西武ライオンズ バトルロワイアル 第三章

このエントリーをはてなブックマークに追加
1代打名無し@実況は実況板で
前スレ 西武ライオンズバトルロワイアル 第二章(dat落ち)
http://ex13.2ch.net/test/read.cgi/base/1150564033/

保管庫
ttp://web-box.jp/lions_br/
ttp://web-box.jp/lions_br/m/(携帯用)
2代打名無し@実況は実況板で:2006/07/31(月) 21:06:13 ID:i4TWPmJW0
2
3代打名無し@実況は実況板で:2006/07/31(月) 21:06:17 ID:LQHuutJR0
他球団BR保管庫

讀賣巨人軍バトルロワイアル
ttp://www.geocities.co.jp/Athlete-Crete/5499/
横浜ベイスターズバトルロワイアル
ttp://www003.upp.so-net.ne.jp/takonori/
ttp://doubleplay.hp.infoseek.co.jp/ybbr05/ (2005年版保管庫)
広島東洋カープバトルロワイアル
ttp://brm64.s12.xrea.com/
ttp://www6.atwiki.jp/moriizou/ (2005年版保管庫)
中日ドラゴンズバトルロワイアル
ttp://dra-btr.hoops.jp/ (2001年版保管サイト)
ttp://dragons-br.hoops.ne.jp/ (2001年版・2002年版保管サイト)
ttp://mypage.naver.co.jp/drabr2/ (2002年版保管サイト)
ttp://cdbr2.at.infoseek.co.jp/ (中日ドラゴンズバトルロワイアル2 第三保管庫)
ttp://cdbr2004.hp.infoseek.co.jp/(中日ドラゴンズバトルロワイアル2004保管庫)
福岡ダイエーホークスバトルロワイアル
ttp://www3.to/fdh-br/
4代打名無し@実況は実況板で:2006/07/31(月) 21:06:38 ID:LQHuutJR0
阪神タイガースバトルロワイアル
ttp://kobe.cool.ne.jp/htbr/
ttp://homepage2.nifty.com/sorasouyo/(旧虎バト保管庫・若虎BR紅白戦進行中
千葉マリーンズ・バトルロワイアル
ttp://www.age.cx/~marines/cmbr/
ソフトバンクホークスバトルロワイアル
ttp://sbh.kill.jp/
ヤクルトスワローズバトルロワイアル
ttp://f56.aaa.livedoor.jp/~swbr/
プロ野球12球団オールスターバトルロワイヤル
ttp://www.geocities.jp/allstar12br/
鷲バト
ttp://www.geocities.jp/trgebr/
ビリオネア・バトルロワイヤル
ttp://tokyo.cool.ne.jp/birioneabr/index.html
5代打名無し@実況は実況板で:2006/07/31(月) 21:09:58 ID:LQHuutJR0
その他野球BR関連サイト
マーダー名鑑
ttp://www.geocities.jp/murder_file_3bbr/
2ch野球板 バトルロワイアル 参加者名簿
ttp://www4.atwiki.jp/basebr/
ネタバトまとめ
ttp://sports.geocities.jp/mimamoru_br/

他球団BR現行スレ
一億円プレーヤーバトルロワイアル第五章
http://ex13.2ch.net/test/read.cgi/base/1153748230/
阪神タイガースバトルロワイアル第七章
http://ex13.2ch.net/test/read.cgi/base/1134038295/
広島東洋カープバトルロワイアル2005第二章
http://ex13.2ch.net/test/read.cgi/base/1150097510/
東北楽天イーグルスバトルロワイアル2006
http://ex13.2ch.net/test/read.cgi/base/1144249953/
千葉マリーンズバトルロワイアル第14.章
http://ex13.2ch.net/test/read.cgi/base/1147095026/
日本ハムファイターズバトルロワイアル
http://ex13.2ch.net/test/read.cgi/base/1153574704/

各球団のバトルロワイアルスレを見守るスレ8
http://ex13.2ch.net/test/read.cgi/base/1147360492/
野球バトルロワイアル総合雑談所2
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1134993945
6代打名無し@実況は実況板で:2006/07/31(月) 21:10:14 ID:LQHuutJR0
バトロワSSリレーのガイドライン
第1条/キャラの死、扱いは皆平等
第2条/リアルタイムで書きながら投下しない
第3条/これまでの流れをしっかり頭に叩き込んでから続きを書く
第4条/日本語は正しく使う。文法や用法がひどすぎる場合NG。
第5条/前後と矛盾した話をかかない
第6条/他人の名を騙らない
第7条/レッテル貼り、決め付けはほどほどに(問題作の擁護=作者)など
第8条/総ツッコミには耳をかたむける。
第9条/上記を持ち出し大暴れしない。ネタスレではこれを参考にしない。
第10条/ガイドラインを悪用しないこと。
(第1条を盾に空気の読めない無意味な殺しをしたり、第7条を盾に自作自演をしないこと)
7代打名無し@実況は実況板で:2006/07/31(月) 21:10:38 ID:LQHuutJR0
リアルタイム書き投下のデメリット
1.推敲ができない
⇒表現・構成・演出を練れない(読み手への責任)
⇒誤字・誤用をする可能性がかなり上がる(読み手への責任)
⇒上記による矛盾した内容や低質な作品の発生(他書き手への責任)
2.複数レスの場合時間がかかる
⇒その間に他の書き手が投下できない(他書き手への責任)
⇒投下に遭遇した場合待つ事によってだれたり盛り上がらない危険がある。(読み手への責任)
3.バックアップがない
⇒鯖障害・ミスなどで書いた分が消えたとき全てご破算(読み手・他書き手への責任)
4.上記のデメリットに気づいていない
⇒思いついたままに書き込みするのは、考える力が弱いと取られる事も。
 文章を見直す(推敲)事は考える事につながる。過去の作品を読み込まず、自分が書ければ
 それでいいという人はリレー小説には向かないということを理解して欲しい。
8代打名無し@実況は実況板で:2006/07/31(月) 21:11:27 ID:LQHuutJR0
テンプレ終了。前スレいつの間に落ちてたんだ…
とりあえず保守保守
9代打名無し@実況は実況板で:2006/07/31(月) 22:01:30 ID:XfVAoqUe0
>>1
激しくGJ
10下妻物語:2006/07/31(月) 23:02:48 ID:LJRV9gXH0
               
                
                
                 
                   
                       
                         〜 &   
                                  
               £__                
              / ̄   \                
     〜 &     |   白  :::|                 
         ~       |      ::::|                   
              |    猫  ::::::|                    
             |       ::::::|                     
             |     の  :::::|                     
             |       :::::::|                    
               |    墓  :::::::|                   
               |       :::::::::|                  
              |  ∬      ∬:::| チーーン、、、          
               |  ii ,,≦≧、 :ii :::::|              
            _ |  旦‖===‖旦::::::| _             
    -W-----┘二二二二二二二二二└--ff---\--    
                                    
                                  
                                
                        
                  
                
              
             
            
          
11代打名無し@実況は実況板で:2006/08/01(火) 08:21:08 ID:uKKx5X4zO
>>1GJ乙

(´・ω・`)ドウゾ...

∬∬

|狭|
|山|
|茶|
└―┘
12代打名無し@実況は実況板で:2006/08/01(火) 10:33:26 ID:uzJeblVg0
>>1
激しく乙
13代打名無し@実況は実況板で:2006/08/01(火) 13:37:50 ID:EkRCYfSW0
>>1
乙乙!
14保管庫 ◆DTczIOdYo2 :2006/08/01(火) 14:38:24 ID:HR5BXZGd0
>>1乙です、職人様方もいつも乙です
56.逃げられないこの場所から(前) まで保管しました。

dat落ちした前スレも一応うpしたのですが、しばらくネットをしていなかったため、
100以降のログが取得できませんでした。
にくちゃんねる等を見ても、ログが存在しないようで…
たった2レスなのでそれほど支障はないのかなとも思いますが、どなたか
お持ちの方がいらしたら、上げて頂けないでしょうか。よろしくお願いします。
15代打名無し@実況は実況板で:2006/08/01(火) 15:25:06 ID:EkRCYfSW0
ログはあるんですが、どうすれば良いのか分からず…orz
16代打名無し@実況は実況板で:2006/08/02(水) 01:00:31 ID:EmOnwMPGO
保管庫さま乙です

保守
17代打名無し@実況は実況板で:2006/08/02(水) 11:19:14 ID:fPHJkrJJ0
hosyu
18代打名無し@実況は実況板で:2006/08/02(水) 19:34:26 ID:EmOnwMPGO
保守
保守
保守
保守
保守
保守
保守
保守
保守
保守
保守
もう内野手だけど...星捕手って言いづらいネ
19代打名無し@実況は実況板で:2006/08/03(木) 02:19:53 ID:iBm0aMNHO
夜中に保守
20保管庫 ◆DTczIOdYo2 :2006/08/03(木) 02:31:25 ID:fDWkLK1d0
炭谷保守

>>15
ありがとうございます!
うpロダ等にあげていただくとかできませんか?

