近鉄バファローズの小説バトルロワイアルスレです。
2 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/10 17:06:41
2
近鉄のも出来たんだ
職人さんガンガレ
4 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/10 17:46:33
5 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/10 21:57:50
6 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/11 13:22:06 ID:tx3k19PZ
あげ
7 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/11 13:58:15 ID:2KxZkeTf
職人さんと仏のノリさんに期待AGE
1様
乙であります
いいの読みたいな
夜の林道を一台のバスが走っている。
山道で外灯も少なく、コオロギの無く声が澄んで聞こえてくる。
少し大きめのバスには団体名も、会社名も書かれていない。
カーテンも全てが閉まっている。一筋の明かりも漏れていないのは、現在の時刻が夜明けに近いからだろう。
その中、少しだけカーテンが斜めに動き、一つの目が辺りを見回していた。
(まだ真っ暗……一体どこだろう、ここは)
阿部健太(48)はまだ真っ暗の景色をじっと眺めていた。
パリーグの全日程が終了し、世間では西武と中日の日本シリーズの展望を予想している時期、
近鉄バファローズの選手は昨夜、近鉄本社に集まっていた。
『プロテクトの選手を決めるために、選抜した近鉄選手40人の中から紅白戦を行い、
その中で良い働きをしたものをプロテクトに優先的に入れる』
一軍のレギュラー、二軍若手の有望株。
5億円の年棒を貰っている中村(5)や、FAで騒がれている礒部(8)、大村(7)
エースの岩隈(21)、今年の新人の香月(17)……
ユニフォーム持参の文字通りのサバイバル。
新球団の監督の仰木さん達は先に球場に入っているらしい。
(一回寝たけど、もう一度寝直したほうがいいよな……
新人王も取れなかったからここで挽回しないと。)
阿部は目を閉じると、すぐにいびきをかき始めた。
もしここで窓を開けて外の風景を目を凝らしていて見れば、少しでも助かる可能性はあったのかもしれない。
だがそれは催眠ガスの充満した近鉄バス内では無理な話であった……
アヴェケン視点に萌え
(・∀・)イイヨイイヨー
ロワイヤルじゃなくて、ロワイアルだよ…。
14 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/12 13:17:34 ID:gzRMv2j9
これは今年の戦力外選手は不参加?
赤堀…加藤とか
15 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/12 19:32:10 ID:X3tOafLW
age
保守
17 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/13 01:11:10 ID:+E25AIEo
職人降臨待ちage
>>14 個人的には出してホスィ。
「活躍すれば戦力外の話はなしにしてやる」とか言ってw
「・・・きろ・・・え・・・ろ・・・」
「起きろ、オラ、全員起きろ!」
「う〜ん、そこでカーブなんて放れないっすよぉ、的山さん……」
「早く起きろ!」
バァン!
「ぐえっ!」
そこらへんにあったモップで背中を強打され、香月は跳ね起きた。
目の前に緑色のモップを持った仁王……いや、中村が立っていた。
「起きたか?」
「ゲホッ、ゲホッ、あ、中村さん、お早うございます!」
「あぁ。」
寝起きということと背中を思いっきり打たれたことで全く状況が理解できない。
「あれ、ここ……ロッカールームですか? 何で皆ユニフォーム着てるんですか?」
「お前も着てるだろ」
北川(46)に言われて胸元をみると確かに17の文字が胸につけられているし、近鉄のユニフォームを着ていた。
「……バスの中では私服だったじゃないですか」
「俺に言われてもな……俺も起きたらこの姿だったんだよ」
大西宏明(50)も続く。
「俺たち近鉄バスに乗ってたじゃないですか、なんでロッカールームに?」
「わからねぇよ、俺も会長に起こされたばっかだし」
「第一、ここはどこなんだ?俺達紅白戦をやりに来たんだろ?」
「水口さんや岩隈とか……どこにいったんだ?ここにいるのは20人余りじゃないか」
ロッカールームは騒然となっていた。
「……さっきここに金村さんが入ってきてな」
喧騒の中、中村は静かに口を開いた。
「『全員起きたらグラウンドに集まれ、逃げたら殺す』だと。」
「……冗談きついですよ、中村さん……」
「とりあえず全員ロッカールームを出てグラウンドに行こう。」
廊下を移動してベンチに着くと、目の前にはベンチ、更に向こうには草ぼうぼうのグラウンド、観客席があった。
そしてグラウンドの中には緑色の軍服、銃を持った人間が十数人立っていた。
「誰だ、あいつら」
「ワイも知らん。アナウンスがあるまでベンチで待機しておけやて、言うとったで。」
「しかし、ゴルフじゃあるまいし……」
「おいおい、こんなところで紅白戦なんてやるんかよ……」
『ようやく来たか、向こう側のほうが4分早かったで』
確かに、球場のアナウンスから金村義明の声が流れてきた。
『だが、ワシは仏のカネさんと呼ばれてるからのぉ、今回はなにもせんでおくわ、はははは』
「金村さん、こんなグラウンドで紅白戦をするんですか?」
大西が近くにあったマイクをとって喋った。
『待て待て、今から簡単なルール説明を始まるからな』
ルール? 俺達は紅白戦をするためではなかったのか?
ベンチ内がざわついたのも束の間、二言目には
『バトルロワイアルって知ってるか? 今から、あんたらに殺し合いをしてもらう』
その言葉の直後、向こうのベンチで何かが聞こえた気がした。が、
パァン!
さらにそれを打ち消す銃声、しばらくして向かい側のベンチからの絶叫。
『あー忘れとった、今グラウンドに入った奴はそこの28番みたいになるからな、覚えておけよ、はははは』
下卑た笑い声にぐっ、と香月はくってかかる気持ちを堪えた。
隣にいる赤堀(19)もバケツに何度も蹴りを食らわせて気を紛らわしている。
さすがにその先は知っている。
原作では食ってかかった生徒が一人殺されているのだ。
その有名なシーンは当時のニュースや映画紹介、近鉄の間でも見たチームメイトから聞いた話でほぼ全員が知っている。
知らなかったのは、彼が今年の途中から入団していて当時の騒ぎを知らなかったからだろう。
『おぉ、流石に全員よく分かってるな。それじゃ、ルール説明にいくで』
そこだけ新品のように新しいバックスクリーンに地図が浮かび上がった。
『具体的なことは何も変わらん。2人や。2人残るまで殺し合いをしてもらう。
バックの中には映画と地図と食料、水、そして武器が入ってる。赤い線を超えたら爆死……
あぁ、すまん、これを忘れていた。お前らの体の中にはあらかじめ寝てる間に
爆弾と発信機を入れたカプセルを飲み込ませておいた。
まぁ、タイムリミットは三日間やから体から出てくるまでには決着がつくやろ。』
話が具体的になってくる。
ベンチ内は張り詰めた空気になっていた。
『毎日6:00、12:00、18:00に死んだ奴らと禁止エリアの定時連絡するから、その時に飯でも食べたほうがえぇで。
三日後の6:00に3人以上残ってたら全員死亡や。これが最低限の説明や。質問あるか?』
大西がマイクを持って見渡すが、誰も動かない。
『質問です。』
マイクから聞こえたのは、今年は特に聞きなれた岩隈の声だった。
『何で、僕達なんですか?』
『それは、企業秘密や。それで十分か?』
『……えぇ。では、監督はこれを知っているんですか?』
『監督は何も知らん。だから査定に入らんし、心置きなく戦ってええよ』
『……』
『質問タイムは終わりや。おい、そこの外人をマウンドまで運んで来い』
一塁側の軍服の男がベンチまで動くと、何かがマウンドまで引きずられて行く。
「あれは……確かにマリオだな……」
『とりあえず違反をした人間はこうなるからな、逆らおうなんて思わんことやな』
そして、マリオの体が弾け飛んだ。
上半身と下半身が、爆音と共に数メートル離れた。マウンドが真っ赤に染まってゆく。
誰も、一言も声を発さなかった。
『それでは、6:48分、ゲームスタートや。そこの軍服から背番号順に貰いに来いよ』
試合開始の、サイレンがグラウンドに鳴り響いた。
【背番号28 マリオ 死亡】【残り39人】
22 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/13 13:41:42 ID:gysrpV9E
は、始まってる!!!
これからもガンガってください。期待してます。
『背番号00、森谷 昭人』
全員の目が一変に森谷(00)に集まる。
森谷も同じように全員を見渡した後に
「……行ってくる」
と呟いて前に出る。すると胸に勢いよく黒い鞄が投げられた。
受け取った森谷はすぐにベンチから出て行った。
廊下には矢印が既に貼ってある。その向きに向かって、走る。
特別快速と言われ、2軍で2000年から3年連続盗塁王の記録を持っている。
次の塁を盗むよりももっと早く、物凄いスピードで森谷は走る。
廊下は曲がり角の部分に板が打ちつけてあり、迷うことは無かった。
外はうっそうとした木々に囲まれていたのだ。目の前にはアスファルトが申し訳ないくらい細く伸びている。
球場の入り口にはポッカの100円のコーヒーの自販機が倒れている。
自分が子供の頃、恐らく消費税がある前に良く見かけた100円の自販機だ。
あえて森谷は木々の間を抜け、球場が見えなくなった所で休みを取って鞄の中を空けた。
「……本当に最低限の説明なんだな」
中には二日分の食料、水、地図、そして木製のバット、軟式のボール、グラブが一つずつ。そしてさらに黒い袋。
(どうやらここまでは全員支給されているみたいだ……野球道具も十分武器だと思うんだけどな……)
とりあえず腹が減ってはいる。森谷は食料と水を口に含み、黒い袋を開けた。
カチャリ。
黒光りするものがすっぽりと森谷の左手に当たった。
小型だが、銃。左手にかなりの重さを感じた。
当たりだ。思わず笑いが出るのをこらえてしまう。
この銃は護身用だ、そうだ、出来るならば、一人で隠れていれば、皆が勝手に殺し合いをしてくれるはずだ。
別に自分が手を汚す必要なんて無いじゃないか。
そう自分に言い聞かせると森谷は銃を持って森の奥へと隠れていった。
これリレーですか? それとも現職人さんはもう終いまでできてらっしゃる?
・・・ペース早いし後者ですかね。お邪魔にならぬよう気を付けるので
外伝(移籍済選手とかで)書いても大丈夫でしょうか・・・?
>>24 いえいえ、私はリアルタイムで考えた奴を書いてますので
できればどんどん続きを書いてください。
私、物事を考える初速だけ速いので絶対途中で詰まっちゃうので(´Д`;)
職人の方はトリップつけないんですか?
かぶってしまった時とかにわかりやすくなったり、いろいろ便利かと思いますし。
「イーッヒッヒッヒッヒ、イッヒッヒッヒ……」
決してねる○るねるねのCMではない。
背番号5、中村紀弘(以下ノリ)は崩れた民家の中で一人でおおはしゃぎしていた。
いや、正確にはバックを貰った瞬間から思わず踊りだしたいくらいの衝動に駆られていたのだ。
と、いうのもノリのバックはとても重かったのだ。
重いというのは戦闘では致命傷なのかもしれないが、武器がランダムで配られ、中身が判らないという状況であれば話は別だろう。
重い=重火器類。
「つーわけで、御開帳や」
ノリは安全を確認してからゆっくりとチャックを開いた。
「地図と食べ物と……こんなんやない、ワイの欲しいのは……っと、これやな……」
黒い包みはとても大きく、硬かった。触ると硬い。
紐を解くとそれは大きなケースに更に入っている。
「ふふふ、これだけ厳重であるんならロケットランチャーや、きっと」
パチン。
留め金をはずす。多分彼の顔はFAを餌に複数年契約を取ったときよりも、
もしかしたら近鉄が優勝したときよりもいい笑顔をしていたのかもしれない。
「こんにちは〜、ワイのロケットランチャ〜♥」
だが、それを空けた瞬間、彼の仏のような笑顔は一瞬にして固まってしまった。
目の前には大量の諭吉さん。そう、福沢諭吉さんである。
同じ顔で移っている諭吉さんはまるで身代金を用意したときの様にものものしい顔で
そこに鎮座していた。一束100万と仮定して……1億円。
そして真ん中に貼り付けられている小切手は……4億円。そう、近鉄会社の小切手の4億円だ。
小林球団社長の直筆サインまで入っている。おそらく今から銀行に行けば4億円がそのまま貰えるであろう、もしここに銀行があれば、だが。
「た、確かにワイは金は欲しいけどな……今はこんなもん欲しくないんじゃーーーーっ!!」
絶叫と共に崩れ落ちてゆく札束を見ながら、
やはり自分に待っているのは暗い地の底なのかと痛感するノリであった……
降って湧いた考えられないような話。
突きつけられるのは初めてではなかった。
そもそもこんな状況に追い込まれる羽目になった元凶、
バファローズ・ブルーウェーブ両球団の合併話自体も
愛敬尚史(22)にとってはそうだったのだ。
朝だというのに陽射しが茂る枝々に遮られた林を道なりに進む足取りはいささか乱暴だ。
愛敬は事態のわけのわからなさに苛立っていた。
紅白戦が聞いて呆れる。
どことも知れないへっぽこな球場に寝てる間に押し込まれたと思ったら
そこからさえ放り出されてこんな朝から薄暗いような林の中だ。
大体プロテクト枠がどうこうとバトルロワイアルとか食い合わせが悪すぎる。
いまどきドッキリでももうちょっと気の利いたやりかたをするだろう。
こういうアホらしいことをするために随分経費がかかっているように思える。
赤字はどうした赤字は。馬鹿じゃねえの馬鹿じゃねえの馬鹿じゃねえの!?
誰をというわけでもないが内心で感情的に罵って、それで少し腹立ちが紛れた。
頭を巡る血が冷えて、戻ってきた理性が愛敬に警告を与える。
金村は確か、愛敬ら選手たちに何かを飲み込ませたと言っていなかったか。
――発信機と、爆弾。
あまりと言えばあまりの出来事に、断片的にしか記憶が残っていない。
ただ爆弾というキーワードだけは、マリオの、
というよりマリオだったものの姿と対になって強烈に焼きついていた。
ああなりたくなかったら――殺せ、殺し合え。金村はそう言ったのだ。
「いや……ちょっと待てよ、あんなん嘘に決まって……」
声に出してはみたものの、作り物にしては生々しすぎる鉄臭さを覚えている。
あれはほんものの、血の、臭いだ。
身震いがした。慌てて周囲を見渡す。人影はない。
愛敬は道を逸れて林の中へ駆け込んだ。
これが本当に殺し合いなのだとしたら。呑気に道なんて人のいそうな、
いると思われそうなところを歩いている場合ではない。
少しでも目立たないように――殺されないように!
まず第一に考えなくてはならないのはそれだ。そう、武器もいつでも使えるように
用意しておかなくてはいけない。誰かが襲ってきたら身を守らなくてはいけないのだ。
荷物を開けながら愛敬は、これが紅白戦名義で良かったことにひとつだけ思い当たった。
今着ているビジターのユニホームは黒い、白いホームのそれより
多分目立たずに済むということ、だった。
保守
◆Neko/ad28さん、乙です。
ただしノリは紀洋ですよ〜
背番号53、坂 克彦は球場の北側、崖を通る道路の上で地図を開いていた。
てっきり島かと思っていたが、地図の中には海ではなく、南西の方向に湖らしきものが見える以外はあたりは山に囲まれているらしい。
中央やや東にある球場を中心に道路は数本通っており、ここもその一つである。
こんな目立つ場所に待機していたのは一年先輩であり、明徳と常総学院という強豪校同士から親交があった筧(57)と待ち合わせをしているからだ。
ここならば相手が隠れる場所なんて無い。自分も隠れる場所は無いのだがリスクを犯してまで来る人間は居ないだろう。ある意味安全地帯だ。
(さて、それじゃ武器の中身を知ろうかな)
「お〜い、坂!」
そこに約束をした人間の声が聞こえて、
「あ、筧さ・・・」
パパパパパパパパパパパン!!
振り向く間も無く、彼の意識はそこで消えた。
「ごめんな、やっぱタッグよりも一人の方が良いし」
硝煙を吹き上げているウズィSMGを構えた筧がニヤリと笑った。
「恨むなよ、恨むなら金村だ。帰ったらお前の墓立ててやるから、年棒でな」
さっきまで坂だった肉塊に向けて拝むと、筧はその死体を引っ張ってゆく。
ガードレールはすでに曲がっていたり無くなっている所もあったので、筧はそこから死体を放り投げた。
「しかし結構高さがあるな……落ちたら無事じゃすまないな……」
そういって少し身を乗り出して崖の底を覗いたときに、パン!と、一発音がして、
「……グッ!?」
左足に一発。身を乗り出していた筧はウズィSMGと共に坂の死体が待つ崖へと落ちていった。
「……ふぅ」
ピッチャーとしての精神力がこんなときに役立つとは、と筧が崖に落ちていったのを確認して向かい側、道路の数メートル上の林の中に居た岩隈(21)は一つ息をついた。
彼の指には1mもあろうかというスナイパーライフル、PSG1の引き金にかかっていた。薬莢が一つ、岩隈の近くに落ちている。
「銃を取れなかったのは痛いけれども、食料は確保できたし、今すぐ向かい側に行かないと」
PSG1を手際よくバックにしまい、岩隈はすぐにその場を離れる。
「まだ帰る場所もあるし、待ってくれる人も居る、絶対に負けられない」
そう、愛する家族、まどかのために、羽音(うた)の為に。
近鉄のエースは、鬼となることを決めた。
【背番号53 坂 克彦 死亡】【残り38人】
>>32-33 乙です!
自分も書いてみたいとちょっとだけ思ってるのですが
オリジナルで進めて行っていいんですよね?
(何せ原作ほとんど知らないので(;´∀`))
「うわああぁぁあああぁぁっ!!」
全くなんの脈絡もなく素っ頓狂な叫び声が斜め前方から聞こえて、
吉川勝成(99)はびくっと身を竦ませた。
それほど視界の広くない林の中だが、見える距離に誰かがいた。
「来るな……来るなぁ!」
半狂乱になっているその相手を山村宏樹(12)だと認識するまでには少し時間が要った。
血走った目をいっぱいに見開いて、喚き立てながら支給品なのだろう折りたたみ鋸を
ぶんぶんと振り回す物騒この上ない姿はあまりにも現実離れしていたからだ。
だがよくよく見れば、そこに害意がないのは明らかだった。
ただ単純に混乱を極め、また怯えきっているだけだ。
山村がわけありの人物なのは吉川も知っていた。以前の在籍チームでイジメにあって、
野球もろくにできないまんま放り出されたのだというように聞いている。
噂の信憑性のほどはわからないが、ともかく本人が悪い人間でないことは伝聞ではなく
吉川自身がじかに接して知っている。助けるなんて大袈裟なことでなくてもいい、
とにかく落ち着いて貰うことはできないだろうか、そう吉川は思った。
「山村さ……」
「来るなって言ってるだろぉぉっ!」
名前を呼んだだけなのだが、山村はひときわ大きな叫びを、いや悲鳴を上げて後退る
「ちょ……山村さん、」
とりあえず吉川は両手を広げ、頭上に差し上げた。とにかく武器を持っていないこと、
できればついでに敵意を持っていないことを示せればと思ったのだが、
「わあぁぁあ! やめろぉ!」
さらに五歩ほどだだっと下がって、山村は背中から木にぶつかって転がった。
文明人同士ならたぶん通じるであろう仕草もパニックを起こしている山村には
より原始的な受け取り方をされたのだろう。つまりは、威嚇だと。
「山村さんっ!」
だが吉川が助け起こすまでもなく、山村はすぐさま起き上がった。ぶんと鋸が振られる。
嗄れはじめた声を絞って、なお山村は悲鳴を上げ続けた。
「来るな……来るなよぉっ……」
「カツ!」
その悲鳴に、低く押し殺してはいるが強い声がかぶさった。
吉川には後ろから聞こえたそれが岡本晃(16)の声だとすぐにわかったし
もちろん恐怖を感じもしなかったのだが、向き合う相手の人数が増えたせいか
山村はほとんど劇的に怯えの度合いを強めた。
「……や、やめ……助け、てっ……!」
それこそ襲われてでもいるような反応だ。別に敵意などないのに、
なぜ通じないのだろうと苛立ちが頭をもたげる。それに背中を押されて
吉川は一歩を踏み出しかけた。
「止せ、勝成」
小声で、しかし強い調子で制止されて吉川は岡本を振り返った。
岡本は横に首を振り、唇の前で人差し指を立てて見せた。
「……」
無言で、吉川はもう一度山村のほうへ向き直った。様子は変わらない。
「あ……あぁ……」
山村は吉川と岡本との間で忙しく視線を往復させながらふらふらと後退を続け、
ある程度下がったところでばっと背を向けて駆け出した。
みるみる小さくなる姿は、山村がどれだけ必死に走っているのかを雄弁に物語っていた。
「……山村さん……」
呟く吉川の肩を、岡本が軽く叩いた。
「……なにもできんよ。刺激しても興奮するばっかりや」
諭すような、独り言のような言葉。吉川は実際なにもできなかったどころか
むしろ余計に山村を怯えさせるばかりだった自分を思えば頷くほかなかった。
38 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/15 00:07:02 ID:Nsu9CrWa
age
期待ほっしゅ
40 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/15 02:41:41 ID:WIC4bRct
近鉄のファン感謝デーはいつやるんですか??
