今回は落ちないといいですね
乙です保守
乙
水口は「マンデリンSuper-G1」を飲みながら、田中を見送った。
水口にも気づかないほど、田中は新しく見つけた自分の世界に入り込んでいた。
テレビの画面を通して、田中の行動を見守った。野生に戻った姿と言えばいいのだろうか。
人間の闘争本能、そんなもの全てが田中の全身から立ち上っていた。
恐らくそこが中村と田中の違いだったのだろう。
中村は闘争意欲と怒りで戦った。
田中は生存本能と危機感で戦った。
(俺は、どうなるかな)
ミルクを一滴も入れないコーヒーを飲み干し、カップをソーサーに戻した。
「ごっそさん」
立ち上がる。まだ残りがたっぷりある砂時計をカウンターへと差し出す。
「あれ、もう出発ですか?」
「ああ、ここのご休憩は1時間が限度だろ、時間は大切に使わにゃ」
「大久保と同じ考え方ですね」
「あいつもここに来たのか」
「ええ。少し前に」
悪びれもせずに、相川が答える。
「相川」
「はい」
「お前のメリットはなんとなくわかる。でも、外人勢のメリットは何だ?何でこのゲーム
の運営に協力してるんだ?」
素朴な疑問を投げかける。相川は呆れたように笑った。
「そんなの簡単じゃないですか」
水口を見つめる。
「楽しいからですよ」
【残り・35人】
特別なものはいらない。人を殺すには、それなりの意志があればいい。
右手に持つ、三叉の槍。なんとそれが自分に不似合いなことか。しかしそれが自分に与え
られた武器。そして、谷から奪った黒帯。帯はポケットにしまった。少しだけ頭を出して、
いつでも引っ張り出せるように。
林の中。少し霧が出てきた。視界を遮るというほどではないが、こういう風景の中だとか
なりの雰囲気を醸し出してくれる。殺し合いの風景には、ちょっと効果的な演出だ。
今、香月の目の前に、背中を向けている間抜けな人物がいる。後ろから敵が近づいて来て
いることにも気づいていないのだろう。
(どうする?)
殺す目標は元ブルーウェーブの選手だ。そして、今目の前にいるのは該当する人物。
背番号54。
(どうする?)
少し離れた木陰に隠れたまま、香月は嶋村の背中を見守っていた。嶋村は地面にしゃがみ、
身を屈めていた。もしや眠っているのだろうか。
(まさか。こんな昼間に野外で。いくら嶋村さんでも……)
すると突然嶋村が顔を上げた。
「恵一さん!」
小声でそう呼んだ。木々の間から出て来たのは、肩で息をしている平野恵一だった。
(なんだ、俺、追い抜いてたのか。探してるつもりだったんだけどな)
嶋村が駆け寄る。何事かを話している。平野はペットボトルの水を飲むと、嶋村に答える
ようにして何かを必死に話し出した。何度も背後を指差す。そちらに行こうとする。それ
を慌てて嶋村が止めている。
(恵一さんならまだ体調が完全じゃない。簡単に消せるな)
平野が嶋村の腕を掴んでグイグイと引っ張っている。嶋村がそれを拒否する。
(さっき俺から逃げ出したばっかりなのに、運の悪い人だよな……でも、何やってんだ?)
とうとう怒り出した平野が両手をブンブン振って力説し始める。しかし微動だにしない嶋
村に諦めたのか、肩の力を落とすと元来た道を小走りに去って行った。
(意見が合わなかったみたいだな)
香月が矛を持ち直す。
(さて……)
前へ出ようとした時、霧の奥でキラリと光る何かが見えた。香月は慌てて再び身を屈めた。
途端に一発の銃声が鳴り響いた。ガクンと嶋村の右肩が揺れる。慌てて左手で肩を押さえ、
周囲をキョロキョロと見渡した。そしてどこかへ走り出そうとした瞬間、再び銃声がした。
一瞬、嶋村の動きが止まる。ガクリと膝から崩れ落ち、そのまま地面にうつ伏せに倒れた。
香月は地面に這いつくばるようにして息を潜め、目だけで辺りを見回した。
逃げた方がはるかに安全だが、敵をこの目で確認しておきたかった。
やがて、霧の中から人影が現れた。右手にライフルを持った小さな影と、それより少しだ
け高い影。
「2発目でキチンと当たったみたいですね。この道のプロじゃないから仕方ないか」
少し興奮した口調で本柳が告げる。
「でも2発目はキッチリ命中させてますよね。川越さん、さすがっス」
後ろからライフルを持った川越がゆっくりと現れる。その表情はどこか虚ろだった。視線
が揺れている。どこを見ているのかわからない目。
(川越さん………変だな)
本柳が嶋村の鞄を取り上げる。中に手を突っ込み、ゴソゴソと漁った。
「武器は鞭かぁ………説明書あるけど、俺には無理かな……川越さん、ライフル下さい」
川越はやけに素直にライフルを差し出した。本柳は代わりに鞭と取り扱い説明書を川越に
渡した。
「説明書読んで、使えるようにして下さいね。じゃ、行きましょうか」
川越に向かって手招きをする。川越は説明書を読みながら歩み寄った。
「川越さん、また新しい敵がいたらお願いしますね」
敵、という言葉に反応したのか、川越がピクンと顔を上げる。その顔の向きが調度香月の
居場所とぶつかった。霧がなければ目が合っていたかもしれない。さっきまでのうつろな
ものとは全く違うその鋭い目つきに、ゾクリと寒気が走った。
本柳と川越は、再び霧の中に消えて行った。
約1分ほどしてから、ようやく香月は倒れたままの嶋村に歩み寄った。まだ右手がもがい
ていた。微かに命が残っているようだ。即死ではなかったらしい。出血が酷い。
足元に一枚の白い紙が落ちていた。マジックで何か文章が書かれている。飛ばないように、
小石で押さえてあった。
「………ふん」
そんなものに興味は無い。ましてや元ブルーウェーブの選手を助ける義理などない。
そのまま香月は歩きだした。
平野恵一が歩いて行った方向へ。
【×嶋村一輝 残り・34人】
北川はひとり、家の中で嶋村を待っていた。
林の中、嶋村と一緒に見つけた家。作戦を練るために、そこに留まっていた。
少し前、物音がしたからと嶋村が外に出て行った。
「すぐ戻ってきます」
そう言って笑って。
仲間が出来た安心感からなのだろう。落ち着いた様子だったので、北川もそれを許可した。
北川はシーズン途中に肩を怪我している。それを気遣って嶋村は自分から進んで動いてく
れた。北川よりも前を歩き、常に周囲を見渡し、少し開けた場所に出る時は、必ず自分が
そこに出てから北川を呼んだ。
その嶋村が戻ってこない。
(何か……あったんか……?)
不安が消えない。さっきから胸騒ぎがする。嶋村は自分の鞄を持って行った。だが武器は
鞭。あまり期待出来ないアイテムだ。
(大丈夫や、用心深いあいつのことやし)
カーテンを小さく開け、窓の外を見る。霧が濃くなってきたようだ。
(迷ったんかな……)
ならば迎えに行っても、自分まで迷ってしまうかもしれない。それでは意味がない。
(誰かに会ったんかな……)
仲間か。敵か。
(敵なんて………おるはずないやないか!)
何度も打ち消した問いかけ。もう決めたはずだ。仲間を信じると。
もう一度、窓の外を見る。
(………やっぱり、迎えに行こか?)
1人でいることの不安。
(もう少し霧が晴れたら……それでも戻らなかったら……行こう)
信じている。
【残り・34人】
小高い丘の頂上は、それなりの観光場所になっていたらしい。ベンチ、東屋、売店らしき
小屋など、それほど広くはない場所にいくつかの休憩場があった。
加藤はベンチに腰掛け、島全体を見下ろした。緑に包まれた美しい島だった。一角に、街
のような場所がある。そこだけ緑の範囲が少ない。いくつもの大きな建物が見える。海岸
線には小さな港。自分達はそこからこの島に送り込まれたのだろうか。一番近くに見える
小島は、頑張れば泳いで渡れそうだ。その島にも建物が見える。
「歌さん」
「ん?」
「あの島の建物、電話引かれてないですかね」
「まだ人がいて、機能してる建物ならあってもおかしくないな」
「歌さん、遠泳得意?元水泳部ですよね?」
「あんなにきついスポーツはないぞ。でも水泳のお陰で持久力ついたし、疲労回復も早く
なったけど。だから中継ぎなのかな……」
歌藤が小首を捻る。
「じゃあ歌さん、あそこまで泳げる?」
微かな希望を持って、小島を指さす。
「潮の流れにもよると思うけど。あと鮫とか恐いクラゲとか」
「あー……」
加藤よりも歌藤の方がわずかに一歩、現実的なようだ。
白い靄が島の一部に見える。霧が出ているようだ。
「ここから呼びかけても駄目ですかね」
「何が」
「ここから、島にいるみんなに戦うなって。協力しようって呼びかける」
「………お前、本当に前向きだよな」
立っていた歌藤が、加藤の隣に座る。
「もし呼びかけた時にさ、近くにやる気満々の人がいたら俺ら即死だぞ。獲物はここにい
ますよーって言ってるようなもんだ」
「やる気満々の人……」
真っ先に浮かぶのは清原の姿。昨日はなんとか逃げられたが。もしもう一度会ったとした
ら、今度は容赦しないだろう。もうあの時のようにうまく事は運ばない。
「大輔」
歌藤が真剣な顔で呟いた。
「はい」
「俺さ、撃つかも」
「何が」
歌藤はその重みを確かめるように、自分の肩にかけていたマシンガンを両手で持った。
「もし敵だってハッキリわかる人が近くにいて、その人が俺たちに気づいてなくて、無防
備だったら、俺、撃つかも」
じっとマシンガンを見つめている。
「俺、その人のこと、撃つかも」
それきり歌藤は黙ってしまった。加藤も考えざるをえなくなった。
(俺は……どうするだろう)
ベルトに挟んでいた銃を手にする。敵だとわかっている相手。その時に消さなければ、今
度は自分の身が危なくなるような。撃てるだろうか。
そもそもこの銃は本物なのだろうか。まだ試し撃ちすらしていないのだ。この銃で人を撃
ってもいいのだろうか。もし誰かを殺して生き延び、無事に帰れたとしても、家族は今ま
でと同じように自分を迎え入れてくれるだろうか。
……いや、自分の無事を喜んでくれるだろう。涙を流してくれるかもしれない。
けれど、人を殺したという事実をどう受け留めるだろう。両親、そして2人の妹は。
『……お兄ちゃん』
その時、自分はどんな表情をすればいいのだろう。
生きて帰るには……
人として、生きて帰るには……
「大輔」
歌藤の呼びかけに、我に返った。
「行こう。ここにいてもあんまり意味がない。もしここで敵に会ったら逃げようがないし」
「……はい。とりあえず、島の全景わかりましたもんね」
「ああ」
歌藤はいろいろと書き込んだ地図を畳んだ。ただぼんやりと見渡していた加藤とは違い、
島の部分的な特徴を書き込んでいたようだ。
「行こう」
2人は丘を下り始めた。
【残り・34人】
徐々に薄れてきた霧の中を、平野恵一は歩いていた。
まだ完全に痛みが取れてはない体のまま、走れる限りのスピードで走ってしまった為、部
分的に鈍い痛みが走っていた。
嶋村と別れた後、誰かが自分の後をつけて来ているような気がしたのだ。
背後からの気配。霧の中、視界不良のせいで、疑心暗鬼になっていたのかもしれない。
けれどどうしてもその不安が消せず、思わず無理をして走ってしまった。
置き去りにしてきた谷が気になる。
誰か助けを呼んで戻ろうと思っていた。やっと出会った嶋村は、一緒に来ることを拒否し
た。北川を残しているという。だから、一緒に行けないと。せめて北川と合流してから行
動を取りたい。北川1人を残して自分だけ行動するわけにはいかない。そう言った。
その言葉は平野を酷く後悔させた。
谷を見捨ててきた自分。
谷に「行け」と言われ、迷い、言う通りにした。それでよかったのだろうか。
嶋村は、北川を連れてくることを望んでいた。
(俺は……俺のしたことは………)
平野は一刻も早く谷を助けたかった。だから半ば強引に、必死にその腕を引っ張った。
けれど、嶋村は固く拒否をした。
諦めるしかなかった。
ひとり、元来た道を歩く。戻っても、そこに谷がいるとは限らない。もうどこか違う場所
へ逃げてしまっているかもしれない。
それならそれでいいのだ。
無事なら、それでいいのだ。
たとえ偽善と呼ばれても、信じることを約束した仲間を守りたい。
静かに、音を立てないようにして、道を進む。
【残り・34人】
霧が晴れてきたことを確認して、北川は家を出た。
嶋村が歩いていった方向へ向かう。それほど遠くへは行っていないはずだ。霧の中を迷っ
ていないなら。あてもなく、手がかりもなく、ただ真っ直ぐ歩いた。
「……嶋村」
時折小声でその名を呼ぶ。
「……嶋村」
返事は無い。少し空気がひんやりしている。手に当たった緑の葉が湿っていて冷たかった。
しばらく進むと、少し開けた場所に出た。
そこに嶋村がいた。
「……嶋村」
北川は歩み寄った。呼びかけても返事は無い。
静かにしゃがみ、横たわっているその肩に手をかけた。
「……嶋村」
嶋村は動かなかった。
うつ伏せになったまま、霧に中にひとりぼっちだった冷たい体を晒していた。
そこに血だまりを見た。
「……嶋村」
間違っていたのだろうか。
北川の言う「仲間を信じるべきだ」という思いは間違っていたのだろうか。
その気持ちに同意した嶋村は今、物言わぬ人となってしまった。
「……嶋村」
涙がこみ上げる。行かせてはいけなかった。1人で行動させてはいけなかったのだ。
ほんの少しの安心感が、嶋村の命を奪った。
笑顔がトレードマークの北川が、ボロボロと涙を流した。
(俺は………間違ってたんか?!)
嶋村の肩を握る手に力がこもる。心の中で声を上げて号泣した。
(折角信じてくれた仲間を……!)
もう何人死んだのだろう。42人いた仲間は、一体何人になっているのだろう。
本当に、やる気の人間がいるのだ。人の心を捨て、ゲームに乗った奴が。
そして自分は?自分はこれからどうするのか。どうするべきなのか。
ふと、そばに落ちている白いものが見えた。
一枚の紙切れ。
石に押さえられて、飛ばないようにしてある。短いメッセージ。
『僕たちは戦う気はありません。仲間を探しています。みんなで協力すれば、ここから脱
出する方法も見つかると思います。協力しましょう。 北川 嶋村』
北川は目を閉じた。
恐らくこれを書いたのは嶋村だ。きっとこのメッセージをここに残し、これを読んだ誰か
がまた誰かにメッセージを…そんなことを考えていたのだろう。
戦ってはいけない。協力し合おう。
そんなメッセージを残そうとしたのだろう。
これを置いている時に狙われたのかもしれない。
(………嶋村)
ゆっくりと目を開けた。
(……俺は、戦わへんよ)
どんなことがあっても。
(戦わへんよ)
たとえ、自分に銃を向けられても。
(約束する。もし次に出会った誰かが俺に武器を向けても、俺は戦わへん。信じる。信じ
て仲間を作る。一緒に脱出する仲間を)
その為に命を落しても、文句は言わない。
(自業自得や。俺は賭ける。約束する)
立ち上がる。
もう一度目を閉じて、合掌した。
そして、嶋村に背を向けた。
【残り・34人】
前を歩いている川越の足が止まった。
本柳はすぐに神経を集中させると、静かに急いで川越に歩み寄った。
「どうしました?」
「……いや……頭痛薬とか、持ってないよな」
予想外の返事に拍子抜けする。
「風邪ですか?」
「いや、なん朝ぐらいからずっとそうなんだ」
「朝から……」
本柳が催眠術をかけた頃だ。
「なんかさ、記憶が飛ぶんだ」
「へえ……どんな風にです?」
「ずっと本柳と歩いているだろ。でも、気づいたらこの鞭を持ってた。そのライフルだっ
てそうだよ。気づいたら持ってたんだ。一瞬の記憶が無いんだ」
川越が右手を額に当てる。目を閉じ、眉をしかめた。
「なんか……朝からずっと、頭ん中に白い靄がかかってるみたいなんだ」
「風邪じゃないですか?鞭もライフルも、拾ったり見つけたりしたんですよ」
わざと大袈裟に本柳は笑って見せた。
「そうだっけ?」
「そうですよ、いやだなあ、川越さん」
本柳は川越の正面にまわると、じっと目を見た。
そして、子供に言い聞かせるようにゆっくりと話した。
「川越さんは何も疑わなくていいんです。俺の言うことを信じて下さい。敵を倒して、俺
達が生き残ること。これが最終目的です。その為なら何だってしなきゃいけないんです。
いいですね?」
それらの言葉はもはや呪文だった。
催眠術をかけられている川越にとって、本柳の言葉は絶対だった。
何かに魅入られたように、コクンとうなずく。自分が何をしているのかもわからないまま。
「川越さんは強いんですよ。だから自信を持たなきゃ」
再びうなずく。
「小柄なピッチャーは大成しない。持久力もない。チビにエースなんて無理だ。お人よし
に選手会長なんて務まらない。そう言った奴らを見返すんですよ、強くなって」
それは川越の心の奥に隠されていた劣等感や不安を煽るのに十分な言葉だった。
「誰よりも強くなって」
とどめの一言。
鞭を握る川越の右手に力が入った。
【残り・34人】
スレ立てありがとうございました。
今回は以上です。
乙でした。嶋村。・゚・(ノД`)・゚・。 やっぱりオリックスのバトロワは
「俺たちをこんな風にしたやつを倒す!」って方向になるんだなー。
保守
職人さん乙でした
メッセージが…嶋村……。・゚・(ノД`)・゚・。
捕手
保守
保守
ほしゅ
31 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/11/04(土) 22:42:58 ID:0faTAV3w0
Bs
32 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/11/05(日) 18:37:42 ID:Fpwys7GNO
☆ゅ
33 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/11/06(月) 16:31:55 ID:N60BGuKMO
捕手的山
「ふざけんなよ畜生」
静かな機械音。エレベーターの中。高木は一人ごちた。
室内のテレビが突然爆発した。高木は山口に要求されたコーヒーを作っていたので、幸い
テレビからは離れていた。テレビの前にドッカリと座っていた山口は、いくつかの破片を
顔面に受けた。大きな傷にはならなかったが、小さな切り傷、擦り傷がいくつも出来、チ
リチリとした痛みに文句を言い始めた。
「酒探してこい!酒!ホテルならどっかに隠してあんだろ!ワインは飽きた!バーにゃウ
ィスキーがねえんだよ!貯蔵庫でも探して来い!」
我儘な命令を下され、高木は仕方なくホテル内を彷徨っていた。
それほど広いホテルではない。しかし高さがある。5階のバーはもう見た。山口ご所望の
ウィスキーは無かった。レストランを見つければいいのだろうか。貯蔵庫はまた別の場所
だろうか。地下2階から最上階まで、隈無く探検した方がいいのだろうか。
念の為、自分の鞄は持って来ている。山口を完全に信頼しているわけではない。むしろ、
あまり信じてはいない。自分をこんな風にこき使う人間だ。何かのおこぼれに預かれる可
能性も少ない。もし何かあったら、高木のことを放り出して逃げてしまうかもしれない。
「………ったく、俺をナメんなよ」
けれどおとなしく命令に従っている自分が情けない。
仕方ないのだ。
世の中は上に立つ人間と下敷きになる人間、強い人間と弱い人間に分けられる。山口と高
木が並んだ時、たまたまこういう力関係になっただけだ。
また違うメンバーが集まったら、山口だって下になるのだ。
自分を納得、というよりも諦めさせ、まずは地下から探すことにした。外部から大量の食
料が運び込まれた場合、普通は地上1階か、地下に収められると考えたからだ。
地下2階は当然のことながら薄暗い。左手に持った懐中電灯の明かりを頼りに廊下を歩く。
(なんか、こういう恐い映画ってあったよな……)
ドアを見つけると、その部屋の表示を調べる。機械室であったり、違う部屋だったり、食
料及びアルコールは見当たらない。
山口の要求で、傷の手当が出来る救急道具も探さなければいけない。
「………はぁ」
小さくため息をつく。
(俺、なにやってんだ)
暗い部屋。自分1人。じっくりと考える。
(俺、殺し合いさせられてんだよな?)
支給された武器、「グロック17」と呼ばれる銃は右手に持っている。山口には嘘をついて
その銃は見せなかった。全く違うアイテムを支給されたように見せかけて誤魔化した。
『プライドと自信を持て』
ふいに思い出す言葉。あの日、仰木監督にかけられた言葉。
『高木、いいか、お前は近鉄最後の勝利投手だ。そのことに自信を持て。プライドを持て。
お前は最後の最後に間に合った選手なんだ。これを結末にするな。新しいものに繋げるん
だ。お前自身の力で』
あの言葉が、今も胸を離れない。
『お前自身の力で』
いつも、何かあった時に自分に投げかける。
(俺自身の力で、切り開くんだ)
地下2階には、めぼしいものは見当たらなかった。エレベーターホールに戻り、地下1階
へ向かうことにした。懐中電灯で廊下の前方1メートル辺りを照らして歩く。
また小さくため息をついた。
(………山口さん以外の誰かに会ったら、俺、迷わずそっちに行くと思うな)
エレベーターのドアが開く。明るい小さな四角い空間。
そこに、その人物はいた。
狭いエレベーターの端に、体を窮屈そうにくの字に曲げて横たわっている誰か。
そして箱の中、反対側の角に、もう1人の人物は膝を抱えてうずくまっていた。
ゆっくりと顔を上げる。表情はない。
不気味な顔。
白いアイスホッケーのマスクをつけていた。
そいつがニタリと笑ったような気がした。
【残り・34人】
高木がエレベーターでその人物と出会った時より20分ほど前。
廃墟ビルの中に籠もっていた光原と金子は、それなりに作戦らしきものを練っていた。
建設的な意見はあまり出なかったのだが、少なくとも2人して黙り込んでいるよりはマシ
だった。
金子は終始、腕の痛みに顔を歪めていた。光原も、そんな表情を見ていることがつらくな
った。普通に生活するには自分の体は何の問題もない。けれど、金子の状態はそれすら許
してもらえない。時折激痛が走るようだ。ピクリと歪む表情でそれがわかった。
「やっぱり俺、薬探してくるよ。痛み止め欲しいだろ」
光原が立ち上がる。
金子は左手で、腹部に押さえ込んだ傷だらけの右腕をそっと撫でた。
「こんな感じの街ならさ、多分あると思うんだ、薬局とか。ちょっと待ってろ」
「でも……」
金子が不安そうな表情を見せる。光原はわざと笑顔を作って見せた。
「大丈夫だよ、注意して歩けばいいんだ。誰かに会えるかもしれないし」
「……敵だったら?」
また泣きそうな声を出す。
「大丈夫!仲間かもしれないしね。信じられる誰かに会えるかもしれない」
まだ金子は戸惑った顔をしている。
「大丈夫だって!金子はここで隠れて休んでろよ。俺も無理はしないから。すぐ戻って来
る。30分くらいかな」
「………それぐらいなら……ホントに無理しないで下さいね」
「ああ、じゃあ行ってくるよ」
鞄を肩にかけ、笑顔で手を振る。
「すみません、ミツさん……俺……全然役に立たなくて……」
「いいって。じゃあ」
何故か腕にアヒルの浮輪を通したまま、光原がビルを出て行った。
金子はしばらくの間、光原の出て行った出口を見つめていた。
そして、小さく笑った。
「……ほんっとにお人よし」
大きく息を吐く。
「自分から薬探しに行ってくれちゃうんだもんなあ」
確かに腕が痛む。さっきよりもよりズキズキと痛むようになった。血管が揺れる感覚とで
も言えばわかってもらえるだろうか。金子の方でも、薬を探しに行かないかと声をかけよ
うか悩んでいたのだ。声をかけるタイミングを考えていた。
なのに光原は自らそれを提案して、1人で外へと飛び出して行った。
「ミツさん、上手く扱えば何かと楽だよな」
誤算は自分の右腕。今の時点では使い物にならない。
突然の清原の来襲。恐ろしかった。
(………あの人たちに勝って、生き残るんだ)
菊地原と萩原の家を訪れた時、何故自分は攻撃しなかったのか。
(……食料を得る為に行ったからだ。それに武器はこんな小さなナイフだし……)
それは言い訳。
本当は恐かったのだ。自分が誰かを殺す勇気など無かったのだ。
清原と対峙した時の恐怖感。
(違う!俺は弱虫なんかじゃない!やろうと思えば出来るんだ!戦えるんだ!清原さんは
不意打ちだったから……!)
必死で自分を奮い立たせる。
どこかで水滴の落ちる音がした。もうずっと聞こえている音。不規則なその音が、今金子
が1人であることを痛感させる。
(ミツさん、ずっと喋っててくれてたからな)
金子の気持ちを落ち着かせようとして、わざと明るい話題を喋り続けてくれた。金子は十
分落ち着いていたのだが、わざと怯えている演技をしていた。それもこれも、自分が生き
残る為。
(さて……と)
左手だけで伸びをしたその時、何かが水たまりを踏む音がした。
水滴の落ちる音ではなく、バシャン、と水たまりに何かが踏み込む音。
「………ミツさん?」
問いかけてから、自分のミスに気づいた。
敵に居場所を教えてしまった。敵からの返事はない。当然だ。
金子の全身が震えた。慌てて鞄に手を伸ばし、肩にかける。
(もし……もしだぞ、どこかに敵が隠れてたとしたら……俺かミツさんが1人になるタイ
ミングを待っていて………)
背筋に冷たいものが走る。両腕に鳥肌が立った。自分の武器はサバイバルナイフ。しかも
右手は使えない。
(逃げなきゃ!)
立ち上がった瞬間、ゴウッという音と共に、崩れた壁の隙間から大きな炎が飛び出してき
た。
「あちっ!!」
慌てて躱し、出口へと駆け出した。
少し距離をおいて背後から聞こえる足音も、着実について来る。
(やべえ!)
廃墟ビルを飛び出す。目の前は大通り。遮るものは何もない。金子は一刻も早くどこかへ
身を隠したかった。戦える体ではない。うまく敵をやり過ごさなければ。
すぐ正面に見えたホテルらしきビルに飛び込む。エレベーターのドアが開いていた。
(あれだ!)
何も考えずに中に飛び込み、ドアを閉める。
咄嗟にそのホテルの最上階、8階へのボタンを押した。
【残り・34人】
エレベーターが上昇し始める。
しかし、チンという音がしてすぐに2階で止まった。
「え?」
ドアが開く。
(まさか!!)
恐怖の形相で金子は身を縮めた。
だが飛び込んできたのは、顔の左半分を血だらけにした大西だった。
「うわあっ!!」
叫ぶ金子を無視し、大西は慌ててドアを閉めた。そして最上階のボタンを押そうとして、
もうランプがついていることに気づいた。
「こ、これ、お前が押したのか?!」
「は、はい」
「そうか、なら……いや、どうやって逃げる?!」
「に、逃げるって?!」
「敵がいるんだよ!このホテルの中に!俺もやられた!」
「えっ?!」
思わず絶句する。せっかく炎の敵から逃れたと思ったのに。
「畜生……左側が見えねえ!」
「誰なんですか?!」
「わからねえよ!白いマスクかぶってんだ!ジェイソンだよ!『13日の金曜日』の!アイ
スホッケーみたいな!」
余程焦っているのか苛ついているのか、大西は荒い呼吸をしながら常に体を動かしていた。
「畜生!」
大西は5階のボタンを押した。
「え?」
金子は思わず疑問の声を発した。エレベーターが4階を過ぎる。
「隣にもう1台エレベーターあったよな?俺は5階から非常階段で下りる」
「あるんですか?」
「あった、確か、あった」
「でも階段でジェイソンに会うかも」
「あいつはエレベーターで移動する。俺が会ったのもエレベーターに乗ろうとした時だ。
中にいたんだ。しかも足を怪我してるみたいな歩き方だった。階段は無理だろ、じゃあ
な!」
5階に着き、エレベーターのドアが開く。大西がフロアへと飛び出して行った。
金子は一瞬躊躇った。
大西と一緒に行動する為に飛び出すか、それともこのままエレベーターで地上へ戻るか。
もう炎を使って追ってきた敵は諦めただろうか。
この建物に入ったせいで、敵が増えてしまった。
迷っている間にドアが閉まる。エレベーターは最初に押されたボタン、最上階へと上がっ
て行こうとする。まだ決断しきれていない自分。うろたえることしか出来ない自分。
ふいに、どこかから恐怖に満ちた甲高い絶叫が聞こえた。喉から振り絞ったような声。
ちょうど閉まったばかりのドアの向こう、5階のフロアから。
(お、大西さん?!)
背筋に寒気が走る。敵がいたのだろうか?!
(ど、どうする?!)
考えても答えは出ない。手足が震えていた。小さな箱の中。
(ど、どうしよう……俺……俺……!)
エレベーターが最上階に着く。ドアが開く。そこから誰かが入って来そうな気がして金子
は慌てて開閉ボタンを連打した。ゆっくりとドアが閉まる。急いで1階のボタンを押す。
炎の敵が自分を追って来ているなら、きっとエレベーターか階段で自分の跡を追うはずだ。
ならば入れ替わりで自分がこのホテルを脱出すればいい。
(このまま逃げるんだ!)
そして気づく。
4階のランプが点いている。
金子は触れていない。大西も触れていない。
つまり、4階で誰かがボタンを押して待っているのだ。
(やばい!!)
エレベーターは6階を過ぎていた。咄嗟に5階のボタンを押した。4階に着く前に下りて、
大西と同じように階段で逃げるのだ。
5階はさっき、大西が下りた階ではなかったか?
だがもうそんなことはどうでもいい。敵は4階で待ち構えているのだ。
エレベーターが5階に着く。ドアが開いた。
血の海が広がっていた。
床に転がった、一個の体。
「ひいっ!!」
恐怖のあまり、体が動かない。そのくせ足はガクガクと震えていた。
足を動かそうとする。だがどこに向かって動かせばいい?
ここは小さな白い箱の中。
出口はただひとつ。
出口の向こうは血に染められた世界。
ブイン、という鈍い音と共にエレベーターのドアが閉まり始める。目の前の赤が消えてゆ
く。
(閉まれ!早く閉まれ!)
心の中で叫んだ。
無事にドアが閉まり、エレベーターが下降する。
そして、チン、という音と共に4階で止まった。再びドアが開く。
(閉まれ!閉まれっ!)
泣きそうになりながらまた開閉ボタンを連打する。ドアは一度開き、すぐに閉じ始めた。
あと少しでドアが閉まりきる。
(閉まれ!早く閉まれっ!)
その瞬間、狭い隙間から2本の大きな手が現れた。ねじ込むようにグイッと双方のドアを
押さえ付ける。物体に当たったドアは安全装置が働き、自動的に開き始める。
金子の目が恐怖と絶望に見開く。
ゆっくりとドアが開く。
開ききるのが待ちきれないのか、その人物はエレベーターの中に入り込んで来た。
真っ白い顔。
いや、白いマスクに覆われた、顔。
「……う……あ……っ!」
ようやく体が動いても、金子の逃げ場は狭いエレベーターの数歩後ろだけだった。
2本の腕が伸び、金子の首を壁に押しつける。
「げっ……!」
ギリギリと絞め上げられる。息苦しさに必死にもがくが、敵は微動だにしない。両足をバ
タつかせる。首を絞める手を剥がそうとするが、使えるのは左腕のみ。
敵の力は恐ろしかった。
「ぐ………あ………ぁ……っ!」
恐怖と息苦しさ。金子の頭が混乱する。酸素が入ってこない。
苦しい。
助けて。
誰か。
光原たちを騙した罰か。
もうダメだ。
もう………
(……投げ……たい………)
ぼんやりと脳裏に浮かぶのは、ただ一度だけ叶った夢。
まだ誰も踏み荒らしていないマウンドに立つ自分の後ろ姿。
(………勝ち……た……い………)
世界に霧がかかる。
ズルリと金子の手が落ちた。
敵が手を離す。
壁に沿ってズルズルと金子の体が床に崩れ落ちた。体をくの字に曲げて、窮屈そうに。
(………さて、と)
白いアイスホッケーの仮面をつけた人物は、反対側の隅に腰を下ろした。
エレベーターはすでに、ランプの点いている地下2階へと向かっている。
(……まだ腕が疲れてるな)
地下で呼んでいる新たな犠牲者を仕留められるだろうか。
【×金子千尋 残り・33人】
高木は開いたエレベーターを呆然と見つめていた。
アイスホッケーのマスクをつけた男。
(ジェイソン!)
瞬時にそう思った。そして床に倒れている人物。その体は細い。数字の「19」がかろうじ
て見えた。
予想外の光景に体が凍りついた。
ユラリ、とジェイソンが立ち上がる。エレベーターのドアが閉まり始める。ジェイソンが
腕を延ばし、ドアの動きを止めた。ガクン、と小さくドアが揺れ、再び開き始める。
ジェイソンが前へ一歩踏み出した。
「う、うわああああああっ!!」
絶叫し、高木は真っ暗な廊下を闇雲に走りだした。懐中電灯の明かりも頼りにならない勢
いで、ただひたすら前へ。
(うわあっ!うわあっ!うわあっ!)
心の中で叫び続ける。出口を求めて走り回る。逃げなければ。身を隠す場所は?
廊下の突き当たり、「非常階段」の文字を見つけた。飛びつき、必死にノブを回す。
動かない。鍵がかかっている。
(畜生!!)
後ろを振り返る。ジェイソンがゆっくりと近づいて来ていた。どこかしら足をかばうよう
な歩き方で。再びドアノブをまわす。ただガチャガチャと虚しい音がするだけだ。
(ダメか!)
ドアは諦めるしかない。ならば、脱出方向はひとつだけ。ジェイソンとすれ違って逃げる。
高木は自分の腰に手をやった。とうとうこれを使わなければならない。使いたくはなかっ
た。人殺しにはなりたくなかった。けれど今、これを使わなければ自分が殺される。
今まではこれに手を伸ばす余裕がなかった。しかし今なら、ゆっくりと歩み寄るジェイソ
ンの妙な余裕が時間をくれる。
銃をベルトから引き抜いて両手で握り、心の中で掛け声をかけて一発撃ち放った。
瞬間目をつぶってしまい、高木の重心が揺れた。
「ギャッ!!」
叫び声と共に、ジェイソンが肩を押さえてよろめき倒れる。
(今だ!)
高木はジェイソンに向かって駆け出すと、ハードルを飛び越える要領で勢いよくその体の
上を飛び越えた。振り返ることなくエレベーターホールへと走り、そこに止まっていたエ
レベーターに飛び込むとドアを閉め、1階を押した。
足元に転がる金子の死体を見ないようにして。
やけに長く感じる時間を過ごし、エレベーターが1階で開く。
上の階に残している山口のことなどとうに忘れて、高木は外へと飛び出した。
太陽の眩しい市街地へ。
今こそ、自分自身の力で。
【残り・33人】
今回は以上です。
投下おつかれ様です!
千尋タン(ノД`)・゚・。 高木がんばれ・・・
乙ですた。また一人死んでいくよ。・゚・(ノД`)・゚・。
高木も気になるが山口も気になる。まあ部屋にこもってりゃ敵には会わないと思うが・・・
職人さん一人に書いてもらってるのはなんか申し訳ない気もする。
48 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/11/07(火) 13:30:16 ID:Epbvwe0ZO
谷、巨人入りか
乙です!!
金子…(´;ω;`)
大西と高木はどーなるんだ?!
やべえ、恐くてエレベーター乗れねえ…
エレベーターの扉が開いたらジェイソンが中でたたずんでるとか(((( ;゜Д゜)))
52 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/11/08(水) 09:27:15 ID:etEy6683O
ジェイソンと聞いてグラバーを思い浮かべた漏れは(ry
どうも、乙です。
ジェイソンの正体が誰なのかが気になる・・・。
54 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/11/09(木) 17:39:18 ID:NVxuq67S0
ジェイソンの正体は蘇った仰木さん
あれ?他球団を見守るスレ落ちた?
落ちてるっぽい
保守
ホシュ
ほしゅ
ほ
61 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/11/12(日) 01:28:40 ID:ReAhuvYR0
しかしここの内容はかなりクオリティ高いな。
>>61 そちらの「クオリティ高い」の基準がどれほどのものかは
しらないけどそこまでは思わないな
ジェイソンの回は息もつかせぬ展開で久々に話に入りこめて
よかったけど
52
実はオレもwww
64 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/11/12(日) 22:36:16 ID:fImr0RYJO
ほしゅ
捕手
また見守るスレ落ちた?
そうみたいだね
8章目は1000までいったのに
9,10と連続で100までいかなかったとは
ホシュ
5階のエレベーターホールには、真っ赤な液体が広がっていた。
色鮮やかなカーペットに染み込み、それは毒々しい色を浮き上がらせていた。
倒れていた体がピクリと揺れた。
不自然な形に捩れていたそれは、元の体勢に戻ろうと蠢いた。
「………っ……いてぇ………」
だるい体を起こし、右手を頭に当てる。顔を上げた。
山口だった。
(……畜生!大西の野郎!)
