「ミ・・・チヨ・・・」
しぼりだしたようなかすかな声。それだけを呟くと、なにかをおさえつけるかのように
ぐっと唇を噛んだ。強く強く噛み締め、こちらもまた唇の端から新たな血が流れていく。
「ミ・・・チ・・・」
脳の金属片が熱くなる。自分の中の何かがそれに歯向かおうとしている。
命令が薄れていく。先程までそれだけが自分の頭を支配していたのに
たった一つの愛しい名前がサブローの頭を新たに占拠しようとしている。
もう一度、その名を口にしようとした瞬間、
頭から射抜かれたように電流が一気に足先まで駆け巡り、サブローの身体がびくんと伸び上がった。
金属片がそれを許さない。それは生き物のように怒りの感情でもあるのか
明らかに先程より熱を持っていて、頭から自分の神経をじりじり燃やしていっているように思えた。
そうじゃないだろう?
金属片はそういいたいのか、今度は軽い電気をサブローに与える。
おまえのすべきことはひとつだろう?
ぱちん、もう一度。
そう、おまえのすべきことはたった、ひとつ。
ばちん。
最後に、強く。サブローの頭ががくん、と後ろにたれる。
そのままの姿勢でサブローは身体の奥から全てをしぼりだすように、吼えた。
長く、大きく、なにもかもをそこから放出するかのように、息の続く限り、吼える。
咆哮は獣のそれに近かった。
充血し、濁った眼が前を見据える。
新たな命令はない。それでも、やるべきことはただひとつ。
(・・・ゴメンヨ・・・キミ・・・)
またかすかに声がしたような気がする。これは小坂の声なんだろうか。
それとも、別の誰かの声なのか?
自分で多数の引っかき傷をつけた耳を、忌々しそうに握る。
もう一方の手にはゲーム開始当初からずっと持っている剃刀の刃。
「じゃまを・・・するな・・・」
やりやすいように耳を思い切り外に引っ張る。
そしてサブローは剃刀の刃を耳に押し当て、ぎりりとのこぎりを使うように動かした。
「ジャマ・・・スルナ・・・」
何度も、何度も剃刀を押し当てる。
ぼとん、と肉片がサブローの足元に落ちた。
耳からはおびただしい量の血があふれたが、そのどくどくという脈の振動が
邪魔な声を完全にかき消してくれそうで、サブローの口の端には少し笑みが浮かんだほどだった。
やるべきことはわかっている。ただひとつ。それ以外のことは必要ない。
定時放送のようなものが聞こえたが、それもサブローにとってはどうでもいいことで
音声は限りなく遠くで聞こえ、風のように自分の脇を通り過ぎていった。
ぐっと足を一歩踏み出す。
「・・・コロス」
サブローが、呟いた。
投下キテタ━━(゚∀゚)━━!!
職人様毎度乙です!
エカワロスwサブロー怖いな…
職人さん乙です
保守age
208 :
もう決めてしまった(1/5):2005/09/11(日) 17:59:15 ID:xwuLLw1M0
本部を混乱に陥れるための作戦として、火事を起こすことを考えていた小宮山は、
そのための道具などを手に入れようと、禁止エリア以外のポイントにある民家を探すことにした。
歩きながらも、杉山のことが頭から離れなかった。
先ほど出会った、命の無いチームメイト。
この『試合』序盤に民家で高木の死体を見たときよりも、とても重い気持ちになってしまっていた。
理由は解っていた。
(俺が殺したからだ…)
高木の場合は、自分以外の何者かに殺されたことが解っていた。
しかし、杉山の場合は―――。
小宮山は自分を責めていた。
先ほどその感情を捨てた筈なのに、また湧き上がってくる。泉のように。
「それでも、生きなくちゃいけない」
「それでも…進まなきゃいけない」
信じ込ませるように、小宮山は自分に話しかける。
『グッド・イーブニンッ! 元気かー! それとも死んでるかー!
