80 :
358:2005/04/27(水) 22:37:42 ID:kPQvCjqZ0
170.歪んだ美徳
日本テレビのカメラクルーが乗り込んできてから、随分時間が経った。
未だ、特別戦第二部は開始されていない。
「第一部が終了し準備が整い次第、開始の合図をします。それまでは何もしちゃだめですよー、
余計な事をしたらペナルティですからねー」との事であったが、一向に始まる気配がないのだ。
途中二度雨が降り、一度は強い風にも煽られた。そのたびスタッフ達はどたばたと機材を抱えて
忙しなく船室に走り込んだ。いい加減不安になってきたのか、今は仲間内でひそひそと、本部に対する
愚痴を言い合っている。一方、選手等は各々バラバラに船室や甲板に散らばっており、
会話を交わしている者は皆無だった。それぞれ、自分の思考に没頭していた。
その頃デッキでは、カメラクルーの責任者とおぼわしき男が無線でやりとりをしていた。
「どうして我々が人捜しをしなければならないのかわからない。そちらで独自に捜索船を
出したらいかがですか。こちらはそもそもテレビ取材ですから、本部とは関係ありません」
『船を動かしたところで撮影に影響はないでしょう。だいたい、そのテレビ取材も
こちら側の都合で許可した物ですよ。運営に協力して頂くのは当然です』
「…このままでは埒があきませんね。オーナーに直接話をつけてもらえませんか?」
『渡辺オーナーでしたら、もうそれどころじゃないんじゃないですかね』
「……どういうことですか」
『詳しくは言えませんけど、あの人の権限はもうすぐ剥奪されますよ』
相手の曖昧な言い方に、男の顔が曇る。
「詳しく説明して下さい、理解できない」
『まぁ、とにかく』
相手は男の質問には答えず一旦言葉を句切り、
『11番と21番を探し出して下さい。それ以外はそちらの好きにして頂いて結構ですから』
と、指示だけ言い残して一方的に無線を切った。
「おい……!」
81 :
358:2005/04/27(水) 22:40:12 ID:kPQvCjqZ0
男は忌々しげに舌打ちをした。システムの誤作動で11番と21番の消息がわからなくなった。
その二人の生死を確認し連絡する事、生きているなら恐らく島近辺の海域にいるはずだから探索せよ。
そんな命令がいきなり下された。問答無用、といった風である。探索と言ったって、溺死してたら
見つけようがないではないか。浮いてくるまで待てというのか?冗談にしたってブラック過ぎて
笑えない。それに、オーナーの権限がどうこうと言っていたのも気がかりだった。
第二部開始の連絡が一向に来ないのと相まって、ますます不安が増大していく。
とにかく今は、言うとおりにするべきなのかもしれない。
男は甲板の方へと歩いていった。
「おい、お前」
彼は軍服の男を見つけると、指差して呼びつけた。一斉に視線がそこへと集中する。
「船の操縦ができるな?」
「はい」
「よし」
固まって雑談をしていたスタッフ達の方を向いて、責任者の男は言った。
「こいつはメンバーから外してくれ。選手17人でやってもらう。変更だ」
ざわめきが甲板の上に広がった。操舵室に向かいかけた二人を、章剛が呼び止めた。
「なんだよそれ」
軍服の男は困惑していたが、もう一人は全く動じていない。
「事情があって船を動かす必要がある。この中で軍艦を操縦できるのはこいつしかいないからだ」
「はぁ?ここまで来てどこに動かすってんだよ。引き返すつもりか?冗談じゃねえぞ」
言うや否や彼は二人に、いや、軍服の男に飛びかかり胸ぐらを乱暴に掴んだ。
「だいたいな、一人殺すっつったら決まってんだろ、こいつしかいねぇって」
敵意に燃える章剛の視線を受け止められず、軍服の男は顔をそらした。
それは皆が、男自身でさえ内心、考えていた事。いつどうやって口にしようかと、迷っていた事。
スタッフは止めに入ったが、選手たちはただ冷たい目で軍人を見つめているだけだった。
「いい加減にしろ。この船ごと爆破したっていいんだぞ」
責任者の男が恫喝して、ようやく章剛は手をゆるめた。即座に他のスタッフに羽交い締めにされる。
それでも彼は、もがきながら咆吼した。
「聞け!殺すとしたらお前だけだ!仲間に手はださねぇ!絶対だ!」
82 :
