プロ野球バトルロワイアル統合スレ

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104猫50 ◆rZmes0SmeE :2008/03/19(水) 01:55:53 ID:mIsJgdiX0
佐藤友は正攻法を取った。とことんまで話し合う。
「和田さん、あなたは最初に出会ったのは何だったんですか?」
「最初?」
質問の意図がいまいち掴めない、そんな反応を和田は返した。
「スタート地点出て、最初に出会ったものですよ」
「平尾に会ったな。今どこで何をしているのかは分からないが」
さっき役所の中でそう言っていたと、言われて思い出す。平尾のことを信用しきって
いるようだが、一度会ったその時に、一体どんな心証を抱いたのだろう?
「敵に回ってるかも、とか考えないんですか?」
心証を確かめようと佐藤友は和田に挑発気味の台詞を吐く。
「ありえない。絶対にありえない」
「どうして?絶対なんてありませんよ」
「なんでも疑えばいいってもんじゃない」
やや怒らせることを意図した佐藤友の発言に和田は明らかに不機嫌になる。
その様子に和田の平尾への信用を確信する。言葉にはし難いが白だと言い切れる
何かの心証を、その一度の遭遇で与えたのだろうか?
「なんでも信じることが良いとも限りません」
彼らの間に横たわる認識の差について、彼らは積極的に話し合わなかった。
ぱらら、ぱらららと遠くから散発的な戦闘音が響く。どこか間の抜けたような、
ともかく印象に残らない火薬の爆ぜる音は、この沈黙の合いの手としては及第点が
つけられるかもしれない。
「お前は?何だったんだ?」
一瞬、何を聞かれたのか分からず佐藤友は戸惑った。
そして、最初に問いかけた質問がそのまま問い返されているのだと気がつく。
瞬間、口の中に苦い味が蘇ったような、そんな渋い顔をした。
どう返事しようかと思案する間が二秒、婉曲な表現で佐藤友は答えた。
「死に際に家族や恋人を呼ぶっての、映画やら何やらの演出にはよくありますけど、
あれって本当なんですね」
彼らの間に漂う不穏な空気について、彼らは積極的に話し合わなかった。
「さっきの音が気になる。急ぐぞ」
「そうですね」
105猫50 ◆rZmes0SmeE :2008/03/19(水) 01:56:22 ID:mIsJgdiX0
彼らの間で、ようやく意見が一致した。


言い争う声が響いている。感情的に苛立ちを叩き付け合う声だ。
明かりのない屋内、塗りこめられた黒の中に、自分も染まっているのだろう。
暗闇の中に塗り込められて、野田は目を閉じる。
真っ先に細川の断末魔の足掻きが、血の塊とともに吐き出される最期の息が、
その情景が閉じた瞼の裏で明滅する。
先程噛んだ精神安定剤の作用で、集中できない意識の中でも、刷り込まれた
罪悪感が軋みながら蘇ろうとする。
目を開く。塗り込められたような黒は目を開いてもそう変わらない。
蘇ろうとする感覚、だがそれに意識を集中できない。感覚が鈍り、全ての情景が
遠い。手袋越しに何かに触れるように鈍く、考えるということが出来ない頭に
聴覚が情報を伝える。
言い争う声は相変わらず響いている。この声に寝入りばなを叩き起こされたのだ。
「どうして寝かせておいてくれなかった…」
呻くように喉の奥で唸る。そして武器を取り上げ外へ向かった。


何が発端だったのかと考えるなら、高校ではサッカーをやるつもりでサッカー部が
強い高校に(わりと努力して)行ったにも関わらず、何故か野球部に入部届けを
出されていた(担任の仕業だ)のが、ここに放り出される運命の発端なのだと思う。
ならば、この意地っ張りの同行者が普段にも増して強情なのは、きっと殺人者に
会いすぎなのが、発端なのだろう。
溜息をついて、藤原は星に尋ねた。
「何人目よ?」
「三人目」
涌井がゲームにのったなど、信じたくないのは藤原も星も同じだが、それは
その知らせを持って来た松坂とて同じだろう。赤田のどこか案じる目線を受け
ながらも、ひどく冷たい声でもたらされた知らせは、星をさらに依怙地に
させたようだ。
ひとまず身を隠そうという藤原の提案にも耳をかさず、むしろ一人で先に
106猫50 ◆rZmes0SmeE :2008/03/19(水) 01:56:51 ID:mIsJgdiX0
行くと言って聞かない。
ふくれっ面の星を藤原は扱いかね、そして遠慮がちに言う。
「いくらなんでも自分、運が悪すぎや。ぶっちゃけ、よく生きてる思うわ。
ちょっとばかり大人しくしとるほうがええんちゃう?」
「藤原だけ、そうすればいいだろ。一人で行ってくる」
かみつく勢いで星がくってかかる。
「やから、危ないからやめとけって」
「うるさいな、いいだろ、別に」
「よくない」
「なんでさ!だいたい、僕一人のほうがよほど身軽に動けるんだって。まだ、
膝庇いながら歩いてるじゃんか、お前」
「確かにそうやけど、一人で行くってもっと危ないやんけ」
「だから!一緒に来ないほうがいい。多分、そういう」
激しい光が藤原の視界を染める。
星の言葉がかき消える。
マシンガンの咆哮だけが世界を蹂躙する。
そして意識がふつりと途切れた。