21代打名無し@実況は実況板で:2006/08/03(木) 10:50:14 ID:nVTSILfPO
ほしほしゅ
22代打名無し@実況は実況板で:2006/08/03(木) 11:40:45 ID:+LJaiiRn0
ttp://vipper.jpn.org/www/upload/src/VIPphoto8815.zip
よく分からないのですが、これで大丈夫でしょうか…
23代打名無し@実況は実況板で:2006/08/03(木) 12:16:30 ID:/jbjiKhS0
hosyu
24 ◆NRzjVMYad2 :2006/08/03(木) 17:44:22 ID:tcoyniPm0
57.逃げられないこの場所から(中)

夜を貫いた銃声が招いた来訪者――伊東は光の輪の手前で立ち止まり、辺りをぐるりと見回してから、こちらに背を向ける恰好で、上本の死体の前にしゃがみ込む。
手でも合わせているらしい伊東の背中を見つめながら、水田は思う。
何故、伊東はゲームの参加者なのだろう?
黒岩の説明ではゲームへの参加は、伊東の意志であるかのようだった。
コーチ達のように運営側で、ぬくぬくと高みの見物を決め込んでいればいいものを、監督である伊東がやめろと言えば、選手達が殺し合いをしないとでも思っているのだろうか。
それとも、死体となって選手達の前に晒された土井のように、運営側に逆らってゲームに放り込まれたといったところだろうか。
(何にしても、死んでもらえればエエだけや)
やがて、伊東は上本のカバンのポケットから覗いていた紙片――おそらくこの島の地図だ――を抜き取り、広げた。
(何しとるんやろ?)
少し、気になった。上本が持っていた鉈は既に水田の腰に下げてある。それ以外の荷物は取りあえず必要ないため、カバンごと死体の傍らに置いたままにしてある。あの地図に何かあるのだろうか。
「監督」
伊東の行動に気を取られているうちに、栗山が進み出て伊東に声を掛けていた。
「武器を下ろして、こちらを向いて頂けますか?」
聞こえていないわけはないだろうが、伊東は動かない。栗山の「監督」という再度の呼びかけに「お前達が殺したのか?」との問い掛けが、動かない背中から返った。
「ハイ」
感情を削ぎ落とした厳しさだけが宿った声に、栗山のよどみない答えが応じる。
伊東はことさらにゆっくりと地図を折り畳むと、自分のポケットに入れ、立ち上がり、一度首を回してからこちらを向いた。釘バットは持ったままだ。
「話を聞いていただけますか?」
伊東は了承を示すように軽く顎を上げ、栗山は話始めたが、本当に聞いているのかと疑いたくなるほどの無表情で、一言も挟まず、泰然と突っ立ている。
栗山が一通り話し終えても、すぐにはなんの反応も寄越さず、二人をざっと眺めてから繰り出した一言は「あの連中が並べたのと同じ理屈をお前達の口から聞くことになるとはな」だった。
死体にも、武器を構えた二人を前にしても、栗山や水田が人を殺した事にもまるで動じない。何か引っ掛かる。
25 ◆NRzjVMYad2 :2006/08/03(木) 17:48:12 ID:tcoyniPm0
「手間暇かけて殺し合いさせる理屈がそんなものだと思うか。チーム低迷の責任取るなら監督や首脳陣の首を切ればいい。赤字でライオンズがいらないなら、売却でも合併でもそれこそ解散でもすれば済む話だ」
伊東は臆面も無く正論を口にするが、説得する、訴えかけるといった響きがまるで無い。対照的に明白な現実を説き、決意を語る栗山の口調は淡々としていながらも悲愴の色が滲む。
(まどろっこしいなぁ……)
相変わらず、相手の話に生真面目に付き合う栗山に、少し、イラつく。
このままでは「馬鹿な真似はやめろ」とお決まりの科白を聞かされるのは、時間の問題。疲れているというのに勘弁して貰いたい。
天を仰ぎたい気分を我慢して、溜め息を一つ。笑顔を作り、口を挟む。
「お分かりのように、ボクらもう殺しちゃったんですよね。栗山なんて、こうやって命捧げる覚悟でガンバっちゃっているんですよ」
笑みを深くし、伊東の目を覗き込む。
「監督としてその責任、どう取るおつもりなんですか?」
ほんの一瞬。伊東の無表情に惑うような、なんとも言いがたい感情がよぎった。
綻びを隠すように伊東は上本の死体に目を移し、「どうやったら、取れると思う?」と疲れた声で逆に問い返してくる。
わずかに覗かせた弱気を敏感に嗅ぎ取り、内心でほくそ笑む。真剣に考え込む素振りの裏で、効果的に突き崩す言葉を探す。
「そうですね――僕達を手伝ってくださいますか?生き残る事もできますよ」
しばらく返答を待ってみるが、視線を落としたまま伊東は何も言わない。
「そんなに難しく考えることはありませんよ。監督相手なら皆も喜んで殺されてくれますよ」
聞きたくないというように微かに頭を左右に振る。悪くない反応だ。
「殺すのはダメですか?それとも、このゲームを勝ち抜こうとは思っておられない?」
さらに慇懃に畳み掛け、強張った伊東の表情を探りながら、悲しげな溜め息をつく。
「困りましたね――それなら」
そこで水田はいったん、言葉を切った。黙っている伊東の意志を確認するように短い間を挟み、労わりを込めた口調で最後の提案を切り出す。
「死んで頂いてもよろしいでしょうか?」
26 ◆NRzjVMYad2 :2006/08/03(木) 17:49:13 ID:tcoyniPm0
上本の死体を見つめたままの伊東の目が、すっと細められる。長いようで短い沈黙。「監督」と答えを促す栗山の呼び掛けに、「俺はもう監督じゃない」と応じて上げた顔はまた最初の無表情だった。
「好きなようにしろ」
拍子抜けするほどにあっさりとした返事に神妙な顔で頷き、栗山に視線を流す。
(ほら、こういう風にすればいいんよ)
ついでにハンマーを軽く振り、自分がやると伝える。
(うるさくして、また誰か来るんは勘弁やからね)
栗山が小さく頷き、スコーピオンで伊東を牽制するが、構えこそしないものの、伊東は武器を手放そうとはしない。
殺人者は許せません。せめて道連れにしてやろうといったところだろうか。無駄な抵抗で痛い思いがしたいらしい。物好きなことだ。
水田は摺り足で間合いを計りながら、伊東の左側に回り込む。
「監督――宮越さんに『生きろ』とおっしゃいましたか?」
ふと思いついたように栗山が尋ねる。横目で水田の動きを窺っていた伊東の目が栗山を向いた。
(気ぃ引いてくれるんはエエけど、タイミング違うやろ)
この隙を逃したくは無いが、釘バットの間合いの外から一息に飛び込むには、まだ二歩半足りない。ハンマーで仕留めるには浅いが、ハンマーを払うなり避けるなりしたら、鉈で斬りつければ、いける。
瞬時の判断を攻撃に移行させるべく、水田はハンマーを左手に持ちかえる。
「そこまでにしとき」
光の輪の外から投げ込まれた声に集中が削がれ、視線がそちらに持っていかれる。ゆっくりとこちらに近付き、街灯に照らし出された二人の選手の姿に、水田は舌打ちし、栗山は息を呑んだ。