あまりにも高木の帰りが遅いので、おぼつかない足取りではあるが自分から部屋を出て探
しに来た所だった。空腹とアルコールの魅力には勝てなかったのだ。
5階にあるバーにはアルコールが数本残っていると高木が言っていた。酒が欲しくて、自
分からエレベーターを降りた。バーで適当に2本の赤ワインを選んで持ち出し、エレベー
ターホールに戻った所で、突然大西と出くわした。正面衝突。
ワインのビンが山口の頭に当たり、そのまましばらくの間倒れていた。
気がついたのが、今。
辺りを見回しても大西はいない。どこかへと走り去ったようだ。
(あの野郎、とんでもねえ顔して逃げて行きやがったな)
化け物を見た時のようなあの表情、驚愕という言葉すら物足りないだろう。
そして、顔半分を汚していた血。いや、あれは血だろうか。目の錯覚か?
それにしても高木はどこへ行ったのだろう。
(畜生、2本とも割れやがった)
立ち上がる。ビンを強く打ちつけた額が痛い。後頭部もしたたか打った。
(新しいの探してこなきゃな)
再びバーへと戻ってゆく。しばらくすれば高木のことも簡単に忘れてしまうだろう。
危険の潜むエレベーター、このホテル自体に潜む危険にも気づかず、山口は一人アルコー
ルと共に生きている。
【残り・33人】
机の上に置いてある、長い日本刀。
説明書には「伊勢千子村正、全長:105cm重量:1210g」と書いてある。
徳川家を呪う刀、妖刀・村正。振り回す程度に扱うことは出来るようだ。
バッターでよかったとつくづく早川は思った。スイングする気持ちで刀を振ればいいのだ
ろうか。とある有名なバッターは、日々日本刀を振ってスイングやバットコントロールの
練習をしたと言う。自分もそうしろと言われているのだろうか。
何度か試しに木の枝を切ってみた。そのたびに、スパッという切り心地にどこかしら爽快
なものを感じていた。
(もっと何か……違うものを切ってみたいな……)
葉っぱ……木の枝……幹……もっと大きなもの……手ごたえがあって、柔らかい………
人間。
(ダメだ!何考えてんだよ!この刀は自分を守る為に使うのであって……)
相手が刀よりも弱い武器だったら、切りかかってもいいのだろうか。
それとも刀より強い武器だったら、戦意を持ってもいいのだろうか。
妖刀。
呪いの刀。
徳川一族の多くの者を斬った刀。
徳川一族暗殺の濡れ衣を着せられた者が切腹したのもこの刀。
じっと刀の刃を見つめる。
いくつもの忌まわしい伝説が、この現代でどのように機能するというのだろう。
時計を見る。午後3時過ぎ。あと数時間で2日目の夜が来る。
まだ生き残っている自分。
制限時間以内に残り1人にならなければ、全員の首輪が爆発するという。だがそれは本当
だろうか。早川はまだ危険を実感したことがない。出発直後に吉井に声をかけられたが、
すぐに別れてしまった。正確には、吉井が早川から逃げたのだ。この刀を持っている早川
を見て。早川を恐れたのか。それとも、妖刀・村正を恐れたのか。吉井には、この妖刀の
持つ何か不思議な力が伝わったのだろうか。
そんな神秘の力を纏う刀なら、自分にも何かしら出来るのではないだろうか?あの吉井が
逃げたくらいなのだ。吉井が早川に怯えるはずなどない。ならばこの刀に怯えたに決まっ
ている。
この妖刀さえあれば。
(………試してみようか)
少しだけ、外を出歩いてみようか。気づかれないようにどこかに潜んで、もしそこを誰か
が通ったら、背後から。そう、背後からなら気づかれないはずだ。
右手で刀の柄に触れる。冷たい感触。
額に汗が滲む。自分の呼吸が荒くなっている。いつの間にか口元に怪しい笑みが浮かんで
いる。ピクリと頬が歪む。
(この刀なら………俺にだって………)
ふいにどこかで鳥が鳴いた。一瞬息を飲み。慌てて首を振った。
いけない。
自分の心が危険な方向へと向かっている。
(………でも………)
チャンスかもしれない。もしここで勝利出来れば。見返すチャンス。自信を持つチャンス。
危険な賭けとはわかっているが。
(………1人だけ)
そう、1人減らすだけだ。あとは他の人たちに任せよう。
1人だけ。
刀の感触を味わってみたい。
1人だけ。
たった1人だ。
ゆらりと早川は立ち上がった。
何かに魅入られたような目をして。
【残り・32人】
(……谷さん……)
平野恵一は拭いても拭いても込み上げてくる涙を拭いながら、膝を抱えていた。
平野が辿り着いた場所は、南西の海岸沿いの洞窟だった。
市街地の隅を突っ切り、かなりの距離を歩いたと思う。目の前は海。近くには小さな港が
あるようだ。今いるエリアが次の禁止エリアに入っていないことを確認すると、地図を鞄
にしまった。
平野は谷の遺体を見た。香月の襲われた場所に戻り、それを見た。
あの時、途中で出会った嶋村は北川を迎えに行くと言った。けれど、平野はどうしても谷
の様子を調べに戻りたかった。一刻も早く。
嶋村は北川を選んだ。平野は谷を見捨てた。
自分が見捨てたことへの罪悪感。
結局、谷も失い、嶋村もその後どうしているかわからない。全てが裏目に出る状態。
考えを変えたくて、鞄の中から自分に与えられた支給品を取り出した。何度読んでも意味
がわからない。
真っ白なカード。
赤い字で「ラッキーカード」と書かれている。
『生き残りたければ「J-2」の研究所へ行け!ただし、マーマレードジャムを忘れずに!』
説明はそれ以外には全く無い。後は裏面に西洋風の意味深な絵が描かれているだけ。
(マーマレード?)
平野の鞄の中に入っていたのはパンとバターだった。
(マーマレードだった人もいるのかな?)
静かな空間に、波の音だけが聞こえた。数時間前までは谷との会話があった。
けれど今は1人。
(行ってみようか)
この研究所とやらへ。けれど平野の体力が続くだろうか。
(マーマレード……どうやって手にいれよう?)
何故マーマレードなのだろう。考えることが多すぎる。
「マーマレード……」
「ママがどうかしました?」
突然の声に顔を上げる。
「……なんだ、恵一か」
呟いたのはユウキだった。どこか残念そうな表情を浮かべている。
「ユウキ……無事か」
「……まあね。恵一も」
中途半端な答え方をして、洞窟の壁、平野の向かいに座る。同い年の2人が、複雑そうな
表情をしながら。
「恵一、誰かに会った?」
尋ねられて当然なユウキの問いかけが、平野を深く傷つけた。
「……谷さんと……嶋村と……香月」
「香月………」
ユウキの声色が、微かに変わる。
「香月、どこにいた?」
「どこ……だったかな……あいつは危ないよ」
「危ない?」
身を乗り出して尋ねてくる。
「谷さん………香月にやられたんだ………」
「………へえ」
ユウキの答えはそっけない。驚くでもなく、悲しみを伝えるでもなく、平野を励ますでも
なく、ただ返事をしただけだった。
「俺を……かばって………」
また涙が込み上げてくる。慌てて袖で拭った。今は泣いている場合ではない。
「ユウキ」
「ん」
「お前、マーマレードジャム持ってるか?」
「マーマレード?ああ、さっき呟いてたの、そのこと?」
「ああ、持ってるか?」
「いや、アーモンドバターなら入ってたけど」
「そうか……」
「マーマレードがどうしたんだ?」
平野は鞄からラッキーカードを取り出した。
「これ」
ユウキは慎重にそれを受け取ると、やや眉をしかめながらその文章を読んだ。
「………なんだこれ?」
顔を上げ、平野を見る。平野も小首を捻って見せた。
ユウキはラッキーカードを太陽の光に当てたり、ちょっと壁で叩いてみたりした。何も変
哲もないカードだ。プラスチックだろうか。定期券程度の大きさだ。
ユウキは地図を広げた。研究所の位置を確かめる。
「島の端っこか……そんな遠くはないな」
再び顔を上げ、平野を見た。
「恵一」
「ん?」
「行かないか?」
ユウキの顔は真剣で、どこか楽しげだった。ワクワクしているという表現がぴったりだ。
「研究所。何があるか知りたくないか?」
「知りたい……けど……今から?」
「今から」
平野は呆れたように目を閉じた。
(俺、どこまで体力持つかな……)
自分の体はまだ完全ではない。そんな不安を察したように、ユウキが続けた。
「疲れたら休めばいいよ。俺も肩貸すし。だって、恵一だってこのカードの意味、知りた
いだろ?」
「ああ」
しっかりとうなずく。
「じゃあ行こうよ。ちゃんと体調を見ながら歩こう」
そうなのだ。ここに座っていたって始まらない。動かなければ。
生き残る為の手段がこのラッキーカードには隠されている。
(みんなで生き残れるのかな……)
【残り・32人】
白い飛沫を上げて、1台の小さな船が海を走る。
操縦しているのは、水玉模様の赤いスカーフを靡かせたリプシー。
スカーフが揺れ、その下に提げている小さなペンダントがチラリと見えた。
涙型のクリスタル。彼女からもらったものだ。
『リプシー、これ、あなたにあげる』
そう言って、彼女は微笑んだ。
『これね、あの発表があった後、ファンの人からもらったの』
少し照れたように話す。
『だから、あの日からそう決めたの。このペンダントを私の流す涙の代わりにしようって。
私はずっと笑顔でいるわ。でなきゃファンの人も選手のみんなも心配でしょう?不安でし
ょう?だから、私は笑顔でいる。代わりにこのペンダントが泣いてくれる。私の涙は全部、
ここの中』
彼女はペンダントを外し、リプシーの掌の上に乗せた。
『私達はいなくなるけれど、私の分まで頑張って』
リプシーはその場でペンダントを首にかけた。
『………ええ、頑張るわ。私ももう泣かない。絶対に泣かない。このペンダント、貴女だ
と思って大事にするから。絶対肌身離さず持ち歩くから!』
彼女はニッコリと笑った。風に揺れる黄色い髪。可愛らしい雛菊のような笑顔で。
草原の香りのする彼女と、潮風の香りのするリプシーの、それが別れだった。
もうこれ以上、大切な人たちを失いたくはなかった。
例え、この想いが通じていなくても。
ネッピーはそのリプシーに背中を向けて座り、海に残る航跡をぼんやりと見ていた。
(パンツが見えるのが嫌ならさ、もっと長いスカート履くか、ライナみたいにズボン履け
ばいいじゃん)
風に揺れるミニスカートがリプシーには気になるらしい。
「お年頃だからね」
ネッピーの隣で、同じ方向を向いて座っている大島コーチが言った。
両手で小型無線装置を抱えている。小型だが、大島の体と比べると充分な大きさが感じら
れた。
「普段スタジアムでは平気でスカートヒラヒラさせてんのに……。ねえ、大島コーチまでなに
も一緒にここまで来なくても……」
「だって、連絡係がいないと不便だろ?」
ニコニコしながら答える。
「多分島だと携帯は使えなくなるからね、ヘッドセットタイプの無線ね。トランシーバー
みたいなもんだよ。ちゃんと防水加工されてるから。あと、食料はこれだけ買いこんであ
るからね。いざとなったら釣りでもして増やすけど」
リプシーは真っ直ぐ前を見つめていた。目の前に広がる海。
視線はただ一人の人物の面影を追っていた。
(始めて意識したのは、あの日)
中日との交流戦。
中日のマスコットであるドアラがリプシーの元へとやって来た。
リプシーはファンの子供達と、ネット越しにやりとりをしていた。
ふいに肩に柔らかい何かが乗った。
見ると、ドアラがリプシーの肩を抱いている。
ビックリしたのと同時に、その存在のインパクトに驚いた。
そしてドアラは、何食わぬ顔でリプシーの肩を抱く手に力をこめてきた。
(な、何この人……いえ、何このドアラ……)
戸惑ってしまった。リプシーは子供の構える携帯カメラにポーズをとりたいのに、ドアラ
が邪魔をする。心なしかドアラはドラゴンズ側へリプシーを引っ張って行こうとしている
ようにも思えた。
(ちょ、ちょっと痴漢……!)
その時だった。
「へえー、これが噂のドアラかー」
そう言って、あの人が現れた。さり気なくドアラの注意を引く。
「握手しよう、握手」
その人が両手を差し出すと、ドアラも両手を差し出した。リプシーの体が自由になる。
その人はさりげなくリプシーに「お逃げ」と合図を送った。
その時から、リプシーはその人に目を奪われるようになった。
(私をドアラのセクハラから助けてくれた……)
気のせいだったのかもしれない。単にあの人がドアラと遊びたくて、偶然だったのかもし
れない。
それでもいいのだ。
リプシーはそれ以来あの人を見つめ、あの人のさりげない部分をいくつも見出した。
今度はリプシーがあの人を救う番だ。
(必ず……必ずお助けします……どうかご無事で……)
今回は以上です。
年末に向けてちょっと仕事が増えてきそうなので、投下量が少なくなるかもしれません。
出来るだけ週1回のペースで投下出来るよう頑張ります。
ちょwwwドアラwww
ペースなんて気にしなくても投下していただければそれで十分でございますハイ
職人さん乙です。無理はいけませんからお仕事がんばってくださいね
ってかドアラwww痴漢なのかよwww
81 :
名無しさん:2006/11/15(水) 01:03:48 ID:kHI9LoSEO
また明日だな…
リプシーの想い人が気になる罠
ちょwwwドアラwww一番最悪www
職人さん乙!超乙!
無理はなさらないでくださいね(´・ω・`)
一瞬ドアラがリプシーの想い人かと思ったwwwww
ファルルのペンダント……(´;ω;`)
保守
ほしゅ
保守
88 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/11/16(木) 20:06:05 ID:6Uz0HJXr0
新スレ立ててから埋めろよ>本スレ
ほ
し
ゅ
保守
93 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/11/19(日) 14:55:02 ID:NS2/Vboy0
捕手
ほしゅ
おはよう保守
おやすみ保守
捕手
菊地原は空腹を感じていた。
鞄を失った。地図の無いことがどれだけ危険かは十分わかっている。簡単な島の地図は頭
の中に残っているが、細かいエリアの区切りなどはわからない。次に禁止エリアが増えた
時にはどうすればいいのか。
(あまり歩きまわるのもよくないんだがな)
歩かなければならない理由があった。仲間が欲しい。地図を持っている仲間が。喉も渇い
ている。どこかに水はないだろうか。市街地の方に行けばあるだろうか。炎天下にしばら
く倒れていたのがいけなかったのだろう。徐々に疲労も感じてきている。微かに腹部が痙
攣しているようだ。
体の酷使には慣れている方だが、今の状況は訳が違う。
ユニフォームのボタンをひとつちぎり取り、口に放り込んだ。こうすれば自然と唾が出る。
本で読んだ知識だが、少しは気休めにでもなるだろう。
6月とはいえ、昼間の陽差しは容赦ない。爆風で帽子も失った。汗が止まらない。
(熱中症が恐いな)
空腹で、水分も無い。最悪だ。
体力には自信のある方だ。でなければ連投が仕事の中継ぎなど出来ない。脅威の疲労回
復度を誇る菊地原だ。けれど。
(さすがにきついな。まだ2日目だってのに)
微かに眩暈がする。腹部や四肢の痙攣も確か熱中症の症状ではなかったか?
(これは水よりもまず塩分補給だな……塩とか梅干だ。いきなり水をガブガブ飲んだらヤ
バイって聞いたことあるぞ……)
これまでに貰ったファンレターのほとんどに、こう書かれていた。
『お体をお大事に』
『体に気をつけてがんばってください』
友人たちからも言われた。
『死なない程度に頑張れ』
笑いながら話したものだ。仲間内でも連投が菊地原のステータスになりつつあるようだ。
困った時の菊地原。
それがチーム内での存在意義だった。
無言のまま、土の上を歩く。サクサクと乾いた音がする。いい天気だ。
いい天気すぎる。日陰が見当たらない。あったとしても、自分の体をゆっくり休められる
ような場所ではない。
(歩いて行けば、どこかに日陰か水があるさ)
自分を励ましながら歩く。
昨夜はあまり眠れなかった。こんな状況に放り込まれてぐっすり眠れる方が変なのだ。な
のに一緒にいた萩原があっさり寝てしまった。物事を考えすぎる萩原が、あんなにあっさ
り眠ってしまうとは意外だった。それとも菊地原が緊張しすぎているのだろうか。
徐々に体が汗をかかなくなる。
(これってヤバイ状態だよな)
熱中症の一歩手前。すぐにでも日陰を見つけて休まなければ。口の中がカラカラだ。
(………畜生)
「菊?」
声がした。ずっと地面ばかり見ていた顔を上げる。目が霞む。視界が揺れている。
「菊、大丈夫か?」
心配そうな声が歩み寄って来る。菊地原の目の前が真っ暗になった。
「菊!」
崩れ落ちる菊地原の体を支えようとして腕を伸ばした的山は、巻き込まれるようにして一
緒に地面に倒れた。
「菊!しっかりしろ!」
水を取りだし、菊地原の口に当てる。少しは飲んでくれたが、十分とまでにはいかなかっ
たようだ。その体温の高さに驚く。菊地原の意識は朦朧としていた。
「菊!」
頬を叩く。菊地原はまともな反応を返さなかった。
「菊………」
心配そうな表情をしていた的山が、ニヤリと笑った。
「………お前が勝手に倒れたんだ」
そのまま菊地原の体を横たえる。
「熱中症、水分不足、過労……理由ならなんでも後からつけられる」
空を見上げる。まだ眩しい太陽がしっかりとその存在感を示している。腕時計を見る。ま
だあと2時間は太陽が照っていてくれるだろう。
「お前さんなら、過労で死んでもおかしくないよなあ。死因、過労及び熱中症」
立ち上がる。
「このまま静かに、眠ったみたいに死ぬ方が楽だろ?」
ふと菊地原のポケットの膨らみに気がついた。手を伸ばし、それを取り出す。
「手榴弾か……こいつはいいや」
見つけた1個だけを自分の鞄にしまって歩き出す。振り返らず。
「……別に俺は何もしてないからな」
何もしない、罪。
目を閉じたまま、菊地原は動かない。
【残り・32人】
出発したその夜に川辺で川越に声をかけられて以来、坂口は誰とも会っていなかった。
どこかで声を聞いたような気もする。爆発音や破裂音を聞いたような気もする。けれど、
それが殺し合いの副産物だという確証はどこにも無かった。
坂口は何も見てはいない。森の中、小さな家の中にずっと篭っている。下手に出歩くのは
危険だ。自分から危険に飛び込んでいく必要はない。与えられた武器も、どことなく微妙
だ。まるでチーム内における自分の立ち位置のように。
毒薬を一体どう使えばいいのか。誰かに毒を飲ませるには、まずその誰かに近づかなけれ
ばならない。近づくにはここを出て歩かなければならない。そして何か食べ物に添えてこ
の毒を差し出すのだ。混ぜるか、かけるか、強引に飲ませるか。
偽りの仲間を作るべきだろうか。
(仲間……)
もし相手が銃を持っていたら、自分は相手に近づけるだろうか?坂口が毒を提供する前に、
自分の胸に風穴が開くかもしれない。
(………弱い武器だよな)
寂しい。不安だらけだ。誰を信じればいいのかわからない。
もうこんなことを繰り返し、数時間以上考えている。ずっと同じことばかり考え続けてい
る。簡単に答えが出るのならこんな苦労はしない。考えているうちに、時間だけがどんど
ん過ぎてゆく。
何ひとつ、建設的なものがない。
(こういう優柔不断なところが俺の駄目な点だよな。走塁とか、瞬間の判断が必要だって
のに、いつもスタートで躊躇っちゃうんだ。散々コーチにも言われてきたことなのに……)
コンコン。
ふいに音がした。一瞬それが音だと気づかず、どこから聞こえたかもわからず、空白の時
間があってから慌てて周囲を見回した。
窓ガラスを叩いた音だと気づき、驚いて立ち上がる。念の為、室内で見つけて手元に置い
ておいた火かき棒をしっかりと握った。少し距離を取って、窓を見た。
笑顔の本柳がかろうじて窓から顔を出している。きっと背伸びをしているのだろう。その
横には伏せ目がちの目まで見える人物。あの感じは恐らく川越だ。
本柳は坂口を見つけ、ホッとしたような嬉しそうな表情で手を振った。
笑顔。見慣れた仲間の笑顔。親しげな笑顔。
あの笑顔のどこを疑えというのか。ましてや本柳と川越だ。チームで1、2を争うくらい
の「いい人」なのだ。疑うことなく無条件で信頼出来る2人がやって来たのだ。
坂口は急いで窓辺へと歩み寄った。仲間がいたのだ。ようやく独りではなくなるのだ。
昨夜、川越は仲間を信じろと言った。けれど坂口は信じなかった。川越に背を向けて逃げ
出した。それでも川越は「頑張れ!」と叫んでくれた。
そして今、自分はやっと川越と本柳を信じようとしている。
もっと早く信じればよかったのだ。そうすれば、こんな不安で寂しい時間を送ることもな
かった。
あの時川越を信じていれば、もっと違う展開になっていたはずなのに。
坂口の笑顔を見て、本柳も満面の笑顔になる。
(よかった!やっと……!)
そう思って窓を開けた瞬間、本柳が何かを取り出し、坂口の頭部に痛みが走った。
(え?!)
「あ、失敗」
本柳がライフルを構えていた。その先からは白い煙が上がっている。
痛みを感じる箇所に手をやった。ヌルリとした感触。驚いてその手を見る。血に濡れてい
た。
(え?!)
銃弾が頭部を掠ったのか。
「ミスった。も一度」
本柳がライフルを構え直す。
「う、うわ!」
坂口は慌てて家の奥に逃げようとした。途端にビシッという痛みが首に走った。痛みはそ
のまま首に巻きつき、ギリギリとした継続的なものに変わった。
「え?」
急に息苦しくなった。見ると窓から長いロープのようなものが伸び、坂口の首に巻きつい
ている。そのロープは川越によって絶え間無く引っ張られていた。
(な、なんだ?!)
声に出そうとしても出なかった。喉が締め上げられているのだ。
逃げようとする。が、首に巻きついたそれに引っ張られて動けない。逃げようとすればす
るほど、自分の首を絞めることになる。かといって首を緩める為に窓辺へと歩み寄れば、
本柳の銃口が待っている。
(ひ………!!)
本柳が再びライフルを構える。標的になっているのは自分。本柳が顔をしかめて片目をつ
ぶり、照準を合わせる。
(本柳さん!!)
泣きそうな思いで叫んだ。声には出来ず、心の中で。
あの時、信じろと言った川越。
信じなかった自分。
そして、今信じようとした自分。
一体何が正しいのか。
坂口は混乱した。
しかし一向に本柳は引き金を引かない。呼吸の出来ない苦しさと、向けられた銃口への恐
怖が坂口の心を支配する。それ以外は何も考えられない。
(あ………ああ……あ………!)
静かだった。
ただ時折ロープの軋む音だけが小さく聞こえた。
やがて、ピクン、ピクンと坂口の頬が引きつった。カッと目を見開いたまま、その体が崩
れ落ちた。
静かだった。
「撃たなくてすんじゃったな」
安心した口調で呟きながら、本柳が窓を乗り越えて家の中に入ってくる。
入り口の方を見ると、予想通り中から鍵がかかり、バリケードが張られていた。
続いて川越が窓を乗り越えてくる。右手に畳んだ鞭を持って。
本柳は倒れている坂口を無視して、鞄を漁った。
「食べ物と飲み物、地図と……これかな?」
手にした小壜を見る。
「毒薬か……」
本柳が小さくため息をつく。
「ちょっと難しい武器だな……」
川越の方を見た。右手に鞭を持ったまま、ボーッとしている。本柳は毒薬の小壜を川越に
渡した。
「持ってて下さい」
ぼんやりとした動きで川越はそれを受け取る。
「ん?」
本柳の視界に、鳥籠にしてはやや大きめの籠が見えた。一羽の鳥がいる。あまり家庭では
見かけないような、原色鮮やかな鳥。腹を空かせているのか、目を閉じ、じっと動かない。
歩み寄り、中を覗き込んだ。水と餌が入っているはずの桶は空になっている。
「………食うかな」
本柳は自分の鞄からペットボトルを出し、まずは桶の片方に水を注ぎ入れた。そしてもう
片方に、パンを小さくちぎって詰めた。そして詰めきれない分を少し、籠の端に置いた。
鳥はパチ、パチ、と二回瞬きをしてから、ようやく目を開けた。本柳は静かに籠の扉を閉
めた。
「安心していいぞ、誰もお前をいじめたりしないから。餌、食っていいんだぞ、腹減って
んだろ?」
鳥は早速水に飛びついた。そしてパンに。本柳は嬉しそうに笑った。
「よかった、やっぱり腹減ってたんだな」
夢中になっている小鳥を見つめ、改めて川越を見た。
「行きましょう。また援護お願いしますね」
本柳の表情は、小鳥を見つめている時と変わらない。無邪気な表情でライフルを抱え直す。
2人が再び窓から外へと出て行った。
あの時川越を信じていれば、もっと違う展開になっていたはずなのに。
【×坂口智隆 残り・32人】
首輪探知機を手に、下山は市街地へと足を伸ばした。
移動しない時は電池がどれくらい持つかわからないので、大体30分置きくらいに電源を入
れる程度にしていた。掌サイズの黒い手帳のような形。取り扱い説明書は本体付属のポケ
ットにしまえるようになっている。何かとお手軽なコンパクトサイズ。
(ゲームでも出来たらいいんだけどな)
ゲームに夢中になって、誰かに背中から襲われては意味がないけれど。
今、その探知機はひとつの明かりを灯していた。下山はその明かり目指して歩く。遠くか
ら見て、敵ではないようなら声をかける。明らかに敵なら………
(逃げるよな、俺の場合。それが無難だって)
相手の持っている武器にもよるだろうが、それはまたその時に考えればいい。武器を持っ
ていても恐くない人間もいれば、武器を持たずともその存在自体が恐ろしい人間だってい
るのだ。
(誰とは言わないけどさ……)
はたして自分はどちらに属する人間なのだろう?
画面を見る。徐々に自分の首輪が、相手の首輪に近づいている。
そしてとうとう、相手の詳しい居場所を見つけた。
『Cafe Bs』
そんな看板のかかった店。建物の外からでもコーヒーのいい香りがする。
一瞬「罠」という言葉も思い浮かんだが、腹の虫が鳴った。コーヒーの香りには勝てなか
った。扉にかかっている中立地帯の説明をしっかりと読み直し、慎重にドアを開けた。
「いらっしゃーい」
カウンターの中から元気な声をかける相川に驚いた。そして、カウンターに座ってコーヒ
ーを飲んでいる迎がいた。ビックリした顔で下山を見ている。
下山は場を和ませるように、軽く手を上げた。迎も曖昧な返事を返した。そのままカウン
ターの端に腰を下ろす。念の為、少しの距離を取った位置に。
「何にしましょ?」
相川がメニューと砂時計を差し出す。
「本格的なんだな」
「キチンとコーヒー専門店のマニュアルもらって来たんで」
「じゃあ、抹茶オレ」
「それコーヒーじゃないです」
「じゃあ……アイスカフェオレ」
「かしこまりました」
ペコリとお辞儀をして、相川が作業を始める。
「……シモさん」
恐る恐る迎が声をかけてきた。
「なんだ?」
「誰か、恐い人、いました?」
「いや、俺は会ってない。お前は?」
迎は両手でコーヒーカップを包むと、静かに呟いた。
「……死体、見ました」
「誰の」
「……近藤。地面に犯人の名前っていうか、手掛かり残して」
「………誰だ?」
「お待ちどう様ー」
相川が下山の前にアイスカフェオレを置いた。カランと氷が音を立てる。
「地面に残ってた文字からすると、吉井さんかユウキさんか歌さんです」
下山は少しだけガムシロップを入れ、一口飲んだ。
「俺、コボの敵、討ちたいです」
『近藤』ではなく、ニックネームで呼んだ。
「俺ら、ずっとサーパスで頑張ってきました。あいつの努力も見てるし、俺も負けないよ
うに頑張ってきました。だから、敵討ちたいです」
「敵は他にもたくさんいるかもしれないぞ」
「わかってます。だから、吉井さんかユウキさんか歌さんに会ったら……」
そこで言葉が止まった。再びドアが開いたからだ。
「いらっしゃーい」
元気な声に迎えられたのは村松だった。ボウガンを肩にかけ、中を見回している。自然と
迎は身構えてしまった。
「……中立地帯、なんだよな?」
村松のいぶかしげな問いかけに、相川は元気よくうなずいた。
「はい!ここで戦い始めたら、すぐに首輪が爆発します」
「……そうか」
村松は迎と下山から離れた席に座った。すぐに村松に砂時計が与えられる。何を意味して
いるのか、ブランボーがサムアップして見せた。
「……なんで相川たちがここにいるんだ」
「まあいろいろありまして、お手伝いを」
「手伝いってのは俺達のか、それともオーナー側か」
一瞬、相川が返事に詰まる。そして、俯きがちの視線で答えた。
「………オーナー側です」
しかしすぐに顔を上げ、自信に満ちた声で答えた。
「正確にはサーパス側です!」
紛れも無い宣言。それが相川の本心だった。
「そうか」
それきり、村松は黙ってしまった。
「……コーヒー飲みますか?」
「……エスプレッソ。シナモンスティックはあるか?」
「はい。少々お待ち下さい」
「村松さん」
意を決したような口調で、迎が声をかけた。村松は無言のまま静かに迎を見つめた。
「吉井さんかユウキさんか歌さんに会いましたか?」
「いや。その3人がどうした?」
迎は自分が見たことを話し始めた。下山に説明した時よりも、もう少し詳しく。
相川はカウンターの奥の部屋に姿を消した。
【残り・32人】
108 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/11/22(水) 05:37:30 ID:OeUAJVbiO
ORIX
。・゚・(ノД`)・゚・。坂口いいいいいいいい
110 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/11/22(水) 17:23:43 ID:X/EzJn6gO
グッチが……グッチが………(´;ω;`)
ぼんやりとしたまま、川越は緩やかな坂道を登っていた。歩く、というよりも、勝手に両
足が動いていた。前を歩いている人物に続いて、後ろを歩く。自分でものを考えていない
状態。白い靄のかかった記憶の中。
突然、鋭く甲高い声で鳥が一声鳴いた。
ハッとして、右手に握っていた小壜を落とした。
後ろから規則的に聞こえていた足音が止まったので、本柳が慌てて振り返った。
「どうしました?」
「あ……」
少しずつ、頭の中の靄が晴れて行く。
「敵ですか?!」
敵。
その一言がキーワード。再び川越の頭の中が白に侵食される。
「……いや」
「なら行きましょう。川越さん、前歩いて下さい」
即されて前へと進む。
あの時認識した解放の合図は、鋭く甲高い鳴き声。なかなかあの鳥は姿を現さない。
一方、地面に落ちた小壜は緩やかな坂を転がっていった。死の液体で満たされたそれは
コロコロと転がり、やがて丸太にコツンとぶつかった。
「ん?」
丸太に腰掛けていた筧がそれに手を伸ばす。そっと取り上げ、貼られてあるラベルを見る。
(毒薬?)
小首を傾げる。また奇妙な武器に出会ったものだ。
誰が落としたのだろう?何故ここに?
立ち上がる。
目の前で牧田が殺されてから、筧は歩き続けていた。一所に止まっていては、敵の格好の
標的になる。どこにどんな罠が仕掛けてあるかわからない。常に動いていなければ。
そんな脅迫観念に押され、筧は歩き続けていた。しばしこの丸太に腰掛けて休み、またそ
ろそろ出発しようとしていたところだった。
疲労していた。仲間にも出会えず、ひとりぼっちのまま、あてもなく歩き続ける。
地図に載っている市街地。そこに向かえば食料や、何か使えそうな道具があるかもしれな
い。そう思って方向を定めて歩いた。
あの罠は突然だった。牧田の命を奪った事故。いわゆるトラップタイムのひとつだったの
だろうか?
(いや、オーナーは違うトラップの話をしてた……)
ということは、あれはオーナー側のトラップではない。違う敵の仕掛けた罠。
誰か……一緒にこの島に放り込まれた選手の仕掛けた罠。
牧田の死体をハッキリとは見なかった。その体は照明器具に押し潰され、隠された。筧は
無我夢中でそこから逃げ出した。そして次の放送の時、牧田の名前が読み上げられた。
(………ひとつ間違えば、あれは俺だった)
(俺は運が良かったんだ)
(そうだ、まだ俺にはツキがあるんだ)
(こうやって、簡単に新しい武器まで手に入った。神様は俺に味方してる)
歩き続け、市街地が見えてきた。やがてその店を見つけた。『Cafe Bs』。扉に貼ってある注
意書きを読み、どこかホッとしながら中に入った。
村松、下山、迎が一斉に筧を見つめる。筧もその視線に驚き、ドアノブを握ったまま足を
止めた。
「あ、あの……」
「中立地帯だそうだ。何もしないよ」
村松が声をかける。
「そ、そうですか」
中途半端に笑いながら筧は店内に入った。ドアを閉める。安心したせいで、バタン、と少
し乱暴に。
突然、相川がカウンター奥の部屋から飛び出して来た。
高らかな宣言と共に。
「トラップターイム!」
【残り・32人】
昨夜、連投規制に引っかかってしまったので、残っていた分を投下させて頂きました。
ブランクが出来てすみません。
新作乙です。お仕事がんばって下さいね。
心優しいはずなのに操られてやたらに殺しまくる羽目になった川越が不憫でたまらない・・・
本柳、何てことしてくれたんだよ・゚・(ノД`)・゚・
投下乙です。
飛び出してくる相川がなんか緊張感ないなあ・・・
乙です。
ここでトラップタイムとは、いったい何が始まるのだろうか!?
捕手
保守
ビリバトスレ復活したねホシュ
保守党
121 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/11/26(日) 22:45:58 ID:kxmi35ZHO
続きまだぁー(・∀・ )っ/凵 ⌒☆チンチン
(^亮^)<とらっぷたーいむ!!
ホシュ
全員の視線が相川に集まる。見つめるというレベルを越え、凝視していた。相川はそれを
気にしないようにしながら、4人に満遍なくぎこちない笑顔を振りまいた。そしてカウン
ターの上に丁寧に、4個のコーヒーカップを並べた。4個とも模様が違う。けれど大きさ
は同じ。相川の手が震えているせいか、小さくカチャカチャと音がした。
「村松さんご注文のエスプレッソを4つご用意しました。さ、みなさんどうぞこちらへ!」
何かを振り切るように、元気な声を出す。奇妙な雰囲気に下山と迎が顔を見合わせた。村
松も大きな目をキョトンとさせている。入り口に立ったままの筧は、ガルシアに即されて
中へと進んだ。そのままガルシアの巨体が出口を塞ぐ。
「さ、どうぞカップのある席にお座り下さい!」
相川がカウンター内から改めて4人を呼び寄せる。真っ先に筧がカップに歩み寄った。1
個1個、コーヒーの香りをしっかりと味わうように、必要以上に顔を近づけている。なに
もそこまで顔を寄せなくても、と迎は思った。筧はそれほどコーヒー通だったろうか?微
かな香りの違いや濃さにこだわるほどコーヒー好きだったろうか?確かに筧の様子は異常
なほどで、液体の薄さ、濃さの違いまで見ているようだ。まるで体でカップを隠すように
して念入りに調べている。1つのカップを選ぶと、ようやくその前の席に腰を下ろした。
「さ、村松さんも。ご注文のエスプレッソですよ。下山さんも迎も」
不審そうな顔つきで村松が席を立つ。残りの2人もカウンター中央に集まる。そしてそれ
ぞれが適当に選んだ席に座った。特別コーヒーにこだわりは無い。エスプレッソと言われ
ても、濃いコーヒーというぐらいしか知らない。目の前には申し分ない香りが立ち上るコ
ーヒー。カウンター越しの相川が姿勢を正した。
「では、ご説明致します。これからみなさんにこのコーヒーを飲んで頂きます。自信作の
エスプレッソです。エスプレッソの作り方は念入りに練習してきたんです。嫁さんもOK
出してくれました。とっても美味しいと思います。………でも」
内緒話をするように、そっと身を屈めた。
「でもこれは、ロシアンコーヒー」
明るい口調で語りたかったようだが、肝心の箇所で声が震えた。
「ロシア製のコーヒーってわけじゃなくて、このうち3つは美味しい普通のコーヒー、た
だし、残りの1個だけ………毒が入ってます」
言葉の意味を理解し、4人の表情が凍りつく。
「このトラップは、この店に選手が4人揃ったらスタートだったんです。4人も同時に集
まらないと思っていたんですけど……やっとスタート!」
相川が高らかに宣言した。
「さ、どうぞお飲み下さい、冷めないうちにどうぞ」
カップに手を伸ばす者などいない。ただ緊張感に満ちた時間が流れた。
下山はチラリと出口の方を見た。仁王立ちしているガルシアを突破するのは無理なようだ。
深呼吸をする。事態はとんでもない方向へ行き着いてしまった。しかも最悪な状況。席を
選んだ時点で、飲むコーヒーは目の前のものに決まってしまっている。
生き残れる確率は4分の3。比較的高いとは言える。だが……
(なんだよ……なんでこんな………ここは中立地帯だろうが!)