保守
42 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/15 21:58:39 ID:edlweiVU
揚げ
高須洋介(4)は怯えていた、何とも言えない恐怖感で。
「殺し合いって何だよ…ふざけてんのか…」
何度も声に出して呟いてみても意味などない。
未だ、その真実が受け入れられなかった。それだけだ。
ただ殺し合えの一言だけ置いて外に放り出されるだけなら話は別だったろう。
しかし、だ。
高須たちの目の前でマリオが死んだのも事実で流れていた赤い血も 事実だ。
『…そんなこと、俺には出来ない』
今まで一緒に野球をやってきたみんなを殺すなんて出来ない。
だか、ここで何もしないでくたばるわけにもいかない。じっとしてたら誰かにきっと殺される。
『…ここから一人で逃げ出せないのか?』
とは考えたものの、恐らく逃げ出そうなんて仕草がばれたら爆弾でドカンだろう。
マリオの経緯を見ていると容赦なんて皆無に違いない。
人気の無い道を歩きながら与えられたバックを開ける。
言われた通りのものと 皮肉にも野球道具まで入っている。
ゴソゴソと中を漁っていると黒い袋を触った。恐らくこの中に武器が入っている----
ごくり、と唾を飲んで高須はゆっくりと紐を緩めた。
何も入っていない。よく考えると袋一枚の重さほどしか感じられないではないか。
ハズレなんてあるのか、はたまた野球道具が武器だったのか、と落胆しながら袋の口を下に向けると
小さく音を立てて何かがアスファルトに落ちた。
『…爪楊枝』
確かに鋭利なものではある。…大きさはともかく。
『殺すか、殺されるしかないのか…?』
どこかに隠れようにも着ているユニフォームは腹が立つくらい真っ白だった。
どこか一か所に潜むよりも頻繁に移動した方がよいのではないか。そう高須は踏んだ。
まさか全員が誰かを殺そうと思ってないだろう。少なくとも今までのみんなはそんなことを考えそうな奴ではなかった。
戸惑っている奴もいるだろうし説得すれば同盟でも組めるんじゃないか。
そこらへんが甘いと言うか優しいと言うか。今の状況では当然前者と言うべきには違いないが。
『みんなde一緒に考えたら逃げ道が見つかるかも知れない…』
まぁ、もし袋に銃でも入っていたら話は別だったかも知れない。爪楊枝一本で人殺しなんてたまるか。
地図を見ながらしばらく道を歩いていたら幾つかの民家の集まりがあった。人の住んでいそうな雰囲気は全くない。
そんな民家から誰かが出てくる。
…誰だ。
咄嗟に高須は叢に身を潜めた。
もしかしたら、あちらはゲームに乗り気かも知れない。そうは思いたくはないのだが。
とりあえず自分には武器らしい武器がないのだから、誰かも判らないままノコノコでてゆくのは無防備すぎるだろう。
民家から出て来た男は思いの他身近な人物だった。
水口栄二(10)である。手元を見ると配給されてないような食料が入った袋を持っているので恐らく食料を探していたのだろう。
食料以外に目立つものはないのを確認すると執拗な警戒心はないらしいのが判る。
こちらのように武器らしい武器は持っていないのか、武器を使う気はないのか。そのどちらかであることは確かだ。
もし警戒していたのならば争う気がなくともいきなり人と鉢合わせとなると、吃驚して手に持っていた銃でドカン と言うことが有り得ないこともない。
「水口さんを味方につければ強いかも……」
彼はみんなから信頼され、中心に居た一人だった。それなりに頭もよかったからもってこいの人物だ。
同じ内野手で彼の変わりとして守備堅めに入ることも少なく無かったから、それなりに親しくやってきた。
いや、可愛がってもらっていた と言うべきか。
そんな事今はどうでもいい。とりあえず話は出来る人物だ。
高須はそう思い、立ち上がった。
「水口さん」
高須は恐る恐る喋り掛けた。真正面からなど怖くて無理だったから後ろから声を掛ける。
水口は少しぴくりと体を強張らせてからこちらを向いたが、声の主が高須だと確認すると表情は柔らかくなった。
「高須…」
とりあえずこちらも手に武器はないんだということを見せながら
「俺はゲームに乗る気はないんで安心して下さい」
と言うと水口は笑った。
その笑みを見、高須はやっと肩の力を抜いた。緊張していたのはコッチの方だ。
「お前はどうするつもりなんだ?」
戦う気はないと言う高須に水口は問うた。何もしなかったらただの犬死になるだけだ、と言う事が判っているということを前提に彼は言っているのだということは水口は理解しているらしい。
。
「逃げ道を探したいんです」
その一言で水口の表情はぴくりと動く。
何を馬鹿げたことを、 恐らく心の中でそう思っているのか。
確かに馬鹿げた事かも知れないが、戦う気など全く無かった高須にとっては本気である。
「ふーん……で、誰かと組みたいと思った。そんな時、近くに俺が来たってわけだよな」
逃げ道を探したい、 その一言だけで水口はそこまで介入してくる。頭の回転は想像していたよりよかった。
味方につけられれば本当にどうにかなるかもしれない、と高須は勝手に期待を膨らませる。
そこまでは順調だった。
「残念だけど高須、 俺はゲームに乗り気なんだよ。話し掛けた相手が悪かったな」
水口がその科白を最後まで言い切ると、袋などを持っていたのと逆の手がすっと高須の方に伸び、その手には何か握られていてその何が首を深々と突き刺しそこから大量の血が噴き出した…のを認識したところで彼の意識は無くなった。
どさり、と野球選手としては小柄な体が地面に叩き付けられるのを見届けると水口はユニフォームで鋭利のそれに付いた血を拭いながら口元に笑みを浮かべる。
返り血が付いたからこれ以上どんなに汚れても一緒だ。
「アイスピックなんかで人が死んじゃうもんなんだね」
民家をで食料を漁ったついでに持ってきたそれが早くも役に立つとは、人生とはわからないものだ。
拾った故人のロクな物が入ってない荷物を開き、鼻で笑いながら水口はゆっくりと何事も無かったかの様に歩き出した。
【背番号4 高須洋介 死亡】【残り37人】
エイエイコワカヨヨクてイイ!
ほっしゅ
49 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/16 20:38:05 ID:Go5yU1bI
age
保守するよ。
51 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/17 00:11:39 ID:5dUlaktf
保守
初仕事は予期していたよりもずっとあっけなく終わった。
山本省吾(18)は足元に横たわる黒いユニホーム姿を見下ろしながら長い溜息をついた。
有銘兼久(13)が声をかけてきたその時には既に山本の肚は決まっていたのだ。
実に曖昧な心算しか持っていなかったにも関わらず、ことはなんの滞りもなく運んだ。
『なんとかならないかな?』そんな話に適当に相槌を打った。
『何入ってた?』という問いには、丸みを帯びた小柄なプラスチック製の銃を見せた。
『人を殺した手で、わかなやちなみを抱けるわけないもんなあ……』
その言葉にだけは咄嗟に答えを返せなかったが、特に支障にはならなかった。
同い年で同じ投手、使われ方も似ていたから普段から親しかった、それもうまく働いた。
申し訳ないほど簡単に、有銘はころりと騙されて隙を作ってくれたのだ。
隙ができたから魔が差したのではない。山本は初めからそのつもりだった。
有銘は知らなかったし想像しようともしなかった。あるいは感傷が目を曇らせたか、
さもなくば単に悪いほうへ考えたくないというだけだったのかもしれない。
いずれにせよそれは致命的な――文字通り”致命的”な判断ミスだったのだ。
目の前で笑う人間の腹の底に悪意があることもあれば、あらかたプラスチックで
出来ているくせにきちんと実弾を撃てる銃も存在する。
ちょっと疑ってみれば良かったのだ、殺されたくなかったのなら。
話の流れを無視して銃が向けられたとき、なにか抵抗を試みれば良かったのだ。
仮にそれがモデルガンだと心底信じていたにしても、向けられることの意味にもっと
敏感でありさえすれば良かったのだ。武器をというよりは悪意――殺意を。
有銘の横顔を見る。ほぼ即死だったのだろう、苦悶の影はない。
別に苦しめて殺したいわけではない、確実に、迅速に済ませたほうが合目的的だ。
そういう意味では完璧に近い仕事だった。
だから――せっかくうまくいったのなら、こんなところでぼんやりして
時間を浪費している場合では本来ないのだが、まだ山本は動けなかった。
銃を持つ手が震えている。殺すべきだと思った。殺せると思った。できた。
なんの問題もないのにどうして、と思う。
「間違ってないぞ、俺は……」
山本は低く呻いた。間違っていないという根拠はすでに検証したはずだった。
冷静に考えたらチームメイトを殺して勝ち残るよりも逃げ出そうとするほうが
必要とする武装や気力体力の質・量がはるかに高水準なのは明らかだ。
あたりまえだ、こんなことが明るみに出たときのことを考えたら
逃げ出されないための保険などどれだけ掛けても足りないぐらいだ。
それら全てを掻い潜るか噛み破るか、いずれ要する労力たるやとんでもないに違いない。
それでも、ある程度以上具体的に脱出に向けて動く奴が出たら
その時点で全員の体内の爆弾が炸裂するだろう。
少なくとも山本自身がスイッチを握る立場だったらそうする。
ただ、何か意図があって――どうせまたろくでもないものに決まっているが――
殺し合いをさせているのだからかなりの範囲までは平気だろうとも思うが、
追い込まれた状況でこそあり得ない力を出すような人間の心当たりは複数あった。
もちろん野球の試合での話だからそのままこの状況に当てはめるわけにもいかないが
それがリスクである以上大きめに見積もっておかなくては泣きを見ることになる。
どころかこの状況下では二度とこの世で泣けもしない目に遭うわけだ。
総合的に判断して山本の至った結論は――可及的速やかに、勝利者の地位を手に入れる。
有り体に言えば自分が死ぬのは嫌だからその確率を下げるためになるべく早く周りを
皆殺しにするとそういうことだったのだ。
自分の身の安全が保障されているなら他人の安全を考慮もできるが、他人の安全は
決して自分の安全に優先しない。人間どころか生物としての鉄則だ。
誰からも、責められる謂れなどなにひとつありはしない……
「――今更だ」
声に出して呟くと、ようやく手の震えが止まった。必要なのは理論武装でなく覚悟だ、
千語万語の言い訳を並べるより腹を括る一言のほうが大切だ。
そうだ俺は死にたくないから殺した。これからもそうする。それが全てだ。
尻ポケットにグロック26を戻すと、山本は有銘に背を向けて歩き出した。
もう振り返らなかった。
【背番号13 有銘兼久 死亡】【残り36人】
死亡生存関係なく集計しました(登場順)
阿部(48)中村(5)礒部(8)大村(7)岩隈(21)香月(17)北川(46)大西(50)赤堀(19)
マリオ(28)森谷(00)愛敬(22)坂(53)筧(57)吉川(99)山村(12)岡本(16)高須(4)
水口(10)山本(18)有銘(13)
計21人です、かぶっていないかとかの確認にどうぞ。
生き残りたい、それだけで頭がいっぱいだった。
それで野球をやるんだ。なんだかんだ言っても、俺は、野球が好きなのだ。
そのためには生き残らなければならない。その為には相手を殺さなければならない。俺が生き残るんだ。
それで一軍で四番を打って三冠王になるんだ。俺にはそれが出来る素質がある。
ずっと沈んでた才能が開花するんだ。それをずっと待っているんだ。こんな場所で死んでたまるか。
まるで薬物でも使用しているように体も意識もフワフワしていた。少しだけ気分も良かった。
何故そんな気分になったのかは良くわからないが、山下勝己(38)は確かに、静かにだったが狂っていた。
二軍では鬼かと思うほど打つのに一軍ではサッパリという、所謂二軍の帝王のレッテルを貼られた。
これでも彼はずっと一軍の四番を目指し続けていた。
それなのに、こんなところで夢が崩れ去って行くのは嫌だ、俺はあの歓声の中でHRを打つんだ。ああ、サヨナラHRも打つんだ。それでみんなに迎えられてもみくちゃにされるんだ。
この快楽を味わってみたい。それが山下の夢であり、希望である。否、野望かも知れない。
それが訳のわからない殺し合いで一方的に奪われるなんて絶対納得いかない。
……だったら俺の夢を奪い去ろうとする奴等を殺せば良いのだ。ああ、そうだ。それがあるじゃないか。
多分心のどこかでずっと、自分以外どこかに行ってしまえばよいとは思ってたのだろう。
そうすれば俺は自動的に四番が打てると、気楽であり、馬鹿げてもいる妄想ばかりしていた。
期待されながらも上でそれに答える事が出来ない自分に嫌気がさしていたのも事実だ。
それでもいつも笑顔を作っていた。そうしないといけないのだと思いこんでいたのだろうか。
どこかで銃を乱射しているような音が暫く鳴り響く。自分と同じように生き残ろうとしている奴がいる。そいつらに殺される前に俺がやらなければ。
音がしなくなったと思ったら今度は先ほどとは違う銃声が聞こえた。
複数。
独りではないのだ。ゲームを愉しもうとしているのは、俺だけじゃない。
山下は袋に入っていたコルト・ガバメントをしっかりと握り、茂みの中に潜んだ。
でかい図体のせいで完全に隠れることは出来なかったが、別に隠れることがメインではない。
ここはスタート地点から真っ直ぐ歩いて暫くの所だった。何も考えずにやって来る奴も多いだろう。
---或いは、武器の確認さえもせずに。こうなればそれはただの小動物でしかない。そして、俺は、猟師だ。
時計が無いので正確な時間は判らなかったが10分ほどしたところで遠くからガサガサと茂みを割る音が聞こえてきた。
ビンゴ。誰かが走ってこちらにやって来る。恐らく警戒もせずに、真っ直ぐに。
じっくりと目を凝らすと吉良俊則(39)だと言うことが判った。多分あちらは殺すことなんて考えてはいないだろう。
殺されるかもしれない、ということさえも考えていないだろう。人を疑って生きる事をまだ彼は、知らなかった。
そんな事などどうでもよかった山下は少しだけ躊躇したが敵には変わり無いということを結論付けるとゆっくりと弾き金を引いた。
扱い方なぞわからない。とりあえず弾いたらどうにかなる。それだけだった。
無事に当たるのかも判らずに-------------------
パン、と何かを貫通するような鈍い音が当たりに充満した。ぐっ、と何かが一瞬呻くような感じもした。
当たったのか。山下は咄嗟に閉じてしまっていた目を開く。
目の前にあったはずの吉良の腰が視界に入ってこない。ゆっくりと視線を下に落とした。
思いの他近くに来ていた吉良は山下のほんの数メートル程しか離れていないところでぴくりとも動かず倒れていた。
眉間を一発。見事だった。それはまるで満塁アーチを打つが如く。完璧の当たりだと言ってよいだろう。
ああ、そうか。この感触だ。野球も人殺しも紙一重なのだ。
山下は暫くじっと動かずに、その動かない塊を見つめていた。
【背番号39 吉良俊則 死亡】【残り35人】
58 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/17 12:45:58 ID:Cd9/vJAB
保守
保守っときます
60 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/18 00:36:43 ID:Vz5RpvDU
保守
職人さんってホンマ凄い!ほしゅ!
吉岡雄二(3)は、山奥の中ぽつんとそびえ立っていたペンションの一室にいた。
使用されなくなって相当の年月が経っているのであろうことは想像に難くない。
わずかに残った家具に積もった埃、建物全体から放たれているカビの臭い。
吉岡が備え付けのベッドに腰掛けると、埃が一気に宙に舞った。
吉岡は激しく息を切らしていた。
それもそうだ。吉岡は自分の名前がアナウンスされるや否や、一心不乱に山道を走り抜け、
このペンションに辿り着くまでの2時間弱、ろくに休みも取らなかったのだ。
呼吸が整うと、今度は忘れていた足の痛みがぶり返してくる。
『くそっ・・・ 無理しすぎたか・・・』
吉岡の今年のペナントレースは、この足の怪我のせいで闇に閉ざされた。
合併騒動に揺れた今シーズン、吉岡は何もすることができなかった。
主力選手として、ベテランとして、こういう時にこそチームを牽引しなければいけない立場の自分が、
ただひたすら怪我の完治とリハビリのためにチームを離れなければいけなかった。
吉岡はチームを牽引していくような我の強い性格ではなかったが、それでもその悔恨の念は相当のものだった。
そして、やっとチームに合流できるようになった途端、この異常事態である。
吉岡は現実のあまりの理不尽さに行き場のない怒りを感じていた。
足の痛みも落ち着いてきたので、荷物の確認をすることにした。
食料・水・地図、バットにボール、グラブなどの野球道具。そして、やたら大きい黒い袋。
(この中に武器が入ってるのか・・・ 殺し合いなんて、そんなことできるわけが・・・)
黒い袋を開ける。すると、中に入っていたのは武器ではなかった。
吉岡に支給されたものは、防弾チョッキだった。
自分に支給されたものが人殺しの道具ではなかったことに少し安心する。
そう、吉岡は、このゲームの主旨に乗るつもりは毛頭なかった。
やり方はわからないが、みんなで生き残る方法があるはずだ。
そんなことを考えていた。
吉岡の野球人生は、巨人から近鉄に移籍したことによって花開いた。
世間的には地味な選手かもしれないが、一億円プレーヤーにもなれた。
この球団には愛着がある。もちろん、チームのみんなにも。
殺し合いなんて、できるわけがない。
同じようにゲームに参加する気のない選手は他にもいるはず。
まずは、そういう選手と共同戦線を張るところから始めよう。
吉岡の頭にまず思い浮かんだのは二人。水口と北川だ。
水口には、自分にはない頭の良さがある。
誰からも一目置かれていたし、人をまとめる力がある。
北川は、決して頭がいいというような印象はないが、情に厚いし信頼できる。
それになにより、何か事を起こしてくれそうなエネルギーがある。
(そうだ。まずは二人に会うことを目標にしよう)
水と食料を少しずつ口にする。足の痛みはもうほとんどない。
出発しよう。すべてはそれからだ。
念のため、防弾チョッキをユニフォームの下に着込む。
しかし、防弾チョッキが支給されているということは、銃器を支給されている者がいるということだ。
防弾チョッキの感触を確かめながら、このゲームがただの酔狂ではないことを改めて確信する。
しかし、行かねばならない。行って、こんな馬鹿げた殺し合いを止めねばならない。
吉岡はごくりと大きくつばを飲み込むと、ペンションを後にした。
ペンションから出て、しばらく道ともいえないような獣道を歩く。
数十分も歩いたころ、近くでガサガサという不自然な物音がした。
「・・・・・誰か、いるのか!」
意を決して放った吉岡の声は、恐怖で裏返っていた。返事は・・・・ない。
吉岡が音のした辺りに近寄ろうとした途端、銃声が鳴り響く。
弾は吉岡の脇にそれて、後ろの木に着弾した。不意の出来事に思わず身をかがめる。
「待ってくれ!俺は敵じゃない!」
吉岡はあらん限りの声を振り絞ったが、返事はまたもや銃声だった。
2発、3発、4発と続けざまに銃声が鳴り響く。
5発目の銃声がしたと同時に、吉岡の背中辺りに殴られたかのような衝撃が走った。
吉岡は一瞬体勢を崩したが、防弾チョッキのおかげで大事には至らなかったようだ。
「話を聞いてくれ!俺は殺し合いなんてするつもりはない!」
わずかに人影が見えた。顔までは判別できないが、黒いビジター用のユニフォームを着ている。選手だ。
弾が当たったにも関わらず負傷した様子のない吉岡を見てたじろいだのか、人影は姿を消した。
しばらくの間、身構えていた吉岡だったが、やがて完全に人の気配が消えたことを確認すると、絶望的な気分に襲われた。
少なくとも一人、明らかにゲームに乗り気のやつがいる。
わかりきっていたことだが、改めてその事実を目の当たりにすると、やはりショックだ。
(・・・・早く、止めないと)
吉岡は、再び歩みを進めた。
自分の歩いている道の先に、平和的な未来の希望がある信じて。
期待保守
66 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/18 16:47:32 ID:8s1V9ZYs
藤井寺のキャンプ画像誰か貼ってくれー、お願い。
とりあえず保守がてら出てきた選手(背番号順)と作品まとめ
>>10 中村(5)、大村(7)、礒部(8)、香月(17)、岩隈(21)、阿部健(48)
>>19-21 赤堀(19)、マリオ(28)、北川(46)、大西(50)
>>23 森谷(00)
>>27 中村(5)
>>28-29 愛敬(22)
>>32-33 岩隈(21)、坂(53)、筧(57)
68 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/18 22:45:41 ID:IQ130Ulv
保守
緩斜面に張り出した木の根が足をすくった。走ってきた勢いのままもんどり打って倒れ、平らな地面につくまで3、4メートルほど転がり落ちてやっと止まった。
秋の風がかいた大汗を急激に冷やし、その刺激で山村はようやく錯乱から解放された。
どのくらい走り続けていたのか自分でもわからないが、心臓も肺も酷使に耐えかねて
悲鳴を上げている。仰臥したまま、山村はしばし起き上がれなかった。
うっそりと茂った枝々に、空が歪な形に切り取られている。横切る雲はない。
忙しい鼓動と呼吸の、その理由を自問する。どう……したんだっけ?