三人のやり取りに耳を傾け、出て行くタイミングを計る田原の横で、中村はこの場所でこうしている経緯を思い出す。
水田に指示され、寺に着いてみれば、伊東と田原の姿があった。ここに居られては、また栗山に殺しをさせる事になる。
立ち去って貰うか、違う場所を探して栗山達をそこに連れて行くようにしようかと迷っている内に、田原達に見つかってしまった。
何も聞かずに立ち去っては貰えず、栗山、水田と行動を共にしている事、二人が仲間を殺す事を選んだ事、そして間も無くこの寺に来る事を話した。
伊東は何も言わず、田原は「なんでまた……」と言い掛け、無駄だと気付いたのか「さんぺーはそれでいいのか?」と尋ねてきた。
27 ◆NRzjVMYad2 :2006/08/03(木) 17:50:57 ID:tcoyniPm0
「なんも聞かんで、クリと一緒にいくと決めたんです」
中村の答えに、困ったような間があってから田原は「ちゃんと話したほうが、エエよ」と言ってから、話題を変えた。
「さっきの銃声もお前らか?誰かを殺したんか?」
予想された質問だったが、答え難かった。
中村から見ても、田原と上本は同じポジションを争うライバルとして、お互いに負けるつもりも譲るつもりもないが、上本は先輩である田原を最も身近な目標としていたし、田原も後輩である上本が力をつけてくる事を喜んでいるようだった。
なにか締め付けられるような痛みを胸に覚えて、辛くなり、顔を俯けた。
田原は催促するように中村の顔を覗き込んだが、無理強いする事でもないと思ったのか、「教えてくれて、ありがとうな」と言い置き、伊東に向き直った。
「監督、別の場所を探しましょう」
田原の提案を取り合わず、「誰だ?」と伊東が問うた。初めて聞く冷たい声に、身体が揺れた。恐る恐る答えた。
「……上本さんです」
微かに息を呑んだ気配に目を上げれば、何故か腑に落ちたような田原の表情にぶつかった。
「上本さんが水田さんを殺そうとしていたから、仕方なくて……」
しなくてもいい言い訳が口をつき、「ウエがミズを……殺そうとした……?」との愕然とした田原の声に、唇を噛んだ。
水田と上本の間にどういう経緯があったのか、全てではないが目の前で見ていた中村にも人に説明できるほどには分からない。
ただ、中村に何も訊こうとしないまま、田原が納得などできはしないことを無理矢理に決着させる時間を耐えた。
成功したとは言い難い様子だったが、田原はもう一度、伊東にこの場所を離れることを提案した。再びこれを取り合わず、何を思ったか伊東が、栗山達と話をしてみたいと言い出した。
「止めるおつもりですか?」
「お前の真似を――余計なお節介をしてみたくなった」
「あの時とは違います。危険です」
「上本の事を訊いてみたくはないのか?」と重ねられ、苦しそうに顔を歪め「訊いて、どうなるものでもありません」と声を絞り出す田原に伊東は「どうせ移動するついでだ。いやならついて来ることはない」と畳み掛けた。
田原を追い詰めているとしか思えない伊東の態度。観念の息を吐き出し、田原は折れた。
28 ◆NRzjVMYad2 :2006/08/03(木) 17:54:21 ID:tcoyniPm0
不可解な二人のやり取りを見つめ、そもそも何故、この二人が共にいるのかが気になった。どんな事情があるにせよ、少なくとも平穏なものではなさそうだ。
なにやら考え込んでいた田原が中村に訊ねてきた。
「クリはさんぺーの事、殺すと思うか?」
「えっ?」
思ってもいない言葉が耳朶を打ち、胸の底を微震させ、咄嗟に返事が出来なかった。
「まあ、エエわ――そしたら、さんぺーは人質役な。俺は悪役や」
と中村をよそに、田原は伊東となにやら打合せを始めていた。
そして――。
何も聞かないと決めた。
理由など分からなくても栗山が苦しんでいる事は分かるから。中村には栗山は死にたがっているようにみえてしかたがない。
だから自分は栗山が誰を何人殺す事になってもそれだけは止めようと、その為に共にいなければならないと決意した。友達だから、それしか自分には出来ないと思ったから。
――クリはさんぺーの事、殺すと思うか?
なぜ、すぐに言葉を返せなかった?栗山は自分を殺したりはしないと。即答できなかった自分に愕然となった。疑っているわけではない。ただ、分からなかった。
上本と水田が武器を振るい合う姿を目の当たりにしたからかもしれない。
中村は恐かった。身体が竦んで動かず、二人から目を逸らす事も出来ず、ただその光景を眺めていた。
その隣で栗山は冷静に戦う二人の様子を見守り、おもむろに銃を上本の背中に向け、躊躇うことなく引金を引いた。
あの時、上本は水田を今にも殺そうとしているように見えた。上本を殺すしかなかった。他にやりようは無かった。栗山の判断は正しい。助けられた水田もそう言っていた。
殺す必要があるから殺す。その事に順応していく栗山。逃げられない場所に自分を追い込む彼から逃げ出さずにいられるだろうか?
栗山をあきらめる時が、死なせてしまう時が来る予感に襲われ、決意が揺らいだ。
そしてたった今、田原と共に栗山の目的と真意を聞いた。やはり栗山は死ぬつもりでいた。その前に目的――生き残る6人を選ぶために仲間を殺す――を果たそうとしている。
その6人に中村も入っている。そして水田も。
29 ◆NRzjVMYad2 :2006/08/03(木) 17:55:24 ID:tcoyniPm0
水田のように積極的に栗山の目的に協力してくれる同行者のほうが、栗山にとって必要な存在なのかもしれないが、栗山は中村に殺す事を手伝えとは言わない。全てを引き受けるつもりでいる。
自分を犠牲にして助けてもらいたくないのに。
断る事だってできたが、同行を求めたのは自分。栗山が中村を見捨てても「死にたくない」と栗山が言ってくれるなら、自分も栗山を見捨てないで、逃げないでいられる。あきらめない。必ず、助ける。
だが、まだ間に合うのだろうか?栗山は死ぬ覚悟を決めている。覆せる保証など何一つありはしない。不安を招く認識が胸を焦がす。
「いくぞ。しっかりせえよ」
耳元で囁かれ、肩を揺すられた。同時に「ちゃんと話したほうが、エエよ」と田原に言われた言葉が脳裏に弾け、我に返る。
中村が頷くのも待たずに田原は中村を引きずるように、三人のもとへと歩き出した。


中村に銃を突きつけた田原が、薄い灯りの中に現われ、水田と栗山に向かって普段よりものんびりとした声を放つ。
「これ返すから、ここは退いてくれへん?」
田原に腕を取られた中村は、怯えた様子も無く、もの言いたげな顔で栗山を見つめている。
伊東がこちらを見もせずに「お前達」と呼んだこと。あまりにも動じない伊東の態度。引っ掛かっていた疑念が解ける。パズルの最後のピースは中村だ。
中村に聞いて栗山と水田が、この場所で待ち伏せをしていることを伊東は知っていたのだ。そして田原が助けに来ることを。
だが、何のために伊東はこの場所に来た?新たな疑問が湧く。
中村が二人を止めて欲しいと、泣きついたといったところか?どうにもしっくりこない。少し、イラつく。
「説得力無いと思うけど、殺し合いする気はあらへんから」
田原は話しながら、中村を楯にして二人と伊東との間に入ろうとしている。
「クリ、三人まとめて撃て!俺ら、はめられたんや!」
水田の叱咤に、栗山は鋭い痛みに触れたようにびくりと身体を震わせた。瞬時に水田は悟る。栗山は中村を殺せない――友達だから。はっきりとした苛立ちが背中を駆け上り、様々な感情を逆なでた。
「脅されているんです。助けないと……」
「さんぺーは裏切ったんや!」
30 ◆NRzjVMYad2 :2006/08/03(木) 17:57:35 ID:tcoyniPm0
栗山の反論を叩き切る勢いで、昂ぶる感情のままに怒鳴りつける。
「さんペーのせいやないよ。俺が無理言って付きおうて貰てるだけや」
宥めるように田原はよりのんびりとした声を出しながらも、止まらない。
田原の動きに合わせて、伊東が後退しようとしている。この二人を逃がすわけにはいかない。
頭の片隅で自分が冷静さを失いつつあると気付いていた。
田原の殺し合いをする気は無いという言葉を信じる気はないが、従った振りをすれば油断を誘えるはずだと考えながらも、焦る気持ちは最も近い位置にいる伊東だけでも倒せないかと、隙を探す。
ほんの一瞬、荒れた路面に足を取られ、伊東の動きが遅滞した。
反射的に踏み込み、ハンマーを振るう。
無造作に持ち上げたとしか見えない右腕。その延長戦上の釘バットが、ハンマーをからめ取り、攻撃を封じ込まれる。完全に押さえ込まれる前にハンマーを釘バットから外そうとする力をそのまま利用され、身体が振られる。
「うわっ!」
二、三歩たたらを踏んで、踏み堪えた時には、水田は伊東と栗山に挟まれた位置で、一方的に伊東の力を受け止めることを余儀なくされていた。
重心を下げ、じりじりと押してくる。片手では圧力を支えきれず、鉈を抜こうとした右手もハンマーを握る。
(なんでや?こっちは現役やのにっ!)
体格の差があるとはいえ、ここまで完璧に抑え込まれるはずがない。
(まさか、バットコントロールとは言わへんよな)
「水田さんっ!」
栗山の迷いと不安が滲む声が、背中を打つ。すっと冷静さが戻ってくる。
(俺に構わず撃てとでも言うと思っとるんか?)
栗山の声には、必要とあらばやりかねない危うさがある。冗談ではない。
このままでは、いずれ伊東に押し切られる。まだ持ち堪えられるうちに栗山が落ち着く時間を作らなければならない。冷静に考えれば分かる筈だ。
中村ごと田原を撃てば、伊東も倒せる。それが最善策。
(ホンマにそうなんか?)
胸の奥で、どろりと何かが蠢いた――栗山に中村を殺させてみたい。
仕方が無かったと分かっていても、上本を殺した栗山に含むものがあるらしい。
水田のひどく醒めた部分がそう判断する。蠢いたものは純粋な悪意だ。
そんなものに関わっている余裕は無い。水田の冷静な部分がそう断じる。
31 ◆NRzjVMYad2 :2006/08/03(木) 17:58:42 ID:tcoyniPm0
このゲームの勝者となるには冷静に事を運ぶ必要がある。だが、制御しきれず、顔を覗かす頻度が高まってきている事もまた自覚している。これが命取りになる予感がする。
ふと膝から力が抜けそうになり、なんの前触れもなく、上本の最後の言葉が脳裏に浮かんだ。
(違う!そんなことあらへん!俺のどこが――)
否定の言葉を力に転化し、崩れかけた足元を立て直し、伊東と田原に集中を戻す。突破口を求めて口を開く。
「田原さん。殺し合いする気が無いって言いましたよね?誰も殺さず帰れると思っとるんですか?」
中村を捕まえたまま、栗山を牽制する田原に揺さぶりを掛けてみる。
「いんや。いざとなれば殺すかもしれんね。死にたないし――ただ、その程度やと。
脅して武器持たしたら、さっくり殺し合うと思われとんのは、なんや、見くびられとるみたいでむかつくっちゅうだけや。くだらん意地や思うてくれて構わんよ」
本心からの言葉なのかと疑うほど、さらりと返してくる。こちらが人殺しだと分かっていながら、のこのこと会いにくるような物好きは、どうにも扱い難い。
「クリがウエのこと殺したん知っとる?正捕手争いのライバルが一人消えて万々歳やね。クリにありがとうって言うたげなよ。それとも敵討ちがしたい?」
「チームなくなるってのに、なに、言うとる。第一、人殺してなるもんちゃうやろ――なあ、もうよそうや」
水田への気遣いめいたものを感じさせる言葉への反発を伊東に向かわせる。
「監督さんは分かるやろ?ライバル蹴落として、自分の場所つかんで、守るんがどんだけ大変か。ここにおる誰よりも分かっとるやろ」
眼前の伊東を睨みつける。伊東は答えない。答える気が無いのか。あまつさえ、面倒臭そうにお前が答えろとばかりに田原に目配せする。
伊東は全力を出しているわけではない。手加減されている事実に、水田は歯噛みする。
「友達やとか、ライバルやとか、関係あらへん。ミズ、お前、人殺したその手で、嫁さんや子供に触れるんか?」
田原の問い掛けを鼻で笑う。
「当たり前や、洗えばキレイになる。見たってわからん。田原さんとこやて、産まれたばかりやからわかるやろ。しっかり食わせて、エエ思いさせたらなあかん思うやろ?
生きて帰って、一生、黙っとく。墓の下まで持って行く――そう決めた」
32 ◆NRzjVMYad2 :2006/08/03(木) 17:59:28 ID:tcoyniPm0
ハンマーを握る手が痺れてきた。時間稼ぎもそろそろ限界だ。未だに動けずにいる栗山を待ってはいられない。苛立ちのままに背後の栗山をけしかける。
「さっさと撃たんかい!やらなきゃならんことあるなら、分かるやろ!」