誰も自発的に戦いなど起こしてはいないのに。
(なんでこんな時に、ここに来ちまったんだ!)
キレて暴れたくもなる状況。しかしそんなことをしては真っ先に自分が殺されるのだろう。
誰かの何かによって。下山の手は震えていた。チラリと横目で隣を見る。筧の腕の震えが
見てとれた。4人がコーヒーを飲んだ次の瞬間、誰かが死んでいるのだ。最後の言葉も残
せず。最後の思いも託せず。
拒否権の無い選択。知らぬ間に選ばされてしまった運命。
(どうして………)
そんな言葉しか浮かばない。冷静に何かを考えようとするのに、何も浮かばない自分がも
どかしい。
「さ、冷めないうちに、どうぞ」
同じように緊張している相川が告げた。まだ手元が震えているらしく、それを隠そうと手
を組んだり揉み手をしたり忙しそうだ。
思わせぶりにグラボースキーが机をコン、と叩いた。
最初に手を伸ばしたのは村松だった。
「………」
しっかりした手つきで、目の前にあるコーヒーカップを手に取った。
「……俺が注文したんだしな。頂くよ」
誰とも目を合わせることなく、カップを口に運んだ。唇に液体が触れる。熱すぎず、ぬる
すぎず、すんなりと飲める熱さだった。村松は一気に飲み干した。
「さ、みなさんも」
相川が即す。その右手に銀色に光る鋭いものが、まるで3人を脅すように見えた。
下山、筧、迎も慌ててカップを手に取った。そして3人同時に一気にコーヒーを飲み干し
た。味などわからないまま。
カチャン、カチャンとソーサーにカップが戻される。
誰も何も喋らなかった。
静かな時間、誰かのほんの少しの変化も逃さないように。
重苦しい沈黙。時計の針の音まで聞こえていた。
相川はもしもの時の為に銀色のナイフを握っていた。その手に脂汗がにじんだ。自分の作
ったコーヒーに毒を入れた。どのカップに入れたかは、自分だけが知っている。自分によ
って、誰かが死ぬ。自分が今、誰かを殺すのだ。
目の前に並んでいる4人の顔も、緊張感に満ちている。カップを見つめている者、机のや
や遠くを見つめている者、じっと俯いている者、目を泳がせている者。
(は、早く決着ついてくれ……俺の方が耐えられないよ……)
そう思った時、グラリと1人の体が揺れた。
そのまま前に倒れ、机に突っ伏す。カップが倒れた。
誰も何も言わないまま、その体を見つめていた。
もう動かないその体を。
【×筧裕次郎 残り・31名】
「……筧、でしたね」
相川が呟く。少し声が喉に引っ掛かり、水を飲んだ。緊張は隠せなかった。
「トラップタイムはこれで終わりです。あとはどうぞご自由に」
「ご自由にって言われても、この島からは出られないんだろ」
「ええ」
村松の問いに、やや冷静さを取り戻しながら答える。また水を飲んだ。量が足りなくて新
しい水を注ぎ足し、それをまた飲み干した。
大きく一回深呼吸をしてから、下山が立ち上がった。手を合わせ、目を閉じて筧の体をそ
っと拝み、村松を見た。
「村松さん、どうします?」
「………脱出する方法を考える」
「1人で?」
「1人は厳しい。仲間を探す」
村松も立ち上がる。やはり目を閉じ、動かない筧の体に黙礼した。
もう戸口にガルシアはいなかった。自由に出入りが出来る普通の時間に戻ったのだ。
今は少しでも筧の死体から離れたかった。下山も村松もカウンターから距離を取った。
「………俺は、信じられますか?」
いつもよりトーンの低い下山の真剣な問いかけに、村松は小さく笑った。
「信じたいな」
「じゃあ、共同戦線張りませんか?1人で考えるより、2人で考えた方が有利です。脅す
つもりじゃないけど……俺を仲間にした方が有利ですよ」
下山は小さな機械を取り出した。
「俺の支給品、これなんです」
「………なんだ?」
村松が屈み込むようにしてそれを見る。
「………首輪探知機」
右手で簡単な操作をした。
「自分のいる近くに首輪があれば、ランプが点滅するんです。カーナビみたいな感じです
かね」
現在の場所には2つのランプが灯っていた。
「……2つ?」
この店の中で首輪をつけた人間は4人。筧が消えて、残りは3人のはずだ。
村松と下山は揃って迎の方を見た。まだ椅子に座ったままの姿勢でいる。
「迎?」
声をかける。その背中は微動だにしない。
「迎、もう大丈夫だ」
そっと歩み寄り、肩をポンと叩いた。途端に迎が口から血を吹き出した。
「ぎゃあっ!」
叫んで飛びのいたのは相川。迎の体も筧と同じように前のめりに倒れた。
「ど、どういうことだ?!」
下山が狼狽える。
「し、死ぬのは1人だって言っただろ?!」
問い詰めるように相川を見た。
「1人ですよ!俺は1個のカップにしか入れてない!」
必死な顔で相川が弁解する。
「お前まさか……っ!」
村松は一声叫ぶと同時にボウガンを相川へと向けた。
「迎のカップにまで毒を入れたのか!」
「1個だって言ってるでしょう!」
「そんな嘘誰が……!」
「嘘じゃありません!」
「じゃあなんで迎まで……!」
「まさか俺たちのカップにも……!」
ボウガンの狙いがしっかりと定められる。相川は壁際に逃げたが、鋭い矢の先も相川を狙
って動いた。
「解毒剤は!」
「そ、そんなものありませんよ!だから言ってるじゃないですか!」
「ンの野郎っ!」
村松の人差し指が動いたその瞬間、バンッ!という音がした。村松の首元から赤とピンク
がかった何かが飛び散った。同時に引き金が引かれ、ボウガンから矢が飛び出す。矢は
相川の胸に当たったが、ガツッという音と共に床に落ちた。
大きく揺れた村松の体が、重心を失って床に崩れ落ちる。首元から赤い液体が溢れ出た。
思わず下山は両手で口を抑え、壁側を向いてしゃがみ込んだ。堪え切れずにその場で吐
いた。慌ててブランボーが濡れタオルを持ってくる。そのまま下山の背中を撫でた。
「ダイジョブ、シモ、ダイジョブ」
そう繰り返して。
相川は自分の胸元を見た。防弾チョッキがこんな風に役立つとは。この店に入れられる前
に与えられた。やはり着ていて正解だった。
そっと筧を見た。筧は席に座る前に、コーヒーカップを選ぶ振りをしながらポケットから
小さな瓶を取り出していた。そして、他の選手、相川からも見えないように注意しながら、
1個のカップにその中身を注ぎ込んだ。おそらく毒だろうと思った。
ここは中立地帯。殺し合いは許されない。奥の決闘部屋以外で殺し合いを始めた者は、首
輪が爆発する。そう入り口にも書いてある。
だが筧は人殺しをしようとした。
相川は止めなかった。何故なら、筧は相川が毒を入れたカップの前に座ったから。
そして、真っ先に筧自身が死んだ。
そして、筧の仕掛けた毒に迎がやられた。
それらを見て我を失った村松は、相川を殺そうとして、中立地帯規定通り首輪が爆発した。
(一気に3人も減ったのか……)
相川はコップに冷たい水を入れると、まだしゃがみこんで吐いている下山へと差し出した。
【×迎祐一郎 ×村松有人 残り・29人】
「リプシー、ちょっと止めて」
小雨が降り始めた海の上、大島が言った。
「え?あ、はい」
言われた通りおとなしく船を止める。逸る気持ちを抑え、手招きする大島の方へと歩み寄
った。
「少し、あの島に関する話をしておきたいんだ」
膝の上で手を組み、ネッピーとリプシーの顔を交互に見る。
「この船を借りる時にね、こんなことを言われたんだよ。『あの死の島に何しに行くんです
か?』って」
「死の島?」
2人が同時に問い返す。大島はいつもの笑顔だったが、それが大島なりの真面目な表情だ
ということは2人にはわかっていた。
「この島から人が消えた理由。少しだけ聞けたんだ。港で話してもよかったんだけど誰が
聞いてるかわからないし、君たちは目立ち過ぎるから場所を変えた方がいいと思って。だ
ったら海の上かな、と」
大島は鞄から1枚の地図を取り出した。双子島の見取り図だ。
「ここ、左下、この橋の先にある小さな島。ここに研究所が建ってるんだ」
大島が指さす。
「この研究所で、とある研究が行われていた。その実験結果が漏れてしまったんだ」
「実験って……?」
リプシーが尋ねる。不安げな瞳で、穴が開きそうなほど真剣に大島を見つめた。
「微生物、というか、細菌というか……まあとにかく、人間の日常生活にはあまり必要な
いものだね。むしろご遠慮願いたい」
「………島の人たちは?」
恐る恐るネッピーが尋ねる。大島は小さく首を横に振った。
「だ、だって、そんなことあったなら、報道されたって……!」
「揉み消されたんだよ。報道規制だ」
「で、でも、島の人達が急にいなくなったら……」
「過疎の島だよ。観光事業も無くなった」
大島がそっと呟いた。
「………社会から消された島なんだ」
その一言に、ネッピーがうなだれる。親しかった2人の友人を思い出したのかもしれない。
本土から離れた小さな島で起こった悲劇。それを引き起こしたのは人間だ。
「風が吹いてしまったんだよ」
大島の説明が続く。
「風……?」
「ああ、海流とかいろんな気象条件から、普段は研究所は風下なんだ。でも、ある季節に
は時折気まぐれな風が吹く。普段とは逆方向からやってくる海風が」
「その風が………島の人々を?」
「偶然が重なったんだ。細菌が漏れた。滅多に吹かない風が吹いた」
そして大島は大きく息を吐いた。軽く座り直して、再び2人を見る。
「港の人たちがね、時折研究所に向かうらしいスーツの男を見かけたそうだ」
何かを予感して、ネッピーは息を潜めた。
「ネクタイピンには、オリックスグループのマークがついていたそうだ」
リプシーが耳を塞いだ。
突然木の上から落ちてきた男に、ユウキと平野恵一は慌ててその場から飛びのいた。
研究所への道のり、綺麗な花畑を抜けた。ユウキが何げなくそこに立っている木を蹴った。
そうしたら頭上から降ってきたのだ。
「後藤さん?!」
「いてて……」
長い銃を抱えたまま腰をさすっている。ユウキは小さく舌打ちをした。
(またオリックス組かよ)
平野が駆け寄って後藤を起こす。
「ゴッツさん、大丈夫ですか?」
愛称で呼びかけると、後藤は照れ笑いをした。
「すまん、居眠りしてたんだ」
「木の上で?」
「ああ、ここなら隠れられると思って」
「……その銃で狙撃する為にですか?」
ユウキの問いかけに後藤は悪びれることもなく答えた。
「まさか。少し休みたかったんだ。ずっと歩いてたし」
後藤は軽く伸びをすると平野を見た。
「阿部ちゃん見てないか?」
「阿部さん?」
「そう、阿部ケンじゃなくて、阿部ま、の方」
「見てないです」
「そうか……ま、そう簡単に見つかるはずないよな」
そう言って、銃を肩に掛け直す。腕時計を見た。
「日没まではまだいくらかあるな。まだ探せるか」
「阿部さん探してるんですか?」
ユウキが尋ねる。その目はじっと後藤の銃を見つめていた。
「ああ」
「阿部さん、ヤバイんですか?」
「何が?」
「何がって………探すくらいだから」
「んなこと知らん」
飄々とした後藤の答えに、ユウキは心の奥で舌打ちをした。
「そうだ、ゴッツさん、一緒に研究所に行きませんか?」
平野が笑顔で問いかける。
「研究所に行けば、何かわかるかもしれないんです。行きましょうよ」
仲間を見つけた嬉しさなのか、平野の声も明るい。
だが、後藤は静かに首を横に振った。
「阿部ちゃん、見つけないと」
「研究所の方向にいるかもしれませんよ?それに一緒に行動してる方が安心ですよ」
やはり後藤は首を横に振った。
「島の端に行くのは人探しには向かないと思う」
「根拠は?」
「なんとなく」
平野は小さくため息をついた。後藤の対応は掴み所がない。これ以上説得しても無駄なよ
うだ。
いつの間にかさりげなく、ユウキは後藤の背後に回っていた。
ベルトに差している小型ナイフに手をかける。
出来れば近鉄組に限定しておきたかったのだが、そろそろ我儘を言ってはいられないよう
だ。時間は着実に減ってゆく。生き残りたいならより好みをしている場合ではないのだ。
平野や後藤と一緒にいると、どうも緊迫感が失われてしまう。特に後藤のにやけ顔は危険
だ。作戦かもしれない。それに、何よりも魅力的なあの銃。
(後ろから抱え込んで、ナイフで首をひとっ掻きだ。それだけでいい。恵一にはゴッツさ
んが武器を隠し持ってたって言えばいい。お前は狙われてたんだ、それに俺が気づいて助
けてやったんだって)
体の後ろでナイフを握り直す。攻撃は一瞬だ。一撃で終わらせなければ。
(しっかり狙えよ……)
狙いを定める。定めようとしても、後藤の普段の癖なのか体が左右にユラユラ揺れている。
(落ち着けよ、こいつ……性格みたいにフラフラすんなよ!)
ようやく後藤の体の揺れが止まった。
(………よし!)
飛びかかろうとした瞬間。
「あ」
後藤がしゃがんだ。
態勢を崩しそうになったユウキが、慌ててナイフを隠す。
「おー、いい石だねー」
後藤が右手に拾い上げたのは、玉虫色に輝く小石だった。
「石?」
平野が覗き込む。
「なんかキラッて光ったから、気になって。綺麗だろ」
「ホント。水晶とか天然石の類ですかね?」
「どうだろ?俺が拾ったから俺の」
「誰も取りゃあしませんよ」
平野が笑う。後藤も笑いながら石をポケットにしまった。
(マイペース過ぎるよ、ゴッツさん……)
半ば呆れながらユウキは思った。どうやらここでこの人物を手にかけることは難しいよう
だ。平野ごと一緒に消せるのなら、それほど躊躇わないのだが。ラッキーカードは平野が
持っている。奪うことは簡単だが、研究所で何が待っているのかわからない。その為には
自分以外にもう1人いた方がいい。もしもの時の為にも。
それにしても自分の武器が心もとない。もっとしっかりした武器が欲しい。
投下乙です!
(神様が俺を諌めてるって?)
心の中で苦笑いをする。
(でもさ………)
ユウキの心は決まっている。
(そう簡単には許せないんだ)
すべて、もう決めたこと。
後藤が荷物を背負い直す。肩掛けを巧みに両腕に通し、荷物をリュックサックのように背
負っている。そして、両手で細身の長い銃を抱えた。
「じゃあ、行くよ」
笑顔で手を振る。
「ゴッツさん、気をつけて下さいね」
寂しげに平野が声をかけた。
「ああ、阿部ちゃん見つけたら俺が探してたって伝えてくれな」
「はい」
伝えたとしてもその後、会えるのかはわからないが。
眩しい夕陽の中、後藤が歩いて行く。
何かを予感するかのように、平野の視界の中でその姿は何故かうっすらと滲んで見えた。
【残り・29人】
今回はここまでになります。
また突然、連投規制がかかったんですが、今回はすぐに解けました…
投下お疲れ様です。
予感ってなんか意味深ですね。気になる・・・
投下乙です、いつも楽しみにしております^^
ブランボーの優しさにホレタ
141 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/11/29(水) 07:21:32 ID:5DCcl2wGO
投下乙です!!
ぜひ後藤と阿部ちゃんには再会して欲しいなぁ…(´・ω・`)
投下乙でした。
村松・・・村松が死んだシーン読んだときリアルで村松ーっ!!って叫んじゃったよ。
しかし(゚∀゚)は可愛いなw
ほす
捕手
ほしゅ
ほす
hosyu
☆ゅ
151 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/12/06(水) 01:11:20 ID:/mPXPm5RO
子猫を胸に抱き、萩原は崖下の砂浜をぼんやりと歩いていた。
独りではない。けれど1人。どことなく寂しさを感じたが、別に意識するほどのことでも
ない。独りは慣れている。高校の時から親元を離れた。それ以来、独りで生きることを学
んだ。今では家で家族と共に過ごした時間よりも、離れている時間の方が長くなってし
まった。野球留学をした者なら、これくらい当たり前だ。
しばらく歩いて、ようやく崖の上へと上がる階段を見つけた。綺麗な砂浜だったので、こ
の島に住んでいた人達が遊びに来ていた道があるだろうと思っていた。その通りになって、
少しホッとする。
綺麗な花壇が見えてきた。寂れた島とはいえ、花畑や花壇が多い。それだけ気候に恵まれ
た自然の楽園なのだろうか。ならばこの島には人間などいない方がいい。そう思った。
萩原が崖下から上に行きたかった理由はただひとつ。
「……お前の好きなご飯も見つかるかもな」
優しく子猫に話しかける。子猫も何かを理解したのか、萩原を見上げて小さく「にゃあ」
と鳴いた。
「……せめて、お前に美味いもん食わせてやりたいよな」
ボソリと呟く。
「………神戸に連れて行ってやりたいな………美味いもん沢山あるんだ……プリンとか、
お前絶対気に入るぞ?」
顔を寄せ、人差し指で子猫の額をつつく。子猫は顔をクシュッと縮めた。
「……俺はさ、結婚もしてないしさ、生きててもこの後どうなるかわかんないしさ、だか
らさ、せめてお前は……まだ子供なんだからさ……まだまだいろんな楽しいこと………楽
しいこと、いっぱいあるから……」
思い出すのは高校時代。投手ではなく、4番を打つ野手だった。高校2年の春はかなり勝
ち進んだ。自分でもそれなりに活躍出来たと思っている。これがスカウトの目に留まった
らしい。
そして高校3年の春。あっさり敗退してしまったけれど、精一杯走った。精一杯バットを
振った。打算も何もなく、ただ真っ直ぐ前を見つめていた。
開会式、入場行進の前。トイレに行った時に1人の選手とすれ違った。背中を見たら「1」
を付けている。誰かが「おーい、4番打者―!」と声をかけた。一瞬萩原は自分のことか
と思ったが、「1」をつけた選手がそちらへと走って行った。
あれは誰だったのだろう。なんとなく石川県代表の選手だったような気がする。彼は今ど
こで、何をしているだろう。まだ野球を続けているのだろうか。それとも野球の全てを捨
て、全く違う環境にいるのだろうか。
野球は様々なドラマを起こす。出会いも、別れも。
あの頃はいくつもの可能性に満ちていた。そして今、自分は野手としてではなく、投手と
して野球を続けている。不可思議な可能性。
その神のみぞ知る不可思議な可能性は、この島でも通用するのだろうか。
「……なあ猫、お前にはまだ沢山の可能性があるんだよ」
打者としてプロに入って、投手として立場を得た。それも萩原の可能性だった。
「………そうか」
ようやくわかった。萩原の生きる理由。この島で生き残る理由。
「………お前の可能性の為に、生きて帰るよ」
子猫を守る為に。子猫の未来の為に。小さな小さな可能性の為に。
それが、儚いものであっても。
「お前が俺を頼ってくれるなら、俺はお前を守るよ」
萩原は崖の上への階段を登りきる。
青い空が広がる。
目の前に広がる花畑。そして遠くに見える、森。
まだぼんやりしてはいるけれど、方向は定まった。
腕の中で安らぐ、小さな未来の為に。
【残り・29人】
「じゃあ、行くんだね?」
大島の数度目の問いかけにも、リプシーはしっかりとうなずいた。ネッピーも覚悟は出来
たようで、さっきまでとは全く違う表情だった。すでに迷いは無く、ただ真っ直ぐに大島
を見つめた。
「行かせて下さい。僕もリプシーも、選手の皆さんを助けたいんです」
海風に髪を靡かせ、告げる。リプシーも続けた。
「お願いします。風が……風が吹く前に行かせて下さい!今選手のみなさんがどんな状況
にいるかもわからないんです!一刻も早くあの方……いえ、みなさんを助けたいんです!
もうこれ以上、大切な誰かを失うのは嫌です!」
リプシーのスカーフが揺れる。影でキラリと光るペンダント。そのペンダントを大島も知
っていた。
「………わかったよ。もう何も言わない」
大島は無線機を2人に渡した。2人は説明書を見ながら、早速それらを準備し始めた。本
体である小型子機を腰のベルトに留め、ヘッドセット型のマイクとイヤホンを各自が装着
する。親機はやや大きめ。大島が両手で持つと、まるでクーラーボックスを抱えている釣
り人のようだった。
「それから、これ食べて」
大島が差し出したのは、オレンジ色のジャム。
「………マーマレード?私、好きですけど」
「戦の前の腹ごしらえですか?」
「いや、ちょっと噂でね」
大島は頭を掻きながら答えた。
「オリックスのネクタイピンをした人がね、いつも決まったメーカーのマーマレードをね、
買い込んで行ったらしいんだなあ。だから」
「はあ………」
「この辺もね、ちょっと気になるから赤堀たちに調べてもらってる」
鞄から小さなクロワッサンを数個取り出し、2人に渡した。2人は怪訝に思いながらもパ
ンでマーマレードをすくい、渡されるままに食べ始めた。クロワッサンは出来立てらしく
仄かに温かく、微かな甘みが気持ちを少し落ち着かせてくれた。
「リプシー、ちゃんと噛みなさい。急いで行きたいのはわかるけど」
「………はい」
普通の状況で食べればマーマレードジャムももっと美味しかったのだろう。だがこの切羽
詰った海の上という特殊な状況が、2人の食べるスピードを速めた。パンを口に運び、数
回噛んだだけで飲み込む。その繰り返し。大島が小さくため息をついた。
「そういう食べ方が一番太るんだよ、リプシー」
リプシーは何も答えず、ただ黙々とパンを口に運んでいる。
「………じゃあ、行くか」
大島が立ち上がる。双眼鏡を取り出し、島の方を見た。
どこかから音が聞こえてきた。
「えっ?」
ほぼ同時にそれに気づいた3人は、音のする方を見た。
一艘の大きめのクルーザーが、もの凄いスピードでこちらに向かって進んで来ていた。ど
んどん波が大きくなる。見えている船もどんどん大きくなる。
「え、ちょっと、止まるか曲がるか……」
しかしクルーザーはこちらの船めがけて突進して来ている。リプシーは慌てて舵に飛びつ
き、船を回避させようとした。
「動かない!」
悲鳴にも近い叫び。
「まさか舵に細工……!」
大島が叫ぶ。船はクルーザーの起こす波にあおられた。クルーザーの方もようやく気づい
たのか、それとも故意なのか、ようやく船体を翻した。
ガツンと船尾がぶつかる。小さな方、大島たちの船が傾く。
「うわっ!」
「きゃあ!」
豪快に船が横転する。3人の体は勢いよく波間へと放り出された。
市街地の隅でようやく薬局を見つけた。ドラッグストアではなく、昔ながら「薬局」だ。
オレンジ色の象が店先に立っていた。どことなく懐かしい気がした。この島は時代の最先
端から約5年ほど遅れているのかもしれない。いや、きっと時間がゆっくり流れているの
だ。何も急ぐ必要のない、長閑な島なのだ。
けれど光原はそこで急がなければならなかった。一刻一秒を争う状態。ほんの一瞬の判断
が命取りになるかもしれない。きっと今の光原たちの表情を、この島の住人たちは好まな
いだろう。疑心暗鬼と怯え、信じたいのに信じられない、そんな複雑な顔つきだ。
けれど光原は信じていた。少なくとも金子は仲間だ。光原のために食料調達もしてくれた。
信じあい、助け合える仲間だ。これだけは自信を持って言える。
「……おじゃまします」
誰もいないとわかっていながら一言断って、中に入った。鍵はかかっていなかった。ここ
の住人は、そんなに急いでこの島を出て行ったのだろうか。
痛み止めを見つけた。使用期限はギリギリだが、それでも多少の役には立つだろう。
(バファリンならスタンダードだし、大丈夫だよな?エキセドリンの方がいいのかな……
痛み止め、痛み止め、と……あとはノーシンにイブ……あれ?打撲の痛みって、こういう
ので止められるのかな……)
少し首を捻る。
(………まあいいや、全部持っていっちゃえ!)
それらしき薬を鞄の中に突っ込むと、光原は急いで元いたコンクリートの建物へと走った。
きっと金子は今も痛みに耐えながら歯を食いしばっているのだろう。弱音も吐かず、それ
らを飲み込んで。我慢強い奴なのだ。年下の金子が頑張っているのだ。年上の自分が頑
張らないでどうする。自分にそう言い聞かせた。きっと金子は喜んでくれるに違いない。
「ありがとうございます、ミツさん」
そう言って笑うだろう。だから光原も笑い返そう。「どうってことないって」そう言って、
これからのことをまた考えよう。手を結ぶ仲間を探そう。光原と金子がこうやって信じ合
えるのだ。きっと他の人達だって………
道の端を走る。目印にしておいた信号機を右折し、真っ直ぐ走る。危うく間違えてホテル
らしき建物を目指そうとしてしまった。高さは似ているが、雰囲気は全く違う建物だ。
「金子、あったぞ!」
建物に飛び込みながら小声で声をかける。しかし、そこには静寂しかなかった。返事は無
い。誰もいない。金子の鞄も見当たらない。
「………金子?」
どこかに隠れているのだろうか。こういう状況だ、慎重になるのも当然だろう。光原は金
子を探してフロアを歩いて回った。しかし人が隠れられるような場所も少ない。
水の滴っている場所に水たまりがあった。誰かが踏んだ足跡がある。
(金子のかな)
それほど広くはないフロアを探したが、結局金子は見つからなかった。水に濡れた足跡が
乾きかけたまま、少し残っているだけ。
仕方なく元いた場所に戻った。よく見ると、近くの壁の穴周辺が焦げていた。何か強い炎
を一気に当てたような焦げ方。金子の持ち物に火に関するものは無かったはずだ。
「………金子?」
何かあったのだろうか。光原がいない間に、ここを立ち去るほどの何かが。メッセージを
残す余裕もないまま。
「………金子?」
もう一度呼んだ。返事は無い。
(………何かあったんだ!探さなきゃ!)
光原は歩きだした。走ろうと思ったのだが、目的地がわからない。だから歩いた。少しで
も金子の痕跡を見逃さないように。
(怪我してるんだ。無理は出来ないはずだし)
何かがあったに違いない。金子を独りにした光原にも責任があるような気がした。小さな
罪悪感。もし金子に何かあったら、自分の責任は否めない。
再び外に出た。人気のない市街地をキョロキョロしながら歩く。ホテルに目が行ったが、
不思議とその方向には足が向かわなかった。
光原は小高い丘の見える方向へと歩き出した。
腕にアヒルの浮輪をつけたまま。
【残り・29人】
ホテルの一室の洗面所で、ジェイソンは白いマスクを外した。
鼻を中心に、タオルで顔を覆っている。血走った目だけが力強い光を放っていた。
元々は白いタオルだったが、部分部分が血に染まっていた。鏡を見ながらゆっくりとタオ
ルを剥がす。貼りついてピリピリと痛んだので、改めて水に濡らしてから慎重に剥がした。
それでも痛いことに変わりはなかったが。
鈴木は中村紀洋によって顔面を怪我した後、急いで顔を水で洗い、タオルを当てた。
ずっと左手でタオルを押さえて行動するのはもしもの時に不利だと判断し、支給品である
白いアイスホッケーのマスクをはめて押さえた。自分のポジションがキャッチャーでよ
かったと思った。そうでなければマスクが鬱陶しくてしょうがないだろう。
そして歩いた。休む所を探して。
その途中で見た。
誰かが叫びながら走り逃げる光景。本当に殺し合いが始まっているのだと思った。
どうやら自分の考えは甘かったようだ。
顔を流れるぬるりとした感触。時々チラリと視界に入るタオルの赤。
それらが少しずつ、鈴木を狂わせていった。
(………もしもの時は………やるんだ)
例え相手が無意識であったにせよ、自分は傷つけられたのだ。そしてこんな不利な状態に
陥っている。ならば、やられる前にやらなければ。無意識のうちにでも。
夜道を歩き、誰かが掘ったらしい穴に足を取られた。どうやら左足をくじいたようだ。
とにかく休める場所を探して歩き、あのホテルを見つけた。
奇妙な雰囲気のホテルだった。元々ホテルという場所は無機質な印象を受ける。
けれど寂れた市街地のせいか、見捨てられた島のせいか、それ以上の何かを感じた。
一言で表現すれば、幽霊ホテル。
ならば、自分が幽霊になろう。存在を消し、背後から忍び寄る。与えられたマスクなど、
素性を隠すのにピッタリではないか。
ある種のゲーム性を見出し、鈴木は楽しくなった。敵の存在に鈴木にとってマイナスの印
象があれば、それだけ敵意も増すだろう。
最初に出会ったのは大西。いつも冗談を言って、鈴木をからかってくる生意気な奴だった。
慇懃無礼、先輩を先輩とも思わない態度。簡単に敵として認識出来た。逃げられたが、顔
に傷を負わせた。
(俺と同じ状況にしてやっただけさ)
次に出会ったのは金子。エレベーターにいた。こいつにも手こずらされた。サーパスでの
試合、鈴木の出すサインに悉く首を横に振る生意気な後輩だった。金子が打たれても周囲
のコメントは「金子の技術を生かしきれないリードが悪い」「金子独特のカーブを捕球し
きれていない」という金子擁護のものばかり。暗に鈴木を非難する。
(全部俺のせいかよ)
簡単に憎むことが出来た。金子は右腕を怪我していたらしく、あっけなく死んだ。
(ほら、俺出来るじゃん)
そう思って油断したのかもしれない。
次に出会ったのは高木。まさか銃を持っているとは思わなかった。銃弾は鈴木の左肩をか
すめた。重心を崩して床に倒れた隙に、高木は逃げてしまった。
(さて、どうするかな)
これからどうするか。
まだこのホテル内に人はいるのだろうか。
ここで誰かが罠にかかるのを待っていようか。
ここは人食いホテル。
【残り・29人】
今回はここまでです。
ノロウィルスにやられて会社休み中…orz 年次決算終わるかなあ…
みなさんも手洗いとうがいを忘れずに……
乙です!
早く風邪治してくださいね☆
光原…
おもしろすぎるよww
乙です。
正体は鈴木だったのか・・・
シドニー・・・
☆
よく知らないんで教えてほしいんですけど、
萩原ってどんな人?
オリファンのひと教えて
イチローの同期。
唯一『頑張ろう神戸』から今まで在籍してる選手。
プロに入ってから投手転向。
168 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/12/09(土) 07:19:17 ID:MfaSvvEXO
イチローと田口の流出は痛かった
萩原って性格的にはどうですか?
まとめ役するようなリーダーシップ持ってるとか、すごく物静かとかどっちなんでしょう?
ほしゅ
保守
>>169 DQNみたいな。選手としては鋼鉄の右腕として日々連投に耐えてるのがすごい。
乙です。
自分の周りでも何人もノロウイルスでひどい目にあってます
無理しないでゆっくり休んでください
保守
捕手
>>172 トン。あまりに飄々としてる印象があったので謎だなぁと前々から思ってました
小高い丘を下りた加藤と歌藤が街外れに見つけたのは図書館だった。
すぐ近くには学校らしき建物が見える。学校と言っても、平屋建ての小さなものだ。むし
ろこの図書館の方が立派な建物だった。この島に人が住んでいた頃は、人々の集う憩い
の場所だったのかもしれない。
「島の地理の本とか、歴史の本とかありますかね?」
「郷土のコーナーとかあってもいいよな、多分そこだろ」
この島に関する資料が欲しい。歌藤がそう言って中に入ることを望んだ。加藤も拒否する
気にはならなかったので、後について入った。
少々気味の悪い空間だった。キチンとカーテンは閉じられている。真っ暗だったので、小
さな明かりを点けた。幸いと言っていいのか、蛍光灯の明かりも弱っている。この程度の
明かりなら、外部の目を引くほどではないだろう。
社会、歴史コーナーと歩き、加藤は「郷土〜わが島」と書かれた棚を見つけた。顔を寄せ、
棚に並ぶ背表紙を見る。それほど量は多くない。薄い1冊を手に取った。
『わたしたちの島〜風と波の一年〜』
そんなタイトルの、小学校高学年向けの本だった。写真も多く、読みやすい。
近くにある椅子に座り、加藤は黙々と読み始めた。
興味を引いたのは、1日24時間の中で島の陸地面積が変わるという話だった。満ち潮にな
ると、島の隅の低地を海が覆ってしまい離れ小島が出来る。引き潮になれば、波が引いて
再び地続きになる。子供は泳いで小島へ渡りたがるが、予測のつかない波が渦巻いている
為、大人でもそこを泳ぐのは危険だという。もう何年も昔から、そこで命を落している人
が絶えないらしい。逆に言えば、そこに身を投げれば死体は決して浮かんでこないそうだ。
その本は子供達にしっかりと言い聞かせていた。
『もし離れ小島に残ってしまったら、無理に泳いで戻ろうとしてはいけません。船に乗っ
てもいけません。数時間すれば波が引いてまた元通りの道が出来ます。その時に戻って来
ましょう』
(死体も浮かんでこないのか……)
島の南端にそんな場所が数箇所あるらしい。そのうちひとつの場所には、数年後に橋がか
かると書かれている。加藤は本をひっくり返し、出版年度を見た。
(2001年ってことは、もう出来ててもいい頃?)
本を棚に戻し、伸びをした。
(あー、風呂入りてえー!)
この島に来てから、ずっと動き回っている気がする。顔に似合わず風呂好きな加藤として
は、なによりも風呂に入ってさっぱりしたかった。シャワーではダメなのだ。湯船にしっ
かり浸かって、頭の上にタオルを乗せて、のんびりしたいのだ。こんな緊張感に満ちた環
境から解放されて。
(チクショー、風呂のある場所見つければよかったなー)
歌藤は街の方へ行きたいと言った。仲間に会える可能性があるから。
加藤は街の方へ行きたくないと言った。敵に会う可能性があるから。
(街なら風呂とかあったのかもな……)
後悔する。
(今からなら、街の中心の方に行けるかな……まだ移動出来るかな……)
立ち上がり、歌藤を探した。勝手に違う場所に移動しているようだ。
「歌さん」
「おー」
本棚の間から声が聞こえた。声のした方へと歩く。棚と棚の間に、歌藤は座り込んでいた。
胡坐をかき、1冊の本を床に置き、懐中電灯で照らし、真剣に読んでいる。
「何読んでんですか」
「いや、ちょっと面白そうで」
向かいにしゃがみこむ。指先で本をつまんで持ち上げた。
「『実践護身術〜柔道から陰陽道まで』………陰陽道?」
「この間DVDで映画観たばっかりでさー」
「歌さん………ああ、でもおかしくはないな。いけるかも」
加藤が何かを思いついたらしく、満面の笑みを浮かべた。
「こういう緊急事態の時って、だいたい主人公は特殊な力に目覚めたりするんですよね」
「……アニメとかならな」
すでに歌藤の顔は本に向いている。加藤の言葉を軽く聞き流しているようだ。
「古代人類の血とか、宇宙から授かる力で危機をくぐり抜けるわけですよ」
「………ほー」
投げやりな返事。歌藤は本を見ながら両手を組んで、指先をシャカシャカと動かしている。
「やっぱりね、そういうのって血筋だったりするじゃないですか」
「……えーっと……すべからく……」
加藤の話を全く聞いていない。気にせず加藤は続けた。
「歌さん、そういうのありません?かなり古い家柄なんでしょ?平安時代の天皇に仕えて
たんでしょ?」
「平安時代じゃない。平城京の時代。貴族の立場が弱くなった頃の後醍醐天皇に和歌教え
てた歌詠み」
「あれ?陰陽師じゃなかった?」
「アホか。歌藤という珍しい苗字の由来を何だと思ってたんだ」
「はー」
「……よし、覚えた」
歌藤が顔を上げる。
「何覚えてたんですか?」
「式神を呼ぶ印」
「……………は?」
「この本に書いてあったんで」
真顔で言う歌藤に、加藤はポカンとした。
「いやだってさ、大輔が陰陽師がどーちゃらって言うから、ちょうど本に印の結び方が書
いてあったんで、ちょっとやってみようかと」
「………歌さん………」
「いや、暇潰しにね。冗談だから」
笑いながら答える。
「ひょっとして歌さん、幽霊とか見る方ですか?」
「見たことはないよ」
「ああよかった」
加藤がホッとする。
「神社の入り口とかで頭痛くなる程度だよ」
「……………」
加藤の笑顔が凍る。
「んじゃ、やってみるかなー」
歌藤は印を結ぶ手が見えないように、シャツの下へと潜らせる。
加藤は鞄の中からパンを1個取り出した。本来なら静粛に見守るべきだろうが、空腹には
勝てなかった。
目を閉じ、歌藤が口の中で何事かを呟く。加藤は音を立てないように注意しながら、ペリ
ペリとパンの袋を開けた。
「急急如律令っ」
腕を震わせ、歌藤が力強く最後の呪を唱えた。
その瞬間、黒い固まりが加藤の頭上から勢いよく降ってきた。
「うわーっ!!!」
「えっ?!」
加藤の絶叫に、半ば冗談のつもりだった歌藤が驚いて目を開ける。
加藤の上半身はいくつかの黒い物体で覆われていた。
「うわああああっ!!」
驚きのあまり歌藤も声を上げた。
黒い物体はキーキー言いながら加藤を襲っている。
(呼んじゃった!ヤバイの呼んじゃった!俺スゲエ!)
