したことはあまり無い様子だ。
_
( ゚∀゚) 「それじゃ、その人の母親って人の部屋番号を教えてくれませんか? 」
lw´‐ _‐ノv「この部屋のちょうど上で住んでいる。
だけど今はパートに出てるから夜の7時まで帰ってこない」
ショボンがその人のパート先を聞き出して、シュールが答える。
_
( ゚∀゚) 「行ってみた方がいいかもしれませんよ。
帰るのを待ってたら日が暮れてしまいそうだし」
もう日はだいぶ傾いていたが、確かに遅くなりすぎるのも億劫だとショボンは思った。
何より、本来なら今日は休日であり、明日からはごく普通にまた出勤しなければならないのだから。
午後5時半、B市、アパート――
二人はシュールに頭を下げて、部屋を後にする。
ショボンはこれから会いに行く女性――ツンという人の部屋を一瞥する。
今は鍵がかけられている。中にはだれもいないはずだ。
_
( ゚∀゚) 「内藤ホライゾンに関する収穫は、少しだけでしたね」
ジョルジュがさらっと口にする。
ショボンは何か言おうと思ったが、ジョルジュの言葉は正しかったので口を噤む。
(´・ω・`)「しかたないさ。
彼女があの部屋にいるのは正しく偶然なんだから。
むしろ彼女がほんのわずかでも内藤ホライゾンに接点があったことに感謝するべきだよ」
二人はそのアパートの階段をゆっくり下りていく。
ツンのパート先はあるいて十分ほど先のスーパーであり、シュールがそこまでの道筋を教えてくれた。
歩いていくのは大変かと思い、ショボンは内心ひやっとしたが、ツンも毎朝歩きで勤めに行くというので安心する。
さすがに女性の主婦が毎日こなしている分の運動くらいなら、明日の仕事には響かないだろうと思ったからだ。
_
( ゚∀゚) 「ショボンさん、一つ聞きたいんですけど……」
ジョルジュが歩きながら、ショボンに話しかける。
ショボンは顔を向けずに「んー? 」と唸って返事した。
_
( ゚∀゚) 「これから内藤ホライゾンのこと、何て呼びます?
なんかブーンという名前の方が、本当の名前って感じがしますけど」
内藤ホライゾン――これは一般に知れ渡った名前である。
あの笑顔の殺人鬼の戸籍を調べた結果出された名前であり、ブーンという名前が調査上にでたことはない。
20年前に出会ったときも、ブーンという名前は聞かなかった。
(´・ω・`)「内藤ホライゾンでいい。
事件を犯した犯人の名前がそうであり、僕らが調査しているのはこの殺人犯なのだからね」
_
( ゚∀゚) 「犯罪者としては内藤ホライゾンってことですか? 」
(´・ω・`)「そういうことになるな。
あまりきつくは言わないが、僕らが犯罪者の過去を追っているという自覚は持っていたほうがいいだろう」
事件を犯したのは内藤ホライゾン――ショボンはそう割り切った。
では、事件以前にD市で会ったのはブーンなのだろうか。
シュールが言っていたような人物は、そして自分が覚えている二十年前の人物は、ブーンなのだろうか。
それほどまでに簡単に、一人の人間に対して二つの名前を与えていいものなのだろうか。
人間の悪い部分はこの名前、良い部分はこの名前。
そんなふうに割り切っていいのだろうか――ショボンは考えた。
そして、自分はそれではいけない、という結論に達する。
警察として、そしてこのことを調査している人間として。
内藤ホライゾンという人間が内藤ホライゾンとして何を思い、何を犯したのか。
そこに至るまでに何があったのかを知らなければならない。
内藤ホライゾンの犯した本当の罪について調べるのが自分のするべきことなのだ。
ショボンはそう感じた。
ショボンの脳裏には、死んだときの内藤ホライゾンの顔が浮かんでいた。
あの安らかな表情が浮かんでいた。
何故あのような表情ができたのか。
それを知りたいというのも調査動機の一つである。
それを頭の中で、ショボンは再び確認した。
_
( ゚∀゚) 「つきましたね」
ジョルジュの声で、ハッと我に返るショボン。
入口の上に、白い下地に赤い文字で名前が書かれたスーパーだ。
シュールによれば、ここにツンが勤めているという。
二人は中に入った。
軽快な音楽が耳から入り、ガンガンに効いた冷房の風が体に降りかかる。
その涼しさを感じて、外が真夏であったことを思い知らされる。
ショボンは店員に話しかけて、ツンという女性がいるか聞く。
警察手帳を見せるまでもなく、店員は店の裏に案内してくれた。
普通なら入らない、壁の大きな扉を潜る。
店の明るい雰囲気から一転して、仕事場の空気を感じる。
店員が控室に導いてくれた。
扉の窓から、中の様子が見える。
ξ゚听)ξ
女性の顔が見えた。
胸のプレートに名前が書かれている。
間違いなく探していたツンという女性だった。
ショボンは扉を開けようとしたが、止まる。
中の様子がおかしいと察したからだ。
_
( ゚∀゚) 「? どうしたんですか。
中入りましょうよ、ショボンさん」
(´・ω・`)「いや、少し待ってくれ」
ショボンはジョルジュを制止して、中を確認する。
ほんのわずかに扉を開けて、中の音が聞こえてきた。
ξ゚听)ξ「次、今週の月曜から今日の午前までの売上は? 」
苛立ったツンの声。
('、`;川「は、はい! 報告します、リーダー」
気弱そうな女性が、何枚かの紙を片手に持って立ち上がる。
そして数字を並べていったが、どうもツンの顔つきがよくならない。むしろ悪くなっていく。
どうやらツンが期待していた数字からかなりはずれていたらしい。
ξ#゚听)ξ「先週よりさらに落ちてるじゃないの!
そんな数字を報告していいと思ってるのか、ああ!? 」
('、`;川「はひぃ、すいません! 」
*(;‘‘)*「リーダー、それはひどいです!
リーダーが報告しろって言ったからξ#゜凵K)ξ「あんたは黙ってな、新人! 」
ξ#゚听)ξ「先週も先々週も同じ話を聞いたわ。
いい加減反省ってものが見えてきてもいい頃じゃないかしら? 」
ξ#゚听)ξ「だいたいあんたらは接客からしてまだまだなのよ。
どうしてお客様が重くて困ってるカゴを持つこともできないの? それに――」
それからも長々と、ツンの説教はつづいていく。
そこにいるパート労働者たちの顔から、次々と涙がこぼれていった。
_
(;゚∀゚)
(;´・ω・`)
_
(;゚∀゚) 「なあ、パートのリーダーってパートなのか? 」
(;´・ω・`)「知らないよ。パート歴が長いから威張ってるのかもしれないね」
_
(;゚∀゚) 「やっぱり年上は敬わなくちゃなんだな」
(;´・ω・`)「そうだね。それは大事なことだ」
_
(;゚∀゚) 「……ところで、当然交渉はショボンさんだよな? 」
(;´・ω・`)「何を言い出すんだ?
私みたいなしょぼくれた男より、君の方が好意的に話を聞いてくれる。
故に君こそふさわしい」
_
(;゚∀゚) 「いや、あんたの方が歳が近いだろ。
俺なんか離れすぎてて話が合わねーよ」
(;´・ω・`)「どうして年齢がわかるんだ?
適当なこと言って逃げようとするんじゃない。
それと、敬語が崩れてきてるぞ。お前にそれを教えるまでどれほどかかったと思ってるんだ」
_
(;゚∀゚) 「と、とにかくショボンさん、行ってくれよ。
年上は敬うべきなんだろ? 」
(;´・ω・`)「だからこそ君なんだろ? 年上をむざむざ死ににいかせるのかい君は」
ξ#゚听)ξ「あと一時間ちょい、まだまだ諦めないわよー!!! 」
*(;‘‘)*「おおーーーーー! 」('、`;川
_
(;゚∀゚) 「戦場かよ」
(;´・ω・`)「これは終わるのを待つ方が良いみたいだね」
二人は結局、ツンのパート時間が終わる夜7時まで店の中で待っていた。
外は曇っていながらも、色が濃くなり、暗くなっていく。
時間的にはシュールの家で待っていても大差なかったことになる。
明日はきついだろうな――ショボンは空を眺めながらぼんやり考えていた。
_
( ゚∀゚) 「そろそろ7時ですし、外で待ちましょう」
ジョルジュに言われて、ショボンはスーパーから外に出る。
空には何もない。分厚い雲が横たわっているだけだ。
しかし、もし星などが見えたとしても、スーパーの光などで掻き消されてしまうだろう。
どこか山奥に行かないと、その光は届かないのだ。
やがて、ツンがスーパーから出てくる。
キビキビとした足取りは、やや触れがたいものであったが、それでもショボンは話しかけた。
なるべく速めに内藤ホライゾンの名前を出して、ツンに事情を説明する。
ξ゚听)ξ「内藤ホライゾン……ですか」
ショボンの説明の後、ツンはそう呟いた。
(´・ω・`)「そうです。
彼について、何か知っていることがあるならば、ぜひ教えてもらいたいのです。
さきほどあなたのアパートに行き、シュールさんから話は聞きました」
ξ゚听)ξ「シュールちゃん……そう。
話を聞いて、私が内藤ホライゾンと関係があると思ったわけですか」
ショボンは正直に頷いた。相違はないし、嘘をつく必要はない。
ツンはしばらく立ち止まり、目を虚ろにして何事かを考えて、それから首を横に振る。
ξ゚听)ξ「残念だけど、私もまたそれほど力になれるとは思えません。
確かに小学校、中学校と私は内藤と同じ地域で暮らしていましたが、それだけです。
特別に仲が良かったわけではありませんので、あなたたちが望んでいるような詳しい話ができるとは思えません」
ショボンとジョルジュは顔を見合わせる。
やっと掴んだ内藤ホライゾンの過去についての手掛かり、たとえどれほど小さなものでもそのことに変わりはない。
ショボンはジョルジュを見つめて、彼の考えは自分の考えと大差ないのだろうと思った。
(´・ω・`)「聞かせてください。
どれほど他愛のないお話であろうと、内藤の過去を知る手がかりであることに変わりはありませんから」
ショボンとジョルジュは、ツンと共に夜の街路を歩きだす。
昼間のどんよりとした雲のせいで、夜だというのに熱気がまだ残っている。
今夜は蒸し暑い夜となるのだろう。
(´・ω・`)「あなたの息子さんは、内藤ホライゾンと知り合いだった。
シュールさんはそう言っていたのですが、それはいったいどういう関係でした? 」
ξ゚听)ξ「近所だったから、というのが最適でしょうね。
同じアパートに住んでいたから、ゴミ出しや駐輪場で見かけることがあって
あの子もそのように知り合いになったのでしょう」
(´・ω・`)「しかし、どうもシュールさんの話を参考にすると、息子さんは相当内藤に親しく接していたように感じられるのですが
どうしてでしょうか? 」
ξ゚听)ξ「たまたま馬があったのでは……そうとしか私には言いようがありませんね」
ショボンは口を閉じる。どうもツンの息子を中心としたこの話題からでは話が広がらないようだ。
(´・ω・`)「同郷の人間が自分の息子と仲がいいことについて、あなたはどう感じましたか? 」
ξ゚听)ξ「特別にはありません。
さっきも申しあげたように私は内藤と仲が良かったわけではありませんでしたから」
(´・ω・`)「良い、悪いとも感じなかった? 」
ξ゚听)ξ「それほど限定するのなら……良いのではないでしょうか。
息子は友達が多いほうでは無かったようですし」
(´・ω・`)「それでは、少年時代の内藤の話で、覚えていることはないでしょうか? 」
ξ゚听)ξ「ええ、小学校から元気な人でしたね。とにかくいっぱい遊んでいて
特に仲のいい少年がいまして、その子とはいっつも一緒でした」
ツンの言葉が楽しげな雰囲気を内包していることに、ショボンは気付いた。
話しているうちに昔のことを思い出して、その懐かしさを感じたのだろうか。
(´・ω・`)「その仲の良かった友達とは? 」
ショボンの何気ない質問で、ツンの顔に翳りが生じる。
ξ゚听)ξ「ごめんなさい、名前まで思い出せないの」
これが翳りの正体なのだろうか――ショボンの頭に疑念が浮かぶ。