【残り41名】
33代打名無し@実況は実況板で:2006/08/03(木) 19:57:22 ID:nVTSILfPO
職人さま乙です!!!
水田がどんどんドス黒くなってますね...(つд`;)゚。゚
果たして栗山は...|ω・`;)
34代打名無し@実況は実況板で:2006/08/03(木) 20:02:45 ID:nVTSILfPO
すいませんageちゃって;
35代打名無し@実況は実況板で:2006/08/03(木) 20:44:52 ID:fXrbCCYE0
職人様乙です
み、水田・・・・お前・・・orz
田原さん格好いいっす田原さん
36代打名無し@実況は実況板で:2006/08/04(金) 02:14:56 ID:q0LKqeUVO
保守
37代打名無し@実況は実況板で:2006/08/04(金) 13:59:00 ID:Tvzyuxd50
保守します
38代打名無し@実況は実況板で:2006/08/04(金) 21:57:06 ID:4G0lU8oZO
捕手
39代打名無し@実況は実況板で:2006/08/05(土) 12:09:15 ID:tNi/5Dve0
念のため保守
40代打名無し@実況は実況板で:2006/08/05(土) 20:54:29 ID:r2b1s8/P0
hosyu
41代打名無し@実況は実況板で:2006/08/05(土) 21:55:14 ID:5Fqmsbxg0
(ToT)
42代打名無し@実況は実況板で:2006/08/06(日) 00:07:24 ID:6QFJSSM2O
保守
43代打名無し@実況は実況板で:2006/08/06(日) 04:03:48 ID:+cqach/b0
保守
44ひみつの検疫さん:2024/12/04(水) 03:36:24 ID:MarkedRes
汚染を除去しました。
45代打名無し@実況は実況板で:2006/08/06(日) 16:22:47 ID:S+P5fBgO0
保守
46代打名無し@実況は実況板で:2006/08/07(月) 00:08:50 ID:Oj0+XwAIO
水田がランニングホームラン打ちましたね...
保守
47代打名無し@実況は実況板で:2006/08/07(月) 11:52:16 ID:6UaW7TA10
ほしゅ
48代打名無し@実況は実況板で:2006/08/07(月) 19:53:52 ID:PhnjVN7I0
ほす
49代打名無し@実況は実況板で:2006/08/07(月) 21:44:22 ID:PNVjYT2T0
>>46
球場で見てて鳥肌立ったよ
保守
50代打名無し@実況は実況板で:2006/08/08(火) 11:01:25 ID:dL2rmUOX0
細川捕手
51代打名無し@実況は実況板で:2006/08/08(火) 13:02:57 ID:5Ikp/tj/O
>>49インボイスSEIBUドームで仕事してて鳥肌立ったよ
炭谷捕手
52代打名無し@実況は実況板で:2006/08/08(火) 15:19:54 ID:Zg66ptbV0
hosyu
53代打名無し@実況は実況板で:2006/08/09(水) 00:45:47 ID:DVU+Rca0O
補習
54代打名無し@実況は実況板で:2006/08/09(水) 14:26:57 ID:XQpFoQJF0
hosyu
55代打名無し@実況は実況板で:2006/08/09(水) 20:51:03 ID:/xHa5+2FO
ほしゅ
56代打名無し@実況は実況板で:2006/08/10(木) 00:16:29 ID:TW//inylO
保守
57代打名無し@実況は実況板で:2006/08/10(木) 11:21:35 ID:q/iyaw9V0
hosyu
58代打名無し@実況は実況板で:2006/08/10(木) 16:17:57 ID:OioUwL/RO
捕手
59代打名無し@実況は実況板で:2006/08/10(木) 17:07:10 ID:zK7mAKmGO
age
60代打名無し@実況は実況板で:2006/08/11(金) 02:35:02 ID:AaDMXcTfO
保守
61代打名無し@実況は実況板で:2006/08/11(金) 12:54:49 ID:zMVwEHYxO
捕手
62代打名無し@実況は実況板で:2006/08/11(金) 14:38:17 ID:a5kVPJgz0
保守
63代打名無し@実況は実況板で:2006/08/12(土) 01:16:11 ID:VO48wrgRO
捕手
64代打名無し@実況は実況板で:2006/08/12(土) 23:29:33 ID:eyNTck8+0
65代打名無し@実況は実況板で:2006/08/13(日) 03:22:20 ID:TuI/CP6VO
66代打名無し@実況は実況板で:2006/08/13(日) 12:43:31 ID:K86CTheD0
67代打名無し@実況は実況板で:2006/08/13(日) 12:46:19 ID:Lf7XC8oF0
貴はどうなるんだ
68代打名無し@実況は実況板で:2006/08/13(日) 23:50:52 ID:j1UzMe8rO
69代打名無し@実況は実況板で:2006/08/14(月) 03:53:51 ID:/feJ0QU4O
70代打名無し@実況は実況板で:2006/08/14(月) 15:51:11 ID:TRtbck8P0
71代打名無し@実況は実況板で:2006/08/14(月) 15:51:44 ID:Jz7OZUi4O
72代打名無し@実況は実況板で:2006/08/14(月) 21:38:35 ID:5/sd8VuqO
カブレラはどうしてるんでしょうね...|ω・`)
あと指名された銀ちゃんとか。
73あぼーん:あぼーん
あぼーん
74代打名無し@実況は実況板で:2006/08/15(火) 18:59:11 ID:x9LpkeF3O
>>73釣り??晒し??
75代打名無し@実況は実況板で:2006/08/15(火) 23:43:11 ID:IQscH0mSO
保守
76代打名無し@実況は実況板で:2006/08/16(水) 11:59:37 ID:3GBpX4uH0
hosyu
77代打名無し@実況は実況板で:2006/08/16(水) 12:46:15 ID:Sm9SehcaO
ほしほしゅ
78代打名無し@実況は実況板で:2006/08/17(木) 00:08:39 ID:+45ytuP9O
保守
79代打名無し@実況は実況板で:2006/08/17(木) 12:31:21 ID:/U4RmvK80
hosyu
80代打名無し@実況は実況板で:2006/08/18(金) 01:00:42 ID:2rZljVoxO
81代打名無し@実況は実況板で:2006/08/18(金) 11:43:20 ID:JSBLaCyp0
82代打名無し@実況は実況板で:2006/08/18(金) 23:57:40 ID:wOPB/4Cx0
83代打名無し@実況は実況板で:2006/08/19(土) 11:41:02 ID:QHpVpDga0
84代打名無し@実況は実況板で:2006/08/19(土) 14:03:44 ID:R2Ul8hlg0
85代打名無し@実況は実況板で:2006/08/20(日) 00:11:22 ID:/UjO3Rd/O
86代打名無し@実況は実況板で:2006/08/20(日) 11:22:57 ID:VoDxVL14O
かーたーおーか かーたおーか
87代打名無し@実況は実況板で:2006/08/21(月) 01:30:41 ID:h1iJmdEnO
保守
88代打名無し@実況は実況板で:2006/08/21(月) 14:43:20 ID:Nh+lDp9z0
捕手
89代打名無し@実況は実況板で:2006/08/21(月) 23:46:28 ID:YuuZH5fi0
保守がてら、しりとりでもしてみる?
90 ◆NRzjVMYad2 :2006/08/22(火) 00:05:43 ID:g/bJmjEw0
58.逃げられないこの場所から(後)