腰を抜かしたように床に座り込んだまま、歌藤は加藤を見上げた。
「いてててててっ!痛え!痛えよ!歌さん助けて!!」
何も見えない状態で、加藤がよろめいている。
その光景を見ていた歌藤は、ようやく黒い物体の正体に気付いた。
「だ、大輔!パンを投げろ!鞄も離せ!」
「えっ?……痛っ!!」
「いいから捨てろ!早く!」
怒鳴られ、加藤は必死に右手からパンを捨て、左腕に絡み付く謎の生き物を振りほどきな
がら腕から鞄の肩紐を抜いた。ドサリと鞄が落ちる。
黒い3つの影は素早い動きで鞄に集った。
加藤は慌てて歌藤のそばへと避難する。そしてようやく生き物を見ることが出来た。
「え………」
そこには3匹の猿がいた。
それぞれが加藤の鞄からパンを取り出し、両手に持ち、口に咥え、もう食べるものが無い
とわかると、さっさと何処かへ消えてしまった。
「…………猿かよ…………」
ヘナヘナと加藤が床に横たわる。
「……やべ……俺、ちょっと泣いちゃった」
「突然だったもんな」
「タイミング良すぎ……マジびびった」
大きく息を吐き、目元を擦ってから顔を上げる。床に、加藤が投げ出した開きかけのパン
が落ちていた。そこへ1匹の子猿が現れた。落ちているパンに駆け寄る。
「あ、このやろ!」
加藤が追い払おうとしたのを、歌藤の左手が止めた。
「やめとけ」
「え?どうして」
「さっきの猿よりも小さいよ。子供だよ。きっと食べ物みんなさっきの奴らに取られてる
んだな」
途端に大きな猿が1匹現れ、そのパンを掻っ攫って行ってしまった。子猿は一瞬うろたえ、
そして所在なさげに立ち尽くした。
歌藤は自分の鞄からパンを取り出し、手頃な大きさにちぎると子猿の方へと投げ与えた。
子猿は恐る恐るそれに近づくと、パッと体の前に抱え込み、ムシャムシャと食べきった。
「あははは、可愛いなあ」
また少しちぎり、今度は手に持ったまま差し出す。子猿は用心深げにそれを見つめていた
が、ゆっくりと歩み寄り、歌藤の手からそれを受け取った。
「はい、お手」
歌藤は手を出したままにする。子猿はおとなしくそこに自分の小さな右手を置き、お礼を
言うようにカクカクと小刻みにうなずき続けた。
「なんかゲームのAボタン連打してるみたいなお辞儀だな」
「こう見ると可愛いっすね。ほい」
加藤も右手を差し出した。子猿はその手のひらの上にチョコンと腰掛けた。
「あ、この野郎、椅子じゃねえぞ」
しかも小さく、プ、という音がした。
「あ!屁しやがった!」
慌てて加藤が右手を引っ込める。子猿が逃げる。歌藤は床に転がって大笑いをした。
「ちくしょー、歌さんと俺との態度の違いは何だよー、エテ公のくせに。……実まで出し
てねえだろうな」
加藤は右手のひらを必死に床に擦りつけている。子猿は歌藤のそばに座った。
「餌をくれる人とくれない人の違いじゃないの?」
すっかり馴染んだらしく、歌藤は子猿の頭を撫でている。
子猿はさっきまで歌藤が見ていた本を引っ張り寄せ、ページをめくりはじめた。器用に、
シャカシャカと。
「お、エテ公のくせに本読むのかよ」
加藤が馬鹿にする。聞こえたように子猿は顔を上げて加藤を睨むと、再び作業に戻った。
「なに、今のリアクション」
「言葉、わかるのかな」
子猿は、とあるページで動きを止めると、今度はそのページをバンバン叩き始めた。
「なんだ、どうした」
歌藤と加藤がそのページを覗き込む。ちょうど式神についてのページだった。
「自分は式神だって言いたいんですかね」
「んなことないだろ。単に叩いてるだけじゃないか?」
またどこかからキーキー鳴く声がした。どうやらさっきの猿たちが、仲間を連れて戻って
きたらしい。
「……また食料取られますかね?」
「……あの鳴き声がしてちゃ、ここで休むのは厳しそうだよな」
「移動?」
「だな」
2人が立ち上がる。子猿はまだ本を叩いていた。
「じゃあなエテ公、いつまでも本叩いてんじゃねーぞ」
負け惜しみのような捨て台詞を加藤が呟く。
「あーあ、もうすっかり皺が寄っちゃってるよ、99ページ」
歌藤の一言に、子猿の動きが止まる。
「ん?どした?」
「99ページがどうかしたか?」
歌藤が子猿を見る。子猿がまたAボタン連打のようなうなずきを繰り返す。
「わけわかんね」
「歌さん、行きましょ」
「ああ。じゃあなー猿、元気でなー」
子猿に別れを告げ、歩きだす。けれど、子猿は2人の後について歩き始めた。まるで主人
につき従う式神のように。
歌藤が歩みを止める。子猿も止まる。歌藤が振り向く。子猿が歌藤を見上げる。
「………一緒に行くか?」
子猿の小さな2つの瞳が、じっと歌藤を見つめている。
「行くか?」
左手を差し出す。トテトテトテ、と子猿は駆け寄ってきた。
「歌さん」
加藤が不安げに呟く。
「邪魔じゃないっすか。逃げる時とか」
「大輔よりは役に立つだろ」
「あー、ひでえー、俺ショックー」
「ほら、行くぞ。真っ暗になる前に寝る場所見つけないと」
「是非風呂のある所で」
「贅沢言うな。お前は川で充分だ」
加藤は肩をすくめた。
『猿にまで馬鹿にされて、お兄ちゃん、情けないぞ』
そんな妹たちの声が聞こえてきそうだ。
徐々に近づいてくるキーキーという鳴き声に押されるように、2人は図書館を後にした。
99ページにこだわる子猿を引き連れて。
【残り・29人】
夕焼け、西陽が眩しく感じられるようになった頃、高木は逃げ込むようにして『Cafe Bs』
へと辿り着いた。
戸口の説明書きを読み、心からホッとして中に飛び込むと、独特のコーヒーの香りが優し
く迎えてくれた。まるで、何かの匂いを消すかのように。
壁際の席に、両手で頭を抱えたまま微動だにしない下山がいた。妙に大きな砂時計を机の
上に置いて。
「……シモさん?」
下山は視線だけ高木に向けると、小声で呟いた。
「ユウキ、吉井さん、歌、この3人に気をつけろ」
「え?」
「迎の遺言だ」
「え?!」
問い返すと、近づいてきたデイビーが色違いの砂時計を高木に差し出した。もう砂は落ち
始めている。『60分時計』と書かれたシールに気づき、入り口に貼ってあったこの店のルー
ルを思い出した。
「遺言ってことは……迎は………」
「……死んだんだ。俺の目の前で、3人も」
「3人?!」
「ああ……迎と、筧と、村松さん」
「そんな……っ」
言葉が出てこない。否定したいのに、何も浮かばない。言葉にする勇気もなかった。
ブランボーが高木に水とメニューを差し出した。そのまま近くのテーブルを指差す。
ようやく高木はその席に座った。冷たくなった両手で水の入ったクラスを持ち、口をつけ
ると一気に飲んだ。タン、とグラスを机に置くと、すぐに新しい水を注いでくれた。
自分の両手が震えているのがわかった。呼吸を整える。ジェイソンからの逃避。ずっと走
り続けていたせいだ。まだ頭の中は混乱している。
(山口さん……)
置いてきた山口は無事だろうか。ひょっとしたら、自分は1人の人間を見捨てたのでは、
いや、見殺しにしたのではないだろうか。まだジェイソンはあそこにいるのだろうか、そ
れとも自分を追って来ているのだろうか。
高木の緊張感を煽るように、カランカラン、とドアについている鐘が揺れた。ハッとして
高木が腰を浮かす。下山は動く気力すら無いようだった。
「……すみません」
顔を出したのは光原だった。腕にアヒルの浮輪を通している。
「ミツさん!」
「高木!ああ、シモさん!よかった!………相川さん?」
仲間を見つけてホッとしたような表情と、相川と外人勢を見つけて不思議そうな顔をする。
下山の反応が無かったので、光原は高木に尋ねた。
「金子、見てないか?」
「え?」
「ずっと一緒に行動してたんだけど、俺が薬探しに行ってる間にいなくなっちゃったんだ。
あいつ、右腕怪我してるんだ。だから痛み止め、早く飲まないとつらいだろうから」
鞄から数種類もの痛み止めを取り出して見せる。高木が複雑な表情を浮かべた。
光原もそれに気づいた。
「会ったのか?」
光原の問いかけに、高木が戸惑った表情を見せた。
「会ったのか?金子に会ったのか?どこで?」
歩み寄って尋ねる。高木は少しだけ唇を噛み締めると、小声で、ゆっくりと告げた。
「………金子には、多分、もう、会えません」
その言葉に、一瞬呆然とする。
「………会えない……って……逃げたのか?脱出に成功したのか?!」
あくまで明るい方向へ考えようとする光原を、高木は申し訳なさそうな目で見つめた。
「………もう、いません……この島にいるけど………いません………」
なんとなくその先を予感し、光原の口調が震える。
「………いないって、どういうことだ?!」
光原らしくない怒鳴り声を上げ、思わず詰め寄った。高木は光原の顔から目を逸らし、続
けた。
「………金子を見ました……一緒にエレベーターに乗りました………」
光原が小さく首を横に振る。
「……本当です……多分ジェイソンにやられたんです……俺……エレベーターの中で倒れ
てる金子を……」
「嘘だ!」
再び光原が怒鳴る。
「あいつが死ぬわけないじゃないか!いいヤツなんだ!危険なのに、わざわざ食料を持っ
てきてくれたり、いろいろ気がつくいいヤツなんだ!それにジェイソンって何だよ……!」
その時、賑やかな音楽が島に鳴り響いた。時計を見る。午後6時。
その音楽は歌藤がマウンドに上がる時の爽やかな音楽。「My ever changing moods」。
『午後6時になりました。みなさん頑張っていらっしゃいますでしょうか』
光原、高木が自分の鞄から慌てて地図を出す。下山はノロノロとした動きで地図を取り出
した。
『まずは亡くなられた方の発表です』
高木は少しだけ顔を上げて、光原を見た。
光原の手が微かに震えていた。唇を噛み締めている。じっと祈っていた。
『背番号10・谷佳知君』
(来るな……)
心の中で光原は呟く。
『背番号8・中村紀洋君』
(呼ばないでくれ……)
『背番号54・嶋村一輝君』
(頼むから……)
『背番号19・金子千尋君』
光原の動きが止まる。
『背番号52・坂口智隆君、背番号57・筧裕次郎君、背番号46・迎祐一郎君、背番号3・村
松有人君、以上です。残りは29人になりました』
地図の上に、ポタリと大粒の涙が零れた。
【残り・29人】
今回は以上です。
乙です!
ノロウィルスは大丈夫なんすか?(((゚Д゚)))
乙です!
モチです
乙だよコノヤロウ
うたふじ可愛いようたふじ
乙です!!
光原・・・。
193 :
#:2006/12/13(水) 23:53:29 ID:qdqqfaQB0
乙
194 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/12/14(木) 01:09:59 ID:o+p1DeTQO
あげ
☆
乙です。Wカトウはおもしろいwww
モチです
乙です。
何してんすかウタさんwww
やべえ、歌藤のファンになりそうだwwww
200 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/12/16(土) 01:25:40 ID:0Q2aYm3IO
☆
情報の補習
ほす
何してんの、ウタさんwww
にしても光原…(・ω・`。)
まだアヒルつけてんのかな…
保守
ほしゅ
感じて
昼前捕手
昼下がり捕手
『続いて、禁止エリアの発表です』
高木は全神経を耳に集中させて、その放送を聞いた。放送網が敷かれているのか、まるで
有線放送のように店内でもキチンと流れていた。それでも高木は一字一句聞き逃すまいと
真剣だった。微かに震える右手を抑え込む余裕もない。すぐそばにいる光原の手も震えて
いたが、きっと違う意味のものなのだろう。
『午後8時に「F-2」、午後10時に「D-4」、午前0時に「I-5」。以上です。残り時間もだいぶ
減ってきました。皆さんが努力しないと首輪爆発で全滅ということになります。どうぞ頑
張って下さい』
音楽と共に無責任な放送が終わる。何度聞いても腹立たしい声だ。
ギイ、と椅子を動かす音がした。ゆっくりと下山が立ち上がった。
「……じゃ、俺、行くから」
「行くって?」
高木が尋ねると、下山は自分の目の前にある砂時計を指差した。見ると残りの砂がもう4
分の1以下になっている。
「そろそろタイムリミットらしいからさ……じゃ」
「シモさん!」
高木が慌てて駆け寄った。
「一緒に行きませんか?ミツさんも……3人で行けば、なんとかなるんじゃないですか?」
下山は弱々しい目で高木を見た。無理もない。目の前で3人が死ぬのを見たのだ。誰が死
んでもおかしくない状況。そこでただ1人生き残ったのだ。クジ運がよかった為に。
「シモさん、仲間を見つけて、説得して増やして、いろいろ考えましょうよ。それが一番
建設的な方法だと思います。ジェイソンみたいに見るからにヤバそうな人はスルーして、
協力してくれそうな人に声かけて……みんなで考えれば、首輪を外す方法とか思いつくと
思うんです。ねえ、残りはあと1日ちょっとなんですよ、どうにかしないとみんな死んじ
ゃうんです!」
「……ジェイソン?」
「後で説明します。だから一緒に行きましょう!」
必死の呼びかけ。
下山は自分の右手にある黒い物を見た。親指でボタンを押す。3つの赤いランプが点る。
「何です?それ」
高木が脇から覗き込むようにして尋ねた。
「……首輪探知機。俺の支給品なんだ。見ろよ、この赤いランプ3つが俺達だ」
途端に高木の表情が明るくなった。勢いで先輩である下山の肩をバンと叩いてしまう程に。
「これ………すごい武器じゃないですか!ある意味最高の支給品ですよ!仲間を見つけら
れるんですよ!必要以上にウロウロしなくていいし、相手に気づかれないように近寄るこ
とだってやりやすくなりますよ!」
「……そうか?」
高木を見、光原を見た。光原はまだ地図を見つめている。唇を噛み締め、肩を震わせて。
首輪探知機のボタンをオフにし、下山は光原に歩み寄るとそっと肩に手を置いた。
「……行こう」
光原は動かない。
「ミツ、行こう。ここにいても始まらない」
また光原の頬から涙の雫がこぼれる。
「ミツ、金子がお前を生かす為に食料調達してくれたんだろ?だったら、生きなきゃ」
光原がゆっくりと顔を上げる。
「泣いてたって始まらないんだ。死にたいならここで泣いてろ。俺は生きたい。だから行
く。高木も行く。この機械があれば何かは出来そうだ。くじ引きだったけど、まだ運は俺
にも残ってるみたいだしな。村松さんたちの為にも………お前はどうする?」
光原は動かなかった。下山は小さく息を吐くと、少し離れたテーブルを見た。そこには村
松たちの残した武器、ボウガン、錐、剣山、殺虫剤が置かれていた。どうやら外人勢の誰
かがご丁寧に並べてくれたようだ。
「高木」
「は、はい」
「お前は銃持ってんだろ?」
「はい」
「じゃあ、ボウガンはミツにやってくれ。あと……殺虫剤もミツでも使えるだろ。錐は俺
にくれよ。探知機しか持ってないから武器がないんだ。けっこう恐い」
「はい」
高木は自分の鞄に剣山を入れると、錐を下山に渡した。渡す時も自分で銀色に輝く部分を
持ち、柄の方を下山に差し出した。敵意は無いという証拠。そんな気遣いに下山も小さく
笑った。そして高木はボウガンと殺虫剤を光原のいる机に置いた。
「………ミツさん、どうします?」
光原は1回大きくしゃくりあげると、袖で目元をゴシゴシと拭った。まだ腕にはめていた
アヒルの浮輪を外し、空気を抜いて丁寧に畳んで鞄にしまう。地図を折りたたみ、ズボン
のポケットに入れ、顔を上げた。
「……行きます」
「よし。じゃあ武器を持て」
まず殺虫剤を鞄にしまい、恐る恐るボウガンを手にした。
「あの……説明書とか、ありますかね?」
その言葉が終わる前に、すでにガルシアが村松の鞄から白い紙を取り出していた。光原へ
と差し出す。光原もそれを読み、鞄にしまった。
「相川」
「は、はい」
突然下山に声をかけられ、相川はカウンターの向こうで姿勢を正した。
「残ってる鞄から、食料とか貰ってもいいのか?」
「はい、かまいません。水とかパンとか、弱肉強食ですから」
「ハイエナだな」
自嘲気味に笑いながら、残されていた水とパンを3人で分けた。
「………じゃあ、行くか」
3人が出口へと向かう。
相川と外人勢は、無言のまま彼らを見送った。
交わす言葉も無いまま、再び店内は静かになった。
【残り・29人】
泳ぎ着いた、というよりも流されて到着した島の洞窟の奥。頬に当たる滴の冷たさに、リ
プシーは小さく身震いをした。周囲は真っ暗だった。ようやく辿り着いた陸地だというの
にわからない。右も、左も。
「………ネッピー?」
恐る恐る、小声で呼ぶ。返事は無い。
「………お父さん?」
ただ、闇。返事は無い。心細さに悲しくなる。けれど海賊船船長の娘としてのプライドが
それを許さない。そして、心に抱く大切な想いが。
(あの方を助けに行かなきゃ)
そして、大切な選手たちを助けなければ。今それが出来る数少ない存在が自分なのだ。こ
んな所で震えているわけにはいかない。そこに暗闇があるなら、明かりを灯せばいい。周
囲を照らす火が無いのなら、心に明かりを。誰よりも強い炎を。
手を伸ばすと壁に当たった。ゴツゴツした岩の手触り。冷静さを取り戻すと、簡単な状況
判断が出来るようになった。
(湿気を含んだ空気、潮の香り。海に繋がる洞窟。海側にまた出ても潮に押し戻されるだ
け……なら、逆に進まなきゃ)
海水に濡れ、肌に貼り付いた服がペタペタして気持ち悪いことこの上ない。
(生きてるだけ儲け物だわ。島に辿り着いただけでも)
ゆっくりと立ち上がる。天井はリプシーの身長よりは高いようだ。
(まずは明るい所へ出なきゃ。話はそれからだわ)
岩壁に手を当てたまま歩きだす。見えない足元が不安なので、進み方は自然と慎重になる。
ふいに、何かをムギュッと踏んだ。
「グエッ!」
「きゃっ!」
蛙の潰れたような声に、思わず飛びのく。
「……リプシー?」
「ネッピー?ネッピーなの?」
「そうだよ!無事だったんだね!」
互いに手を伸ばす。暗闇の中手探りをし、ようやく指先が触れた。
「リプシー!」
ネッピーがリプシーの手を引っ張った。
「今、僕のお腹を踏んだんだよ」
「ごめんなさい、見えなくて」
「大丈夫だよ、軽く踏んだ程度だったから。お陰で僕も目が覚めたんだ」
「やだ、溺れて気を失ったなんて言わないでよね」
「ち、違うよ、嫌だなあ」
手を取り合ったまま、見えない相手に喋る。暗闇の中、相手の存在を伝える手のぬくもり。
(この手があの方だったら……)
一瞬そんなことを考え、リプシーは慌てて首を振った。
「大島コーチは?」
「……わからないんだ……海に落ちたところまでは見たんだけど」
「そう………無線は?使えるかしら?」
「明るい所に出たら試してみよう。防水だって言ってたけど、一応実験しないと」
「大島コーチとも通じるかもしれないわね」
自分たちをここまで連れて来てくれた人物。ある意味要となる人がいなくなってしまった。
心細くなるのは当然だった。けれど今の2人はそんなことを言っていられない。前に進む
しかないのだ。ゲームは始まってしまったのだ。誘拐犯の仕掛けた卑劣なゲームが。
「歩きましょう。明るい所に出ないと」
「そうだね、行こう」
ゆっくりと歩き出す。静かな洞窟。水の滴る音すら響く。
「ネッピー、歌でも歌わない?」
「……そうだね、小声なら大丈夫かも」
「元気出す為にもね。でも小声でね。犯人に聞こえたら大変だわ」
何も見えない暗闇の中、互いを確認する為に、自分を勇気づける為に。
「♪君の声よ遙か届け 夢追い人が行く」
ネッピーが歌い出した。
「♪虹の上架かるアーチ 明日を拓くだろう」
リプシーも声を揃える。
「♪一雫だけの雨が 大河を映すように」
「♪白いボールよいざなえ あの空の彼方まで」
歌いながら、繋いだ手を元気よく振る。緩やかに壁沿いを曲がる。
小さな光が見えた。
「♪……光り輝く明日に向かえ……」
声が震える。少しずつ、足取りが早くなる。
「♪……君は行けるだろう……!」
光が大きくなる。徐々に明るくなる足元。2人は駆け出した。
そしてその世界へと飛び出した。
夕暮れのオレンジ色に染まった、美しい花畑の島へと。
【残り・29人】
眩しい夕焼けの中、本柳は川越と共に歩いていた。
目的地は無い。ただ歩く。どうして歩いているのか、自分でもわからない。多分、今夜を
過ごす場所を見つける為か、消すべき敵を見つける為なのだろう。
後ろを振り返る。やや俯き加減の川越がついて来る。意識はしっかりしているようだ。初
心者用でも催眠術キットは確実な成果を見せてくれている。
(……本当にこれでよかったんだろうか……)
考えてしまう。自分たちが生き残る為、なんとかしてここから逃げ出す為、それを遮る敵
を排除する為、川越を強制的に強くした。戦うことの出来る存在にした。川越はすでに数
人の敵を消してくれている。本柳はそれを補佐しただけだ。
直接自分の手を汚さずに、生き残りへの道を歩いている。
(………俺は………川越さんに対しても酷いことをしてる………)
自分がどれだけ卑劣なことをしているかは充分わかっている。けれど、やらなければ自分
が死ぬのだ。川越の性格を考えたって、簡単に殺されるのがオチだろう。
(この首輪さえ取れればいくらでも逃げ出すチャンスはあるんだ。首輪があるから島から
出られないし、禁止エリアだって影響するんだ。……やっぱりオーナーの居場所を探さな
きゃいけないんだろうか……)
その為には情報が必要だ。やはりもっと仲間を増やすべきだろうか。信じられる仲間を。
(………気を許したフリをして、仲間を作る。なんとかして首輪を外す方法を考え出すか、
みんなでオーナーを倒す。川越さんがいれば大丈夫だ。それでみんなで脱出出来れば文
句無し。少しでも疑わしいヤツは……)
またチラリと川越を見る。
(そう、俺には川越さんがいる)
出来るだろうか。信じられる仲間に会えるだろうか。
迷いながら、本柳は歩いていた。
(もし川越さんが失っている記憶に気づいたら……)
一体どうするだろう。
自分はどんな罵りも受ける覚悟だ。軽蔑されたってかまわない。
けれど、川越は自分自身のことをどう思うだろうか。
数人のチームメイトを、催眠術で操られていたとはいえ手にかけたのだ。命を奪ったのだ。
(川越さん………自分を責めるかな………)
もしくは、自責の念に耐え切れず。
(……自殺)
それだけは駄目だ。川越自身を殺してはならない。本柳の敬愛する先輩なのだ。
(そうならないように、もう一段階催眠術かけておいた方がいいのかな……)
川越の心が複雑な層を作るように。決して壊れないように。何者にも揺り動かされない、
強い存在になるように。
そんな迷っている本柳の数歩後を川越は歩いていた。意識はしっかりしている。
俯き加減になっているのは、シャツについている染みに気づいたからだ。
いつの間にか、自分のシャツの腹部、ちょっと上辺りに小さな染みがついていた。茶色だ
ろうか。どちらかと言えば、赤黒い染み。
(………血、かな………)
何故こんなところに血がついているのか。鼻血を出した記憶は無い。どこか怪我をしたわ
けでもない。
(血じゃないのかな)
木に寄りかかった時に樹液か何かがついたのだろうか。木に腹をつけた記憶は無いが。
何気なく両手を見る。綺麗な掌だ。まるで何かで拭ったみたいに。
そして、どうしても気になること。
時々記憶が無くなる。一日の中の部分部分が、白い靄のようなものに覆われている。その
部分を思い出そうとするたびに、胸の奥の方がズキンと痛む。一瞬のフラッシュバックと
共に、何かが脳裏をよぎる。誰かの表情だと思うのだが、うまく思い出せない。
「なあ」
声をかけると、本柳がゆっくり振り向いた。いつもと変わらない表情で。
「俺たちさあ、これまで誰かに会ったっけ?」
尋ねると、本柳はちょっと不思議そうな顔をしたが、すぐに元通りの笑顔になって答えた。
「誰にも会ってませんよ。会ったらすぐ仲間になるに決まってるじゃないですか。よっぽ
ど危ない人じゃなきゃね」
「……そうだよな………うん、そうだよな……信じなきゃ始まらないんだよ……」
癖なのか、片手を頬に当てて答える。
俯くとまた、腹部についた赤黒い染みが視界に入った。
(赤……)
少し時間がたって変色したのだろう。最初はもっと鮮やかな赤だったのだろうか。
ふと気づいた。右手の人差し指、爪の奥。赤い何かが詰まっていた。
(確か指で耳掃除をして血が出た時も、こんな感じに……)
ならばこれは血なのだろうか。川越は怪我などしていない。本柳もそうだ。
白い靄の時間の中で、何かが起こっている。それは血に関係したことなのだろうか。
けれど本柳は何も言わない。特別変わったことは何ひとつ話さない。
ならば、何も起こっていないのだろうか。気のせいだろうか。
疑念は消えない。
赤い染みが滲み出して、ジワジワと川越の心を侵食してゆく。この血のような赤が白い靄
すらも浸食してしまえば、その奥に隠れた何かが見えるのだろうか。
(俺、病気なのかな……)
頭の中で赤と白が交錯する。そのフラッシュの向こうにあるもの。
(俺………俺……は………)
「川越さん」
いつの間にか足が止まっていたらしい。本柳が駆け寄って来る。
「どうしたんですか?具合悪いですか?」
「あ、ああ……大丈夫だよ。ちょっと考え事してたんだ」
「無理はしないで下さいね。どっか休める所探しましょうか」
「そうだな……そろそろ夜を過ごす場所を見つけないと」
「ですよね。いつどこから敵が来るかわからないですからね」
敵。
その一言が、川越の脳を侵す。
急速に白い靄が広がり始める。
川越は再びあやつり人形に戻ってゆく。
その方が川越にとっては幸せなのかもしれない。
何も気づかず、赤い染みすら忘れて、心を穢れない白に滲ませて、殺人を。
【残り・29人】
今回は以上です。
やっとノロウィルスも撤退してくれたようです。良かった…
職人さん今回も乙です
ノロウイルスは治ったんですね ヨカッタ…
光原…金子の分までがんばって生き残ってくれ。・゚・(ノД`)・゚・。
そしてリプシーテラカワイスwwwwww
とうとう島に上陸したマスコ達の行動も気になりますね
次回も楽しみにしてます
職人さん乙です!
お体だけは本当に大切にしてください…。
あぁ…川越…。悲劇はこれからも続くのか…。
乙ですた
川越が哀れすぎて泣ける。
ところで俺がノロウィルスにかかったっぽいんだがこれは俺が代わりに引受けたという事か
職人様、毎週乙です!
日高はどうしてるんだろ〜?
そんな事言ったら俺の塩崎はなにしてんだろう?
_
▼^ `▼
イ fノノリ)ハ 保守…
リ(l|゚ .゚ノlリ
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_
\/___/
228 :
代打名無し@実況は実況板で:2006/12/21(木) 13:43:41 ID:T7AS6CCAO
下がりすぎにつきage
_
▼^ `▼
イ fノノリ)ハ 保守…
リ(l|゚ .゚ノlリ
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_
\/___/
ほしゅしゅ。
ハギーがんがれー。
_
▼^ `▼
イ fノノリ)ハ 保守…
リ(l|゚ .゚ノlリ
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_
\/___/
深夜のほす
_
▼^ `▼
イ fノノリ)ハ 保守…
リ(l|゚ .゚ノlリ
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_
\/___/
サンタさん…、枕元にプレゼントが無かったよ…?
保守
ノシ
☆
世界史の補習
ほす
保守
期待ホシュ
ほしゅ
保管庫の避難スレに投下されてるね
最近規制厳しいのかな。職人さん乙です。
ホムレソから目が離せないw
情報ありがとーーー見てくる!
寒いよ保守
雪が降ったよ保守
大晦日だよ保守
高校サッカーでも観るかな保守
てすと
今年も期待してますほしゅ
職人さん、あけましておめでとうございます。
今年も頑張ってください。
今日もメジャー&駅伝観るかな保守
253 :
代打名無し@実況は実況板で:2007/01/02(火) 15:25:45 ID:0Ox65yDQ0
てst
深夜保守
壁を補修
清原は静かにその獲物を狙っていた。
武器は無い。金属バットはピッチャーの方の小僧、平野に奪われた。頼れるものは自分の
体のみ。その体も平野に鉄アレイで殴られて少々痛んでいる。正確には顔、顎の辺りを直
撃した。ひょっとしたら顎の骨が折れているかもしれない。水を飲む動きにすら痛みを感
じるのだ。なんとかパンは食べられたのだが。
(あの程度で骨が折れるようじゃ、清原の名が泣くわ)
なんとしてでもあの小僧に借りを返さなければ。この痛みと憎悪と共に。
だがその前に、1人のチームメイトを見つけた。目の前を歩くその人物も、なかなかドッ
シリとした体つきだ。逃げ走る速度は体型から考えて遅いだろうから、後ろから襲いかか
れば一発だ。思い切り突き飛ばして地面に転がし首を絞めるか。それとも何か大きめの
岩で頭を殴り倒してその一撃を決定打とするか。
(あいつの顔だけは見たらあかん)
何度も自分に言い聞かせる。
(ゆっくり……ゆっくりな………)
眩しい西陽が最後の強烈な光を放っている島の中。清原は慎重に歩みを進めていた。生
憎手頃な岩も見つからない。ならば素手か。両手を祈るように組み、まずは後頭部を
一撃。よろめいた相手をそのまま地面に突き倒し、のしかかり、首を絞める。これが一番の
方法だろう。覚悟を決める。タイミングを計る。
(………よし)
勢いよく飛び出そうとした時、どこかで遠雷が鳴った。
「雷?」
前を歩いていた人物が足を止め、キョロキョロと辺りを見回し始めた。
(ヤバっ!)
慌てて清原は身を隠そうとしたが、木立の中、その巨体を隠せる場所も無く、動けるスピ
ードも余裕も無かった。
そして、その人物と清原と目が合った。
「キヨさん!」
満面の笑顔で北川が駆け寄って来る。
「あ、ああ、ぺー、無事やったか」
「はい!キヨさんも!」
これを注意していたのだ。北川の笑顔を見たら、絶対戦意を失ってしまうだろうと予想し
ていた。どうやらその通りになったようだ。ある意味北川の笑顔は無敵だ。誰かが「アン
パンマン」と表現していたのもうなずける。童話に出てくる人気者。みんなのヒーロー。
この笑顔で話しかけられたら、誰でも敵意など失ってしまう。北川ならきっと飢えた仲間
に出会ったら、自分が持っている最後の1個のパンすら与えてやるのだろう。
「キヨさん、1人ですか?」
「あ、ああ」
まだ戸惑いながら答える。自分の戦意は気づかれていないだろうか。背後から襲おうとし
ていた事実を悟られていないだろうか。だが北川は変わらぬ笑顔で続けた。
「じゃあ仲間探して一緒に行きましょう!キヨさんが一緒やったら心強いし!きっとオー
ナー説得出来ます!」
「そ、そうか……」
あくまでも前向き、肯定的、満面の笑みで迫ってくる北川に目眩すら覚えそうだ。
清原に反論の余地も与えず、北川は地図を開いて一気に喋り続けた。
「まず市街地に出ましょう。ここ、ここなら誰か集まってそうやし。ね、行きましょ!」
「あ、ああ………」
断われる理由も無く、断る時間も与えられないまま、腕を引かれるようにして清原は歩き
だした。
(あかん……最悪やろ、これ……ペース乱れるわ)
北川はわざとまくしたてるようにして喋った。そうしなければ不安だったからだ。
相手は清原。出発地点である程度の戦意を表した人物だ。
けれど約束したのだ。嶋村に誓ったのだ。最初に会った人物を信じる。誰も傷つけたくな
い。たとえその相手が清原であっても。約束したのだ。
(嶋村、俺は信じるよ。ちゃんと約束通り実行するよ。お前に「信じよう」って言うたの、
俺やからな。お前はそれを守ってくれたんやんな?せやから俺もキチンと約束守るからな)
清原を導くようにして、北川は歩く。
決して、希望は捨てない。たとえ何が起ころうとも。
【残り・29人】
阿部健太はまだひとりぼっちで島の中を彷徨っていた。彷徨い疲れ、ようやく見つけたホ
テルに逃げ込んだ。個室に入ることは躊躇われた。昨夜、大丈夫だと自分に言い聞かせて
入った家に先客がいた。絶叫して走って逃げた。もうあんな恐い思いをするのは嫌だった。
ならば、やや広めのロビーのソファーでくつろごう。ここなら視野も広い。誰かがやって
来るのもすぐわかる。敵が来たらすぐ身を隠せばいいのだ。
恐々、中に入る。静かなロビー。人のいる気配など全く無い。
(……ここなら……大丈夫かも……)
神様がご褒美をくれたのかもしれない。
よくここまで頑張ったね。よく逃げ切ったね。1人でずっと頑張ったね。そんなご褒美。
健太は2人掛けのソファーに腰を下ろした。正面玄関の方を向いて座る。フワフワした座
り心地。
(なんか、久し振りにちょっと落ち着いた気がする)
考えてみると、ここまでずっと泣きながら逃げ続けていた。
冷静になってみると、全くもって建設的ではない。
(みんな、どうしてるんだろ……)
他の選手たちにはほとんど会っていない。
(ひょっとして……みんなうまく集合して、俺を置いて逃げる準備してるとか……)
逃げ回った自分の作戦は失敗だったのだろうか。
(作戦なんて呼べないじゃん、俺……)
弱虫の行動。残った日数は1日とちょっと。これからの自分はどうするべきか。
(………死にたくないよ………)
(………父さん………)
(………母さん………)
気持ちが揺れている。精神を揺さぶっている。前を見たくない。
けれど、見なければ危険に気づくことも出来ない。
自分にあたえられた武器を見る。今まで触れようともしなかった。恐かったから。
これを手にしたら、何かが起こってしまうような気がしたから。
他の選手たちは今何をしているだろう。どこで何をしているだろう。どうやって生き抜い
ているのだろう。何かいい方法があるのだろうか。素晴らしい武器が?
ここから逃げ出すには………
「見ぃつけたー」
静寂を破る声と共に、突然背後からしがみつかれた。酒臭い。
「うぉー、やっとー、見っけたぞー」
頭を揺さ振られる。
「や、山口さん?!」
そのまま山口はソファーを乗り越え、ドスンと健太の隣に座った。座ったというよりも、
埋もれたという表現の方が合う。そのまま健太の肩にもたれかかる。またアルコールの匂
いがした。見ると、大きなワインの壜を抱えている。
「いよー、健太―、元気かー」
「げ、元気じゃないですよ」
「お?どうしたー?先輩に言ってごらん?んー?」
完全に出来上がっている。早めに退去した方がよさそうだ。
(どうして俺の行く所って、誰かがいるんだよ……)
また泣きそうになる。けれど山口は戦意は無いようだ。まだマシか。
「や、山口さんこそ大丈夫ですか?こんな状況なのにそんなにお酒のんで」
「あー?こんなもん水よ、水」
チン、とどこかで小さな音がした。
正面の窓ガラスに映っているエレベーターホール。そのランプが点滅している。
(動いてるんだ………動いて、る?!)
咄嗟に考える。エレベーターが動いているということは、誰かが乗っているということだ。
誰が?
敵か?
味方か?
