1 :
代打名無し@実況は実況板で:
2 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/07 13:40 ID:mGFjl52l
谷 繁エボリューションU
お、立ってる!
とりあえず、前スレの序章部分を。
----------------------------------------------
ポツ、ポツ・・・と水滴の落ちる音がした。
ボンヤリとした頭を上げると、不思議な違和感を感じた。目覚めたときに自分がどこに居るのか分からない、という感じ。
遠征先のホテルで目覚めたときに感じる、あれ。
「・・・?」
大抵は体を起こすころには、自分の居場所が分かっているはず。しかし、今回はちっとも分からない。
そもそも記憶がない。あれ?今日試合あるんじゃなかったっけ?ミーティングは?
急に意識がはっきりしてきた。そうだ、俺たちはミーティングをしていて、急に眠くなって・・・急に眠くなって?
おかしい。何で眠くなったんだっけ?
「井端さん!」
どうした、荒木?何をそんなに焦ってる?
・・・一気に覚醒した。
ガバッと体を起こす。本当にどこなんだ、ここは?
今までフローリングの床に横たわっていたようだ。体が痛い。頭も痛い・・・というより重い。
学生時代を思い出すような、この景色・・・
「・・・何だ?ここ、学校か?」
「多分。でも、ここから出られないし、物音もしないし・・・皆起こしても起きないんです」
「・・・」
そう言われて周りを見渡すと、チームメイトが倒れている。まるで死体のようで少しゾッとした。
そして確かにここは学校らしい。前に教卓と黒板。机やイスが無いところを見ると、廃校になったか、意図的に片付けられたか。
ドアへと歩いていって、引いてみる。開かない。
そうこうしているうちに、やっと他の選手も起きだしてきた。
「どこだよ、ここ」「試合どうしたんだよ」「つうか、何だこれ」
誰かがそう言って首元に手をやったのが見えた。思わず自分も手をやる。冷たい・・・冷たい?
慌てて隣の荒木を見る。荒木は自分で自分の首を見ようとしていて、ちょっと滑稽だった。
「首輪・・・?」
ペットに付けたりするような代物じゃない、金属製の。周りを見渡しても、全員がそれを付けている。
っていうことは俺にも付いているんだろうな、きっと。
室内は一気に騒然となった。
俺はぼうっと学生時代のことを思い出していた。ああ、こんなとき、よく先生が注意したっけ。俺もよく怒られたなあ。
ガラッ
「お前らは静かにできんのか!」
ほら、こんな風に・・・・・・え?
今まで開かなかったドアが開き、軍服のようなものをきた男が立っていた。
男は教壇まで歩いてくると、担いでいたテレビのような物を下ろした。
続いて入ってきた男たちが何やらケーブルを繋いだりしている。何だ、何が始まるんだ?男がコホン、と咳払いをした。
「静粛に。渡辺オーナーからメッセージがあります」
画面にスーツを着て椅子に腰掛け踏ん反り返っている、渡辺オーナーが現れた。
「えー諸君らに集まってもらったのは、他でもない。またあの古田君が我々オーナーに反旗を翻そうとしている」
あんたはそれ相応のことをしてきたんじゃないのか。皆そう言いたげな顔をしていたが、ここは次の言葉を待った。
「それも、今回は我々オーナーを殺す、ときたもんだ。たかが選手が」
何だって?あの古田さんがそんなことを言うもんだろうか?このオーナーならまだしも。たかが選手?ふざけるな。
「選手会の暴挙をこのままにして良いものか?・・・否。そこで諸君らに集まってもらった」
「諸君らには、選手会の愚かな選手どもと、殺し合いをしてもらう」
・・・雨の音が一層強くなったように感じた。
「君らドラゴンズは、今季首位で良い思いをしただろう。そこで白羽の矢が立った。武器のことは心配するな。もう手配済みだ」
何?こいつは何を言っている?
「以上のことはオーナー会議で決まったことだ。諸君らがどう足掻いても決定事項は覆らん」
全てのオーナーが承諾したのか?何故?
「おっと、言い忘れるところだった。その首輪は我々を裏切ったり、外そうとしたり、このエリアから出ようとすると爆発する」
先程のヒヤリとした感覚が蘇る。何人か首輪を外そうと首に手をやっていた人が、一斉に手を引っ込めた。
「後のことは、そこに居る奴から聞け。我々を守る為にせいぜい健闘してくれよ」
ガンと頭を殴られたような衝撃。嘘だ、嘘だと言ってくれ・・・俺たちは殺すのか?生き残る為に。
「ふざけるな!」
皆が一斉に振り向く。立浪さんだ。そうですよね、こんなくだらないことに乗っちゃいけない。
「何で俺たちがあんな奴らの為に選手同士で殺しあわな、」
立浪さんの言葉は途中で切れた。軍服男がバカでかい銃を向けたから。
「何や・・・今度は脅しか?」
「・・・抵抗はしない方がいい」
「は、脅して無理矢理殺し合いさせようとしといて、よう言うわ」
軍服男は他の軍服を着た男、部下だろうか・・・ともかく奴らに合図をした。
奴らは一斉に部屋の外から黒いゴミ袋のようなものを持ってきた。まだ何かあるのか・・・
「開けろ」
ゴロッ、と何かが転がった。その他にも何か棒みたいな・・・よく見えずに目を凝らして・・・後悔した。
「オー、ナー・・・?」
教卓の近くに座っていた奴らからは悲鳴が上がる。当たり前だ、死体だぞ?・・・頭がガンガン痛んで、吐き気がする。
「白井文吾はオーナー会議の決定に逆らって、選手会を焚きつけた。これがその末路だ」
軍服が淡々と言う。
もう誰にも、「ふざけるな」と罵る勇気も気力も無かった。
7 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/07 13:54 ID:If9L9Cvm
「軽く、ルールを説明する」
「まず、ここは島だ。今は貸し切られて誰も居ない」
「ここを出て数分後、選手会が到着する」
「選手会の連中を全員殺すまで、この試合は終わらない。もちろん、覇気の無い奴、裏切り者は首輪が爆発する」
「武器の方はこちらで用意させてもらった。ここを出るときに全員に配布する」
「尚、地図・コンパス等は武器と一緒に配布するので、各自確認するように」
もう、誰も反論しようとしなかった。出来なかった。本物の死体を目の当たりにした。
黒いゴミ袋からは、血が滴り落ちた。赤いというより、どす黒い、血。乾いて固まりかけた血を纏った、肉塊。
あの顔のところに付いていた、何か分からないものは脳漿かもしれない・・・
・・・思い出しても吐き気がする。教卓の方は絶対見ないようにしても、あの映像がフラッシュバックする。
「ちょっと待ってください」
「何だ」
「・・・俺たちが全員死んだら、どうするんですか」
「・・・知るか」
・・・降り続いていた雨は、いつの間にか止んでいた。
そして今、この瞬間から始まった。俺たちの殺し合いが。
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以上が、前スレ
>>75氏が投下された序章です。
8 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/07 13:58 ID:If9L9Cvm
選手会の序章の部分を追加で貼っておくよ。
古田は、憔悴していた。
「憔悴していた」と言ってしまえばそれまでなのだが、想像を絶する憔悴状態。
試合は移動日を除いてほぼ毎日。そして古田にとっては嬉しいことなのだが、スワローズは辛うじて優勝争いに残っていた。
さらに、このプロ野球界の危機。プロ野球選手会長としての、責任が、義務が、古田にはあった。
体、精神ともに悲鳴を上げていた。
「あかんなぁー・・・」
遠征先のホテルでベッドに倒れこむと、口が勝手に呟いた。
「もう歳やな」なんて笑えるうちはいいのかもしれない。そう笑えなくなったときは・・・
駄目だ。思考を中断した。
・・・そのとき、電話が鳴った。
フロントからの電話。
「・・・はい?」
『古田様ですか?』
「はい、何でしょう?」
『それが・・・あの、ロビーに面会希望の方が』
「・・・ファンの方ですか?」
確かにファンは有難いものだ。署名活動をしていてひしひしと感じた。
最近のプロ野球界はファンを蔑ろにしすぎている。
・・・しかし、今時分にホテルに押し掛けて来られるのもなぁ・・・
『いえ、それが中日の・・・』
「中日?」
受話器の向こうでは「何ですか?・・・え?」などと問答が繰り返されているようだ。
中日?一体何が起こっている?
・・・もう、厄介事は御免だ・・・
『失礼しました。あの、中日のオーナーの白井様という方が』
「白井さん・・・?」
『・・・お断りしましょうか?』
「いえ・・・どこにいらっしゃってるんでしょう?ロビーですか?」
『え?はい』
「では、今から行くとお伝えください」
不思議だった。
イタズラかもしれない、という考えは頭にあった。それでも何か・・・胸騒ぎがした。
会ってみる価値があるような気がしたのだ。イタズラだったら適当にあしらって、さっさと引き上げればいい。
そう考えて古田はロビーへと向かった。
誰も居なくなったロビーに、ポツンとスーツ姿の男性が座っていた。・・・確かに、中日オーナー白井文吾、その人だった。
「白井さん、」
声を掛けると驚いたように肩が揺れた。
「どうしたんですか、今時分」
「古田君」
何だか雰囲気が違うな、と直感で感じた。急に痩せたというか・・・やつれている?
「助けてくれ、このままでは・・・」
いきなり頭を下げられて、単純に驚いた。
「顔を上げてください。何があったんですか?さっぱり分かりません」
「渡辺オーナーと堤オーナーが・・・」
白井の告げた内容は驚くべきものだった。
「近鉄とオリックスの合併については、君も知っているだろう」
「はい。といってもニュースで見聞きしているだけですが」
さり気無く選手たちを無視した合併を非難した。
「その上、もう2球団合併で10球団1リーグを目指すとか」
「それなんだ。それがなかなか進まないもんで、渡辺オーナーや堤オーナーが苛立ち始めた」
ざまあみろ。正直そう思った。そんな合併は進まない方がいいんだ・・・
「あの人たちは・・・それでも10球団1リーグを強行する」
「え?」
「近鉄とオリックスの・・・消滅だ」
「そんな・・・許されるわけないじゃないですか!」
「しかし、あの人たちは決めてしまった。もう止められない・・・」
「このままでは近鉄とオリックスの選手が、死んでしまう」
おいおい、いくら何でも「死ぬ」っていうのは大袈裟すぎないか?喩えだとしても・・・
「白井さん、死ぬっていうのは大袈裟でしょう」
「本当なんだ!彼らは死ぬ!・・・いや殺されるんだ、渡辺オーナーに!」
「あの人たちは選手達に殺し合いをさせるつもりなんだ!」
「・・・どういうことですか?」
「近鉄とオリックスの選手は・・・互いに殺し合い、生き残った選手は巨人へと移籍する」
「本当なんですか」
「まだ計画段階だが・・・間違いない、あの人は実行する」
冗談にしては出来過ぎている。そして何より1球団のオーナーが自分に頭を下げているのだ。
「・・・分かりました」
「じゃあ・・・!」
「しかし、貴方達のやり方には納得しません。ただ・・・今はそんな事を言っている場合ではないということです」
「ありがとう、私も人殺しにはなりたくない・・・」
また一つ憔悴の原因が増えた。古田は溜息をついた。
「・・・ということなんや」
古田は各球団の選手会長を集め、白井の語ったことを話した。
近鉄選手会長の磯部とオリックス選手会長の三輪は青ざめていた。
「それで・・・どうするんですか?」
阪神選手会長の今岡が発言する。こいつ、本当に聞いてたんか?
「俺としては、徹底抗戦するべきやと思う」
「そうだ!オーナーに好き勝手やらせてたまるか!」
「徹底抗戦だ!」
「オーナーを殺せ!!」
物騒やけど、これも仕方ない・・・
球団を守る為やったら何でもしたる。球団が無くなるということは、ファンにとってもプロ野球界にとってもマイナスに他ならない。
ふと古田は空席に目を遣った。
何故か、中日選手会長の井端だけは欠席していた。
選手会のスタッフの話によると連絡が取れないらしい。
また胸騒ぎがした。中日オーナー・白井に呼び出されたときのような。
いい加減虫日はクソスレやめろ
たまちゃん
17 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/07 21:30 ID:uisNpot4
新スレおめ。
結局参加メンバーは「選手会役員+中日選手」で決定?
前スレで提案あった、「選手会側は自由に助っ人を呼べる」ってのは書き手さん次第で面白いと思ったんだが。
とりあえず前スレにも貼られてた役員名簿貼っとく。
・選手会の名簿(役員 18名)
会 長 ヤクルト 古田 敦也
副会長 巨人 清原 和博
副会長 広島 緒方 孝市
副会長 中日 立浪 和義
副会長 横浜 石井 琢朗
副会長 西武 高木 大成
副会長 阪神 桧山 進次郎
副会長 巨人 小久保 裕紀
副会長 ロッテ 黒木 知宏
副会長 日本ハム 岩本 勉
副会長 巨人 高橋 由伸
運営委員 阪神 片岡 篤史
運営委員 近鉄 水口 栄二
運営委員 横浜 佐伯 貴弘
運営委員 横浜 デニー友利
運営委員 オリックス 三輪 隆
会計監査 阪神 今岡 誠
会計監査 ダイエー 松中 信彦
お、立ったね。乙です。
状況が変わって中日の主張がはっきりした分
話が動かしやすいかもね。
ざわめく部屋の中で、すうっと頭の中が冷えていくような気がした。冷静になったというか。
冷静になって考えてみると、当分命の危険性はないらしい。というのにも訳がある。さっきあの軍服は俺を撃たなかった。
俺たちはオーナーどもを守る為に拉致されたらしい。とすれば壁は一人でも多い方が命を守れる、ということか。
だとすれば。
考えたくはないが、当面の敵は選手会ということになるだろう。
選手会はオーナーたちが俺たちを拉致したことを知っているのか?それを知って殺し合いをしようというのか?
ふと選手会役員たちの顔ぶれを思い出してみる。・・・俺もその一員だった。
「・・・番号3・・・なみ・・・つなみ!おい、出ろ!!」
ハッとして顔を上げると、軍服が目の前にいた。
「どうした?怖気づいたか?さっきの威勢の良さはどこにいったんだ」
うるさい。お前らに何が分かるんだ?思い出してしまったんだ、俺は。
これから「殺し合え」と言われている選手会の役員の中に、親友がいることを。
差し出されたナップザックを引っ手繰るようににして立ち上がる。
さっきあの軍服は「数分後に選手会が到着する」と言った。それまでに選手全員を説得する?無理だ。
今まで出て行った奴らは?0番、1番、2番・・・あれ、福留は出て行ったか?どうも記憶が曖昧で思い出せそうにない。
どっちにしろ足の速い奴らだ。今から追い掛けてもつかまらないだろう。
部屋を出て廊下を抜けると、外が見えた。さっきまでの雨で玄関の辺りが濡れている。
タイルの床で滑らないように気を付けて外に出た。さて、これから俺はどうするべきなんだろう。選手会の出方を見るのも悪くないかな。
目前に木が茂っていた。どうやら森になっているようだ。身を隠すには丁度良い。
背番号3が森に分け入っていくのを、隠しカメラのレンズだけが見ていた。
森に入って少し歩き、ナップザックの中身を確認しようと立ち止まった。
地図、コンパス、食料のパン、500mlのペットボトルの水が二本・・・それと・・・
「武器・・・銃か」
ハイスタンダード22口径2連発デリンジャーだった。小型の銃器。主に護身用の銃で、撃ち合いに向くような銃ではない。
自分たちの命を守ってもらうつもりなのに、これはちょっと不親切すぎないか?オーナーさんよ。
「・・・?」
ハッと耳を澄ませた。何か聞こえたような・・・
「!!」
まただ。銃声か?少なくとも近くではない。まさか選手会の連中と撃ち合っているのか?だとしたら少し早すぎないか?
気が付くと駆け出していた。俺が出発してからまだそれほど時間は経っていない。ということは俺の前に出た3人が危ない。
そこまで分かっていて放っておくわけにはいかない。
出来るだけ音を立てないように、銃声らしき音が聞こえた方へ移動する。
近付くにつれて嫌な予感が胸を過ぎる。また死人が増えるんだろうか。親友は無事なんだろうか?
「・・・おい!こいつ・・・」
声が聞こえた。慌てて木陰に身を隠す。人影が見えた。1、2、3・・・3人か。
「誰や、こいつ撃ったの!?」
背中を冷たいものが走った。誰かが撃たれた・・・?
「やって古田さん、こいつ敵でしょ?」
聞きなれた声にゾッとした。心臓の音がやけにうるさい。まさか・・・まさか・・・
「でもな、不用意に撃つモンやないで、片岡」
サッと顔から血の気が引くのが分かった。
21 :
前スレ75:04/09/08 00:40 ID:t8gKZYHm
書いてみたんだが、どういうメンバーで書けばいいのか分からん・・・
前スレに中日の方の参加選手もあったが、あれで書いていいのか?
あとタイトルは一区切りごとに入れた方がいいのだろうか・・・
こういうのは初めてなんで色々と教えてほしいんだがorz
>>21 「中日選手+選手会役員」くらいではじめて、
後は話の流れで収集つかなくならん程度に増やしてもいいんじゃないかな。
前回の時も途中で星野とか新外人とか増えていたし。
章のタイトルは、後で整理とかやりやすいから
あった方がいいかと思うが…
23 :
前スレ75:04/09/08 01:03 ID:t8gKZYHm
>>22 サンクス。なるほど。まあ後は他の書き手さん次第でもあると思うけど了解しますた。
タイトル、今回のは全く考えてなかった・・・次からは付けさせてもらいますorz
>>21 タイトルは、保管サイトとか第5章の118からを見てもらえれば、なんとなく分かるかな?
とにかく復活.゚+.オメデd。.゚+.
今の時期スレ乱立しやすいから、こまめに保守おながいします
まぁ、もう諦めムードで来年の契約のために個人成績にこだわりはじめたチームと
優勝という、あくまでチームとしての目標を目指してるチームじゃ、勝ちへの
こだわりかたが全然違うからな。←プ
保守
27 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/09 01:11 ID:T2MMIijo
虫日 虫日 虫日 虫日 虫日 虫日 虫日 虫日 虫日 虫日 虫日 虫日 虫日( ´,_ゝ`)プッ
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28 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/09 01:14 ID:NF95JWQe
このスレに名古屋人はいますか?
こまめにほっしゅ
30 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/09 06:26 ID:dQk+Yced
あげ
2.最初の犠牲
「う・・・うぅ・・・」
「あ、こいつまだ息ありますよ!」
「ほっとけ。放っておいても死ぬわ」
ガサガサと音がして、人の気配が消えた。慌てて木陰から飛び出す。
目に入った姿は、一瞬誰か分からなかった。
というのも、顔は仮面で覆われ、皆着ているはずのユニフォームを着ていなかったからだ。
どうして?誰が何の為に?
とにかく撃たれたのが誰なのか、把握する必要があるだろう。思い切って倒れている男に近付き、声をかけた。
「・・・おい」
「ぁ・・・誰・・・」
「俺だ。立浪だ!」
「立浪、さん・・・俺です、高橋、光信ですっ・・・!」
「どうした、その格好は、誰にやられた!?どうして・・・」
自分が動揺しているのがはっきりと分かった。
「これ・・・外に出るときに捕まって・・・首輪を爆発させるって、脅されて・・・」
「どうして・・・おい!しっかりしろ!」
反応が弱まっている。そう感じて立浪は少し声を大きくして呼び掛けた。
「・・・俺は、・・・死ぬんですね」
その一言で立浪は自分の愚かさに気付いた。事情を聞く前に傷の手当てをするべきじゃなかったのか。
「待て、今手当てしてやるから・・・」
慌てて出血している場所を探す。少なくとも銃声は二発聞こえた。二発撃たれて生きているのは幸運なのかもしれない。
「・・・」
撃たれているのは足と胸部だった。おそらく最初の一発は足に。逃げられなくなったところに胸に一発撃たれたんだろう。
・・・なかなか残酷なやり方だと思った。
足の方は布で止血するとしても、胸部の方の手当てはどうしたらいいか分からなかった。
心臓が波打つたびに、開いた傷口から血がドクドクと溢れている。・・・とても助かるとは思わなかった。
「・・・誰に、撃たれた?」
声が震えている。俺は酷いことをしている。今最期を迎えようとしている奴に、酷いことを。
「・・・よく、・・・見えませんでした・・・」
「おい、本当のことを言え。誰に撃たれた?」
「・・・片岡さん、だと思います」
・・・最終通告だった。
その直後、高橋光信の体から急激に力が抜けたのが分かった。
「ごめんな・・・」
最期に質問したのは、俺のエゴだった。お前には言いたいことがあっただろうに。妻や娘に何も言わずに逝ってしまった。
そう仕向けたのは、俺だ。
力の抜けた高橋光信の体を見下ろして、しばらくぼうっとしていた。ちょっと考えて、仮面だけでも取ってやることにした。
こいつはオーナーたちの壁となって死んだんじゃない、中日の選手として死んだことを表す為に。
仮面は革で出来ていて、自分で外すのは難しい物だった。オーナーたちはどうしてこいつにこんな物を付けたのだろう。
やっとの思いで仮面を外すと、口の端に血がこびり付いている以外は、安らかな顔だった。
またちょっと考えて、胸の上で手を組ませようとしたが、既に死後硬直が始まっていて無理そうだった。
「・・・ごめんな、俺、もう行くわ」
立ち上がって、歩き始めた。頭の中では高橋光信の最後の言葉がぐるぐると渦巻いている。
そうだ。親友がチームメイトを殺した。
3.井端の正義感
井端は呆然と立ち尽くしていた。
チームメイトが、死んでいる。体は血塗れで、顔の表情は安らかだが口の端には血がこびり付き、その目も口も二度と開くことはない。
信じたくはなかった。出発時に渡されたナップザックには、地図と水と食料、選手会役員の名簿までが入っていた。
まさか、選手会役員が殺したというのか?この顔を見て、選手だと気付かなかった?知らなかったとでも言うのか。
高橋光信はオーナーの雇ったボディーガードでも殺し屋でもない。中日の選手だ。
それなのに、選手会は高橋を殺したというのか?
撃つ前に話も聞かず、逃げられないように先に足を撃って?
「嘘だろ・・・なぁ」
死人は井端に何も言ってはくれない。
古田さんはオーナーたちを本当に殺害するつもりなのか。俺たち選手を殺してでも?
「そんなの・・・」
そんなの、間違ってる。
今の今まで、それこそ高橋光信の死体を目にするまで、俺は選手会を信じていた。選手会を何とかして手伝えないかとも思っていた。
しかし、だ。選手会はどうやら選手の犠牲を厭わないらしい。死体は口を聞かないが、この状態がそれを物語っている。
「そっちがその気なら、受けて立ってやる」
何としてでも生き残ってやろうじゃないか。そしてその後、俺がオーナーを殺す。それでいいだろう?
チームメイトの死体を目にして正義感が先に立った井端に、近くの草叢に放られた革の仮面の、その意味が理解できるはずもなかった。
4.仮面の意味
「・・・上手くいってるみたいですね」
隠しカメラの映像に囲まれた室内。その中央にいかにも悪の親玉が座るような椅子が備え付けられている。
「まあな。そうでないと困る」
キイ、と椅子が回転し、渡辺恒夫元オーナーが現れた。
「君にはいい働きをしてもらったな」
「いえ、私は・・・」
「ところで、君は誰に賭けたんだ?白井君」
白井君、と呼びかけられて人物の肩が揺れた。
「・・・まだ、誰にも」
「何だ?何に怯えとるんだ。あいつらは手を出せんよ。第一、君が生きていることすら知らんだろう」
「まぁ、そうかもしれませんが・・・」
嫌な汗が白井の背中を流れていった。
「あの、高橋に被せた仮面には何か意味があったんですか?」
「なあに、両方をやる気にさせようと思ってな。思った以上に良い動きをしてくれた」
仮面を被った高橋をオーナーたちの刺客だと思い、撃った片岡。殺しの現場を見た立浪。
そして仮面を外された後の死体を見て、選手会役員がやる気になっていると勘違いした井端。
全ては渡辺恒夫の思惑通りであった。
オーナー側の狙いは、単純に自分達の命を守ることだけではない。
選手数の削減。そして隠しカメラで撮影された映像の売買。
その為には選手会と中日の選手の両方に「やる気」になってもらう必要があった。
「あの仮面の意味も分からないような奴は『たかが選手』という言葉さえ勿体無いな」
白井文吾は何も言わず、その場を辞した。
とりあえずタイトルつけてやってみました。第五章を見習って付けたけどこれでいいのかな?
仕事の昼休みに急いでうpしたんで誤字あるかもしれん。
つーか今まで俺しか書いてない悪寒・・・他の書き手さん降臨キボン。
>>32-36 ケンシン乙!これは連作でやっていくの?
大前提みたいなのが決まってたらそれに沿って書いてみたい鴨。
>>37 過去スレを見ても分かるように、連作でやっていくんだと思うよ。
前スレでも最終的にその方向でいくみたいだったし。
大前提っていうのはストーリーの筋?
ストーリーの方向性なら決まってない。ルール上の大前提は序章参照。そんなとこだと思うけど。
前作とかを見ていた範囲だと、
ストーリーの大前提ってのはなくて、
いろんな職人さんが書いて行く中で作られる感じだったような。
ストーリーが思ってもみなかった方向に進むこともあるが、それが醍醐味かと。
書き手さん降臨希望あげ
携帯から保守。
実はQさんて事実上のチームリーダーでありながら
前回、前々回とあんまり主役級の扱いされてないんだよね。
(最初のは瞬殺だし…)
今回は中心人物になるのもええことよ。
捕手
ちょっと思ったんだが、前回のバトロワは最初40人の選手で始まったんだよな?
今回も40人くらいで名簿作ったほうがいいんじゃないかと思ったんだけど。
そうした方が新しい書き手さんも気軽に入ってこれそうだし。
ということで名簿ドゾー
0 高橋光信 12 岡本真也 27 谷繁元信 58 大西崇之
1 福留孝介 13 岩瀬仁紀 28 石川賢 68 長峰昌司
2 荒木雅博 17 紀藤真琴 34 山本昌 70 中里篤史
3 立浪和義 18 朝倉健太 35 幕田賢治
5 渡邉博幸 19 久本祐一 36 平井正史
6 井端弘和 20 川崎憲次郎 43 小笠原孝
7 川相昌弘 21 正津英志 46 土谷鉄平
8 森野将彦 22 柳沢裕一 47 野口茂樹
9 井上一樹 23 関川浩一 51 山北茂利
11 川上憲伸 26 落合英二 57 英智
(計33人)
言い出しっぺなんでやってみました。これで33人・・・ちなみに基準は現在一軍+キャラが立ってる人。
今回は選手会の争いみたいな感じだから、あえて外国人選手は抜かしてみました。個人的には入れてもいいと思うけど。
あとの7人はちょっと決めかねたんで、このスレの皆さんでどうぞ。
一軍級でキャラの立ってる福留、野口、川崎が二軍にいるのか…
なんかネタにできるかも。
前作の前田みたいな…
去年微妙に活躍した平松(14)はどうよ?
書き手さん降臨期待age
高橋聡文、前田Aはどうよ
hosyu
0 高橋光信 12 岡本真也 26 落合英二 55 前田章宏
1 福留孝介 13 岩瀬仁紀 27 谷繁元信 57 英智
2 荒木雅博 14 平松一宏 28 石川賢 58 大西崇之
3 立浪和義 17 紀藤真琴 34 山本昌 67 高橋聡文
5 渡邉博幸 18 朝倉健太 35 幕田賢治 68 長峰昌司
6 井端弘和 19 久本祐一 36 平井正史 70 中里篤史
7 川相昌弘 20 川崎憲次郎 43 小笠原孝
8 森野将彦 21 正津英志 46 土谷鉄平
9 井上一樹 22 柳沢裕一 47 野口茂樹
11 川上憲伸 23 関川浩一 51 山北茂利
(計36人)
>>47,49の分を入れて36人。40人以下だがこれでもいいような気がする。
一応他に居たら追加してもいいと思うけどどうよ?
ホッシュホッシュ
53 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/12 13:06:33 ID:Uv/2da/f
>>51 (・∀・)イイ!!
多すぎて話として使い切れなくなっても困るし。
36人+選手会役員+オーナーでFA?
54 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/12 15:07:15 ID:tt75M11v
5.たとえどちらに転んでも
伏せていた顔をガバッと上げた。
「な、なあ、孝介・・・銃声だよ」
「・・・」
福留と荒木は行動も共にしていた。出発時から福留はすぐ次の荒木を待って、一緒に出発したのだった。
出発してすぐ、様子を見るには最適だと思って入った森は思ったよりも深く、とりあえず地図を見ながら今後の動きを考えようということになった。
地図を広げ、コンパスを片手にしばし黙っていたところに、銃声が二発。
「孝介、ここ大丈夫なのかな」
「こっちにも銃があるから、襲われても身を守ることぐらいできるだろ」
福留に配布された武器は拳銃だった。コルトパイソン。ご丁寧にレーザーサイトまで付いている。
「・・・そうだよな」
荒木は出発時から異様なほど不安がっていた。そして今も、地図などと一緒に入っていた選手会役員の名簿と黙ってにらめっこしている。
荒木に武器として配布されたのが、何の変哲もない弓矢だったのを思えば当然かもしれないが。
大体、どうして弓矢なんだ。福留は思った。もっと気の利かせた武器だっていいだろう。せめてボウガンとか。
「なぁ」
「ん?」
「俺たちが生きて帰る為には、この人たち、全員殺さなきゃいけないんだよな」
「多分、そうだろうな」
「・・・孝介は、殺すのか?」
その拳銃で。そう問われて、福留はゾッとした。俺は今何を考えていた?武器のこと?俺は、今誰かを殺すつもりになっていたのか。
「・・・」
そりゃ、覚悟はある。・・・しかし。
「俺も死にたくないよ。でも、こんなの、間違ってるって思わないか?どうして俺たちがオーナーに踊らせられなきゃならないんだ?」
「でも、こんな状況になっちまったんだ」
もう、なるようにしかならないんじゃないのか。
「・・・」
荒木が、急に押し黙った。
「・・・もう、どっちにしろ12球団で野球は、できないのかな」
その言葉は、発した本人にも、聞いていた福留にも重く響いた。【残り35人】
55 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/12 15:10:37 ID:tt75M11v
6.俺の武器
「はぁっ、はぁっ・・・」
背番号57、英智は訳も分からないまま走っていた。背番号の関係で英智の出発は後の方になった。
そして、玄関を出た途端、銃弾が体を掠めたのである。
恐怖が一気に襲ってきて、弾かれたように走りだした。玄関を出てすぐ眼前には森が広がっており、英智は迷わず森に跳び込んだ。
銃弾が掠めたとき、辺りに人影は見当たらなかった。ということは遠くから狙撃したんだろう。頼む、森の中で見失ってくれ。
大分走って、後ろを振り向くと追ってくる気配はない。狙撃も最初の一度きりで、二度目はない。
見失って諦めたか・・・?
足には自身があった。誰よりも速いというわけではない。しかし、狙撃された距離を考えれば追いつかれるとは思えなかった。
相手が追ってこないのを確かめて、ゆっくり速度を落とした。窮地は脱したか。
しかし次の瞬間、英智の目が放物線を描きながら自分の方に飛んでくる「何か」を捉えた。
56 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/12 15:13:35 ID:tt75M11v
一瞬、外野フライのようだな、などと的外れなことを考えた。
もしフライなら、自分はキャッチして自慢の強肩でバックホームしなければ、なんて。
全身の筋肉が一気に緊張するのが分かった。違う、ボールなどの類じゃない。あれは・・・
「手榴弾」だ!
不思議なことに逃げようという気持ちは一切起きなかった。ただ頭の隅に「自分には武器があるじゃないか」という思いが過ぎった。
そう。俺には武器がある。「強肩」という武器が。
逃げても逃げ切れるかどうかなんて分からない。どうせ死ぬんだったら、最後に自分の生き様を示してやろうじゃないか。
「可能な限り少ないステップで、もっともいいリズムで投げる準備をした」―――。
掴んだ、と感じた瞬間にバックホーム。・・・ああ、そうだ。これが自分のプレーだ。
頭の中では、タッチアップのランナーがホーム手前の時点で、キャッチャーにボールが届くビジョンが映し出された。
カッ、と光で目が眩んだ後に、物凄い音がして耳が聞こえなくなった。体が地面に倒れこんだ。掌が地面で擦れたのが分かった。
チクショウ、何だよ。やっぱり駄目か。手、擦り剥いてちょっと痛いな。
痛い・・・痛い?
手を動かすと、・・・動く。足は?・・・大丈夫だ、立てる。走れるか?・・・よし、行こう。
英智はまた走り出した。さあ、スリーアウトチェンジだ、とでもいうように。【残り35人】
57 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/12 15:17:18 ID:tt75M11v
7.人の話を聞かない男
「桧山さーん。桧山さーん?死んじゃいました?」
「アホ、勝手に殺すな」
「ああ、無事でしたか」
英智が走り去って少し経った後、人影が二つ、手榴弾が爆発した辺りに現れた。
「大体な、お前が玄関で仕留めないからこんなことになるんやで。つうか足遅すぎや、今岡」
「そんなこと言ったって・・・桧山さんだって、仕留め損なってるやないですか」
「うっさい」
木に凭れながら、桧山は苛立っていた。どこかで見たと思ったら・・・またあいつか。
「あれ?桧山さん、あいつに試合でも・・・」
「うるさい!」
そうだ、忘れるはずもない。あの、バックホーム。あいつ、中日の選手・・・英智、って言ったか?
「中日の選手はオーナーの味方なんですかねぇ」
「さあな。色々あるんやろ、中日にも」
「メンドクサイですね、何だか。・・・それで、殺すんですか?」
「ん?」
「中日の選手。古田さんはオーナーを殺れ!って言ってましたけど」
「さあ・・・ま、攻撃してくるようだったらやり返しても大丈夫やろ。正当防衛」
「ふうん。そんなもんですか」
会話をしていて、桧山はちょっと不安になった。こいつ、ホントに人の話聞いとるんかな?
「ちょっ、今岡、ホントに分かっとるよな?」
「はい。やられたらやり返せ、でしょ?頑張ります」
「・・・」
ちょっと違う気もするんやけど・・・ま、ええか。【残り35人】
おおっ連続おつかれ。
連絡ワロタ
59 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/13 08:33:40 ID:y0ApcGLK
マジで俺しか書いてないな・・・_| ̄|○
書きたい人が居ないんだろうか、住人が居ないんだろうか・・・
このまま書いていっていいもんだろうか?正直レスもらえるのは嬉しいんだが。
オナニースレになりそうで・・・
最初はこんなもんだよorz
進んでいけばだんだん書いてくれるさ
漏れも考えるから、もうしばらくがんばってくれ・・・
ちゃんと見てるよー。
書き手さんの気持ちもわかるけど、
あんまり感想レスばっかのスレも馴れ合いくさいし
気にせんと続けてくださいな
なるべく保守しますんで
63 :
60:04/09/14 00:34:17 ID:P/Dses9k
>>61,62
ありがd。そしてスマンカッタ・・・
ちょっと今日リアルで鬱なことがあったもんで、気持ちも下降気味だったかも。
つまらんこと書いて悪かった。
マジック点灯直前!
8.ペーペーシャ
井端は森の中をトボトボと歩いていた。
トボトボといっても、途方に暮れたり目的もなく歩き回っているわけでもない。
今の井端は「復讐鬼」だった。高橋光信の死体は木陰に隠してきた。あんなの、あまりに不憫すぎる。
さらに言うなら、こんな状況に放り込まれた自分達も選手会も不憫であるのには変わらないが。
それにしたって。井端は思った。
建物の玄関を出てから少しも経たないうちに、簡単に人が殺された。いくらなんでもあんまりじゃないか?
確かに俺たちは野球選手で、俺も野球は大好きで・・・だけど、だからこそ、人殺しなんて・・・
「人殺し」。噛み締めるように口に出してみる。人殺し、人殺し・・・多数がその罪を背負うより、俺が背負ってやろうじゃないか。
選手会に報復した後、オーナーを殺し、自殺するっていうのはどうだ?なぁ、それで満足だろう?
肩から下げていた機関銃をするっと撫でた。あまり見たことのない銃だった。まず見た目が古い。
ご丁寧にも一緒に入っていた説明書には、使い方のほか、昔ソ連軍が使っていた、といったことまで書かれていた。
愛称は「ペーペーシャ」というらしい。変な名前だな。正式名称のPPSh41をもじったものかな、などと勝手に考えた。
井端は知らなかった。その銃の愛称が今の自分にピッタリのものだということを。
歩いていると、広場に出た。広場といっても、そこだけ木がないだけで草は相変わらず茂っていたし、見通しはやっぱり悪かった。
そのとき、井端の目が人影を捉えた。全身の筋肉を緊張させる。誰だ?・・・役員か?中日の選手か?
どうやらこちらに近付いてくるようだ。井端は広場には出ず、木陰に身を隠した。
ガサガサと音を立てて、慎重に辺りを見渡しながら近付いてくる。馬鹿め。その慎重さが命取りだ。
井端は足元の石を拾ってあさっての方向に投げた。当然、石は草叢の中に落ちてガサッと音を立てた。
人影が緊張する。そして恐る恐る井端とは反対の方向を見る―――。
ゴリッ
木陰から飛び出して、銃口を背中に押し付けた。「・・・動くな!」自分でも吃驚するほど恐ろしい声だった。
ビクッと身を震わせたのち、ゆっくりと手が上がった。
「三輪さん、」
「・・・井端くんか」
「俺、今からあなたを殺します」
「最後に、何かあったら、どうぞ」「・・・情けをかけてるつもりか?」「いいえ」
「・・・じゃあ、聞いてくれよ」
三輪隆は淡々と語り始めた。
自分の野球人生のこと。家族のこと。チームのこと。
不思議な事に、情が移るということは無さそうだった。例えるなら、歴史の勉強。終わってしまったことを覚えるといった感じ。
そう、この男の歴史はもうすぐ終わる。自分が終わらせるのだ。
「・・・まぁ、こんなところかな」
「もう、いいですか?」
「・・・一つ、聞いても?」
「・・・どうぞ」
「どうして、俺たちを殺す?」
「まず、報復です。チームメイトがあなたたちに殺されました」
三輪はちょっと驚いたようだった。
「まさか・・・何かの間違いじゃ?」「いいえ。俺はこの目で死体を見ました」
「でも・・・安心してください。オーナーも俺が殺します。その後、自殺します」
「何か・・・事情がありそうだな」
「関係無いことです」・・・ここで死ぬ、あなたには。
それだけ聞くと三輪は黙った。黙って、溜息を吐いた。
「参ったなあ・・・」
「こんなことをする為に、こんなところで死ぬ為に、今まで野球やってきたんじゃないんだけどな」
それは、皆の総意だろう。井端は思った。せめて苦しまないように一瞬で葬ってやろうじゃないか。
「三輪さん」
「・・・いいよ、やれ」
「・・・さようなら」
引き金を、引いた。
即座に銃弾が飛び出し、三輪の体に吸い込まれていった。思ったより反動が強くて腕が跳ね上がり、体が後ろに傾いた。
赤い。ああ、これは血だ。三輪さんの血が俺に掛かっている。最後の抵抗かもしれない。俺に罪を背負わせる為の。
《殺せ、殺せ》―――。井端は少しずつ狂気に蝕まれつつあった。
あの、井端が変だと思った銃の愛称「ペーペーシャ」。
・・・ロシア語で「ペーペーシャ」とは、《殺せ、殺せ》という意味である。【残り35人・選手会17人】
読んでてなんか緊張した(゚д゚)!!
毎回このスレ読むのが楽しいでつ。11しく捕手。
70 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/15 02:46:24 ID:Z9BtXb4b
(・∀・)イイ!!
逆転勝利で涙の記念ホシュ
スレ汚しスマン
落合がビートたけし役なら、誰一人と死なない作品になる。
73 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/15 15:30:46 ID:eBpaNreb
バトロワイアル
保守
>>66-68 乙!
会長が殺戮マシーンへの一歩を踏み出してしまった・・・
76 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/17 01:17:55 ID:DL8C2q4b
9.選手会の昼
朝に出発して、既に6時間が過ぎていた。
「もう昼やな・・・」
古田は呟いた。昼飯の時間は出発するときに全員に言っておいたはずなのに、3名ほど戻らない奴がいる。
桧山と今岡、そして三輪。
「おっそいなー・・・」
二度目の呟きと同時に近くの草叢がガサガサと動いて、今岡がひょっこりと顔を出した。
「遅いで、今岡」
まったく、この男は人の話を聞いているのかいないのか分からない節がある。
「あー古田さん。大変ですよ」
今岡の後ろから桧山が顔を出す。
「あのですねえ、敵は中日の選手ですわ」
「はあ?」
古田は耳を疑った。確か最初に出会った男・・・片岡が撃ってしまったが、あれはオーナーが雇った殺し屋か何かやろ?
「間違いありませんて。俺なんか手榴弾で吹っ飛ばされかけました」
「桧山さんたら、自分で投げ・・・んぐ」
桧山は今岡の口を両手で塞いだ。アホ、そんなん言うたら俺が格好悪いやん。
「まさか、そんな、」
「本当ですって!ここに来る途中・・・あ、それで遅れたんですけど・・・三輪さんが死んでました」
「死んで・・・」
死んでました?嘘やろ?だって、ここを出発するときは元気に行ったやないか。
「中日の選手はやる気になってるんですよ、俺たちを殺すのに!」
77 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/17 01:21:20 ID:DL8C2q4b
「と、とにかくや。何か事情があるのかもしれん」
「それだけで、人を殺しますか?」
「俺らだって似たようなもんやないか」
「違いますよ!」
「そもそも立浪や井端と連絡が取れないのがおかしかったんや!」
一気に場が騒然となった。まさか、選手がオーナー側についてるとは思わなかった・・・
「まあ、落ち着け・・・もしかしたら説得できるかもしれへんし」
「説得?何を説得するんですか、あいつらは殺しに来てるのに」
「そんなん、・・・」
分からんやろ、と古田は言おうとした。しかし言葉は出なかった。それならばどうして三輪は殺された?
「・・・元中日の人に聞いたらどないですか?」
黙っていた佐伯がぽつりと言った。「横浜におるんですよ、止められそうな人が」
「ホンマか?すぐ横浜に連絡取ってこっちに来てもらえ」
「ええですよ。それと、琢朗さん」
「・・・何だ?」
「琢朗さんも、説得班ですね」
「・・・谷繁か」
止まるかな、説得したところで。そう思いつつも頷いてみせた。
「よし、とりあえずこれからは説得する方向で行く」
「・・・もし、攻撃された場合は?」
「そんときは・・・」
そんときは・・・どうしたらええ?古田は頭を抱えたい気分になった。
「・・・とにかく、皆、死ぬな」
それはつまり攻撃されたら・・・相手を殺してもやむを得ないということである。選手会全員がそう解釈した。【残り35人・選手会16人】
前回の
【残り35人・選手会17人】を【残り35人・選手会16人】に訂正。
選手会からQさん抜かすの忘れてた・・・
79 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/17 01:37:43 ID:q+skWWJ+
キ(゚∀゚≡゚∀゚)タ!!!
今岡はほんとにいいキャラだなw
10.野口と川崎
野口は途方に暮れていた。
選手会のメンバーを殺せとは言われたけれど、あのナベツネのために人を殺すなんて冗談じゃない。
まして野口に支給されたのは、何の変哲もないキャッチャーマスクとプロテクター。
コレでどうやって戦えというのか。
「中村さん…俺、どうしたらいいんですか」
思わず口にしたのは、自分を導いてくれた捕手の名前。
この人のサイン通り投げれば、どんな打者だって抑えることができる、
どんなピンチだって切り抜けられると、そう思えた最高の捕手。
支給されたミットの向こうに、見えるはずのない中村の顔が見えたような気がして、野口はそっと目を伏せる。
「野口?」
背後から声がかけられた。
野口は体をこわばらせつつ振り返り、自分と同じユニフォームを見てほっと息をついた。
「川崎さん」
辺りに気を配りながら近づいてきた川崎は、キャッチャーミットに気づいて吹き出した。
「なんでそんなもの持ってるんだ?」
「これが俺の武器らしいです」
「はあ?何を考えてるんだアイツらは…。わけわかんねーなぁ」
ひとしきり笑った後、ふっと真顔に戻る。
「で、それ見て中村さんのこと思い出してるんだろ」
「…なんで分かったんですか」
訝しげに尋ねる野口に、川崎は笑って見せた。
「俺もそれ見て思い出したから。この人の言うとおり投げてたら何の問題ない、って思えた人のことを」
「それって」
誰のことですか、と続けようとした野口を遮って川崎は続ける。
「投手にとって、信頼できる捕手に出会えることはとてつもない幸運だと思う。でも、それに頼りすぎたら駄目なんだ。結局投げるのは自分自身なんだから」
支給されたデイパックを探りながら、なおも川崎は話した。
「打たれるのも抑えるのも、全部自分の責任。…俺はその責任を果たせなかったけど、な」
寂しそうな笑顔と、過去形で語られた台詞。野口は嫌な感じを覚えた。
川崎が、デイパックから取り出したものを野口に放る。
あわてて受け止めるとそれは銃だった。警官が腰に下げているような。
「お前にやるよ。生きて帰って中村さんに会え」
「なんで…これ、川崎さんの武器でしょう!」
「俺には必要ないから、お前が役立ててくれ」
「川崎さんだって、信頼してる人にもう一回会わないと!」
ふっと、川崎の表情が和らいだ。
「今から会いに行く。だから銃はいらない」
今から?ということは、ドラゴンズの選手か、選手会の…
そこまで考えて野口は気づいた。川崎の前所属球団はヤクルト、ヤクルトの正捕手は選手会長の古田…
じゃあ、と軽く手を挙げて、川崎がきびすを返した。
「川崎さんっ!」
遠ざかる背に向けて叫んだ野口に、川崎は一度だけ振り返った。
「生き残れ、野口。…俺のようには、なるなよ。」
呆然と川崎を見送る野口の手の中で、拳銃が鈍い光を放っていた。
>>80-81 乙!俺以外の書き手さんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!
川崎が格好いいじゃねーか・・・自分じゃ絶対書けないよ。
俺の張った伏線使ってくれてるぽい・・・勘違いだったらスマソ。嬉しかったもんで。
新作イイ━━━━ヾ(。Д゚)ノ゙━━━━!!!!!
職人さんも増えてきてうれしいです。
84 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/17 21:02:19 ID:tL+DZ7aD
スト決定age
85 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/17 21:21:15 ID:+DeU2cQ9
初めての体験なので教えてください。
ぴあで購入した明日・明後日のチケットの払い戻しはどこで・いつできるのでしょうか?
11.help!
「あ、中村さんですか?佐伯ですー。どーも」
『何だ?球団通したりしないで連絡しろよ。ビックリしたじゃねえか』
そう言って笑う。ああ、あっちの世界は平和なんだな、そう思った。
「それがですね、厄介な事態になってまして」
『どうしたんだ?』
「説明すると長くなるんですがー・・・選手生命どころか、生命の危機なんです。俺たち」
『あ?』
「中日の選手が・・・理由あるのかも分からんのですけど、俺たちの命を狙ってるんです」
『ちょっと待て、話が読めない』
「ていうか説明しようにも・・・あの、俺たちオーナーを懲らしめにきたはずなんですけど、中日の選手がオーナー側についてて」
『・・・』
「それでオリックスの三輪さんが殺されたんです。中日の選手に」
『まさか!』
「嘘だと思うならそれでもええです。でも、もしかして中日の選手を止められる可能性があるとしたら・・・」
『・・・俺が行けば止まるのか』
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれません。だけど少なくとも俺たちだけじゃ、どうにもなりませんわ」
『・・・』
「来てもらえませんか」
『分かった、行く。どうすればいい?』
「こっちから迎えをやります。準備せえへんでも、武器ならこっちで用意しますから」
『要らないよ、俺の分は。俺は説得しに行くんだから』
「そんな一筋縄でいかないと思いますけど・・・ま、ええです。待ってますから」
ピッ。電話を切った。これで、もしかしたら何とかなるかもしれない。
「琢朗さん」
「何だ?」
「谷繁さん説得しに行きます?」
「そうだな・・・夜になると面倒臭いし」
そう言って傍らのワルサー WA2000を撫でた。
「あれ?武器持っていくんですか?」
「当たり前だろ・・・相手は殺す気で来てるんだ」
この違いも、結構おもろいな。佐伯は思った。
選手を信頼し丸腰で来る中村さんに、決して油断しない琢朗さんか。どっちが選手を止められるかな?
不謹慎だと思いつつも・・・佐伯は少しワクワクしながら石井に続いた。【残り35人・選手会16人】
空気読んでなくてスマソ。何かスレ乱立してるっぽいし、保守代わりだと思って。
>>85 誤爆?
(・∀・)イイヨイイヨー
12.あきらめられないもの
(こんなことに巻き込まれずにシーズンが終わっていたら、俺は今年で引退していただろうな)
野口に自分の武器であった銃を託し、身軽になった川崎は考える。
「引退」という言葉を悔しく思わない自分に驚いた。
「あきらめた」のは、一体何時だったのだろう。
FA移籍してまもなく、右腕を痛めたときだろうか。
一年登板なしにもかかわらず、年俸が大幅に上げられたときか。
オールスターのファン投票で一位になってしまった、あのときだろうか。
めった打ちを食らいKOされた、開幕戦だったかもしれない。
投げるのは簡単なこと、できて当たり前のことだった。
故障箇所は治り、前と同じように投げているつもりが、何かが違う。
当たり前のことができない不安。
…それは、川崎を追い込むには十分だった。
あきらめていた、だからどうでもよかった。
殺すことも、殺されることも。
野口に出会うまでは。
二軍落ちして、がむしゃらに練習をする野口の姿は、かつての自分に重なってみえていた。
密かに気にかけていた。
自分のようにあきらめてほしくなかった。
だから銃を託した。
軽く頭を振り、感傷を振り払う。
ドラゴンズの選手がオーナー側に命を握られて敵に回っているということを、古田に伝えなければならない。
あの人なら、何か方法を考えてくれるはずだ。
自分の選手生命はあきらめた。
だが、あきらめられないものもある。
3年間もただメシを食っていたが、やっとドラゴンズに貢献できるのだ。
俺はこのために、FA宣言をしたのかもしれない。
【残り35人・選手会16人】
なんかこの「格好いい川崎」をひらめいたので
勢いだけで書いてしまいました…
ほとんどの人とは川崎のイメージ違うんだろうな俺orz
94 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/18 11:31:19 ID:/3ecz06L
川崎カコイイよ川崎
13.大丈夫
英智はまだ走っていた。走っている、と本人は思っているが、実際その速度は歩いているのとさほど変わらない。
擦ってしまった掌はまだズキズキと痛むし(さっき見てみたら、皮が剥けて肉が見えていた。もちろん血も沢山出ている)
動かし続けている足は重いしで、倒れそうだった。
「・・・英智?」
草叢から声が掛かった。追ってきたか!?
「英智、おいお前怪我してるじゃないか!おい!!」
速度を上げかけた足を、慌てて止めた。いきなり止まったので前のめりに倒れてしまったが。
「・・・山本、さん・・・」
草叢から現れたのは、背番号34、山本昌だった。
「無事だったんだな。爆発音はするし、銃声はするしで・・・」
そう言うと振り返って草叢に向かって声をかけた。「大丈夫、英智だ。怪我してるから手当てしないと。手伝ってくれ」
ガサガサと草叢が揺れて、岩瀬が顔を出した。
「玄関出て、逃げた方向が同じだったんだ。俺が一休みしてたら前から歩いてきたんだよ」
英智が不思議そうな顔をしていると、山本が取り繕うように言った。「ああ、それで・・・」やっと得心がいった。
この広い無人島で人と会うのは容易ではない。森の中を走って痛感した。
「どれ、手を見せてみろ」
黙って手を差し出すと、二人揃って顔を顰めた。
「お前、よくこの手ほったらかして走ってこれたなあ」
さっきはじっくりと見なかったが、想像以上に酷い状態らしい。恐る恐るといった感じで水を掛けられた。
じぃんと沁みて、眠っていた痛覚がまた目覚める。ズキズキズキ・・・本当によく走ってこれたものだ。
「どうしてまた、こんな怪我したんだ?」
そうだ、選手会がやる気になっていることを伝えなくては・・・
声を出そうとしたが上手く出ない。咽喉が乾涸びている。水分を取らなくては・・・
岩瀬さんがスッとペットボトルを差し出してくれた。受け取って、一口、二口飲む。これで喋れそうだ。
「選手会が、やる気になってます・・・」
「選手会が?」
「玄関でいきなり撃たれかけました・・・外れましたけど・・・それでその後、手榴弾を投げられて・・・」
「おい、どうしてお前無事なんだ?」
「手榴弾、投げ返したんです」
そう言うと、二人はポカーンとした。あれ?何か俺おかしいこと言ったかな?
「投げ返した?手榴弾を?」「はい」
「お前、凄いなあ!あははは!」「え?」
「普通手榴弾投げ返そうなんて思わないし、大体投げ返せねーよ!」「はあ・・・」
そうだよなあ、普通。でもあの時、俺は投げ返すしか頭に無かったんだ。何故かは分からないけれど。
「ま、その強肩に随分助けられたけどな」
山本さんがぽつりと呟く。岩瀬さんがそれに賛同してくれる。何だかこんな状況でも、褒められると照れるもんだなあ、と思った。
「さ、俺たちは行くけど、英智、お前はどうする?」
立ち上がって山本さんが言った。俺は・・・
「・・・別に何もないです。もうちょっと歩き回ってみようと思います。あの・・・そちらは?」
「んー・・・ちょっとあっちの動き見てたけど・・・なあ岩瀬、どうする?」
「昌さん、会いたい人がいるんでしょう?」
「・・・まあ・・・無理だけどな」
「分かりませんよ、そんなの」
何故か途轍もなく安心した。この人たちも俺も、死ぬとは思えない。こんなにも笑顔で話をしている自分たちは、きっと大丈夫だ。
漠然とそう思った。
別れ際に山本さんが、俺を見て言った。
「折角、手榴弾投げ返して拾った命だ。大事に使えよ」
「・・・はい」
強く頷いた。大丈夫だ、絶対に。根拠はないけど、そうとしか思えない。必ず生きてまた会える。そう信じて疑わなかった。
別れる時、「さよなら」は言わなかった。
お互いが必要ないと思った。手に巻かれている、包帯代わりの細く切られたタオルがそれを確信させた。
【残り35人・選手会16人】
おーすげー!イッパイ投下されてる!職人さま乙です!
続きにドキドキしつつ保守。
ほしゅ。
以前の読み返したら、
英智はけっこうヒールだったりしてたのね
やっぱり活躍するといいねえ
保守。
ついでに100ゲトー
101 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/19 10:03:34 ID:NDi3el35
14.木の上
「琢朗、谷繁居る場所分かるんか?」
「まあな。お前、ずっと上見とけ。そうだな・・・特に木の上だ」
「木の上、か」
「あまり奥には居ないだろうな。森の周りから見ていくか」
そう言うと、石井は先に立って歩き始めた。佐伯がその後を追う。
「・・・説得できるかねー」
「無理だろ」
「え?」
あまりにあっけらかんと石井が言うので、佐伯は慌てて聞き返した。
「やる気になってたら十中八九止められないな」
「いやいや、そんなこと言うなや!」
「一応やってはみるけど。無理だと思ったら速攻逃げるからな」
そう会話をしている間も、佐伯はずっと頭上の木を見つめていた。が、特に変わったところもない。
しばらくそうして歩いたが、何も変化は無いし、石井の考えていることは分からない。
「琢朗ー。一体いつまで「しっ!」
口の前に手を出されて、出そうになった言葉を飲み込んだ。
「・・・いる」「え?」
そう短く言うと、石井は徐にワルサーWA2000を構えた。
「ちょっ、琢朗」
乾いた音が辺りに響き渡る。
「おい、谷繁!居るんだろ?出て来いよ、話をしよう」
一通り撃って、木の上に居るはずの人物に問い掛ける。しかし反応はない。
「チッ・・・佐伯、ちょっと向こう行ってろ!」
「えー!?」
「いいから!」
強く言われて佐伯は渋々踵を返して、その場から去った。
「おい、サシで話をしよう。それならいいだろ?」
木の上に呼びかけると、やっと反応があった。
「相変わらず荒いな。いきなり撃つなよ。びっくりしたじゃねえか」
ガサガサという音がして、木の上から背番号27番、谷繁元信が降りてきた。
「くつろいでたくせに、文句言うな」
「ふん・・・ま、会ってしまったのが運の尽きだな。タク、お前には死んでもらう」
「・・・何かあるな」
「まあな。ここで逃げたら俺が死ぬんだよ。首を吹っ飛ばされてな」
「逃げたら、アウトか」
「そ。会わなきゃお互い殺しあわなくて済むんだが。お前なあ・・・何で来たんだよ」
そう言うと谷繁は天を仰いだ。どうせなら違う奴と会いたかったな。
谷繁の手には武器であるナイフが握られていた。あーあ。しかも武器が接近戦用ときたもんだ。
これじゃ、どうやったって昔の仲間と殺しあわなきゃならない。
「タク、行くぞ」
谷繁はナイフを構えた。【残り35人・選手会16人】
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
前回投下分、ちょっと勘違いしてて佐伯が琢朗に敬語使ってるorz
脳内変換してくださいorz
15.「仲間」
ナイフを構えると、石井が銃を構える前に斬りかかった。先手必勝。銃を構えられてからでは勝ち目はない。
慌てて石井が身を引いて避ける。ここで隙を見せたら撃たれる。切っ先を引いて二撃目。大振りじゃ仕留められないな。
相手は素早い。ショートというものは往々にして素早いものだ。細かく手数で勝負しなくては。
ナイフの切っ先は確実に石井の急所を狙った。しかし石井も紙一重でそれを避けた。
服の生地や皮膚の表面が切れる感覚はあるが・・・どうも仕留めることができない。まずいな・・・このままじゃ先に疲れが出る。
一か八か・・・谷繁は手首を返して、石井の顔を目掛けて横にナイフを振った。
(しめた!)
その一撃を身を後ろに引いてかわし、石井は思った。大振りだ。当然隙が出来る。銃を構えるなら、今しかない。
サッと銃口を谷繁に向けた。
「かかったな!」
ナイフを持った手をそのまま垂直に振り下ろす。渾身の力で腕を振り下ろした先には、銃。
谷繁は見事に石井の手から銃を叩き落していた。虚を突かれた石井がうろたえる隙に、腹に蹴りを入れる。石井の体が吹っ飛んだ。
「ぐっ・・・」
「・・・あれ、狙撃銃だろ。最初に俺を打ち落としておくんだったな」
仰向けに倒れた石井に近付いて、ナイフを向けながら言う。
本当に一か八かの賭けだった。石井がろくに狙いもつけずに撃っていたら、銃を叩き落とすことなんて不可能だった。
銃が暴発しないとも言い切れない。
「俺は・・・話をしにきたんだ・・・殺すつもりで、来たんじゃない・・・」
「それでも、だ。最初に威嚇射撃するより、狙撃していたらこんな目に会わなかっただろ?」
「・・・そんなの・・・出来るかよ・・・昔の仲間、殺せるわけないだろ・・・」
ナイフを持つ手が震えていた。何だ?いいか。殺さなきゃ、俺が死ぬだけだ。この手を左胸に振り下ろせば、俺は死なない。
谷繁の動揺を見抜いたのだろうか。石井が谷繁の足を払った。倒れた谷繁にすかさず馬乗りになる。
拳で顎を殴りつけた。倒れてときにナイフを取り落としたらしい。さらに動揺する谷繁の顔にもう一発。
「っ・・・馬鹿野郎・・・!」
馬乗りのままで殴りつける。顎、鼻・・・殴るたびに腹が痛んだ。くそ、肋骨イったかな・・・
谷繁は驚くほど無抵抗だった。
石井は頬を伝う水滴に気がついた。何だよ、何で俺・・・
泣きながら相手を殴るなんて、おかしいな。そう思って谷繁を見ると、やはり涙が頬を伝っている。
何だよ。お前も同じ気持ちなんじゃねえか。・・・チクショウ。
殴り続けていた手を止めた。腹の痛みが増してきた。途端に天地が引っくり返る。上に谷繁の顔。
「タク・・・」
「ったく、馬鹿らしいよなあ・・・もう、いいや。殺れよ」
「タク、」
覚悟して目を閉じる。・・・しかし、いくら待っても覚悟した痛みが来ないので、また目を開けた。
泣いていた。肩を震わせて。そして搾り出すようにいった。
「出来るかよ・・・こんなの・・・」
ああ、何だ。説得出来るじゃねーか。やれば出来るもんだなあ。俺たちは分かり合えたんだ。なあ、谷繁。
次の一瞬は、酷くスローモーションに見えた。
赤。赤。赤。谷繁の顔が歪む。そして俺を視界から谷繁の顔が消える。のしかかっていた重みが無くなって、慌てて体を起こす。
仰向けに倒れた谷繁の胸に、鼓動と共に赤が噴き出す。手を添えると手が真っ赤に染まった。
急激に顔から血が引いていく。体が痙攣している。目が宙を彷徨っている・・・
「タク、俺、後悔しないで済んだな。お前を殺さなくて良かった・・・もし殺してたら、俺」
その続きを、俺は一生聞くことはない。谷繁はその続きを言うことなく、逝ってしまった。
「・・・誰だよ・・・」
「おい・・・やったの、誰だァ!!!」
ガサッと背後の茂みが揺れて、デニー友利が顔を出した。
「危なかったな」
「どうして・・・どうして・・・」
あいつとは分かり合えたんだ。殺す必要なんてなかった!
「どうして・・・ぁあああああ!」
我を忘れて、落ちていたナイフを拾ってデニーさんに斬りかかった。どうして撃ったんだ!!
振り下ろしたナイフは半身でかわされて、俺は前につんのめった。
その後、うなじに一撃。俺は気を失った。
「・・・佐伯、琢朗連れてってあげて」
デニーに呼ばれて木の陰から佐伯が顔を出した。佐伯には、ただ事態を見守ることしか出来なかった。【残り34人・選手会16人】
大量乙!
ベイバトロワのタクロー思い出してしまった。
かっこいいんだよね。
一部、一人称と三人称がわかりにくいのが残念。
モノローグは頭下げにするとか、
〜〜〜とか***
って線引いて囲むとかしていただけるとありがたいです。
細かいとこスマソ
>>108 やっぱ分かりにくいか・・・一応推敲して極力分かりやすくしようとは思ってるんだが。
プロじゃないからある程度は大目に見てくれ。
自分では何とかしようと思ってるんだけど、偶に時間がなかったり上手くいかないときあるから。
とにかく指摘dクス。
あ、本人ミテタ…
今のままでもちゃんとわかりますよ。
ただ107とか俺→石井の方がきれいかなと思ったりしたので。
上のほうの>95で山本、岩瀬なのが>96以降で岩瀬さん、山本さんになってたり
(違う書き手さんかな?これについては95も英智のモノローグで統一してしまった方がよいかも)
地の文へのモノローグの差し込み自体は面白いアイデアだと思うので、
うまく使いこなしてほしいです。
ウザかったらスミマセン…職業病でツイ…
もちろんどうしても直せとかではなく、
もしまとめサイトに入れたりするとき参考になれば。
>>110 あーごめん。それはただ単に昼休みに急いでうpしたから混乱して間違えただけっぽい・・・
まとめてくれる人いるか分からんけど、いたら修正キボン。
やっぱり急ぐのは良くないなorz
俺自身はウザくないっす。だって本当に間違えてるわけだし・・・
これからはなるべく急いでうpするのは避けて、よく見直すことにします。
重ね重ね指摘d。
16.自分に近い銃声
選手会が用意した武器は、厳重な警備に囲まれているであろうオーナーを
遠距離から狙うためものが主となっていた。
緒方が今手にしている銃も狙撃用のライフルだ。
(…近距離の武器じゃなくて幸いだったな)
視線と銃口の先に青いユニフォーム姿がある。
かなり距離があるため誰だか判らない。
判りたくなかった。
あれが誰か、判ってしまったら狙撃なんてできるわけがない。
だから、背番号も見ない。顔も見ない。
引き金に掛けた指が震えているのに気づいた。
(あれはただの的だ)緒方は自分に言い聞かせる。
(あれを撃って、オーナー達を撃って。野球だけに打ち込んでいられた時を取り戻す…!)
指の震えが、止まる。
緒方は覚悟を決め、引き金を絞る…
…急に嫌な感じがした。投手が牽制球を投げる直前のような。
帰塁しなくては!
茂みに飛び込むのとほぼ同時に銃声がして、一瞬前まで緒方が居た場所に弾丸が突き刺さる。
弾が飛んできた方を伺うと、凍り付くような冷たい視線とぶつかった。
(井端?!)
冷たい、無機質と言ってもいいような表情の井端がそこにいた。
ユニフォームに赤いものが散っていることに緒方は気づく。
その赤の正体はすぐに分かった。
血だ。
それも井端自身のものではなく、返り血。
「まさか…お前が三輪を殺したのか…?」
井端は答える代わりに、手にした銃を緒方の潜む茂みに向けた。
緒方はちらりと自分の銃を見た。近距離の撃ち合いでは分が悪い。
…逃げるが勝ち、だな。
身を翻して遁走する。井端は数発撃ってきたが、追っては来なかった。
「ん?」
そう遠くないところで響いた銃声に、紀藤真琴は訝しげに顔を上げる。
この島に連れてこられてから幾度も聞いた音だった。
だが、その音は今までのものよりも、…変な言い方だが、
「自分に近いもの」のように思えたのだ。
(気のせい…だよな?)