赤い……赤い、
山村はがばっと身を起こした。無茶な走り込みが筋肉に与えた影響とは別に体が震える。
愛敬だった。あれは愛敬だった。
何に追われて走っていたのか、一気に記憶が蘇る。その直前の出来事が。
緊張感というよりは現実感を持てないまま、山村はどこへともなく歩いていた。
その頭上、それほど高さのない崖が立っていたのだがその上から罵声だか怒号だか、
とにかく争うような声が聴こえてきたのだ。
ぎょっとして見上げたそのときには、既に大勢は決していた。
二つの人影が見えたのだが、一方の倒れこむ先にはもう地面がなかった。
山村は自分と同じ高さに落ちてきた誰かに慌てて駆け寄った。
「愛敬……大丈夫か!?」
抱え起こしながら、名を呼ぶ。手がぬるりと滑ったのは血だ。黒い上着だけを見れば
よくわからないが白いズボンは、あるいは触れた山村の手は赤黒く彩られている。
ぐんにゃりとした重さは決して意識のある人間のそれではなく、
体温さえもはや感じられなかった。もちろん、拍動や呼吸も名残さえ見当たらない。
「な、んだよ、これ……」
山村は低く呻いた。信じられないが、認めざるを得ない。死んでいる。
次の瞬間、皮膚が粟立った。山村は反射的に頭上を仰いで――凍りついた。
見下ろしている。逆光気味になって顔の造作はわからなかったが、
その瞳の冷え冷えとした光だけが確認できれば十分だった。
――殺される。愛敬みたいに!
頭の中がその意識一色で塗りつぶされて、以降、今までのことは何も覚えていない。
無意識に膝を両手で抱えようとして、右手がなにかを握ったままなのに気づく。
折りたたみ鋸だ。おそらく逃げる途中で武器が欲しくなって荷物を開けたのだろう。
と他人事のように考え、山村ははっとして周囲を見渡した。
武器はいい。襲われない限り積極的に使うつもりはないが、ともかくここにある。
しかし、武器以外の荷物はどうしただろうか? いつどこで開けたかも記憶にないが、
ないでは困る。水も食料も、地図だって入っていたはずなのに。
そこらじゅうを探してみたが見つからない。ないと思うと急に喉に渇きを感じた。
どこか水場は、と思っても地図がない。
「……どうすんだよ……」
ひとりごちながら山村は頭を抱えた。それはあくまで独り言だったのだが、
しかしなぜか山村の背後から応えが返った。
「どうにもしなくていいですよ」
山村が振り向くより先に、ぱん、と小さな破裂音がして、山村のまともな意識は今度は
永遠に途切れることとなったのだった。
【背番号12 山村宏樹・背番号22 愛敬尚史 死亡】【残り33人】
--------------------------ここまで読んだ--------------------------
--------------------------ここまで読んだ--------------------------
(……ちっ、これだからシングルアクションは駄目だ)
コルトSAAを手にバーンズ(42)は道なき道を走ってゆく。
ポケットに十数発の弾丸がある以外は何もつけてなどいない。
食料や水、残りの弾丸は地中に埋めてあるし、野球道具も全て捨てている。
重いといざという時に動けないからだ。
(先程吉岡を撃った時に銃声で誰かが聞きつけてやってくるかもしれない)
ある程度離れるとバーンズはコルトSAAに6発の球を装填した。
目の前で倒れたマリオの姿が思い浮かぶ。
あの時に共に飛び出した時、自分は他のチームメイトに抑えられた。
そして銃声と共に崩れ落ちるマリオ―――
今となっては感謝している。抑えられてなかったら確実に彼もマウンドで散っていただろう。
しかし、殺し合いをするのならば真っ先に狙われるのは――――
『……すまないが、その前に倒してやる』
コルトSAA。西武開拓時代の著名な銃で、別名はpeacemaker。そう、平和を作る為の銃だ。
(自分はアメリカ人だ、戦う理由も、戦う意味も知ってるさ)
全てを装填し終えたバーンズは再び山の中を進んでゆく。
(待ってろよ、俺は生き残って、そしてチームを代表して手前らも血祭りに上げてやる!)
75 :
Neko:04/10/19 15:26:40 ID:Fe1PqSw3
ガザッ、ガサッ、ガサガサッ、バシャーン!
一瞬何が起きたか分からなかったが、すぐに水の冷たさで筧は自分が崖へと落ちた事を知った。
「痛ぇ……」
どうやら崩れた時に幸運にも伸びきった枝がいくつかクッションになって助かったらしい。
落ちた場所も岩がむき出しになったところではなくて川が流れるところだったのも幸いした。
もちろん無事ですんでいる訳ではない。
肩に抱えていて、落下途中で離したウズィSMGが壊れていることは筧の目にも明らかであったし、
枝に当たってユニフォームの一部や顔等に傷が出来た。なによりも、
「ウウウウウッ…………寒い……!」
全身が濡れて筧の体温を容赦なく奪っていく。
秋の山、しかもここは渓流である。
水温は一桁になることも珍しくはない。
夜中になればここにいること自体自殺行為になってしまう。
暖もないし食料も無い。左足も痛い。
だが何よりもここにいたら間違いなく撃たれてしまう。
見えないところから撃たれたという恐怖感が筧を襲っていた。
途中で端の川原に落ちた真っ赤な坂の死体がこちらを見ていたのに気付いたが、
筧は死体の方を一切向くことなくウズィSMGを捨て、急いで湖へと出る為に川原を進んでいった。
少なくともバスに乗っていた時はこんなことになるなんて考えてもいなかった。
どういうことなんだ、これは。
結論が出ないでグルグルと色々な事が頭に過る。
考えるだけ無駄だと言うことは判っている。今、この身に起きている現実を見つめろ。
阿部健太(48)は何度も自分に言い聞かせた。
あの筧が坂を撃ち殺し、岩隈さんがその筧に銃を向け、発砲した。
信じられないと逃げていても、こうやってゲームは始まっているのだ。
幸運にも姿は誰にも見られていなかったが、人殺しをする光景をしっかりと目に焼き付けてしまった阿部は
ただガタガタと震えて突っ立っていることしか出来なかった。
あの時出ていっても何が出来る?ただ岩隈さんに見つかり、撃たれて終わりだろう。
それとも俺が岩隈さんを殺すのか? ロクな武器もないのにどうやって?
(ちなみに袋から出てきたものはホイッスルだった。何に使えというのか)
ここの高さがどれくらいなのか、そして筧は生きているのか。足への一発だけで人は死ぬのだろうか。
どのくらいの高さから落ちたら、人は------------------
判らないことだらけで考えれば考えるたび、怖くなって阿部は何度もかぶりを振った。
全て悪い方向への思考になっていた。
そんな不安定な心情の中に、もっと不安定になりそうなものが介入してくるなんて。
「………誰か、いるのか?」
阿部の丁度後から声がした。
辺りは高く草が生い茂っているので、人が居たとしても誰かとは確認し辛いだろう。
なので声の主はまだ阿部が居るのだとは認識できていないに違いない。
素直に返事するべきか、何も答えずに走って逃げるべきか。
黙ってここに潜んんでいるべきか。
全てのケースにもメリットデメリットはある。…いや、結局どの行動を取っても一緒の展開になるような気がする。
生きるか、死ぬか。それだけだ。
ならば------------
阿部は雑草を掻き分けるかのように走り出した。
今は誰かと会いたくなかった。目の前で人が殺し会う姿を見せつけられた後だったのもあり、阿部の精神はめちゃくちゃだった。
「逃げないで…俺の話を聞け………!」
小さめの声でそう言いながら誰かもわからない人物は追いかけて来る。殺されるのか。
草で足が縺れそうになるのを持ち堪えて、走る。後ろには振り返らなかった。
「待てって、言ってるだろ……!」
声の人物は後からガバッ!と阿部に飛び付いてきた。下半身が重くなる。
当然バランスが崩れてそのまま地面に倒れ込む形になった。
少し衝撃は感じたが、生えていた雑草のおかげで怪我はしていない。
しかし、心臓はバクバクと鼓動が早くなるばかりで
『殺される、殺される、殺される、ころさ…』
阿部の頭はそれでいっぱいだった。ガチガチと歯を鳴らしながら、ようやくゆっくりと後を向く。
「健太…か……」
声の主は香月良太(17)だった。今にも消えてしまいそうなくらい小さな声で阿部の名前を呼んだ。
彼も阿部を追いかけるのに必死で背番号に目をやる余裕が無かったらしく、今更背中の主の正体を知ったらしい。
同じ投手とは言え香月はクールで口数も少なかったからあまり会話を交わすことは無かったので、イマイチ信用はできない…いや、信用するしない以前に普段から何を考えているのかよくわからなかった。
「か、香月さん……」
とりあえず離してください。阿部は出来るだけ冷静を装って言うと香月は簡単に解放してくれた。
もう逃げないと思ったのだろうか。いや、確かに逃げれない。多分今は足腰がたたないだろうから。
「俺は人を殺す気などないから…」
ぼそぼそと香月は呟くように言った。別に呟いているわけじゃない、普段から彼はそんな喋り方だった。
「じゃあ、何でお、俺を呼び止めたんですか?」
ああ、まだ動揺している。どこから見ても冷静じゃない。
呂律が上手く回らない。しっかりしろ、ケンタ。俺は未来のエースなんだから、もっと堂々と。
などと心の中で言い聞かせてみたりする。
「こういうものは単独で行動するよりも、複数で行動した方がいいから……
人が多ければ、ここから抜け出す方法も見つかるかもしれないと思った。
…そこにたまたま前に誰か居たから、声を掛けただけだ…」
淡々と答える香月を少しカッコイイな、と思った。冷静というか、自分のペースで何事もやっている。
…いや、そうじゃない。要するに香月はタッグを組まないか、そう遠回しに言っているのだ。
阿部はハッと気付いた。
「……俺は、構わないですよ」
崩れていた体勢を立て戻しながらそう返す。その反応を見、香月は小さく微笑んだ。
なんだか、静かだ。今もどこかで銃声が鳴り響いているかもしれないのに
ここの空気は何故か緩やかに流れている。
先ほど見た恐ろしい光景の記憶も消え去ってしまいそうなくらい。
…ああ、そういえば。
「でも、一つ、行きたい場所があるんです」
確認しておきたいものがある。すっかり流されそうになっていたのを慌てて掴み取った。
「………崖の下…?」
ああ、香月も見ていたのか、それなのにこの冷静さ。いや、阿部が動揺しすぎだったのかも知れない。
「一応同期だし、友人ですから……生きているかすら判らないけれど、俺は、探しに行きたいんです」
確かにあいつは坂を撃ち殺した。普段からは想像も出来ないような表情もしていたが
(遠くからだったからよく分からなかったが坂を撃ったとき、確かに笑っていた。)
あんな光景を見せつけられて気にならないわけがない。
しかし。
「それは、止めといた方がいい…」
生きているかも判らない人物の安否だけのために危険な所へわざわざ行く理由があるのか…?
香月はそう返事をした。そして、もう一言付け加える。
「生きてたらきっと、また 会えるよ」
その科白が阿部には何故か深く突き刺さった。
生きていたら。そこら辺は筧の運に期待するしかないが、なんとなくまた会えそうな気はするのだ。
それが天国でなのか地獄でなのか。それは不明だが。
最後までマイペースな男で、何を考えているのかよく判らない。
「……そうですね、きっと」
そんな所を阿部は香月に非凡な匂いを感じるのである。
"彼に、付いて行くことを決めよう…"
阿部はそう決心し、香月と共に一歩を踏み出した。
80 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/19 20:53:05 ID:bpTEQgLE
保守浮上
81 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/19 21:09:54 ID:8fOy9gaa
香月とアヴェケン、イイ!
坂口智隆(27)は、今、自分が置かれている状況・・・・
このバトルロワイヤルの原作映画を一度だけ見たことがある。
見た後、ゲームに乗る方と、それ以外の解決策を探す方、
自分ならどちらに転ぶだろうか、そう考えたことがある。
『自分は人殺しなんてできない。ましてや、昨日まで知り合いだった人間を。
・・・・・まあ、襲われたら別だろうけど』
漠然とだが、そう思った。真剣に考えはしなかったが、直感でそう思った。
登場人物のどのタイプかで言えば、きっと主人公が一番近いだろう・・・・
などと、虫のいいことを考えていた。
しかし、その考えがいかに真剣みを欠いていたかを、坂口は知ることになる。
どんな人間だろうと、自分の命が懸かれば何にだってなれるのだ。それが例え悪魔でも。
それが、可能でありさえすれば。
坂口の目の前にある黒光りする物体・・・・
説明書にはこうある。『イングラムM10サブマシンガン』と。
袋の中には、弾が山のように入っている。
(これは・・・ 『当たり』の武器なんじゃ・・・)
坂口は『当たり』という表現を使ったが、原作では、支給される武器の殺傷力には幅があった。
銃器ならまず『当たり』と言って良い。『ハズレ』なら武器ですらないものが支給されていた。一部、例外もあったが。
今回のバトルロワイヤルが原作映画と同じような武器を支給しているのかどうかはわからないが、
人を殺すための道具として、非常に優秀であることには間違いない。
ざわり、と坂口の心にドス黒い感情が蠢き始める。
そう、坂口はゲームに乗っても勝ち抜ける力を得たのだ。
ならば、迷うことはない。素直に、まっとうに、ルールに従って生き残ればよいのだ。
仮に、支給された武器が『ハズレ』であったなら、きっと坂口は誰かと共闘する道を選んでいただろう。
展開次第では、原作映画の主人公のように全員生きて帰れる道を模索していたかもしれない。
しかし、坂口は『力』を得た。いや、得てしまった。
まだ死ぬわけにはいかない。プロになって2年、まだ20歳だ。ろくに人生を謳歌していない。
野球だって、まだ実績らしい実績はないが、やっていける手応えはある。
(生き残ってやる・・・・ 俺は、これからなんだ・・・・)
武器の使用方法を一通り頭に入れた坂口は、どこへと言うわけもなく歩き始めた。
一箇所でじっとしているのは危ない。それに――自分から探したほうが、獲物は見つけやすい。
数十分ほどして、獲物が見つかった。あれは同期の宇都 格(52)だ。
坂口のいる茂みから数メートル下の車道を歩いている。
手には、おそらくは宇都に支給された武器である特殊警棒を持っている。
坂口はそれを見て安心した。やはり俺の武器は『当たり』だったんだ、と。
宇都は坂口にまったく気付いた素振りもなく、だだっ広い車道を歩いている。
車道の両脇は林になっており、隠れる死角はいくらでもある。
(あいつ、何考えてるんだ。あんなところを歩いていたら、狙ってくれと言ってるようなもんじゃないか)
嘲りをこめた笑みを浮かべながら、坂口は宇都と一定の距離を保ちながら尾行することにした。
それからしばらくして、不意に宇都が足を止めた。不審そうに辺りを見回している。
(まずい、気付かれたか?)
グリップを握る手に力がこもる。仕掛ける時が来たのかもしれない。
意を決して草むらから飛び出ると、音に気付いた宇都がこちらを向いた。
そして、驚きと恐怖が入り混じったような表情になった。
気付いたのだ。絶望的な『力』の差に。抗い難い『武器』の差に。
「さっ、坂口っ・・・? ちょ、ちょっと待っ・・・」
宇都の悲鳴が終わらないうちに、タタタタタ・・・というイングラムM10サブマシンガンの銃声が鳴り響いた。
「ひいっ」
宇都は身をかがめて目を閉じた・・・・が、弾は当たらない。乾いた発射音がしただけだ。
宇都が顔を上げると、数メートルほど先に、仰向けにひっくり返った坂口がいた。
慌てて飛び出して体勢が整ってもいないのに発砲したせいで、反動に耐えられなかったのだ。
「うっ、うわあー!」
意味を成さない叫びをあげながら、宇都が特殊警棒を掲げて向かってきた。
起き上がろうとする坂口に馬乗りになり、一度、二度と特殊警棒を振りかざす。
一度は腕で受けたが、二度目はもろに頭に当たった。
頭部に響く鈍い音とともに、坂口の頭の中で何かがはじけた音がした。
三度目の一撃を繰り出そうとしている宇都を猛烈な力で押しのけ、横に倒す。
逆に今度は坂口が宇都に馬乗りになる格好で、坂口は渾身の力を込めて宇都の首を絞めた。
肉の感触が、人の温度が坂口に伝わる。多少の抵抗はあったが、しばらくして宇都は事切れた。
肩で息をしながら、もう動かない宇都を見下ろす。心音を確かめてみるが、やはり鼓動はない。
やってしまえばあっけないものだ。これで俺は『人殺し』だ。
罪悪感がないわけではなかった。同期のよしみで、それなりに親交もあった仲だ。
しかし、それよりも、もう殺人に手を染める前の自分には戻れない、といった覚悟にも似た感覚があった。
もう後には引けない。
もうゲームに乗るしかない。
もう進むしかない。人殺しの道を。
宇都が持っていた特殊警棒と、食料と水をバッグに入れ、
そばに転がっていたイングラムM10を拾うと、坂口は再び林の中に消えた。
すいません、書き忘れ。
【背番号52 宇都 格 死亡】【残り32人】
職人さん、乙です。そして保守。
下山真二(26)と大西宏明(50)は道端に倒れていた高須を見、ひゅっ、と息を飲んだ。
それは仰向けで目は開いたままでいて、首にはドロドロとした赤黒いものがこびり付き
真っ白だったユニフォームを汚していた。
首を何かで刺され、それを引き抜いたときにどっと溢れた血だろう。
恐らく刺した犯人も高須の血で汚れたに違いない。
こんな真正面から狙った犯人を想像するとゾッとした。背中からじゃともかく。
面と向かって攻撃するなんて、油断させておいてからでないと出来ない。
それとも組んでいた高須を裏切ったのか。
誰がこんな惨い事を…と考えようとしたが、やめた。これはこういうゲームだ、生きた者が勝ちなのだ。
だが、昨日まで一緒に泣いたり笑ったりしていた仲間がこうやって鼓動を止めてしまっているのを
出来るものならば見たくはなかったが、今起こっている現実を突き付けられることにもなる。
下山、大西の二人で最後まで生き残るには少なからずとも誰か一人は殺す必要があるのだ。
そんなことが出来るのだろうか。目の前にある死体を見つめながら下山はそう思った。
瞳孔が開いた目と目が合う。それだけでも先ほど少しだけかじったパンが逆流してきそうだ。
しかし、目は逸らさない。こうして現実を見つめる必要が、彼らにはあった。
そっと大西が前に出て高須の瞼に手をやり、ゆっくりと瞳を閉じさせる。
そのままにしておくのはあまりにも可哀想だ、そう小さく言った。
唇は小さく震えて、動かす手もぎこちない。
大西は人の死を恐れている。貴久さんのことだってそう。
彼は貴久さんの死を受け入れては、いないのだ。
こんな奴に人殺しなんてできるのだろうか。いや、下山だって出来ることなら誰も手はかけたくない。
今回の高須の件にしてもきっと受け入れる事はないのだろう。少なくとも今現在は、ない。
「高須さんの分まで、俺たちは生きような」
下山はそう唱えるように呟いて、叢の方へ高須を引っ張ってやっている大西の方へ視線を向ける。
聞こえたのか聞こえなかったのかは判らなかったがとりあえず返事は、なかった。
遺体を運び終わると大西はどこか遠くの方を見ていた。5月の中旬頃からそういう事が多くなったのを下山は知っている。
彼の瞳から一筋の水が流れていたけれが、拭わなかった。
貴久さんの事を 思い出したのだろうか。
下山の胸がズキリと痛んだ。
暫く"移動するぞ"と声を掛けることができなかった。
それでも時間は刻々と過ぎて行くのだ。
生き残りをかけて行われている、惨いゲームはもう 始まっているのだから。
ほしゅ
なんかものすごいペースで進んでますね・・・
職人さん方乙&GJ!