しかし確かめたくても、どうにも取っ掛かりが見つからないので、話を続ける。
(´・ω・`)「どうぞ、内藤の話を続けてください」
ξ゚听)ξ「ええ、わかりました。
内藤は高校生のときに急に転校してしまったのです。
それからの行方はわかりませんでした。ここに引っ越してくるまで」
(´・ω・`)「転校の理由はわからなかった? 」
ξ゚听)ξ「はい、同じ学校の誰にもわからなかったので、ちょっとした話題になりましたね」
ショボンは「ふむ……」と呟き、思考を巡らせた。
(´・ω・`)「何年も前に同じ学校に通っていて、急に謎の転校をした男が同じアパートに引っ越していた。
そして自分の息子と知り合いになった。それどころか親しげにしていた。
それでも……特に何も感じなかった、ずいぶんと淡泊な気がしますが」
ξ゚听)ξ「それはまあ、少しくらいなら私も驚きました。
けれどそれだけです。他人の事情をわざわざ詮索することもありませんし」
(´・ω・`)「他人……ですか」
ξ゚听)ξ「そうです。
同じ学校に行っていただけで、それほど親しくなければ他人と呼んで差し支えないでしょう? 」
ツンはそう言い放つ。
ショボンは再び口を噤んで、そのまま歩き続けた。
なんだか冷たい言い方をする、やたらとそんな印象が残ってしまう。
しかし、いささか強く残りすぎではないだろうか、そうショボンは思った。
アパートに到着する。
ほとんど全ての部屋に明かりが灯っているようだ。
入居者は十分にいるのだろう。
ショボンとジョルジュは部屋の前まで、ツンと一緒に歩いてきた。
扉の前でツンは二人に軽く頭を下げる。
ξ゚听)ξ「それではこれで。
あまりお力添えができなくて、申し訳ございませんでした」
(´・ω・`)「いえいえ、大丈夫です。
元々趣味のような調査ですので、あまり気になさらないでください」
ショボンもまた頭を下げる。しかし、横に立つジョルジュは動かない。
ツンは会ってから一言もしゃべらず、頭も下げないジョルジュを一瞥して、それから部屋に入ろうとする。
_
( ゚∀゚) 「ツンさん」
何の前触れもなく、ジョルジュが言葉を投げかける。
ツンは動きを止めて、ゆっくりとジョルジュを見つめた。
_
( ゚∀゚) 「ブーンさんに息子がいたということはありませんでしたか? 」
ツンはふっとため息をつく。
それを引き起こした原因が呆れなのか、安堵なのかは判別しかねた。
ξ゚听)ξ「悪いけど、私は本当にブーンのことはよく知らないの。
息子がいたかもしれないし、いなかったのかもしれない。結局知らないのよ」
ツンはそう言って、部屋の中に入ってしまう。
扉を閉めて、鍵が掛かる音がする。
ショボンは顔を上げて、ジョルジュの方を向き、その顔に笑みが満ちているのを確認する。
何かいいものを発見した子どものような表情だ。
_
( ゚∀゚) 「今の聞いたか、ショボンさん
『ブーン』だってよ」
ショボンにはその発言の意図がわかっていた。
もしジョルジュがその質問をしなかったら、もう少し後に自分からその名前を出す気でいたからだ。
(´・ω・`)「ああ、確かにツンはその名前を口にした。
俺が一度として会話の中で口に出すことのなかった、その名前を」
_
( ゚∀゚) 「しかも俺の質問に何の疑問も抱くことなく、だ」
ショボンもその言葉に頷いた。
シュールの話によると、ツンの息子は内藤ホライゾンのことをブーンという名前で呼んでいた。
しかもシュールが、5年前に内藤の殺人事件が報道されるまで『内藤ホライゾン』という名前を知らなかったことを踏まえると
その息子もまた『内藤ホライゾン』という名前を知らなかった、あるいは『ブーン』という名前の方を好んで用いていたということになる。
しかしどうしてそのような状況が生まれるというのか。
母親であるツンは小学校、中学校において内藤ホライゾンと同じところに通っていた。本人もそこは認めている。
そしてツンは内藤と親しくなかったというが、引っ越してきた際に驚いたとなると、その名前はちゃんと憶えていたということになる。
20年以上前の内藤の姿と、引っ越してきた当時の内藤ホライゾンの見た目は当然違っているはずであり
にもかかわらずその引っ越してきた人物を内藤と判別することができたならば『内藤ホライゾン』という名前がキーとなったと考えると自然であるのだ。
『内藤ホライゾン』という名前をツンは知っていた。
ところが、息子は少なくともシュールに対してその名前を用いていないのである。
ツンは『内藤ホライゾン』という名前を教えなかったのだろうか。息子が親しく接している男の名前を、当の息子に教えなかったのか。
仮に何らかの理由で内藤ホライゾンが『ブーン』という名前を息子に対して用いていたのだとして、そのことに何の疑問も抱かなかったのか。
それどころか、今さっきジョルジュがわざわざ『ブーン』という名前を用いて質問をした際にツンが『ブーン』という名前を用いて答えたことを考えると
ツンもまた『ブーン』という呼び名を内藤に対して用いることに何の疑問も抱いていないということである。
(´・ω・`)「つまり、ツンの頭の中では『内藤ホライゾン=ブーン』という等式が成り立っていたと考えられる。
そのことを確かめたかったんだろ? 」
_
( ゚∀゚) 「ああ、証拠なんてものはないけど。
それまでの会話で一度も出てきていなかった名前を突然話題の人物に当てられたのにも関わらず
普通に答えたってのは、かなり怪しいと思いますよ」
(´・ω・`)「すると、かなり強いイメージの連結だと考えられるね。
思うに『ブーン』というのは、子どもの頃のあだ名と考えるのが一番適当なんじゃないかと思うんだ。
小さい頃に付けられたあだ名というのはその人物の特徴を正直に捉えた、印象深いものが多いからね。
ただ名前をもじったものではないところからすると、なおさらその傾向が強いあだ名だろうと思うよ」
_
( ゚∀゚) 「しかし、そう考えると先程のツンの言葉は如何わしいものになりますね。
あだ名で呼び合うということはそれなりの親しい関係があったと考えられます。
まあ大小あるとは思いますが、突然転校して偶然であったのに何も感じない、というほどのものとはとても思えません」
(´・ω・`)「推測の域を出ないにしろ、あの発言は鵜呑みにするには信憑性が足りていないだろう。
試しに内藤の立場を考えてみようか。まだ事件など起こしていない内藤ホライゾンの立場を」
_
( ゚∀゚) 「内藤ホライゾンがブーンという偽名を使う理由はわかりませんね。まだ何もしていないのだから本名を隠す必要は見られない。
ブーンというあだ名を用いてツンと接触した、あるいはツンがブーンという名で内藤を示した、と考えるとすんなりいく。
息子がブーンという名前を用いたのも、母親がその名前を主に内藤を指し示すのに用いていたから。
やはり内藤とツンの間には交友関係があったと考えるほうが良さそうですね」
(´・ω・`)「まだ調べる事柄はありそうだな。
ただ、方針はだいぶ立てやすくなった」
内藤ホライゾンの過去を恐らくツンは知っているのだろう。
しかし今は話してくれない。何故かはわからないが、交流が無かったように発言していた。
関係がわかるとまずいというのか、それとも隠さなきゃならない理由があるのか。
_
( ゚∀゚) 「もし発言が嘘なら、咄嗟に考えたんでしょうね。
こっちが息子と接触してしまえばすぐに綻びが見えてしまいそうだし」
いや、息子と接触しなければならないからこその発言なのだろう、とショボンは思った。
自分たちが息子と接触する前にツンが息子に連絡すれば、ショボンたちの調査が息子に及ぶことを防げる。
息子が内藤ホライゾンと関係を持ち、母親が内藤の過去を隠そうとしているのならば、なおさらだ。
方針が立てやすいとは言ったが――ツンに真実を話してもらうことが一番手っ取り早い、だがどうも難しいことのようである。
ならば内藤の出身地を調べるのがいいのだろう、とショボンは思った。
そこでツンと内藤の関係が明らかになるならば、なおさら好都合だ。もうツンは言い逃れできなくなる。
いくら過去を隠そうとしても、嘘という壁は事実で突き破れる、ショボンは確信する。
しかし、その途端にツンの言葉が浮かんできた。
『他人のことをわざわざ詮索することもありませんし』
詮索、か。ショボンは自分がそれをしているのだと思い、嫌な気分になる。
そのとき、ツンが非難めいた口調だったことも相まって、罪悪感が湧いてくるのを感じた。
けれど、首を横に振る。
隣でジョルジュが不審そうな顔をしているけど、気にしなかった。
こんな気持ちは、この仕事をしている間になんども味わってきたことなのだ。
詮索の先に真実があるならば、自分はその行動をためらうわけにはいかない、そう言い聞かせる。
121:第三話 ◆GIfZM2iQHE:2012/03/05(月) 21:33:01 ID:EDx2gOlY0
二人はアパートを出て、何十メートルか歩いた。
アパートは角に隠れて、もう見ることはできない。
大通りが目の前に見えてきたところで、ショボンの携帯電話が鳴る。
珍しいなと思いつつ、ショボンはジョルジュに断って電話に出た。
( ゚∋゚)「こんばんは、ショボン警部」
聞き慣れた声、鑑識のクックルだ。
(´・ω・`)「何か用か? 私は今日非番なんだが」
といっても仕事と同様に動き回ってはいたが、ショボンはそのことは言わないでおく。
( ゚∋゚)「やだなあ、忘れちゃったんですか?
仕事と関係なしに調べ物をさせたじゃないですか
ニダー一家殺人事件の現場にあった金属バットのことですよ」
その言葉で、ショボンは思い出す。
昨日のことだ。内藤ホライゾンのことが少しでもわかるかもしれないという思いつきで、その命令をしたのである。
今思えば事件でもないのに調べてくれたクックルには感謝すべきだろう。
(´・ω・`)「ああ、思い出した。調べてくれたようだね。ありがとう。
それで、何かわかったことでもあったのかい? 」
( ゚∋゚)「ええ、警察の所有している過去の血痕のデータファイルを調べた結果
金属バットから検出された血痕と照合する人物が一人浮かび上がったんです」
やや間があいた。データを再確認しているのだろう。
( ゚∋゚)「現在F市に在住している分手モララーであることがわかりました」
クックルの言葉は確かにショボンの耳に届いた。
けど、それを判別するのには時間が掛かった。
(;´・ω・`)「申し訳ないが、もう一度言ってくれないか? 」
( ゚∋゚)「分手モララーですよ!
1994年12月に我々の調査に介入してきたあの探偵の」
(;´・ω・`)「勝手に犯人に接触しようとして全てダメにしたあの大馬鹿か!?
まだ生きていたのか、あの血気ならすぐに変な事件に突っ込んで死ぬと思ってたが
その名前がどうして今こんなときに出てくるんだ? 」
( ゚∋゚)「そりゃあ、あの金属バットでぶん殴られたってことじゃないですかねえ。
相当昔の話になるとは思いますが」
そういえば――ショボンは思い出した――奴は記憶喪失だったはずだ。
まさか奴は金属バットで殴られて記憶が飛んだ? しかしそれをニダーが持っているとは――ショボンの思考が巡っていく。
( ゚∋゚)「とにかくあの男も、笑顔の殺人鬼と何らかの関係があった。
そう考えて間違いなさそうですね」
内藤ホライゾンの過去に、あの記憶喪失の探偵が関係している。
まるで考えもしなかったことだとショボンは思った。第一モララーの名前などここ数年すっかり忘れていた。
その名前とともに、嫌な事件の記憶もまた心の隅に蘇ってきた。
(;´・ω・`)「連絡ありがとう、クックル。
現在の奴の住所はわかるか? 」
クックルが言った住所をメモに書き留めて、礼を言ってから、ショボンは携帯を切る。
直後、疲れがどっと押し寄せてきて、大量の溜息が吐きだされた。
_
( ゚∀゚) 「大丈夫ですか、ショボンさん?