かつて島民の生活を照らし出していた街灯の人工的な光。今は、平穏な日常とは無縁な光景を照らし出し、寒々しい。見慣れ、親しんだユニフォームでさえも、ひどく疎遠なものとして目に映る。
生垣の陰から対峙する五人の様子を窺っていた高山は、自身の身体が外気の冷たさ以上に体温が奪い去られていくような感覚に襲われ、いつの間にかしゃがみ込んでいた事に気付いた。
そのまま、身を守るようにショットガンを抱き込み、身体を丸める。
田原の不審で不可解な態度や行動の裏に、それだけではないなにか、言葉にする事は難しいが、感じる事はできるなにかがあった。それを確かめたいと思ったから、高山は今この場所にいる。
孤独や不安、弱気が作り出した心の隙間から覗いたものは闇だけではないのだと、確かに感じたと思えた熱をともなう光。
今は再びそれを見失いそうな息苦しさを堪えようと、ユニフォームの胸元を強く掴み、拳を押し付ける。
得意そうに人を殺したと語り、仲間を殺さないかと誘い、冗談でもなく平然と「死ね」と言う。水田の吐き出す言葉は毒だ。撒き散らされ、誰彼構わずじわじわと侵し、傷つける。
このゲームが曝け出させた人の心が奥底に内包している闇に、闇に含まれる毒に、これまでその存在にさえ気付こうとはしていなかった、全く免疫の無い毒気にあたり、吐き気がした。
水田と栗山――彼らは危険だ。
そして水田の言葉を真正面に受けても怯むことなく動ける田原の言動は、高山が感じた事が間違ってはいないことの証左に思える。
それが分かった今、自分がやるべきことはなんだろう?高山は自分自身に問い掛ける。
仲間を殺さなければ生き残れないルールは、従わなければならないものとして依然として自分達を縛り付けている。どうにかできるものではない。
このままこの場所を立ち去り、水田達が仲間を殺して減らしていくことを歓迎するべきかもしれない。
ふと、悲しそうに高山を見送った赤田の顔が思い浮かぶ。西口と片岡は仕方がないと割り切っていたようだが、彼らもこれといった武器は持っていなかったようだ。
もし、彼らが出会ってしまったら?特に人のいい赤田などは、ひとたまりもないだろう。
91 ◆NRzjVMYad2 :2006/08/22(火) 00:07:08 ID:g/bJmjEw0
田原達も多少優位にことを運んでいるようだが、一歩間違えれば危険な状態だ。
殺さなければならないことに変わりがないならせめて、確実に殺人者だと分かっている二人を倒して、高山を信じてもいいと思ってくれている人達の危険を遠ざける。
延いては自分の安全にも繋がるはずだ。殺人者ばかりがこの島を徘徊する状態になるのは、やはりぞっとしない。
首を伸ばし、街灯の下の状況をもう一度確認する。
水田は伊東に抑えられているし、栗山は銃を手にしているが撃つに撃てずにいる。二人とも高山に背を向けている。そっと近付けば後ろを取れる。
(後から撃つなんて卑怯かもしれないけど、確実に倒さないと)
今こそ撃たなくてはならない。ショットガンを杖に立ち上がり、生垣の陰から進み出た。

最初に高山に気付いたのは伊東で、目配せで田原に報せた。田原は一瞬驚いた顔をしたようだが、来るなというように首を振り、何事も無かったかのように水田に話し掛けた。
水田達の注意を引きつけてくれている。その間にこの場所を離れろと言いたいのだと理解できたが、ここは逃げてはならない。
ショットガンをしっかりと握り、注意深く52と45の数字に近付いていく。
「さっさと撃たんかい!やらなきゃならんことあるなら、分かるやろ!」
水田の叱咤に栗山の背中が揺れた。深呼吸するように肩をあえがせ、一度は銃口を引き上げたが、逡巡を表すようにまた下を向き、銃弾の代わりに声を搾り出す。
「監督、田原さん――俺、撃ちませんから……二人を放して下さい。俺が誘っただけで……」
仲間を殺しておいて何を都合のいい事を言っているのだろう。田原達も彼らを許す筈が無い。
水田にとっても栗山の発言はおかしなものだったらしく、肩を震わせ、くつくつと笑い出した。ひとしきり笑うと、その余韻を引き摺りながら、嘲る。
「見逃して貰えると本気で思うとるんか?俺もお前も、人、殺しとるんやで?さんぺーかて同罪や。お前がウエのこと撃つの止めもせんで、ぼけっとしとったんやろ――ああ、そうか、さんぺーが殺せ言うたんか?」
「さんぺーは、関係あ――」
「ほれ、早せんと、田原さんがさんぺーのこと撃つかもよ?せめて友達の手で送ったれや」
「ミズ、やめっ!」
92 ◆NRzjVMYad2 :2006/08/22(火) 00:07:51 ID:g/bJmjEw0
栗山の反論を封じる水田の挑発と田原の制止の声が飛び交う。項垂れた中村は田原に腕を取られていなければ、崩れ落ちてしまいそうになっている。泣いているのかもしれない。
水田は毒をはらんだ言葉で自分を守ろうとしている。高山には分かる。刺々しい態度や言葉で自分がそうしたから。
そして、それでは自分を守ることはできないこと、周りも自分も傷つけ、見失うだけなのだと今は分かっている。水田が自分を傷つけているように見えてしかたがなかった。
(同情してどうするんだよ)
高山が頭を振り、気持ちを切り替えようと努める間も、水田は栗山を追い立てる。
「友達は殺せません――か?そうやって選びよるんか?何様のつもりや。誰かて関係あらへんのやろ!」
水田も栗山も殺人者で、中村もその仲間――とはいえ、中村と水田を助けようとする栗山にさえも、ここまで容赦の無い攻撃的な言葉を浴びせる真意が分からない。
ただ、その場を満たす不穏な空気が濃度を増し、絡みついてくる。
やはり逃げた方が良かったかもしれない。高山は少し、後悔する。
(いや、きっと、大丈夫、田原さんもいるし)
伊東に今にも押し切られそうな水田の声が、苦しげに歪み掠れながら「覚悟の程をみせてみい!」と吐き出される。直後、左足が滑り、膝をつく直前で踏みとどまる。
もう口を開く余裕は無いようだ。
のろりと栗山の腕が上がる。すぐ目の前まで近付いたその背が、肩が震えている。いつでも撃てるようにショットガンを構え、52の数字に狙いをつけた高山に空気の振動で伝わるほどに震えている。
震えているのがどちらなのか分からなくなりそうで、落ち着けと何度も自分に言い聞かせながら、なおも距離を詰める。あと、もう少し――。
その時、名前を呼ばれた。