358:2005/04/27(水) 22:43:56 ID:kPQvCjqZ0
すみません、残り人数が最後に入りきらなかったので
保管の時追加お願いします
【残り15人・選手会10人】
ナベツネいよいよ窮地か
新展開乙あげ
84 :
126:2005/04/29(金) 00:39:30 ID:5xhHlsbW0
171.死神は、最後に
吐き出そうとした叫びは、声になり得なかった。
とっさに両手で構えた銃の背がやけに近く、くっきりと見えている。
これは夢だと己に言い聞かせても、どれだけ否定の言葉を並べても。
そのまま目をそらそうとしても、ふっと、吸い寄せられるように瞳はそちらを向く。
戸棚の前に佇む人型の輪郭に。
銃口を向けられたところでその姿が揺らぐことはない。
対峙する『黒木知宏』は、表情ひとつ変えない。
魅入られたように動けなくなった黒木に対し、『もう一人の自分』は淡々と続ける。
「あと二人。68と」
持ち上げた片手の指を折り曲げ、人差し指だけを一度立て、そして二本に戻す。
「17」
びくっ、とひきつるように腕が動いた。上下に揺れる銃身へと、再び目の焦点が移る。
── この銃を。
脳裏に浮かびあがる幻覚がぼやけた銃の輪郭に重なった。
── この銃を俺は何度撃ったのだろう。
不意に鼓動が高鳴った。これは幻覚なのだろうか。先程も通りすぎた映像はただの幻に
過ぎないのか。自分は憶えていない、何も。だが。
巻き戻される記憶のフィルム。砂嵐のノイズが徐々に取りはらわれ、地面に倒れこんだ
ユニフォーム姿の人物が絶望をはらんだ表情で顔を上げてくるのが見えた。
一瞬後、その額に黒い穴が開き、彼は仰向けに倒れる。脇腹の位置にある番号は68。
「68は俺を殺そうとしたから」
映像が入れ替わる。顔のはっきりしない人物が背中をこちらに向けた。
大きな青い数字が視界を占めた。17。そして間をおかず、その背の中心を一発の銃弾が貫いた。
『…これで、水口さんの仇は討てた。あとは』
呟きは黒木自身のものだった。倒れ行く17を無感情に見つめていたのも。彼を水口の仇と思い、
衝動から向けた銃の引き金を引いたのも。
「17は ── 」
「黙れ!!」
85 :
126:2005/04/29(金) 00:41:59 ID:5xhHlsbW0
叩きつけた声は、何よりも己の鼓膜を強く打った。知らず流れていた汗が顎を伝い床に落ちた。
拳銃を支える手が細かく震えていることに、随分の時を費やし、ようやく気がつく。
── 俺は何をしている?
胸をつく自問に、黒木は瞠目した。自分は何をしている? この銃で今度は何を撃とうとしている?
(俺は、俺を殺そうと ── )
愚かさの認識が身体の力を奪った。肩が弛緩し、銃を握ったままの手が腰の位置に下りた。
もう逃げられないのだと、そう悟った。
(あと二人、殺した)
そう告げる自分自身の姿は夢でも幻でもなく、真実なのだと。
憶えていないと逃げおおせたとて。かすかに五感の奥底に沈殿している『覚え』が
かたちを成して、こうやって目の前に現れているのだ。逃げられはしない。
「これで三人だ。さあ」
黒木の記憶の具現ともいうべきそれが、口を開く。
「次は誰を殺す?」
その声音に感情の揺れは微塵もなく、台詞の意味を理解するまでに数瞬の間が生じた。
「………次?」
思わず黒木は反問していた。愕然と開いた瞳を上げた先では、鏡に映る見慣れた顔が
不気味なほどの無表情で真っ直ぐにこちらを見ている。
何も思わない顔だ。何も感じない顔だ。誰かを傷つけること、殺すこと、それに対して何の
ためらいも無い。光なき瞳。
殺人鬼 ── あるいは死神か。一片の情すら見いだせない己が双眸の中に、黒木は確かに
死の化身を見たと思った。
次は誰を、と死神が問う。終焉をもたらすのみの存在が手を差し伸べる。その手を取ったが
最後、自分は闇の淵へといざなわれ、再び血を浴びることになるのだろう。
(冗談じゃ、ない)
銃を持たない方の左手をきつく、爪が食いこむほどに握りこんだ。
繰り返すのか。我を失い、心を失い、やすやすと人の命を屠る存在へと、また堕ちていくのか。
冗談ではなかった。
一度その境界を越えてしまった以上、後戻りがきかないことは解っている。
だが止めなければならなかった。闇に心を囚われてしまうことをもう、許すわけには ──
