「…はよ行け!!」
はっと顔を上げてそれから、押し殺した西岡の声が殺気を帯びる。
身をかがめて走ってきたのだろう、上半身のそのシャツにも、雨だれの染みはいくつもついていた。
「に、しおか…」
「アホ。ボケ。何も出来んのに、何もわからんのに、一人で行きやってからに!!」
「…そう、やな」
「皆助けるとか、大きなクチ叩いて!」
「……」
「あんたは、目の前のひとり、助けといたらええんじゃ!!」
ひゅっとまた何かが飛んでくる。ペットボトルと、ゴムひもで結わえた地図。
「あんたは、目の前のひとりだけでええ!!」
西岡の薄い背が気のせいかぼんやり遠い。福浦の呼ぶ声にも彼は首を振る。
一緒に来いという声にも振り向かない。小さなあのピストルを左手に構えて、右手にはモニタを持っている。
そういえば両利きみたいな器用な奴だった。
「西岡、置いていけるかよ!」
「足手まといやて言うてるんです。失礼ながら」
「う…」
「今江さん、頼むよ。死なせんって言うたよな」
約束したよな、ちらりとそのきつい目がこちらを見た。
もう白煙はおさまりきって、森のあちこちがしなびてなびいて、地もえぐれているのが見えた。
緊迫した静けさもまだあった。唇を舐めた。
銃をばちんとベルトに挟んで、今江はぐいと福浦の腕を引く。
「行きましょう」
「今江…っ」
「行きましょう。大塚さんも大丈夫です」
きっと、と口の中で言ってもう片方の手で、福浦の手からボウガンを奪う。
これも、と西岡から最後にリュックそのものが飛んできた。それも今江のものだ。
「西岡…」
ぱらぱらとまた遠ざかるマシンガンの音。
「任せたよ」
「死ぬなよ」
「死ぬか」
ぎゅっとモニタを睨んで、西岡が行こうとしながら言った。
「あんたは、目の前のひとりだけでええんよ、今江さん」
「……」
「俺が、それ以外は全部、俺が何とかするから。したるから」
「西岡っ」
全部何とかすると、その薄い背にかかるテンションに気付いたら、手を伸ばすしかなかった。
「…やっぱ一緒に来い!!」
ちろり犬のように彼は目だけで振り向く。
「西岡!一緒にっ…」
全部何とか、お前ならきっと出来る。でも待てよ。
それはきっと、めちゃくちゃつらいことなんとちゃうんか。
「…あかん。俺には俺のやることがあるから」
脱兎のように西岡は、呟いてすぐ身を飛ばせて行った。
「…今江、ごめんな。迷惑かけて」
「あ…そんなん、違いますよ!」
「でも、帽子被っててよかった。被ってなかったらアタマ、アフロみたいになってただろうな」
ふらつきかけ茶化して笑う福浦に肩を貸しながら、今江もぐるり背を向けた。仕方なかった。
今江さんそれは違う、これは俺のエゴなんよと、西岡が走りながら呟いたのは知らないままだった。
あんたにはそういう人でいて欲しいし、俺はこういう奴でいたいだけ。
そんで最後に俺がボロボロになったら、あんたは俺もきっと助けてくれるやろと、信じるみたいに西岡は呟いていた。
目の前には橋本将に毛布をかける小林宏之がいる。
その肩にかけられたマシンガンに小野晋吾の目は釘付けになった。
昨日深夜に見た、全身傷だらけのサブローが脳裏をよぎる。
宏之はこれでサブローを撃ったんだろうか。あの看板を撃ち砕いたように。
それは今、目の前にいる宏之からは考えられないことだった。
でも、さっきマシンガンを乱射していたいた宏之ならばもしかして…
晋吾の頭の中で様々な思考の糸がぐちゃぐちゃに絡まる。
一体何から聞けばいい?何を信じたらいい?