92 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/20 18:23:18 ID:L+CDae/F
毎日チェックしちゃうよーほしゅ
坂口 智隆(27)は身体中を襲う痛みに顔を歪めながら、山林の坂道を進んでいた。
道といっても整備された道ではないので、木々が生い茂る中を縫うように進んでいる。
宇都に殴られた頭と右腕。特に右腕の痛みが激しい。
さっきユニフォームの袖をめくり上げて見た時には、殴られた箇所が異常に腫れ上がって変色していた。
ちょっと動かしただけで激痛が走る。最悪、折れたのかもしれない。
荷物が重すぎるのも疲労に拍車をかけていた。
イングラムM10サブマシンガンを右肩に下げ、バッグの中には予備の弾。
元々の自分の荷物に加え、宇都から奪った特殊警棒に食料や水まで入っているのだ。
(もう限界だ。せめて荷物をどこかに置いていこう)
疲労と激痛に耐えかねた坂口は、荷物を分けてどこかに隠すことにした。
いかに強力な武器を持っているとはいえ、今の状態で襲われたら確実に勝てる保証はない。
その場にバッグを下ろし、腰を下ろそうとしたその時、前から歩いてくる男が視界に入った。
あの独特な顔は――大村 直之(7)だ。同じ外野の大先輩。
練習で一緒になることは多かったが、これといって親交はない。
気軽に話しかけるには年が離れているし、何よりも、相手にされていない気がした。
大村も坂口に気づいているようだが、何も言わずにただ坂口に近づいてくる。
眉一つ動かさず、こちらを見据えたまま歩みを進める大村に、坂口は反射的に身構えた。
セーフティを外し、両手でしっかりとグリップを握る。これだけの動作で耐えがたい激痛が走る。
思わず眉をしかめるが、負傷を悟られるのはまずい、とすぐに戒めた。
「大村さん―― それ以上、近づかないでください。近づけば、撃ちます」
本当ならすぐにでも撃ちたいところだったが、傷んだ体がそれを躊躇させた。
こうして銃を構えるだけで精一杯なのだ。この状態で発砲したら、銃口がどこへ向くかわかったものじゃない。
「ふうん、えらい物騒な武器持たされたんやな、お前」
坂口の警告を無視するかのように、大村は自分に向けられている銃に興味を示した。
「それにしてもお前、ユニフォームドロドロやな。顔も擦り傷だらけやし、
よう見たらコブもできてる。 ――さては、もうすでに誰かとやりおうたんか?」
坂口の顔から表情が消える。気付かれた、そう思って坂口はとっさに引き金を引いた。
タタタタ・・・と無機質な銃声が鳴り響く。が、やはり反動の痛みは殺人的だ。
痛みに耐え切れず、坂口はイングラムM10を落としてしまう。
まずい、そう思って銃を拾い、大村のほうを向き直ると、そこに大村の姿はなかった。
「待て待て! 別にお前とやり合いたいんとちゃうねん!」
大村の隣にあった木の後ろ側から大村の声が響いた。どうやらとっさに身を隠したらしい。
「お前が『やる気』なんやったら、むしろ都合ええねん」
「いい武器持ってて、『やる気』の奴・・・・ 探しててん」
諭すような大村の声。だが、発言の意味が理解できない。
「このゲームの勝ち抜け人数、覚えてるか?」
「ふたり、ですけど」
「そや、ふたりや・・・・ 原作映画は見たことあるか? 小説でもええ」
「ありますけど・・・・それがどうかしたんですか」
「まあ聞け。原作の勝ち抜け人数は一人きり、そやな」
坂口が生真面目に返事を返そうとするよりも早く、大村は続けた。
「原作やったら、コンビ組むのはアホのすることや。
一人しか生き残られへんのに、二人で戦ってどないすんねん。
でも、このゲームは違う。むしろコンビ組むのを推奨してると俺は思う。言いたいことわかるな?」
坂口もバカではない。そこまで言われたら続く言葉は予想できる。
「コンビ組め・・・・ってことですね。でも・・・・」
あんたはなんとなく信用できないんだよ、という言葉をグッと飲み込んだ.
「いきなり信用せえ言われても疑うんはわかる。やから、メリット示したる。俺の武器は――これや」
そう言って、大村は木から手だけ出した。手には、何かの機械が握られている。
「俺の武器は、探知機や。みんなの腹に仕込まれた発信機のな」
探知機! その言葉に坂口の瞳は輝いた。
「誰が誰かまではわからんが、居場所は正確にわかる。
俺の探知機で他の連中探して、気付かれんように近づく。ほんで、お前のマシンガンで殺す。
組み合わせとして無敵やと思わへんか? ノーリスクで勝てるで」
まさに大村の言うとおりだった。坂口のサブマシンガンはおそらくかなり強力な武器のはずだ。
まともな一対一ならほぼ負けない。しかし問題は不意打ちされた時である。
不意打ちなら、武器などほぼ関係がなくなる。坂口の不安は唯一そこだった。
探知機があれば、常に先制攻撃ができる。コンビを組めば、安心して睡眠をとることもできる。
「言うとくけど、俺を殺して奪ってもあかんで。バッテリー抜いて隠してきてるからな。
――お前が断るんやったら、他の奴んとこ行くけど、どうする?」
他の選手とコンビを組まれるのはまずい。自分がサブマシンガンを持っていることと、負傷していること。
その両方を大村に知られてしまった。今他の選手とコンビを組まれでもしたら、自分は絶好のカモだ。
「・・・・わかりました。一緒に戦いましょう」
「よっしゃ、交渉成立やな。ほんだらそっち行くから、銃おろしてくれや」
言われるままに、坂口は銃をおろす。元々身構えているのも限界だったのだ。
木の影から出てきた大村は、これまで坂口が見たこともないような満面の笑みを浮かべていた。
つられて、坂口も安堵の笑みを浮かべる。小走りで大村が近づいてきた。
「あっ、そうや、まだ言わなあかんことあんねん」
「俺のホンマの武器はな――」
坂口が怪訝な表情を浮かべるよりも早く、大村の左手が素早く動いて、坂口の胸を一突きする。
大村の左手には、サバイバルナイフが握られていた。
刃渡り20cm程度の刃が、坂口の肉体に深々と突き刺さっていた。そして、一気に引き抜く。
坂口の胸から、鮮血がだくだくと流れ出た。糸が切れた人形のように崩れ落ちる坂口。
「これやねん」
そう言って、大村はサバイバルナイフを小さく振って、付着した血を振り払った。
「こんなただの家電のリモコンを発信機と間違えるとはなあ。
まあ、発信機なんぞ見たことあるはずないからしゃあないけど。確認はするべきやったな」
大村は、先程適当な民家で見つけたテレビのリモコンを投げ捨てると、
サブマシンガンを奪い取った。そして坂口の死体には目もくれず、バッグをあさりだす。
(こんなところで死んでたまるか。俺はこんなしょうもないゲームで死ぬような男とちゃう)
死ぬわけにはいかない。たとえ、この手を血で汚したとしても。
【背番号27 坂口 智隆 死亡】【残り31人】
しばらく展開を見て、それから書くことにします。
坂口ーーー!! おまい大村さんの生き別れの弟のくせに『独特な顔』じゃないだろがーーーー!!!
と素でツッコミを入れてしまいました
GJです
ペースが速くて楽しいです保守。
藤井彰人(31)は走っていた。足を緩めることなど思いもよらない。道を逸れて
熊笹を掻き分ける、細かい切り傷が幾つもできるがそんなことに構ってはいられない。
そうこうするうちにもすぐ後ろに追手が迫っている気がして藤井はちらりと振り返った。
川口憲史(61)との距離は藤井が思っていたよりずっと開いていた。
振り向いたから威嚇したのか、それとも藤井が見ていない間もずっとそうしていたのか、
川口は右手に握った鉈を大きく振った。それでさらに少し差が開く。
前に見える集落に入れば多少は曲がり角や障害物があるだろう、すぐに振り切れる。
その思いだけを支えにして、藤井はひたすら走った。集落に入り、角を曲がり、
分かれ道を抜け、また角を曲がり、誰かの家の庭を横切り……
撒けた。撒けたと思う。追手は忍び寄る影ではなく猪だ。もう背後にそんな気配はない。
それでもまだ後ろを気にしながら進む藤井の視界の端を動くものが掠めた。
一瞬ぎょっとしたが、藤井はすぐにその正体に気がついた。カーテンだ。
垣根もなにもなくむき出しのその家の、タイル張りのテラスに繋がる大きな窓にかかるカーテンが
揺れたのだ。揺れる、ということはあの窓は開いているのだろうか?
屋根や壁のあるところなら、外から見えないから隠れるには都合がいいだろう。
ただ踏み込まれたら逃げるのは難しいかもしれない。どうするべきか。
少し迷ってから、とりあえずこの界隈でまたすぐ川口と鉢合わせするのは避けたい、
という結論に達した藤井はテラスに登り、窓に手を掛けた。
なんの抵抗もなく、そしてほとんど音もなくするするとサッシが開く。
窓を閉めて施錠し、カーテンを引いて外からの視線を遮断してから部屋を見渡した。
リビングなのだろう、フローリングに毛足の長い絨毯が置いてある。
皮のソファセットにテレビ。壁にはどこかの景色を描いた絵が飾られている。
藤井は人の住む家の匂いに少し安堵し、しばし休むことにしてソファーに腰を下ろした。
思わず溜息が出る。あんな風に追い回されるなどということは、想像もしていなかった。
武器に武器で対抗するのでは本当に殺し合いになってしまうが、黙って殺されるつもりで
ないなら少なくとも抑止力としての武器ぐらいは見えるように持っていたほうがいい。
藤井に支給された袋に入っていた武器は散弾銃、より詳しく言うならベネリM3。
殺戮に走るつもりであればかなり都合のよい部類に入る武器だったが、それゆえに
逆に裸で持って歩いていれば見た目だけで『あいつは危険だ』と判断されかねない。
藤井はそう考え、結局今に至るまでしまいこんだままだったのだ。
それを取り出し、少し考えてから説明書をもう一度見て弾を込める。
また溜息が出た。追い回されたのもショックだったが、相手が川口だったことは
もっと堪えていた。藤井の知っている川口は純朴でまっすぐで、一心に中村を兄と慕い、
焼肉でも食いに行けば誰よりも食う、そういう男だったはずだ。
もしもう一度出会ったら、どうなるのだろう。またあの鉈で襲ってくるのだろうか。
その時俺はどうするんだろう。これで、撃つのか?
三度溜息をついて、藤井は首を振った。もう考えたくなかった。
藤井は立ち上がった。そろそろ昼近い、こんな状況だが空腹を感じたし、
食べれば気分も変わるだろうとも思った。支給の水や食料は量に不安がある上に
味気なさそうな保存食だ。台所を探せばもっとうまい飯が食えるだろう。
ガスや水道が生きていて暖かいものでも作れるならなおいい。
そんなふうに思いながらリビングの戸を開けた藤井の鼻腔に刺激臭が届いた。
ガソリンかなにかの臭いだ。そう藤井が認識するとほとんど同時に、廊下の先に
突然誰かが姿を現した。丸っこい身体に黒い肌、ヘクター・カラスコ(30)だった。
先客がいることを想定しなかった藤井も迂闊だが、カラスコのほうも訪問者を予期は
していなかったらしい。右手に支給品ではないズダ袋を持っているだけで、
武器の用意はしていないようだった。
カラスコは慌てた様子で提げていた重そうな袋を足元に置き、そこから瓶を掴み出した。
瓶の口には布が詰めてあり、余った分がひらひらしている。
左手にはいつの間にかライターが握られていた。つまりあれは……火炎瓶だ。
理解すると同時に、藤井はリビングへ駆け戻った。ソファを飛び越え、身を伏せる。
後を追うように目の前へ、つまり窓へ何か重さのあるものがぶつかった。
がしゃん、と派手な音を立てて火がカーテン全体へ飛び散る。
火の起こす風に煽られて、まるで苦悶に身を捩るようにカーテンが翻った。
幸いにして飛び散った燃えるガソリンが直接降りかかってきはしなかったが、
単なる幸運だ。このままここにいて次やその次の火炎瓶を凌げるとは思えない。
立ち上がって銃を構え、しかし引き金が引けない。そこにいるのはカラスコなのだ。
『ここはみんな親切で明るい、いいところだ』そういって黒い瞳をきらきらさせて笑う
当の本人こそが朗らかで善良な、あのカラスコなのだ。
藤井が立ち尽くす間にカラスコの投げた第二球は今度はソファに当たり、
やはり藤井のもとには届かない。火と熱、陽炎の幕が藤井とカラスコの間を隔てる。
だが藤井の視界が歪んでいるのはそれだけが理由ではなかった。
――誰も信じられない。みんな変わってしまう。ここは……ここは地獄だ!
カラスコは藤井の気持ちになど頓着せず、なお火炎瓶を投擲しようとし――
果たさなかった。おそらくカラスコ手製のそれは、最初の二つよりも出来が悪かった。
瓶の栓が緩かったのだ、火のついた油が振りかぶったカラスコ自身の身に降り注いだ。
言葉にならない絶叫を上げながら、カラスコは瞬く間に人型をした炎の塊に変じていく。
二歩、三歩と聞き取れないが哀願とおぼしき声を上げながら前進し、そして崩れた。
あまりの光景に、藤井はただ立ち竦んだままそれを見守った。
どのくらいの時間が経っただろうか、あっという間かもしれないし永遠にも思えるが
とにかくカラスコの身を包む炎はすっかり勢いをなくしていた。
藤井はふらふらと前へ出て、まだ燻り続けるカラスコの身体を呆然と見下ろした。
もうぴくりとも動かない。ガソリンと蛋白質の焦げる匂いが混じっていやな臭いがする。
眩暈を覚え、藤井は左側の、まだ無事な壁に寄りかかった。
そのままぺたりと座り、手に持つベネリの銃口を覗き込んでみる。その状態では引き金に
手が届かない。ほんの少し考えたが、すぐに藤井はしかるべきやり方に思い至った。
右足の靴とストッキングを脱ぐ。その間に再びぽろぽろと涙がこぼれはじめたが、
拭う気にもならなかった。その時間も惜しかった。
――もうこんなところには、一分一秒でもいたくない。
銃口を咥える。右足の親指で引き金を押し――藤井の生命はそこで終わった。
【背番号30 カラスコ・背番号31 藤井彰人 死亡】【残り29人】
カラスコ・・・シャレになってねえぞ・・・(汗
ところで40人のうち30人が出てきたが、まだ出てきてない選手は
バーン・長官・隊長・川尻・小池さん・トヨピコ・高木・ちんこ・アヴェ・オサムチャン・メガネ・大ちゃん・まぐ・・・
って結構いるぞ。この中から10人に絞るのか?
無駄に多くなると完結まで結構スレかかるしねぇ、
ご都合主義で増やすことも可能じゃないのかな?
カラスコ…こんなとこでまで炎上かよ
うーん…増やすんだったらいっそのこと全員キボンなんだが
さすがにそれはしんどいか…
2319・・・ おまいイイやつだなぁ・・・ (ノД`)
保守
こういうのはどうかな?
>>105が挙げた選手のうち何人かは運営側に回って
他の何人かはゲームのことを知らされてなくて、隈やべっちと連絡が取れないことから
事の真相に気付いていく・・・ていうのは。
>>111 プロテクト確実組が運営側、戦力外組が蚊帳の外とかなら説得力あるけど現状だと微妙な気も・・・
まあ職人さんたちがやりやすいようにやってもらえればいいと思う
「おうおう、まずは順調な滑り出しってとこやな」
ゲーム開始から4時間余りが過ぎた頃。
この悪夢のような狂想曲――バトルロワイアルの指揮者役である金村は、
目の前にある巨大なモニターを見つめながら、悦に入っていた。
モニターにはこのゲームの舞台となるエリア全体の地図が映されており、
そこにいくつかの光点が点滅している。その光点は参加選手の現在位置であり、
その選手がまだ生存していることの証明でもある。
ゲーム開始6時48分の段階では39個あった光が、この4時間余りで29個まで減った。
「もう少し躊躇しよると思ったがな・・・ まあ、なんぼチームメイト同士や言うたかて、所詮他人よ。
この分やと、思ったよりはよ帰れそうやな」
そう言って、醜悪な笑顔を浮かべる。この男は、このゲームが面白くて仕方ないらしい。
不意に、金村の携帯電話が鳴った。この携帯電話は、金村個人のものではない。
このバトルロワイヤルを実地するにあたって支給されたものだ。かかってくる相手はわかっている。
「金村です」
『私だ。首尾はどうだね』
電話の声の主は、淡々とした口調で言った。
「順調の一言ですわ。今でちょうど4時間半になりますけど、もう10人死にました」
『そうか』
「この分やと、『犬』は使わんで済みそうですな」
金村は、隣の部屋を見やってそう言った。部屋の前には軍服を着た男が2人、ドアの両脇に立っている。
『いや、展開に関わらず『犬』は全員投入する。投入のタイミングは、状況を見て君が判断してくれたまえ』
「? わかりました。それはええですけど・・・」
『なんだね?』
「こんなこと聞いてええかわかりませんけど、『犬』にした連中は、いわばサクラでしょ?
ゲームの参加者がビビッて殺し合いせえへんかったり、団結してワシらに歯向かったり、
展開がダラダラ膠着したりするのを防ぐために、進んでガンガン殺し合いするっちゅう・・・・」
『そうだ。そのための『犬』だ・・・・が、ゲームが順調に進んでいるからといって、
やつらがゲームに参加しないでいい理由にはならない。
もし、このままゲームに関与せずに『犬』を生かして帰せば、このことをリークしないとも限らない。
自分の手が汚れていないのをいいことにな。
勝者が出るのはかまわんが、その手はチームメイトの血で汚れていなくてはならない。
この殺し合いの片棒を担いだという認識が、機密の漏洩を阻止するのだ』
「なるほど。やっぱりエラい人はよう考えてはりますなあ」
しきりに感心した素振りで、金村は何度も頷いた。
『最後に言っておくが』
『これは、身の程もわきまえず我々の顔に泥を塗った選手たちへの見せしめなのだ。
一般大衆の情に訴え、安っぽい感情論で我々の思惑を阻害した選手たちへのな。
よって、彼らが最も苦しむやり方で、ゲームを遂行することが望ましい。
選手は例外なく苦しまねばならない。 敗者には死を。勝者には一生拭いきれぬ罪を。
――それでは、また連絡する』
おぞましいばかりの怨嗟の言葉を残して、電話は切れた。
金村は携帯電話を机に置くと、隣の部屋の前に立った。そして、中に向かって言う。
「お前ら、よかったなあ。仲間はずれにならんで。
頃合いになったら、ちゃあんとチームメイトのみんなと同じゲームさせたるからな」
金村の言葉を聴いて、中から怒号や悲鳴、すすり泣きの声が上がる。
――そう。このゲームの参加者は、初めにバスに乗った40人だけではなかった。
家族の命と引き換えに、主催者側の尖兵となることを余儀なくされた者たちが、ここにいたのだ。
数にして10名。ゲームのサクラ役を担うはずだった者たちである。もっとも、命の保障はどこにもないが。
「さあ、最初の定時連絡までに、あと何人減るかなあ」
そう言って、金村はいすに座り、再びモニターに見入った。
人数増やしの一案として。
10人としときましたが、仮です。いっそ全員でもいいと思います。(長くなりそうだけど)
別に誰がサクラとか、いつ参加するかとか、どんな条件で参加するかとかは、
まったく考えてませんので、好きにいじってくれたらいいです。
パパッと考えた設定なので、面白くなりにくそうだったら無視してくれてOKです。
>62-64を書いた者です氏
補充人員の話、うまく補足されてて良いと思います。
名前が出てないのはGJ!
>>113-116 非常に(・∀・)イイ!!
あと、一応最初に決まっているのは
「毎日6:00、12:00、18:00に死んだ人と禁止エリアの定時連絡
三日後の6:00に3人以上残ってたら全員死亡。」
ということなのですが 全員出しちゃうと三日というのは少ししんどいかもですよね…
突発的に始まって、やってたのでそこんとこルール(?)をもう少ししっかりさせておいたほうが良いのかな?
まあ、ルールなんて途中からでも変えることは出来るでしょうけど。
( `ー´)<ちょいと整理するで!