「や、山口さん、誰か一緒にいます?」
「お前がいるじゃねーかよー」
「そうじゃなくて、これまで一緒に誰かいました?」
慌てた口調で問いかける。グダグダした山口の対応がもどかしい。
「んー………そうだな……高木がいたな、うん」
「高木さん?」
窓ガラスに映るエレベーターを見る。ドアがゆっくりと開き始めた。
「高木のヤロー、俺が酒持って来いって言ったのに、なかなか帰ってこねえんだよ、畜生。
もうチーズも無くなったし……腹へってんだよ、ったく……」
耳元でぼやかれる。そろそろアルコールの匂いも耐え難くなってきた。
再び窓を見る。エレベーターから人影が出てきた。ユニフォームを着ている。
顔は真っ白だ。両手で何かを持っている。
(え……?)
目を凝らし、よく見た。顔が白いのではない。白いマスクをかぶっているのだ。
(ひ………!)
その姿は映画で観たことがある。
(ジェイソン!!)
ユニフォームの背番号を見た。調度光の反射がかかって読めない。尋常ではない雰囲気。
(に、逃げろ!!)
心の中で叫んだ。咄嗟に立ち上がろうとする。
「おいこらー、暴れんなー」
酔っ払った山口が健太を離してくれない。
「離して下さい!離して!逃げるんです!」
「あー?何が逃げるってー?1軍昇格が逃げるってかー?」
「離して下さい!」
「あに言ってんだー、なんか食いモンねえか、食いモン。エースナンバーをお持ちのこの
山口様の命令だぞー?」
窓を見る。ジェイソンの姿は着実に大きくなっている。
一歩一歩、近づいてきている。
「離せえっ!!」
力任せに振り切った。そのまま前のめりに躓いたような体勢で、健太はロビーを駆け出し
た。一目散に出口を飛び出す。また涙がこみ上げてきた。
(助けてくれ!助けてくれ!!助けてくれ!!!)
【残り・29人】
自分を振りほどいて飛び出していった阿部健太のみっともない後ろ姿を見ながら、山口は
ますます不機嫌になっていた。
(なんだよコラ、俺の言うことも聞けねえってのか)
日頃溜め込んでいる不満が、一気に爆発しそうだ。
背番号18。
それは各チームのエースナンバーと称される。山口はその番号を背負っていた。
だがこれまであまり「エース」という称号を戴いたことがない。
(俺はストッパーなんてイニング限定野郎に甘んじるようなタマじゃねえんだよ。毎日毎
日準備させられるなんて、酒も飲めねえだろうが)
ここの所、期待されながらもそれに応える活躍が出来ていない。そんな自分をもどかしく
感じながら、試行錯誤していた。
(違うよ、チャンスがねえんだよ、チャンスが。干されてんだよ)
スピードボール。それが武器。けれど自分の誇っていた日本最速の158kmも、クルーンに
塗り替えられてしまった。
あの日、バッターボックスに立つ清原の頭部にぶつけてから、全てがおかしくなった。
たった一箇所何かが狂ったせいで、すべての歯車が狂い出した。
(ツイてねえ時ってのは、とことんツイてねえんだよ)
そして突きつけられた言葉。
『未来永劫一軍で投げさせない』
あの行為、逃げずに受けて立った乱闘がそれほどのものなのか。相手が向かってくるなら
立ち向かうまでだ。やられる前にやらなければ生きてゆけない世界なのだ。自分の立場、
存在を守る為にも、気持ちで負けてはいけなかったのだ。なのに何故、仰木監督は怒った
のだろう。あれほどまでに激怒したのだろう。
自分に何度も言い聞かせた。耐えるのだ。そして這い上がるのだ。
けれど結果はこれだ。2軍でウダウダしている自分。
何が足りないのか。何がいけないのか。
(………ったく、やってらんねえよ!)
18番としてのプライド。それを踏みにじるような行為は許されない。
(俺が悪いんじゃねえ!チャンスをくれねえ監督が悪いんだ!俺を1軍に上げてみろ!絶
対勝って見せる!)
心の中で何度も叫んだ。
ゴロン、とワインの壜が床に落ちる。考え事に気をとられ、手の力が弱まっていたようだ。
「ありゃりゃ……大事な俺のエネルギーが……」
身を屈めた瞬間、背後でバシッという音がした。
驚いて振り返る。ソファーの背もたれの部分に、『掃除中・ご迷惑をおかけ致します』と書
かれた立て看板が叩きつけられていた。高さ1メートルくらい。片手で持ち運べるくらい
のものだ。
「は?」
顔を上げた。
そこに、白いマスクをつけた奴がいた。ユニフォームを着ている。そいつが看板を握って
いた。山口が屈まなかったら、間違いなく頭を殴りつけられていた。
「………おいコラ」
右手にワインボトルを持ち、ゆらりと立ち上がる。
「危ねえことすんじゃねーぞコラ」
白いマスクの男に向かって立つ。マスクの男も動かなかった。看板を構え、じっと山口の
方を見据えている。
「なんか言えよ、ゴメンナサイとか」
山口の視界が揺れる。目の前にいるマスクの男が2人になった。
「おいおい、分身すんなよ、忍者かお前」
ゆっくりと、看板が振り上げられる。狙いを定めているようだ。
「お?勝負か?やってやるぜ」
山口もワインボトルを構える。血がたぎってきた。
(………こうじゃなきゃな)
燃え上がるもの、そんな何かが欲しい。1軍で登板する時にいつも感じた闘争心。
あの感覚。
(………俺に喧嘩売るなら、喜んで買ってやるよ)
おぼつかない足元に、しっかりと力を入れる。入れたつもりだ。
(………こいよ、ぶっ潰してやるよ)
2人いるマスクのうち、片方を睨みつけようとした。その2人は常に揺らめいている。
「なーに揺れてやがんだよ」
呟きながら考える。自分とマスク男の間にはソファーがある。これが邪魔だ。ソファーを
避けて突っ込まなければ喧嘩は始まらない。
(さーて……どうすっかな……)
突然マスク男がソファー越しに身を乗り出すようにして突っ込んできた。看板が振り上げ
られる。風を全身で感じ取った。
「野郎!!」
山口はバットを振るようにしてワインボトルを看板に叩きつけた。
派手にガラスの割れる音。飛び散る赤い液体。そしてガラス片。
「うおっ!」
山口はソファーを回るように避けて、マスク男の元へ急ぐ。
マスク男は慌てて体を捻った。山口の動きを追う。
「うりゃああっ!!」
右手に残ったワインボトルを振り上げる。その先は割れ、ギザギザになったガラスの先が
立派な凶器となっていた。再び看板が叩きつけられる。今度こそ看板はワインボトルの全
体を砕いた。
「くそっ!」
山口の右手に残ったのは、ボトルの首部分のみ。もう武器らしき武器は無い。
(あー、もったいねえ……)
零れたワインを思いながら、山口はマスク男を見た。
(また上にある貯蔵庫見に行かなきゃなんないのかよ……あそこ暗いんだよな……)
再びマスク男が突っ込んでくる。咄嗟に山口は身を屈めると、その懐に飛び込んだ。
そして右手に残る短いガラスの筒を、勢いよくマスク男の腹に突き刺した。
「ぐえっ!!」
マスク男が呻く。看板を落し、両手で腹を押さえる。そこには山口の手を離れたワイン
ボトルの首が刺さり、突き立っていた。
「ぐっ……ぐぇ………!」
よろめきながら、マスク男が逃げようとする。
「待てやゴラァ!」
追いかけようとして、ワインに濡れた床で滑った。したたか頭を打ちつける。
「痛っ!」
今日転んだのは、これで何度目だろう。起き上がろうとしたが、足を変な方向に捻ってし
まったようだ。立とうとしたら、左の足首がズキンと痛んだ。
「この程度で………負ける俺じゃ……ないっての………」
視界にいるのは、やはりよろめいた足取りのマスク男の背中。
ブレて見えるのは男が揺れているのか、自分の視界が揺れているのか。
「待て……っ!」
負傷者と酔っ払いの、ノロノロとした追いかけっこが始まる。
【残り・29人】
今回は以上です。
謹賀新年です。今年も宜しくお願い致します。
リアルタイムで見せていただいた。乙でした。
山口w酔っ払いに怖いもんはねえな・・・
リアルタイム遭遇。
乙です!
乙です!
山口おもしれーwwこれからが楽しみ
山口からは戸部の臭いがする。
乙ですー!
バトロワにおける酔っ払いって面白いなあwww
あと清原のこれからに期待。
ほ
戸塚は最強だったが山口はそれに及ばない気がするなぁ
番外編・ドランカー山口とかにでもなるのだろうか。
━┳━ ━╋━`` ┃
━╋━ ━╋━ ╋┓ ━━━━━━━━━━ ┃┃┃ ┃
┗━ ┃ ┃ ┃ ・
──────────── ━━━━━━━ ========= =
三三三三三三 ≡≡====== -----------------------
___;.:..:(ヾ.,; .;.,・;. .:.;。.... ...____ ======= ニニニ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
:.. :..(。Α<っ)つ⌒) _, ========、.=====、.、 ━━━━━━━━━━
三三三三.:.;)ノ>> )~;⌒ ミ从 ==== _/ ∧_∧ // ヽヽ____ ──────
=====:...:..;(__ノ゚・,;,ミ そ ___/ _( `ー´;) //|/二) |ヽヽ__/ノ
____ ´・゚,;,;‥,.:.:,Σ=,~ ̄ , -- , _ ̄ ̄ヽ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ  ̄ヽ ──────
/ - ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ― ´ /;;;;;;ヽ o .| ノ ,-‐-、 |  ̄ ̄ ̄ ̄
. ━━━━━━━ (コ |゚ ゚̄| ニコ //  ̄ヽ| _ | / / ,.- .、.、_ )  ̄ ̄ ̄____
.>ヽ 二二二フ エニフ_|;:I ノ |└┴―――― ´ _|::( ∵)|_/ ------------ .
三三三三  ̄ ̄ゞゝ;;;;ノ ̄ ̄ ̄ゞ_ゝ ー,ノ ̄ゞゝ ̄ノ ̄ ̄ ̄ゞ_ゝ ーノ ======= =====
オリックスの前川投手、無免許ひき逃げで逮捕
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070107it04.htm
275 :
代打名無し@実況は実況板で:2007/01/07(日) 22:43:25 ID:NHuA6SQ+0
age
何やってんだ前川捕手
星野伸之
どこかで誰かの足音がする。正確には走っている音だ。荒々しい勢いで木々を掻き分け、
着実に近づいて来ている。ここまで聞こえてしまうような、かなり大きな音だ。
走っている張本人は自分のたてる音の大きさも気にしていないらしい。いや、気にならな
い状況にいるのだろう。
何かから逃げているのだろうか?
清原は慎重に身構えながら、花畑の中を歩いていた。最初は小さな愛らしい花を踏まない
ように避けていたが、もう面倒になった。力無いもの、自らの力を持たないものはただ踏
みにじられるだけなのだ。それが自然の摂理だ。
後ろを歩く北川はご丁寧に花を避けて歩いているらしく、遅れを取り始めている。少しず
つだが着実に、北川の姿が離れてゆく。
(………ある意味、いいチャンスやな)
一緒に行動していると、予想通り北川の人のよさに流されてしまう傾向にあった。喋って
いると、北川のペースに巻き込まれてしまうのだ。このゲームを戦い抜いて勝者になると
決めたはずなのに、北川の説く綺麗事に説得されてしまいそうだ。
(やっぱ、ああいうキャラはどうもなあ……)
早く何かキッカケを作って北川と離れなければ。半ば強引な方法でもかまわない。その一
番手っ取り早い方法が、歩調をずらしてはぐれることだ。ついて来なかった者が悪いのだ。
また一層足の運びを早くする。北川との距離はどれくらい開いただろうか。一方では、ど
こかの誰かの足音も近づいてきている。
(そろそろやな)
ろくな武器がないのにどう戦うか。
(あの平野のクソガキ、俺のバット持って行きよって)
返す返すも憎々しい。最近の小僧は礼儀というものを知らない。今度会ったら、しっかり
教育してやらなければ。教育してやった直後に、そいつはもうその教育成果を見せてはく
れないだろうが。いくつものことを同時に考えつつ、一端木陰に身を隠した。足音の主を
調べようと思った。うまくいくなら一端自分を行方不明にして、北川もやり過ごしたい。
(ちょこまかすんのは苦手やしな)
近くにあった低木の間、細い枝がチクチクと肌を刺したが仕方が無い。緑の葉の上をテン
トウ虫がのんびりと移動していた。
(暢気なもんや、虫けらが。人間様が大変な状況やってのに……ああ、虫けらやから、暢
気なんやな)
「キヨさーん、待って下さいよー、どこですかー?」
辺りを気にした小声で北川が呼んでいる。完全に無視をした。
軽く辺りを見回す。足音の主はどこから現れるのか。その音が大きくなってきていた。
いきなりザッという音がして、低木群の前をその人物が駆けて行った。
背番号48。『ABE』
(阿部ま、じゃない方か。よう知らんな。また小僧か)
静かに身構える。
(1人消すチャンスか?ぺーはまだ……)
「健太?健太か?!」
北川の声がした。
(ちっ、見つけよったか)
「ぺ、ぺーさん?!」
健太の声もする。その声は明らかに取り乱していた。
「殺される!逃げないと……殺されるっ!!」
涙混じりとわかるその声は、半狂乱と表現するに近いものだった。暴れているのか、ガサ
ガサと枝葉を打つ音がした。
(ほう、敵に会うたか。誰や?)
「落ち着け健太、大丈夫やから、声小さく!」
北川が必死に健太をなだめようとしている。けれど健太は我を失っているようだった。
「駄目です!逃げないと……山口さん殺されちゃいます!」
(山口?!)
勢いよく清原は立ち上がると、健太の元へと歩み寄った。
「今、山口言うたな」
「うわあああっ!!」
驚いて逃げようとする健太の襟首を、清原はむんずと捕まえた。余計に健太が暴れ始める。
「コラ落ち着け。正直に言うたら逃がしたるわ。今山口言うたな。会うたんか?」
「うわあっ!うわあああっ!!助けて下さい!許して!」
すでに鼻水まで流して号泣している。
「健太、落ち着け、な、大丈夫やから」
北川が必死になだめすかす。お守りは慣れているのか、子供をあやすように両腕で抱き込
み、背中と頭を撫でてやった。
「やだよ!もういやだよこんなの!………殺されちゃうよ………死にたくないよ……!」
駄々っ子のように泣きわめき続ける。北川は根気よく健太をしっかりと抱きこんだ。清原
が襟首を掴んでいる為、逃げようにも逃げられなかった。
「落ち着け、健太、深呼吸や、いいか、深呼吸、せーの、いーち」
保夫さんのように北川が指導をすると、少しだけ健太も呼吸をゆっくりとし始めた。
「いいか?にーい」
さっきよりも深い呼吸をした。
「そうや、ええぞ、さーん」
落ち着いた深呼吸になった。
「……どうや、落ち着いて喋れるか?」
北川の問いかけにようやく自分を取り戻したのか、小さくうなずいた。
「………逃げ……ないと………」
震える声で呟く。
「誰が、どないしたんや?健太、落ち着いて喋ってみ。ここには敵はおらんから」
「お前今山口言うたやろ。どこで見たんや、ん?怒らんから言うてみ」
清原も口調を変えて、作った優しい声で問いかける。また健太の目に新しい涙が浮かんだ。
「………む、向こうの街にある、ホテル………マスクかぶった、ジェイソンが、いて……
殺されると思って、逃げて、きて……山口さん……置いてきちゃって………俺……」
「ホテルやな?ホテルに山口おるんやな?」
言葉を遮り畳みかけるようにして清原が尋ねる。健太はビクリと体を震わせ、うなずいた。
「よっしゃ!やっと見つけたわ!」
叫ぶと同時に清原は健太の来た方向へと走りだした。
「あ!キヨさん!」
北川が立ち上がり、後を追おうとする。その腕を健太が強い力でしがみつき、引き留めた。
「駄目です!殺されちゃいます!駄目です!逃げるんです!」
「で、でも……!」
みるみるうちに、清原の姿が木々の間に消えてゆく。
呆然とする北川と泣きじゃくる健太は、ポツンとその場に残されていた。
【残り・29人】
振動で顎が痛む。顎だけではない。顔面が全体的に痛い。それでも清原は走っていた。
今山口を逃したら、また手掛かりの無い所から探し出さなければならない。そんな面倒は
御免だ。勝負の世界、チャンスは一度きりだと考えるようにしている。
このゲームが始まった時に自分なりに優先すべきことを決めていた。
その1、自分が生き残ること。
その2、山口を殺すこと。出来ればただ殺すのではなく、相手を苦しめた上で。
その3、ピッチャーの平野を殺すこと。自分の愚かさを思い知らせた上で。
その4、加藤と歌藤、特に食えない性格の歌藤に出会ったら、今度こそ決着をつけること。
決して速いとは言えないスピードで、清原は走っていた。
顔を上げる。木々の間から頭ひとつ飛び出して見えるホテル。それほど遠いとは思えない。
山口はまだホテルにいるだろうか。そして健太の言っていたジェイソンとは何のことだろ
う。どんな武器を持っているのか。飛び道具は?距離を稼げる武器だろうか。
地面が緩やかな下り坂になる。足元に気をつけながら、痛みを堪えて走り続けた。
ふいにキラリと光るものが視界に入った。足を止める。
それは1本の木の枝だった。女性の腕くらいの太さがある。光って見えたのは露が夕陽に
反射したせいか。注目すべきはその枝の先。鋭く尖っている。刀でスパッと切ったような
切り口だ。太い木の根元近くから生えており、その切っ先は上を向いていた。多分ここに
人が倒れ込んだら見事に突き刺さるだろう。
顔を近づけて切り口を見た。素人の見解だが、切り口は真新しく見える。この島の住人が
切ったとするなら、清原たちが来る少し前までこの島には人がいたということだ。だが立
ち寄った家や見かけた建物から判断して、この島は住人が立ち去ってから埃が積もる程度
の時間が立っているようだ。実際、他の似たような切り株には新しい苔や草が生えている。
つまり、新たにここに来た誰か、選手の誰かがこれらの枝を切ったということだ。
(そういう武器を持ってる奴がおるってことや。………この近くに)
この枝自体、武器にならないだろうか。
清原は右足でその枝の付け根をガツガツと蹴飛ばした。一向に折れる気配は無い。
ふとその隣の木を見た。そこにも数本の尖った枝があった。やはり誰かがわざと切ったよ
うだ。違う1本を手にした。全身の体重をかけた。
(う……りゃあっ!!)
バキッと言う鈍い音と共にようやく折れた。さっきのものよりは若干細い。鞄から手袋を
出し、右手にはめてから握ってみた。
(それなりに使えそうやな)
改めてホテルに向かおうと立ち上がり、振り向いた時、ガサリという音がした。
目の前にその人物がいた。
白い顔。ユニフォーム。両手で抑えている腹部は真っ赤。やや前屈みになってこっちを見
ている。白いマスクのせいで表情がわからず、こちらを睨んでいるのか驚いているのかも
わからない。
少しの間、にらめっこが続いた。
不気味な雰囲気を醸し出すその異様な人物を前にして、流石の清原も戸惑ってしまった。
チャンスは一度きり。一撃必殺。自分にそう言い聞かせていたはずなのに、そのタイミン
グを自ら逃してしまった。
背番号を見ようと思った。だが血に汚れているのと腕が邪魔で見えない。
(なるほど……こいつがジェイソンか……)
ようやく健太の言っていた意味がわかった。こいつがジェイソンだ。確かに映画に出てく
る殺人鬼ジェイソンと同じマスクだ。生憎ここはクリスタルレイクではないが。
(どうする?)
自分に問いかける。右手に握ったばかりの枝が微かに震えた。
(これでいけるか?)
勝負をかけるなら一突きだ。バットを握るように、ゆっくりと枝を両手で持とうとした。
途端にジェイソンの足が動いた。逃げようとしているのか、それともこちらへ飛びこんで
こようとしているのか。腹部に見えるのは間違いなく血だ。怪我を負ったジェイソンは弱
気になっているだろうか。むしろ理性を失って狂暴化しているだろうか。
(ジェイソンが何や、相手は怪我しとるんやぞ)
そこに音は無かった。
ジリジリとした何かが清原の頭の奥で蠢いていた。こんな緊張感は久し振りだった。
(お前を倒したら、背番号と名前見たるわ。それまでお前はただの怪我人ジェイソンや)
その方が遠慮なく殺せる。そう思った。
聞きなれた名前など持たず、ただの抽象的な存在。
相手は恐怖の対象。正義の名のもとに消されるべき人物。
(じゃ、行くで)
瞬間の動きで枝を両手で握った。ジェイソンの足が動いた。途端によろめいた。
「……ぐぇ」
小さく呻く。怪我が酷いのだろうか。ポタリ、と赤い滴が地面に落ちた。
(………ほっときゃ死ぬか?)
ならばいっそ。
「………すぐ楽にしたる」
静かに宣言をした。ジェイソンの足が揺れた。
枝の先をジェイソンに向ける。両手でしっかりと握る。身を屈める。ジンジンとした顎の
痛みを感じたが、気にしている場合ではない。
(3………2………)
心の中でカウントダウン。
(1!)
突っ込もうとしたその時だった。
「まぁ〜て〜!」
呂律の回らない声が聞こえた。一瞬清原はその声に気を取られた。ジェイソンがよろよろ
とした足取りで脇道へと動き出す。
追えば簡単に掴まえられる速度だった。むしろ背中から襲いかかれる無防備さだった。
しかし清原は追わなかった。聞こえてきた声が気になったからだった。
「コラぁー!待てって言ってんだろーがー!逃げんじゃねーぞー!」
怒っている。酔っ払いのようだ。
ジェイソンは振り返ることなく、ヨロヨロとした足取りで木々の間へと姿を隠して行った。
清原はその場で待っていた。
「逃げんなゴルァー!」
ガサリ、と正面の枝葉が揺れた。
たどたどしい足取りで、全身を揺らしながら、目だけが据わった山口だった。
【残り・29人】
今回は以上です。
287 :
代打名無し@実況は実況板で:2007/01/10(水) 21:35:49 ID:lSpE6TVAO
乙です!
ついに山口vs清原がー
北川やさしいよ北川
288 :
代打名無し@実況は実況板で:2007/01/11(木) 15:05:18 ID:U1wmtLNMO
職人さん乙です。
まぁ〜て〜w
sage忘れた…
乙です。
山口と北川に期待。
どうか清原をなんとかしてやってほしい。
干し柿
ほす
星野伸之
なんかまとめサイトの表示がちょっとおかしいです保守
保守という名の旅
保管庫さんもいつも乙です保守
ホシュ
真っ向勝負のスローカーブ
保守
「……ようやく見っけたで」
山口を見据えながら、清原が呟く。緊張感を漲らせた清原に対し、山口は余裕すら感じさ
せる、現状把握の出来ていない態度を見せた。
「んー……おや、キヨさんですか、マスク男の正体はキヨさんでしたか、こりゃビックリ」
山口はニヤニヤしながら清原を見つめた。だがその目は心の底からは笑っていなかった。
「アホか、ジェイソンやったらとっとと逃げたわ」
「ジェイソンー、ンー、ンー………ああ、マスク男、キヨさんじゃなかったんですかー…
…まあそれはそれでオッケーとしましょうかね……別にどっちがどっちでも……」
フラリと体が右側に揺れる。慌てることもなく山口は二、三歩足を運んで態勢を整えた。
「お前、酔ってんのか」
「酔ってませんよーこの程度の酒で……」
「酔っ払いはいつもそう言うわ」
清原はニヤリと笑った。勝算が見えた。相手は酔っ払いだ。これは一捻りでいけるだろう。
この男だけは、そう簡単には殺さない。苦しめた上で殺すのだ。
こいつから受けた死球。頭部に当たった危険球。
激怒してマウンドにつめ寄った時、この男は逃げなかった。むしろ怒りを露わにして清原
へと向かってきた。強い意志を湛えた目で清原を睨みつけて、謝りもせず。むしろ避けな
い清原の方が悪いとでも言うように。
そんな相手は初めてだった。だから清原はさらに激怒した。そしてあの乱闘が起こった。
あの出来事は清原の道を曲げただけでなく、山口の道をも曲げてしまったらしい。
だが他人のことなど関係はない。
「お前には借りがあるからな」
清原が呟く。
「借りですかー?………俺だって、借りがあるんスよ……」
山口の目がグッと清原を睨みつける。あの時の目だった。
「あの事件のお陰で、干されまくって2軍暮らしっスよ」
「お前が悪いんやろが!俺まで巻き込みよって!」
「ぶつかったのがアンタじゃなかったら、こんなことにはならなかった!」
「ぶつける方が悪いんじゃ!」
「うるせえ!!」
それは久し振りの屈辱だった。
ここ数年、清原は誰かに怒鳴られたことなど無かった。球界の番長と呼ばれ、年下の誰か
らも恐れられる存在だった。自分の命令を後輩に対してごり押ししたりもした。それらが
通る状況だった。なのに今、自分よりも年下の人間に、しかも2軍暮らしの人間に怒鳴り
つけられた。屈辱と怒り。一瞬にして全身の血が逆流した。それは頭に血が上るという程
度の言葉ではとても表現出来ないような激怒と憎悪だった。
木の枝を持つ両手が震える程、全身が沸騰していた。
「……貴……様……っ!」
「あーに睨みつけてんだよ、番長さん。手が震えてら」
「てめえっ!」
バカにしたようなその一言に駆り立てられ山口へと突っ込んだ。
「うおっと!」
山口がよろけるようにしてその一撃をかわす。清原の槍となった枝は、ガツッという音と
共に山口の背後にあった大木に当たった。衝撃で清原の体がバランスを崩す。
「逃げんなゴラァ!……ん?」
やはり体勢を崩している山口のポケットから、ポトポトと茶色い何かが落ちた。
「やべ、俺の葉巻……」
それを1本1本拾って再びポケットにしまう。その数本は折れていた。
「てめえ……コケにしやがって……!」
再び清原が山口を睨み据える。枝を持ち直し、今度こそという集中力で態勢を整える。山
口はまたニヤニヤしながら清原を見た。
「なーに興奮してるんスか、番長さん?」
小馬鹿にした言い方が更に清原を焚きつける。少しずつだが着実に冷静さを奪い取ってゆ
く。もしそれが作戦だとしたら見事なものだった。山口はまだ笑っている。けれどそれは
好戦的な笑みに変わっていた。
「………オラ……来いよ、番長さん」
右手で煽るように手招きをする。
「………勝負つけんだろ、オラ………」
あの日の決着を、今。
清原の頭の中で小さな何かが破裂した。火花を伴ってちりぢりとなったそれは、一瞬にし
て全身に行き渡った。指先、爪の先、髪の毛の先まで堪え切れない何かが飽和した。口か
らそれらを吐き出すような勢いで、清原は雄叫びを上げた。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
言葉にならない咆哮と共に山口に向けて突進した。切っ先の尖った枝を構えて。流石の酔
っ払いもその勢いに気圧された。一瞬我を失い、その場に立ち尽くした。しかし危険がす
ぐ目の前に、文字通り目の前に迫っていることに気づくと咄嗟に横へと飛んだ。ちょうど
リードを取っていた二塁ランナーが牽制球で慌てて二塁へ頭から滑り込むような体勢で、
間一髪で清原の攻撃をかわした。
「あにすんだゴラァ!」
怒鳴りながら起き上がろうとする。けれど足に力が入らない。少々アルコールを飲みすぎ
ていたようだ。
「ちっくしょ……っと」
両手で体を支え、立ち上がろうとする。だが足元がふらついて重心が取れない。そんな情
けない様子を清原は横目で見た。
「まぐれで避けたか……今度はそうはいかへんぞ」
小さな戦場。木々に囲まれた小さな空き地。太陽光の最後の一射しが小枝の間から漏れ
ている。静かな光景に、ただ殺意だけが満ちていた。怒りと憎悪に満ちた殺意と、アルコー
ルの匂い。不釣合いな対決。
すぐそばに立っていた木にすがるようにして山口が立ち上がる。ポケットからまた葉巻が
顔を出している。山口の顔はしっかり清原を睨みつけていた。酔っ払いの理不尽な怒りで
はなく、理由のハッキリした憎しみだった。
(俺は………負けねえ………誰にも………)
両足で地面をしっかりと踏みしめる。
生き残る為に。
勝つ為に。
自分に屈辱を与えた男を潰す為に。
「死ねぇぇっ!!」
清原が三度駆け出す。
その瞬間、山口の闘争本能がアルコールを打ち消した。それは野生の動きだった。
突っ込んでくる清原の体の下にしゃがむようにして横へと逃げる。そのまま清原の両足を
持ち、流れに任せて突き飛ばすようにして放り投げた。
「ぅあっ!」
両足を抑え込まれた形になった清原は、そのまま体が前へとつんのめった。勢いで上半身
が茂みへ倒れこもうとする。そこを山口が両足を持ち上げて突き飛ばしたのだ。
一瞬体が宙に浮く。そして草むらへと上半身から落下する。
清原の全身が凍った。
目の前に、見覚えのある枝があった。
誰かが切れ味のよい刃で切ったであろう、鋭く尖って地面から突き立つ枝が数本。
清原が折ろうとしても折れなかった枝。
(ヤバい……!!!)
そう思った瞬間、頭と胸に激痛が走った。
ドシュッ!という鈍い音と共に、赤い何かが散った。
山口は地面にしゃがみこんだまま、肩で息をしながらそれを見つめていた。
ピクリ、ピクリ、と清原の指が動く。太い脚が痙攣している。
上半身だけが不自然な形で地面と平行に浮いている。その体に突き立った枝は3本。
なんとか抜こうともがいているようだが果たせないらしかった。
「………『百舌鳥の速贄』みたいだな」
クッと口元だけで笑った。
「………いいザマだな、番長さん」
ポケットから葉巻を取り出す。反対側のポケットからライターを取り出し、火をつけた。
胸いっぱいに吸い込み、旨そうに煙をくゆらす。
(正義は勝つんだよ)
緊張感は去り、再びアルコールの穏やかな酔いが戻ってくる。
(神様は俺に味方してんだよ……)
ゆっくりと立ち上がる。
(………さて………)
辺りを見回す。すでに山口の視界にそれは入らない。
(………俺、何しようとしてたんだっけ………)
腹の虫がグゥと鳴った。
「そうだ、食いもん、食いもん……それと酒だな」
ユラリと山口が歩き出す。
西日が妙に眩しかった。
【×清原和博 残り・28人】
陽もすっかり傾き、ぼんやりとした闇の中にその灯りはポツンと灯った。
「やっぱり!」
日高は夕暮れ時からずっと窓の外を見つめていた。その灯りの位置を確認したかった。
昨夜、暗闇の中に小さな灯りを見つけた。朝になり、その辺りに小島がいくつかあるのを
認めた。そして今、小島のうちの1つらしき位置に、灯りが再び現れた。
(あの島に誰かいるんだ!)
そこに助けを求めることは出来ないだろうか。少なくとも首輪を外してもらえればいいの
だ。なんとかしてここに選手たちが閉じ込められていることを伝えられないだろうか。気
づいてもらえる方法は無いだろうか。
……狼煙を上げようか?
(……いや、やる気のあるヤツに見つかったらマズイしな……ましてやオーナーに見つか
ったら、即座に俺の首輪が爆発して……)
ブルリ、と体が震えた。
(敵を呼び寄せるのだけは勘弁)
ならばこの夜の間に、灯りの信号をこちらから送れないだろうか?
(懐中電灯の電池が勿体ないかなあ。これも誰かに見つかったら……)
1人での考えには限界がある。
(やっぱり仲間が必要か……でも……)
一番最初に出会った香月に日高は騙されている。誰を信じればいいのか、その基準がわ
からなくなっていた。
もうひとつ、昼間からずっと気になっていることがあった。
海岸沿いの道。この櫓の程近くに誰かが倒れているような人影があった。双眼鏡で見た
が、ユニフォームを着ていることは確かだ。数字の4らしき文字がかろうじて見えた。すで
にいなくなった選手の背番号と照らし合わせたが、4のついている者はいない。
(行き倒れ?)
今助けに行けばまだ間に合うだろうか。夜になればきっとみんな休むだろう。夜になって
から助けに行こうか。ずっと考えていた。だがこの櫓の梯子は折れている。一度ここを出
たらもう戻ることは出来ない。出るにも、ある程度の高さから飛び降りなければならない。
(………大丈夫かな?)
身軽な選手なら、スタッと格好良く飛び降りられるのだろう。
(………やってみるべき?)
不安ばかりが残る。けれど。
(…………誰かを疑ったまま死ぬのと、誰かを信じて死ぬのと、どっちがいいだろう)
鞄の中の荷物を整えながら考える。
(全員が共通の敵を持てば、みんな手を繋ぐんじゃないか?)
共通の敵。答えは明らかだ。残りは、あと1日と少し。
鞄を肩にかける。出口を開ける。下に続く梯子は途中で切れている。
(俺だってスポーツ選手なんだぞ。身のこなしぐらい)
梯子に足をかける。行ける場所まで、ゆっくり慎重に降りた。薄闇の中、手探りならぬ足
探り。10段以上降りた辺りで、降ろした右足が空を切った。
(ここまでか)
後は腕力だ。鉄棒にぶら下がる感覚。小学校にあった「うんてい」を渡る要領。そして懸
垂力。腕だけで梯子にぶら下がり、慎重に体を降ろす。一段一段、ぶら下がっている段を
降りる。両手が最後の段に来た時、下を見た。
(………ちょっと高いな……いけるかな?)
こういう時、平野恵一だったら軽々と飛び降りるのだろう。着地も軽やかに。
(俺の場合はドスン、だろうなあ)
まずは神頼み。
(神様、うまく着地出来ますように。足首とか痛めませんように)
心の中でカウントをする。
(せーの、1、2の3っ!)
両手を離す。予想通り、ドスンという感覚で着地した。けれど重心を崩すこともなく、し
っかりと両足で地面を踏みしめた。
(……僕もうまいもんでしょ)
自己満足に浸りつつ、鞄を肩に掛け直す。窓から見えた人影の方向を確認する。
(………じゃあ、行くか)
懐中電灯の灯りをつける。明るさを調節出来るタイプで良かったと思った。
随分暗くなった道を、日高は歩いた。確かこちらの方角に誰かが倒れていたはずだ。
場所、方向を感覚的に思い出しながら、時折後ろを振り返る。そして見上げる。自分が
さっきまでいた高い櫓がある。そこから見えた行き倒れの人物との距離を考える。そろ
そろ見つけてもいいはずだ。
懐中電灯の明かりが頼りない。けれど進まなければならない。自分で決めたのだ。
生きる為に。
(高い所から見てたからな……結構距離あるのかも)
足音を立てないように、草の上を歩く。
(………やっぱりあそこにこもってた方がよかったのかな)
不安と後悔が徐々に日高の心を侵食し始めた頃、その光景にぶつかった。
倒れているユニフォーム姿の選手。
そして、その人物を抱え上げようとしている大きな頭の人物。
「ネッピー?」
「ひ、日高さん!無事だったんですね!」
満面の笑顔でネッピーが駆け寄ってくる。日高も思わず駆け寄った。
「あ、ああ、どうしてネッピーが……菊さん?」
倒れている人物の数字がようやく見えた。43。
「ええ、選手の皆さんを探して歩いてたら菊地原さんが倒れてて、目を覚ましてくれない
んです。体がすごい熱を持ってるから多分熱中症、脱水症状だと思うんで、水のある所へ
連れて行こうと思ってて……リプシーには連絡したんですけどね」
そう言って腰につけた黒い小さな物体と、口元にあるマイクを見せた。
「リプシーも来てるのか」
「はい。別々に行動してるんです。一緒に歩いてちゃ、選手の皆さんを見つける確率も低
くなると思って」
「そうだ、水なら」
日高は倒れたままの菊地原に慌てて駆け寄り、鞄からペットボトルを取り出した。菊地原
の頭を抱え上げようとして、その体温がかなり高いことに気づいた。
「やばいぞ、これ!」
蓋を開け、まずは菊地原の額にかけた。続いて首の後ろ。
「菊さん、帽子も水も無いまま歩いてたのか?!」
なんとか体温を下げようとする。水を飲ませようと口へ強制的に流し込むと、少しだけ菊
地原の喉が動いた。
「菊さん!」
「菊池原さん!飲んで下さい!」
ネッピーが頬を叩く。また菊地原の喉が動く。今度は貪欲に喉が上下した。
「菊さん!」
日高がこれでもかと水を注ぐと、とうとう菊地原がむせ込んだ。
「菊さん!」
「ゴホッ!ゲホッ!」
体をくの字に曲げ、苦しそうに咳き込む。
「菊さん!」
ようやく咳が止まっても、菊地原はまたグタリと地面に倒れた。
「菊地原さん!」
「まだ意識が朦朧としてるんだ。なんとかしなきゃ」
日高が水を鞄にしまいながら呟く。
「脱水症状の時の応急処置って……?」
ネッピーが尋ねる。
「とにかく体を冷やすんじゃないかな」
「海に浸けて全身冷やすとか!」
「駄目だ!首輪が爆発する!」
突然日高の声が大きくなり、ネッピーはキョトンとした。
日高も自分の声の大きさに驚いたようで、慌てて周囲を見回した。
「だ、大丈夫かな……」
「何がです?」
「敵に気づかれたら……」
「そうだ!選手の皆さんは何処にいるんですか?犯人は?日高さんも菊地原さんも、何処
から逃げて来たんです?誘拐犯は武器持ってますか?やっぱり複数犯ですか?」
矢継ぎ早の問いかけに、日高はネッピーが何も知らないことを理解した。
「……ネッピー」
「はい」
「明後日の昼の12時になったらね」
「……はい」
日高の口調が重くなったことに気づき、ネッピーの答えも少しだけ小声になる。
日高はどこか自嘲気味に笑い、自分の首を指さした。
「この首輪が爆発するんだ。この島にいる選手全員のね」
【残り・28人】
今回は以上です。
投下乙です!