さてこれからどうしようか、と思案しながら森の中に身を隠す。
紀藤は知らなかった。
かつてのチームメイトであった緒方が、自分を(気づかなかったにせよ)狙撃しようと狙っていたことを。
その緒方を井端が襲い、狙撃を断念させたことも。
紀藤の勘は、当たっていたのだ。
…だがそれは、誰も知らないことだった。
【残り34人・選手会16人】
115 :
111:04/09/20 00:09:30 ID:DGTHctQs
今のところ、書き手は俺と103さんの二人かな。
書き始めてしまった後でなんなんだけど、
俺ドラファンじゃないって言ったら怒られるだろうか…?
ドラゴンズのバトロワは1の最後の方からリアルタイムで見てた。
2の番外編を書いたこともある。
他ファンがドラゴンズの選手が死ぬのを書いてもいいものか迷っているんだが…
どうだろうか。
116 :
112:04/09/20 00:10:09 ID:DGTHctQs
112だったorz
>>112 他ファンだろうがなんだろうが上手い小説書いてくれるなら、それでよし!と言ってみるテスト。
確かに軽軽しく選手が死んでいったら皆嫌な思いをすると思うけど、112さんの文章を見てるとそうは思えない。
そして今回のバトロワは他球団の知識も必要とする展開になるんじゃないかな?
こういうのは他ファンの方がより良い話を書けるんじゃないかと。
そんなに気にすることないと思うので、たくさん良い文章を書いてください。
118 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/20 02:45:50 ID:B0IzEFt0
携帯より保守
>>110 ウゼーよ。何様だ?
だったらテメーが全話書け。
書き手さんはどこのファン?
割り込みスマソ。今さらなんだが年齢を加えてみた。
あくまで参考までということでヨロ。
会 長 ヤクルト 古田 敦也 1965 39歳
副会長 巨人 清原 和博 1967 37歳
副会長 広島 緒方 孝市 1968 36歳
副会長 中日 立浪 和義 1969 35歳
副会長 横浜 石井 琢朗 1970 34歳
副会長 西武 高木 大成 1973 31歳
副会長 阪神 桧山 進次郎 1969 35歳
副会長 巨人 小久保 裕紀 1971 33歳
副会長 ロッテ 黒木 知宏 1973 31歳
副会長 日本ハム 岩本 勉 1971 33歳
副会長 巨人 高橋 由伸 1975 29歳
運営委員 阪神 片岡 篤史 1969 35歳
運営委員 近鉄 水口 栄二 1969 35歳
運営委員 横浜 佐伯 貴弘 1970 34歳
運営委員 横浜 デニー友利 1967 37歳
運営委員 オリックス 三輪 隆 1969 35歳
会計監査 阪神 今岡 誠 1974 30歳
会計監査 ダイエー 松中 信彦 1973 31歳
げ、ちゃんと空白入れたはずなんだが…orz
17.武器は要らない
気絶した石井をデニーが担いで戻ってきた。「ごめん、こいつちょっと見といて」とだけ
言い残し、さっさとデニーはどこかへ行ってしまった。古田はわけがわからず、
二人の後をついてきた佐伯に何があったのかを問うたが、ただ首を振るばかりで
要領を得ない。何かがあったことには間違いない。佐伯の様子から考えるに、
それは恐らく「悪い事」なのだろう。聞き出さなければならないが、このぶんでは無理だ。
石井が目を覚ますのを待とう。古田は黙って、二人から離れた。
それにしてもどうして、こんな事になっているのだろう。
オーナーを殺そう、というところまではなんとか納得もできた。
しかし、中日の選手と殺し合いをするなんて、そんなのは納得も何もない。
無理だ。無理なはずなのだ。なのに、なぜみんな、やる気になっているのだろう……。
乱闘みたいな、軽い次元の話ではない。生きる死ぬの話なのに。
ふとそこで、顔をあげた。
「……キヨは?」
近くで食事をしていた今岡がきょとんとして答えた。
「いませんけど?」
「誰かキヨ見てへんか?」
少し声を張り上げ、まわりの人間に聞く。皆知らぬと言う。
「そういえばしばらく見てないですよね」誰かが言った。
古田は急激に不安になった。
「どこ行ってんあいつ、こんな時に……」
その頃清原和博は、島のちょうど真ん中あたりにある、やや開けた草原でどっかりと腰を下ろしていた。
――三輪が中日の選手に殺された
それを聞いてからここへ来るまで、何の躊躇いも不安もなかった。武器も何一つ身に付けてはいない。
けれど、心配はなかった。自分のすべき事ははっきりと見えて……
「う、動くな!」
背後から頼りない声がした。選手会の誰かではなさそうだ。
「て、手を……あげて、ゆ、ゆ、ゆっくりこちらを向け」
清原は動かなかった。全く落ち着ききっている自分にとって、
動揺している相手など怖くはない。
「誰や」
低い声を響かせると、相手が数歩後込みした。
「ううう撃つぞ!」
「誰や言うてんねん。返事せんかい」
今度は震えているのだろう、かちゃかちゃと小刻みに金具の触れあう音が聞こえてきた。
返事はない。面倒くさそうに、首だけ回して背後を見る。
やや大柄の男が怯えた表情をして立っている。知らない顔だ。背番号は28だった。
手にはサブマシンガンらしき物が握られているが、あの腰の抜けた状態で撃つのは無理だろう。
「お前、中日の選手か」
「そ、そ、そ、そうで、す、けど」
「ちょうどええわ」
清原はのっそりと立ち上ると、一歩一歩相手に近づいていった。男は最初、少しだけ
後ずさったがすぐに固まってしまった。威圧するように睨め付け、がしりと右肩をつかんだ。
男は短い叫び声を上げた。
「立浪を呼んでこい」
男が大慌てで森の中へ消えていくのを見届け、清原はまた、最初にいた位置にどっかりと座り込んだ。
【残り34人・選手会16人】
18. ゆずれない心と
「だいぶ人バラけてもうたな」
支給された狙撃銃の状態を確認しながら、岩本勉が口を開いた。
「俺らもそろそろ移動した方がええんちゃうか?」
移動? どこに?
自然と眉間に力が入る。いらだちを隠しきれないまま、岩本の隣に座る黒木知宏は、
片膝を抱えた姿勢でただ押し黙っていた。
選手会役員の集合場所として指定された、草むらに囲まれたキャンプ地には今、
自分と岩本の二人しかいない。
元チームメイトを説得に行った者、見回りに出た者、何も言わずに武器を持ってこの場所を離れた者……。
他の役員たちは、深い森の中へと三々五々散っていった。
同じ選手会の役員同士とは言え、連携が取れているかと言えば実はそうでもない。
セ・リーグの顔ぶれが圧倒的に多い役員の中で、五人しかいないパ・リーグの自分たちは明らかに浮いていた。
少なくとも、黒木自身はそう感じていた。
(いや、三輪さんが殺されたから、あとは四人か……)
黒木はぎゅっと唇をかんだ。
なぜ三輪は殺されなければならなかったのだ?
しかも殺したのは中日の選手だという。なぜ?
オーナーたちを許せないという選手会の意向には黒木も賛同している。
当然だ。だが……。
「なあ、黒木」
急に話しかけられて、こわばった肩がピクリと動いた。
動揺する黒木に、岩本は苦笑する。
「なんやお前、緊張しとるんか? 俺は別に敵ちゃうんやから、そない警戒せんでも」
「気楽そうですね、岩本さんは」
岩本の言葉をさえぎるような形で、思わず吐き捨てる。
「……なんやねん、それ」
憮然とした様子の岩本の声が返った。彼の顔を見ないようにして、黒木は続ける。
「感じたことを言っただけですよ。嬉しそうに銃のメンテなんかして、やる気まんまんじゃないですか。
俺のことなんか放っておいて、さっさと中日なりオーナーなり殺しに行ったらどうですか。他の人たちみたいに」
どろどろした感情は溶岩のように胸の中で渦巻いていた。
岩本の一言をきっかけに、それが噴出しつつあった。
「ちょっと待てや自分。俺がいつ嬉しそうに……」
「岩本さんはいいでしょうよ。日ハムには元中日の選手なんかいないんですから。でもね、
ウチには波留さんがいるんですよ」
胸からこみあげる一つの思い。それによって枷が外されたかのように、黒木は一気にまくしたてた。
「たとえいた期間が短かったとしても、あの人は中日にいたんですよ。仮に俺が中日の選手を殺したとしたら、
俺はどんな顔して波留さんに会えばいいんですか! 俺はそんなの……」
想像するだけで。それ以上は言葉にならず、黒木は奥歯をかみしめる。
「………」
岩本がどんな顔をしているのか知らない。
自分の言ったことはただの八つ当たりだ。それはわかっていた。
きっと愛想をつかされただろう。途端に申し訳ない気持ちになる。
自分も岩本も言葉を発さないまま、しばらく沈黙だけが横たわった。
── ふと、隣の岩本が立ち上がった。
顔を伏せたままの黒木は、気配だけでそれを察する。
やはり怒っているんだろう。こんな自分など放っておいて、どこかに行ってくれればいい。
地面の草を踏みしめる音を聞きながらそう思った。
が。
(………?)
足音が止まった。自分のすぐ前で。
「ほんま世話のやける……」
心の底から呆れ返ったような声音で岩本が呟く。その声が間近で聞こえたことに黒木は驚いた。
「顔上げ。黒木」
岩本の呼びかけに、黒木を責める響きはなかった。
のろのろと視線を上げると、目の前に座り込んだ岩本の姿があった。
「あのな、これは俺のたわごとやから、聞き流してもらってええんやけど」
声のトーンを下げ、真顔で岩本は切り出した。
「こんなん間違っとる。選手同士でなんで殺しあわなあかんねん」
そら、俺には中日に知り合いはおらんけども、と付け足しながら彼は続ける。
「そやかて、あっちがホンマに本気なんかもわからんのやろ? 古田さんかて
説得できるんやったらって方向で動いてるんやし、俺もできたらそっちの考えで動きたいと思ってる」
(それは)
自分も同じだ。黒木は岩本の目を見た。気持ちが伝わったのか、岩本も真剣な眼差しを返してくる。
「とにかくオーナーを見つけるのが最優先や。敵はオーナーだけで充分や。それ以外とは、
会わんですむんやったらそうしたい」
── そう上手くいくはずないんやけどな。岩本は苦笑いを浮かべる。
「それでや。俺としては一人でも仲間がおった方が心強いんやけど…」
ちら、と上目遣いに岩本がこちらの表情をうかがってきた。
その先の台詞は容易に想像できた。黒木は表情をゆるめる。
この場所に来てから、はじめて出すことのできた笑みだった。
「……わかりました。俺も岩本さんの意見には賛成です」
「なんや無理強いみたいで悪いな。一緒に行ってくれるか?」
「もちろんです」
黒木は頷いた。うずまく負の感情が消えたわけではない、けれど。
今は岩本を信用しよう。そう思った。
【残り34人・選手会16人】
19. 見えない光
「ほんならそろそろ行こか。黒木、準備はどうや?」
デイバッグと狙撃銃を肩にかけた岩本が黒木を振り返り、言った。
黒木は自分に支給された狙撃銃を両手で横向きに持ち、しばし物思いにふけった。
(これは…使いたくない)
だったらここに捨てていけばいいのだが、それができるほど自分は強くない。
もし向こうが襲いかかってきたら、これで撃つ…のか?
黒木はかぶりを振った。それ以上考えないようにして、荷物を背負い直す。
「……大丈夫です。行きましょう」
二人はキャンプ地をあとにする。しばらく歩いたところで、黒木は隣を歩く岩本に話しかけた。
「すみませんでした」
「お、なんやいきなり」
広げた地図をながめていた岩本は、脈絡のない黒木の発言に面食らったような顔をした。
「さっきのこと…。俺、自分のことで頭が一杯で、失礼なことを言ってしまって…」
「あー、そんなんもう忘れえや。ようあるこっちゃ」
「…すみません」
それしか言えない。黒木は視線を落とした。
「お前は優しいからな。こんなドロドロしたことには向いてないんや」
「弱いだけですよ、俺は」
「ちゃうちゃう。お前の考えはマトモやで。いくら正当防衛でも人殺しはな……」
岩本は渋い表情で言葉を切る。
「アカン、俺としたことが暗いわ。この話題はもうナシな」
額に手を当て、おどける仕種で岩本が言う。
こんな時でもそうした振舞いを見せられる彼の強さというか、底なしの明るさには脱帽する。
それがたとえ岩本自身の弱さを隠すための演技だとしても。
「岩本さん」
「うん?」
「頼りにしてますよ」
「おう、任しとき。俺かてなあ、いつもお立ち台で『まいど!』言うてるだけの兄ちゃんとちゃうんやで」
ニヤリと笑って、岩本は自分の胸を掌でたたいてみせた。
つられて笑みをこぼしながら、黒木は気持ちがすっと落ちつくのを感じていた。
冷静になった心にまず浮かんだことは、素朴な疑問だった。
選手会の目的は、近鉄とオリックスの殺し合いを画策しているオーナーたちの
馬鹿げた考えを止めること。
しかし、それを察知したオーナーたちは中日の選手を使ってこちらの動き妨害しようとしている。
オーナーにたどり着くには、中日の選手による妨害をくぐり抜けなければいけない。
── ここまではいいとして。
(オーナーはどこにいるんだ?)
素朴どころか、一番肝心な疑問に黒木は眉をひそめる。
敵の居場所がわからないのでは、話にならない。
あるいは、中日の選手がその答えを持っているのだろうか…?
だとしたら……。
(俺は……)
再び心がざわめいた。
考えたくなくとも、考えざるを得ない。
口には出せない。とくに他の役員たちの前では。
それでもこれは、純粋な自分の想いだった。
(殺したくない)
黒木は一度目を閉じ、そして開いた。
目的ははっきりしているというのに、この自問自答に終わりはないと感じる。
光は見えない。それだけは確かだった。
【残り34人・選手会16人】
133 :
126:04/09/20 15:12:36 ID:qbGmbPkT
長々と連投スマソ。
「17. 武器は要らない」とは、少し時間軸のずれる話になってしまいました。
「9. 選手会の昼」の少し後の話ということにしてください。
134 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/20 19:37:08 ID:i+Gs8tbd
うわぁぁぁ
清原怖ぇw そりゃ固まる罠
137 :
112:04/09/21 12:00:15 ID:WFHy8xB4
20.巨人軍選手会長
「…由伸、お前、ずいぶん楽しそうだな?」
小久保の前を歩く高橋の足取りは軽く、今にもスキップでもしそうなほどだ。
「そりゃもう!」
振り向いた高橋は満面の笑顔を浮かべていた。
「小久保さんは嬉しくないですか?あのナベツネに、僕らが『たかが選手』じゃ無いって思い知らせてやれるんですよ」
「気持ちは分かるよ。俺も同じだし」
でもそんなに浮かれてはいないけどな、と心の中で付け加える。
「でしょ?でもあの人は僕が殺ります、譲りませんよ?」
無邪気に宣言した由伸の笑顔がすっと消える。
「…僕、行きたい球団があったんです。結局巨人に引っ張られましたけど」
囁かれる、ドラフトの裏話。
「親父さんの借金を読売が肩代わりしたって…」
「その辺はご想像にお任せします」
さらりと流す。
その表情を見て噂が真実であることを小久保は知った。
「他にも恨みありますし。僕だけのじゃないですよ。キヨさん、二岡、それに小久保さん…」
僕は巨人の選手会長ですから。そう言って高橋は笑う。
「しかしお前、そのために中日の選手を殺せるのか?」
そうだ、俺もあのオーナーは殺したい。だけど中日の選手は…
「殺しますよ。邪魔するんだったらね」
あまりにあっさりと高橋は言ってのけた。
ハンバーガーショップでポテトを頼むのと同じような口調だったので、小久保は絶句してしまう。
「憲伸や福留、川相さんとは会いたくないけど…会っちゃったら諦めて貰うしかないですかね?」
「かね、って、お前…」
「ま、会ってから考えても遅くないでしょ」
再び歩き出した高橋の後をあわてて追いかける。
138 :
112:04/09/21 12:01:14 ID:WFHy8xB4
ふと、高橋が真剣な顔で振り返った。
「小久保さん、僕思ったんですけど。もしかしたらオーナー達、ここに来てないかも」
「はあ?」
なにを突飛なことを言い出すんだこいつは。
「だってあの人、裏でいろいろやるタイプでしょ?
僕らをドラゴンズの選手と殺し合わせて、それを安全なところで見て笑ってるんじゃないかなあ」
「…確かに」
やりかねない。「たかが選手」といって憚らないあのオーナーなら。
「ま、いいか。ドラゴンズの選手誰か捕まえて聞き出せば」
そう言ってすたすたと歩き出す。
「お、おい!」
あわてて後を追いかけながら、小久保は内心で思っていた。
(こいつ、何考えてるのかよくわからないな)
苦笑しながら、もう一言。
(…今岡とは違う意味で)
【残り34人・選手会16人】
>>122-123 乙!
職人様も乙華麗です。新作ラッシュでうれしい。
他のバトロワスレも見つつ、実は一番期待してるのがここだったり
140 :
112:04/09/21 19:08:58 ID:WFHy8xB4
21.名コンビ
背番号22、柳沢裕一は、地図とコンパスを見ながら、黙々と歩き続けていた。目的は村。何か、使えるものが残っているかもしれない。
その時、人が歩いてる音がした。とっさに木の影に身を隠す。背番号が見えた。47番。川崎と別れ、一人でどこに行けばいいかも分からず歩き続けていた野口だった。
「野口、俺だ、柳沢だ」
その声に警戒しながらも野口は振り返り、柳沢と確認すると、一瞬ほっとした表情を見せ近寄ってきた。
「柳沢さん、無事でしたか。怪我はしてませんか?」
「大丈夫だ、お前も無事でよかったよ。お前も大丈夫そうだな。」
柳沢はスタート以来誰とも会っていなかった。銃声は聞いていたが・・・
「とりあえず、一緒に行きましょうよ。二人の方が安心できますし」
野口が切り出してきた。まぁ、野口なら一緒に行っても安心できる。仲間がいた方が心強いのも確かだ。
「ああ、一緒に行こう。お前がいた方が心強いしな」
「よかった。でもどこに行きます?とりあえず目標を見つけないと」
「とりあえず、村に行こうと思う。何か使えるものがあるかもしれない。家に身を隠す事も可能だし」
野口はうなずくと、柳沢の後に続いて歩き出した。
そして、選手会側に中村武志がついたのも、この時だった。
「中村さん、お待ちしてましたで」
佐伯は海岸で中村を迎えていた。
「おう。俺は何をすればいいんだ?殺し合いはお断りだぞ・・・元チームメイトを殺す事なんてできん」
「まぁ、中村さんが殺し合いなんてできへん人って事ぐらいは分かっておりますわ。要は、中村さんに中日の選手達を説得してもらいたいんですわ」
中村は、一瞬「はっ?」と言う顔をした後、又話し始めた。
「俺にはそんな巧みな話術なんて出来んよ。説得なんて無理だ」
「でも、中村さんは長年中日にいて今も中日の選手から尊敬されているやないですか。野口なんて典型的な例ですやろ」
中村はしばらく黙り込んだ後、口を開いた。
「分かった。俺の元チームメイトや選手会の選手達の命がかかってるんだもんな。出来る限りの事はしてみるとするか」
佐伯は一瞬笑みを見せた後、すぐに険しい顔に戻った。
「よかったわぁ〜。では、これを」
と言うと、中村に狙撃銃を手渡した。
「なっ・・・こんなものいらないよ。物騒な」
「中村さんに人を殺せって言ってるわけやありまへんで。自分の防衛の為ですわ」
「防衛の為でも、これはいらない。こんなものもちたくない」
中村は佐伯に返そうとするが、佐伯は強制的に持たせながら話す。
「持ってるだけでも威嚇になりますし、手ぶらで歩いてたら今のここではまさしく獲物でっせ。俺や選手会の為やと思って持っといてくださいな」
中村は再びしばらく黙り込んだ後
「分かった。ただ持っているだけだ。撃ちはしないがいいな?」
と一言言い、そして佐伯と共に歩き始めた。
そして、向かう先には村がある─
【残り34人・選手会17人】
>>145 中村さん乙。
でも選手会の人数増えてるよー。現在16人っす。
中村さんが増えたってことじゃないの?
あそうか。早とちりスマソ。
22. “魂”か、それとも天然か
キャンプ地を出発してから、一時間くらいは歩いただろうか。
地図で現在地を確認するため、岩本はいったん立ち止まった。
あたりはまだ高い木に囲まれた森の中だ。
×印をつけたキャンプ地の場所から指で進路をたどる。
ここからしばらく北に行くと、ぽっかりと円状になっている場所 ── すなわち見通しの良くなる
平原だろう ── にたどり着くらしかった。
(広いとこには出んほうがええやろな……)
そう考え、決めた進路を頭にたたきこむと、地図を折りたたんだ。
「平原に出る前に西へ折れよか。森の中も危険やけど、敵の動きはそっちの方がわかりやすいやろ」
「……そうですね」
神妙に黒木が頷く。スタート地点ではまだすっきりした表情を見せていたのだが、
ここに来てまた神経の尖った顔になってきている。
無理もない。小動物が草木を揺らす音にいちいち反応し、挙句の果てには一度他の誰かに ── おそらく
中日の選手だろうが ── 見つかりかけているのだ。ピリピリするのも当然のことだった。
「よっしゃ、ほな行くで」
岩本は再び歩き出す。黒木もすぐあとに続いた。
力ない足取りで自分の斜め後ろを歩く黒木を視線の端に見ながら、岩本はこっそり溜め息をついた。
黒木と行動を共にすることに決めたのは、単純に独りでは心細いというのもあったが、
それ以上に黒木を置き去りにはできなかったからだ。
マウンド上での感情のこもったピッチングから、“魂のエース”と呼ばれたこの投手が、必要以上に
細やかな神経の持ち主であることは、他チームながら岩本もよく承知するところであった。
そんな彼が果たして、『殺し合い』という現実を受け入れられるだろうか?
岩本は口中に溜まった唾を飲み込む。いやな味が舌に残った。
……そう、『殺し合い』だ。これは。
先程黒木に語ったことはすべて詭弁だった。
岩本自身は中日の選手と和解できるなどと思ってはいない。彼らはすでに役員を一人殺しているのだ。
(話しあうとか、そう言うレベルの問題ちゃうやろ、もう)
岩本とて、人殺しになるなど御免だった。しかし、攻撃されれば反撃するしかない。
そうしなければこちらが死ぬのだ。
普通に考えれば、中日球団の支配下選手と、選手会役員とでは数の差は歴然としている。
彼らを避けて通るなど、到底無理だとわかっていた。
(敵はオーナーだけで充分)
黒木に希望を失わせたくない一心で使った方便だったが、果たしてどこまで通用するものか……。
「岩本さん」
不意に、どこかしら明るくなった声音で、黒木が声をかけてきた。
「岩本さん。これ、食べます?」
そう言って黒木が差し出してきたのは、板ガムの入ったパックだった。
「……コーヒー味?」
彼の所属する球団の親会社が発売している、それも昔懐かしの味。
「復刻版ですよ。前に球団事務所の人にもらったやつ、ポケットの中にいれっぱなしにしてたの思い出して」
「……ふうん」
毒気を抜かれたような気分で、岩本は板ガムに指を伸ばし、三枚ほど失敬した。
「あ!それ取り過ぎ!」
「あほか、くれるもんは遠慮なくもらう。当然やろ」
「…もうあげませんよ」
仏頂面で胸ポケットに板ガムをしまい込む黒木のことはさておき、岩本は包み紙を取ってガムをほおばった。
(こいつ、ひょっとせんでも天然入ってる……?)
他人の気も知らず、急に立ち直られても困る。
どうやら、黒木に対する認識を一部改めたほうが良さそうだった。
(そら、こいつも伊達に“エース”っちゅう看板しょってたわけちゃうわな)
絶体絶命のピンチでいかに気持ちを切り替えられるか。
先発投手に欠かせない要素を、やはり彼は持ち合わせているようだ。
口の中が甘い。安っぽいコーヒーの味がやけに懐かしかった。
【残り34人・選手会17人】
22.会えて良かった
「選手会の方、増員したようですな」
白井は椅子に向かって言葉を投げた。正しくはその椅子に座っている人物に向けて、だが。
「ふん・・・どうやらそのようだな。盗聴した会話だと説得などと言っているようだが」
君も聞くかね?殴り合いの後に背後から撃たれた選手の首輪の盗聴記録だが。そう問われて白井は首を振った。
この人は死んだ選手の名前もろくに覚えていないんだな、と思った。
「説得などと無駄なことを・・・今に無駄だということを思い知るだろう」
渡辺恒夫は目の前の画面を見詰めた。画面に現れている4つの点。それが今まさに出会おうとしていた・・・
「白井君。覚えているかね」
「何を、ですか?」
「あの首輪には盗聴の他に機能があることを」
「・・・爆発ですか」
「そうだ。さて、あいつらは覚えているかな・・・」
―――柳沢と野口は村に到着し、村の中を歩いていた。
案外早く着いたな。さて、何か使えるものがあるか・・・
「あっ・・・!」
野口が小さく叫んだ。何だ?何かあったのか?
「・・・柳沢さん、逃げて」
突然、野口が言った。何言ってんだよ、会ったばかりなのに。
「今ならまだ間に合います。早く―――」
「だから「逃げて!あなただって人を殺したくないでしょう!!」
「何言って―――」
ガサッ
「・・・野口・・・?」
「っ!」
野口の肩がビクリと震えた。しまった、野口は人がいることを知ってたのか。それで俺に逃げろって言ったんだな。
俺は野口の言葉をまともに受け止めなかったことを、激しく後悔した。
「ははっ・・・良かったよ、野口・・・生きてたんだな」
「中村さん、どうして、いるんですか」
野口は俯いたまま、吐き捨てた。その様子に驚いたのは俺だけじゃない。話し掛けた本人・・・中村さんも驚いたようだった。
「野口、どうしたんだ」
お前は中村さんを慕っていただろう。それなのに・・・
「あっ、中村さん。もう選手見つけたんですか」
「ああ・・・」
「・・・」
野口が隣の俺に囁いた。
(佐伯さんと一緒にちょっと席を外してくれませんか)
やけに「佐伯さんと一緒に」という部分を力強く言ったのが、少し気になったが。
軽く頷いて、俺は荷物を足元に置いて手ぶらだということをアピールした。
そして佐伯さんの近くに歩み寄った。
「お?何や?やるんかい?」
「・・・ちょっと来てください」
そのまま手を引いて走り出した。
「あ?何やねん、おまっ、ちょっ!中村さーん!・・・」
二人の姿が消えたのを確認してから、野口が口を開いた。
「中村さんには・・・会いたくなかった」
「え・・・?」
さっきから野口の様子がおかしい。口調が激しい割に表情は苦痛を表している。
「中村さん。この首輪見えますか?」
「あ、ああ・・・どうしたんだ、それ」
少し離れているが、銀色に輝く首輪がはっきりと見えた。
「覇気が無かったり、裏切ったりすると、爆発するんです。これ」
「爆、発・・・?」
爆発。どの程度の物かは分からないが、それが首で発生するということは、無事では居られないだろう。
「中村さん。黙って聞いてくださいね」
先ほどから必要以上に野口が「中村さん」と呼びかけるのが気になった。
まるで自分の中に残しておきたい言葉のように、口にしていたから。
「中村さんは、必要な人間だから・・・」
顔を上げずに野口が言った。
「居なくなったら、困るんです。横浜だって・・・コーチの話とか来てないんですか?」
やけに自嘲的な口調で話し続ける。俺は黙って聞くしかなかった。
「でも、・・・僕は要らないんです。必要の無い人間なんです・・・」
「野口、それは「投げたって、抑えられない。そんな投手、必要ないでしょう?」
野口の調子が悪いことは知っていた。だけどまさかそんなに思いつめていたなんて・・・
「馬鹿なこと言うなよ。お前はまだやれる」
もう無理だなんて、外野が騒いでるだけじゃないか。お前がしっかりしないでどうする。
「・・・でも、どちらかが居なくなるなら、間違いなく、僕です」
「僕・・・中村さんを殺すなんてできません」
そう言った瞬間、ピッ、ピッ・・・という音がどこからともなく聞こえてきた。
そう言った瞬間、ピッ、ピッ・・・という音がどこからともなく聞こえてきた。
「中村さん、さようなら」
「待て、野口!殺せ!俺を撃て!!」
俺は野口の手に拳銃が握られているのを見た。それで俺を撃てば・・・そうすればお前は助かるじゃないか!
「やっぱり中村さんは優しいや・・・出来ればもう一度、あの頃みたいに・・・」
「野口!撃て!いいから!!」
「・・・」
野口がゆっくりと首を振った。ピッピッ・・・という音は段々速くなってきている。
「頼むよ、野口・・・」
俺の為に死ぬなんて、やめてくれ・・・
「・・・中村さん、ありがとう。会えて、良かった」
ピッ・・・音の最後は聞き取れなかった。それよりも大きな音が辺りに響き渡ったからだ。
「野口・・・っ!!」
俺は爆発の土埃の中で、自分を呪った。
野口、お前はいつか「中村さんのおかげです」なんて言ってくれたが、今お前が死んだのは、俺の所為なんだぞ・・・
俺は説得する為に来たのに、誰一人救えない、大馬鹿野郎だ・・・!
爆音を聞きつけて、佐伯と柳沢が走って戻って来た。
「野口は・・・死んだんですか」
俺は黙って頷いた。「・・・俺の所為だ・・・」
「・・・そう、ですか・・・」
煙が晴れてくると、地面に横たわった体が見えた。俺は直視できなかった。
「中村さん・・・」
「俺が来たのは間違いだったかもしれないな・・・」
「・・・中村さん。野口はあなたに会えて良かった。違いますか・・・?」
『会えて良かった』。最後に野口は、確かにそう言った。
「馬鹿、野郎・・・!!!」
俺は泣き崩れた。最後の最後に笑いやがって・・・!
「・・・あー中村さんがこんなんじゃ、もう、戦えませんねえ。勝負は預けとくわ」
佐伯が柳沢に目配せして、俺に肩を貸して立ち上がらせた。
視界の端で、柳沢が泣いたのが見えた。
なあ、野口。お前、こんないい女房役、居たんじゃねえか。なのに、どうして・・・
涙は、止まらなかった。【残り33人・選手会17人】
158 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/22 02:42:51 ID:/a+yP+FJ
「俺、来年横浜だと思うんす」
「な…」
言葉を失くす佐伯。
「もしそうなったら、吉見とかとトレードだと思うんすよね。いやね、やっぱウチも左投手欲しいし」
「おれは若田部だと思うが」
「横浜と中日って結構トレード成立しやすそうですね。特徴がまったく違うチームだからそれぞれ損失補てんできるっていうか…ま、とにかく来年はチームメイトになってると思います」
そう言って野口は佐伯のもとを去ろうとしたその時であった
訂正。22→23です。スマソ。
>>140乙。保管庫もできて本格的になってきたね。
>>149 おととい見に行ったファイターズの二軍戦で岩本が先発だった。
初回にホームランで2点取られて、その後彼は気持ちを切り替えられたのだろうか・・・
何か感慨深かった。乙。
24.ヒント
島の海岸。そこに一人のでかい男が寝ていた。
横に脱ぎ捨てたユニフォームにはMAKUTA 35と書かれている。幕田賢治だ。
幕田は、トランクス一丁で砂浜の上で寝ていた。さっきまで降ってた雨はやみ、今はすっかり晴れている。気温は20℃を超えているだろう。
「いい天気だな・・・こんな日に海岸に俺一人だなんて、まさに夢気分だ・・・殺し合いの事なんて忘れちまいそうだぜ」
そんな夢気分は長くは続かなかった。
ごろんと巨体を一回転させて寝そべり、ふと道の方を見上げる・・・そこに二人の人が見えた。
寝ぼけてよく見えないがこっちを見ているようだ・・・服は・・・中日の服じゃないな。
・・・ん?黒いものをこっちに向けて・・・銃!?
やっと自分の立場に気づいた幕田は、海に向かってビーチフラッグでスタートがかかったかのように走り出した。
その瞬間、足元の砂が飛び散った。あいつ、誰だか知らねえがいきなり打ってきやがった!
「うわああああああああああ!!!」
奇声を上げながらとにかく海に突っ走る。
勢い余ってコケた。その瞬間に頭上を鉄の塊が飛んで行った。
すぐに体勢を立て直し目の前の海に向かって走る。そして海に一気に入った。
すぐ右で「シュパン!」と音がした。くそっ、早く奥に行って完全に身を隠さないと!
クロールでばしゃばしゃ音をたてながら身を隠せる程度に奥まで行くと、すぐに潜り身を隠した。
なんかいい策はないか。ここにいつまでも身を隠せるわけじゃない。数秒考えて気づいた。
武器のフォールディングナイフをもしもの時の為に持っていたのをすっかり忘れていた。逃げるのに必死だったからな。
これで死んだふりをすれば・・・
さっきから絶えまなく「シュパン」と言う音がする。撃ってきているんだろう。
幕田は、腹の横をナイフで切ると、痛みで息を漏らしながらも、力まないで必死に力を抜いた。
体が水面に上がる。腹からは血が出ている。さらに仰向けに上がってきたものだから、幕田は完全に死体に見えた。
「よっしゃ、一丁上がり、ですね小久保さん」
水のちゃぷちゃぷと言う音と共に、その声が聞こえてきた。小久保・・・無償トレードってので巨人にトレードされた奴か。
「こいつは・・・MAKUTA?誰だこいつ」
体に力が入りかけた。ムカツク。こいつ絶対に殺す。・・・今のここでは洒落にならんな
「お前、人を殺したんだぞ、わかってんのか・・・人を殺してなんでそんな・・・」
海水がしみる、苦しい、早くあっちに行ってくれ。そんな事を幕田は祈り続けていた。
「こいつも敵なんですよ。敵は倒さなきゃ。まぁ、こんな所でモタモタしてないでさっさと行きましょう」
「あ、ああ・・・おいちょっと待て由伸」
その声とともに、ザッザッと言う音が聞こえ、だんだん遠くなっていった。
「プハッ!」
幕田は二人が去った事を確認すると、急いで荷物と服がおいてある砂浜に戻った。
そして体を拭くものがないのでとりあえずナップザックを体にゴシゴシ当てて拭き、ユニフォームを着ると、海水でびちょびちょになったナップザックを持って砂浜から走って逃げた。
まさか、自分が『殺されている』とも知らずに・・・
オーナーの「本部」
そこに一人の選手の死亡が伝えられた。
「背番号35、幕田賢治の生存信号が海岸で途絶えました!」
軍服を着た男が言った。
「マクタ?誰だその男は。マクタってのが名前なのか。まさにたかが選手だな、グワッハッハッハ」
渡辺恒雄が高笑いをしている。白井は何も言わずにじっと見ているだけだった。
「ハッハッハ・・・しかし、海岸に隠しカメラを設置できなかったのは惜しいのう・・・砂が邪魔で撮影できん」
「盗聴器は最後の声を捉えておりますが。奇声を発してその後にド・・・」
「まあ良いわ。そんなたかが1選手が死んだ程度でどうって事はあるまい、選手はまだまだいるんだからな、グワッハッハッハ」
こいつは一つ二つの命などどうだっていいのか・・・しかしそんな事を白井は言えるはずがない。
首輪の弱点。それは「海水」だった。だが、それを知る者は誰もいない。そして幕田も知らずに行く宛もなく逃げ続けている・・・
【残り33人・選手会17人】
164 :
112:04/09/22 07:19:54 ID:Px057N2r
25.若さ故の過ち
関川と土谷は向き合っていた。
土谷の目は血走っており、手にした日本刀は鞘から抜き放たれている。
(…土谷は「やる気」のようだ)
「どういうつもりだ?俺たちの相手は選手会だろう?」
とりあえず声をかけてみる。
「ええ。でも考えてみてくださいよ。選手会は僕らの半分くらいの人数でしょ。
どうやったって最後は僕らが勝つに決まってるじゃないですか。
だったら、折角だから、外野のライバルを一人でも減らしておこうかと思って。
渡辺さんだって自分の身を守れたら、僕があなたや幕田さんや英智さんを殺したって文句も言わないでしょうよ」
関川はため息をつく。やれやれ、まさか。
「だから、死んでください、関川さん!」
そう言って土谷は刀を振りかざして関川に襲いかかった。
関川はまったくあわてなかった。ズボンの後ろのポケットに手を伸ばしてー
165 :
112:04/09/22 07:20:22 ID:Px057N2r
(え…?)
腹に熱を感じる。
撃たれたのだと、すぐには分からなかった。
流れ出る赤い血と、力が入らなくなっていく体をもてあまし、その場に崩れ落ちる。
「土谷、お前さあ、俺が反撃してくることは考えてなかったのか?」
倒れた土谷に無造作に近づき、力を失った手から日本刀を奪いながら、関川は語りかける。
「腹ががらあきだったよ。もうちょっと防御にも気を配るんだな、次があればね」
「…なんでっ」
土谷の口から血の泡とともに疑問がこぼれる。
「ん?なんでお前を撃ったのか、って?」
関川はすごみのある笑顔を浮かべた。
「俺もお前と同じ事を考えていたんだよ」
「……」
「お前はまだ若いから、ライバルを蹴落とそうなんて考えずに自分を磨けばよかったのに。そうすれば今は無理でも5年後には」
「……」
「ま、それも若さって奴かな。うらやましいよ。…さて、そのままだと苦しいだろうからとどめを刺してやる」
関川は引き金を引いた。
土谷の頭が大きく揺れ、動かなくなる。
それを確認すると、関川は森の中に消えた。
【残り32人・選手会17人】
中日バトロワの職人さん方はメチャクチャやる気ありますね!
乙です。
>>152-157 途中で一人称になっちゃうのは最早デフォですかw
いや、いいんですけど。ちょっとビックリしますw
>>166 え!?一応柳沢一人称→中村さん一人称にしたつもりだったんだけど・・・
オーナー二人の会話は違うけど。
それでもおかしいとこあったら、訂正するから教えてくれ。
おまえら
激しくがんばれ。
169 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/22 14:08:14 ID:qpDD99MD
すごいですね。この熱さ。読んでて泣けてくるんですが…
他球団ファンではありますが、めちゃくちゃ楽しみにしてます。
職人さん(,,゚Д゚) ガンガレ!!!!!
すげー!!!
正直こんなに職人さんがイッパイ書いてくださるとは思ってなかった。
立て直して正解だったよ!
職人さんは中日ファンじゃないの?
よく選手の名前知ってるね
26.間違いじゃないと
石井は選手会の本拠地(今は海岸にテントが張ってあるが、日毎に移動する計画である)で、ぼうっとしていた。
元チームメイトが死んだ。一緒に優勝を経験した仲間が、チームメイトに殺された。
その事実が石井を追い詰めた。
(俺は何をしにここに来たんだろう)
―オーナーを殺すため?いや、そんなこと具体的には考えていなかった。・・・ただ義務だったからだ。
―義務で、人を殺すことが出来るのか。・・・少なくとも俺は出来ない。
海岸を眺めながら自問自答していると、誰かが帰ってきた。
「おぉーい。ご帰還やでぇー」
―この声は佐伯だ。中村さんを伴った作戦は成功したのだろうか。
「おお、琢朗。居ったんなら返事ぐらいせぇや」
「・・・中村さんは?」
佐伯は軽く首を振った。「アカン。無理やった。選手が一人死んだ」「・・・そうか」
「・・・中日の選手な、仕方なくやっとるみたいや。何でも首輪を付けられて・・・」
「・・・知ってる」
―谷繁がそれらしきことを言っていた。逃げたら首を吹っ飛ばされて死ぬとか、何とか。
―結局、アイツは拳銃で打ち抜かれて死んだが。
そこまで思い出して、石井は吐き気がした。そうだ。谷繁は死んだんだ・・・
「・・・とにかく、中村さんここに置いてくわ。痛々しくて見てられん。誰かお前の他に居らんのか?」
「・・・あっちに松中がいる。火の番をしてるはずだ」
「そか。松中なら大丈夫そうやな。手伝ってもらお」
「中村さん、怪我でもしたのか?」
「気絶してん。目の前で自分を慕っとった奴が首吹っ飛ばされて・・・」
「・・・そうか」
中村さんも、俺と同じか。
―しばらくして、松中が中村さんを担いでやってきた。
「佐伯は?」と聞くと「また森の方に行きましたけど・・・」という返事が返ってきた。
それだけで別段気にも留めなかった。
「・・・ぁ」
「中村さん!」
「・・・ここは?」
「選手会がキャンプ張ってるところです。水、飲みますか?」
―中村さんが頷いたので、松中が水を手渡した。
「・・・駄目だ、俺は。誰一人救えない。来なきゃよかったな」
「そんな・・・」
―それなら俺たちの方が悪人だ。あなたを呼んだ俺たちの方が。
「なあ・・・もし、自分が慕っている人が居たら・・・その人の為に命は捨てられるものなのかな」
―それは、分からない。俺には分からない。
「俺は・・・」
黙っていた松中が口を開いた。
「尊敬している人がもしピンチだったら、助けたいと思うのは当然だと思います」
その眼はやけに真剣だった。
「・・・松中、行けよ」
「え?」
「お前の尊敬している人は、今森の中なんだろ?」
「・・・」
「もしかしたら、ピンチかもしれない。でもこの場を離れるわけにもいかない」
「・・・はい」
「俺がここを受け持つよ。お前は行って来い」
「でも・・・」
「だけどなぁ、いいか・・・死ぬな。必ず生きて戻って来い。パリーグの灯を消すな」
「・・・はい!」
「・・・ちょっと待て」
―中村さんが松中に声をかけた。止める気だろうか。
「これを、持っていけ」
自分の狙撃銃を松中に手渡した。
「いいか。約束しろ。これは誰かを殺す為に使うんじゃない。お前が慕っている人を守る為に使うんだ」
「はい」
松中が強く頷いた。そして森の中へと走り去った。
「・・・俺たち、間違いましたか?」
「・・・分からない」
―間違いかどうかは、松中が決めることなのかもしれない。
「だけど、アイツは俺が出来なかったこと、出来るような気がして」
「俺も、同じです」
―俺たちは、俺たちが間違っていないことを信じるだけだった。【残り32人・選手会17人】
なんつーかさ、ドラ選手だけじゃなく他の選手にもドラマがあっておもしろい。
職人さん、ありがとう。
177 :
166:04/09/22 19:45:25 ID:dv5cFGEG
>>167 つまらない事言ってすみません;
わかってて読めば何ともないんですけど、初見では「んん??・・あ、替わったのか」って感じだったので。
ちょっとスムーズじゃないな、と思ったのです。
ごめんなさい、気にしないで下さい;
自由に書いて頂けるのが一番良いです。失礼しました。
178 :
112:04/09/22 21:24:21 ID:Px057N2r
27.決意
中村と佐伯を見つけた川崎は、嫌な予感を感じて二人を追いかけ、
…そして、野口の死を見せつけられた。
ーなんでだよ。
信頼するキャッチャーに出会えたことを最後の思い出に死ぬのは、
お前じゃなくて俺の筈だったのに。
がっくりと膝をつく。少し向こうで、野口のそばでうずくまっている柳沢と同じように。
ーお前はドラゴンズのエースで、これから未来があったはずだ。
こんな血塗られた島で死ぬなんて、そんなのってあるかよ。
…畜生!
拳を地面に打ち付け、声もなく慟哭する川崎の目が、ふと細められた。
川崎の目の前に、なにか不自然なものがあったので。
「…?」
それは、茂みの中に巧妙に隠されていた。
…だが、それのもつ機械的なフォルムは自然のものとは相容れない。
(なんだ…あれは、…カメラ…?)
そう、それは渡辺の指示で島の至る所に仕掛けられた隠しカメラのうちの一つだった。殺し合いの映像を撮影するための。
179 :
112:04/09/22 21:24:57 ID:Px057N2r
レンズが野口に向けられているのに気づいたとき、川崎は全身の血が沸騰するほどの怒りを覚えた。
立ち上がると、柳沢が驚くのにかまわず、野口のそばに落ちたままの銃を拾う。
カメラのレンズに、画面の前にいるだろうオーナーに、銃を向ける。
首輪を爆発させられるかもしれないが、それでも良かった。
俺たちがどんな思いをしてるのか。
野口がどんな思いで死んでいったのか、お前らには分からないだろう?
この映像を笑って見ているであろう、お前らには。
「…俺は、お前らを許さない。絶対殺す」
一発、二発、三発。弾丸を撃ち込む。
カメラだったものはただの塊と化した。
「川崎、これは…!」
近づいてきた柳沢が川崎が撃ったものを見て息を呑む。
「野口の仇を討つ。行くぞ、柳沢」
その言葉に柳沢が大きく頷いた。
【残り32人・選手会17人】
180 :
112:04/09/22 21:26:03 ID:Px057N2r
28.オーナーのいる光景
映像の一つに銃口が映り、その後ノイズに変わったのを見て、渡辺恒夫は顔色を変えた。
「なっ…!生意気な!今のは誰だ!」
川崎と柳沢のようです、と答える白井に向けて怒鳴り散らす。
「そいつらの首を今すぐ吹き飛ばせ!思い知らせてやる!」
「まあまあ、渡辺さん、いいではありませんか」
表面上だけはにこやかな、違う声が割って入った。
「…なんだ、宮内君。あいつらは俺にたてついたんだぞ。それを放っておけというのかね、君は」
ええ、と涼しい顔で頷く宮内に、渡辺の顔はさらに赤くなり、対照的に白井の顔は青ざめる。
「あの二人には首輪がついており、こちらからいつでも爆発させられます」
「だからそれを今すぐ作動させろといってるんだ!」
「それではおもしろくないでしょう?」
その言葉に渡辺と白井は意表をつかれる。宮内は笑顔を浮かべた。
「いいじゃありませんか、好きにさせてやれば。
そのうち、どうやっても私たちを殺すことなどできないと分かるでしょう。
絶望した顔を楽しんでから吹き飛ばしてやったって遅くはない…」
その言いぐさに、白井はぞっとする。
…そうだ、オリックスと近鉄の合併を画策し、1リーグ制が難しいと分かったそのときに、
あっさりと両球団を消滅させることを了承した、それがこの宮内義彦という男なのだ…
「なるほど、さすがは宮内君だな。面白いことを考えつく」
渡辺の笑い声を聞きながら、白井は目を伏せた。
…自分は、一体何をやっているのだろうか。
181 :
112:04/09/22 21:26:57 ID:Px057N2r
「新井君、この前のホームランはいい感じだったね。今シーズン残り少ないけど、期待してるよ」
「はい、オーナー。頑張ります!」
「前田君、最近足の調子、あんまり良くないんじゃないかい?」
「お気遣い痛み入ります。でも大丈夫です」
「そうか。…無理しすぎないでくれよ?」
広島市民球場での練習を視察にやってきて、選手一人一人に声をかける松田元オーナーを見て、
内田バッティングコーチは目を細めた。
…なんていうか、「オーナー」らしくないよな、この人。
内田が2年前まで所属していた巨人のオーナーと心の中で比べて、こっそり苦笑する。
ナベツネさんが練習を見に来た事って、あったっけ?試合は時々来てたみたいだけど。
あの人、下手したら自分の球団の選手の名前、ほとんど知らないんじゃないのかなあ?
…ホントは、うちのオーナーが球界のトップだったらいいのかもな。そうしたらもうちょっとうまく行くだろうに。
でも、いい人すぎるかな。
「内田コーチ、ちょっと」
山本監督から手招きされて、内田は小走りに監督の下へ行く。
「わしは今からオーナーと話があるけえ、先に練習はじめといてくれるか」
「わかりました」
じゃあ頼むわ、と言い残して監督とオーナーがベンチ裏に消えていく。
多分去就の話なんだろうな、この時期だし。
そう軽く考えて、内田はノックバットを手にグラウンドに戻った。
…実際は、内田が思ったのよりも深刻な話がなされていたのだが…。
【残り32人・選手会17人】
29. 息を殺す森
鳥の鳴き声が途絶えたのはいつだったか。
けたたましく、甲高く響きわたっていた、鶺鴒(セキレイ)の声はどこへ消えたか。
岩本は上方を仰いだ。
北の平原が見える前に西へと進路を変え、彼らはさらに樹々の間隔がせばまった感のある
森の奥地へと入り込んでいた。
押しつぶされそうに濃い緑の間からもれる陽の光は、ほんのわずかしかない。
「……静かですね」
黒木がささやくように言った。互いの呼吸音さえ鮮明に聞こえる程の静寂の中で、地声は不要だった。
「そやなあ…」
しん、と澄みわたる空気に、自分の呟きが吸い込まれていくような。
そんな錯覚をおぼえながらも、岩本は別のことを考えていた。
おそらくは、予感していた、予感していなければならなかったこと。
今から約二時間前、自分たち二人は『敵』に見つかりかけて ── 姿を見られている。
それが意味するところを。
「岩本さん?」
自分の緊張が伝わったのか、黒木が不安そうに声を揺らした。
「……知っとるか、黒木」
肩に引っかけたデイバッグを、わざと音を立てて地面に落とす。
掌がじとりと汗ばむ。こんな緊迫感、初めて開幕のマウンドに上がった時以来だろうか。
「音のない森には何もおらんのとちゃう。何かがおるんや」
森に住む生物は、食物連鎖の上位に立つ存在を確認したとき、いっせいに息を潜める。
ここに餌になるものは居ないのだと、主張するかのように。
岩本は何のためらいもなく、狙撃銃を構えた。
「そやろうが、そこのハゲ!!」
密集する木々の間へ向けて発砲する ── 乾いた銃声が大気をしならせ、拡散した。
その余韻が引かないうちに。
「!」
岩本は隣にいる黒木の後頭部をとっさにつかみ、そのまま共に草の上へ突っ伏した。
ダダダダダダダッ!!
ライフルの銃声とは比べ物にならない連続した轟音が、地面に擦り付けた頭の上を通過していった。
そして。
「……あーあ。せっかくの弾を無駄使いしちゃったじゃないか。どうしてくれるんだよ」
心底かったるそうな声で、その場に現れた何者かが口を開いた。
声音を聞く限り、まだ年若い人物のようだ。
岩本は相手に視線を据えながら、素早くかつ慎重に立ち上がった。
起き上がろうとしている黒木をかばうように横へ身体をずらす。
「誰やお前 ──」
構えなおしたライフルの銃口をそちらに向け、岩本は聞いた。
しかし相手は向けられた狙撃銃のことなど意にも介していない様子で、呑気にあくびなどしてみせる。
「やっぱり朝倉さんと合流するべきだったなあ…。寄り道なんかするんじゃなかった」
「おいコラ。そこのクソガキ」
せめてもの威嚇のつもりで岩本は低く声を押し出す。
と、そこでやっとこちらの存在に気づいたような表情をして、その人物が岩本を見返った。
ひょい、と全く動じない仕種で、軽く両腕を上げる。その左手に握られているのは、
先程岩本たちを狙ったサブマシンガン。
「あのさあ、軽々しくそんなもの人に向けないでよ。危ないじゃん」
……言っていることとやっていることが違う。そう突っ込みたいのを我慢して、
岩本は相手の頭からつま先までをざっと視線でなぞった。
身に着けているのは中日ドラゴンズのユニフォーム。やや細身の体型に、女性受けの
しそうな端正な顔立ち。
胸の下に見える番号は……70番。
岩本も、そしておそらくは黒木も、知らない選手だった。
「それとさあ、おじさん」
気楽に続けてくる相手の口調は、まるで世間話のそれだ。
この動じなさは尋常ではない。
得体の知れないものを目の当たりにした気分で、岩本はわずかに戦慄した。
「一応ハンサムを売り物にしてるのに、ハゲはないんじゃない?」
── 背番号70番、中里篤史は、そう言ってにっこりと微笑んだ。
【残り32人・選手会17人】
185 :
126:04/09/23 01:45:15 ID:ymJaA4z6
中里のキャラは完全に2002年ver.の影響を受けてます。
捏造しすぎかもしれない。ウザかったらスンマセンorz
新作、空欄が多くて読めないのですが…
中里キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
30.悪を倒す武器
「孝介、本当にこっちでいいのかよ」
「多分・・・」
―俺たちはただ逃げていた。日が暮れる前に一晩過ごせる場所を見つけておきたかった。
―目を付けたのは村。先ほど聞こえてきた爆音は気になるが、行ってみる価値はあると思った。
「・・・銃声、増えたな」
「ああ」
荒木がポツリと呟いた。最初は全然聞こえなかった銃声も、今は四方から聞こえてきていた。
―殺し合いは、着々と進んでいる・・・
「ちょっと待って、孝介」
「ん?」
「・・・足跡だ」
荒木に促されて福留が下を見ると、まだ新しい足跡が濡れた土の上にはっきりと残っていた。
「まだ新しい・・・」
「誰か、近くにいるのかな」
「もしかしたら、な」
念のため銃を構え、気を付けながら進む。
「・・・おい!」
しまった!人だ!慌てて銃をそちらに向ける。
「おい、撃つなよ、福留」
「あ・・・」
―昌さんだ!ほっとして、構えた銃を下ろした。
「驚かせたみたいだな」
「あ、すみません・・・銃向けちゃって」
「いいよ。それぐらいしないと自分のことも守れないしな」
そう言うと、山本は茂みに向かって「大丈夫、福留と荒木だよ」と呼び掛けた。
「二人とも、無事なんですか?」
茂みが動いて岩瀬が顔を出した。頬に泥がついているが、元気そうだったので福留は安心した。
「お前ら、この先に行くつもりか?」
「あ、はい」
「悪いことは言わない。やめとけ」
「え?」
思わず福留と荒木は顔を見合わせた。
「・・・野口が死んだ」
「そんな・・・!!」
「今、埋葬してきたところだ。現場を見たくなければこの先へは行かない方がいい」
「・・・」
「首から上が無かったよ・・・あいつは戦うことを拒否したんだろうなぁ・・・」
「・・・そう、ですか・・・」
「馬鹿だよな。まだまだやれたのに」
「・・・」
―言葉が出なかった。人一人が居なくなるということに、ただショックを受けていた。
「お前らは、死ぬなよ。いい武器があるんだ。自分の身は守れるな」
「・・・はい、きっと」
「よし。・・・ん?荒木、お前の武器は何だ?」
「あ・・・これです」
荒木が荷物と一緒に持っていた弓矢を差し出した。
「・・・弓矢か」
「はい。なかなか使えませんよね、これって」
「いや・・・知ってるか?弓矢って魔除けになるんだぞ」
「え?」
「外国じゃ銀の矢は悪魔退治に使われるし、日本でも破魔矢ってあるだろ?」
「破魔矢・・・」
「そうだ。上手く使え。お前の武器だ、荒木」
―ふと視線を落とすと、昌さんの手にキャッチャーミットが握られていた。
「キャッチャーミットですか、昌さんの武器」
「いや・・・これ、野口の形見に」
「あ・・・」
「あいつの荷物の中に大事にしまわれてたよ・・・プロテクターもあったけど、これだけ持ってきた」
「昌さん!」
「ん?」
「・・・これからどうするんですか?」
「多分、会いたい奴がこの島に来てるんだ。・・・会いに行くよ」
それから岩瀬の方を向いて「悪いなあ。付き合わせて」と言った。岩瀬は何も言わずに笑んで頷いた。
「お前らは?」
「・・・分かりません」
福留は首を振ったが、荒木は違った。
「俺・・・俺に出来る事があると思うんです。人殺しじゃなくて、もっと別の」
「そうか・・・まあ、どうするかはお前たちが決めることだ」
「はい」
「じゃ、同じ場所に留まるのは危険だ。そろそろ行こうか」
「孝介、ごめんな。勝手なこと言って」
―二人と別れてから荒木が言った。
「いいよ。俺もお前の言ったことには賛成できそうだ」
―そう言って荒木の武器である弓矢を見た。
・・・きっと倒すべきは悪魔のような奴・・・だが、もし、知っている人が人を殺していたら?
そのときは、どうするんだ?荒木・・・【残り32人・選手会17人】
乙!本当に盛況だなあ、毎日読めてうれしいです。
一人称のとこもすごく読みやすくなりました。
話考えるだけでも大変なのに、聞き入れてもらってありがとうございます。
193 :
(166):04/09/23 13:12:01 ID:j51zL7dQ
職人さん、流石です! 凄く(・∀・)イイ!感じです。
無理せず頑張って(矛盾?)くださいね。
31.どうしよっかなあ
「どうしよっかなあ、どうしよっかなあ……」
数歩前を行く男は、さっきからずっと呟き続けている。森野はいい加減、うんざりしていた。
背番号が一つ違いだからって、チーム最年長の大ベテランだからって、
わざわざあわてて走ってまで、探すんじゃなかった。森野は思った。
大変なことになりましたね、武器は何が入ってましたか、とりあえずどこを目指すんですか、
一人より二人の方が良いですよね、銃声がしませんでしたか――――
何を言っても「さぁ、どうしよっかなあ」としか返事をしない。
頼りにしようと思って来たのに、全く役に立ちそうもない。
「みんな、無事なんでしょうかね」半ば独り言に近い台詞に、返ってきたのは
「さぁ、どうしよっかなあ」だった。我慢ならなくなった。
「さぁ、って何なんですか。チームメイトのこと、心配じゃないんですか?」
森野が立ち止まると、前の男も止まって、振り向いた。
「川相さん、さっきから何なんですか? どうしようどうしようって言うばかりで、
先のこと何にも考えてないじゃないですか。いいですか、俺ら人殺しになるかも
しれないんですよ? 逆らったら俺らが死ぬかも知れないんですよ?
そんな、『どうしよっかなあ』なんて暢気なこと言ってる場合じゃないの、わかってるんですか?」
捲し立てていると、余計に腹が立ってきた。それに川相は申し訳なさそうな
そぶりをみせるでもなく、薄笑いを浮かべたまま森野の方を見ている。それが森野の目には、
人を馬鹿にした態度として映り、ますます止まらなくなった。
「そりゃ川相さんはいいですよ、世界記録持ってるし、もう十分野球やって満足いってるの
かもしれませんよ。でも、俺はまだ全然なんです。今からが勝負なんですよ。
俺、まだまだ野球やってたいんです。こんな事で死にたくない。だから……」
「あっ」
川相が驚いたように、森野の後方を指さした。ぎょっとして振り返る。
人影らしいものはないが――とそこで、川相が走り出した。
「ちょっと、どうしたんすか? 敵ですか?」
まわりを警戒しながらその後を追う。死ぬわけにはいかない。撃たれたら撃ち返す。
手にした銃をぎゅっと握りしめた。
少し行ったところで川相はしゃがんだ。何だろう、後ろからのぞき込んだとき
川相がにっこりと笑って森野の顔を仰ぎ見た。
「ほら、こんなとこに花咲いてる。日当たり悪いのになあ」
森野はがっくりと肩を落とし、とぼとぼと歩き出した。
川相さん、俺ここで死にたくない。生きて返って野球がしたい。だから、
誰かに助けて欲しかったんですよ。川相さんだったら、きっと助けてくれると
信じてたんですよ。でも、俺の思い違いだったんですね。川相さんは、もう、
正気を失っちゃったんだ。諦めよう。誰探せばいいかな。井端さんかなあ……
森野がいなくなったのを見計らって、川相は立ち上がった。
「どうしよっかなあ」
呟いた直後に、自嘲の色を帯びた溜息をついたのを、盗聴器は聞いていた。
薄笑いを浮かべていた顔が一瞬引き締まり、ある方角を睨み付けたのを、監視カメラは見ていた。
けれど、それに気づいた人間はいなかった。
【残り32人・選手会17人】
196 :
112:04/09/24 00:22:50 ID:QRi1StFY
32.仲間か、愛する人か
スイッチがついた携帯電話ほどの大きさの箱と、ヘッドセット。
それが平松に支給されたデイバックから出てきた「武器」だった。
しばらく躊躇った後、ヘッドセットを耳に当て、そっとスイッチを入れてみる。
ザーザーと砂嵐のような雑音がしていたが、次第に収まっていく。
(ラジオか何かか?)
『やあ』
イヤホンの向こうから声が聞こえ、平松はびくり、と体をこわばらせた。
『これを持っているのは平松君、かな?』
「なんでわかる」
『君たちの位置は、その首輪で把握してるんだ』
「…そういうことか」
平松に支給されたのは、オーナー側との通信機だった。
『平松君には、こっちの指示に従って動いて貰いたい。もちろん武器や情報は提供するよ』
「…俺に一体何をさせたいんだ?」
『まずは、先程も説明した、選手会役員の殲滅。それからもう一つは…』
もう一つ?他に何かさせるつもりなのか?
『督戦って、知ってるかい?』
「トクセン?」
『要するに、戦おうとしない選手、我々に逆らう選手を始末してほしいんだよ』
さらりと告げられた内容に絶句する。
要求されたのは、チームメイトを裏切って、オーナーにつくこと。
「…っ、ふざけるな!」
思わず怒鳴りつける。大きな声を出すと危ない事になど、気が回らなかった。
「俺にチームメートを裏切れっていうのか!絶対にごめんだ。そのくらいなら、死んだ方がましだ!」
197 :
112:04/09/24 00:24:40 ID:QRi1StFY
しばらく、沈黙が落ちた。
通信機の向こうの人物がついたため息が、ひどく大きく聞こえる。
『…本当に、そうなのかい?』
「え」
『本当に、チームメートを裏切るぐらいなら死んだ方がましだって言うのかい?
…好きで入ったチームでもないだろうに、殊勝なことだね』
そうだ、確かに自分が望んで来たわけじゃない。
でも、選手なら誰だって、トレードは当然あり得ることと考えている筈だ。
平松の動揺を見透かしたかのように、続けられる声。
『君の恋人…矢田亜希子君だったかな。君が帰ってこなかったら悲しむだろうね』
「……!」
『恋人が遠くに行ってしまって、彼女も寂しかったんじゃないかな。
ああそうだ、君が生き残れたらトレードで巨人に戻してあげよう』
うん、それがいい、などと言う声を、平松は呆然と聞いていた。
「そんなことができるわけが…」
『できるさ。我々が決めたことに逆らえるものなんていやしない。分かるだろう?
…さて平松君。君の人生だ、ゆっくり考えて決めたらいい。決まったらそれで連絡してくれ」
(俺は、どうしたらいい…?)
