プロ野球バトルロワイアルの統合スレです。投下場所としてお使い下さい。
※統合を強要する訳ではありません。
ご使用は各バトの判断にお任せ致します。
**作品投下ガイドライン**
職人トリップの前に所属バトを表示
例:億205◆cZJuOTmaac
当該バトの前回投下分をアンカーで結び、タイトル表示
例:
>>2 『タイトル』
― 本 文 ―
改善案あれば随時お願い致します。
2なら勝ち組
バトロワSSリレーのガイドライン
第1条/キャラの死、扱いは皆平等
第2条/リアルタイムで書きながら投下しない
第3条/これまでの流れをしっかり頭に叩き込んでから続きを書く
第4条/日本語は正しく使う。文法や用法がひどすぎる場合NG。
第5条/前後と矛盾した話をかかない
第6条/他人の名を騙らない
第7条/レッテル貼り、決め付けはほどほどに(問題作の擁護=作者)など
第8条/総ツッコミには耳をかたむける。
第9条/上記を持ち出し大暴れしない。ネタスレではこれを参考にしない。
第10条/ガイドラインを悪用しないこと。
(第1条を盾に空気の読めない無意味な殺しをしたり、第7条を盾に自作自演をしないこと)
リアルタイム書き投下のデメリット
1.推敲ができない
⇒表現・構成・演出を練れない(読み手への責任)
⇒誤字・誤用をする可能性がかなり上がる(読み手への責任)
⇒上記による矛盾した内容や低質な作品の発生(他書き手への責任)
2.複数レスの場合時間がかかる
⇒その間に他の書き手が投下できない(他書き手への責任)
⇒投下に遭遇した場合待つ事によってだれたり盛り上がらない危険がある。(読み手への責任)
3.バックアップがない
⇒鯖障害・ミスなどで書いた分が消えたとき全てご破算(読み手・他書き手への責任)
4.上記のデメリットに気づいていない
⇒思いついたままに書き込みするのは、考える力が弱いと取られる事も。
文章を見直す(推敲)事は考える事につながる。過去の作品を読み込まず、自分が書ければ
それでいいという人はリレー小説には向かないということを理解して欲しい。
テンプレに間違いや抜けがありましたら補完よろしくお願いします
10 :
代打名無し@実況は実況板で:2008/02/01(金) 18:04:29 ID:FkKDKCJIO
いきなり、里崎は、里田まいの乳を揉みだした
〉〉1
スレ立てありがとうございます。
テンプレまでもご面倒をお掛けしました。
何とか快適な運用へ持っていけるように、
職人・読者の皆様、よろしくお願い致します。
投下待ち保守
15 :
代打名無し@実況は実況板で:2008/02/02(土) 21:17:31 ID:86y/fQhjO
そしてなんと里崎はまだ里田まいの乳を揉み続けていた
ヘイ カモーン
hosyu
昼のほしゅ
ほしゅ
hoshu
ho
98.Das verbrechen in hypnose
部屋にずらりと並べられた武器の数々に、高木浩はまず、ミリタリーマニアの
コレクションを連想した。しかしそれでは月並みな表現だと自身の語彙力に
軽く失望し、うんざりした表情を浮かべた。
高木浩の物憂げな顔とは裏腹に、黒岩はお菓子を選ぶ子供のような笑顔で、
ああでもない、こうでもないと呟きながら、ひとつひとつカバンに詰めていく。
いい年した大人のやる事に見えないと高木浩の視線に冷たいものがよぎる。
冷ややかな目の観察者に気付いているのかいないのか、黒岩は機嫌よさげに
所狭しと並べられたアイテムを適当に放り込んでいく。
だが、適当そうに見えて実はそれなりに配布する物の比率も考えているようで、
どうしようもなさそうなアイテムも時折混じる。
「しょうもない物を詰めてるって思ってる?」
言い当てられた高木浩は黒岩の顔に視線を移す。
にこやかな表情を崩さない黒岩の右手には催眠術の本がある。
「まあそう思うよね。催眠術なんて胡散臭いって。でもこれね」
高木浩の視線を受けて、黒岩はもったいぶって言葉を切る。
「効くんだよ?聞いたこと無い?ドイツで昔、催眠術がらみの殺人未遂やら
自殺未遂が起こったって話。
テレビでやってたでしょ。催眠術による脅威の完全犯罪とかいって」
高木浩は首をひねる。聞いたこともない話のようで、訝しげな表情を浮かべ、
知らないとジェスチャーする。
知らないことを知っている、それから来るちょっとした優越感に嬉しそうに
表情をほころばせ、黒岩は続きを話し始めた。
「ええと、1930年のドイツ、ハイデルベルクって街で、催眠術にかけられた婦人が
夫を殺そうとしたり、自殺しようとしたりした、という事件だよ。
調査に当たった学者先生の本も残っている。Das verbrechen in hypnose、
催眠状態での事件っていうような意味かな。
テレビで見た覚えがあるんだけど、どう?見たことない?ない?あ、そう」
あまり反応のない高木浩にややがっかりしたそぶりを見せたが、黒岩の話はまだ
終わらないようだ。
「驚くねえ、そんなことも出来るのかって思うけど、催眠術師の数に対して
事件数が少なすぎることを考えれば、むしろこの婦人は特殊な、本能の部分に
問題を抱えていたんじゃないかと催眠術師は言うけどね。
催眠術は人間の本能には効かないとされている。そして殺人の忌避はかなり
本能的なものであるという調査もされている。
つまり催眠術で操って殺そうとしても、本能が邪魔をして殺せない、と言う訳だ。
だが、稀にその本能が壊れている人間がいるという調査結果もある」
黒岩の説明はどこか回りくどい。高木浩の表情に、隠そうともしない
厭きを見つけて、黒岩は結論を急ぐ。
「結論はだね、殺人の忌避は確かに本能的なものだろう。しかし、学習によって
その本能を変えることは可能だ。人を殺すようにも、殺さないようにも
行動を矯正することは可能。
本能と同時に環境からの要請で、我々は人を殺さない行動を取る。幸いなことに
日本では、殺さないほうが合理的な場所だからね。だが、環境からの要請で
人を殺す行動をとる、そのほうが合理的な場所も存在するって訳だ。
その環境に慣れるには少々訓練の時間は必要だが、訓練によって、いや条件付けって
言ってたかな?それによって行動を変えさせることは可能なんだと。
つまりね、我々は環境の要請によって条件付けられている。
仲間は殺すな、敵は殺してよろしい。
あれ?催眠と関係ない話になっちゃったね」
「催眠と条件付けは直接には関係しないですね」
「ええと、催眠の話だ。催眠は、情報を受け取り吟味し理性的な判断を下す
脳の部分を眠らせる。だから催眠状態では術士の指示や周囲の期待にそぐうよう
行動するんだと。無意識で認識できる周囲の状態に影響される、ってことなのかな?」
「だが、本能には逆らえないと?どんなに深くかかっていても?」
「本能を誤魔化す技術じゃないから無理、ということらしいけどね。
でも、本能が壊れている人間なら殺人指令でも受け容れるだろうし、
そうでなかったとしても暗示の入れ方次第で、例えばやらなきゃやられるって
感じに暗示を入れれば、ちょっとは成功率も上がるんじゃない?」
この計画を張り切って実行している黒岩はきっと壊れているだろう。
冷気まじりの視線で一瞥し、高木浩は反駁する。単純な疑問があった。
「でも、その事件が発覚したということは、催眠で完全犯罪は出来ない、と
いうことでは?」
「そうかもね。あるいは発覚しなかった催眠による完全犯罪が存在するのかもよ?」
「催眠で事件を起こすよう誘導されていたとしても、ぎりぎりのところで
手加減したせいで、事件は全て未遂に終わったとも、とれますね」
「そうとも取れる。ま、興味があるならこの本読んで研究してみてよ?
別に構わないよ。君にはとにかく引っ掻き回してもらわないといけないからね。
イベントは多いほうが面白い」
カバンに放り込もうとしていた本を高木浩の手に置いた。
これは催眠術をひととおり身につけるように、という指示とみるべきだろうか?
だがそんな高木浩の迷いなどおかまいなしに黒岩は楽しげにしゃべる。
「不和の種を蒔け。そうすれば、自分の手で人を殺さずに済む。自分の手を
汚すよりは誰かの手を汚させるよう仕向けるほうが、多分気持ちは楽だよ?
そこらへん、さっさと割り切っちゃうほうが君のためだしねえ」
そしてまだまだあるカバンのなかに拳銃を放り込んだ。この本を言い訳に
この場を去ろうとする背中に黒岩のどこか嘲弄にも聞こえる声が投げつけられた。
「何故人間に大脳新皮質が存在しているのか。それは学習によって本能を
超えた行動を可能にさせるためにある。だから現代は理性万能主義が蔓延って
いるけど、時には、本能が実は正しく、理性が間違っていることもある。
少なくとも、このゲームは理性的に作られているよ、良心的とは言えないがね」
これが一昨日の話だ。そしてここからが今の状況だ。
高木浩は目の前の高山の様子を眺める。茫然自失の態で、家の前に座り込んでいる。
無理もない、それが普通の反応だと高木浩は思う。
(新しい鈴がいる)
呆けていた高山の目の焦点が合い始める。ペットボトルを手渡すと一口、二口と
水を飲んだ。ようやく正気を取り戻したようで、高木浩の存在に疑問を呈する。
「なんでここにいるんですか?」
「用事かな」
中に何があるかは知っているが、何も知らないふりをして、中に入ろうとする。
「それは!」
慌てて止めようとして高山が口を開き、そして俯く。不可解な表情でそれを受け流し、
中に入る。整理のついていない屋内に踏み込むと、高山もついてくる。
そして奥には確かに情報どおり、田原の遺体が横になっている。
「うわっ!」
大げさに驚いてみせ、そして後ろを振り返る。
「キュー?」
「違います!俺はそんなの!」
「やったの?」
「いいえ、違います!」
「じゃ、監督なのかな」
「いいえ…いいえ、多分、違います」
いいえ、と言わせ続けることが必要なのだ。いいえ、と言わせ続け、いいえと
反射的に答える状態になっているときに、私が催眠をかけないと、あなたは
催眠にかからない、と答えさせるのだと。だが、ここまで誘導できるだろうか?
催眠にかけるには、相手が催眠を求めている必要があるのだと言う。
高山は催眠を求めているだろうか?理性を、判断を手放したいと思っている
だろうか?おまけに、理性や判断を手放しても主催者たちにとって面白い結果が
出るかどうかはわからない。
(監督が早とちりして撃てば、それだけでも面白い見世物か)
何度目かの問答に、いいえ、と答えるのが癖になりつつあるのを認め、
催眠というキーワードに高山の意識を引き寄せる。
「考えるのも止めてしまおうと思えば、落ち着いていられる。安らかな気分で
いられる」
「いいえ」
「自己催眠のやり方とか、メンタルトレーナーがよく言ってた」
「いいえ」
反射的にいいえと答え、そう言ってしまった事に疑問を持つ前に畳み掛ける。
高山の背後に回りながら高木浩は言葉を続ける。暗示的な言葉に戸惑っている
間に、理性を騙し、催眠にかけることが必要だった。
それは高木浩自身にとっても必要だったし、おそらく高山にとっても必要な
ことだった。彼は彼自身の無意識に宿る本質に立ち向かわなければならない。
「じゃあ例えばこうして指を鳴らして」
パチン、と軽い音が鳴る。
「立っていられないくらい体が揺れ始めて、後ろに倒れる」
パチン、と軽い音が鳴る。
「倒れる、もっと倒れる、どんどん倒れる」
高山の体が揺れて倒れる。催眠暗示にかかりやすい方なのかもしれない。
弛緩と集中、それが催眠の本質だというのであれば、それは最も理想的な
野球選手の精神状態だ。無駄な力は抜けていて、一切の雑念はなく、
ただ一点に集中している。高山もその領域に踏み込んだことがあるだろう。
自分にもあった。何故かそのときは、何があっても自分はそれに対応できると
感じられた。そして実際に対応できた。
「大丈夫」
倒れる高山の体を受け止め、引いた椅子に座らせる。感覚を支配しつつある。
「立てるよ、大丈夫だ。立てる」
暗示を入れる。息を吸い、動こうとする動きを捉えて、強く禁止の言葉を放つ。
「立てない!」
禁止指示に高山の動きが止まる。
「瞼が重く、開くことが出来ない」
瞬きし、目を閉じた瞬間を狙ってさらに暗示を入れる。
「瞼が引っ付いて離れない。眠くなる、もう目を開けていられない。
手足が重く、暖かい」
あとは記憶支配の段階へ手早く誘導する。
手間取るとそれだけ集中が解けやすくなり、催眠にかからなくなる。
「手足が動かない、瞼も動かない、眠くなる、気分は落ち着いている、ただ、眠る」
目を閉じて眠り始める。注意深く呼吸を合わせる。
「もっと眠る、もっと深く。深く眠る」
呼吸に合わせて、暗示をいれる。
「眠くなる」
催眠にかかるのは催眠にかかりたいからだ。では、催眠を必要とする精神とは
いかなるものか。
催眠にかかると、情報を処理する部分の脳の機能が低下する。理性と呼ばれる
ものを放り出したいという思い、理性というもので塞がれた無意識の彼方からの
声なき声が催眠を呼ぶのだ。
それは闇の中から名も無き怪物が顕れるようなものだ。
だが、黒岩の言葉を信じるなら、闇の中に眠るのは怪物とは限らない。
「今気懸りな者がそこに居る。全部喋って構わない、誰も君を責めない」
何も無い空間を示す。だが、高山には見えているだろう。
「ここで何がありました?一体何をしたのです?あなたは本当に信じるに
値するのでしょうか、監督、答えてください」
小さな声だが、確かに聞こえる。
「あなたは、何をしたのですか?あなたが、殺したとでも言うのですか?