6時間に一度のお楽しみ、山本功児監督の島内放送だぞー!!』
今となっては忌々しい感情の対象でしかない山本の声が聞こえてくる。
(6時か…)
一度足を止め、辺りを警戒しつつ近くの木に凭れかかる。
放送によって物音が遮断され、動くのは危険だと判断したからだ。
木に凭れかかるときに、一瞬体全体から力が抜けた気がして小宮山は驚いた。
自分が思っている以上に、肉体が悲鳴を上げている。それを感じたからだ。
(オッサンになったな、俺も)
自嘲気味な考えが頭をよぎった。
『それではお前らがよく頑張った死亡者の発表から。
諸積0番、小坂1番、田中良平19番、橋本33番、川井34番、辻45番、
山崎46番、原井53番、青野58番、曽我部65番、ユウゴー66番、杉山93番!
以上12名だ。俺は大変満足しているぞー!
では続いて禁止エリアの、あ、おっとっと』
『……ふがああっ!?』
(何だ?!)
異常を感じて、小宮山は反射的に立ち上がった。
何かの物音がしたが、それが何なのかは解らなかった。
(まさか誰かが…?)
さまざまな思考が頭をよぎる。
自分と同じ考えの者が、既に本部へ突入しているのか。
それとも、内部で反乱が起きたのか。
(ともかく、今なら隙があるかもしれない…!)
どんな理由にせよ、山本に何らかの以上事態が起きたことは確かだ。
小宮山はそう判断し、ついにコルトガバメントに銃弾をこめた。
―これで、誰かを傷つけてしまうかもしれない―
一瞬、そんな考えが浮かぶが、慌てて取り消した。
(もう俺は杉山を追い詰めて、死なせてしまっている。もう汚れてしまったた俺の手を、
チームメイトのためにならもっと汚しても構わない)
小宮山はスタジアムへ向かって走り出した。
その瞬間、
キ――――ン!!
超音波のような高音が大音量でスピーカーから放たれた。
「ウッ…!」
弾かれたように、小宮山はその場に倒れた。
眩暈のような感触。
先ほどの雨でできたであろう水溜りの中に、顔が突っ込んでしまった。
バシャリ、と派手な音が立ち、水飛沫が少しあがった。
反射的に目を瞑っていたので顔は少し打っただけで済んだが、口に多少の泥水を
含んでしまった。
小宮山はすぐに起きあがり、まだ抜けぬ眩暈のような感触と戦いながらも、咳き込んで
水を吐き出した。
袖で顔を拭うと、小宮山は力をこめて立ちあがった。もう、そうでもしないと立ちあがれなかった。
「どんなに汚れても…。他のやつだけは…」
力を振り絞って、走り始めた。
212 :
名無しさん@そうだ選挙に行こう:2005/09/11(日) 18:03:20 ID:dbxLkEg6O
ワラタ
走りながら、先ほどの放送を思い出した。
山本は死亡者を12名だと言った。
諸積、小坂、田中良平、橋本、川井、辻、山崎、原井、青野、曽我部、ユウゴー、杉山。
(お前ら…、俺より若いのに…)
彼らとの思い出が、小宮山の頭の中に甦る。
この状況でそんなことを―そんなセンチメンタルなことを―考えている猶予は無いのに、
それでも小宮山は彼らのことを思い出していた。意識的にではなく、それはもう勝手に頭の中に
涌いてきたのだ。
もう彼らは戻ってこない。
それは解りすぎるほど解っていた。
(お前らの分まで生きると、俺は約束できない。でも…)
脳裏の中に、生存しているチームメイトのことが浮かんだ。
(他のやつらに、そう約束させられるように力を尽くす。それだけは、約束する)
息が切れる。
鼓動が激しい。
それでも、小宮山はスタジアムに向かって走り続けた。
彼は贖罪のために差し出すものを、自分のいちばん大事なものに決めていた。
いや、もしかしたら最初からそう決めていたのかもしれなかった。
久々投下でageてしまった…。ホントにすみません…。
そりゃ笑われますよね…_| ̄|○
目の前に現れた人物を見て、吉鶴は一人考え込んだ。
(ちょっと待てよ、昨日園川さんと電話したのに誰も出なかったよな・・・。)
「・・・おい。」
(昨日誰も出なかったのに、福沢さんといい、荘さんといい・・・。)
「・・・おーい。」
(次から次へと出てくるって事は、・・・ひょっとして新手のイジメ?)