「キュー、なんで、こっちに来るんや――俺のこと、殺しにきたんか?」
意外の一言に尽きた。高山はなんと反応すればよいのか分からず、ただ不思議そうな顔をしている田原と見つめ合ってしまった。
「先刻のこと、怒っとるんやないの?」
どういう勘違いなのか。理不尽な問い掛けに高山は呆気にとられた。
「…………違います」
93 ◆NRzjVMYad2 :2006/08/22(火) 00:09:56 ID:g/bJmjEw0
曖昧に首を傾げた田原を凝視したまま、脱力を堪えてやっとそれだけ言えた。
「とにかく、今は取り込んどるし、ここは危ないから、また後で……」
高山をこの場から遠ざけようとする言葉に強引に割り込み、気持ちと共にショットガンを構え直す。
「全部、聞いていました――説得なんてできると思っているんですか?」
乱入者に背後を取られた栗山が見えない背後を探ろうと落ち着きを無くしている。早く撃たなくてはならない。手早く弾薬を装填する。
予想以上に大きく響いたショットガンの操作音に一番驚いたのは、おそらく高山だ。人を殺すという行為が一気に現実味を増したように感じられ、怯んだ。
湧き上がる抵抗感はすぐに、胃の辺りが冷たく重くなるような感覚となって、決意を鈍らせる。
落ち着かなければと、薄暗い灯りが照らし出す周囲の様子を改めて見回す。
困ったように高山を見ている田原。俯いた中村。無表情な伊東。二人の殺人者の背中。最後に栗山が殺したと言っていた上本の死体が視界に飛び込んでくる。
「こいつら、人殺しだ」
彼らを倒すためにここに来た。抵抗感を押し退け、その決意をあとは引き金を引くだけになったショットガンを持つ腕に込める。
「高山」
静かに諌める口調で名前を呼ばれる。
「ここは俺の意地に付き合うてくれんか――説得なんて、柄やないけどな。ま、正攻法もありやな」
台詞の後半は独り言のようだった。静かな声はそのまま、今にも振り向こうとする栗山の機先を制する。
「なあ、クリ、訊いてもエエか?――その覚悟は誰の何のための覚悟や?」
栗山の沈黙を聞き、田原は続ける。
「助けたい相手のことちゃんと見えとるか?自分の事や自分の周りの人を大切に出来んやつは、誰も助けられんよ」
向き合う言葉を探る口調には殺人者への嫌悪も恐怖もなく、諭すようにゆっくりと紡がれていく。
「こんなわけの分からん時や、正直、エエ、悪いは簡単には言えんと思うし。なんとかしたい思うんも、まあ、分かる。けどな、目のつけどころが高すぎや。
隣におってくれる人のことを見落としとるよ」
食い入るように田原を見つめ、その言葉を聞く栗山は、どう受け止めているのかやはり無言だ。
「ただ生きとりゃええゆうものやないやろ――つまりな……さんペーやミズんこと、泣かすな」
94 ◆NRzjVMYad2 :2006/08/22(火) 00:10:46 ID:g/bJmjEw0
返答は無い。その身体はもう震えてはおらず、やがて高山が向けているショットガンにも頓着せず、身体の向きを変えた。
銃は離さないが両手をだらりと下げ、ふらふらと後退りしていき、街灯の光が届くぎりぎりの所で足を止める。
その時になって初めて栗山の顔を見た。栗山は高山が予想もしていなかった表情を造り出していた。
それは微笑だ。
暗闇を背に栗山はその場にいる一人一人の顔を順番に見つめながら、微笑んでいる。儚く、透明に、そのまま背後の闇に溶け込み消えていくように。
その微笑の意味が分からず当惑しているところに、すっと背筋を伸ばし栗山は言った。
「水田さん、手伝ってくださって、ありがとうございました」
栗山の方を見る余裕の無いらしい水田に向かって軽く頭を下げる。
「これでまた一人減ります」
伊東、田原、高山へと視線を巡らせ、中村で止める。
微笑にふわりと寂しさを乗せ、栗山が手にしていた銃を持ち替えた。銃口が向く先は栗山自身。
「さんぺー、ごめんな」
一連の流れは定められた所作であるかのようで、滞ることなく進む。
ゆっくりと引き金に掛けた指に力が入っていく。
最後の一息を吸い込み、瞳を閉ざす。祈りを捧げるように――。
味方が打たれた滞空時間の長いホームランを外野の守備位置から見ているみたいだった。全てが克明に見えているのに、手が届かず、魅入られ、目が逸らせない。
スタンドに吸い込まれていく白球を為す術もなく見送る。しかし、沸き起こるのは歓声でも溜息でもなく、銃声――。
「生きろ」
訪れを確信した結末に、これ以外はないタイミングで楔を打ち込む声があった。
栗山の動きが止まり、目を開ける。声の主――伊東はぐるりと全員の顔を眺め、続けてこれみよがしに大きく息を吐いた。
「俺は、土井さんと、お前達の親にあわせる顔がないな」
発せられた声の陰惨さに、高山は身体が硬直するのを覚え、夜気は痛いほどに静まり返った。
次の瞬間、伊東が腕を返し、釘バットからハンマーを引っ外した。体勢を崩した水田に肩からぶつかる。
「うわっ!」
95 ◆NRzjVMYad2 :2006/08/22(火) 00:11:42 ID:g/bJmjEw0
弾き飛ばされてきた水田を受け止める形になった栗山に向かって、すかさず田原が中村を突き飛ばし、三人は縺れるように倒れ込んだ。
その隙をついて田原が三人を飛び越え、事態の急展開についていけず立ち竦んだままの高山の所に来た。がしっと左の手首を掴まれる。痛い、と思ったが、声も出せなかった。凄い力で高山を引きずって田原は走り出す。
水田が何か叫んだが、振り返る余裕は無かった。
まともに走れば高山のほうが速いのだが、この時はなぜか敵わなかった。夜の闇に紛れ込むように集落の中を田原に引っ張られて、転ばないように交互に左右の足を前に出し続ける。それしか出来なかった。

集落の片隅でやっと高山の手首を離したと思ったら、田原は民家の壁にぶつかった。寄りかかったというべきかもしれないが、高山には体当たりしたようにしか見えなかった。
「吐きそうや……」
そのまま田原は地面にずり落ち、座り込んで荒い息を繰り返す。
「なんなんや、あの捨て身っぷりは……死ぬ覚悟やて?そんな下らんもんのためにウエは死んだんか?他の奴らも殺してまわったんか?あいつらは……しかも泣きよるし……泣きたいんはこっちや――」 
乱れた呼吸にもかまわず、耐えられないとばかりに言葉を吐き出し続け、息継ぎに失敗して咳き込んだ。
ぐったりと壁にもたれ掛かり、しばらく俯いていたが、急に高山のことを思い出したように顔を上げた。
「危ない真似するなよ」
自分の事を棚に上げた発言に、「どっちが!?」と叫びたかったが「先刻は悪かった。ごめんな」と口をきくのも辛そうな息の中で謝られて、何も言えなくなり、高山も息を整える事に努めた。
お互いの呼吸が落ち着くの待って田原に声を掛ける。
「あの三人、どうするんですか?ほっといていいんですか?」
「……やめて欲しいけどな。自分で気付かなどうしようもないと思う。あんなん逃げとるだけや」
心底げっそりと疲れた声が苦いため息をついた。
「計画が雑だ」
憮然とした顔で現われた伊東が、開口一番、田原に向かって文句をつけながら足元にカバンを二つ落とした 。
「臨機応変でいくしかないと、おっしゃっ――」
「だからといって、勝手に走るな。死にたいのか」
96 ◆NRzjVMYad2 :2006/08/22(火) 00:12:27 ID:g/bJmjEw0
伊東もまた息を整えながら、言い訳するなとばかりに田原の言葉を遮った。
(なんで一緒にいるんだろう?)
理解に苦しむ。よく分からない関係だが、確実に田原の苦労が偲ばれる。
「すいません。忘れていました」
もう一度、何故か嬉しそうに「すみませんでした」と謝る田原は、苦労を苦労とも思っていないようで、この人らしい。
腰を上げようとしている田原に右手を伸ばす。
「先刻の――寺での……びっくりしたけど、なんとなく分かりました」
「ホンマに?あれで?」
訝しげに呟き、高山の顔と差し出した手を交互に見ている。自分でやっておいてそれはないんじゃないかと、高山は思う。
田原をみていると、確かに感じたと思えたものが揺らぐのか、固まるのか――いまいち掴みきれない。口に出して確かめることにした。
「あの、あれって、俺のことを心配してくれたんですよね?信じてもいいと思ってくれたんですよね?」
驚いたように瞬きを繰り返し、高山を見つめる。
「俺は――田原さんのこと、信じてもいいと思っています」
「あのな、キュー……そういうんは、帰ってから彼女にでも言えや。俺に告白すんな。こっぱずかしいやろ――まあ、ええけど……」
なおもなにやらぼそぼそと呟きながら、田原は高山の手を取り、立ち上がった。きっとまた自分のことを棚に上げたことを言っていると確信し、訊き返さないでおくことにした。
伊東が足元のカバンを一つ取り上げ、そのポケットに折り畳んだ紙を差し込むと「好きなようにしてみろ」の言葉と共に高山に押し付けてきた。
「なんですか?」
高山の問い掛けも、伊東の行動が気になったらしい田原の尋ねるような目も無視して、伊東は自分のカバンを担ぐと、踵を返し、歩き出す。
田原もまたカバンを担ぎ直し「じゃあ、またな」と高山に声を掛け、伊東の後を追う。
「待ってください。一緒に行ってはダメですか?」
「それはダメだな」
「それはアカンよ」
最初に寺で出会った時に感じた、近寄りがたいような緊張感を漂わせる背中から返った異口同音の厳しい拒絶にたじろいだ。
そのまま行ってしまうかと思いきや「ああ、そうだ。監督――」と田原が伊東を引き止め、再び田原は高山の前に立った。
97 ◆NRzjVMYad2 :2006/08/22(火) 00:13:21 ID:g/bJmjEw0
「すまんけど、色々と事情が込み入っとるんよ」の言葉と共に、伊東に渡したライターは田原を経て高山の元に戻ってきた。
今度は何も言わずこちらに背を向けた田原は軽く手を振る。どう応じるべきか考えている間に、その背中は遠ざかっていく。
暗闇に消えていく二人を見送り、一人取り残される。
途端に寒さが襲ってきて、見送る側の心境を噛み締めながら、ライターに残る温かみを見失わないように強く握りしめた。
「ほら、ここにおりましたよ。ヒロユキさん」
「勘がいいよな」
人の声に振り向くと「なんもしませんよ」と金盥を振りながら、こちらの警戒心を解く笑顔を見せる中島と高木浩がいた。