86 :
126:2005/04/29(金) 00:43:59 ID:5xhHlsbW0
黒木は顔を上げた。正面から、死神の放つ虚無の視線を受け止める。
(敵は、自分自身)
── 目標は自分自身。敵も自分自身。親友であり、チームメイトでもある小柄な
遊撃手の言葉を思い出し、呟く。
一戦必勝を胸にマウンドに立つ時も同じ。戦うべき相手は打者でなく、自分なのだ。
己に勝てないこと、それはすなわち、全てに負けることを意味する。
ならば今、決して負けるわけにはいかない。
── 絶対に負けられない試合に、マウンドを託される者。 それが ──
すいと彼の右腕が持ち上がる。五本の指に包まれたコルトポケットを前方にではなく、
自らの側頭部へと。
銃口をこめかみに当てながら、黒木は真正面に据えた視線を外さなかった。
これは賭けだ。
黒木自身の“罪”に銃を向け撃ったところで、その罪が消えることはなく、死神の姿は
何度でも亡霊のように現れるだろう。命を賭す覚悟がなければ、この勝負には勝てない。
背を向け、逃げた時点で終わりだ。
「次はない」
黒木は告げる。引き金に指をかける。
己に言い聞かせる。これは賭けだ。
すべてを投げうって、この捨て身の一球に俺は賭ける。
87 :
126:2005/04/29(金) 00:45:59 ID:5xhHlsbW0
トリガーを引き絞る刹那、瞳の表面をいくつかの残影が通った。
家族の、チームメイトの、選手会の、心許せる友の。
(本当に、怖いのはさ)
眼鏡の奥の憂える瞳をうつむかせる、親友の名を、最後に黒木は呼んだ。
「!」
がちぃん、と撃鉄の押し出される音が響いた。
黒木は目を見開いた。可能な限り大きく。
己を構成する様々なものが無理矢理に引き剥がされていく感覚に、全身を支配される。
その波が引くと同時、彼の身体は唐突に支える力を失い、倒れた。
まだ乾ききらない床の血だまりの中へと。
【残り15人・選手会10人】
ジョニー、ついに…
最後に思い出すのはやっぱりこの人なんだね…
新作乙です。
ジョニーはどうなったんだ・・・・?
ほしゅ
92 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/05/01(日) 19:40:03 ID:KPYzuB/y0
hosyu
捕手
95 :
126:2005/05/03(火) 01:49:23 ID:bNZ4K6SM0
172.狐の思惑
『11』と『21』。病院内で消息を絶ったこの二人は、やはり死んだのではなかった ──
事務員からもぎとった資料をざっと眺めるにつれ、宮内の中ではその確信がより深いもの
となっていた。それにしても海水が弱点とは…。
灯台もと暗しと言うべきその結末には、笑うより他に反応が思いつかない。
事の始めはやはり、“薬”の作用により変貌した姿をカメラに捉えられていた例の35番が、
その一日前に死亡扱いとなっていたことが発覚した、あの時だろう。
思えば自分はなぜああも簡単に、首輪の誤作動と決めつけてしまったのか。
あの時35の死因を ── 死んだとされる場所や状況をもっと細かく確認しておけば、35が
海に飛び込んだことと首輪の生存反応消失の因果を、すぐに直結できていただろうに…。
眉間を指で押さえ、宮内は吐息する。
砂原の視線がこちらに当てられているのを感じて目をやったが、相手は一瞥をくれただけで
またモニタへと顔を戻す。何なのだ、と眉をひそめかけた矢先、渡辺が急に席を立った。
「オーナー」慌てた様子で事務員の一人が駆け寄る。立ち上がったときによろめいたらしい
渡辺は「うるさい、触るな」などと早口にまくしたて、出入口へと向かっていく。
覚束ない足取りの老人がドアの向こうに消えるのを見送り、宮内は改めてモニタの映像を
確認した。── なるほど、これが原因か。
高橋由伸が死んだ。その事態は渡辺に少なからずダメージを与えたようだ。被る皮は
妖怪でも、その下は生身の人間ということか。
「驚きですね。あの人も一応は人の心を持ち合わせているらしい」
宮内が抱いた感想と似たようなことを、砂原が呟いた。その横顔には皮肉めいた笑みが
浮かんでいる。
宮内は特に言葉を返さず、資料に目を通しながら先程7番について考えていたことをまた