急に老けたようですよ」
(´・ω・`)「まあ、いるものなんだよ
私にも、苦手な奴の一人くらいは」
_
( ゚∀゚) 「顔色まで悪いですね……今日はゆっくり眠って――」
ジョルジュの声が、掻き消される。
それは彼が声を発するのを中断したせいでもあるし、不意に大きな音が聞こえて来たせいでもあった。
まるで何かが弾けたような音が。
(;´・ω・`)「な……!? 」
ショボンは急いで、元来た道を走っていく。
音は確かにアパートのあった方角から聞こえてきた。
暗い中、あの建物の辺りだけが明るく光っているのが見える。
ジョルジュも走ってきているのだろうが、あまり気にしてはいなかった。
ショボンはとにかく急いで角を曲がり、その光景を目にする。
――理解できなかった。
何故あのアパートが、燃え盛る炎に包まれているのか。
呼吸を荒げて立ち竦むショボンには、全く理解できなかった。
思考回路が停止して、ショボンはただ呆然とその光の渦を見つめる。
赤色の邪悪なエネルギー体は何度も何度も曇天を喰らおうと空へ伸びては地に堕ちる。
直下のアパートが部分的に爆ぜている。
悲鳴が、それだけで済ませてしまうにはあまりにも心を抉る力を持つ叫び声が聞こえてくる。
住人の声だ。あまりにも遠くから聞こえているようにショボンには感じた。
ショボンは思わず駆け出した。
ツンやシュールは中にいるはずだ。このままでは炎に飲み込まれて――
誰かがショボンの片腕を鷲掴みする。
_
( ゚∀゚) 「ショボンさん! 落ち着いて!
もう無理ですよ、近寄ったら危険です! 」
必死で叫ぶ若者の声。
それもまたショボンにとっては遠く感じられた。
振り払おうとするが、力ではだいぶ衰えが始まっているようだ。
どうしても動くことができない。
若者を振り払うことが、どうしてもできない。
どこからかサイレンが聞こえてきた。
誰か近隣の住民が消防車を呼んだのだ。
そして、水の滴りを感じた。
雨だ――火が消える。
安心が湧いてくる。
けれど、目は前をじっと見つめていた。
消防隊員が引っ張り始めても、ショボンの目はアパートを見つめていた。
目の前で、手掛かりが消えようとしていた。
内藤ホライゾン、彼の死に近づいたからなのか?
そんなことがあるのだろうか?
偶発的な事故なのかもしれない。
しかし、事実はそう、やっと見つけた彼の過去への手掛かりが消えていく。
どうしてなのか、わからない。
ただ、大きな圧力を、ショボンはひしひしと感じていたのだった。
〜〜第四話へ続く〜〜
8月14日(土)、10時 B市総合病院――
昨晩、某アパートの一室から火の手が上がった。
火災があったアパートの住人は全員、生きてはいたものの怪我を負っていた。
幸い軽傷で済んだ大家は、火災当時の状況を語るためにB市警察署に赴いている。
ショボンは火災現場にあまりにも近くにいたため、呼吸器を痛めたらしい。
しかしそれは消防隊員が診てもらうように促したもので、ショボンはたいしたことないと思っていた。
昨晩、現場にいた重軽傷者を運ぶために駆け付けた救急車にショボンも乗って、簡単な治療は既に受けていた。
健全だったジョルジュは昨晩消灯時間ぎりぎりまでショボンのそばにいた。
ショボンも少し話しづらいという程度だったので、いくらか応対はしていた。
調査はまだ続けよう、そう二人は約束し、ジョルジュは帰って行った。
一晩の入院で済んだことは、幸運なことなのかもしれない。
もちろん体調の面でも運の良いことではあったのだが、それ以上の利点も見つけていた。
一つは仕事を公に休むことができるということ。
見舞いに来るという同僚からの連絡があったが、「明日にはもう帰るから」といってショボンは全て断っておいた。
これでまた一日、例の『趣味』に没頭できるというわけだ。
もう一つはシュールやツンの様子を確認できるということ。
まだはっきりとした連絡は受けていないが、死者はでていなかったはずだ。
どちらも生きている。軽傷ならなおいいのだが、果たして思い通りに行くものだろうか。
退院の手続きを終えて、一度ショボンは外に出てみる。
昨日の大雨が嘘のような、すかっとした晴れ空だった。
蝉の声が耳を突いてくる。何気ない木々のどこかに彼らは潜んで、その翅を必死に擦らせているのだろう。
院内に戻り、ショボンは入院患者の部屋について係員に聞いてみる。
良く見たらさっきショボンの手続きをしたばかりの女性であり、いくらか不思議そうな顔をしていた。
火災被害者は全員この病院に搬送されていた。
もしシュールやツンが入院しているならば、ここで必ず会えるはずだ。
面会できるのは軽傷者だけということらしい。
ショボンは、面会可能な人物のリストの中にシュールとツンがいるかどうか確かめるように言う。
奥の部屋に入った係員の女性は、数分後に戻ってきて、シュールの面会についてはOKとする。
つまりツンは重傷なのだ。
若干落胆したショボンだが、とにかくシュールの部屋に向かうことにした。
シュールの病室は、彼女の他に五人の病人が収容されている六人部屋だ。
それぞれの部屋はカーテンを引くことで任意に空間を遮断することができた。
シュールは扉に近いベットだったのですぐに見つけることができた。
ショボンは彼女と目があって、頭を下げる。
彼女もまたショボンのことがわかったらしく、それに応えてくれた。
(´・ω・`)「なんとも大変なことになってしまったようだ。
君もこれから大変だろう」
シュールは何も答えず、その代わりに傍からスケッチブックを取り出す。
サラサラとペンを動かして、ショボンの前に提示する。
lw´‐ _‐ノv [私は今、喉をやられているので喋ることがつらい。
筆談になることをご了承してほしい]
あのか細い声で喉をやられたならば、さぞ声が出しづらいことだろう、とショボンは危惧した。
(´・ω・`)「了解した。
すぐに回復できることを祈るよ」
シュールは微笑む。
嬉しいことを表しているのだろう。
(´・ω・`)「事件発生当時のこと、わかるかい? 」
頷いてから、シュールは文字を書き始める。
lw´‐ _‐ノv[火がついたのは7時30分頃。
私は部屋の中にいたので、外の様子はわからなかった。
ツンさんはすでに帰って来ていたはず。ちょっとだけ聞き耳を立てていたから]
ショボンは頷いた。
自分がジョルジュと一緒になって、部屋に入るまで近くにいたのだから。
lw´‐ _‐ノv[あなたたちの会話も聞こえた]
ささっと書いて、シュールが付け加える。
ショボンは返す言葉に詰まり、唸り声を出した。
(´・ω・`)「なにか、気に障ることがあったなら謝るよ」
すると、今度はシュールは首を横に振る。
嫌に思ったわけではないようだ。
返事を書いて、またそれをショボンに見せる。
lw´‐ _‐ノv[別に怒ってはいない
それに、ツンさんの発言もおかしかった。
ツンさんは内藤のことをブーンと呼んでいたし、あの人も内藤という名前を知らなかった]
やはり、ツンの発言は嘘だった。
息子も、内藤ホライゾンに対して『ブーン』という名前を用いていたのだ。
(´・ω・`)「それはあだ名と考えてよさそうかい?
それと、内藤はツンさんとは親しかった? 」
シュールは少し考えてから、文字を書きだす。
今度は何度か筆を止めている。なかなか断定しづらいようだ。
lw´‐ _‐ノv[あだ名だとは思うけど、それほど深い事情は知らない。
内藤もツンも会うことは避けていた。
理由は教えてくれなかった。昔は仲良かったらしいけど、今は避けていると言ってた。
あの人も理由を知らないようだった]
避けていた――その言葉は意外だったが、昔仲が良かったのならば『ブーン』という名前に順応できたことは納得がいく。
仲が良かったが、何かあって避け始めた。
それは転校していたから、関係が一度断たれたものだったから、ということだろうか。
息子も知らない――これもまた嫌な知らせだった。
しかしまだ望みが絶たれたわけじゃない。
(´・ω・`)「ありがとう。
このようなしつこい調査に協力させてしまって、すまないね」
すると、シュールはまたしても首を横に振る。
今度は勢いに乗って、次々と言葉を書き並べていった。
微笑みを浮かべながら、シュールはその文字をショボンの前に突き出す。
lw´‐ _‐ノv[私も内藤ホライゾンの過去が知りたい。
調査が終わったら知らせに来てほしい]
その文字がショボンの目に映ったとき、声には出さなかったが内心はっとした。
それがシュールの切実な願いだということははっきりと伝わった。
彼女もまた知りたいのだ。あの謎の死の真相を。
(´・ω・`)「……わかった。
約束しよう。きっと知らせることになろう」
その言葉を言い終えると、シュールが一段と笑顔になった。
表情にそれほど変化があったわけではないが、嬉しそうな感じが伝わってくる。
この子が軽傷で済んでよかった――ふとショボンはそう思った。
(´・ω・`)「ところで、そのスケッチブックは誰かのアイデアかい? 」
何となく気になったので、ショボンは質問する。
シュールはまた少し考えて、ペンを動かしていった。
lw´‐ _‐ノv[朝早くに友達が来た。
会話できないとわかると、すぐにこれを持って来てくれた]
(´・ω・`)「なるほど、良い友達だね。機転も利く。
どんな子だい? 」
少し首を傾げながら、シュールは文字を書く。
lw´‐ _‐ノv[あんまり他人に言うなと言われた。
だから答えたくない]
ショボンはその文字を見て、少しだけ動きを止める。
(´・ω・`)「彼がどこへ行ったのかもわからないのかい? 」
眉を顰めるシュール。
さっとペンが進んでいく。
lw´‐ _‐ノv[家に帰ったのかもしれない。
私もそろそろ、ゆっくり休みたい]
文字を認識して、ショボンは何度か頷く
(´・ω・`)「男の子なんだね」
lw;‐ _‐ノv「……!! …………!!? 」
明らかに動揺の色を見せたシュール。
( ´・ω・`)「その反応を見ると『あの人』で間違いないのかな?
