その声が先か、否か、ほとんど同時に、帆足の剣が空気を裂いた。悲鳴とともに猛烈な血しぶきが上がる。そして拳銃を握った腕が跳ね飛ばされ、血塗れになった男が、やがて車から引きずり出された。
「抵抗は無用だ。貴様も出てこい」
入れ替わりに運転席へと身体をネジ込んだ帆足が、助手席に向かって発する声が聞こえる。まだ同乗者がいるのだ。小野寺は助手席側を取り囲むよう手勢に指示を出した。
「銃を捨てろ。俺も乱暴はしたくない。見てなかったわけじゃないだろう、貴様がその銃を撃つより、俺の剣のほうが速い」
その言葉にあっさりと従い、助手席から出てきたのは…、女だった。その背後から血刀を突きつけつつ、帆足は小野寺を一瞥すると、それから顎で女を指した。
「何を」
「はあ!?縛っとけって言ってんだよ」
「あ…、すまない」
「そんなことも口で言わなきゃわからねぇのかよ。じゃあ一応言っとくが、こいつもだぞ?」
尊大な口調でそう言い捨て、帆足は右腕の半分を失ってその場にうずくまる男の背中を蹴り飛ばした。男の口から漏れたうめき声に、思わず小野寺は顔をしかめる。
すでに重傷の相手に対してこの蛮行、こういうことを平気でやっているから、いつまで経っても俺達は国際社会で認められないんじゃないか…!
小野寺は覚えずのうちに歯軋りしそうになる自分をぐっと抑え…、帆足の後姿を暫し見つめながら、自分の首に巻いていた麻のスカーフを外し、女を後ろ手に縛った。
新作キテター!帆足怖いよ帆足
>>571 D専住人ですが、ここのネタを持ち出したりっていうのはなかったですよ
ご一考とご一報読み違えたんじゃね
帆者がすごく…危ないです…
新作大量投下乙です!
帆者も天然モノの気の使い手なのか!?
しかしこんだけ強くて武闘派丸出しの帆者に一番大きな傷をつけたのが総帥とは…
総帥は本気になったらめちゃくちゃ強いんだろな…
新作乙。
帆足こええええ
「後ろの車は、どうだ」
「動きがありません。動けないのかもしれない」
問われて岸は自分の考察を述べたが…、帆足は同じ質問を小野寺にはしなかった。
つまり今、この作戦上において帆足は小野寺を見限ったのだ、ということは、小野寺本人は勿論のこと、若輩の岸にもすぐにわかった。しかし…、
「なら、そっちも取り押さえるぞ。岸者、やれるか?」
「や…、やってみます」
「よし」
今この場、この状況、帆足がジッと見守っているのか睨んでいるのか、とにかくその目に凝視された状態で小野寺を気遣えるような余裕など、とても岸は持ち合わせなかった。
岸は緊張気味に腰の短剣を抜くと、ゆっくりと慎重に歩き出した。それから少し遅れて帆足が歩き出そうとした、その時…、
突然、エンジン音が鳴り響いた。
その音が耳に飛び込んだ瞬間、帆足はピンときた…、
「岸者退け!あれが本体だ、先頭ははじめからオトリなんだよッ」
「え、」
輸送車は数メートル後ろへ下がり、そして猛然とエンジンを唸らせ、急発進した!
「逃げろ!!轢かれる!!!」
叫びながら、帆足は必死の形相で、路上に立ちすくんだ岸に飛びかかろうとした。これは無謀でも自己犠牲でもなんでもなく、帆足は自分自身の持つ能力をよく理解していて、
先刻高架橋の上からやったように、低空を滑って岸を体当たりではね飛ばし、反動で自分は停止して、そこから垂直に跳び上がり、
すでにフロントガラスの大破している剥き出しの運転席へ斬り込もうと計算したものだが…、
「ぐあっ!」
突然、その帆足が叫び声をあげた。片腕になった男が、地面に這いつくばりながらもその左手にナイフを持ち…、渾身の力を振り絞って、帆足のふくらはぎを斬り付けたのだ!