思い返そうと試みる。が、一度霧散したひらめきを呼び起こすのはやはり容易でない。
どうにも煮詰まっていると、事務員が再度近づいてきた。
「特別戦会場の病院ですが、あのまま閉鎖しておいてよろしいのでしょうか?」
「何か問題でもあるのか?」
「いえ、生き残った者は外に出られると確かおっしゃっていたと思うので……」
言われて、宮内は特別戦の様子を映していた画面を見た。そして露骨に眉を寄せる。
96 :
126:2005/05/03(火) 01:53:06 ID:bNZ4K6SM0
70番を倒し、ゲームの生き残りとなったはずの選手会役員が、血の海に伏している。
死んだ70番と対称となる倒れ方をしているその絵は、相撃ちを思わせた。
「選手会の ── この男も死んだのか?」
自害を図ったとでもいうのだろうか。宮内の問いに事務員は困惑したそぶりを見せたが、
すぐに「確認します」と答えて踵をかえした。
はたと思い当たり、その背に付け加える。
「ああ、病院の封鎖は解いておけ。渡辺さんが何か考えているようだ」
彼が頷いて部屋を出て行くのを確認し、宮内は何度目になるのか分からない溜め息をついた。
まったく、何故こうも不可解なことばかり起こる ──
手近にあった椅子に腰を下ろすと、鉛のような疲労感が押し寄せてきた。
「お疲れのようですね」
言葉とは裏腹に、砂原の声音に同情の響きは感じられなかった。
「こんな悪趣味な道楽に付き合っておられるからには、まともな神経ではいられないでしょう。
あまり眠られていないのでは?」
「悪趣味?」
聞き返し、こちらを向いた彼の顔を見る。そこには一企業を所有するまでにのしあがった者が
有する、これまでに培ってきたのだろう、抜け目なく保たれたポーカーフェイスがある。
(悪趣味か)
それすなわち、この計画を真っ向から非難する台詞ということなのだろう。が。
宮内は心の内で呟く ── この偽善者め。
「お気遣いは結構。砂原さんこそ、さぞや心を痛めておいででしょう。横浜の主力を
二人も殺された。しかも、殺したのは同じ主力の一人 ── 佐伯君でしたかな?」
「ええ。彼には失望した。仲間を殺すような男とは思っていませんでしたよ。期待をかけて
いただけに残念というしか」
「あなたのチームの選手は幸せでしょうな。オーナーがそこまで選手ひとりひとりを気に
かけているのだから。我々も見習いたいところだ」
「……」
「しかしその温情ある方が、横浜の選手をまた一人わざわざ危険な地に送りこんだというのは
どういうわけなんでしょうかね」
砂原がふと目を上げた。表情に変わりはないが、その目が問いかけている。何が言いたい、と。
97 :
126:2005/05/03(火) 01:55:23 ID:bNZ4K6SM0
「……佐伯の要請があったからですよ。こちらも考え抜いてのことです」
「おや、その割には ── 」
宮内が言い募ろうとしたとき、砂原の胸位置から振動音が起こった。彼は内ポケットを探り、
携帯の表示を見て立ち上がった。
「渡辺さんから呼び出しだ。失礼」
逃げるように立ち去る砂原を、嘲笑う眼差しで宮内は見送った。
【残り15人・選手会10人】
新作キテルー!職人さん乙です。
100 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/05/04(水) 14:19:40 ID:CPpMiIgj0
101 :
358:2005/05/04(水) 21:33:28 ID:O/DwLUWT0
173,望み通りの旅立ち
木の幹に片手を添えながら、立浪は落合が走っていった方向を見つめていた。
誰の姿も、ここからは見あたらない。それほど距離は無いはずだが、雨の中を
徘徊するのは考え物だ。せめて腹の刺し傷が無ければ、一人で歩けるだろうに。
あれからどれくらいの時間が経ったのか、はっきりわからなかった。
雨雲のせいもあるだろうが、辺りがやたらと暗い。そろそろ夕暮れ時なのかも知れない。
ふー、っと大きなため息をつく。と、どこか元気の良い駆け足が近づいてきた。
それは、柳沢だった。立浪を見つけると「あっ!」と叫んで寄ってきた。
「よかった、来てみて」
柳沢は息を整えながら、明るい声で言う。