音のしなくなった通信機の前で、平松はただ立ちつくしていた…
【残り32人・選手会17人】
32.特別支給品
「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」
幕田は走り続けていた。横腹の切り傷の痛みなど忘れてしまっている。試合なんかではこんな走りは出来ないだろう。
「なんだ、あれは・・・」
視界に村が見えてきた。
「休むには丁度いいな・・・何かあるかもしれん」
村に着くと、足を止めて探索しようとしたが、その瞬間「べちゃっ」と言う音とともにコケた。
「いてぇ・・・なんだよ水溜りか・・・?」
幕田は立つと、パンパンとユニフォームを叩き、歩こうとした。その瞬間、幕田はある事に気づいた・・・
「あれ、手がやけに赤い・・・血っ!?うわああああああああ!!」
気づいたときには、幕田は血の海の真ん中に立っていた。ユニも血だらけになっている。幕田は再びパニックに陥った。
幕田は急いで近くの家に上がると、水道で手とユニフォームに付いた血を洗い流した。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・ふう・・・ふうぅ・・・」
幕田は必死に心を落ち着かせると、ヘナヘナと床に座り込んだ。
「な・・・・なんなんだあの血は・・・あそこで誰か死んだのか・・・あ、ユニフォームびちょびちょになっちまったな・・・」
とりあえず幕田は立とうとした。そのとき目に「保存食」の文字が飛び込んできた。
「こっ・・・これは・・・」
幕田はすぐにその袋を取ると、中身を全て出した。
中身は、水 2g・缶詰 5個・大型の乾パン 20枚が入っていた。
「よし。こんだけあれば十分かな。いいもんあったぜ・・・」
そう言ってとりあえず水道水と乾パン3枚を食べると全てナップザックに詰め、塗れたユニを着て家を飛び出していった。
それがオーナーからの特別支給品だと気づかずに・・・
背番号11、川上憲伸。川上はある人物を探していた。背番号43番、小笠原孝。川上の大切な後輩だ。
「小笠原・・・お前は今どこにいる。生きていてくれ、頼む・・・」
そうして歩いていると、木の向こうに白い物が見えた。建物?でかい。
歩いて行くと、何の建物だかわかった。病院だ。なかなか真新しい病院で島の病院にしてみればでかい。
入ってみるか・・・川上は武器の89式小銃に銃剣を付け直し、病院内に入った。
中を探索してみる。結構きれいじゃないか・・・その時、聞きなれた「ピーンポーンパーンポーン♪」と言う音がした。
慌てて受付の所に身を隠し銃を構える。
「誰だ!!」
「川上君、僕だ、正津だ!!」
そこから聞こえてきたのは、背番号21、正津英志だった。
「正津さん!?どこにいるんですか!?」
「川上君、聞いてほしい。そこの右奥に階段がある。そこを下ると病院の警備員室があるんだ。そこで待っているから来てほしい」
「ピーンポーンパーンポーン♪」の音とともにアナウンスは終わった。
「・・・分かりました。今から行きます」
そう言うと、川上は右奥に向かって歩き出した。
「ここか・・・」
川上は一言呟くと、階段を降りていった。
降りきると目の前に「警備室」の文字が見えた。川上はドアノブに手を掛けると、ゆっくりと開く。
開いた先には、ある程度の広さがある部屋と、その奥で茶を飲んでいる正津がいた。
「待ってたよ、川上君」
「正津さん・・・ここは・・・」
川上は唖然としていた。大量の小型モニターの中には入り口やあらゆる部屋の監視カメラ画像、そして大型モニターには「島の画像」が写っていた。
「まさに『要塞』だろう?ここで全てが管理されてるからな。自分の身を防衛するには最適の場所さ。あ、うかつにそこのボタンには触るなよ」
「は・・・はぁ・・・」
少し沈黙が続いた後、正津が口を開いた。
「川上君、お茶いるかい?飯も2階の奥に行けばあるからね。ちょっと冷たくなったり硬くなったりしてるけど」
「そうですか・・・。あ、お茶頂きます」
川上は暖かいお茶をもらい、椅子に座り飲んだがこの雰囲気ではとても食べる気になれなかった。
「それにしても正津さん、あの大型モニターに写ってる画像なんなんですか?島の画像と数字がたくさん・・・」
「うん。きっと全員がどこにいるか書いてあるんだと思う。ほら、11番と21番が重なってるでしょ」
「えっ・・・」
川上はまたしばらく唖然としてしまった。なんでそんなものが・・・
「きっとここはオーナーが設置したんだろうね。つまり、オーナーの連中は僕達の殺し合いを楽しんでるんだよ」
正津の顔が一気に険しくなった。
「じゃぁ、あの端っこに並んでる数字は・・・」
「・・・殺された人達の事だろう・・・」
「・・なっ・・・」
0番、27番、35番、47番・・・
47番!?のっ・・・野口さん・・・0番・・・ミツ・・・
野口さんとは入団以来、年も近いと言う事でいろいろお世話になった。二人で投手王国を築いた。
ミツとは同期入団の同年齢だ。一軍と二軍の違いはあったが、あいつもあいつなりに頑張ってて、名古屋で一緒に食事をしたりした。
あの二人が・・・あの二人が死んだ・・・
その瞬間、自然と体が崩れた。目から水が溢れてくる。正津さんが置いてあったタオルを差し出してくれた。
「泣くな。男だろ。辛いのはよく分かる。僕だって辛い。だが、お前の『明治魂』はどこに行ったんだ」
溢れる涙をふきながら、正津の一言で川上は思い出した。
「明治魂・・・明治・・・小笠原・・・小笠原!」
涙でよく見えないが、必死に『43』を探す。
「あった!!!」
43番、小笠原孝は島の丁度真ん中の所にいた。病院は島の右下の方にある。画像では近くにいるように見えるが実際は結構遠い場所にいる。
「小笠原・・・!俺が守らなくちゃ!あいつだけでも俺が守ってやる!!これ以上殺されてたまるかああ!!」
泣き叫びながら銃を取り飛び出そうとする川上を正津が必死に抑える。
「やめろ!ここからどれだけ遠いと思ってるんだ!お前が死んだら小笠原も悲しむぞ!!」
「嫌です!死んでもあいつだけは守る!!」
「あいつも男だ!自分の身の防衛ぐらいできる!あいつだって『明治魂』の持ち主じゃないか!!」
「でも・・・!!あいつの無事を・・・あいつをここに・・・!」
「大丈夫さ。あいつを信じろ。運命があるなら、いずれここに来るさ。」
「・・・くっ・・・」
川上は再び泣き崩れた。そして、43番の近くには『57番』が近づいていた・・・
【残り32人・選手会17人】
201 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/24 15:10:53 ID:5CemL9zS
age
職人さん乙です。最後までほんと楽しみにしてます。
33.忍び寄る影
(日が傾いてきたな・・・)
松中は銃を片手に足跡を辿っていた。
出発してから時間が経っているとはいえ、鬱蒼と木々が茂る森の地面は中々乾くことはなく、
湿った土の上に足跡がはっきりと残っていて、それを辿るのは難しいことではなかった。
(無事・・・だよな)
ふと悪い予感が頭を掠めて、松中は頭を振ってその考えを振り払った。
(考えたって仕方ない。早く見つけないと・・・)
(小久保さん・・・どうか無事で)
「・・・?由伸、何か言ったか?」
「いえ、別に?どうかしました?」
「いや・・・悪い、気のせいだ」
「空耳ですか?・・・さっきの死人が呼んだんだったりして」
「おい、そういう風に・・・」
「冗談ですよ!やだなあ、もう」
「・・・」
―誰かに呼ばれた気がした。もしかしたら本当に死人に呼ばれたのかもしれないな。
―そう・・・あまりに簡単に人が死んでしまった。俺は直接手をくだしていないが、罪としては同じだろう。
「小久保さん、何ぼーっとしてるんですか。早く行きましょうよ」
「あ、ああ・・・」
茂みを掻き分けて先へと進む二人に、人影が近付きつつあった・・・。
(二人か・・・)
高橋と小久保に近付きつつある一人の黒い影。それは殺人鬼と化した井端だった。
(少し厄介な相手だな)
―しかし、こっちにはマシンガンがある。相手の武器が狙撃銃で、しかも俺に気付いていないのならば、明らかに有利だ。
(・・・やるか)
茂みに隠れながら確実に間合いを詰める。そして、井端の指が引き金に掛かった。
(・・・さようなら)
パラララララ・・・
前方から聞こえた軽い音に、反射的に松中は走り出した。嫌な予感がしていた。
(まさか・・・!!)
ガサガサと音を立てて茂みを抜けると、すぐに人影が見えた。
「小久保さん!!」
―目の前に倒れている二人。その内の一人は間違いなく俺が探していた人だった。
「・・・マツ!?来るな!!」
―その声と同時に、茂みから銃弾が飛び出してきた。慌てて伏せたおかげで当たることはなかったが。
「くそっ・・・!」
―やられてたまるか。伏せたまま銃を構えて茂みに撃ち込んだ。一発、二発。
茂みが動いて、誰かが隠れていることが分かった。
また乾いた音。
「チッ・・・!」
―今度は地面を転がって何とか銃弾を避ける。まずい・・・このままじゃ・・・
―そう思って前に倒れている小久保さんを見る。どうやら撃たれたのは足みたいだ。
―と、すれば・・・俺がやるしかない。何としてでもこの窮地を脱してやる!
【残り32人・選手会17人】
34.信頼する人・尊敬する人
「あ・・・」
福留と荒木は、山本たちと別れてから村とは反対方向を歩いていた。
「銃声、だな」
「近い・・・」
「・・・行ってみるか?」
荒木が黙って頷いた。そしてそのまま駆け出した。福留が慌てて後を追う。
「・・・!」
突然前を走っていた荒木が、追いついた福留を制止した。
「いる・・・!撃ち合ってる!」
「あ、ああ・・・」
「どうしよう?」
「そうだな・・・」
福留が辺りを見回すと、丁度横に木があった。これに登れば事態がより良くつかめるだろう。
「これ、登れるか?」
「多分。ちょっと荷物持ってて」
福留に荷物を持たせると、荒木は木に登り始めた。
・・・撃ち合っていた松中は、井端がいる方とは逆の茂みに身を隠した。
(もう一人は・・・高橋由伸か。生きてるみたいだな)
小久保よりも先を歩いていた高橋もまた、足を撃たれて地に伏していた。
(おい、こっちに撃ってこいよ・・・止めを刺すのは後でも出来るだろ?)
松中の思惑通り、動けない二人を無視して井端は松中のいる茂みに銃弾を撃ち込んできた。
それを避けながら松中も、狙撃銃で応戦した。
「・・・井端さん!」
「え?」
木の上に登った荒木は福留を引っ張り上げながら叫んだ。
「孝介、井端さんだ!撃ち合ってるの・・・井端さんだよ!」
「何だって・・・!?」
荷物も上げ終え、下の様子を覗き込む。二人倒れていて、それを挟むようにして銃撃戦が繰り広げられている。
そして手前の方でマシンガンを撃っている人物・・・
「本当だ・・・」
背番号6。間違いなく井端弘和、その人だった。
「どうして・・・」
「孝介、止めなきゃ!」
「止めるったって、どうやって?」
「それは・・・」
荒木はしょんぼりと顔を伏せた。が、すぐに何かを閃いたように顔を上げ、自らの荷物を手にした。
「弓矢・・・?」
呆けた福留に構わずに、荒木は矢を番えて、キリキリと引き絞った。
「井端さん・・・やめてくれ・・・!」
ヒュッという風切り音がして、矢は井端の目の前に突き刺さった。
「!?」
銃撃が一瞬止む。井端は矢の飛んで来た方を睨んだ。しかし、井端の方からは木々の葉が邪魔になって二人の姿は見えない。
「孝介も何か無いのかよ!」
「ちょっと待てよ・・・!よし!」
福留は自らの武器にレーザーサイトが付いていたことを思い出した。レーザーサイトの光線を井端の胸の辺りに当てる。
もちろん引き金に指は掛けずに。
「井端さん・・・木の上から狙われてるぞ・・・早く逃げろ・・・」
頼む、逃げてくれ。そう願いながらレーザーサイトで威嚇する。
井端は松中のいる方向と、荒木たちのいる方向を交互に見て・・・やがて踵を返して立ち去った。
「よ、良かった・・・」
「・・・」
―良かった?一歩間違えたら、チームメイトが殺人を犯すところを見るところだったんだぞ・・・?
「って、こうしてる場合じゃない!孝介、井端さんを追おう!」
「え・・・?」
「井端さんが何を考えてるか分からないけど・・・でも、こんなことやめさせないと!」
「・・・」
「孝介!」
―荒木の目が真剣だった。そうだよな・・・お前と井端さんは信頼関係で結ばれた二遊間だもんな。
「・・・分かった。行こう」
(銃撃が止んだ・・・逃げてくれたか?)
松中は一応辺りを確認して、茂みから這い出た。
「小久保さん!」
「う、うう・・・」
―良かった。生きてる。
前に倒れている高橋に近寄る。
「大丈夫か!?」
「な、何とか・・・」
どうやらこちらも大丈夫なようだ。
―良かった・・・
安心して体の力が一気に抜けた。ああ、俺は尊敬する人を守ったんだ。格好はどうであれ、誇らしかった。
【残り32人・選手会17人】
36. ここから地獄へ
村が点在する平原の西側とは異なり、東側には荒地が目立った。
遥かな昔、縄張り争いのあった名残りだろうか。
栄えた西側。廃れていった東側。
(皮肉なもんだな)
セ・リーグとパ・リーグ。
ふと、野球界の現状とそれを重ね合わせ、男はかすかに笑う。
どちらが栄えるという問題ではもうなくなってきている。
1リーグ制を推し進める声はいったん途絶えたかに見えたが、実際は水面下で動く影がまだあることを、
彼は知っている。
(うちのオーナーとかね。最近は表立って出てこないけど)
……まあ、それも今はどうでもいいことだ。
荒地の枯れた草を踏みしめ、男は目的地へと向かう。
低木の植え込みがいくつかある中の、一つを選んでかきわける。
「……ここだな」
茂みの中に置かれた一メートル四方の金属板を目に留め、呟いた。
板に取り付けられた把手を握り、ゆっくりを持ち上げる。
その下に隠されていたのは地下へと続く梯子だった。
(へえ……)
後ろ向きになり梯子を下りていくと、同じ剥きだしの壁に囲まれた、四畳ほどの部屋があった。
ご丁寧なことに、天井には蛍光灯が設置されている。
『やあ、やはり来てくれたんだね。待っていたよ』
床の上に降り立ったのと同じタイミングで、どこからともなく声が聞こえてきた。
男は注意深く自分の周りを見渡す。と、左側の壁の隅に放送用のスピーカーがあるのを見つけた。
『以前に伝えた条件は気に入ってくれたかな? 君の働き次第では、もっと破格の待遇を用意することも
可能なんだがね』
スピーカーから聞こえてくるその声は、推測が正しければおそらく……。
男は腕を組み、スピーカーを見上げた。
「俺は皮算用はしない主義なんだ。一軍レギュラー、それだけを確約してくれるんなら、他はどうだっていいよ」
『ほう、無欲なことだ』
皮肉たっぷりに、声はくつくつと笑う。
男は口の端を曲げ、肩をすくめた。
『さて、君には我々の手足となってもらいたいわけだが……』
「── 何をすればいい?」
『部屋の端にスポーツバッグが置いてあるだろう。まずそれを開けなさい』
男は言われたとおりそれに近づき、ジッパーを開けて中身を確認した。
出てきたのは、イヤホン付きの小型無線機が二十個ほど。携帯電話と同じくらいの大きさだ。
次に出てきたのは、液晶画面のついた折り畳み式の機械。見てくれはただのゲーム機のようだが。
さらにオートマティック機能の拳銃が一丁と、いくばくかの保存食。
「これは?」
男は白い粉末の入った包みを顔の高さに持ち上げ、首をかしげた。
よく病院の薬局でもらう粉薬に似ている。風邪薬か何かか?
『青酸カリだ。取り扱いには注意したまえよ』
「青……」
思わず絶句する。サスペンスドラマの類ではポピュラーな小道具だが、本物を目にするのはもちろん初めてだ。
バッグの底には同じ包みがあと二つ見つかった。それらを集め、持っていたハンカチで丁重にくるむと、
上着のポケットに入れた。
『我々からの支給物はそれで全部だ。何をどう使おうと自由だが、その無線機は選手会のメンバーに
行き渡るようにしてほしい』
「……盗聴か」
『まあそれもあるがね』
声の主はどこか引っかかる言い方をしてみせる。
『安心したまえ、首輪と違って爆発することはない。我々もそこまで手抜きではないさ』
「………」
男は無言で、無線機をバッグの中に戻した。銃は上着の内ポケットにしまい込み、保存食とゲーム機(?)は
あらかじめ持っていたデイバッグに入れた。
元通りにジッパーを閉じ、準備が整ったところで立ち上がる。
「それで、俺の仕事は」
乾いた唇をなめながら、男は口を開いた。
「選手会を内側から破壊する。できる限り数を減らす ── だったな?」
『そう。方法は君にまかせる。なに、全員殺さなくとも、中日の選手は初めから奴らの命を狙っているんだ。
君はその手助けをしてくれればいい』
「……。わかった」
『ま、せいぜい生き残りたまえ。そうすれば君は晴れて一軍で、三番ファーストの地位を不動のものとすることができるのだからね』
カブレラのことなら心配いらない。彼はDHで固定する ── スピーカーからの声がそう付け足すのを聞きながら、
男は荷物を手に出入り口へと向かった。
梯子に手をかけようとした時、再び声が耳を打った。
『幸運を祈っているよ、高木君』
その言葉に、男はスピーカーを振り仰ぐ。にらみつけるように。
「俺はあんたが地獄に落ちるのだけが楽しみだよ。……堤オーナー」
高木大成はそれだけを言い残し、地上へと出て行く。
自分自身も地獄に落ちるに違いないのだが ── そんな自嘲とともに。
【残り32人・選手会17人】
211 :
112:04/09/24 23:21:58 ID:QRi1StFY
32が二つあるんで、
「特別支給品」以後一つずつ番号ずらして保管庫に入れてます。
次の書き手さんは36からお願いします。
212 :
126:04/09/24 23:24:08 ID:Fo9k5D+a
>>211 乙です。さっき投下した分は36にしてあります。
213 :
112:04/09/24 23:25:50 ID:QRi1StFY
リロードしてなかったorz
>212
乙です。
大成(・∀・)イイ!
214 :
198:04/09/25 00:06:03 ID:Mj72F/rs
>>211 すいませんorz
書いた後に投稿されてるの気づいたんで番号ミスに気づいてませんでした。
保管庫更新乙です。
ほしゅ
216 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/25 20:59:06 ID:kuftd8tr
37. 翻る反旗
緒方孝市はもう一度だけ、後ろを振り返った。
選手会のキャンプ地へ帰るところを、誰かに見られたらアウトだ。
(………気配はないようだな)
四方を見回し、そう確認してほっと息をつく。
(井端……。あいつが三輪を殺した……)
思い出す、あの冷たい視線。
あれはまさしく、殺戮者の目だった。
相手が追って来ないとわかっていつつも、ずっとあの視線が背後に張りついているような気がして、
生きた心地がしなかった。
(俺も、そうなるのか?)
胸中でうめく。中日の選手 ── 誰かはわからないが ── を撃とうとしていたときの自分の目は、
井端と同じ目をしていたのではないか。
「なんのために…」
緒方は開いた両手を見つめた。この手で叶えたい望みは何か。
オーナーたちを撃って、元の生活を取り戻すことか。
それとも……。
(…やめよう)
肩の力を抜き、緒方は溜め息をつく。
とにかく今は戻ろう。そして現状を報告しなくては。
緒方は足取りを速めた。
と ───
「ん?」
目の前の木の陰に、大きなバッグがぽつんと捨てられている。
それに気づいた緒方は、近づいて傍らにしゃがみこんだ。
持ち手を握り、少しだけ持ち上げてみる。意外と中身は軽いようだ。
時限爆弾か? ── まさか、ドラマの見すぎだ。そう思いながらも、バッグに耳元を近づけてみる。
幸い、タイマー機器の音はしないようだった。
(とすると、開けた途端に……)
ごくり、と喉が鳴る。そこまで疑心暗鬼になりつつも、中身を確認したい衝動にかられるのは人間の悲しい性か。
祈るように、緒方はジッパーを開けた。
爆風の代わりにそこにあったのは、十数個ほどの黒い物体だった。
「無線機……?」
誰がなんのために、ここにこんなものを。
さしあたっての危険はないようだが。しばらくの逡巡の後、それを持って立ち上がる。
戻ったらとりあえず古田に相談してみよう。そう決めて、緒方はキャンプ地への道を急いだ。
(第一段階はクリア、か)
少し離れた場所の木陰から、高木はバッグを持って立ち去る緒方の姿を確認し、呟いた。
もうちょっと時間を置いてから、自分もキャンプ地へ戻ることにしよう。
幕開けの時は近い。
反旗を翻す ── その快感は、当事者にしか体感し得ないものなのだろう。そう思う。
高木は一人、昏い微笑を浮かべた。
【残り32人・選手会17人】
スミマセン、今進行中のバトロワの保管庫どこですか…?
>>220 見落としてました、スミマセン!ありがとうございました!!
38. 交錯する白と黒
「…誰がおじさんやねん」
無感情にぼそっと呟いた岩本の声が、耳に届いた。
黒木は、目の前で仁王立ちになっている彼の背中を見上げる。
突然頭を押さえられて地面に伏す格好になったため、開いた口に土が思い切り入りこんでいた。
土を吐き出した反動で何度か咳き込みながら、ようやっと立ち上がる。
「お前、中日の選手か? 名前は?」
岩本が問いかける。彼が構えたライフルの先にいる人物を、黒木は改めて確認した。
ロゴの下にある番号は70。知らない。誰だ?
ホールドアップの姿勢を保ったまま、その選手はゆったりとした笑みを浮かべた。
「そうだよ、名前は中里。はじめまして、だね」
そう答え、中里は小首を傾げる。
「そっちは選手会でしょ。僕らを殺しに来た。違う?」
「……そうや。けど別に殺しに来たわけちゃうで。用があんのはオーナーだけや」
「ふうん、中日の選手は殺したくないって? お優しいことだね」
上手くいくといいけどね、と肩をすくめる中里に、黒木は眉を寄せた。
「…お前はどうなんだ? どういうつもりで俺たちをつけてきた?」
「そりゃもちろん」
真っ直ぐに黒木を見て、その若い選手は悪びれることなく言ってのけた。
「殺すためだよ」
(………)
黒木は眉をしかめたまま視線を下げ、息を吐いた。
「だって僕たち言われたんだよ。死にたくなかったら選手会を全員殺せって。
仕方ないよね、自分の命は大事だし。ほら、これが証拠」
中里はアンダーのハイネック部分を右手でつかんで下げ、首筋をあらわにした。
彼の首には輪っかがはめられていた。金属製の、細い首輪……。
「これねえ、オーナー側を裏切ったら爆発するらしいよ。だから不可抗力ってわけ」
ハイネックを元に戻すと、中里は再び両手を上げる姿勢を取った。
「そんな……」
愕然とする思いだった。選手たちの命はオーナーの手の内にある…?
「ほんで、俺らを殺さなしゃあないっちゅうわけか。あっちも用意周到なことやな」
苦虫をかみつぶす顔と口調で、岩本が吐き捨てる。
それを聞いた中里は視線を上向かせ、うーん、と首をひねった。
「仕方ないっていうか…。そう考えるのが普通なんだろうけど。でも、僕はちょっと違うんだよね」
「……?」
黒木の表情に疑問符が浮かんだのを見て取ったのか、中里は左手に持つサブマシンガンに目をやりながら続けた。
「こんな良い武器もらったんだから、有効活用しなきゃ。…そうだなあ、とりあえず五人くらい殺したら、
僕もローテに入れるかな……?」
「……何の話だ?」
まさかこいつ ── いやな想像が頭をよぎり、黒木は息を呑んだ。
「決まってんじゃん、ライバルを減らすんだよ。で、生き残ったあかつきには僕が先発の柱になる。
……うん、我ながらいい計画だな」
クスクス笑う中里の台詞を、黒木はとても人間の発するものとは思えなかった。
「ふざけるな……」
頭に血の気が集まっていくのが自分でも解った。純粋な怒りが全身を支配する。
「そんな手段で…、それで先発の柱だと? 自分の実力で取ってこそのエースだろうが!!」
「実力? 実力なら充分あり余ってるんだけどね。才能ある者ゆえの不幸ってやつかなあ」
中里は右手でユニフォームの裾を引っ張り、胸の番号を恨めしそうに眺めて言う。
「どうせ他の人を蹴落とした上でのエースなんだからさ。それと殺すのってそんなに大差あることなの?」
「お前……っ!」
「黒木、やめとけ。話の通じる相手とちゃう」
相手に向ける狙撃銃への注意をおろそかにできないためか、横目で黒木を見て、岩本が制止の声を投げかけてくる。
「じゃあ岩本さんはこいつをこのまま見過ごすつもりですか? こいつは自分のチームメイトを殺すつもりでいるんですよ!?」
「ええから落ち着け、わかっとるから。けどな……」
食い下がる黒木をなだめようと、岩本が言葉を重ねかけた、その時。
「黒木……、岩本……?」
ぽつりと独白する声が聞こえた。中里だ。
一瞬ののちに、それはけたたましい笑い声へと変わった。
狂ったかと思わせるほどしつこく笑い続ける相手に、黒木と岩本は互いの顔を見合わせた。
「……あーそうか思いだした。あんたらのこと何か知ってるなあと思ってたら、二人とも『元』エースなんじゃん」
ひとしきり笑ってもまだ足りないというように、中里は身を震わせている。
「最近姿見ないけど何してんの? あ、もしかして二軍? おたくらみたいなのを『不良債権』って言うんじゃなかったっけ」
そういやうちのチームにもいるよねー、と続ける中里の表情は、まるでいたずら好きの子供のように邪気がない。
呆然と相手を見据えながら、黒木は悪酔いでもしたかのような酩酊感をおぼえた。
何かがおかしい。何かが……。
目の前がすっと暗くなる。
── それから先の一瞬の出来事を、黒木は憶えていない。
「黒木、やめろ!!」
岩本の叫び声が、やけに遠くで聞こえた気がした。
重量感のあるライフルを黒木は両腕で構え、そして。
引き金を引いた。
【残り32人・選手会17人】
39. 思いを託して
静まり返った西の森で銃声が轟いた。
(ここにも誰かいる……?)
選手会役員二人を仕留め損ねた井端が、次の標的を求めて森の中を疾走していた時のことだ。
すぐさま方向を確認し、そちらへ走る。
そこにいるのが選手会の人間なら、迷わず撃つだけだ ──
「黒木、やめろ!!」
岩本はとっさに黒木の持つライフルの銃身をつかみ、無理矢理銃口の向きを押し下げた。
発射された弾丸は地面へと突き刺さる。
「!」
ハッと我に返り、岩本は視線を中里へと投げる。だが遅かった。
こちらに向けられたサブマシンガンの銃口が火を噴いた。
「………っ!!」
右腕に激痛が走る。力を失った手から銃が離れ、地面へと落ちた。
倒れこみそうになる身体を、踏ん張った両足でなんとか支えることに成功する。
撃たれた右腕からは、血があふれでていた。
「あ…っぶないなあ。これ以上弾を消費させないでよ。勿体ない」
硝煙の立ちのぼるサブマシンガンの銃口を下げ、中里は舌打ちとともにそう毒づく。
岩本は顔をしかめながら、そちらをにらみつけた。
勿体ないだと? 隙をついて撃ってきておいて、よく言う。
向こうからの発砲が一発だけだったことが救いと言えば救いだった。弾切れを恐れてセミオートに切り替えたのだろう。
しかし。
(こいつ……本気やな)
銃を撃つことに何のためらいも見せず、今のこの状況を楽しんでいる。そんな顔をしている。
いつでも自分たちを殺せる ── そう言わんばかりの余裕が中里からは感じられた。
「黒木」
小声で呼びかける。地面に向けて発砲したままの姿勢で固まっていた黒木の身体が、震えた。
「お前はここから逃げろ。ええな」
「……何、を」
絶句する黒木には構わず、岩本は言い含めるように口を開いた。
「お前はこんなとこで死んでる場合ちゃう。なんのために復活登板したんや。ロッテのエースはお前しかおらんてことを、
これから証明していかなあかんやろ?」
「岩本さん……」
「俺が次に動いたら、逃げろ。絶対や」
最後にそう言い、岩本は一歩前に出た。さっき落とした銃が靴の先にある。
「なあ、お前に一個だけ聞きたいんやけど」
左手を腰に当てるようにして、ジャケットの裾の下、スラックスのベルト部分に引っかけてある丸い物体に触れる。
「何?」
「お前はオーナーの居所を知ってるんか?」
「さあ。僕らが知ってるわけないじゃん」
「そうか」
予想通りの答えだった。伏目がちに呟き、岩本は左手につかんだ物を下からゆっくり放り投げた。
放物線を描くその物体を、中里が撃ち落そうと銃口を上へ向けた。
その瞬間、足元の銃をつかんで岩本は走り出す。中里の懐めがけて。
(絶望だけはするな、黒木)
苦境から這いあがったお前に、そんなものは似合わないのだから……。
発射された銃弾が、宙に舞う物体を撃ち抜く。
夜を昼に染めかえんばかりの閃光があたりに満ち ───
断続した数発の銃声が、それに続いて響きわたった。
「───」
黒木は両腕で視界をかばったまま、その場を動けずにいた。
やがて白く溶けた景色がその姿を取り戻す。
鬱蒼と繁る木々に囲まれた森には何の変化もない。
ただ、目の前にあったはずの二人の姿は忽然と消えていた。
(!?)
黒木は目を見開き、言葉を失う。
「岩本さん……?」
しばらくしてようやく絞り出したその声は、静寂に支配された空間へと吸い込まれていく。
返る応えは、限りない沈黙のみだった。
【残り32人・選手会17人】
40.先輩と後輩
石川賢は途方に暮れて歩いていた。
―何だか変なことになっちゃったなあ・・・
そもそも自分は何故サブマシンガンで撃たなかったのだろう。自分が撃っていればこんなことにはならなかった。
「無理だよ・・・立浪さんを見つけるなんて・・・」
―この広い島でどうやって一人の人間を見つけろというのか。その前に誰かに見つかって殺されるかもしれないのに!
「無理でした・・・じゃ駄目だよなあ、やっぱり・・・」
―相手は丸腰だった。「無理でした」と言って、襲ってきたらマシンガンで撃って、さよならすればいいじゃないか。
―でも、それでは終わらないような気がする。あの雰囲気は。
「はあ・・・」
昼に清原に会ってから、もう何時間になるだろうか。石川は立浪を探して休まずに歩き続けていた。
―もう夕方だよ・・・夜になってもあの人ずっとあそこに居るのかなあ・・・
―いざ、立浪さんを見つけてその場に向かって、「もう居ませんでした」なんて、今度は立浪さんから怒られそうだな・・・
そう考えてまた石川が鬱になったとき、背後で物音がした。
「!!」
体に緊張が走る。どうか、知っている人でありますように・・・!できれば立浪さんで・・・!!
「・・・石、川」
目の前に現れた人物は、石川に神様の存在を確信させる人物であった。
「立浪さぁん・・・!」
ボロボロと涙が頬を伝った。
―良かった!もう恐い人に怒鳴られなくてすむ!!
「何だよ、おい。泣くな」
「立浪さぁん、探っ、して、たんっ、ですよぉっ・・・!!」
安心した石川は号泣して、しゃくり上げながら言った。
「探してた?どうして・・・」
「清、原さんがぁっ、島の中心に居てっ・・・」
「・・・え?」
「立浪さんをっ、連れてこいって、俺にっ・・・」
「ああ・・・そうか。分かった。ありがとな、石川」
宥めながらそう言って、立浪は足元に視線を落とした。
―俺を呼ぶのには、何か訳があるんだろう?先輩・・・
「あ、おい、石川。お前これからどうするんだ」
方角を確認して歩き出しかけながら、立浪は石川に聞いた。
「あ、その・・・」「何だ、早く言えよ」
「俺、一緒に行ってもいいですか・・・?」
立浪はその言葉に呆けた。団体行動なんて思いつきもしなかった。
「足手まといにはなりません!立浪さんの武器・・・何か知りませんけど・・・俺の武器、サブマシンガンです。役に立てると思います」
その様子があまりに必死なので、立浪はちょっと笑い出しそうになった。そんなに一人で行動するのが嫌なのか。
「・・・いいよ。一緒に来いよ。ろくに助けてやれないと思うけど」
「いいです!ありがとうございますっ!」
勢い良く石川が言うので・・・少し笑って、立浪は思った。
―先輩・後輩か・・・これから俺は清原先輩にどやされるのかな。
―あっちゃん・・・親友はどこに行ったんだろう。会いたい。会って・・・真意を聞きたい。高橋光信を撃った、真意を。
天を仰ぐと、夕焼けの赤が目にしみた。親友も何処かでこの夕日を見ているのだろうか。
【残り32人・選手会17人】
ドラバト2でも思ったんだが
立浪は関西弁をしゃべらせてくれ。
2のときスゲー違和感感じた。
あ、確かにそうだな。
他の関西弁の選手はちゃんと関西弁喋らせるくせに、今まで立浪スルーしてた。
自分が次に立浪を登場させるときは、ちゃんと関西弁喋らせるよ。
ただ俺は関西圏の人間じゃないから関西弁に自信がないorz
余計なお世話かもだけど、
>>228からの立浪の台詞だけ、関西弁に変えておこうか?
もしよければ、112さんの保管サイトの掲示板に貼っておきますが。
これ読んでみようと思うんだけど、
現在進行中のやつの始まりはどこ?
>235
このスレの最初からでええよ
237 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/26 20:51:30 ID:JGgyRIZW
作家さんの混乱、ひいきになるけど中里生かしておいて。なんか作品がシマって見える。
41.恐い人
「こっちです」
石川の案内と方位磁針を頼りにしながら、立浪は島の中央を目指していた。
―正直、どやされる為だけに行くのは気が乗らないんやけど。
でも呼ばれたのに行かないというのは、緊急事態とはいえ・・・それに必死で探してくれた石川のこともある。
―行かんわけには・・・なぁ。
「もう少しですよ」
「ああ、石川。お前ここらへんで待っとって」
「え?」
「1対1で話したいからな。それともまた恐〜い人と会いたいか?」
「いっ、いえ・・・俺、待ってます!」
慌てて道を開けた石川に笑いかけて頷き、先へと進んだ。
既に辺りが薄闇に包まれる中、あの人は広場の真ん中に座っていた。
「・・・来たか」
「はい」
「もう夜やな・・・時間もないし、単刀直入に聞くわ」
「・・・はい」
「お前ら、こんなくだらないこと、やめ」
「・・・無理です」
「何でや」
「ご存知かもしれませんが・・・殺し合いを止めると、この首輪が爆発します」
「・・・それでもや」
「いくら先輩の頼みでも・・・こればっかりは」
「もっと方法を考えんかい!」
「出来ません!」
―自分の咽喉の辺りに熱い塊が込み上げるのを感じた。
「出来ませんわ、もう!チームメイトが死にました!・・・貴方達に殺されました!」
「・・・こっちもや。三輪が死んだ。お前らに殺されたんや」
辺りを静寂が包んだ。お互いが口をつぐんで、けん制しあっていた。
バァン・・・ッ
いきなりの銃声。その音に驚いて近くの木々から鳥が飛び立った。
「!?」
―近い・・・銃声・・・まさか・・・!!
「石川・・・!!」
「あっ、こら待て!立浪!!」
―後ろで先輩が呼び止めるのも聞かずに、俺は来た道を引き返した。
「石川!石川!!」
「立浪・・・さん・・・」
―茂みの間から引き攣った顔の石川が見えた。良かった、生きている。
「・・・タツ?」
―その声に、足が止まった。その、声・・・
「あっちゃん・・・」
―紛れも無い、探していた、親友。
「・・・生きとったんやな」
「さっきの、銃声・・・」
「立浪さぁん!」
―良く見ると、石川の足から血が滴っていた。その、撃ち方・・・
瞬間的に高橋光信の死体を思い出した。撃ち込まれた銃弾は二発・・・一発は足、もう一発は胸・・・
「やっぱり、あっちゃん・・・あっちゃんやったんや・・・」
「・・・?」
「あっちゃんが、俺らのチームメイトを殺したんや!!」
「何・・・タツ、それ・・・」
「出発してすぐ!仮面を付けた男を・・・!」
「あ、あれは、オーナーの刺客を・・・」
「あれは中日の選手や!!」
「・・・あれは・・・・・・そうか、俺が・・・」
呆然とした様子で、片岡が呟いた。
【残り32人・選手会17人】
42.役目
「信じてもらえんかもしれんけど・・・ホンマにオーナーの手先やと・・・敵やと、思ったんや・・・」
「・・・」
―何だか泣きたい気分だった。親友は、そのつもりがなくてもチームメイトを殺した。そのつもりがなくて・・・あれ・・・?
・・・待てよ・・・じゃあ、どうして・・・
「・・・どうして、今、石川を撃ったんや?」
―ホンマは・・・ホンマは、あっちゃん・・・
片岡の肩が微かに揺れた。
「・・・やっぱ、バレた?」
―そんな・・・やっぱり、殺す、つもりやったんか・・・
「最初っから・・・殺るつもりやったんや。相手が誰であろうと」
「嘘や・・・」
「嘘やないで。お前自分で言うたやん。『どうして今撃ったのか』。殺すつもりやったからや」
「嘘って言うてくれ・・・あっちゃん・・・」
「じゃ、じゃあ、かっ片岡さんが、高橋さんのこと・・・」
石川の声はぶるぶる震えていた。それが恐怖か怒りかは分からなかったが。
「あああああああ!!」
石川がサブマシンガンを構えた。片岡が石川にとどめを刺そうと、拳銃を向ける。
その間に、影が入った。
マシンガンと拳銃の、乾いた音。
双方の銃から放たれた鉄の塊は、多数は運良く外れたが、間に入った人物の体内へと僅かに撃ち込まれた。
「・・・ゲホッ」
「あ・・・あ・・・」
「・・・」
辛うじて、立浪は二人の間で立っていた。マシンガンと拳銃の間に立って、生きているのが不思議なぐらいだった。
「立浪さん・・・どうして・・・」
「アホ・・・後輩がなあ、アホなことしようとしたら、正すのが、先輩の・・・先に立つ者の役目っちゅうもんや・・・」
「・・・」
「ほんで・・・親友が、アホなことしようとしたら・・・それを、諌めるのが・・・親友の役目や・・・」
「・・・タツ・・・」
「な、あっちゃん・・・」
立浪はふらつく足で一歩、片岡の方に近付いた。
―もう、やめてくれ、あっちゃん・・・
声にならない声を発して、立浪が自らの武器のデリンジャーを片岡に向ける。
パァン・・・
片岡は抵抗せずに、その肩に銃弾が一発、撃ちこまれた。
それを見届けて、立浪は地面へと倒れこんだ。
「・・・おい、片岡ァ!」
「ヒッ!」
清原がやっと追いついて怒鳴り声を上げた。石川がビビって道を開け、清原が片岡に詰め寄った。
「くっ・・・お前・・・お前や、お前!中日の!」
「はひっ!」
「立浪連れてどっか行け!」
「え?」
「はよせえ!」
「はひぃっ!」
石川は怪我を負った足も気にせずに立ち上がると、立浪の腕を肩に回させ、引き摺ってその場を後にした。
「・・・どういうつもりや?」
「見たまんまですよ」
「チッ・・・戻るぞ!」
「・・・はい」
片岡は俯いたまま、肩を押さえた。
―痛いな・・・お前も、痛かったんかな・・・
夕日が今まさに沈もうとしていた。
【残り32人・選手会17人】
>>234 亀レススマソ。保管庫の掲示板に貼りました。
PLの絆、(・∀・)イイ!
246 :
112:04/09/26 23:47:19 ID:Hc0XDjiU
43.口約束
「平松から、こちらの指示に従うと連絡がありました」
渡辺の目はモニターに釘付けになっていた。映し出されているのは、彼の所有する球団の背番号5。
報告に来た白井の方を向きもせずに、顎をしゃくって続きを促す。
「武器と探査機の隠し場所についたら新たな指示を与える、と伝えております。
最初の指令はいかがいたしましょう」
「ふむ、そうだな…
先程我々に反抗的な態度を見せた二人、川なんとかと…もうひとり、あいつらの始末をさせるか」
渡辺の口の端がゆがむ。嗤っているのだ。
「ただし、殺すのは一人だけだ。どちらにするかは任せる、と伝えておけ」
「…はい」
一礼して退出しようとした白井に、渡辺は振り向いて呼びかける。
「そういえば、白井君。巨人へのトレードを条件にしたようだが…平松とか言うのはどんな選手だ?」
白井は答えに詰まった。
(ほんの3年前まで巨人にいたじゃないか)
思ったことを顔に出さないように気をつける。
「サウスポーの投手です。先発もロングリリーフもこなせるタイプですので、巨人には有効な補強になるかと」
「小難しいことはいらん。…そいつは上原より上か下か?それだけ言ってみろ」
平静な表情を保つのは無理だった。
思わずぽかんと口を開けてしまったことに気づいた白井は、何事もなかったかのように答える。
「上原よりいい投手はそうそうおりませんよ」
渡辺はつまらなそうな表情になる。
「なんだ、じゃあいらんな。適当で処分しろ」
それだけ言い捨てるとモニターに視線を戻す。
白井は何も言わず、そのまま退出した。
【残り32人・選手会17人】
44. “元・エース”の挽歌
井端は地面に点々と散る血の跡をたどっていた。
血痕の大きさは拳大以上のものがほとんどで、これを残していった者は相当の深手を負っているだろうことが推測できる。
(まだ新しいな……)
指の先で血痕に触れ、そう確信する。先程の銃撃戦に関わっていた人物が、この近くにいるということだ。
急ぎ足で井端は森の中を進み、やがて血痕が途切れている場所に行きついた。
右前方に見える大木の周りの植え込みに、血が付着していた。
ここだ ── 井端はそれをかき分けてその奥へと足を進めた。
『元』エース。そのありがたくない称号を甘んじて受けなければならなくなったのは、いつからだったか。
自分が先発の柱として機能できなくなったことに、深い理由などない。
大きな怪我をしたわけでもなかった。例えば ── 黒木のような。
ただ確実に言えるのは、投手の腕が“消耗品”であること。
その消費期限が、ことさら早く自分に訪れただけのことだ。
(……残酷な話やな)
目を閉じ、そっと吐息を漏らす。
岩本は背もたれ代わりの木の幹に全身を預けていた。
肺の動きは次第に鈍くなり、呼吸すらままならない状態になっている。
中里に撃たれた場所は右腕と腹部。致命傷かどうかは判断のしようがないが、このひどい出血ではいずれ死ぬ。
……潮時か。
(黒木)
あのあとうまく逃げられたのか。彼を独りにしてしまうことが唯一の心残りだった。
岩本の予感が正しければ、おそらく黒木は……。
(………?)
不意に、ガサガサと音を立てて茂みが揺れ動いた。
誰なのか。そう考える間もなく、一人の人間がその場に現れた。
重い瞼を開け、岩本は相手の姿を確認する。最初に視界に収まった胸の番号は6番。
中日選手会長、井端弘和だった。
誰もここには来ないだろうと思っていただけに、岩本は驚きを隠せなかった。
井端が目の前まで近づいてくる。
「……岩本さんですね。日本ハムの」
そう確認する井端の声音は、無機質そのものだった。まるで一切の感情を排除してしまったかのような。
岩本の認識する井端はこんな男だったろうか ── 彼の問いかけに頷くことも忘れて、井端を見上げる。
彼は肩に古めかしい銃を引っかけていたが、それをこちらに向けるつもりはないようだった。
「死ぬんですか?」
ぽつりと、見たままを述べただけのように、井端が呟いた。
── ああ、死ぬな。それは間違いなかった。「そうやな」と、答える。
岩本は残った気力を振りしぼって、言葉をつなぐ。聞きたいことがあった。
「……なあ、お前らは……、みんなそうなんか……」
「……何がです?」
「レギュラー取るためやったら、チームメイトでも簡単に殺せるんか…」
「どういう意味ですか」
「俺を撃ったやつがそう言うとった。エースになるために、他の投手を殺すってな」
それを聞いた井端の眉間がわずかに皺を刻んだ。心当たりがあることを示す反応だった。
「……いいえ、俺は」
小さくかぶりを振り、井端は一度目を伏せる。
言葉に迷っているような沈黙だった。しかし井端は、すぐに顔を上げた。
「…チームメイトだけは、殺すつもりはありません」
その一瞬だけ無感情の殻を脱ぎ捨て、彼は偽りのない目で岩本を見た。
「そうか……。それ聞いて安心したわ……」
岩本は微笑する。最後の最後、仲間を裏切らない意志を持つ人間の言葉を聞けた。それで充分だと思った。
「…井端、お前にこれやるわ。もらいもんやけど」
無事な方の左手でポケットを探り、岩本は黒木にもらった板ガムを一枚差し出した。
「別に食わんでいいから、持っといてくれ。ほんで、もし、…黒木に会ったら、伝えてほしいんや。
絶望だけはするなって」
「……なぜそんなことを俺に頼むんです? 俺は黒木さんを殺すつもりでいますよ。
あの人も選手会役員なんですから」
「それでもええ。伝えてくれたらそれでええねん」
「………」
井端はかなり迷ったのだろうと思う。
が、ためらいながらも岩本の手からガムを受け取り、ユニフォームのポケットにそれを突っ込んだ。
「わかりました。……会ったら、伝えます」
「おおきに」
礼を言った後、上手く息を吸い込めず、岩本は咳き込んだ。
急速に身体の力が抜け、徐々に視界がぼやけていく。
……黒木、どうか、お前は陥るな。
お前が一度見たに違いない、狂気という名の闇に。
── 岩本の意識は、そこで途絶えた。
なぜだろう。井端は思う。
「……」
敵が一人死んだ。それは喜ばしいことのはずだった。
ましてや、自分は選手会を皆殺しにしようとしているのだ。
だが、感情を動かす気にはなれない。
いや、動かせなかった。胸の奥に溜まった、薄ら寒い感情を揺り動かしてしまいそうだったから。
もうすぐ夜が訪れようとしている。それまでにこの森を出なければ。
井端は踵を返し、再び深い森をひた走る。
心の奥にある、その感情には気づかないふりをしたまま……。
【残り32人・選手会16人】
岩ちゃん…井端…・ ゚・(ノД`)・゚・。
45.若き力
ナゴヤドーム─
ここには家族、参加させられなかった選手、そして落合監督の姿があった。
背番号53、仲澤忠厚。朝起きると、目の前に軍服の男がいた。そして変なスプレーをかけられ、又寝てしまった。
起きた時には、ナゴヤドームにいた。二軍の仲間達、そしてコーチ、落合監督、スタンドには選手の家族の人達がいた。
みんな寝ている。「おい、みんな起きろ!!なんでこんな所で寝てるんだ!」
その声に少しずつみんなが起き始める。何がなんだか分からず唖然としている奴、顔を叩いてる人、いろいろいる。
そして、ドームの周りには軍服姿の男が数人立っていた。そして見計らったように、ドームビジョンに映像が映る。
「たかが選手諸君、そしてコーチ、監督ども、ああ、選手の家族かなんかも連れて来てたな、グッハッハッハッハ」
その声とともに、ナベツネの顔がビジョンに写った。いちいちうぜえんだよ、たかが元オーナーが。
「君達に集まってもらったのにはわけがある。今日、選手会が武器を持って我々に抵抗してきた。たかが選手が」
俺も参加してぇなぁ・・・ナベツネとかを殺せるんなら。と一瞬不謹慎な事を考えてしまった。いけないいけない。
「そして、一軍にいる中日の選手達に殺し合いをしてもらう事になった。・・・お、今選手どもが出発したようだな、グッハッハッハッハ」
ドームにざわめきが起こった。冗談だろ?ありえねぇよ。
「・・・ふざけるなあああああ!!!」
ドームに凄い声が響いた。落合監督だ。いつもやさしく冷静な落合監督の顔が鬼の形相になっている。完全に切れている。
「貴様それでもにん・・・」
落合監督が言いかけたが、ナベツネの言葉にかき消された。
「おっと。いきなり一人目の死者が出たようだな、グッハッハッハッハ・・・いい証拠となるだろう。映像を送るわ」
一気にドームの空気が凍りつく。次の瞬間、出てきたのは背番号0、ミツさんの変わり果てた姿だった。
「あ・・・・ああ・・・うわああああああああああああああああ!!!」
ドーム全体から悲鳴があがる。仲澤もその光景に目を疑うしかなかった。
「グッハッハッハッハ・・・いい光景だろう、グワッハッハッハッハ・・・プッヒャッヒャッヒャッヒャ・・・」
「ふざけるなああああああああああああああ!!ミツには・・・あいつには家族がいるんだぞ!!!!」
落合監督が猛然と軍服の男に飛びかかる。しかし、二人ががりで抑えられてしまった。
「ぐっ・・・・くそ!!!」
「まぁ、そういうことだ。君たちには特別に生存者、死亡者リストだけでなくライブ映像を送ってやろう。特別に見れるんだから感謝しろ」
その声とともに、ナベツネの映像が消え、戦場のライブ映像が写った。
しばらく、ナゴヤドームは静まり返った。その間にも『ゲーム』は刻々と続く。井端さんが三輪さんを殺す。
そして、谷繁さんが殺された瞬間に、頭の中で『プチッ』と音がした。
体が勝手に立ち上がる。軍服の男が何かを叫んでいるが気にせず勝手に軍服の男の方へ向かう。相手がこっちに向かってきた。
鈍い音がした。仲澤の拳は軍服の男の原に食い込んでいた。軍服の男は一撃で気絶した。
「なっ・・・あいつを殺せ!!」
他の軍服の男が一斉にこっちに銃口を向ける。倒した男から銃を奪うと、何も考えずに軍服の男がいる方にどんどん乱射した。一人、二人・・・倒れていく。あっちも撃ってきた。
倒した男が持っていた手榴弾を手に取る。「仲澤、何を・・・」と言う声がした気がするが気にしない。
カチッ・・・栓を抜くと、一気にグラウンド内の軍服の男がいる方へ投げまくった。
全員が一気に伏せる。ものすごい音がした。土煙が凄い。ただ、今なら逃げられる。
「今だ!!!逃げろ!!!」
とにかく叫んだ。今しかない。一瞬静まり返った後、雄たけびとともに走る音が聞こえた。出口はすぐ横だ。とりあえずベンチにあったライトをおいて目印を置くと、出口へ向かって走り出した。
「ぐ・・・待て!!」
監督を捕まえてた男が追おうとする。
「お前らを行かせはしない・・・お前らを殺しても、バチはあたらんだろ」
そう言うと、監督は肘打ちを一発食らわせて銃を奪い、二人に向かって撃った。二人が並んで崩れる。
「さて・・・どうする?仲澤め、とんでもないことしやがって・・・」
その視界に人が見えてきた。宇野・・・森・・・コーチ達だ。
「監督、私たちも何かしないといけないのでは?」
宇野が言う。その通りだ。
「よし・・・・家族の人達をここから逃げさせろ!!」
その声とともに、コーチ達がコーチ達は銃を奪うと生きている軍服の男と戦いながらネットの扉を外し誘導する。
そして選手は駐車場に着くと、仲澤が乗り込んだ軍のバスに乗り込む。
「全員か?よし、出るぞ!!」
そう言うと、仲澤はアクセルを全開にしてバスを発車した。流石に軍用のバスだけあり防具等が後ろにそろえられている。
「仲澤、飛ばしすぎだ!事故るぞ!」
俺の辞書に制限と言う言葉はない・・・そう思いながらどんどん速度をあげ、道路に出る。目標は名古屋港。
そして、しばらくして家族を乗せたバスも落合監督・宇野コーチが二台に分けて運転し発車した。目標は名古屋空港。
ナゴヤドームには、爆破でできた砂と倒れた軍服の男だけが残った。
中里・・・鉄平・・・生きててくれ・・・
仲澤は祈りながら高速に乗って飛ばしていた。
【残り32人・選手会16人】
す、スゲーおもしろい。ドラバト。
職人さん乙です。
PL勢のエピソードはちょっと感動した。立浪・・・・イ`・・・・
255 :
112:04/09/27 07:43:46 ID:zqMNpXSq
46.連係プレイ
日没の後、薄明かりのみが残る時間。
急に森が切れて、目の前が大きく開けた。
ベンチや赤茶けた遊具が放置されている…元は公園だったようだ。
注意深く辺りをうかがっていた井上は、公園の隅のベンチに人影を見つけて、一瞬ぴくりとした。
それがよく見知った人物であると分かると、安心して近づく。
「セキさん。無事だったんですか」
「ああ、一樹。お前もな」
無防備に歩み寄っていた井上の足が止まる。
関川の手にした銃が自分の胸に向けられているのに気づいたから。
「悪いけど死んで貰うよ、一樹」
「なんでですか!」
「俺は試合に出たいんだ」
向けられた銃口、刺すような視線。
ーセキさんは、本気だ。
「…俺もまだ死にたくないんです。だから、抵抗させて貰います」
そう言うと井上は自分に支給された武器ー投擲用のナイフーを二本取りだし、
両手に一本ずつ持って構えた。
(お互い飛び道具か…一樹は元投手だ、気をつけないと)
張りつめた緊張感の中に、ほんの小さな雑音が入り込んだ。
256 :
112:04/09/27 07:44:25 ID:zqMNpXSq
命のやりとりの中で、神経が研ぎ澄まされていたのだろうか。
普通の状態だったら聞き落としたに違いない小さな草揺れの音に、
二人は反応しそちらを見る。
公園の入り口辺り、50メートルほど離れた場所に水口栄二が立っていた。
…肩に担いだグレネードランチャーを、二人に向けて。
「一樹っ!」
叫んだ関川と視線を交わし、頷く。守備位置の確認をするときのように。
二人は公園の入り口へ、水口の方に向けて走り出した。
発射された弾がちょうど井上と関川の真ん中を通り過ぎ、森の入り口の辺りで轟音が起きる。
(はずした…?!もう一回!)
もう一発撃とうとして、水口は動揺した。二人がすぐそばまで迫っている。
ー距離が、近すぎる。ここでは撃てない。
立ちつくしてしまった水口の両サイドを、井上と関川が走り抜ける。
すれ違うその瞬間、井上は逆手に持ったナイフを思い切り振り抜いた。
ー狙いは、水口の左腕。
同時に右側から銃声がした。
そのまま走り抜け、森へと飛び込む。
ちらりと振り返ると、水口の両腕がだらり、と下がっているのが見えた。
追い打ちをかけれる状態ではなさそうだ、それだけ確認すると視線を戻して走り続けた。
257 :
112:04/09/27 07:44:59 ID:zqMNpXSq
「ここまでくれば大丈夫かな」
5分ほど走って、やっと関川が速度を緩める。井上もそれに倣った。
「いくら水口さんが近鉄、いてまえ打線の人だからって、あんなごつい武器持ってるのは反則ですよ。
使い慣れてなかったみたいで助かりましたけど」
「それだけあっちも必死なんだろうよ…しかし」
鞄から支給された水を出し、喉を潤しながら関川は井上を見た。
「よくお前、俺の考えてることわかったな?」
懐へ飛び込み、両腕を負傷させて追撃を防いで逃げ切る。
それが関川が描き、二人が成功させたシナリオだった。
「だてにセキさんの隣を守ってませんよ」
にこっと笑ってみせると、関川はそっぽを向いてしまった。
「…2時間くらい寝る。その間見張りしとけ」
ぽん、と銃が投げ渡される。それを受け取りながら、井上は聞いてみた。
「俺を殺すんじゃなかったんですか?」
しばらくの沈黙の後、答えがあった。
「気が変わった。死ぬまでこき使ってやるから覚悟しとけ」
【残り32人・選手会16人】
47.泣く道化
日が沈もうとしていた。もう森の中では既に、ほとんど視界がきかない状態になっていた。
数メートル先の、湿った落ち葉を踏む音がぴたりとやんだので、渡邉もそこで
足を止めた。
「進めませんね、これじゃあ」控えめに声をかけると、
「さあ、どうしよっかなあ」と、独り言のような返事がきた。
渡邉は静かに笑った。
「どうしましょうねぇ」
川相を見つけたのは、島の端の方を流れる小さな川のほとりだった。
背の高い草の中を、身をかがめ恐る恐る進んでいると、まさに文字通りばったりと出くわした。
彼も同じように草に身を隠している風だった。目があった瞬間はさすがに驚いたようだが、
すぐに薄ら笑いを浮かべた。いつもの笑い方じゃない。飛び退き、いったんは身構えたが、
笑っているだけだったので、おや、と思い話しかけた。そこで、渡邉も森野と同様に、
川相が「おかしくなっている」という事実を知ったのだった。
銃声は止まない。暗くなってきたので少し減った気はするが、
それでも誰かが撃ち合いをしているのにはかわりないようだ。
(夜が明けるまで、何時間だ……)考えて渡邉は嫌な気分になった。
今が夕方6時半で、日出がだいたい朝の5時だと考えると10時間半あることになる。
ここで身を潜めるのも一つの手ではある。火を焚かず、身を伏せていれば
そう簡単には見つからないだろう。
もっとも、暗視スコープなどを持った奴が襲ってこれば、何の意味もないが。
川相さんはどうするつもりなのだろう。渡邉が周囲の風景から、辛うじて見える背番号7に
視線を戻した時、再び川相は歩き出した。時々躓いたりとおぼつかなげな足取りだが、
耳を澄ましても、他に近い足音は聞こえない。渡邉はなるべく音を立てないよう、
ゆっくりとその後ろをついて行った。
渡邉が川相を見捨てなかったのは、渡邉自身がなかば捨て鉢になっていたからだろう。
延々と一人で、常に姿のない敵に怯えながら歩き回っていた。
敵の姿は、映画で見た魔物の形となり、醜悪な怪物になり、
名の知れた、目標としている選手の顔になり、チームメイトの顔になり、
そして最後には自分の顔になり、また魔物に戻った。わけのわからない物をたくさん見た。
そうしたものがぐるぐると頭の中を巡っている内に、だんだんと何もかもが
嫌になってきたのだった。死ぬのも、生きてこうして彷徨うのも、人を殺すのも、全てが嫌になった。
もういい、どうにでもなれ。そう思った時に川相に出会ったのだ。
また川相が足を止めた。何を見つけたのだろう。背番号はもう見えないので、輪郭を目で追う。
ず、ず、と二歩進む音がした後、ざっ、と何かが滑るような音が続いて、川相の輪郭が消えた。
(えっ?)あわてて彼のいた位置まで行く。
(いない?)不思議に思い左右を見回していると、つま先をコンコンと叩かれた。
びっくりして足を引き下を向くと、真っ暗な背景に顔の輪郭がわずかに浮いていた。
(ああ、ほら穴か何かになってるのか)ほっと安心して、渡邉もその中にもぐりこんだ。
なるほど、入り口は狭く、地面に対して水平に近いから、普通に歩いていても
なかなか気づかないだろう。中はさほど広くはないが、寝そべっている分には問題ない。
(よくこんなのがあるって気づいたなぁ……)呼吸音のする方に感心のまなざしを向けたが、
何も見えなかった。
どうにでもなれ、と思った渡邉にとって、「どうにでもなってしまった」川相は羨ましく見えた。
なんだかよくわからないままに、渡邉は自分のことを語っていた。
「俺今、もう考えるのやめようと思ってたんです。生きるとか死ぬとか殺すとか、
もうどうでもいいやって。死んだら死んだで諦めればいいやって思いこもうとしてたんです。
けど、やっぱり無理なんすよね。つい、生きて帰らないとできないことを想像しちゃうんすよね」
二人ならんで川岸に腰かけ、川底を見つめている。川相は時々水面に手を触れていた。
「試合のこととか、息子のこととか……。悲しいっすよね、こんなとこで家族の顔思い浮かべたら……
辛くなるだけだってわかってるのに、気がついたら考えてる。川相さん、正しいですよ。
考えれば考えるほど苦しい思いしなきゃならんのだったら、考えない方が――」
「うわっ」
一瞬の叫び声に続いて大きな水音がしたので、はっと顔をあげた。
案の定、川相がうつぶせに近い格好で川の中に落っこちている。
「川相さん!!」
浅い川だから溺れる心配はないが、それでも慌ててベルトを掴んで引き上げた。
どうやらバランスを崩したらしい。額に傷がついていたが、相変わらずへらへらしている。
(ドジだなあ……)溜息をついて、
「大丈夫ですか?」と笑いながら尋ねた。その瞬間、どきりとした。
川相の目は、真っ赤だった。
渡邉はこの時悟った。この人は狂ってなんかいない。正気のまま演技している。
何かのために、考えて考えて苦しんで苦しんで、けれどそれを押し殺しているのだ。この人は……
ヒーローインタビューで子どもの名前を呼ぶ川相の姿を思い出し、渡邉は泣きそうになった。
(すいません、川相さん……)
しばらくごそごそしていたが、じきに規則的な寝息が聞こえるようになった。
渡邉は眠ったようだ。川相は目を見開いたまま、暗闇の遠くを見つめていた。
すっと一筋、頬に光る物が線を引いたと思うと、
それは止めどなく溢れて冷たい地面を静かに濡らした。
【残り32人・選手会16人】
川相・・・゚・(ノД`)・゚・。
凄い感動するな・・・・。
仲澤と監督やコーチはこれからどうするんだろう・・・・。
48.今度は俺が
「立浪さん、死んじゃ、駄目ですよぉ・・・!」
石川が立浪を引き摺りながら声を掛ける。もちろん返事は返ってこない。
―死んじゃったのかな・・・いや、まだ暖かい・・・とにかくこの辺りから離れなきゃ・・・
撃ち抜かれた足からは血が止め処なく流れ続け、ガクガクと震えていた。
―それでも・・・それでも、逃げなきゃいけない。
立浪が怪我をしているのは、自分の所為でもあるのだから。
「わ・・・!」
木の根に足を取られて、前のめりに転んだ。目に入った足は血で真っ赤に染まって、膝から下だけが違うもののような気がした。
―もう、駄目だ。一歩も歩けない・・・
―俺が「一緒に行く」なんて言わなければ良かったんだ・・・そうすれば立浪さんがこんな目に遭う必要は無かった!
自分自身が不甲斐なくて、涙が出た。隣の立浪は苦しそうに息をして、時々呻き声を上げている。
―立浪さん、辛そうだな・・・でも何も出来ない・・・
「いっそのこと、楽にしてあげた方が・・・」そんな考えも頭を過ぎる。
―親友が、人を殺していたなんて・・・
もし自分だったら、やはり辛い。立浪さんも目が覚めたら苦悩するだろう。だったら、立浪さんが目覚める前に、ここで俺が・・・
震える手を、マシンガンに伸ばす・・・
「・・・誰か居るのか?」
茂みがガサガサと動いた。慌ててマシンガンを掴む。
「おっと!石川、撃つなよ?」
「あ・・・山本さん・・・」
「お前、足・・・どうした?わ、立浪まで・・・!」
「山本さん・・・山本さん・・・」
涙が後から後から溢れた。さっきから泣きっぱなしで石川の頬にはくっきりと涙の跡が残ってしまっていた。
山本の後ろから岩瀬が顔を出しても、それに気が付かないほど、石川は大泣きしていた。
「大変だったな。ほら、足出せよ。手当てしよう」
「お、俺はいいですからっ、立浪さんをっ」
「え?アイツ、寝てるんじゃないのか?」
「酷い怪我なんですっ!!」
見ると、額には脂汗が浮き、大きく肩で息をしている。
「・・・これはヤバいな・・・ちょっと移動して手当てしよう。岩瀬、足の方持ってくれ」
せーの、で草叢から土の上に立浪の体を下ろした。
「おーい、立浪ぃ。おーい、分かるか」
山本の声に立浪は薄っすらと目を開いた。
「あ・・・どうして、居るんですか・・・」
「たまたま通りかかったんだ。今から傷口消毒して、手当てするからな」
「・・・石川は?」
「お前に比べれば無事以外の何物でもねえよ」
立浪は少し微笑んで頷くと、また目を閉じた。
「・・・さて、とりあえずはこれでいい」
「よ、良かった・・・」
「安心するな。酷い怪我なのは変わらないんだからな」
「昌さん」
「ああ。痛み止めが要るな。それから消毒液も、包帯も足りなくなってきてる」
「ど、どうするんですか・・・?」
一瞬の沈黙の後、山本が口を開いた。
「俺たち、選手会が居る場所に行こうと思うんだ。だから、石川。お前はここで立浪と一緒に待ってろ」
「え!?危険ですよ、そんなの・・・」
「大丈夫だ。様子を窺って、盗ってこれるようだったら薬を盗ってくるだけだから」
―それが危険なんじゃないかなあ・・・
そう思っても、口に出せる雰囲気ではなかった。
「俺たちの心配より、自分たちの身を守ることを考えろ。俺たちは絶対戻ってくる。だからそれまで待ってるんだ。いいな」
「・・・」
石川は黙って隣で眠る立浪の顔を見た。先ほどより幾分楽そうにはなったものの、相変わらず息は荒い。
「・・・分かりました」
―俺は立浪さんに守られた。今度は俺の番だ。・・・これからは絶対に泣くもんか。俺がしっかりするんだ。
「それじゃあ、頼んだぞ」
山本と岩瀬の姿が暗闇に溶けていった。残された石川はサブマシンガンを片手に一層気を尖らせていた。
【残り32人・選手会16人】
>>244 確認しました。どうもありがとう。お礼が遅くなってスマソ。
岩瀬と昌は衛生兵みたいだぞ。
49.先輩・親友・敵
落合監督は車を走らせていた。目標は名古屋空港だ。しかし、その前に寄らなければいけない場所がある。
車内はかなり重苦しい雰囲気になっていた。泣き崩れてる人、必死にこらえようとしている人、何があったか分からず呆然としている子、他の子と遊んでいる子。
一人泣き叫んでる巨体の奴もいる。・・・フクシ?お前って奴は・・・情けない。
無線で後ろを走ってる宇野と無線を取る。行き先、そして目的を・・・
そして仲澤が運転している選手のバス。全員腰が抜けていた。仲澤が笑いながら高速を爆走している。他の車をどんどん追い越す。
・・・恐らく、150`は出ているだろう。こんな所で俺達を殺す気か。酒井は思ったが仲澤は慣れた手つきでバスを飛ばしていた。
そして島─
小笠原は歩いていた。もちろん、「偉大な先輩」を探して。
「先輩・・・どこにいるんですか・・・?生きているんですか・・・?」
一歩歩くごとに手榴弾がカチャッ、カチャッと音をたてる。いきなり爆発しないだろうか。怖い。
その瞬間、後ろから大声がした。
「動くな!!」
その場の空気が一気に冷めた。血の気が引く。怖くて動けない。
「オガサ・・・?」
その声の持ち主に気づいて振りかえる。中日のユニフォームだ。57番とユニに見える。
「英智・・・」
紛れもなく、親友、英智だった。98年ドラフト3位と4位の同年齢、親友だ。
「よかった・・・オガサ生きてたか」
「ああ、おまえも生きてて良かったよ」
二人に笑みがこぼれる。
「おい、おまえ怪我してるじゃないか!!」
小笠原が怪我に気づき言う。
「大丈夫だ、山本さんに軽く治療してもらった」
「そうか・・・そうだ、一緒にせんぱ・・・川上さんとかいなかったか!?」
小笠原は希望を託し聞く。
「すまん、川上さんは見つけられなかったよ」
「そう・・・か・・・」
小笠原は下を向いた。その時、英智に体を思いっきり地面に叩きつけられた。
「がっ・・・」
ズダン!ズダン!銃声だ・・・慌てて逃げようとしながら、相手を確認する。
二人いる。うすらでかい男と、小柄な男・・・桧山さんと今岡さんか!!