「野郎ッ」
そのナイフを咄嗟に蹴り上げつつ、帆足は直感した。傷は浅くない。それでも、その脚で、どうにか前へと跳ぼうとした…、次の瞬間、失敗を悟り、彼は顔を歪めた。
だめだ、機を逸した、間に合わない……!!!
>>575 それ聞いて安心しますた。杞憂であってくれれば何よりです。
ままままにあわないのか。。。。。。帆足の運命は!?
岸がピンチなんじゃないのか?
hoshu
岸者逃げてー!
おいおい相変わらずいいところで終わるなあwwwwwww
しかし、そのときだった、パン、パン、と二度乾いた音がして、輸送車は急にガクンと動きを止めた。
一体何が起こったのか…、と誰も考えるまでもなかった。岸は拳銃を構え、敢然と大型車両のすぐ前に立っていた…、その岸の咄嗟に撃った拳銃弾が見事、
迫り来る輸送車の、割れたフロントガラスの向こう、ドライバーの頭に命中したのだ!
「岸者てめぇ…、撃ったな」
銃は使うな、と帆足はあらかじめ言っていた。その禁を破ったことは岸も勿論承知…、九死に一生を得たばかりの強張った腕と、構えた銃を降ろしながら、彼は弁明を試みた。
「すみません、でも…、今は、緊急と、思いましたので」
確かに帆足は『緊急時以外、銃は使うな』と言った。そして、あれは間違いなく緊急時だろう。しかし…、
でもと言うな、そこはただ謝っておけ……!小野寺は心の中で叫んだ。所詮、理屈の通じる相手ではないのだ。
そもそも、仲間が一瞬の機転で命の危機を回避したというのに、まず何よりも先にそれを喜ばないなど、頭がおかしいとしか思えない。
話して理解を得ようとせず、噛み付かれないようにだけしておけばいいんだ…、今にして思えばそれを先に伝えておくべきだった、と小野寺は後悔したが、先に立たず。
刺すような獣の目に気後れしつつ、たどたどしくも…、岸はハッキリと言い分を述べた。果たして。
「ふん、まあいい」
その岸に対する帆足の反応は、驚くほどあっさりとしていた。確かに、あの状況で拳銃を使って危機を回避したことを責められても困るが…、
それでも何らかの暴言を吐くかと思って、岸も小野寺も、誰もが身構えていた、その張り詰めた緊張の糸がプツリと切れ、誰からともなしに皆、息をついた。
しかしその安堵も長く続くものではなかった、帆足はおもむろに足元に視線をやると、突然その場へ膝を落とし、そこへうずくまる手負いの男の襟首を右手で乱暴に掴むや否や…、
いきなり左手の剣を振るい、気合一閃、その首を一刀のもとに斬り落とした!
「あっ、何を!?」
言動を咎めないのが正しいつきあい方と熟知している小野寺さえ、この時ばかりは声をあげた。
勢い余って飛んでいった首を目で追うこともせず小野寺を睨みつけ、右手に残った胴体をぞんざいにドサリと落とし、立ち上がりついでに剣に付着した血を振り払いながら帆足は捨てるように言葉を吐いた。いわく。
「てめぇがさっさと縛らねぇからだ」
リアル帆足ってどんなキャラ?やっぱちょっと怖かったりするの?