「おーい、吉鶴、聞いてるか!?」
「はっ!?あっ、高沢さん!」
肩を揺さぶられて、吉鶴は我に帰った。
目の前にいたのは、高沢秀昭二軍打撃兼外野守備走塁コーチ(75)だった。
「す、すいません。」
吉鶴は思わず頭を下げた。
「まったく・・・。ところで福澤見なかったか?」
「福沢さん、ですか?」
なぜここで福澤の名が出てくるのか、と吉鶴は首を傾げた。
しかし、あまり深く考えずに思ったままを話した。
「さあ・・・。そのうち戻ってくるんじゃないですか?」
「つまり、ここにはいないのか?」
「ええ。」
「そうか・・・。ったく・・・!」
「ていうか、なんで高沢さごふうっ!?」
言うが早いか、高沢は乱暴に扉を閉めて、駆け出していった。
そのため、少し外に出ていた吉鶴の顔面と扉が激突してしまった。
「ううう・・・。」
吉鶴はその場にうずくまっていた。
「あっ、こいつはおいしそうだ!!」
痛がっている吉鶴の向こうで、荘ののんきな声が聞こえた。
「吉鶴くん、もなか見つけたから食べようよ、もなか」
「あ、あの荘さふぎゃあっ!?」
「おい、忘れてたけど荘さん見なかったか!」
吉鶴は何かを言いかけた刹那、再びずかずかと入り込んできた高沢に踏み潰されてしまった。
(ああ・・・、今日はこんなんばかりだ・・・)
薄れ行く意識の中で、荘ののんきな声が頭に響いた。
「まあまあ落ち着いて高沢さん。とりあえずもなかでもどう?」
荘さん相変わらずだなw
職人様乙です!
218 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/09/13(火) 04:51:21 ID:nyDNZt980
職人さん乙です!
小宮山ガンバレ
保守。
初芝はどうなったのか・・・。
堀さんが本格的に大ピンチなんだがどうなるんだろう。
こういちさんよ、どうかごぶじで・・
ほしゅあげ
職人さん乙
保守
224 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/09/15(木) 18:43:39 ID:7ebEf++c0
HOTUSIBA#6
捕手あげ
ほしゅ
保管庫さん一ヶ月近く更新ないけど大丈夫ですか?保守
潜水艦スレにはいたけどねえ
229 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/09/16(金) 23:59:48 ID:s60cimdr0
ほしゅはげ
「質問は許さない。嘘をつくのも許さない。
ただ、僕の言った事に答えてください」
右手に持った銃の引き金に手をかけ、銃口を真っすぐに黒木知宏に向けている。
内竜也は少しも表情を変えない。
どちらかというと細めの目が完全に据わって更に細くなっていた。
その瞼の奥の黒い瞳は微動だにせず、ただ黒木に焦点を合わせていた。
盛んに動いていたのはその唇ばかりである。
銃口を向けられた黒木もまた微動だにしない。
椅子に座って両膝の上にそれぞれ肘を置いたままで、少し顔を見上げるような姿勢。
内の様子を窺っているのか、端から見た様子では彼の心中を知ることはできない。
壁一面に飾られた山本功児の写真が彼らを静かに見つめていた。
黒木はじっと内の目を見据えていた。内は次の言葉を迷っているのか何も話さない。
内の構えた銃口だけが目に入るような、内の全身以上の視界の全ての範囲が見渡せるような。
そんな不思議な感覚を黒木が覚えた頃、何かが視界に入り、ふと目線だけを天井に移す。
「っ!?」
山本功児の巨大な顔があった。
天井いっぱいいっぱいに貼られた特大の写真が2人を生暖かい目で見守っていたのだ。
一瞬その顔に動揺を浮かばせた黒木を見て、ピクリと内の手が動いた。
「おっと、変なことは考えないでくださいよ」
「……別に、今のはそういうわけじゃないさ」
黒木が再び内の目を見た。
強い目だ、と内は感じた。
怯えや畏れといった弱々しさも、疑いや迷いといった後ろ暗さも無い目だと。
この男が自分に向けている目は、自分の思っていたその男のするべき目線だ。
むしろ内自身が何かに射すくめられるような感覚さえ覚えた。