絶え間なく撃って来る。
「くっ・・・」
英智の武器はただのナイフだ。とて戦力になる武器ではない。
小笠原は急いで手榴弾を投げた。
「今だ!!」
その声とともに、小笠原と英智が逃げた。後ろで強烈な光が光った。そして、爆音とともに体が少し飛ばされる。
幸い、膝を少し擦りむいただけのようだ。二人は土煙が凄い間に逃げ出した。
「ぐっ・・・」
又手榴弾に襲われた。しかも又英智がいる。桧山の頭に血が上る。
「くそ!!あいつ絶対ぶっ殺す!!」
「まぁまぁ落ち着いて、落ち着いて」
今岡が能天気に話しかける。まったくこいつは・・・と思いながらも、なんとか怒りを静める。
「今日はついてないですなぁ。二度も手榴弾に襲われるって・・・」
ついてないてレベルやないやろう・・・
「まぁ、こんな所でモタモタしてたら殺されちゃいますよ。行きましょう」
「ああ・・・」
そう言って、二人は歩き始めた。目標は英智を探す。そして殺す。あいつは許さん。
英智を殺す、英智を殺す、英智を殺す、英智を殺す・・・
桧山の中に少しずつ、「狂気」が出始めていた。
【残り32人・選手会16人】
ひ、ひーやん…あの時の恨みか…orz
小柄な今岡って想像つかん。
ひーやん、いい感じに壊れてきた
>>271 小柄なのは桧山かと
実は170ちょっとしかない桧山
秀太より小さい
>一人泣き叫んでる巨体の奴もいる。・・・フクシ?お前って奴は・・・情けない。
ゲキワロタ
>うすらでかい男と、小柄な男・・・桧山さんと今岡さんか!!
↑こっちと ↑こっちの
順番が逆になってるから混乱しちゃうんだろうな
でもその二人だとまず「桧山さん」の名前が先にのぼるだろうし
入れ替えるなら前半? イヤ余計な事言ってスマン
しかし「うすらでかい」今岡ワロタ
50.脆弱
井端がいなくなって少しして、ひょろりと高いシルエットが、岩本(の死体)の隣に現れた。
それは、血に染まったユニフォームをじろじろと見ながら、時々首を傾げていた。
「……山北さん?」
木の陰から、己の名を呼ぶ声がしたので、彼はそちらを凝視した。
「俺です、久本です」
「ああ」
お互いの顔ははっきりとは見えなかったが、確かに久本で、確かに山北だった。
「なんか、こっちで光ったじゃないですか。だから来てみたんですけど」
そこで久本はようやく、誰かが倒れているのに気がついた。身を強ばらせて、背の高い男に聞いた
「あれは……?」
「岩本さんらしい。俺が来た時には死んでた」
(山北さんが殺したわけじゃないんか)少し安心する。
「でも、あんなとこ突っ立ってたら危ないっすよ」
「……ちょっと、考え事してたんだ」
「考え事? 誰が殺したかとか?」
山北は首を横に振った。
「あの人、頑丈じゃなかったのか、って」
久本は思わず「はぁ?」と語尾を思い切り上げて聞き返していた。
「頑丈じゃなかったから死んだのかって」
(何言ってるんだろう……)山北の台詞の意味を計りかねていると、彼の左腕が水平に持ち上がった。
「久本、お前は頑丈か?」
その腕の先には銃が握られている。抵抗する間もなかった。
眉間を打ち抜かれ、どさりと横たわった久本を、山北は何度か揺すってみた。
「……お前も頑丈じゃないんだな」
その台詞は心底悲しげな響きを持って、久本の上に降りかかった。
不意に、ある男の顔が浮かんだ。ああ、あの人は頑丈なんだろうか。
山北の目にはもう、久本は映っていない。
同じ中継ぎ左腕として、いつもブルペンで笑いあっていたあの人の姿しかなかった。
「岩瀬さん、あなたは頑丈ですよね」
山北は振り向きもせず歩き出した。
【残り31人・選手会16人】
今回の左腕キラーは山北か…
明らかに人格壊れた人間って、井端、中里、山北、檜山かな?
こいつらちょっとやそっとじゃ死にそうにないな
51. 選手会の夜
夜風が闇の色に染まった海をさざめかせ、砂浜に寄せる波が潮の香りを運ぶ。
思いのほか夜は冷えるようだ。焚き火の前に座る古田は、いくつかの枯れ枝を火の中に投げ入れた。
めまぐるしく過ぎていった一日が終わろうとしている。。
三輪が死に、石井が負傷し、散らばって行った役員たちは半数以上が戻ってきていない。
今ここにいるのは古田、石井、中村の三名のみ。
オーナーたちの行方も杳としてしれないままだ。
(まあ、こんなもんやろ)
古田の目に落胆の色はない。難攻不落は覚悟の上だ。
ただ、攻め方は変えねばならないだろうと思っていた。闇雲に島を動き回るだけでは、
突破口はひらけそうにない。
炎のうちを見つめながら思案にくれる。と、キャンプ地を囲む低木の植え込みが、ガサッと音を立てて揺れた。
役員の誰かが帰ってきたのか。話し声とともに足音が近づいてくる。
現れたのは今岡と桧山だった。
「おかえり」
古田は声をかけたが、桧山は口の中でしきりに何かを呟いたままこちらを向こうとはせず、
その後をついて歩く今岡も、「桧山さんいい加減落ち着いてくださいよ」と、古田の存在を無視して通り過ぎて行く。
二人はそのままテントの張ってある場所へと向かった。まるで通りすがりの嵐だ。
「……なんやあいつら」
ようわからん、と古田は首をひねる。しばらくして、また茂みの揺れる音がした。
次に帰ってきたのは緒方だった。
「ただいま戻りました」
「おお、どやった?」
尋ねる古田に、緒方は黙って首を振った。特に成果はなかったということだ。
「ただ ── 」彼は地面に腰を下ろしながら、付け足すように口を開く。
「三輪さんを殺したのが誰なのかはわかりました。……井端です」
伏目がちにそう報告する緒方を、古田は呆けた顔で見つめた。
「……は?」
「俺も攻撃を受けました。一応、事なきを得ましたが」
「そうか…」
胸一杯に溜めた息を、頬をふくらませて吐き出す。
「井端か…。まあ、あいつの性格やったら、そうなっても仕方ないんかもな」
不器用で、根が真面目すぎる彼のことだ。ひとりで選手会を全滅させる、くらいの考えに走ったとしても
おかしな話ではなかった。
厄介やな、と古田は舌打ちする。
「それにしても、他の連中は何しとるんや。まさか徹夜で歩き回るつもりちゃうやろな」
「連絡が取り合えないのは痛いですね。携帯はずっと圏外のままだし」
緒方が言う。携帯が使えないこともそうだが、単独行動をする人間が余りに多いということも、
連絡系統の不備に繋がっている。
「パソコンもな。持ってきたはええけど、ネットでけへんかったら話にならんわ」
渋い顔で古田がぼやいていると、不意に緒方が「あ、そうだ」と声を上げた。
「古田さん、さっきそこでこんなもの拾ったんですけど、使えませんかね?」
そう言って、傍らに置いてあったバッグの中身を古田に見せる。
「なんやこれ、無線やないか。しかもぎょーさん入ってるなあ」
「はじめは爆弾か何かだと思ってたんですけど、状況が状況なんで持って帰ってきました。
あとは古田さんに任せますよ」
古田は手に取った無線機をまじまじと観察する。
掌サイズの、何の変哲もない代物だ。あくまで外見は。
「まあ、これが単に中日への支給品ってことやったら、使えんこともないんやろうけどな」
古田は無線機をバッグの中に戻し、緒方を見て言った。
「他の連中の意見も聞きたいし、これは保留にしとくわ」
「あ、はい」
緒方が頷く。古田はテント側の様子をうかがうように首を伸ばした。
「あっち静かになったぞ。もう寝たんか?」
「古田さん、あとは俺が見張りをしてますから、休んでください」
「いや、まだ誰か帰ってくるかもしれんし、ええよ。お前も向こうでメシ食っとき」
緒方は遠慮がちにしていたが、古田が微笑むのを見て、根負けしたように頷いた。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
会釈して、緒方がその場を立ち去る。
しんと静かになった空間に、炎のはぜる音だけが響く。
そうして十五分ほど経過した時、三たび植え込みがガサガサと揺れた。
「古田さん、戻りました」
高木が申し訳なさそうな顔をしながら、焚き火のそばまでやって来た。
「高木、遅いでー。メシは7時やって昼のときに言うたやろー」
「すいません、帰ってくるのに結構苦労して」
そう言って頭をかく高木は、特に疲れているようには見えなかった。
「…まあええわ。明日はキャンプを移動させるから、早起きしろよ」
「はい、失礼します」
一礼して、高木は暗闇の向こうのテント場へと消えていった。
「さて…。これからどう出るかや」
目の前で燃え上がる炎に向けて、古田は独白する。
オーナーを倒すまで、自分たちは生きのびなければならない。
そして生きのびるためには……。
(いや)
古田は否定する。簡単に納得してすむ話ではない。
(他に方法はある。必ず)
それを見つけるのが、自分の仕事だ。
古田は仮眠を取りながら朝まで見張りを続けたが、結局その後は誰も戻らないままだった。
東の地平線から昇る太陽が空の色を染め替え、夜が明けていく ──
【残り31人・選手会16人】
乙!阪神組が楽しすぎてどうしようもないなw
282 :
112:04/09/29 00:32:22 ID:+6exscCV
52.猛牛魂
「…ちくしょ、失敗したわ」
公園の片隅にあった水道は、幸いにも生きていた。
傷を丁寧に洗い流しながら、水口は顔をしかめた。
負傷箇所が両腕のためやりにくいが、
傷口が化膿したりすることを考えれば手を抜けない。
「こんなんじゃ、ノリや磯部に怒られてしまうなあ…」
戦っていたはずの中日選手二人が、連携プレイを見せるとは思わなかった。
右腕を銃で撃たれ、左腕を切り裂かれ。
ランチャーを保持することができずに取り逃がしてしまった。
この嶋に来ているバファローズの選手は彼一人。
オリックスの三輪はすでに殺されてしまっている。
チーム内ではどちらかというと穏健派の水口だったが、
合併の当事者が自分だけ、という事実により凶暴になっていた。
狙撃銃よりも破壊力の高いグレネードランチャーを自分の武器として選ぶほどに。
283 :
112:04/09/29 00:32:54 ID:+6exscCV
両腕の傷を猛牛マークの入った真っ赤なタオルできつくしばると、
地面においたグレネードランチャーを構える。
少し悩んだが、反動に耐えられるかどうかが気になったので、ジャングルジムに向けて試射した。
狙い違わずジャングルジムが吹き飛ぶ。
反動はきついが、痛みは思ったほどではないようだ。
「中日の連中がどういうつもりか知らんけど。
あいつらに味方するつもりなら、容赦せんわ。
…猛牛魂、見せたる」
オーナー達を殺して、合併撤回という奇跡を勝ち取ってやる。
奇跡を起こすのが、バファローズなのだから。
【残り31人・選手会16人】
書き手のみなさん乙&GJですよ!
選手会って形で複数球団が絡んでるだけあって内容が濃いなあ・・・読み応えがすごいです。
で、ひとつだけツッコミを・・・「いそべ」選手は”磯”部じゃなくて”礒”部なのでよろしくお願いします・・・
hosyu
286 :
112:04/09/29 15:23:47 ID:E2Y5jYCO
>284
指摘?ォくすです。
保管するときに直します。
保管作業遅れてますが、今夜にはなんとかできると思います。
54.蜥蜴が尻尾を気にしたら
おかしな夢を見た。
自分はどこかの野球場にいて、バッターボックスに立っていた。コーチからは送りバントのサイン。
バットを水平に構え、ボールが来るのを待つ。
「違いますよ、川相さん、よく見てください」
渡邉が、そう言って肩を叩いた。
「ほら、誰もいない」
一塁、二塁、三塁。渡邉が指さす方向を見ると、確かにそうだ、
ランナーはいない。これでは送りようがない。
渡邉はにこにこと笑いながら、バットを取り上げた。
「一塁行ってください。俺がちゃんと送りますから」
ぐいぐいと背中を押され、わけもわからず一塁まで走っていった。
「行きますよーちゃんと走ってくださいよー」
彼は嬉しそうに、本塁で手を振っている。
違う、ちょっと待て、それは俺の仕事だろ?
バッターボックスに戻るか戻らないか迷っていると、ピッチャーが投球モーションに入った。
覚えているのはここまでだった。もう少し続きがあったはずだが―――。
泣き寝入ったせいで目が腫れている。やつらに怪しまれはしないだろうか。
まあいい。どうせこいつにはあっさりばれたんだ。ネジの飛んでるふりも、そう長くは続かないだろう。
目の腫れの一つや二つ、気にしてたって仕方がない。
渡邉はまだ眠っている。相当疲れていたんだろう。無理もない、ずっと一人だったと言っていた。
一人でいると神経が摩耗してくる。いらないことをたくさん思い浮かべてしまうからだ。
どうやら俺についてくるつもりらしいが、そうなると厄介だ。
いざというとき、こいつを見捨てることができるか、自信がなかった。
中途半端に迷って、選手会の誰かにうっかり殺されたのでは元も子もない。
けれど真後ろで断末魔の叫びが聞こえているのに、振り返らず笑いながら、前に進むことが
自分にはできるだろうか。
選手会の動向はわからないが、恐らく俺は、多少のことをしても
首輪を爆破される心配はないだろう。たかをくくっているわけではない。
ただ、あいつの性格から想像するに、「巨人の顔に泥を塗った」自分を、あっさりと殺しはしない。
これは見せ物だ。俺が誰かに襲われ、苦しみ悶えながら死んでいくのを心待ちにしているに違いない。
いっそ、自分が手を下したいとさえ願っているんじゃないだろうか。
うまくいけばあいつに会うことができるかもしれない。だから、一人で行こうと決めたのだ。
狂ったふりでもしていないと誰かが頼ってくることは、なんとなく予想できていた。
けど狂ったふりして人を避けてるのに、ついてくるやつがいるとは思わなかった。
どういうつもりなんだ、こいつは。気づいてるんだろ?
このほら穴は昼の明るい内に見つけた。一人なら使うつもりはなかったが、
こいつを朝まで安全な場所に置いておくには、ここしかない。
むやみに出てこなければ、見つかることもないだろう。
――――行くか。
意を決し体を起こすと、ユニフォームがつっぱった。振り向くと、
渡邉の右手が裾を掴んでいる。起きたのかと思ったがそうではない。
掴んだまま眠っているらしい。振り払えなかった。また涙が一滴こぼれた。
「うーん……」
渡邉が何か呟いて、顔を上げた。
「ん……あれ……川相さん?」
まだ意識がはっきりしていないのか見当違いな所を向いている。
けれど、ユニフォームを掴んだ右手だけは、しっかりと力がこめられていた。
【残り31人・選手会16人】
うあ゛ぁあ ・゚・(´Д⊂ヽ・゚・ あ゛ぁあぁ゛ああぁぁうあ゛ぁあ゛ぁぁ
。゚(゚ `Д)ノ。゚ヽ( )ノ゚。ヽ(Д´ ゚)ノ゚。。゚ヽ(゚`Д´゚)ノ゚。
職人さん上手すぎるせつなすぎる…!!
絶品ですな。もう虜です。
毎日毎日
このスレが楽しみで仕方がない……
55.死んだら何も残らない
明け方になって、山本と岩瀬は選手会のキャンプを見つけた。
島の中心の辺りから海岸線へ抜け、島の輪郭をなぞるように夜通し歩き続け、やっと見つけたのであった。
「・・・やっと見つけたな」
「はい、じゃあ」
―早く行きましょう、選手が起きだす前に。そう言おうとして、ハッと口を噤んだ。
山本が立ち上がりかけた岩瀬を制止したからである。
岩瀬が驚いて山本の顔を見ると、左右に首を振っている。
「お前は、ここで待ってろ」
「どうして・・・」
「後方支援だ。今までもそうして歩いてきただろ?」
―昌さんは、島での行動のことを言っているのだろうか。それとも・・・
「・・・いつも俺は後ろなんですね」
「お前がいてくれて、助かったよ」
―シーズン中のことも含めて言っているのだろうか?
「とにかく、ここに居てくれ。退路を塞がれたら逃げるとき困るからな」
「・・・分かりました」
―頷いた。ここで昌さんを困らせるのは本意ではない。
「くれぐれも選手会見つからないようにしてくださいね。もし見つかったら・・・」
「・・・分かってる」
―もしも見つかったら殺しあわなければならない。どんなに仲の良い相手でも。殺し合いを拒否すれば野口さんの二の舞だ。
辺りを窺いながら、山本はゆっくりと選手会のテントに近付いていった。
それを心配そうに見送る岩瀬に、一つの黒い影が近寄っていた・・・
―起きだしてきた人の気配はないな・・・
しかし、夜襲などに備えて必ず見張りがいるはずだ。そいつに見つからないようにしないと・・・
突然ハッと足が止まった。野性的な何かが山本の足を止めた。誰か居る・・・
隠れようと辺りを見渡すが、海岸は開けていて大柄な身を隠せるような場所が、いきなり見つかるはずもなかった。
―しまった・・・!
火の近くで座り込んで下を向いている男。
その顔がゆっくりと上げられる・・・
「・・・あ、」
「・・・」
山本は顔を背けた。顔を上げた男が、自分と同じ40年会の選手、古田敦也だったからだ。
「・・・どないしたん?夜襲にしてはちょっと遅いんちゃうの?」
他の選手をすぐに起こすと思いきや、眼前の男は意外にも笑顔で話し掛けてきた。
「違うよ・・・頼みがあるんだ」
「何や?」
「・・・薬をくれないか」
「薬?・・・怪我か?病気か?」
「怪我だ。そっちに撃たれたらしい」
「・・・そう、か」
沈黙。目の前に開けた海が朝日にキラキラと輝いて、眩しかった。
「・・・こっちもな、三輪が死んだわ」
「・・・」
「でも、どうやら山本サンは違うみたいやな」
「当たり前だろ」
―『山本サン』。やけに他人行儀な言い方が気になった。
「薬か・・・」
「もし、くれるのであれば・・・あっちの茂みに一人で待ってる奴がいる。その茂みの前に置いてくれないか?」
「・・・首輪か」
「そうだ。俺は今交戦せずに逃げたら、首輪が爆発して死ぬ。・・・でも、あいつらに何か残してやりたいんだ」
「・・・ええよ。持ってき」
「ありがとう。それからもう一個頼んでもいいか?」
「何?」
「これを・・・中村に。居るんだろ?中村」
―野口の形見、キャッチャーミットを差し出した。
「・・・受け取っておくわ」
「悪いな」
「俺も一個、試したいことあんねんけど・・・ええか?」
「ん?・・・何だ?」
古田は山本を手で呼んだ。
その古田の手には火の管理をしていたと思われる、木の棒が握られていた。
それを地面に走らせる・・・
「うわっ!何すんねん!?」
「かかったな!薬が手に入ったらもうお前に用はないんだよ!!」
「くっ・・・誰か!誰か来てくれ!!」
古田の声が選手会のキャンプに響く。
「・・・古田さん、どうしました!?」
今岡が1番にテントから這い出て走ってきた。急いで出てきた為、上着がだらしなく垂れている。
「ちっ・・・数が増えると不利だな・・・古田!勝負は預けるぞ!!」
山本が身を翻して逃げていく。追おうとする今岡を古田は手で制した。
「アホ、武器も持たんで追っかけてどないするん!?」
「でも・・・」
「誘き寄せる罠かもしれんやろ!迂闊に追うな!」
「あ、はい・・・」
「とりあえず皆起こすか・・・あ、それから今岡」
「何ですか?」
「皆寝てる間にな、薬の在庫とか調べたんやけど・・・」
「へえ、ご苦労様でした」
「それでな、使用期限切れてるやついくつかあるから、間違えて使わんようにそこの茂みに捨てといて」
「分かりましたぁ」
山本昌が消えていった茂みを見つめ、古田はしばらくそこから動こうとしなかった。
(何か残したい、か・・・)
その手には野口の形見であるキャッチャーミットが握られている。
(死んだら・・・死んだら、何も残らんのにな・・・)
【残り31人・選手会16人】
騙し合いの中にも複雑な感情か――野球板バトロワ最高傑作の予感だ
毎日本当に楽しみにしてます
いつも目の前に情景が浮かんでくる様な文章で、職人さん凄すぎ!
298 :
age:04/09/29 23:42:27 ID:gjTimkdw
299 :
112:04/09/30 00:15:40 ID:YFh1bAXV
55.FAの光と影
手にした探査機に、「20」と「22」のマークが表示されている。
『川崎と、柳沢。どちらか一人を始末してほしい』
その指示を受けたとき、平松は迷いもしなかった。
恋人とは次第に疎遠になっていき、口喧嘩になることが増えた。
俺のことが嫌いになったのか。そう電話口で怒鳴ったとき、彼女は言ったのだ。
『そうじゃない。…でも、名古屋は、遠いよ。
無理だよ、私たち…』
FA宣言した奴はいいだろう。
評価して貰って、年俸も上がって、新天地で気分一新して。
だが、そのために犠牲になる奴がいると、あんたたちは知っているのか?
人的保証という制度のせいで、
今まで築いてきたものを全部置き去りにしなければならなかった
俺の気持ちが分かるのか?
だから俺は、あんたを殺すよ。
なあ、川崎さん。
300 :
112:04/09/30 00:26:40 ID:YFh1bAXV
次第に明るんでくる東の空を見ながら、川崎はほっとした。
明るくなれば、多少なりとも危険が減る。
側の柳沢を見ると、ぐっすりと眠っていた。疲れているのだろう。
…無理もない。目の前で野口の死を見たのだから。
もう少しだけ寝かせておくか、そう思ったとき、草をかき分ける音がした。
首筋に冷たい感触。それが銃口であることは、見なくても分かった。
「動くな。銃を捨てろ」
銃を捨てて両手を挙げる。
「…平松。なんで、お前が」
「立て。向こうまで歩け」
川崎は立ち上がり、柳沢と平松を交互に見た。
「…柳沢さんには手を出しませんから、心配要らない」
それを聞いた川崎は、素直に歩き出した。
301 :
112:04/09/30 00:34:36 ID:YFh1bAXV
防波堤の上に出る。川崎のすぐ後ろに海が迫っていた。
「あんたには死んで貰う」
川崎に銃を向けたまま、平松は言った。
「あんたはルールを破った。オーナーを守るために戦う、っていうルールをね。殺されたって文句言えないだろ」
「つまりお前は、オーナーの手先になった訳か。チームメートが、あいつらに殺されたっていうのに」
「…チームメイト、ね。よく言うよ。この詐欺師が」
いきなり平松は発砲する。
サイレンサーが取り付けられた銃からは、ぷしゅ、と間抜けな音がした。
「っ…!」
川崎の右腕から鮮血が飛び散る。
「なにが『野口の敵をとる』だ。球団から高い金を毟り取ってさぼってたくせに、今更偽善者ぶるんじゃねーよ」
立て続けに平松の銃が火を噴く。
「俺たちが必死になって働いても雀の涙ほどの年俸しかもらえないのに、
一軍で投げもせずに4年で7億?おめでてーな」
川崎のユニフォームが、血で真っ赤に染まっていく。
「FAなんてなくした方がいいんじゃないか。あんたみたいな詐欺師はいなくなるし、俺だって…」
平松は言葉を切って、銃を川崎の眉間にポイントする。
川崎は膝をつき、荒い呼吸を繰り返していた。
「まあ、いいや。とにかく俺はあんたと、俺の人生を狂わせたFAが許せないんだよ」
だから、死ねよ。
そう呟いて、平松は引き金を引いた。
302 :
112:04/09/30 00:37:58 ID:YFh1bAXV
俺は詐欺師なのか。
俺は偽善者なのか。
FA宣言なんかしなければ良かったのか。
中日のために何もできなかった。
投げることもチームメートを助けることも。
自分が情けない。
古田さん、ごめん。
俺との対戦、楽しみにしてるって言ってくれたのに結局投げられなかった。
ファンの人、ごめん。
ごめん、ごめん…
意識が途切れる瞬間まで、川崎は謝罪を繰り返していた。
動かなくなった川崎を海に蹴り落としながら、平松は通信機の電源を入れた。
「川崎憲次郎を処分しました。次の指示をお願いします」
【残り30人・選手会16人】
112氏、作品投下&更新乙です。
フローチャートを作ってくれてdクス
流れが分かりやすくなった。
56.成功の裏で
「はっ、はっ、はっ・・・」
緊張していた為か、軽く走っただけで息が切れる。
―爆発しない・・・やっぱり古田の言った通りだったのか?
あの時、古田が木の棒で地面に書いた文字。
『それ、盗聴器入ってると思う』
『一か八か俺を襲う演技をしてくれないか』
『もし俺の考えが当たってるとすれば、首輪は爆発せんと思う』
―なかなか名演だったな。思い出すとあのオーナーたちを騙せたことに、笑いが込み上げる。
―後は岩瀬を連れて一旦引いて・・・後で茂みの薬を回収すればいい。
岩瀬が待っている茂みに戻り、山本は小さな声で岩瀬を呼んだ。
「岩瀬、とりあえず今は引くぞ。岩瀬・・・」
そこまで言って、山本は異変に気付いた。人の気配がない。
「岩瀬?」
返事はない。
「岩瀬・・・岩瀬!」
―まさか・・・!嫌な予感がした。
山本が茂みに戻ってくる少し前・・・岩瀬は背後から人の気配がすることに気付いた。
―誰か居る・・・!
殺気を感じ、体を低くした。その瞬間シュパッと音がして体の上を銃弾が掠めていった。
「・・・さすが」
「その声・・・山北か!?」
ひょろっとしたシルエット。自分の遥か頭上で銃を掲げているのは、間違いなく山北茂利だった。
「ええ。・・・岩瀬さんはきっと頑丈に出来てるんだろうなあ」
「え・・・?」
突然訳の分からないことを言ったかと思うと、山北は岩瀬の上に馬乗りになった。
「じゃあ、最初は右足からいきましょうか」
「何言って、・・・うあっ!!」
プシュッと空気の抜けるような音がした後に、岩瀬の右足に激痛が走った。
―こいつ、撃ちやがった・・・!
「いきなり出血でショック死なんて、やめてくださいね」
「お前っ・・・「次は左足と右腕、どっちがいいですか?あ、左腕は最後ですよ」
―狂ってる。山北はこの状況下で狂ってしまったんだ・・・!
「あれ?返事がないなあ。じゃ、両方同時にいきます?」
「山北やめ・・・っ!!!」
山北は素早くナイフを取り出すと(ナイフは元々久本の武器だった)、岩瀬の右腕に突き刺した。
それと同時に素早く左足を撃ち抜く。
「ぐっ・・・山北、やめろ・・・こんな、馬鹿なこと・・・」
「ようし、まだ生きてますね。じゃ次はメインディッシュ、左腕ですよー」
「やめろ・・・やめろ・・・」
「久本の時は一発で頭撃っちゃって、失敗だったなあ。やっぱりこうやってやらないと、面白くないですよね」
にこり、と。返り血を浴びたユニフォームに身を包み、鮮血を散らした顔で、山北は笑った。
「岩瀬さん、今どんな気持ちですか?」
俺がもう一度引き金を引けば、野球できなくなるんですよ?笑いながら言う山北を、岩瀬は何か違う生き物でも見るように眺めていた。
「じゃあそろそろいこうかな。岩瀬さん、歯をくいしばって」
山北の指がゆっくり引き金を引いていく。見ていられなくなって、岩瀬は顔を背けた。
「・・・岩瀬!」
ビクッ、と山北の動きが止まった。
「昌、さん・・・」
「何だ、岩瀬さん一人じゃなかったんですか。2対1じゃ不利なんで俺、引きますよ」
引き攣った笑顔のまま、山北が言った。
「また会いましょうね。・・・もっとも、そのときまで岩瀬さんが生きていたら、ですけど」
馬乗りになっていた山北がサッと避け、森の奥へと消えていった。
ガサガサと茂みが動いて、山本が岩瀬を見つけた。
「岩瀬!!」
「昌さん、上手くいったんですね・・・良かった」
岩瀬の五体は左腕、体、顔以外は血で真っ赤に染まっていた。
「俺、もう動けないですから・・・早く、立浪さんのところに、薬を・・・」
「馬鹿、お前を置いてく訳ないだろう!」
「山北が・・・狂ってます」
「山北?山北にやられたのか!?」
話しながら、山本はテキパキと手当てをした。血は出ているものの、綺麗に撃ち抜かれているため銃弾を取り除く必要はない。
「山北は・・・久本も、殺したみたいです」
「・・・そうか・・・」
「ほんと、殺すのを楽しんでいるみたいで・・・」
そこまで言って、岩瀬は初めて恐怖が襲ってきたのを感じた。もしかしたら、自分も死んでいたかもしれない。
あのとき昌さんが来てくれなかったら・・・
そう思うと、頬を涙が伝っていった。生きてる、俺は生きてる・・・
―俺はひどい人間だ。
―久本が死んだと知っても、俺は自分が生きていることを喜んでいる。
久本・・・お前は一瞬で死んだんだな。それとも、殺されることを知って恐怖したんだろうか。
久本を、その恐怖と無念さを思って、岩瀬は泣いた。
【残り30人・選手会16人】
57. 言葉はこの胸に
『今日は黒木がね、復活ということで、熱のこもったピッチングしてたんで、こら俺も
負けてられへんなあ、と思って…。
あいつが苦しい思いして今日やっと登板できたのは知ってるんで、ほんまに良かったなあと
思ってます』
降りた帳を開け放つ時のように、周囲を包んでいた深い闇が取りはらわれていく。
光こそまだ届いていないものの、歩き回るには申し分ないほどに、森の中の視界は回復しつつあった。
黒木は岩本の残した荷物を手に下げ、彼を探して歩き続けていた。
朝露のおりた地面に、どす黒く変色した血痕を見つけたのは、ほんの数分前のことだ。
胸に寒々としたものを抱えながら、それをたどる。
そして行き着いた先に ── 彼はいた。
「岩本さん」
黒木は彼の名を呼んだ。目の前の大きな木の幹に背中を預け、目を閉じてうなだれるその姿は、
ただ眠っているだけのように見える。
身につけている服の右腕部分と胸から下が、無残にも赤黒く染まったりしていなければ。
「岩本さん ──」
両手にある荷物を地面に置き、黒木は膝を曲げて岩本の顔をのぞきこんだ。
肌の色を失った顔。閉ざされてそのまま凍りついたかのような、瞼と唇。
凝固した血に覆われた右腕に触れる。とても冷たかった。
── ああそうか、寒いんだな。とっさにそう思い、黒木は自分の上着を脱いで、岩本の身体にかぶせる。
自らの体温を含んでいるはずの上着の布地ごしに、冷えた感触がどうしようもなく掌に伝わってきた。
その瞬間、黒木は逆流する感情を抑えることができなかった。
「………!」
幾筋もの涙が、とめどなく頬をつたって落ちていく。
『お前はここから逃げろ』
『ロッテのエースはお前しかおらんてことを、これから証明していかなあかんやろ?』
違う、ロッテのエースはもう自分ではない。一度死んだ右肩とともに、かつてのエースも
死んでしまったのだ。
だが、それでも ──
「俺は、嬉しかった、んですよ……」
しゃくりあげながら、黒木は口を開いた。
今年、自分の復活登板の日。対戦チームの先発だった岩本が、勝利インタビューの中で言ったのだ。
黒木が復活できて良かった、と。
確かにエースの座は譲ってしまった。それでも、その言葉を聞いて、また挑戦する気持ちが沸いてきた。
ローテーションを守って、もう一度先発の柱に……と。
なのに。
言葉をくれ、励ましてくれた人物が、どうして死ななければならない?
こんな理不尽な思いを、黒木は知らない。
岩本の腕をつかんだ右手が震え、やがて自然とそれは岩本の身体から離れた。
(どうして、あなたが…)
地面に膝をついたまま、力の抜けた両腕はそのままに、黒木はあてどなき問いをただ繰り返していた。
背番号68、長峰昌司は、茂みの向こうからその様子を見ていた。
大木の前に誰かの死体。その前で泣き崩れる人物。
そして少し離れた場所に、中日の選手の死体もある。
横たわって倒れているうえに、頭を長峰のほうに向けているため、背番号が見えない。
誰の死体かは分からなかった。
状況は把握できていないのだが、目の前にいる人物は選手会の役員に違いない。
そして呆然自失に陥っている今、全くの無防備のはず。
── チャンスだ。
長峰は支給された22口径の拳銃 ─ コルトポケットを取り出し、膝をつく人物の後頭部へと狙いを定め、
トリガーに指をかけた。
【残り30人・選手会16人】
312 :
代打名無し@実況は実況板で:04/09/30 21:11:03 ID:p+8b/g7j
今日優勝決定祈願あげ
58. こんなにも簡単なこと
パァン、と風船の割れる音がした。
銃を握った左手に返る反動はあまりなく、身構えていた身体は逆にバランスを崩した。
やべ、と地面に片手をついた姿勢で長峰は前方を見やり、そして愕然とする羽目になる。
放たれた銃弾は目標を撃ちぬくどころか、その向こうにある大木にすら当たりもしていない。
(……嘘だろ!?)
掌に収まるサイズの、いわゆる護身用の拳銃は、ある程度の距離を超えると、極端に命中率が下がってしまう
という欠点を持っていた。
あくまでも至近距離専用の武器 ── しかし、銃器に関心のない長峰がそんなことを知るはずもなく。
「……」
うろたえていると、さすがに銃の存在に気づいた目標がこちらを振り返ってきた。
「…くそおっ!!」
迷っている暇はなかった。半ばヤケになりながら茂みを飛び出す。
しかし飛び出そうとしたその時、折り重なった低木の枝が足にからみついた。進もうとしていた
上半身の動きを急に止められ、前のめりに倒れる。
枝に引っかかりながら茂みを抜け出した時には、すでに相手は前方の視界から消えていた。
「!」
── どこだ? 体勢を立て直す間もなく、横から頭を蹴り飛ばされ、長峰の身体は地面に叩きつけられた。
苦痛にうめきながら立ち上がろうとするが、その前に左腕を掴まれた。
一瞬のうちに手の中のコルトポケットが奪い取られる。
口の端から血をこぼしながら、長峰は顔を上げ ── 眼前に突きつけられた銃口を見た。
「この銃、軽いんだな」
そんな声が上から降ってくる。
視線を徐々に上げていくと、拳銃を構える声の主と目が合った。
「玩具みたいだな。それで、これを引いたら終わりか」
死んだような目をしている。白目の部分は真っ赤に染まり、その瞳には一片の光のかけらもない。
長峰はぞっとした。死神を見た恐怖からか、これから訪れる死への恐怖からか。
それは分からなかった。
充血した目から涙を流し、その人物は呟いた。
「……簡単なんだな」
二度目に聞いた風船の割れる音は、途中で途切れた。
「……簡単なんだな」
空気を叩く音さえ、軽い。
額に銃弾を埋め込まれて後方に倒れていく背番号68の姿を、黒木はただぼんやりと見つめた。
そんなことで死ぬのか。あの人も、そんなことで死んでいったのか。
硝煙のたなびく銃口を下ろし、拳銃を腰の後ろに差すと、一瞬にして死体と化したそれから背を向ける。
黒木は地面に置いてあった荷物を二つ持ち上げ、ちらりと周囲を見た。
死体が一つ多いような気がしたが ── それ以上頓着することなく、その場を立ち去った。
自分がためらっていたことは何だったのか。
恐れていたことは何だったのか。
こんなにもあっけなく、越えたくなかった境界は砂塵と化し、崩れてしまった。
黒木は唇を動かした。
囁きにすらならないそれは、吹き抜ける風に紛れて、消えた。
背番号70。どこにいる。
(俺は、お前を)
【残り29人・選手会16人】
59.覚醒または転落
追ってこないのはわかっていた。少し走って、茂みを抜けたところで山北は
一旦立ち止まった。心臓が早鐘を打っている。なんだろう、この興奮は……。
ふと右手を見ると、ナイフも己の手も、岩瀬の血液で真っ赤に濡れていた。
ピストルも悪くはないが、ナイフの方が楽しそうだ。
うっとりと見つめていると、手首に血液が一筋つたった。
山北はそれを、舌で舐めとった。どんよりと塩辛く、そして鉄がさびたような匂いが
口の中に広がる。飲み込むと陶酔感がじわりと広がっていき、
麻酔のように全身を痺れさせた。
「壊したい」
そう呟いた瞬間、山北の中で何かが弾けた。
腹の底から押し寄せてきた衝動をはき出すように、山北は笑った。大声をあげ笑った。
彼を支配したのは壊れない物を壊してしまう快感かもしれない。
「さあ、誰が一番頑丈だ?」
鋼の肉体も鉄腕も、全て壊してやる。山北の目が燃えていた。
彼はもう、狂った人間でさえなかった。
それであるならば正常な、ごくごく普通の、魔物になっていた。
(笑い声……?)
デニーは足を止めて、上を向いた。
(……気のせいか)
酷く疲れていた。島の外側を歩いてみたが、途中で足場が悪く進めず引き返した。
ほとんど寝ていない。早くキャンプに戻ろう。重い足をなんとか前へと進める。
背後に魔物が現れたことなど、全く気づいていなかった。
>>315 最後の行にこれ入れるの忘れてました
【残り29人・選手会16人】
保管庫管理人様、よろしくお願いします
317 :
112:04/09/30 22:49:18 ID:YFh1bAXV
>>316 うpするときに足しておきます。
いい感じに壊れたな、山北も黒木も…
318 :
112:04/10/01 02:08:13 ID:Bi2lLtvV
59.補給部隊
「紀藤さん、僕ら、こんなにのんきにしててもいいんですか?」
慣れない手つきで握り飯を作りながら、前田章宏は聞いてみた。
「腹が減っては戦はできない、っていうじゃないか。メシの支度も戦のうち」
「そんなもんですかねえ」
そうだよ、と頷く紀藤は、まったくいつもと変わらない雰囲気に見える。
合流してからずっと、紀藤は落ち着いていた。
だから前田は安心していたのだが、それでも聞いておかなければならないことがあった。
「…選手会の人に出会ったら、どうします。戦いますか?」
紀藤は手を休めない。綺麗な形の握り飯が次々に形作られていく。
「21年も野球やってきたし、優勝もしたし、最多勝争いもしたし、死んでもまあ悔いはない。俺はね」
前田を見るその目は、いつも通りに優しい。
「だけど、お前とか、中里とか、長峰、石川…若い奴らを
こんなつまらないことで死なせるわけにはいかない。だから、戦うよ」
「人殺しになっても?」
「死ぬよりましだろ?」
319 :
112:04/10/01 02:11:55 ID:Bi2lLtvV
うつむいてしまった前田の頭をぽんぽんと叩くと、作った握り飯をタッパーに詰めていく。
「僕ら二人で食べるには、数が多くないですか?」
覗き込んだ前田が不思議そうに聞いた。紀藤は笑ってみせる。
「他の連中に会ったときに分けてやるんだ。…補給部隊ってところかな?」
「補給部隊ですか」
「武器がしゃもじとフライパンだった俺たちにはふさわしいと思わないか?」
二人は顔を見合わせて笑った。
そんな武器では心許ないので、今は家捜しして手に入れた万能穴あき包丁と金属バットを持っているが。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
民家を出て、森の中へ歩き出す。
ー事態が、思っているより悪化していること、
『若い奴ら』が死んだり負傷したり壊れたりしていること、
さらには恐ろしい魔物までが生まれてしまっているなんてことは
前田も紀藤も、これっぽっちも思い至っていなかった。
【残り29人・選手会16人】
職人さん、乙です!!
毎日読めて、もう最高です(`・ω・´)ゝ
毎日乙です。
次は61からドゾー。(59が2つあるので)
保管庫の管理人様、職人の方々、乙彼様です!
毎回楽しませてもらっております。どんどん深く面白くなっていくなぁ・・・
323 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/01 22:21:18 ID:J+YtW8Zs
2ch
優勝記念ホシュ
325 :
112:04/10/02 00:54:07 ID:TLssJM34
61.いい夢、わるい夢
その瞬間、選手達は一斉にベンチから飛び出した。
笑いあい、意味もなく互いをたたきあってはしゃぐ。
落合監督の体が二度、三度と宙に舞うと、スタンドの歓声が一段と大きくなった。
「次は立浪さんを胴上げだ!」
誰かが叫ぶ。
「やめてくれよ、まだ引退するわけでもないんだから…」
そう言って尻込みした立浪を、荒木と井端ががっちりつかんだ。
「立浪さんが嫌でも、俺達がそうしたいんです」
「観念して胴上げされてください」
いたずらっぽく笑いながらそう言う間にも、多くの手が立浪をつかむ。
訳が分からないうちに体が宙に浮いた。
一度、二度と胴上げされながら、優勝の実感がわきあげてきて。
立浪は、笑いながら涙をこぼした。
石川は、立浪が満足そうな、安らかな表情で眠っているのに気づいた。
先程までは傷が痛むのか、苦しそうな顔をしていたのに。
ーいい夢見てるのかな。立浪さん。
くすり、と笑った石川はすぐに表情を引き締め、サブマシンガンを構えて辺りの警戒を再開した。
326 :
112:04/10/02 00:58:25 ID:TLssJM34
その瞬間、選手達は一斉にベンチから飛び出した。
笑いあい、意味もなく互いをたたきあってはしゃぐ。
「監督を胴上げするぞ!」
立浪の声に、わっと選手達が落合監督に群がる。井端も、その中にいた。
落合監督が二度、三度と宙に舞い…ふっと、消える。
「えっ…?」
急に消失した重みにとまどう。
気がつけば、さっきまであんなににぎやかだったスタンドが静まりかえっている。
辺りを見回せば、一緒に監督を胴上げしていたはずの選手達が、まるで丸太か何かのように転がっていた。
どの選手も、一様に血で赤く染まっている。
高橋光信は胸と足から血を流して。
野口は首から上が吹き飛んでいるし、川崎の体には無数の銃創があった。
体が、がくがくと震えている。
思わず両腕で自分を抱きしめるような格好になって、その時井端は気づいた。
両手が、血で真っ赤にそめられていることに。
声もなく絶叫しーーー
飛び起きた井端の顔には、嫌な汗が伝っていた。
どうやら、少し体を休めようと座り込んで、眠ってしまったらしい。
傍らの銃を握りしめる。
ーあんな夢、絶対実現させるわけにはいかない。そのためにはー
立ち上がり、選手会役員を求めて歩き出す井端に、迷いはなかった。
…少なくとも表面的には。
【残り29人・選手会16人】
327 :
112:04/10/02 01:11:28 ID:TLssJM34
ドラファンの皆さん、優勝おめでとうございます。
今夜は他の書き手さん達はお祭り騒ぎなんだろうな…
328 :
前スレ75:04/10/02 01:39:05 ID:mDFnsHbT
>>112さん
乙です。保管庫管理の方もお疲れ様です。
お祭り騒ぎしたいけど、住んでいるのが地方なのでどうも・・・
仕方ないので自分もドラバト書いてます。
パタリロ!でホモとか
330 :
329:04/10/02 01:42:17 ID:ncyFCbvR
ごめん、すげー恥ずかしい誤爆やった。吊ってくる
331 :
前スレ75:04/10/02 01:56:53 ID:mDFnsHbT
中日優勝おめでとうございます
野球は基本が大事だと中日を見て思い知らされました
日本シリーズではいい試合をしてください。
切ないな…・ここぱ・(つД`)・゚・。ウアァァン
333 :
126:04/10/02 06:08:35 ID:rngGzEcR
一夜明けましたが、カキコさせてください。
祝!ドラゴンズ優勝!
ファンの方々も本当におめでとうございます。
実は自分もドラファンではないのですが…。
日シリでの中日選手の活躍を期待してます。
62.分不相応
「キャンプまで後ちょっとのはずや。いけるか?」
「はい」
片岡は申し訳なさそうに頷いた。
撃たれたのは右肩で、しかも立浪の持っていたのはデリンジャーだった。
更にいうと、弾は貫通している。本来なら致命傷になるはずもないのだが、
一晩、応急処置(しかも清原が乱暴な手つきでやったわけだ)のみで過ごした。
撃たれた直後から、指先がうまく動かなかったが、今は腕全体が冷たくなって、
まるで他人のそれがぶら下がっているような感じだった。
清原も片岡の容態を気にかけて、真っ暗な中、足場の悪さも省みず
キャンプに向かって歩き続けた。しかしいかんせん、自分と同身長で94kg(公称)の大男
を担いでいるのだから、いくら急いだって限界がある。途中数回の休憩をとり、
選手会のキャンプ地付近まで来たとき、太陽はもう昇りきっていた。
そろそろ出発しようか、という二人の姿を、ある男が見つめていた。
「大物発見や」
ニューナンブを携え、興奮気味に呟いてしまったのは背番号58、大西崇之である。
清原に片岡。いざ撃つとなると、さすがに緊張してきた。
(どっちから狙お。あんまり距離あけられると命中せぇへんやろし、はよ撃たんと)
気は急いているが、狙いが定まらない。清原は、片岡の左腕を己の首にかけ立ち上がった。
(ええい、どっちでもええ、当たれ!)
思い切ってトリガーを引くと、予想以上の破裂音と反動で思わずよろめいた。
(やったか?)
草の陰から二人のいた場所を覗いた。
途端、大西の背筋に冷たいものが走った。
鬼のような形相をした清原と、しっかり目線がぶつかってしまったのだ。
弾丸自体は片岡の左腕をかすって、向こうの草むらに消えていったのわけだが、、
少しコースが違えば清原に致命傷を与えていた。己を本気で狙う人間を、
この男がただですますわけがない。
彼は片岡を振り払うと、大西に向かって突進していった。
大西は一瞬怯んだが、慌ててピストルを連射する。三発目が清原の左腕に命中した。
(よっしゃ)
と思ったのも一瞬、清原はまったく動じていない。距離はもの凄い速さで縮まってくる。
(なんで………当たったやろ?)
呆然としつつ四発目を撃とうとしたとき、左耳で風を切る音が鳴り、
次の瞬間顔面に激しい衝撃が来た。大西は一瞬宙に浮き、そのまま地面にぶっ倒れた。
回し蹴りが顔面にまともに入ったのだ。
突然横向きになった視界にピストルが落ちてきたので、大西は反射的に手を伸ばした。
その手が、ぐしゃりと踏みつけられる。
「どういうつもりや、貴様」
―口径の小さいピストルだと、興奮状態にあれば命中しても痛みを感じないことがあるらしい―
【残り29人・選手会16人】
職人さん乙です。
で、今後、できれば川相の扱いは
巨人バトロワ時代の経験を生かしている
カンジで御願いしたいのですが・・・
sage
338 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/02 17:56:13
>>336 ドラバトロワはシリーズごとに世界観がリセットされるから、
巨人も同じ扱いになると思われ
63. 憎しみの裏で
「…何かあったんか?」
寝ぐせのついた髪をかきあげながら、騒ぎのせいで目が覚めたらしい桧山が今岡に問いかけた。
その声に、今岡が彼を振り返り、真顔で答えた。
「ちょっと遅い夜襲だそうですよ。誰も怪我せずにすみましたけど」
「……は?」
昇りはじめた朝日が海面に光の粒子をまき散らす。
群青の色合いが薄くなってきた空は、雲の切れ端すらなく澄みわたっている。快晴のもようだ。
テントを出て、石井は軽いストレッチを開始した。
どんな状況に置かれようと、朝の日課をやめる気にはなれない。
屈伸をした後、力を入れないように腰をひねってみる。脇腹のあたりに痛みが走った。
(…くそ、やっぱヒビくらいは入ってるか…)
折れていないのが幸いだったが、激しい動きはしばらくできそうにないだろう。
「琢朗、怪我の具合はどうだ?」
顔をしかめた石井の様子を隣で見ていた中村が、心配そうに声をかけてきた。
目ざといな。そう思いながら振り返る。作り笑いを浮かべて。
「まあまあ良いですよ。一晩休んだら楽にはなりました」
一応嘘ではない。中村もそれ以上を聞こうとはせず、そうか、と頷いた。
「無理はするな。お前はうちの大事なリードオフマンなんだからな」
ポン、と肩をたたかれる。まったくこの人は…、自分のことよりも他人、そしてチームのことか。
苦笑を誘われつつも、彼の気遣いに感謝する。
(野口が目の前で死んで、辛くないわけないだろうに)
ふとそう考えた時、谷繁のことを思い出した。
── あの時、確かに俺たちは分かりあえた。
仲間同士殺し合うなんてどうかしてると、同じ気持ちで泣いたのだ。
そしてその直後、谷繁は胸を撃ちぬかれた…。
なんで撃ったんだ ── 石井は手を下したデニーを責めた。そして憎んだ。
発狂しかけたところを気絶させられてキャンプ地に戻り、それから石井はずっと考えていた。
あの時のことを。
(デニーさんが撃たなかったとしても…多分谷繁は死んでた)
最後、谷繁に戦意はなかった。遅かれ早かれ、それは中日の選手を見張っている連中にも
伝わったに違いない。
そして連中は首輪を爆発させただろう……野口と同じように。
どちらにせよ、谷繁の運命は決まっていたのだ。しかしそれは、受けいれるにはあまりにも残酷
すぎる現実だった。
それに……。
石井は深く息を吸い込みながら、朝日の方向を見やった。
デニーが谷繁を撃ったのは、単純に殺すためだったのか、それとも自分を助けるためだったのか。
後になって沸いてきたその疑問をぶつけようにも、その相手はここにいない。
夜が明けても、一向に帰ってくる気配はなかった。
今頃どこでどうしているのか。
(………)
「おーい。皆、ちょっと集合ー」
物思いに沈んでいたところに、古田からの号令がかかった。
ストレッチを中断し、石井はそちらへ向かった。
【残り29人・選手会16人】
64.狂気の一歩手前から
―守らなきゃ・・・俺が立浪さんを守るんだ・・・
木の根元に座り込んだ石川はうわ言のように、この言葉を呟いていた。
草叢に囲まれた中で石川の目だけが、異様にギラギラと光り輝いている。
石川は強迫観念にとらわれ、狂気に落ちる一歩手前にいた。
もし石川が狂気に落ちてしまったら―・・・おそらく自分と立浪に近寄る者全てを撃ち殺すだろう。
立浪を守るという大義の為に。
「・・・石川・・・」
小さくか細い声に、石川はハッとなって顔を向けた。
「目、目が覚めたんですか!?立浪さん!!」
「ああ・・・ごめんなぁ、迷惑かけて」
「いえ、俺が悪かったんです、許してください」
「別に、俺が勝手にやったんやから、気にすんな」
「立浪さん・・・」
立浪は大きく息を吸って、話し始めた。
「石川、俺な、夢見たんや・・・」
「夢?」
「ああ、ええ夢やった・・・」
「どんな夢ですか?」
「優勝する夢」
「優勝・・・」
「もう、無理な話や・・・もう、全員は居らん・・・死んでしまった奴も居る」
「・・・」
「ちゃんと12球団あるかも分からん・・・殺し合いで、主力をやられて、相手の戦力もおかしいことになる」
「・・・」
「もう、できひんのに・・・夢で見たんや」
「きっと、それは立浪さんだけの夢じゃないです・・・」
「え?」
「また、同じチームで野球がしたいです・・・!」
「・・・ああ、そうやな」
小さく息を吐いて、立浪は笑った。
「何や・・・また泣くんか、石川」
「な、泣きません!」
「そうか・・・あ、これ、掛けてくれたんやな」
立浪のユニフォームの上から、もう一つユニフォームが掛けられていた。
「もう、誰にも死んで欲しくないんです。立浪さんにも・・・他の皆さんにも」
「そやな・・・。良かったわ、お前が居って」
「その言葉、優勝してから言ってくださいよ」
「言ったな。それ、覚えとくわ」
笑った。石川は久しぶりに笑ったことに気が付いた。
それは狂気の淵から石川が救われたことを、示していた。
【残り29人・選手会16人】
343 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/03 00:36:16
ええ話や・・・。゚(゚´Д`゚)゚。ウワァァァァァン
65.廃棄処分
(なんでこんなことになってんねん……)
大西は重い"荷物"を担がされながら思った。武器も食料も清原に没収され、
片岡を背負わされ、選手会のキャンプ地に向かわされている。
清原が言うには「お前は捕虜」。しかし、あのオーナー達に対して捕虜をとったところで――
大西ははっとした。このまま連れて行かれたら、
確実にオーナー達に殺されてしまうことに気づいたからだ。
(やばい。うかうかしてられへん。逃げな)
幸い、道がわからないのか清原はきょろきょろとして、大西に注意を払っていない。
片岡もなんだかぐったりしている。
(いち、にの――)
さん、で、片岡の体を清原に向かって突き飛ばす。そして一目散に駆けだした。
「おい、待たんかいボケェ!」
後ろで恫喝の叫びが聞こえたが、決して振り返りはしなかった。
少し走ったところで、男が一人立っているのを見つけた。背番号は14。
(平松や)
「おい、あっちに清原と片岡がおるわ。お前なんか武器持ってるか?」
「持ってますけど」
ほっとして思わず微笑んでしまった。
(あんなんと素手でやりあったら…どうなるやら)
「よかったぁ。俺今逃げてきたとこやねんけど――」
大西はそこで、銃口が自分に向けられているのに気がついた。
「……平松?」
荒い呼吸のまま平松の顔を見上げた。蔑むような目線がそこにはあった。
「オーナーからの伝言です。『丸腰の相手に捕虜にされるような奴は必要ない』、だそうです」
見ると、平松の左手には通信機が収められている。合点がいった。
「お前……裏切ったんか」
「大西さんにはもう関係のないことですよ」
トリガーを引く指に力が込められた。
と、その時、
「ガキ、そこか!」
あの男の声が雷鳴の如く轟いた。平松の腕がびくりと揺れ、視線が清原の方に移った。
大西は平松の右腕につかみかかった。ピストルを奪い取ろうとして、二人がもみ合いになる。
「…っ、離せ!」
手に力がかかってしまい、一発、二発、地面に向かって発砲した。大きな反動が二人の腕にかかる。
お互いバランスを崩しかかったところで、平松が大西の腕をふりほどいた。
サイレンサー付きのジェリコ941が、再び大西に突きつけられた。
(死ぬ)
大西の脳裏でその二文字が光った。
しかし銃は火を吹かなかった。発射よりも先に、平松の後頭部を鈍い衝撃が襲った。
咄嗟に後方を振り返る。一瞬目をやった足下には、黒光りする拳銃が一つ。
水平方向を見た時には、もう遅かった。いかつい男の拳が、すぐ目の前まで来ていた。
そして、平松の視界は真っ白になり、どさりと地面に横たわった。
どれぐらい必死に走ってきたのだろう、清原の息はあがっていた。
けれども平松を殴って、彼は叫んだ。
「平松!お前までこんなもん振り回しやがって!」
彼のジェリコと、己が投げて平松にぶつけたニューナンブを取り上げると、
清原はやるせない表情をして、地面を蹴り上げた
「お前ら、なんでわかれへんねん!」
平松は起きあがれなかった。意識はあるが、体が思うように動かないのだ。
「生身の人間にピストル突きつけて、なんで平気な顔できんねん!」
「……自分の命が…惜しいからです」
途切れ途切れの言葉が返ってきた。ふと見てみると、大西の姿はいつの隙にか消えていた。
「俺らは、弱者ですよ。オーナーに命握られてます。それに、先に撃ったのは……あなた達じゃないですか」
「知っとるわ」
清原の声は低く、震えていた。
「俺から見たらあいつらもお前らもやってること異常や。他の方法もろくに考えんと、
オーナーの思うとおりに殺し合いしやがって。なんか道があるはずやのに…」
「理想論ですか…甘いですね、意外と」
「黙れ」
清原は平松に背を向け、歩き出した。が、すぐに足を止めると、一度振り向いた
「覚えとけ。考えん限り、状況は変わらん」
それだけ言い残し、彼は後ろを向くことなく進んでいった。
「甘いな……」
ようやく体が動かせるようになり、上体を起こした時だった。
首元で無機質な電子音が鳴り出した。
「な……」
全身から血の気が引いていくようだった。
大急ぎで通信機のスイッチを入れると、下品な笑い声が聞こえてきた
「清原どころか大西まで逃して、しかも正体も悟られた。間抜けな奴め」
「待ってください!まだ大西は」
「もう貴様は使い物にならんから、廃棄処分だ」
「待って――」
一方的に通信は切断されてしまった。ピッ、ピッ、ピッ、という
音の間隔が次第に短くなっていく。死に向かって加速していく。
――――生きて帰って――――
平松の眼前に、様々な幻が行き過ぎていった。走馬燈のように。
――――亜希子、俺は君と――――
そして彼女の微笑みを見た時、意識は途切れた。
【残り28人・選手会16人】
う、首輪爆破の瞬間読んでてめちゃ緊張した…。
書き手さん、お見事です。
毎回最後の生存者数を確認するの、緊張する(((;゚Д゚)))
いつもGJ!です
350 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/03 02:02:28
中日の春のキャンプあるいは落合を誹謗中傷した評論家・解説家
をあげよ。
66.接点
落合と宇野が運転しているバスは名古屋のあるホテルの前着いた。
「しばらく、ここで待っていて下さい。どうしても会わなければいけない人がいるんです」
落合と宇野はそう言うと、バスを降りホテルの中へ入って行った。
あの人なら・・・あの話が本当なら─
「中日ドラゴンズの落合ですが佐々木信也さんは何号室にいますか?」
ロビーの係員はしばらく混乱しながらも
「え、あ、はい、えっと501号室です」
「そうか、ありがとう」
そう言うと、二人は走ってエレベーターに乗り込み部屋に向かった。
コンコン、とドアを叩く。ドアが開いた。
「どうも、落合です」
「・・・入ってくれ」
佐々木信也にいつもの笑顔は無い。世間の話は『選手会が武器を持った』と言う話で持ちきりになっている。
「・・・どうしたんだい?」
佐々木が聞く。
「選手会が武器を持ったのは知っていると思います。ただ、その中に中日の選手会メンバーは参加していないんです」
「え・・・?」
「中日の選手は、オーナー達に捕まり選手会と戦わされています」
「なっ・・・!」
部屋に少しの静粛が訪れた。続いて落合は話す。
「そして、佐々木さんにあの話を聞かせてもらいたいんです。何かヒントがあればと思って・・・」
「あの時・・・か」
佐々木信也。大学から高橋ユニオンズに入団。その後、大映、毎日と行った選手である。
今日は名古屋の夜のテレビに出る為ホテルに泊まっていた。
落合が静かに口を開いた。
「あったんですよね。昔、バトルロワイアルが・・・」
前、解説者になって佐々木さんと話した時、帰りに極秘で聞かせてもらった。簡単にしか教えてもらえなかったが・・・
「ああ、確かにあったよ、今のバトルロワイアルとはちょっと違うけどね・・・」
そう言うと、佐々木は全てを話し始めた。
「昔、高橋ユニオンズと言う球団が消滅した。正しくは『合併』だけど」
「その時、極秘でオーナー達はある事をしたんだ。楽しむ為の『バトルロワイアル』を」
「ルールは、ユニオンズの全選手、大映・毎日の解雇候補選手でバトルロワイアルをさせる。そして生き残った20名は大映と毎日に入団できる、と言う物だった」
「そして変な器具もつけられた。手首から首までが繋がってる器具だった」
「それは『爆破装置』だった。逃げようとしたり、逆らったりすると手首の所が爆発した」
「首には盗聴器みたいなものと、『生存確認器』みたいな物がつけられていた。かなりでかかったからロクに首を回せなかったよ」
「戦いは進んだ。しかし、荒川って人がな、ある事に気づいたんだ」
「海にもぐって隠れたんだ。その瞬間、その器具が水に使ってショートした」
「電流が海に流れて荒川は気絶したよ。しかし、その器具は壊れた。そして荒川は脱出した」
「多分、今回の首輪の弱点もそこだろう。改良されているかもしれんが・・・その弱点を改良されていないことを祈るしかない。」
そう言って、佐々木は話を終えた。
「そうですか!ありがとうございました」
落合がお礼を言った瞬間、宇野が部屋に駆け込んできた。
「監督!軍がこちらに向けて部隊を出したそうです!」
落合の顔がさらにこわばった。
「佐々木さん、ありがとうございました。宇野、行くぞ!」
「死ぬなよ!」
佐々木は最後に一言声を掛けた。それに落合は手で答えると、すぐにホテルを出て行った。
「宇野!お前は空港に着いたらコーチを二手に分ける!その時は家族の方を頼むぞ!」
「はい!」
その会話をしているうちに、1回にエレベーターが着いた。ドアが開くと、すぐさま二人はバスに乗り込み、出発した。
空港は近い─
【残り28人・選手会16人】
軍って…そこまででかいスケールだったのかw
67. 移動準備
号令を受けて、役員たちがその場に集まってきた。
古田は顔ぶれをざっと眺めて、口を開く。
「まだ戻ってきてない人間が、えーと、十人か? まあそんだけおんねんけども、当初の予定通り
キャンプを移動させようと思う」
役員たちは互いの顔を見合わせた。頷く者もいる。その反応を見ながら古田は続けた。
「とは言うても、実はさっき中日の襲撃を受けたとこや。…未遂に終わったからええようなものの、
ここの場所が知られた以上、ノンビリはしてられへん」
もちろん、今すぐというわけじゃない。急ぐに越したことはないが ── そのような意味の台詞を付け足し、
古田は腕時計を見る。
「撤収準備の時間も入れて、今から約一時間後に出発する。次のキャンプ地は地図に印のある所や。
各自確認しといてくれ」
そう言って、持っていた地図を緒方に渡す。
「それからもう一つ」
一拍の間を置いて、古田は右手の人差し指を顔の高さに持ち上げた。
「携帯が使われへんのは知ってるな? はっきり言うて、単独行動する奴らが多すぎや。
行動を把握しきれんのは辛い。で、これは昨日偶然手に入れたものやねんけど、ちょっと見てくれんか」
足元に置いていたバッグを開け、中のものを取り出して全員に見せる。役員たちがバッグを
取り囲むようにして集まった。
「これって無線ですよね。うわ、携帯と大きさ変わらないな」
興味津々といった感じで、中村がさっそく無線機を手に取っている。
古田は改めて全員を見ながら切り出した。
「こいつを使うのと使わんのとでは、これからの行動にかなりの差が出てくると俺は思うんやけど、
皆の意見はどうや?」
「へー、戦争映画みたいですよね。オーバー、とかって」
「あほか、そんなん言うてる場合ちゃうやろ」
妙に嬉しそうな今岡の頭を、横から桧山がすかさずはたく。
「こんなの、どこで手に入れたんです?」
石井が尋ねる。答えたのは緒方だった。
「拾ってきたのは俺だよ。帰る途中に落ちてた。罠かもとは思ったけど、爆発の危険とかは
無さそうだったから。軽率かもしれないけど、連絡が取り合えないことは気になってたからね」
「いいんじゃないですか? 危険が無いんだったら。あった方が便利だし」
無線機を掌の上でもてあそんでいる高木が、さほど関心のない口ぶりで言う。
「ちょっといいですか?」
そのとき、今岡が唐突に無線機を持ってその場を離れ、数メートル先の地面にそれを置いた。
そして一度テント場の方に姿を消し、狙撃銃を持って現れた。
何をするつもりなのかと(だいたいの見当はついていたが)全員が見守る中、今岡は狙撃銃を
無線機の方へ向けて言った。
「いっぱいありそうやから、一個くらい壊しても問題ないですよね」
言い終わらないうちにトリガーを引き、発砲した。
無線機が銃弾に貫かれ、跳ねる。さらに続けて数発。
粉々に砕けた残骸が地面に散らばった。それを見て、よし、と満足げに今岡が頷いた。
「コラ、いきなり何すんねんお前!」
見ていた役員たちが呆気に取られる中、古田が叫ぶ。
今岡はきょとんとした顔で振り返った。
「…爆発しないですよ?」
「あー…、もうええ。わかったから」
額に手を当て、古田は心底疲れきった顔で呟いた。
そんなことは気にも留めず、武器を肩に引っかけた今岡が戻ってくる。
「俺は使わせてもらいますね。はい、これ桧山さんの分」
「ちょお待て。俺は使うって一言も…」
「ええやないですか。これで遠くへ行っても怒られんで済むでしょ?」
半ば押しつけるようにして、今岡は桧山に無線機を持たせる。
しぶしぶながらも、桧山はそれを受け取った。
「じゃあ俺も一応持っとく。…琢朗は?」
中村が石井に聞く。石井は黙って首を横に振った。
「高木、お前は?」
続けて声をかけられた高木は、手の中の無線機を見せて頷いた。
「俺も使わせてもらいますよ」
「よし、ほんなら共通のチャンネルを決めとこう。共通は5chな。内緒話したい奴は勝手に
他のチャンネル使ってええから」
古田がそう声をかける。石井がちらりと彼を見た。
「古田さん、これ、盗聴の危険は?」
警戒しているのか、石井はずっと仏頂面のままでいる。
古田はかすかに吐息し、答えた。
「そら無いとは言えんけど、中日の選手が監視されとるってことは、少なくともこの島全体が盗撮なり
盗聴なりされてる言うことやろ。今更怖がっとってもしゃあない」
「……」
「まあ、無理強いはせんから、考えて決め」
ぽん、と石井の二の腕あたりに手を置いて、古田は微笑む。
それから、全員に向けて言った。
「ほな、撤収作業にかかるで。さくさく動きやー」
「古田さん。他の人たちは待たないんですか。清原さんとか…」
緒方がそう聞いてきた。古田は腰に手をあて、視線を上向ける。
「…一時間待つ。それでも戻らんかったら、そのまま出発する」
猶予は、撤収作業が終わるまでということだ。緒方は目を伏せ、頷いた。
(移動途中で会えることを祈るしかないやろ)
心の中で呟き、古田はテント場へ足を向ける。
そのとき、古田の隣に石井が追いついてきた。
「古田さん」
「うん?」
「少しだけ俺のわがままを聞いてもらえませんか」
石井は視線を落とし、ためらいながらそう切り出した。
【残り28人・選手会16人】
68.殺すか、死ぬか
「くっ……」
片岡は草むらに座り込み、右肩の包帯(の代わりにしているアンダーシャツの袖)を
結び直していた。大西に突き飛ばされ清原にぶつかり、そして清原にはじき飛ばされ、
しかもその上足で踏まれ、傷口が開いてしまったのだ。
(元々キレると見境なくなる人やけど、だからって怪我人踏みつけていくか?)