【116までに登場した選手は
>>67>>68>>98参照】
【116までに死亡した選手】
12 山村宏樹
13 有銘兼久
22 愛敬尚史
30 ヘクター・カラスコ
52 宇都格
31 藤井彰人
4 高須洋介
53 坂克彦
27 坂口智隆
28 マリオ・バルデス
39 吉良俊則
( `ー´)ノシ <んじゃ、またな!
>>118 金村が最低限のルールを言ってるけど、
ハッタリを言ってないとも限らないので例の発言みたいにうっかりボロを出してしまった、ということも可能だと思う。
まぁ、ストーリーを進めるうちに少しずつ変えていけばいいと思いますけど。
『犬』の中でも、ゲームに参加して仲間を助けたい、
または逆に殺したいと思ってる選手、あるいは
ここから反撃してゲームを阻止しようとする選手…、と
いくつかに分かれてもいいと思います。
そりゃそうでしょうね。だってゲームに参加するんだし。そういう意味では最初から参加してる選手と一緒かと。
しかしここの職人さんたちレベル高いなあ・・・マジ目が離せねえ。
123 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/22 12:38:14 ID:j6j/Dvcg
下がりすぎなのでageときますね
>>118 43とか書いてる人氏
私も時間的な制限が気になって、「残り全員参加」ではなく「10人だけ参加」という形にしました。
まあ、これでトータル50人参加できるわけで、主要選手はほぼ抑えることができるかな、と。
もし、主要選手で出し忘れた選手がいたら、また別の役割を与えて出してもいいと思いますし。
(例えば、完全な主催者側としてゲームを録画するためにエリアに潜んでいる連中とか、
探知機持って、隠れてやり過ごそうとしてる奴を強制参加させる役とか)
ルールそのものは、あんまり動かすと「何でもあり」になってしまいそうな気がするので、
今提示されているルールに関しては、固定でいったほうがいいと思います。
(勝ち抜け人数や、定時連絡、制限時間、禁止エリアの件)
ある程度の「縛り」があったほうが、展開が引き締まるでしょうし。
まあ、結局のところ面白ければOKだと思いますけどね。(なんじゃそら)
保守保守
既出選手一覧 【】は支給武器 →生存or死亡/現在までの主な行動
12山村宏樹 【折りたたみ鋸】 →死亡/何者かに殺される
13有銘兼久 【???】 →死亡/山本に射殺される
16岡本晃 【???】 →生存/山村・吉川と遭遇
17香月良太 【???】 →生存/阿部健と合流
18山本省吾 【グロッグ26(モデルガン/実弾使用可)】 →生存/吉良を射殺
21岩隈久志 【PSG1】 →生存/筧に対し発砲
22愛敬尚史 【???】 →死亡/何者かに殺される
30ヘクター・カラスコ 【火炎瓶】 →死亡/火炎瓶を失投して焼死
48阿部健太 【ホイッスル】 →生存/香月と合流
52宇都格 【特殊警棒】 →死亡/坂口に絞殺される
99吉川勝成 【???】 →生存/山村・岡本と遭遇
31藤井彰人 【ベネリM3】 →死亡/自殺
3吉岡雄二 【防弾チョッキ】 →生存/バーンズに襲われたがやり過ごす
4高須洋介 【爪楊枝】 →死亡/水口に刺殺される
5中村紀洋 【5億円(現金1億円+4億円の小切手)】 →生存/支給武器を確認
10水口栄二 【???】 (民家から持ち出したアイスピックを所持) →生存/高須を刺殺
38山下勝己 【コルト・ガバメント】 →生存/吉良を射殺
42ラリー・バーンズ 【コルトSAA】 →生存/吉岡を襲うが未遂
46北川博敏 【???】 →現状不明
53坂克彦 【???】 →死亡/筧に射殺される
57筧裕次郎 【ウズィSMG】 →生存/坂を射殺。その直後岩隈に撃たれ負傷
00森谷昭人 【銃】 →生存/支給武器を確認
7大村直之 【サバイバルナイフ】 →生存/坂口を刺殺
8磯部公一 【???】 →現状不明
26下山真二 【???】 →生存/大西と合流。高須の死体を確認
27坂口智隆 【イングラムM10】 →死亡/大村に刺殺される
28マリオ・バルデス 【支給されず】 →死亡/ゲームスタート前に射殺
39吉良俊則 【???】 →死亡/山下に射殺される
50大西宏明 【???】 →生存/下山と合流。高須の死体を確認
61川口憲史 【鉈】 →生存/藤井を襲うが未遂
こうなるとやっぱり保管庫が欲しいな。俺は作れんが。
128 :
126:04/10/23 03:15:07 ID:5Qck95kY
赤堀を忘れてました。追加。
19赤堀元之 【???】 →現状不明
確かに保管庫ほしいですなー。
情報の収集とかは協力するから、作ってくれる人カモン!
129 :
Neko:04/10/23 11:55:54 ID:DeiSmpP6
お久しぶりでございます 投稿者:ズンベロドコンチョ 投稿日:10月23日(土)00時48分30秒
こんばんは、ズンベロドコンチョでございます。
>BluePure様
そうでした。大学が関西線沿線だったので、よく奈良には行ったのですが、221系は別として103系・105系といった国鉄の残党ばかりが目につく中、「かすが」はまさに特別な存在でまるで「世界の車窓から」(テレ朝)を見ているかのようでした。
そのような形式の車両は当然JR西日本には無く、かなり修得には難儀するかと思いますが亀山以西ではJR西日本社員が運転しているのですね。
それに比べわがままなJR東海は西日本の221系について1週間前まで運転する事を頑なに拒否し、そのお陰でお荷物車113系が残っておりましたが、ようやく大垣発着列車についても221系に統一する事が出来ました。
>こう様
私は関西の文化遺産であったBuを破壊した近鉄が嫌いになっておりますので、是非共それに競合するJR各線には頑張ってもらいたいものです。
特に関西線の加茂以西は、特急最優先で一般車を蔑ろにしている近鉄と違って利用しやすいダイヤになっているので(寧ろ近鉄よりもJRの方が私鉄っぽいダイヤだと思う)、より一層のテコ入れをして欲しい所です。
特に休日については京都方面・天王寺方面から桜井線方面への乗り入れを積極的に行い観光客の取り込みをすれば良いかと思います。
また事実上アーバンネットワークの一翼を担っており最近新駅も出来た和歌山線(王寺〜高田)については地交線から幹線乃至は電特区間に格上げし(その代わり関西線非電化区間は地交線に格下げ)、JR難波・天王寺〜JR五位堂・高田間を特定区間とし近鉄潰しをすべきです。
>PP&M様
貴方様の文章は表面的には丁寧なように見えますが、皮肉たっぷりできっと心の中では私を小馬鹿にしている事でしょう。
【スボニチ】100人を殺した男 みな鉄スレ61【コッペパン】
http://tmp4.2ch.net/test/read.cgi/tubo/1097500742/
ほしゅ
今日よさこいリーグに行ったよ保守。
133 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/24 14:14:15 ID:U7O/rKoz
保守
保守。
草をかき分ける音さえも気にせずにただ歩いた。
”生き残る。”
山下勝己(38)の頭の中にはコレしかない。
もう少し冷静だったら他の方法でも思いついたかもしれないが
自分を邪魔する奴はみんな殺して一番になることしか考えつかなかった。
相変わらず時間は判らない。最初のうちにどこかで携帯やら時計やらを落としてしまったのだろう。
別に時間なんて知る理由はない。日差しがきつくなったら昼だし、暗くなったら夜。
あとは提示連絡が何か言ってくれる筈だ。それだけ認識できれば十分だ。
どこに行くわけでもない。山下はある人物を探していた。
どこにいるかもわからないので、たださ迷っている と言った方がいいのだろうか。
その人物の名は中村紀洋、山下にとっては雲の上の人物と言ってもよかった。
成績がどうあれ、彼はバファローズの四番だった。
山下はこの男が羨ましかった。彼みたいに1軍の四番を張りたい。
ずっとそれを目標にやってきたが現実は二軍まで。
普段は自分の力不足なのだとちゃんと実感していたが、一度歪んでしまった感情にはもう届かない。
それが嫉妬へと膨れ上がり、最後にはノリを殺してやりたいとまで思うようになった。
コイツさえいなければ俺が四番を打てたのだ、と出来あがった頭の中でグルグルと回る。
これで撃ち殺してやろうと言わんばかりに、しっかりと銃を握り締めて。
表情は普段とそれほど変わらなかったが目の色は明らかに変だ。
このおかしいゲームが彼を狂わせてしまっている。
今の彼だったら余程の近さで物音がしない限り反応を示さないだろう。
ノリの存在を目にする以外は。
それを知ってかは判らないが、一定の距離を置いて山下をずっと追っている人物がいた。
別に隠れようとする気配もない。堂々と彼を追っていた。
武器らしい武器は持ち合わせていないながら、しっかりとマークしている。
山下が後に誰か居ると言うことに気付く事はない。それをしっかり承知した上での行動なのだろう。
一部が血で染まったユニフォームを身に纏った人物は小さく口元に笑みを浮かべながら、大柄なその背中を追いつづけた。
…あと、今更なんですが誤字などを…('A`)
>>44の
×『みんなde一緒に考えたら逃げ道が見つかるかも知れない…』
○『みんなで一緒に考えたら逃げ道が見つかるかも知れない…』
レッドdeハッスルじゃあるまいし_| ̄|○
>>89の
×彼の瞳から一筋の水が流れていたけれが、拭わなかった。
○彼の瞳から一筋の水が流れていたけれど、拭わなかった。
日本語使えてねえよ…(;´Д`)
hoshu
保守
142 :
Neko:04/10/25 21:47:44 ID:XXlgYQ+F
もうもうと燃え盛るペンションを見ながら森谷(00)が考えたのは、
『今度は、誰が死んでしまったのだろうか』
という寂寥感とも恐怖感ともいえない思いと、
『バッグはあの家の中にあったのだろうか』
というゲームをしている人間としての利己的な思いだった。
どちらにしてもその家は燃え広がることも無くただもうもうと黒煙を上げ、その炎は森谷を明るく照らすのみである。
(とにかく、ここも危ない。湖の方向に向かった方がよかったかな……)
と、ガサガサ、と自分の通ってきた道とは反対側に草を掻き分ける音が響き渡る。
背丈くらいにぼうぼうに茂った草むらの中に見えるのは、ビジター用のユニフォーム。
「誰だ!」
「待ってくれ、俺は争いをしたくは無い!」
そう言って両手を上げて現れたのは、3の背番号のユニフォームの上に防弾チョッキをつけた、吉岡だった。
念のために安全装置を外し隠し持っている銃をいつでも撃てる状態にしておく。弾の残りもある、まだまだ撃っても大丈夫だ。
「本当ですか?」
「あぁ、俺の武器はこの防弾チョッキだけだ。戦うつもりもないし、戦う理由も無い」
「……」
「……家、燃えてるな」
「……俺がやったんじゃないですよ」
「……そうか」
吉岡は少し悲しそうな顔をした。
それは自分がやったと思っている非難の表情だろうか、それともこの炎の中で戦った誰かを思っての表情だろうか。
143 :
Neko:04/10/25 21:48:54 ID:XXlgYQ+F
お互いに戦う気が無いことを確認し、二人は道路沿い、300mほど先に行ったところにある完全に崩れた民家の前で情報交換を兼ねた休憩をとることにした。
吉岡の情報は同じ方向を歩き回っていた自分にとっては余り為にはならなかったが、戦う気のある人間が少なくても一人居る、という事実は森谷にも焦りと恐怖を残した。
森谷もできる限りのことを話した。6時間も無言で話してきたから、口も回る。叫びでも怒号でもないものを、人と話せるのが嬉しかった。
だが。
「……森谷、戦う気が無いなら、一緒に金村を倒さないか?」
「え?」
互いの情報交換をし終えて数分。
吉岡は森谷の考えにもなかったことを突然口に出してきた。
「誰も人を殺したいとは思ってないはずだ。進んで殺す奴が近鉄のチームメイトにいるとは俺は思えないんだ。
だから、金村を殺して、爆弾の制御装置を止めれば、全員生きて変えれる。」
144 :
Neko:04/10/25 21:49:25 ID:XXlgYQ+F
森谷は吉岡の言葉を冷静に受け止めていた。
人の体の食物が体外に出される時間は50時間から72時間と健康番組で聞いたことがある。
だから例えば3日目に爆破装置を壊してしまえば爆弾の恐怖に覚える時間は一日も無いはずだ。
だが、そんなことを金村が許すだろうか?
あの小悪党のことだ、もしかしたら野球道具の中に盗聴器を仕掛けてたりしているのかもしれない。
そんな圧倒的な不利の状況で、そんな夢物語が成立するのだろうか?
「俺は……吉岡さんの敵にはなりませんが、味方にもなりません」
「何故だ、皆帰りたいという気持ちは一緒じゃないか」
「確かに、確かにそうですけど」
森谷はまだ上がり続けている黒煙を見た。その黒は青の中にゆっくりと溶けて、消えていく。
「今は、他の人を信じられるほどお人好しじゃありませんけど、顔見知りを殺すほど勇気はありませんから。今は、無理です」
「……そうか。」
「すみません、吉岡さん」
森谷は立ち上がった。今までの情報収集から、『殺る気のある奴』が少なくてもいないと思われる湖方向へと歩みだしてゆく。
「いや、いい。話を聞いてくれる奴がいるだけでも嬉しかった。……出来れば後一つ、お願いがあるんだが、水口と北川に会ったら、俺のことを伝えてくれないか?」
「分かりました、会ったら伝えておきます。」
「……すまない、もう一つだけ、良いか?」
大声で呼び止められて振り向くと、山なりのボールが森谷に向かって飛んできた。
森谷は素手でそれをキャッチする。
「最後まで、死なないでくれ」
「……分かりました、吉岡さんも」
森谷もバックから自分の軟式ボールを取り出すと、山なりに吉岡に向かって投げ返した。
少し力みすぎて、きちんと飛ばなかったが、お互い思いは伝わっただろう。
森谷は吉岡のボールをバックの中に入れ、先へと進んでいった。
ヨッシー・・・(泣)
べっちの役回りが気になるよー
146 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/25 22:30:27 ID:E3qmdUc0
保守
銃弾の補充を終えて、山本は身を隠していた叢から立ち上がった。
日はすでにかなり高い。日限が三日となればそうのんびりもしていられない。
残る人数が減れば減るほど見つけ出すのは難しくなる。
それに、このゲームに乗った人間が他にいないとも思えなかった。
早晩そういう連中ともやりあうことになるだろう。
双方やる気なら武器の優劣は大いにものを言う。そういう意味でもなるべく多くの選手を倒して
得物を奪い取る必要があった。山本の手にあるグロック26は小さな銃だが
人を殺すのに十分な威力があることはすでに実地で証明済だ。
しかし他の連中がどういう武器を持っているかという情報は全くない。
使い勝手はおそらく最もよい部類に入るだろうグロックだが、射程では例えば
スナイパーライフルの類には遠く及ばないだろうし動き回る相手を殺傷しようと思ったら
マシンガンなり手榴弾なりのほうがずっと得手に決まっている。
それに弾丸だって無尽蔵ではないのだ、補充も誰かが持っているであろう
共通の規格の弾丸を奪うよりほか手段がない。
すでに有銘と山村を手に掛けたが、彼らの武器ときたらまったく実りがなかった。
有銘のおろし金セットはそもそも武器と呼べるかどうか怪しい代物だから論外として、
山村の鋸は少し迷ったが、引かねば切れない鋸は相手が無抵抗でなければ
使い物にならないだろうという結論に達した。
ともかくいろいろな意味で、早いうちに狩れるだけ狩っておいたほうがいい。
その思いが山本の足を急がせた。
当面向かう先は湖にほど近いあたり、地図で見たところ別荘地らしき場所だ。
先刻、なにやら煙が上がるのが遠目にも見えた。何事かあったのは確かだ。
何事かなどと言ってもこの状況下だ、殺し合い以外考えられないが。
ただ、こうしてわざわざきな臭いほうへ集まるような手合いはおそらく
山本自身そうであるように端から殺して回る気でいる奴だ。
そうでないなら騒ぎからはなるべく離れよう、逃げようとするのが自然だろう。
逃げようとする奴を拾えれば一番楽でいいのだが、などと思っているうちに
一塊だった建物が、きちんと一軒一見に見えるようになってきた。
どうやらさすがにそう都合よくはいかないらしい。
気を引き締めながら、山本は既に勢いを失いつつある煙の出所を目指した。
別荘群は地図や遠目に見た印象よりはずっとくっつきあい、入り組んで建っている。
身を隠そうと思えば幾らでも隠せそうだが、逆に言えば見通せる範囲は狭い。
と、そのとき斜め前の生垣が揺れた。反射的に山本は二歩を稼いで
その向かいに当たる家の門柱に身をぴたりと寄せた。
風か、それとも鳥や獣か、とも思ったが違う。その後が静か過ぎる。
人間がいるのは間違いない。だがそれ以降はなんの反応もない。
誰何すらしてこないあたり、やはりやる気なのだろう。
睨み合っていても仕方がない、山本はおおよその見当で一発撃ってみた。
がさっと生垣の葉――紅い芽吹きでベニカナメと知れる――が揺れる。
その向こうでばたばたと人の動く気配があった。
生垣では視線は遮ってもいざというときに弾丸を止めてくれるとは限らない、
それをわざわざ教えてやったのだから慌てるのも当然だ。
立ち上がった相手の頭が、生垣から出てこちらを見た。目が合った、と思ったときには
引っ込んでいたが、そのわずかな時間に山本の脳はごく冷静に相手を見極めていた。
鈴木史郁(44)だった。目を血走らせ、口を固く引き結び、やる気十分らしく見えた。
しかしその瞳の奥にはまだ迷いと躊躇いがある。そして狂気が足りない。
こいつは殺しを知らない。しようと思っただけで、したことはない。確信できた。
破裂音。門柱の煉瓦の破片が飛んだ。撃ってきたのだ。
だが負ける気はしなかった。グロックを構え直し、三発続けて撃ち込む。
くぐもった呻きが上がった。当たったのだ。それを確認すると同時に
山本は駆け出し、一息に道を渡って鈴木のいる家へ飛び込んだ。
左大腿から血を流して蹲っていた鈴木は、それでも山本の方へ銃を向けようとした。
戦意を失ってはいないらしいが苦痛のためだろう、どうしようもなくその反応は遅い。
もちろん山本は鈴木の反撃を待たずに二発、三発と立て続けに撃った。
鈴木の肩、腹、胸と血の花が咲いて散る。鈴木は身体を捻るようにして倒れこむと
そのまま動かなくなった。動かないのを二呼吸ほど見てから、山本は鈴木に近づいた。
血溜りに伏している鈴木を見下ろし、もう一度グロックの引き金を引く。
頭部に新しい穴ができた。止めを刺して、山本は鈴木の使っていた銃を拾い上げる。
まるでそれを待っていたようなタイミングで、
『レッドdeハッスル』の前奏が流れ始めた。正午の放送のオープニング曲だった。
>>126 まとめ乙ですよ! 見やすい&わかりやすくて(・∀・)イイ!! やっぱ一覧は大事ですな。
といいつつもしまた作られるのであればそのときでいいので修正をお願いしたいです。
山省の武器のグロック26なんですがモデルガンでなくてモノホンの銃です。
わかりづらい書き方しかできないヘタレで申し訳ありません・・・orz
保守
ほしゅ
北川博敏(46)は、湖のほとりにある廃れた小屋にいた。
かつては貸しボート屋だったのだろう。小屋の外には朽ちたボートが数隻置いてあったし、
小屋の中には、アウトドアを楽しみにここへ足を運んだカップルや家族連れの記念写真が
壁にかかったコルクボードに貼ってあった。写真の中の笑顔は何故か寂寥感を募らせる。
北川はやり場のない怒りに肩を震わせていた。
目の前には、三木仁(35)の死体が仰向けに横たわっている。頭を中心に血だまりができており、
その出血量が、三木がもう万に一つも息を吹き返すことがないことを証明していた。
三木の命を奪ったのは、他でもない北川だ。
仕方がなかった。止むを得なかった。殺さなければ殺されていた。
数十分ほど前、北川がこの小屋で休息をとっていると、それに気付かず三木が入ってきた。
先客がいるなどとは思っても見なかった三木は、パニックになって襲い掛かってきた。
三木は、スプレー缶のようなもの――正確には護身用の催涙スプレー――を吹き掛けてくる。
視界を奪われて、次にパニックになったのは北川だ。隠し持っていたトカレフを夢中で乱射した。
偶然にも、そのうちの一発が見事に三木の額を捉えた。
ひたすら腹が立つ。
自分を殺そうとした三木よりも、三木を殺人に駆り立てた連中に腹が立って仕方がない。
それと同じくらい、三木を殺すことしかできなかった自分の無力が恨めしい。
なぜ三木が死ななきゃならない。なぜ俺たちが殺しあわなきゃいけない。
そんな目に遭わなきゃいけないことを、俺たちがしたというのか。
どれぐらいこうしていたのだろう。
不意に、外から『レッドdeハッスル』の前奏が流れ始めて、北川は正気を取り戻した。
およそ場違いな軽快な旋律。悪趣味極まる悪ふざけの選曲だ。
途中で音が小さくなり、完全に消えた頃、代わりに金村の声が流れ始めた。
どれぐらいこうしていたのだろう。
不意に、外から『レッドdeハッスル』の前奏が流れ始めて、北川は正気を取り戻した。
およそ場違いな軽快な旋律。悪趣味極まる悪ふざけの選曲だ。
途中で音が小さくなり、完全に消えた頃、代わりに金村の声が流れ始めた。
『・・・・ザ、ザー・・・・・ あー、あー、大阪近鉄バファローズの選手諸君。こちらは金村やー。
調子はどうやー? 逃げようとか、ワシらに歯向かおうと思てるヤツはおらんかー?