だから内は聞かねばならないことがあった。
「何故、ここにいるんですか?」
「山本さんを、現運営を倒すために」
黒木の目に少し影がさした。それを内は見逃さなかった。
「そのために、何故ここに座っているんですか? 山本さんの写真しかない」
「それは……ここなら山本さんが来るかと思ってさ」
「悠長ですね、こんな危ないところに入ってきたくせに」
「……」
黒木の強い目に影が一層濃くさしていくのが見えた。
何故こうも弱々しくなって、この質問に対して彼の目は雄弁に答えるのか。
銃身を握る内の手に力がこもった。
「誰かに会いましたか?」
「福浦、大塚、それに垣内とは少し一緒に行動してた」
「ふーん。それで、もう別れたんですか?」
「そうだ」
「殺したりはしてないんですか?」
キッと黒木が内を睨んだ。
「俺は、誰も殺しちゃないよ。あいつらも……そうだ」
目に失われかけていた強さが再び戻った。
同時に悲しさも浮かんでいた。まるで泣き顔を隠していた誰かを思い浮かべるように。
「でも別行動を取ったんでしょう? 見捨てたんですか?」
「見捨てちゃないさ。誰も見捨てない、絶対に」
より強い目をして。さっきまで浮かんでいた影は消えていた。
内はそれを見て静かに、大きく息を吐いた。
「他のやつらがどうなっても知らんですよ」
内の口から、そのセリフが棒読みで述べられた。
「な……っ!」
黒木の表情が一変した。浮かべていた強さは一瞬で跡形もなく消し飛ぶ。
変わりにその目に浮かんだのは大きな困惑だった。
「な……、なんだ……それは?」
明らかに狼狽している。どう取り繕うかばかりを思案するような表情。
内はそれを目前にしてまた一つ息を吐いた。今度のそれはため息だった。
「嘘はつかないでください」
「嘘って……嘘じゃないさ」
「では、何故ここにきたんです。わざわざ別行動を取って」
「それは、みんなを巻き込みたくないから」
焦りの色を隠せない黒木だったが、それでもなんとか言い分を通そうとする。
と、内の後ろからもう一人の男が入ってくる。
「お前は……!」
内の後ろで、於保浩巳がこれ見よがしにトランシーバーを掲げていた。
空いた手はトランシーバーを指差している。含み笑いでもしたげな表情で。
「誰かから命令でも受けましたか? 武器の投下場所に行けと」
部屋に入ってきた於保に気づいたか、気づいても無視しているのか。内は意に介さない様子だ。
黒木が唇を震わせていた。もはや視線は内ではなく、床の辺りに向いていた。
内は畳み掛けるように言葉をぶつける。
「誰か運営側の人間と会いましたか?」
「その人に案内されて、安全にここまで侵入できましたか?」
「そして言ったんだ。他のやつらがどうなっても知らない
巻き添えは食いたくないんでしょう?」
立て続けにされる内の質問に黒木は答えられない。
「どうしました? 質問が多すぎて答えられないんですか?
なんならもう一度言いましょうか? 一つずつ答えてくださいよ!」
内の手がカタカタと震えていた。
かたくなだった表情は眉間にしわが寄り、全体が紅潮し始めていた。
「……言えない。それは言えないんだ、俺の口からは」
黒木が於保の方を見る。内の背後で於保は両の眉毛を上げて、おどけた表情を返して見せた。
更に於保を睨む。ニコリと笑って於保は部屋を出て行った。
内の怒りはなおも続いていた。
「黒木さん。黒木さんは嘘をついている。
あなたはみんなを見捨てた。みんなを裏切った。そうでしょう?」
「それは違う」
「なら、本当のことを話してくださいよ」
「それは……言えない」
「信じられると? それだけで信じられると思ってるんですか?」
「殺してくれてもいい。そのときはそれまでだ」
そう言って黒木は押し黙った。ただ下を向いて。
内の体がわなわなと震えている。間違えて銃の引き金を引きかねないぐらいに。
しばらく時間が経ちその震えが収まった頃、内はゆっくりと口を開いた。
「……黒木さん、エースって何ですか?」
その言葉に黒木の肩がピクリと反応する。
「僕はいつでもあなたを殺せる。だからその前に聞いておきます。
エースってチームで一番実力のある投手でしょう?