右手には力が入らない。口と、銃創のついている左手でなんとか縛ってみるが、
これでは止血にならない。
(やばいな…先輩はよ戻ってきてや……)
清原が平松に気をとられている内に、大西はさっさとその場から逃げ出していた。
(ほんまにやばい、オーナーにもう目ぇつけられてる。
誰か選手会の奴殺さんと、デッドエンドや)
『誰か』といいながらも、既に頭の中では具体的な人物が決まっていた。
もと来た道をまた必死で走った。早く、早く、早く!
(おった!)
だだっ広い平地で、ぽつんと座り込んでいる縦縞の背番号8が見えてきた。
片岡は足音が近づいてきたので、顔を上げた。
清原が帰ってきたと思ったのだろう。しかし、そこにいたのは大西だった。
怪訝そうな表情をして、片岡は言った。
「…清原さんは?」
大西は返事をせず、自分の(だったが清原に没収されていた)ナップザックを拾い上げた。
「何してんねん!」
片岡は立って、大西を制そうと手を伸ばした。しかし、腹を蹴り上げられ
そのままよろよろと後ろに倒れた。
「あ、よかった。なんか入ってるわ」
ごそごそとナップザックの中を漁っていたが、やがて片岡が持ってきた
ワルサーPPKを取り出し、片岡に向けた。
「抵抗する力もないんちゃう?もう諦めつくでしょ。俺のために逝ってもらいますわ」
「てめぇ!」
もう一度、勢いよく立ち上がったが、途端に視界がゆれた
「う…」
「血ぃ足りてへんのにいきなり立ったりしたら」
銃口が片岡の前頭部にごつり、と音を立ててぶつけられた。
「目眩するに決まってるやんか」
高橋を撃った時と同じ銃声が、片岡の鼓膜を思い切り叩きつけた。
片岡がずるりと崩れ落ちたのを見とどけて、大西は呟いた
「どうや、殺したぞ」
しばらく緊張した面持ちでいたが、首輪は静かなままだった。
「俺は、そう簡単には死なへんぞ…」
ピストルに飛んだ返り血をユニフォームで拭うと、また、走り出した。
後方の爆発音に気をとられていたので、清原の耳には前方で響いた銃声が届いていなかった。
もといた平原まで戻ってきて、清原は声を上げた。
「片岡ー、どこやー」
返事がない。あの状態で無闇に動き回るとも思えないが…
「片岡ー?」
大きく体を伸ばしたところで、草むらに誰かが倒れているのが目に入った。
(まさか……)
急いで走って行くと、やはりその人物は阪神タイガースの8番ユニフォームを着ていた。
「…片岡?」
俯せになっている彼の、肩を揺すってみたが、何の抵抗もない。
頭の辺りに、赤黒い液体がじわりと広がって、水たまりを作っていた。
目の前が真っ暗になった。
(平松、俺はお前の言うとおり甘いんか?)
(立浪、殺し合いやめるのは無理なんか?)
清原は片岡の死体の前で、ただ呆然と立ちつくすしかなかった。
【残り28人・選手会15人】
確か選手会はユニフォーム着てないんじゃなかったっけ?
>>361 マジすか orz
完璧勘違いしてた。訂正文準備しておきます。
選手会の服装についてはなにもなかったような気が…
見落としてるかもしれんけど。
ユニ着せたほうがいいのかな?
今までは特に私服ともユニとも書いてなかったから、
どっちにでも設定できると思うけど。
365 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/03 18:59:33
自分がイメージしていたのは中日の選手たちはユニフォームで、
選手会の方は交渉のときに着ていたようなスーツでした。
名無しで書くときも自分が書いたところはスーツのつもりです。
ですが、特にはっきりとは描写しなかったので他の書き手さんが変えたければ、
ユニフォームでも自分は構わないと思います。
選手会役員が何着てるかなんて全然考えずに書いてた…orz
ドラゴンズはユニ着てるよな、とは思ってましたけど。
じゃあもうスーツということでよろしいかと。
もう一回訂正入れてきます
69. 固い決意
「少しだけ俺のわがままを聞いてもらえませんか」
石井のその言葉を聞いて、古田はわずかに眉根を寄せた。
彼はテント場に向かっていく他の役員たちの姿を横目に見ながら、石井の背中に手を回し、
方向を転換させた。
「…ちょっとあっち行こか」
石井を伴って、キャンプ地を囲む茂みを抜ける。
海岸に出たところで、古田は石井を振り返った。
「言うてみ。内容によるけど」
うながされ、石井は頷いてから口を開いた。
「デニーさんを探したいんです」
吹きつける潮風が石井の髪をなぶった。彼は顔を上げ、古田を見る。
「もし見つからなかったとしても、一時間後の出発の時間には必ず戻ってきます。
…万が一俺が一時間後に帰って来なかったら、先に行ってください」
「あのなあ、石井…」
両腕を組み合わせ、古田は小さく溜め息をついた。
「さっき俺が言うてたこと聞いとったか? これ以上の単独行動は許されへんで。
現にもう十人もおらんのや。
第一探す言うたかて、心当たりあんのか?」
「心当たりはありません。でも、探さないと」
一度言葉を切り、石井は唇をひきしめた。
「…探し出して、話をしたいんです。でないと俺、いつまでも谷繁のことを引きずったままに
なりそうなんで」
そのまま、石井は勢いよく頭を下げる。
「お願いします」
石井の後頭部を見下ろすことになり、古田は無言で天を仰いだ。
頭を下げたまま、石井は古田の言葉を待った。
長い沈黙が互いの間に横たわる。
「…出発までには戻ってくるんやな」
溜め息まじりに古田が呟いたのは、半ば石井が諦めかけた時、だった。
「はい」
姿勢を戻し、石井が答える。
決意のこもった眼差しを向けられては、もはやノーとは言えない。わかった、と、古田は頷いた。
「ただし、一秒でも遅れたら置いてくで。ええな」
「ありがとうございます」
石井は再度一礼し、踵を返して駆け出した。
「一応武器は持って行けよ」
その後ろ姿に向け、古田は声をかける。ひらりと上がった手がそれに応えた。
「しゃあないなあ……」
海岸に一人残された古田は、どこへともなくそう呟いた。
石井に対してのものか、あるいは自分自身に対してか。
しばしの間を置いて、キャンプ地へのテント場へ戻る。
すでに石井の姿はなかった。まるで鉄砲玉だな、と肩をすくめる。
「古田さん、どこ行ってたんですか。片付け始めてますよ」
戻ってきた古田に気づいた高木が、非難交じりの言葉を投げかけてきた。
「おお、スマン」
片手を顔の前に立てて、古田は謝罪を口にする。
「さっき、石井さんが銃と荷物持って出て行ったんですけど。何かあったんですか?」
テントを片付けながら、高木が問いかける。古田はそちらを見ずに、「さあなあ」と首をかしげた。
「あいつにもいろいろ乗り越えなアカンもんがあるんやろ。さ、俺らは仕事仕事」
高木を急かすように言い、古田も撤収作業に取りかかる。一人欠けたら戦力ダウンやな、とぼやきつつ。
「…ふうん」
石井の出て行った方向を見やり、高木はぽつりと呟いた。
ほんの一瞬、その唇が笑みの形に引かれた。だがそれを知る者は、いない。
【残り28人・選手会15人】
373 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/04 00:27:20
age
70.死者からの言葉
柳沢が目覚めたとき、川崎の姿はなく、銃だけがぽつんと転がっていた。
不吉な予感に体中の血の気の引く音が聞こえた気がした。
そんなに川崎と親しかったわけではない。
野口の死を見せられ、同じ憤りを覚えたから一緒に行動しただけだ。
ーそれでも、一人になるのは嫌だー
「川崎!どこだ、川崎!」
川崎の残した銃を持って、柳沢はあたりを探し回った。
森を抜け、海辺にでて、身を乗り出して海をのぞき込む。
視界の端に何か、黒いものと赤いものが見えた。
それが何であるのか半ば理解しながら、ゆっくりと近づいていく。
見たくない。だが、足は止まらなかった。止まってくれなかった。
やがて、思っていたとおりのものがー変わり果てた川崎の死体が、ただ波に揺られていた。
「かわ、さき」
がっくりと膝をつく。
一緒に行動しようといった野口、その野口の仇を討とうといった川崎。
二人ともが目の前で物言わぬ姿になった。そして自分は何もできなかった。
柳沢は打ちのめされていた。
「もういい、もういやだ、こんなのはいやだ…」
こんな思いはもうしたくない。楽になりたい。
ゆっくりと、柳沢の右手が、右手に握られた銃があがっていくー自身のこめかみへと。
「やめろ、柳沢」
がっしりした手が柳沢の右手を押さえ、銃をもぎ取った。
のろのろと、柳沢は後ろを振り向き、自分が楽になるのをじゃました男を見た。
「…落合さん…?」
「何があったか知らないが、そんなことをしちゃいけない」
「落合さんに何がわかるんですか…」
「ああ、わからないよ。だけどな、」
落合は浮かんでいる川崎の2Mほど上を見て、言った。
「…川崎はおまえに生きろって言っている」
つられるように落合の視線を追った柳沢は、ほんの一瞬だけ、暖かい光が浮かんでいるのを見た。
そういえば、落合には霊感があるって話だったな、とぼんやり思いながら聞いてみる。
「落合さんには、川崎の声が聞こえるんですか」
「少しだけな。川崎と…こっちは野口だな。おまえを心配してる」
「野口も…」
「死のうなんて考えるな。生きていればなにか手はあるはずだ。
とりあえず銃は預かっておく」
落合は、柳沢の銃をナップサックにしまうと、座り込んだままの柳沢に
手をさしのべた。
その手を、柳沢が握りしめる。
「…落合さんは、俺をおいて死んだりしませんよね。俺を、一人にしませんよね」
そういう柳沢の瞳は必死で…ほんの少し、正気が欠けているかもしれなかった。
「大丈夫だ、安心しろ柳沢。…さ、立って。行こう」
【残り28人・選手会15人】
71.正夢
選手がみんな一つの『線』を境目に並んでいる。向かい側には光信、平松、久本、川崎さん・・・
こちらには孝介や荒木、憲伸等が立っている。
岡本も気づいた時にはそこに立ったいた。みんな一言もしゃべらず、動かない。
「みんな、どうしたんだ?なんかしゃべれよ。しかも何で一体並んでるんだ・・・」
全員反応は無い。いや、聞いてない、と言った所か。
その時、ある事に気がついた。体が動かない。口と目しか動かない。
「なっ・・・なんだ、金縛りか・・・?くそっ・・・」
その時、すぐ近くで誰かが動き始めた。・・・背中に18番の数字。朝倉!
「おい!朝倉どこに行く!俺なぜか動けないんだ!助けてくれ!」
しかし、やはり聞こえてない。境目の線に朝倉が近づいていく。
「朝倉!行くなあぁぁ!!」
自然と声が出た。そこで目が覚めた。
「うぅん・・・夢か・・・」
そういえば、武器を持って戦わされてたんだな、と思い出す。
しかし、立とうとした瞬間に嫌な予感がした。朝倉・・・
とっさに武器のM16コマンドを持つと、自然と左に向かって走り出した。
1分ほど全力で走った。そうすると、人影が見えた。
とっさに木の陰に隠れる。相手を確認する。・・・朝倉だ!!嫌な予感が当たった。拳銃を持っている。
「朝倉、やめろ!」
何をするか分かった岡本は一気に走って近づいた。
「あ・・・くっ・・・来るなぁっ!!」
朝倉は岡本に向けて銃を2発撃った。岡本の足元に穴ができる。それに気づいて一気に止まる。
「朝倉・・・なぜ・・・!」
「人を殺したくない・・・しかも相手は正の選手会なんだ!悪になんかなりたくない!地獄になんか行きたくない!」
そう言うと、朝倉は頭に銃を構えた。
とっさに岡本は銃を構えた。『ズパパン!!』と言う音と共に、朝倉の足から赤い液が噴出し、倒れた。
「わああああ・・・っ!!」
岡本は弾が当たったのを確認すると急いで朝倉の元に寄った。
その瞬間、乾いた音と共に、脇腹に激痛が走った。朝倉に後少しと言う所で地面に倒れこむ。
「お・・・岡本さん・・・知ってますか・・・この銃デザートイーグルって言うんですけどね、かなりの威力があるんですよ・・・」
「ぐ・・・なっ・・・」
岡本は痛みで意識が朦朧としながらも必死に堪えていた。
「でも、ちゃんと腹の端っこにしておきましたので、死ぬことはありませんよ、きっと・・・」
「がっ・・・ならこうすれば・・・人を殺さずに・・・生き延びれるじゃないか・・・」
「もう・・・こんな殺し合いのされている所で生きたくない・・・家族もいないですし、プロで10勝もできたし、もう十分ですよ」
「お前はまだ若いじゃないかっ!これからなんだ、家族もこれからできる!子供は・・・ぐっ・・・か、可愛いものだぞ・・・」
岡本は腹からあふれ出る血を必死に抑えながら説得した。だんだん視界がぼやけてくる。
「俺には・・・人を殺す勇気はありません」
「岡本さん、これを・・・」
そう言って朝倉は首から掛けていたペンダントを取り出した
「俺の形見に持っててください。俺が『存在した』証拠に・・・」
そう言った瞬間、ピッ、ピッ・・・と言う音が鳴り始めた。朝倉の首から・・・
「ん・・・でもですね、岡本さん、俺は他の奴に殺されるのだけはごめんなんですよ・・・」
「・・朝倉・・・!!」
ピッ、ピッ、ピッ、ピ・・・だんだん音の間隔が狭くなっていく。朝倉は岡本の所にペンダントを投げると、再度頭に銃口をつけた。
「じゃあ、岡本さん・・・お世話になりました・・・この銃は使ってください、岡本さんは生き延びて・・・」
朝倉の頬に涙が流れる。岡本はなぜかここだけ意識がハッキリした。ピピピピピピ・・・ピーー・・・音の間隔がなくなる。
「朝倉、逝くなああああああああ!!」
ダン、ズバアン・・・二つの音がほぼ同時に起こり、朝倉の頭がスイカの様に吹っ飛ぶ。
「あ・・・あさ・・・くら・・・」
血と肉片が飛ぶ中で、岡本は朝倉のペンダントを握りながら気を失った。
【残り27人・選手会15人】
378 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/04 06:51:17
ヤヴァイ鯖のため定期age
保守
380 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/04 16:40:49
保守age
ドラバトめちゃ面白かーー!!
382 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/04 19:12:07
良スレage保守
最終書き込み順なことは変わりないようだよ。
でも最近のスレ乱立で最終レスから4〜5時間で落ちることもあるらしい・・・。
それは名古屋にあるらしい…
72.エゴイスト
広島市民球場内の一室。
山本浩二と松田オーナーしかいない部屋には、重苦しい空気が漂っていた。
中日選手と選手会役員の殺し合い。ーそれを聞いて、冷静でいられるわけがない。
「緒方が練習を休んでるのは、そのせいですか」
頷く松田に、山本は詰め寄った。
「なんでですか!なんで反対せんかったんですか。殺し合いなんて、何で…!」
「反対?」
松田の顔に自嘲の笑みが浮かぶ。
「うちの経営が巨人の放映権料で成り立ってるのは知ってるだろう。
…渡辺さんの言うことに反対なんてできんよ」
僕はエゴイストだからね、と呟く。
「カープが存続できればそれでいいんだ」
「オーナー…あんたは…!」
激高した山本浩二の前に、松田は茶色の封筒を差し出した。
「名古屋空港近くの倉庫だ。そこに武器を隠してある。
中日の監督か、コーチに教えてやってほしい、彼らは今武器を必要としているはずだから」
封筒の中身をざっと斜め読みする。
自動小銃、手榴弾…貧乏球団がどこからかき集めたのか、と思うほどの武器の名前が並んでいた。
山本はしばらく躊躇っていたが、封筒をそっと懐にしまった。
「わかりました。音の連絡先を知ってますから、あいつと連絡とってみます」
松田は頷くと席を立ち、ドアに手をかけた。
その後ろ姿に問いかける。
「…うちで巻き込まれるのは緒方だけ。
あなたが球団の存続を第一に考えるエゴイストなら、見捨てるのが普通では」
松田はくるりと振り向いた。
「そうだよ、僕はエゴイストだ。
うちの選手が、うちに所属していた選手が一人でも巻き込まれるのが気に入らない。
だから僕はあの人に反抗する」
緒方と、紀藤のことか。山本は納得する。
…まったく、たいしたエゴイストだ。
あんたも、たしかにプロ野球団のオーナーだよ。
松田が退出した後、山本浩二はすぐに携帯で通話をはじめた。
【残り27人・選手会15人】
はじめちゃんキター保守
391 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/05 07:51:59
73.蛇
「なかなか面白い奴じゃないか」血にまみれた山北の姿を指しながら、
渡辺恒夫は笑った。白井は、自分の見ている物が信じられなかった。
あれは本当に山北茂利なのか。穏やかで人の良さそうな笑みをたたえていた、
あの、山北なのか。
「……あの男もこんな風にして、なぶり殺されればいいのにな」
呆然とする白井は意に介さず、ナベツネは呟いた。
「あの男は今どこだ?」
おい、と促され、あわてて白井は数字の散らばった画面の上に目をやる。
「7…あ、ここです。もうすぐ、このカメラに映るかと」
程なく、白井の指したモニターに、二人の男の姿が現れた。
川相さんはどうやらあんまり眠っていないらしい。少々疲れた顔をしている。
けれど、今日もへらへら笑いながら、ふらふらとなんだか危なげな足取りで、
「どこか」へ向かって進んでいる。時々躓くし、いきなり走り出したかと思えば、
うずくまったまま動かなくなることもあった。もちろん、何か質問したり
頼んだりしても返事は「さぁ、どうしよっかなぁ」の一点張り。
どうでもいい事には、たまに答えてくれるけど。見つけたバッタの種類とか。
結構、ついていくだけでも骨が折れた。
どこへ行くのかは、自分にはわからない。川相さんが自分に伝えたのは、
『おれ おまえ まもらない』
『かってについてこい』
この二つだけだ。穴ぐらを出る前、川相さんは俺の掌に、人差し指で
平仮名を一文字ずつ書いた。合計19文字。指がやけに震えていたので、
たったそれだけでも、伝わるのに多少の時間をとった。
突き放すようなメッセージだが、川相さんがずいぶん迷っているのが
見て取れた。自分が足手まといになったり、自分のせいでオーナーに
考えていることがばれてしまうのが心配なのだろう。
でも、ついてくるな、とは言わなかった。絶対に邪魔になってはいけない。
いざという時は、己の身がどうなろうと、川相さんを先に進ませる。
出発するとき、そう心に決めた。だから、ついていきます。
「あ、ヘビ」
川相さんの呟きで、回想から引き戻された。
「え、どこに?」
彼は返事をしないで、すぐ近くの木によじ登った。
「ちょっと、何してんすか! 危ないっすよ!」
言ってみたものの、手の出しようがない。落ちたら大事だぞ、
なんだかんだいっても四十のおじさんなんだし。川相さんは、
一番低く太い枝に腕をかけて、体を持ち上げようとしているが……枝が変な音立て始めた。
やばい。
「折れますよ、枝!」
叫ぶと、川相がちらりと目配せした。どけ、という意味っぽい。
自分が五歩後退すると、バキッ、と大きく鈍い音がしてどさりと枝が落ち、
その後ツーテンポほど遅れて川相さんが降り……いや、落ちてきた。
着地に失敗して、地面にぶつけた腰をさすりながら呻いている。
ついていくとは決めたものの、何やってるんだか……
「大丈夫っすか?」
言った声が妙に明るくて、そこで自分が知らず微笑んでいたことに気づいた。
「ヘビなんて捕まえてどうするつもりですか」
「……晩ご飯に…」
「今はまだ朝ですよ」
川相さんはしばらく、ぺたぺたと折れた木の枝を触っていたが、彼を立たせると、
泥を払ってやった。そして二人で笑った。
昨日の今頃、自分はおかしなものの幻影におびやかされていた。
けれど今は、こうやって声を出して笑っている。人を守ろうとしている。
随分、心に余裕が出てきた。それがなんだか、嬉しかった。
「あれ、こんどはそっち行くんですか」
今まで来たのよりやや南向きに歩き出したのを見て、聞いた。
「さぁ、どうしよっかなあ」
答えた時の川相さんの手には何か、黒い紐のようなものが握られていた。
一番びっくりしていたのはモニターを見ていた二人だっただろう。
いきなり画面が大揺れしたかと思うと、風景がひっくり返って、最後にはぶつり、
と途切れノイズしか入らなくなった。
「…何が晩飯だ!けしからん!あの男は、あの男だけは……!」
白井は頭を抱えていた。山北の姿も異様だったが、川相も異様だ。
異様なのに何か可笑しい。可笑しい分だけ余計にこの男を刺激する。
「おい、あの男の近くに誰かいないか!」
また慌ててモニターを見比べる。川相が進んでいる方向は……
「ちょっと動きがはっきりしないんですけど、このままいけば」
左上のモニターを指して言った
「この三人と、鉢合わせるかと思います」
画面には、松中に支えられ、ゆっくりと足を引きずりながら歩く小久保と高橋の、
三人の姿があった。
【残り27人・選手会15人】
モミーがしんじゃった・・・・・・・・・・・・・・・・・・
74.大きな背中で
「・・・よし。岩瀬、歩けるか?って、無理だろうな、それじゃ」
「はい。・・・すみません」
「いいよ。もし歩けるって言ったって歩かせるもんか。ほら」
「え?」
「背負っていくよ。お前が荷物持ってくれるんならな」
「・・・はい」
少し迷った後、岩瀬は頷いた。どうせなら置いていって欲しいとさえ思ったが、それでは山本は納得しないだろう。
納得しなければ、ここから動くこともない。選手会のキャンプが近いこの場所にいつまでも留まっているのは、得策とは思えなかった。
―大きな背中だなあ・・・
山本の背中にしがみつくとき、岩瀬は思った。この背中で今まで色々なものを背負ってきたんだろうか。
「よっ、と。おい岩瀬、お前重いぞ」
「荷物もあるんですよ」
「はは、それもそうだな」
―口では笑ってるけど、昌さん大丈夫かな・・・
「昌さん、やっぱり肩貸してください。俺歩きますから」
「馬鹿、お前は足も撃たれてるんだぞ。大体お前がいなくなったら俺だけじゃなくて、皆困るんだよ」
「でも・・・」
「・・・俺が持たなくなったら、ちゃんと言うから。その時は歩いてくれ。それでいいだろ?」
「・・・はい」
―やっぱり俺は後なんだ。偶には先を行きたいという気持ちもあるけど、俺は自分の仕事に納得しているつもりだ。
「・・・昌さん」
「ん?何だ?痛むか?」
―もう半分もきた頃だろうか。昌さんの首には汗が光っている。
「俺歩きますから」
「いーや、まだだ」
「でも・・・」
「おいおい、そんなに俺を年寄り扱いしたいのかよ!」
―冗談が出るということは、まだ大丈夫なんだろうか。
「・・・立浪さん、大丈夫ですかね」
「・・・あいつはそう簡単に死ぬような奴じゃないよ」
「そう、ですね」
「それより、お前も大怪我してるんだから黙って体力温存しとけ。血が足りなくなるぞ」
「はい・・・」
岩瀬はそのまま目を閉じた。数分後聞こえてきた規則正しい寝息に、山本は苦笑いした。
―何だかんだ言って、やっぱり疲れてたんだな。
疲れたときに、誰かが傍に居てくれるというのはいいものだと思う。
もし途轍もなく疲れたときに、周りに誰も居なかったら・・・
そう考えて山本は身震いした。そんなときは、山北のように人格が破壊されてしまうのだろう。
―山北、お前は・・・
岩瀬の右腕の傷を見たとき、山本は驚愕した。
ナイフでつけられたような深い傷だったが、ただ刺しただけではあのような傷にはならない。
―あの傷は・・・刺した後に抉られたような・・・
山北は人を傷付けることを楽しんでいる。そうでなければあんな傷付け方はしない。
ふと足元を見て、山本はあっと声を上げそうになった。
―血だ・・・!
草叢が血で染まっている。慌てて辺りを見渡すと、黒い塊が横たわっていた。
―一応誰なのか確認しないと・・・
山本は一歩黒い塊に近付いた。
近付いて、山本は後悔した。何てことだ・・・俺は立浪に何て言ったら・・・どう伝えたらいい?
黒い塊は、立浪の親友であった。もうそれは過去形になってしまったが。
死体の周りには手折ったような花が一輪、手向けられていた。武骨すぎる弔い方に、山本の頭に一人の人物が浮かんだ。
―どちらにしろ、立浪には知らせなきゃいけないな。
山本は岩瀬を背負い直すと、止まっていた足を再び動かし始めた。
【残り27人・選手会15人】
399 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/05 13:38:31
初めて読みましたが面白い!!
どうなるのかな、、、これから。
下手なドラマよりも泣ける。
落合監督まででてきてスケールもデカイし、
どうからんでくるのか期待してます。
75.親友の死
ちらりと石川は隣の立浪を見遣った。
明らかに先ほどと比べて息が荒く早くなっているし、汗が額に浮いている。
「立浪さん、寒いんじゃないですか?」
「・・・ん・・・まぁちょっとな」
―やっぱりだ。熱が出てきたに違いない。
そうは思っても、これ以上掛けるべき衣服も、飲ませる薬も手元にはない。
―早く・・・山本さん・・・岩瀬さん・・・!!
「・・・石川、石川」
「何ですか?」
「俺がもし死んだら・・・」
縁起でもない、そう言いかけた石川を手で制して、立浪は続けた。
「そんときは・・・お前、あっちゃんを止めてくれ。な?頼む・・・」
何だって?石川は耳を疑った。
「だって、立浪さん!片岡さんは・・・」
俺を殺そうとして、あなたのことも撃ったんですよ!?
石川はそう言おうとして・・・立浪の表情を見て、口を噤んだ。
あまりに真剣で悲痛な表情だった。・・・熱で目が潤んでいる所為もあるかもしれないが。
そんな表情を浮かべた人間の頼みを、断れるはずもなかった。
「分かりました。でも・・・どうして?」
「親友やからな・・・あんなんでも、親友なんや・・・」
立浪が声を出す度、弱っていくような気がして、石川は大袈裟に頷いて会話を終わらせた。
その時だった。
「石川、無事か!?」
ガサガサと茂みが動いて、山本が顔を出した。
「山本さん!俺は大丈夫ですけど、立浪さんが・・・熱を・・・」
どれどれ・・・、そう言って山本が背中に背負っていたものを下ろす。
石川はてっきりそれは荷物だと思っていたのだが・・・
「岩瀬さん・・・?岩瀬さん、どうしたんですか!?」
「しっ!寝てるんだから起こすなよ」
「あ・・・すみません」
「・・・山北にやられた。どうもあいつは狂ってるらしい」
「山北さんが・・・?」
そこまで石川に話すと、山本は立浪を抱き起こした。
「おい、立浪。薬だ。飲めるか?」
立浪は薄っすら目を開けて、山本の姿を確認すると僅かに微笑んだ。
「ほら、水」
それを肯定と取ったのか、山本は立浪に水を手渡した。
立浪は水を口に含むと、錠剤をゴク、と飲み干した。
「それ飲んだら少し寝ておけ。俺と石川で見張っておくから」
また微笑み、目を閉じた。安心しきったように。
「・・・石川、お前には話しとかないとな」
立浪が眠りに落ちたのを確認して、山本が口を開いた。
「片岡が死んだ」
「かっ・・・!」
しっ、と山本が口元に手をやって石川を黙らせた。
「頭に銃で一発・・・多分即死だな」
「そ、んな・・・」
―あれほど・・・あれほど立浪さんが止めて欲しいと願った人物が、死んだ・・・?そんなのって・・・
「あんまりだ・・・立浪さんが、あれだけ・・・」
「立浪か・・・それが問題だな。果たして今の状態の立浪にそれを伝えるべきか・・・」
「片岡さんを殺ったのは、多分・・・」
「中日の選手だな」
しばらく二人は沈黙した。森の中はあまりに静かで、石川は「これは現実じゃない」と錯覚した。
しかし山本の一言で、石川はハッと我に返った。
「どうする?」
「俺・・・言えません。そんなこと、立浪さんに・・・」
「でも遅かれ早かれ、あいつは知ることになるぞ」
「それでも・・・今の状態の立浪さんに、そんな話は酷です」
石川の頭からは、先ほどの立浪の表情が離れなかった。立浪さんがあんな顔するなんて思わなかった・・・
「・・・俺が時期を見て、立浪さんに言います。だから今は・・・」
「・・・分かった。そこまで言うならお前に任せるよ」
・・・二人は知らなかった。立浪の頬に涙が伝っていたことを。
(あっちゃん、死んだんや・・・殺されたんや・・・)
立浪は眠りに落ちていなかった。目は瞑っていたが、意識は覚醒していたのである。
そして山本と石川の会話を耳にして、一人涙を零していた。
(あっちゃん・・・!)
【残り27人・選手会15人】
。゚(゚ `Д)ノ。゚ヽ( )ノ゚。ヽ(Д´ ゚)ノ゚。。゚ヽ(゚`Д´゚)ノ゚。
404 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/05 18:06:41
ひとつ疑問。
「あっちゃん」って古田のコトじゃないのか?
女○セブンか何かにのってたぞ
立浪は片岡の事を「あっちゃん」と呼んでいるのは周知の事実
>>404 立浪があっちゃんと言ったら100%片岡のこと以外ありえない。
407 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/05 19:02:23
76.助っ人
チッチッチッ… 静かな部屋に、時計の秒針の音だけがいやに大きく響き渡る。
ここは白井オーナーの滞在するホテルの一室。
その部屋の片隅のソファーに座り、俯いたままで白井は考えを巡らせていた。
−もはや事態は、自分の力ではどうしようもない方向に展開している。
−私の所有する球団の選手と日本プロ野球界の選手会とが
血で血を洗う抗争を繰り広げているのだ。
−何としても、中日の選手達だけでも守りたい。
−私は、どうしたら良いのか?
−私も島へ向かい、選手とともに戦うか?
−否。年老いた自分が行っても、足手まといになるだけだ。
−では、どうすれば……
白井は顔を上げた。
−助っ人を呼ぼう。困ったときの外国人助っ人だ。
思いついたと同時に、携帯電話を取りボタンをプッシュしていた。
白井から事情説明を受けた西川中日球団社長は、
さっそく現在契約中の外国人助っ人に連絡を取り始めた。
アレックス、ドミンゴ、リナレス、バルデス、バルガス、チェン…
事態が事態だけに、公式戦は中断されており
外国人選手達には休養日ということだけが伝えられ、休みが与えられていた。
まずは、最初に連絡がついたアレックスに事の成り行きを説明し
中日選手の手助けをするために島へ向かって欲しい旨を告げた.
しかし、あっさりと答えは「NO」だった。
家族も居て、今後の人生もある自分が、何故そうのようなことを引き受けなければならないのか?
というのが、主な理由だった。
続いて連絡の付いた他の外国人選手達の答えも、ほぼ同じものであった。
バルガスに至っては、無断で帰国しており連絡さえ取れない始末だ。
西川は途方にくれた。
−せっかく白井オーナーが思いついた名案なのに…
−他に外国人選手はいないのか?
天を仰いだ次の瞬間にある男の顔が思い浮かんだ。
−あの男なら、この窮地を救ってくれるのではないか?
2時間後西川の前に座っていたのは、数年前と変わらぬヒゲ面をしたレオ・ゴメスであった。
マスターズリーグの契約のため、ちょうど来日していたゴメスはすぐに西川の元へ現れた。
通訳を通して事情を聞いたゴメスは、暫くうつむいたあと答えた。
「私は現在牧師をしています。
暴力ではなく、話し合いで中日の選手を救って見せましょう。」
西川はゴメスの手を取って涙ぐんだ。
「ありがとう。ありがとう。よろしく頼むよ…」
西川と固い握手を交わしたゴメスは、胸の十字架を握りしめると立ち上がった。
その目は決意に満ちていた。
あぁ、忘れてた。
【残り27人・選手会15人】
ゴメチャンキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
なんと心憎いんだ作家陣
流石にドラファンとはいえイチローはこないだろうけど
>>411 そんなこと言われると、イチローも登場させたくなるなw
そうだなぁ。
オーナー側が1リーグ10チームを実現させて
ロッチと西武あたり合併させたあかつきには
メジャー帰りのイチローを選手兼監督で新チームを持たせて
新リーグの目玉にする予定だったとか言って。
んで、バランス的に選手会側のが人数少ないから
選手会側に放り込むと。
って、収拾つかなくなるから、この話はナシねw
77.予期せぬ遭遇
「まったくもう、無駄弾使っちゃったよなあ。
他球団のロートルよりも、うちのロートルを探さなきゃいけないのに」
森の中を歩きつつ、中里はため息をついた。
人を一人殺したというのに、そんな様子は全く見えない。
頭の中でこの島にきているドラゴンズの投手を羅列していく。
ー川上さんは絶対殺すでしょ、岡本さんと岩瀬さんは中継ぎだからどうでもよくて、
平松さんは…探すほどじゃないけど見つけたら殺して、紀藤さんは…ー
そこで前方に青いユニフォームの人間が二人いるのに気づく。
(誰だろう)
気配を殺し、物音を立てないように近づいていく。
やがてその二人が紀藤と前田だと確認できた。
ずいぶんと不用心に歩いているー殺し合いを経験していない者の歩き方だ。
(紀藤さんはどうしようかな。
どうせ長くて後1年だし、二軍のローテがあいても仕方ないし。スルーしよう)
そう決めて、立ち去ろうとする。
ふと、前田が中里の方を向いた。視線が、かち合う。
「中里さん!」
うれしそうに呼びかる前田に、中里は微笑みながら手を振った。
(…面倒くさいことになったなあ)
そんな内心の思いを、表面に出すことなどなく。
【残り27人・選手会15人】
78. 接触回避
── 誰が一番頑丈だ?
山北は飢えていた。早くも次の獲物を求め、破壊したいという衝動に全身を支配されていた。
生血をすする快感を覚えたばかりの、吸血鬼のごとくに。
丘へ続く道に、草の踏み荒らされた跡を見つけた。
人がいる ── 口元に笑みを貼りつけ、それをたどる。
丘を登りきると、そこは断崖絶壁だった。五メートルほど真下に海が見える。
だが、誰かがここに来たことは間違いない。
行き止まりで引き返したとなると……。
ぎらぎら光る瞳を、山北は左右へ向かわせる。
(…あそこだな)
背の高い雑草が折り重なって生えている場所に、狭い下りの道があることに気がつき、
すかさずそちらへ歩き出す。
草をかきわけ、その先へ進む。と、坂の下の平坦になっている地面にスーツ姿の男が腰をおろしていた。
「見つけた」
坂の上で白い歯をむき出しにし、それからゆっくり近づこうとして ──
(……?)
急に脳裏をよぎった違和感に、山北はその動きを止めた。
その男の体格は常人のそれより一回り大きく、自分の求める「頑丈」そうな体つきをしている。
獲物には申し分ない、が。
ここから見えるその横顔は、ひどく疲れきっているようだった。
(あれじゃあ、すぐ壊れてしまいそうだな)
すっと熱が引いていくように、獲物への執着が一気に冷める。
興味を失い、ふいと顔をそらしかけた時、その男のもとへ近づく人影が見えた。
山北はうんざりとばかりに息を吐き出す。おまけにまた邪魔者か。
まあいいや。次はもっと活きの良い奴を探そう。無駄に体力があり余ってそうな…。
そいつを組み伏せて、身体中にナイフを突き立ててやる。
膨らんでいく想像に没頭しながら、山北は背を向ける。
次は誰にしようか?
誰でもいい、この欲望を満たしてくれる存在ならば。
さあ、早く思い出させてくれよ。あの時の快感を。
“魔物”は愉悦の笑みを浮かべ、再び獲物を求めて歩き出した。
太ももから下の感覚がない。重い鉄の棒が足にくっついているかのようだ。
デニーはついに力尽きて、地面に片膝をついた。
そのまま、近くの木に寄りかかるようにして座りこむ。
ここはどこなのか。地図を頼りにキャンプ地を目指していたはずだったが、断崖に出くわして引き返したあたりから
方向感覚があやしくなっていた。
とにかく今は休もう。何とか足を動かせるだけの体力を回復させなければ…。
空気を求める魚のように、顔を上向ける。知らず口で呼吸をしていることに気づく余裕は、彼にはなかった。
口内から喉にかけて、からからに渇ききっている。
(くそ……)
島の外側を歩いていて予期せぬ断崖に突き当たり、慌てて手に持っていた水入りのペットボトルを落としてしまったのだ。
サバイバルにおいて水は命をつなぐ必需品。それを失うという致命的なミスに、デニーは己を呪った。
(キャンプはこの近くのはずなんだがな…)
── だが。
キャンプに帰ったとして、どんな顔で石井に会えばいい?
陰鬱に、デニーは考える。
気絶させた石井をキャンプ地に預けたあと、デニーはあてもなく島をさまよい続けた。
中日の選手を見かけるたびに身を隠し ── ひたすら人目を避けて過ごした。
そんな中、彼の体力、精神力はすでに限界を超えていた。
我を失って自分に襲いかかってきた時の石井の顔が脳裏にこびりついて離れない。
石井は許さないだろう。谷繁を撃ち殺した自分を。
ならいっそ、石井が自分を殺してくれればいい ──
「………あ」
さくり、と草を踏む音がして。
同時に聞こえた小さな呟きに、失いかけていた意識を彼は取り戻した。
「……デニーさん」
斜め前の木の陰から現れたその人物は、デニーの姿を認めるや否や、その場で動きを止めた。
……なんという巡り合わせか。デニーは目を見開く。
今この瞬間、もっとも会いたくて、そして会いたくなかった人物。
その名を呼んだ。
「琢朗 ── 」
【残り27人・選手会15人】
417 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/06 06:09:11
保守
79.強さ
テントの片づけが半分ほど終わった頃に、清原がキャンプ地に帰ってきた。
「あれ、キヨさん、どこいってたんすか?」
馴れ馴れしく声をかけた今岡を全く無視して、彼は奥の方で地図を確認している
古田の所へ歩いていった。
「あー、キヨ!今までどこ行っててん!」
清原に気がついた古田が捲し立てた。いつもなら、ばつの悪そうな顔をして
悪い悪い、とでも言うところなのだが、沈痛な面持ちをしたまま、うなだれている。
さすがに古田もおかしく思い、怒鳴るのをやめた。
「…どうしてん?」
清原は目線を落としたまま、しばし逡巡しているようだったが、やがてぽつりと、
「片岡が、死んだ」
とこぼした。
「なっ……」古田が絶句したのを見て、近くにいた中村や緒方も近寄ってきた。
なんで、どこで、誰に、どうやって……古田は次々に質問したが、
清原はただ俯いたまま、何も答えない。
「古田さん」
皆黙りこくってしまったあと、清原が重々しげに口を開いた。
「俺、帰らせてもらえませんか」
生温い潮風が、四人の間を走り抜けていく。ざっ、と木の葉が揺れた。
背後からはテントの金具が触れあう、甲高い音と片づけ中の選手らの
ざわめきが聞こえてくる。
随分長い沈黙の末、古田がようやく、困惑しきった様子で
「帰るってそんなん……」
と言った。それ以上言葉が続かないという風だ。
タイミング悪く、向こうで今岡が「古田さーん、畳んだテントどうするんですかー」
などと、彼を呼んだ。
「ここはええから、あっち行ったってください。騒ぎ大きなってもあかんし」
中村が清原の肩に手をかけ、古田に言った。緒方も頷き、古田に行くよう促す。
古田も自分で説得できる自信がなかったのだろう。片手を上げ、
「ほな……ちょっと任せるわ」
と、足早にテントの方へと駆けていった。
「古田さん」
後ろ姿に清原が手を伸ばしたが、
「まあ、ちょっと、話してくれや。事が事だけに、いきなり『帰りたい』とだけ
言われても判断でけへんやろ」
中村がぽんぽんと肩を叩き諭した。清原は少し視線を泳がせていたが、
やがて、一言一言、なんとか言葉を喉の奥から押し出すようにして、
今まであったことを語り始めた。
立浪を説得するため、一人っきり何も持たず出かけた事、
そこで立浪に、殺しあいをやめることはできないと言われた事、
片岡が立浪と撃ち合い、怪我を負った事、
連れて帰る最中に、大西に襲われ、逆に捕虜にしたが、
そいつを追っている間に、片岡が銃殺されてしまった事……
「平松に、甘い、言われました。ほんま、そうやと思います。
武器持たへんとか、かっこつけて、それで、後輩みすみす見殺しに
してんねんやったら……甘すぎます」
そこには、マスコミの作り上げた「番長」の姿も、
試合中の態度から語られる「ヒール」の姿もなかった。
ただ、後輩の死に直面し、己の不甲斐なさを悔いる、
一人の弱い男がいるだけであった。
「もう、ここには……おったって、何も、できないです。
また、俺の甘さで誰か殺してしまうんは……耐えられへんのです」
緒方は、泣くのをこらえているような清原を、心配そうに見つめていた。
清原が話し終わって、少し間をおいて、中村が言った。
「お前、何のため、丸腰でここ出てったんや?」
中村の目線が、しっかりと清原の方に向けられている。
「俺も、琢郎も、護身用とはいえ鉄砲握って行った。そうせな
危ない言うてな。せやのにお前、何も持っていかんかってんやろ」
悲しみしかなかった清原の目に、少しずつ何か別の色が浮かんできた。
「『かっこつける』程度の生半可な気持ちでできることちゃう。
そんだけ、覚悟して、やりたかったことがあんねんやろ。それはできたんか?
やりとげたんか?」
中村の口調はいつしか激しくなっていた。
「俺は、目の前で野口が死んでいくのを、指くわえて見てた。
俺殺せば生き延びれたのに、あいつは黙って死んでいった。
俺は、このままじゃ絶対に帰られへん。あいつの命に報いなあかんからや。
お前はどうなんや、命かけて飛び出して行ったんも、
後輩を守り切れんかったんも『甘い』の一括りにして、それで納得して帰れんのか?
それでこれから先、平穏に生きていけるとおもてんのか?」
緒方は、普段にない中村の様子に、ただ気圧されていた。
しかし清原は、しっかりと口を結び、中村の目を見つめかえしていた。
「片岡を殺したんはお前の甘さやない。間違うな。武器も持たんと
自分の命狙ってる奴に会いに行くなんて、甘い奴のすることやない。
ほんまに強い奴しかできんことや。やりたいこと、まだ終わってへんやろ?
進めや。強いんやったら、片岡の分まで」
遙か後方から、様子をうかがっていた古田は、驚いていた。
まるで雨に濡れた野良犬のように、生気さえ薄れかかっていたあの男が、
今また、見てくれに似合うだけの、いやむしろそれ以上の威圧感を取り戻し、
凛としてそこに立っていたからだ。
(大丈夫、やな…)
安堵の溜息はまた、今岡の間抜けな呼び声でかき消されてしまった。
「キヨ、選手を恨むな。恨むべきは――」
「わかってます」
しっかりとした返事に、中村は頷いた。
(信じろ、自分の正しいと思うことを)
【残り27人・選手会15人】
キヨがキヨっぽくてイイ!!
相変わらず泣かせます。職人さん
でも京都出身だよね
フゥ… 白井は大きく安堵の溜息を付いた。
西川からの電話で、ゴメスが中日選手を救うために島へ向かったとの報告を受けたからだ。
白井は晴れ晴れとした気持ちでいた。
中日ドラゴンズ球団のオーナーでありながら、
選手達が殺されていくのを、指をくわえて見ていることしかできないと
半ば諦めていたが、ゴメスのおかげで選手達を救うことが出来るかもしれないのだ。
これまでは、ナベツネに従うだけで中日球団にとっては
何一つオーナーらしいことをしてやれなかった自分が
初めてオーナーとしての仕事を果たせたような気がしていた。
白井が一息ついたと思ったのも束の間、ドアの方から
ドガッ、ガキッ、バキッという大きな音が聞こえてきた。
と同時にいかにも暴力団風のガラの悪い4人の男達が部屋へ入ってきた。
皆、右手にはピストルが握られている。ご丁寧にサイレンサー付きだ。
「 中日ドラゴンズオーナーの白井文吾だな?」
「そ、そうだが、なん…」
白井が答え終わる前に、一番右の男の拳が白井の腹に食い込む。
「ぐ、ぐむぅ…」
白井は膝をつき、後ろ手に縛られ部屋から連れ出された。
連れられて来た部屋の奥にはナベツネが座っていた。
モニターで島の様子を監視していた部屋とは、別の部屋のようだ。
薄暗く湿っており、鼻をつく生臭いニオイが気持ちを悪くさせる。
縛られたままの白井がナベツネの前に突き出される。
「渡辺オーナー、これはどういったことですか?
私がいったい何をしたと言うのですか?」
「白井君、君も役者だな。」
「何のことですか?」
「何とかと言う、外人を助っ人に雇ったそうだな。」
「ゴメスのことですか?しかし、彼は中日の選手を助けるために島へ向かったのです。
ひいては、我々を守ってくれることになるはずです…」
「ふん、中日の選手を助けてもらっては困るのだよ。」
「は?」
「もういい、この際だから冥土の土産に教えてやるか。
そもそも、オレは中日の選手ごときに命を守ってもうらおうなんて思っておらん。
このプログラムは中日球団をこの世から抹消するためのものなのだよ。
つまり、選手会の手で中日の選手を抹殺させることこそが、真の目的なのだよ。
グッフッフッフッフッ」
「そ、そんな、そんな…」
「まぁよい、選手達が全て死んだらお前も殺す予定だったからな。
順番は逆になったが、今ここで殺してやる。」
白井は口を開きかけたが言葉が出なかった。
「やれ。」
パシュ! パシュ!
胸を撃ち抜かれた白井は、力なくその場に崩れ落ちた。
その体からは大量の血が溢れて流れ出していた。
「グッフッフッフッフッ、ゲッヘッヘッヘッヘッ」
ナベツネの品のない笑い声だけが狭い部屋に響き渡った。
【残り27人・選手会15人】
しくじった。
今度はタイトル付け忘れた。
80.真のプログラム
にでもしておいてちょ。
428 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/06 16:29:21
乙れす〜!
つーか野球板のスレッド、マクロウィルスに感染しまくってない?
ノートン先生の警告でまくり・・・
>>418-421 もいっちょゴメン。
清原と中村は同い年だったと思う。
中村は関西弁キャラで行くの?
だったら前に他の人が書いた分全部書き直しになるんだけど。
学年では、中村のほうが一学年上だよ
>>423 orz また思いこみでゴヴァークしてしまいました。
>>430 リレー小説は前をふまえて続きを書くのがルールなので
訂正して参ります。年齢は
>>431氏が書いてる通り、
生まれ年は同じだけど学年が違います。
書き手の皆さまたびたびご迷惑おかけしてすみません。
こういうのも誤爆っていうの?
誤爆?
81.優しい後輩
「・・・もう、行くんですか?」
「ああ。岩瀬、岩瀬、具合はどうだ?」
ん・・・と声を上がったかと思うと、岩瀬が目を覚ました。
「あ・・・俺、寝てたんですね」
「ああ。どうだ?腕と足は」
「歩けますよ」
「そうじゃなくて・・・痛まないか?」
―お前は痛くても、歩くって言うだろうが。
「・・・大丈夫です」
「本当か?」
「本当ですよ」
そう言うと、岩瀬は一人で立ち上がってみせた。
「じゃあ肩貸すから、少し移動するか」「はい」
去り際に、山本は石川を振り返って言った。
「石川、立浪のことはお前に任せたからな」
「はい。絶対生きて帰ります。山本さんと岩瀬さんも、どうか無事で」
―こいつ・・・最初に俺に助けを求めた時とは大違いだな・・・一回り成長しやがった。
もう泣きじゃくっていた姿は跡形もない。
石川の姿を見て、山本は安心して二人に背を向けて歩きだした。
「・・・」
「あれ?立浪さん、起きてたんですか?」
石川が二人を送り、振り返ると立浪が目を開けて空を睨んでいた。
「あ、ああ・・・今起きたとこや」
「そうですか。どうですか、具合は。何か食べられそうですか?」
「ああ、ちょっと寝たらすっきりしたわ。ありがとな」
立浪は無理に笑ってみせた。
本当は片岡が死んだことも余すことなく聞いていたのだが、石川が自分の状態を思いやってくれたことが嬉しくて、
とりあえずは知らないふりをすることに決めた。
「ねえ、立浪さん。パン食べられます?」
石川が笑顔で振り返った。
―お前は俺の為に知らないふりを、演技を、してくれてるんやな・・・
「・・・あれ?立浪さん?まだ熱あるんですか?」
立浪の両目からは涙が零れていた。
「あれ?おかしいな・・・そうかもなあ、はは・・・」
「まだ寝ておいた方がいいかもしれませんね」
立浪は石川のその言葉に甘えることにした。
―自分は疲れて感情が高ぶっているんだ・・・もう少し休んだら、きっと親友の死も受け止められる・・・きっとそうだ・・・
目を閉じた立浪を確認して、石川は空を仰いだ。
―まだ、片岡さんが死んじゃったこと、言えそうにないな・・・
石川は溜息を吐いた。立浪はまだ熱があるらしい。怪我に加え病気まで重なったら、いよいよ言えなくなる。
そんな二人に、「魔物」の影が近付いていた。
【残り27人・選手会15人】
82.優しさと魔物
(活きのいい獲物、見ーつけたっと)
木の陰で「魔物」が口元を歪めた。
―二人共怪我をしていてそれ自体は面白そうでもないが、二人一緒となれば話は別だ。
(どちらかの目の前で、どちらかを殺したら・・・)
そう考えて山北は身震いした。良い。途轍もなく甘美な悲鳴が味わえるに違いない。
(と、すれば・・・)
―先に襲うのは石川の方がいいだろう。立浪さんはあの怪我じゃ手出しできないだろうし。
(じゃ、早速殺ろうかな)
山北は音を立てずに石川の背後に回ると、ナイフを取り出した。
そしてそのナイフを、石川の背中に向けて振り下ろした。
「ぐあっ!」
「石川、油断したな。考え事か?」
「あ・・・あ・・・山北さん・・・」
石川の上に馬乗りになると、山北は立浪の方に目をやった。石川がハッとした顔になる。
「立浪さん、逃げて!!立浪さ、ぐあぁっ!!」
今度はナイフを石川の掌に向けて振り下ろした。鮮血が散る。
石川の声に立浪は目を覚ました。
「どうした、石川・・・っ!!?」
「逃げて、立浪さん・・・」
「あ、立浪さんおはようございます」
石川に馬乗りになった山北が爽やかに言う。しかし血に濡れたナイフを持ったその姿では、爽やかに聞こえなかった。
「何やってんだ、山北ぁっ!」
立浪は山北に向かって飛びかかった。しかし、片腕で容易に振り払われてしまう。
「これから石川殺しますから、立浪さんはそこで見ててくださいよ」
「何、言って・・・」
山北はナイフを抜き取ったかと思うと、石川の片岡に撃たれた傷口に向かって突き立てた。
「あああっ・・・!」
「やめろぉー!」
「あははっ・・・いいですねえ、その声」
うっとりと山北が言う。その声に立浪は戦慄を覚えた。
―楽しんでいる?人を殺すことを、この男は。
―俺は、親友だけやなく、後輩まで・・・亡くすのか。
「山北ーっ!!」
立浪は大声で咆えると猛然と山北目掛けて突進し、ナイフを持つ腕にしがみ付いた。
「くっ・・・放してくださいよ・・・放して・・・放せってば!!」
振り回される腕。立浪は必死でそれに食らいついていた。
―放すか・・・死んでも放さへん・・・!
「・・・!!」
「何だ・・・勢い余って刺しちゃったじゃないですか・・・」
ハー、ハーと荒い息遣いだけが響いた。立浪の腹には深々と山北が振り下ろしたナイフが刺さっていた。
「た、立浪さんっ!!」
石川が山北を突き飛ばす。突き飛ばされた山北はよろめいて2、3歩後退したが、迷わず立浪の腹からナイフを抜き去った。
途端に噴き出した鮮血が、山北の腕を濡らした。
「立浪さん、立浪さん・・・」
立浪の上に庇うようにして覆い被さる石川に、山北は容赦なくナイフを向ける。
「ああ・・・やっぱり最高だ・・・」
必死に立浪を庇う石川に、山北はナイフを振るって呟いた。何度も何度もナイフが石川の体内へと突き刺さる。
・・・やがて石川が動かなくなると、山北は興味を無くしたようにナイフを掲げた。
赤い液体が朝日に照らされて、光っている。
血塗れになった山北は満足したように、その場から姿を消した。
「・・・かわ、いしかわ・・・」
立浪は自分の上に覆い被さっている後輩に向けて呼びかけた。
返事は、ない。
親友の死を伝えられずに迷っていた優しい後輩は、先輩を守ったまま冷たくなっていた。
「いしかわっ・・・お前、優しすぎたんや・・・アホ・・・」
立浪の両目から涙が零れ続けた。
―何や、一人になってしもたやないか・・・親友にも先立たれ、後輩も死んでしもうて・・・
立浪は自分のしぶとさを呪った。このまま生きるのは辛すぎる・・・
そのとき、石川のサブマシンガンが立浪の目に入った。そうだ、これで俺も・・・
サブマシンガンがあるところまで這うと、それを手に取った。
ゆっくりと引き金を引く・・・
鉄の弾は、立浪を貫くことはなかった。サブマシンガンには銃弾が装填されていなかったのである。
―石川、お前、弾のない銃でどないするつもりやったんや。優しいのにもほどがあるやろ・・・
人を殺すのを躊躇った優しい後輩を思って、立浪は泣いた。このまま気がついたら死んでいれば楽なのに、と思いながら。
【残り26人・選手会15人】
この話で自分の中で急に石川の株が上がった
83.戻ってきた情
日がかなり高くなったというのに、井上が目を覚ます様子はない。
よほど疲れていたのだろう。
無理もないな、もう少し寝かせておいてやるか、と思いかけて、ふと気が変わる。
関川は銃を眠る井上の眉間にそっと向けた。
もともと殺すつもりで近づいたのだ。
今なら、眠りから死へと苦痛もなく移行できるだろう。
ぐっすり眠っているようだから、抵抗されることもない。
ーそう、簡単に、殺せる。
この引き金を引くだけだ。
それで、ライバルが一人減るー
かたかた、と銃が鳴る音がして、手が震えているのだと気づいた。
引き金にかけた指は、関川の意志に反して、ぴくりとも動かなかった。
土谷の時は、あんなに無造作に撃てたというのに。
(土谷はやる気になっていて、一樹はそうでない…その差か?)
それとも、一緒に行動したことで情が移ったのだろうか?
どちらにしても、今はこいつを殺すことができない。それだけは認めなければならなかった。
ー殺せないのなら、昨夜本人に言ったように、こきつかってやる。
関川は銃を引くと、井上を軽く蹴り飛ばした。
「いつまで寝てるつもりだ、いい加減に起きろ」
「これからどうするんですか」
支給されたパンで遅い朝食をとりながら、井上が聞いてくる。
「そうだなあ、適当に選手会の奴を捜して。途中で外野の奴にあったら殺すかな」
「選手会と戦うのは手伝いますけど、ドラゴンズの選手殺そうとしたら邪魔しますよ」
「邪魔したらおまえも一緒に殺すだけだ」
「それは困りますね。俺まだ死にたくないし」
二人とも、話の内容とは裏腹に、穏やかすぎる表情で笑っていた。
ー情が「移った」んじゃなくて、「戻ってきた」のかもしれない。こんなことに巻き込まれる前の状態に。
そう思いながら、関川は「行くか」とつぶやいて立ち上がった。
「はい」と答えて井上も続いた。
【残り26人・選手会15人】
84.伏魔殿
薄暗い部屋に、二人の人間がいる。
一人はソファに沈み込むように座っており、もう一人はその傍らに立っている。
「やれやれ。あの人は白井さんを殺してしまったか。スマートにはほど遠いやり方だな」
蔑むような笑顔を浮かべながら、座っている人物は言った。
「無駄に首輪も爆破させるしな。あれはあくまで切り札、私なら乱用はしない」
「…そんなところが、我々にとっては好都合でしょう。扱いやすい」
立っている人物の言葉に、うなずいて呼びかける。
「なんにせよ、うまくいっているようで何よりだよ…宮内さん」
「ええ、堤さん」
ここは、渡辺恒雄がこの計画のために用意したー白井が殺害されたのと同一のーホテルの一室。
西部ライオンズ、堤オーナーと、「オリックスバファローズ」オーナー、宮内が極秘の会談を行っていた。
…人に知られてはならない、極秘会談。
「近鉄とオリックスが合併して、中日が消滅して10球団。不平分子である選手会役員もほとんどが消える」
「残った選手たちも、まとめ役の古田がいなければ何もできないでしょう」
「中日選手と選手会がつぶし合った後で、あの人がすべてをしくんだと告発する。
実際陣頭に立って指揮しているんだ、証拠はいくらでも出てくる。
読売の影響力、巨人軍の栄光はすべて地に墜ちるだろう。
…そこで私が、我が西武ライオンズが新たな球界の盟主となる…」
堤と宮内の目的は、このプログラムを利用して一石三鳥をねらうこと。
一つ。10球団1リーグの実現。
二つ。合併に強硬に反対する選手会の排除。
二番目の目的までは、共通している。
しかし。三つめの目的だけは決して、渡辺に知られてはならない…今は、まだ。
巨人を追い落として球界の支配者となるという目的は。
「ところで、ほかの球団の動きはどうですか?」
「ダイエーは経営問題でそれどころではない。近鉄にはもはや発言権はない。
ロッテ、日本ハムは消極的賛成、といったところかな。」
「セリーグの方は?」
「ふん…いつも通りの日和見さ。ああ、広島がおかしな動きをしているようだ」
「広島が…?」
「ドミニカと中国から武器を大量に運び込んでいるらしい。松田とも連絡が取れない」
「どういたしましょうか」
「放っておけばいい。…重要な会議で、広島の意見が結論に影響したことがあったか?」
「…ありませんな」
くっくっ、と二人顔を見合わせて笑う。
「計画は順調に進んでいるよ。
ご苦労だが、あの人のお守りと監視をお願いする、宮内君」
「かしこまりました」
深々と頭を下げながら、宮内は思う。
ー少し前に「外務省は伏魔殿だ」って言った大臣がいたが、
ここの方がよっぽど伏魔殿だよ。
まあ、そうでなくちゃ面白くないが。
ここで生き抜いて、自分に「金貸し風情が」って言い放った奴をその座から引きずりおろしてやる。
宮内の瞳に、暗い情熱が満ちていた。
【残り26人・選手会15人】
446 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/07 11:40:52
ホシュage
85.怪物
ウガァァァァァアアアアア!!!
獣にも似た雄叫びを上げながら幕田は走っていた。
それは、銃声で目覚めた二日目の朝のことだった。
一晩熟睡したら、自分の置かれている状況などスッカリ忘れてしまっていた幕田は
ノソノソと巨体を起こし、木陰に入り立ち小便をしていた。
「痛っ?!」
急に横腹に鋭い痛みを感じて手をのばすと、手の平に血の塊がこびり付く。
−あぁ、そう言えばここは戦場だったんだ…
−昨日は色々あったなぁ…
−これからどうしようかなぁ…
小便で出来た水溜まりを見つめながら考える。
−まぁ、とりあえず朝飯でも食うか。
(元来、この男には緊張感というものが欠けているようだ。)
昨日、民家で手に入れた缶詰に手を伸ばす。(オーナーからの特別支給品)
缶詰は五つあったが、鯖の味噌煮と書かれた一番大きなサイズのものを食べることにした。
パコッと蓋を開けると、指でつまんで口に放り込んだ。
「うまい。白いご飯が欲しいな。」
(元来、この男には緊張感というものが欠けているようだ。)
と、その直後幕田の顔色に明らかな変化が見られる。
「グ、グムム、ギギギギギ…」
喉元を押さえ苦しみだしたのだ。白目をムキながら足をばたつかる。
10分間ものたうち回っただろうか。
幕田の表情は、すでに人間のそれとはかけ離れたものに変化していた。
何の疑いもなく口にしてしまったこの缶詰だったが、
オーナー側が戦闘を激化させるために仕込んだ特別支給品だったのだ。
実際には、軍が開発中の強力覚醒剤と筋肉増強剤が混入されていた。
獣と化してしまった幕田。傍らに落ちていた太さ15cm長さ2mもある丸太を掴み走り出す。
【残り26人・選手会15人】
キャプテントランス
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんか
とんでもない方向に話が進みだしたな・・・・・・・・・・・
幕田・・・・・・・・・・・・・・
86.魔物vs怪物
−なんだ、あの叫び声は?
ウガァァァァァアアアアア!!!
森の奥から聞こえてくる野獣とも怪鳥ともつかぬ異様な雄叫びに
山北は思わず木の後ろに身を隠した。
その雄叫びはみるみるうちに近づいてくる。
−人間か?あれは人間の声なのか?
ギギギギギ… ギャオォォォ!!! ウゴォォォオオ!!!
森の中を走り回るうちにユニホームは破れ、
顔や腕に無数の小傷を付け、異様な雄叫びを上げる幕田。
両腕で持った丸太を辺りかまわず振り回す。
それは殺人鬼と化した山北をも恐怖させるような光景であった。
−幕田… 間違いない、あれは幕田だ。
山北は息を殺して、変わり果てた幕田を眺めていたが
ふと、冷静になりある考えが頭をよぎった。
−ひょっとして、幕田は今までで最高の獲物なんじゃないか?
−死にかけの立浪、チキンの久本や石川を殺しても
何か物足りなかったよな?
−それは、あいつらがオレに恐怖感じさせることがなかったし
抵抗も全くしなかったからじゃないのか?
−それに比べて、幕田の野郎は…
クックックックッ… 山北が口の端を引きつらせて笑った。
「待ってろ化け物。」
次の瞬間、山北はナイフを左手に握り木の陰から走り出した。
10m先で狂ったように暴れている幕田は、まだこちらに気付いていない。
素早く幕田の背後に回り、右肩にナイフを振り下ろす。
プシュゥゥ 鮮血がしぶきを上げる。
一瞬の間を置いて、幕田が振り返り山北を弾き飛ばす。
そして持っていた丸太を山北目がけて全力で振り回す。
グシャ!!
丸太は見事に山北の顔面をとらえた。続けざまに幕田は山北に襲いかかる。
丸太を投げ出し、喉元に指を食い込ませる。
しかし、山北も必死で抵抗する。右肩のナイフを抜き取り左目をえぐる…
その戦闘の様子は、この世のものとは思えぬ凄惨なものであった。
まさに魔物と怪物の戦いであった。
10分ほども経っただろうか。
その場には、腕が引きちぎれ、目玉は飛び出し、
内蔵をぶちまけた二つの死体が転がっていた。
何事もなかったように森は再び静寂に包まれてゆく…
【残り24人・選手会15人】
協力な覚醒剤でもそこまでは行かないだろw
>>453 まぁ、最初から作り話なんだし
悲しい殺し合いばっかりじゃツマランから
こういうのも(・∀・)イイ!! んでないの?