目が覚めたら全てを一人でやる手筈だった。野田はどこか清々しげだ。
「やれば出来る、そう、出来たじゃないか」
うるさい話し声も今はもう沈黙している。寝直そうかと一度横になったが、
眠気はあるが妙に興奮した神経のせいか目は冴えてしまっている。
眠いのに眠れない苛々に、とうとう眠ろうという方針を諦め、どこかに移動
しようと荷物を纏める。
「必要なもの。武器、水、食料、そして良く効く薬。ああ、大丈夫。
今の俺は気分がいいんだ」
カバンにそれらを詰めて、そして残った山崎の支給品をうろんげに見つめた。
「これはいらないな」
山崎の支給品をその場に置くと、左右を見回す。
「どちらに行こうか、あれ、うまく決められないな、どっちでもいいのに。
でもどっちでもいいから困るんだよな」
107猫50 ◆rZmes0SmeE :2008/03/19(水) 01:57:19 ID:mIsJgdiX0
それでも野田はふらふらと外に出た。足の向くままに、さらに南へ。


「もういい、星。一人で行きや」
「黙ってろ」
藤原の肩を抱いて、引き摺るように道を行く星の姿があった。
野田の襲撃は星と藤原にいくつもの銃創を残していった。そして、特に深い
傷を受けた藤原は自力で歩くこともままならず、半ば引き摺られる形で前に
進んでいた。
星の上背も決して低いわけではないが、藤原の上背はそれをさらに上回る。
よって随分動きにくそうに足元をよろけさせながら、それでも星は黙々と
藤原を運ぶ。
「なあ…」
「這ってでも連れて行く。無駄口叩く暇があるなら、もっとちゃんとつかまれ。
さっきから落ちそうだ」
きっぱりと返事をする星の声に根負けした気分で、藤原は空気の塊を吐いた。
鉄の味がするのは血が幾許か混じっていたのだろう。
置いていってくれたほうがむしろ楽なんだが。そう言おうかと思ったが、
藤原はもう何も言わないことにした。
どうせ助からないなら気の済むようにさせてやりたいし、助からないのなら、
誰かに看取ってもらうほうがいい。
「おい、大丈夫」
返事のない藤原に怯えたように星が焦りを見せた。
「平気、べっちょない…」
「いいか、絶対に見捨てないから、だから、歯ぁ食いしばってこらえろ、
絶対助けてやるから」
「痛いのいやなんやけど…はよお迎え来んかいな……」
「じゃあ今からマゾに宗旨替えしろ、そうすれば楽しいぞ」
「自分がマゾやからって、押し付けんなや……ったく」
「馬鹿言うからだ。僕も頑張ってるんだから、お前も頑張れ。でかい図体
担ぐの大変なんだ。むしろ、その上背ちょっとでいいからくれよ、5センチ
くらいで許してやるから」
108猫50 ◆rZmes0SmeE :2008/03/19(水) 01:57:52 ID:mIsJgdiX0
頬のあたりが濡れる。涙が落ちて、頬を濡らしているのだ。そしてようやく
気がつく。星の声が震え、涙声になっていた。
(無理しとったんやな、こいつなりに。そりゃあんなん見てたら無理もするがな)
今にも死ねそうな痛みは藤原の全身を苛んでいる。それでも必死で声を絞り出す。
「ああ、もうちょっと頑張ってみるわ…」
「その意気やよし、よくわかってるじゃないか」
星の声は涙で湿っている。隠しようの無い滂沱の涙が流れて止まぬ川のように
とめどなく頬を流れた。
(まあ無理っぽいけど、こいつのために、もう少し、一分一秒でも、この痛み
が続くように、痛さ感じんようになったら、お陀仏や)
涙は涸れず、藤原の頭から頬へと流れていく。頬に落ちかかる涙は外気に冷やされ
既に冷たい。塩気を含んだ優しい雨は血と泥に汚れた頬に幾筋かの流れを描く。
「しかし、ホンマ、痛いわ……洒落ならん」
痛覚をこらえて吐き出した声は明らかに弱弱しい。星は声に答える代わりに
藤原を支えている腕に力をいれるとその上背のある体を必死に支えてまた
一歩、一歩、と歩みを進める。悲愴感がその歩みに、その表情にあふれている。
星の肩に頭を預け、半ば引き摺られながらの道行、出血で薄れ行く意識に、
痛覚ももう鈍く、残り時間もあとわずか、死期を悟った藤原は最期の時を
待ちながら無言で祈った。
(青木さん、こいつは頑張ってます。せめてこいつだけでも、守ってやってください)


