2001年後半型ビッグレッドマシン

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788広島家の人々118
福地はトボトボと広島家に向かって歩いていった。輝裕を守ることができなかった。櫛の歯が
こぼれ落ちるように一人、また一人と広島家の兄弟がムラから消えていなくなっていく。
空はもう暗くなっていた。福地は手にもっている封筒を見つめた。あと一人・・・貴哉の行方も
さっぱりつかめない。福地は力ないため息をついた。
「あっ・・・。」
福地の憂いは杞憂に終わったようだった。広島家の庭で貴哉が子犬のシマに餌を与えている。
だが家の中はひっそりと、どこも灯りがついていなかった。
「貴哉くん!」
福地の呼びかける声に気が付いて、貴哉は立ち上がった。福地は預かっていた封筒を貴哉に
渡した。
「それから・・・。」
福地は輝裕に起きた出来事をくわしく貴哉に語り、頭を下げて貴哉に謝った。貴哉は小さく口を
あけたまま無表情だった。
「そう・・・ですか・・・。」
やっとのことで貴哉の口から漏れでた言葉は、これだけだった。
福地は心配そうに何度も振り返りながら家路を辿った。貴哉はポツンと庭に立っていたままだった。
シマが心配そうにクンクンと鼻をこすりつける。貴哉は手にしていた封筒の端を丁寧にやぶった。
「・・・・・・。」
貴哉はひっそりとした広島家の家屋を見回した。身体が自然に震えてくる。シマが貴哉の変化を
察して貴哉のズボンをくわえ、引っ張った。
「ごめんね・・・。」
ポツリと貴哉は呟いた。
「ボクももう・・・。」
シマが懸命に貴哉に吠える。貴哉はシマの首輪に紐をつけると、近くの杭にしっかりと縛りつけた。
シマが必死になって貴哉に吠える。河豚の桶を持った貴哉は一度だけ振り返った。しかしその後、
どんなにシマが暴れて吠えても何の反応もなく、どんどん小さく消えてなくなった。