そうでなければ何故死ななければならなかったのですか?何故!」
小さな声の疑問は、徐々にはっきりとした言葉になっていく。高山の気懸り、
その正体は予想通りであった。
繰り返される疑問を聞き、もうそろそろかと仕上げに入る。
「わかったよ。君は監督を追うしかない」
床に打ち捨てられていた高山の武器を拾い上げ、それを目の前に差し出すが、
反応は鈍い。
「人は、撃てない。どんなに強がっても撃てない。撃ってはいけない」
「でも自分の身を守るためなら撃てる」
その言葉に高山の視線が動く。
「気懸りなら聞きに行く。自分の身を守るための武器も持って行く。
でも大丈夫、そんなものを使わなくても監督は答えてくれる。答えないなら…」
言葉を切り、言外の意味を匂わせる。高山が手を伸ばす。高木浩はその手に
重いショットガンを握らせた。
「指を鳴らしたら、ここであったことを忘れる。そして、監督を追いかけるんだ。
いいね、指を鳴らしたら、君は忘れる、そして追いかける」
パチンと軽い音が鳴った。
ど素人の催眠だ、すぐに暗示は解けるだろう。それまでに潰しあってくれれば
いいが、両者生存の可能性も否定できない。出来ればゲームに乗った奴を一人、
誰でもいいので後を追わせておきたいところである。高山が去っていった後を
眺めながら高木浩は冷静に分析する。
だが自ら被せた冷静さの仮面の下から暗鬱な表情が覗く。
(人を殺そうというとき、記憶がないのは多分、幸せなことなんだろう。
ただそれが、人として正しいことなのだろうか?そして人を試そうとしている
自分は多分、正しくない人なのだろう)
一瞬風が強く立ち騒ぎ、低い風鳴りが嵐の予感を伴って不機嫌に唸った。
(さて、どうしたものか)
再び被せた傍観者の仮面で隠そうとして隠しきれない感情が、強く噛み過ぎた唇に、
血の色を滲ませた。
【残り33名】
>>1さん乙です。早速使わせていただきました。
見やすいレイアウトを模索しているのですが、なかなか難しいですね。
こうしたほうが見やすいなどの意見もあればお願いします。
また、NGや修正依頼など、問題があるようなら指摘ください。
職人様乙です。
これが猫バトか…!
ho
hoshu
ho
ほしゅ
ほ
ほ
ほ
【115】覚醒U
(早い――!)
鈴木尚典の突撃を、金本は半歩右に避けて交わした。
交錯する寸前、がら空きになった鳩尾に拳を打ち込む。
手加減はしてない。金本の一撃を受ければ、普通の人間ならば嘔吐感を訴え噎せ
返るところだろう。
だが、鈴木は平然とした顔で踵を返し、再び地を蹴った。
(素手で戦う相手じゃない!)
そう判断し、金本はヌンチャクを構えた。
「くっ……!」
耳障りな、ガラスがチェーンを引っ掻く音。
鈴木の一撃をヌンチャクで受け止め、金本は前方からの衝撃を和らげるよう後退
した。その体勢から、強靭な筋力とバランス感覚で片足を上げる。
金本の動きに釣られて更に前に出てきた鈴木の膝を、スパイクの歯が蹴り上げる。
例え人間が痛覚を持たなかったとしても、人体の仕組みとして抗えない衝撃という
ものがある。計算通り、体勢を崩した鈴木が膝から砂浜に落ちた。
その顔面を狙って振り下ろしたはずの鉄人の右足は、夜風に冷やされた白い浜の
砂を抉っただけに留まった。
「ちぃっ!」
咄嗟に飛び退いた敵の反射神経に感心する間もなく、金本は立ち上がった男に
向かって手にしたヌンチャクを投げつけた。
狙い違わず、それは鈴木尚典の頭部に目がけて空転していく。
そして、唸りを上げた混紡の先が伸びきり、卓越した動体視力で半歩避けた
鈴木の右目を抉ってその向こうの浅瀬へと落ちた。
「化けモンが……ッ」
思わず、金本は吐き捨てた。
彼が避けたことにたいして、ではない。
流血が、みるみるうちに鈴木の顔面の右半分を覆っていく。
片眼を失ってもなお、男は痛みすら感じないかのように対峙していた。
そしてもう一度、カラクリ人形のような動作で赤く濡れた剣を突き出してくる。
「片目の見えん奴が、喧嘩に勝てると思うなよ……ッ」
襲い来る相手を見据え、金本は次の動作をシミュレーションした。死角の多い
相手が自分から突っ込んで来るのなら好都合だ。男の動きは俊敏で迷いがなかった
が、状況判断という意味では金本の方が勝っていた。
(最初の一撃を避け、相手の死角に回り込んで武器を持っている方の腕をねじり
上げる……!)
喧嘩巧者の金本の太い腕に捕らえられた鈴木の腕関節が悲鳴を上げた。
その手から、野口を殺した武器がこぼれ落ちる。音も立てず、跳ね上がることも
なく、砂の中に吸収される透明の欠片。
だがその時すら、鈴木の口からは一片の声も上がらなかった。職人のごとくただ
黙々と攻撃を続けようとする男が、指先で行進を押しとどめられたネジ式玩具の
ように不自然に手足をばたつかせる。
「終わりじゃ」
勝利宣言。だが、月明かりに晒される男の顔を初めて間近で見て、金本は息を
飲んだ。
脂汗の浮かんだ顔。そのくせ表情は青ざめていて、血を流していない方の目が
苦しげに歪んでいる。そのことに、決して相手が痛みを感じていなかったわけでは
ないことを悟る。
(こんな状況で、なぜ向かってこようとする?)
常人ならば、動けない程の激痛を伴う傷である筈だ。痛みを感じているのになお
動こうとするというのは、まるで何かに操られているようではないか。
腕をねじり上げたまま相手の身体を倒して、仰向けに転がした。その胸を正面から
踏みつけてしまえば、力関係を考えても、もう相手は動けない。
喧嘩なら大学時代にもたまにやってた。プロに入ってからは相応に大人しくしていた
から、こうやって相手の苦悶の顔を見下ろす感覚も久し振りだ。
不意に、1年間の浪人生活を経て東北福祉大学に入学した頃の記憶が過ぎった。
飲み屋で、女の前で格好をつけて絡んできた野郎三人を、気に食わなかったので
まとめて殴り倒したことがある。とんでもない新入部員がやってきたと――あの時
自分を連れ出した野球部の先輩、大塚光二の青ざめた顔は傑作だった。
一瞬過ぎったくだらない思い出を打ち消し、金本は足元に落ちているモノに視線
を落とした。
すでに砂粒に埋もれかけている、ガラスの破片。
月明かりを受けてキラキラと輝いている様は、童子がみれば貝殻が光っている
と喜んだかもしれない。
それを砂ごと掴み取り、金本は己の胸の前に掲げた。
(今、ここで――)
この男を殺したら、彼はもう誰かを殺すことはなくなるだろう。
そして、彼が誰かに殺されることもなくなる。
それは、素晴らしく理想的な世界のように思えた。
唾を飲み込む。その音がやけに大きく聞こえ、金本は緊張に強ばった顎を引いて
足下に屈した鈴木を見下ろした。
(俺が、殺せば――)
半ば夢の中にいるような心地で、刃を握り直す。――そして、振り下ろす。
ためらった刃先は、最後の理性の反乱だった。
その迷いを打ち消したのは、不幸にも殺されようとする当人――鈴木尚典の
最後の抵抗だった。
伸び上がった右腕が、近づいてきた金本の喉元を迷わず握り潰す。
その力は加減を知らないものだったが、左肩を負傷した状態での片手での握力
などたかが知れていた。女子供ならばともかく、その程度で金本の動きを止めら
れるわけもない。
「爪が甘いんじゃ」
最後通告と共に、左胸に杭を打ち込む。一瞬、鈴木の身体が大きく弾んだ。
そして、司令塔を失った右腕が力なく砂上に落ちた。同時に、忘れかけていた
波の音が戻ってくる。金本は大きく息を吐き出し、腰を伸ばして上半身を起こした。
夜の冷気が喉に流れ込み、肺を満たす。
その冷ややかな風に押し流されて霧が晴れたように、脳の奥に渦巻いていた迷い
が消えていた。
「甘っちょろいわ……どいつもこいつも」
死者の胸に墓標のごとく突き立ったガラス片は、月明かりを受けて淡くボンヤリ
と光っていて、かの男の魂の輝きを映しているようにも見えた。いずれこの輝きが
蛍の光のように浮かび上がって、天上の君主のようにのしかかる月に吸い込まれて
いくのだろうか。
「お前も……、俺もな」
呟き、金本はひとり砂浜に立ち尽くした。
闇色の空を見上げる。大きな月だけが、涼やかな光と形をもって浜辺を照らしている。
死体なら沢山転がっているのに、そこに生きて立っているのは己独りだけの空間。
そしてその世界に、どこか安堵している自分がいた。
ゆっくりと、持ち上げた右掌を開いてみる。
剥き出しのガラスの破片を握ったそこはところどころ皮が切れていて、滲んだ血が
手の皺の上を流れていた。その右手が、震えている。
金本は、自分が恐怖していることを自覚した。
怖い。
これ以上、大切な誰かが死んでいく姿を見るのは、怖い。
(じゃあ、どうすればいい?)
その答えを、男は導き出していた。酷く遠回りをして、酷く屈折した解答に、異
議を唱えられる息を保った者は、不幸にもその場には誰一人として存在しなかった。
守ろうとすれば、己の無力さを感じるなら――いっそ、壊してしまえばいい。
二つの死体の間で、金本知憲は薄く笑った。
「凄いな」
幼稚な感想を述べ、渡辺恒雄が息を吐いた。同時に、各所から同じような息遣い
が漏れる。確かに、息詰まる展開だった。その場にいる全員が、あまり真剣に見る
気のなかった滝鼻でさえも、思わず見入ってしまう程に。
「覚醒者をものともしないとは」
思わず、滝鼻も感想を漏らす。
「『覚醒』と言っても、当人の能力以上のものが発揮出来るわけでもない。起こり
うる事態だ。むしろ、そうでないと意味がない。奴らは被験者だ。実験が完璧で
あっては科学は発達しない。彼らもこの結果には満足しているだろう」
渡辺は今回の展開に十分満足したらしい。上機嫌でもっともらしい弁を口にする。
ピピピピピピピピ――
勢いの良い電子音と共に、スクリーンにびっしりと数値が映される。市場に急激
な変動があったことを知らせるアラーム音に、全員の視線が一点に集中した。
「これはこれは」
渡辺の声が弾んだ。
「予想外の覚醒だな」
金本知憲に対する期待値――すなわち投資行動に伴う多額のベットの動きを表す
数値が跳ね上がっている。
「面白いことになりそうですの」
「久万さんの勘が的中した、というところですか」
人事のように呟いた、唯一、このことを予想していたかのような阪神球団の元オーナー
を滝鼻は持ち上げてみた。この男も食えない爺だ。もっとも、この場に食える人間が
一体何人存在するのかは疑問だが。久万は、その賞賛の声すらも飄々とした動作で
かわすように首をかしげた。
「まだまだ、ゲームは分かりませんよ」
老人は、ぼんやりと頬杖を突きながら、かすかに笑みを浮かべていた。
鈴木尚典(YB7)死亡【残り45名 年俸総額99億8900万円】
職人様乙です!