前屈するような姿勢で腕を優雅に曲げ、長い髪を地面へとだらりと垂らした
石の肌の裸婦が、ホールの正面玄関に無言でたたずんでいる。
建物の壁面の一部は幾何学模様で装飾され、カラフルな印象を与える。
実用的な意味を持って配されたとは思えないコンクリートの壁や柱に囲まれて
建物は鳥が翼を広げたような姿でそこでひっそりと息を潜めていた。
地元出身の芸術家がデザインを担当した、というようなことが役所にあった
パンフレットに書かれていたことを和田は思い出す。
正面入り口になるガラスの扉の向こうは暗闇で、そこに連なる10段くらいの
タイル貼りの階段の下、皆が首をつき合わせている。
「外で待ってる?」
109猫50 ◆rZmes0SmeE :2008/03/19(水) 01:58:24 ID:mIsJgdiX0
「何かありましたね」
近寄る二人に少し離れた位置にいた大島が気がついて軽く会釈して近付いてくる。
「和田さん、ちょっと。ええ、見ればわかりますけど……」
大島は口ごもる。連想されるのはさらなる惨事で、和田は大島の肩をねぎらいを
こめて軽く叩いた。
そして大島が口ごもった事態はすぐに目の前に現れる。
行き倒れたルーキーが二人、星と藤原だった。
「具合は?」
容態を見ていた中島に和田は尋ねる。
「藤原はさっき、もう。星はひどく熱っぽくて、意識があやふやです。
傷も多いし…」
「感染症か何かだと厄介だな。ともかく中に運ぼう」
後藤光に目配せし、星を運ぼうと和田が腕を伸ばすと、それを振り払うような
仕草を星が見せた。その腕が何かを探し求めている。
それが意図するところに、皆が顔を背けた。
「運ぼう」
首を軽く一振りし、佐藤友が中島に声をかけた。二人掛かりで担ぎ上げた藤原は、
穏やかな、どこか笑みにも似た表情を浮かべたまま死んでいた。
担いだ重量が肩にのしかかるのを感じながら、佐藤友は疑問に上の空になる。
なぜ、そんなに穏やかな表情をしているのだろう?
彼は一体何を感じながら死んだのだろう?


一部始終を遠くから眺めて、石井義は考える。
状況はよく分からないが、どうも怪我人を運び込んだようだ。足手まといを
わざわざ抱え込む、あの様子なら一人でも何人かは殺れそうだ。
ならばどこから侵入しよう?慎重に考えるんだ。
獲物を狙う肉食獣を彷彿とさせる足取りで、石井義は建物の外周を調べ始めた。


【×藤原虹気(63) 残り32名】
110代打名無し@実況は実況板で:2008/03/19(水) 20:53:58 ID:PkrS51e40
職人さん乙です!!
野田、壊れちゃった…?
111代打名無し@実況は実況板で:2008/03/19(水) 23:35:55 ID:ZPjdmifp0
乙&100話目オメ!
藤原……そして大集団にまたピンチ到来……
ここはサクサク人が減ってくから怖いよ…
112代打名無し@実況は実況板で:2008/03/21(金) 18:25:20 ID:O17Sn+pE0
保守
113代打名無し@実況は実況板で:2008/03/22(土) 08:28:02 ID:dQyBIcpb0
hoshu
114代打名無し@実況は実況板で:2008/03/22(土) 09:26:11 ID:SCoenw8Y0
バトルロイヤル
115代打名無し@実況は実況板で:2008/03/23(日) 21:51:17 ID:qvX6084J0
hoshu
116代打名無し@実況は実況板で:2008/03/25(火) 01:56:27 ID:BUZ7xvjfO
保守
117代打名無し@実況は実況板で:2008/03/26(水) 02:19:14 ID:LhSmsDPbO
保守
118代打名無し@実況は実況板で:2008/03/27(木) 02:46:33 ID:0skgbcz/O
保守
119代打名無し@実況は実況板で:2008/03/28(金) 01:58:37 ID:OabIBesVO
保守
120代打名無し@実況は実況板で:2008/03/28(金) 22:25:48 ID:KSiRHERn0
ほしゅ
121代打名無し@実況は実況板で:2008/03/29(土) 09:22:35 ID:wv7A9lXS0
ほしゅ
122億2 ◆ACsLXL4x9o :2008/03/29(土) 23:16:39 ID:wO9J0A8/0
>>65
【118】お荷物