ところが立浪は、全く落合の姿が見えないのを怪訝に思った。
「……あいつは?」
「そうなんですよ、落合さん一人で先いっちゃうから」
先に行く?どこに?疑問を口にしかけたところでようやく、柳沢の顔を見た。
笑顔だ。笑顔だけれどもこれは、違う。下がりようがないのに、つい一歩後ずさった。
木の幹に背中を預ける格好になる。まさか、落合は――
「立浪さん置いていったら、ねぇ、寂しいですよね。さ、いきましょう、落合さんも待ってますし」
落合が身につけていたはずのピストルが、彼の手の中で光っている。
行く、じゃない。逝く、だ。ロックを外すかちゃ、という音がはっきりと耳に届いた。
「待ってや」
時間稼ぎにさえなるか怪しい台詞が、口からこぼれた。
「なんですか?」
「……その、」
立浪は、咄嗟の思いつき、その残酷なアイディアに一瞬口を噤んだ。けれどそれ以外、
自分を守る方法が思い浮かばない。声が上ずりそうになるのをこらえながら、柳沢に語りかけた。
「お前が、先にいきぃや」
「え?」
「俺が先いったら、ちょっと間やけど、また独りぼっちなるやろ?」
柳沢は一度目を丸くして、そして嬉し泣きのような表情をした。
102 :
358:2005/05/04(水) 21:35:40 ID:O/DwLUWT0
「…いいんですか?」
「ええよ。ほら」
己に向けられていたピストルを取り上げて、相手に向け直す。
「あ、ありがとうございます!」
おののくどころか、折り目正しく頭を下げて礼まで言う。バッティングのコツを教えたときと、
同じような反応。気をつけの姿勢で立っているのも異様だった。
素直なこいつを騙すのだ。騙して殺すのだ。ただ、自分が生き延びるために。
…これしかない、これしか方法がないんだ。脳内で思い切り叫ぶと、その勢いでトリガーを引いた。
心臓を狙ったが、腕がぶれて肋骨の下辺りに穴が空いた。
「…っ……」
柳沢は胸元に手を添え、前屈みになって座り込んだ。けれど立浪に向けられている顔からは、
心底満足そうな様子しかうかがえない。立浪の方がよっぽど悲痛な目をしていて。
「……、痛ぁ…」
大きな呼吸と、弱々しい言葉が血に染まった口元から吐き出されて、濡れた地面にうっすらと
広がっていく。立浪も発砲の衝撃で立っていられずに、ずるずると木の幹に背中を擦りながら地面に崩れた。
「…首締め、たら…もっと、苦しい、ですよね…。悪い事、しちゃった、な……」
少し声のトーンを落として、自嘲気味に彼は呟いた。主語はなかったが誰の事を言っているのか、立浪にも理解できた。
「…あっちで、怒られてたら、立浪さん…助けて、くださいね………」
「…ああ」
まだ熱のある、それでいてどこか冷ややかな彼の手を握りしめると、震えが止まらなくなった。
もうこれ以上は、彼の命が尽きていく様に付き合っていられない。苦しむのを見ているのは辛すぎる。
右手におさめていたピストルを、柳沢の眉間に押し当てた。
柳沢は一度立浪に視線を向けると、
「じゃあ、また、後で」とだけ言って目を閉じた。
返事はできなかった。
力の入らない人差し指を、無理矢理折り曲げていく。銃声がなかなか鳴ってくれない。
103 :
358:2005/05/04(水) 21:37:53 ID:O/DwLUWT0
やっとの思いで第1関節を曲げきった時、轟音が響く直前に誰かの絶叫が聞こえた。
「やめろ!」という、必死の叫声が。
返り血が右目に飛び込んできて、左目だけで確認した先には。
「立浪さん……」
向こうの方で呆然と突っ立っている、荒木と……井端の姿。いつのまに、そこまで来ていたのだろう。
「遅いねん、お前ら………」
あと少し早ければ、殺さずにすんだのに――
柳沢の手を握ったまま、立浪は気を失った。
【残り14人・選手会10人】
柳沢…Qさん…つД`)・゚・。・゚゚・*:.。..。.:*・゚
。゚(゚´Д`゚)゚。ウワァァァァァン
こんな、こんな展開になるなんて…・゚・(ノД`)・゚・
( TДT) ヘナギ・・Qさん・・・
>「遅いねん、お前ら………」
マジで来るの遅いよ……・゚・(つД`)・゚・
109 :
623:2005/05/05(木) 20:33:20 ID:wK2CifwG0
174.記憶と焦燥
―俺、死んだんか?
それとも、ただの臨死体験ちゅう奴か?