他球団ファンからすると、「3年やってなんぼは聞き飽きた」しか印象がない>帆足のキャラ
帆足、ヒロイン見る限り相当アホの子のイメージがw
もしかしてスラハザとリアルの世界におけるビョンさんのキャラの違いくらい違ってたりするのか?>帆足
いやあ、リアルでこんな人だったら困るでしょw
何度も言いますけどフィクションですので…
ただ
>>589は総帥の「期待されている感じが伝わってこない」に匹敵する名言だと思う
>>592 もちろんフィクションなのはわかるけど、こういうキャラになった元ネタとかあるのかなって思って。
何かのエピソードが誇張されたのかなと…
まあ雑談しすぎはまずいヨネ wikiでも見てみますわ
>>593 確かに、どこまでが元ネタがあってどこから創作なのかがわかりにくいよね。
保管庫板にちょっと書きました。
>>594 いつも乙です
ビョンさんや初期の森野のように、
モデルとかけはなれたキャラクターも面白いと思いますよ
それにしてもエブリデーフライデーってwww
確か帆足は建さんファンだったはず
握手してもらって凄く喜んでたって記事を読んだような
NACK5のサンデーライオンズでは建さんユニが一番の宝物って本人が語ってたよ
額装して部屋に飾ってるそうだ
菊地原のライバル登場か・・・
昨晩、バラエティで緒方ファミリーが出てて
緒方家にかなこの描いた緒方の肖像が飾ってあったので
このスレを思い出してちょっとにやけた
>>599 ナカーマ
最初、写真かと思ったらかなこ画かよwみたいな
…小野寺は言葉を失った。岸もただ呆然としている。
他の数名はと言えば、今は小野寺配下とはいえ、いずれも解放戦線の兵士であるから…、戦闘に参加したこともあれば、人を殺めたこともあるだろう。そもそも小野寺本人でさえ、戦闘経験は、少ないにしろ皆無ではない。
そういった人間が集まっているにも関わらず…、今、この場の誰もが戦慄した。それが何よりの証拠だ、帆足のやり方は常軌を逸している。
しかし岸は今日が実質的に初仕事である、これが俺達・解放戦線のやり方と誤解されやしないか、そのことが小野寺は気懸かりだった。
「ボサっとしてんな。積荷を確かめるぞ」
「あ、は、はい」
「力者、女を尋問しろ」
帆足に呼ばれ、岸は駆け足で輸送車の後ろへ回る。さらに帆足は小野寺に向かって命令し、三歩ほど岸の向かったほうへ歩き出したのち、思い出したように足を止めた。
「なにを聞くかはわかってんだろうな?」
「……」
小馬鹿にしたようなその言葉に、小野寺は微かに歯軋りする。
「聞こえねぇのか」
「…積荷は、何なのか」
「わかってんならいい。多少のことはしてもいいから、口を割らせろ」
それだけ言うと、帆足は岸の後を追い、輸送車の背後へと回った。小野寺は知らずのうち顔を歪め、その背中を睨みつけた…、
…なぜ、総帥は、あの男を傍に置くんだ!!
そもそも、帆足は解放戦線の内部においても、昔から賛否のはっきり分かれる人物だ。理由は今更挙げるまでもない、この小一時間の行いだけを見ても、誰しも理解するだろう。
総帥同様に人智を超えた能力をもち、戦闘能力は圧倒的だが…、反面、粗暴で気が短く、人使いも荒く、さらには、人命を紙とも思わない。
元をただせば、まだ少年の頃、刑務所の雑居房の中で偶然出会ったという大沼と帆足、その二人の絆が相当に固いのであろうことは、想像に難くない。
さらに、ありふれた賊の類にすぎなかった解放戦線を軌道に乗せ、革命成功まで牽引してきた、その功績が大きいことは、その時代を解放戦線のメンバーとして過ごしていない小野寺にもわかる。しかし…、
いくらなんでも、これは度が過ぎる。有害だ。
現在の都市政府として認められることを目指し、表の世界の道を歩むべき解放戦線にとって、帆足のこの性状はかならず足枷になるだろう。その存在をいつまで、なにゆえ、許しておくのか。
そもそも解放戦線云々以前に、これでは友人としてだって長くつきあえるとは思えない、すでに疎まれていたとしても何ら不思議ではない。
あるいは…、特定の人間の前で態度が変わるというのはよくある話だから、もしや総帥はこの鬼畜ぶりを知らないのか、
そうでなければ、単につきあいが長いというだけでは到底説明できる気がしない。
いずれにせよ、こんな男を幹部の頭に置いていては、都市政府など夢のまた夢ではないか、その夢は、あと少しで手の届くところまできているはずなのに…!
