【必勝不敗】能代工業 十八冠目【V58】

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115バスケ大好き名無しさん
わたしは不幸にも知つてゐる



時には嘘によるほかは語られぬ真実もあることを




               ―――――芥川龍之介










〜〜( ^ω^)は嘘をついていたようです〜〜
116バスケ大好き名無しさん:2012/11/24(土) 04:42:30.69 ID:???
8月10日――

その日の某県は多くの地域で快晴となった。
夏休み真っ只中ということもあり、外出する人々が多く見受けられた。
元々お盆が近いので、最初から出かける計画をしていた家庭も多かったのだろう。
清々しく、平凡な夏の日だった。

午後3時頃、唐突に、そのニュースがテレビやラジオから一斉に伝えられた。

某県A市の留置所に入っていた犯罪者( ^ω^)内藤ホライゾン(39)が舌を噛んで死んだ、という報道である。

そして、それは暑さと解放感で蕩けていた人々の心の奥底に眠っていた、一つの嫌な事件の記憶を呼び戻した。

2005年4月に起こった、小里安一家殺人事件
某県A市でも有数の富豪であった小里安家の亭主<ヽ`∀´>ニダー(44)とその家族が、隣のB市に在住していた内藤ホライゾン(当時34)によって全員殺された。
死因は全て小里安家のガラスの灰皿によって殴られたことであり
事件の概要は、目撃者の執事によって語られた。
117バスケ大好き名無しさん:2012/11/24(土) 04:43:07.94 ID:???
4月3日、ニダーは内藤ホライゾンを客人として招き入れた。
その約束はニダーの方からなされたものであり、執事も当然知っていた。内容は教えられなかったが
ニダーは「二人きりで話がしたい」と言い、執事を外に出してホライゾンと二人で何事かを話していた。
応接室の扉を閉める直前に見たホライゾンの表情はひどく思い詰めているようであったと執事は言った。

それから執事はニダーの息子が母親に連れられて帰宅するのを出迎えた。
翌日から一年生となる息子の思い出作りに、遊園地へ遊びに行っていたのだ。

息子が帰ってきたことを伝え、そしてお茶の替えを持っていこうと思い、執事はニダーとホライゾンが居る応接室へ向かった。
ニダーの息子と母親も父親に会おうと思い、執事に連れられて来ていた。

しかし扉の前で異変に気付いた。
激しく口論をしているような音、その後ゴツンという鈍い音が聞こえてきたという。

胸騒ぎを感じた執事はニダーの名前を叫びながら扉を開けた。
執事、そしてニダーの家族は同時に室内の光景を見ることになった。

床に倒れるニダーと、返り血で真っ赤になったガラスの灰皿、それを持って荒く呼吸をしている内藤ホライゾン。
最初に悲鳴を上げたのはニダーの妻で、それから息子が喚きながら部屋に飛び込んだ。
執事は何をすることもできず、ただただ気が動転していた。
118バスケ大好き名無しさん:2012/11/24(土) 04:43:45.11 ID:???
父の名前を叫びながらニダーの息子が駆け込んだ。
執事は動転しながらホライゾンを見つめ、その手が灰皿を握り締めるのを見た。
「危ない」と執事が警告したときにはもうホライゾンの腕が、ニダーの息子に向かって振るわれていた。

先程と同じ鈍い音を響かせ、ニダーの息子は鮮血を噴出させて倒れた。
それを見てさらに妻の悲鳴が響き渡った。
ニダーの妻は長髪を振り乱して、錯乱していた。

執事は妻を逃がそうとしたが、どうしても動こうとしなかったらしい。
悲鳴を聞いて、警備員が廊下を駆けてきていたが、ホライゾンもすでに扉へ向かって来ていた。
そのぎらついた目ははっきりニダーの妻をとらえていた。

執事はその目を見て恐怖したという
ニダーを殺して立っていたときや息子の頭をかち割ったときとは、ホライゾンの目の輝きが違ったからだ。
本当に殺したかったのはこの妻なんだ――執事はそう直感したという。

執事は思わずニダーの妻の前に飛び出した。
せめて妻だけでも助けてやらなければ、その一心であったと証言している。
しかし内藤の猛烈な体当たりで跳ね飛ばされ、壁に激突。
意識が朦朧として動けなくなり、執事の視界が暗くなった。

目が覚めたとき、ホライゾンは警備員に取り押さえられていた。
そして床にはニダーの妻が、頭から血を流して倒れていた。

これが執事の証言による事件の大まかなあらすじである。
119バスケ大好き名無しさん:2012/11/24(土) 04:44:46.30 ID:???
到着した警察によって連行される途中、内藤ホライゾンは微笑んでいた。

( ^ω^)

三人もの人間を殺したのに、笑っていた。
その異常な状況がA市から、某県全域、さらに全国にも知れ渡り
内藤ホライゾンに纏わる怪しげな噂が飛び交った。

『笑顔の殺人鬼』――そんな通り名も耳にすることがあった。

噂というものは事実を捻じ曲げて、変形を繰り返しながら語られていく。
その殺人鬼の話も、事実の何倍にも増長されていく。
殺人鬼は血で興奮する、死体を喰った、捕まったのは偽物で本物は他県にいる、などなど。