清原が結構あっさりで吃驚してしまった・・・
職人さん乙です〜!
こうも簡単に決着がつくとは……うーむ。
そして日高がなんかかわいいw
うまもんワロスwww
職人さん乙です。
ノリに続いてキヨもあっさりでビックリです。
自分の記憶違いだと思いますが、日高はいつ助かったんですか?
たしか、何か高いところに閉じこめられていたような…
閉じ込められたってのはあの小屋じゃなかったかな。香月に。
保管庫の23章ですね。
ここで高い櫓の上に閉じ込められて、その櫓から今回脱出したわけですね。
星野伸之
そのうち山口が「山田」とか「山辺」とか呼ばれるようになったりして。
日高は章数で考えるとものすごい長い間あそこにいたんだなあ。干物になるぞ。昆布だけに。
世界史の補習
☆
清原は北川によって更生する展開を期待してたのになあ・・・
それにしても谷・ノリ・村松・キヨと大物はみんな早死にだな・・・
これは偶然かな?それともたまには大物なしのバトロワがあってもいいじゃないかというような◆UKNMK1fJ2Yさんなりのメッセージかなんかかな?
とにかくゴッツやWカトウとかだけでどれだけ盛り上げられるかが楽しみだな
大物が続々退場して、川越が殺害数トップになってしまうのかと思うと……(´;ω;`)ブワッ
残ってる選手にまだまだ(いろんな意味で)がんばってほしいもんだ。
330 :
代打名無し@実況は実況板で:2007/01/24(水) 00:41:11 ID:qSXPpEMJO
保守
>>328 ノリとキヨは単にめんどくさかっただけとか
>>331 そういえば◆UKNMK1fJ2Yさんは関西弁が不得意って言ってたな
そういう点でノリとキヨは目障りな存在だったのかも
清原は最後まで残ると思ってたなあ…
こういう展開も嫌いじゃないんでいいんだがww
「まだ28人も残っているのか」
「はあ……やはりそう簡単に殺し合いは出来ないみたいです……」
小さな建物の中。真っ白な壁に囲まれた部屋。
「これだけの状況に放り込まれたら、もっとやり合うかと思ったんだがな」
「まあ、それぞれの性格もありますし……」
「やる気になりそうな奴が先に死んでるのか?」
「そういう訳ではないと思いますが……」
「まあいい、時間切れまでは楽しませてもらわないとな」
宮内の一方的な語りを聞きながら、このチームの監督であるはずの中村は小さくため息を
ついた。
「あの……」
「なんだ」
威圧的な態度は変わらない。
「せめてシーズン通して使える選手を残してもらえませんか。ピッチャーと野手と……」
「全員平等だ」
「……支給された武器は……平等じゃないですよね……?」
「ランダムに配布された。あれは運だ」
何を言っても通じないらしい。
「ところで中村くん」
「は、はい」
「例の船はどうした?大島くんが乗って来た……」
「はい。小さい船でしたから簡単に転覆したそうです。浮いていた大島くんを収容しまし
た。ネッピーとリプシーは行方不明です」
「ポセイドンの子供と海賊の娘か………泳ぎは得意そうだな。海に愛された子供たちだな」
何を突然詩的な表現を、と思ったが、口には出さずにおいた。もし少しでも機嫌を損ねて
自分までバトルフィールドに放り出されてはたまらない。
「さて、次のトラップの準備はいいかな?」
「え?もうですか?」
「ああ、このトラップは暗闇の中の方がスリルがあって楽しいだろう?」
「まあ……見えないですから、声を出さないといけませんよね」
「敵に自分の居場所を教えながら走り回ることになる。面白いじゃないか」
「はあ……」
権力者、金持ちというものはどうしてこうも悪趣味になるのだろう。それまで自分の持っ
ていた価値観というものを失ってしまうからだろうか。
「では、放送の準備をしてくれたまえ。それから、清原くんの首輪を点検してくれ」
「…………は?」
「生体反応がおかしいんだ。血圧の低下が記録されている。表示が死亡になったり、生存
になったり点滅しているんだ」
「え……」
慌てて中村がノートパソコンを覗き込む。選手一覧ウィンドウを開いた。しばらくその画
面をじっと見つめた。確かに清原の名前だけが赤になったり白になったり、時折点滅を繰
り返している。
「バグ、ですかね?」
「ひょっとしたら、首輪自体に何か欠陥があるのかもしれん。もしくは……清原君自身が、
首輪に何か細工をしたか、だ」
「まさかそんなことは……」
宮内が腕を組む。
「死んでいないのに死んだと表示されたり、死んだのに生きていると表示されたり、そん
なエラーがあるのかもしれんな。……まったく、約束が違う」
「は?」
「ゲームのルールが根底から崩れるからな。もう技術者は呼んである」
「はあ……用意のいいことで」
「大島くんを拾った船に乗っている。小泉社長と一緒にそろそろ着く頃だ。我々はそれま
での間、トラップタイムを楽しむとしよう」
「………はあ………」
下山、光原、高木の3人は手頃な家に落ち着いていた。夜道を歩くのは危険かつ困難だと
判断した為だ。間違って禁止エリアに踏み込んでしまってはたまらない。また懐中電灯の
灯りもいつまで持つかわからない。考えるべきことは多かった。
まずは3人の持っているパンと水の数を確認した。家の中の台所に缶詰を少しだが見つ
け、喜んで3人で分け合って食べた。コンビーフ、ウインナー、ツナ、サバの味噌煮もあっ
た。今の3人にとっては素晴らしい御馳走だった。
「俺、このコンビーフとタマネギ切って炒めるの、好きなんですよ」
仲間を見つけ、少しだけ元気を取り戻した光原が言った。
「得意料理なんだけどなあ」
「んなもん料理の域には達してないな」
下山が笑う。光原はわざと頬を膨らませた。
「歌さんに教えてもらったんですよ。コンソメスープ用のキューブをですね、お湯で溶い
て、炒めてる途中でザッとかけるとこれまた隠し味」
「へー、今度作ってみよ……」
高木がメモを取りそうなくらい真剣に感心している。
「吉井さんはチャーハン作る時に、同じくコンソメスープをかけて炒めるらしいですよ」
「あ、それも美味しそう……」
「みんな料理してんだなー」
下山が意外そうな表情で呟く。
「でも今目の前にある食材じゃあ何も出来ないよなあ」
「ですよねえ……」
3人は何気なく辺りを見回した。部屋の隅の棚に、小さなラジカセが入っているのを高木
が見つけた。立ち上がり、取り出して見る。
「何それ?」
「ラジカセですね……ホントにラジオとカセット」
「ここに住んでたおっちゃんが演歌とか聴いてたのかな」
「夜はナイター中継ですよね」
コンセントは無い。代わりに大きめの乾電池が3本入っていた。時代遅れな色合いだった
が、高木がスイッチを入れるとザーザーピーピーという独特の音がした。
「なんか入らないかな」
光原がアンテナを伸ばす。微かに人が喋っているような声が聞こえた。
「叩いても駄目かな」
「ミツー、お前そうやって物壊すタイプだろ」
「壊しませんよ」
「ただでさえ錆び付いてんだぞ。壊れるよ絶対。ビスケットみたいに増えたりしないし」
言いながらラジカセを自分の手に取り、下山は窓辺のアルミの縁に手をかけた。
『………つづい………』
砂嵐の間から、微かな人の声が聞こえた。
「そのまま!」
高木が下山を指さす。下山はビクッと体を震わせると、片手を窓の縁から離してしまった。
途端にラジオの砂嵐が戻ってくる。
「シモさん、今と同じ態勢取って!」
高木に言われ、慌てて下山はアルミ部分に手をかける。
『………です。次の………バス…………』
「聞こえた!」
高木と光原がラジオに耳を寄せる。
「ニュース?」
「多分」
小声で会話する。砂嵐は消えないが、微かにアナウンサーが喋る声が聞こえた。
『…………今も……………しゅつさ…………もうひとつの乗用…………』
「腕疲れたー」
下山が腕を下ろす。途端に砂嵐が大きくなった。
「シモさんー」
「いいじゃん別に。ろくに聞こえないし」
もう何も聞き取れなくなったラジオを下山が消した。
「………俺たち、探してもらえてるのかな」
「探してくれてなきゃ困りますよ」
光原が答える。
「でもさ、オーナーが関わってるなら、警察とかに何かしらの圧力がかかっててもおかし
くないよな」
「そんな寂しいこと言わないで下さい」
パンを齧りながら高木が言った。その表情はしっかりしていた。強い意志のもと、方向の
定まった目をしていた。光原も、あの中立地帯で見せていた涙はもうない。時折悲しそう
な顔を見せるが、それでも前を向いていた。
「なあ」
下山が言いながら、軽く手を叩いた。
「ちょっと状況整理をしようや」
「はあ」
光原が曖昧な返事をする。
「俺達はバスに乗った。気が付いたらこの島にいた。オーナーの声がして、戦えって言わ
れた」
「はい」
「確かあのバス、監督も乗ってたよな?」
「そう……ですね………確か岸田に続いて乗り込んで来たような……」
高木が腕を組んで呟いた。
「じゃあ、監督は今どこにいる?」
「……………」
「この島のどこかで罠を張ってるのかもしれない。相川みたいに」
「……………」
「少なくとも、敵だと考えた方がいい。もし会ったとしても」
「監督はオーナー側ってことですか?」
不安げに光原が尋ねる。下山は無言でうなずいた。
「多分、作戦とか一緒に立てたんだろうな。ひょっとしたら、敵はもっと多いのかもしれ
ない。最初から全てを知っていて、ここまで乗り込んで来た奴とか………」
光原と高木が同時に息を飲んだ。
「まさか、選手の中にも?!」
高木が身を乗り出すようにして尋ねた。
「………高木」
「………はい」
「お前、ここまで何かあったか?」
「……………さっき話した通りですよ。山口さんとホテルにいて、ジェイソンに襲われて
逃げました。あと………金子………」
光原が目を伏せる。
「じゃあここにいる3人、みんな修羅場くぐってんだな」
下山が小さく笑う。
「歴戦の勇者ですよ」
高木もつられて笑う。光原も一緒に笑顔になった。
「あのさあ」
下山が続けた。
「俺たち3人、こうやって信じ合えてるじゃん」
残りの2人がうなずく。
「だからさ、他の奴らにもさ、こうやって声かければ信じ合えると思うんだ」
下山の口調はしっかりしていた。
「あと1日と少しだ。きっとまだ1人でどうしようもない人だっていると思う。ミツたち
が襲われたみたいに、ヤバイ考えになってる人もいると思う。でも、みんなで手を組めば
出来るはずだ。敵を間違えちゃいけない」
一瞬、言葉を切る。
「俺たちの敵は、オーナーだ」
それは宣言だった。
下山なりの、自分の意志を決めた宣言だった。もう怯えてはいられないのだ。
首輪探知機。こんなに凄い、ある意味最強の武器を持っているのだ。
光原が自分の鞄を開けた。白いタオルを2枚取り出す。
「これ、旗にしませんか?白旗。こっちには戦う意志はありませんよって印で」
「いいな、それ」
「さっきその辺に棒が……」
高木が部屋の隅、棚の影に顔を突っ込んだ。そして1本のプラスチックの棒を取り出した。
洗濯物をかけてでもいたのだろうか、長さの調節が出来た。
「どうやって留める?」
「結べますかね?とりあえず白いぞってわかれば。あとは輪ゴムとかテープ」
「標的にもなりやすいですよね」
「隠して歩いて、人影見えたらバッと出して振るってのはどうだ?」
「シモさんナイスアイディアー」
「それに首輪探知機があるんだ。危険な人ぐらい避けられるさ」
下山が自信ありげに笑って見せる。光原も高木も笑った。
彼らは信じていた。
仲間を。
そして彼らの未来を。
【残り・28人】
すでに辺りは闇に包まれてしまった。
小さく舌打ちをして、平野佳寿は懐中電灯を左手に、金属バットを右手に林道を歩いてい
た。夏の虫が叢の中で鳴いている。それは平野に幼い頃を思い出させた。
『しょうらいのゆめ・プロやきゅうせんしゅ』
そう書いた七夕の短冊。そういえば七夕は来月だ。
(……さーさーのーはーさーらさらー)
心の中で呟くように歌った。あの頃、自分の傍にいた誰かが歌ってくれた。
(のーきーばーにーゆーれーるー)
空を見上げた。こうやって夜空を見上げるなんて、何年振りだろう。
(おーほしさーまーきーらきらー)
真っ暗な夜空には満点の星。都会では決して見えない星すら、ここでは肉眼で捉えること
が出来る。今にも降ってきそうな光の粒。夕方頃には遠雷が聞こえたというのに、どうや
ら雨が降る気配もない。それともまだ時間があるのだろうか。
(きーんーぎーんーすーなーごー)
ふいに、目元に熱いものがこみ上げてきた。
俺は今、ここで一体何をしているのだろう。
何をしようとしているのだろう。
何をしてしまうのだろう。
生きる為に。
再び野球をする為に。
野球がしたい。
ただ野球がしたかっただけなのだ。
なのに何故俺はここで殺し合いをさせられているんだ!
ぷっつりと、未来が途切れる。
(そんなことさせるもんか!)
夢があるのだ。叶えたい夢が。幼い頃からずっと信じてきたものが。
新人王を獲る為に。エースの座を得る為に。優勝する為に。胴上げ投手になる為に。名誉
を得る為に。莫大な金を得る為に。将来を安泰にする為に。
輝かしい、未来の記憶の為に。
(こんなところで野たれ死んでたまるかよ!)
天上の星々の光が何かに滲んで揺れた。震える唇を噛み締める。
(………ごーしーきーのーたーんざくー)
心の中、震える声で歌う。
(………わーたーしーがー………かーいーたー……)
膝の力が抜け、その場にしゃがみこむ。疲労がゆっくりと平野を包み込む。
「………おーほしさーまー……きーらき……らー………」
声に出し、膝を抱えた。身を縮め、何かから自分を隠すように丸くなった。
「♪そーらーかーらーみーてーるー」
ふいに続きを歌う声が聞こえて、驚いて顔を上げた。
林道の少し先に、バス停のような東屋があった。しかしバスの看板は無い。昔はバスが走
っていたのかもしれないが、今はもうその役目を終えているようだった。
その東屋の中から手を挙げている人物がいた。
「よう……平野か。大きい方の」
「………ゴッツさん」
平野は後藤には見えない角度で目許を拭うと、バットを手に立ち上がった。後藤は木で出
来た横長のベンチから手を振った。右肩に掛けている黒くて長い物が平野の目に入った。
(銃……だな)
後藤は軽く腰を浮かせると、自分の左側を空けた。平野は軽く一礼してそこに座った。銃
は距離的に遠くなった。平野は横を向き、後藤を見た。
「独り、ですか?」
「ああ、これが2人に見えたら大変だぞ。背後霊でも見えてるのかもな」
相変わらずの態度だ。掴み所がない。後藤はいつもの笑顔で平野を見た。
「阿部まーちゃん、見てないか?」
「阿部さん、ですか。見てないですね」
「そうかー、まーちゃんなら上手くやりくりして生き延びるような気もするけど」
平野のあっさりとした答えに特別気落ちする訳でもなく、後藤は続けた。
「お前さあ、生き残りたい?」
「当然です!」
声を荒げて平野が答える。
「後藤さんは生き残りたくないんですか?」
「生き残りたいよ。出来ればみんなで。みんながいなきゃ野球が出来ない。ここでポジシ
ョンのライバルが死にました。ハイそうですか、って喜べるはずもないしな」
アハハ、と笑う。そんな後藤の気楽さに平野は苛立ちを覚えた。このゲームが始まって間
もなく、平野は心に誓ったのだ。最大のライバルを消す。チームのエースである川越を消
す。もし何かが起きてこのゲームが強制終了させられ、選手たちが生き残ったとしても、
それまでに川越を消したい。だから川越を探して歩いている。
「おや、お前さんは不服そうだな」
余裕を見せながら後藤が平野の顔を下から覗き込む。馬鹿にしたような態度にまた平野の
苛立ちが募る。
「お前と川越さんの違い、教えてやろうか」
「………え?」
まるで心を読んだような問いかけに、平野は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。そん
な瞬間はまだ22歳の若者だ。
「後ろから見てるとさ、わかるんだよ。吉井さんなんて特にそうかな」
後藤は正面を向いた。林道の闇。懐中電灯が微かに木々の葉を照らしている。風さえ吹か
ず、物音ひとつしない。後藤はその闇の奥を見つめていた。
「お前、マウンドに立った時、何%の力で投げてる?」
「100%ですよ、当たり前でしょう?全力投球ですよ。今持ってる全ての力を出し切るんで
す。それくらいの気持ちが無きゃピッチャーなんて出来ないです」
「そこが違うんだなー、多分」
ニヤニヤしながら続ける。平野は自分が否定されたような気がして少しだけムッとしたが、
顔には出さないようにした。まがりなりにも先輩だ。ポーカーフェイス、平常心もピッチャー
には必要なスキルだ。
「川越さんはさ、マウンドでは98%くらいの力だと思うんだよ。そこに、別枠としてどっ
かに置いてある空っぽの20%をプラスして投げる。合計118%の力で投げてるんだと思う
よ。吉井さんなんて75%ぐらいで投げてるんだろうなあ。そこに別枠の……んーと……ま
あ別枠の力を加えて投げてるんだと思う」
「………経験ってことですか」
「それもあるけど、俺は精神的な余裕じゃないかと思うんだよな」
後藤は前屈みになり、膝の上で手を祈るように組んだ。
「全部で100%だったらお前はその全部を使って投げてる。スタミナがあるから持つけど、
それだけじゃ通じない。100%出来上がった壁が銃で狙われたら穴が開くしかない。でも、
2%でも空白の余裕があると、そこを弾丸を貫通させれば、何の痛手もない」
「………打たせて取るってことですか」
「精神的な問題だよ。もっと抽象的な話。じゃあもっと具体例」
後藤が再び平野の顔を見る。恐らく平野はとても困った顔をしていただろう。
「お前、マウンドで気を抜くことある?」
「無いです。そんなことしたら気持ちが途切れます」
「前にさ、川越さんと吉井さんが話してるの聞いたんだ。あの2人、1秒だけマウンドで
気を抜くんだってさ」
「1秒?」
「そう、たった1秒。でもその瞬間に全身をリラックスさせて、すぐに緊張感を持続させ
られるんだって。それが別枠の20%じゃないかと思うんだよ」
「俺にはそんな1秒いりません!」
思わず立ち上がっていた。
「そういうのはベテランの人がすることです!俺ら若いのは全力です!いつも全力です!
結果が必要なルーキーはそうしなきゃいけないんです!」
「そうだよな、お前はいつも一生懸命だもんな。でも、予備の20%がどこにも見当たらな
いんだよ。それを見つければ、もっと余裕が出来るんだよ」
子供に言い聞かすような口調で後藤が言った。
「去年のミツの場合、それがあったんだ。社会人を経験してたからかな」
「人と比べないで下さい!」
後藤の正面に立ち、声を荒げた。後藤の表情は変わらなかった。
「平野」
「…………」
「お前、川越さんのこと殺そうとか思ってないか?」
「…………」
「違ってたらごめんな。でも、なんとなくそんな感じがしたんだ」
「…………」
「みんなでここから逃げ出せたら最高だな」
「…………」
「星見て泣くようないい子には人殺しなんて出来ないよ」
「うるさいっ!!」
怒鳴り声と共に、平野は金属バットを構えた。打席に立つバッターのようにではなく、い
つでも正面にいる人物を殴打出来るように。
「ゴッツさんに何がわかるって言うんです!」
「お前がピッチャーの王道を進むべきだってこと」
「…………」
「次のエースはお前か、それともミツか。お前のピッチングは王道を進む力を持ってる。
だから、精神的にもそうあって欲しい」
「…………」
平野はゆっくりとバットを構え直した。目はじっと後藤を睨みつけていた。
そして気づいた。後藤の右手が細長い銃の引き金にかかっていることに。
「……俺が銃撃つのと、お前が飛びかかってくるの、どっちが速いかな」
「……どうでしょうね」
「俺は死ぬ前にやらなきゃいけないことがあるんだ。それを終わらせなきゃ死ねないんだ。
だからもし、お前が俺の邪魔をするなら……」
風が吹いた。サワサワと葉の揺れる音がした。まるで何かを囁きかけるように。
「………川越さんより先に、ゴッツさんに消えてもらいます」
今までよりワントーン下がった声で告げた。
「平野」
「…………」
「みんなで野球をするんだ」
「…………」
「みんなで生き残って、みんなで野球をするんだ、みんなで」
「…………」
「平野、『みんな』だ」
「…………」
「平野!!」
その瞬間、静かな闇に賑やかな音楽が流れた。流石の後藤も驚いて立ち上がった。
穏やかに、かつ高らかな宣言が響いた。
『トラップタイムです』
【残り・28人】
今回は以上です。
乙です!
ゴッツには平野佳をなんとかして説いてほしい。・゚・(ノД`)・゚・。
ゴッツ!ゴッツ!
乙です。
今度のトラップタイムは何が起こるんだろう?
しかしこの後藤、いい人である
後のマザー・テレサである
マザーテレサハゲワロタwwww
白旗組ガンガーレ!
星野伸之
乙です!!
いやぁ…
ゴッツ良いなぁ。
ゴッツ素敵だよ。
ほ
ゴッツが無事あべちゃんに会えますようにホシュ
ホルスタイン
後藤と平野佳寿は今さっきまでの緊迫感とは全く違った意味で、それぞれ体を強張らせて
いた。また嫌な時間がやってきたのだ。この島にいる全ての選手に降りかかる運命。ラン
ダムに訪れる厄介ごと。
互いを牽制することも忘れて虚空に耳を傾け、闇の中に佇む木々を見つめた。
『今回のトラップは、1時間後に発生します』
聞こえている音楽に懐かしさを感じて、大久保は小さくため息をついた。
小学生の頃、よく運動会やキャンプファイヤーで流れたフォークダンスの音楽、「オクラホ
マミキサー」だ。
(なんで今こんな能天気な曲が流れるんだよ)
目の前にいる萩原と大西も動きを止め、その場に立ち尽くしている。
大西は救いを求めるような眼差しで萩原を見つめていた。萩原はその期待を裏切るかのよ
うに猫を大事そうに胸に抱いたまま、何故か空を見上げている。
『これから1時間、音楽を流し続けます。その音楽が鳴り終わったらタイムアップです。
残り10分になったら曲は徐々に早くなっていきます』
もう少しで離れ小島へと渡る橋が見えてくる頃だというのに、ユウキと平野恵一は足止め
を食らわされた。この放送を聞き終わらなければ方向を決められない。ひょっとしたら、
小島の研究所へ行くことが出来なくなるかもしれない。それはトラップの内容次第。
『残り20分を切ったら、残り時間を5分経過ごとに放送します』
それは優しさなのか、お節介なのか。
1人、辿り着いた家で夕飯の準備を始めていた的山はコンロの火を止めた。
『今回のトラップは至極簡単。みなさんの努力次第では脱落者ゼロの可能性もあります』
北川に抱きかかえられるようにして、阿部健太はまだ震えていた。感情が飽和してしまっ
たのか、涙が止まらない。こんなことではいけないのだが、どうしようもなかった。
聞かなければ。今は心を落ち着けて、真剣に放送を聞かなければ。
『これから1時間の間に、アルファベットの【K】を3つ集めて頂きます』
「………K?」
日高が復唱する。
ネッピーは菊地原を抱き上げようとした中途半端な体勢のまま、キョトンとした表情で放
送を聞いていた。
『みなさんの名前の中にあるアルファベット、【K】が合計で3つになるようにグループを
作って下さい。例えば中村監督の場合「NAKAMURA KATSUHIRO」で2つ【K】を持っている
ことになります』
ガタンと音を立てて塩崎(SHIOZAKI MAKOTO)は立ち上がった。のんびりしてはいられな
い。現実逃避をすることさえ許されないのだ。慌てて鞄を肩にかける。小型チェーンソーの
重さを久々に実感した。そして、それ以上に重い放送内容に気ばかりが焦った。
『今から1時間後に首輪の位置を計測し、半径1メートル以内に【K】が3個集まってい
なければ、首輪が爆発します』
「ふざけんな!」
吉井(YOSHII MASATO)は毒づくと、消音銃を握り直した。そして地図を見つめた。
『ちなみに、自分の名前に【K】がひとつも入っていない人は、3つ集まった集団と同じ
半径1メートル内にいるか、【K】がひとつもないメンバー3人で集まった時にグループ成
立とします』
「俺のことかよ!」
水口(MIZUGUCHI EIJI)は思わず怒鳴りながら地図を広げた。その裏にあるメンバー表を
見る。他に【K】を持たない選手はいるだろうか。何処にいるだろうか。
『それでは、今から1時間後にトラップタイム終了です。頑張って下さい』
放送が終わる。オクラホマミキサーも終わり、入れ替わるようにして静かな音楽が流れ始
めた。まだ序盤戦。穏やかな曲が気に障らない程度に響いていた。
「い、いくつだ?!」
「俺ゼロです!」
光原(MITSUHARA ATSUHIRO)が悲壮な表情でお手上げのポーズを取る。
「俺もねえよ!」
下山(SHIMOYAMA SHINJI)も慌てた様子で答える。
「お、俺1個!」
高木(TAKAGI YASUNARI)が泣きそうな顔で続けた。
「3人で1個かよ……」
下山が頭を抱えながら肩の力を落とした。
「と、とにかく、あと2つ見つけないと!」
「白旗振りましょう!きっと見つかりますよ!ちょうどいいじゃないですか!仲間を見つ
けるんですよ!」
必死に肯定的な意見を続ける若者2人に、下山は苦笑いをしながら顔を上げた。
「そ、そうだな、とにかく動かなきゃ始まらん。行くぞ!」
「はいっ!」
3人は念の為それぞれの武器を片手に、そして下山が白旗を抱え、夜の闇へと飛び出した。
「冗談やめてくれよ!」
香月(KATSUKI RYOHTA)が毒づく。香月は【K】を2つ持っている。あと1つだ。誰かを
捕まえてなんとか3個にしなければ。しかし捕まえたとしても、その相手を信用出来るだ
ろうか。そもそも信用出来るという基本ラインはどこだろう。
(もし歌さんだったらどうする?)
香月のプライドを砕いた相手。香月よりも少しだけ多く仰木監督に信用された人物。
(歌さんだったら……ひとまずこのトラップをクリアして、終わったらすぐ……)
矛を握る手に力がこもる。鞄を肩に掛け直して立ち上がった。
早川(HAYAKAWA DAISUKE)は右手に握る刀を見た。
夜の闇の中、月明かりにボンヤリと、けれど揺らせばキラリと鋭く光る刃。
それを見つめているだけで安心出来る。不思議な自信が湧いてきた。
(俺は2つしか持ってない……あと1つ)
生き残る為には仲間を見つけなければならない。
その一方で、この刀の切れ味も試してみたい。もう木の枝は斬り飽きた。もっと違う手応
えを試してみたい。自分は強いはずだ。
そう、もっと強いはずだ。もっと何かが出来るはずだ。
(誰か……探さなきゃ)
2つの目的の為に、仲間を探さなければ。
すっかり道に迷ってしまい、山口(YAMAGUCHI KAZUO)は歩きながらその放送を聞いてい
た。酔いは醒めきらず、放送の意味もよくわからない。さっきから同じ道をグルグル回って
いるような気がする。
「とりあえずー、俺は1個持ってるぞー」
放送では【K】が3つだの何だのと言っていたようだ。よくわからない。
ポケットからウィスキーの小瓶を取り出す。まだ半分以上は残っている。
そしてまた同じ場所に戻って来てしまった。
「清原さんー、まだ寝てるんですかー?」
数本の木の枝に支えられるようにして清原(KIYOHARA KAZUHIRO)がうつ伏せになって寝
ている。山口はそのすぐそばにしゃがみ、胡坐をかいた。
「ああ、ちょうどこれで3つじゃないっすか?はい完成―、さすが俺―」
清原に対して乾杯をするように、ウィスキーの小瓶を掲げた。月にキラリとボトルが光る。
「あー、またホテル戻って酒集めないとなー………道覚えてねえけど……朝になったらわ
かるか………食いもんもあそこならあるしな………」
アルコールのせいか、徐々に眠気がやってきた。抵抗することなく山口は瞼を閉じた。
阿部真宏(ABE MASAHIRO)は呆然としていた。
自分は【K】をひとつも持っていない。すなわちすぐに闇の中へと走り出し、仲間を見つ
けなければならないのだ。
(なんだよなんだよ!名前なんて親から貰ったもんだぞ!自分じゃどうにも出来ないんだ
よ!そんなルールあるかよ!)
鞄を抱え、一応の武器であるスタンガンを右手に持ち、左手に懐中電灯を持つ。
(畜生!弁天小僧が羨ましいぞ!菊之助だもんな!一気に【K】が3つもあって……あれ、
苗字は何だっけ?弁天小僧はあだ名だよな?あれ?)
そんなことはどうでもいい。今はただ仲間を探すのだ。闇の中、ぼんやりとした灯りを頼
りに、声を出し、自分の位置を確認し、相手を探す。
(………ヤバイ人に会いませんように………)
「3つ、ですよね」
加藤(KATOH DAISUKE)が確認する。
「3つ、だ」
歌藤(KATOH TATSUO)は猿の右手を握ったまま身を低くし、床に片膝をついてその放送
を聞いていた。
「俺、2つあります。加藤の「か」と、大輔の「け」の2つ」
「俺は歌藤の「か」だけ」
「3つ、ですよね?」
「ちょうど3つだ」
2人の肩の力が抜ける。
「………この家に隠れていれば大丈夫ってことですよね?」
ホッとした表情で、加藤が呟いた。
「仲間を探すつもりが無いならな」
複雑そうな表情で、歌藤が答えた。式神のように歌藤につき従っている猿は、何かを訴え
かけるようにじっと歌藤の顔を見つめている。
「よかった、2人で3つありますね。川越さん2つありますもんね。さすが川越さん」
本柳(MOTOYANAGI KAZUYA)が笑いながら言うと、川越(KAWAGOE HIDETAKA)も小さく
笑い返した。
「ひとまず安心だけど………このトラップってかなり巧妙に出来てるよな」
「え?」
川越の言葉に本柳が小首を捻る。
「だってさ、俺らは安心だからこのままにしてればいいけど、逆に仲間に会うチャンスを
みすみす捨てることになるよな」
「はあ……」
「【K】を持っていない、足りない選手は仲間を探して走り回るよな。敵に遭う可能性も大
きいけど、仲間を増やす可能性もある」
小さくひとつ息を吐くと、川越は続けた。
「なあ、俺らも外を歩きまわってみないか?」
今度は本柳が心の中で小さく息を吐いた。
(また川越さんの優しさが出た)
まだ心に甘い部分を持っているようだ。
「でも川越さん、違う考え方も出来ますよ」
「なに」
「【K】は3つですよね」
「放送ではそう言ってた」
「俺たちはもう3つ集まってる。でももし3つ以上集まったら、どうなるんでしょうね?」
日高(HIDAKA TAKESHI)はまだ意識が朦朧としている菊地原(KIKUCHIHARA TSUYOSHI)
を見下ろしていた。ネッピーも同様だった。
「俺は【K】が2つある。菊さんも2つ」
「……合計4つですね」
「放送では単に3つって言ってたけど、オーバーした場合はどうなんだろう?3つジャス
トなのか、それともオーバーしてもかまわないのか……」
それきり日高が黙り込む。
「でも普通、オーバーしたらダメですよってことはルール説明としてつけるんじゃないで
すか?だから今回はオーバーしてもOKじゃないんですか?」
「そう思いたいけど………命がかかってるからな」
安易な自己判断はしない方がいい。この島のルールはオーナー自身。
「とにかく動くしかない。仲間を探して、上手く【K】を6個に出来ればいいんだ。そう
すればグループが2つになる」
「そうですね、リプシーと連絡を取ってみます。上手く人数調整出来るかも」
リプシーは走っていた。右手に懐中電灯を持ち、緑の道を走っていた。
さっき聞いた放送。もし本当ならこれから1時間後に恐ろしいことが起こるのだ。
(あの方は……あの方は【K】を1つしか持っていない!)