そんな小野寺の悲壮な思いを知る由もなく、帆足は外套の裾を裂き、その切れ端を使って、斬られた脚を縛っていた。
「だめです、鍵がかかってる」
先行した岸がまずコンテナを調べ、帆足にそれを報告する。
「壊せないか」
「…頑丈です。特殊な鍵だと思います」
「なら、ちょっと目先を変えればいい」
新作乙です。
力者は広報担当だから特にこういうことを気にするんだろうなあ。
604 :
代打名無し@実況は野球ch板で:2008/08/09(土) 19:50:13 ID:GdcrnMh70
お
仮にさっきまでの調子なら、鍵がかかっているのは当り前だ、などと言い捨てるところだろう。しかし今、応急処置をしながら帆足が岸にかけた言葉は、それまでの語調とは一線を画している。
岸は聡くそれに気づいたが…、しかし、その訳をわざわざ尋ねることはしなかった。理由はわからないにしろ、まともに接してくれるのなら、それで、とりあえず文句はない。
「…、どうするんですか」
「待ってろ」
やがて処置を終え、立ち上がり、帆足は岸の背後へと歩み寄った。
「怪我はどうです、結構、ざっくりやられたように見えましたが…」
「ああ、まあ、やられたな」
事もなげに帆足はそう言うが、それが決して軽傷でないことは岸の目にも明白だった。膝下に巻いた麻布が、片脚だけ集中的に血に染まっている。全身に浴びた返り血とは見た目に異なる。かなりの出血だ。
「ちょっと降りてこい」
「あ、はい」
足場に乗ってコンテナに張り付いていた岸が降りるのと入れ替わりに、帆足が足場に足をかけた。そのとき帆足の表情がわずかに歪んだように見えて、思わず、岸は声をかけた。
「大丈夫ですか、その脚では」
「うぜぇ黙れ。貴様も斬られたいのか」
「すみませんっ」
せっかくまともに会話ができるようになってきていた鬼神の逆鱗に触れ、軽率だったと岸は内省した。小野寺という要素がそこに加わっていたにしろ、不注意から負った怪我だ、つまりは不名誉。
本人が別状ないというアピールをしているのだから、わざわざそこを蒸し返すのは、配慮が少し足りなかった。
「…確かに、鍵は無理だな。仕方がない、箱に穴をあける」
「え?」
「破片が飛ぶかもしれないから、離れてろ」
何を言っているのか、岸には理解できなかったが…、とにかく離れていろと言われたので、急ぎ、後ろへ数歩下がった。
帆足は剣を鞘へ収め、左手をみつめて数回握ったり開いたりして、やがて一人うなずくと…、
突如、キィィィィンという耳鳴りに似た音が辺りに鳴り響いた。実際、岸はそれが自分の耳鳴りかと思ったほどだ、しかし、徐々に大きくなるその音は、帆足の手のひらから発せられているということがすぐにわかった。
そして音が大きくなるにつれ、帆足を中心にして強い風が巻き始めた…、すぐにその風は暴風となり、岸は飛ばされそうになって、さらに後ろへと下がった。
帆足の手のひらから青白い光が稲妻のように空気中へと走り、そのたびにバチバチという放電の音がする、その手のひらをおもむろにぐっと握ると、帆足はいきなり輸送車のコンテナを殴りつけた…!
竜巻が家屋に直撃したかのような強烈な破壊音と共に、突風が巻き起こる。目も開けていられない。
5メートルほど後ろへ離れていた岸はなんとか耐えたが…、じきに風がおさまり、見ると、帆足本人が吹き飛んで、路上へ投げ出されている。
「だ、大丈夫ですか」
「痛ててて…」
脚を斬られても痛いと言わなかった帆足が腰をさすりながら起き上がる様子に、岸は手を貸しながら思わず笑ってしまいそうになった。
しかし、実際そんなことをしては何をされるかわからないので、どうにか、努力して表情を保った。
「ちょっと、見てこい」
言われて見ると…、そこには信じられない光景があった。コンテナの背面の左半分が、X字型に裂けている。
「す、凄いですね」
「別にたいしたことじゃない。あれは実戦じゃほとんど使えねぇんだ。一発撃てば疲れるし、見てただろ、チャージに時間がかかるからな…」