「よっ……」
 民家にあった、大きめのバケツに水を張る。
 まだ日の昇らない早朝の空気は冷たかった。
 辺りは薄暗いが、周囲を判別出来る程度には明るい。
 特に沼の周りはひんやりとしていて、前田幸長(G29)は軽く身震いをした。
 いっぱいのバケツを持ち上げた拍子に溢れた水がかかり、冷たさに身をすくめる。
「俺、なーにしてんだろ……」
 朝から不要な肉体労働を行っている自分に、前田はふと自問してしまった。


 早朝なのか真夜中なのか、とにかくむやみやたらに早い時間に、前田幸長は部屋
に蔓延する血臭で起こされた。
 慣れない悪臭に、頭痛すら伴ってくる。
 原因は、昨日拾ってしまった一人の男。
 その男が放つ血の臭いに辟易しているものの、限られた飲み水を使うわけにも
いかない。
 沼の水で身体を洗おうと、わざわざF−5まで歩いてきたのだが、昨夜はもう
遅かったし、疲れ果てていたのでそのまま眠ってしまった。
 こんなことになるなら、疲労困憊の身体に鞭打ってでも昨日のうちに洗って
しまえば良かったかもしれない。
 そう後悔すらさせるほどの酷い臭いだった。


 ――それは、絶海の孤島に放り出され、さて今から皆さんで殺し合ってくださいと
言われた一日目の夜。
 月が見えた。しかしそれに一片の風情も感じないのは、自分が風情を感じられる
姿勢にいないからだと前田は思った。
 そもそも空を見上げているつもりはないのに、目の前に月があるということ自体が
趣を感じない原因だろう。月は見上げるからいいものだ。
123億2 ◆ACsLXL4x9o :2008/03/29(土) 23:17:10 ID:wO9J0A8/0
 要するに前田は、勾配の急な山を這うようにして登っているのだ。
 右足を前に出すと、スパイクの刃にかかり損ねた泥石が崩れ落ちていった。危うく、
足を取られそうになる。
(まったくロクな目に遭わねーなオイ)
 前田幸長はただひたすらに己の不運に悪態をついていた。
 朝には桑田が江藤を殺害する現場を目撃し、昼にはよく分からない爆撃に巻き
込まれ、夕方にはいきなり茂みの中に引きずり込まれ刃物を向けられたかと思うと、
なんだかよく分からないうちにあやうく銃弾の餌食になるところだった。
 こう並べて見ると、やはり前田幸長は実に運のない男のように思える。
 夕方に出会った小久保裕紀(G6)とはものの10分ほどで別れた。
 なんだか寂しい話だが、小久保には会いたい人物がいるらしい。
 2年間とはいえ同じ球団でプレーをし、彼の人柄には信用を置いているつもりだ。
 先の小林と違い、彼なら同行しても良いかとも思ったのだが、彼との会話の端々
に、あまり自分を巻き込みたくないというニュアンスを遠回しに感じた。
 向こうにその気がないのなら仕方がない。互いの健闘を祈りつつ別れた。
 束の間のまともな人間との会話に少しだけ心が温まり、さてどうしようかと前田
が夕焼けを眺めながら出した結論は――
(もう山に登ってしまおう)
 人がいないところに行きたい。半分は意地だった。
 手を汚したくはない。だが生き残りたい。
 そんな思いを抱き、生き残るためにはどうすればいいのか。
 前田は人のいなさそうなところで身を潜めることを選択した。
(こうなれば意地でも人が来ないところでじっとしてやる)
 そのために移動しているということ自体が思う壺なのだとは、前田は気付いていない。
 つかの間の見事な夕焼けも身を潜め、すっかり夜の帳が落ちた頃、前田は思って
いた以上に急勾配の山を選んでしまったことを後悔し始めていた。
(本気でロクな目に遭わねー!)
 そして、上記の悪態である。
「道……?」
 道と言うにはあまりにもお粗末だが、ようやく人が通れそうな小道に出て、前田
は少しだけ胸を踊らせた。
 山の中に道がある。イコール、山小屋があるということだ。多分。
124億2 ◆ACsLXL4x9o :2008/03/29(土) 23:17:48 ID:wO9J0A8/0
 意気揚々と……というにはかなり体力が落ちていたが、それでも気持ちだけは軽く
前へ踏み出そうとしたところ――
 藪の中、一瞬、奇妙なものを見た。
 奇妙なものというよりは、色だ。
 自然界に有り得ない色。
 いや、もしかしたら南国とか、熱帯雨林の奥地とかに行ったらあり得るのかも
しれない。
 すくなくとも日本か、日本に近い場所にあるらしいこの島では有り得ない。
 つまり、蛍光ピンク。
「なんだぁ?」