【残り41名】
98代打名無し@実況は実況板で:2006/08/22(火) 01:33:01 ID:x7kU4O58O
職人様、GJ!

高山。。。大丈夫かぁ(>_<。
99代打名無し@実況は実況板で:2006/08/22(火) 21:11:05 ID:sqy0rXRk0
職人様乙です!

田原・伊東vs水田は引き込まれた・・・水田はこれからも殺すのかなぁ・・・
100代打名無し@実況は実況板で:2006/08/23(水) 02:21:19 ID:kb/gI5TzO
職人さま乙です!

ほしゅほしゅ
101代打名無し@実況は実況板で:2006/08/23(水) 10:26:23 ID:/EB5vh1Y0
職人様、超GJです!!
水田達…これからどうするんだろ…
102保管庫 ◆DTczIOdYo2 :2006/08/23(水) 15:02:41 ID:zty3u2Xh0
職人様方いつも乙です。
58.逃げられないこの場所から(後) まで保管しました。
前スレの不足部分も無事保管できました。>>22さま、ありがとうございました。

初代スレの最後にあったおまけを忘れていたことに今更気付きました……
皆様本当に申し訳ありません。
一応外伝的なものとして、その他という扱いにしておきましたが、
もし保管について何か意見がありましたら言ってくださいませ。
103 ◆rZmes0SmeE :2006/08/23(水) 23:37:15 ID:O3YhSARK0
59.ニヒルになりきれないアヒル

複数人数の立てる足音と、少しひそめられた話し声がゴーストタウンと化した人気の無い中心街をざわめかせる。
山と海の間の狭い平地に詰め込まれた四角い低層のビルと、その合間の歯の抜けた後のように拡がる更地に、これではそこらの地方都市と大して変わらないじゃないかと文句を言いたい気分になり、後藤武は期待はずれという顔をする。
「あまりのどかな漁村って感じじゃない。」
松坂の印象も似たようなものだったのだろう、期待はずれというニュアンスのこもった感想を口にした。
「土地が少ないから上に伸びるしかないんじゃないか?役所はこのまま真っ直ぐ行けばそれらしいのが見えてくるはずだが、ああ、あれかな?」
石井貴は前方の小奇麗な建物を指差した。周囲の無個性な建築物のなかで、少しはデザイン性を考えられたらしい茶色のビルの外観は、それなりに洒落て見えた。煉瓦を敷いた前庭に冬枯れの立ち木が並び、建物の入り口へ一行を招いている。
和田が重めの分厚いガラス戸を押し開ける。いかにも役所らしい飾り気のないロビーにはカウンターが並び、衝立には色褪せたポスターが貼られている。どうやら納税を促す趣旨のものらしい。荒廃を物語る茶色に枯れた観葉植物の孤独な立ち姿が余計に哀れを誘う。
昔はここで各種行政サービスの手続きを行っていたのだろうが今は訪れる人もいなければ、待っている人もいない。
机や椅子は残っていたが書類の類は片付けられたのか、机の上は見たところ何も残っていないようだった。それでも椅子があるのは幸いだった。間仕切りを回りこむと、うっすら積もった埃を払い椅子に石井貴は腰を下ろした。
「じゃ、お前らよろしくな。私はサボらせてもらうよ。」
さも当然とばかりに、石井貴は椅子にふんぞり返る。えー?と軽いブーイングが松坂の口から漏れる。
「俺達はそうだな、まず放送機材があるのか、そして使えるのかどうか見てみよう。ダイスケ達はマニュアルがあるかもしれんから探してくれるか?」
104 ◆rZmes0SmeE :2006/08/23(水) 23:38:24 ID:O3YhSARK0
サボりを決め込んだ石井貴とふざけてブーイングを飛ばす松坂。普段通りの振る舞いに微苦笑を浮かべてから和田が指示を出した。