「でも、空を飛んだり、あんなことができるなんて、自分らからしたらそれだけで。帆者、あなたは、総帥と同じ…能力者なんですか?」
「同じと言やあ同じだし、違うと言えば違う。奴が炎なら…、そうだな、俺は風か何かだ。
俺と同じようなのは能力者の中に時々いるが、奴はレアだぞ、少なくとも俺の知る範囲には二人といねぇ。…まあそんなことはいい、中身は何だ」
「あ…、そうですね」
岸は走って行き、コンテナに開いた穴から中へと身体を滑りこませた。中は当然真っ暗だったが…、岸は肩から掛けていた鞄からランプを取り出し、それを点灯した。
「何だった」
遅れて帆足が中を覗く。
「何でしょう…、わかりません」
コンテナの内部にしっかりと固定された大きな箱を開けると、中には緩衝材が詰まっていた。それをさらに取り除き、中から現れたのは…、
「黒い…、プラスチックの塊に見えます」
「出してみるぞ」
「…いいですか」
「よし」
「せぇの」
中へ入ってきた帆足が手伝い、掛け声にあわせて二人掛かりで持ち上げ、床へ降ろしたその塊からは、配線がいくらか出ており、端子のようなものもくっついている。一見しては何だかわからない。
「テレビの背中みてぇだな?岸者、何だと思う」
「何かの集積回路…、かもしれませんが、何に使うのかまでは…」
「まあ、それはわからねぇだろう。俺もそこまで無茶言わねぇよ」
「…そうだ、力者に尋問をお願いしてありましたね。聞いてみましょう」
「ああん」
岸の提案に、帆足は口元に感じの悪い笑みを浮かべて首を振る。
「どうせ何も聞き出せやしねぇよ」
「でも、一応」
「…そうだな。お前行って、女をここへ連れてこい」
「わかりました」
それはあくまで、小野寺の尋問の結果は眼中にないと言わんばかりの指示だった。それがわかっていて尋問を言いつけたのかと思えば、岸は少し不快な気持ちがしたが…、しかし実際、帆足の言うことは当たっているだろう。
「力者、どうですか、何かわかりましたか」
小野寺の元へ走ると、岸は帆足に言われた通りにはせず、まず小野寺に成果を尋ねた。
「いや…、どうにも口が堅い」
そう言う小野寺は女の喉もとに剣を突きつけてはいたが…、他には特に、手荒な真似をしたような形跡は見られなかった。
その小野寺が間違っているとは岸も思いたくなかったが、相手も訓練を受けた兵士なのだろうから、これでは何も聞き出せないのも道理だ。
「連れて来い、と帆者が言うので。申し訳ありませんが…」
「…何をする気だ」
「わかりませんけど…、尋問でしょう」
小野寺が聞きたいのはそういうことではない、それは岸にもわかっていた。尋問と称して何をする気かと小野寺は言いたいのだ。しかしそれを言われても、岸には答えようがない。
勿論、それは質問をした小野寺にもわかっていることだ。
作者様、乙です!
最近ハイペースですね(・∀・)嬉しいですwww
作者様乙です。
やまちゃんの高く跳ぶとかっていう能力も、
帆者と似たような属性の気を使っているのだろうか…
総帥と帆者の出会いは刑務所なのか
何をしでかしたんだろう…
>>611 権威への反抗…すなわち
炎 上
…orz
「…すまない。愚問だな。お前たちは待機していてくれ」
小野寺は自嘲気味に笑ってかぶりを振ると、手勢に指示を出し、そして女の腕を掴み、立ち上がるように促した。
その掴み方を見て、これは不意を突かれたら逃げられると直感した岸は、縛ってある手首を強く掴んだ。女が溜息をつくのが微かに耳に入る。…やはりか。危ないところだった。
「帆者、連れてきました」
「…余計なのがついてきてるようだが、まあいい。出口を塞いでおけよ」
帆足は小野寺に一切問うことをせず、岸に渡された女の襟を乱暴に掴むと…、いきなり、その身体を箱へと打ちつけた。
「うッ」
今まで固く沈黙を守っていた女の口から声が漏れる。
「わかってんな?俺はそこのボンクラとは違うぞ?」
腕を縛られているためうまくバランスが取れず、女は倒れそうになった。その胸倉を掴み直し、帆足は女に顔を近づける。
「この箱の中身は何だ」
女は答えない。顔を歪め、そっぽを向いて視線を横へ逸らす。