 見に行くべきではないのかもしれない。しかし激しく心惹かれ、前田はつい、
そちらの藪の方に踏み込んでしまった。
 蛍光ピンクは暗い森の中でも激しく己の存在を主張していて、見失う恐れはなかった。
 近づくと、蛍光ピンクの横に、白っぽいものが倒れていることに気付いた。
 一瞬、死体かと思った。
「仁志……?」
 恐る恐る近づくと、それは同僚の仁志敏久(G8)だった。
 触ってみると暖かい。呼吸もしている。どうやら気絶しているようだ、と理解する。
 理解したところで、なんでここで蛍光ピンクの物体の傍らで仁志が気絶している
のかまでは勿論推察出来ないが。
 遠慮がちに懐中電灯で照らすと、白いユニフォームを汚す凄惨な赤が目に入った。
 蛍光ピンクは仁志の手に握られていた。
 もさもさしていて何かよく分からない物体だ。
 前田は仁志の傍らにしゃがみ込み、それをつついたり指先でこすったりしてみた。
 そしてようやく理解する。多分、アフロのかつらだ。
 もう片方の手には、血のこびりついた洋剣が握られていた。
 血まみれ泥まみれで剣とアフロを握り、山の中に倒れている男。尋常ではない。
 周囲に明かりを巡らすと、仁志の倒れている場所から山頂に向けての直線上に、
いくつか血痕が確認できた。さらには茂みが潰れ、枝が折れている。
 勾配を見上げると、ある地点から空が見えていた。頂上かは分からないが、拓けた
場所があるらしい。
 あそこから転がり落ちてきたのだろうか。
125億2 ◆ACsLXL4x9o :2008/03/29(土) 23:18:10 ID:wO9J0A8/0
「一体あそこで何が……」
 心拍数が上がる。緊張と不安が胸の内を交錯した。見ない方がいいのかもしれない。
 そう思いながらも、前田は小道を登り頂上を目指していた。
(小屋だ)
 視界が開けた場所に一歩踏み込み、前田はその場所の異常さに気付いた。
 まず、臭い。鉄臭いニオイと、何かが腐ったようなニオイ。
 用心深くあたりを探るが、人の気配はない。
 ユニフォームの袖で鼻を覆い、前田は辺りを照らした。
「うわ……」
 思わず、声を漏らす。
 地に蔓延る大量の血はすでに乾いていて、赤茶けた土にどす黒い色を染み込ませていた。
 凄惨な光景だった。
 地面には二つの死体が転がっていた。
 一人は片岡篤史(T8)、もう一人は清水隆行(G9)だった。
(仁志が殺したのか?)
 仁志が清水を殺すなどということがあり得るのだろうか? 
 そんなはずはない。直感的に、前田は己の問いかけを一蹴した。
 01年のオフにFAで巨人に移籍してきた前田から見ても、二人の間には他には
ない絆が存在した。――と思う。
 プライドが高く他人と馴染みにくい仁志は、外様ながら持ち前の明るい性格ですぐ
にチームに馴染んだ前田とは対照的だ。確かに、誰とでも仲良く付き合えるタイプの
人間ではないが、悪い人間ではないと思う。
 そんな彼の側には、なぜかいつも清水がいた。
 仁志が清水を殺すとは思い難かった。
(だったら――)
 片岡の横に転がる血塗れの斧。
 清水の背中に広がる惨い切り傷。
 仁志の握る短剣。片岡の胸の刺し傷。
 それだけを見れば、おおよそそこで何が行われたのかは予想がついた。
 想像を巡らすには、あまりにも悲惨なストーリーが脳裏を過ぎる。
(どうする?)
 前田は胸の内で自問自答した。このまま放置して去ることも出来る。
126億2 ◆ACsLXL4x9o :2008/03/29(土) 23:18:33 ID:wO9J0A8/0
 だが……
「くそっ……」
 自分の人の良さに悪態を付き、前田は今しがた登ってきた坂を駆け下りた。
「おいっ、仁志! 俺だ! 生きてるか!?」
 同僚のよしみだ。助けないまま死なれてしまって、枕元に立たれても迷惑だ。
 抱き起こし、頬を叩くと、仁志がぼんやりと目を開けた。
「…………」
 焦点の合わないうつろな瞳。短い質問を投げかけ、なんとかコミュニケーション
は取れることを確認する。
 肩を貸し、立ち上がろうとしたところで、前田は仁志が放つ悪臭に顔をしかめた。
 見たところ本人には出血はないのに、頭から血のシャワーを浴びたような状態だ。
 死人のような悪臭を放つ彼と行動を共にするのは、かなり辛い。
「とりあえず、身体洗った方がいいな」
 手持ちの飲料水では気休めにもならないだろう。服もドロドロだし、どこかで着替え
なければいけない。
「確か近くに湖が……」
 民家もあったはずだ。
「ああそうか、C3が禁止エリアになったから、大回りしなきゃなんないか」