大西は自分の身体を見下ろしながら途方にくれていた。
元に戻ろうといろいろ手は尽くしてみたのだが、魂(?)だけのこの状態から
どうやら抜け出せそうにない。
諦めたかのように一つため息をつくと文字通り、思い通りにならない自分の
身体の側に座り込んだ。
ふいに襲ってきた虚無感の後、頭に思い浮かんだのは最期の記憶。
銃を持った『敵』に当然のごとく自らも銃を向けた。
襲ってきた衝撃と痛み、胸に咲いた赤い花、
かち合った視線―そして、もう一人の襲撃者…
余りの痛みに崩れ落ちた先の地面の色が、生身の身体で見た最後の風景。
銃撃戦の音も自分の意識も、急激に遠のいていって―
死にたくない…ただ、その思いだけで再び銃を握ったところまでは覚えている。
しかし一回途切れた思考回路が再び繋がったとき、すでに自分はこの有様だった。
(やっぱ信用できへんかったな。)
平松の冷たい視線と、凶器を隠し持ちながら人懐っこい笑顔で近付いてきた森野、
もう誰も信じてなどいないはずだったのに、ドラゴンズブルーのユニフォームを見て
確かに一瞬だけためらったのだ。
その結果がこれで、結局、自分はチームメイトに殺されたのだと思うと
腹立たしさよりもただおかしくて笑えてくる。
110 :
623:2005/05/05(木) 20:35:28 ID:wK2CifwG0
大西が渇いた笑いを止められずにいると、いつの間にか戻って来ていた井上が
呆然と大西の身体を見下ろしていた。
「……お前、こんなになってまで人に銃をむけるのか?そんなに生きたかったのか?
そこまでして生きる必要あるのか……?」
常の井上らしからぬ、か細い声での問いかけを受けて、思わず大西は叫ぶかのように
答えを叩きつける。
「ああ…そうや、その通りや一樹、聞いとんのか? 俺は生きたかったんや、
ただ生きたかっただけなんや!必要があるかないかなんて関係あらへんねん!!」
だが、どんなに叫んでも井上の耳に大西の声が届いている様子はなく、
それどころか答えが返らぬ虚しさに心が折れたかのように、抜け殻の身体に縋って
井上はただ泣いていた。
「泣きたいのはこっちのほうや…」
すっかり毒気を抜かれてしまった大西は、届かぬ言葉を抱えたまま
井上の様子を眺めるしかない。
そうしているうちに、また一人、今度は招かれざる客がやってきた―
(なんや、この人…)
この状態の自分よりも更に不安定な、そう負のオーラというべきものをまとって。
この人物は危険だと、井上に伝えようとしてもやはりその声は届かない。
(くそ!なにもかもうまくいかんわ!!)
井上が相手の挑発的な言葉に面白いように乗せられていくのを歯噛みをしながら
見つめていた大西の目の前で、とうとう戦いの火蓋は切っておとされてしまった。
111 :
623:2005/05/05(木) 20:37:46 ID:wK2CifwG0
「一樹!何を意地になっとんねん、とっとと逃げんかい!」
無駄だとは思いながらもいま一度、井上の耳元で怒鳴りつけてみたが、
やはり怒りに我を忘れた井上は、目の前の桧山と戦うことしか頭にないようだった。
自分ではどうしようもないと悟って、救いの手を探すかのように辺りを見回した大西は、
井上を挟んでちょうど反対側に靄のような物が漂っていることに初めて気付いた。
よくよく目を凝らして見るとその靄は人の形になっていき…
そうして形づくられたものは大西の命を奪った人物―
その人物はやはり井上を止めようと試みながら、一方である方角をしきりと
気にしながら見ている。
その人物への怒りやとまどいより先に、その表情と視線の行方が気になって
大西がそちらの方へ目を向けると、まるで見えない力に吸い寄せられるように
まっすぐこちらへ向かってくる二つの影が見えた。
「英智?それと小笠原か…」
『来るな!』
大西のつぶやきに重なるように、問題の人物が…関川が英智と小笠原に向かって
そう叫んだかのように思えて、大西が再び関川に視線を戻した次の瞬間、
互いに相手の出方を見て膠着状態に陥っていた井上と桧山が再び動き出した。
【残り14人・選手会10人】
112 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/05/05(木) 23:42:55 ID:Jq1O9blW0
\やーい できそこなーい 味噌信者 /
(( \プロ野球板からでていけー/
_ ||