「早いとこ答えたほうが身のためだぞ」
…答えない。このままでは本当に何をしでかすかわからない、早く口を割ってくれ…、と、小野寺も岸も、祈るような気持ちで見つめている。果たして次には何を言い出すか…、
「…犯されてぇのか?」
帆足はそう言うと、左手を女のベルトのバックルへ掛けた。女の表情が一層強張る。
「帆者、やめろ!それは駄目だ」
小野寺が思わず声を上げたそのとき…、女は突然、脚を振り上げた。帆足の急所に膝を当てようと狙ったのだ。
しかし…、
「おっと」
軽くヒラリとそれをかわすと帆足は胸倉を掴んでいた右手を急に離した…、その途端、手から爆風が巻き起こる。女は後ろへ吹き飛ばされ、背中を壁へ打ち付けた。
帆足は獣のように獲物を壁へ追い詰めると、今度は小野寺が口を挟む間もなく、女の太腿を踏みつけた。
そして再びバックルに手をかけ、腰からベルトを一気に抜き取ると…、そのベルトを使い、女の両脚を縛り付けた。女も抵抗を試みるが、やがて力ずくで捻じ伏せられた。相手が悪い。
「早いとこ答えたほうがいいって言っただろ。こいつは何なんだ」
床に転がった女を見下ろすように側へしゃがみ、帆足は顎で黒いプラスチック塊を指しつつ、再び問いかけた。
「…知らない」
「はあ、知らんだと。それで済むと思ってんのか」
「本当に知らない!」
女は観念したのか、あるいはそうでないのかわからないが…、突然、大声を出して喚いた。
「帆者、これ以上は」
見かねた岸が声をかけた。帆足はその声に振り向くと、少しの間考え、そしてうなずく。
「そうだな。これ以上は無駄だろう。仕方ねぇ。おい、女、…時間切れだ」
「あのっ、くれぐれも乱暴な真似はっ!」
「んな声出さなくても、文京の女に興味ねぇよ」
「それだけじゃなくて」
帆足はそれに答えなかった。そして脚の傷を庇うように立ち上がると、再び腰の剣を抜いた。生乾きの血がこびりついている。
力者は優しすぎるんだねえ…
「帆者!」
岸の制止も聞かず、帆足は剣を振り上げた。
またやりやがった!小野寺も岸もそう覚悟した…、次には女の首が飛んで、赤い血しぶきが上がるだろう、
…その予測を裏切って突然、バーンという音が鳴り響き、黒いプラスチック塊が真二つに割れた。
「よ、良かったんですか」
「何だかわからん以上は、壊すしかない。総帥は俺らに何つった?」
「…輸送部隊を襲撃しろ、と」
「そうだ。積荷を回収して来いとは言ってない。だからこれでいい。行くぞ。撤収だ」
そう言うと、帆足は女に目もくれることなく、コンテナの外へ出た。岸、それに小野寺が安堵の息をつきながら顔を見合わせ、それに続く。
「迎えは?どこで合流だっけか」
「…ここの道を少し上り方面行って、左へ曲がってしばらく行ったあたりだ。…もう来ているだろう」
「そうか」
小野寺の答えに軽く返事をし、帆足は歩き出した。しかし、数歩歩くと、何かを思い出したように足を止めた。
「どうか、したのか」
「力者。お前、手榴弾持ってるか。持ってるよな。俺達幹部ともあろうもんが」
「…そりゃ、持ってるが」
「へぇ、案外しっかりしてんじゃねぇか」
解放戦線は総帥以下、炎の神アワハラを信仰する集団であるから…、生身の身体から爆発を起こせる総帥に倣い、どこでも爆発が起こせるよう、幹部はみな手榴弾を常に携帯している。
「あんた持ってないのか。俺達幹部ともあろうもんが」
「持ってねーよ。俺は別にナントカの神の世話になっちゃねぇからな」
「不信心だな」
「んなこと言って、お前本当はどうなんだ。普段実戦に出ねぇからって、忘れて来てたり」
「まさか、そんな事」
「なら、見せてみろよ」
c
とてつもなく嫌な予感がする。しかし、断るとまた面倒なことになるだろうか…、そう思い、小野寺は仕方なく手榴弾を取り出した。すると目にも留まらぬ速さで帆足はそれを奪い取り、クルリと後ろを向いた。
「あっ、ちょっと」
「借りるぞ」
誰も、制止する暇もなかった。帆足は手榴弾のピンを抜くと…、それを二台の輸送車へ向かって投げつけた!