いやあ、鎌をかけたつもりなんだけど、うまくいくもんだね。
そういえばさっきからどうして『あの人』なんて書き方をするのかも気になっていたんだけど」
その言葉の終わる前に、シュールはショボン目掛けて思い切り枕を投げつけた。
(;´・ω・`)「いや、ちょっと! 悪かったよ、ごめんよ」
ショボンは口早に謝罪を述べたが、真っ赤な頬をしたシュールは敵意をこめた眼差しでショボンを見つめる。
続いてコップが投げつけられて、ショボンは枕で防ぐ。
当たることも、割れることも防いだわけだ、などと無駄に上手いことが頭に浮かぶ。
ミセ*゚ー゚)リ「何を患者さんにしているのですか!? 」
看護師が飛んでくる。
(;´・ω・`)「いやあ、少しいろいろありましてその、事情はちゃんと」
しどろもどろになったショボンの声は、すぐに途切れる。
シュールがスケッチブックをバンバン叩いたからだ。
看護師の目はそちらに注がれる。
lw#‐ _‐ノv[変 態]
看護師の息をのむ音が聞こえてくる。
やたらと大きな音だった。
ショボンはなおも冷静に対処しようと試みた。
(;´・ω・`)「いやいや、ねえ君、何その文字。
どう考えても書いてるような時間なかったよね今。
使いまわしたよね、それ。ねえ」
腕を鷲掴みにされるショボン。
ぎっちりと握り締めるその腕は、看護師のものだった。
ミセ*゚ー゚)リ「ちょっとこちらへ、奥で話を」
(;´・ω・`)「いやだなあ、私は何も……痛いんですけど」
べーっと舌を出すシュールを睨みつけながら、ショボンは奥へ連れ去られていった。
解放されたとき、時計の針は11時を過ぎていた。
(;´・ω・`)「恥ずかしがるのはガラじゃないって言ってたじゃないか。
まったくもって、年下というのは怖いね」
ぶつぶつとぼやきながら、ショボンは病院を後にする。
たとえこの病院に『あの人』が来ていたとしても、もう残ってはいないだろう。
わざわざシュールに「誰にも言うな」などと伝えたほどだ。
ショボンとは限らないが、誰かに捕まって事情を話すことが嫌だったに違いない。
さて、これからどうしよう――ショボンは気持ちを切り替えることにした。
今シュールのところに行っても騒がれるだけだ。
ツンともやはり面会は出来ないだろう。
すると、もうこの病院に用はない。
ならば移動しよう。どこへ? 一応考えはある。
内藤ホライゾンの育った場所、かつてのG村であり、現在のD市だ。
しかし、その前に気になることがあった。
モララーのことである。
思いがけず、今回もあの男が関わっていると判明した。
それにおそらくは奴の失われた記憶が関わってくる。
このことを踏まえると、どうしても気になることが一つあった。
ショボンは行く先を決めた。
まもなく南天に上ろうとしている太陽の下に出て、B駅へ向かっていく。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
8月14日(土)、1時 東京――
モララーは都会というものが好きではなかった。
山の中で育ったことを考えると、自然が少ない都会を嫌うのは当然のことなのかもしれない。
しかしモララーの抱く嫌悪感は、単純に「緑が少ないから」というエコロジカルな理由で生じるものではなかった。
表向きの清潔感、整理整頓された秩序の裏に潜む、暗くてドロドロとした不定形の負のイメージ――ここまで修飾してようやく伝えたいことの片鱗が見えてくる。
ただの暗いもの、残酷で非情なものは山の中にだってある。生命の危機や死の感覚はむしろ都会より強く感じられた。
無論、モララーが嫌うのはそこではない。問題は『裏に潜む』ということだ。
山の中にある負のイメージはむき出しのものである。ちょっと道を逸れれば野生の動物の肉片や骨くらいすぐに見つかる。
しかし都会のそれは隠れている。そして人前では誰もが何事も起きていないふりをしている。
暗い事件をひた隠しにし、そこから人と人との間に疑惑と猜疑心が生まれ、さらに新たな負が生まれてくる。
たまらなく嫌だった。
育った山を離れて、すぐに探偵として働き始めた。
そしたらいろんなことが見えてきた。人間の嫌な部分をたくさん見てくることになった。
嫌な思い出ができることだってもちろんあった。
そしてその中の一つ一つが、自分を今でも突き動かしていることを、モララーは感じていた。
大嫌いな感覚が、自分を動かしている。なんだか矛盾しているようで、正しいことなのだ。
とにかく都会は嫌、それなのに今、モララーはこの国で一番の大都会に来ていた。
昨日の夜のことである。
A市にあるしぃの家、モナーが貸していた家で起きた発砲事件が全ての引き金だった。
一緒にその場にいたドクオという青年は、昨日の晩にどこからか連絡を受け取っていなくなってしまった。
夜中に来た警察への応対は全てモララーが済ませておいた。
ドクオがその場にいないことは警察も疑問を抱いた様子であったが、事件は明らかに警備員のギコによるものだったのでドクオへの追及はなかった。
モララーはほっとしながら、またドクオに会ったときは何を言ってやろうかとも考えた。
きっといくつか言うことを聞かせることができそうだ。
それから、モララーはモナーにつーの居場所を聞いた。
『ブーンの息子』というフレーズが頭に残っていたからだ。
それはギコが、自分に暗殺の依頼をした人物として揚げた男の名前だった。
ブーンという名前を初めて聞いたのは、ドクオが内藤ホライゾンの調査を依頼してきた時だ。
ドクオは内藤ホライゾンのことをブーンと呼び、慌てて言い直した。
それから、ドクオは自分にとっての呼び方はブーンであるといい、自分が内藤ホライゾンと親しかったことを話してくれた。
ブーンとは内藤ホライゾンのこと。
つまりギコに依頼した人物とは『内藤ホライゾンの息子』ということになる。
実際にそのような人物がいるかどうかは知らない。何らかの比喩かもしれない。
ただ、モララーは依頼人であるドクオの意思を尊重し、内藤のことをブーンと呼ぶことに決めていた。
勘でしかないが、そうした方がいい予感がしたのだ。
とりあえずの調査方針として、モララーはブーンと関わりがあったという、つーを訪ねることにしたのである。
( ・∀・)「でけえな……」
目の前のビルを見上げながら、モララーは思わず呟く。
モナーのグループの一つである会社だった。
中に入って、受付嬢と話をする。
既にアポイントメントは取ってある。モナーが手をまわしてくれたおかげだ。
紹介されるのは、社長室へいく道筋だ。
つーは家に帰って来た後に、モナーの手によって出世を約束されたという。
どことなくモララーの嫌いな負のイメージがつきまとうが、気にしているとキリがないのでモララーは無視した。
そして時が流れて、一つの会社の社長にまで上り詰めたというわけだ。
その話は今朝モナーに聞いたものであり、モナーはあくまでも「つーには最初から才能があったモナ」と言い張った。
( ´∀`)「家出したときも、大学はもう出た後だったモナ。
私は娘を嫁に出す気は無かったし、独り暮らしをさせる気もなかったから、捜索したんだモナ」
モナーの考え方が良いのか悪いのかまで判別する気はない。
ただ、なんとなくモララーにはつーが家出した気持ちがわかった気がした。
エレベーターで最上階まで上り、到着の音が鳴る。
扉が開いて、赤い敷物の上を歩く。
社長室はすぐに見つかった。
モララーはプレートを確認してから、扉をノックする。
入室の許可を示す声が中から聞こえてくる。
ドアノブを回して、「失礼します」といいながらモララーは中へと入って行った。
(*゚∀゚)
地上から遥かに高い快晴の空を覗かせる大きな窓を背にして、つーは立ち、モララーを見つめていた。
その体が壁際によったので、逆光から逃れて姿がよりはっきりとモララーの目に映る。
育ちの良さそうな品のある女性だった。その品格はしぃにも共通していたものだという考えが咄嗟に頭を過る。
(*゚∀゚) 「昨日の夜は大変だったと聞いているよ。
うちの警備員が発砲事件を起こしたそうだね」
( ・∀・)「ええ、もう伝わっているんですね。モナーさんから? 」
(*゚∀゚) 「そうだよ。お父様はそういったことはすぐに連絡をよこすのさ」
つーは顔を綻ばせる。
モララーはその様子をじっと見ていた。
しぃと比べれば多少粗い言葉遣いだが、口調の奥にある気持ちは温かなもののように感じられた。
(*゚∀゚) 「なんだか不思議そうな顔をしているね」
( ・∀・)「ああ、いえ。すいません
いろいろと昔の話を聞いていたものですから」
(*゚∀゚) 「……お父様から? 」
モララーがコクリと頷くと、つーは若干固まり、それから一気に乾いた笑い声を発した。
外の天気と同じように、カラッと晴れ渡る様な気持のいい笑い方だ。
(*゜∀゜)「確かに、あたしは若い頃は家出だの水商売だのいろいろ遊んだねえ。
でも、そんなのいちいち気にすることはないじゃないか。誰だってそんな経験の一つや二つ、あるもんさ。
あんたもあるんじゃないかい? 」
( ・∀・)「……どうですかね」
自分の境遇を考えてみた。未成年を前にして記憶喪失、それからはずっと山暮らし。
ある意味ではかなり長期間にわたる家出と言えるかもしれない。しかも戻る見込みなどないのだ。
( ・∀・)「あるかもしれません。
言い方によりますけど」
(*゚∀゚) 「ふふ、そういうもんさ。
さてと、そろそろ本題に入ろうか。用があってきたんだろ? 」
つーとモララーは木製のテーブルを挟んで相向かいに座る。来客との会談用に使うものだろう。
(*゚∀゚) 「時間は30分ほどしか取れないよ。そのことはちゃんと考慮してほしいね」
それからモララーは、ブーンについての話を始めた。
もちろん、つーに対しては「内藤ホライゾン」という名前を用いたが。
「内藤ホライゾン」の名前を聞いた瞬間、つーの形の良い眉がピクっと動いた。
若い頃お世話になった彼が死んだのはほんの少し前、やはり気にはなっていたのだろう。
思えばこの調査をするように依頼してきたのはドクオだったはずだが、今ここに彼はいない。
それにもかかわらずモララーが調査を続けているのは奇妙なことなのかもしれない。
いつの間にか自分から、あの殺人鬼の過去を暴きたくなっていたのだ。
モララーはモナーから話を聞いたことをつーに伝える。
( ・∀・)「あなたは内藤ホライゾンと関わりがあった
そのことに間違いは無いはずだ。そうだろう」
つーは遠い過去に思いを馳せるように、窓の外に視線を移した。
ブーンと出会ったときのこと、起きたことを思い出しているのだろうか。
まるで違う感情だが、彼女もまたブーンに魅せられていたのだ――モララーの脳裏にそんなフレーズが思い浮かぶ。
モナーの言葉伝いで聞いただけだが、今のつーの表情を見て、モララーはそのことを確信していた。
つーはブーンに惹かれていたのだ。
(*゚∀゚) 「話に相違は無いね。あたしは内藤ホライゾンと出会った
23、24くらいだったかな。とにかくあたしはまだまだガキだったよ
あいつは本当に、面倒くさい奴だった」
( ・∀・)「内藤ホライゾンに出会った後、あるお店の客引きをしている最中に、あなたは再び彼に会った」
(*゚∀゚) 「そう、そしてあいつはあたしを捕まえて言ってきた。
『君はこんなことをするべきじゃない。どうかやめてくれ』ってね。
おかしいだろ? 家出したガキ相手に真面目にそんな話をふっかけてくるなんて」
( ・∀・)「それからも何度も内藤は、あなたを家に帰らせようとした」
(*゚∀゚) 「あたしのアパートの住所まで、どうやって知ったんだかわからないけどわかっていたよ、あいつは。
そしてあの事件だ。内藤ホライゾンはお店を経営するヤクザの組員に目を付けられた。
何度も謝って、何度も殴られて、それでもあいつはあたしをやめさせようとしていた」
つーの目が細くなる。まるで大切な人を見守るような、温かい目。
言葉が途切れた。どちらも話しだそうとは思っていないようだった。
長い沈黙の後、モララーが口を開く。
( ・∀・)「結果的にあなたはその店をやめたのですね。
そして、それから内藤には会いましたか? 」
(*゚∀゚) 「……お父様はそこまでしか話していないようだね」
正直に「はい」と答えるモララーの声を聞いて、つーは笑った。