87.優しさは死なない
「うわ・・・こりゃ酷いな」
―嫌な予感がして・・・柳沢を待たせてきて正解だった。
倒れている人物は二人。両方とも中日の選手のようだ。
「石川・・・」
刺し傷が背中に何箇所もある、無残な死体。何故こんな殺し方をしなければならなかったのか。理解に苦しむ。
「それと、立浪さん・・・ん!?」
まだ息がある。弱々しくではあるが、確かに呼吸をしている。
「立浪さん、分かりますか!?」
意識を確認しようと声を掛けると、うっすらと目が開いた。
「・・・ろしてくれ」
「えっ?」
「殺してくれ・・・」
「何を言ってるんですか!」
「死にたい・・・これ以上、生きたくないわ・・・」
途切れ途切れにそう言うと、立浪は口元を歪めた。それが笑みなのか痛みからくるものなのか、落合には判断出来なかったが。
「皆、俺を残して死んでもうて・・・もう嫌や・・・殺してくれ・・・」
「・・・石川の意思を無駄にするつもりですか」
「・・・あいつには悪いことしたなあ・・・まだ若かったのになあ・・・」
「あなたが死んだら石川は、本当に・・・」
石川は、本当に死んでしまう。人が死ぬ間際まで成し遂げようとしたことが、全て無に帰すとき、その人の思いもまた無に帰す。
「それでもや・・・もう、誰かが死ぬのは嫌なんや・・・」
―立浪さんも、柳沢と同じか。自分だけが残ってしまう恐怖に怯えている。
「それでもあなたは生きなくちゃいけません」
強く言った。そうしなければ石川は浮かばれない気がしたのだった。
「どんなに辛くても、しんどくても、生きてください。石川はそれを願っています」
「・・・最後まで、優しい奴やった・・・」
「その優しさを無駄にするつもりですか?何の為に石川が庇って・・・」
「・・・」
泣いていた。落合はこれ以上立浪に何かを言うべきではないと判断した。本人も分かっているのだろう。
だからこそ、涙を流している。
「一緒にいきましょう。きっと何とかなるはずです」
「・・・足手まといになる・・・」
「それでもここに残していくわけにはいきませんから。おーい、柳沢ー」
茂みの向こうから柳沢が顔を出す。
柳沢は石川の死体を見て、また憂鬱そうな表情になった。
「立浪さん、酷い怪我してるけど、生きてるんだ。だから連れてこうと思う」
「そう、ですか。立浪さん、俺の目の前で死なないですよね?」
柳沢の問いに、落合は黙って立浪を見た。先ほどまでの立浪ならば、「殺せ」といって喚くかもしれない。
「・・・死ぬか、そう簡単に。どうやら・・・そういう風に生まれついたらしいからなぁ」
その答えに柳沢も笑みを見せた。
―そう、立浪さん。あなたは石川の優しさを背負って生きなくてはいけない。・・・なあ、石川。お前もそれを望んだんだろう?
落合の瞳には立浪の背後で暖かく光る光が映っていた。
【残り24人・選手会15人】
> 石川は、本当に死んでしまう。人が死ぬ間際まで成し遂げようとしたことが、全て無に帰すとき、その人の思いもまた無に帰す。
ここの部分は秀逸だね…震えたよ。
>457
全く同意。名文だね。
金払って読んでも悔いの残らない小説だよ。
それにしても、正直他ファンなんで石川の事は良く知らないんだが、
かなり気になる存在になった
キャプテンと山北が・・・・・
立浪と落合英二は1969年生まれの同い年
>>460 マジでか・・・って今確認したら本当にそうだった。
俺は何で英二の方が年下だと思ったんだろう・・・とりあえず直しを用意してきますorz
88.招かれざる客の来院
51と重なっていた28の数字が、画面から消えた。
直後、右下の数字列に28が加わる。川上がつぶやいた。
「石川……」
正津は黙って、川上に茶を入れてやった。
51と重なった数字が消えるのはこれで二回目だ。
久本と、石川。途中、岩瀬とも会ったようだが、どうなったのだろうか……
「あんまり、考えたくないけど」
重苦しい雰囲気の中、正津がぽつりと言った
「山北君には、関わらないほうが良さそうだ」
川上は目をそらして、うなずいた。飛び出したくなる衝動をまた必死で
抑え込む。ここが一番安全なのは重々承知していた。けれど、安全な場所で
ぼんやりと待つ身というのは、例えようのなく辛いものだった。
今できる事はただ、43に51が近づかないよう祈るだけしかない。
小笠原は英智と一緒に、病院とは全く逆の方向に進み、今は島の端あたりにいるらしかった。
山北のいる地点からは、それなりに距離もある。しばらくは問題ないだろうが…。
「もうすぐ…団体さんが来るみたいだね」
モニターを正津が指さした。17、55そして70、三つの数字が集って病院へと近づいてきている。
見た途端、川上は漠然とした違和感に捕らわれた。
「……珍しい組み合わせですよね」
違う、そういう意味じゃない。必死に言葉を探してみるが、
今のこの感覚をはっきり表現する事ができない。
「珍しいっていえば、僕と川上君の組み合わせも珍しいじゃないか」
正津は軽く笑って流したが、川上はずっと、モニターを見つめていた。
「見てくださいよ、病院ですよ、病院!」
興奮して大声を出した前田を、中里は殴った。
「馬鹿、まわりに誰か潜んでたらどうするつもりだよ」
「まあまあ、大丈夫だって。いないいない」
紀藤がにこにことして横から止めに入る。
中里は内心苛立っていた。警戒心ほとんどなし、半ばピクニック気分の
二人とどうして一緒にいなくちゃいけないのか。
早く他の先発を始末しないと、このゲーム自体が中断されてしまえば
もうそれでお終いじゃないか。
「行ってみましょうか」
前田が建物を指さし、紀藤に尋ねた。紀藤も頷き、行こう、と安請け合いしている。
「ちょっと待ってくださいよ、危ないですよ。何がいるかわからない」
「大丈夫大丈夫、いざとなったらお前のマシンガンもあるし」
紀藤は中里の腕を掴むと、病院の入り口へ向かった。
勝手に人の武器アテにしてんじゃねーよ、これは先発を殺す用であって
お前らの護衛用じゃない!心の絶叫は二人にまったく届かない。
ほんの少し警戒のまねごとをして、前田が病院の扉を開けた。
直後、院内アナウンスのチャイムが鳴り響いた。
【残り24人・選手会15人】
乙。なんかこの三人面白い。
やっぱりキャプテンが登場すると他と時間の流れ方が違うな…
でも死んじゃったのか…もったいない…
467 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/08 02:23:01
89.特別戦
病院にチャイムの音が鳴り響いた。3人が一斉に武器を構える。
「今度は紀藤さんと章宏と中里か・・・戦う気は無い、武器を下ろしてくれ」
病院内に声が響く。
「誰だ!」
「正津だ!川上君もいる!」
その声に紀藤と前田は武器を下ろす。中里は下ろさないが。
「中里君、武器を下ろしてくれ。今管理室にいるんだが、戦う気があるのなら入れられない」
紀藤と前田に武器を下ろされる。中里が川上を狙っているとも知らずに。
「よし、じゃぁそこの受付の右奥に階段があるから、そこを降りて来て欲しい」
「分かった、今から行くよ」
そう言うと、階段の所に行き、降りていった。
─さて、憲伸をどう殺すかな・・・ただでさえこいつらが邪魔なのに、また邪魔が入る。
中里が頭の中で作戦を練ってる間に管理室に着いた。紀藤がドアを開ける。
「な、なんだここ・・・」
映画のセットのような部屋に驚く2人。中里は大して驚いていないが。
「・・・どうも」
憲伸が挨拶をする。
「ああ・・・ってか、この部屋は一体・・・」
紀藤が聞く。
「オーナー達が作ったんでしょう。そこの画面に今の島の状況が映ってる」
『オーナー』という言葉に一瞬空気が凍りつく。中里が口を開く。
「じゃぁ、この番号が背番号の意味を示してるんですか?」
「ああ、その右下に映ってるのが・・・殺された人達の番号だ」
「なっ・・・ここまで多く・・・・」
そこには、下の画面に10個以上の数字が並んでいた。
「ひ・・・久本さん・・・」
前田と紀藤がただ立ち尽くしてる中で、中里は平然と画面を見ている。
─ラッキー・・・って、もう先発の奴いないじゃん・・・昌と平井、小笠原、そして憲伸か・・
その時、病院に異変が起きた。
『ズガララララ・・・ガシャン!』
一斉に病院の出口、窓の所に厚い防護壁が降ろされる。
「な、なんだ!」
正津が慌ててコントロールパネルに手を伸ばすが、全く機能しない。その時、画面が一斉に変わった。
「やぁ、たかが選手諸君、元気に殺し合いしてるかね、グッハッハッハ」
そこの画面に、ナベツネが映った。一気に全員の顔が険しくなる。
「今から、この病院の中にいる6人で特別の殺し合いをしてもらう。特別戦だ。もちろんご褒美が出るぞ、グッハッハ」
「・・・なにっ・・・」
その瞬間、中里が川上に向けて銃を構えた。
「な、何を!」
中里が引き金を引こうとした瞬間に、ナベツネが声を発した。
「おっと、まだ殺しちゃいかんよ。開始までにここで殺したら殺した奴の首輪も爆発する」
その言葉に、中里は銃を下ろした。
「今から5分後にこの病院内で開始だ。病院内ならどこでも殺しあっていい。ただ、団体行動等は禁止だ」
中里はニヤニヤしながら聞いている。そこで既に全員が『中里は異常』と気づいていた。
「最後に残った1人にはこの病院内にある武器庫の武器をいくらでも持ってっていいぞ。なんでもある」
中里以外は『そんなものいらない』と思った。
「管理室は今から5分後に閉める。それまでにいた奴は首輪がする。開始の5分後までに殺した奴も首輪が爆発する」
「・・・では今から5分後より開始だ。合図するまでに全員好きな所に散らばれ、グッハッハ」
その声とともに、中里はダッと走り去っていった。
「・・・やるしかなさそう・・・だな」
紀藤が静かに口を開いた。
「嫌だ・・・俺には人、ましてや仲間なんて殺せない!」
前田が目に涙を浮かばせながら話す。
「・・・でもやるしかないだろ!そんな事言ってたら殺されるぞ!・・・さっさと散らばろう」
その声とともに、全員が散らばっていった。
しかし、気づいてなかった。最初にナベツネが『6人』と言った意味。
特別戦参加者は、川上、紀藤、正津、前田、中里、そして閉まる直前に入ってしまった高橋聡文・・・
【残り24人・選手会15人】
90. 殺すことの痛み
まさか、たどっていた道をそれた途端に、捜していた人物が見つかるとは思っていなかった。
断崖付近の道はやけに入り組んでおり、地図上に表記されていない場所もある。
ここの小さな平地部分も、その一つだった。
敵の目を避けて地図を見直すには好都合の場所、そう思って石井はここへやってきたのだが。
「琢朗」
目の前の人物が自分の名を呼ぶ。石井は木の幹に手をかけたまま、表情を硬くした。
待てよ、まだ心の準備が ──
「どうしたんだ?」
デニーが声をかけてくる。驚きの表情を、穏やかなものへと変えて。
「俺を殺しにきたのか?」
「……」
石井の心が、ざわりと音を立てて揺れた。
友を、谷繁を殺した男が目の前にいる。
(何してるんだ、タク)
敵を討て、絶好の機会だ。 衝動が友の声へと変化し、己を急きたてる。
肩に引っかけてあるライフルの存在が、一気に増したような気がした。
無意識のうちに、右手がそれに伸びる。
(……そうじゃないだろう、馬鹿!!)
胸中で叫び、寸前で拳を握った。石井はライフルを乱暴に肩から外して地面に叩きつけ、
迷いから意識を振り切るように顔を上げた。
側にあった木から離れ、デニーに近づく。
「時間がないので単刀直入に聞きます」
彼を見おろし、ずっと胸中にくすぶっていた問いを投げかける。
「なぜ谷繁を撃ったんですか。殺すためですか」
つと目線を上げ、デニーはこちらの瞳をのぞきこむようにした。
「それ以外に銃の使い道があるのか?」
真顔で問い返され、石井は言葉に詰まった。
デニーはかすかに苦笑いを浮かべて、隣の地面を手で示した。
「……まあ座れよ」
石井は眉をひそめたが、その後もう一度うながされ、仕方なくデニーの隣に腰をおろした。
それで分かったが、デニーにはこちらに対する警戒が全くなかった。
殺しにきたのかと尋ねたくらいなのだから、距離を置くのが普通のはずだ。
何を考えているのかと彼に視線を向けたが、疲労をたたえたその横顔からは、何も読み取る
ことができない。
ともあれ、デニーは切り出してきた。
「最初から話した方がいいんだろうな。俺は佐伯に頼まれてたんだ。自分たち二人だけじゃ
心許ないから、あとからついて来てほしいって」
「佐伯が…?」
「俺もお前たちが心配だったから、言われた通りついて行った。そしたら、谷繁がお前に
馬乗りになってて…」
デニーはそこで咳きこんだ。そういえば声もしゃがれているように聞こえたが、今はそれを
気遣う余裕がなかった。
「…あいつはナイフを持ってた。お前を刺そうとしてるように見えたんだ」
ぽつぽつと、彼は言葉を続ける。
「放っておいたら、お前は殺されて、俺の命も危なかった。だから」
息を吸い込みざま、再びデニーは声を詰まらせた。何度か咳をする間に、その後の言葉を
失ってしまったのか。
肩の力を抜き、ゆっくりと息を吐き出した。言葉の代わりに。
「……こんなんじゃ、言い訳にもならないな」
やがて自嘲めいた口調で、彼は呟いた。
「もういいだろう。俺を殺せよ、琢朗」
疲れたんだ ── デニーは懐から取り出した拳銃のグリップ部分を石井に向けて、力なく言った。
予想だにしなかった台詞に、石井は息を呑んだ。そのとき、ずっと感じていた彼を取りまく空気の
正体に気づいた。
(虚無感)
警戒心がなくて当たり前だ。彼は、自分に殺されたがっているのだから。
石井は無言で差し出された拳銃を受け取り、その銃口をデニーの額に押しつけた。
彼は一度石井を見つめ、そして本望だとばかりに瞼を下ろした。
「デニーさん」
疲労のために蒼ざめたデニーの顔を見すえながら、口を開く。
「俺がこのまま引き金を引いたら、デニーさんは楽になるんですね」
引き金にかけた人差し指に力をこめる。ただそれだけで。
「俺は谷繁の仇を討てて一石二鳥って、そう思ってるんですか」
そう口にして、思わず笑い出しそうになった。あまりに陳腐な言葉だと思ったからだ。
石井は一瞬唇の端を持ち上げ ── そしてすぐ、真顔に戻った。
「そんな都合よく、俺が動くとでも?」
銃口の先で、デニーの身体がわずかながら、震えたのがわかった。
「デニーさんが谷繁を殺したことを後悔してるように、俺もデニーさんを殺したことを後悔しますよ。
そんなの俺はごめんです」
……そう、この人は後悔している。石井にはそれが分かっていた。
人を殺すということが、そんな簡単なことであるはずがなかった。
簡単ならば、どうして彼はこんなにも疲れ、そして死にたいとまで願っている?
どうして自分は友の仇を討つことをためらう?
石井は彼の額から銃口を離した。目を開けたデニーが、ゆるゆると顔を上げる。
彼の目前で、石井は銃を後ろへ放り捨てた。
終わりの合図に。
「帰りましょう」
石井は立ち上がり、言った。
自分を見上げてきたデニーの目に、虚無の影はもうなかった。
そのことに安堵を覚えながら。
【残り24人・選手会15人】
89.特別戦への闖入者
ふいに森が途切れ、視界が開けた。
顔を上げた水口の目の前には、窓も扉も閉ざされた白い建物。
「…なんだ、これ」
思わず呟く。
この島の建物や建造物はー中日の選手二人と戦った公園もそうだったがー荒れていた。
ずいぶん前に使われなくなったのだろう、と考えていたが、
目の前の建物はつい最近建てられたもののように見える。
まるで、このつまらない戦いのために作ったかのように。
−もしかして、ここに奴らがいるのか?
愛するバファローズを、選手の気持ちなどそっちのけで合併させ、
チームメートをちりぢりばらばらにした挙げ句、
殺し合いをさせようとした、オーナー達が。
電撃のように訪れた考えに、唾を飲み込む。
喉が、ごくり、と鳴った。
はやる気持ちを抑えて、建物の周囲を回ってみる。
入り口はすべて封鎖されているだろうが、もしかしたらどこかから侵入できるかもしれない。
警戒しながら歩いていると、この建物の正面玄関なのだろう、と思われる扉の前に
スーツ姿がひとつ、ぽつんと立っていた。
「黒木!」
それが同じ選手会、同じパリーグの黒木なのだと気づくと、水口は走り寄った。
ゆっくりと振り向く黒木を見て、ほんの少し違和感を覚える。
−こいつは、こんな表情をする男だったか?
もっと気持ちを出すタイプじゃなかったか?
これじゃ、まるで−
「…ここに、あいつが、70番が入っていったんです」
無表情で、黒木が言った。
「その後ですぐ扉が閉まった。入れそうにないから、出てくるのを待ってるんです」
背番号70が一体誰で、何があったのかは判らなかったが、黒木がそいつに執着していることは判った。
−おそらく、殺すために。
「ここには何か手がかりがあると思う。…俺は行くが、どうする、黒木?」
黒木を促して後退しつつ、水口は問いかける。
肩に構えたグレネードランチャーの照準は、ぴたりと正面の扉に合わされていた。
それを見て黒木が頷く。
「行きます」
−行く。行って、あいつを殺す。岩本さんを殺したあいつを−
「いい返事だ」
ニヤリと笑った水口はすぐ真顔に戻り、扉をにらみつけた。
轟音とともに、扉が揺らいだ。3発目で扉が吹き飛ぶ。
室内では使えないランチャーを拳銃に持ち替え、水口は建物に飛び込んだ。黒木も続く。
−礒部、ノリ、隈、みんな…待ってろ。絶対いい知らせを持って帰るからな。
水口の顔には揺るぎない決意があふれていた。
【残り24人・選手会15人】
全然章番号が違うorz
91っすね、何やってるんだ俺…
477 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/08 18:19:26
92. 闇
「帰りましょう」
その言葉と共に立ち上がった石井は、先程放った拳銃を拾い上げ、さらに最初立っていた
木の近くに捨てていたライフルを回収した。
(結局武器はちゃんと持って行くんだな)
未だ地面に座り込んだまま、デニーはそれを観察する。
しばらく身体を休めてはみたが、まだ本調子でないことに違いはない。
なんとかキャンプまで体力が持つといいが…。
(琢朗、本当に俺を殺さなくて良かったのか)
石井の後ろ姿に向け、問いかける。
しかし彼にはもう、自分を殺す意思などないに違いない。
自分には自殺するほどの勇気もない。だったら、今は生きるより他に道はなかった。
それも、人を殺した報いだ。そう思って受けいれるしかないのだろう。
荷物をまとめ終わり、ライフルを肩に担ぎなおした石井を見ながら、ぼんやりと考える。
(?)
その時、デニーはふと目を瞠った。
断崖の向こうから吹く海風が、あたりの樹木をざわめかせる。
その音の中に紛れて、わずかながら何者かの気配がするのを感じ取った。
幻覚だろうか。……いや。
「琢朗」デニーは石井を呼んだ。早くこの場を離れた方がいいような気がした。
石井はデニーを振り返った。
こちらを見る彼の目は、何か不安を訴えかけているようであった。
何事かと思い、彼の元へ駆け寄る。
「どうしたんですか」
「肩を貸してくれ。満足に歩けそうにないんだ」
はい、と頷きながら、ちらりと腕時計を見た。約束の時間が迫っている。
キャンプからそう離れていないとはいえ、急がないと…。
「行きますよ。立てますか」
「すまない、その前に」
石井が差し伸べた手をやんわり押しもどし、デニーはどこか申し訳なさそうな表情で口を開いた。
「……水をもらえないか。喉が渇いて死にそうなんだ」
「水?」
すると、さっきから喋り辛そうにしていたのはそのためか。今更ながら石井はそう思い至った。
「落としてしまった。はずかしいだろ?」
「……しょうがないな」
溜め息をついて言ったが、もちろん冗談交じりにだ。あんまりニヤニヤするのも失礼なので、笑いをこらえつつ、
水の入ったペットボトルをデニーに渡す。
サンキュ、と彼はペットボトルを掲げた。蓋を開け、一口二口と中身を飲み下していく。
(もっと早く言ってくれりゃあいいのに)
石井が平和的な気分で呟いた、刹那。
刹那。
え)
突然ペットボトルが地面に落ち、中身をぶちまけながら転がった。
「がっ」
奇怪な声があがった。声とともに赤い飛沫を口から吐き出して、デニーの身体が地面にどさりと横たわるのを、
石井は目撃した。
(何)
石井の唇がわなないた。喉の奥で悲鳴のような音が鳴っている。
両足の力が抜け、立っていられなくなってその場にへたり込む。
これは何だ。
極限まで見開いた瞳が、悪夢のような光景を映し出す。
苦悶の表情のまま固まったデニーの顔を。その口から溢れ出た鮮血を。
赤い液体が地面に染みこみ、どす黒く変色していくさまを…。
(死んだ)
唐突に脳がそれだけを理解した。理解した瞬間、理性が弾けた。
石井は叫んだ。両腕で頭を抱えて地面にうずくまり、叫んだ。
つい先程まで話していた人物が。水を受け取り、礼を言って、それを飲んで……死んだ。
(水…俺が渡した…それを飲んで……)
うずくまった姿勢のまま、石井は視線をさまよわせた。
やがて、それは一つの物体にたどり着いた。
地面に転がった、透明なペットボトル ──
「ハメられてもうたなあ、琢朗」
その時、この場に似つかわしくない、やけに陽気な第三者の声が割り込んだ。
「まあでも谷繁の仇取れたから、ええんちゃう?」
石井は己の耳を疑った。平気でそんなことを口にする、その声には聞き覚えがあった。
いやというほどに。
「さ、えき ──」
頭を持ち上げ、石井は後ろを振り返る。認めたくない気持ちのまま。
だが。
視線の先で悠然と立つその人物は、佐伯貴弘その人でしかあり得なかった。
「残念やな、せっかくデニーさん見つけたのになあ、自分」
片側の頬をゆがめて笑うその表情と、台詞の内容が一致していない。
「佐伯、お前いままでどこに……」
呆然としたまま問いかけるが、佐伯はそれに答えなかった。
代わりに、懐から取り出した銃を構えた。銃口を石井へ向けて。
それを見つめ、石井はふと思い当たったことを口にした。
「お前が、デニーさんを…?」
「はあ? ちゃうちゃう。さっき言うたやろ、お前はハメられたんやって」
意味がわからない。混乱していると、佐伯が言葉を続けてきた。
「選手会なんざお飾りっちゅうだけで、なんのまとまりもない。知らん間に寝返っとる奴が、
俺の他にもおるってことや」
「裏切ったのか、俺たちを……」
「まあ、そうやな」
細かいこと説明すんの面倒くさいんやけど、と肩をすくめ、佐伯はあっさりとそれを認めた。
「これだけは言うといたるわ、琢朗。選手会にも、中日にも、この戦いの果てに残るもんは何もないで」
その表情には何の変化もなく、ただ、残酷に決めつける。
「血も涙もないからな、オーナー連中は。オリックスと近鉄の殺し合いは予定通り行われるやろうし、
来期は十球団一リーグや。お前らがあがいたって、なんも変わらん」
「じゃあ、お前は何のために」
── ここにいるんだ。その続きは音声にならず、胸の奥で消えた。
「ん? 俺か?」
口元の笑みを深くし、佐伯は首をかしげた。
「全部見届けるためや。ほんで最後に」
(え?)
石井は硬直した。ぷしゅっ、という音だけが鼓膜にこびりついた。
不意に訪れた闇が、全てを覆った。
サイレンサーの取りつけられた暗殺仕様の銃を顔の横に掲げ、佐伯は物言わぬ骸と化した
石井の姿を見おろした。
「…やっぱ言わんとこ」
あんまりべらべら喋ったらアカンわな、と自らに言い聞かせ、佐伯は選手会キャンプとは逆の
方向へと歩き出した。
(どうする? 古田さん。もう悠長にしてられへんはずやで)
彼がどう動いてくるか ── それがメインイベントなのだ。
【残り24人・選手会13人】
>>474−475
水口って、関西弁喋ってませんでしたか? 最初は。
>>482 あー…そうですね。
全然気づいてなかったので助かりました。
保管するときに訂正します。
前に水口出したの自分なのになにやってんだorz
>>485 乙!作る側としてはとても参考になる、サンクス
487 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/09 06:20:34
リスト更新しましたノシ
ttp://haiiro.info/up/file/268.zip 武器と殺した相手を追加してみました
あと関川の登場が間違ってたのを直して
年齢を今年の10月1日現在にしました
間違いとかあったら指摘おながいします
112さん 486さん始め職人さん乙です
鴎贔屓としてはジョニーがどうなるのか非常に楽しみです
93.可笑しいわけじゃない
急に草の背が高くなって、3メートルほど前を歩く川相の姿が、
渡邉からは見えにくくなってきた。
(まずいな…)
「川相さ――」声をかけ、距離を縮めようとしたとき、左側から近づいてくる足音を聞いた。
それほどスピードはないが、確実に相手はこちらに向かってきている。
二人の存在に気がついているのだ。
(誰だ……)
ポケットに入れっぱなしにしてあったチーフスに指をかける。とにかく、そばにいないと。
川相は足を止めたようだ。小走りで川相に追いつき、その左側に立つ。
がさがさと草を踏み分ける音は、すぐ近くまで来ている。
「この辺……あ」
警戒している渡邉と目が合ったのは、高橋だった。すぐに手で草を掻き分け、
松中と小久保が顔を出す。
「川相さん…」高橋が呟いたが、川相はまた、半端な笑みを浮かべるだけだった。
それを見ていきなり、高橋は狙撃銃を構えた。
「何が可笑しい?」
「やめろ!」
待て、と制した松中の声は、渡邉の叫びが吹き飛ばした。それに反応して、
今度は渡邉に銃口が向けられる。小久保が慌てて、銃を上から押さえつけた。
「可笑しいわけじゃない。川相さんは、もう…誰の話も理解できないだけさ」
「はぁ?何言ってんだよ」
高橋が突っかかるように聞き返す。渡邉は目線を落とすと、苦しそうに返事をした。
「狂った…ってことだよ」
渡邉の一言は銘々の心に衝撃をもたらしたが、誰も二の句が継げないで、
奇妙な沈黙の中に落ち込んだ。
「川相さん」
もう一度、高橋が名を呼んだ。川相はちょっと首を傾げると、そのまま
歩き出してしまった。高橋は、銃身をしっかりと押さえている
小久保をしばらく睨み付けていたが、やがて、
「…川相さんは…見逃してやるよ」と、ぶっきらぼうに宣言した。
がさがさという頼りない足音はどんどん遠ざかっていく。渡邉は少しほっとした。
(後は、自分が逃げないとな)高橋の台詞の続きはもう読めていた。
「ただし、お前はここで死んでもらう」
(ほら来た)
油断していた小久保の手を弾き飛ばすと、彼は銃のロックを外した。
「由伸、やめるんだ!」
小久保が身を投げるようにして高橋にぶつかり、二人がそのまま草の中に沈み込む。
渡邉は手をポケットに突っ込んだまま、タイミングをうかがっていた。
「離してください!」
小久保の頭に手をついて、高橋が立ち上がろうとする。そこで小久保は
高橋の足を抱え込んだ。バランスを崩し再び倒れる。
(こいつ……足がいってるみたいだな。深追いはできまい)
「邪魔するつもりなら、容赦なく撃つぞ!」
なんとか体を起こした高橋が、血走った目をして吼えた。
松中が小久保の体を引き上げた。双方のにらみ合いが続く。
(今しかない)
渡邉は高橋に走りよった。後ろから飛びかかって、左腕で首を絞め、
取り出したチーフスをこめかみに突きつける。
体を少し後ろに引くと、高橋の全体重が己にのしかかって来た。重い。
「全員武器を捨てろ」
「離せ!」
高橋がもがいたが、しっかりとヘッドロックがかかっているので逃げられない。
「武器を捨てろ。さもなくばこいつを撃ち殺す」
「……由伸、言うとおりにしろ」
松中と小久保が素直に銃をおくのを見て、高橋は恨めしげに舌打ちし、
抱えていたドラグノフを地面に投げ捨てた。
「こいつよりあんたらのほうが物分りがよさそうだな」
「無駄口はいい。早く由伸を離せ」
「待てよ、距離をとらせてもらう」
「…余計な真似したら、どっちが損かわかるよな」
小久保が、精一杯の威嚇口調で言った
「知ってるよ。一対三で殺りあうほど、俺も馬鹿じゃない」
それだけ言い残して、じりじりと後ずさった。高橋も諦めたのか、大人しくしている。
ここは草が高い。すぐに姿も隠れてしまうだろう。
【残り24人・選手会13人】
94. 悩める男
撤収準備も一段落ついたころ、今岡誠はテント場として使用していた平地の地面にじかに
座り込み、ポケットから取り出した携帯の画面を凝視していた。
何度確認してもその表示が変わることはないのだが。
息子の笑顔を壁紙にしている液晶画面の左上に表示されているのは、「圏外」の二文字。
(……)
今岡は生来の無表情 ─ とは言ってもそう見えるだけなのだが ─ のまま、納得いかないと
いうように首を傾げる。
(おかしいよなあ…)
「難しい顔して、どないしたん」
そばを通りかかった桧山が声をかける。それを今岡は聞いていたのだが、意識の九割を携帯へ
費やしていたため、反応が遅れた。
慣れている桧山は、いつものことと肩をすくめ、そのまま立ち去る。
一拍遅れて今岡が顔を上げたときには、彼の姿はなかった。
「桧山さん?」
呟いてはみるが、すぐにまあええか、と再び携帯に視線を戻す。
(なんで誰も疑問に思わんのやろ)
使えないのは『自分たち』の携帯だけだ ── 多分。今岡の推測が正しいのならば。
現に、『彼』は携帯を使っていたじゃないか。
昨日の記憶をほじくりかえし、今岡は「うーん」と唸る。
(俺らの携帯だけ止められてるってことやと思うんやけどなあ)
それに……。
顔を上げ、周りにいる役員たちの姿をざっと見渡す。
── 誰も、気づいていないのだろうか。それとも忘れてしまっているのか。
“オーナーを殺せ!!”
選手会の会議の場で、真っ先にそう叫んだ人物を。
(多分誰も覚えてないんちゃうかな)
ふう、と大げさに溜め息をつき、二つ折りの携帯を閉じる。
誤解されがちだが(本人は誤解にすら気づいていないが)、今岡は人の話を聞かないのではなく、
実はしっかり聞いているのだ。それこそ、誰がいつ、何を喋ったかを事細かに思い出せるほどに。
惜しむらくは、本人がそれを自覚せず、また反応が遅いために話の輪に加われていないことから、
結果的に『話を聞かない男』として認識されてしまっていることだろう。
(…古田さんに言うたほうがええんかなあ…)
でも聞かれてないしなあ、と堂々巡りの呟きを繰り返す。
彼の目下の悩みは、まさにそれだ。
「今岡ぁー。自分が散らかしたもんくらい自分で片づけー!」
後方から、その古田の呼び声が飛んできた。
「はーい」
ほとんど反射的に生返事を返したあと、今岡は「桧山さん、暇やから無線機の実験しません?」と、
再びそばに来た桧山を捕まえて、彼を無理矢理自分の隣に座らせた。
「俺は忙しいねん」という桧山の反論は、当然のごとく無視して。
…今岡の悩みは深い。
だがしかし、それを真剣に考える前に別のことへ意識を移してしまう彼の思考回路こそが、それを周囲に
認識させることを妨害する、一番の要因なのだ。
誰もそのことには気づかないが。
【残り24人・選手会13人】
今岡は不器用な策士ってところかな。
楽しみだ。
95. リミット
「……しゃあない奴やな」
古田は、今岡が銃で粉々に破壊した無線機の残骸をながめやり、腰に手を当てた。
首を巡らせて後ろにいる今岡を見るが、当の本人は桧山を捕まえて何やら取り込み中らしく、
片付けようとする気配はない。
仕方なく古田は腰をかがめ、足元に散らばる残骸に手を伸ばす。
(ん?)
その中に小さな黒い物体を見つけ、指でつまんでみる。
(なんやこれ)
円盤状の、プラスチック素材のそれを古田は凝視し、数秒ほどの思索に沈んだ後、スーツの
ポケットに入れた。
残りの破片を手でかき集め、さて、と立ち上がる。
(俺はあいつの保護者ちゃうっちゅうねん)
捕手という職業ゆえの性か。やれやれとかぶりを振って、自分の荷物が置いてある場所に戻る。
通りすがりざまに耳を打った、今岡と桧山の声を聞きながら。
「あーあー。桧山さん、聞こえますー?」
「うわ耳痛っ! 音量でかすぎや、これ」
「ていうか、雑音多くないですか?」
「不良品ちゃうん?」
口を尖らせて言う桧山を、呆れたように清原が見つめる。
「お前らが近づきすぎなんやろ。なんのための無線機やねん」
古田は残り一つのテントを畳んでいる中村に近づいた。
「中村、ちょっとええか?」
「はい?」
中村が振り返る。古田は手に持ったキャッチャーミットを彼に差し出した。
「これ、預かりもんや。お前にって」
誰から、とは言わなかったが、中村はそれを受け取ると、得心したような顔で古田を見た。
「……昌さんですね」
「なんや、知ってたんかいな」
ええ、と中村は頷いた。
「明け方には起きてたから、あの人が来たのは知ってます。
でも、会いたくても会えないですから」
彼はキャッチャーミットを両手でそっと握りしめ、ほんの少し憂鬱な表情を浮かべて呟く。
古田は何も言えず、ただそれを見つめた。
ふと顔をあげ、中村はキャンプ地を囲む茂みの向こうに目をやった。
「琢朗、戻ってきませんね」
「……」
古田は腕時計を見た。刻々と時が迫る。
少し離れた場所で、高木は黙々とゲーム機(のような物)を操作していた。
その後ろを通った緒方が、彼の手元をのぞき込む。
「何やってるんだ、高木?」
「いや、さっき自分の荷物の中にこれが入ってるのに気づいて…。
よくわかんないんですけど。昔流行ったゲームウオッチみたいなもんですかね」
「へえ。でもあんまりいじらない方がいいかもな」
誰かさんの罠かも知れないからさ、と冗談ぽく言う緒方に苦笑いを返し、高木は
ゲーム機を折りたたんだ。
その時、無線機のテストをしていた今岡たちが、声をあげるのが聞こえてきた。
「あ、桧山さん。雑音消えましたよ」
「ほれ見てみい。距離取ったらちゃんと聞こえるやんけ」
「おかしいなあ…」
おかしないわ、アホ、と清原に突っ込まれる桧山を見て、緒方が笑みをこぼす。
それを横目で見上げながら、違う種類の笑みを高木は浮かべた。
秒針が時を刻む。十、九、八、……。
タイムリミットまで、あと数秒。
「── 時間や」
時計から目を上げ、全員に聞こえる声で、古田が告げた。
【残り24人・選手会13人】
500 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/10 00:39:45
保守
職人さんいつもながらGJ!です。
ドラバトにて失礼かもしれませんが、虎ファンとして、今岡桧山コンビが気になってます
中日ビルで殺人事件発生!
503 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/10 10:43:21
刃物持ち歩いてたのかよ
怖ぇな
hosyu
96.矛盾
川相が画面から消えていくのを見て、渡辺恒雄は激昂し、モニターを叩いた。
「つまらん!由伸、殺せ、殺すんだ!」
全く子どものようだ、と、宮内は思った。白井を殺しておきながら、
やはり解説者がないと盛り上がらん、等と言い出す始末。適当に誰か呼んでくるよう
命じておいたが、それまでは自分が見張っていないといけないらしい。
メインの画面上では、高橋、小久保、松中と、渡邉(と去ってしまったが川相)が
対峙しているところが映されている。やがて状況が変わり、渡邉が高橋に拳銃を
突きつけた時、再びモニターに激しい衝撃が加わった。
「馬鹿め、雑魚が……身の程を知るが良い」
首輪爆破装置に伸びた手を、宮内は掴んだ
「何をする!」
「渡辺さん、それはアンフェアでしょう。彼のやってる事は一応間違ってはいない」
「うるさい!由伸に手を出すなど大間違いだ!」
「落ち着いてご覧になったらいかがですか?彼に殺意はないですよ。
この場から逃げることしか考えていないでしょうね」
「だったら余計に問題ではないか!」
老人は怒りに震えた声で喚いた。この傍若無人ぶりもあと少しの事だと思うと、
呆れは霧散して憐憫の情が湧き起こってくるのだから、人の心とは不思議である。
「そう興奮なさらない方が良いですよ。首輪は騎手の振るう鞭のような物、
使いどころの見極めが肝心です。それに、高橋くんはあなたに対し相当の敵対心を
持っている様子だ。彼を保護して帰すのはあなたのご自由ですが、このままでは
あなたへの反抗心はいつまでも燻ったままになる」
渡辺は宮内の顔を睨み付けていたが、やがて
「ではどうしろというのだ」と高飛車な態度で聞き返した。
「怖い思いをさせれば良いのです。おイタが過ぎるとどうなるか、
子どものしつけと一緒の事です。もっと追いつめてからでも、遅くはない」
宮内の台詞が終わると、渡辺は視線を画面に戻し、
「ふん、わしに意見するとはな、貴様も偉くなったものだ」と吐き捨てた。
「……これは失礼を」
一礼し顔を上げると、高橋が一人で、小久保らの元に走っていく姿が映っていた。
それ見届け、渡辺は席を立った。
「老いぼれが……」くぐもった笑い声に、ドアをノックする音がかぶってきた。
笑うのを止め、不機嫌そうに返事をすると、小脇にモバイルを抱えた事務員風の男が入ってきた。
「例の薬に関する報告書を持って参りました」
「ああ」
A4の、まだ熱の残る紙束を受け取った。軍から「試してくれ」と頼まれた
強力覚醒剤と筋肉増強剤。食品に混ぜて置いておいたのだが、その後どうなったのか、
宮内は知らなかった。表紙をめくってすぐ、彼は事務員に尋ねた。
「この、被験者の名前の所はなんだね?」
指さした所には、『特定できず』という文字列が印刷されている。
「それが……」
事務員はモバイルの画面を宮内の方に向け、ある動画を再生した。
「カメラに残っている映像が少ないのですが、この映像を見る限りでは、この男だと考えられます」
そこには、およそ人の物とは思えぬ形相をした男が、考えられない大きさの丸太を持ち、
木々の間を走り抜けていく様子が記録されていた。ちょうど最後の部分で背番号がはっきり映った。
「中日の35番、だな。特定できているじゃないか」
宮内が不思議そうに聞くと、事務員は少し困った表情をして、別の画面を
表示した。中日の選手状況の一覧である。
「35番は、昨日の午後2時34分に死亡しています」
【残り24人・選手会13人】
首輪の弱点がバレるかな・・・
宮内と堤は頭が切れそうだもんなぁ、どうなるんだ
それにしても幕田は死んでもキーマンなんだな
美味しい役どころだ
捕手
509 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/11 10:05:48 ID:Hcqq17aZ
IDフカーツ
97. 暗躍者
プライベートルームとして用意させたホテルの一室に渡辺恒雄は足を踏み入れ、
クラウチングソファに身を沈めながら、ふんと鼻を鳴らした。
すかさず温かい茶の入った湯呑みを差し出してくる給仕の人間を、うるさげに手で追いはらう。
気の毒な給仕係は淹れたばかりの茶を持ったまま、退室を余儀なくされた。
ドアの閉じる音とともに、静寂が訪れる。
「金貸し風情が偉そうな口をたたきおって…。不愉快極まりないわ」
憎々しげに独白したとき、胸ポケットの携帯電話が着信を告げた。
液晶画面に表示された相手の名を確認し、通話ボタンを押す。
「首尾はどうかね?」
不機嫌の残る声でそう確認する。電話の向こうで相手が苦笑するのが聞こえ、ますます
胸の悪さに拍車がかかる。
(わしの周りは失礼なやつばかりだ)
これで他愛無い用件だったら即座にあの世行きにしてやる ──
暴君の怒りを知ってか知らずか、相手の口調は呑気なものだった。
「いきなりそれですか。そっちは隠しカメラで全部見てはるんやから、聞かんでもわかるでしょ?」
佐伯貴弘は苦笑いを交えた声で、口を開いた。
耳に近づけた電話機から、渡辺の鼻息が漏れる。
「余計なことは言わんでいい。わしは今気分が悪いんだ」
(あんたが上機嫌やったら気持ち悪いわ)
そう胸中で呟きながら、佐伯は型どおりの報告をする。
「とりあえず選手会役員二人を始末しました。一人は偶然というかタナボタでしたけど。
── ところでそっちに砂原オーナーはいらっしゃるんですか?」
「砂原はおらんよ。それがどうした」
「いや、成り行きとは言えリードオフマンを殺してしまいましたんで。
来季の戦力削ってもうたこと謝らなあかんかなあ、と」
それを聞いた渡辺はさも愉快そうに、いやらしい笑いを返してきた。
「ふん、面白い男だな。仮にも君を人身御供に出した相手に謝罪かね」
「俺にとって、横浜は全てですから」
佐伯は老人の嘲笑をものともせず、きっぱりと言い切る。
「それを守るためやったら、どんなことでもしますよ」
裏切りでも、人殺しでも。佐伯の双眸が昏い光を放つ。
「成程な、ククッ。まあ、君のその気概が無駄にならんことを祈るよ」
心にもないことをぬけぬけと ── 歯噛みしながらも、佐伯は必死で無表情を保つ。
さて、と渡辺が切り出してくる。
「隠れ家の居心地はどうかね? 君が生き残れるようにと最低限のものは用意したつもりだが」
「ええ。快適ですよ」
結構、と渡辺は言い、続けた。
「では、わかっているな。わしの目的は中日球団の衰退、消滅。そして、あの忌々しい選手会の
最大の癌を排除することだ」
── じゃあ球界の癌はあんただな。
お約束の突っ込みはしないことにして、佐伯は静かにそれを聞く。
渡辺が“癌”と表現する人物は、球界広しと言えど一人だけだ。
「殺せるだけで構わん。中日の数を減らし、最後に、古田を殺せ」
選手会にとっての王将が渡辺ならば、オーナー側にとってのそれは、古田敦也に他ならない。
佐伯に与えられた仕事は、選手会の将の首を取ること。
「仰せのままに」
芝居がかった口調で呟き、電話を切った。
(最後……ね)
渡辺は古田を追いつめるだけ追いつめ、彼が絶望のままに死んでいくのを望んでいる。
なら、それを自分が演出してやろうじゃないか。
(それまでは死なんとってや。主役はしぶとく生き残って、最後に華々しく悲愴の死を遂げるもんやで)
それが悲劇のヒーローの末路だ。佐伯は唇の端を持ち上げた。
(なあ、古田さん)
通話は一方的に断ち切られた。
どこまでも失礼な男だ。そう思いながらも、渡辺は佐伯に対して激しい嫌悪を抱くまでには至らない。
彼の徹底した球団愛は、どこかすがすがしくさえある。
砂原が推薦したのも頷けるというものだ。
渡辺は電話機を操作し、今度は別の相手へ回線をつないだ。
「わしだ。先方の返事はもらえたのか?」
電話の向こうの声を聞き、そうか、と満足げに頷く。
「手ごたえはあるようだな、…まあ当然か。伝えろ。そちらの想像を上回る、最上のバトル
ロワイアル映像を届ける、とな」
了解しました、という返事を聞き終わったところで、渡辺は通話を切った。
だがこの戦いの映像は、単なるプロポーションだ。
そしてまだ完全ではないプログラムを試す上での、試作品。
宮内はどんな顔をするだろうか。すでに合併が決まったオリックスと近鉄の選手の殺し合いこそが、
プログラムの本番なのだと打ち明けられたら ──
あのインテリぶった表情が驚愕にゆがむのを想像し、優越感に浸る。
「至上最高のエンターティンメント、“ライブ・バトルロワイアル”、か。
ふふっ、さすがに観客を飽きさせないためなら何でもやる国だからな。
考えることが実に壮大だ」
渡辺の乾いた笑い声が、室内に響いた。
【残り24人・選手会13人】
513 :
126:04/10/11 11:33:49 ID:IdV4SZtS
>>510=512
「プロポーション」ってなんだよ、自分…_| ̄|○
すみません、「プロモーション」です。
112氏、またお手数ですが、訂正お願いします。
ナベツネはナベツネで裏がある、と
早くコイツが窮地に陥るのが見てみたいもんだ
それにしても面白いけど、纏められるのか?と不安になってしまうよ
皆さん、頑張ってください
ただのえらそうなジジイも
金絡みだと途端に頭がまわるとw
516 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/11 17:50:01 ID:qreBAoJc
517 :
112:04/10/11 17:59:22 ID:uXXpTb5W
98.もう誰も
どれだけ走ったのだろうか。
大西は荒い息をつきながら、茂みの中に座り込んだ。
手にした銃を握りしめる。
(もう誰も信用できへん)
冷たい目で銃口を向けてきた平松。
同じチームだから、と安心しきって近づいた自分を、あいつは本気で殺そうとした。
(みんな信用できん。みんな俺を殺すつもりなんや)
銃を握る手に力がこもる。
絶対に死にたくない、生きて帰りたい、と大西は思う。
そのためには、選手会だろうと、チームメートだろうと、オーナーだろうと…
がさっ、と、草を踏む音が聞こえた。大西の心臓が跳ね上がる。
敵が近くにいる…!
銃を構えた大西の目の前に、ひょこっと青いユニフォーム姿が現れた。
見慣れたユニフォーム姿。
川相と別れてから丸一日、誰にも会えず、不安と焦燥におびえていた森野にとって、その青色は安心できる色だった。
ーああよかった。やっと誰かに会えた。
「大西さん、よかった、無事だったんですね」
笑顔で声を掛ける。
大西がどんな表情をしているかなんて、気がつかずに。
518 :
112:04/10/11 18:01:07 ID:uXXpTb5W
銃声が響いた。
腹部を撃ち抜かれて森野が倒れる。
「俺はだまされへんで。…お前、俺を殺そうとして近づいたんやろ?」
ゆっくりと近づいてくる大西の顔を見て、やっと森野は気がついた。
大西が狂気にとらわれていることに。
「ち、ちがいます!俺はただ…誰かと一緒にいたかっただけで…」
油断なく銃口を向けながら、大西は森野の落としたナップサックを拾った。
森野ははっとする。
ーまずい、あの中には俺の銃がー
荷物を開いた大西はすぐに銃に気づいた。
「やっぱりな。俺を油断させておいて、コイツで撃つつもりやったんやろ」
「違います!大西さん、どうか信じてください…」
懇願に、大西はふっと鼻で笑った。
「俺はもう誰も信じへんよ」
もう一度銃声が響き、森野の頭が割れた。
ーほら見てみい。森野も俺を人なつっこい笑顔でだまして、殺そうとした。
もう誰も信用できん。誰も。
だから、殺す。殺す。殺す。殺す。殺す…ー
二つの銃を両手に強く握りながら呟く。
狂気が大西を支配していた。
【残り23人・選手会13人】
519 :
112:04/10/11 18:02:04 ID:uXXpTb5W
>>513 いつも乙です。
訂正箇所、了解しました。
保管するときに直しておきます。
99.海の見える場所
(重いなあ…)
平井正史はぜえぜえと、一生懸命息を吸い込みながら急な坂を
登っていた。地図によれば、真っ直ぐ南に進めば島の端にたどり着く、
つまり、海が見えるはずだ。
(多分、もうじき……)
一歩、また一歩と己の体を引っ張るように歩くと、やがて、草の緑と空の水色との
境界線に、海の紺色が帯のようにして広がった。切り立った崖の上に出たのだ。
左方に大きな島があり視界を遮っていたが、それ以外は水平線が綺麗に引かれている。
ふっと、足から力が抜けてその場にしゃがみこんでしまった。
呼吸が少し落ち着いてから、平井は言った。
「三輪さん、ほら、海ですよ」
よく考えてみれば、命の危機にさらされている中を、死体を背負って歩くというのは
愚行でしかない。けれど三輪の死体を見つけ、呆然としていた時、
不意に『海が見たい』という彼の声が聞こえたのだ。
ああそうか。そうだよな。神戸の海とは全く違うだろうけど、
それでも海のそばで眠りたいんだろうな。
既に死体は硬直してしまっていて、皮膚の色も少しおかしくなっていたが、
気にせず背に乗せ、ずるずると引きずるように歩きだした。
三輪はもう何も言わない。ただ横たわっているだけだ。満足そうな
顔をしているかどうかなんてわかりはしない。
海へ行くという目的を果たし終えると、それだけを考えて歩き続けた
平井の心に再び、「三輪の死」が、重くのしかかってきた。
「三輪さん………」
こみ上げてくる涙は止める事ができなかった。平井は三輪の死体の前で
膝をつき、ただひたすら泣いた。恥も外聞もなく、子どものように泣き続けた。
どれぐらいそうしていただろう、南中している太陽の光が遮られたのを感じて、
平井は顔を上げた。気づかぬうちに、真横に人が立っていたのだ。
逆光と、涙で視界が滅茶苦茶になっていたので、それが誰なのかわかるのに
多少の時間を要した。
「井端…」
立ち上がってみると、そこには、どこか怯えたような色の漂う表情をした井端が、
三輪の顔を見つめていた。
【残り23人・選手会13人】
平井ようやく登場ですな。
彼は元オリックスだもんなあ…。辛いよ…(´・ω・`)
100. 優先させるべきは
約束の一時間が経過した。
「時間や」
古田はそう告げたあと、自らの荷物の場所に近づき、それを持ち上げた。
畳んだテントを入れた袋の口を縛りながら、中村が無言で古田の動きを追う。
その場から足を踏みだそうとして、他の誰も動かないことに気づいた古田は、怪訝な表情を
浮かべて振り返った。
「…何してんの? 出発や。早よせい」
全員を見渡し、うながす。奇妙な沈黙がその場を占める。
「……え、でも」
口を開こうとした桧山の横から、清原が身を乗り出した。
「待ってくれや、古田さん。由伸らがまだ帰ってへん」
古田はそちらに視線を移した。わずかに眉をひそめて。
「知っとるよ。けどこっちにも計画っちゅうもんがある。一時間ていう期限を切った以上は、
それに従ってもらわな困る」
「せやけど、あいつらはそれを知らんのでしょ? ほんならどうやって俺らと合流するんですか!」
「キヨ」
その反応は予想済みだったのか、古田は静かに告げる。
「もうここの場所は知られとんねん。戻ってくるかどうかもわからん連中のために、いつまでも
大人数で固まってるわけにはいかんやろ」
「あいつらを見殺しにせえって言うんですか!?」
冗談じゃないとばかりに清原は食い下がり、怒鳴った。
見かねた中村が清原に近づき、「やめろ」と彼の肩に手をかける。
「でも古田さん」
両者のにらみ合いが続く緊迫した空気の中、それを読んでいるのか読んでいないのか、微妙な
タイミングで今岡が小さく手を挙げる。
「……なんや、今岡」
「移動もこの人数やったら目立つし、危ないと思うんですけど」
「おー、よう言うてくれた。まったくその通りやな」
やけくそのように首を縦に振り、古田は棒読みでまくしたてる。
そして首をめぐらせ、緒方を見た。
「緒方、印つけた地図あったやろ? ちょっと見せたってくれや」
はい、と頷き、緒方が広げた地図を地面に置く。全員が姿勢を低くしてそれを取り囲んだ。
「今度のキャンプ予定地はここ」
古田が×印のついた場所を指し示す。
現在のキャンプ地から北東に位置し、地図の表記によれば東側と南側をそれぞれ断崖に
囲まれた場所だ。
現在地からその×印まで、三通りの道筋が記されている。
「今岡の指摘があったように、この人数で動くのは非常に危険や。
そこで、三手に分かれて行動してもらおうと思う。道は一応、昨日俺が下見しといた」
古田は立ち上がり、それぞれの顔を指さす。
「桧山と今岡。緒方と高木。俺と中村とキヨ。これで行く。反論は聞かん、以上」
そう言ってさっさと背を向ける古田に、清原が何か言いたげに口を開こうとしたが、寸前で
中村がそれを制した。
「人の気も知らんで……」
周りには聞こえない声で、清原が吐き捨てる。
中村は清原を見上げ、「それは違う」とかぶりを振った。
「一番辛いのは古田さんだよ。お前ならわかるはずだ」
── 取捨選択を強いられる者の辛さを。中村の言葉に清原は唇をかみしめ、黙りこんだ。
全員が荷物を持ったところで、古田が口を開いた。
「集合場所はここから一時間もかからんと思う。また離れての行動になるけど、それぞれ慎重に行けよ」
そして一度視線を落とし、低く口調をあらためる。
「…他の連中には、この道中か、そうでなくてもどこかで会える。
俺はそう信じとる」
その言葉に、全員が頷いた。古田は微笑を浮かべ、「ほな行くで」と荷物を担ぎ直した。
七人は三手に分かれ、それぞれ次のキャンプ地を目指す ──
【残り23人・選手会13人】
526 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/11 23:14:25 ID:5p1e7fpg
プレーオフの余波キケンage
ほしゅ
中村って一瞬ノリのことだと思っちゃった
中村姓の選手多いよな
>>527 ノシ タメ口で話してた時びっくりした。
それはそうと、高木と一緒に行動する事になった緒方の今後が気になる。
今回は誰が生き残るのか全く読めん・・・
大体、選手会、残りがもう少ないじゃないか
高木がまた何人か殺してしまうのだろうし、緒方orz
最近荒木と福留見てないがどうしてるのだろう
荒木なら昨日漏れの家にきますた。
バトロワ撮影で、演技では井端が一番上手いって言ってますた。
101.逃げる方法
「見失ったか・・・」
「井端さん・・・」
井端を追っていた荒木と福留は森の見通しの悪さに、その姿を見失ってしまっていた。
―それにしても、井端さんはこのゲームに軽々と乗ったのだろうか。こんな馬鹿なゲームに・・・
「あ!」
「な、何だ?」
「海だ!」
突如荒木が叫んだかと思うと、いきなり駆け出した。
―ちょっと待てよ、荒木。もし敵が居たら・・・
そう考えた福留が慌てて後を追う。
目の前の木々の切れ目から確かに海が見えて、キラキラと光を放っていた。
―待て、荒木、そんな無防備で・・・
その時、福留より先を走っていた荒木が足を止め、福留は荒木に思い切りぶつかってしまった。
「な、何だよ、これっ・・・!!」
「今度は何だ?」
「死んでる・・・」
―何だって?誰だ、誰が死んでる?選手会か、中日の選手か?
「うわ・・・酷い・・・誰がこんな」
石井琢朗ととデニー友利の死体だった。銃で撃たれた死体と、顔がどす黒く変色した死体。
「・・・ちょっと待て」
福留が死体に近付こうとする荒木を手で制した。
―嫌な予感がする。
「何だよ、孝介」
「・・・匂いがしないか?」
「え?」
「アーモンドの」
「ああ、そう言われてみれば・・・うん」
「あまり死体に近付くな」
「だからどうして・・・」
「あの死体・・・争った形跡がない」
そう言って、死体とその近くに転がるペットボトルを横目で見ながら、福留が身を屈めた。
「・・・やっぱりな」
「何がやっぱりなんだよ、孝介!」
荒木が痺れを切らして、福留へと詰め寄った。
「毒殺だ」
「どくさ・・・え?」
「あのペットボトルの中に毒が入ってたんだな・・・多分、青酸カリだろうな」
「ちょ、ちょっと待てよ。何で分かるんだよ?」
「昔、聞いたんだけど」
前置きをして、福留が話し始めた。
「青酸カリってのは、アーモンド臭がするらしいんだよ」
「青酸カリ・・・ちょっと待てよ、毒ってことは・・・」
「・・・選手会の中で、仲間割れか何かがあったな」
「そ、んな」
―選手会の中の仲間割れ・・・あまりメリットはないはずなのに。もし、メリットがあるとすれば・・・
「誰か、オーナー側と通じてる人がいるかもしれないな」
「え?そんな、だって、選手会は・・・」
「金持ちの爺さんが考えそうなことだ。選手会を内側から潰そうとしてる」
「だ、誰かに知らせないと・・・」
「どうやって?」
―選手会と接触し、戦わずに逃げれば、この首輪が爆発してしまうんだぞ?一体どうやって?
「・・・何にも出来ないのかな、俺たち」
荒木が深く項垂れた。そんな荒木を横目に、福留は海を見ていた。いや、海よりももっと遠くを。
「なぁ、こうす「ちょっと待てよ・・・・・・そうか、そういうことだったんだ・・・!」
喋りかけた荒木の声は福留の声に掻き消された。
「分かったぞ、荒木。ここから逃げる方法が」
【残り23人・選手会13人】
井端に演技指導された[…ε…]がキター!
圧縮非難緊急age
ageてなかったorz
539 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/12 22:43:39 ID:3Mg8edCN
保守age
ドメ馬コンビ生きてて良かった
荒木はいつも小学生みたいだなあ
そしていつも井端を捜している。(ドラバトで)
保守
543 :
112:04/10/13 12:52:59 ID:Q/91ZvQw
02.回想、そして幕開け
スパァァン!
小気味よいミットの音に、投球練習の手を止めて振り向く。
背番号70、中里が前田章を相手に投げ込みを行っているようだった。
しばらくその様子を眺めていた紀藤の顔が、知らずほころんでいた。
…キレのある、いい球が来ているな。
「ナイスボール!」「いいじゃないですか、中里さん」と、前田も一球ごとに声を掛けている。
「中里の奴、いい球投げてますね」
いつの間にか正津が隣に来ていた。
「あいつ、この前投球練習再開したばっかりでしょ?」
「ああ。もうこんなに回復したのか。こりゃ、うかうかしていられないぞ」
「俺たちも頑張りましょう、紀藤さん」
そうだな、と頷いて練習に戻る。
前田のミットからはいい音が響き続けていた。
544 :
112:04/10/13 12:53:37 ID:Q/91ZvQw
練習が終わって、シャワーを浴びてロッカールームに戻ると
一軍戦を放送しているテレビを食い入るように見つめる背番号70の姿があった。
「まだ帰らないのか。寮でも見られるだろ」
「あっ、紀藤さん」
中里の隣に座って、同じようにテレビを見る。マウンド上には川上の姿があった。
「憲信か。相変わらず度胸のいい投げ方をする」
「ええ。凄いですよね。僕も早く一軍のマウンドに立ちたいです」
中里の言葉からは焦りが感じられた。
自分も若かった頃、焦っていたことを思い出す。紀藤は、お節介かもしれないと思いながら
アドバイスをすることにした。
「お前の気持ちはわかるが、焦ったら負けだぞ。
怪我が治ったばかりなんだ。一歩ずつ進んでいったらいい。
今日いい球来てただろ。お前はいずれドラゴンズのエースになれるよ」
神妙に聞いていた中里が、ほんの少し口を動かして何か呟いた。
「ん?何か言ったのか?」
「いいえ、何も。…アドバイスありがとうございます、紀藤さん。僕、頑張りますよ」
ー思えばあのとき、あいつはきっとこう言ったんだろう。
「いずれ、じゃなくて今、エースになりたいんです」とー
545 :
112:04/10/13 12:55:39 ID:Q/91ZvQw
回想は、病院中に響いたサイレンの音で断ち切られた。特別戦の始まりの合図だ。
「さて…どうしようか」
紀藤は呟く。
「やるしかない」とは言ったものの、自分から仕掛けるつもりは全くなかった。
ベテランの自分よりも、若い奴が生き残った方がいいに決まっている、そう思っているから。
何気なく時計を見る。12時15分。昼飯時だ。
ふとナップサックのおにぎりの存在を思い出した。
「ナベツネが出てくる前に、5人で食っとけばよかったな…」
苦笑する紀藤の耳に、連続する爆発音が響いた。
(もうやりあってるのか…いや、ちがう、外からの攻撃…?)
もしかしたら、この状況を打開できるものがあるのかもしれない。
紀藤は、爆発音の聞こえてきた方へ向けて走り出した。
【残り23人・選手会13人】
紀藤がんがれ!
勿体無いな・・・・面白いからいいけど
どうせなら川上とヨシノブの対峙を見たいなあ
103.不安・焦燥・苛立ち
砂原幸雄は不機嫌だった。いきなり電話が鳴ったかと思うと、
「渡辺さんが解説者を所望している。君しか適任者が思い浮かばない」である。
どこをどう考えれば自分が適任者になるのか、さっぱりわからない。
「そんな事を言われましても、私は中日球団の選手の事などほとんど存じません。
白井オーナーか西川球団社長を呼べばいい事でしょう」
「白井は死んだよ。西川も余計な真似をしたので今は監禁している」
電話口の向こうからは冷たい声が聞こえてくるだけだ。
「それに、君の球団は中日とも仲が良いじゃないか。戦力の交流も
盛んだしな。聞いているよ、今年も主砲を贈呈するだとか監督も――」
黙ったまま一度受話器を置いた。すぐに呼び出し音が鳴る。
「少し気分を落ち着ける時間をもらいたい。このまま話を続けても
冷静な判断ができそうにないので」
「そうか。では頭を冷やして早く来たまえ。宮内くんも手を焼いているようだしな」
相手が切ったのを確認してから、乱暴に受話器を叩きつけた。
「何が……交流が盛んだ!望んでやってることじゃない!」
机に拳を突き立てたところで、秘書が慌てて入ってきた。
「車を出せ。例のプロジェクトの本部へ行く」
頷き、携帯電話片手に指示を出している秘書を見ながら、砂原は選手らの顔を思い浮かべた。
石井、佐伯、デニー……皆無事でいるだろうか。佐伯が渡辺の指揮下にいるはずだから、
残り二人の身も守ってくれていることだろう。石井は性道徳に関しては無頓着なくせに、
こういう面ではまじめすぎたし、デニーは逆に、こんな極限状態ではあてにならない。
佐伯なら、チームのことを一番に考えて、他を欺くことができるはずだ。
そう思って渡辺に彼を推薦した。ゲームは始まっているはずだが、一向に
連絡がなくやきもきしていたところだ。丁度良いではないか。
「車、手配できました」
「わかった」
秘書に促され、砂原は部屋を出た。
宮内義彦は焦りを感じていた。死んだはずの35番が、特別支給品を手にしていた。
これの意味するところは一つである。首輪の誤作動だ。
今確認をさせているが、この男がどこで死んだことにされて、
現在は生きているのか死んでいるのか――。
まかり間違えばこちら側の致命傷にさえなりうるだろう。
島と、それに関わる装置が突貫工事であったことは否定できない。構想はあったが、
設備の準備と、選手会をたきつけるタイミング、中日選手の装備品の調達、すべてのタイミングが
かみ合わないまま、それでもゲームは始まってしまったからだ。
これもすべて渡辺が見切り発車をしたためではないか。
あと少し、あと少しのこと……呪文のように言い聞かせてみたが、
頭に血が上っていくのは抑えきれなかった。
「おい!」
宮内は通りかかった事務員を呼びつけた。
「見張りの手配はどうなっている?」
「見張り……あ、横浜の砂原オーナーが、こちらへ向かっているとのことですが」
「砂原か」
何となく、厄介な人選に思えたが、それ以上は黙っていた。
【残り23人・選手会13人】
550 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/14 02:13:07 ID:tO9Uiyk/
保守あげ
助っ人ゴメス最強
104. 記憶は境界線を越えず
かつん、とコンクリートの床に靴音が響く。
それが鼓膜を打った瞬間、黒木知宏は奇妙なタイムラグを感じた。
(………?)
ゆらり、と首から上が後退する感覚。目眩にしては気分の悪さが伴わない。
何だ……?
「黒木、どうかしたんか?」
「え?」
反射的に聞き返して、それから相手の顔を見た。
「あ……、水口、さん……?」
「俺やけど?」
水口栄二は怪訝な表情を浮かべ、首をかしげた。
「すみません、何か…」
額を押さえ、頭を振る。大丈夫か、と水口が聞いてきたが、黒木は片手を上げて
「何でもないです」と答えた。
記憶がおかしかった。
目の前で水口のグレネードランチャーが唸りを上げ、白い建物の正面扉を吹き飛ばした
ことは知っている。
『俺は行くけど、どうする?』 ── そう問いかけられて、頷いたのも憶えている。
ただ、その前に自分が何を思っていたのかが、思い出せない。
なぜ自分がここにいるのか。その肝心な部分が抜け落ちていた。
「…ここは、どこなんですか?」
「さあ、ただの病院でないことは確かやけど」
ランチャーの代わりに取り出した拳銃を構えて辺りを警戒しながら、水口が答える。
「俺らがこの島に来る前に、オーナー連中が作ったもんとちゃうか、とは思ってる」
「オーナー、ですか」
黒木は顔を上げ、天井に光る蛍光灯を見た。確かに、まだ真新しい。
コーティングの施された床も壁も、足跡や手垢の痕跡がなく綺麗なままだ。
「俺らがこの島に来る前に、オーナー連中が作ったもんとちゃうか、とは思ってる」
「オーナー、ですか」
黒木は顔を上げ、天井に光る蛍光灯を見た。確かに、まだ真新しい。
コーティングの施された床も壁も、足跡や手垢の痕跡がなく綺麗なままだ。
「ジジイどもに近づく手がかりがあったら儲けもんやし、お前の言う背番号70も見つけんと
あかんのやろ? ぼーっとしてる場合ちゃうで」
「 ── 」
背番号70。水口の発したその一言を聞き、黒木の肩がピクリと動いた。
(70……)
いやな数字だ。直感的にそう思った。
(そうだ、70番が、あいつが岩本さんを……)
胸中に眠る何かが頭をもたげるように、じわじわと記憶が形を戻していく。
名前は忘れたが、ともかくその70番と自分たちは交戦し、岩本が捨て身の覚悟で
相手の懐に突っ込んでいった。
彼の投げた閃光弾が銃弾に貫かれて破裂した後、岩本と70番の姿は忽然と消えて
しまっていて ──
黒木は一晩中岩本を捜し歩き、朝になって彼の死体を見つけた。
それから。
(それから……何だ?)