耳をつんざくような音をたて、爆発が起こる。さらに漏れたガソリンが引火し、車両はまたたく間に激しい炎に包まれた。
「おい、帆者…、」
小野寺は青ざめた顔で帆足を咎めたが…、すでに小野寺の横に帆足はいなかった、それどころか、岸もいなかった。車両の残骸をまたたく間に飲み込んだ業火を見届けることもなく再び踵を返した帆足を追って、岸も行ってしまっていた。
「はあ、疲れたな」
そう言って息をつく帆足に追いつき、岸は並んで問いかける。
「なぜ、殺すんですか!」
それはある種の核心のようなものだった。小野寺ならおそらく尋ねないだろう。だが岸は尋ねておきたかった。
「…お前、くだらねぇこと聞くんだな」
「くだらないと思わないから、聞いているんです。なぜ殺すんですか。殺してもいいと思うからですか、それとも、殺したいから、ですか」
殴られるくらいのことは覚悟で、岸は立て続けに問うた。どうしても答えが欲しい。この男を少しでも理解したいと思った。
なぜなら、少なくとも岸にとって…、帆足は噂に聞いていたほどに理不尽な男ではなかったからだ。
帆足とは賛否の分かれる男だ…、その理由は今の岸にはとてもよくわかる。しかし岸はどうしても、彼を真っ向から否定する気になれない。
やり方は確かに人道的でない、しかし、人の謗りには耳も貸さぬ生き様、目的に向かって最短距離をゆく胆力、そして何より、圧倒的な強さ…、それらがすべて焼け付くように眩しく、強烈に胸を揺さぶる。
だからこそここは重要なのだ。鬼神の類には違いない、だが果たして本当に、そこらで言われているような、単なる殺人鬼にすぎないのか。
「ここは文京の基地から近い。一人でも生かしといて、何かの手段で助けを呼ばれたら、撤収が間に合わないかもしれんと思った。
それに、こんな場所で、これが所沢の俺達の仕業だってバレたら…、わかるだろう」
「…文京の、報復を」
「そうだ。だから殺した。ついでに言うと…、銃を使うなっつったのも同じ理由だな。残された銃弾から足がつくこともある」
「申し訳ありません」
「もう使っちまったもんは仕方ねぇ。俺に謝られてもどうにもならん。謝りたきゃ、総帥にでも謝れ」
「……」
果たして、得られた回答は明確で、かつ、岸が予想していたよりもはるかに冷静で合理的だった。つまりは、所沢解放戦線の利益を考えたとき、殺したほうがいいと思ったから――。
それを聞いて、岸は歩きながら考え込んだ。だから殺していいとはやはり思わない。自分はそこまでは割り切れない、が…、
帆足がそういう人間ならば、ここにひとつ、別の切り口がある。
というのはつまり、この場所でこのメンバーで文京軍に対しテロ行為を働くという、そのことを決めた時点ですでに、こうなることは大沼には初めから予想がついていたのではないかということだ。
仮にそうなら、彼ら文京軍の兵士を殺したのは帆足ではない。命令を下した大沼だ。
そう考えたとき、岸の頭の中に、不意にひとつのストーリーが浮かびあがった。
帆足はもしかすると、その大沼に代わって革命の暗部を一身に背負い、長い間、汚名を着続けているのかもしれない…、
しかも、一切の不平を口にすることもなく。
あなたにとって、総帥とは一体何ですか。そんな質問が喉まで出掛かったが、それを岸は飲み込んだ。
その質問はまだ早い、それをこの傷だらけの先人にぶつけられるほど、まだ、自分自身に器がない…、そう直感したからだ。
岸はさらなる答えを求めるがごとく、帆足の横顔を見た。いつものように、不機嫌そうな腫れぼったい目が…、
ただまっすぐに、前だけを見ていた。
いつもどうもです。
誠に勝手ながら私スラハザはしばらく夏休みをいただきます。
その間ネット環境を離れますので、お手数ですがみなさま保守をお願いします。
勝利こそがわが命
総帥こそ全て
保守
作者さん、乙です!
帆者…実はいいヤツなのか…。