(*゚∀゚) 「会うも何も、あたしは内藤ホライゾンと一緒に暮らすことにしたんだよ」
(*゚∀゚) 「あたしには一人の子どもが、腹の中にいたんだ。
相手がどこぞの誰ともわからない。きっとあのお店で働いていたときに、調子こいて孕まされたんだ。
お店を訴えようにも、気がついた時にはもうそこは潰れていたよ。どうやら裏の組が結構危険なことをしていたらしくてね。
あたしはよく知らないけど、警察が大挙して組を潰したらしい」
(*゚∀゚) 「ま、あそこがどうなろうとあたしには関係ない。訴えることが出来なくなっただけさ。
それからは悩んだよ。誰ともわからない子どもを育てるのかってね。
けれど中絶もしたくなかった。家出して散々家族に迷惑掛けて、反省してるのに、自分から迷惑を被ろうとしていたんだ」
(*゚∀゚) 「それだけじゃない。内藤ホライゾンもまたあたしに、その子を育ててほしいと言ってきた。
それからいつものように綺麗事を並べていったんだ。何度も何度も。
だけど……なんでだろうね、今度はちゃんと効いてしまったんだ。綺麗事が、あたしの心に」
(*゚∀゚) 「あるいは、そのときもうあたしの気持ちは内藤ホライゾンに傾いていたのかもしれないね。
どうしたんだい、探偵さん? さっきからいやに静かじゃないか」
急に言葉を掛けられたので、モララーはハッとしてつーに顔を向ける。
意味をなさない言葉の欠片をいくつか出して、額に流れる汗を拭った。
(;・∀・)「すいません。まさか内藤ホライゾンに妻がいただなんて。
聞いたことも無かったものですから」
そこではなかった――気になっていたのは。でも今は打ち明けない。
つーはまた乾いた笑い声を響かせる。
(*゚∀゚) 「妻じゃないよ、同棲さ。
結局最後まで結婚することは無かったんだ」
落ち着きを取り戻しつつあったモララーは、その言葉に首を傾げた。
( ・∀・)「同棲をしていた……いったいどれくらいの期間です? 」
(*゚∀゚) 「子どもが産まれて、4年ほど経つまでだよ。
どうにも内藤は結婚することを拒んでいたんだ。断固としてね。
それでも子どもには悪い影響があるかもしれないと考えて、あたしたちは子どもが小学生に上がる頃に結婚する予定ではいたよ」
(*゚∀゚) 「でも、あいつは消えちまった。
1995年の話さ。あいつはあたしらを置いてどっかに逃げてしまった。
連絡を取ろうと思えばできたんだろうけどね、あいつの置き手紙にそれを拒む記述があったから、手をつけないでおいたよ」
つーの発した言葉はしっかりとモララーに届いた。
今から15年前の話、突然のブーンの失踪。
それから10年経って、ブーンは殺人鬼となってテレビに映り、それから5年後には死んだ。
( ・∀・)「理由は言ってないのですか。
何故いなくなってしまったのか」
(*゚∀゚) 「言ってないよ。ふっと消えちまったんだ。
それからあたしはモナーの家に帰り、そこから就職を勧められて、今に至るわけさ」
口早につーは自分の状況を述べる。
もちろんモララーの耳には届いていた。
約束の時間が迫ろうとしていた。
つーが話してくれたのはここまでであり、それ以上知っていることは無いようである。
( ・∀・)「そろそろ帰ることにします。
話していただき、ありがとうございました」
(*゚∀゚) 「あたしの話が何かの役に立てるなら、それで十分だよ。
今では人の為になりたい気持ちでいっぱいなんだ。
昔荒れていたことに対する反動ってやつかもしれないね」
モララーは立ちあがって、出口へ向かっていく。
つーも立って、モララーを見送ろうとし始めていた。
だが、モララーは突然踵を返す。
あまりにも唐突だったために、つーは動きを止めた。
( ・∀・)「一つ聞き忘れていました。
その産んだ息子の名前、聞かせてもらえないですか? 」
つーの目がじっと自分を捉えていることに、モララーは気付いていた。
いったい何を見つめているのか、それはわからないが、良い気持ちでは無い。
(*゚∀゚) 「ジョルジュっていう名前だよ」
外に出ると、温かい南風が頬を擦っていくのをモララーは感じた。
湿り気のある空気に一際圧迫感を感じる。ビルの中の冷房が強かったせいでもあるのだろうが。
長岡商事――ビルに掲げられている看板をモララーは何ともなしに見上げていた。
それは長岡グループ会長、長岡モナー氏の有する一会社の名前であり、社長の名前は長岡つーという。
今しがたモララーが会話してきた人物である。
長岡ジョルジュという男――それが、先のつーとの会話で挙げられた名前である。
血は繋がっていないものの、ブーンとつーによって息子同然に育てられた人物。
『ブーンの息子』というフレーズははっきりと憶えていた。
ギコを雇い、事件を起こさせた人物だ。
会ってみる価値はあるだろうとモララーは思っていた。
そして、収穫はそれだけではない。
つーはもう一つ、ヒントを与えてくれた。恐らくは無意識に。
『あいつはあたしらを置いてどっかに逃げてしまった』
( ・∀・)「逃げる、か……」
それがただの比喩だとは、モララーにはとても思えなかった。
ブーンは何者かに追われていたのか。
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205 :
バスケ大好き名無しさん:2012/11/25(日) 17:52:59.67 ID:swoXXM7+
男は懐から巾着袋を取りだし、中から白い塊を手に取った。
よく見ると、それが魚を模した飴細工だとわかった。
肩口から腰を、斜めに分断された子供の屍体の口を開けようとし始める。
だが硬直した顎のせいで、僅かにしか口が開かない。
男は片手で飴細工をすりつぶし、小さく開いた口にさらさらと破片を流し込んだ。
彼の視線は少女ではなく、何処か遠くをさまよっていた。
気味の悪い男だと思った。
庫裡を出ると、まだ回っていない道場がないか町をうろつくことにした。
路銀はいつも心許なく、かといって口入れをもらうのも嫌なので、道場破りはし続けていた。
8月13日(土)、午後3時、C市――
ドクオは河原で一人佇んでいた。
この川はD市の水源から県北部の県境を迂回している川であり、ドクオがいる岸の向こう岸は他県である。
流れが荒く、渡るのには不向きなために、もしあちらの県に行きたければ鉄橋を越えなければならない。
そしてその鉄橋の下で、なるべく斜陽を避けて日陰の部分で、ドクオはじっと川を眺めていた。
鴨が何匹か泳いでいる。数年前には下流の方でアザラシが見つかったらしいが
ドクオが見つめる場所は起伏が激しいので魚類であろうとも進みにくいのであろう。
鮭のことについて――急にドクオの頭の中に浮かんだ命題だ。
鮭の川上りの話を小学生の時に聞いた。
ぼんやりと思い出してみた。
あの魚は産卵の時期になると、一斉に川を遡上してくる。
たとえその道がどんなに荒れていようと、汚かろうと、罠が仕掛けられていようと。
鮭は構うことなく川の上流を目指していく。産卵場所を探し、子孫を残すというそれだけの理由で。
ようやく適当な場所を見つけることができた鮭は、卵を産み、そして果てる。
もはや命を残す必要はない。子孫繁栄という目的は達成することができたのだ。
鮭はただそのためだけに、その時まで生きていたのだ。
昔、ドクオはそれをとても悲しいことだと思った。死というのはそれほどまでに彼にとって恐ろしいものだった。
だけど今、彼はそうは思わない。
目的がある。鮭として生きて、鮭として死んでいくその生涯をドクオは、遥か遠くにある理想のように感じていた。
ドクオは産まれたときから父親がいなかった。
母親に聞いてみる気にはなれなかった。母はその質問を極端に避けている、そんな気がしたのだ。
そしてその結果彼に訪れたのは、どうしても埋まることのない心の穴だった。
普通の人が当然有しているものがないということ、それは抗いようも無い喪失感をもたらしていた。
そしてその感覚が、普通の人から自分を遠ざけているのだとドクオは感じていた。
どうしても人と上手く接することができない。理由のない劣等感、同じ場所に立っていないという思い込み。
そこには、母を悲しませたくないという気持ちも作用していた。
経験がなければ力はつかない。
コミュニケーションの不足は、他者との会話、接触を避けることに繋がった。
いつしかドクオは孤立するようになった。中学生を前にして、独りとはどういうものかを悟っていた。
そして誰とも触れ合わないうちに、自分という存在が不安定になっていった。
本来ならば他者との関わりの中で確立していく自分の立場を得ることができなかった。
無目的。
つまり自分は鮭にも劣るのか、そんなふうに考えることもあった。
だけど、そのたびにそこに誤りがあることにもすぐに気付いた。
たった一人、心を開いている人物がいたということを。
それがブーンさんである。
ブーンさんはドクオが小学生に上がる直前に、ドクオの近所のアパートに引っ越してきた。
初めて見たのは、少し遠くの街のデパートにランドセルを買いに行った日の帰りのことである。
母は車を持っていなかったので、二人は歩いてそのデパートから帰って来ていた。
ブーンさんはアパートの前でぼーっとしていて、ドクオと母の方に目をやるとあからさまに驚いた。
ドクオは不審者じゃないかと思って母の腕を強く握りしめたことを覚えている。
その母親の腕はやけに震えていたことも、未だに覚えていた。
その日、ドクオの母親がこっそり出かけた。ドクオを寝かしつけた後である。
もっともドクオは寝付けなくて、その母の行動に気付いていたのだが。
ドクオはトイレに行くために起きようとした時、母が帰ってきたことがわかった。
話しかけようとする前に、母が泣く音を聞いた。
母はブーンさんの家に赴いたのだ、子ども心ながらにそう感じた。
きっと、この二人の間には何かがあった。それが母の涙に現れている。
その声にならない嗚咽を聞いて、ドクオは何もできないまま、隠れて自室へと戻っていった。
それから母がよくブーンさんの家に連れて行ってくれた、
初日だけ、ブーンさんは警戒していた様子だったが、その日母と外出して、帰って来たときにはもう蟠りが無くなったようであった。
ドクオは学校では孤独を感じながら、度々ブーンさんと会えることを楽しみにしていた。
ブーンさんはいつも笑顔で、明るくて、遊び相手になってくれた。
呼び方はそもそもブーンだったし、ドクオは内藤ホライゾンという名前すら知らなかったんだけれども。
ドクオは一緒にいるときにとても気持ちが晴れやかになった。苦しいことは全て忘れられた。
ブーンさんはドクオにとってかけがえのない存在になっていった。
中学生になってからもそれは相変わらずであり、むしろ一緒に街を歩いたりもするようになった。
一緒に市の街を散策して、いろいろなものを見つけて、笑い合った。
ブーンさんの笑顔はドクオの意識に鮮明に残っていた。
そのブーンさんが、あるマンションに目を付けたのは、2004年10月のことだった。
「あの子……」そうブーンさんが呟いたので、ドクオも意識を向けた。
マンションの入り口に一人の少女が見えた。
同じクラスだったので、ドクオはその名前を知っていた。シュールであった。
ドクオはブーンさんに、シュールがいじめられっ子であり、クラスでも浮いていること、不登校気味であることを説明した。
ブーンさんはしばらく考えたあと、言葉を発した。
「あの子、もうすぐ死ぬかもしれないお」
それから気がついたらドクオはシュールの部屋にいた。
ブーンさんに言われるがまま、主体性の欠片もなしに行動していた結果である。
きっと自分の顔は恐怖で歪んでいたに違いないとドクオは今でも思っている。
その日からシュールとも仲良くなった。
もう孤独は感じなくなった。感情表現は苦手だが、内心では心が晴れ晴れしていた。
シュールとはよくブーンさんの話をした。というかそれしか話題が無かったのだ。
ブーンさんと一緒に街を散策したこと、一緒に遊んだこと。
小さい頃から今まで、自分がどれほどブーンさんに感謝しているか、彼は必死にシュールに伝えた。
自分はブーンさんの為に生きたいと思っていた。
それだけが自分の目的だ――不安定な思春期の精神状態で、ドクオはそう信じることで平静を保っていた。
