冒頭、ロッテ本社の重役室に向かう一人の漢(おとこ)、名は“初芝 清”!
太い胴体、陽も差していないのに輝く眼鏡。
「千葉ロッテマリーンズファンタジスタ、初芝清入りますっ!!」
扉を開けた彼が叩き付けられたオーナー代行の第一声は、
「合併だっ!!」
万年弱小チームにオーナー代行がキレた。ダイエーホークスと千葉ロッテマリーンズを合併するという。
「し、食費を削るほうにして下さいっ!」
「馬鹿者っ!」(バキィ)オーナー代行の左ストレートに5m吹っ飛ぶ初芝。
「帰れ!普段の努力がないから結果にも出る。遊び呆けているだけの集まりに金(広告費)を出すつもりはない!!」
“これだ!これが逆境だ!!”
初芝は突然笑い出す。
「ウワーッハッハッハッー、ハーッハッ!オーナー代行!!この部屋、オリオンズ時代のトロフィーや盾がいっぱいありますが、千葉ロッテマリーンズとしての優勝旗がありませんねえ…」
「むおっ!」
「校長!ここのスミにでっかい優勝旗を置きたいとは思いませんかっ!!」
「う…うむっ!!口先だけでは納得せんぞ」
「承知!10日間あれば証拠を見せてごらんにいれましょう…読売ジャイアンツ!」
読売ジャイアンツとは一軍平均年俸12500万!セリーグで優勝回数30回を誇る名門!
「そのジャイアンツがどうしたあ!」
「10日以内に練習試合を申し込んで叩きのめします!!」
「本気かっ!」
「それが出来なかった時は…それが出来なかった時は…いや、必ず出来るっ!失礼します!!」(バタム!扉から立ち去る)
「………!」
「むっ、無理だあっ!!」
ロッカールームで選手たちが泣き叫ぶ!
「初芝さんはどういう根拠があってそんな条件を!」
「みんなに反撃のチャンスをやる。絶対に出来ないと思う者は、そう思う理由をここで大声で俺にぶちまけてこい。この俺にも“絶対に出来ない”と思わせることが出来たらお前たちの勝ちだ!!」
「よ、ようし…!」
台風のような浜風の中、選手たちは吠えまくる!やがて雲間から陽が。
「ハァハァ、どうしたもう終わりか」
「清さん…」(ショート)
「なんだ」
「ハァハァ、あなたは本当に…勝てると思ってるのですか?読売ジャイアンツに…」
「う…っ!!勝てるか勝てないかの問題じゃない…絶対に無理でも勝たなければならないんだ!!!」
「フフ…フハハ…ハッハッハッ、ウワッハハハ!」
言うこと言ったらすっきりしたぜ、と選手たち皆が笑い出した。
「オラ!行くぞおおーっ!!」
「ウオーッス!!」(ちなみにこの“ウオーッス”の文字だけで14cm)
この日からいつもの3倍の特訓が始まった!
ところが、試合3日前の段階でバタバタと5人の選手が脱落!
ファースト→ハゲが進行、試合当日はアデランスに相談
セカンド→ヒジのネズミが悪化してダウン
レフト→猿顔を見て襲ってきた犬に咬まれて負傷
センター→当日はハワイアンダンス教室に参加
ライト→イチローの偽者と思われて警察から取り調べ
「戦えるのが俺を入れてたったの4人…ふふふ…」
清は静かに笑い涙する。そして千葉の海を見渡す---
「海か…この海の向こうでは今日も安打メジャー記録をかけて壮大な試合が行われているんだろうなぁ…それに比べりゃ、たかがNPB!まだまだ…まだまだ…!どうにでもなるさ…!なあ、海よ!!」
翌日、滝のような雨の中、4人はガッツで特訓に挑む!
「俺たちはこの千葉ロッテマリーンズを守る!!」
しかし!その結果ピッチャーが風邪をひきダウン!さらに部室には“もうついて行けません”のキャッチャーの置手紙!
「読売ジャイアンツだって神様じゃない、俺たちと同じ人間だ!俺にはまだこの右腕(ゴッドハンド)が残っている!まだ勝つ可能性はある!」
そこへ銚子漁業新聞の取材ッ!
「(選手が減るのは)無茶な練習のし過ぎではないでしょうか!?」
「無茶は承知の上!!」
「そこまでさせる権利がファンタジスタにあるのですかっ!」
「俺が無茶をさせているのではない…しいていえば3つの条件…男の3つの条件が俺たちに無茶をさせているのさ!!」
「その条件とは…!?」
「ひとつ!!男はイザという時にはやらなければならない!!ふたつ!!今がイザという時である!!そしてみっつ!!俺は、俺たちは男なんだッ!!」
試合前夜、ショートは初芝の家にカラオケを歌いに来ている。翌日の作戦を練る2人。不敵に微笑する初芝!
「最後まで俺たち三遊間が無事だったのは不幸中の幸いだな。2人だけで勝つためには、全てのバッターをショートゴロにとるか、サードファールフライで処理するんだ。それしかない…!打順も2人を並べるんだ…その二連打に全てを賭けて点をとりまくる!!」
「清さん…投げるピッチャーがいないんですけど…」
「ああ…だが、俺も昔はピッチャー!!お前も投げることは出来る!!」
“頼んだぞ、俺の右腕よ…!もうお前しか頼れるものはないんだ!”
深夜1時。ショートが自宅に帰ろうと乗り込んだスカイラインGT−Rが初芝の黄金の右腕を跳ね飛ばした。
「(ベキッ)ぐわあああっ!!」
当日、豪雨の中、脱臼した右腕を包帯でつった初芝は、ショートと共に東京ドームに向かう。2人を幕張本郷駅で見送るマリーンズナイン。
「フ、ファンタジスタ!」「ファンタジスタッ!」「初芝!」
初芝の目はまだ死んでいない。
「きょうの試合…勝つ!!」