宏之は二人の顔に浮かぶ困惑を見抜いた。
「驚かせたかもしれませんね…俺も、放送で自分の名前を聞いたときは驚きました。
自分が死んでるって言われたんですから。昨日、発信機を飲まされたって聞きましたよね。
俺、昨夜吐いたときに、その発信機ごと吐いたらしくて。
たぶんそのときに誤作動かなんか起こして…」
「それで禁止エリアから…」
すぐに理解を示した橋本とは裏腹に、晋吾からは困惑が消えない。
晋吾は宏之が持つマシンガンからまだ目をそらせずにいた。
「…晋吾さん?」
呼びかけられて、晋吾ははっと顔をあげる。
目に映るのは普段と変わらない宏之。
そんなはずはない。こんなに協力的な宏之が、人に銃を向けるだなんて。
サブローにあんな重傷を負わせるだなんて。
でもそれなら、さっきの看板を破壊した行為…あれは一体?
「宏之、おまえ…」
その先は口にするのがためらわれた。これは聞いていいことなんだろうか。
これに触れたがために、宏之の化けの皮がはがれるなんてことはないだろうか。でも…
「サブローを…撃ったのか…?」
――聞かずにはいられなかった。
サブローの名を出したとたん、宏之の顔色が変わった。
「…なんでそれを」
「サブローがそう言った」
「会ったんですか!?」
「ああ。サブローが傷だらけで歩き回ってたから、どうしたのか聞いたんだ。
そしたらおまえに撃たれたって…。サブローは何か様子がおかしかった。
で、そこに今朝の放送だろ。 だから俺はきっとおまえとサブローの間に何かあって、
それでお前はサブローにやられたんだとばかり…」
やっぱりサブローは生きている、現にこうして会ったという人がいる。
それを確信すると、宏之の体は震えだした。脳裏にあの光景がよみがえる。
銃弾が連射される音、飛び散る赤い液体、倒れゆく肉体、そして自分がした行為…
今なお頭にこびりついていて離れようとしない。
重い沈黙の後、宏之は恐る恐る口を開く。
「逆です。俺がサブローさんを…殺したんです」
「は…?」
意表を突く答えに晋吾は戸惑う。
「俺、サブローさんに声かけたんです。そしたらサブローさん、返り血で染まってて…
もう人殺したって言ってて…俺も殺されそうになって…それで……」
説明しようとするうちに、ずっと押し殺してきた恐怖が次々に思い出される。
一言一言を発するのがもう苦しくてたまらなかった。
「サブローさんを…撃ちました…」
「でも殺したって」
「殺したはずだったんです!!」
問いを遮るように宏之は叫ぶ。ただならぬものを感じて晋吾は黙る。
「俺、サブローさんを撃った後、もう耐えられなくて…一度は死のうとしました。
でも結局死に切れなくて、目覚めたときには、サブローさんはどこにも……」
その話に晋吾が何か思いついて、地図を広げながら問う。
「なぁ宏之、それいつの話だ?」
「昨日の夕方です」
「どこで会った?」
「えっと…たぶんこの辺です」
宏之は広げた地図の北西部を指す。
「俺が会ったのは、ここだ」
晋吾は地図の南東部、書き込んである部分を指す。
「正確な時間はわからないけど、昨日の夜中だ。
確かに、そこからここまで移動できない距離じゃない。
でもあの重症で、こんな距離を歩くのは無理がある。
やっぱりサブローは変だよ。…おまえ、どう思う?」
「山崎さんが言うには…“やる気”になってる人を温存するために
運営側がサブローさんを助けたんじゃないか、って」
「あぁ、あの連中なら重態のサブローを回復させる術も持ってるかもな。
で、山崎さんにも会ったんだ?」
何気ない一言が宏之の胸に突き刺さった。
「さっきまで一緒にいたんです…けど……」
そこから先は声にならなかった。熱いかたまりがこみ上げてきて、喉に引っかかる。
目に光るものを見られたくなくて、宏之はうつむいた。
その様子に、新語と橋本は何があったのかを察する。
宏之の辿ってきた道が、いかに酷なものだったか思いやられた。
「…おまえも辛かったよな」
それまでじっと二人の話を聞いていた橋本が、宏之の肩をなだめるように叩く。
薬が効いてきたのだろうか、毛布にくるまった橋本の視線は、
心なしかさっきよりしっかりしているような気がした。
沈む宏之の気を紛らわせようと、晋吾は別の話を切り出す。
「お前の話を聞く限りじゃ、やっぱりサブローは危険なんだな?