金本、遂にダークサイドに行ってしまうのか…?!
億久々の新作乙!
タコさあああああん!!覚醒したばっかりなだけにちょっと意外だ…
中々死ななかった星生え抜き勢(若田部はFA)からついに初の死者か……!
そして金本……久万さんはこうなる事を見抜いていた訳か…流石に食えないジイさんだ…
あとこれでついに年棒総額も100億切ったね
ほ
ほせ
ほせろ
おおおお!!!!!待ってました!!!億バト新作!!!!
乙です!!!
てか、す〜さん死なないと思ってた自分涙目。
これでも星と竜ファンだから残ってるあの仲良しコンビが気になる・・・・
48 :
代打名無し@実況は実況板で:2008/02/22(金) 00:06:03 ID:a7dRXjng0
バトルロイヤル
保守
>>37 【116】帰らぬ人よ
静まり返った校舎の廊下を、奥へと進む。
鉄錆の臭いが徐々に強くなり、やがてはっきりと血の臭いになった。
マグライトで照らして見れば、突き当たりにはべったりと赤黒い跡を付けた鉄扉があった。
そのすぐ脇の教室の中に一歩踏み入れる。窓から差し込む弱い月明かりが、立ち尽くす高橋の姿を浮かび上がらせていた。
阿部の足音に気付いて、顔を上げた。
「探しましたよ」
「…ごめん」
厭味のつもりが素直に謝られて、また少し苛立ちが募る。
予想していたことだった。自分が不寝番をする間、少しの隙を作ってやれば、高橋は抜け出してここへ来る。彼には見ておかなければならないものがあるから。
「考えるなって言ったのに」
「…うん」
俯く高橋の足元には、白いカーテンを被せた大人一人分程の塊がある。先ほどの放送で名を呼ばれた内の―――上原達が手を下したに違いない、誰かだった。
「大村さんだったよ。ホークスの。…ごめんな、どうしても確かめておきたかった」
その顔の辺りを見下ろして、高橋が独り言のように呟く。
「ウエさんがやったことを、ですか?」
「……」
抗いようも無い程明らかな「物証」を目の当たりにして、高橋は何を思うのか。信じたくない気持ちで来たのだとしたら、こんな酷い話はない。
暗がりの中でも、ユニフォームの前が血で汚れているのが分かった。打ち捨てられた大村を放っておくことはできなかったのだろう。
「高橋さん。ウエさんは…」
「うん。あいつ、もう俺達の所には戻ってこない」
静かに、だがきっぱりと言い切られて、うろたえたのは阿部の方だった。
思わず凝視した高橋の表情は飽くまで穏やかで、微笑しているのではないかと思える程だ。
「試合ん時と同じ顔してた。…ああなったら、テコでもきかないし。いつか一緒にやれなくなるのは、もう最初から分かってたしな」
「……」
暗闇に浮かんだ上原の横顔を思い出す。
闇の中でも分かる、あの目には見覚えがあった。18.44m先のマウンド上から幾度となく阿部を射貫いてきた、しんと研ぎ澄まされた刃のような目。
向き合う時、どんな大歓声の中でも一瞬ですべての音が消える。
その例えようも無い瞬間こそ「上原の正捕手」の特権であり、阿部にとって確かな誇りだった。
だが―――もう、叶わない。
例え互いに生き残ったとしても、二人がバッテリーを組むことは無いのだ。恐らく、永久に。
それはどんな言葉よりも明らかに、あの目が物語るのだった。
もう選んでしまった。そこにどんな後悔も無い、と。
勝利の為に常に最善の道を取り、全力を尽くす。その迷いの無い姿こそが、これまでエースがエースたり得た理由に他ならない。
他の誰が何をいっても、絶対に信じられる。あれほど誇らしく、頼もしかった存在。それは僅かも損なわれていないのだ。
――――――だから、尚更。
「…そんな話じゃないでしょ」
言おうと思って準備していたのとは真逆の事が口をついて出た。声が震える。
「何すかそれ!最初から知ってたから、だからしょうがないって言うの!?そんな…そんなの、許せるわけないじゃん!」
言葉が、気持ちが、溢れ出す。
何故裏切った。
何故、俺を連れていかなかった。
俺はあんたの捕手じゃなかったのか。
俺じゃなくたって勝てるって言うのか。
信頼があると思っていたのは、俺だけだったのか。
―――――何もかも、初めから分かっていた通りだって言うのか。
そんな子供のような執着は下らないと、もし「その時」が来ても受け入れられると、もうずっと前に振り切った筈の感情が、嵐のように渦巻いていた。
周囲の批判も、多くの捕手達を押しのけてレギュラーに居座り続ける、それこそ人殺しのような罪悪感も、あの球が受けられると思えばこそ耐えることが出来たのだ。
それが、奪われた。
「慎之介…」
高橋が驚いた様子で呟く。取り乱してしまったことに気付いて、慌てて顔を背ける。
「…俺が言おうとしてたこと、高橋さんが先に言うからですよ」
思えば今まで、こんな風にはっきりと感情をぶつけた事はなかった。だが、ぶちまけてしまえばもう取り繕う必要はない。
「俺は、ウエさんのこと絶対許さない。あの人の為に俺やあんたが死ぬようなことは、絶対に許しませんから。―――――きっとウエさんだって、それでいいって思ってる」
【残り45名 年俸総額99億8900万円】
職人様乙です!
しかし敢えてつっこむと、大村は由伸と同級生で、あと阿部は「慎之助」ですよ
乙です!!!
乙です!
>>53 うわぁああぁあ(AA略)
ご指摘ありがとうございます。
名前よく間違うなチクショーorz
大村さんとヨシノブはやっぱり面識ありますよね…
ほしゅしときます
【117】地獄に落ちるまで
「何が弾のムダだっつーの!」
ガンッ
木の幹を蹴り上げ、岩村明憲(S1)は苛立たしく叫んだ。
スパイクの歯に削り落とされた表皮がボロボロと地面に墜ちる。その無様な亡骸
を踏みしめ、岩村は地面を抉った。
一瞬、穏やかならぬ音に虫の声が止む。が、ものの数秒で森は生来のざわめきを
取り戻した。
人目がないのをいいことに、存分に木に八つ当たりしながら、岩村はつい先刻
味わった、屈辱と恐怖に支配された時間を無間地獄のように自動再生していた。
「こっちは死にかけたんだぞ!」
民家に身を潜めている、丸腰の三浦と鈴木を襲った。そこまでは良かった。
まさか鈴木尚典が――あんな狂気じみた行動を取るとは、予想外の外だった。
自らの腕を犠牲にして窓硝子を割り、その破片を凶器にするなど、一体誰が想像
しただろう。
その後の、容赦のない殺意も、的確な攻撃も、岩村たちの予想を遙かに上回って
いた。長生きの出来ない二人組――以前にも彼らと相まみえたという上原と宮本は、
彼らをそう評していた。武器もなければ戦意にも乏しい。その風評を鵜呑みにした
のがいけなかったのか。
鈴木が、倒れた宮本に硝子の刃を向けた瞬間、頭の中が真っ白になった。
彼が――宮本慎也が確実に殺される。本能がそう叫んだ。
あの時鈴木に向かって発砲したのが間違いだとは岩村は思わなかった。確かに
理性を欠いていたが、理性があったからといって他にどうしろと言うのだ。
『やめや、岩村!! 無駄遣いすんな!』
叫んだ上原の言葉は、そのまま『死ね』と言っているようなものだ。
仲間の命が、弾以下の価値だとでも言うつもりか。
「上等じゃねーか」
拳を合わせ、指の骨を鳴らす。岩村の憤激は、返り討ちにされた鈴木ではなく、
味方である上原へと向けられていた。
「一人安全なところから高見の見物しやがって」
「俺は頭脳労働やから」そう嘯き、したり顔で一番楽な役回りを取る男。
宮本はなぜか黙ってその男に従っているが、岩村はそろそろ限界だった。
最初に、上原たちと組むことになった時は悪くないと思った。
宮本は勝手知ったる人物だし、上原も頭は切れそうだ。宮本が同行しているの
だから、それなりに使える人物なのだろうと予想した。
上原浩治の支給品は青酸カリらしい。
らしい、というのはそれが自己申告であり、実際に彼がその毒薬を使ったところ
を見たことがないからだ。なかなか使う機会に恵まれる支給品ではないが。
確かに強力な武器だが、襲い来る相手に対して立ち回るのに有効なものでもない。
上原が仲間を欲しがったのはある意味当然と言えた。
もちろん彼が自分達を騙して仲間になるふりをして、その猛毒で殺すという手も
考えられるが、見たところ宮本は全面的に上原を信用しているようだった。
上原から何か食べ物を手渡されるという不自然極まるシチュエーションなどは
なかなかないので、警戒することは難しくない。
やはり上原側の利害を考えても、自分の楯となり矛となる仲間を殺すようなこと
はしないのだろう。
足を引っ張る人間がいないのならば、10億円以内で連むのは悪くない。複数の
方が、何かと便利なことも多い。
悪くない――と思っていたが……
「えらいご機嫌ナナメやんか」
「なんだ……アンタか」
そのご機嫌を損ねている張本人が、何食わぬ顔で近づいてくる。
上原浩治。背番号19。このパーティのリーダーを気取る男。
今夜は、逃げ込んだ森の中で適当に夜番を立てて休息を取る予定だった。
が、夜番だった男が勝手に持ち場を離れたことに気が付いたのだろう。
そのことを責める風でもなく、上原は口を開いた。
「宮本に怪我させたことに怒ってるんか? 二人を危ない目に遭わせたのは悪かった
思うけど、ありゃあ予想出来んやろ」
確かに、丸腰の鈴木にあそこまで苦戦を強いられるのは予想外だ。
だが、そのことにはあえて触れず、岩村はもうひとつ前の襲撃を口にした。
「学校に阿部と高橋さんが残っていることを知っていたでしょう」
西口と大村を襲った学校での一件。
宮本は気付かなかったようだが、岩村は警備小屋に潜む阿部と高橋の存在と、
そちらの方を気にする上原の視線に気付いていた。
上原は答えない。肯定も――否定もしない。
「あの学校を下調べして西口さん達がいると突き止めたのはアンタだ」
なぜ阿部と高橋を見逃したのか。岩村の中で、その答は出ていた。
あの二人が、上原が『殺せない』人間だったからだ。
「俺の作戦は、武器を持ってないことが確認できないと使えへんかったからな」
「あんたは宮本さんが傷付けられても顔色一つ変えなかった」
言い訳を聞く気はない。
「それどころか、仕返ししようとした俺に『弾の無駄だからやめろ』と言いやがった」
今の上原にとって『仲間』であるはずの宮本や自分への態度と、二人を見逃した
行動に、彼の内にある本心が透けて見えた。
「アンタはどうせ、自分の都合の良いように動く駒が欲しかっただけなんだろうが。
駒にしちゃ、賢いのを集め過ぎじゃないのか?」
言い放ち、睨み付ける。
図星を突かれた上原がどんな行動を取って来ても対応できるように、岩村は指先
の神経を腰の銃に向けた。
だが上原は、動揺するよりもまず笑い出した。
「宮本さんは、お前より賢いよ」
一通り笑い、上原は小馬鹿にしたように首を傾げた。腕を組み、木の幹に背を預ける。
「俺があの人を利用する。あの人も俺を利用する。つまり、相互利用の関係や。だが
お前は――」
視線が、岩村を射抜いた。
先程岩村がしたように、上原もまた、岩村の本心を探り当てた。
「自分と宮本さんを助けるために、俺を利用して捨て駒にしようとしている……やろ?」
「それこそ詭弁でしょう。アンタがやろうとしたこととどう違う?」
「それが分からないんなら、お前は俺の見込み違いやったみたいやな」
大きく息を吐きだし、上原はつまらなさそうに地面を蹴った。
「俺の編成ミスや。同じチームの人間を引き入れるべきやなかった」
親指を唇に当て、考える素振りを見せる。沈黙の後、上原はこちらに聞こえるか
聞こえないかくらいの声で呟いた。
「俺があいつらと離別したように、お前らもまた引き離して置くべきやったんや。
……『情』は、この世界には必要ないんやから」
上原が顔を上げた。今度は、はっきりとこちらを向いて言い放つ。
「あそこで、お前を殺しておけばよかった。最初に出会った、C−4森地点で」
カチャ――と、音と立てて岩村は銃を構えた。
まっすぐに、目の前の上原に――自分を「殺す」と言い放った男に照準を合わせる。
上原は銃口を前にも臆さず、両手を挙げて降参の姿勢を作った。
その体勢のまま、大股に岩村に近づく。
「どういうつもりです?」
「こういうつもりや」
「!」
ためらいなくトリガーを引こうとした瞬間、伸び上がったつま先に筒を下から
叩かれた。
明後日の方向に発射した弾丸が、音を立てて木の葉を霧散させる。
「このっ……」
もう一度構え、岩村は上原の頭部に銃口を合わせた。
敵は丸腰も同然だ。この至近距離なら、確実に殺せる。
「ぐっ……!?」
その時、脊椎に落ちた衝撃に、一瞬身体がぶれた。
何者かに後ろ手に銃を捻られ、激痛に背筋が伸びる。思わず緩んだ手から、
ワルサーP38がこぼれ落ちた。
その首に、僅かな痛みを感じた。温度を感じない、『点』の痛み。
「……宮本……さん……」
上原にばかり注意が向いていて気付かなかった。すぐ背後に回り込んだ宮本慎也が、
岩村の動きを封じ、獣の爪を急所に当てている。
「上原も言ってへんかったか? お前は俺たちと組むには頭が悪い」
「……そうでしょうね」
「後輩のよしみや、大人しく俺たちの前から消えれば、今回は殺さないでおいてやる」
岩村が取り落とした銃を、宮本が蹴って彼の手の届かない場所に飛ばした。
(なんだ……そうかよ――)
「クックック……」
まさに絶体絶命の状況。
そんな中、喉から零れる笑いを、岩村は抑えることが出来なかった。
上原が目の前で薄笑いを浮かべている。宮本が――共に生き残りたいと思った存在が、
その男に従い自分を脅している。
滑稽だ。自分のピエロっぷりに笑っているのか、二人のオママゴトに笑っている
のか分からなくなる。
それなりに傷付いているらしい自分が、また滑稽だった。
(ほんと、頭が悪ぃな俺は)
いつか上原と敵対することがあれば、きっと宮本は自分についてくれると勝手に
思い込んでいた。甘かったのだ。
「アンタ、本当に優しいですね」
これは挑発だ。この挑発に彼らが乗ってくれれば、例えこのまま殺されたとしても、
一矢報いた気にもなるというものだ。
「本気で『情』を捨てる気だったら、今すぐここで俺を殺せばいいじゃないですか」
「岩村……!」
その言葉に、咎めるように宮本が名を呼んだ。今更リーダー面で説教をする気なら、
初めから裏切らないで欲しいものだ。
「アンタ達の役に立たない馬鹿はね」
その瞬間、視界の端で上原が動いた。
「――! 岩村! 逃げろ!」
宮本が蹴り飛ばしたワルサーに飛びついた上原が、素早く構え引き金を引く。
ドゥン!