チームを勝ちに、優勝に導く投手がエースですか?」
黒木が顔を見上げた。おや?と、違和感を覚えた。
眉間にしわを寄せた内の表情が怒りでなく、ひどく哀しげに見える気がしたからだ。
「答えてください。もし今言った事が正解なら、僕は」
内の言葉が一瞬詰まった。
「僕は心置きなく、引き金を引ける。
あなたに会ってから迷ってきたことの全部がムダだって分かって。
僕の記憶の中で引っかかってることも全て気のせいだって分かって」
黒木には不思議でならなかった。内の顔がなぜか泣きそうに見えるからだ。
何か、本当に尋ねたいことを隠している。ふと黒木の心にそんなことが浮かんだ。
「あなたを殺すことで、僕はまたエースに近付けるんだ」
そう言って内は、もう何度目だろう、照準を黒木の顔へと合わせ直すのだった。
黒木は迷った。
ここで延命のために『違う』と言うのは簡単だ。彼がそれをどう受け取るのか知らないが。
だが、どのみち黒木知宏の答えは一つしかない。
「不正解だ。エースはそれだけじゃなれない」
ハッと目が覚めたように内の表情が緩む。荒くなっていた息が静かなものに変わって行った。
それは端から見れば、安堵という言葉が当てはまりそうな様子で。
黒木が彼の真意をはかれず困惑しているのをよそに、内はまだ銃口を向けていた。
「じゃぁ、答えてくださいよ。エースって」
プツン。スピーカーからスイッチの入った音がした。
『グッド・イーブニンッ! 元気かー! それとも死んでるかー!』
大音量に声はかき消され、2人はしばし何も言葉を発さなかった。
内はまんじりともせず放送を聴いていた。
放送が終わるのをやり過ごせば、答えが聞ける。
自分の心が分からない。分かっているのは、もしも黒木が正解と言ったときのこと。
自分はためらうことなく引き金を引いたはずだと。
しかしそれは、その仮定を自分は想像していたのだろうか?
なかったことの決意表明など、何の意味も持たないのだと自分に問いかける。
目の前の黒木は自分に視線を合わせようとしない。
この放送が終わったら、そしたら答えを聞こう。
あの日、自分が見たものは。川崎球場で見たものはなんだったのか。
自分の人生にとって大事だったはずの何か。
黒木の答えを聞けば、堰が切られるように詰まっている記憶が流れ出す気がするのだ。
今の自分をここまでちぐはぐに動かしているのは、間違いなくその何かのはずだ。
『……ふがああっ!?』
突如スピーカーから奇妙な音が流れる。内が思わずスピーカーの方を向いた。
その隙を見逃さず黒木が椅子から跳ぶ。
内の横をすり抜けるのと一緒に銃身を掴んだ。
ハッと内が気づいたときには、腕の揺さぶりと共に銃がなくなっていた。
「ああ!」
振り向くと同時に黒木が部屋を抜け出していくのが見えた。
腕を伸ばしたが捕まえることは出来ない。ユニフォームをかすめただけだった。
黒木が外に出ると、そこには於保が立っている。
全く身構える様子もなく、見下ろすような視線で於保は黒木を眺めていた。
一瞥してその脇をすり抜ける。そのまま黒木は廊下を駆けていく。
(今の放送は……チャンスが来たのかもしれない)
後を追うように内が部屋を出た瞬間、大きな高音が耳を貫いた。
ぐあっと身を一瞬ひるませる。頭を振りながら辺りを見回す。
54と書かれた背中が廊下の向こうへ消えていこうとしている。
「まだだ。まだ答えを聞いてないのに!」
追いすがる内の足音が、静けさを取り戻した廊下にこだました。
新作キタ━━(゚∀゚)━━!!職人様乙です!
ジョニーどうなるんだ!?すごく気になる
職人さん乙です。
ジョニーもエカのとこに突撃ですか!?