だけど、ブーンさんの表情が変わり始めていた。
笑顔がだんだんと失われていった。
ブーンさんに元気が無くなっていったのをドクオは薄々感じていた。
依然として笑顔ではいるが、心から笑っているわけではないとわかった。
長いことその笑顔に支えられていたから、なおさら。
でも質問することはできなかった。そんな勇気は持ち合わせていなかった。
だから遠まわしに聞いた。
どうしていつも笑顔でいるのか、と。
ブーンさんが一層笑顔になったのをよく覚えていた。
心で全く笑っていなかったのをよく覚えていた。
「嘘なんだお。
笑顔なんて嘘なんだお。
人間が、他の人間と何の争いもすることなく過ごすための手段にすぎないんだお」
「僕はもうずっと後悔しているんだお。
嘘を続けて、これまで生きてきてしまったことに――」
「僕はずっと昔とても大変なことをしてしまったんだお。
そのことでずっと嘘をついているんだお。誰に対しても。
君のお母さん、ツンに対しても、真実を話したことは無いんだお」
「僕は必ずなんらかの形で償いをしなければならないんだお。
罪に対して罰を受けるのは当たり前のことなんだお。
これまでずっと、笑顔で乗り切っていけると考えていた自分がバカだったんだお」
ドクオはその言葉を思い出すと、今でも寒気がした。
あれはドクオの知っているブーンさんじゃなかった。
でも、もしブーンさんの言っている言葉が本当だとしたら、その恐ろしい言葉を発したブーンさんこそが真実なのだ。
それから数日後、ブーンさんはニダー一家を惨殺した。
ドクオは確信していた。殺したのはあの恐ろしいブーンさんである、と。
だからどうしてあのブーンさんが殺人を犯したのか、とても気になっていた。
ずっと偽りの笑顔を続けていたブーンさんが、どうしてあの事件を引き起こしたのか。
ひょっとしたらニダーは何らかの秘密を握っていたのではないか。
ブーンさんの知られたくない過去を――
斜陽が顔に当たったので、ドクオはハッとする。
かなり時間が経っていたようだ。
もう空が紅い。晴れ渡ったいい空だ。
背後で足音が聞こえたので、ドクオは振り返る。
誰が来たのかは大方察しがついた。
('A`)「遅かったな」
挨拶も何もなしにドクオは言う。
つっけどんな言い方だが、特に問題はない。
_
( ゚∀゚)「お前が早すぎんだよ」
('A`)「お前に言われて、俺はずっと行動してきた。
8月10日にお前が携帯で連絡をよこしてきてからな、ジョルジュ」
_
( ゚∀゚)「ああ、その通りだ。間違いは無い。
俺は10日にお前に電話した。モララーという私立探偵に、内藤ホライゾンについての調査依頼をしろってな」
_
( ゚∀゚)「『内藤ホライゾンの知り合いなんですが、内藤の死が気になるので調べてほしいんです』
要旨はこれだ。あとは上手くA市の跡地へいけば、お前はしぃに出会い、金持ちの女の家に連れて行ってもらえるだろう。
あの時のその女が12日に跡地へ向かうという連絡は、俺の仲間の警備員が知らせておいてくれたからわかったことだ。
その男とこまめに連絡して、しぃの行動時間もおおよそ操れた」
('A`)「警備員……あの発砲したギコって奴か? 」
_
( ゚∀゚)「そうだ。ああ、どうして知り合ったのかまでは聞かないでくれ。
なかなか面倒なことと結びついているんでな。言うわけにはいかない」
('A`)「俺の興味はその男じゃない。
何故発砲したか、それだけだ。
狙いはモララーさんだったんだろ? 」
_
( ゚∀゚)「その通り。
お前の行動のおかげでモララーはあの家に行った。そして発砲されたというわけだ」
('A`)「気に食わない言い方だな」
_
( ゚∀゚)「これから人を殺す、協力しろと言われて気分を良くする人はそういないだろうからな」
('A`)「あの警備員が『ブーンの息子』と言ったから良かったものの
そうでなかったら俺も気が狂いそうだった」
_
( ゚∀゚)「あれか、そのセリフは言わせたんだよ。
お前に事件の裏に俺が居ることを知らせるためにな」
('A`)「殺すつもりが無かったのか? 」
_
( ゚∀゚)「むしろあの程度では死なない男だと思ったよ。
あのモララーって野郎はな」
('A`)「捨て駒か」
_
( ゚∀゚)「ギコのことか? 安心しろ。
どうせどっかの組に見捨てられたところを拾ってやっただけ。
元々表の世界では生きていられなかったような人間だよ」
('A`)「まるでヤクザの親分にでもなったかのようだな」
_
( ゚∀゚)「カッコつけただけだ。俺はそんな凶悪な背景持っちゃいねえよ」
('A`)「……んで、そろそろ教えてくれないか?
モララーってのは何者で、どうしてお前は奴を狙っているんだ」
∀゚)「その前に少し昔話をしようじゃないか」
ジョルジュは一歩、ドクオに近づいた。
('A`)「そんなに長い歴史をお前と共有したつもりはないが」
_
( ゚∀゚)「出会ったときは意外と古いだろ。
5年前だ。ブーンさんがニダー一家を惨殺した年の6月、俺とお前は会った」
('A`)「……お前はブーンという呼び名を知っていた。
俺がブーンさんのいたアパートの前でそう呟くのをお前は耳にした。
だから俺に話しかけた。俺は『ブーンの息子』だ、なんて言ってな」
_
( ゚∀゚)「そう、それが最初の出会いだ。
俺は昔ブーンさんに育てられた子だってことを、お前に伝えた。
そしたらお前は俺と交流を持ちたいと言ってきたな」
('A`)「ただのメアド交換だ。よくあることだろ」
_
( ゚∀゚)「とてもそういう顔つきには見えないがな。今も昔も」
('A`)「…………まあな」
('A`)「でもお前は全く連絡をよこさなかった。
俺が大学生になった後も、さっぱりだった。
ようやく来たのが10日。あのブーンが死んだ日だ」
_
( ゚∀゚)「それまでいろいろ調査していたんだよ。
モララーの存在を確信したのはその期間だった」
('A`)「不思議な言い方だな。ようやく本題に入るってわけか」
_
( ゚∀゚)「その通りだ。実はな、モララーは――」
突風が二人に吹き付けてきた。
夏の温まった空気は突如として空間を駆け巡ることがある。
轟音を鳴らしながら。
ドクオは身を竦ませた。
だけど、ジョルジュの言葉はしっかりと届いていた。
だからこそ目を見開いた。
符号が繋がったからだ。
そのとき初めて、ドクオはブーンさんの言葉の真意を理解した。
ブーンのついていた嘘について。
そこから生じた大きな過ちについて。
(;'A`)「……おい、お前」
ドクオは思わず声を出して呼びかける。
(;'A`)「何をするんだ。これから」
_
( ゚∀゚)「D市へ向かう。
お前もだぞ、ドクオ」
ジョルジュは口の端を大きく釣り上げる。
企みがあるに違いない。そういう顔つきだった。
_
( ゚∀゚)「俺がずっと一緒に行動していたおっさんは、今日を逃したらだいぶ長いこと暇がないらしい。
だから絶対に今日動く。そしてモララーもきっと来る。俺にはわかるんだ」
何か絶対の自信があるのだろう、ジョルジュの力強く頷いていた。
_
( ゚∀゚)「そんでもって奴を、モララーを殺す」
それが当たり前のことであるかのように、ジョルジュは決意を表明した。
意味はもうドクオにはわかっている。この殺人の理由は、とても空しいものだということも。
でも自分からは何も言いだせなかった。
そのような資格があるなんて思いもよらなかったから。
自分にはブーンさんのことはよくわからない。
前にどこかで思ったが、自分以上にブーンさんのことをわかっているのは、きっとこのジョルジュだけだ。
ブーンさんの息子として育てられた彼に尽くすのは、ブーンさんに尽くしたいと思った男のすることではないのか。
それこそまさに自分の生きる目的ではなかったのか。
また一歩、ジョルジュはドクオに近づく。
手が届く距離となり、ジョルジュは腰のポケットから物体を取り出した。
黒く、光沢のあるそれは、新品に違いない。
昨日の晩、ドクオはそれを初めて見た。危機的状況の中で。
_
( ゚∀゚)「お前が持っているべきだ。
モララーはお前に対して、油断しているはずだからな。初対面の俺よりも」
ドクオの手に握られたのは、拳銃だった。
持つのは初めてであり、そして今、今晩それを用いることを命令されているのだ。
_
( ゚∀゚)「至近距離なら猿でもはずさねえし、ゴリラだろうと死ぬだろうな」
楽しそうに言い放つジョルジュからは、毒々しい悪意が伝わってきた。
ドクオはとても顔を上げて、その様子を見ることはできなかった。
正直に言って、殺したくは無かった。
モララーに抱いていた好意は本当のものであったから。
様々な光景が交錯していった。
母親であるツンが泣いている姿、シュールが自分の話をじっと聞いている姿。
初めて出会ったときのジョルジュ、悲しい思いを裏に秘めたブーン。
そして、昨日一緒に行動していたモララー。
殺さなくてはならない。
そういう指令だ。
これは指令なのだ。
病院のベッドで再開したシュール。
重傷を負っているのでツンとは面会できないと伝えて来た看護師。
そして、昨日の晩のモララー。
『無茶するなよ』
その言葉が、心の奥に傷をつけていた。
自分の身を案じてくれている人を殺さなくてはならない。
まるで何かが狂ってしまったように、ドクオは感じていた。
午後4時、B市総合病院――
ドクオはツンの容態を確かめるために、再びここへ来た。
受付に話をして、ツンのことを質問する。
大して期待はしていなかった。
まだ前回来たときからあまり時間が経っていない。
気落ちして入口から出て来たドクオに、ジョルジュが缶コーヒーを与えた。
_
( ゚∀゚)「面会は? 」
ジョルジュは話しかけてみる。
ドクオは小さく、首を横に振った。
_
( ゚∀゚)「そっか……
ま、アパート火災の中生きていただけでも幸せってものだろ
こわいよなあ、突然の事故だなんて」
今度は小さく頷くドクオ。
缶コーヒーを開けて、ちびちびと飲み始める。
('A`)「もういいさ。気は済んだよ」
思ってもいないことを口にする。
本当は確かめたかった。
子どもの頃は怖くて言えなかった、あの涙のわけを。
ブーンさんの正体がわかった今なら、聞く資格があるように感じた。
でも、まだ回復していない。まだ話をすることはできない。
つまりまだその時期じゃないんだ。ドクオはそう考える。
この計画を無事成功することができてから聞こう――ドクオはそう誓った。
缶コーヒーをゴミ箱に入れる。
まだ奥の方に残っていたが、気にしなくなっていた。
いや、それだけじゃない。
いろんな物事に対して、意識が及ばなくなっていった。
今はただ、殺人のことしか頭に残されてはいないような気がする。
それしか考えてはいけないような、そんな気分がドクオを取り囲んでいた。
ジョルジュが車を用意していたことにも、さほど驚かなかった。
車で向かえば、1時間ほどでD市には到着する。
それまでずっと、ドクオは頭の中でイメージを働かせていた。
モララーの頭を撃ち抜く瞬間を。
8月14日
この日、ドクオは拳銃を握り締めながら、犯行現場となるであろう場所へと向かっていた。
同じ日、この事件に関わる別の人間はまた違う方法でD市へ向かうことになる。
彼らは日中それぞれの意志で行動していた。
ブーンの過去の過ち。
それが生み出すものとは、なんなのか。
そしてどのような結果をもたらすのか。
まだ誰にもわからない。
〜〜第五話へ続く〜〜
8月14日(土)、午後2時頃――
旧G村は現在D市の内部にあり、山脈の中腹に位置する村落であった。
現在はG地区と呼ばれているその村落とD市街地との間にはロープウェイが繋がれており、そこを使う人は大勢いる。
もちろん道路も繋がってはいるが、いつも薄暗い山の森の中を通ることを好まない人も多く、交通量は多くない。
しかしショボンはそのどちらも使わず、山の裾で車を降りて川沿いを歩くことでG村へと向かっていた。
いや、正確には市街地とG村の間にある民家を訪ねようとしていたのだ。
山の中でひっそりと佇んでいるその建物、ほとんど自給自足の生活を営んでいる一家が暮らしていた。
そしてそこは、モララーの暮らしていた場所でもあった。
川沿いに大掛かりな装置を発見して、ショボンは立ち止まる。
川で泳いでいる魚を捕獲するために用いるものに違いない。