「宮本さん!?」
ドゥン! ドゥン!
「がはっ……ぐ……っ」
すぐ側で聞こえる、苦悶の声。
なぜか銃声よりも、銃弾が何かに撃ち込まれる音の方が大きく聞こえた。
いきなり宮本に引き倒され、視界が反転する。地面に突っ伏していた岩村が次に
見たのは、自分に被さるようにして倒れている宮本の姿だった。
立ち上がった上原が、硝煙の立ち上る銃を岩村の足元に放り投げる。
「弾切れや」
放られた銃が、ガシャン、と音を立てて目の前に落ちた。
「しゃーないから、見逃したるわ」
パンパン、と地面に飛び込んだ際についたユニフォームの埃を払い、上原は二人
に背を向けた。
「宮本さんに感謝しいや」
後ろ手に手を振る上原の背中を見送る。岩村はただ呆然と、膝の上で体温をなくす
宮本の身体を抱いていた。
「宮本さん……?」
『アホが……っ』
銃声が鼓膜に届いた瞬間、そんな声が聞こえた気がした。
庇ったのだ。庇われたのだ。隙を見せた自分を上原が殺そうとした瞬間、宮本慎也
は自らの身体を盾にしたのだ。
その事実に脳が揺れる。大鐘がもの凄い勢いで叩き鳴らされているような振動に
平衡感覚が失われる。
「嘘……ですよね……?」
背中をさする。まだ温かい身体。だが急速にその温度は下がっている。体感できる
ほどのスピードで。
指先が言うことを聞かなかった。通常の倍以上の気力を総動員して指示を出すと、
それでもぎこちない動きで、岩村の指先は膝に置かれた頭部を触った。
短く刈られた髪に触れたとき、ぬるりと、嫌に生暖かい感触に背筋が凍った。
「っ……!」
同時に、感情のある部分が沸騰する。尻ポケットを、探り岩村はあるものを取り
出していた。
いざという時の為に、一つだけ隠し持っていた弾丸。
震える手で可能な限り早く装弾し、まだ完全に隠れきっていない背番号18に
視線を向ける。
こちらには銃がある。あの背中に、引き金を引けば――
「…………」
しかし、自分の上に覆い被さる宮本の死体に、全身の力を吸い取られているかの
ように、岩村は身動きが取れなかった。
上原の気配が完全に消えた頃、ようやく争いの終焉を察したのか、いつの間にか
消えていた虫の音が響きだした。
見上げる空は腹が立つほど清々しく澄んでいて、今消えた命の小ささを嘲笑うか
のように無数の星が瞬いていた。
「リーダー……アンタ結局、情から逃げられなかったんだな」
自分を庇って死んだ男。
世話ばかり焼かせていた気がする。
そういえば、守備でもいつも自分をカバーしてくれていた。
日本一の三遊間。その称賛の裏で、いつも自分は彼に頼っていた。
最期まで、面倒をかけることしか出来なかった。
(動け……!)
全力で脳から指令を送り、震える指先に力を込めてワルサーP38を持ち上げる。
それは予想していた結末の一つに過ぎなかったのかもしれない。あるいは、この
逆の結末もあり得たはずだ。
自分以外の誰かを守ろうとした時点で、このゲームは負けなのだ。
それを宮本は知っていた。恐らく初めから分かっていたのだろう。
だから、岩村の参入を歓迎はしなかった。
かつてのチームの絆は、やがて情という要らない感情を引き起こすから。
(それを、俺は――)
「馬鹿馬鹿しい……」
自分こそが賢い勝者だと信じて疑わなかった。高慢な己が、近道だと思って踏み
込んだ場所に地雷が埋め込まれていたことに気付かなかった。
(笑える大馬鹿野郎だ)
宮本の死体を抱きながら、なぜか思い返すのは最初に見た五十嵐の死に顔だった。
(五十嵐……やっぱ俺は、お前に会えそうもねぇわ)
この泥沼のような世界に足を踏み入れた時から、もう後戻りは出来ないことは
分かっていた。
(だったら、せっかくだからせめて、宮本さんと一緒に――)
地獄に。
己のこめかみに銃口を充て、鉛のように重い指でトリガーを引く。
「っざっけんじゃねぇぞコラァ!!!」
銃声が響き渡る。
伸ばした腕の先、空を向いた銃口から硝煙が立ち昇る。
最後の弾丸が夜空を打ち抜き、驚いた夜烏が奇声を上げて羽ばたいた。
「俺は生き残る」
銃を掲げたまま、岩村は大地に向かって宣言した。
「宮本さん」
先程までの重みが嘘のように、身体が自由になる。意志を失くした四肢を横たえ、
岩村は立ち上がった。弾のない銃を尻ポケットに突っ込む。
「アンタが俺を助けたことを後悔するほど、殺して殺して殺しまくってでも生き
延びてやりますよ」
今はただ、静かに眠る男に告げる。
それは親愛なる先輩に対する、後輩からの挑戦状だ。
「云十年後に顔出すまで、せいぜい地獄で待っていて下さい」
毅然たる足取りで地面を踏みしめ、岩村は森を後にした。
宮本慎也(S6)死亡 【残り44名 年俸総額98億900万円】
うおおおおおおぉぉ新作乙です!
そ、そうきたか…っ!
乙です
は、はげえええええええええええ
乙!!!!
ええええええ?!!!
ミヤさああああああああああああん
2323。・゚・(ノД`)・゚・。
ここで黒トリオから死者が出るとは予想外だった
乙!!
予想してなかった…てか出来なかったな。
あと、間違いなんだが上原の背番号が18になってる。
>>71 本当だ・・・二回目の方が18になってますね。
失礼しました。すぐに修正依頼をかけます。
ご指摘ありがとうございます。
あと>59の上原の台詞が「宮本」と呼び捨てになってる。
ほしゅ
ほしゅ
>>21 99.ともしび
人が減った。
追う者の影を求めて出て行った者、帰らざる旅に出て行った者、その不在が
徒労感にも近い疲労として、和田の両肩に非物理的な重さで圧し掛かっている。
「和田さん、貴さんを運びませんか?」
後藤光が話しかけてきた。はっきりした口調、しっかりした声色に、こちらを
立ち直らせようとする意志を感じる。
「あっちに一人だけ置いておくのも寂しいでしょう。まだそれくらいの時間
ありますよね?」
感傷的に聞こえる発言だが、それも悪くないと和田は思った。
「そうだな、せめて全員同じ場所にしておこう」
今すぐではないが、じきに出て行くことになっているから、全員一階に集まろう
という和田の言葉に従って、後藤光と和田を除く残りの面々、田崎、張、大島、
中島は荷物を纏めて一階のロビーに集まっていた。
まるでお通夜だなと田崎は思い、いや、お通夜みたいなものだしなと思いなおす。
涙に墨は滲み、薄墨の衣の通夜の客らは、濡れ鼠のようにみじめに、己の運命の
残酷さにふるえている。
虚脱と疲労で沈んだ空気を切り裂いて、闇の向こうからカッカッと高く足音が鳴り、
扉の向こうに来訪者が現れる。全員がその音に顔を上げ、表情に不安と緊張を
滲ませた。
「わざわざ足音を立てたんだ。おそらく敵意はない。間違えて撃たれることを
恐れているんだろう」
最も激しく反応した張はマシンガンに手を伸ばしたが、田崎は宥める口調で
推測を述べ落ち着かせようと試みる。
「誰かいるか?入っていいか?」
足音の主からの低い呼びかけが全員の耳に届く。
接近を知らせ、声をかけ、相手の出方に神経を尖らせているようだ。おそらく
何度かそういう場面に立ち会ったことがあるのだろう。張の緊張は解けないが、
冷静さは失っていない。いきなり弾をばら撒くようなことはしなさそうだと
田崎は少し安心する。
「開いてる!」
張が外に聞こえるように大声をあげる。
「助かる」
静寂を破ってまた新たな客が現れる。その姿がはっきりと見える位置まで
近付いたとき、大島はヒュッと音を立てて息を呑み、中島は目を見開き、
ぎりっと奥歯を噛みしめた。田崎は当惑の表情を浮かべ、張は無言で照準を
相手の胴体に合わせた。
驚きがこの場より声を奪ったのは、現れたのが佐藤友だったからではない。
返り血が視認できる程度にばらばらと上着に散っていたからだ。
張の警戒ぶりに佐藤友はホールドアップし、曖昧な苦笑いを浮かべる。
「すいません、名簿とそれから、禁止エリア、教えてもらえませんか?
