>>486 8月。死のロードが有する魔力は今期の戦力をもってしても、祓い除けることができなかった。
矢野、赤星、今岡、当然のように桧山……03V戦士達が次々と倒れてゆく。若手主体の中、連続出場を続ける
金本も、夏場でありながら不振を脱しきれない。
さらに、一端持ち直したかに見えた先発陣も、下柳さえ引きずり込んで総崩れとなる。
毎日がフル回転の藤川、ウィリアムス、久保田、橋元、江草、桟原……。
優勝さえ指呼に望みながら、下位球団との闘争は泥沼の様相を見せ始めた。
勤続疲労でさしものの中継労働課に翳りが見え始める。
8月廿某日。追撃を続けるあの球団とのゲーム差は、AS前の数字が信じられないほど切迫していた。
9回裏、同点。3点あった虎の子のリードは、「勝利の方程式」が投げるたびに磨り減っていった。
球児もジェフも、そしてマウンド上肩で息をする久保田も、既に限界だった。
無死2,3塁。絶望的なまでに追い込まれている局面だった。この状況をしのげる投手はブルペンにも、鳴尾浜にも、
皆無だった。
「おお、もう……」
応援団さえもが絶望を抑えきれなくなったその時タイムがかかり、ベンチから岡田監督が歩み出た。
「何や?」「どんでん今頃何すんねん」「久保田もうあかんやろ」「誰出すんやコラ」「何とかせんかい」
不穏な空気漂う中、岡田は告げた。
「ピッチャー、ミスターチーフ!」と。
誰 や そ れ !
球場はもちろん、モニターの前でツッコミを入れる全国1千万のトラキチ。
「アホか!?」「映画ちゃうで!」「岡田狂ったか!」「終わりや!終わりや、もう!」
猛烈なヤジは、しかしリリーフカーから降り立った一人の男を見て一斉に引いた。まるで水を打つように。
「あ、あれは」「あの男は……」
目深にかぶった帽子から、その表情を窺い知ることは出来ない。
しかし、我々はあの男を知っている。あの人を知っている。あの活躍が今も脳裏に浮かぶ。
何よりも、あの「背番号75」を知っている!