この時期に獲れる魚のことはよくわからないが、それでも一つ気付くことがある。
この近くに人間がいるということだ。
ショボンはその装置の傍で待っていた。
太陽の光が川面に反射されて映るキラキラとした輝き。岩にぶつかって上がる水しぶき。
川の音が聞こえてくる。歩いている途中には気にもしなかった音だが、耳を澄ましていると疲れが取れていくようだ。
自分が疲れていることを今更思い出していた。
昨日は一日調査をして、その晩には事故に巻き込まれたのだ。
そして一応入院だってした。たった半日の入院だが、間違ってはいない。
火事――そういえばあれは何だったのだろうか、ショボンはふと考える。
何故起きた事故なのかは聞いていなかった。むしろまだ特定するには早すぎる。
今頃は消防隊員がアパートの燃えた残骸を調べて、その出火元を考えているところだろう。
あの火事で失われたものと言えば、それはアパートだ。ツンとシュールの住む場所。
それもまた大きな損失だが、他にもある。
ツンさんが証言できなくなったということだ。
二階に住んでいるツンが重傷で、一階に住んでいるシュールは軽傷だった。
ここから導かれる一番簡単な推測は、出火元が二階だったというものである。
しかもなるべくツンさんに近いところで起きたのだろう。あの火災の直後に大雨が降りだしたため、火は予想以上に速く消えたから。
ひょっとしたらツンの部屋で起きたのかもしれない、そう考えてショボンに別の思考が展開する。
それは違和感ではなく、あえて言うなら奇妙な整合感である。
些かタイミングが良すぎるのではないか。
ツンが嘘をついているとわかり、もう一度問い詰めれば大丈夫だと思っていた矢先にあの事故である。
亡くなったわけではないが、証言を得ることが引き延ばされてしまった。自分もそう軽々と行動できるわけではないのに。
もしあの事故が事件だとしたら、それこそが犯人の狙いということになる。
しかしそこに至るためには一つ、重要事項が必要であることもショボンは同時に気付いていた。
考えることに疲れたので、ショボンは空を見上げた。
快晴はこの地域にも広まっている。吹き抜ける山からの風が心地よい。
( <●><●>)「誰でしょう? 」
突然声を掛けられたので、ショボンはその方向を見る。
ギョロっとした目が印象的な、ややがっしりとした体躯の男がじっとショボンを見つめていた。
その目がさらに驚きで見開かれる。
(;<●><●>)「あ、あなた……ひょっとしてショボン刑事ですか? 」
(´・ω・`)「その通りだが、君は? 」
ショボン刑事というのは懐かしい呼ばれ方だ。
自分が警部に上がってからはもっぱら『ショボン警部』と呼ばれるようになっていた。
よってこの男は昔のショボンの知り合いということになるのだが、ショボンには咄嗟にわからなかった。
だが、その黒々とした瞳を見ているうちに記憶が蘇ってくる。
(;´・ω・`)「分手マス君か。モララーと一緒にいたあの」
かなり昔の記憶だった。
まだショボンは30代であり、世間はまだ20世紀だった。
モララーに初めて出会ったとき、彼は分手マスと一緒に探偵事務所を開いていたのである。
( <●><●>)「今、モララーはいませんよ。
もう何年も帰ってきてません」
(´・ω・`)「わかっている。彼はまだF市で探偵事務所を開いているようだよ」
( <●><●>)「らしいですね。それしかやっていけないということはわかってますが、不安です。
未だに生活に必要なお金は全て私頼みなのですから」
それから分手マスは話を始めた。
彼はモララーと離れて自分で事業を興し、成功を収めたのだという。
当時はまだ情報化社会の開拓時代であり、チャンスはいくつも転がっていたのだ。
モララーとは随分長いこと連絡を取っていないらしい。
お金だけはきっちり払うように要求して、それ以外の話を振ろうとするとすぐに逃げてしまう。
それなのによくお金を与え続けていられるね、とショボンが質問すると、分手マスは苦笑いする。
( <●><●>)「これでも数年間同じ場所でくらしていたのです。
彼が十分につらい思いをしているのはわかってます」
ショボンも頷いて、それからはまた話を聞く側に徹した。
現在、分手マスは実家に帰省している最中であった。
数年ぶりの帰郷で、昔のことが懐かしく、こうして父親が仕掛けた装置を見て回っていたのだという。
ショボンは分手マスに実家へ案内してほしいと頼んだ。
どうしても言って、聞きたいことがあるから。
分手マスは承諾して、ショボンを連れて森の中へ入っていった。
いくらか歩くと、森の中で光が差し込む開けた場所が見えてくる。
かなり広い空間であり、外の世界とは森によって隔てられた別の世界であるように感じられた。
広場の中央には二階建てのログハウスがあり、そこがモララーの父親であるビロードの家であることはすぐにわかった。
( <●><●>)「では、私はこれで」
(´・ω・`)「どこかへいくのかい? 」
( <●><●>)「山の方でキノコを採る仕事が残っているのです」
分手マスはそういって、ショボンに背を向ける。
ショボンの記憶とはかなり変わっていたその背中を見つめて、ショボンは言う。
(´・ω・`)「随分とたくましくなったじゃないか」
足を止める分手マス。
言葉は確かに届いていたはずだ。
彼は振り返って、ショボンと向き合った。
( <●><●>)「その言葉、いつかモララーにも言ってやりたいです。
彼が未だに過去に捉われていることはわかってますから」
そう言い残して、彼は森の奥へと行ってしまった。
ショボンは踵を返して、ログハウスに向かった。
傍にいくつか畑があることに気付き、その自給自足の生活の一端が垣間見える。
分手マスがいなければ、ビロードは自分一人で川魚を捕え、キノコを採集していたのだろう。
そう考えて、数年間連絡を寄越さないモララーに苛立ちを感じた。
ドアをノックして、返事を待つ。
「はいっていいんです」
窪みに手を掛けて、開く。
鍵すら無い、簡素なドアだった。
( ><)「…………? 」
白髪の男がショボンを見て、頭の上にはてなを浮かべる。
( ><)「誰なんですか?
わからないんです」
ショボンは面識がなかったことを思い出し、ビロードに頭を下げる。
(´・ω・`)「申し遅れました。私は県警の警部であるショボンです。
お宅のモララーさんと分手マスさんとは何度かお会いしたことはあるのですが」
警察手帳を出す必要もなく、ビロードは信用してくれたようだ。
( ><)「ほえ、それじゃあ15年ほど前にあの二人が事件に巻き込まれたときですか? 」
ショボンが肯定すると、ビロードは小刻みに首を上下させる。
( ><)「わかったんです。
どうぞ、中に入ってほしいんです」
ビロードに勧められて、ショボンは足を踏み入れる。
リビングに連れていかれて、木製の横長の椅子に腰かけた。
落ち着いた雰囲気のする家だ。ほとんど全てのものが木でできていることも影響しているのかもしれない。
視覚から、質素で温かい感覚が伝わってくる。夏の暑さとは違う、精神的な温かさ。
開けられた窓から入ってくる風が、気持ちよく肌に当たる。
自分も老後はこんな家で暮らすのも悪くない、ショボンは心の隅でそんなことを考えていた。
自給自足、晴耕雨読――その言葉の意味は昔から知ってはいたが、今では真意まで伝わってくる。
何にも煩わされない生活は、ショボンにはとても魅力的なものだった。
晴耕雨読という言葉が思い浮かんだので、ショボンはどこかに本棚でもあるかなと思った。
ビロードがコーヒーを注いで持って来てから、そのことを質問する。
( ><)「本棚ですか。
二階の部屋はほとんどが本で埋まっていますよ」
二階に赴くと、予想以上に大量にあったので、ショボンは素直に感嘆を漏らした。
( ><)「妻も私も読書好きだったんです。
たくさん買って、二人で読んで……息子たちもたくさん読ませました」
息子たち――その言葉に意識が集中する。
(´・ω・`)「分手マスとモララーですか」
( ><)「そうなんです。
彼らは昔から本を読み、山で遊んで暮らしていました」
ショボンはあまりにもはっきり言うビロードを見つめた。
コーヒーを一口運んで、口を湿らせる。
(´・ω・`)「失礼なのはわかっているのですが、モララーさんは拾い子ですよね? 」
ビロードは静かに目を閉じる。
本人は何を思ったのかわからないが、ショボンにとっては嫌な沈黙だった。
あまり長くは続いてほしくない。自分の発言が気に障ったのなら申し訳ないからだ。
(;´・ω・`)「あの……やはり気に障ったでしょうか」
( ><)「え、あ、いえいえ」
ビロードは首を横に振る。
( ><)「少し思い出していただけなんです。
モララーのことを」
ビロードの視線がテーブルの上の、額に入った写真に向けられる。
ショボンもつられてそれに目を向けた
(*‘ω‘ *)( ><)
ビロードと、頬の赤い女性が手をつないでいる写真。
きっとどこか正式な写真屋で、記念として撮ってもらったものなのだろう。
二人はまだ若い。20代半ばと見受けられた。
( ><)「今からもう40年以上前の写真なんです。
映っているのは私と妻なんです」
ビロードの目が愛おしそうになるのがショボンにはわかった。
よほど愛していた女性なのだろう。二人が恋仲であることはなんとなく理解できた。
( ><)「妻はマスを産んで、すぐに亡くなったんです。
交通事故で、即死だったんです。
治療する術もありませんでした」
静かに、心に直接語りかけるように、ビロードは話し始めた。
ショボンは黙って、耳を傾ける。
( ><)「マスを残された私は、現実から逃げだしたくなりました。
それでこのログハウスを建てて、自分の手で生活を営むことにしたんです。
人と触れ合いたくなかったんです。今思えばものすごく情けないことなんです」
( ><)「義務教育は受けさせました。マスは中学校卒業まで親戚の家に預けたんです。
だけど高校に上がる前に、突然私のところにやってきて一緒に暮らしたいと言ってきました。
彼はまた別の理由で、高校生活から逃れたかったのです」
(´・ω・`)「別の理由……といいますと? 」
ショボンが口を挟むと、ビロードの顔に苦笑いが浮かぶ。
その笑い方は、先程マスが顔に浮かべた苦笑いとあまりにも似通っていた。
( ><)「頭が良すぎたんです。
親がこんなことを言うのは少し気が引けるのですが、彼には高校課程の授業は必要ありませんでした。
残りの大切な知識はこの家の本で全て習得したのです」
( ><)「彼は私の生活を全面的にサポートしてくれました。
畑の耕し方や、魚を捕まえる方法、野生の草花の情報まで教えてくれました。
生きるのに必要な知識を得て、それを用いて私を助けてくれた……それはいくら感謝してもしきれないことなんです」
( ><)「といっても、マスはあまり行動する人ではなかったんです。
彼に言われたことを私が実践する、そのようにしてここでの生活はなりたっていたんです」
ビロードの言葉を聞いて、ショボンは納得する。
ショボンの記憶にある分手マスはひょろっとした痩躯の青年だった。
だからこそ、がっしりとした体型になっていたのを見たときに、誰だかわかるまで時間が掛かったのだ。
(´・ω・`)「優秀なお子さんで」
( ><)「ええ、しかしその頃私は危惧もしていました。
たまに街へ工具などを買いに行くときに、彼は絶対外へ出ていかないんです。
これでは私がもし死んでしまったときに困るのではないか、そんな不安が常に私の胸の奥にありました」
( ><)「けど、彼は変わりました」
ビロードの顔つきが変わる。嬉しそうに目元が緩んだ。
そして視線がショボンの方に向けられたので、ショボンは彼が言わんとしていることを察した。
(´・ω・`)「モララー……ですか」
( ><)「そうなんです。
1987年の冬に、モララーが川を流れてくるのをワカッテマスと私が発見し、この家に連れてきました。
モララーは頭にひどい怪我がありましたが、応急処置をして麓の街の病院に連れていきました」
ビロードは思い出しているらしい。言葉を少しずつ紡ぎだしていく。
ショボンはいよいよ本腰を入れて話を聞きていた。
(´・ω・`)「川の上流から流れて来たとなると……旧G村ではないですか?