 前田が舌打ちする。面倒くさい場所を指定してくれたものだ。
「ちょっと遠いけど、南の方に沼があった。あそこまで行こう。海水は嫌だろう」
 行く途中で服を調達した方がいいだろう。
「ってことは……また戻るのかよ」
 せっかくこんな山の奥まで来たのに、とんだ骨折り損だ。
 今日だけでも移動距離は相当なものだろう。
(オフで鈍った身体を動かすための12球団合同サプライズトレーニングか?)
 腹は立つが、ホンモノの殺し合いよりは大歓迎だ。
 無論、江藤の殺害現場を目撃し、正体不明の爆撃に遭い、小林にナイフを突きつけ
られた上狙撃された前田である。
 これをどっきりだと思うほどお気楽な性分は、残念ながらしていない。分かって
はいてもそんな戯れ言を叩きたいほど精神は疲弊していた。
 前田が自分の運の悪さに内心悪態をついていると、肩を担がれている仁志が数言
放った。
127億2 ◆ACsLXL4x9o :2008/03/29(土) 23:18:56 ID:wO9J0A8/0
「沼も嫌。汚い。シャワーがいい」
「わがまま言うな」
 あまりしゃべろうとしないくせに、妙なところだけ口達者だ。
「動きたくないのか?」
「…………」
「ここにいても、何もないぞ」
(何をふてくされているんだ、こいつも)
 無言では何も分からない。
 子供のように口をつぐんでしまった仁志に天を仰ぐ。元々、なかなか扱いが
やっかいな人間ではあったが。
「こんな血なまぐさいところに、いつまでもいたって仕方がないだろう」
「ちょっと待って」
 強制的に動こうと足を踏み出したところで、仁志のストップが入る。
「荷物」
「何?」
「荷物取ってきて」
「は?」
 先輩に対して、命令してくる仁志に目が点になる前田。
 そもそも、今自分を担いでいるのが前田幸長だと認識しているのかどうかも怪しい。
「荷物……って、あの山小屋の中か? なんかあるのか」
「食料もあれば、飲み水もある」
 そういえば、今の仁志はアフロと洋剣以外は何も持っていない。
 あー。と曖昧に納得した声を出していると、血まみれの仁志が顔を上げ、どこか
無感情な視線を向けてきた。
「あんたが養ってくれんの?」
(いやなこった)
 どこまでも不遜な態度の仁志に、内心助けたことを後悔する前田。
 この状況でこうなのだから、地がこうなのだろう。普段とあまり変わらない。
「そりゃそうだが……」
 俺がパシルのかよ、と思いつつ、当然のように命令してくる仁志に文句を言うのも
面倒くさくて、一端彼を道の脇に座らせて小屋へと引き返す。
128億2 ◆ACsLXL4x9o :2008/03/29(土) 23:19:24 ID:wO9J0A8/0
 山小屋の中には二つのデイバッグが置かれていた。
 寄り添うように並んだ二つのバッグが、清水と仁志のものだろう。
 二つ持ち歩くのは辛いので、片方の荷物を全て片方に移してしまうことにする。
 荷物を選別しながら移動させていると、意味の分からない鼻眼鏡やタスキが出てきた。
 仁志が握りしめていたアフロの親戚だろうが、邪魔くさいのでここに捨て置くことにする。
 地図や名簿は一応放り込み、一つにまとめたバッグを担いで前田は小屋を出た。
 小屋を出たところで、立ち止まる。
「清水……」
 嫌でも目に入った同僚の遺体に、前田は瞑目した。黙祷するぐらいしか、今の前田に
出来ることはなかった。
(いや、もうひとつあるな)
 仁志を救うこと。それは目の前の死者が、最も望んでいることなのではないかと前田
は思った。
 生前の清水の顔が過ぎる。
「お前は、仁志と生き残るつもりだったんだろうな」
 血の乾いた地面に膝をつき、死に顔を整えてやる。
 突然襲いかかった悲劇を、彼が予想していたとは思えない。
 不自然な体勢で片岡の方を向いた清水の手は、何かを引き留めるように伸ばされていた。
 この世界に遺したものがある。一目でそう分かる死に様だった。
 赤く染まった背番号。辛うじて読める『SHIMIZU』の文字。
「同僚のよしみか……」
 『よしみ』でどこまで付き合うことになるのだろう。
(まったく、ロクな目に遭わねーな)
 本日何度目かの嘆息をし、前田はかわいげのない後輩が待つであろう坂の下に足を向けた。
『お願いします――』
「え?」
 何か聞こえた気がして、前田は一度振り返った。
 もちろん、そこにあるのは二つの魂を持たない器だけだ。
 整えてやった清水隆行の死に顔はえらく穏やかで、笑っているようにも見えた。