そういう抵抗は一切無駄やから、考え直して真面目にゲームに参加せえよー。
定時連絡の時間になったんで、これから死亡者と禁止エリアの発表を行うから、よう聞いときやー。
死亡者は、背番号順に・・・・
背番号4 高須洋介。
背番号12 山村宏樹。
背番号13 有銘兼久。
背番号22 愛敬尚史。
背番号27 坂口智隆。
背番号28 マリオ・バルデス・・・ってこれはみんな知っとるやろうけど。
背番号30 ヘクター・カラスコ。
背番号31 藤井彰人。
背番号35 三木仁。
背番号39 吉良俊則。
背番号52 宇都格。
背番号53 坂克彦。
ん? あ、すまん。今さっき死んだ奴おったの忘れとった。背番号44鈴木郁洋』
北川は、三木の名前が呼ばれた時だけ少し動揺したが、努めて冷静に死亡者を確認していく。
思っていたよりも、ずっと多い。これだけのチームメイトがひとくくりに死んだといわれても、
現実感がまったくない。しかし、ここに確かに三木の死体がある以上、それはやはり事実なのだろう。
『・・・・以上、13人が今までの死亡者や。正直、お前らがゲームに乗ってくれるか心配やったけど、
思てるよりもずっとノリノリでやってくれとるんで、ホッとしたで。これからもその調子で頼むわー』
殺し合いの結果報告にはまったくそぐわない、金村の能天気な声が響き渡る。
ふざけている。まったく、ふざけている。
『次に、禁止エリアの発表やな。地図出しとけよー。
えーと、今回の禁止エリアは、ワシが今いとるグラウンドがある地域、そこだけやー。
わかってると思うけど、禁止エリアに入ったら自動的に爆弾が作動するから、注意しときやー。
30分後に禁止エリアになるから、今グラウンドの周辺にいとるヤツは、すぐに移動するようにー』
『それともうひとつ、言うてなかったけど、ゲームの参加者が増えんねん。お前らのお仲間や。
条件的には、えこひいきなしでいくから安心しときや。参加するタイミングがちゃうだけや。
次の定時連絡までには全員放り出すつもりやから、仲良うしたってやー』
『そんじゃ、ワシからの定時連絡は以上や。
次は18:00に連絡するから、それ聞けるように生き残るんやでー』
金村の声が消え、再び静寂が辺りを包む。
一気に情報が垂れ流され、北川の脳裏に様々な思惑が駆け巡る・・・が、それはひとまず置いておくことにした。
これまで、現状を把握するのに必死で、これといった目的もなくゲームに参加していた北川だったが、
思った以上に死亡者が出ていることを知った北川は、ひとつ、目的を決めた。
腹をくくったと言い換えてもいい。こうなれば、北川は強い。
北川の目的はひとつ。ゲームにとことんまで反逆すること。
こんな腐れたゲームに付き合って、ゲームを影で見ている畜生を喜ばす道理はどこにもない。
殺そうとしている者がいれば、それを食い止め、
殺されようとしている者がいれば、それを助ける。
最後の最後まで抗う。世界が狂っても、一緒になって狂いはしない。
人の道から外れることだけは、決してしない。
そして、できることなら、このゲームを演出した鬼畜を――とりあえずは、金村の横っ面を殴り飛ばす。
ふと、どこかで銃声が聞こえた。
北川は、荷物を速やかにまとめ、銃声がした方向へ駆け出した。
【背番号35 三木仁 死亡】【残り27人】
>>24氏
鈴木死亡確認でよろしいでしょうか?
あの【〜死亡】【のこり〜人】の告知がなかったので迷ったんですが、
描写から絶対死んでるよなーと思ったのでカウントしといたのですが・・・
>>Neko氏
まとめページサンクスです。
やっぱり必要ですね。
「みんな、こんなクソゲームに乗ってしまうとは・・・」
高村(24)はモニターの前で、憤りと悲しみから体を震わせていた。
「狂っている、いや全てが狂ってきている」
大体、こんな殺し合いになんの意味があるというのか。
坂や吉良なんて、まだまだこれから栄光をつかむはずの若者だったというのに。
大村や山本、岩隈など進んで殺しているようなふしがある。少なくともこんな人間じゃなかったはずだ。
「いや、こんな安全な所にいるワシが言うことじゃないか」
ここは本部の中にある一室。
選手たちを管理するという名目で、一人一人をチェックしているのだ。
金村から補佐の要請が来たとき断る事もできたはずだった。
それをしなかったのは、もしかしたら自分の力でゲームを止める事ができるかもしれないと思ったからだ。
だが、それも建前にしか過ぎない。
本当は自分の命が惜しかったから・・・
「悪い、みんな・・・ワシは無力や」
モニターの中では今でも殺し合いが続いていた。
これから先、自分のできることは何か?
それを考えていた時、モニター室のドアが開き、笑い声をともなって金村が入ってきた。
「ははははは、えーペースで進んどるわ。お前らの出番も予定より早なるやろうから、用意しときやー」
今にも殴り飛ばしてやりたいぐらいの、憎々しい笑顔
だが、ここで反抗するわけにはいかない。サクラ役の他の選手にも迷惑がかかる。
若手の選手の中には、すでにガックリとうなだれ放心状態の者もいる。
「金村さん、ちょっといいですか?」
「なんや?なんか用があるんか?」
「えぇ、もし出番が回ってきたら自分を一番に出してもらいたいんやけど」
これ以上、若者が死ぬのには耐えられない。
それならば、いっその事選手生命の先が短い自分が死ぬべきだ。
「ほう、おまえ一番に死にに行きたい言うんか」
「えぇ・・・」
金村は目を輝かせながら答えた。
「あかんな」
「えっ!」
「わしは天邪鬼やらかなぁ」
「それに、死ぬ覚悟ができてる奴を送ってもおもろない。おまえはここで仲間の死ぬのを見るんや」
人をバカにしたような笑顔
それを言うと、金村は来たときと同じように、笑いながら去っていった。
一方の高村は、ボーゼンとその場から動けないでいた。何もできないという脱力感の中で。
159 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/27 00:14:53 ID:UM2Tx7iD
保守age
>>62-64を書いたものです氏
ご指摘ありがとうございます。お察しの通り単なる書き漏らしです・・・
>>Neko氏
申し遅れましたがまとめページ作成乙&GJです。
まとめページ更新していただける折には
>>149の末尾に
【背番号44 鈴木史郁 死亡】【残り28人】
を追加していただけるとありがたいです。よろしくお願いします。
吉川と岡本が当面の落ち着き先を確保したのは正午間際になってからだった。
視界が悪い山で夜を迎えるのは危ないということで開けた方へ移動し湖付近へ出た。
この辺りは避暑地なのか、ロッジだかペンションだかが何軒も建てられている。
そのうちの一軒へもぐりこんだのだ。出入りできる扉や窓の数で決めた。
まさかの折に逃げ出しやすいからという判断だ。判断したのは吉川でなく岡本だったが。
正直なところ、吉川はただ岡本にくっついてきただけだ。
死ぬつもりも殺すつもりもないから落ち着いて身を潜められる場所を探すつもりだが
お前はどうする、と持ちかけられて一も二もなく吉川は乗った。
吉川ももちろん死にたくも殺したくもなかったし、一人でいるのも不安だった。
誰かと一緒なら心強いし、それがもともと手本と仰いでいた岡本であればなおさらだ。
この人に限って間違いなんかありっこない、吉川はそう思う。
これも岡本の指示で、万が一に備えて今は二人とも武器を手元に置いていた。
岡本の武器はナイフ、吉川に支給されたものは拳銃だ。説明書によればベレッタM8000。
銃の扱いなど全く知らない吉川が説明書に目を通すうち、正午の放送が始まった。
金村の声はやたらに楽しそうだがいちいち腹を立てるのも馬鹿らしい。
挨拶だかなんだかよくわからない喋りは聞き流したが、続く言葉はそうはいかなかった。
「……へ?」
思わず声に出ていた。金村は、死亡者の名前を読み上げると言ったのだ。
死亡者。まるで、誰か死んだとでも伝えるかのような言い方だ。
チームメイトのうちの誰かが誰かを殺していなければありえない。
そしてそんな事態は吉川に想像しうる範疇を逸脱していた。
助けを乞う思いで岡本を見るが、岡本の表情は硬い。なんのフォローもしてくれない。
金村の並べる名前は一つや二つではなかった。
当然ながらそれぞれに誰が誰だかわかる名前だ。そのうちの一つに、吉川は心底驚いた。
山村宏樹。
ものの二時間ばかり前に出会ったばかりの選手だった。まともに話もできなかったが、
あのときは確かにまだ生きていた、目立った怪我もしていなかったはずだ。それなのに。
眩暈がした。あれは……山村を助けられる機会だったのではなかったか。
思い返せば山村は、死にたくない、助けてくれ、と必死で訴えていたのだ。
絵空事めいて聞こえたそれを、吉川が現実のものとして受け止めてさえいれば
もしかして山村は死なずに済んだのではないか。
自分はあの人を、みすみす見殺しにしてしまったのではないか?
そこで吉川はあることに気がついた。
ここにこうして隠れていれば、自分の身は安全かもしれない。
だがそれは、外で行われる殺し合いに対して見ない振りを決め込むということだ。
つまり――山村を助けられなかったのとなんら変わらない、
仲間を見殺しにするということにほかならない行いではないのだろうか。
「あの、岡本さん」
いつの間にか放送は終わっていた。吉川は声の震えを必死で抑えながら言った。
「山村さんは……あの時まだ、」
「だからどうした」
ろくに聞きもせず、岡本は吉川の言葉を遮った。静かだが強い声が一言で切って捨てる。
「お前が一緒に死んでやっても、なんにもならんぞ」
それは反論のしようもないほど確かなことだった。だが、何かが足りない。そう思った。
吉川はしばし考え込んだ。一緒に死んでやることに意味がないなら、なにをすればいい?
吉川自身は殺し合いなどと言われても何一つ具体的なイメージを持てないままだった。
ことの背後にどんな意図があるとか、どういう経過を辿りそうかとかは想像もできない。
だが、一つだけはっきりわかっていることがある。これだけは断言できる。
こんな馬鹿げたゲームはどう言い繕っても筋が通らない。間違っている。
「――こんなん嫌です」
咄嗟にはうまい言い方を思いつかず、ストレートにそう言った。それだけではまるで
駄々をこねているようだと思い、言葉を探し探ししながら並べる。
「……俺アホだし、今すぐなんか手を考えろって言われても無理ですけど、
でも諦めたく、ないです」
話しているうちに、もやもやとしていた想いがはっきりと形を成していくのが
自分でもわかった。できるかどうかはともかく、するべきことは決まっている。
「ぎりぎりまで頑張んなかったら、絶対後悔する……、って結果うまくいかなかったら
やり方間違ったんじゃないかとかやっぱり後悔するんだと思うんですけど、でも、
結果出る前に諦めるんはやっぱり違うと思うんで……」
鼻の奥がつんと熱くなる。吉川は一度きゅっと口を結び、それから結論を続けた。
「なんとか、みんなで逃げ出す方法見つけます。必ず」
言い終えて、吉川は岡本の瞳を真っ直ぐに見た。今度は岡本のほうが沈黙する番だった。
目を伏せ、しばらくの間を置いてから岡本が口を開く。
「……簡単なことやないぞ」
「けど、やらなきゃいけないことです」
吉川は即座に返した。もう迷いはない。
たとえ岡本と別れることになってもそうする覚悟は決まっていた。
だがそれを口に出す前に、岡本のほうが先手を取った。
「なら、俺も一口乗せてもらうぞ。それでええな?」
虚をつかれて吉川は目を瞬いたが、すぐにその言葉の意味に気づいた。
岡本は一緒にやろうと言っているのだ。大歓迎だった。
「はい、よろしくお願いします!」
そうと決まれば一分一秒も無駄にはできない。一緒に逃げ出せるはずの誰かを
犠牲者にしてしまうのも人殺しにしてしまうのももうごめんだった。
もちろん誰も、好き好んで殺したいわけでも殺されたいわけでもないに決まっている。
だが不可抗力というのはある。望むと望まざるとに関わらずそうなってしまう時はある。
だからそんなことになる前に見つけ出して合流しなくてはいけない。
もとよりほとんど広げてもいない荷物はすぐにまとまった。
芽生えたばかりの、しかし確かに根を張る決意を胸に、吉川は扉を開けた。
出オチのノリの今後に期待
166 :
Neko:04/10/27 13:47:53 ID:WXOr4uuy
最低限のモノが入ったえらく中身が無いバッグを抱え、バーンズは草と木だけの獣道とさえいえない場所を進む。
どんどん先に進んでいたのだが、放送を聴く一時間前に途中で工事現場にあるような大きな赤いテープに遭遇してしまった為、引き返してきたのだ。
もちろん右手にはコルトSAAが握られている。銃弾も6発入っている。いつ襲われても大丈夫な様にするためだ。
ユニフォームも合えてカモフラージュの為に泥だらけにしている。ビジターユニの為にたいした効果にはならないが。
(にしても、13人死んだというのにまだ一つも死体に会ってないのは…北東に行き過ぎたか?)
バーンズがそう思ったとき、
パアン!
(近い!!)
銃声が聞こえてきた。
その音は木々の中に反響して方向は掴めないが、間違いなくこの近くに銃を持った人間が居るということを証明する証拠である。
(誰かを撃った音か? にしては一発で人が殺せるのか?)
バーンズは何回かアメリカで射撃訓練をしたことがある。もちろん結果はさっぱりだった。
プロですら狙った的に当てるのは難しい。だから一発で敵を倒せるなんてアンタッチャブルなのだ。
そんな奴がいるのならば今すぐアメリカ陸軍に志願すればすぐに英雄となれる。
あたりを、後ろまで360度確認しながら進んでいく。
反応は無い。今のは聞き間違いだったのだろうか?
息を吐いて緊張を解いた瞬間、
ザザッ、ザッ
『!』
パン、パン、パン!
静寂に弾けたその音に、バーンズは思わず引き金を引いた。三発。反動が手をしびれさせる
銃の照準の先には…茶色い物体。
そして、銃声にかき消されるようにまた
ザザザザッ!
今度は前の音よりもずっと大きい。
(な――――)
音の方向に顔を向けてもう一度引き金を――――引く前に、彼の瞳には余りにも輝いているノズルフラッシュ(銃を打つ時に出る光)が刻まれた。
167 :
Neko:04/10/27 13:49:31 ID:WXOr4uuy
ドガァン!!
桁違いの轟音が山の中に轟く。
金属バットで打ったホームランの音なんて、いや、どんな銃声も比較にすらならない。その音は山々にこだまし全員の耳に聞こえたのではないか。
「……く……腕が……」
撃った岩隈はその反動を受けた両腕が痛みに耐え切れずデザートイーグルを地面に落とした。
口径が50位まで大きいものになると骨が外れるのが普通だ。まして投手なのだから普段から傷つく両腕への負担は恐ろしいものとなるだろう。
撃たれたバーンズはそのデザートイーグルの威力で腹の部分が粉々に飛んでいた。
デザートイーグルはその威力で象すら殺すことが出来るのだから、人間が喰らったそうなるのは当然だ。
彼とバーンズの更に向こうにはボールとグラブが落ちている。
岩隈は相手にサイレンサーの無いPSG1を一発打ち、まず彼を警戒させておいて
別の方向に牽制球の要領で音を立てるようにボールの入ったグラブを投げたのだ。
グラブは音を立て、更にそこからこぼれたボールも木の葉を掻き分ける音を出す。
バーンズが自分のいる方向と120度違う場所に向かって銃を三発撃った時には全てが終わっていた。
銃を撃った時の反動、撃った後の安心感、そして緊張感、
どちらが精神的に有利かという点では自分が勝っていたということだろう。
「はぁ…はぁ…」
痛みが去った両腕で岩隈はバーンズだったモノの弾けとんだ右腕からコルトSAAを奪う。
まだ体温が、汗が残っているのに嫌気が差し、岩隈は一度地面において冷やすことにした。
先に持っていたバッグにバーンズのバッグの食料、弾丸を詰める。
その中身には坂の食料、筧の食料も合わせかなりの食料が詰まっていた。
坂のバッグに入っていたのは36発の弾と42口径デザートイーグル。当たり中の当たりだった。
水は必要ならば湖のものを飲むことが出来るので筧のバックの分の水しか取っていない。
とりあえずバーンズの飲んでいない水で自分の顔、髪を洗い、一呼吸すると岩隈は出発しようとして、
(重いな、いくつか置いていくか…)
そのバックの重さに気がついた。コルトSAAとその弾を取り出すと、それをそこらへんの木の葉に隠して、去っていった。
バーンズの傍らに、グラブからかなり離れたボールが転がっていた。
168 :
Neko:04/10/27 13:52:26 ID:WXOr4uuy
【背番号42 ラリー・バーンズ 死亡】【残り26人】
出来るだけ高い場所…辺りを見まわせるような場所を成る丈選んで二人は腰を下ろした。
暫く歩きつづけていたので流石に少し足腰が痛い。野球選手としてはまだまだ未熟だという証拠でもある。
もうすぐ正午だから放送があるだろう。と思っていた矢先に今の状況とは全く相応しくない音楽が流れてくる。
ああ、この曲は良く知っている---------
しかしそれは不快感指数をさらに高めるものでしかなかった。
これが午後の放送なのか?と首を傾げたが、暫くしてそれが確信的となった。
あいつだ。金村の声だ。
どこから聞こえてくるのだ、この放送は。まあ、どうでもいい。
とにかく、あまり進んでは聞きたくない声であったことは確かだ。阿部健太は小さく舌打ちをした。
金村が読み上げていった死亡者の中に筧の名前が無かったのにホッとするよりも先に宇都と坂口の名前の放送に動揺した。
いや、他がどうでもいいとかじゃなくて、やっぱり同期で同い年だと思い入れも大きいというか。
もしかしたら二人は一緒に居たかも知れないし、全く違うところに居たかも知れない。
こんなこと考えていてもキリがないわけだか、どうしても考えてしまうのが、人間ってやつだ。
「…四分の一が死んだってわけか…」
香月良太が下を向いたまま呟いた。元々小さな声がこれ以上に聞こえない。
「筧の名前が無かったな…」
少なくともあれで死んではいなかったということだ。いや、もしかしたらもう意識もない状態なのかも知れない。
放送の情報だけでは判らない。
まぁ、今は まだ生きていることは事実である。阿部はとりあえず安心の溜息をついた。
しばらくすると名前を呼ばれた人物の顔が頭に浮かんでは、すぐ消えた。
もっと悲しむかと思っていたが、案外そうではなかった。
実際見ているわけではないからなんだろうけど
―坂の顔が浮かんだときは、少し苦しかったし―
あとは隣りに香月が居たからだろう。
一人よりもよっぽど安心出来る。心強いと言うほうが正しいのかも知れないが。
そして何よりも香月の頭の回転は思った以上によかった。いや、阿部の頭が良くないだけかもしれない。
高卒と社会人だった人間の差というものか。
…とまぁ、放送のあった時刻は大体こんな感じであった。
思ったよりもゲームを愉しんでいる人数が多そうな事は誤算だった。
いや、小人数が一気に殺しているのかもしれないから一概には言い切れなかったのだが。
暫く何かを考えていたのか、黙り込んでいた香月が口を開く。
「ゲームの参加者が増える…か。 そいつ等が乗るか乗らないかは判らないが、とりあえず仲間が増える確率は上がるってわけだ…」
香月は盗聴を恐れているのか、これ以上はっきりとは言わなかった。
”仲間を集めて どうするつもりなんですか?”