∧_∧ // || ∧_∧ ∧_∧ ⌒O ボウリョクハモウヤメルカラユルシテ
( ´∀`)// ∩( ´∀`) ( ´∀`) ΠΠ
( つ ,つ ヽ` ,つ (つ つ ⌒ o ('Д`) ウエーーン
入 V_ ノ ノ> > 人 Y´ ( G )
<_ノ\__) \_)\) し (_) ∪∪
11球団スレ住人一同
113 :
112:2005/05/06(金) 04:01:44 ID:VA3xJpCH0
175.印
地面に記された赤い血の線。
それを辿りながら、福留は幼い頃に読んだ童話を思い出していた。
ヘンゼルとグレーテル。
親に捨てられた兄妹が、白い小石やパンを目印に、森の中を歩いてお菓子の家を探し出す童話だ。
何故こんなものを思い出すのだろう、と福留は薄く笑う。
目印は小石と血のライン、探すモノはお菓子の家と裏切り者。
共通するのは目印を頼りに森をさまようこと、それだけなのに。
(ヘンゼルとグレーテルはお菓子の家を見つけて幸せになったけど、
俺が佐伯さんを見つけたら)
佐伯を見つけて手に入るのは幸せなどではない。
(俺か佐伯さんが…あるいは二人とも死ぬ。
由伸さんや、石井さんや、デニーさんのように)
「石井さん…デニーさん…?」
福留の足が止まる。
佐伯がオーナーと通じているのなら、由伸以外にも殺しているのではないか。
―そう、例えば、石井とデニー。
114 :
112:2005/05/06(金) 04:12:40 ID:VA3xJpCH0
「くそっ」
福留は鞄から地図と名簿を取り出した。
石井とデニーの死体を見つけた場所と、赤い線の続く方向を見比べる。
佐伯が石井達を殺し、その後由伸と戦ったと仮定しても無理のない距離だ。
「…佐伯さんに聞いてみないとな」
ユニフォームのポケットに地図を押し込み、続いて名簿を開く、
先ほど山本達と交わした情報から得た、死んだ人間の名前に線を引いて消した。
10本弱の線を確認した後、山北と佐伯の名前を大きく丸で囲む。
仲間を害する裏切り者であること、自分の標的であることを示す印。
作業を終え、名簿をしまおうとした手を止め、もう一度ペンを握る。
並ぶ名前の中の一つを丸で囲むと、今度こそ名簿をたたみ、鞄にしまい込む。
最後に印を付けたのは、自分の名前。
目印の赤い線は森のさらに奥に続いている。
その方向を睨むように見つめると、福留は再び歩き出した。
【残り14人・選手会10人】
ドメィ`・・・
116 :
112:2005/05/06(金) 22:10:49 ID:VA3xJpCH0
113と114の間、コピペミスで4行抜けてましたorz
保管するときに修正します…
二人の死体を思い出す。
抵抗した様子がないのを不思議に思ったものだが、
もしも二人を殺したのが佐伯であるならば…納得がいく。
同じ目的を持ったチームメートを疑う必要など、かけらもないのだから。
117 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/05/07(土) 00:32:49 ID:qMAmtgK6O
八場とんの味噌カツ ウマー!
hosyu
ホッシャ
ホシュ
捕手
123 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/05/11(水) 18:40:27 ID:ntGqSoxA0
124 :
358:2005/05/12(木) 09:12:59 ID:QZRFKY3q0
176.再認識
「あ、いけねぇ……孝介置いてきたんだ」
一頻り笑い終わった後、荒木が我に返ってつぶやいた。
「井端さん、まず孝介探すの付き合ってもらっていいですか?」
「良いも悪いもないだろ。あいつ一人か?」
「多分…」
急に嫌な予感がしてきて、二人は顔をしかめた。井端を追うのに必死になりすぎていた己を
荒木は悔いた。必死になりすぎて見落としていた人物が約二名いることなど、もちろん彼は知らない。
「うかうかしてられないな。荒木、行くぞ」
「はい」
と、威勢よく返事をしたが足は止まったままだ。
「……?」
「……、井端さん、俺、」
頼りなく目線をふらふらさせながら、荒木はやがて恥ずかしげにうつむいて言った
「どっちから来たか…わかりますか?」
二人の間に漂う沈黙の時間。
「……わからない」
またもお互い黙ってしまった。
そう、林の中でごたごたしているうちに、二人とも方向感覚を失ってしまったのだ。