於保は相変わらず怖いな・・・(((( ゚Д゚)))ガクブル
237 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/09/18(日) 10:46:32 ID:WE9FBrGxO
ほ
捕手
頼りない先輩だと自嘲気味に笑っていた。その時に気付こうと思えば気付けたのに。どんな人かも知っていたのに。
今江があらかた、今までのことを話したときも、福浦は小さくうなずいただけだった。
それは見ようによっては落ち着きすぎていた。全く公平な運命でないことだけでも、普通なら我慢できないはずだ。
「…リストとか、裏切ってる人とか…俺、そういうの、ホンマムカつくんです」
「…だな」
きつく荒布を巻いた指を組んで、彼はまた頷いた。でも声も優しかった。
いつもの福浦だ。
「福浦さん?」
「どうした?」
「…どうしたらいいんでしょう。俺ら」
「そうだな」
「何とかしたくても、何したらええんか、俺…」
もう一度退却して、先ほどの廃屋(民家なのか)の薄暗がりの中で、今江は唇をかみ締めていた。
福浦はたまに息を乱しながらも、それを堪えるようにしながら指を、首をかばっている。裂いた布が何度も巻かれていた。
思ったよりも手こずった。背中はもう、シャツと皮膚がただれて一つになって、何度か触れた今江に福浦は黙って首を振っていた。
痛みは、相当なもののはずだ。治ってもこれは、ただではすまない。
ひとつ触れるのに、どれだけ慎重になったかわからない。
「…ごめんな」
なのに今江が差し出した布を受け取りながら、福浦は少ししゃがれた声で言った。爆風のあおりかもしれなかった。
「え」
「俺たちのせいだな」
「…そんな、さっき、福浦さん俺を庇って」
「…そうじゃない。こんなことに、お前達が巻き込まれたのも、元はといえば」
俺たちのせいだと、福浦は言って少しうつむいた。しゃがみ込んだまま、浅い息の気配だけは続いた。
痛みの背をあまり動かしたくないはずだ。
ここに来るのにも、一つ歩くごとに彼の額に脂汗が浮くから、今江の歩みも自然と遅くなった。
今は何時くらいになっただろうか。夕方にはまだ遠いはずだが。
「俺らが、不甲斐なかったから。もっとちゃんと、俺らのチームが強かったら、こんなことならなかった」
「福浦さんやめて下さいよ!そんなんで…俺…」
「すまん。お前ら何も悪くないのに、未来もあるのに、こんなことさせられてる。何て言っていいのか…」
今江だって、そんな風に言われたらどうしたらいいのかわからない。
「でもわかってくれ」
ぐっとさらにこもった声で、顔を上げて福浦は言う。
「あの人もきっと、理由がある。何も無しに、こんなめちゃくちゃする人じゃない、そんな人じゃ」
その人、が小林のことだと気付くのに少しかかった。西岡がその場にいれば、きっと甘いと即切って捨てただろう。
元はもっと艶やかであったはずの畳は湿気て、音も声もこもらせていた。闇と相俟って鈍らせているようだった。
こじ開けた雨戸から、隙を見るように白い筋がたださっと射している。まだ昼と夕の間だと、また思った。
「雅さんだって、わかってる。こんなことありえないって」
「福浦さん…でも」
福浦には自分の知っている全てを話した。火傷の手当てをしてから、少しずつ、必死に。
元来喋りは達者な方ではなかったから、こんがらがって自分でも何を言っているのかわからなくなったこともある。
直行と正人のこと。西岡のこと。川井のこと。
モニタのこと。リストのこと。それからその、小林雅英だと、西岡が言ったから、そこから導き出せることも。
「福浦さん、でも、やっぱりヤバイと思います、その…雅英さんは」
「それもわかる。けど…俺はまだ、信じられないよ。お前を信用してないんじゃなくて」
「俺も、福浦さん、信じてないんじゃないですけど」
信じるとか信用とか、何回か繰り返したら穢れるような気がして黙る。そんな言葉でなくても、何となくわかる気がするからだ。
そう言えば、福浦も苦笑いしながら、さっき俺も思ったよと言った。
そんな笑みでも、ほっとした。そんな人だ。
限りなく福浦らしいと思う。考えれば考えるほど、この状況で、そんな言葉が出てくること自体。
誰かを恨んだり、誰かを憎んだり、何とか現状を打破しようとしたり。それ以上に、この運命に対し後輩に謝るような人だ。
福浦なりの前進の仕方は、やもすれば女々しい。けれどそんな人だから、一も二もなく、信じられる。
西岡がいれば、また甘いよアンタとつっこまれるかもしれんなと思った。
「どうしようか、だな。今江」
壁に背を預けたくてもそこが痛むので、福浦は半分寄りかかったようにしながら額を壁にあてている。土壁の冷たさは心地良さそうだった。
「…どうやったら、見つけられるかな」