しかし三年も経てば話は風化され、人々の注目は薄れていく。
世間では他にも多くの事件が起こり、暗い話、馬鹿げた話が交錯して関心を動かし続けるからだ。

2010年ともなると、事件のことを覚えているものはほとんどいなくなっていた。
現地の人々が時々その跡地を「怖い場所」として話に出すくらい。

しかし8月10日の午後に突如舞い降りた報道で、あの事件の噂がまたしても立つことになった。
裁判にかけられている最中だった内藤ホライゾンが、何故突然自殺したのか。
どうして5年もの間ひっそりとしていたのか。
笑顔の殺人鬼はまたも大衆を賑わせるのに足る謎を秘めていたのだ。
120バスケ大好き名無しさん:2012/11/24(土) 04:45:30.43 ID:???
8月10日、夜、某県C市――

内藤ホライゾンの死の報道はネットでも大きく取り上げられていた。
昔の事件を引っ張り出しては弄繰り回し、今回の死について様々な憶測が流れていく。
どれもこれも信憑性などない、人間の通俗的な好奇心を擽るためだけに生み出された小話だ。

('A`)「…………」

内藤のことを知っているものからすれば、あまりにも滑稽に見えただろう。
この噂話を創造して発信しているものの中に、内藤のことを知っているものなどほとんどいないのだから。

('A`)「……死んだんだ」    
    
少し古びたアパートの一室、青年は薄目でパソコンの画面をじっと見て、呟いた。
内藤ホライゾンの死に関する情報を少しでも得ようと思っていた。
しかし両目に乾燥を感じたため、またこれ以上検索しても新しい情報は手に入らないだろうと思い至ったために、青年はパソコンの電源を落とした。

長身で細身な彼、鬱田ドクオはC市から都内の大学に通っていた。
やや利便性には欠けるが、経済的に優しかったので、ドクオはこのアパートを選んだ。

彼はほとんど母親のみによって育てられたのである。
彼の出身地はB市であり、他の市町村に行くことはこれまでほとんどなかった。
元来人づき合いが苦手なので、交友関係もかなり少ない。
それでも大学に入って今まで、一度もドロップアウトすることなく通学してきた。
121バスケ大好き名無しさん:2012/11/24(土) 04:46:10.39 ID:???
『嘘なんだお』

水道でコップに水を注ぎ、ぼんやりとこれまでの人生を思い返していたドクオの耳に、懐かしい声が聞こえてきた。
もちろん実際に聞こえているのではない。心の奥底で思い出したのだ。

『笑顔なんて嘘なんだお。
 人間が、他の人間と何の争いもすることなく過ごすための手段にすぎないんだお』
 
遠い日々の、ブーンの声。
世間では内藤ホライゾンと呼ばれているが、ドクオの思い出の中ではその人物はブーンと名乗った。
名前はもちろん、その思い出の中でのブーンの姿を知っているものは、いったいこの世にどれくらいいるのだろうか。
少なくとも先程見たような風説を流している人の中には、一人としていないだろう。

『僕はもうずっと後悔しているんだお。
 嘘を続けて、これまで生きてきてしまったことに――』
 
一方で、果たして自分以上にブーンのことを知っているものがいるのだろうか、と自問する。
そしてその答えはすぐに頭に浮かんできた。
いる――そのことはちゃんとわかっている。

('A`)「笑顔、ねえ」

コップに注がれた水をじっと見つめて、一気に喉を通す。
体内に流れる冷たい気配が、夏の夜に体を包む茹だる様な感覚を切り裂いていく。
122バスケ大好き名無しさん:2012/11/24(土) 04:46:47.88 ID:???
この感覚と絡めて何か哲学的なことを考えよう、とドクオは思考を巡らせたが、特に何も思いつかなかった。

今までの過去を思い出したから、そこに何らかの意味を見出したくなった。
そして現在の生活からも何かを見つけたい。
それを意味のあるものにしたい。

そのような心理は、中学生がカッコつけたいと思うのと似たようなものなのかもしれない。
自分にはっきりとした意味づけをしたいということなのだろう。

急に、ドクオは疲れを感じた。どっと降りかかってくるように。
ドクオは、既に敷いてある布団へ向かう。
着ているものはトランクスのみ、掛けるものも洗濯物から適当に取り出してきたタオルだけだ。

敷布団に横たわると、怪しい匂いが鼻を突いてくる。
たった一日手入れを忘れていただけで、布団は体に悪そうな匂いを放っていた。
今回は仕方ないので、ドクオは若干顔を顰めながらも目を閉じる。

まどろみ始めたところで、ドクオの携帯が鳴る。
暫くは無視しようと試みたが、着信音は耳を攻撃し続けた。
一度切れて、二度目のコールが鳴り響いたところで、ドクオは舌打ちをして身を起こす。

相手の名前を確認して、ボタンを押す

('A`)「……もしもーし」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