探さなければ。愛しいあの人を守らなければ。
リプシーは迷うことなく選手たちの姿を探していた。走り続けていた。
そして、あの人の姿を追い求めていた。
「登録名なのかよ!それともフルネームなのかよ!」
怒っているのはユウキ(YUKI)。フルネームは田中祐貴(TANAKA YUKI)。
登録名なら【K】1個。本名なら2個だ。そこに平野恵一(HIRANO KEIICHI)がいる。こ
ちらは【K】1個。グループ完成か、それとも1個の不足か。
もうすぐ目的地への橋も見えてくるはずだった。なのにこんな事態が降ってきた。
「双六とか人生ゲームだと、ピッタリじゃなきゃ上がれないし……」
真剣な表情で、どこか的外れなことを平野が呟く。けれどそれに対して腹を立てている余
裕もユウキには無かった。
「ユウキ、引き返そう」
冷静な口調の平野をユウキがギッと睨みつける。平野は口調も表情も変えなかった。
「こういう事態じゃしょうがない。島の端にいたって仲間は見つけにくいよ。だから島の
中に向かおう。急ぐんだ。研究所とラッキーカードは後回しだ」
「でも俺はどっちなんだよ!」
「多分……俺は多分、登録名カウントで1個だと思う」
「根拠は」
「そう言われると……無いけど……でも、俺らは野球選手としてここに連れてこられたわ
けだし……だからやっぱり……登録名かな、と……」
理由付けに乏しい説明を口篭りながら続ける。
「なあユウキ、スタート地点に戻ってみないか」
「………何の為に?」
「そこにオーナーがいるならさ、そこから大声で尋ねるんだよ。どっちなんですかーって」
「…………それしかないのかな」
「建物の半径50メートル以内に入らなければいいんだし」
すでに平野は再び歩き出す準備が整っていた。それを横目で見ながらユウキは考えていた。
(……今回の件でみんな大移動を開始するだろう……そうしたら元近鉄の選手にも会うチ
ャンスが増える……)
ユウキは自分の小さなナイフを見た。すでに1人消している。もう迷うことなど何もない
はずだ。起きてしまったことは消せない。ならば1人も2人も同じことだ。
(まずは俺が【K】をいくつ持っているかを知らなきゃ)
地図を見る。平野が懐中電灯の灯りを差し出した。方位磁石と位置を照らし合わせた。
腹部は真っ赤に染まっている。けれど意識はしっかりしていた。ジンジンとした痛みが続
いているが、歩くことは出来る。が、長時間はどうだろう。
生きては助からないかもしれない。徐々に鈴木(SUZUKI FUMIHIRO)はそう考えるようにな
った。これだけの怪我をしている。今病院に運んでもらえたら手術をして命ぐらいは助か
るだろう。だがその可能性はゼロに等しい。ゲーム終了時に生き残っているのが自分1人
という可能性も少ない。なら自分がこの怪我で死ぬ前に他の選手を消すしか方法はない。
(いいよもう……俺……ジェイソンでさ……)
風貌通りのことをすればいいのだ。何か策を練って巧みに誰かを死に導けばいいのだ。
まずは【K】を集めなければ。鈴木は1個しか持っていないのだ。
ゆっくりとホッケーのマスクを外した。この1時間だけは、ただの鈴木に戻ろう。1時間
たち、上手く生き残ることが出来たら、再びマスクをしてジェイソンに戻ろう。そしても
し、自分が生き残れないのなら、少なくとも他の誰かを道連れに。
少しでも多くの誰かを道連れに。
「健太!しっかりせい!歩くんや!あと1つ見つけたらええ!」
北川(KITAGAWA HIROTOSHI)は、涙を拭っている阿部健太(ABE KENTA)を励ました。
「はい……!」
「打線がいてまえ打線やったら、ピッチャーにもいてまえ根性あるやろ!気合入れい!」
「は、はいっ!!」
しゃくりあげながらも、必死に前を向こうとした。しかし恐慌状態が続いていたせいか、
脚の震えが止まらない。北川の手を借りて屈伸運動を何度もした。小さなジャンプを繰り
返した。その場で駆け足をする。それらを何度も繰り返して、ようやく徐々に感覚が自分
のものに戻ってきた。
「真っ暗やからな、誰かがおってもお互い見つけにくいやろから、小さく声出して行くで」
「はいっ」
「……大丈夫か?」
心配そうな顔で北川が健太を見る。
「はい、もう……もう、大丈夫です!」
シャキッと健太が立ち上がって見せる。北川はそんな様子を見上げ、いつもの笑顔を浮か
べた。みんながつられて微笑むような、あの笑顔を。
的山(MATOYAMA TETSUYA)は改めて鞄を整理すると、家のドアを開けた。
敷居を跨ごうとして躓いた。
(てっ………縁起悪いな)
爪先で地面をトントンと叩く。的山なりの厄落とし。ベテランらしく、あくまでも冷静に。
(さて………嘘でもいいから仲間探しだな)
まだ手榴弾の出番は無さそうだ。
「ど、どうしましょう!」
「どうしましょうって……【K】が足りないなら探すしかないだろ」
慌てふためく大西(OHNISHI HIROAKI)とは逆に、まだ萩原(HAGIWARA JUN)はぼんやりし
ていた。右手は絶え間なく子猫の頭を撫でている。
「お前はいいだろ、少なくとも【K】が1個あるんだし。俺はひとつも無いんだぞ」
「じゃあ、あと2つを探さなきゃいけないんですよね?!」
「2つとは限らんな………そこに隠れてるの、出て来い」
萩原の声に体を震わせたのは、木陰にいた大久保(OHKUBO MASANOBU)だった。
慌てて辺りを見回したが、自分以外に誰かがいそうな気配も無い。
「おい、いい加減出て来い。お前だって今の放送聞いて困ってるんだろ?」
その通りだった。大久保は火炎放射器のノズルの先を下に向けると2人の前へ歩み出た。
「大久保さん!」
「……お前か」
萩原が興味なさげに呟く。
「オギさん、いつから気づいてたんです?」
「俺が気づいたわけじゃない。こいつが先に気づいたんだ」
萩原は腕の中の子猫を見つめた。
「何か仕掛けてくるんならそれなりの対応をしようと思ったんだが、何もしないしな。放
っておいた。で、お前は【K】持ってるか?」
「……1つ持ってます」
大西がガックリと肩の力を落す。
「守護神様がすごい武器をお持ちのようだ。とりあえず歩こう」
奇妙な3人組のチームが出来た。萩原は癖なのか、首輪の内側に手をやった。
(大丈夫……俺は勝てる……)
そっと田中彰(TANAKA AKIRA)は心の中で呟いた。すでに実践済み。あの中村を倒したの
だ。1対1の何の卑怯な手も使わない決闘で。今持っている武器はヌンチャクだが、それ
でも自信はあった。上手く頭を使えば勝てるのだ。追いつめられた時、人間は最大限、い
やそれ以上の力を発揮できるのだ。それを体感した田中にはもう恐いものはなかった。そ
の自信は狂気の沙汰であったが、間違いなく田中を生かしているパワーだった。
(【K】があと1個……誰でもいいさ、俺の手助けしてくれるなら)
助けてくれたその後に。
(消えてもらうけどね)
ククッと喉の奥で笑った。そして、不思議と穏やかな表情を浮かべた。
「………一端休戦協定だな」
後藤(GOTOH MITSUTAKA)が話しかける。平野佳寿(HIRANO YOSHIHISA)も黙ってうな
ずいた。その表情は確かに不安が浮かんでいた。
「俺は【K】が1つある。お前は?」
「………ゼロです」
「じゃあどっちにしろ仲間探しだな」
後藤は軽く伸びをすると、平野の左肩を叩いた。その表情は相変わらずのニヤケ顔だ。
「………よくそんな余裕ありますよね」
「何が」
「仲間になってくれる人が見つかるかどうかもわからないのに。見つかったとしても襲わ
れたらどうするんです?信用出来るんですか?」
もっともな平野の問いかけに、後藤は両手を腰に当てて笑った。
「余計な心配すんな。みんな同じ考えで怯えてるだろうさ。でもな」
後藤は平野の腕を掴み、軽く走りだした。
「うわっ!」
「俺はいつでも友達募集中だ!」
アンバランスな2人もようやくスタートを切った。
【残り・28人】
「おーい」
「誰かいますかー」
小声ながら、誰かを探す声。3個の懐中電灯の灯りが揺れる。
「【K】あと2個ありませんかー」
緑の木々の間を歩くのは不利だと考え、市街地を彷徨った。ここなら木に遮られることな
く灯りが遠くまで届き、視界もいい。高木にとってはジェイソンの悪夢があるが、今はそ
んなことを言ってはいられない。運良く山口に再会出来ればとも考えていた。
すべては【K】の為。
光原も金子とはぐれた記憶のある場所だった。けれど、進まなければならなかった。
(金子がいたら【K】が2個あってグループ成立だったのに……)
後悔しても始まらないとはわかっていても、静かな闇の中では考えてしまう。
「誰かー」
下山は白旗を掲げ、首輪探知機を片手に先頭を歩いていた。探知機を持っているのなら
声を出す必要は無い。だが3人で相談した結果、声を出していた方が緊張感が解ける、
体がほぐれるという根拠のない理由を採用した。どこかの誰かがこちらを見つける目安に
もなるだろう。このメンバーの最年長、自分の気持ちが折れてはいけないと下山は自分に
言い聞かせ続けた。修羅場をくぐった。幸運が重なった。その可能性を信じている。信じな
ければ足は前に進まない。情けないとは思うが、一番大事なことだった。
ガサリ。
小さな音がした。3人の足が止まる。
「だ、誰かいますか?」
光原がそれまでよりもやや大きな声を出した。下山はすぐに首輪探知機を操作する。探知
ランプは点かない。ランプはここにある3つだけだ。
「誰ですか?こっちは下山、光原、高木です。【K】はひとつ」
返事は無い。だが再びガサリと音がした。小さな何かを引きずっている音だ。まだランプ
は現れない。ならば首輪を持たない存在か。………監督?
「こっちは戦う気はありません!このトラップを乗り越える為に協力しましょう!」
必死の思いで声をかけた。またガサリという音がし、照らす灯りの中に黒い影が現れた。
「え……?」
それは1匹の猿だった。パンの入った袋をガサガサと引きずっている。
「なんだよ、もう……」
「びっくりさせんなよ……」
安心したような、ガッカリしたような、中途半端な気持ちになる。
「猿のくせに驚かすなよ!」
思わず高木が大声を出すと、猿は全身をビクリと震わせ、ポトリとパンの袋を落として走
り去ってしまった。
「高木ー」
「猿に罪はないー」
「可哀想ー」
2人から責められ、高木は頭を掻いた。
「別に……いじめるつもりはなかったんですけど……」
残されたパンに歩み寄る。袋を手に取り、よく見た。マジックのようなもので文字が書か
れていたからだ。
「15?」
乱暴な文字で書かれていたのは数字の「15」。そして「加ト」の2文字。
「……加藤大輔か?」
横から下山が覗き込む。
「猿がこのパンを持ってたってことは………」
「大輔に何かあったんじゃあ……」
光原が心配そうな表情をした。
「まさか猿に襲われて……」
「ミツさん、いくらなんでもそれはないでしょう。いくら加藤さんだからって」
「いや、大輔のことだ……しかも自分のパンに名前書いておくぐらい、あいつは食い意地
はってるからな……大丈夫かな……」
自分たちよりも他人の心配をしてしまう。そんな状況に下山はそっと笑った。
(大丈夫だ。俺達は自分を見失ってはいない。まだ心をちゃんと持ってる)
姿勢を再確認するように、白旗を肩に担いだ。
1時間以内に2つの【K】を見つけなければ、3人の命は無い。
【残り・28人】
今回は以上です。
職人さん乙です!
みんなキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!!
全員顔見せ登場って、それだけでもわくわくしてしまうシーンだなあ。
ユウキ災難だけど超がんがれ。
投下乙です!
うわああはらはらする・・・!
職人さん乙です。
盛り上がる展開キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!!
今回のトラップはすごく面白そう。宮内グッジョブww
あとどうでもいいことだが今回の話が投下されるまで
ずっと大久保の下の名前は「かつのぶ」だと思ってたw
☆
そこらのバトロワとは一味も二味も違いますな。ハラハラする。
つ【それぞれのバトロワにそれぞれの味】
ちょwwww歌さん猿をすっかり手なづけスギスwwww
なんか1時間たったら一気に死者が増えそうだな・・・ガクブル
☆
職人さん、いつも楽しく見させてもらってます。
最近このスレを知ったんですが面白くてログ一気に読んでしまいました
個人的にはWカトー組がオイシイwなんかなごまされますw
あと川越さんと本やん、どうなってしまうのか…
これ以上殺さないでくれ…!と思いつつ
またムチ使ってるとこ見たいという思いも捨てられずw
まだまだ先はありますがこれからも頑張ってください、応援しています!
ところで職人さんはオリファンですか?
いや、ところどころ気になるところがあったから…
保守
385 :
すさ:2007/02/06(火) 05:48:14 ID:qrvsqUzG0
優コリンズ
386 :
ぬな ◆VRIy0lcruQ :2007/02/06(火) 05:49:22 ID:ejDajkyQ0
コリンズ星からきますた
まだかなー明日かなー
ほす。
保守
「リプシー、聞こえるかい?」
ネッピーが通信機を使って連絡を取っている。日高は地図を見ながら、地面に横たわって
いる菊地原を横目で見つめていた。
【K】は2人で4つ持っている。1つ余分だとしたら、すぐに策を講じなければならない。
その上菊地原はいまだに意識不明で動けない状況にある。言い方を変えれば、見事な
までの「お荷物」、余分な存在だ。
(あと2つ見つなきゃ……)
見つかるだろうか。
「うん、そうなんだ。だから菊地原さんを抱えて僕たちも動くから、もし【K】を2個持
ってる人がいたら教えて欲しいんだ。すぐ合流したい」
『………わかったわ』
まるで躊躇っているようなしばしの間があって、ネッピーのヘッドフォンからリプシーの
声が聞こえた。どうしたのだろう。
(無理もないか。こんな状況を突然知らされたんだ。女の子じゃショックすぎるだろうよ。
俺たちですらこうなんだ)
日高は水で塗らしたタオルを改めて菊地原の首の後ろに当てた。その体はまだ熱を持って
いて、とても安心出来る状況ではなかった。
「菊さん」
返事は無い。
「菊さん、しっかりして下さい」
軽く頬を叩く。無意識だろう、菊地原が小さく身じろぎをした。
「ネッピー」
「はい」
「とにかく移動しよう。誰かを見つけないと。ちょっと手伝ってくれ」
菊地原を背負う為に、自分の鞄をネッピーへと差し出した。ネッピーはそれを受け取り、
菊地原の体がキチンと日高の背に乗るように手伝った。そして地図と磁石、懐中電灯を持
ち、方向を調べた。
「比較的島の端にいるから、中央寄りに行ってみます?」
「そうだな、その方が誰かに会えるかな……」
「声を出してればきっと誰かに聞こえますよ。諦めずに行きましょう!」
「そうだな……」
首輪が妙に苦しく感じた。それでも歩かなければならなかった。時間は1時間を切ってい
る。とにかく仲間を見つけることが先決だった。
『………ーい』
どこかで誰かの声が聞こえた。言葉もわからない、遙か遠くからの声。闇の中、遠くの方
でチラリと揺れる光も見える。それぞれがそれぞれの方法でグループを成立させようとし
ているのだ。気づくと日高の掌にはじっとりと汗が滲んでいた。これは罰なのだろうか。
ずっと櫓の上で隠れていた罰。
(そんなわけあるか。俺は櫓から見えるあの光を調べたくて……)
そうだ。あの光のことを誰かに話すべきなのだ。そしてあの光の見える島、建物に向かっ
て助けを求めるのだ。そうすれば生き残っている選手全員で脱出出来る可能性もある。
この1時間が終わるまでは、全員が仲間になれるはずだ。
この1時間が終わったら、どうなるかはわからないが。
(大丈夫だ。グループになった仲間同士で協力して、脱出方法を考えればいいんだ。大丈
夫だ、みんな分別ある大人なんだから!)
その分別ある大人なはずの香月が、日高をあの櫓に閉じ込めた。香月は言っていた。
命拾いという言葉を使った。元ブルーウェーブの選手を消すと言った。
今もまだ、その考えは変わらないのだろうか。
日高は小さく頭を振り、大きく息を吸い込んだ。
「誰かいないかー!」
続けてネッピーも叫んだ。
「誰かいませんかー!【K】をあと2つ探してますー!」」
「こっちは日高と菊池原さんですー!菊さんが動けませんー!」
「ネッピーもいますー!助けに来たんですー!」
手探りで、必死の叫びは続く。
【残り・28人】
リプシーは迷っていた。
ネッピーからの連絡を聞いた。【K】を2つ持つ選手を見つけたら教えて欲しい。合流した
いという内容。日高と菊地原のコンビをグループとして成立させる為だ。
しかし、リプシーは迷っていた。
(あの方の持つ【K】は1個。私も【K】を2つ探している……)
もし【K】を2つ持つ選手に出会ったら、自分はどうするだろう。
素直にネッピーに連絡を取ってその選手を案内するだろうか。それともその選手を連れて、
あの人を探すだろうか。時間はまだ1時間近くある。余裕のある間はまだネッピーには連
絡せず、その選手と一緒にあの人を探す方法もあるのだ。
選手たちを救いたいのか。
あの人を救いたいのか。
走りながら、リプシーは迷っていた。
低木が道を遮るように横たわっている。懐中電灯がなければ躓いて派手に転んでいただろ
う。リプシーは軽やかにそれを飛び越えた。翻ったミニスカートが枝に引っかかり、その
動きを遮った。
「きゃっ」
慌ててスカートを枝から外した。
「誰だ?」
どこかから声が聞こえた。暗い緑の林の中。リプシーの体は小さく震えた。
「だ、誰ですか?リプシーです!助けに来たんです!」
「………リプシー?マジか?」
声がやや大きくなった。ガサガサと人が近づいてくる音がする。リプシーはその場に立ち
止まり、音のする方向を見つめていた。声で、あの人ではないことがわかっていた。けれ
どこれから現れる選手が【K】をいくつ持っているか、それが問題だった。
「うお!いた!」
「吉井さん!」
リプシーは思わず駆け寄った。頼れるベテランが現れたのだ。この人ならきっと選手たち
を上手くまとめて導いてくれるに違いない。
「リプシー、どうしてここに?」
「大島コーチとネッピーと協力して……ネッピーもこの島にいるんです。ちょっと待って
下さいね、すぐ連絡取りますから」
通信機に手を当てる。そして尋ねた。
「吉井さん、【K】はいくつ?」
吉井は困ったような笑顔を浮かべた。
「ゼロ。絶体絶命。困ってるんだ」
「そ、そうですか……」
リプシーは曖昧なため息をついた。少なくとも迷う必要は無い。素直にネッピーへの呼び
出しをかける。
「ネッピーの方には日高さんと菊地原さんがいるんです。【K】が4つあるので、あと2個
探しているところなんです」
「数量オーバーはダメなのか?」
「わかりません。でも念には念を入れた方がいいと思って」
「そうか……俺にしたって誰かと一緒じゃなきゃ意味がないからな。小判鮫だ」
「ひとまずネッピーたちと合流した方がいいと思います。1人でいるよりは、もし数量オ
ーバーでもOKだったら助かりますし」
「そうだな、俺も仲間に入れてくれって連絡頼む。害にも益にもならんけどな」
「はい!」
吉井の冗談めかした言葉にリプシーも笑顔で答えた。やはりひとりぼっちよりは2人の方
がいい。
「ネッピー?聞こえる?ネッピー?」
リプシーがマイクに向かって喋っている。吉井は腕を組むと渋い表情をした。
(そうか、日高と菊地原がそれぞれ【K】を2つずつ……どっちを消しても3にはならん
な。2人共生かしておいても1人消しても状況は変わらない、か)
その後、誰かに遭遇すればまた状況は変わるだろう。
(その時に考えればいいことか)
ベルトに挟んである消音銃に手をやった。自分に力を与えてくれる不思議なもの。
「リプシー」
「はい。……ちょっと待ってネッピー」
マイクの向こう側にいるネッピーに会話の中断を告げてリプシーが振り向いた。
「ネッピーに、今の居場所と目印になるものとか聞いてくれ。俺1人で奴らの所に合流し
に行くから」
「え?」
リプシーが元々大きな目をより一層大きく見開いた。
「俺は1人で大丈夫だ。リプシーにはむしろ走り回ってもらって、メンバーを上手く集め
て欲しいんだ。お嬢さんは首輪を持っていないんだからね。選手達の力になって欲しい」
「は、はい!……もしもし、ネッピー?」
リプシーは切実な表情でその旨を伝え始めた。だがどこか嬉しそうにも見えた。
(さすがに女の子と一緒じゃ、誰かを消す場面を作れないんでね)
単独行動の方が遥かに気が楽だ。
(俺は【K】を持っていない。誰にとっても、いてもいなくても構わない存在だ。だが逆
に透明人間を殺すような道楽者がいるかもしれない)
【K】を持つ選手たちにとっては、今まで程は敵を意識する必要の無い1時間。しかし【K】
を持たない選手にとっては愉快犯を意識しなければならない1時間。存在価値のない人間
は、戦意のある人物に取っては格好の獲物だ。1時間後、再び始まる殺し合いを楽にする
為に頭数を減らしておこうという余裕のある敵はいるのだろうか。
(俺は、あっけなく人を殺した)
スタート地点付近、最初の日。武器が本物かどうかも確信が無かった。離れた場所から撃
って、敵に命中させる自信もなかった。だから自分から近寄ってきた山本を撃った。山本
はあっけなく倒れた。武器は本物だった。今まで生活していた日常では起こり得ないよう
なことが、簡単に起こった。その時以来、吉井は奇妙な余裕の中にいた。これが数々の修
羅場を潜り抜けた野球人生の経験、結果なのだろうか。
(とりあえず、透明人間のピンチタイム)
リプシーが一緒にいては、敵と戦えない。いや、敵を殺せない。
「吉井さん」
リプシーの呼びかけに、吉井は福々しい笑顔で振り向いた。
「じゃあ、私は行きます。この辺、海辺の櫓の近くに日高さんたちはいるそうです。この
丸印の辺り……お気をつけて」
吉井の地図に印を書き込むと、ペコリと頭を下げた。ひとつにまとめた長い髪が揺れた。
「ああ、気をつけて」
「吉井さんも。……ありがとうございます」
何故かお礼を言われた。リプシーはフワリと風に舞い上がるように後ろを向くと、元気に
闇の中へと走り去って行った。
「………さて」
再び消音銃に手をやる。笑顔が消えた。
(行くか。【K】の無い奴らと会えると面白いけどな)
透明人間はしたたかに闇を見つめた。
【残り・28人】
『Cafe Bs』では、相川が自分で作った豆乳ラテを飲んでいた。リクエストされて、同時に
外人選手たちの分も作った。みんな暇そうにそれぞれの席に落ち着いている。暢気に会話
している者もいる。時折陽気そうな笑い声が聞こえるのは、やはり外人だからだろうか。
(やっぱ外人さんってわかんね)
ガルシアやブランボーが相川の為に片言の日本語で何事か話しかけてくれるのだが、その
輪の中に入る気にはなれかった。
今でも脳裏に焼きついている中村の死体。そして自分の入れた毒で殺した……
ダン!
思わずカウンターを拳で叩いた。驚いた外人勢の会話が一瞬止まる。
仕方なかったのだ。そうしなければ自分がこのゲームに放り込まれるのだ。自分が死ね
ば、サーパスから、若手から、代わりがこの役目として送り込まれてくる。
これ以上、無意味な死を増やしたくはない。
(俺は……俺に出来ることを……精一杯やってる………)
外人勢の会話は再び元の調子を取り戻している。
誰か、早く気づいてはくれないだろうか。
相川が残したヒントに。
このカフェに入る前、このゲームが始まる前に、見学と称して島の中を軽く見せてもらっ
た。図書館、学校、民家、一部の地域を見せてもらった。その時、誰にも気づかれないよ
うにヒントを残してきた。そのヒントに気づく選手は現れるだろうか。ヒントを理解して
くれれば、脱出方法のキッカケが見つかるはずだ。方法自体は相川にもわかってはいなか
ったが、少なくともキッカケにはなる。そう信じた。
(誰か………早く気づいてくれ………そして俺を助けてくれ………)
【残り・28人】
今回は以上です。
乙です!
良太…なんかせつないなぁ…
しかしこのトラップはドキドキする
乙です。
相川だったのか!
本当に、一筋縄ではいかないキャラになってきたなあ……面白い!
━━でも、シリアスなくせして猿とかマーマレードとか、おまいさんのヒントはわかりにくいよ相川ww
>>399 まあ、分かりやすかったら宮内とかに勘付かれるかも知れんから仕方ないだろw
保守
hosyu
保守
ほす
保守
1イチロー
2大島
以下強豪だったころオリックス打線。
続き期待保守
408 :
代打名無し@実況は実況板で:2007/02/14(水) 09:46:34 ID:oQE3ca5n0
スレ最底辺だから…
「おーい!」
自分が叫ぶたびに、どこかから返事が聞こえるような気がする。それは空耳かもしれない
し、木の葉が風に揺れる音や虫の鳴き声、鳥のさえずりをそう思っているだけかもしれな
い。けれど声を出し続けなければならなかった。確実な返事を求める為に。共に生きられ
る誰かと合流する為に。自分の為に。
「誰かいないかー!」
阿部真宏は常に声を出していた。しばらく走り、一端止まってから誰かを呼ぶ。返事が無
ければまた走り出す。その繰り返し。まだ始めて5分とたってはいない。
(夜にこんなトラップを起こすってのがまた悪趣味なんだよ)
昼間だったらもっと展開も変わっていたに違いない。視界が開けるだけで精神的にも随分
違う。だが実際は闇に包まれ、懐中電灯の灯りと声だけが頼り。数メートル先しか見えな
い世界。
生温かい風が頬を撫でる。自然に囲まれた新鮮な空気。本来なら深呼吸をして心身共に
ゆったり出来るようなローケーション。場所によっては打ち寄せる波の音だって楽しめる。
けれど今、この島を包んでいるのは死への圧迫感だった。血の匂い。どこかで漂う硝煙。
爆発音。目に見えるものだけを信じてはいけない。音や匂いにまで注意して、現状判断を
しなければならない。
こんなに切羽詰った気分になったのはいつ以来だろう。
(初めて。命がかかってんだ)
心の何処かに冷静な自分がいる。客観的に自分を見ている。寝ている自分を見下ろす夢
を見るように。ただし、この夢は当分の間、醒めそうもない。何かキッカケが無い限り。
(嫁さんが叩き起こしてくれないかな)
そうすればこの悪夢も終わるのかもしれない。
(またはベッドから転げ落ちて)
今時マンガのギャグにもならない。
使い方もよくわからないまま、右手に握っているスタンガン。これで相手に高圧電流を流
すという。こんなちっぽけな機械が人を殺す手助けをしてくれるという。まだスイッチを
入れたことはない。武器が恐いのではない。現実になるのが恐いのだ。そして不安なのだ。
いつか何かに心が負けて、この状況を受け入れてしまう自分が恐ろしいのだ。
阿部にとっては最後の抵抗かもしれなかった。この世界を事実にしない為の抵抗。悪あが
きとでも言うのだろうか。それでも阿部はスイッチを入れなかった。この後ずっと入れず
に済めばいいと思っている。全てを認めない為に。
(ペーさん……ペーさんに会えれば、何か作戦とか立てられるかもしれない)
長年の信頼があった。絶対敵にはならないであろう人。誰の敵にもならないであろう人。
(あとは……川越さんあたりか。あの人だって、人を殺すなんてこと出来ないはずだ)
2人に共通するのは笑顔。いつもニコニコしている。試合中の真剣な表情を何度も見てい
るのに、思い出すのは不思議と笑顔だ。この2人のことを嫌いな人なんていないだろう、
と以前後藤と話したことがあった。
『ゴッさんの場合はニヤニヤだけど、ペーさんたちはニコニコなんだ』
『何それ?阿部ちゃん俺のことバカにしてんの?』
『俺は素直な印象を言っただけ』
球場の食堂で笑った日々がとても遠く感じる。
走っている足を止めた。
「誰かいないかー!」
阿部はスイッチを入れない。
再び走り出す。
(絶対に……諦めちゃ……ダメだ!)
また立ち止まり、声を出した。
「誰かいないかー!」
『誰だ!』
返事が聞こえた。木々の向こう。まだ遠くからではあったが、その聞き慣れた声に弾かれ
て阿部は顔を上げた。真っ黒な木々の間から、濃紺色の空と星が見えた。
「阿部です!阿部真宏!」
『阿部か!』
「水さん!!」
間違いない。それは水口の声だった。阿部が確かに信じられる存在の1人。
『他にはいるか?!』
「俺だけです!水さんは?」
『こっちも1人だ!……アルファベットの【K】もゼロだ!』
「俺もです!ゼロ!」
『じゃあ会えば2個になるな!』
「はい!」
希望が湧いた。【K】を持たない者同士が3人集まればグループ成立だ。または2人揃って
どこかのグループに合流すれば大丈夫。少なくとも一緒に行動出来る仲間が見つかった。
「水さん!そっち行きます!」
『俺も行く!声出していこう!』
「はい!」
夢は醒める。必ず醒めるのだ。阿部は木々の奥へと踏み込んだ。
『阿部―!大丈夫かー!』
「はい!水さんこそ!」
『また人のことを年寄り扱いか!』
笑いながら答える声。誰かの声、誰かと喋るという行為がこんなに楽しいものだとは思わ
なかった。やっと仲間が出来る。ガサガサと遠くで葉を揺らす音がする。水口がこちらに
やって来ている音だ。着実に2人の距離は縮まっていた。
『他に【K】の無い奴って何人くらいいるんだ?』
水口が問いかける。
「えっと……地図の一覧表見ないとわかりません!」
『合流したら数えるぞ!』
ガサッ、ガサッと葉を蹴散らす音。引っかかって揺れた枝がしなる音。
(まだか?まだ会えないのか?)
徐々に焦りを感じ始めていた。声を頼りに歩いているのはいいが、方向を間違っていやし
ないだろうか。音が反響したりして、自分は間違った方へと歩いているのではないか?
(そんなはずない!実際葉っぱの揺れる音が近くなってる!)
それでも暗闇は阿部を不安にさせた。自分の息遣いが妙に大きく聞こえた。
「ねえ、水さ……」
言いかけた時、向こうから一瞬の呻き声が聞こえた。
『うあっ!』
その音が何の音なのかわからなかった。少しして人の声なのだとわかった。
「……み、水さん?!」
返事は無い。
「水さん?!水さん!どうしたんですか!」
ただ静けさだけが残っている。
「返事して下さい!!」
『………げろ……っ!』
「え?」
『………逃げろおっ!!』
「水さん?!」
『逃げろ!!逃げろっ!!』
ガサリ、葉が揺れる音。
「水さん!何が……!!」
『いいから……逃げろっ!!』
水口に何かあったことだけは確かだった。敵に遭ったと考える方が正しい。阿部はうろた
えた。水口を残して逃げることなんて出来ない。そんな卑怯者にはなりたくない。けれど
足が動かない。前川と会った時はまだ敵の姿が見えていた。けれど今は暗闇の中。本当の
恐怖に接した時、人は無力になる。体がピクリとも動かないのだ。ただ口の端がピクピク
と痙攣するように震えた。
『俺は……大丈夫だ!!だから逃げろこの野郎!!!』
それきり、音は消えた。葉を揺らす音も、草を踏む音も、人の声も、呻きも、叫びも、阿
部自身の息遣いも何も聞こえなくなった。
音が消えてしまっては手掛かりは無い。
「………水さん?」
急に不安に襲われ、小声で呼びかけた。やはり返事は無かった。
突然の独りぼっち。全てから遮断された気がした。
どうすることも出来ないまま、阿部はただ呆然とその場に立ち尽くしていた。
悪夢はまだ醒めない。
【残り・28人】
「見ろ、数字のランプが動き始めたぞ」
実に愉快といった様子で宮内がパソコン画面を見ながら、体を揺らして笑う。
「このトラップが一番効果があるかもしれんな。なあ中村君」
「はあ……」
島全体の地図。不規則に散らばっている選手の首輪所在地ランプは、背番号で表示され
ている。近くにいるのに離れて行こうとしたり、逆に近づきつつあるものもいる。
「15と12が動かんな」
「加藤と歌藤、えっと、ウタフジですね」
「出来てるのか」
「ええ、カトウダイスケとカトウタツオ。【K】が3つでグループ成立です」
「ふむ……じゃあ動く必要無しか。運がいいな。……ここも動かん。11と34」
「川越英隆と本柳和也です。ここも3つ」
「運がいいな……ピッチャーばかりか」
「そうですね。後は大体ウロウロしているようです」
中村の説明を受けて、宮内は口元を歪めて笑うと画面に顔を近づけた。そうすれば選手た
ちの表情までが見えると思わせるような仕草だった。
「おや、ここが接触した」
皺の増えた指で宮内が指差す。
そこには数字の7があった。もうひとつの数字は指の影になって中村には見えなかった。
「このトラップが一番大掛かりだとは思うんですが、これが終わったらどうするんです?」
「何がだね?」
「また元の殺し合いになっても、時間までに人数が減るんでしょうか?ここまでこれだけ
ノンビリ進んできたようなメンバーですし……」
宮内は余裕の表情で中村を見ている。それは中村にますます嫌な印象を与えた。
「そのですね……うちの選手たちをあえてグループにするっていうのは危険だと思うんで
す。わざとグループを作らせてしまったら、その、彼らはオーナーに対してですね……」
「特別憎まれていることぐらいわかっている」
その余裕は揺らぐことがなかった。
「特に元近鉄の連中にはな。だから、あいつを野放しにしてあるんだ」
「………は?」
宮内は椅子から立ち上がると、窓のカーテンを少しだけ開けた。
「実に私に忠実な飼い犬だ」
「………相川と外人チームですか?」
「いや」
「………サーパス組ですか?」
「いや」
カーテンを閉め、再び椅子に座る。パソコン画面を横目で見つめた。
「私に感謝している奴だ。いや、オリックスというチームに感謝している奴と言おうか」
意味がわからず困った表情をしている中村を尻目に、宮内は楽しそうに笑った。
「まだまだ楽しいトラップが沢山あるんだ。時間までにキチンと殺し合いをしてもらわな
いとな」
画面上の数字がゆっくりと移動してゆく。
中村には数字が滲みゆくようにも見えた。目が疲れているのだろうか。
それらの数字は生きていた。確かに生きて、迷路の出口を探し、動いていた。
短くてすみません。今回は以上です。
エイエイなにがあったのエイエーイ!!!
新作乙です!
ぎゃぁー!エイエイー!
投下乙です!エイエイ・・・!無事でいて!
投下乙でした!!
栄二さん心配だよ、栄二さーん!!!
新作乙です。
エイエイー!!貴重なベテランで(たぶん)ゲームに乗ってない人なのにー!
宮内の「忠実な飼い犬」が誰なのかも気になる・・・。
ほしゅ
保守
捕手
hosyu
ほす
ほしゅ
ほ
今週は投下なし?
職人さんが忙しいのかな
週1で投下があるなんて贅沢に慣れたらいかんぞw
The Hoshu
猿と手を繋ぎつつ保守。
>サーパス組ですか?
の一言が激しく気になる…
もしかしてサーパス組もこれから強制参加とかあるかもなのかな?
といいつつサパ組前田で捕手。
どーでもいいんだけど、俺の名前にはKが4つある…
>>434 今から一時間以内に結婚宣言あるいは、養子縁組み。
腰の辺りの高さまで伸びている細い低木群。その中に身を潜め、水口はじっとしていた。
右肩が痛い。血液の流れと一緒にドクドクと痛みが走る。暗くて見えはしないが恐らく右
肩は真っ赤な血に染まっているのだろう。肌の上を伝う何かがそれを教えてくれる。
今もまだ、あの一瞬の痛みを鮮明に思い出すことが出来る。
声を出し合っていた。阿部との対話を続けながら、互いのいる場所へと少しずつ近づいて
いた。希望の光だった。【K】をひとつも持っていない2人、近鉄時代からの仲間、声だけ
でも再会出来たことが勇気づけてくれていた。少なくとも信じられる人物だった。
その期待と安堵が水口の警戒心を少しだけ緩めてしまったのだろう。突然背後からの痛み
が襲った。右肩。ちょうど座禅を組んだ時に叩かれる辺り。一瞬の激痛。反射的に体を逃
がし、振り返った。木々の隙間から差し込む月明かり。逆光でシルエットになった男の姿。
そして両手に握られた細長いものがギラリと光り、その存在を水口に主張した。
『………逃げろっ!』
咄嗟に叫んでいた。それは自分への言葉なのか、ここへやって来ようとする阿部への警告
なのか、わからない。恐らくその両方だったと思う。
繰り返し叫んだ。前のめりになりながら、その場から逃げた。敵が追って来ているのかも
わからないまま、ただ阿部への警告を発しながら逃げた。そしてはたと気づき、途中で声
を出すのをやめた。阿部の性格だ。水口を置いては逃げないだろう。きっと声のする方へ
とやって来る、いや、駆けつけてくるだろう。そう思った。だから声を出すのを止めた。
苦痛の呻きが漏れそうな口を堅く閉ざし、歯を食いしばり息を潜めた。
今はただ、あの月夜に光る武器を持つ敵をやり過ごさなければならない。この暗闇の中を
走って逃げるより、身を隠すことを選んだ。道も曖昧、地図も見られないまま逃げること
は危険過ぎた。
(阿部!逃げろよ!)
このトラップタイムが開始されてから何分たっただろう。スタート時刻は腕時計で確認し
ている。腕時計を見たかったが、今ここで灯りをつけることは危険だった。
(畜生!)
あの武器は何だったのだろう。見た目、そして体で受けた感覚からすると刀か剣だ。長く
鋭い刃物だった。思い出してもゾクリとする。あの武器を手に入れた誰かがこのゲームに
乗った。信じたくはないが、チームメイトの1人が、他の選手たちを殺す決意を固めた。
(どうして……そんなことが出来る?!)
仲間なのだ。勝利を目指して一緒に戦う同志なのだ。なのに。
そして思い出す。『Cafe Bs』で見た、中村と田中の決闘。
怯えきっていて、圧倒的に不利と思われた田中の勝利。
決闘部屋を出てきた田中は、表情が今までと全く違っていた。何かに魅入られたような、
余裕を持ったような、自信を得たような、不敵な笑みを浮かべていた。田中は刃物は持っ
ていないはずだ。そして自分を襲った男の影とは体型が違うと思う。この敵も田中と同じ
ような修羅場を潜って、何かが変わってしまったのだろうか。
(そうだ、あそこに戻ればまた何かわかるかもしれない……傷の手当ても……)
1日に1時間しかあの店の中には入れない。水口は数十分の余裕を残して店を出た。まだ
訪れることが出来る。
(いや、それよりまず【K】探しだ。今の目的を忘れるな。それが終わったらあの店に戻
ればいい)
まずは仲間を見つけなければ。
『水さん!』
声が聞こえた。阿部だ。
(バカ野郎!逃げろってあれほど言ったのに!)
歯軋りをする。
『水さん!どこですか!』
可愛い後輩だが、時として向こう見ずな面を見せる。普段は穏やかな顔つきをしているが、
言い出したら聞かない頑固者だ。
(阿部をひっ掴まえて止めるか、それとも敵をこっちにおびき寄せるか……!)
どちらかを選ばなければならない。いや、選ばなくてもよいのだ。このまま黙って木々の
間に隠れていればいい。きっと敵は阿部の声に導かれてそちらへ向かって行くに違いな
い。だが水口にはそれが出来なかった。危険に晒された水口を心配して、その危険を顧み
ず名前を呼び続ける阿部と同じことだ。阿部に迫り来る危険を水口も見過ごすことは出来ない。
(畜生!)
ひとりごちる。
(俺もあいつも大馬鹿だ!)
勢い良く立ち上がろうとした。
「う……っ!」
右肩がズキンと痛んだ。その痛みは予想以上で、背中を伝い落ちている血のぬめりも改め
て感じ取れた。湿った布が擦れる感覚に鳥肌が立つ。そして微かな眩暈。
(これは……本格的にヤバイのか?)
それでも行動しなければならなかった。水口は立ち上がり、懐中電灯を点け、自分の周囲
をぐるりと照らした。敵がこの灯りに気づくように。そして大きく息を吸った。
「阿部!逃げろ!」
『水さん!大丈夫ですか?!』
「俺は大丈夫だ!とにかく逃げろ!」
灯りを振りまくった。近くにいるであろう敵が気づいてくれるように。
『水さん?!この灯り、水さんですか?!』
「違う!俺じゃない!敵だ!」
とにかく阿部を遠くへ走らせなければ。
「逃げろ!俺は大丈夫だから逃げろ!『Cafe Bs』で会おう!市街地の端!丘の麓だ!俺も
すぐに行く!」
声を出し続けた。ここだ。俺はここにいる。敵が寄って来るのを待っている。
水口の中で、ひとつの揺るぎない覚悟が生まれていた。
【残り・28人】
「水さん!」
声はするけれども姿は見えない。阿部は辺りを見回した。木々の間から時折チラリと灯り
が漏れるが、それは水口ではないという。では敵が?何の為に?