福浦がポツリと、また言った。姿勢は変えないまま。
ペットボトルの口を切って、ぐっと飲みかけていた今江は目だけで応える。
「雅さん」
荒い包帯の指が膝の上で組まれていた。
「…って、え。ええ?どうして…」
「聞きたいよ。逢って話したい」
「ちょ、待ってくださいよ福浦さん!そんな、ヤバイですよそんなん!?」
説得とかするつもりですか、と問えば、福浦は眼を細めた。それは否定ではなく肯定でもなかった。
「俺は頑固だよ」
今江が呆気に取られている気配を察してか先を読んでか、福浦はまたポツリと付け足した。
「無理です。無茶ですよ」
言いながら、どこかの誰かさんがそういえば同じようなことを言っていたなと思い出した。アイツの心境もわかる。
「福浦さん、だって…殺し合いって、本気な人は本気やねん。俺、ホンマに…」
「それは俺もわかってる。だから」
「止めたいんですか?」
今江の問いにはっきりは答えられず、少し首を傾がせた。我ながら情けない先輩だ。
頼りない。一人じゃ俺は、何も動かなかった。今まで何も動いてこなかった。
「…考えても、俺に出来るのはそれくらいだったよ」
殺すなと、攻撃すらするなよと大塚に釘を刺された。だけどそれを免罪符にしていたわけではない。
ただ読まれていたなと、今になって思う。俺は誰も殺したくなんかない。例えそれが、こんなことに俺たちを追い込んだ誰かだとしても。
「いや、それでも、…でも、無理ですよ、別の意味で。だって俺ら、わかんないじゃないですか」
「…ああ、そうか」
「西岡はほら、その機械持ってますけど、もしかしたら雅さんも、…持ってはるかもしれませんけど」
もし雅英が持っているなら、西岡の言葉はビンゴになる。彼は裏切っている。認めたくないしフラットな言い方にしたかった。
「やから俺らは、探そうと思っても難しいですよ」
「そうだな。…ホントだ。無理な話なんだな」
福浦が苦笑いを、ほんの少し復活させた。
また今江がほっとしたのを福浦は知っていたのだろうか。
だったら西岡を探さなきゃと福浦が言って、それからのことに異論はあったが、まずそこには賛成だったから今江は頷いた。
もし西岡に相談したとしても、きっと彼は一刀両断に「無茶や」と言い放つであろうと思ったから、あえて反対しなかったとも言える。
「今江…悪い。俺の頼みきいてもらえるか?」
「頼み?」
「正直、キツイ。俺…動くの、結構…」
片眼をひねるように閉じて、福浦が言う。汗が止まっていない。壁にあてた額からも。
ああ、と合点して今江は頷く。
「福浦さん、ここに居てください。多分動かん方が安全やと思うし」
「悪い、な…」
「俺、戻ってきますから。死なんと帰ってきますからね」
「頼んだ」
福浦が何度目かの苦笑いをした。いなしていることに今江は気付かなかった。
ごめんな、俺は本当に頑固なんだ。
福浦は重い身体を引きずる。壁に手を当て、ずるずる進む。
彼が居なくなったら途端に静かになった。風の音も、軋む床や雨戸の音も感じる。
台所らしきところの、これも微妙によどんだ空気の中に入る。ぐぃ、きしむ椅子を引く。
そろそろと痛む背を預けた。いてて、と目を閉じたまま、すうっと息をした。
どれくらいそうしていただろうか。
時計の音が欲しかった。コチコチいう秒針の音が聞こえれば、きっと待っている実感があったはずだ。
今江の話が本当に100パーセントだとしたら、きっとそれは叶う。
流れ星に願いを三回繰り返すよりももっと確実に、それは叶う。
がたん、と雨戸から音がした。風でもよかった。動物でもよかった。
福浦はすうっと息を呑む。
「…待ってましたよ」
腕組みをしたまま、目も閉じたまま呼んだ。見えない。
「雅さん」
眼を開けた。
小林は相変わらず半眼のまま、暗がりのそこに立っていた。
福浦キタ━━(゚∀゚)━━!!
職人さん乙です!
乙です!
コバマサ・・・どうなるんだ?
初芝・・・
247 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/09/19(月) 20:32:44 ID:WnAEZM4C0
マサ・・・・・
福浦死なないで
248 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/09/19(月) 20:33:23 ID:PlqasyOf0
名古屋人は陰湿・根暗
自慢したがる ケチ
自分のこしか考えない 人の悪口をすぐ言う
不細工
hoshu
保守
ほしゅ
252 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/09/21(水) 23:50:33 ID:Tj+Gd0Ft0
堀いきてるのか〜age
(捕)