と尋ねるといつも
”言うべき時が来たら、きちんと話すから”
そう言って誤魔化すだけだ。
それでも阿部の香月への信頼感は変わらなかったし、自分以上に色々考えている事も判っているから
これ以上何も言わなかった。
「とりあえず、暫く俺達はここら辺で行動することになる。
ここはそれなりに高い位置にある場所だから、上手くいけば何処に誰がいるのかくらいはわかるだろう…」
香月の武器は(武器と呼べるものかは判らないが)双眼鏡だった。話を聞くと阿部の位置もそれで知ったと言う。
戦う気の無い人間にとっては当たりだったかも知れない。
まあ、誰か判らなくとも何をしているのかくらいは確認出来るだろうし、上手くいけば大体の背番号も見えそうだ。
香月の作戦はこうだ。
殺しに乗るつもりの無いだろう人物を幾人かリストアップして交渉する、という形を取る。つもりで居るらしい。
大人数で動くのも危険なのでまあ、あと2人くらいは仲間を増やしておきたい、そう言っていた。
出来る事なら頭のいい人物がいいけどね…、香月は苦笑しながら双眼鏡を手に取って、覗きこむ。
ぽつぽつと姿が確認出来るが、流石に顔はわからない。
「まあ、そこら辺は近距離まで行かないと判らないか…」
とりあえず何処らへんに人がいるのか把握できたことは大きい事だ。
「まあ、これからみんながどう動くか、だな…」
双眼鏡をおろして、香月はのんびりと昼食を取り始める。
阿部は食料に手をつけず、死亡した選手の名前を繋がる事のない携帯のメモ帳機能に記した。
もう終わってしまった事をダラダラと気にしている場合ではないのだが、矢張り気になるものは気になるのだ。
”俺はみんなの線香を上げることが出来るんだろうか…”
そんなことが頭に過ったが、これ以上深く考えるのは やめた。
その時何処かで銃声が響いた。菓子パンを齧りながら香月は咄嗟に再び双眼鏡を使って当たりを見まわした。
遠い場所で起こった事にしてはあまりにも聞こえる音が大きかったので、多分、近くだ。
暫くして、三発。
その後に先程とは比較にならない音。
一体何が起こっているのか全く判らない阿部はただ、香月の動きをじっと見ていた。
ぴたりと彼の動きが止まり、双眼鏡を下ろして静かに言った。いつだってこんな感じだ。
しかし、今回は違った。声が少しだけだが震えている。 気にしないとそれも判らない事だろうが。
「…岩隈さん…が居る」
二十番代らしき背番号とすらりと伸びた長い足くらいしか確認できなかったが恐らく彼で間違いだろう。
そのあとに香月は小さく付け足す。 その近くに誰かが倒れている、と。
それ以上は何も言われなくとも判る。
岩隈が筧を撃った情景がフラッシュバックする。食料に手をつけていなくて正解だ。
先程口を濡らした程度に取った水分さえ、阿部は逆流してしまいそうだった。
「あの人は、本気なんですね…」
確実にそういう人間が居ること、それは自分が野球人として目標としていた人物だったこと。
ギリ、ときつく噛み締めた唇から、一筋血が流れていた。
その痛みなんか、死んだ人達の事を考えると可愛いものだった。
----------なんで、こんなことになったんだ………
夢なら醒めて欲しい、阿部は今にも泣き出しそうな声色で呟く。
まだゲームは、到底終わりそうにない。
川口憲史(61)は自らの身体の異常に気付いていた。
吐き気や目眩、下痢などの症状が断続的に続いている。
その一方で、気持ちはやたらめったら元気なのだ。ハイと言い換えてもいい。
そして何より―― 自分でも驚くぐらいに攻撃的――いや、「凶暴」になっている。
さっき藤井を見つけた時も、考えるより先に身体が動いた。
まず呼びかけたり、あるいは逃げ出したり、他の選択肢もあったはずなのに思い浮かばなかった。
争う・襲う・脅す・殺す・・・凶暴性に満ち満ちた一つの選択肢を、無意識的に選択していた。
実は、その兆候はゲームスタート前、バスに乗っていた時からあった。
その時は「なんか身体の調子が悪いなあ」ぐらいに思っていた。
妙に苛々するのも、「身体の調子が悪いから」ぐらいに思っていた。
が、ゲームが始まってからというもの、その症状は加速度的に顕著になってきた。
何度も嘔吐し、何度も排泄した。そしてその度に食べた。
やたら食欲がわいてくるのだ。食べても食べても満たされない。幸い、食料は「大量」にあった。
川口のバッグには、食料と水が無理やり詰め込んだかのようにギュウギュウに詰まっていた。
他のものといえば、武器である鉈と、印のついた地図だけ。
確か金村の説明では、バットやボールなんかも入っていると聞いたのに・・・と初めは不審に思いもしたが、
元々このゲームにおいては不必要な物だ。すぐに気に留めなくなった。
何より、大食漢な川口にとってはありがたかったのだ。
川口は、地図に印のつけられていた場所にいる。
なんのことはない廃屋だが、地図に書いてあった但し書きに従って物色してみると、
またしても大量の食料と水があった。川口のバッグに入ってあった食料と同じ、
ブロックタイプの栄養食品とペットボトルのミネラルウォーター。
無味乾燥な素っ気無い食事だが、ともあれ腹が減っている。選り好みできる状況ではない。
今日で何度目の食事になるのだろうか。川口は一心不乱に貪り食った。
みるみるうちに、栄養食品の空箱が3つ、4つとその数を増やしていく。
ひとしきり食べた後、人心地ついた川口は先ほど流れた定時連絡のことを考えた。
13人ものチームメイトが死んだという、本来ならば悪夢のような内容。
だが、不思議に、なんの感慨も沸かない。
現実感がないというのもあったが、それ以上に、どうでもよかった。
とにかく腹が減る。とにかく苛々する。とにかく――殺したい。
(殺したい)
自然に流れ出た欲望に、理性が静止をかけた。
自分が思ったことながら、ぞっとする。なぜこんなことを考えるのか――
しかし、確かな確信がある。
自分の手が肉を潰す感触を味わえば、この苛立たしい気持ちは治まるだろう。
自分の耳が悲鳴や断末魔を聞けば、腹の底から愉快だろう。
自分の目が血しぶきを見れば、きっと満ち満ちた気分になれる違いない。
なぜ、こんな気持ちになるのか――
川口は気付いていなかった。
バッグを手渡された時、軍人風の男が明らかにバッグを「選んで」いたことを。
潤沢な食料と、さらなる食料の在り処が書かれた地図が入った川口のバッグは、
恣意的に、つまりは「わざと」「ある意図のもと」川口に渡されたことを。
そして、バスの中で配布された食事と飲み物も、みんなとは違うものだったことを。
これは、主催者側に仕組まれた罠なのだ。
細かい説明は避けるが、川口に支給された栄養食品は、本来ダイエットフードだったのだ。
それも、しこたま薬事法を違反した危険極まりないダイエットフード。ただし、効果は抜群だ。
甲状腺ホルモン剤というものがある。極めて強力な痩身効果があるが、副作用があるため使用は禁止されている。
この甲状腺ホルモンを過剰摂取すると、目眩・吐き気・情緒不安定・不眠・下痢・食欲亢進・体重減少などの症状を引き起こす。
一方で、活動性は驚異的に向上し、一時的にハイになる。反面、非常に怒りっぽく、攻撃的な性格になる。
まとめると、「どんどん痩せていくが、活力は満ち溢れ、攻撃的な性格の人間になる」効果がある。
川口に支給された栄養食品は、元々薬事法に触れていたダイエットフードを、
このゲームのために、その効果をでたらめに増幅させたものだったのだ。
そして水。
この水は、数十種類の幻覚作用・向精神作用のある化学合成物質と、自然界の有効成分を混ぜ合わせた、
麻薬の特製カクテルが含まれていた。微量なので味に影響が出る心配はない。
これには、意識を明確に保ちつつ、人間の理性的な感覚を麻痺させる効果があった。
この二つが合わさった時、そこにできるものは――そう、殺人鬼。
とはいえ、川口にはまだ理性があった。というのも、食べることと飲むことでは圧倒的に食べるほうに比重が偏っていたからだ。
川口は、自らの残虐な願望を恐れ、しばらくこの廃屋で身を隠すことにした。
ここには食料も水もまだまだある。食に困ることはまずない。身体の調子も変だし――
そして、また栄養食品に手を伸ばす。あれだけ食ったのに、まだ腹が満たされない。
もしかしたらこの食べ物が腐っているのかも、とも思ったが、これしか食べ物がないのだから仕方がない。
身体の不調よりも何よりも、空腹のほうがよほど耐えがたい逼迫した問題なのだ。
ひたすら食らう川口。
それが、破滅へ向かう行為だと知ることもなく、ただ、食らっていた。
12山村宏樹 【折りたたみ鋸】 →死亡/何者かに殺される
13有銘兼久 【???】 →死亡/山本に射殺される
16岡本晃 【ナイフ】 →生存/吉川と合流
17香月良太 【???】 →生存/阿部健と合流
18山本省吾 【グロッグ26(モデルガン/実弾使用可)】 →生存/吉良・鈴木を射殺
21岩隈久志 【PSG1】 →生存/筧に対し発砲
22愛敬尚史 【???】 →死亡/何者かに殺される
30ヘクター・カラスコ 【火炎瓶】 →死亡/火炎瓶を失投して焼死
48阿部健太 【ホイッスル】 →生存/香月と合流
52宇都格 【特殊警棒】 →死亡/坂口に絞殺される
99吉川勝成 【ベレッタM8000】 →生存/岡本と合流
31藤井彰人 【ベネリM3】 →死亡/自殺
3吉岡雄二 【防弾チョッキ】 →生存/森谷と遭遇
4高須洋介 【爪楊枝】 →死亡/水口に刺殺される
5中村紀洋 【5億円(現金1億円+4億円の小切手)】 →生存/支給武器を確認
10水口栄二 【???】 (民家から持ち出したアイスピックを所持) →生存/高須を刺殺
38山下勝己 【コルト・ガバメント】 →生存/吉良を射殺
42ラリー・バーンズ 【コルトSAA】 →死亡/岩隈に射殺される
46北川博敏 【トカレフ】 →生存/鈴木を射殺
53坂克彦 【デザートイーグル】 →死亡/筧に射殺される。銃は岩隈へ
57筧裕次郎 【ウズィSMG】 →生存/坂を射殺。その直後岩隈に撃たれ負傷
00森谷昭人 【銃】 →生存/吉岡と遭遇
7大村直之 【サバイバルナイフ】 →生存/坂口を刺殺
8磯部公一 【???】 →現状不明
26下山真二 【???】 →生存/大西と合流。高須の死体を確認
27坂口智隆 【イングラムM10】 →死亡/大村に刺殺される。銃は大村へ
28マリオ・バルデス 【支給されず】 →死亡/ゲームスタート前に射殺
39吉良俊則 【???】 →死亡/山下に射殺される
50大西宏明 【???】 →生存/下山と合流。高須の死体を確認
61川口憲史 【鉈】 →生存/体に異常をきたし凶暴化
19赤堀元之 【???】 →現状不明
35三木仁 【催涙スプレー】 →北川に射殺される
44鈴木郁洋 【銃】 →山本に射殺される。銃は山本へ
24高村祐 →本部で金村の補佐をしている
甲状腺ホルモンこの前習ったばっかりだよ。
ちょっと嬉しい。。
既出選手一覧 【】は支給武器 →生存or死亡/現在までの主な行動
既出人物 33名+1名 未登場人物 7名+9名 死亡者 14名 生存者 26名
既出選手一覧 【】は支給武器 →生存or死亡/現在までの主な行動
(投手)
12 山村宏樹 【折りたたみ鋸】 →死亡/山本に射殺される
13 有銘兼久 【おろし金セット】 →死亡/山本に射殺される
16 岡本晃 【ナイフ】 →生存/山村と遭遇、吉川と合流
17 香月良太 【双眼鏡】 →生存/阿部健と合流
18 山本省吾 【グロッグ26】 →生存/山村・有銘・鈴木を射殺
19 赤堀元之 【???】 →生存/現状不明
21 岩隈久志 【PSG1】 →生存/筧に対し発砲、バーンズを射殺
22 愛敬尚史 【???】 →死亡/何者かに殺される
24 高村祐 【現在ゲームに参加していない】 →生存/途中からゲーム参加予定
30 ヘクター・カラスコ 【火炎瓶】 →死亡/火炎瓶を失投して焼死
48 阿部健太 【ホイッスル】 →生存/香月と合流
52 宇都格 【特殊警棒】 →死亡/坂口に絞殺される
99 吉川勝成 【ベレッタM8000】 →生存/山村に遭遇、岡本と合流
31 藤井彰人 【ベネリM3】 →死亡/自殺
44 鈴木郁洋 【銃】 →死亡/山本に射殺される
180 :
175-176を一部訂正してみました:04/10/28 12:37:35 ID:ssYy2/lD
3 吉岡雄二 【防弾チョッキ】 →生存/バーンズに襲われたがやり過ごす、森谷と遭遇
4 高須洋介 【爪楊枝】 →死亡/水口に刺殺される
5 中村紀洋 【5億円(現金1億円+4億円の小切手)】 →生存/支給武器を確認
10 水口栄二 【???】 (民家から持ち出したアイスピックを所持) →生存/高須を刺殺
35 三木仁 【催涙スプレー】 死亡/北川に射殺される
38 山下勝己 【コルト・ガバメント】 →生存/吉良を射殺、中村を捜索中
42 ラリー・バーンズ 【コルトSAA】 →死亡/吉岡を襲うが未遂、岩隈に射殺される
46 北川博敏 【トカレフ】 →生存/三木を射殺
53 坂克彦 【デザートイーグル】 →死亡/筧に射殺される
57 筧裕次郎 【ウズィSMG】 →生存/坂を射殺。その直後岩隈に撃たれ負傷
00 森谷昭人 【銃】 →生存/吉岡と遭遇
7 大村直之 【サバイバルナイフ】 →生存/坂口を刺殺
8 磯部公一 【???】 →生存/現状不明
26 下山真二 【???】 →生存/大西と合流。高須の死体を確認
27 坂口智隆 【イングラムM10】 →死亡/大村に刺殺される
28 マリオ・バルデス 【支給されず】 →死亡/ゲームスタート前に射殺
39 吉良俊則 【???】 →死亡/山下に射殺される
50 大西宏明 【???】 →生存/下山と合流。高須の死体を確認
61 川口憲史 【鉈】 →生存/藤井を襲うが未遂、身体に異常をきたし凶暴化
以上、34名登場(内、死亡14名、生存20名)
最初からの参加者40名のうち、33名登場
途中からの参加者10名のうち、1名登場
まだ訂正事項があれば、修正お願いします。
181 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/28 12:48:28 ID:cMTYYcN4
モー村さーん!
保守
保守
185 :
62-64を書いたものです ◆y7WlzI16kQ :04/10/29 21:35:28 ID:W+0zx/6d
(確か、この辺で銃声がしたんやけど)
北川博敏(46)は、岩場に辿りつくと辺りを見回した。銃を撃った奴がまだ近くにいる可能性を考えて、銃を構える。
前方には崖がそびえ立っている。周囲には人が隠れるような障害物は見当たらない。
(・・・もしかして、崖の上で銃撃ったんかな)
崖は20m近くの高さがある急斜面で、崖の上に行くには、かなり迂回しなければならない。
上を見上げても人影は見当たらないので、岩場の付近を念入りに捜索することにした。
もし撃たれて怪我をした人がいれば、助けてやりたい。そんな気持ちからの行動だった。
10分ほどして、北川の緊張感が途切れ始めたその時、前方から人の呻く声がした。
注意深く近づくと、激しく乱れた呼吸と、時折上がる押し殺した喘ぎ声が確かに聞こえた。
近づいてわかったことだが、10mほど先の崖の斜面にぽっかりと窪みが空いている。
どうやら洞穴のようだ。人が身を隠すのには十分な奥行きと広さがある。
「・・・誰か、おるんか?」
搾り出すようにして声をかける北川。喉はもう緊張でカラカラだ。
「・・・その声は、北川・・・か・・・?」
「吉田さんですか?」
かすれた声だったが、その声は確かに吉田豊彦(49)のものだった。かなり苦しそうだ。
「これからそっちに行きます。俺はやる気ないんで、安心してください」
そう言うと、北川は吉田が警戒しないように銃を懐にしまいなおし、洞穴の中を覗いた。
ぐったりと座り込んだ上半身裸の吉田の姿が目に入る。負傷してるらしく、あちこちから血が出ていた。
だが、幸いにも命にかかわるような大きな怪我ではないらしい。
その証拠に、北川の姿を見た吉田は、傷だらけの顔でにっこりと笑った。
「そんなにたいした怪我じゃないんだが、足を挫いたみたいでな・・・ まともに身動きできんかった」
「とりあえず、無事でよかったですよ・・・ 俺、タオルで体拭きましょう。擦り傷でもバイキンが入るといけない」
そう言って、先程の小屋から持ち出したタオルをミネラルウォーターで濡らした。泥だらけの吉田の体を拭く。
「お前、水・・・・ もったいないぞ」
「ええんですよ。エリアの中に湖も川もあったし・・・ 飲みたくなったら、そこまで行けばええんですから」
「・・・・すまんな」
「しかし、どうしてこんな怪我を・・・」
「大村だ。大村に襲われた」
「大村に?」
「そうだ。いきなり後ろから襲われてな・・・ 逃げ回ってたら、崖から落ちた」
吉田は、襲われたときのことを思い出したのか、忌々しそうに顔を歪めた。
「あいつは、やる気だぞ。いきなりマシンガンみたいなのを撃ってきやがったからな」
マシンガン―― それを聞いて、北川はぞっとした。
やる気の奴がそんな殺傷力の高い武器を手に入れたら、まさに鬼に金棒ではないか。
いや、殺傷力の高い武器を手に入れたからこそ、やる気になったのか・・・・ どちらにしても厄介だ。
小屋から持ってきた限られた物資の中で、出来る限りの応急処置を済ませた。
幸いにも、痛んだ足は軽い捻挫だった。激しい運動は無理だが、しばらくすれば歩けるようにはなりそうだ。
「だいぶ楽になったよ。ありがとう」
「そんな、たいしたことじゃないですよ・・・そんじゃ俺、外見張ってきますから」
そう言って、北川が腰を上げようとしたその時、吉田はいつになく真剣な表情で言った。
「いや、お前は行け。行って、みんなを助けるんだ」
「そんな、吉田さんをここに置いたままには・・・」
「いいから行け。餞別にこれをやる」
吉田はバッグからボール大の鉄の塊をいくつか取り出すと、困惑する北川に差し出した。
「手榴弾だ。全部で10個あるから、半分お前にやろう。きっと役に立つ」
まだ踏ん切りがつかないといった様子の北川に、吉田は続けて言った。
「今までで13人も死んだ。このままだと、本当に2人になるまでこの殺し合いは続くぞ。
お前みたいなやつが、このゲームには必要なんだ。俺にしたみたいに、みんなを助けてやれ。
仲間を集めて、金村たちを倒すんだ。金村たちもその辺は十分に警戒しているだろうが、
所詮人間のすることだ。必ずどこかに付け入る隙はある。
そういう時に、一人じゃ無理でも、団結すればできることが絶対にあるはずだ」
一気にまくし立てると、吉田は大きく息を吐いた。
北川は、吉田の剣幕に押されて思わず手榴弾を受け取る。想像していたよりも、ずっと重い。
「それじゃ、吉田さんも一緒に行きましょう。今は無理でもしばらくしたら動けるようにはなりますよ」
「そうしたいのは山々だが、このざまじゃ、きっとお前の足を引っ張ることになる。
・・・・そんな心配そうな顔をするな。ここなら簡単には見つからないだろうし、いざとなったら、これもある」
吉田は、そう言ってバッグの中から残りの手榴弾を取り出すと、にっと笑った。
「吉田さん・・・」
自分を心配させまいとする吉田の思いやりに、北川は涙が出そうになった。
「本当に大丈夫だ。俺だって死ぬつもりはない。動けるようになったら、お前を探しに行くさ。
今日の晩、禁止エリアになっていなければここで落ち合おう。その頃には多少は動けるようになってるだろ」
「――わかりました。夜になったら、必ずここで会いましょう」
「ああ、気をつけてな。頼んだぞ。生きて帰って、みんなでまた野球をしよう」
北川は黙ってうなずくと、吉田に背を向け、入り口に向かって歩き始めた。
保守
(そろそろ、半周ぐらいはいったかな?)