でもさ、サブローは俺を殺そうとはしなかった。なんでだろ?」
「さぁ、そこまでは…」
宏之が首を振る。
「運営側がサブローを助けたのだとしたら…」
橋本が口を開く。
「サブローは運営側にとって、都合の悪い人間だけを選んで殺してるのかも」
「どういうことだ?」
「だから運営側はゲームを進めるために、やる気の人間を助ける。やる気の人間はその見返りに
運営側の都合のいいように働く、みたいな契約があるんじゃないですか?」
「…スパイか。そうすると最後に残るのはやる気の人間ばかりじゃないか。
そんなことが実際に行われてるとしたら、もう手に負えないぞ」
「悲しいけど、ゲームに乗り気の奴は確実にいます。…俺もひとり知ってる」
そう言って橋本は目を伏せた。悔しさをかみ締めるように握った拳が震えている。
その様子に晋吾は思いをめぐらす。
そういえばあのとき、橋本がひどくうなされていたのは熱のせいだけだったんだろうか。
あのチェーンソーを預かりものだと言ったのは、どういう意味なんだろう。
こいつは一体、どんな現実を見てきたんだろう。
辛いことは誰もみんな自分から話そうとしない。
他人に話して見たところで、結局は余計なことを思い出して辛さが増すだけだから。
きっと宏之も橋本も自分の知らない重い荷物を抱えている。
だからこそ各々が背負うものを思うと、胸が締め付けられるようだった。
「…いや、それも変ですよ。運営側に都合がいい人だとか悪い人とかあるなら、
最初から殺し合いなんかさせる意味ないじゃないですか。誰が残るかわからないのに」
宏之が横から異論を唱える。もっともだと思った。
「だよなぁ。あー、もう訳わかんねぇ」
結局、議論はふり出しに戻って進展しない。どこを取っても無理がある。
話の筋はねじれて繋がり、訳もわからぬまま延々と続く。
裏を見抜いたと思ったらいつの間にか表に戻っていたりする。
「とにかく話を整理すると、
・サブローは危険
・サブローを助けた誰かがいる、それは運営側である可能性が高い
・サブローは何か目的を持って動いている
ってとこか。何かわかんない事ばっかだな…」
晋吾は大きなため息をついた。
>235-239
◆vWptZvc5L.さんの書き込み代行です。
不備等あったらスミマセン。
書き込めるかな?代行ありがとうございました。
夜中に投下しようとしたら、全然書き込めなかったもので…
242 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/05/01(日) 00:31:08 ID:0yO7uTeJ0
GJGJGJ保守
捕手
h
246 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/05/02(月) 01:30:35 ID:zMMoruaX0
a
t
a
s
h
251 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/05/02(月) 12:52:41 ID:Eo2/2IW1O
i
n
253 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/05/03(火) 01:08:19 ID:/1v1A6MU0
j
o
255 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/05/03(火) 15:27:12 ID:/1v1A6MU0
・・・・・・・・・・・orz
orz
J
258 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/05/04(水) 13:40:13 ID:FErgYyx9O
o
z
u
m
e
263 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/05/05(木) 10:13:34 ID:jGkDhK9aO
スンヨプ何してるんだろう・・・
264 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/05/05(木) 10:52:58 ID:AYTGQu7DO
ベニたん(ry
265 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/05/06(金) 00:43:47 ID:9bzXiWuu0
まぁ保守
おやすみまえにほしゅ
Ha・・・shy
( ゚∀゚)
( ) <捕手! 捕手!
| 彡つ
し∪J
保守!
270 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/05/08(日) 16:28:54 ID:BDotButyO
強い。
271 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/05/08(日) 17:09:16 ID:ey63Y7AxO
うん。
ほ
り
274 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/05/09(月) 22:58:24 ID:dHvgnp5l0
こ
う
い
ち
278 :
代打名無し@実況は実況板で:2005/05/10(火) 00:26:57 ID:sL3smVVi0
GJ
保守っと
☆
保守しますよ