知らず掌が汗ばみ、動悸が速くなる。
再生された記憶のフィルムには、その続きがなかった。
砂嵐のノイズが、その後を埋めつくすだけで。
なぜ思い出せない?
「黒木、来たで。お客さんや」
緊張を含んだ声で、水口が告げた。
こめかみから流れた汗が顎を伝い、床に落ちた。ハッ、と黒木は視線を上げる。
長い廊下の向こうの曲がり角に、何者かの影が差しかかるのが見えた。
【残り23人・選手会13人】
556 :
126:04/10/15 00:14:14 ID:1XdylotP
あ、またやらかしてる…。
>>555の上から4行目までが重複してますね。
何でこうなるのやらorz 以後気をつけます。
112氏。仕事増やしてばっかりで申し訳ないですが、
保管する時に訂正よろしくお願いします。
105.良かった
川相は、草も低くなり開けた場所で、座り込んでいた。
幸いな事に目の前では、蟻の大群が蜻蛉の死骸を運ぼうとして
わらわらと群がっている。それを見ながら、何とか気を紛らわそうとした。
何もなければ、叫んでいたかも知れない。蜻蛉の羽が一枚、ふらふらと移動し始めた。
そこで唐突に、昨日見た夢の続きを思い出した。そうだ、確か……
渡邉は三塁方向に無難に転がした。サードが拾った頃には自分はもう
二塁のすぐ手前にいた。一塁に投げられたボールがファーストのグラブを
弾いてファウルグランドへ転がる。渡邉がその間にベースを駆け抜ける。
彼は振り向くと嬉しそうな顔をして、拳を突き出し親指を立てるしぐさをした。
背後から誰かが走ってきた。思わず立ち上がると、それはやはり渡邉だった。
走る姿を見るに、怪我はないようだ。彼は川相の顔を見ると、
真っ先に「良かった」と呟き、心底安心したような笑みを浮かべた。
――俺はお前を置き去りにしたんだぞ
――お前を囮にして逃げたんだぞ
――なのにお前、どうして……
「何かいたんですか?」地面を指しながら彼は聞く。
「蟻が……」一言答えるだけで、限界だった。涙を堪えるので一杯一杯だった。
――「良かった」って…
――そんな顔して、良かったって言えるんだよ……
「蟻ですか?川相さんもさっきから蟻みたいですよね、
ずーっと地面這うみたいにうろうろしてたし」
冗談を言って、また川相の少し後ろに立った。まだ観察しますか?
笑顔が真っ直ぐに向けられる。
――頼む、もう覗きこむな。泣いてしまう…
大げさに振り返って、川相はやや大股で進み始めた。
獣道が細く続いている。
>>557 付け忘れましたOTZ 112氏、すみません。
【残り23人・選手会13人】
559 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/15 07:01:50 ID:D4ulmY77
泣くな川相さん
谷繁、死んじゃったのか
生きてたらtanisigeに侵食させようと思ったのだg
生もなく死もない
それがtanisige
106.本気の眼
高橋が不自由な足を懸命に動かして戻ってきた。松中が歩み寄って
手をさしのべたが、それをわざとらしくはたき、小久保を睨んだ。
「どうして邪魔したんですか」
今のこいつの目の方が、さっきの渡邉より悪意に満ちているな。小久保は思った。
「あいつらには逃げられるし、俺は死にかけたし。小久保さんのせいですよ」
「おい……」
「マツ、いいから」
松中が高橋を諫めようとしたが、小久保はそれを制した。
「黙って見過ごしてたけど」
一歩、痛む足を前に踏み出す。高橋の手にはまた、ドラグノフが収まっていた。
「やっぱり言うべきだった。由伸、お前のやってる事に俺は納得できない」
眉間に皺を寄せ、高橋はより一層鋭い眼光を小久保に向ける。
小久保は一語一語、丁寧に話した。まるで、言い聞かせるようにして。
「あいつに敵意がないのはすぐわかっただろ。それに、最初に撃った……
誰だか忘れたけど、あの時だってそうだ。危害を加えるつもりかどうかなんて
わからなかったじゃないか」
「何が言いたいんですか」
「敵意のない奴をどうして殺す?俺たちの標的はオーナーじゃなかったか?」
高橋は神妙な顔をしていたが、やがて結んでいた唇を歪ませた。
「呑気というか……敵意の有る無しなんてどこで判断するんですか。
あいつらはオーナーの雇われですよ。俺らを殺すために
平和主義者を装ってるだけかも知れない」
一度目線を落とし逡巡したそぶりを見せてから、小久保は答えた。
「目を見ればわかる。こういう、極限状態だから余計にな」
「馬鹿ですね。じゃあ聞きます、どうして三輪さんは死んだのですか?」
高橋は鼻で笑っていた。理想主義者の相手はしたくない、そんな様子だった。
彼を納得させうるような、決定的な答えは考えつきそうもない。
風で草の揺れる音だけが辺りに散らばっていた。
「もう、ここまでですね」
高橋が言った。
「俺は一人で行きます。小久保さん達はどうぞ勝手に、自分の主義主張を貫いてください」
「待てよ。そんな足で歩き回れると思うか?」
松中が肩を掴んだが、うるさそうに振り払われただけだった。
「ついてくるつもりなら、邪魔だから殺しますよ」
二人はまだ武器を拾っていない。銃口よりも、高橋の双眼に目線が引きつけられる。
…そうか、お前はそういうつもりなんだな。小久保は頷いた。
「……勝手にしろ」
それが離別の合図だった。高橋は踵を返すと、足を引きずりながら進んでいき、
残された二人も銃を拾い上げ、高橋とは逆方向に進路をとった。
「小久保さん……」
「仕方ない。今のあいつに、何を言っても無駄だ」
目的は一緒だ。そのうちどこかで会えるだろう。高橋の本気の眼が、
脳裏でちかちかと光を放っているような、そういう感覚を抱きながら、小久保は
戻るべきキャンプ地へと向かった。
107.乱入者
「・・・こっちには気づいてないようやな。殺るなら今のうちやで」
水口が銃を構えながらそう言っている。
「背番号は見えますか?」
背番号70・・・あいつは・・・
「ようわからんが。ただ、7番のある背番号みたいやな」
「・・・そう・・・ですか・・・」
その瞬間、後ろでズゴゴゴゴ、と何かが閉まる音がした。
「しまった!予備の扉があったんか!」
ドサン、と言う音と共に扉は閉まった。さっきよりぶ厚く感じる。
「しまった、気づかれ・・・」
その瞬間、体の数箇所に痛みが走った。
「ぐあっ・・・」
「ぐ・・・散弾銃や・・・とりあえず逃げるで!」
足と腕に痛みが走る。でもこのままここにいたら殺される。
水口が先に走り出したのでそれに続く。
もちろん応戦はしていたが銃を撃つのは初めてだ。なかなか当たらない。
そしてドンと言う音がした瞬間、前にいた水口が赤いものを噴出しながら倒れた。
「水口さんっ!」
水口からもう返事は無かった。喉から血が止め処なく溢れている。座り込み揺さぶってみるが無抵抗に揺られるだけだ。
その瞬間、顔のすぐ横を鉄の塊が何個も通過して行き、数発が水口の死体に当たった。
「くそっ・・・」
その瞬間頭の中で何かが吹っ飛んだ。銃を乱射しながらその男に向かって突進する。
体中に痛みが走る。体が制御不能になり倒れこんでいくのが分かった。そして意識が無くなった。
「・・・やったのか・・・?」
『7』の番号がついたその選手は一言そう言った。
「なんでこんな目に・・・逃げる為にここに入ったのに・・・いきなり扉が閉まって・・・・特別戦って・・・」
「・・・でも、負けはしない。この若さで死にたくない。これからなのに。せっかく一軍で地位を得かけたのに」
充血していた男の目は、再び鋭さを取り戻した。
「生き残る。そして一秒でも早くこの戦いを終わらせる。ロクに話したことも無い他球団のスター選手の命より・・・チームメイトの命の方が大切だ」
そう言うと、そこから走り去った。その背番号には『67』が刻まれていた。
ただ、一つだけ『67番』高橋聡文が確認し忘れていた事があった。黒木の死亡の確認を─
「ちょっと!大変ですよ、これ・・・」
湊川が全員を呼ぶ。後少しで名古屋港に着く。湊川は最新式のテレビ付き携帯で状況を見ていた。
「これ・・・さっきまでニュースしかやってなかったんですが・・・」
そう言うと、テレビ携帯を全員に見せる。そこには『特別中継』で特別戦の様子を映していた。
「聡文・・・!!」
その瞬間、水口が血を噴出して倒れこんだ。明らかに聡文が撃った。もう頭が混乱して何がなんだか分からない。
そしてその後紀藤、前田章、中里、正津、川上の様子も映された。
車全体にさらに重い空気が流れる。
「もうすぐ着くから戦闘準備しといてくれ!」
仲澤が運転席から叫んだ。がちゃちゃっ、と一斉に防具と武器を取る。
全員が武器を装備し終わった時に車が止まった。
「さて、軍と一戦交戦するぞ・・・」
仲澤が一言言った。一斉に車を飛び出る。港には貨物船、漁船、そして軍艦がある。
「さて、行くか・・・」
一年目だが俺はこの中では結構年上だ。最初はこの球団に入ったことを後悔した。
だが、ヒーローになればいいじゃないか。この仕組まれた戦いを止めるヒーローに。
力と頭には自信がある。一年目、小川将俊。元社会人の意地を見せてやる。
その瞬間、ズパパパパ・・・と音がした。相手が撃ってきた。国から見れば『犯罪者』だからな・・・
相手は10人程。こっちは34人だからすぐに奪えるはずだ。最低限に被害を抑えたい・・・
そう重いながら小川達は軍艦に向けて突撃していった。軍艦を奪う為に・・・
【残り23人・選手会12人】
エイエイ・・・・・・・ orz
568 :
112:04/10/16 08:31:07 ID:k/hp4ncl
108.選択
爆発音、そして銃撃戦の音の響くほうへ走った紀藤は、床に倒れ伏す
スーツ姿の二人と、走り去る背番号67の姿を見た。
(聡文…あいつもここに…『6人』っていうのはそういうことか)
誰もいないことを確認し、あたりに気を配りながら倒れている二人へ近づく。
武器を持っているようなら貰っておこうと思ったからだ。もちろん、使うつもりはないけれども。
死体を見下ろす。血の色が、眼に痛い。
セリーグ一筋20年の紀藤には、パの選手はなじみの薄い存在だったが、
水口と黒木であることはかろうじてわかった。
二人の手に銃が握られているのを見ると、それに手を伸ばしかけ…ふと気づいて引っ込める。
死体のそばに正座し、きちんと両手をあわせて頭を垂れた。
武器だけ奪っていくのが、なんだか心苦しく思えたから。
(なんでこんなことになったんだろう)
そんなどうしようもない疑問が浮かんでくる。
(武器、借りるよ。…俺もたぶんすぐにそっちに行くことになると思うが)
まず水口の手から銃をとる。それから、黒木の銃に手を伸ばしー
569 :
112:04/10/16 08:32:15 ID:k/hp4ncl
ぴくり、と動いたので、その手を引っ込める。
あわてて黒木の手首を握ると、弱いながらもしっかりと脈打っていた。
ー生きている。だがこのまま放っておけば出血多量で死ぬだろう。
『選手会を殺せ』
『団体行動は禁止だ』
ナベツネの声が頭に響く。しばらく迷っていたが、紀藤は心を決めた。
「あんたとしては、特別戦が盛り上がった方がいいんだろう、渡辺さん。
人数が多い方が、選手会が混ざっている方が盛り上がるんじゃないか?」
どこかで聞いているであろうナベツネに語りかけながら、黒木を背負う。
首輪は沈黙していた。
…どうやら、この行為は見逃してもらえるらしい…今は。
ここが病院で良かった、と思いながらすぐそばの診察室に入り、ベッドに黒木を寝かせる。
消毒液や包帯を探しながら、ふと思う。
ーコイツを助けたら、誰かチームメートが殺されるかもしれないー
それでも、助けると決めてしまった。今更どうしようもない。
必要な道具をそろえると、紀藤は黒木の手当を始めた。
【残り23人・選手会12人】
湊川の名前を見てちょっとなごんだw
571 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/16 18:31:26 ID:lMTpYLfC
糞スレ乱立のため保守
ほっしゅ
574 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/17 08:54:53 ID:PQKPDPBk
BwとBu、どっちも消えたか・・・orz
109. 背きに堕ちて
高木大成は地図を持つ緒方の一歩後ろを歩いていた。
彼ら二人がたどるルートは、一旦キャンプを南下し、東に折れて海岸沿いの道に行き着いたら、
後はそのまま北を目指すというものであった。
遠回りのように見えるが比較的歩きやすい道のため、目算よりも早くキャンプ地に着けるだろうと
説明したのは古田だ。
(…その通りになればいいですけどね)
出発前、高木は内心ほくそえみながらそう呟いていた。
中日の選手と出くわさない保証など、どこにもないのだし。
何より自分が ── 裏切り者の役を与えられた自分がここにいるのだ。
だが、高木自身は自分の手を汚すことに多少なりの抵抗を持っていた。
球団オーナーの堤にレギュラーの条件を提示され、選手会を内側から崩す役割を命じられた時も、
どこか迷いがあった。
それでも、最終的にその役割を演じることを受け入れたのは、自暴自棄に陥っていた己の心があったからだろう。
入団当初から守備位置を転々とし、ようやく三番ファーストの地位を手に入れたかと思えば、度重なる怪我に
悩まされ、挙句の果てには名手、高木浩之のいる二塁へのコンバート通告。
(ヒロさんを抜くなんて無理)
自嘲気味に漏らしたその言葉がすべてだった。
判断能力を欠いた心が、レギュラー復帰という甘い汁に惹かれたことは事実だ。
そして何より、背信行為によって沸きあがる昏い情念に身をゆだねることへの快感を、高木は覚えてしまっていた。
目の前を歩く緒方は、左右には気を配っているものの、背後には全く無警戒だ。
── 当然だよな。後ろにいるのは『味方』なんだから。
そんなことを思ったとき、緒方がこちらを振り返ってきた。
「高木、もうすぐ海岸に出る。見通しのきく場所だから、注意を怠るなよ」
「あ、はい」
高木は感情を表に出さないように努めて ── 神妙に頷いた。
それでこちらが緊張しているとでも感じたのか、緒方はふと表情を和らげた。
「大丈夫だよ、そんなに固くならなくても。今のところ敵の気配はなさそうだし…」
折り畳んだ地図をデイバッグのポケットに入れながら、緒方は辺りをうかがうようにし、また高木の方に
視線を戻した。
「そういえば、お前の武器って何だっけ?」
「俺ですか? 俺のは…これです」
高木はジャケットの裾を持ち上げ、ベルトに引っかけてある手榴弾を示した。
そう、これが自分の支給武器だった。本来の。
「手榴弾か。俺はライフル。どう考えても接近戦は不利だな」
「接近戦になりそうだったら、逃げればいいんですよ。俺たちは向こうと違って、無理に戦う必要はないんですから」
「逃げる、か」
ぽつりと呟いて、緒方は口許をゆがめた。何か嫌なことでも思い出したかのような仕種だった。
彼はそのまま顔をそむけ、再び歩き出す。高木もそれに続いた。
木々に挟まれた道の切れ目が近づき、前方に青い海が見えてきた。
砂浜に出る直前で左に曲がり、北へと進路を変える。
「高木はどう思う? この……」
完全には振り向かず、横顔だけをこちらに見せて緒方が切り出してきた。
「この、戦いについて」
間があったのは、緒方が言葉を選んでいたからだろう。
高木は一度まばたきをした。いきなり何を言い出すんだ、と。
「どう、と言われても……」
困惑の表情は、演技しなくても自然に出てきた。
「俺たちはただ、オーナーを見つけるしかないんじゃないんですか?」
「本当にそう思うか?」
緒方は足を止め、身体ごとこちらを向いた。
険しい瞳が、にらみつけるように高木を見据えている。
「オーナーを倒せば終わり。そう考えてたさ、俺も。オーナーがこの島にいるのならね」
すぐそばの海岸から、波の打ち寄せる音が響いた。
潮風の香りが、やけに濃い。
「ここにオーナーはいないって言うんですか?」
上目遣いに緒方を見て、高木は問いかけた。
ああ、と頷き、緒方は海岸の方向を見た。向かい風に目を細めながら。
「オーナーの目的が選手会の抹殺なら、どうしてそれを中日の選手にやらせる必要がある?
それこそ、傭兵でも使って俺たちを一網打尽にすればいいだけの話だ。
わざわざ『選手』を使うってことは、そこに何か目的があるからじゃないのか?」
高木はそっと唇をなめた。まずいな、と胸中で舌打ちする。
(“暗示”が解けてきてるみたいだぜ、堤さんよ)
ひと息にそこまでを語ったあと、緒方は目を伏せた。
「あくまで推論だけどね。俺は…俺たちは、仕組まれた上で中日と殺し合いをさせられてる…。
そんな風に思えてならない」
そして奴らはそれを安全な場所で見物してるんだよ ── 皮肉をこめた台詞を続け、彼は吐息する。
「本当はもっと早く誰かに言いたかったんだけど…。確証がなかったから。
古田さんたちと合流したら、このことを話すよ。その前に、高木の意見を聞いておこうと思って」
「俺は…」
プログラムの不備だな。そう思いながら、高木は真剣な表情をつくって視線を落とした。
「うまく言えないけど…、それは話したほうがいいと思います。どっちにしても、オーナーに近づく手がかりは
必要なんだし…。古田さんなら、きっと次にするべきことを考えてくれますよ」
「そうだな。ありがとう」
おかげで決心がついたよ、と口許で微笑し、緒方は前方に向き直る。
「俺の話で時間を取ったな。急ごうか」
「はい」
応えたあと、高木はすっと瞼を半分下ろした。
冷めた視線を彼の背に向け ── 声をかける。
「緒方さん。その前にちょっと、いいですか」
「うん? ──」
何気なく振り返った緒方の顔が、次の瞬間、愕然と凍りつく。
……そう、この顔だよ。俺が見たかったのは。
高木は取り出した拳銃を緒方の背に押し付け、愉悦に満ちた表情を浮かべた。
【残り23人・選手会12人】
保守
大成の描写スゴイな
581 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/18 07:01:58 ID:WoOKWqQ3
110.儀式
「……見てくれよ、三輪さんの手、ほら。きれいだろ。抵抗しなかったんだよ。弾痕だって一つしかない」
憑かれたように平井がしゃべりだした。井端はじっと立っている。
「至近距離で撃たれたのに、無抵抗だって……わかんねぇよ、
三輪さんも、撃った奴の考えも……信じらんねぇ……酷ぇよ、酷ぇ…」
酷い、酷いと繰り返す言葉は嗚咽と混じって消えていった。
突然、井端が三輪の死体を思い切り蹴り飛ばした。
「…何すんだよ!」
後ろの叫びを全く無視して、井端は蹴り続ける。すぐに崖の向こうへ、三輪の姿は消えていってしまった。
平井は井端を横に突き飛ばし、落ちていった彼の影を探したが、もうどこにも見つからなかった。
「なんてことするんだ!」
掴みかかってきた平井から目をそらし、井端は無表情を装って言った。
「……俺が殺したんだよ」
びくりと、胸倉をつかんでいる手が震えた。
「俺が、無抵抗の三輪さんにピストル突きつけて、撃ったんだよ」
平井の手からユニフォームの端がするりと抜けた。反動で井端の体が二、三歩後退する。
腕を下げる動作があまりにぎこちなくて、随分の時間を使った。
「どうして……」困惑とも憎悪ともとれる声色が、井端に真っ直ぐに突き刺さってくる。
「……ミツが、選手会の奴に殺された。あいつらやる気なんだよ、相手が誰だって、目的のためなら殺人も厭わない。
それだったら、こっちもそうするしかないじゃないか。全員殺して、オーナーも殺して、自分も死ぬ。そのつもりだ」
井端は内心、自分が不思議でならなかった。こんな状況なのに、よどみなく言葉を紡ぎ続けている。
体は震えているというのに、声だけは平静のままじゃないか。
「お前が坂上ってくの見て、頭が真っ白になった。三輪さんがまた、
目の前に現れて、俺の罪をまざまざと見せつける。そしてお前が俺を咎める」
台詞が途切れると、崖下から波の音が二人の間に漂った。さっきから少し、風が吹いている。
「そうだよ、俺は酷い、最低の人間だ。自分が殺したのに、それを非難されて
怖くなったんだよ。だから蹴落とした。お前も一緒に突き落としたかったくらいだ」
愕然とした顔をして井端を見つめる平井の首を、両手で掴んだ。10本の指でじわじわと気道を圧迫していく。
「これ以上喚かれたら、俺は耐えられない」
平井は井端の腕をとり、首から手を引き剥がした。脅しのつもりだろうか。三輪の死を悼めば、しつこく泣けば、
お前を殺す、という。平井も井端と同様に、自分自身に不思議さを感じ始めていた。一度にたくさんのことが
ありすぎて、心の中はもうぐちゃぐちゃで少しつつけばいとも簡単に崩れ壊れてしまいそうなのに、
妙にはっきりと、この先の行動だけが意識の一番上に乗っかっているのだ。もうそれしか考えられなかった。
「……やってることが中途いと思えば…」
乾ききらない涙を拭ってから、井端の目を見た。いつもの輝きはないが、何か吹っ切るところまでいっていない。
濁って、奥で弱さが蠢いているような、そんな目をしていた。
どうしてこんな時に、こんな事を思いつくのだろう。平井は己の思いつきの根源を探そうとしたが、
すぐにやめた。探せば、壊れてしまう。
「井端、ユニフォームを貸せ」
唐突に彼は腕を差し出した。わけがわからず、井端が怪訝な顔をしてためらうと、もう一度催促した。
井端は仕方なく、アンダーシャツ一枚の姿になりユニフォームの上を渡した。平井は己のそれを脱ぎ捨て、
井端のを羽織ると、崖淵に立った。『IBATA 6』と書かれた背中が、井端の目の前にある。
「中日の頼れる選手会長井端弘和は、ここで俺が一緒に黄泉へと連れて行く。お前はもう誰でもなくなる。
誰でもない奴の罪は、誰のものにもなりやしない」
崖下から風が吹き、ユニフォームの裾を跳ね上げた。それがおさまってから、平井は静かに宣告した。
「撃て。お前の手で、葬れ」
異様な感覚が井端を襲った。目の前がぐにゃりと歪んでいくような幻覚を見た後、崖のそばに立つ
二人の男を鳥瞰していた。前にいるのは、自分だった。後ろにいるのは、よくわからない。
なぜかそこだけ水滴を落としたようにぼやけているのだ。あれは誰だろう。ああそうか、誰でもないんだ。
三輪を殺した、緒方や高橋を襲った、自分はもうそこで死ぬ。
――それはかくも凄絶な、自分殺しの儀式。
一瞬のことだったのかもしれないし、長く思考の迷宮で駆けずり回っていたのかもしれない。
井端は引き金を引いた。まるで他人のしている事のように思えた。背番号6が赤く血に染まり、ゆっくりと、
本当にゆっくりと崖の向こうへと倒れていった。姿が見えなくなるのと引き換えに、強い海風が吹き付けた。
風にあおられる中で、彼の目からひとしずくだけ、わけもわからずに涙が零れ落ちた。
「寒いな……」
彼は呟き、その場に残されたユニフォームに袖を通して、崖を後にした。
【残り22人・選手会12人】
585 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/18 09:07:49 ID:YZUsJ2jD
平井。・゚・(ノД`)・゚・。
平井…おまえは…。
588 :
112:04/10/18 13:55:05 ID:m0FtK1Jz
111.興味
「うっ…」
体中に走る痛みに、黒木は目を開けた。
「気がついたのか。酷い怪我だったから心配したが、大丈夫か?」
声のした方に目を向けると、青いユニフォーム姿があった。
視界がぼやけて、背番号や顔ははっきり見えない。
ー何故、敵対しているはずのドラゴンズの選手がここにいるのだろう。
自分に気遣わしげな視線を向けてくるのだろう。
岩本さんを殺した奴、さっき自分たちを襲った奴と同じユニフォームなのに。
そこで思い出す。目の前で血を吹き出して倒れた水口のことを。
「水口さんは…?」
その問いに、目の前の選手は目を伏せ、首を振った。
…ああ、また、守れなかった。
その思いに目の前が真っ暗になる。
そんな黒木の様子に気づかずに、相手は…紀藤は口を開く。
「ここでは今『特別戦』が行われてる。オーナーの意向でね。
この中で殺し合いをして、生き残った一人だけが外に出られるんだそうだ」
「殺し合い…」
「うん。参加者はうちの選手6人と、お前。計7人だ」
ーでは、岩本を殺した背番号70、水口を殺した7のつく背番号を探して、仇を討つ機会があるわけだ。
紀藤の言葉を聞きながら、黒木はそう考えた。
立ち上がろうとしてふらついた黒木を、あわてて紀藤が支える。
「無理するな。もう少し休んだ方がいい」
「でも…」
そう言って腕を振り払おうとした黒木の目に、「7」の数字が見えた。
動きが止まった黒木を無理矢理ベッドに寝かせて、紀藤は言った。
「酷い怪我なんだ、もう少し寝とけ。…そうだ、痛み止めがあったな、持ってくるから少し待ってろ」
そういって黒木に背を向ける。
黒木の目に「17」の数字が飛び込んでくる。
ーふっと、黒木の目が光をなくした。ベッドサイドにおかれた銃に手が伸びていきー
589 :
112:04/10/18 13:56:44 ID:m0FtK1Jz
砂原の到着が遅れている。
あのじじいの相手は気が進まないが、行かねばならないだろう。
半ばうんざりしながら、宮内は本部の扉を開けた。
「横浜の砂原オーナーが後2時間ほどで到着されます」
渡辺がモニターを見つめている、その横に歩み寄りながらそう報告する。
「そうか」
返事もそぞろに、渡辺はモニターの映像に釘付けになっていた。
なにがそんなに面白いのか、と思いながら映像を見上げて、宮内は息をのんだ。
「ドラゴンズの選手と、選手会が一緒にいる…?」
ーこれは、良くない。
「渡辺さん、何故この選手を放っておくのですか?首輪をー」
「ほう、これは、さっき爆破をやめさせようとした奴の科白とは思えんな」
皮肉に笑う。宮内の何ともいえない表情を見て内心でほくそ笑む。
「なあに、興味があったのでね、見逃してやることにしたのだよ」
「興味、とは?」
渡辺は説明してやることにした。
「こっちの選手会の奴は、昨日、中日の「70」に同行者を殺されていたな。覚えているかね?」
「はい」
「その後コイツは特別戦会場へのりこんできて、「67」に襲われて、一緒に来た奴を殺された。
ただし、相手の背番号は「7」しか見えなかった」
そこで言葉を切り、にやりと笑う。
「目が覚めたら、目の前に「17」番がいる。いったいコイツがどういう行動をするか。
…興味深いと思わないか?」
二人の見つめるモニターの先で、「17」の背中の7の数字のちょうど真ん中あたりに穴があいた。
【残り22人・選手会12人】
紀藤さん・・・
あの時黒木なんか殺しちゃえばよかったんだ
112.三分間の空白
渡辺と宮内が特別戦に見入っているちょうどそのとき、モニター部屋の裏では
事務員らが大慌てをしていた。渡辺が唐突に一般中継を始めると言い出し、
そのため配線を変更する必要があったのだが、その過程でカメラの
コードを間違って繋いだり外したりしてしまい、どうやって修復するかに
手間取っていたのだ。一度全部はずしてしまえばいい。一人の事務員が言ったが、
そんなことをすればあの二人にミスがばれてしまう。お小言で済むような雰囲気ではないのだ。
すぐに残りの人間に却下された。不幸中の幸いというか、部屋では特別戦と、
その中継用の画像でモニターが埋まっている。
今のうちに、島の様子はどうだと言い出す前に、復旧する必要があるのだ。
しまった。ジャックを抜き差ししていた別の事務員がつぶやいた。
どうしたんだよ。カメラ1だと思って外してたの、盗聴器の録音用だった。
馬鹿、何やってんだよ。まぁ大丈夫だって、音声受信のとは別の線だからばれないだろ。
今はとりあえず3カメあたりの線は触るなよ。触りそうなのはお前だけだろ。
こうしたやり取りの後、少しして何事もなかったように、事務員らは作業室を出た。
一応元通りになったのだ。モニター部屋の様子を見に行ったが、何も言われなかった。
ばれていないらしい。ほっと胸をなでおろすと、後ろから、軽食を用意しろと言いつけられた。
作業に要した時間はわずかだった。しかしその間、一部の映像と音声の記録に
空白ができてしまった。約3分間。そして平井の奇妙な死は、その空白に
入り込んでしまった。たかが3分、されど3分……。
「逃げる方法って……?」
荒木がきょとんとして福留の顔を見た。
かなり、自分のひらめきに興奮しているらしい。そうだ、そうだよと
連呼しているだけで荒木にはなにが『そう』なのか、全く理解できなかった。
「ちょっと、説明しろよ、わかんねーだろ」
言ったその瞬間だった。二人の耳に、遠い銃声が飛び込んできた。
同時に振り返ると、遥か向こうに見える岸壁の淵から、何かが海に向かって落下していく所だった。
「……井端さん!」
荒木が叫んだ。福留は細い目をさらに細くして落ちていく影を追った、よくわからない。
「見えるか?」
「背番号6、はっきり見えた」
断言すると、彼は走り出した。影の墜落した、崖の上を目指して。
福留は止める間もなくて、慌ててその後ろをついて走った。
【残り22人・選手会12人】
[…ε…]「細い目言うな」
平井ぃぃぃぃぃ。・゚・(ノД`)・゚・。
595 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/19 08:24:45 ID:nBt0mp2K
緒方の今後が気になる
113. 形見
一歩足をひきずるごとに、脇腹から血がしたたり落ちるのが分かる。
背番号12、岡本真也が意識を取り戻したのは、およそ四十分前のこと。
(……朝倉……)
目を覚ました時、最初に見たものが変わり果てた朝倉の姿だった。
意識を失う前の映像とそれとがリンクし、岡本の理性は一瞬で吹き飛んだ。
叫び、泣き、喚き……、脇腹に負った傷を広げてしまう懸念などどこかに置き忘れたまま、感情の
すべてを出しつくす勢いで大声を上げ続けた。
やがてそれがおさまった時、岡本は自らの手にしっかりと握られていたペンダントの存在に気がついた。
── 俺の形見に持っててください。俺が『存在した』証拠に… ──
朝倉の言葉が脳裏に甦ると同時、岡本の意識も正常さを取り戻した。
生きたいと、心の底から強く願った。
自分は生きなくてはいけない。後輩の存在した証は、自分が守りぬかなければならない。
その一念が、いま岡本の足を動かしている。
地図を開く余裕などなかった。自分がどこを歩いているのかも分からないまま、ただひたすら前へ進む。
右手に巻きつけたペンダントの鎖が擦れ合い、かすかな音を立てた。
岡本は右手を持ち上げ、指でペンダントトップに触れる。丸い形のそれは、よく見るとロケットのようだった。
合わさった部分を開くと、中に小さな写真があった。
笑顔の眩しい、若い女性の写真……。
自然に歩みは止まっていた。ロケットの写真を凝視する岡本の表情が徐々に、悲しみのそれにゆがんだ。
「…馬鹿かよ、お前……」
── 何がもう充分だよ、こんな可愛い彼女がいたんじゃないか…。それを残して死ぬなんて
本当に馬鹿だ……!
それが真に朝倉の想い人であるかどうかの確証はなかったが、少なくとも彼には心の支えと
なっている人物がいたということだ。
そうでなければ、わざわざロケットに写真を入れたりはしない。
(この人を悲しませること以上に、お前は生きる希望を失っていたっていうのか?)
── なあ、朝倉……。
岡本は天を仰ぎ、昇天したであろう彼の魂に呼びかけた。
朝倉は人を殺すことを恐れていた。その恐れから逃れるために死を選んだ。
地獄になんか行きたくない、と彼は言った。だが、『死』以外の道はなかったのか? 本当に?
(人が死ねば、悲しむ誰かが必ずいるんだ、朝倉)
なぜ彼の死を止められなかったのか。
どうしようもなかったと理解していても、悔やまずにいられない。
だからせめて、自分は生を全うしなければ。
決意をあらたにして、岡本は歩みを再開した。
足をひきずりながら目の前の茂みを抜ける。と、急に目の前がひらけた。
平原が目の前に広がっていた。草を踏みしめながら一歩二歩と進むうちに、岡本の脳裏に
既視感のようなものがちらつきはじめた。
(ちょっと待て、確かここは……)
痛む脇腹を押さえ、必死で足を動かす。息が乱れ、肺が苦しさを訴えたが、逸る気持ちを
抑えることなどできなかった。
「……やっぱり、……そうだ……」
五十メートルほど進んだころだろうか。ようやく目的のものが視界に飛び込んできて、岡本は
荒い息の下で絞り出すように呟いた。
傷口の痛みを堪え、前かがみの姿勢で彼が見上げたもの、それは。
この忌まわしいゲームの出発点となった建物。
朽ちた灰色の壁が何とも禍々しい雰囲気を放つ ── 廃校、だった。
【残り22人・選手会12人】
> 人が死ねば、悲しむ誰かが必ずいるんだ、朝倉
。・゚・(つД`)・゚・。
これが久本だったら朝倉同情の余地なし
114. 罠
帰巣本能、というわけではないのだろうが。
何の因果か出発点に戻ってきてしまった岡本は目の前の建物を見上げ、何とも形容しがたい
苦笑いのようなものをかみ殺した。
息を整えながら、昨日の記憶を掘り起こしてみる。
ゲームの最初、ナベツネはこのエリア、すなわち『島』から出るなとは言っていたが、スタート地点の
『廃校』に近づくなとは言わなかったはずだ。
近づいても首輪が爆発しないということは、ここには何の手がかりもないということだろう。
手がかりがないと分かりきっている場所になど、誰も来るはずがない。
すなわち、今ここにいるのはおそらく自分一人だけだ。
背後の森から、数羽の鳥が飛び立っていく音が聞こえた。
静かだ ── 建物自体も、それを取り囲む空気も。まさに廃墟と呼ぶに相応しく、静寂に覆われている。
ふと視線を水平に戻す。昨日の出発の時点では意識していなかったが、さすがに学校らしく、眼前に
煉瓦造りの門構えがあることに気づいた。
(人の気配はなさそうだが……)
奥に見える入口、そして二階より上の窓にも明かりが灯っている様子はなく、人影も見当たらない。
教室にいた軍服の男たちは、もう撤収したのだろうか。
そこまで考えた時、激痛が脇腹を襲った。
(……!!)
呻き声をもらし、岡本はその場にうずくまる。やはり先程無理に走ったのがいけなかったのか。
掌で押さえている傷口から、どくん、と血のあふれ出る気配がした。
(くそっ)
とっさにユニフォームの上を脱ぎ、アンダーシャツを赤黒く染めている傷口の部分をそれで覆うようにし、
幾重かに巻きつけてきつく縛った。
止血というには物足りないが、何もしないよりはましだ。
……さて、どうする。死活問題に直面し、岡本は選択を強いられた。
学校というからには保健室があるはず。何か応急処置のできるものでも残っていれば ──
その望みにかけて、一か八か廃校の中へ入ってみるか。
それとも、ここでじわじわと出血による死を待つか。
(駄目だ。俺は死ぬわけにはいかない)
岡本は両足に無理矢理力をこめ、ゆっくりと立ち上がった。
腰の後ろに右手を回し、朝倉が残したもう一つの形見、デザートイーグルを引っぱり出す。
それをしっかりと握りしめ、ふらつきながらも一歩ずつ進む。
煉瓦造りの門柱に手をかけ、敷地内へ足を踏み入れた。
── パリッ……、と門柱を握った手に痺れが伝わった。
岡本は気づかなかった。いや、気づくはずもなかった。
門構えに赤外線レーザーが張りめぐらされていたこと。
そして、そのレーザーが侵入者を検知した結果の末路を……。
両側の門柱に設置された高圧電流放射器が作動し、何万ボルトという電流が左右から岡本に襲いかかった。
彼の手に握られたデザートイーグルが消し炭と化し、数十秒にわたる電流の放出が終わったあとには、
黒焦げとなった判別のつかない死体だけがそこに残された。
辺りにはまた、何事もなかったかのように沈黙が舞い戻った。
【残り22人・選手会12人】
115. システムダウン
「……いったいどういうことだ!!」
本部のモニタールームで、渡辺は周囲に怒鳴り散らしていた。
彼は岡本の電流による死を見ていたわけではない。『特別戦』のモニターだけに目を向けていたのだ。
それがいきなり、暗転したまま何も映さなくなった。慌てたスタッフが原因を調べるべく裏の制御室に回ったが、
配線が切れたなどのトラブルは見つからなかった。
しかしモニタールームでは、その特別戦の映像の他にも、いくつかのモニターが同じように暗転するという事故が相次いでいた。
訳が分からず右往左往する責任者のもとに、一人のスタッフが駆け寄って報告した。
「す、すみません。これなんですけど……」
スタッフはモバイルの画面を彼に見せた。そこには、廃校の門をくぐろうとする岡本の姿が映し出されていた。
直後、電流が岡本を襲った。それを見た責任者は、何てことだ、と目を見開いた。
「なぜ、電流放射器のトラップが作動しているんだ? これは万が一、選手たちが団体でこの廃校に入ろうとしたときにだけ
作動させるんじゃなかったのか?」
「それが、自分にもさっぱりで…。言われた通り赤外線レーザーのスイッチは切っていたはずなんですが…」
困惑の表情を浮かべるスタッフの言葉に、責任者は、はたと思い当たった。
── まさか、さっきの配線間違いを直す作業の際に、何らかの手違いでレーザーのスイッチが入ってしまった……?
彼の顔がみるみる蒼ざめる。
「……原因は、急激な電力不足によるシステムダウン……」
「え?」
「聞こえなかったか! 病院内の電力がダウンした! それでモニターの映像が消えたんだ!
復旧作業にかかれ、今すぐだ!」
「は、はいっ!」
制御室のスタッフたちの間に、またもや嵐が訪れる ──
ふっと、天井の照明が消えた。
「?」
川上憲伸は89式小銃を構えたまま、怪訝な表情で動きを止めた。
「停電か……?」
呟いたその時、ガコン、ガコンとシャッターを跳ね上げる時のような音が連続して響いた。
特別戦の開始と共に降ろされた窓の防護壁が、何故か一斉に開いていくのを川上は目撃した。
(!)
川上の脳裏に、あることが閃いた。もしこれが停電によるものなら、今病院内の監視カメラは動いていないはず ──
(この窓から逃げられる!)
特別戦だか何だか知らないが、最後の一人になるまで殺し合うなど、冗談ではなかった。
ましてや相手は皆、チームメイトなのだ…!
川上は窓に近づき、鍵を外して窓を開いた。
窓枠に手をかけ、上体を引き上げようとしたとき、切羽つまった叫び声が耳を打った。
「川上君、逃げろ!!」
「正津さん!?」
慌てて視線を転じた川上が見たものは、廊下の向こうから走ってくる正津の姿だった。
【残り21人・選手会12人】
605 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/20 06:07:44 ID:t9gYMXzK
保守
116.恨みと意地
正津が叫びながら走ってくる。その後ろには二つの『顔』が見えた。
「・・・!中里!」
そこには銃を撃ちながら正津を追う中里の姿があった。そして、もう一つの顔・・・前田の様子が何か変だ。
「章宏!・・・体が・・・無い・・・?」
そこには、首を斬られた前田章宏の姿があった。
「ん・・・憲伸か・・・ラッキー、探す手間が省けた」
そう言うと前田の首を投げ捨て、銃を正津から川上に向けた。
「お前・・・!!何故・・・脱出できるんだぞ!無駄に殺す必要など無いじゃないか!」
川上が必死に叫ぶ。
「おいおい・・・逃げて生きる事だけが目的だと思ってるのか・・・?ライバルを殺す絶好のチャンスじゃないか・・・」
「そして、一番の目的はエースの貴様を殺す事だ、憲伸」
中里はにやつきながら引き金に指をかけた。
「くっ!」
とっさに川上避ける。さっきまで自分がいた場所を銃弾が通っていく。
「ちっ・・・潔く死んだ方が苦しみませんよ。憲・伸・さ・ん。銃弾の無駄なんだから」
「お前・・・そんな事でエースになれるとでも・・・」
その瞬間一気に中里に向かって走り出した。
「ふん、やっと死ぬ気になったか・・・特別に一発で殺してあげますよ」
そう言うと中里は川上に向かって一発だけ銃を撃った。
ズパン・・・その音とともに弾は川上に当たった。
「なっ・・・」
しかし次の瞬間、川上は中里に向かって銃剣を振り下ろしていた。
中里も慌てて避けるが次の瞬間ザクッと言う何かが切れた音がした。
「ああああっ!!」
ポトリと中里の人差し指が地面に落ちた。中里の右手からどんどん血があふれ出してくる。
「ぐ・・・無駄に戦おうとした結果がこれだ・・」
川上の左腕からも中里の撃った弾を防ぐ為に出した為血が流れ続けていた。
「俺は人を殺したくない・・・だからお前は殺さない、ただもう殺せないように・・・お前の武器は貰っていく」
そう言うと、中里のサブマシンガンを奪った。
その瞬間、横に正津が現れ、何かを中里にくっつけた。その瞬間、バリバリと言う音と電気の光がその物体から現れた。
「んがっ・・・ぁ・・・」
そしてその物体が静けさを取り戻した瞬間、中里が気絶したのが分かった。
「スタンガンだよ。僕の支給品さ。・・・でも一応その銃貰っていいかな」
川上は頷くと正津に銃を渡した。
「とりあえず、君の治療を・・・」
「そんな事してる暇ありませんよ!ここが閉まらない間に脱出しないと・・・」
そう言うと川上は出口に向かって駆け出した。
「あっ、ちょっと・・・」
そう言うと正津も後に続いた。だが川上は知らなかった。正津が脇腹を撃たれてたことを。
「負傷者は?全員生きてるか!?」
酒井が叫ぶ。なんとか自衛隊を全員倒したが・・・さすがに相手は訓練された兵だ。だいぶ苦戦した。
「小山!おい、小山!・・・くそっ!!」
しばらく全員の安否確認がされた。小山・前田新・小林・遠藤・櫻井・川岸・中野・宮越・矢口・善村・清水が死亡・・・残り23人。
他にも筒井正・森岡・佐藤、中川が負傷した。
「くそ・・・思ったより負傷者が多かったな・・・湊川、敵が来ない間に出してくれ」
その声とともに軍艦は港を出発した。この軍艦なら後2時間程で着く─
【残り20人・選手会12人】
117.前門の虎後門の狼
「意外と、会わないもんですね」
井上が何か嬉しげに呟いたので、関川は不機嫌そうに溜息をついた。
「どうせ、頭数も減ってるんだろ。殺すのも本当は面倒だし、
よそで全滅してるのならそれでいいさ」
言ってみたものの、どこか空疎な気分になった。さっきからこういう調子が続いている。
外野手を殺すんだと強く思えば思うほど、体から力が逃げていくような感じが襲ってくるのだ。
疲れているんだ。そう説明をつけて、何とか殺意を維持する。それの繰り返しだ。
今二人は湿地を歩いていた。お互いの足下はもう泥だらけになっていて、そのこともまた、
関川の心に重しとなってのしかかった。いつもスライディングしては、上下とも真っ茶色に
汚しているというのに、たかだが足下の泥が、どうしてこんなに憂鬱な気持ちを誘うのか。
「あー、腹減ったな」
わざとらしく明るい声を出してみたが、余計に落ち込みそうになる。
「嫌ですよ、こんなとこでメシ食うの」
「じゃあ、ここ抜けたら休憩――」
言いかけた時、延々と続く湿原の、膝丈の草の向こうに人影が見えた。
誰か理解するよりも先に、井上が肩を掴んだ。
「すいません、邪魔します」
台詞の意味はすぐにわかった。あれは大西だ。
「じゃあ一緒に殺すか」
実際の所どうしたものか、決めきれずに冗談を返すと、耳の下を熱く鋭い風が切っていった。
「……これでも邪魔するつもりかお前」
頬にできた銃創から血が滴った。大西の掲げた手の先からは硝煙が上がっている。
びっくりして固まっている井上の手を払いのけると、トカレフを取り出し応戦した。
数度銃声が響いて、大西の体がよろめき、ばっと赤い花が咲く。
井上の方に目をやると呆然とした表情をして――
関川は突然、井上の腕を掴み、自分の正面へと彼の体を持ってきた。
大西のぎらぎらと光る目と、井上の目がかちりとぶつかる。
「セキさん?!」
非難めいた声を上げ顔を向けると、ちょうど、関川の肩と首の下から血の線が吹き上がった。
大西は膝をつき、そのまま草の中に沈んでいった。
「セキさん!!」
状況が理解できず、井上はただ関川の体を必死になって支えた。今度は彼の膝が赤黒く染まった。
振り返ってようやく、向こうにスーツの男が立っているのに気がついたのだ。
距離が長すぎる。ナイフを投げたところで、これでは命中しない。
「逃げろ、一樹……俺が、時間…かせ、ぐ、か……」
途切れ途切れの声に驚き、井上は関川の顔を覗きこんだ。なぜか、彼は微笑していた。
「何言っ――」靴の先数センチの地面が抉られる。相手が持っているのは狙撃銃。
撃つたび、やけに体が大きく揺れていた。あれは……高橋か?井上は関川の肩越しに
首を伸ばした。その時だ。どこにそんな力が残っていたのだろう、関川は井上を突き飛ばした
「――――」
独り言なのか、何か呟いて、彼はスーツの男めがけて突進していった。
手にしていたトカレフは二発ほど撃ったところで弾切れになったが……。
無我夢中で井上は走りまくった。銃声を背に湿原をぬけ、昼間でも薄暗い森の中へ駆け込んで、
やがて誰も追ってこないことを確認すると、ようやく木の幹に背を預けてしゃがみこんだ。
――何やってんだろうな、俺。
関川の、やけにはっきりした言葉と、あの表情が、いつまでも井上の頭の中で回り続ける……
【残り20人・選手会12人】
611 :
112:04/10/20 21:11:20 ID:4viP5b1S
118.静かな死
倒れていく「17」の背中を見る黒木の瞳は、何の表情も映し出していなかった。
ふらつく体を支えながら、ベッドから降り、自分の荷物を探してつかむ。
手や足に包帯が巻かれ、怪我の手当がされているのに気がついたが、
それと目の前の「17」とは結びつかなかった。
「7」に開いた穴からは、赤い血が流れ出している。
…これで、水口さんの仇は討てた。あとは。
「背番号70…あいつを…」
そうつぶやくと、黒木は診療室を出て行った。後ろを振り返りもせずに。
「はっ…馬鹿だな、俺」
黒木の背中を見送りながら、紀藤は自嘲する。
撃たれた傷は致命傷になったようだが、不思議と痛みは感じない。
助けたら誰かが殺されるかもしれない、とは危惧していた。
…だけど、自分が殺されるとは思わなかった。考えが足りなかったな。
でも、それも俺らしいだろう?
612 :
112:04/10/20 21:11:48 ID:4viP5b1S
出て行く直前の黒木の眼と、呟いた番号が気になった。
あの眼は、…虚無を見たものの眼。あんな眼をした奴が中里と出会ったら…
意識が、次第に朦朧としてくる。
かなり苦労しながら顔を上げると、真っ青な空が視界に飛び込んできた。
何で閉ざされた建物で空が見えるのか、という疑問は感じなかった。
きれいだな。そう思いながらかすかに微笑む。
ーこんな状況で、誰も殺さずに済んだ。誰かを助けることもできた。
だから俺は、後悔してないよ。
静かに瞳を閉じる紀藤に、同じ建物の中で響く銃声は聞こえなかった。
ー中里。前田。ドラゴンズの未来はお前らにかかっているんだ。どうか、無事でー
最後の意識でそう思う。
それがもはや叶えられない願いだと知らぬまま、紀藤は息絶えた。
【残り19人・選手会12人】
紀藤…
>小山・前田新・小林・遠藤・櫻井・川岸・中野・宮越・矢口・善村・清水が死亡
・・・・・・
紀藤…関さん…。・゚・(つД`)・゚・。
まだ2日目昼なのに死にまくってるのがちょっと気になる
(つε^0)・゚・。 セキさん…。
hosyu
筒井壮がいたらあの男も参戦したのかな
燃える……猪木か…
炎上する男のことだろう。
|w・)
(`ε´ )つ( *・w・)))) ::::|
119.予感と決意と
天井の照明が明滅する。
出口に向かって走り始めていた川上と正津は、思わず立ち止まって顔を見合わせた。
電力が戻り始めている兆候なのかもしれない。
「川上君!」
あわてて正津が近くの窓に駆け寄り、鍵を外して開け放つ。
しかし窓枠に乗りあがり、下を覗き込んだふたりは身体を強張らせた。
「しまった!こっち側は崖だったのか…」
下に広がるのは断崖絶壁。 高い波が絶え間なく岩場に打ち付けている。
そんな中に、しかもこの高さから落ちて果たして無事でいられるものだろうか…
「くそっ!」
身を翻しかけた川上のユニフォームを、しかし正津が掴んで引き止めた。
「正津さん?」
その瞬間、顔をしかめた正津のユニフォームの脇腹の部分が赤く染まっているのに初めて川上は気付く。
「正津さん!!?」
「大丈夫だ…」
「どこが大丈夫なんですか!!」
慌てて手当てをしようとする川上を制して、正津は口を開いた。
「いいから…話を聞いてくれ。 大丈夫とは言っても、僕は出口まではきっと走りきれない。
それに、何か予感がするんだ。この茶番劇から逃げきるにはここを飛び降りる以外に方法がない…そん
な予感が。」
「……」
そこまで一気にまくし立てた正津だが、黙り込んでしまった川上を見て急に不安に襲われた。
傷の痛みのせいだ、再び明滅し始めた照明のせいだと思い込もうとしても、説明しきれない暗い気持ち
が、正津の気持ちの余裕を急激に奪っていく。
「いや、予感だなんて落合さんの影響を受けすぎかな…ハハ。それに下がこれじゃあ、僕と心中してく
れと言っているようなもんだし。やっぱり川上君は僕を置いて……」
そんな自嘲を断ち切ったのは、静かに呟かれた川上の言葉。
「…信じます。」
「えっ?」
「正津さんの勘、信じます。」
「川上君?」
顔を上げると挑むような視線が返ってくる。
さっきまでとは違う…戦うことを決めたときの目だ。
「でも、心中するのは御免です。一緒に逃げ切ってオーナー達を悔しがらせてやりましょう。そしたら
俺たちの勝ちですよね?」
そう言い残すと、川上は窓枠を蹴り宙に身を躍らせた。
そして、重力に従い落下していく川上を見守った正津はというと、さっき感じた不安など一瞬のうちに
吹き飛んでいる自分に気がついた。
「なるほど…確かに君はうちのエースだよ……」
―だったら信じてくれたエースに無事に勝利をもたらす。それが僕の仕事だ。
そして、自らの身も重力に委ねる。
病院内に電力が回復して再び防護壁が降りたのは、背番号11と21の生存反応がモニター上から消えた直
後のことだった。
【残り19人・選手会12人】
しまった!変な隙間が……
お目汚し失礼しました!!
オーナの野望を砕くのはこの二人か…?
上手いねえ。マクーのお笑い伏線がちゃんと生きてる。
628 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/22 06:52:10 ID:TQeTbIz7
偶然だと思うが、ツツーミといいサハーラといい、
このスレで名前が出てしばらくしたら
どっちも辞めちまった・・・
クマーの名前が出たらヤシも辞めるだろうか?
と言ってみる
629 :
112:04/10/22 13:05:19 ID:po/hVHWN
120.拾い物
「おい、英智、あれ…」
隣を歩く小笠原が指を指す方向を見ると、誰かが倒れていた。ぴくりとも動かない。
しばらく逡巡したが、英智はそちらに足を向けた。
「行ってみよう」
おそるおそる、といった様子で近づいていく。
近づくにつれ、鉄の臭いが濃厚になってくる。
うっ、といううめき声はどちらの発したものだっただろうか。
そこにあったのは、首から上が吹き飛んだ死体だった。
血に濡れたユニフォームからかろうじて判別できる背番号は、14。
「平松さん…?」
小笠原は初めて見る死体に、腰が抜けてしまっていた。死体のそばにへたり込む。
「なんだよ、これ。なんで、死んで…」
今更ながら実感する。自分たちが、殺し合いの場にいるのだということを。
ー俺も、こうなるのだろうか。誰かを、こうしてしまうのだろかー
そう考えて震える小笠原の隣で、同じように呆然としていた英智が立ち上がった。
平松の死体の隣に置かれたままのナップサックを拾う。
問いかけるような小笠原の視線に、荷物を開きながら応えた。
「平松さんの荷物。なにか役に立つものがあったら貰っておこうと思って」
「英智は強いな」
「そうでもないよ。ただ…うろたえてたら、捕れるフライも落としてしまう」
英智らしい言いぐさだ、と思いながら小笠原も立ち上がった。まだ足は少し震えていたけれど。
630 :
112:04/10/22 13:05:58 ID:po/hVHWN
並んでナップサックをのぞく。
食料、水…これはいくらあっても困らない。自分たちの鞄に移していく。
「後は服なんかだな…うん?」
衣類の中をさぐっていた英智の手に、何か固いものが当たる。
引っ張り出してみると、15cm四方ほどの機械だった。ディスプレイと、複数のボタンが付いている。
「なんだこれ」
大きなボタンを押してみると、ディスプレイに光が灯る。
映し出されたのは、43と57の番号と、あたりの地形。
他のボタンを適当に押してみると、島全体の地図と、島中に散らばる番号に切り替わった。
それは平松に支給された探知機だった。
「俺たちの位置がわかる機械なのか?」
「そうみたいだな」
必死で画面を見る。数字は信じられないことに、かなり減ってしまっていた。
34、13…よかった、昌さんと岩瀬さんは無事なんだな。そう英智が思ったとき。
「11番が…川上さんがいない!」
小笠原が叫び声を上げた。はっとなって11を探すが、画面のどこにも見あたらない。
「川上さん…まさか」
立ちつくしている二人を、遠くから見つめる目があった…
【残り19人・選手会12人】
>>628 名前出したとたんに・・・
まあまだ本当に辞めるかはわからんが
本当に辞任きたね
このスレ恐ろしや・・・
霊感兄貴を呼んで来い
このスレ自体に何か憑いてないか?
()Φ._ Φ()・・・
このバトロワにそんな効果があるなら
ぜひ宮内も話の中に登場させてください・・・・・。
海老沢も
徳光も
喪前ら、いい加減にしるw
捕手
641 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/23 23:47:43 ID:p1PeOfVR
嫌な予感がするのであげますね
保守
643 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/24 15:40:38 ID:V0zs0c4+
日本一祈願age
ホシュ
645 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/24 22:35:54 ID:bZ3FKPV0
保守age
保守
647 :
112:04/10/25 07:38:09 ID:bZa/UiPk
121.この暗い空の下で
最後尾を歩いていた柳沢が立ち止まる。
何事か、と振り向いた落合と立浪は、空を見上げる柳沢の姿を眼にした。
「柳沢、どしたん?」
立浪が声をかけ、柳沢と同じように空を見上げる。
雲一つない、澄み切った青い空。
「空、きれいだな、と思って…」
「ほんまやなあ」
二人に倣って空を見上げた落合の眉がひそめられる。
ー綺麗な、空…?
落合の視線の先では、空がどす黒く染まっていた。
この島で行われている殺し合いの結果生じた、チームメートのものとも、選手会役員のものとも、生者のものとも、死者のものとも知れない負の感情。
怨嗟、無念、後悔、苦痛、恐怖、狂気ーそんなものが渦巻いて、綺麗なはずの空を暗くしている。
霊感の強い落合にしか見えない物であることを、落合自身承知していた。
だから、そのことを二人には告げない。わざわざ刺激する必要はない。
代わりに口にした言葉は。
「こんないい天気の日には野球したいよな」
それを聞いて立浪が吹き出す。
「おいおい、ドームに天気関係ないで」
「広島とか神宮とか横浜とかでいいじゃないか。後は…ナゴヤ球場?」
「落合さん、一軍の試合にしてくださいよ」
そんな冗談を交わして、笑い合う。
再び歩き出しながら、落合は思う。
ーこの暗い空の下でも、笑えるんだな、俺たち。
だったら、まだ希望はあるはずだ。
【残り19人・選手会12人】
648 :
112:04/10/25 07:39:39 ID:bZa/UiPk
>>635 ずいぶん前から宮内は登場してるが、辞める気配は全くない…
650 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/25 15:12:20 ID:X+JL8T0L
age
捕手
西武ファソおめ保守
来年こそ・・・
保守
655 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/26 17:21:05 ID:ufySkzum
捕手
糞スレ乱立て中につきage
122.偽悪の末に
関川は反撃するため走ったわけではない。
ただ、井上を逃がすために気をこちらに引き留めようとしただけだった。
途中で倒れてしまうだろう、漠然とそう思っていたのに。
「……。」
彼の握っていたトカレフの銃口が、高橋の額に当たった。
けれどトリガーを引いても、ガチッ、という気の抜けた金属音がするだけだ。
(なんで立ってるの、俺)
全く本人も予想外の展開。目を見開いている高橋とは対照的に、関川の目尻は下がり頬が緩んだ。
(こうなったって……決め台詞もないのに)
ふっと体から力が抜けるとほぼ同時に、狙撃銃の銃身が脇腹にぶつかってきて、
そのまま横倒しになった。俯せになった頭に、何度も衝撃が加わってくる。
銃で殴っているのだか、蹴ってるのだか……
(うぜぇ…)
次第に意識はもうろうとしてくる。高橋は執拗に攻撃していたがやがてその手を止め、
その場を後にしたらしい。体のどこが痛いのかがだんだん曖昧になってきた。全身がただ重く苦しい。
(馬鹿だよな…あいつ盾にして逃げれば、今頃………手がなあ、先に動いちまったから……
こんな事なら、あん時殺しとくべきだったなぁ……)
もう口の端を引き上げる力も残っていない。顔は半分泥に埋まって、無表情であったが、
心の内関川は苦笑している自分を見ていた。
(身を呈してあいつかばって、それが俺の最期か……格好悪ぃ。俺はそんな、善人じゃねぇよ…
俺は単に、試合出たくて、必死だっただけなのにな……)
すーっと、目の前が墨を流したように暗くなってきた。同時に、体の痛みが引いていく。
もう終わるんだなと、関川は悟った。
(一樹、せいぜい長生きして、野球、しろよ……)
彼の意識はある幻聴の中へと沈み消えていった。
満員のスタジアムに轟く、観客の歓声という幻聴の中へ。
【残り18人・選手会12人】
658 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/27 04:41:14 ID:yc+le3vG
捕手age
659 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/27 04:41:46 ID:yc+le3vG
捕手age
補習
関さんはバトロワでもリアルでも泣けるな…
663 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/27 18:37:30 ID:imkVeyVo
あげ
123. 消失、再びの焦燥
「馬鹿者どもが!! せっかくの宣伝用映像を台無しにする気か!!」
病院内の電力復旧作業が終了し、モニター回復の報告に来た責任者を、渡辺は激しく罵倒した。
傍らに立つ宮内は、苦々しい表情で老人を横目にし、責任者に向けて片手を振った。
「……もういい、下がりなさい。二度と同じ間違いはするな」
深々と頭を下げてモニタールームを辞する責任者を見送った後、宮内は渡辺を振り向いた。
「渡辺さん ── 『宣伝用』とは何のことです?」
「さて。君には関係のないことだ」
渡辺の視線は早速、映像が復活したモニターに向けられている。
「まさか、この映像をどこかへ売ろうとなさっているので?」
「くどいな。関係ないと言ったはずだが」
切り捨てる口調で、老人がじろりと一瞥をよこした。
(……古狸が)
宮内は胸中で苦虫を噛みつぶす。
渡辺が良くない企みを抱えているであろうことは明らかだったが、今それを追及したところで、
この人物が口を割るとも思えない。
あまり執拗になれば、逆にこちらの企みに勘付かれる可能性もある。
藪から蛇を出すことだけは避けなければならなかった。急いては事を仕損じる、だ。
「それよりも、見たまえ。宮内君」
画面を顎でしゃくりながら、渡辺が口を開いた。
「特別戦は中々に盛況だな。どこぞの馬鹿がヘマをしでかしおった間に、残り三人にまで減っている。
── くくっ、見ろ。やはりあの選手会の男、『17』を殺したあとは『70』の方へ向かっているようだぞ」
モニターには、生き残ったと思われる三人の様子が映し出されていた。
血溜まりの中でうずくまったままの背番号70。
壁に寄りかかりながら歩く、スーツ姿の男。
再び入口を封鎖した防護壁の前に佇む背番号67。
しかし宮内は、それとは別のモニターに目を奪われていた。
(……?)
生存反応消失を管理している端末の最新の情報によれば、背番号11と21が相次いで死亡したとの
記録がなされている。
ただし、死亡時刻は不明。これは病院内の一時的な停電により、正確な時刻が読み取れなかったためだ。
システムダウンが起こる直前の時刻から、復旧までの時刻の間に出来た空白は、およそ十二、三分。
その前に、背番号70が背番号55を殺したとの記録がある。
70が立て続けに11と21を殺したのだとすれば、多くの点で謎が生じる。
まず、死んだとされる二人の死体がない。そして、70が血にまみれて気絶していることの説明がつかない。
明らかなのは ── 十数分の空白の間に、二人の選手が文字通り消失したということ。
(まさか、また……首輪の誤作動なのか)
背番号35の一件が脳裏をかすめ、宮内は頭を抱えたくなった。
だとすれば、こちらの致命傷がますます確実なものとなってしまう……。
そんな彼の苦悩を知るよしもない渡辺は、マイクを通して病院内へ呼びかけていた。
「たかが選手諸君。特別戦は順調に進んでいるようだな。さあ、残り三人だぞ。
誰でもいい、せいぜい生き残りたまえ ── 」
【残り18人・選手会12人】
聡文ガンガレ
668 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/29 04:36:01 ID:yEOXpCHe
あげ
保守
670 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/29 20:04:03 ID:dYoB+9nG
∩___∩ /)
| ノ ヽ ( i )))
/ ● ● | / /
| ( _●_) |ノ /
彡、 |∪| ,/
/ ヽノ /´ ところで君たち、キーボードのHとJを見てみるクマ
671 :
112:04/10/30 01:36:05 ID:J0/7dKhD
124.エースの定義
連続して起こった銃声は、聞き覚えのあるー岩本が姿を消す前に聞いたのと同じー音。
(あいつの持っていた銃…!)
黒木は銃声の聞こえた方へ歩き出した。
渡辺の放送があったが、そんなものは耳に入らなかった。
思うように動かない体を支えながらゆっくりと進む。
かなりの時間を経た後、ついに、血だまりの中に倒れている「70」を見つけた。
3Mくらい離れた場所で立ち止まり、銃を向けてーすぐに降ろす。
ー気を失っている間に、楽に殺すなんて慈悲深いことは、してやらない。
乾ききった瞳で70を見下ろしながら呟く。
中里が目をさますまで、黒木は彫像のように佇んでいた。
どれくらい時間がたったのだろう。
中里が身じろぎし、瞼を開くーーー
目を開けると、白い天井が見えた。
自分がどこで何をしているのかがわからず惚けていた中里は、次の瞬間にはすべてを思い出して跳ね起きた。
うっかり床についてしまった手に激痛が走る。
おそるおそる持ち上げた右手は、血で真っ赤に染まっており、人差し指が欠けていた。
「うわぁぁぁぁ!指が、僕の指が!嘘だ嘘だ嘘だ!」
「ーーーその手ではもう投げられないな」
狂乱する中里に、冷たすぎる声が投げかけられた。
672 :
112:04/10/30 01:37:02 ID:J0/7dKhD
「あんたは…」
視線の先に黒木の姿があった。右手には小さな銃が握られている。
あわてて自分の武器を、マシンガンを探すが見つからない。おそらくは川上達が持ち去ったのだろう、と見当をつける。
(くそっ、あのハゲ!)
罵詈雑言を心の中でぶちまけながら、それでも虚勢を張ってみせる。
「ーなんだ、ポンコツエースじゃないか。こんなところまで追いかけてくるなんてーよっぽど暇なんだね?」
本人が意図したよりはずいぶんとぎこちない笑顔が、中里の顔に張り付いた。
「そんなに、僕を殺したい?”終わったエース”を殺されたのが悔しかった?