寝過ごして聞き逃しました」
「あ、ああ…」
静かに語られる用向きに田崎が反応し、ぎこちない挙動ながらも名簿と地図を手渡す。
「ありがとうございます」
「返り血が」
「至近で撃ち合いになりましたから」
田崎の気後れ気味の小声の指摘に淡々と答える最中でも名簿と地図を書き写す手は
止まらない。
張は厳しい表情でそれを見ている。敵かそうでないかを見極めるような鋭さが
視線に強く匂う。
名簿と地図を写し終えると顔を上げて周囲を見渡すと、全員の訝しい視線も
その場の緊張も何処吹く風とばかり、誰もいない方向につかつかと歩み寄る。
「かわいそうに。誰も世話しなかったんだな、って当たり前か」
観葉植物の枯れた鉢植えが佐藤友の興味を引いたようだ。
枯れた葉に右手で触れ、しなびた葉の軽い感触を確かめる。水分も養分も空に
なっているのがわかる。
寂しそうにその茶色い葉や白く乾いた土に触れる姿に、全員意味が分からず
呆気にとられるが、中島がようやく元に戻る。
「それ、どれくらい置いておけばそうなります?」
「多少萎びさせたことはあるが、こうもきっちり枯れさせたことはないからなあ。
ま、夏の終わりくらいと予想しておこう」
いつもの温和そうに感じさせる表情と、その返り血がボツボツと飛んだ格好は
どう見ても不釣合いで、中島の表情は曖昧になる。
曖昧な表情のまま振り返り、階上を見上げる。足音と共に和田と後藤光が
降りてきていた。見回して新たな客が増えているのを確認し、その姿に他の
4人がそうだったように絶句する。
「そんな酷い格好してます?」
「鏡でも見るか?」
茶目っ気を感じさせる軽さで、佐藤友が言葉を失った和田と後藤光に話し掛ける。
和田は一階奥のトイレを指差しながら、言葉にやや呆れた感情を含ませた。軽く
笑ってトイレへ向かう後姿を見送るが、それらに和田は不気味な印象を受ける。
トイレから、ああ、こりゃ酷いと声がした。
「で、ごんちゃんはどうするんだ?」
とりあえず和田は後ろを振り返って、後藤光に聞いた。
「G.G.さがすんじゃないんですか?」
大島が割り込んでそう答える。大島に後藤光はあまり気乗りしなさげな返事をする。
「ん、それはそうなんだけど」
確かにG.G.を探しに行きたいと思っていたが、この状況を放り出してまで
すべきことかどうか計りかねて、後藤光の返事は自然と歯切れが悪くなる。
「G.G.さんが、どうかしたんですか?」
中島が首を突っ込んだ。
「いやね、すごく些細なことなんだけど、あいつ、ほら出発のときに何かもめた
のかどうかわからないけど、一度外に出たのにまたホテル内に戻ってきてさ。
俺が驚いていたら何故かG.G.じゃなくて俺が怒鳴られて別の出口に誘導されて、
まあそれでゲッチュと会えたんだけど」
意味がわからないとばかりに全員で首を傾げる。その場を行き交う疑問符を
押しのけたのは戻ってきた佐藤友の言葉だった。
「あいつ探してるんですか?」
「知ってる?」
後藤光の言葉に首を横にふる。
「いや、帆足が世話になったと、手当てをしてもらったと言っていたんですよ。
ここに来ていないのでしたら、もしかしたら帆足を捜しているかもしれません」
助けを求めるように見回すが、誰も口を開かないところを見ると、G.G.の
消息に関する情報はこれだけのようで、後藤光はつい渋い顔をしてしまう。
「じゃあ、あっちに向かってるんでしょうか?その、宮崎さんのところ」
後藤光の渋い顔に中島が自信なげに、そして若干申し訳なさげに言う。
「場所、わかる?」
あてにならないが聞かないよりまし、そんな思いを抱きながら後藤光はその正確な
場所を尋ねた。答えていいものか少し迷った中島が和田の意見を伺うようにその
表情を見る。その視線を受けて和田が口を開いた。
「場所は知っているが、無駄足になるかもしれない。行ってみるか?」
「修羅場になっているかもしれません」
やや面白がっているようにも聞こえる響きは佐藤友の口から発せられた。
その声に苛立ったのは和田だった。
「……帆足を煽りでもしたのか?止めろよ」
「あの様子じゃ聞き入れませんよ。それに煽ってはいません、ただ銃の使い方を
レクチャーしただけです」
「十分だド阿呆」
「心外ですね」
「いい加減にしてくれ、今は前向きな意見が欲しいんです」
売り言葉に買い言葉に近い言い争いは、田崎の苛立ちの混じる声に中断させられた。
そして、自分の荒げた声にバツが悪そうに田崎は俯いた。
「すいません。では前向きに情報の交換でもしますか?」
軽さを感じさせる佐藤友の口調はここに現れてからずっとなのだが、それらに
酷く胸騒ぎがする。彼はどこまで正気だろう?妙に陽気な横顔を注意を引かない
程度にちらちらと覗き見た。
「では俺からいきまーす。脱出のための船でも捜そうってことなんですよ。
上本さんが言ってたんですけどね、連れてこられたんも多分船なら、出て行く
ための船もどこかにあるんじゃないかって。でもそれが今のところ見あたらへん
のですね。港も2つあるんやし、この島に船があったのは間違いないんですよ。
でも見あたらへんってことはやっぱり全部片付けたんでしょうか」
中島の発言を聞き終えて、和田が言う。
「片付けられているんだろうな。でも逃げたかったら探しだすしかない」
「船を運転する人も必要ですね、俺は無理です」
和田の言葉を補足するように後藤光が発言する。
「船を運転できそうな人ですか、釣りとかする人ならもしかしたら出来ます?」
言いながら脳内に浮かんだのは細川の厳つい笑顔だった。人が死ぬたびに
可能性が削られていると感じ中島は溜息をつく。
「許は?釣り好きだよ。出来るかもしれない」
張が口をはさむ。意志の疎通は出来るが、日本語が堪能とは言えない彼だが、
釣りという単語に引っ掛かるものがあった。
「どこにいるんでしょうね」
大島の言葉はやや冷ややかさを含んでいたかもしれない。だが張はその色合い
には気付かなかった。かつての遭遇の気まずさに意識が向いていたせいだ。
「一度会った。気になるから探しに行く。そのつもりだったし」
「じゃあ張は許と船を捜してくれ、頼む」
和田の言葉に張は肯く。
「あの、質問があるんです。平尾さんを知りませんか?」
中島の話がひとまず終わるのを待って大島が質問する。
「最初に会ったな。話の流れで一緒に来るかと聞いたんだが、少し一人でいると
断られ、別れたっきりだ」
あんまり仏様みたいだもの、と言われたことを和田は思い出した。本物の仏がいる
なら今すぐこの衆生を救えるのにと、何度目かわからない嘆きに心を痛める。
「俺もそうでした。会えないけど一緒に帰ろうと、書置きだけ残っていて、
それだけでも俺に渡そうとしたみたいで、だから気になるんです」
ここに現れてからずっと元気のない大島だったが、平尾の話には饒舌だった。
きっと大島にとっては、平尾が残した書置きがこの死地での縋りつくよすが
なのだろう。
「まだ放送されてない。生きているよ、大丈夫だ」
「そうですね」
和田の励ましに大島は同意するしかなかった。その声には失望の響きがある。
励ますように後藤光が大島の肩を叩く。
「探しに行こう」
「でも…」
「俺のは、ついででいいよ。気になるからね、彼も」
「G.G.さんも気になりますよ、それでも」
先輩を立ててか、大島が遠慮がちに言った。
「じゃ、俺から。そろそろ首輪の考察でもします?位置確認はやっぱり
GPS受信機でも乗ってますかね?」
大島と後藤光が迷いに口をつぐみ話題が途切れたのを契機に、佐藤友は田崎に
話題を振った。
「まあそんなところかと思うけど、4つのGPS衛星から電波を受信できることが
条件になるのでね。起伏が激しく障害物の多い森の中などでは、電波が散って
しまって結果にブレを生じることがある」
「でも対策はしているでしょう?」
「いずれにせよ、決めうちするには情報が少なすぎるな」
「絞りこみが出来る段階じゃない、確かにそうですけど、そう、そうなんですよね。
参ったな。ところで電波を受信することが不可能な場所として、仮に主催の
知らない地下空洞やらがあったとしたら」
「圏外かもしれないね。地形条件としては、海蝕性の洞穴が空いている可能性は
あるんじゃないかな。探索する価値はある」
「そのパソコンの中身は何かありました?」
「圧縮がかかっているファイルがひとつ。暗号化ソフトもインストールされて
いるから、きっとそれで暗号化されたんだと思う。それから無線LANの
アクセスポイントがあった」
その話は全員の興味を引いたようだった。視線が集まるのを見て、田崎は少し
たじろいだが、すぐに話の続きを始める。
「可能性として、このシステムが無線LANで構築されているとか、ね。
それならばホストはおそらく本部にあるだろう」
「LANにつなげることは出来たんですか?」
「いや。WEPキーとIDがわからんからどうにもね」
その言葉に全員が表情を曇らせた。
「ちなみに、接続できたらどうなります?」
「LANに接続しているコンピュータが記憶している情報なら全て見ることが
出来る。どこまで情報がLAN上にあるかはわからん。常識的に考えれば重要な
情報はクローズドのシステムに放り込んであるだろう。それでも見立てが正しけ
れば首輪から送られてくる情報、首輪に送る情報はあるんじゃないか?」
ホストが、さらに外に繋がっている可能性も脳内にはある。賭けでも仕組まれて
いるのでは、その示唆が田崎にそう思いつかせた。
リアルタイムの情報配信は、賭けをより熱くするための重要な要素だ。
オッズの行方と対象者の状態といった情報がリアルタイムで外部に配信されて
いるなら、このLANに接続し、ホストコンピュータを踏み台に、外部に助けを
求められるかもしれない。
だが、それはここでは伏せておく。確信がないうえに、実行可能性も今のところ
低いからだ。慎重に行動すること。ここで学習したことだ。
だから田崎はそれ以上喋らなかった。佐藤友もさらに何かを問う気はないようだった。
二人の様子に、この場で交換したい情報が出尽くしたのを見て取って和田が再び
口を開いた。問わなければならないし、問いたいのだが、問わないほうがいいの
ではないかとも思ってしまう。
それでも結局問うのは、佐藤友が背負っている、どこか陰気で陽気なアンバランス
さがどうしても気になるからだ。
「で、友亮。それはつまり誰かと戦ってきた、そういうことか?」
「正津さんを。必要でしたので」
拍子抜けするくらいあっさり答えたが、その声には叱責に苛立ち強がる固さが
見え隠れする。
「なぜ、撃ったんだ?」
「撃たねば、戦わなければ誰かが死にます。俺は見たくないですよ、これ以上」
「そのために、さらに死者を増やすのか?」
「やけにこだわりますね」
「そうさ。お前がひどい顔色をしているからだ」
「そう?いやだなあ、婿にいけなくなっちゃいますね」
「冗談じゃないんだぞ…」
怒りを茶化すような言い方にこめかみを押さえる。頭が痛い気にさせられる。
やや強く言葉を吐く。
「いいから、案内しろよ」
「わかりましたよ」
不貞腐れ気味だが、同意は取り付けられたようだ。これでいい、和田は一度
目を閉じ、気合を入れる。
「みんなは悪いが先に行ってくれ。打ち合わせ通りJ‐3の集会場に、特に
やりたい事がない奴は頼む。こっちはヤボ用済ませてから行く」
「で、俺に何をさせたいんです?」
ヤボ用、それは佐藤友が正津を殺した現場に案内させることだった。
暗闇の中、倉庫を改造したような建物は、恐ろしいほど空虚で、外から差し込む
青っぽい街灯はさらに殺風景さを演出していた。
「なぜ人の死を悼んではいけない?」
「遠まわしな非難ですか?」
「違う、つまり和解かな」
わずかな明かりだけが頼りでも、血溜まりに沈む正津の遺体は痛々しく正視に
耐えない。今年一年の付き合いだったからと言って、こんな死に方をしなければ
ならない人間ではないことくらいは、野手である和田でも分かっていた。
「理解することが、必要なんだよ。うまくいえないが」
「彼はいかな理由があれ、人を殺したのです。それを見捨てておくわけには
いかない。捨て置けば、さらに死者が増えるばかりでそれは誰にとっても本意
ではないはず。仕方ないでしょう」
「お前の言い分は正しいよ」
正津の遺体の傍に膝をつき、両手を合わせる。
「だが、正津だって人殺しなんてしたくなかったろうよ。きっと誰にも言えない
深い理由があったに違いない、そう思えるだけの付き合いはこの一年だけでも
十分にあったろう?」
「理由があれば殺していいんですか?」
意地の悪い一撃に、和田は言葉を失った。殺す理由は全員にある、それを知って
いるからこその沈黙だった。和田の沈黙に、辺りに再び不気味な静寂が満ちる。
「揚げ足をとるな、そういう意味じゃない」
「言いたいことはわかっていますよ。殺しはやめましょう。話し合っていい手を
考えましょう。でもそれが通用しない相手がいるから貴さんは死ななければ
ならなかったのです位置をよく考えてください。正津さんが貴さんを撃った、
間違いないでしょう。見過ごせる要素ではありません。非暴力でこの場を治めたい
のならば、暴力を暴力によって除かなければいけない」
「矛盾している」
「矛盾しています。ですが、寛容は自らを守るためにすすんで不寛容にならざるを
得ないのです」
分かったうえで彼は血を流す。それは危険だと瞬間に感じ取る。
「許せないものはあるかもしれない。だが、戦うばかりではライオンズの全てが
失われてしまう」
佐藤友は和田の言葉に答えなかった。答える代わりに周囲の床の上を捜索する。
程なく拾い上げられたのは正津が携えていた拳銃だ。マガジンを抜き、ゆっくり
スライドを引くと装填されていた弾が1つ押し出されて床に転がる。
マガジンの残り弾数が0であるのを確認し、落ちた弾を拾い上げる。長い銃弾、
だがその半ばから先端は細く括れた形をした奇妙な弾を興味深そうに眺めてから
それをマガジンに押し込み、マガジンを再び拳銃に押し込んだ。それを和田に
差し出す。
「わかりました。ではあなたはその思いのまま、行かれるのがよいでしょう。
あなたの手は白いままだ。最後に必要なら、あなたがこの銃で、俺の頭を
フッ飛ばせばいい」
「だから力じゃ解決しないと!」
「理想でも解決しないでしょうね。力による相対主義は愚かだと言うけれど、
どんな場所でも、どんな場合でも通用する善やら徳やらが存在するという
考え方も傲慢につながります」
ああ言えばこう言う、どう言えと!内心ぐらぐらと煮え立つものを感じるが、
ぐっとこらえて和田は数秒考えた後、ようやく口を開く。
「ここで俺からお前にいい言葉を教えてやる。馬鹿になれ、だ」
「なるほど、それはいい言葉です」
声には当然だが、揶揄の色合いが濃い。和田は腕時計を見て仕切り直す。
時間はもう少しあった。
「じゃ、もう少し馬鹿につきあえ」
役所の中はもう誰もいない。いるのは死者たちだけだ。
「通夜は灯りを切らしてはいけない。蛍光灯ではあれだが、送ってやろう。
ついでだから、全部の部屋に灯りをともせ、時間はまだある」
和田にとって意味のある行為だった。笑われるだろうと思いながらの言葉だったが、
佐藤友の反応は違った。
「付き合いますよ」
階段を登る和田の背中に向けて、佐藤友はその提案に賛同する。
程なく階段を登りきる。
4階の会議室の床に安置した3名の遺体は、どうしても自分が責められている
ように感じ、だからこそ負けられないと、和田は気力をもう一度振り絞る。
その遺体の傍に佐藤友は歩み寄り、死に顔を凝視する。まるで何かを読み取ろう
とするように。そして志半ばで斃れた三人の傍に片膝をつくと、彼らの最期の
言葉に耳を澄ませるかのように、静かに瞑目した。
「悲しんでないわけじゃないです」
ぽつりと吐かれた言葉に、真実は宿っている。
「知ってる」
見過ごしかけていた彼の悲嘆に、和田は同意を示す。派手な同意は求めていまい。
彼なりの弔いであるのだろう。祈りを邪魔しないよう、静かに部屋を出て階下へ
向かい、全ての照明のスイッチを入れていく。皓々と白い灯りが建物を闇の中に
浮かび上がらせていく。蛍光灯の冷たい光の下、和田は祈りをこめて小さく呟く。
「ともしびを高く掲げよ。いまにも力尽きようとしたともしびに、もう一度
灯をともせ」
【残り33名】
ほしゅしとく
ho
>>85 新作乙です。
最後の和田の台詞が、相変わらず猫ロワっぽくて力強いです。
ほす
ほっしゅ〜
ほっ
681 名前:やまだ ◆S0PpiOdFao [] 投稿日:2008/02/26(火) 03:11:53 ID:NKr1jQz4O
みささんはG党ですか?気が合いそうですね(^C^)
684 名前:やまだ ◆S0PpiOdFao [] 投稿日:2008/02/26(火) 03:19:54 ID:NKr1jQz4O
みささんから熱いジャイアンツ愛を感じます!共にこれから頑張っていきましょう!!