(目くらまし?)
考えながら、それでも水口の姿を探していた。間違いない。水口は敵に遭ったのだ。だか
ら阿部を遠くへ逃がそうとしているのだ。気持ちは有難いが、はいそうですかと乗る訳に
はいかなかった。
(俺ら、ずっと一緒にやってきたじゃないですか。俺、水さんからいろんなこと教わりま
した。だから……こんな所で……こんな………!)
時折見える灯りを頼りに歩いた。そこに敵がいるのかもしれない。けれど阿部は歩いた。
武器はスタンガン。握っている右手に汗が滲む。まだ一度も入れたことのないスイッチに
指で触れる。その瞬間が来たら、自分は………
小さく首を横に振った。
水口は『Cafe Bs』なる場所へ行けと言う。一体何なのだろう。カフェというくらいだから、
喫茶店なのだろうか。そこがいい隠れ家になるのだろうか。それともそこには仲間が?
(水さんの言葉なら信じられる)
そこに行こう。後から水口も来ると言った。約束してくれた。今はそれを信じるしかない。
(でも……)
やはり後味が悪い。水口を残して自分1人だけ逃げるのか。
(違う)
どこが違うのか。結果的には同じだ。もし水口が来なかったら……
(俺は一生後悔する)
生きていられればの話だが。
歩き出そうとして、また足が止まる。迷いが阿部を雁字搦めにする。心の方向が決まらな
い限り、阿部はどこへも動けない。
「水さん!」
救いを求めるように声を出したその時、視界の隅で何かが動いた。一瞬水口かと思ったが
間髪入れずに光る何かが振り上げられた。咄嗟に阿部は振り下ろされるそれを避けた。間
一髪、ガシッという鈍い音がしてその刀は地面を叩きつけ、短い緑の葉が小さく舞った。
「うわっ!」
転げ込むようにして木の後ろへ回った。重心を崩して倒れこむ。慌てて立ち上がり、突然
現れた敵の方を見た。長く鋭い刀を両手で握った人物がそこにいた。
「早川!!」
早川はこちらを向いていた。阿部の姿が見えているのか、それともいると思われる辺りを
見つめているのか。視点は定かではないが、早川の視界の中に阿部はいた。
(やばい……やばいっ……!)
逃げなければ。水口を襲ったのも早川なのだろうか。だとしたら水口もあの刀でやられた
のだろうか。水口の名を呼びたかった。だが声が出なかった。右手にスタンガンを握り締
めたまま、そのことを思い出す余裕もなく阿部は早川を見つめていた。
(逃げろ!逃げろ!逃げろ!)
水口の言葉をそのまま心の中で繰り返す。走り出すタイミングは?今すぐ背中を向けて駆
け出せばいい。だが体が動かない。
『阿部?!どうした!』
水口の声がした。阿部の体がビクンと揺れる。足が動き、小枝をパキンと踏み折ってしま
った。それが沈黙を破るキッカケとなった。早川が阿部の姿を認めた。阿部の背筋にサッ
と冷たいものが走る。風が吹いた。木々が揺れた。間から差し込む月の光も揺れた。
照らし出された早川の顔は笑っていた。陰影のはっきりした、どこか狂気をたたえた笑み
だった。
ギラリ、と長い刀が光った。
「う……うわあああああっ!」
もう何も考えられなかった。腹の底から搾り出すような悲鳴を上げ、走り出した。ただ前
へと逃げた。事前に見ていた地図を思い出し、禁止エリアの方向にだけは行かないように
気をつけながら。けれどそれがキチンと守られているのかどうか不安に思いながら。
とにかく今は後ろからやってくるかもしれない死から逃げたかった。
(水さん!!)
早川の笑みが脳裏を離れない。いや、むしろ早川よりも彼が持っている刀の方が気になっ
た。何故か奇妙なくらい、その刀に目を奪われた。まるで刀が自分を呼んでいるような錯
覚さえ覚えた。
何かに左足を取られ、勢いよく転んだ。鞄が自分の後頭部を打った。白いユニフォームに
土がつく。両手には泥。弾みで右手から離れたスタンガンがカツンと音を立てて石にぶつ
かり、暗闇の中へと消えた。
(やべっ!)
左手の懐中電灯は離さなかった。這いつくばるようにして地面を照らしながらそれを探し
た。激しく打った膝や体の痛みなど、気にする暇はなかった。
(急げ!早く…!どこだ!)
必死に地面を探す。黒い物体はすぐに見つかった。右手に握り締めると急いで立ち上が
る。後ろを振り返る余裕も無かった。また走り続けた。しばらく走り続けると、遊歩道のよう
な道に出た。ハイキングの散策コースだったらしく、「休憩小屋→500m」という看板が立
っていた。看板に指示されるまま、阿部は走った。
すると、道が2つに分かれた場所に来た。
一方の道は厳しそうな上り坂。もう一方は下り坂。その下には隠れられそうな小屋があっ
た。恐らくあれが休憩小屋なのだろう。微かに灯りが漏れている。そこに誰かがいるのだ
ろうか。
だが、その道を塞ぐようにして1匹の猿が暴れていた。
何かに取り憑かれたかのように、月灯りに照らされて、踊り狂うように暴れていた。
理由のわからない薄気味悪いものを感じ、阿部は坂道を上り始めた。
猿の足元には掌に乗るくらいの小さなオレンジ色のパックが落ちていた。ドロリと零れて
いるオレンジ色のもの。甘い香り。
マーマレード。
【残り・28人】
今回は以上です。インフルエンザって凄いんですね…orz
新作乙です。
インフルエンザですか!お体大切にしてくださいね。
猿よく出てくるなあ…
投下乙です!
阿部ちゃんもエイエイもがんがれ・・・
マーマレードと猿がすごい意味深だ
職人様、毎度乙です!
ノロにインフルエンザに大変ですね;お大事に!
乙です。
エイエーイ!!
乙です!
インフルエンザ((((((゚д゚;))))))…早く治してくださいね
乙です。
エイエイを襲ったのは千葉ヲタだったか・・・
阿部真は逃げ切れるのだろうか・・・
ほ
保守
日高捕手
ん?・・・
ん?・・・
454 :
【豚】 !:2007/03/01(木) 14:01:11 ID:iB+ZCqyI0
test
455 :
【大吉】 :2007/03/01(木) 14:02:08 ID:iB+ZCqyI0
test
ラッキーカードを握りしめつつ保守。
ほ
し
の
いきなりですがわたくし◆0Z3l12M4xMはネギまロワイアルスレにて
こちらのスレの内容の一部を盗作、掲載したことの指摘により
この場をお借りして謝罪させていただくことにしました。
勝手に掲載、使用したことをわびます。本当に申し訳ありませんでした。
>>460 こちらでわびられても困る。
ラウンジへ来て欲しい。
>>460 てか謝罪するならもっと誠意を見せて欲しい。
例えば盗作した「一部」は何章のどの部分なのかをはっきりさせるとか。
この程度の謝罪しか出来ないようならまだしないほうがマシ。
ここの住人や作者さんが一連の騒動を知らずにすんだかもしれないしさ。
(ラウンジの雑談所の方には何があっても顔を出せとは思うが)
作者の◆UKNMK1fJ2Yさんがこれで不貞腐れて投下を止めちゃわないかマジで心配だ。
ここのバトロワ毎回楽しみにしてるだけにどうか続けて欲しい。
464 :
代打名無し@実況は実況板で:2007/03/05(月) 00:38:05 ID:djQ2MbmmO
age
職人さん、今回の事はつらいし悔しいと思うけど、楽しみにしている住人がいます。
トラップタイムがどうなるのかとか、楽しみに待っています。
「……悪い、ちょっと限界」
そう言って歌藤が床に横になったのがつい数分前。
「悪い、5分だけ寝かせてくれ。5分たったら起こしてくれな」
そう言って、目を閉じた。
どうやらこの島に来てから歌藤はほとんど眠っていなかったようだ。平気そうなフリをし
ていてもどこか神経質。完全な眠りは得られなかったようだ。それは当然と言えば当然だ
ろう。しかも加藤が眠っている時間も起きていて見張り役を勤めていたらしい。
それに引き換え、加藤はぐっすり眠ることが出来ていた。気づかなかったとは言え、自分
はすっかり歌藤に甘えていた訳だ。
(俺、それだけ図太いってこと?)
腕時計を見た。トラップタイムが始まって、まだ10分程度しかたっていない。
歌藤が眠りに落ちると、すっかり歌藤に懐いていてそばを離れようとしなかった猿が立ち
上がり、出口のドアへと歩いていった。
加藤は別に引き止める必要も無いと思ったので、ただその行動を見つめていた。
(動物の勘は人間より鋭いっていうよな……まさか、何かヤバイことが近づいてるんじゃ
あ……俺らも逃げるべき?)
歌藤を起こそうかとも思った。けれどそんなことで起こしたら可哀相な気もする。まずな
により、猿はドアの前に立ったまま、それきり動こうとしないのだ。まるでドアの向こう
側の様子を伺っているように、聞き耳を立てているように、微動だにしない。
(何してんだろ)
加藤はため息をついた。加藤と歌藤の2人で【K】は3個ある。グループ成立だ。だから
これ以上下手に動かない方がいい。そう判断した。歌藤は仲間に会う為に動いた方がいい
と主張したのだが、結局動かないことに落ち着いた。
(歌さん、どうもアクティブすぎるんだよな)
長男気質なのか、加藤は見かけとは違って慎重に行動するタイプだった。歌藤は逆に末っ
子気質か思い立ったが吉日タイプ。すぐに動き出そうとする。普段はその正反対な部分が
2人を親しくさせ、周囲からも漫才コンビのように思われていた。
鞄の中を見る。食料は減ってきている。水も心配だ。鞄が軽くなるのはいいが、空腹には
勝てない。どこかで補給出来ないだろうか。
タタン。
小さな音がした。
トトン。
加藤は音のする方を見た。
タタン、トトン、タタン、トン、トン。
まるでステップを踏むかのように、ドアに向かって猿が踊っていた。
小さな足踏みが不規則なリズムを刻んでいる。
(………猿?)
どこか不気味な雰囲気を見せながら、猿はステップを踏む。
タタン、トン、タタタン、トン。
右足で軽く叩き、左足は心なしか強めに床を踏みつける。
(何やってんだ、エテ公のくせに)
猿はまだ奇妙な踊りを踊っている。
(………ま、いっか)
加藤は何気なく寝ている歌藤を見た。しっかりとマシンガンを抱きしめて寝ている。そろ
そろ起こしてもいい頃だろうか。もう5分はたっただろうか。
『俺さ、撃つかも』
昼間、歌藤が言った言葉を思い出した。
『もし敵だってハッキリわかる人が近くにいて、その人が俺たちに気づいてなくて、無防
備だったら、俺、撃つかも』
歌藤は戦えるのだ。必要に迫られたら、ゲームに乗る覚悟があるのだ。
『俺、その人のこと、撃つかも』
もし『その人』が加藤を指していたら?
もし最後の2人が加藤と歌藤になったら、歌藤は加藤に銃口を向けるだろうか。
歌藤は加藤を撃つだろうか。
(生き残れるのは、1人……)
残り時間はどんどん減ってゆく。
今この間にも、1時間の制限を設けられたトラップタイムの為に選手たちが走り回ってい
る。生き残る為の【K】という灯りを探して。
幸運にもグループを成立させることが出来た選手同士はその後どうするのだろう。そのま
ま手を携えて脱出方法を考えるのか。それとも互いに武器を向け合うのか。
誰を、何を信じればいいのか。
信じられるものなどあるのだろうか。この特異な状況下で。
『俺、撃つかも』
あの時の歌藤の言葉が頭を離れない。撃たれるのは自分かもしれない。
猿はまだこちらに背を向けて踊っている。
加藤はゆっくりと立ち上がった。ベルトから銃を抜き、微かに震える両手でそれを握る。
銃口を、寝ている歌藤へと向けた。
今から1時間がたち、トラップタイムが終了した後。
『撃つかも』
ひとつの言葉が呪文のように頭の中で回る。
(………俺、撃つかも)
銃口が定まる。
歌藤は微動だにせず、目を閉じている。
(………俺………)
右手の人差し指に力が入る。
猿のステップがぴたりと止まった。
【残り・28人】
パアン!
突然の火薬の破裂音に驚いて塩崎は振り返った。
それほど遠くはない。けれど近くもない。
何が起こったのだろう。仲間を探さなければならない1時間なのに、誰が発砲したのだろ
う。仲違いがあったのだろうか。それとも明らかに敵と思える人物が……
(銃か……有利な武器だよな)
飛び道具はずるいと思う。塩崎が持っているのは小型チェーンソー。少々荒っぽい武器だ。
我儘を言わせてもらうなら、銃のようにスマートなものが欲しかった。実際それを手にし
て、自分が駆使出来るかどうかはわからないが。
(ま、俺の生き方自体がスマートじゃないけどさ)
苦笑いをする気にもなれない。暗い緑の木々の中、気ばかりが焦っている。
この島に来て、出発地点を出てから、ずっとひとつの家の中に籠もっていた。自分の力だ
けではどうしようもない状況で、ただ現実から逃げていた。もし居場所が禁止エリアに入
ったら逃げ出そう。それまではここに隠れていよう。そんな都合のいい言い訳で自分を納
得させていた。しかし今回のトラップはそれすらも許してくれなかった。小さな穴の中に
隠れているちっぽけな虫たちまで炙り出された。
(くじけず一歩先に行動した奴が勝つんだ)
それは野球の世界でも同じことだ。才能があり、輝きを放ちながら入ってきた選手でも、
その後の努力や心構え次第で寂しい道へと向かってしまうこともある。逆にドラフト下位
で目立たずひっそり入団した選手が、数年後に誰にも予想すら出来なかったような大活躍
をしたりする。果てはメジャーリーグにまで旅立つこともある。
気まぐれな運命の女神の操る糸が彼らの道を揺り動かす。不安定なつり橋の上を渡るよう
に、塩崎はこの時間を過ごしていた。彼が橋の真ん中に来た時、その重みで足場が崩れて
しまわないだろうか。谷底へ落ちたりしないだろうか。それを避けるには急いで走った方
がいいのか。逆に慎重に時間をかけてゆっくり歩を進めればいいのか。
選択肢が沢山ありすぎる。全ては選んだ本人の自己責任だ。
塩崎はドラフト3位でオリックスに入団した。大学を中退し、社会人を経てのプロ入りだ
った。卒業証書をもらえなかったことがやや心残りだが、そうしなければプロにはなれな
かったのだと思っている。その点は以前後藤と話してうなずきあったことだった。
自分には社会を見る時間が必要だったのだ。そこでしか磨けないものがあったのだ。
だからこそこうしてプロに入り、常時一軍にいるそれなりのプライドがある。
そして今、運命の女神はまた塩崎の渡るつり橋を揺らしている。
この谷底にあるのは間違いなく死だ。
怪我やトレード、引退といった生易しいものではない。確実な死だ。
(でも………運命なら変えられるはずなんだ)
学生時代に読んだ国語の教科書にこんなことが書いてあった。いや、担当の教師が言った
言葉だっただろうか。はっきりとは覚えていないが、内容は間違いなく覚えている。
「宿命は生まれた時から定められていて変えることは出来ないけれど、運命は自分で切り
開いて変えられるものだ」
その言葉があまりに印象的で、いつも心のどこかに覚えていた。
自分が野球の道を進むのは宿命だ。けれどどんな道に進むのかは運命だ。そう信じた。
ガサガサッ。
物思いにふけりつつ歩いていたら、突然近くの枝葉が揺れた。
誰だ!
そう叫ぼうとした。しかし緊張で声が出なかった。思い返すとここ数十時間、ほとんど声
を出して喋っていない。せいぜい独り言を数回。喉が働いてくれないのも仕方が無い。
足を止め、耳をすました。虫の音。風が微かに葉を揺らす音。そんな音しか聞こえなかっ
た。音を立てた人物は逃げてしまったのだろうか。そもそも人間だろうか。妙な獣などい
ないだろうか。
(犬とかならまだいいけどさ……)
ガサッ。
また音がした。今度は枝の揺れが見えた。一瞬月灯りを遮った影も。
「だ、誰だ!」
今度こそ声が出た。震え掠れてはいたが。
「誰だ!誰かいるのか!」
腹の底に力を入れて声を出した。しかし返事は無い。
気持ちが不安に揺れ始める。自分は危険な存在に声をかけてしまったのではないだろうか。
敵に居場所をみすみす教えてしまい、今、敵から狙われているのではないだろうか。
(ヤバイのか……?)
肩にかけていた小型チェーンソーに手をやる。肩掛けを外し、両手で構えた。いつでもス
イッチを入れられるように、右手の人差し指をそこに添える。
『………誰か……いるのか?』
木々の向こうから小声が聞こえた。探るような、慎重な声。
塩崎にはその声が誰だかすぐにわかった。
「水さん!」
『塩崎か!』
「はい!どこにいるんですか!」
『待て!大声を出すな!敵に見つかる!』
「て、敵?!」
背中に冷たいものが走る。
『右肩をやられた。そっちに行く。小声で誘導してくれ。それか目印に何か……』
小さくガサリと音がした。これはきっと水口の立てた音だ。塩崎は初めて仲間に出会えた
喜びで一杯になった。一刻も早く水口に会いたかった。ようやく独りではなくなるのだ。
信じられるのだ。仲間を信じることが出来るのだ。
「怪我してるんですか?」
『ああ、でも動けないことはない。歩くと痛むが……しばらく右腕が動かせないかもな』
敵がいる。今まで放送でゲームに負けた選手たちの名前を聞いた。けれど塩崎には実感
が無かった。実際に生死を賭けた戦いに直面していないのだから、どうしようもない。
だが水口は経験したのだ。怪我を負い、なんとか生き延びる程度に。
(水さん………誰か敵を殺したんだろうか)
また余計な不安がよぎる。水口は敵に襲われ逃げ切ったのか。それとも誰かを襲い、返り
討ちにあったのか。それとも敵を倒し………殺したのか。
『塩崎、お前【K】はいくつある?俺は1個も無いんだ』
「俺は……2個です」
『あと1個か……ちょっと希望が見えてきたな』
少しだけ笑いを含んだ口調が聞こえた。
(水さん、【K】が無いんだ……じゃあ俺より大変だ……)
どうして怪我をしたのか、それを知りたかった。場合によっては敵が誰だかわかる。その
人物が持っている武器も。
(これは宿命なんかじゃない)
水口と出会えたのは、自分の足で歩き出したから。
(これは運命だ。だから自分の力で切り開くんだ)
塩崎は再び歩き出した。初めて自分の意思で目的を持って歩き出した。
木々が揺れる。向こう側に見覚えのある服の色が見えた。
「水さん!」
走り出した。
「塩崎!無事だったか!よかった!」
いつもの笑みが見えた。
右肩を赤く染めた水口に駆け寄り、倒れそうになったその体を支えた。
【残り・28人】
今回は以上です。
例の出来事の為、いろいろと考える時間を頂きました。
まだ完全な気持ちの決着はついてはいませんが、
改めて自分の気持ちと文章を整理して続行致しますので、よろしくお願い致します。
俺の塩崎キタ――――――――!!!
乙で――す
職人さん乙です。
続きを楽しみにしていますので、これからも続けてくださいね。
それにしてもウタはどうなるんだ…
カトウコンビ仲間割れ!?
ハラハラする展開だ(・∀・)
今回も乙です!!
新作乙です!
作者さん続けてくれてよかった…
火薬の破裂音が非常に気になる…
捕手
勝捕手
☆ゅ
星野伸之
ほす
ほ
星に願いを
保守
ほむれす
小猫を胸に抱いて保守。
続きwktk保守
ほ
保守
492 :
代打名無し@実況は実況板で:2007/03/18(日) 11:40:13 ID:EAhzeQ4mO
サゲ
どこかで銃声とも取れる破裂音が聞こえた。
平野佳寿は一瞬ブルッと体を震わせた。気づかれたかと思って隣を見ると、後藤はいつも
より少しだけ真剣な表情で前を向いていた。うまいことバレなかったようだ。
【K】をひとつも持たない平野は、今は後藤にぶらさがっているしか方法が無かった。自
分のプライドを傷つけた今すぐにでも消してしまいたい相手だが、それによって自分の首
を絞めてしまっては意味がない。屈辱的ではあるが、この1時間は休戦、それだけは確か
だった。
「銃声かな」
後藤が呟く。
「どうでしょうね。単に火薬が破裂した音でしょう?」
「ネズミ花火か爆竹か。その程度でも今の俺らには銃声に聞こえるんだよな」
「臆病なんですね」
鼻で笑ってやった。後藤はいつも通りのニヤニヤ顔を浮かべた。
「お前だって、銃声だって思っただろ?」
「思いませんよ」
「いや、思った。一瞬ビクッてなったろ」
「………音に驚いただけです」
「強がっちゃってさー」
全く頭に来る。ボケているかと思えばどこか鋭い。性格が読めない。平野が最も苦手とす
るタイプだ。いっそお人よしの方が思い通りに操縦出来て楽なのだが。
「音のした方、行ってみるか」
今度は馬鹿なことを言い出した。平野は慌てた内心を隠した様子で答えた。
「今は【K】を見つけるのが先でしょう?馬鹿なこと言わないで下さい」
だが後藤はいたって真面目な口調だった。
「だってさ、音がしたってことは誰かがいるってことだろ?そいつが【K】2個持ってた
ら俺たちグループ成立だぞ。そいつだって仲間を探してるのかもしれないしさ」
確かに一理ある。後藤のくせに。
「俺たちがこうやって歩いてても全然誰にも会えないだろ?だから、こっちからそういう
手掛かりに向かって突っ込んで行った方がいいのかなって」
論理的に整っている後藤の言い分に平野は口を閉ざした。同意したい気持ちもあるが、危
険性を感じる部分も強い。もし休戦協定を飲み込んでくれない敵だったらどうするのか。
後藤は銃を持っている。それなりの防御と攻撃が出来る。だが平野は金属バット。どうも
分が悪い。
「じゃあ平野、お前歌歌え。さっきみたいに」
また話が妙な方向へと捻じ曲がる。
「………ゴッツさんの冗談は一切受け付けないことにしています」
「お前、可愛くないねー」
「そんなこと自分が一番良く知ってますから」
「顔なんて言ってないぞ、心の問題だぞ」
「…………」
どうしてこうも腹立たしいことしか言わないのだろう。今すぐ金属バットを振り上げたい
気分だ。
(1時間後を覚えてろ。川越さんの予行練習にしてやる)
小さく拳を握り締め、出来るだけ表情を変えないまま後藤を睨んだ。ポーカーフェイスも
平野の得意技だ。そのせいか、年齢以上に落ち着きすぎているとも言われる。自分として
はそんなことは無いと思っているし、自分から笑いに走ることだってある。けれどどうも
周囲は平野を大人びた青年として認めたいらしい。
(いつもそうなんだ、勝手に俺のイメージを作って、それを先行させて。それにそぐわな
い行動を取ると愚痴やら何やら言ってくるんだ。人のイメージ勝手に作るなっての)
横にいる後藤はどうなのだろう。噂に聞いたところによると、大学を中退した理由は先輩
たちによる陰湿なイジメに遭ったからだという。本当の自分と周囲の作り上げた自分のイ
メージに大きな差があったからこそ、そういう目に遭ったのではないだろうか。聞けばイ
ジメに遭った理由も、練習試合でエースピッチャーから1年生の後藤がホームランを打っ
たからだけだという。あまりに理不尽な理由だ。平野だったら黙っちゃいないだろう。だ
が後藤は身を引いた。しばらくの間は頑張ったが、どこからも救いの手を差し伸べられる
ことなく、ただ自分から姿を消した。野球部からも、大学からも。
(納得出来なかっただろうな)
つらかっただろう。傷ついただろう。けれど後藤はそれを表に出さない。不思議なくらい
平然と笑っている。
(ひょっとしたら後藤さんは、何かを乗り越えてしまったのかもしれない)
本当に傷ついた者だけが知り得る場所、感じ取れる領域、それを後藤は体感したのかもし
れない。だからいつでも平然とお気楽そうな顔をして、両手でオレンジ色のバットを抱え
たまま緑の芝生を見ているのかもしれない。
見えているのはその芝生の向こうにあるものだろうか。芝生の上に引かれた白い線。その
白い国境を越えた向こう側には何があるのだろうか。それは後藤にしか見えないのだろう
か。平野には見ることが出来ないのだろうか。
「………ゴッツさん」
「ん?」
少し神妙な口調になった平野に呼びかけられ、後藤は相変わらずの表情で振り向いた。
「ゴッツさんが大学時代にホームラン打った人って、今どこのチームにいるんです?」
気のせいかその瞬間、後藤は困ったように眉をひそめて苦笑いをした。すぐに元の表情に
戻ったのだが。
「しばらくはプロの世界にいたけど、もう辞めちゃったんだ」
「え……」
「近鉄にいて、1年目はいい成績を残したらしいんだけど、その後巨人に行って、いろい
ろ難しかったらしくて、海の向こうのカナディアンリーグに移籍して……そのリーグも無
くなったって噂聞いたけど………どうなったかな………元気かな………まだ野球続けてる
といいけどな………」
平野は信じられない目で後藤を見た。
『元気かな』
後藤はそう言ったのだ。自分が傷つけられるキッカケとなった人物を気遣う言葉を口にし
たのだ。その投手自身が後藤を苛め始めたのか、それとも周囲の先輩たちが「示しがつか
ない」という馬鹿らしい理由で先に苛め始めたのかはわからないが。
「阿部ちゃんなら知ってるかもなあ……まーちゃんに聞くとわかるかもよ」
またノンビリした顔つきで語る。
(この人………本当に何かを乗り越えたのかもしれない………)
平野がまだ扉すら見えない領域に、後藤は棲んでいるのかもしれない。
(こいつはかなり……厄介だ)
その表情を信じてはいけない。見てはいけない。自分の意思が揺らいでしまうから。
(こんなことじゃこの世界を生き抜けない)
1時間だけだ。1時間たったら決着をつけるのだ。
自分を落ち着けようと深呼吸をした。顔を上げた時、視界の横にぼんやりとした光が入っ
た。反射的に平野は懐中電灯を握ったまま両手でバットを握り、そちらを向いた。
「どうした?」
「光が!」
暗い木々の間、その向こうの方の地面から淡い灯りが漏れていた。そしてその光は少しず
つ、2人の方へ近づいてきていた。
「誰だ?」
握りづらいと思ったのか、平野は慌てて懐中電灯とバットを握りやすいようなスタンスを
探した。けれどうまくいかず、仕方なく懐中電灯ベルトに挿し、なんとか少しでも灯りが
前を照らすように角度をつけた。
横でシャッという音がした。後藤が両手で細長い銃を構える準備をしていた。
ガサリ、という音がした。そしてその人物がゆっくりとした足取りで姿を現した。
「………早川さん……?!」
平野の口調は戸惑っていた。何故なら、早川が両手で日本刀を持っていたからだ。
「出来た!」
後藤が声を上げた。
「え?」
平野が中途半端な声を出す。
「早川大輔、【K】が2つ!俺が1つでグループ成立だ!」
「あっ!そうか!」
しかし2人は戸惑っていた。早川の日本刀が近くまで来た時、その刀の先に何か布のよう
なものが引っかかっているのが見えたからだ。平野は言葉を失った。こういう場合、どん
な言葉をかければいいのかわからなかった。前回遭遇した清原は全身から闘争意欲を感じ
られた。そういう宣言も出発地点で聞いた。だから平野もすぐに戦闘態勢に移れた。後藤
と会った時は中途半端な感情だった。その中で徐々に憎しみが湧いた。しかし今はどうだ
ろう。相手の出方が全くわからない。しかも早川は微かに微笑んでいた。何か自信のよう
なものが感じられた。逆にそれが平野を不安にさせた。こういうタイプが一番恐いのだ。
動こうにも動けない。話しかけたくても言葉が見つからない。平野は黙り込んでしまった。
「早川さん」
今さっきまでよりも優しい表情で後藤が話しかける。緊張感に満ちた自分の表情に気づき、
平野はまた後藤の中にある深いものを感じ取り、悔しくなった。
(………くそっ、なんか俺、ゴッツさんに負けてる感じがする……畜生!)
「早川さん、【K】2つ持ってますよね?俺、1個持ってるんです。平野はゼロ。だからこ
れでグループ成立です。俺たちが手を組めばもう安心です。落ち着いて、一緒に行動しま
しょう」
早川は何も言わない。平野は不安になって後藤と早川の顔を交互に見た。
「早川さん、聞こえてます?」
また後藤が話しかける。
「聞こえてたら、何か答えてもらえますか?でないと俺らもどうにも出来ないんで」
「………ああ」
微かな返事があった。後藤が安心したように笑う。
「早川さん、何があったんです?ひとまず俺らはこれでグループ成立です。この3人でい
れば1時間後のトラップタイムが終わった時にも生き延びられるんです。だから、仲間に
なって下さいね」
必要以上に優しく話しかける。途端に早川が糸の切れた操り人形のように地面に崩れ落ち
た。しかしそのまま倒れることはなく、日本刀で体を支えるようにして座り込んだ。
「早川さん?!」
2人して駆け寄る。しゃがんだままの早川は、それでも両手を日本刀から離さなかった。
懐中電灯は首から紐で提げており、針金などを使って上手く前方数メートル辺りを照らす
ようになっていた。
(こうすれば両手が使えるのか)
平野はその針金の支え方をしっかりと見た。自分にもこの道具が必要だ。
「早川さん、何があったんです?」
後藤が優しく問いかける。しかし早川の正面ではなく、左横に並んで座った。
「これ、日本刀ですよね、先に布引っかかってますよね、誰かに会ったんですか?敵です
か?恐かったですか?」
ゆっくりと、静かに早川が顔を上げた。しかし後藤の方を見ず、そのまま自分の持つ日本
刀を見つめた。
「………この刀が、呼ぶんだ」
「は?」
曖昧な返事を返す。早川の口調は予想外にしっかりしていた。キチンと自分の意思を持っ
ている喋り方だった。ただ、目だけが日本刀に惹きつけられていた。
「………この刀、最初は持つまで不安だったんだ。ずっと鞄にしまってた。でも、一度手
にしたら……すっごくかっこよく見えたんだ。キラッて光って……なんだか由緒ある刀な
のか、そのレプリカなのか知らないけど……持ってみたらすごく自信が湧いてきたんだ」
平野は刀を観察し始めた。一見普通の刀だ。長い日本刀。だが良く見ると、先に引っかか
っている白い布に赤い染みが見えた。ゾクリを背中を寒いものが走る。
「最初は、その辺にある木の葉っぱとか斬ってたんだ……どんな風に、どれくらい斬れる
のかって……けっこう気持ちよく斬れるんだよ。だから今度は背の低い木を斬ってみたん
だ。低くて細いタイプの木がまとまって生えてたんで……そしたらさ、すっごい気持ちい
いんだよ……よく斬れるんだよ……手応えもいいし、爽快感もあって……気づいたら夢中
になって斬ってた」
「森林伐採はダメっすよ。自然が泣きますよ」
後藤の妙なツッコミにも、早川は素直にうなずいていた。
「そうだよな、俺もそう思ったんだよ。だからそこを離れたんだ………でも」
「でも?」
「この刀から手を離せなくて……」
「そりゃあ武器だし。鞄にしまう必要も無いでしょ?むしろ丸腰になっちゃうし」
「そういう意味じゃなくて……」
初めて早川が後藤の顔を見た。どこか不安げな色を称えていた。
「この刀が、手を離すなって言うんだ」
「は?」
「手を離すなって。この刀を試せって。もっと何かを斬れって。だから俺……」
早川の両手に力がこもる。
「俺、ついさっき、会った誰かに斬りかかったと思う」
「誰か?」
「確認しなかったんだ……暗くてよく見えなかったし、気持ちが焦ってたって言うか……」
「だって今は【K】を集めるのを優先するべきでしょう?」
「ああ、なのに斬りかかったんだ。だから俺、おかしいんだ。不安なんだ。すっごく恐い
んだ。俺、誰かと戦うかもしれない。すごく恐い。でもこの刀を持ってると安心出来るん
だ。なんだか自信が湧くんだ。でも恐いんだ。でもこの刀を持ってれば安心なんだ。だか
ら変なんだ。堂々巡りなんだ。答えが出ないんだ」
「答えなら出てますよ」
後藤が相変わらずの口調で答えた。早川も平野も驚いた顔で後藤を見た。
いつものニヤニヤ顔があった。
「俺らと一緒に行動すればいいんです。簡単なことでしょ?」
後藤はさも自慢げに続ける。
「日本刀、自信が湧くなら持ってて下さいよ。もしもの時のこともあるし。俺はちょっと
用事があるんで1時間後には離れるかもしれませんけど」
「用事?」
「ええ、阿部ちゃん見てませんか?阿部まーちゃん。探してるんですよ」
尋ねられて、早川は何かを思い出そうとするかのように目を閉じた。
「………さっき誰かに会ったけど……声……聞いたけど………誰だったかな………」
小首を傾げながら考える。
「阿部……か誰か、だったような………」
「会ったんですか?!」
途端に後藤が身を乗り出す。その勢いに一瞬早川が身を引いた。
「違ったような………なんか2つの声が………」
曖昧な返事に後藤は苦笑いをした。
「そうですか、じゃあやっぱり探さなきゃ」
また元の体勢に戻る。平野は理解不能な表情で後藤を見ていた。
「早川さん、1時間後ですけど、平野と一緒に仲間探して動いてやって下さい。こいつ、
金属バットしか持ってないんで」
勝手に話を進めるな。平野は心の中でそう呟いた。俺には俺のやり方がある。仲間探しは
確かに重要だ。だがそれは手を繋ぐ為のものではない。消す為のものだ。
「ゴッツも一緒に歩けばいいじゃないか。3人で阿部を探せばいい」
「んー……」
後藤はまたニヤニヤ笑いをした。照れているようだ。
「………それもいいかもしれませんね」
平野の思惑を置き去りにして、グループが成立した。
「とりあえず早川さん、後で誰に遭遇したか思い出したら教えて下さい。その選手がこの
辺にいるって手掛かりになるから」
「お前……本当にお気楽だな」
早川が苦笑いをする。
「そういう性分なんですよ。元々暗い考え方する方だから、自分からこうでもしないと。
……1時間後にでも、早川さんが声聞いた2人に会えるといいんだけどなあ」
後藤の無意識の呟きは、後藤が最も望んでいる本心と偶然一致していた。
【残り・28人】
山口はいい気分でうたた寝をしていた。微かに寒さを感じるが、背の低い木々の間に入れ
ばなかなかの居心地だ。すぐ横には清原が木々をベッドにしてうつ伏せに眠っている。
まるで鋭い刃物でスパッと切ったような、切っ先鋭い枝の上でよく眠っていられると思う。
おそらくそれが清原の番長とも呼ばれる所以なのだろう。筋肉の壁が痛みをシャットアウ
トしているのだろうか。自分もそれくらい体を鍛えた方がいいのだろうか。
時折清原の首元からチカチカ光る何かを感じるが、それほど気にはならない。ポケットに
1本だけ入っていた小型のブランデーをチビチビ舐める。もうすぐ無くなってしまうから
ホテルに戻りたいのだが、どうもこう暗くては道がわからない。それに眠いし妙な疲れも
あって、今は歩く気にならなかった。
「あー、星がキレイだー」
酔っ払い特有の、思ったことが口に出てしまう状態。現状を理性的に把握出来なくなって
いる。恐らくトラップタイムのことも、余程のキッカケがなければ頭の中には戻って来な
いのだろう。
ついさっき、近くを誰かが駆け抜けたような音が聞こえたが、きっと気のせいだろう。
「何をそんなに急いでんのかね……」
山口はただ1人、のんびりとした時間を過ごしている。
【残り・28人】
遅くなってすみません。今回は以上です。
ここ数ヶ月、仕事の方がキチキチになっているので推敲時間があまり作れず…orz
今回のようにちょっと投下間隔が出来るかもしれません。
出来るだけ週一回ペースで頑張るつもりです。よろしくお願い致します。
乙です。
お仕事大変そうな中ありがとうございます。
まったり待ってますので無理せずこれからもお願いします。
投下乙です。
無理せずお仕事の方頑張って下さいねー
それにしてもゴッツがこっかいいぜ・・・
乙です。
ここまでカッコいいごっつは初めてだw
山口このままだと死んじゃうよ山口
お久しぶりです
乙です。
>>後藤のくせに。
www
乙です。
お仕事頑張ってくださいね!いつまでも待ってますので
平野の行く末にガクブル
ゴッツ…さすが後のマザー・テレサだ。
509 :
真木:2007/03/21(水) 12:51:44 ID:W0B2ukZU0
ごっつ、ごめんよ。
_
▼^ `▼
イ fノノリ)ハ 保守…
リ(l|゚ .゚ノlリ
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_
\/___/
開幕前夜保守
苦しい保守
改めて振り返ってみると吉井が一番怖いです保守
歌藤早く起きて保守
保守
セも開幕するし確実に保守