ーそれとも、あんたのプライド?侮辱されたのが許せない?」
黒木が何も言わず、銃も向けてこないのが逆に不気味で、中里は焦り始める。
ーなんだ、こいつ。前会ったときと全然雰囲気が違うー
「…なんとかいったらどうなんだよ!」
怒鳴りつけた中里に、しかし黒木は全く違う言葉を返した。
「お前は、エースになりたい、っていってたよな」
無表情な顔の中、瞳に光が灯る。ー赤い光が。
「ーエースって、どんなピッチャーのことだと思う?」
673 :
112:04/10/30 01:39:50 ID:J0/7dKhD
「そりゃあ…チームで一番勝てるピッチャー。開幕投手やって、一年間ローテーションを守って、
最多勝を争って。チームを引っ張っていくんだ。ーそしてファンやマスコミから称賛を浴びるんだ」
「一番勝てるピッチャーが、お前のいうエースなのか。…浅いな」
静かに聞いていた黒木がため息をつく。それが勘に障った。
「じゃああんたはどうなんだよ!」
「絶対に負けられない試合に、マウンドを託される者ーそれが、エースだ」
間髪入れずに答えが返ってくる。
「コイツで負けたら仕方ない、コイツが打たれたら諦めがつく…それだけの信頼を、監督からも、
コーチからも、チームメートからも、ファンからも勝ち取った者」
ゆっくりと銃を握った右手が動き始める。
「当然、実力も必要だけど。それだけじゃエースになれない。…投手一人で勝てるほど、野球は甘くない。
後ろで守り、打ってくれる野手がいるから、勝てるんだよ」
銃を中里の額に向ける。
「ー仲間を殺してエースの座を奪い取ろうとしたお前が、信頼されると思うか?
お前のために打ってやりたい、ぎりぎりのプレーをしてやりたいと、思ってくれる奴がいると思うか?」
蒼白になった中里に、黒木は宣告する。
ーまるで、死神の宣告のように。
「お前は、エースになれない」
黒木が引き金を引く瞬間、中里は身を翻して走り出した。
弾が体をかすめるが、かまわずに走る。
ー武器を探して、あいつを殺してやる。絶対に!
俺はエースになるんだ!
信頼なんかなくったって、実力で認めさせてやる!
【残り18人・選手会12人】
…中里ガンガレ
125.静かな細き声
仲澤は心の中で舌打ちした。
―まだか・・・まだ島には付かないのか・・・!
その時、仲澤の背後から声が掛かった。
「あの・・・」
聞き覚えのない声。迷わず銃を向けた。振り返ると、軍服。
―クソッ、まだ居やがったのか!
「待て!あ・・・待って、ください・・・」
軍服姿の男は、両手を上に挙げ、抵抗する意志がないことを示した。
それに応じて仲澤が銃を下げると、男は仲澤に向かって敬礼した。
「な・・・!?」
「島に、行くんですね・・・」
「ああ」
「オーナーは島には居ません」
戸惑う仲澤を尻目に、男は続けた。
「あの人たちは・・・殺し合いを安全なところで見物しているのです」
「・・・予感はしてたが・・・」
「それでも、島に行くんですか?」
仲澤は迷った。
―何なんだ、こいつは?オーナー連中の罠なのか・・・?
「おい、どうしてアンタは―・・・」
「私も、野球は好きですから」
少し照れて、しかしさも当然のように男は言い放った。
「ある球団中心、ある人物中心で物事が動くのは、私も間違っていると思うんです」
仲澤はじっと男の目を見た。ただ、呆気に取られていたのかもしれない。
「でもアンタは・・・」
「軍隊と言っても、オーナーたちの私兵団です。雇われているにすぎないんですよ」
仲澤はまた驚かされた。てっきり自分たちは国を相手に戦っていると思ったのだ。
考えてみれば、いくらナベツネでも軍隊を動かせるわけがない。
「立場としてみればあなた方と、大して変わらないんです」
微かに皮肉を含めて、男は笑った。
最初は疑っていた仲澤も、この男が嘘を吐いているようには思えなくなってきた。
「・・・さて、先ほど言った通り、オーナーたちは島には居ません」
「でも、選手たちが・・・現実に殺し合っているんだ」
―俺たちは、助けにいかなくちゃいけない。このままにしておくわけにはいかない、絶対に。
「・・・分かりました。島まで案内させていただけますか?」
仲澤は耳を疑った。
「私にも一緒に反抗させてください。一人のプロ野球ファンとして」
同時刻、レオ・ゴメスは途方に暮れていた。
自分を呼び出した白井本人と全く連絡が取れなくなってしまったからである。
(もっとも、このとき白井は殺されていて、連絡が取れないのは当然であった)
―どうするべきか・・・
中日の選手を救いたい。その為には「島に渡って欲しい」と白井オーナーから聞かされて地図を渡され、港まで来てはみたが・・・
通訳すら、いや人影すら見えず、港は閑散としている。
「あれ?」
やがて通行人の一人がゴメスに気付いた。
「ゴメス・・・さん、じゃ?一体こんなところで・・・」
ゴメスは困ってしまった。通訳がいないのだ。身振り手振りで話を伝えるほか方法はない。
持っていた地図を見せ、島の場所を指し示すと「ここに行きたい」と身振りで伝えた。
地図を見せ、島の場所を指した瞬間、男はビクリと反応した。
「ゴメスさん、あんたそんなとこに行っちゃなんねえ」
男は漁師のようだった。ゴメスが身振り手振りで伝えようとしたのも、その為だった。
もしかしたら連れて行ってもらえるかもしれない。しかし、男の態度は冷たかった。
伝わっていることは分かるが、首を横に振って聞かないのである。
―おかしい。この男は何か知っているのだろうか。
「ゴメスさん、あんたの気持ちはよく分かる。でもそこの周辺には近付かないように最近言われたもんでな・・・」
―私は、選手を助けたいのだ。どうか、船を出してはくれまいか・・・
ゴメスは胸の十字架を握り締めて、必死に頭を下げた。
「・・・とにかく、俺じゃあんたの話は良く分からねえ。悪いな」
―そんな・・・ちょっと待ってくれ。このままでは選手が死んでしまう。
「・・・ベースボール、キライ、デスカ?」
踵を返しかけた男の体が、止まった。
「嫌いじゃない・・・プロ野球は、そうだな・・・夢だったよ」
男の言葉を聞き届けて、ゴメスがまた口を開いた。
「・・・タスケテ、クダサイ・・・」
深々と頭を下げた。男は固まったように頭を垂れるゴメスを見つめていた。
「・・・ゴメスさん、今日本のプロ野球は大変なことになってるんだ」
男が固く閉ざしていた口を開いた。
「俺もよぉ、柄じゃあねえが、署名するっていうんで、紙に名前を書いたり色々したよ」
「だけど、紙の上の俺の名前に、一体どれほどの効力があるって言うんだ?ファンの声なんて奴らにゃ聞こえやしないんだ」
「結局、俺には・・・ファンには何にもできねえのよ」
「・・・ファン、ダイジネ」
それをどうにかして伝えようと、ゴメスは必死に胸に手を当てた。
「・・・俺があんたを助けたら、ファンも何かできたことになるかな・・・」
その呟きは野球ファンの総意であったのかもしれない。
「・・・船、出すよ。ゴメスさん、乗ってくか?」
男は親指をぐいと倒して、「乗れ」と合図した。
ファンの思いを乗せた船が、港を離れ、殺し合いが続いている島へと進路を取った。
【残り18人・選手会12人】
泣けすぎ。正直、今まで見てきた2ちゃんののバトロワ史上最高傑作だ
こんなにプロ野球ファンがカッコよく描かれたの初めてじゃない?
感動したよ。泣きそう。
もう名作だよね…一冊の本にして欲しいよ
126.選手会キャンプ跡地にて
「あれ……」
松中の呟きには疑問の他に不安が混じっていた。同じ事を感じたのだろう、
小久保は足の痛みを顧みず駆けだして、そしてすぐに倒れた。
「いない……?」
場所を間違えたのでは、というある種の希望もすぐに打ち砕かれた。
隅の方にきちんと集められたゴミや、地面を抉ったペグの痕跡。
ここがキャンプ地だったのは、疑いようがない。
辺りを足早に見回ってから、松中が呟いた。
「置いて……いかれた?」
彼は必死になって、自分の台詞を打ち消そうとした。中村さんは言ったじゃないか、
『必ず生きて戻って来い。パリーグの灯を消すな』と。俺たちを見捨てるなんて、そんなはずは絶対……
それでも、思考が悪い方向へ引きずられていくのは止められない。
こんなところで、二人残されてしまうというのはつまり、ほとんど死を意味するのではないか。
松中はそのひらめきに、頭を抱え叫んだ。
「畜生!どうしろって、どうしろって言うんだ!」
「マツ、落ち着け」
対照的に、座り込んでいる小久保は落ち着いていて、形のはっきりしない恐怖に怯える彼を宥めた。
「だって……」
「大丈夫だ。案ずるな」
よろよろと小久保が立ち上がって、松中の肩に寄りかかる……と同時にばんっ、と勢いよく、
彼の背中を叩いた。
「お前が背負ってるのは、何だ?」
吃驚して素に戻った彼の顔は、なかなか滑稽だ。
「え……?」
「即答しろよ、パリーグだって。ああ、プロ野球界でもいいな」
意地の悪い笑みを浮かべて、小久保は言う。冗談なのか本気なのか、松中にはすぐに判断できなかった。
「俺たちは…何度も言うようだけど、オーナーを倒しに来たんだ。日本プロ野球を救うために、な。
オーナーどものせいで、おかしな事になってるけど、そこで俺らが目的を見失ったんじゃ……
些細なことで疑心暗鬼に陥ってたんじゃ、こっちの負けだ」
小久保の顔から、もう笑みは消えていた。何を言わんとしているのか、彼も理解した。
「何かあったんだ。他の連中だって、俺らのこと置き去りにしたいわけじゃない」
そう言ってすぐ、傷ついた足を一歩踏み出したので、
「えっ、どこへ…?」と松中が尋ねた。まだ半分くらい、ぽかんとしているらしい。
小久保は地面を、辺り一帯を被う雑草を指さした。
「わかりにくいけど、踏みつけられた跡がある。これを辿れば、もしかするかも。な」
古田さんのことだから、こういうのも計算済みなのかも知れない。そんなことを
考えながら、小久保は痛む足で、松中を引っ張っていった。
【残り18人・選手会12人】
いま一気読みし終わった。
古田カッコイイ。
緒方の行く末が気になる。
黒木のキャラが意外だ。
名作だ。
18人+12人+監督達+仲澤+ゴメス+オーナー達
まだまだ先は長いな…
アレやリナレスは出ないのかー
残念だ…
まあ殺し合いしない方がいいんだろうけど
126.心の傷
岩瀬は木に凭れ掛り、辺りを警戒している。
一緒に行動している山本は、偶然見つけたチームメイトの久本と長峰、日ハムの岩本の死体をせめて人目に付かないところに運んでやりたいと、格闘している最中だ。
「少し前までは、まるで衛生兵だななんて笑いあえていたのに…」
今の自分たちは、さながら死体処理班だ――そう岩瀬は思う。
二人は立浪と石川のコンビと別れてから今まで、生きている人間とはまったく出会えていなかった。
「すまん、待たせたな。」
相当苦労したのだろう…汗だくになって草叢の奥から戻ってきた山本のユニフォームは、誰の物とも知れない血と泥とで、だいぶ汚れてしまっている。
「いえ…あやまるのは俺のほうです。」
―せめて、せめて自分の手足が自由に動けば、昌さんだけにこんな仕事をさせなくて済んだのに……
岩瀬はおもわず唇を噛みしめた。
「そんな顔するなよ…さぁ、行こうか岩瀬。
次は敵でもいいから生きている人間と会いたいもんだな。」
「昌さん…」
「ん?」
「大丈夫ですか?」
「なんだ、また年寄り扱いか?俺は怪我ひとつ無くピンピンしてるぞ。」
そう言いながらも、明らかに無理をしている様子の山本に岩瀬の苛立ちは募る。
「違う、そうじゃない、そうじゃないでしょう!!」
「岩瀬……?」
「俺は…いつまで待てばいいんですか? いつになったら、昌さんを助けてもいいんですか? それとも、俺には本音は話してもらえないんですか!?」
辛いのは身体だけじゃないでしょう…その呟きは声にはならなかった。
こんなことで泣きたくはない―そう思った岩瀬は、こみ上げてくる涙を必死に堪えねばならなかったからだ。
その様子を見て、しばし逡巡するような素振りをみせた山本だが、諦めたようにひとつため息をついて自らを取り繕うのを止めた。
「…そ、だな…大丈夫ではないな確かに…みんな俺より全然若いのにどうして……なぁ岩瀬…俺は疫病神なのかな?」
「昌さん!!!」
ついに零れた山本の弱音に、自分からそう仕向けたにも関わらず、岩瀬はおもわず叫んでしまった。
「知っているだろ?俺と一緒に働いたエースたちは、みんな早くして引退していっちまうんだ。
今中から始まって、野口も死んだ、これからエースになれたかもしれない若い連中もどんどん死んでいく……
憲伸の奴は…あいつ、まだ生きててくれているのかな…」
「生きてます、きっと生きてますよ! もし、憲伸の身に何かあったとしたら…
俺が先発にまわってエースになってみせますから!俺は昌さん以上に丈夫だから、昌さんがこれから打ち立てる予定の最年長記録を全部更新してやりますよ、だから昌さんは疫病神なんかじゃありません!」
「おいおい、なんだよそれ…どこから突っ込めばいいんだ?」
岩瀬の思わぬ熱弁に、少しだけいつもの笑顔が戻った山本の様子に岩瀬の顔も自然と綻ぶ。
「昌さ…「しっ!」」
しかし、その笑顔は一瞬で掻き消えた。
山本は緊張した面持ちである一点に目を凝らしている。
「?」
岩瀬もその方向に耳を澄ませて、その理由を瞬時に悟った。
草叢を掻き分ける音が微かに聞こえてくる。人であったら明らかに複数人いるだろう。
「…いま、チラッと人影も見えたし間違いないな。さっきは敵でもいいとか言っちまったが、さて……」
もし敵だとしたら、見つかってしまえば、明らかにいろいろな意味でこっちのほうが不利な状況だ―
前言撤回、どうか味方であってくれ……そう願いながら山本と岩瀬は共に草叢に身を潜めた。
【残り18人・選手会12人】
128. “死にたくない”
(…畜生、畜生…っ!!)
中里は際限のない悪態を繰り返しながら、病院の廊下をひたすらに走っていた。
『お前はエースになれない』
氷よりも冷たい声音が耳の奥に突き刺さり、脳裏を離れない。
言い表せない悔しさからか、根源的な恐怖からか。歯の根が合わず、小刻みにがちがちと震えている。
「僕はエースだ…」
無意識の呟きが唇から漏れた。言い聞かせるように中里はその言葉をかみしめる。
「僕は、エースだ! そうでなくちゃいけない、それ以外じゃダメなんだよ!!」
閉ざされた建物の内部に、己の吐き出した叫びが反響する。
いくつもの壁を跳ね返り、それはただ虚しく拡散していく。届くあてもないままに。
(!)
不意に足がもつれた。意志に反して傾いた身体が肩から壁にぶつかる。
酸欠を起こしたのだと気づいたのは、壁に手をついて何とか体勢を立て直してからのことだった。
第二関節から上を失くした右手の人差し指からは、まだ血が滴り落ちている。
「ちくしょう……」
寒気がする。
頭はガンガン痛むし、目眩はおさまらないし、命の次に大事な利き手はこのざまで……。
(最悪だ ── )
『その手ではもう投げられないな』
またあの男の声が聞こえて、中里はぎっ、と前方をにらんだ。
── あいつ、スクラップのくせに、ムカツクことばかり言いやがって ──
荒れる呼吸を沈めようと胸に左手を当て、後ろを振り返る。
白い壁が延々と続く廊下の向こうには、何の気配も感じられない。
よく考えてみれば、あの男 ── 黒木は全身に怪我を負っているようだった。それなら、追いついて
これなくて当然じゃないか。
(なんだ、死にかけなんじゃん。だったら楽勝だよ)
とは言え、あちらには拳銃がある。油断は禁物だ。
中里は視線を上向けた。その先には『備品庫』と書かれたプレートが見える。
そこに近づき、引き戸を開けて中に入った。
何でもいい、武器になるものがあれば ── 戸棚の中身を手当たり次第に漁っていく。
と、左手の指が金属製のものに触れた。歯ブラシの柄のように細いそれは、取り出してみると
未使用のメスだった。
メスの柄をわきに挟み、刃の部分を覆う紙を左手で苦労しながら何とかはがす。
あらわになった光沢を放つ刃を見やり、中里は薄く笑った。
サブマシンガンには劣るが、下手なナイフよりはよっぽど使える。左手でメスを握り、一応の警戒を
配りながら廊下へ出ようとした。
その時開いたままの引き戸の空間に、靴の先が見えた。
「っ!」
足を止めた中里の視界に人影が入りこんでくる。こちらを向いたその人物と、かちりと視線が合った。
「中里さん…」
「聡文…」
双方が目を丸くし、互いの名を同時に呼んだ。
「何だよ、お前もこの中にいたのか。足音立ててなかっただろ、驚かすなよ」
高橋聡文のことは最初から先発組の連中として認識していなかったので、中里にとっては
二重の驚きだった。
聡文は硬い表情のまま、こちらを観察するような目を向けてきている。
その手に握られているのは散弾銃。銃口は今のところ下がっているが。
視界の端にそれを確認したとき、聡文が口を開いた。
「オーナーの放送聞きましたか? 残り三人って言ってました」
放送? 何のことだ? ── 中里は訝ったが、即座にその意味は飲みこめた。
『特別戦』はまだ続いている。最後まで生き残った一人が武器庫の武器を手に入れることができ、
外へ出られる。そういうゲームだったはずだ。
残り三人とはつまり、自分と、あの男と、目の前の高橋聡文。
「中里さん。俺、死にたくないんですよ」
伏目がちに眉間に皺を寄せて、聡文が呟くように言う。
懇願するような、それしか答えを出せないとでもいうような口調だった。
その先に続く台詞を中里は知っている。だからこそあえて言葉を割りこませた。
「へえ、奇遇だな。僕もだよ」
目を上げた聡文の視線が突き刺さる。それをまともに受けとめて睨み返しながら、中里は口の端を
笑みの形にゆがめた。
(だから、死ねよ)
左手の凶器を閃かせると同時、相手が散弾銃の銃口をこちらに向けるのが見えた。
【残り18人・選手会12人】
692 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/31 08:36:49 ID:p/qWpxEM
訂正…章番号間違えてましたorz
126.心の傷→127.心の傷
です。
112氏、お手数かけて申し訳ありませんが、保管する時に訂正お願いします。
保守がてら、自分の馬鹿を晒しage
>あいつ、スクラップのくせに
お前のほうがよっぽど(ry
694 :
代打名無し@実況は実況板で:04/10/31 12:20:38 ID:ZYwlfndg
中里秋季キャンプ参加age
今日ここまで一気に読んだ。
最高でした。職人様頑張って下さいませ。
リアル中里はさっさと肩を治せと。
昌さん…( ´Д⊂ヽ
129.操りを絶つ閃光
「な・・・高木・・・!?」
「すみませんね、緒方さん。俺は――」
レギュラーが、欲しい。
いや、それだけじゃない。俺はきっと相手を恐怖に突き落とし、怯えた顔を見ることに快感を覚えている・・・
それに、この人の話はまずい。『確固たる信念』が、暗示が解けてしまいそうだ。
「どうして・・・」
「まだ理解できませんか。俺はオーナー側の人間なんですよ」
吐いて捨てた。目の前の緒方の表情は困惑から段々と怒りへと変わってきた。
「・・・お前、裏切ったのか」
「裏切った?確かにそうかもしれません。でも手を汚すだけの理由があるんですよ」
「理由?人を殺すことを正当化できるような、そんな理由なんてあるのか?」
「・・・あなたには分からないでしょうね」
やはりこの男の言葉は、俺に掛けられた暗示を解こうとしている・・・。早くしないと危険だ。
「死んでもらいますよ、緒方さん」
引き金にかけられた指にギリギリと力を込めた。
閃光が走る。
銃口から発せられたのではなく、銃口を下に薙ぎ払うような、閃光。
不意を突かれて、高木は不覚にも拳銃を取り落とした。
慌てて拾おうとすると、喉元に鋭く光る切っ先が突きつけられた。
「・・・動くな」
誰だ、邪魔をしたのは。高木は切っ先を突きつけた人物を睨んだ。
そして驚愕した。
「ど、どうして・・・!?」
「前田・・・?」
そこには、この『ゲーム』には関係がないはずの、広島東洋カープの選手が眼光鋭く立ちはだかっていた。
その手には日本刀が握られていて、高木の喉元に突きつけられたのはそれだった。
「緒方さん、無事ですか」
「あ、ああ・・・」
「馬鹿な・・・どうして・・・」
「高木、か?お前」
「話は聞いとった・・・この裏切りもんが」
―裏切り?人の気持ちも知らないくせに。もう俺は・・・俺は・・・
「ああああああ!!」
突如奇声を発し、高木が銃を掴んだ。
―もう、俺は人を殺しちまったんだ!もう、もう・・・戻れない・・・
判断能力が鈍っていたとはいえ、人殺しという自責の念は高木の精神を確実に蝕んでいた。
ある意味で、高木は「レギュラー獲得」を免罪符に、狂気から逃れていたのである。
しかし暗示が切れた操り人形に残されているのは、もはや狂気のみ。
「俺は・・・地獄に落ちる・・・でも、俺だけじゃない・・・あんたらもオーナーも一緒に地獄に落ちるんだ!」
「・・・そんなにレギュラーが欲しかったのか?高木」
その一言は高木の心を深く抉った。
ビクリと震えた高木の隙を見逃さず、前田は銃口をまた刀で叩き、下を向けさせた。
「名前が泣いとるぞ、高木大成!!」
刀を返すと、鳩尾の辺りを剣道の胴のように、峰で打った。
気絶した高木を見下ろして、緒方が口を開いた。
「前田、どうしてここに・・・?」
「監督の話を聞いてしまったんです」
話を聞いてしまった後、前田は監督に頼み込んだのだった。
『お願いします、どうか自分を行かせてください。選手会の手伝いをさせてください』と。
最初はしぶっていた監督も、とうとう前田の熱心さに負け、選手の無人島行きを許可したのであった。
「後からですけど、他の奴らも来ます。これで――」
「そうか・・・」
―前田、何で来たんだよ。俺だけで良かったんだ。こんな目に遭うのは・・・
「とにかく、古田さんに知らせなくちゃ・・・」
緒方の頭に無線機の存在が過ぎった。
―そうだ、あれを使えば・・・
ちょっと待てよ、緒方は無線機に手を伸ばしかけて、思いとどまった。
―高木が選手会を裏切っていた。とすれば、だ。もしかしたら、まだ他にも・・・?
「前田、今キャンプの移動最中なんだよ。古田さんにも伝えなきゃいけないし、ついてきてくれるか?」
緒方は無線機を使わないことに決めた。高木の裏切りを目にして、緒方の心の中に疑いの念が沸いてきていた。
【残り18人・選手会12人】
>>697-700 前田&日本刀キタ━━━━━━ヽ(,,゚∀゚)ノ━━━━━━━!!!!!
職人さんGJ!!
前田、日本刀持参で自主参加キタ━━━━( `仝´ )━━━━ !!!!!
職人さん、乙!!
例のAAを貼りたくなったw
703 :
代打名無し@実況は実況板で:04/11/01 01:10:23 ID:KTphjITc
日本刀と言えば首チョンパ
首チョンパと言えばイラクの香(ry
前田かっちょいいなあ・・・
しかし大成の名前へのツッコミはリアルでキツすぎ
大成って名前に関する由来とかエピソードとかあるの?
漠然といい名前だなぁ、ぐらいとしか思ってなかったけど。
ツッコミがきついってどういうことだろうと疑問に思ったもんで。
スレ違いかな?
確かに前田かっこいいが…ちょっと唐突すぎないか?
残り人数に対してやる気の奴少なすぎ。
いつまで経っても終わらないヨカーン
前田の到着が中日二軍より早いってのはどうなんだよ
てか、そんな簡単に島にこれるようだったら援軍呼び放題だぞ
ある意味さっさと終わる気もするな
あと、暗示って高木にかけられてたのか・・・?
緒方の方だと思ってたんだが・・・
ん?大成がレギュラーが欲しいって思ってることを、何で前田が知ってるの?
大成がバラしたのはオーナー側についてるってことだけじゃあ…。
人を殺したっつっても大成にとっちゃ未確定なんじゃないの?
琢朗が戻ってこなかったから、まあ確信はしてるんだろうけど。
う〜ん、これじゃぁ話がゴタゴタになるな。
選手会繋がりのなかむらさんと最初は捕らわれてて軍艦に乗った二軍は分かるけど・・・
前田がどうやって島の場所知ったんだ?
ピーコが知ってるはず無いし。それに、二軍よりも早く着いてるのも謎だし。
横浜のなかむらさんが早くについて、名古屋港から二軍が出てるんだから、小笠原諸島方面に島があると推測するけど・・・
それで広島の前田があっという間に着いてるってのもなぁ・・・
それにこんな風にどんどん出したらキリ無いだろうし。
ストーリ的にどうなんだろ。
瀬戸内海だったんだろう
個人的に前田はかっこいいからアリ
711 :
代打名無し@実況は実況板で:04/11/01 12:27:57 ID:b6FTck9o
前田が何故こんなに早く着いたかというと前田だからだ。
712 :
代打名無し@実況は実況板で:04/11/01 12:30:32 ID:6ASt6+Ra
北谷球場にチャンピオンフラッグが翻っている!
しかし何だか秋季キャンプが本物のバトルロワイヤルと化してきたなw
>713
だな。もう参加すらさせてもらえない人もいるし
>705
深い意味はないです。
野球選手としての現状を考えると、
もし球場で野次として言われたらキツイなあと思ったので。
130. 一寸先の急転
「そしたら急ぎましょう。こいつもいつ目を覚ますかわからん」
倒れ伏す高木を見やり、厳しい表情で前田が言った。
「そう、だな…」
緒方は頷いたが、その首の動きはぎこちなかった。
── まだ、銃を背中に突きつけられた感触が残っている。
(…まさか、選手会の中に裏切り者がいたなんて…)
裏切りや疑念などというものからは縁遠い環境で普段を過ごす緒方にとって、高木の背信行為は
あまりにも衝撃的だった。
野球はチームスポーツだ。投手を、野手を、仲間を信じることで連係プレイは成立する。
疑心を持ちながら試合をするなど、あり得ないことだ。
(なんで、こんなこと…)
今しがた高木が本性を現すまで、彼の動きに不審な点は見られなかった。……いや、自分が
気づかなかっただけなのかも知れないが。
── だめだ、俺は甘いな。緒方は唇をかみしめる。
視線を落としざま、高木の持っていた銃が目に飛び込んできた。
(そうだ、今のうちに銃を ── )
彼が意識を取り戻す前に、武器を奪っておかなければ。緒方は地面に転がる銃に手を伸ばした。
かがみこんだその時、視野の隅で黒い影が動いた。
「!」
あっ、と声を押し出した時にはもう、目の前の銃は消えていた。
「緒方さん!」
前田の叫びが聞こえるのと、自分のこめかみに鉄製の筒の感触が押し当てられるのとは、
ほぼ同時のことだった。
「動かないでくださいよ」
感情のこもらない声が耳元で囁かれる。
緒方はとっさに首をめぐらそうとしたが、巻きついた左腕の拘束がそれを許さなかった。
気道を圧迫され、息が詰まる。
「貴様 ── 」
「そっちも。下手に動いたら頭を吹き飛ばしますよ」
牽制で投げかけられた一言に、日本刀の柄に手をかけようとしていた前田の動きが止まる。
緒方は前田を見て、かすかにかぶりを振った。
「……前田、言う通りにしてくれ。今は……」
憤怒に染まった前田の表情が徐々にこわばっていく。続けて発せられた、「武器を捨てて」という言葉に
おとなしく従い、日本刀を地面に放り投げた。
「高木、なぜ……」
銃口が押し当てられた右のこめかみが痛い。顔面からは急速に血が引いていくのに、頭は煮えたぎって
いるかのように熱く、まともに物を考えられない。
背後に密接し、自分を拘束しているのが高木であることに疑いの余地はなかった。だが ──
峰打ちとは言え、前田の一撃は容赦のないものだったはず。それなのになぜ、気を失いもせず、彼は
平気で立っていられるのか。
その思いは前田も同じだったらしい。怒りが引いた後のその表情は、疑問と茫然の入り交じったものと
なっていた。
「……あー、いいねえ。その顔」
不意に高木が呟いた。声音は平坦なままだったが、嘲るように漏れた息が首筋にかかった。
── 笑っている。
「二対一は卑怯ですよ。だいたいこのゲームに関係ない人が何でしゃしゃり出てくるんです?
まったく、島の周りの警備はどうなってんだか……」
「……高木!!」
緒方は必死で声を張り上げた。
怒鳴りつけたこと自体に意味はない。ただどこかで断ち切りたかったのだ、この混沌とした空気を。
「なんです? 俺が立っていることがそんなに不思議ですか?」
── まあどうでもいいじゃないですか、そんなこと ── 高木の言葉は聞こえていたが、それよりも
心臓の鼓動がうるさくて仕方ない。
誰か説明できるものならしてくれ。緒方はどこへともなくそう願った。
何故という疑問だけが飛び交う、今のこの状況は一体なんなのか。
「余計な人が一人増えたけど、まあいいです。このまま俺と一緒に古田さんたちと合流してもらいますよ。
もう少しだけ、俺と仲良くしていてください」
ふざけるな、という叫びが喉まで出かかったが、首元の拘束を強められ、それは叶わなかった。
「あ、そうそう。いいことを教えましょうか。抵抗するならしてくれてもいいですけど、
無駄に死期を早めるだけですよ」
そして、高木は告げた。思いも寄らない事実を。
「あんたたち選手会役員の身体には、カプセルに入った爆弾が潜んでる。
無線機には盗聴器が仕掛けられてる。この会話はオーナーに筒抜けだ。
おかしな真似をしたら、すぐにでも身体は木っ端微塵ですよ ── 」
【残り18人・選手会12人】
続きでちゃんと書きたかったのですが、
今晩はちょっと無理そうなので業務連絡だけ。
『カプセル爆弾が選手会役員の体内にある』というのは
大成がかましたハッタリです。
大成が何で気絶してなかったのかという理由もちゃんと考えてます。
こういうこと書くと、リレーしにくくなるとか言われそうですが、すみません。
体内爆弾はさすがに反則だろうと思ったので。
>>719 乙です。危うくカプセル爆弾設定拾うところでしたw
721 :
112:04/11/02 00:35:07 ID:V5LHYP4r
個人的な意見だけど…
「ドラゴンズ」のバトロワだから、
選手会以外の他球団の選手は控えめにした方がいいんじゃないかなあ。
特に前田はキャラ強烈だから、ドラゴンズの選手がかすんでしまうような…
コテハンでこんな事書くのもどうかと思ったけど、
名無しで書くのも無責任なんで…
前田が唐突過ぎ
前田一人ぐらいなら何とかなるかもしれんが、これ以上増えるとなると…
それにしても何故前田?ww
正直冷めた
荒唐無稽の話を読ませる説得力がそれなりにないとバトロワは面白くないよ
いきなり前田が出てくるのはそのへんが欠けてる
725 :
代打名無し@実況は実況板で:04/11/02 05:01:30 ID:6aYgq3rW
今までの作家の方々と比べて、作品の構成が甘かったんじゃないですかね。
これは中日のバトロワなので考えてほしいですね〜
>>721 正直自分もそう思いました。
けど、あのあと随分レスがついてたのに、
前田を出した書き手さんからの反応がないし、すぐに話題も変えられてたから
ここの住人さん(書き手・読み手含めて)は前田が登場することに
あんまり違和感は持ってないのかなーと思ってしまった。
最初に大成出したのは自分だし、緒方に銃を突きつけて以降の話を
なかなか投下できなかったのも一つの原因かなあとは思うんですが…。
流れを変えようとして、焦って続きを書いてしまったのはまずかったかも知れません。
>>716-718の話は取り下げ可能ですので、判断は住人さんにおまかせします。
>>697-700については、書き手さんの反応がないので何とも言えませんが…。
それから今後、自分もコテ(126)名乗ることにします。
中途半端はイカン気がするので。
727 :
代打名無し@実況は実況板で:04/11/02 07:52:32 ID:y5U7ipmn
前田イラネ
728 :
代打名無し@実況は実況板で:04/11/02 07:58:39 ID:xMMijwmh
立浪 和義
早く白状して、謝罪しろ!
犯人、立浪かよww
漏れとしては別に中日バトロワだからどう、とかに拘りはない
中日ファンである以前に野球ファンなので中日の選手しか知らないわけじゃないし
選手会vs中日の対立が対等である以上は時間軸がブレナイ限りは違和感を感じない
正直、面白ければなんだっていいのよ
まぁ前田の登場が純粋に物語として伏線に欠けていたような気もするけど
色々な書き手が集まってのサプライズがリレー小説の醍醐味だから
無秩序化しないならば良いんじゃないかな
一人くらいなら警備や時間が外伝的な要素で何とかなるだろう
選手会やオーナーなど、登場人物は多岐に渡っているから
今回は読み手も書き手も中日ファンばかりじゃないと思う
一長一短はあるにせよ、それらの特徴を利用して
単なる一球団ファンの自慰に終わっていないところは好きなんだ
ごめん、何言ってるかわからないね
一読者の戯言だと思って流してください
で、書き手さん頑張ってください
ところで前田って誰?
>>731 あまりにも突発的で思いっきりワロテしまったw
前田智徳はカープの背番号1の外野手。
多分ググってみたらどんな選手か分かると思うよ。
733 :
112:04/11/02 21:00:24 ID:V5LHYP4r
ええと、とりあえず、
>>697-700 >>716-718は今のところ保留という形にさせてもらっていいでしょうか…
どうするにしても、この2つはセットでした方がいいような気がするんで。
なんか自分の一言でさらに混乱させてしまったですね…ごめんなさい。
中日のバトロワだから、中日の選手の方を多く取り上げて欲しい。
ずいぶん前に出たっきりで全然近況がわかんない人も多いし。
それより他の球団の人を多く取り上げるのは、誰のバトロワなんだかって思う。
生意気言ってすいません。
一読者の意見です。
楽しみに読んでるのでつい・・・。
>>734 >それより他の球団の人を多く取り上げるのは、誰のバトロワなんだかって思う。
それを言ってしまったら、中日vs選手会っていう設定の意味が無くなるよ。
俺が見てる限りでは、中日と選手会のバランスはある程度保たれてると思うんだが。
前田登場でギクシャクしてる感じだなあ…。
読者がえらそうに言って申し訳ないが、前田の現れ方はやはり無理があるよ。
保留と言わずにいっそ下げてしまってはどうだろうか?
このままじゃ他の職人さんも動くに動けない気がする。
>>735 確かに設定はそうだから、選手会は取り上げるのはもちろんいいんだけど、
関係ない人までは出てきてほしくない。
中日側の事情で出てくるのは「中日バトロワ」だからわかるんだけど、
選手会のエピソードでいきなり出てくるのは無理があるよ。
あと選手会が全然減ってないのが気になってました。
まだ5人くらい?
中日ファンだけど、このバトロワは名作だから他球団のファンにもできるだけ読んでほしい
そういう意味ではある程度中日以外の選手が多くなるのもいいんじゃないかと思う
というか、「今後そういうのは無し」とでも決めれば良いんでは?
読み専が勝手な事言うようだけど、前田1人だけなら何とかなる希ガス
んでも前田が「あとから他の奴等も来る」とか言ってたような・・・
どうすんべ
同じ前田なら俺はアキヒロにもうちょっと生きていてほしかったな
スレと時間の無駄ですよ、おまいら。
>>697-700と
>>716-718は無かったことにして、
今後選手会の増員とかは無し。
これでいいんじゃないですかね?
元々伏線もへったくれもなく前田を出したことから始まったんだろ?
書き手のレスが無いなら書き逃げと一緒じゃん。
どっちつかずな意見ばっかり並べてたって何も解決しないよ。
>>740 賛成。
やっぱり前田の登場は唐突過ぎだと思う。
ドラバトから派生したアナザーストーリーとして、本編とは別の場所で展開していくとかならよさそうだけど、それも無理があるかな?
あと、やる気になっている選手が少ないっていう意見があったけど、こっちはそんなに問題ない気がする。 ひとつの出来事がきっかけでやる気モードにスイッチが切り替わりそうなキャラは結構いる感じだし…
前田無しの方向ですすめちゃってもいいんですかね・・・?
743 :
126:04/11/03 07:01:13 ID:HRbHXoM4
レス読みながら考えてたんですが、前田登場の後、
ムリヤリ話を続けたりせずに、投下してもいいものかを
ちゃんと聞けば良かったですね。すみません。
一応、
>>576-578の続きとして、古田組の移動シーン→新キャンプで
緒方・高木と合流というのを用意してあったのですが…。
前田無しで進めることで決定ならば、そこから始めてもいいでしょうか?
744 :
112:04/11/03 07:44:57 ID:3jsZm9cp
レスを読んだ限り、前田はなしにした方がよさそうですね…
>740のとおりに行きたいと思うんですが、
ここまで俺と126さんしか意見言ってないのが気になる。
ほかの書き手さんはどうでしょうか?
今日いっぱいくらいは、前田登場させた書き手さんも含めて、書き手側の意見を待ってもいいかなと思う。
745 :
358:04/11/03 12:11:44 ID:SvlCzJ2r
一書き手です。前田無し案に賛成します。
あと、某スレの話題をここで出すのは反則なんですけど
意見があったらこの場で指摘して欲しいです。
スレが荒れるの避けようとしてのことだとは思うのですが…
746 :
代打名無し@実況は実況板で :04/11/03 17:15:56 ID:QIiNVypK
前田なし案に一票
747 :
代打名無し@実況は実況板で:04/11/03 18:35:20 ID:UiBkdZTF
「ドラゴンズ」バトロワであるということ自体にはこだわらない
だけど純粋に物語として破綻しちゃうから「前田登場」はナシという意見です
前田が出てくるということよりもストーリー上の矛盾が痛い
選手会、ドラ以外の人物でも、ピーコの出し方とか違和感なかったでしょう?
正直、読者が萎えるだけだったならそのまま続けたほうが良かったんだけど
(山北対幕田、仲澤以外が唐突に死んでしまってるところなど)
今回は騒ぎが大きくなっちゃってるし、書き手さんもナシと言うならば仕方の無いことでしょう
749 :
112:04/11/04 02:07:58 ID:6MJg79e6
それでは、前田登場は無しで行きたいと思います。
次は129章からでお願いしますね<書き手の皆さん
おかしいことあったら遠慮せずに突っ込んで貰えるとありがたい。
俺も納得のいくもの書きたいので。
で、前田がらみの
>>697-700、
>>716-718は、せっかく書いて貰ったので
別バージョンという形で保管庫に入れようかと思ってます。
(巨人バトロワの保管庫みたいな感じで)
750 :
112:04/11/04 02:19:58 ID:6MJg79e6
129.疑惑
(…また、またあいつや!)
視線の先には青い姿が、二つ。かなり離れている上、間には茂みがあり、はっきりとは見えない。
それが誰であるかは、何故かすぐにわかった。
英智だ。見間違えるはずもない。
「ここで会うたが百年目…こんどこそ殺ったる…」
ぶつぶつ呟きながらライフルを構える桧山の手を、今岡が押さえた。
「桧山さん。やめましょ」
「なんで止めるんや!」
思わず大きな声を出してしまい、はっとする。
距離があることが幸いしたのか、相手には気づかれずにすんだようだ。
「…二回もあいつを逃がしとるんやで。『三度目の正直』言うやろ?」
幾分か声を潜めて今岡を振り返る。
「『三度目の正直』ですか。でもそれは、あっちにとってもですよね?」
「まあ、確かにそうやけど…」
確かに、自分は英智を二度とり逃している。だが逆に、英智も自分を二度殺り損ねているのだ。
今決着がつくとして、どちらにとって『三度目の正直』になるのだろうか?
「桧山さんが勝つんならいいんですけど。向こうも今度は本気でくるかも知れませんよ」
「……」
桧山の瞳をのぞき込んでくる今岡の表情が、いつもの様子とどこか違うことに気づいた。
「今、最優先されるのは、『無事に新しいキャンプ地まで行く』ことですよね。
あの人らは俺らに気づいてない。わざわざ危険を増やす必要はないと思います」
今岡の言っていることは正論だ。いつもの行動からは信じられないことだが、今言っていることは間違いなく正しい。
それはわかっている。…わかってはいるのだ。
こわばったように銃を構えたまま動かない桧山に、今岡はため息をついた。
「気持ちはわかります。でもね、…桧山さんには死んでほしくないんですよ。
桧山さんは信用できると思ってますから」
751 :
112:04/11/04 02:22:26 ID:6MJg79e6
「…は?」
思わぬ言葉に、間抜けな返事が出てしまった。
「片岡さんも死んでもうたし。桧山さんは一応うちの看板選手ですし」
「…一応ってなんやねん」
「連絡がなかっただけで、チームからは信頼されとるし、ファンからは愛されとるし…」
「アイツの前にお前撃ったろか」
冗談とも本気ともつかない口調で言いながら銃を下げる。
「あー、わかったわかった。お前の言うとおりにしたる。ほな、行こうか」
今岡に続いて歩き出す前に、桧山は一度だけ振り向いた。
青いユニフォームは、まださっきと同じ位置から動いていなかった。
(英智、今回は見逃してやる。けど次また俺の前に出てきたら…知らんで?)
そう心の中で呟くと、早足に今岡の後を追った。
(しかし、コイツも、意外に殊勝なところがあるんやな)
さっきの科白を思い出してなんだか笑いがこみ上げてきた。
(「桧山さんには死んでほしくない」「桧山さんは信用できると思う」なんて………?)
今岡の言葉の中、何かが引っかかった。
「桧山さん『は』信用できる」……『は』?
普通は、「桧山さんを信用している」という言い回しにならないか?
いやな予感がした。
「なあ、今岡。俺『は』信用できる、っていったよな。…信用できん奴が、おるってことなんか?」
今岡が立ち止まって、振り向く。
…その困惑した表情が、桧山の予感を肯定していた。
【残り18人・選手会12人】
こんなスレ立ちました。
各球団の「バトルロワイアル」スレを見守るスレ
ttp://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1099509309/ 1 代打名無し@実況は実況板で sage 04/11/04 04:15:09 ID:3DOQ/pE+
神職人の名作、凡職人の凡作、名無しがなんか自治議論してる、批評はどこまでアリか、その他。
現行のバトロワスレの情報を集めつつ
内容や運営に関する感想や批判や情報交換や議論まで。
本スレの進行の妨げになりそうな話はここで。
でも陰口はほどほどに。基本的には神職人さんへ感謝の精神を忘れない。
753 :
126:04/11/04 17:20:30 ID:2uLggJpS
131. 背後に吹く風
多分、自分がまだ幼かった頃。小学校の遠足の時だったか。
班長に選ばれ、クラスメイトの先頭に立って歩いていた記憶がある。
── 喋んなやおまえらー、ほらちゃんと前見て歩けよ ──
時折後ろを振り返っては、級友たちに声をかける。もっとも、自分とてマジメに歩いていた
わけではないので、その辺は形だけのものだが。
担任に小言をくらいつつ、そうやって和気あいあいと歩きながら、しかし自分は心にひとつの
不安を抱えていた。
もし ── もし、次に後ろを振り向いたとき、誰もそこにいなかったらどうしよう ──
背後では、尽きることない級友たちのお喋りが続いている。どうしてその声が、そして彼らが
いきなり消えてしまうなどという想像を抱いたのだろうか。そんなこと、あるわけがないのに。
それはあまりにも漠然とした恐怖だった。
幼心に自分は何を恐れたというのか。年月を経た今も、その答えは分からずじまいなのだが。
(……何なんやろな)
微風が頬をなでていく。辺りを包む葉擦れの音を聞きながら、古田はなぜ今そんなことを
思い出すのだろうと、己の思考をいぶかしんだ。
一時的な、ただの杞憂ならばいいが……。
古田は小さく吐息した。出発から一時間近くそ知らぬふりをしていたが、そろそろ限界だ。
「キーヨー。自分いつまで拗ねてるつもりやねん」
首を後ろに傾けて、二メートルほど離れて歩く清原に呼びかける。
清原はこちらに目を向けただけで、何も言おうとはしない。
感情を顔に出すまいとしているが、瞳の奥には抑えがたい怒りがあるのがわかる。
隣を歩く中村が、物言いたげにこちらを見ていることに気づいた古田は、彼と目を合わせて
軽く肩をすくめた。
「放っとき。しばらく腹の虫おさまりそうにないで、あれは」
小声で言ったつもりだったが、清原には聞こえていたようだ。低く怒気を含んだ声が背後から返る。
「わざわざ三人固まる意味が解りませんわ。無線機あるんやから単独行動でええやないですか」
「無線機があってもなくても、お前は一人で行動したがるやろが」
古田も負けじと、トゲのある口調で返す。そやから俺と中村で見張っとるんやないか、と付け足して。
754 :
126:04/11/04 17:22:17 ID:2uLggJpS
「お前にはお前の腹積りがあるんやろ。それは解っとるよ」
溜め息をひとつはさみ、続ける。
「とりあえず、次のキャンプ地まではこらえてくれや。そこで俺の意見聞いてからでも遅くないやろ」
「……」
清原の表情は変わらない。が、古田から外した視線を落としたということは、ある程度の了承の合図
なのだろう。都合良く解釈することにして、古田は前を向く。
目的地までもうわずかの所まで来ていた。何の障害も無かったおかげで、順調に道程を消化している。
だがそれが逆に不気味でもあった。
他の役員たちは、すでに何人かのドラゴンズの選手と接触 ── あるいは交戦 ── したようだが、
明け方に山本昌が旧キャンプを訪れたことを除けば、古田自身はまだ『敵』に遭遇していない。
偶然と言ってしまえばそれまでなのだろうが ── どうも引っかかる。
(会わへんに越したことはない……んやけど、な)
それだけ向こうの数が目減りしているということか。行動を把握できていない役員たちの手によって?
あるいは、もっと別の要因で? ──
「古田さん」
思考の海に沈もうとしていたところを、中村の呼び声にすくい上げられた。ふと我に返る。
「…ああ、スマン。何?」
「途中参加の俺が、こんなこと聞くのもなんですけど。ちょっと気になったもんで」
遠慮がちに言葉を濁す中村を、「ええよ。言うて」と促す。
ためらいがちに伏せていた顔を上げ、彼は切り出した。
「── 古田さんたちは、なんでこの島に来たんですか?」
古田は足を止めた。全く予期せぬ質問に、目を瞠る。
同じくして、後方では清原も開いた距離はそのままに、歩くのをやめていた。
自分たちが急に立ち止まったことを怪訝に思っているのだろう。こちらに向けられる彼の視線を
感じながら、古田は眉をひそめて中村を見た。
「どういうことや?」
「いえ、俺の思い過ごしならいいんです。ただ、こんな危険だって分かりきっている場所に、
どうして古田さんたちは来たのかって…」
「……」
眉間の皺が深くなる。自分が愕然と立ちつくしていることを、古田は自覚した。
中村が何を言わんとしているのかは分かった気がした。── だが。
755 :
126:04/11/04 17:23:27 ID:2uLggJpS
危険? 難攻不落? そんなことは百も承知だ。『オーナーを倒す』という一心で、自分たちは
この島に来たのだ。罠と知っていて………罠?
そう、これは罠だ ──
思いつきでも何でもない。古田は今まさにそう理解した。
……いや、待て。では罠があると分かっている場所に、自分たちはわざわざ来たというのか。
確信はなかったのか。この島にオーナーがいるという確信は……。
記憶の底を探ろうとすればするほど、それは己の手から遠ざかっていく。
まるで厳重な鍵でもかけられているかのように、その先へ続く思考の扉を開けられない。何故だ?
「……古田さん?」
気遣わしげな中村の声が耳に届き、ぴくりと肩が動いた。
息苦しさに、古田は肺に詰めていた空気を吐き出した。
「中村、悪い。それちょっと長話になりそうやから、着いてからでええかな?」
動揺を悟られていないわけはないだろうが、平静を装って古田はそう言った。
中村もそこで話を混ぜかえすほど愚かではなかった。ただ、「はい」と頷く。
その時、自分の傍らを不意に影が横切った。清原が突然こちらを追い越し、大股に前進していくのが見えた。
なかなか動こうとしない自分たちにしびれを切らしたのだろう。それに倣うように中村も歩き出す。
目的地は目と鼻の先だ。地図を見てようやくそのことに気づく。
続いて古田がそちらに目を向けようとしたとき、背後を冷たい風が通り抜けた。
背筋を襲った急激な寒気に、なすすべなくその場に立ちつくす。
── そして彼らの声は消え、振り向いた先には誰の姿もなく ──
目的地が見えたことで、清原と中村が足早に先行する。
こわばりかけた足をむりやりに動かし、古田は彼らを追った。
その後ろ姿の向こうには、すでに新しいキャンプ地にたどり着いていた二人の姿があった。
緒方と、そして高木の姿が。
【残り18人・選手会12人】
756 :
126:04/11/04 17:26:21 ID:2uLggJpS
いきなり章番号間違えました。すいませんorz
×131→○130です。
次は131からお願いします。
757 :
代打名無し@実況は実況板で :04/11/04 21:31:45 ID:IOX8f4+O
758 :
代打名無し@実況は実況板で :04/11/05 05:50:52 ID:Z2VjNXuj
捕手
760 :
126:04/11/05 23:36:24 ID:4WqsFHfG
131. ゼロじゃない限り
「嘘だ……、こんなのって……」
小笠原が呆然と呟いた。見開いた眼を探知機の画面に釘付けたまま。
何度画面を見直してみても、『11』の数字はどこにも無かった。
英智は探知機を握りしめ、無言で唇をかむ。
「……」
自分たちを含めて、番号の数は17個 ── いや、今ちょうど数字がひとつ消えた。
残りは16。生き残っている仲間は十六人ということになる。
── 冗談だろ? まだあれから一日しか経っていないのに。
(……関川さんまで)
『23』が消失するのを目の当たりにし、英智の表情が否応なくゆがむ。
「川上さん……」
二度目に小笠原が押し出した声はか細く、今にも消え入りそうだった。
英智は彼を見た。その顔は血の気を失くし、表情すらも失っている。
「オガサ ──」
かける言葉を見つけられないまま、ただ親友の名を呼ぶ。
「なあ、英智、こんなの……おかしくないか?」
小笠原はすがるような目で英智を見上げた。
「こんな、画面の中の数字が消えたってだけで、死んだなんて……。
何かの間違いだ。こんなの信じられるわけねえよ……」
台詞の途中で小笠原の頭がうなだれる。頬に一筋、こらえきれない涙が流れていた。
(俺だって、信じたくない)
背番号11、川上は小笠原の大学時代の先輩だ。誰よりも川上を慕っていた小笠原に
とって、無機的ともいえる死の通達は、あまりに残酷なことだった。
胸中に、理不尽な何かに対する怒りがこみあげてくるのを英智は感じた。
── そうだ。ただの機械に、何で俺たちの生き死にを決められなきゃいけないんだ。
761 :
126:04/11/05 23:37:19 ID:4WqsFHfG
「…オガサ、あきらめるのはまだ早い。確かめに行こう」
「確かめるって、何を……?」
ユニフォームの袖で涙を拭いながら、驚いたような顔で小笠原が問いかける。
英智は首輪を指さして、言った。
「この機械が読み取ってるのは、首輪の電波か何かだろ?
機械である以上は、故障の可能性がある。お前がさっき言ってた、『何かの間違い』だって
いう可能性がさ」
故障という単語は、ただの気休めに過ぎなかった。言葉どおり簡単に故障する代物なら、
こんな苦労はしていない。とっくに首輪の呪縛から解き放たれているはずなのだから。
だがそれでも ── 希望は必要だ。
「よく考えろ。川上さんはそんな簡単に死ぬような人なのか?」
英智の言葉に、小笠原はゆっくりと顔を上げた。答える。
「違う」
川上さんは死んだりしない。あの人は生きてる ──
そこには、先輩と慕う人物に対する、微塵の揺らぎもない信頼の響きがあった。
力の戻った小笠原の瞳を見つめ、英智は微笑した。
探知機のスイッチを切り、自らの荷物の中にしまい込む。
「じゃあ捜しに行こう。川上さんが無事かどうかを俺たちの目で確かめるんだ」
頷く小笠原とともに、英智は歩き出した。
自分たちは川上の死体も、関川の死体も見ていない。
後ろを振り返ればまだそこにある、平松の死体は気分を陰鬱とさせたが、今は前に進むしかない。
希望があるのなら、可能性がゼロではない限り、自分たちはそれを信じ続けてやる。
【残り18人・選手会12人】
762 :
代打名無し@実況は実況板で :04/11/06 01:34:24 ID:AglOgvgr
hosyu
132.嵐の予感
荒木と福留は林の中を走っていた。
崖の下に消えた井端(実は違うのだが、この時の2人はそれを知る由もない)を救いだす――
そのことしか、今は頭になかった。
特に、荒木などはまっすぐ空を飛んで行きたい位だっだろうが当然そういう訳にはいかず、
海沿いの道が途切れていたために、更なる回り道をも余儀なくされ、焦燥を募らせていた。
「おい待て、待てってば…荒木!」
周りを警戒する様子すら無くひたすら走り続ける荒木と、福留との距離はどんどん開いていく。
声がしたのは、その時だ…
「福留! 荒木!」
「あっ、昌さん! …って、おい荒木!!」
思わず立ち止まった福留とは対照的に、荒木は声を掛けて来た山本昌に気付く素振りも見せず、
あっという間に姿が見えなくなってしまった。
「おいおい、行っちまったぞ…追いかけなくていいのか?」
「どっちにしろ、あれじゃ追いつけませんよ…行き先はわかってますし、とりあえず選手会の連中と
バッタリ出くわさないでいてくれればいいんですけどね……」
なんとか言葉を搾り出しながらも、気の毒な位に息を切らしている福留を見かねて岩瀬が水を差し出した。
「あ、どうも……わっ!岩瀬さん、その怪我どうしたんですか!?」
荒木のことは気になるが、何も話さず後を追わせてもいいことはないと判断した山本は、
いままでの状況を正直に簡潔に説明してやることにする。息を整えつつ、山本の話に耳を傾けていた福留だが、
確認を取るかのように言葉を挟んだ。
「つまり…うちのチームにも裏切り者がいるんですね……?」
(うちのチームに『も』?)
その言葉尻を捕らえ、今度は山本が顔を顰める番だった。
「どういう意味だ…?」
「おそらく…選手会側にも、裏切り者がいます……」
更に言葉を紡ごうとした福留だが、まるでそれを妨げるように大きな雷鳴がひとつ轟く。
「…こんなに、いい天気なのに――」
それまで黙っていた岩瀬が、空を見上げてつぶやく。
それに倣うかのように、山本と福留も押し黙って空を見上げた。
「……いまのこの状況は、嵐の前の静けさなのかな。」
山本が沈黙を引き裂こうと無意識に発した言霊は、不吉な響きを宿し……
そして、どことも知れぬ場所に消えていった。
【残り18人・選手会12人】
488KBか…
そろそろ新スレ建てないとまずいかもしれませんね。
767 :
代打名無し@実況は実況板で :04/11/07 00:47:27 ID:tAbU0Ds1
スレって誰でも立てられるの?
768 :
112:04/11/07 12:50:54 ID:tGybuiw1
769 :
代打名無し@実況は実況板で :04/11/07 15:13:50 ID:wRmC3pxb
乙。応援してる。そして楽しみにしてる。頑張ってくれ
771 :
112:04/11/07 23:48:36 ID:n0iXtC4e
133.知らされた事実
「お待ちしておりました」
車から降りた砂原を、黒服の男二人が出迎える。
(これは出迎えと言うより…監視だな)
ぴったりと並んで歩き出した男達をちらりと見て、砂原はそう思った。
そんなそぶりを見せないように、平常の口調で話しかける。
「頼んでおいたものは用意して貰えているかね?」
「ええ、ここに」
黒服の一人が大きな茶封筒を手渡す。
「解説をしろというのなら、事前にある程度の資料は送ってもらわないと。
今はファックスやインターネットもあるのに、現地まで来なければ情報も手に入らないというのでは困る」
申し訳ありません、と形だけ頭を下げた黒服に言葉を返さず、砂原は手の中の封筒を見やる。
選手会とドラゴンズの殺し合いの進行状況がまとめられた資料が、その中には入っているはずだ。
砂原は、出発前に本部へ電話を掛けた。
「解説のための資料を送ってほしい」と。
さすがにその要求は通らなかったが、最低限の資料を用意して貰い、到着後に目を通してから「解説」を行うことで話は付いた。
その交渉が長引いたため、到着が遅れてしまったのだが。
772 :
112:04/11/07 23:48:54 ID:n0iXtC4e
「どうぞ」
ホテル内の一室に案内される。
「資料を把握したらご連絡ください。すぐに迎えに参ります」
そういって黒服達は出て行った。どうせ部屋の前で見張っているのだろうが。
ため息をついて茶封筒をあける。紙の束がずっしりと重たい。
目を通す前からうんざりしながら、資料をぱらぱらとめくっていった。
会場となる島の概況、参加している選手の名簿、ゲームの進行状況。
(あまり気分のいいものではないな)
こんなものを楽しんで見ている奴らの、「あの人」の気が知れないと、そう考えていた砂原の手が、止まった。
「…どういうことだ」
砂原が見とがめたのは、二日目の朝の状況を書いた資料。
「何故、佐伯が…石井を、デニーを…」
ばさりと音を立てて資料が床に落ちる。
床に散らばった紙には、赤字でこう書かれていた。
『横浜ベイスターズ・佐伯貴弘、石井琢朗、デニー友利を殺害』
【残り18人・選手会12人】
773 :
126:04/11/08 00:58:08 ID:U07jXCCH
134. 契機
「誰のことやねん。信用できん奴いうのは」
「……」
続けて尋ねる桧山に、今岡はすぐに答えを返さなかった。
思わぬ失言をしてしまったことに気づき、身を硬くする。
(これ以上、この人を不安にさせたらアカンのに)
この戦いに身を投じてすぐに遭遇した中日の選手 ── 英智と言ったか ── を、
二度続けて仕留め損なっている事実が、桧山の闘争本能を刺激していることは明らかだった。
その英智に対する桧山の執着が、もはや闘争心という範囲を超えつつあることも。
桧山が『こんどこそ殺ったる』と呟いたのを、今岡は聞き逃していなかった。彼は本気だ。
何がきっかけで、彼の内に潜む“殺意”があらわになるか判らない。それだけは避けなければ。
「……信用できひん人がおるなんて、俺ひとことも言うてないですよ?」
できる限り真顔で ── いつもの無表情を装って、今岡は首をかしげた。
「そんなことより、早く次のキャンプ地に向かいましょう。俺らちょっと遅れてるっぽいですし」
「おい待て! ごまかすなや!」
話題をそらしたい一心で踵をかえした今岡の腕を、後ろから桧山がつかんだ。
驚いて振り返った今岡の目と視線が合い、彼はすぐにばつの悪そうな顔になる。
「悪い ── 」と、視線を下げた桧山の腕をやんわり振りほどき、今岡はかすかに吐息した。
「……ごまかしてないです。ここでぐずぐずしてたら危険なだけやと思って」
「いや、俺が悪かった。そやけどお前の言い方が、そういう意味に聞こえたから……」
「勘繰りすぎですよ」
口ごもる桧山に、きっぱりと今岡は言った。
「俺はホンマに桧山さんに死んでほしくないんです。それと、できれば ── 」
今岡が言葉を繋ごうとした瞬間、突然轟いた雷鳴がそれをかき消した。
轟音の余韻が耳に残る。思わず仰いだ空は青く澄んでおり、暗雲の気配はないというのに…。
「キツネの嫁入りかいな。雨ちゃうけど」
空を見上げ、眩しそうに目を細めた桧山がひとりごちる。
その時、ポケットに入れていた無線機から、通信を知らせる音がした。
『えー。業務連絡、業務連絡』
『コラお前ら! 寄り道しとらんと早よ来んかい!』
774 :
126:04/11/08 00:59:43 ID:U07jXCCH
今岡は右耳につけているイヤホンに手を触れた。聞こえてきたのは古田の声と ── その後で
割り込んできたのはおそらく清原の声だろう。
小さなノイズが絶えず鼓膜を刺激するのをわずらわしく思いながら、応答する。
「あ、そっちはもう着いたんですね」
『キヨ、八つ当たりすんな……って、今岡? お前ら今どの辺や。こっちは五人そろった。
そっちは近くまで来てるんか?』
「はい、多分…」
取り出した地図を広げ、今岡は現在地を確認した。
目的地まではあと1キロ半ほど。二十分もあれば着く距離だ。古田にそう伝える。
『そうか、無事なんやったらええ。くれぐれも気をつけろよ』
「わかりました」
通信を終え、ひとつ息をつく。
右耳にはまだノイズが聞こえつづけている。神経を逆撫でするような音に顔をしかめ、今岡は
無線機のスイッチを切ろうとした。が。
(……?)
サー…サー…という音をバックに、わずかだが人の息遣いらしきものが聞こえる。
耳を澄ませてはいけない。頭のどこかで警鐘が鳴った。だが聴覚は逆に研ぎ澄まされていく。
息遣いと思えたそれは、だんだんと収束され、一つの発音へと形を成す。
── ……ロ…セ……
「!」
ぞくりとしたものが背筋を駆け抜け、今岡は反射的に無線機の電源を切っていた。
胸に当てた手を握りこむ。早鐘を打つ鼓動音が、拳に伝わってきた。
今のはいったい……?
「桧山さん……」
傍らにいる彼を振り向いたのは、この気味の悪さを伝えるためだった。
しかし、視線の先にいる桧山の様子が、明らかにおかしいことに気づく。
まるで ── ではない、マネキンそのもののように瞬きも呼吸も忘れ、ただそこに立っている。
支援(・∀・)
776 :
126:04/11/08 01:01:27 ID:U07jXCCH
「桧山さん!」
今岡は彼の肩を揺すった。抵抗なく揺すられるがままだった桧山の身体が、何往復目かで
ビクンと大きく震えた。見開かれた両眼がぎこちなくこちらを向く。
── 焦点の合わない両眼が。
「……」
桧山の唇が、無音の言葉を紡いだ。 ── 殺す、と。
「ひや……」
今岡の呟きは、突如喉元へと伸びてきた指の感触にさえぎられた。躊躇なく前に踏み出した桧山の
顔が視界を埋めつくす。
首に巻きついた十本の指が乱暴に食いこみ、気道をふさぐ。
彼の腕をつかんで引きはがそうと抵抗を試みるが、それも徒労に終わる。
尋常ではない力だった。本能のすべてをそこに注ぎ込んでいるかのような。
空気を求め、今岡の口が開かれる。吸い込もうとする息は喉の途中でつかえ、外へ漏れ出た。
(人殺しに ── ならないで ── あなたは)
伝えたい、伝えなければならない様々な言葉が、今岡の脳裏に浮かんでは消えた。
間近にある、彼の瞳の闇は、底なし沼のようにただ、深く……。
777 :
126:04/11/08 01:02:26 ID:U07jXCCH
「なあ、あれ……」
小久保の呟きを聞いた松中は、彼の指差した先を見やった。
負傷した足を引きずって歩く小久保に肩を貸しながら、地面に残された足跡をたどっていた
途中でのことだ。
人影が見える。それも二つ。
松中は目を細めた。遠目にだが、二つの人影の服装はスーツらしきものに見えた。
「選手会の誰か……ですかね」
「な、俺の言ったとおり、大丈夫だっただろう」
得意気に小久保がニヤリと笑う。松中は笑みを返しつつ頷き、彼を気遣いながら ── それでも
できるだけ早く、足を進めた。
やがて、人影が誰なのか判別できる距離にまでたどりついた時、信じられない光景がそこにはあった。
そこにいたのは、今岡と桧山 ── いや、それはいい。そうではなく…。
何故、桧山が今岡の首を締め上げているのだ?
「……なっ」
小久保が絶句する。思わず立ちつくしかけ、松中は意識を振り切った。
考えている暇はない。小久保を置いて、一人駆け出し、叫んだ。
「何をやってるんだ!!」
【残り18人・選手会12人】
778 :
126:04/11/08 01:05:15 ID:U07jXCCH
497KBか…。あと一話くらいで埋まりますかね。
>>775 支援サンクス。
自分のトロさ加減にへこんだ_| ̄|○
779 :
775:04/11/08 01:07:19 ID:zTaEhXgt
>>778 乙(・∀・)!
今回と同量くらいでギリギリと思われる
危険だから、ここ埋めて次スレに行った方がいいかも
780 :
112:04/11/08 01:11:32 ID:svAWavqh
>126
乙です。
途中で切れるのも嫌だから、新スレ行った方が無難でしょうね。
しかし800行ってないのに埋まるとは思わなかった…
梅るか・・・
782 :
126:04/11/08 01:14:15 ID:U07jXCCH
自分の投下中に埋まるかとガクブルでした。
うめちゃいましょう。
職 人 さ ん 方
お つ か れ さ ま で す
次 ス レ も よ ろ し く
人☆人
. i ( ( ) ) i
i ノ゛"゛"゛"゛"゛"゛"゛ヽi
ノ~~ 八 ∧,,∧ 八 ~~ヽ
οο 川 ミ,,゚Д゚彡 川 οο
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ノ つ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⊂ ヽ
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プハー
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ヒl ( \
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787 :
112:04/11/08 01:17:14 ID:svAWavqh
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