906 名前:やまだ ◆S0PpiOdFao [] 投稿日:2008/02/26(火) 22:08:59 ID:NKr1jQz4O
おい、クソ虫!みささんに手を出したら私が許さないぞ!!汚い手を話しなさい
↑誤爆、すまん
ほしゅ
95 :
代打名無し@実況は実況板で:2008/03/11(火) 20:29:47 ID:X1Sk8dEXO
バトルロイヤル
96 :
238:2008/03/12(水) 10:22:05 ID:f+Sm3taq0
ほしゅ
ほしゅ
ほしゅ
捕手
ほ
ほっ
ほしゅ
.
>>76 100.運命の蹉跌
暗闇を照らす明かりを石井義は睨んだ。明かりはひとつまたひとつと増えていく。
理由は分からないが誰かが明かりをつけて回っているのだろう。
増える明かりを睨みながら脳裏を横切るのは何故自分がここで悶々と悩まなければ
ならなくなったのか、その行き違いの最初のひとかけらだった。
「最初に、左に曲がったらどうなってたんだろうなあ」
自分の想像に、なんとなく可笑しくなり石井義は小さく笑い声をあげてみる。
歴史にIFはないように、人生にもIFはない。だが、それがないからこそ、
その選ばれなかった可能性に想像力を逞しくさせるのだ。
石井義の想像力が彼に寄越したのは、最初に出会った光景が違う光景だったら、
自分はどうしただろうという埒もない空想だった。
そう、例えば。
明かりを睨みながら石井義は考える。
例えば最初に会ったのが、石井貴だったなら。
もしそうなら自分の行動は相当に変わっていたのではないか?
「んなわけないか。俺は早く帰りたいだけだし」
空想をあっさり却下する。そんな埒もない空想が浮かぶ理由は知っている。
「ま、何も考えずに殺れる人間を探そう。浩輔さんはちょい面倒だ、精神的に」
無理に明るく呟いてみる。そして自分の両の手を見つめる。
「拾った命だ、せいぜい派手にやろうぜ」
楽しげな石井義の言葉だが、その表情に笑みはない。
あるのは若干厳しさを含んだ真剣な眼差しだった。
その眼差しの向こう側で、明かりを残して建物から二人連れが出てくるのを
認め、時間を確認し一人頷くと、十分に距離をとって後を付け始めた。
口を噤んでの道行きは、居心地も悪いが気分も悪い。
それは、あまりにも意見が違いすぎるからだ。そんなとき、どうすればいい?
佐藤友は正攻法を取った。とことんまで話し合う。
「和田さん、あなたは最初に出会ったのは何だったんですか?」
「最初?」
質問の意図がいまいち掴めない、そんな反応を和田は返した。
「スタート地点出て、最初に出会ったものですよ」
「平尾に会ったな。今どこで何をしているのかは分からないが」
さっき役所の中でそう言っていたと、言われて思い出す。平尾のことを信用しきって
いるようだが、一度会ったその時に、一体どんな心証を抱いたのだろう?
「敵に回ってるかも、とか考えないんですか?」
心証を確かめようと佐藤友は和田に挑発気味の台詞を吐く。
「ありえない。絶対にありえない」
「どうして?絶対なんてありませんよ」
「なんでも疑えばいいってもんじゃない」
やや怒らせることを意図した佐藤友の発言に和田は明らかに不機嫌になる。
その様子に和田の平尾への信用を確信する。言葉にはし難いが白だと言い切れる
何かの心証を、その一度の遭遇で与えたのだろうか?
「なんでも信じることが良いとも限りません」
彼らの間に横たわる認識の差について、彼らは積極的に話し合わなかった。
ぱらら、ぱらららと遠くから散発的な戦闘音が響く。どこか間の抜けたような、
ともかく印象に残らない火薬の爆ぜる音は、この沈黙の合いの手としては及第点が
つけられるかもしれない。
「お前は?何だったんだ?」
一瞬、何を聞かれたのか分からず佐藤友は戸惑った。
そして、最初に問いかけた質問がそのまま問い返されているのだと気がつく。
瞬間、口の中に苦い味が蘇ったような、そんな渋い顔をした。
どう返事しようかと思案する間が二秒、婉曲な表現で佐藤友は答えた。
「死に際に家族や恋人を呼ぶっての、映画やら何やらの演出にはよくありますけど、
あれって本当なんですね」
彼らの間に漂う不穏な空気について、彼らは積極的に話し合わなかった。
「さっきの音が気になる。急ぐぞ」
「そうですね」
彼らの間で、ようやく意見が一致した。
言い争う声が響いている。感情的に苛立ちを叩き付け合う声だ。
明かりのない屋内、塗りこめられた黒の中に、自分も染まっているのだろう。
暗闇の中に塗り込められて、野田は目を閉じる。
真っ先に細川の断末魔の足掻きが、血の塊とともに吐き出される最期の息が、
その情景が閉じた瞼の裏で明滅する。
先程噛んだ精神安定剤の作用で、集中できない意識の中でも、刷り込まれた
罪悪感が軋みながら蘇ろうとする。
目を開く。塗り込められたような黒は目を開いてもそう変わらない。
蘇ろうとする感覚、だがそれに意識を集中できない。感覚が鈍り、全ての情景が
遠い。手袋越しに何かに触れるように鈍く、考えるということが出来ない頭に
聴覚が情報を伝える。
言い争う声は相変わらず響いている。この声に寝入りばなを叩き起こされたのだ。
「どうして寝かせておいてくれなかった…」
呻くように喉の奥で唸る。そして武器を取り上げ外へ向かった。
何が発端だったのかと考えるなら、高校ではサッカーをやるつもりでサッカー部が
強い高校に(わりと努力して)行ったにも関わらず、何故か野球部に入部届けを
出されていた(担任の仕業だ)のが、ここに放り出される運命の発端なのだと思う。
ならば、この意地っ張りの同行者が普段にも増して強情なのは、きっと殺人者に
会いすぎなのが、発端なのだろう。
溜息をついて、藤原は星に尋ねた。
「何人目よ?」
「三人目」
涌井がゲームにのったなど、信じたくないのは藤原も星も同じだが、それは
その知らせを持って来た松坂とて同じだろう。赤田のどこか案じる目線を受け
ながらも、ひどく冷たい声でもたらされた知らせは、星をさらに依怙地に
させたようだ。
ひとまず身を隠そうという藤原の提案にも耳をかさず、むしろ一人で先に
行くと言って聞かない。
ふくれっ面の星を藤原は扱いかね、そして遠慮がちに言う。
「いくらなんでも自分、運が悪すぎや。ぶっちゃけ、よく生きてる思うわ。
ちょっとばかり大人しくしとるほうがええんちゃう?」
「藤原だけ、そうすればいいだろ。一人で行ってくる」
かみつく勢いで星がくってかかる。
「やから、危ないからやめとけって」
「うるさいな、いいだろ、別に」
「よくない」
「なんでさ!だいたい、僕一人のほうがよほど身軽に動けるんだって。まだ、
膝庇いながら歩いてるじゃんか、お前」
「確かにそうやけど、一人で行くってもっと危ないやんけ」
「だから!一緒に来ないほうがいい。多分、そういう」
激しい光が藤原の視界を染める。
星の言葉がかき消える。
マシンガンの咆哮だけが世界を蹂躙する。
そして意識がふつりと途切れた。
目が覚めたら全てを一人でやる手筈だった。野田はどこか清々しげだ。
「やれば出来る、そう、出来たじゃないか」
うるさい話し声も今はもう沈黙している。寝直そうかと一度横になったが、
眠気はあるが妙に興奮した神経のせいか目は冴えてしまっている。
眠いのに眠れない苛々に、とうとう眠ろうという方針を諦め、どこかに移動
しようと荷物を纏める。
「必要なもの。武器、水、食料、そして良く効く薬。ああ、大丈夫。
今の俺は気分がいいんだ」
カバンにそれらを詰めて、そして残った山崎の支給品をうろんげに見つめた。
「これはいらないな」
山崎の支給品をその場に置くと、左右を見回す。
「どちらに行こうか、あれ、うまく決められないな、どっちでもいいのに。
でもどっちでもいいから困るんだよな」
それでも野田はふらふらと外に出た。足の向くままに、さらに南へ。
「もういい、星。一人で行きや」
「黙ってろ」
藤原の肩を抱いて、引き摺るように道を行く星の姿があった。
野田の襲撃は星と藤原にいくつもの銃創を残していった。そして、特に深い
傷を受けた藤原は自力で歩くこともままならず、半ば引き摺られる形で前に
進んでいた。
星の上背も決して低いわけではないが、藤原の上背はそれをさらに上回る。
よって随分動きにくそうに足元をよろけさせながら、それでも星は黙々と
藤原を運ぶ。
「なあ…」
「這ってでも連れて行く。無駄口叩く暇があるなら、もっとちゃんとつかまれ。
さっきから落ちそうだ」
きっぱりと返事をする星の声に根負けした気分で、藤原は空気の塊を吐いた。
鉄の味がするのは血が幾許か混じっていたのだろう。
置いていってくれたほうがむしろ楽なんだが。そう言おうかと思ったが、
藤原はもう何も言わないことにした。
どうせ助からないなら気の済むようにさせてやりたいし、助からないのなら、
誰かに看取ってもらうほうがいい。
「おい、大丈夫」
返事のない藤原に怯えたように星が焦りを見せた。
「平気、べっちょない…」
「いいか、絶対に見捨てないから、だから、歯ぁ食いしばってこらえろ、
絶対助けてやるから」
「痛いのいやなんやけど…はよお迎え来んかいな……」
「じゃあ今からマゾに宗旨替えしろ、そうすれば楽しいぞ」
「自分がマゾやからって、押し付けんなや……ったく」
「馬鹿言うからだ。僕も頑張ってるんだから、お前も頑張れ。でかい図体
担ぐの大変なんだ。むしろ、その上背ちょっとでいいからくれよ、5センチ
くらいで許してやるから」
頬のあたりが濡れる。涙が落ちて、頬を濡らしているのだ。そしてようやく
気がつく。星の声が震え、涙声になっていた。
(無理しとったんやな、こいつなりに。そりゃあんなん見てたら無理もするがな)
今にも死ねそうな痛みは藤原の全身を苛んでいる。それでも必死で声を絞り出す。
「ああ、もうちょっと頑張ってみるわ…」
「その意気やよし、よくわかってるじゃないか」
星の声は涙で湿っている。隠しようの無い滂沱の涙が流れて止まぬ川のように
とめどなく頬を流れた。
(まあ無理っぽいけど、こいつのために、もう少し、一分一秒でも、この痛み