【残り44名 年俸総額98億900万円】
129代打名無し@実況は実況板で:2008/03/30(日) 00:51:07 ID:a8kl3K7N0
乙です!!!
清水・・・・

あぁ、もぉ・・目の前が霞んできてキーボードがみえん・・・
130代打名無し@実況は実況板で:2008/03/30(日) 02:18:02 ID:XOJ2R4uL0
これは泣ける
仁志がんばれ、ついでに前田も
131代打名無し@実況は実況板で:2008/03/30(日) 10:22:08 ID:z37svQwU0
久しぶりに仁志キタ!
前田・・・いい人だ・・・。
二人とも生きてくれ・・・。
132代打名無し@実況は実況板で:2008/03/30(日) 23:59:49 ID:t1hQlF9n0
battle
133代打名無し@実況は実況板で:2008/03/31(月) 00:53:15 ID:nrI/co/e0
乙!!
死んでなお心配する清水にも、アフロを手放さない仁志にも泣いてしまう。
あと前田の苦労人ぶりにはちょっと同情する。二人とも死なないでくれ!
134代打名無し@実況は実況板で:2008/04/01(火) 02:14:00 ID:29bxEEPSO
保守
135代打名無し@実況は実況板で:2008/04/03(木) 00:18:46 ID:os/JsJbK0
新作期待ほしゅ
136代打名無し@実況は実況板で:2008/04/03(木) 13:21:03 ID:ECqLm/gzO
wktk保守
137代打名無し@実況は実況板で:2008/04/04(金) 09:51:27 ID:D59/1W5k0
ほしゅ
138代打名無し@実況は実況板で:2008/04/04(金) 23:51:12 ID:R5I0w4Pj0
b
139代打名無し@実況は実況板で:2008/04/05(土) 18:15:06 ID:3/2HOq4S0
a
140代打名無し@実況は実況板で:2008/04/06(日) 20:32:11 ID:Y+K3tCOE0
hosu
141代打名無し@実況は実況板で:2008/04/07(月) 14:14:09 ID:Qeu9iFEzO
保守☆
142代打名無し@実況は実況板で:2008/04/08(火) 19:22:12 ID:/hsnFkgQ0
ほしゅ
143代打名無し@実況は実況板で:2008/04/09(水) 10:48:08 ID:aHypAzWF0
ほしゅ
144代打名無し@実況は実況板で:2008/04/10(木) 21:36:58 ID:dx74yl3/0
hoshu
145代打名無し@実況は実況板で:2008/04/12(土) 00:13:28 ID:+RjbdMUO0
ほしゅ
146代打名無し@実況は実況板で:2008/04/12(土) 11:30:45 ID:LWFiq15VO
保守あげ
147代打名無し@実況は実況板で:2008/04/12(土) 11:58:12 ID:gxHgHDA10
今頃ビリバト読んだ。
泣いた。
コルもニシタンも地味の分までい`
148代打名無し@実況は実況板で:2008/04/12(土) 17:36:16 ID:kHwEGmNw0
bt
149猫50 ◆rZmes0SmeE :2008/04/12(土) 19:21:06 ID:DlTnt23w0
>>103

101.涙を流す夜もある、でもそれだけじゃないから朝が来る


諦めようとして、それでも諦めきれない焦燥、それにじりじりと焼かれる心地で
柴田は暗闇の中で息を潜めている。
僅かばかりの許との会話の後、再び眠ろうと横になりはしたものの、眠気は
訪れを告げず、ただただ無為に時間が過ぎるばかりで、そんな状況にいつしか
気付かないうちに爪をかんでいた。
「駄目だな」
声に出すと情けなさはいや増して気分を塞がせる。
「なすべきことを成したい、か」
少しだけ言葉を交わすことになった許は、緊張のせいか少したどたどしい日本語を
操りながらも、それでもきっぱりと、誰にも翻させることの出来ないだろう意志を
あらわしてここを去った。
言葉のせいだ。柴田は眉をしかめる。
その言葉が、あまりに美しいから。
石井貴の宣言が、あまりに美しいから。
だから、何かしたいでも何もしたくもないと、激しい葛藤に焦燥を煽られるのだ。
「だからって、何をすりゃいいんだよ!」
言い訳がましい響きはどうしても隠せない。耳を塞いで丸くなり、柴田は再び
眠ろうとする。
焦燥も葛藤も去ってくれなかった。昂ぶった神経に目頭に熱が集まり、流れた。
呻きには恨みがましい響きが混じる。
「明日なんてこなけりゃいいのに」