あの村の端でも川は流れていますし、それより上流から流れて来たのなら村の誰かに見つかるはずです」
( ><)「私もそのことはわかっていました。
だからモララーの意識が戻ったら、元の家に帰す気ではいたんです。
病室で、彼の意識が回復するまでは保護者として見守っていよう。それから後は預けよう、本当の親の元へ」
(´・ω・`)「しかし戻らなかった……彼は記憶喪失だ。少なくとも私の会った頃の彼は」
ビロードも「その通り」というように首を動かす
( ><)「私は仕方なくモララーを引き取りました。
施設に預けることもできたのですが、私はそういったところに子どもを渡すことに抵抗を感じたんです。
それに、マスのことがありました。彼にはもっと人と触れ合ってほしいと、私は思ったんです」
( ><)「モララーは、元からそうなのかは知りませんが、とても行動的で、山が大好きな青年でした。
そしてマスに誘われて、本もたくさん読み、知識も得ていたようです。今思うと、彼の言動は機知に富んでいた。
何事にも考えを膨らませることができたように見受けられたんです。マスと一緒にいて、モララーにはそういう能力が身についたんです」
( ><)「マスもまた、近い年代の友達ができて嬉しかったようなんです。初めこそ避けてはいましたが、モララーが積極的だったんです。
コミュニケーションが苦手なマスの気持ちを理解して、いくつもの話を振り、討論もしていたんです。
マスは変わりました。モララーのおかげなんです。一番の親友ができた、いや、双子の兄弟が出来たようなものだったんです」
(´・ω・`)「あなたにとってモララ―は息子同然というわけですか」
ショボンの言葉に、ビロードは力強く頷いた。
( ><)「彼らは……私にはもったいないくらいに優秀な子どもだったんです。
そして二人とも、私のことを父親として扱ってくれた。こんな山奥にひっそり暮らしている世捨て人を」
誇らしそうな表情が、ビロードの目に浮かんだ。
優しい柔らかな顔だった。
ショボンはモララーの身の上を考えていた。
あの生意気な探偵の過去をこのような形で知るとは思いもよらなかった。
(´・ω・`)「水を差すようで悪いのですが、しかし気になるので質問させてください。
モララーの両親はどうして彼を探さないのでしょう?
何年もほったらかしにしておくなんて、いったいどういう親だったのでしょうか」
すると、ビロードは今度は力なくその言葉を否定する。
表情は途端に翳りが見えた。
( ><)「会いました」
すぐには意味がわからなかった。
ショボンは思わずその意味を聞きなおした。
( ><)「会ったんです。モララーの両親に。
彼の所持品から、名前だけはわかっていたのですからね。G村に目星をつけて、すぐ見つかりました。
彼を拾ってから10日後のことです」
( ><)「さて、会ったのに何故私が育てていたのか。
どうして未だにモララーに連絡を取ろうとしないのか。
わかるでしょう? 」
ビロードの問いかけに答えることを躊躇うショボン。
答えはたった一つしか考えられなかった。
(;´・ω・`)「モララーを、捨てたのですか」
質問されたのでなければ、とてもじゃないけど聞けなかっただろう。
いくら他人のことを詮索する職業に就いていると自嘲しても、他人の傷を抉るような言葉は掛けたくないものである。
ビロードは肯定する。
( ><)「聞こえよく言えば、私に養子をくれたということになるんです。
モララーは私の養子なんです。だから息子なんです。
彼は私の息子であり、分手マスの兄弟なんです」
段々と、ビロードの語気が強くなっていった。
本人がそれに気付いているのかはわからない。おそらく癖なのだろう。
( ><)「驚いたことにモララーの年齢がマスと同じであり、1970年生まれだったんです。
彼らはやはり双子と呼んでも差し支えなかったのかもしれません」
ビロードはそう言って、コーヒーを飲みほした。
かなり長いこと喋っていたために喉が渇いたのだろう。
(´・ω・`)「モララーの出身はG村であることは間違いないんですね」
ショボンは自分から話を始めた。
( ><)「そうなんです
彼の両親もG村の出身、現在のG地区です。
もっとも両親ともに既に離婚して他県にいます。モララーを養子に出したのも離婚しやすくするためだったんです」
ショボンは小さく唸り、思考していた。
頭に浮かんでいたのは内藤ホライゾンのことである。
金属バッドと、それに付着していたモララーの血痕。
それがニダー殺害現場にあった。
ショボンは、ニダーがそれを見せたから内藤は殺人を犯したのではないかと思っていた。
(´・ω・`)「モララーをG地区へ連れていきます」
否定の言葉はなかった。
ビロードは口を開かず、ショボンを見つめていた。
( ><)「何をするつもりなんです? 」
ようやく開いて出てきた問いかけ。
ショボンは間をおいてから、答えを出す。
(´・ω・`)「彼の記憶を蘇らせます。きっと上手くいく気がするので」
(´・ω・`)「この事件にはモララーの記憶が必要であるように私には思われるのです。どうしても、昔の記憶が。
彼の少年時代に起きた出来事が大きく絡んでいる、そんな気がしてならないのです」
ショボンはコーヒーを一気に飲み込んで、口の動きを滑らかにした。
(´・ω・`)「言うのが遅れましたが、私は先日亡くなった内藤ホライゾンという男について調査しているのです」
ビロードは訝しげに眉を寄せる。
( ><)「それは……確か数年前に小里安一家を殺害した人の名前だったはずなんです
その人が亡くなって……それでどうしてモララーが関わっているんですか? 」
(´・ω・`)「モララーはもっと小さいときから内藤ホライゾンと関わっている、そんな気がするんです。
実は内藤ホライゾンの故郷もまた、G村なのです。
このことを知らせ、G村へ行けば、モララーは忘れてしまった過去について何か思い出すかもしれない」
ビロードの動きが止まる。彼もまた思考を巡らせているようだ。
( ><)「つらいことを思い出してしまうかもしれないんです。
でも、モララーは過去を知らないことで、今まで散々つらい思いをしてきた。
だからこれは、いいことだと思うんです」
途切れ途切れに、ビロードはショボンの意見を受けた。
ショボンはビロードに深々と頭を下げる。
ログハウスを後にして、ショボンは一度麓の街まで下りた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
8月14日(土)、午後3時、某県のとある駅のホーム――
突然携帯電話に着信があったとき、モララーはドキリとした。
だいたい電話があるときはどこの誰が掛けて来たのかわかる。
しかしこの電話は唐突だった。故に不安だった。
恐る恐る携帯を開く。知らない番号だ。
とにかく出てみた。
( ・∀・)「もしもし? 」
どうも電波が悪いらしく、相手の言葉は上手く聞こえない。
モララーも受信しやすいところを探すために歩きまわった。
もともと遅い昼食というか、間食をとるために寄った駅である。
急いでいるわけではないから余裕があった。
( ・∀・)「もしもし? もしもーーし」
思えば間違い電話かもしれないのだから、切っても差し支えなかったはずだ。
でもその発想が無かった。
(´・ω・`)「私だとさっきから言っているんだが」
ようやく言葉をキャッチしたとき、モララーは発想の枯渇を心底後悔した。
(;・∀・)「そ、その人生諦めきったムード漂う声の主はショボンか? 」
(´・ω・`)「ようやく返してきた返事がそれか。昔から相変わらず失礼な奴だ」
(;・∀・)「お前も相変わらずな暗さだな。つーかどうして俺の携帯の番号知ってんだよ」
(´・ω・`)「ビロードから聞いた。いろいろと話があったからな」
( ・∀・)「は? なんでうちの実家行ったの? 」
(´・ω・`)「その日本語はおかしい」
( ・∀・)「うるせえな、質問に答えろ」
(´・ω・`)「おかしいものはおかしいんだ。
うちというのは家のことだ。そして実家というのも家のことだ。
故にお前は今『家の家行ったの』と聞いたことになる。これは間違っている。馬から落ちて落馬したとか、溺れて死んで溺死したとかそのくらい」
(#・∀・)「だー、もうしつこいな。正しさなんて気にするなよ。
お前はそんな生き方して楽しいのか? 40代のおっさんの言語能力を虐げて楽しいのか」
(´・ω・`)「むしろ40代なのになぜお前はそんなに活き活きしているんだ。妬ましい。もっと絶望しろ」
(#・∀・)「絶望なんかしねえよ。絶対お前みたいになるものか」
(´・ω・`)「そのセリフは15年前にも聞いた。よかったな、全然私に似ることがなくて」
( ・∀・)「全くだ。
話戻すぞ。どうして俺の家に来たんだ」
(´・ω・`)「お前の故郷について質問してた」
( ・∀・)「ああ、G村のことか」
(´・ω・`)「…………」
(;´・ω・`)「え!!? どうして知ってるの? 」
( ・∀・)「あほか。そのくらい予想つくわ。
もう随分大人びてから川流れてたんでな」
(´・ω・`)「つまんねーやつ。
感動を返せ」
( ・∀・)「どんな話したんだよ、あのじじい」
(´・ω・`)「これが現実、か……」
( ・∀・)「ぼやぼや呟いてるなよ。
話終わってないぞ。なんで俺の実家で俺の故郷の話なんか聞くんだ」
(´・ω・`)「ふむ、その前に話しておかなければならないことがあるな。
内藤ホライゾンという男を知ってるか? 」
( ・∀・)「…………知ってる」
(´・ω・`)「それは良かった。実は私はそいつの調査を」
(;・∀・)「お、おいちょっと待て待て」
( ・∀・)「まさか『内藤ホライゾンの死に疑問を感じて調査している』だなんていうんじゃないだろうな」
(´・ω・`)「……その通りなわけだが」
( ・∀・)「はあ? 」
(;´・ω・`)「なんだいきなり。人の話の腰を折ってまで聞いて何不満そうな声出してるんだ」
( ・∀・)「何なの? 故人の調査するのが流行りなの、今? 」
(´・ω・`)「落ち着きを取り戻してくれ。私の調査は興味本位なものだ。
決して流行りではない」
225 :
バスケ大好き名無しさん:2012/11/25(日) 23:29:21.99 ID:swoXXM7+
(#・∀・)「絶望なんかしねえよ。絶対お前みたいになるものか」
(´・ω・`)「そのセリフは15年前にも聞いた。よかったな、全然私に似ることがなくて」
( ・∀・)「全くだ。
話戻すぞ。どうして俺の家に来たんだ」
(´・ω・`)「お前の故郷について質問してた」
( ・∀・)「ああ、G村のことか」
(´・ω・`)「…………」
(;´・ω・`)「え!!? どうして知ってるの? 」
( ・∀・)「あほか。そのくらい予想つくわ。
もう随分大人びてから川流れてたんでな」
(´・ω・`)「つまんねーやつ。
感動を返せ」
( ・∀・)「どんな話したんだよ、あのじじい」
(´・ω・`)「これが現実、か……」
( ・∀・)「ぼやぼや呟いてるなよ。
話終わってないぞ。なんで俺の実家で俺の故郷の話なんか聞くんだ」
(´・ω・`)「ふむ、その前に話しておかなければならないことがあるな。
内藤ホライゾンという男を知ってるか? 」
( ・∀・)「…………知ってる」
(´・ω・`)「それは良かった。実は私はそいつの調査を」
(;・∀・)「お、おいちょっと待て待て」
( ・∀・)「まさか『内藤ホライゾンの死に疑問を感じて調査している』だなんていうんじゃないだろうな」
(´・ω・`)「……その通りなわけだが」
( ・∀・)「はあ? 」
(;´・ω・`)「なんだいきなり。人の話の腰を折ってまで聞いて何不満そうな声出してるんだ」
( ・∀・)「何なの? 故人の調査するのが流行りなの、今? 」
(´・ω・`)「落ち着きを取り戻してくれ。私の調査は興味本位なものだ。
決して流行りではない」