さらに悪いことに、空は分厚い雲が覆っている。方角さえはっきりしない。
「足跡とかなんか、手がかり見つからないか?」
井端の提案で、周囲の地面を丹念に見回った後、荒木は一方向を指差した。
「こっち…だと思います」
「本当に?」
「…多分、多分」
これ以上疑ってみたころでどうにもならないのは自明だから、と二人は歩き出したのだ。
来た方向とは、逆にあたる進路を取って。
そして幾許かが過ぎて林が途切れてしまった時、さらに蒼白な顔をして荒木は立ち止まった。
125 :
358:2005/05/12(木) 09:16:02 ID:QZRFKY3q0
「やっぱり…道間違ってた、っぽい…」
井端は困ったように頭を掻いた。
「どうする?戻るか?」
言ってみたものの、実際問題まず「戻れるのか」のかさえ怪しい。
荒木もその事に気づいているらしく、頷いてはいるが出発したときのような威勢の良さはない。
「少し休むか?歩いてばっかだと気が滅入ってくるし」
「…そうですね」
ふう、と息をついて荒木は押し黙った。
林の中ではよくわからなかったが、雨脚は徐々に強くなっているようで、もう小雨ではなかった。
ナップザックの中を確認してみたが、雨を防ぐための道具は入っていない。風邪を引くことも
ないだろうが、濡れ鼠になるのは歓迎できない。早く止んでくれればよいのだが……
唐突に、人工的な破裂音が耳に届き、井端はぎくりとしてナップザックを落とした。
「まさか――」
井端が振り向いたときには、荒木はもう走り出していた。
「待て!」
言ったところで止まらないのはわかっている。荷物を拾い己も駆けていく。
銃声が鳴った場所へ無防備で突進していくなんて、親友の身を案じるのはわかるが
自分の身をまず案じろよ馬鹿野郎!井端が舌打ちしたときちょうど、荒木が足を止めた。
彼の背中越しに見えるのは、点在している立木の下にある、二つのユニフォームの影。
片方はやがて、すがりついていた他方にピストルを突きつけて――
「やめろ!」
荒木が叫んだ。井端は声を出せなかった。ピストルを握っているのは他でもない、
あの立浪だったからだ。
二度目の銃声は、しつこく頭の中で鳴り続けた。
立浪が何か呟いて、彼も倒れてしまったのを見ると、荒木はまた慌てて駆け寄って行った。
「ヤナギさん、ヤナギさん!」
銃弾を受けた方の人物、柳沢はもう事切れていた。肩を揺すっても抵抗が無く、ずるりと
横倒しになってしまうだけだった。
126 :
358:2005/05/12(木) 09:18:15 ID:QZRFKY3q0
「…立浪さん」
こちらも返事は無かったが、はっきりとした呼吸音が生を確信させた。
血液のせいで大部分が変色したユニフォーム、まだ硝煙が立ち上っているピストル、
握ったままの手と、柳沢の死体と……。
何をどう解釈すべきなのか、全く見当がつかない。確実に言える事は一つ、
立浪が、チームメイトである柳沢を、殺した。
「……こんな、こんな……嘘だ……」
荒木ががっくりと肩を落とし、泣きそうな声で言った。
「…仲間同士で……立浪さん、どうしてですか、ねえ」
立浪は苦悶の表情をしたままで、意識は戻らない。不意に井端の脳裏に、ある台詞がよみがえった。
『そうか……。"それ"聞いて安心したわ……』
板ガムを託したときに、彼はそう言っていた。そして、"それ"とは――
『…チームメイトだけは、殺すつもりはありません』
これは自分の台詞。本心の言葉。
――――あれ?
崖縁から落ちていったの背番号6は誰?
―それは、それは平井。
平井を撃ったのは、誰?
―それは、
銃の冷たい感触が電撃のように突然掌に広がって、反射的にそれを投げ捨てた。
どす、と鉄塊が柔らかい地面にめりこんで、荒木が驚いて振り返った。
「俺は平井を殺した」
口にした途端、全身が総毛立った。
「平井を、殺してしまった……」
何を撃ったつもりでいたんだろう、己のした事はチームメイトの殺害ではないか――
真っ暗な空の向こうからまた、雷鳴が聞こえてきた。
【残り14人・選手会10人】
職人さん乙
会長は・・・救われるのかなぁ・゚・(ノД`)・゚・
荒木はどうするんだろう・・・
つづきキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!
>「遅いねん、お前ら………」
↑が二人に聞こえてなかったのが妙に不安。
あと、会長大丈夫か?
でも、この状況だとヤナと立さんが殺しあったように見えるんじゃない?