が続くように、痛さ感じんようになったら、お陀仏や)
涙は涸れず、藤原の頭から頬へと流れていく。頬に落ちかかる涙は外気に冷やされ
既に冷たい。塩気を含んだ優しい雨は血と泥に汚れた頬に幾筋かの流れを描く。
「しかし、ホンマ、痛いわ……洒落ならん」
痛覚をこらえて吐き出した声は明らかに弱弱しい。星は声に答える代わりに
藤原を支えている腕に力をいれるとその上背のある体を必死に支えてまた
一歩、一歩、と歩みを進める。悲愴感がその歩みに、その表情にあふれている。
星の肩に頭を預け、半ば引き摺られながらの道行、出血で薄れ行く意識に、
痛覚ももう鈍く、残り時間もあとわずか、死期を悟った藤原は最期の時を
待ちながら無言で祈った。
(青木さん、こいつは頑張ってます。せめてこいつだけでも、守ってやってください)
前屈するような姿勢で腕を優雅に曲げ、長い髪を地面へとだらりと垂らした
石の肌の裸婦が、ホールの正面玄関に無言でたたずんでいる。
建物の壁面の一部は幾何学模様で装飾され、カラフルな印象を与える。
実用的な意味を持って配されたとは思えないコンクリートの壁や柱に囲まれて
建物は鳥が翼を広げたような姿でそこでひっそりと息を潜めていた。
地元出身の芸術家がデザインを担当した、というようなことが役所にあった
パンフレットに書かれていたことを和田は思い出す。
正面入り口になるガラスの扉の向こうは暗闇で、そこに連なる10段くらいの
タイル貼りの階段の下、皆が首をつき合わせている。
「外で待ってる?」
「何かありましたね」
近寄る二人に少し離れた位置にいた大島が気がついて軽く会釈して近付いてくる。
「和田さん、ちょっと。ええ、見ればわかりますけど……」
大島は口ごもる。連想されるのはさらなる惨事で、和田は大島の肩をねぎらいを
こめて軽く叩いた。
そして大島が口ごもった事態はすぐに目の前に現れる。
行き倒れたルーキーが二人、星と藤原だった。
「具合は?」
容態を見ていた中島に和田は尋ねる。
「藤原はさっき、もう。星はひどく熱っぽくて、意識があやふやです。
傷も多いし…」
「感染症か何かだと厄介だな。ともかく中に運ぼう」
後藤光に目配せし、星を運ぼうと和田が腕を伸ばすと、それを振り払うような
仕草を星が見せた。その腕が何かを探し求めている。
それが意図するところに、皆が顔を背けた。
「運ぼう」
首を軽く一振りし、佐藤友が中島に声をかけた。二人掛かりで担ぎ上げた藤原は、
穏やかな、どこか笑みにも似た表情を浮かべたまま死んでいた。
担いだ重量が肩にのしかかるのを感じながら、佐藤友は疑問に上の空になる。
なぜ、そんなに穏やかな表情をしているのだろう?
彼は一体何を感じながら死んだのだろう?
一部始終を遠くから眺めて、石井義は考える。
状況はよく分からないが、どうも怪我人を運び込んだようだ。足手まといを
わざわざ抱え込む、あの様子なら一人でも何人かは殺れそうだ。
ならばどこから侵入しよう?慎重に考えるんだ。
獲物を狙う肉食獣を彷彿とさせる足取りで、石井義は建物の外周を調べ始めた。
【×藤原虹気(63) 残り32名】
職人さん乙です!!
野田、壊れちゃった…?
乙&100話目オメ!
藤原……そして大集団にまたピンチ到来……
ここはサクサク人が減ってくから怖いよ…
保守
hoshu
114 :
代打名無し@実況は実況板で:2008/03/22(土) 09:26:11 ID:SCoenw8Y0
バトルロイヤル
hoshu
保守
保守
保守
保守
ほしゅ
ほしゅ
>>65 【118】お荷物
「よっ……」
民家にあった、大きめのバケツに水を張る。
まだ日の昇らない早朝の空気は冷たかった。
辺りは薄暗いが、周囲を判別出来る程度には明るい。
特に沼の周りはひんやりとしていて、前田幸長(G29)は軽く身震いをした。
いっぱいのバケツを持ち上げた拍子に溢れた水がかかり、冷たさに身をすくめる。
「俺、なーにしてんだろ……」
朝から不要な肉体労働を行っている自分に、前田はふと自問してしまった。
早朝なのか真夜中なのか、とにかくむやみやたらに早い時間に、前田幸長は部屋
に蔓延する血臭で起こされた。
慣れない悪臭に、頭痛すら伴ってくる。
原因は、昨日拾ってしまった一人の男。
その男が放つ血の臭いに辟易しているものの、限られた飲み水を使うわけにも
いかない。
沼の水で身体を洗おうと、わざわざF−5まで歩いてきたのだが、昨夜はもう
遅かったし、疲れ果てていたのでそのまま眠ってしまった。
こんなことになるなら、疲労困憊の身体に鞭打ってでも昨日のうちに洗って
しまえば良かったかもしれない。
そう後悔すらさせるほどの酷い臭いだった。
――それは、絶海の孤島に放り出され、さて今から皆さんで殺し合ってくださいと
言われた一日目の夜。
月が見えた。しかしそれに一片の風情も感じないのは、自分が風情を感じられる
姿勢にいないからだと前田は思った。
そもそも空を見上げているつもりはないのに、目の前に月があるということ自体が
趣を感じない原因だろう。月は見上げるからいいものだ。
要するに前田は、勾配の急な山を這うようにして登っているのだ。
右足を前に出すと、スパイクの刃にかかり損ねた泥石が崩れ落ちていった。危うく、
足を取られそうになる。
(まったくロクな目に遭わねーなオイ)
前田幸長はただひたすらに己の不運に悪態をついていた。
朝には桑田が江藤を殺害する現場を目撃し、昼にはよく分からない爆撃に巻き
込まれ、夕方にはいきなり茂みの中に引きずり込まれ刃物を向けられたかと思うと、
なんだかよく分からないうちにあやうく銃弾の餌食になるところだった。
こう並べて見ると、やはり前田幸長は実に運のない男のように思える。
夕方に出会った小久保裕紀(G6)とはものの10分ほどで別れた。
なんだか寂しい話だが、小久保には会いたい人物がいるらしい。
2年間とはいえ同じ球団でプレーをし、彼の人柄には信用を置いているつもりだ。
先の小林と違い、彼なら同行しても良いかとも思ったのだが、彼との会話の端々
に、あまり自分を巻き込みたくないというニュアンスを遠回しに感じた。
向こうにその気がないのなら仕方がない。互いの健闘を祈りつつ別れた。
束の間のまともな人間との会話に少しだけ心が温まり、さてどうしようかと前田
が夕焼けを眺めながら出した結論は――
(もう山に登ってしまおう)
人がいないところに行きたい。半分は意地だった。
手を汚したくはない。だが生き残りたい。
そんな思いを抱き、生き残るためにはどうすればいいのか。
前田は人のいなさそうなところで身を潜めることを選択した。
(こうなれば意地でも人が来ないところでじっとしてやる)
そのために移動しているということ自体が思う壺なのだとは、前田は気付いていない。
つかの間の見事な夕焼けも身を潜め、すっかり夜の帳が落ちた頃、前田は思って
いた以上に急勾配の山を選んでしまったことを後悔し始めていた。
(本気でロクな目に遭わねー!)
そして、上記の悪態である。
「道……?」
道と言うにはあまりにもお粗末だが、ようやく人が通れそうな小道に出て、前田
は少しだけ胸を踊らせた。
山の中に道がある。イコール、山小屋があるということだ。多分。
意気揚々と……というにはかなり体力が落ちていたが、それでも気持ちだけは軽く
前へ踏み出そうとしたところ――
藪の中、一瞬、奇妙なものを見た。
奇妙なものというよりは、色だ。
自然界に有り得ない色。
いや、もしかしたら南国とか、熱帯雨林の奥地とかに行ったらあり得るのかも
しれない。
すくなくとも日本か、日本に近い場所にあるらしいこの島では有り得ない。
つまり、蛍光ピンク。
「なんだぁ?」
見に行くべきではないのかもしれない。しかし激しく心惹かれ、前田はつい、
そちらの藪の方に踏み込んでしまった。
蛍光ピンクは暗い森の中でも激しく己の存在を主張していて、見失う恐れはなかった。
近づくと、蛍光ピンクの横に、白っぽいものが倒れていることに気付いた。
一瞬、死体かと思った。
「仁志……?」
恐る恐る近づくと、それは同僚の仁志敏久(G8)だった。
触ってみると暖かい。呼吸もしている。どうやら気絶しているようだ、と理解する。
理解したところで、なんでここで蛍光ピンクの物体の傍らで仁志が気絶している
のかまでは勿論推察出来ないが。
遠慮がちに懐中電灯で照らすと、白いユニフォームを汚す凄惨な赤が目に入った。
蛍光ピンクは仁志の手に握られていた。
もさもさしていて何かよく分からない物体だ。
前田は仁志の傍らにしゃがみ込み、それをつついたり指先でこすったりしてみた。
そしてようやく理解する。多分、アフロのかつらだ。
もう片方の手には、血のこびりついた洋剣が握られていた。
血まみれ泥まみれで剣とアフロを握り、山の中に倒れている男。尋常ではない。
周囲に明かりを巡らすと、仁志の倒れている場所から山頂に向けての直線上に、
いくつか血痕が確認できた。さらには茂みが潰れ、枝が折れている。
勾配を見上げると、ある地点から空が見えていた。頂上かは分からないが、拓けた
場所があるらしい。
あそこから転がり落ちてきたのだろうか。
「一体あそこで何が……」
心拍数が上がる。緊張と不安が胸の内を交錯した。見ない方がいいのかもしれない。
そう思いながらも、前田は小道を登り頂上を目指していた。
(小屋だ)
視界が開けた場所に一歩踏み込み、前田はその場所の異常さに気付いた。
まず、臭い。鉄臭いニオイと、何かが腐ったようなニオイ。
用心深くあたりを探るが、人の気配はない。
ユニフォームの袖で鼻を覆い、前田は辺りを照らした。
「うわ……」
思わず、声を漏らす。
地に蔓延る大量の血はすでに乾いていて、赤茶けた土にどす黒い色を染み込ませていた。
凄惨な光景だった。
地面には二つの死体が転がっていた。
一人は片岡篤史(T8)、もう一人は清水隆行(G9)だった。
(仁志が殺したのか?)
仁志が清水を殺すなどということがあり得るのだろうか?