益田大介(0)はゲームがスタートしてから、舞台となっている町の外周をひたすらに歩いていた。
ご丁寧にも高圧電流が流れるフェンスが敷いてあり、逃げられないようになっている。
もし、少しでも隙間があれば逃げ出そうと思っていたのだが、考えが甘かったようだ。
(何とか、みんなで逃げ出す方法を考えないと)
もう、すでに14人も死んでいる。実際に死体を見たわけではないが、時々聞こえてくる銃声などから事態が最悪の方向に向かっているのはなんとなく分かる。
その中で、鷹野史寿(9)の名前が呼ばれなかったのは唯一の救いだった。
益田と鷹野
同じ外野手としてだけではなく、同い年ということもあり左の益田・右の鷹野といったら衆知も知っているほど仲は深い。
早く合流したい気持ちはあったが、今はとりあえず外周を一周することに専念していた。
もしかしたら、隙間があるかもしれない。そんな小さな希望を求めて。
そろそろ疲れを感じはじめていた時、鷹野は小さな小屋を発見した。
おそらく、狩人が狩りの間だけ泊まる場所として建てられたのだろう。見た目は悪いが、休憩には十分使えそうだ。
これ以上無理をして疲労を貯めることを考えると、今は休んだほうが良いと判断し休憩をとることにした。
もちろん、罠がしかけられていないか周囲のチェックは怠らない。
(お邪魔します)
心の中で挨拶を交わして小屋の中に入ると、鷹野は目の前の光景に驚いて唖然としてしまった。
目の前の机には、見たことも無いような多くの札束が積まれている。
益田はまだ気付いていなかったのだ。これが、巧妙にしくまれた罠だという事を・・・
(本物だ・・・1億円ぐらいあるぞ)
興奮気味にお札を握り締め目を輝かせていたその時、頭に鈍い衝撃が走った。
「えっ!?」
一瞬自分になにが起きたか分からないでいたが、続けて2発3発と衝撃が走る。
焼け付くような頭を抱えながら、ようやく自分が襲われていると気付いた時、目の前は暗くなっていった。
「ふふふ、悪いな益田。金があっても武器が無いからこうするしかなかったんや」
中村(5)は血がべったりとついたバットを置くと、益田のバックの中身を確認する。
自分のバッグにお金しか入ってない時は悲壮感しかなかったが、とにかく銃を手に入れなければ始まらない。
中村にとってみれば、この罠は大きな賭けだったのである。
「ほう・・・大当たりやないか。ふふふ」
思った以上の収穫に、ついつい笑みがこぼれてしまった。
中から出てきたのは、ショットガン(レミントンM31RS)。これ以上ない成果だ。
他にも食料と水を自分のバッグに移し変えて、中村は小屋から出て行く。
「良かったな益田。お金が欲しいって言ってたやろ。あの世で使うんやな。」
そう言いながらも、自分も金が欲しいということには変わりないと気付き心の中で笑うのであった。
【背番号0 益田大介 死亡】【残り25人】
>190
益田と鷹野がごっちゃになってる?
鷹野が小屋をのぞいたらノリにやられた益田を見たの?
ぐは・・・名前間違えてました。
>>190 鷹野→益田の間違えです
本当にすみません。忠告ありがとうございました
保守
196 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/31 02:05:44 ID:de98oQZY
保守
川尻哲郎(11)は何度目かもわからない溜息をついた。
広くもないこの部屋に押し込められてかれこれ半日以上が過ぎている。
到底普通の状況ではないが、今に至るまで納得のいく説明はされていなかった。
知らされたことと言えば追って指示する詳細にしたがって殺し合え、
逆らえば自身ばかりか家族に至るまで生命の安全は保障できない。ただそれだけだ。
まともに取り合うのも馬鹿馬鹿しいような話だが、
現実に軍人風のなりをした男どもに銃をつきつけられてしまえば黙るよりなかった。
天井にはあれが本物の銃だと証す穴も開いている。
自称責任者の金村の、やたらに楽しそうな態度は思い出すだけで腹立たしかった。
『心配すんな、殺し合うんはお前らだけやない。お前らの大切なチームメイトな、
みぃんな今もうやり合っとるからなあ』
とんでもないことをさらりと言って、雑用がいろいろあるから手伝え、と
当初いた10人のうち3人ばかりを連れて行った。残ったのが川尻ら7人だ。
盗聴器あるからな、滅多な話はせんほうがええぞ、金村はそんな風に言い置いていった。
言葉の真偽はともかく、お喋りする雰囲気を霧散させるには十分な効果を上げている。
誰も、一言も口を利かない。時折誰かが溜息をつくばかりだ。
川尻は改めて部屋を見渡した。一つしかない窓には鉄格子が嵌っている。
それはもともと球場だからかもしれないが、さらにその外に打ち付けてある板は
後からの工作だろう。おかげで頼りない蛍光灯しか灯りのない部屋は薄暗く、
ただでさえ重い空気がさらに息苦しくなっていた。
「――……」
川尻は姿勢を変え、壁に左肩を預けた。床も壁もそうだが、コンクリートの上に
何かマットレスのようなものが貼ってあって、硬さも冷えも鈍い。
自傷・自殺を防止するために拘束する部屋にこういう造作がしてあるという
シチュエーションをスパイもので見たか読んだかした覚えがあった。
よほど特殊な事態でなければ壁に頭をぶつけて自殺などそう遂げられるものではないが、
それだけ外の状況は特殊――異常だということだろうか。
いずれにせよここに押し込められている限りは、
球場の外どころかこの部屋より外のことは一切知りようがなかった。
あるいは雑用に従事している連中は少しでも外の様子を知る機会があるかもしれない。
(……交代とか、あるかな)
当面、他に情報収集の手立てを思いつかなかった。
もちろん川尻は、主催者たち――金村が首魁のはずもない。後ろにもっとずっと大きな
力が働いているに違いない――の思惑通りに動いてやるつもりなど毛頭なかった。
できれば彼らを破滅に追い込んでやりたいところだ。いや、できればと言うほど
難しいことではない。このゲームの実態を、証拠を揃えて暴露すればそれだけで十分だ。
ただ、妻や子の命もかかっている。あれが空脅しだとは思えない以上、
安全を確保するためには少なくとも外部と通信できる手段は必須だ。
そこまで考えたところで、突然扉が開いた。
金村がさきほどよりさらに嬉しそうな表情をして立っている。
どうせまたろくでもないことを言いに来たのだ。川尻は半ば反射的に金村を睨みつけた。
そうしたのは川尻一人ではない。それらの視線を面白そうに見比べ、金村は言い放った。
「お待ち兼ねのゲーム参加の時間やぞ。と言っても順番やけどな。選ばれなかった奴は
もうちょっとおとなしく待ってることや」
金村は芝居がかった仕草でゆっくりと腕を上げ、高らかに宣告した。
「最初の一人は――阿部真宏、背番号41! お前や。さあ来い」
阿部は無言で立ち上がった。もともと色白の面が、さらに色を失っている。
金村は阿部を部屋の外に追い出し、にやにやしながら残る6名を見渡した。
「そう長くは待たせんから、せいぜい心の準備でもして待ってることやな」
その一言を残して、扉は再び閉ざされた。鍵を掛ける音が響く。
阿部はどうするのだろう。外はどうなっているのか。
何にせよ無策でゲームに放り込まれてしまっては多分もう打てる手はない。
後ろにいるであろう人物を考えれば、それを許すほど杜撰な運営ではないはずだ。
ここを出される前に何か打てる手を考え、実行に移さなくてはならない。
川尻は再び黙考に戻った。
【背番号41 阿部真宏 参加】【残り26人】
このスレ面白いね
保守
期待保守
ほっしゅ
204 :
代打名無し@実況は実況板で:04/11/01 01:20:47 ID:Qyv820mx
保守
保守
保守
ほっしゅ
保守
209 :
代打名無し@実況は実況板で:04/11/02 22:33:37 ID:Aj565fkd
保守
保守
ほしゅ
212 :
代打名無し@実況は実況板で:04/11/03 21:42:45 ID:IxDMQpmy
支援
こんなスレ立ちました。
各球団の「バトルロワイアル」スレを見守るスレ
ttp://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1099509309/ 1 代打名無し@実況は実況板で sage 04/11/04 04:15:09 ID:3DOQ/pE+
神職人の名作、凡職人の凡作、名無しがなんか自治議論してる、批評はどこまでアリか、その他。
現行のバトロワスレの情報を集めつつ
内容や運営に関する感想や批判や情報交換や議論まで。
本スレの進行の妨げになりそうな話はここで。
でも陰口はほどほどに。基本的には神職人さんへ感謝の精神を忘れない。
的山哲也(2)は目の前に居る同じ捕手であり、同じ名前でもある横山徹也(67)の方をじっと見つめていた。
恐らくあいつもこちらの姿を確認しているはずだ。そしてこの場所から立ち去らないのはきっとこちらを狙っているに違いない。
的山の眼鏡がギラ、と光る。一秒でも瞬きをしたくない、目が乾きそうな感じもした。
大木を挟んで二人はとても近い位置にいる。横山は大木に背を凭れていたので完璧にバックを取られた形になってしまっている。
その分的山の方が有利だったかも知れない。
どちらも休憩しようとこの木の下を選んだのだろうが目立ちすぎるものを選んだのが悪かった。
それくらいこの木は、大きかった。
じっと御互い息を潜めている、動いた方が 負けだ。
生憎的山の武器は銃のような飛び道具ではなかったが、至近距離ならそれなりに致命傷を与えやすい…だろうとされる日本刀だった。
銘柄は書いてなかったのでよく判らないが…まあ、とにかく最初にどでかい袋を渡されたときは驚いた。
しかし、持ち運びが不便なこと以外は相手を怯ませることが出来ることや、リーチが案外長いこと…思ったよりメリットの方が多い。
横山だってこのどぎつい武器は目に入っているだろう。
この距離なら銃を持っていると前提しても構えた瞬間に攻撃すればこちらの方が先に動けるだろう。
瞬発力に自信がある。一応何十年も捕手を続けているのだから。
年は取ったがまだまだ高卒で入団して数年目のひよっ子の若手にゃ負けへんと、変なところで闘争心が芽生えた。
「なぁ、三秒や」
的山が口を開いた。
「三秒の間にここから離れろ。そうしたら攻撃せえへん。お前やって人殺しなんてしたないやろ、俺だってしたくない」
横山は唇を噛んだまま黙っている。動いた瞬間グサり、とでもされることを恐れているのだろうか。
「いち」
的山はカウントし始めた。横山はじっと動かないままだ。
頼むから逃げてくれ。さもないと俺は本当にお前を殺してしまう。
そんなのは、嫌だ。だから頼むから―
「にぃ」
口は勝手に動くように数字を刻む。自分から切り出したことだ、仕方無い。生きるためだと的山は案外簡単に腹を括った。
そして、背を向けたままの横山はぎゅっと目を閉じた。
「さん」
バァン!!
最後のカウントがされると共に銃声が鳴り響く。横山が――撃っていない。
(そりゃそうだ。彼の武器はペンチだった。攻撃らしい攻撃なんて出来るはずのものでは最初からないのだ)
背を向けていた状態を元に戻して木の影からゆっくり覗きこむと、ありえないような光景が目にまい込んで来た。
ただ、目の前で起こったことを目を閉じずに見ることしか出来ない。声を上げることさえも出来ない。ひゅう、と喉が鳴るだけだ。
簡潔に言うならば、弾丸が的山の左肩を貫通していた。足元にはそれらしき塊が真っ赤なものを纏って落ちている。
声にさえならない悲鳴をあげ、見たこともないような量の血が溢れだしてユニフォームを濡らしていた。
がくん、と的山は膝をついたがまだ生きている。それだけではまだ、致命傷にはなっていないみたいだ。
発砲されたであろう方向に首を向ける。それだけで肩はズキズキと痛むだろうし左腕も、もう上げることなどできないだろう。
だらんとぶら下っただけにしか見えない。
いや、それよりこれは誰がやったんだ。俺じゃない。
じゃあ誰なんだ。誰が近くにいるんだ!
怯えながらもきょろきょろと辺りを見まわすとケビン・バーン(23)が案外近いところに立っていた。
銃口からはまだ煙がたったままだ。
それでもバーンは気にせず再び銃を構えた。それは的山に向けられる。とどめをさそうと言うのか。
「やめろ、ケビン!」
的山が精一杯の力を振り絞って声を出す。
語尾は掠れていたし、咄嗟に日本語で言ってしまったが、言いたいことは判っているに違いない。
『哲也のことは信頼もしている。ナイスガイだ。
しかし俺は生きなければならないんだ。それを判ってくれ』
『それだったら俺だって生きたい。判るだろ?頼むから、殺さないでくれ!』
英語で繰り広げられる会話を残念ながら横山は理解出来なかった。
いや、こうして突っ立っているわけにはいかない。横山はさっ、と大木の影に身を潜めた。
次に狙われるのは明らかに俺だ。
『 good-bye. tetsuya 』
-さようなら、テツヤ-
英語力のない横山にも簡単に判る。
テツヤと呼ばれた相手は違っていたが、彼はまるで自分に言われたようにしか感じられなかった。
一瞬目の前が真っ白になった。
バン、という耳が潰れそうな大きな音と共に的山は一瞬宙に浮いて、地面に突っ伏した。
その時はまだ意識はあったようだ。何かを言いたそうに口をぱくぱくさせていたが声も出なく、数回咳き込んで
(口からも血が溢れ出て、びっくりした)しばらくして、ぱたりと動かなくなった。
「ヒッ…!」
動かなくなった的山から視線をバーンに向ける。
目が合う。姿を隠していても、こちらを見ているのだから 致し方ない。
殺される。横山はガクガクと震えた。
いや、だからこんなところでぼーっと場合ではない。逃げなければ。
思い出したかのようにパッと頭から出てくる。
先程は動かなかった足がぴくりと反応した。
今なら逃げられる。
暫くは動けないだろうと踏んだのか、横山など相手にすらしていないのか判らなかったが、
バーンは的山の武器だった日本刀の方に視線をやっている。死体は見てなかった。
今の隙に… 今しかない。 今じゃないと殺される。 グルグルと頭に回る。
そして横山は綺麗にスタートした。普段盗塁を試みるときなんかよりもよっぽどいいスタートだ。
その音で漸くバーンは気付いたがもう遅いと諦めたのか追いかけてくることは無かった。
走った。
これ以上全速力で走れと言われても無理なくらい、横山にとっては苦しかった。
後ろは振り向かなかったのでバーンは追いかけていない、と言うことに気付いていなかったのでまだ全力疾走を続けたままだ。
(いや、追いかけていないことが判っていたとしても彼は走りつづけたに違いない)
走っても走っても、消えない。
”-さようなら、テツヤ-”
その声が。
俺の名じゃないことは判っている。だけど。
俺は殺される。逃げても逃げても殺される。
「こんなクソッタレゲームなんてもう嫌だ!」
自殺する勇気もなく、横山は悲鳴に近いような声をあげながら山奥の方へと走っていった。
禁止エリアになっている方へ自然とという事を、彼は、恐らく、知らない。
【背番号2 的山哲也 死亡】【残り25人】
すいません、脱字ありまくりです('A`)
>>171 × 二十番代らしき背番号とすらりと伸びた長い足くらいしか確認できなかったが恐らく彼で間違いだろう。
○ 二十番代らしき背番号とすらりと伸びた長い足くらいしか確認できなかったが恐らく彼で間違いないだろう。
>>216 × 禁止エリアになっている方へ自然とという事を、彼は、恐らく、知らない。
○ 禁止エリアになっている方へ自然と向かっているという事を、彼は、恐らく、知らない。
まだまだ有りそうなので見つけたらバシバシつっこんでやってください_| ̄|○
180以降
吉田・益田・的山・横山・バーンが登場 最初からの参加者40名中38人登場
川尻・阿部真(参加)が登場 途中からの参加者10名中3名が登場
ほしゅ
保守
hoshu
保守
森を抜けると、そこは湖だった。
「やった、やっと出れた。」
思わず声に出てしまう。筧は川原の途中から道なき道を歩き回り、遂に目的の川原へとたどり着いた。
土を踏むたびに左足が痛い。赤色は靴下の先までに達している。まるで白い靴下を片方だけ履き間違えたようだ。
あぁくそ、そういえばメジャーはどうなったんだろう。日本シリーズはどうなったんだろう。
考えるたびに怒りがこみ上げてくる。自分もあぁ言う舞台に立つんだ、そこまでは死ねないんだ。
湖の向かい側の家へと、左足に負担をかけないようゆっくりと歩いていく。
『正直、お前らがゲームに乗ってくれるか心配やったけど、
思てるよりもずっとノリノリでやってくれとるんで、ホッとしたで。これからもその調子で頼むわー』
頭の中に金村の不快感極まりない声が反芻している。
本当に良かったのか、本当に坂を殺してよかったのか?
今更ながら思う。
自分はあまりにも強い武器を持ってしまったがゆえに、狂ってしまっていたんじゃないのだろうか。
それに比べ今の俺はどうだ、武器も無い、食料も水も無い、左足は怪我をして満足に逃げられない。
全てを失って初めて分かる、己の弱さ。
しかし今それを悔いたとしても坂は生き返らないのは筧が一番分かっている。
後ろを見ることは許されない。前を向かなければ、そして進まないといけないのだ。
朽ちたボートを横目に進む。
と、筧はあることに気が付いた。
家の隣に妙に膨らんだ塚・……がある。塚の中にうっすらと見える棒は……
「バット……か?」
そうだ、僅かに見えてるあれはバットのグリップじゃないか。
そして盛り上がっている土は茶色く湿っていてほんの少し前に作られているのがはっきりと分かる。
消えていった13人の名前が反芻される。
そして、あれほど思い出したくなかった坂の幻影が鎖のように筧の心を縛ってゆく。
血を流しながら、筧へと語りかけてくる。
『筧さん、一軍昇格おめでとうございます!』
(なんだよ、お前、煩いよ)
『あの時甲子園で負けたのは、今でも覚えてますよ。でも紅白戦じゃ絶対負けませんから』
(あっちいけよ、お前はもう死んだだろ、俺に話しかけるなよ)
「筧、そこで何をしてるんだ」
「うるさいって……!!」
振り向いて、唖然とした。
目の前には、手榴弾を二つ抱えた大先輩の吉田豊彦(49)が居たのだから。
225 :
代打名無し@実況は実況板で:04/11/07 18:07:54 ID:JdQpjy+F
age
保守
保守
保守
保守
保守
捕手
ほっしゅ
保守
捕手
捕手
236 :
代打名無し@実況は実況板で:04/11/16 17:13:30 ID:z55RQ8gm
浮上
238 :
代打名無し@実況は実況板で:04/11/17 17:51:08 ID:z/M9LoXv
あげ
保守
捕手
保守
242 :
代打名無し@実況は実況板で:04/11/20 22:17:42 ID:H7bmyVZp
浮上
ほっしゅほっしゅ
244 :
代打名無し@実況は実況板で:04/11/22 14:38:23 ID:GiODJ8p6
捕手
ほしゅ
246 :
代打名無し@実況は実況板で:04/11/25 14:51:31 ID:QqGM1C7h
晒しage
保守しかないじゃん
>>246なんて晒しageだしw
無常だな
249 :
代打名無し@実況は実況板で:04/11/27 15:26:23 ID:h5To+Jom
岩隈はまだゴネてるのか
250 :
代打名無し@実況は実況板で:04/11/29 12:33:20 ID:k4gmty1a
age
Never end...
252 :
代打名無し@実況は実況板で:04/12/01 11:14:01 ID:q3BSE8OI
職人さん来ないのかなァ・・・保守
保守
保守
hosyu
まだあきらめずに保守
ではほしゅ
今日も今日とてほしゅ
259 :
代打名無し@実況は実況板で:04/12/07 01:35:37 ID:6/JzCP0j
復活?
260 :
代打名無し@実況は実況板で:04/12/07 15:11:12 ID:Pm6082He
再開祈願ほしゅ
保守
ほっしゅ
保守
保守
保守
続きが見たいぞ保守
見届けたいぞ保守
職人さん待ってますよ保守
保守
271 :
代打名無し@実況は実況板で:04/12/14 11:22:32 ID:gqiuRLck
くたばるなよ
まだまだ
ほしゅ
続ききぼんぬ
277 :
ラミレスジュニア:04/12/20 07:24:24 ID:+kbCmf8s
hosyu
職人さんを待ちながら保守
279 :
代打名無し@実況は実況板で:04/12/21 23:27:36 ID:GaIMKP7N
10.19の 相手の先発小川逮捕
諦めは猛牛には似合わない