それでも騒々しい音が鳴り響き、新しい一日が来てしまったことを知る。
失いたくなかったものが、また多く奪われたことも。

150猫50 ◆rZmes0SmeE :2008/04/12(土) 19:22:34 ID:DlTnt23w0
西からの季節風が強く吹いていた。海から吹く風は潮の香りを強く含んでいる。
柴田は林の中を足元に注意しながら進んでいた。
耳を立てて周囲を警戒する草食獣のように、感覚を研ぎ澄ます。
風の音のなかに不審な音は混じらない。岩に砕ける波の音と木々を揺らす風の音だけが
闇の中にこだましている。
ひとつだけ思いついたことがあった。柴田はそれを実行しようとしていた。
そもそも謎だったのだ。
ここに集落跡のようなものがあったなら、この付近に船着場がありそうなもの。
だが、昼間歩いた限りではそのようなものは見当たらなかった。
あまりに粗末なせいで見落としたのかもしれないと、そう柴田は思っていたが。
木々がまばらになり、その向こうに果て無い漆黒の海が見える。
懐中電灯で光を投げかけてみても、頼りない光はすぐに暗闇に吸い込まれてしまう。
石くれが目立ち始めた地面に注意しながら進む。樹木は途切れ、荒れた地面には
雑草だけが我が物顔で、潮風になぶられながらも繁茂している。
そんな中でも雑草があまり生えていない箇所が道のように続いている。
それが本当に道の痕跡なら、やはりここには何かあったのだ。
柴田はそれを確信し、さらに注意深く周囲を散策する。
海面へと傾斜がかかっているのが分かる程度に傾いた荒地を、下へ降りられそうな
場所を探して地図と引き合わせながら、雑草の生えていない場所を中心に海岸沿いを
歩き回る。
「この辺り……」
獅子の頭を思わせる島の、その鼻先の出っ張りの辺りより北側、その影に
ひょいと隠れていた小さい忘れ去られた入り江が眼下にあった。
昼間は満ちていた潮は引いて、海に沈んでいた砂州が顔をのぞかせている。
下りられる。閃いた事実にやや早足で坂を下る。下りきった海岸沿いには、
いったいどれだけ放置され続けてきたのかわからない、ただコンクリートの板を
渡しただけの簡素な船着場があった。
そんな入り江の小さな船着場の奥手に、波に削られた洞窟が口を開けている。
暗い洞窟はすぐに行き止まりになるが、その奥には船が一艘係留されている。
思いがけない発見に柴田は息を呑み、しばし立ち止まった。
151猫50 ◆rZmes0SmeE :2008/04/12(土) 19:23:43 ID:DlTnt23w0
動くかどうかはわからない。だが、ないよりましだ。沈んでいないということは、
船体に穴が空いているなどの致命的な欠陥はないのだろう。
運転できないのは問題だが、いざとなったら挑戦すればいい。簡単ではないにしろ、
ヘリコプターや飛行機を操縦しろと言われるよりは簡単な筈だ。
問題は潮汐だ。満潮時にはここに下りられるかどうか怪しい。
(潮汐表とかどこにあるだろう?港とか、ああ釣り具屋にあるはず)
潮が満ちていて下りられない可能性も考えれば、ロープの類も欲しい。
(潮汐表、それとロープ)
とりあえず必要なものを脳内で確認し、地図を見直して渋い顔になる。途中が通れない
ことを思い出した。切り通しの崖は崩れていて、ここから港に行くのなら、一度ゴルフ場
付近まで林の中を通り抜けてから、集落の中を南西へと行かなければならない。
時間がどれだけかかるかわからない。また、集落は人が集まっているであろう分、
危険も考えられる。
(遠回りするか、それともこの潮が引いている間に、この砂浜を渡るか)
砂浜が南へと、港の方角へと続いている。崩れている崖の部分だけでも、この浜辺を
通り抜けてやり過ごすことができれば、港への近道になるかもしれない。
(時間が惜しい。行ってみよう)
砂をさくさくと踏みながら、急ぎ足で歩き始める。
やがて砂を踏むさくさくと鳴る軽快な音が、駆け足のテンポを刻んだ。
しかし潮騒はそんな足音も足跡も、何もなかったように掻き消していくのだった。


【残り32名】
152代打名無し@実況は実況板で:2008/04/13(日) 00:03:08 ID:djqf8MUf0
>>151
職人さん乙です!
脱出フラグktkr!?
153代打名無し@実況は実況板で