別の階へと手がかりを探して消えていった5人を見送ると、再び、ベアリングがつぶれ回らなくなった回転椅子に腰掛け直す。
難しい顔のまま腕組みして石井貴は目を閉じる。暗い照明の下、誰にも見せなかった疲労が色濃くその厳つい顔に浮かんでいた。そして誰にも話せなかった思いが水底から浮かぶ泡のように心の面に浮かび上がる。
私は仲間を信じるといった。だが本当に仲間を信じようとしてこの行動をとっているのだろうか?むしろ、自分が撃たれることによって、何かをあぶりだそうとしているのではないか?
何を?自問する石井貴、答えは唐突に閃いた。――悪意を。
自分の思いつきにぞっとして石井貴は閉じていた目を開き、頭を上げる。
もし悪意の有る者を炙り出そうとしているのなら、仲間を信じると言った私が、最も仲間を信じていないのかもしれない。
ひどい矛盾に石井貴は苦虫を噛み潰したような顔になる。仁王が懊悩することがあるなら、きっとこのような表情をするのだろう。
そして何かを思い出したように石井貴は立ち上がり、自分に手渡されたカバンを開ける。中から出てきたのは与えられた武器、緩く湾曲した一振りの日本刀だった。
鯉口を切り、高く澄んだ金属音を立てて刀を抜いた。蛍光灯の明かりを反射して、研ぎ澄まされた刃が白い輝きを見せた。
斬るべきものと心を定め斬り捨てる覚悟と人を斬るために刃を曲げずに振り切る技量を兼ね備えていないとおそらくまともに扱えない代物がそこにあった。
(まるで、私のことを言い当てられているようじゃないか?)
ゲームを止めさせたい、その意志があれど、それを実行するだけの技量がない以上、これは実用性のないただの美術品、博物館の陳列品でしかない。
白い光を睨む。蛍光灯を反射する冴え冴えとした光は人工的で無機質だ。それに悪意を見るのは石井貴自身の感情の投影だ。
「いかんなあ。」
105 ◆rZmes0SmeE :2006/08/23(水) 23:50:06 ID:O3YhSARK0
皮肉げにも聞こえる口調で石井貴が声に出す。決心が揺らぐのはそれだけ今が絶望的だからだ。だが何かしないと状況は変わらないし、そしてこれが正しいのかなど結果が出ないとわからない。
不意に足元から崩れ落ちそうになり石井貴は机に手をつき体を支える。こいつの名前を知っている。迷いだ。今まで表に出せなかった思いに信じてきた己の強靭さが揺らぐ。
「違う。」
石井貴は鼻で笑い飛ばす。
「私の役割はただ、無謀でもいい、何かを照らす灯火となることだ。たとえ灯火に照らされるのが人の醜さであったとしても、その灯火が人の正気を呼び戻すひとつの手がかりになれればそれでいい。だから迷うな、石井貴。」
石井貴は自分に言い聞かせるように小声で宣言する。ピッチャーが怖気づいてちゃ試合にならないな、そう思いながら日本刀を鞘に納め、名簿と筆記具を取り出す。それを机の上に置くと、回らない回転椅子に腰を下ろす。そして名簿を前に難しい表情で煩悶する。
(私は何を残せる?何を残したい?)
纏まらない思考のうちに石井貴は両手を組み目を閉じて、死者と生者の名が記された名簿を前に無言で祈りはじめる。
(私に力を貸してくれ。)
長い祈りの後、震えの止まった手で何度か消したり書き直したりを繰り返した。そして名簿の裏に書き付けた短い草稿が仕上がった。
「皆よく聞いてくれ。時間は限られているし、取れる手段も限られている。だが時間も手段も何もないわけじゃないだろう。集まろう、力を合わせよう、なぜなら俺達は、ずっとそうやって戦い抜いてきた筈だからだ。
望みは叶う、よりよい方法は必ずある。だから皆、武器を置いて集まろう、そして話し合おう。そうすれば俺達は今日よりはましな明日を迎えることが出来る。集まろう、協力しあおう、連帯しよう、信じよう、そして戦うべきものと戦おう。」
これでいいだろうかと、何度も目で読み返す石井貴にわざと階段を高い足音を立てて降りてきた和田が、その足音を訪れの合図にして離れた場所から声をかけた。
「貴さん、すみません。機械は見つかったんですが動かすにはあともう少しかかりそうです。」
「ああ、構わない。すぐにできるとは思ってないからね。」
106 ◆rZmes0SmeE :2006/08/23(水) 23:50:53 ID:O3YhSARK0
和田の声に頭をあげて石井貴は普段の毅然とした態度で答える。
「それから、ダイスケからこれを貴さんに渡してくれって。」
和田から差し出されたのはアヒル隊長と書かれた襷をかけたビニール製のアヒルだった。和田はニヤニヤしている。
「お前らね…。真面目に探してくれよ。」
そう言いながらも石井貴の口元は確かに笑っていた。
「まあ確かにニヒリストじゃないよ、私は。アヒルはありがたくもらっておくよ。その代わりといっちゃなんだが、これを持っていってくれないか。」
鞘に納められた日本刀を石井貴は差し出した。和田は困惑した表情を浮かべる。
「使いませんよ。」
和田の声には非難の色があった。和田の表情に慌てたように石井貴は足りない言葉を付け足した。
「そうじゃないんだ。こいつをね、預かってもらいたい。意志と技量を持つ者に、こいつを持っていってもらいたいのさ。
このゲーム、必ず勝てると私は信じているよ。だから、ゲームを解きたいという意志とゲームを解く技量を兼ね備えた人間に、私の、このゲームを止めたいという意志を伝えて欲しいのさ。
これは私の我侭だけれど、べんちゃんにそいつを探し出して欲しい。だから、預かってくれないか。」
石井貴が何かを伝えようとしてもがいているのはわかるが腑に落ちない。和田は聞き返す。
「意志ですか?」
「そう。こいつは今のところ、ただの美術品だ。実用品となるには力を行使する揺るぎない意志と行使するための技量が必要なのさ。ところが、だ。意志は別に善なる意志である必要もないんだな、これが。悪意のほうが、もしかしたら揺るぎないかもしれない。
だが、揺るぎない悪意に負けたくはない。そこでだ。私の意志を伝えることが出来てかつ、説得力がある人間と思うとどうもべんちゃんしか思いつかなくてね。仕事を増やして悪いが引き受けてくれないか?」
意味ありげに石井貴は笑う。石井貴の笑いに含まれた意図にようやく和田は気付いた。苦笑いを浮かべながら和田はその意図を口に出す。
「何か仕事があれば迷う必要はない、そんなに頼りないですかね?」
107 ◆rZmes0SmeE :2006/08/23(水) 23:51:35 ID:O3YhSARK0
他愛無い悪戯がばれた子供のように悪びれた様子もなく、石井貴はにやにやしている。
「弱気になっていたから、それなりに心配しているんだよ。迷う暇もないくらい厄介な仕事を任せられれば、べんちゃんだって迷わないだろう?」
机の上のビニールのアヒルの、つぶらに描かれた目がそんな二人を見ていた。
【残り41人】
108代打名無し@実況は実況板で:2006/08/23(水) 23:57:25 ID:F1Ts9vaY0
職人様乙です!
貴・・がんばれ。
109代打名無し@実況は実況板で:2006/08/24(木) 00:10:34 ID:WEXzFLWZO
職人さま保管庫さま乙です!!
貴兄貴カッコイ(・∀・)イ!!
110代打名無し@実況は実況板で:2006/08/25(金) 00:18:06 ID:iQNdKUeq0
ほほほほほしゅ
111代打名無し@実況は実況板で:2006/08/25(金) 00:38:31 ID:lz6Wg29e0
職人さん乙です。

姉貴様、超ガンガレ!
112代打名無し@実況は実況板で:2006/08/25(金) 02:00:12 ID:lM6oA9RfO
>>89 やりますか



かたおかやすゆ"き"
113代打名無し@実況は実況板で:2006/08/25(金) 05:45:30 ID:ExV2hCo7O
わざわざ球場に足を運んでくれ応援にて盛り上げてくれる応援団に対し事前通達なしの応援規制
最低ですね。
こんな事は通常社会でありえませんよね
ロッテファンはあきれてます
http://c-docomo.2ch.net/test/-/base/1156037867/i
114代打名無し@実況は実況板で:2006/08/25(金) 16:25:37 ID:DCsZQAqxO
>>112
ゆ"き"って事は。。。

次は
ゆきざわ ひさた"か"


115代打名無し@実況は実況板で:2006/08/26(土) 03:40:11 ID:fpNw4d29O
カブレ「ラ」
116代打名無し@実況は実況板で:2006/08/26(土) 19:36:37 ID:sw2RS0NoO
保守

ラミレ"ス"

117代打名無し@実況は実況板で:2006/08/27(日) 16:25:28 ID:CPKUE8h1O
保守

すみたにぎんじろ「う」
118代打名無し@実況は実況板で:2006/08/27(日) 16:34:51 ID:lo4IuoKmO
性豚早く身売り移転汁
119代打名無し@実況は実況板で:2006/08/27(日) 22:23:31 ID:HpZKwHsDO
うしじまかずひ"こ"
120代打名無し@実況は実況板で:2006/08/28(月) 19:42:40 ID:F2vb4IgWO
こばやしせい《じ》

んで、保守
121代打名無し@実況は実況板で:2006/08/28(月) 19:48:01 ID:y7qAh/cdO
ジンター
「タ」ね
122代打名無し@実況は実況板で:2006/08/29(火) 11:57:09 ID:IDznWyqgO
たかやまひさ"し"
123代打名無し@実況は実況板で:2006/08/29(火) 21:13:27 ID:DAK8OgBVO
しょうつえい"じ"
124代打名無し@実況は実況板で:2006/08/30(水) 19:53:44 ID:dRhe77hZO
じぇふりーりーふぁー

「あ」
125代打名無し@実況は実況板で:2006/08/30(水) 23:50:34 ID:G1DauVruO
あいこうたけ「し」
126代打名無し@実況は実況板で:2006/08/31(木) 00:14:18 ID:PUyyFeNGO
しょうだいつ「き」
127代打名無し@実況は実況板で:2006/09/01(金) 00:04:21 ID:5l9eNZ890
きだまさ「お」
128代打名無し@実況は実況板で:2006/09/01(金) 13:14:37 ID:qqVP3IQ/O
おだこうへ「い」
129代打名無し@実況は実況板で:2006/09/02(土) 01:47:20 ID:jG2i4c9ZO
いしげひろみ「ち」
130代打名無し@実況は実況板で:2006/09/02(土) 21:12:19 ID:Lrz7mrM3O
ちゃん ずーじゃ

次は『や』
131代打名無し@実況は実況板で:2006/09/03(日) 06:16:21 ID:kYtAJO0dO
やまだたろ「う」
132代打名無し@実況は実況板で:2006/09/03(日) 12:03:39 ID:UqIb7yhSO
うちだきょう「こ」

そして保守
133代打名無し@実況は実況板で:2006/09/04(月) 01:56:12 ID:D7kRJS3nO
こさかまこ「と」
134代打名無し@実況は実況板で:2006/09/04(月) 02:54:45 ID:d4SMfWkoO
とりやべけんい「ち」
135代打名無し@実況は実況板で:2006/09/05(火) 01:54:56 ID:Ql0InrFGO
ちゃんずうじ「ゃ」
136代打名無し@実況は実況板で:2006/09/05(火) 11:39:26 ID:xB7RTmLzO
やまざき ひろゆ「き」
137代打名無し@実況は実況板で:2006/09/05(火) 15:27:27 ID:Hs7T0iTgO
きよはらかずひ「ろ」

ほしゅ
138代打名無し@実況は実況板で
ろめい「し」