そんなはずはない。直感的に、前田は己の問いかけを一蹴した。
01年のオフにFAで巨人に移籍してきた前田から見ても、二人の間には他には
ない絆が存在した。――と思う。
プライドが高く他人と馴染みにくい仁志は、外様ながら持ち前の明るい性格ですぐ
にチームに馴染んだ前田とは対照的だ。確かに、誰とでも仲良く付き合えるタイプの
人間ではないが、悪い人間ではないと思う。
そんな彼の側には、なぜかいつも清水がいた。
仁志が清水を殺すとは思い難かった。
(だったら――)
片岡の横に転がる血塗れの斧。
清水の背中に広がる惨い切り傷。
仁志の握る短剣。片岡の胸の刺し傷。
それだけを見れば、おおよそそこで何が行われたのかは予想がついた。
想像を巡らすには、あまりにも悲惨なストーリーが脳裏を過ぎる。
(どうする?)
前田は胸の内で自問自答した。このまま放置して去ることも出来る。
だが……
「くそっ……」
自分の人の良さに悪態を付き、前田は今しがた登ってきた坂を駆け下りた。
「おいっ、仁志! 俺だ! 生きてるか!?」
同僚のよしみだ。助けないまま死なれてしまって、枕元に立たれても迷惑だ。
抱き起こし、頬を叩くと、仁志がぼんやりと目を開けた。
「…………」
焦点の合わないうつろな瞳。短い質問を投げかけ、なんとかコミュニケーション
は取れることを確認する。
肩を貸し、立ち上がろうとしたところで、前田は仁志が放つ悪臭に顔をしかめた。
見たところ本人には出血はないのに、頭から血のシャワーを浴びたような状態だ。
死人のような悪臭を放つ彼と行動を共にするのは、かなり辛い。
「とりあえず、身体洗った方がいいな」
手持ちの飲料水では気休めにもならないだろう。服もドロドロだし、どこかで着替え
なければいけない。
「確か近くに湖が……」
民家もあったはずだ。
「ああそうか、C3が禁止エリアになったから、大回りしなきゃなんないか」
前田が舌打ちする。面倒くさい場所を指定してくれたものだ。
「ちょっと遠いけど、南の方に沼があった。あそこまで行こう。海水は嫌だろう」
行く途中で服を調達した方がいいだろう。
「ってことは……また戻るのかよ」
せっかくこんな山の奥まで来たのに、とんだ骨折り損だ。
今日だけでも移動距離は相当なものだろう。
(オフで鈍った身体を動かすための12球団合同サプライズトレーニングか?)
腹は立つが、ホンモノの殺し合いよりは大歓迎だ。
無論、江藤の殺害現場を目撃し、正体不明の爆撃に遭い、小林にナイフを突きつけ
られた上狙撃された前田である。
これをどっきりだと思うほどお気楽な性分は、残念ながらしていない。分かって
はいてもそんな戯れ言を叩きたいほど精神は疲弊していた。
前田が自分の運の悪さに内心悪態をついていると、肩を担がれている仁志が数言
放った。
「沼も嫌。汚い。シャワーがいい」
「わがまま言うな」
あまりしゃべろうとしないくせに、妙なところだけ口達者だ。
「動きたくないのか?」
「…………」
「ここにいても、何もないぞ」
(何をふてくされているんだ、こいつも)
無言では何も分からない。
子供のように口をつぐんでしまった仁志に天を仰ぐ。元々、なかなか扱いが
やっかいな人間ではあったが。
「こんな血なまぐさいところに、いつまでもいたって仕方がないだろう」
「ちょっと待って」
強制的に動こうと足を踏み出したところで、仁志のストップが入る。
「荷物」
「何?」
「荷物取ってきて」
「は?」
先輩に対して、命令してくる仁志に目が点になる前田。
そもそも、今自分を担いでいるのが前田幸長だと認識しているのかどうかも怪しい。
「荷物……って、あの山小屋の中か? なんかあるのか」
「食料もあれば、飲み水もある」
そういえば、今の仁志はアフロと洋剣以外は何も持っていない。
あー。と曖昧に納得した声を出していると、血まみれの仁志が顔を上げ、どこか
無感情な視線を向けてきた。
「あんたが養ってくれんの?」
(いやなこった)
どこまでも不遜な態度の仁志に、内心助けたことを後悔する前田。
この状況でこうなのだから、地がこうなのだろう。普段とあまり変わらない。
「そりゃそうだが……」
俺がパシルのかよ、と思いつつ、当然のように命令してくる仁志に文句を言うのも
面倒くさくて、一端彼を道の脇に座らせて小屋へと引き返す。
山小屋の中には二つのデイバッグが置かれていた。
寄り添うように並んだ二つのバッグが、清水と仁志のものだろう。
二つ持ち歩くのは辛いので、片方の荷物を全て片方に移してしまうことにする。
荷物を選別しながら移動させていると、意味の分からない鼻眼鏡やタスキが出てきた。
仁志が握りしめていたアフロの親戚だろうが、邪魔くさいのでここに捨て置くことにする。
地図や名簿は一応放り込み、一つにまとめたバッグを担いで前田は小屋を出た。
小屋を出たところで、立ち止まる。
「清水……」
嫌でも目に入った同僚の遺体に、前田は瞑目した。黙祷するぐらいしか、今の前田に
出来ることはなかった。
(いや、もうひとつあるな)
仁志を救うこと。それは目の前の死者が、最も望んでいることなのではないかと前田
は思った。
生前の清水の顔が過ぎる。
「お前は、仁志と生き残るつもりだったんだろうな」
血の乾いた地面に膝をつき、死に顔を整えてやる。
突然襲いかかった悲劇を、彼が予想していたとは思えない。
不自然な体勢で片岡の方を向いた清水の手は、何かを引き留めるように伸ばされていた。
この世界に遺したものがある。一目でそう分かる死に様だった。
赤く染まった背番号。辛うじて読める『SHIMIZU』の文字。
「同僚のよしみか……」
『よしみ』でどこまで付き合うことになるのだろう。
(まったく、ロクな目に遭わねーな)
本日何度目かの嘆息をし、前田はかわいげのない後輩が待つであろう坂の下に足を向けた。
『お願いします――』
「え?」
何か聞こえた気がして、前田は一度振り返った。
もちろん、そこにあるのは二つの魂を持たない器だけだ。
整えてやった清水隆行の死に顔はえらく穏やかで、笑っているようにも見えた。
【残り44名 年俸総額98億900万円】
乙です!!!
清水・・・・
あぁ、もぉ・・目の前が霞んできてキーボードがみえん・・・
これは泣ける
仁志がんばれ、ついでに前田も
久しぶりに仁志キタ!
前田・・・いい人だ・・・。
二人とも生きてくれ・・・。
132 :
代打名無し@実況は実況板で:2008/03/30(日) 23:59:49 ID:t1hQlF9n0
battle
乙!!
死んでなお心配する清水にも、アフロを手放さない仁志にも泣いてしまう。
あと前田の苦労人ぶりにはちょっと同情する。二人とも死なないでくれ!
保守
新作期待ほしゅ
wktk保守
ほしゅ
138 :
代打名無し@実況は実況板で:2008/04/04(金) 23:51:12 ID:R5I0w4Pj0
b
a
hosu
保守☆
ほしゅ
ほしゅ
hoshu
ほしゅ
146 :
代打名無し@実況は実況板で:2008/04/12(土) 11:30:45 ID:LWFiq15VO
保守あげ
今頃ビリバト読んだ。
泣いた。
コルもニシタンも地味の分までい`
bt
>>103 101.涙を流す夜もある、でもそれだけじゃないから朝が来る
諦めようとして、それでも諦めきれない焦燥、それにじりじりと焼かれる心地で
柴田は暗闇の中で息を潜めている。
僅かばかりの許との会話の後、再び眠ろうと横になりはしたものの、眠気は
訪れを告げず、ただただ無為に時間が過ぎるばかりで、そんな状況にいつしか
気付かないうちに爪をかんでいた。
「駄目だな」
声に出すと情けなさはいや増して気分を塞がせる。
「なすべきことを成したい、か」
少しだけ言葉を交わすことになった許は、緊張のせいか少したどたどしい日本語を
操りながらも、それでもきっぱりと、誰にも翻させることの出来ないだろう意志を
あらわしてここを去った。
言葉のせいだ。柴田は眉をしかめる。
その言葉が、あまりに美しいから。
石井貴の宣言が、あまりに美しいから。
だから、何かしたいでも何もしたくもないと、激しい葛藤に焦燥を煽られるのだ。
「だからって、何をすりゃいいんだよ!」
言い訳がましい響きはどうしても隠せない。耳を塞いで丸くなり、柴田は再び
眠ろうとする。
焦燥も葛藤も去ってくれなかった。昂ぶった神経に目頭に熱が集まり、流れた。
呻きには恨みがましい響きが混じる。
「明日なんてこなけりゃいいのに」
それでも騒々しい音が鳴り響き、新しい一日が来てしまったことを知る。
失いたくなかったものが、また多く奪われたことも。
西からの季節風が強く吹いていた。海から吹く風は潮の香りを強く含んでいる。
柴田は林の中を足元に注意しながら進んでいた。
耳を立てて周囲を警戒する草食獣のように、感覚を研ぎ澄ます。
風の音のなかに不審な音は混じらない。岩に砕ける波の音と木々を揺らす風の音だけが
闇の中にこだましている。
ひとつだけ思いついたことがあった。柴田はそれを実行しようとしていた。
そもそも謎だったのだ。
ここに集落跡のようなものがあったなら、この付近に船着場がありそうなもの。
だが、昼間歩いた限りではそのようなものは見当たらなかった。
あまりに粗末なせいで見落としたのかもしれないと、そう柴田は思っていたが。
木々がまばらになり、その向こうに果て無い漆黒の海が見える。
懐中電灯で光を投げかけてみても、頼りない光はすぐに暗闇に吸い込まれてしまう。
石くれが目立ち始めた地面に注意しながら進む。樹木は途切れ、荒れた地面には
雑草だけが我が物顔で、潮風になぶられながらも繁茂している。
そんな中でも雑草があまり生えていない箇所が道のように続いている。
それが本当に道の痕跡なら、やはりここには何かあったのだ。
柴田はそれを確信し、さらに注意深く周囲を散策する。
海面へと傾斜がかかっているのが分かる程度に傾いた荒地を、下へ降りられそうな
場所を探して地図と引き合わせながら、雑草の生えていない場所を中心に海岸沿いを
歩き回る。
「この辺り……」
獅子の頭を思わせる島の、その鼻先の出っ張りの辺りより北側、その影に
ひょいと隠れていた小さい忘れ去られた入り江が眼下にあった。
昼間は満ちていた潮は引いて、海に沈んでいた砂州が顔をのぞかせている。
下りられる。閃いた事実にやや早足で坂を下る。下りきった海岸沿いには、
いったいどれだけ放置され続けてきたのかわからない、ただコンクリートの板を
渡しただけの簡素な船着場があった。
そんな入り江の小さな船着場の奥手に、波に削られた洞窟が口を開けている。
暗い洞窟はすぐに行き止まりになるが、その奥には船が一艘係留されている。
思いがけない発見に柴田は息を呑み、しばし立ち止まった。
動くかどうかはわからない。だが、ないよりましだ。沈んでいないということは、
船体に穴が空いているなどの致命的な欠陥はないのだろう。
運転できないのは問題だが、いざとなったら挑戦すればいい。簡単ではないにしろ、
ヘリコプターや飛行機を操縦しろと言われるよりは簡単な筈だ。
問題は潮汐だ。満潮時にはここに下りられるかどうか怪しい。
(潮汐表とかどこにあるだろう?港とか、ああ釣り具屋にあるはず)
潮が満ちていて下りられない可能性も考えれば、ロープの類も欲しい。
(潮汐表、それとロープ)
とりあえず必要なものを脳内で確認し、地図を見直して渋い顔になる。途中が通れない
ことを思い出した。切り通しの崖は崩れていて、ここから港に行くのなら、一度ゴルフ場
付近まで林の中を通り抜けてから、集落の中を南西へと行かなければならない。
時間がどれだけかかるかわからない。また、集落は人が集まっているであろう分、
危険も考えられる。
(遠回りするか、それともこの潮が引いている間に、この砂浜を渡るか)
砂浜が南へと、港の方角へと続いている。崩れている崖の部分だけでも、この浜辺を
通り抜けてやり過ごすことができれば、港への近道になるかもしれない。
(時間が惜しい。行ってみよう)
砂をさくさくと踏みながら、急ぎ足で歩き始める。
やがて砂を踏むさくさくと鳴る軽快な音が、駆け足のテンポを刻んだ。
しかし潮騒はそんな足音も足跡も、何もなかったように掻き消していくのだった。
【残り32名】
>>151 職人さん乙です!
脱出フラグktkr!?
ほ